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特開2024-81315予測装置、予測方法、予測プログラム、予測システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081315
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】予測装置、予測方法、予測プログラム、予測システム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20240611BHJP
【FI】
G16H50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194839
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 真宏
(72)【発明者】
【氏名】的場 聖明
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】より高い精度でユーザの健康状態を予測することができる技術を提供する。
【解決手段】予測装置10は、ユーザの心身に関連する複数種類の特徴量を取得する取得部と、訓練済みの予測モデル121を用いて、複数種類の特徴量に基づいてユーザの健康状態を予測する予測部と、予測部の予測結果を出力する出力部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測装置であって、
ユーザの心身に関連する複数種類の特徴量を取得する取得部と、
訓練済みの予測モデルを用いて、前記複数種類の特徴量に基づいて前記ユーザの健康状態を予測する予測部と、
前記予測部の予測結果を出力する出力部とを備える、予測装置。
【請求項2】
前記複数種類の特徴量は、加療中の傷病に関する情報および年齢を含む、請求項1に記載の予測装置。
【請求項3】
前記加療中の傷病は、精神疾患を含む、請求項2に記載の予測装置。
【請求項4】
前記加療中の傷病は、腰痛症を含む、請求項2または請求項3に記載の予測装置。
【請求項5】
前記加療中の傷病は、骨折を含む、請求項2または請求項3に記載の予測装置。
【請求項6】
前記予測結果は、前記加療中の傷病が日常生活に影響しないと予測される確度である、請求項2または請求項3に記載の予測装置。
【請求項7】
前記予測モデルは、前記複数種類の特徴量と、前記加療中の傷病が日常生活に与える影響の有無とに基づく機械学習によって生成されている、請求項2または請求項3に記載の予測装置。
【請求項8】
前記予測モデルは、国民生活基礎調査データが訓練データとして用いられて、訓練されている、請求項7に記載の予測装置。
【請求項9】
コンピュータを用いた予測方法であって、
ユーザの心身に関連する複数種類の特徴量を取得するステップと、
訓練済みの予測モデルを用いて、前記複数種類の特徴量に基づいて前記ユーザの健康状態を予測するステップと、
前記予測するステップによる予測結果を出力するステップとを含む、予測方法。
【請求項10】
予測プログラムであって、
コンピュータに、
ユーザの心身に関連する複数種類の特徴量を取得するステップと、
訓練済みの予測モデルを用いて、前記複数種類の特徴量に基づいて前記ユーザの健康状態を予測するステップと、
前記予測するステップによる予測結果を出力するステップとを実行させる、予測プログラム。
【請求項11】
予測システムであって、
ユーザ端末と、
前記ユーザ端末と通信するように構成された予測装置とを備え、
前記予測装置は、
ユーザの心身に関連する複数種類の特徴量を前記ユーザ端末から取得する取得部と、
訓練済みの予測モデルを用いて、前記複数種類の特徴量に基づいて前記ユーザの健康状態を予測する予測部と、
前記予測するステップによる予測結果を前記ユーザ端末に出力する出力部とを備える、予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、予測装置、予測方法、予測プログラム、および予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
長寿国では、平均寿命が年々延伸している。超高齢化社会を迎えている現状では、寿命をさらに延伸させるだけでなく、人々がいかに健康に長生きできるかが重要な課題となっている。このため、現在、平均寿命ばかりでなく、健康寿命および健康度などのユーザの健康状態を知るための指標への関心が高まっている。
【0003】
たとえば、特許文献1(特開2002-63278号公報)には、被評価者の健診データを健康標準モデルおよび疾病モデルと比較して被評価者の複数年間の健康度を評価するシステムが開示されている。特許文献1に記載のシステムでは、睡眠時間や食事、喫煙、飲酒等に基づいて、健康度が評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-63278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のシステムでは、ユーザの健康状態にある程度の影響があると考えられてきた当時の古い基準に基づいて、ユーザの健康状態が評価されてきた。当時と比べると最新医学の進歩は目覚ましく、多くの病気の治療や診断方法は格段に進歩している。このため、現状の医療に見合った、ユーザの健康状態を予測するシステムを開発することが必要である。
【0006】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、より高い精度でユーザの健康状態を予測することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある局面に従う予測装置は、ユーザの心身に関連する複数種類の特徴量を取得する取得部と、訓練済みの予測モデルを用いて、複数種類の特徴量に基づいてユーザの健康状態を予測する予測部と、予測部の予測結果を出力する出力部とを備える。
【0008】
本開示の他の局面に従う予測方法は、ユーザの心身に関連する複数種類の特徴量を取得するステップと、訓練済みの予測モデルを用いて、複数種類の特徴量に基づいてユーザの健康状態を予測するステップと、予測するステップによる予測結果を出力するステップとを含む。
【0009】
本開示の他の局面に従う予測プログラムは、コンピュータに、ユーザの心身に関連する複数種類の特徴量を取得するステップと、訓練済みの予測モデルを用いて、複数種類の特徴量に基づいてユーザの健康状態を予測するステップと、予測するステップによる予測結果を出力するステップとを実行させる。
【0010】
本開示の他の局面に従う予測システムは、ユーザ端末と、ユーザ端末と通信するように構成された予測装置とを備え、予測装置は、ユーザの心身に関連する複数種類の特徴量をユーザ端末から取得する取得部と、訓練済みの予測モデルを用いて、複数種類の特徴量に基づいてユーザの健康状態を予測する予測部と、予測するステップによる予測結果をユーザ端末に出力する出力部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、訓練済みの予測モデルを用いて、複数種類の特徴量に基づいてユーザの健康状態を予測することができるため、より高い精度でユーザの健康状態を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】予測システムの構成を示すブロック図である。
図2】予測モデルの生成手法を説明するための図である。
図3】各予測因子が予測結果に与えるインパクトを説明するための図である。
図4】予測因子の数とAUC(Area Under the Curve)の評価結果との関係を示すグラフである。
図5】予測モデルに関するROC曲線を示すグラフである。
図6】健康寿命に関する、「実測値」と、「実測値と予測値との差分」との関係を示すグラフである。
図7】年度毎の実測値と予測値との関係(男性)を示すグラフである。
図8】年度毎の実測値と予測値との関係(女性)を示すグラフである。
図9】ユーザ端末における画面の表示例を示す図である。
図10】ユーザ端末における画面の表示例を示す図である。
図11】予測装置が実行する予測処理の手順を示すフローチャートである。
図12】本実施の形態と比較例との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一の符号を付して、その説明は原則的に繰り返さない。
【0014】
[予測システムの構成]
図1は、実施の形態に係る予測システム100の構成を示すブロック図である。予測システム100は、予測装置10と、ユーザ端末20とを含む。予測装置10とユーザ端末20とは、インターネットなどのネットワーク500を介して接続されている。
【0015】
予測装置10は、たとえば、クラウドシステムを構築するサーバ装置により構成される。ユーザ端末20は、たとえば、ユーザによって所持されるスマートフォンにより構成される。ユーザ端末20は、デスクトップ型のPC(personal computer)、ラップトップ型のPC、スマートウォッチ、ウェアラブルデバイス、およびタブレットPCなどであってもよい。予測装置10は、ユーザ端末20から受信したユーザの情報に基づいて、ユーザの健康度を予測するための処理(以下、「予測処理」とも称する。)を実行する。予測装置10は、予測結果をユーザ端末20に送信する。
【0016】
予測装置10は、訓練済みの予測モデル121を備える。予測モデル121は、学習用データに基づく機械学習によって生成されている。学習用データには、ユーザの心身に関連する特徴量が含まれる。予測装置10は、予測モデル121を用いることで、ユーザの心身に関連する特徴量に基づいて、ユーザの健康度を予測する。以下、ユーザの心身に関連する特徴量を単に「特徴量」と称する。
【0017】
予測装置10は、演算装置11と、記憶装置12と、通信インタフェース13とを備える。
【0018】
演算装置11は、「予測部」の一例であり、各種のプログラムに従って各種の処理を実行する演算主体(コンピュータ)である。演算装置11は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、およびMPU(Multi Processing Unit)のうちの少なくとも1つを含む。さらに、演算装置11は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)およびSRAM(Static Random Access Memory)などの揮発性メモリ、ROM(Read Only Memory)およびフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含んでいてもよい。なお、演算装置11は、演算回路(Processing Circuitry)で構成されていてもよい。
【0019】
記憶装置12は、HDD(Hard Disk Drive)およびSSD(Solid State Drive)などの不揮発性メモリを含む。記憶装置12は、予測モデル121および予測プログラム122など、各種のプログラムおよびデータを記憶する。予測プログラム122は、演算装置11が予測モデル121を用いて予測処理を実行するためのプログラムである。
【0020】
通信インタフェース13は、外部から入力された情報を取得する。たとえば、通信インタフェース13は、ユーザ端末20から送信された情報を取得する。通信インタフェース13は、演算装置11の制御に従って外部に情報を出力する。たとえば、通信インタフェース13は、予測結果をユーザ端末20に出力する。通信インタフェース13は、「取得部」および「出力部」の一例である。
【0021】
通信インタフェース13は、ユーザの複数種類の特徴量をユーザ端末20から取得する。演算装置11は、予測プログラム122に従って予測処理を実行する。演算装置11は、ユーザの複数種類の特徴量と予測モデル121とに基づいて、ユーザの健康度を予測する。通信インタフェース13は、演算装置11によって得られた予測結果をユーザ端末20に出力する。
【0022】
ユーザ端末20は、ディスプレイ21と、情報を入力するための入力部22と、通信インタフェース23とを備える。入力部22は、たとえば、ディスプレイ21に重畳的に設けられたタッチパネルにより構成される。ユーザは、ディスプレイ21に表示されるガイダンスに従い、入力部22を用いて、健康度の予測に必要な複数種類の特徴量を入力する。通信インタフェース23は、入力情報を予測装置10へ送信する。ユーザ端末20は、予測装置10から取得した予測結果をディスプレイ21に表示する。
【0023】
予測装置10は、1つのユーザ端末20に限らず、複数のユーザ端末20と通信するように構成されてもよい。たとえば、予測システム100においては、予測装置10がクラウドコンピューティングの態様で存在してもよい。この場合、予測装置10は、複数のユーザ端末20の各々から取得した複数種類の特徴量に基づいて、ユーザの健康度を予測し、その予測結果を複数のユーザ端末20の各々に出力してもよい。
【0024】
[予測モデルの生成]
図2は、予測モデル121の生成手法を説明するための図である。本実施の形態に係る予測モデル121は、教師あり学習によって生成される。予測モデル121の設計者は、まず、予測モデル121を生成するための複数のサンプルデータを用意した。
【0025】
本実施の形態において、設計者は、国民生活基礎調査データをサンプルデータとして活用することを発案した。国民生活基礎調査は、保健、医療、福祉、年金、所得等国民生活の基礎的事項を調査し、厚生労働行政の企画および運営に必要な基礎資料を得るとともに、各種調査の調査客体を抽出するための親標本を設定することを目的として、古くから日本国内において実施されている。
【0026】
したがって、その調査から得られるデータ量は、膨大であり、機械学習のために十分な数のサンプルデータをそこから比較的容易に取得することができる。しかも、国民生活基礎調査は、国が統計法に基づいて厳格なルールに従い実施されるものであるから、その調査結果は、極めて高い信頼性を有する。さらに、近年の国民生活基礎調査データには、現在の診療実態が如実に反映されている。
【0027】
このような諸事情を考慮し、設計者は、特に、2010年~2019年の10年間に亘る、2400000件の国民生活基礎調査データをサンプルデータとして採用することとした。
【0028】
国民生活基礎調査には、「調査対象者の性別」、「調査対象者の年齢」、「調査対象者の罹っている傷病(病気、けが等)」、および「日常生活への影響の有無(健康上の問題が日常生活へ何らかの影響を与えているか否か)」などの調査項目が含まれている。設計者は、特に、これらの調査項目の各々に対応するデータをサンプルデータとして活用した。
【0029】
サンプルデータは、特徴量のデータと、正解データとを含む。本実施の形態において、特徴量のデータは、「調査対象者の性別」と、「調査対象者の年齢」と、「調査対象者の罹っている傷病(病気、けが等)」とを含む。
【0030】
本実施の形態において、正解データは、「日常生活への影響の有無(健康上の問題が日常生活へ何らかの影響を与えているか否か)」である。
【0031】
以下、簡単のため、上記の「調査対象者の性別」、「調査対象者の年齢」、および「調査対象者の罹っている傷病(病気、けが等)」を、それぞれ、「性別」、「年齢」、「傷病」、および「日常生活への影響の有無」などと称する場合がある。
【0032】
予測モデル121が出力する予測結果は、「日常生活への影響の有無」に関する確度(%)である。たとえば、「健康度」は、「日常生活への影響無」の確度(%)と定義される。ただし、健康度は、ユーザの健康状態を示す指標の一例に過ぎない。以下では、ユーザの健康状態を示す指標の一例として、健康度を用いて、本実施の形態を説明する。
【0033】
予測モデル121の機械学習のアルゴリズムには、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク、ロジスティック回帰、およびxgboost(eXtreme Gradient Boosting)などの公知の学習アルゴリズムが適用されてもよい。
【0034】
予測モデル121の生成および評価には、たとえば、ホールドアウト法を適用してもよい。設計者は、複数のサンプルデータの90%を訓練データとして用い、複数のサンプルデータの10%をテストデータとして用いた。なお、訓練データおよびテストデータの各々の割合は、設計者が適宜設定すればよい。設計者は、複数の訓練データを用いて、交差検証によって予測モデル121を生成した。
【0035】
図3は、各予測因子が予測結果に与えるインパクトを説明するための図である。設計者は、パーミューテーションインポータンス(Permutation Importance)の手法を用いて、多数の予測因子が予測精度の指標AUC(area under the curve)に与えるインパクトを調べた。各予測因子は、予測モデル121を生成するための特徴量として選択され得る候補である。
【0036】
図3には、42の予測因子が、そのインパクト(パーミューテーションインポータンス)が高い順に上から下へと示されている。図3によれば、インパクトの最も高い予測因子は、「年齢」であり、「うつ病やその他のこころの病気」、「腰痛症」、「骨折」が、「年齢」に続く。
【0037】
以下、インパクトの高い順に、「その他の神経の病気(神経痛、麻痺等)」、「脳卒中(脳出血、脳梗塞等)」、「関節症」、「パーキンソン病」、「認知症」、「骨折以外のけが、やけど」、「眼の病気」、「その他の循環器系の病気」、「関節リウマチ」、「狭心症、心筋梗塞」、「悪性新生物(がん)」、「腎臓の病気」、「胃、十二指腸の病気」、「その他の呼吸器系の病気」、「糖尿病」、「耳の病気」、「高血圧症」、「その他の消化器系の病気」、「喘息」、「その他の皮膚の病気」、「骨粗しょう症」、「前立腺肥大症」、「肩こり症」、「妊娠、産褥(切迫流産、前置胎盤等)」、「アトピー性皮膚炎」、「肥満症」、「肝臓、胆のうの病気」、「痛風」、「アレルギー性鼻炎」」、「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」、「甲状腺の病気」、「性別」、「歯の病気」、「貧血・血液の病気」、「高コレステロール血症」、「急性鼻咽頭炎(かぜ)」、「閉経期または閉経後障害(更年期障害等)」、および「不妊症」が、図3に示されている。
【0038】
これらの予測因子は、いずれも国民生活基礎調査に含まれている。特に、「性別」を除く各予測因子は、国民生活基礎調査における「傷病」の選択肢に含まれている。
【0039】
「年齢」が健康度の予測結果に与えるインパクトの高いことは想像し得るかもしれない。しかし、生活習慣病などに関わる予測因子よりも、「うつ病やこころの病気」、「腰痛症」、および「骨折」の方が、健康度の予測結果に与えるインパクトが格段に高いことは、注目に値する。
【0040】
生活習慣病などに関わる予測因子は、「高血圧症」、「糖尿病」、「肥満症」、「高コレステロール血症」、および「痛風」などである。図3から明らかなとおり、これらの予測因子のインパクトの度合いは、「うつ病やこころの病気」、「腰痛症」、および「骨折」のインパクトの度合いよりも格段に低い。
【0041】
脳卒中(脳出血、脳梗塞等)」、「悪性新生物(がん)」、および「認知症」などの予測因子も、健康度の予測結果にインパクトを与えることは、想像できるかもしれない。しかし、それらの予測因子よりも、「うつ病やこころの病気」、「腰痛症」、および「骨折」の方が、健康度の予測結果に高いインパクトを与えることもまた、新たに見出された事実である。
【0042】
以上に説明される事実から、生活習慣病などに関わる予測因子などよりも、「うつ病やこころの病気」、「腰痛症」、および「骨折」のいずれか1または複数の予測因子を特徴量として採用する方が、予測精度の高い予測モデルを生成することができるといえる。
【0043】
図4は、予測因子の数とAUC(Area Under the Curve)の評価結果との関係を示すグラフである。図4において、横軸は、予測因子の数を示す。図4において、縦軸は、AUCを示す。AUCは、0から1までの値をとる。予測精度が高いほどAUCの値が1に近くなる。
【0044】
設計者は、予測因子の数を変えて複数の予測モデルを作成し、作成した各予測モデルの予測精度(AUC)を比較した。その結果、設計者は、図4に示されるように、42の予測因子を用いて作成された予測モデルにおいて、AUCが最大となることを見出した。このときの予測モデルのAUCは、0.85であった。ここで、AUCを最大にする42の予測因子は、結果的に、図3に示される42の予測因子と一致した。設計者は、42の予測因子の各々をユーザの特徴量として採用し、本実施の形態に係る予測モデル121を作成した。
【0045】
図5は、予測モデル121に関するROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を示すグラフである。図5において、横軸は、偽陽性率を示す。図5において、縦軸は、真陽性率を示す。なお、グラフにおいて、ROC曲線よりも下の部分の面積は、AUCに相当する。
【0046】
図5に示されるように、予測モデル121を用いた場合、AUCは0.85であり、正答率は0.87にも達した。したがって、予測モデル121は、極めて高い精度で、ユーザの健康度を予測することができる。
【0047】
[健康寿命を用いた、予測モデル121の予測精度の検証]
次に、「健康寿命」という指標を用いて、予測モデル121の予測精度を検証する。健康寿命に関するデータは、たとえば、厚生労働省により提供されている。厚生労働省によれば、健康寿命は、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」、または「ある健康状態で生活することが期待される平均期間を表す指標」と定義される。
【0048】
健康寿命は、対象となる集団の各個人の生存期間を「健康な期間」と「不健康な期間」とに分け、前者の平均値を求めることで表すことができる。健康寿命は、たとえば、国民生活基礎調査のデータと、生命表とに基づいて算出される。健康寿命の算出に国民生活基礎調査のデータが用いられる場合、「日常生活に制限があること」が「不健康」と定義されている。このような健康寿命の算出手法は、既に広く知られている。したがって、ここでは、健康寿命の算出手法を詳細に説明することをしない。
【0049】
生命表は、ある期間における死亡状況(年齢別死亡率)が今後変化しないと仮定したときに、各年齢の者が1年以内に死亡する確率や平均してあと何年生きられるかという期待値などを、死亡率や平均余命などの指標(生命関数)によって表したものである。生命表は、たとえば、厚生労働省により提供されている。
【0050】
設計者は、予測モデル121の予測精度を健康寿命の観点で検証するため、はじめに、予測モデル121の予測結果に基づいて健康寿命を算出した。なお、予測モデル121の予測結果は、国民生活基礎調査の「日常生活への影響の有無」に関する確度に相当する。したがって、健康寿命に関する周知の計算手法を予測結果に適用することによって健康寿命が算出される。
【0051】
次に、設計者は、健康寿命に関して、「実測値」と「予測値」とを比較し、前者に対する後者の誤差が極めて小さいことを検証した。ここで、「実測値」は、「国民生活基礎調査のデータ自体から計算された健康寿命」である。「予測値」は、「予測モデル121の予測結果から計算された健康寿命」である。以下、図6図8を用いて、その検証結果を紹介する。
【0052】
図6は、健健康寿命に関する、「実測値」と、「実測値と予測値との差分」との関係を示すグラフである。図6において、横軸は、健康寿命(70歳、71歳、72歳…)を示し、縦軸は、「実測値と予測値との差分」を示す。図6には、2010年、2013年、2016年、および2019年の各々で実施された国民生活基礎調査のデータを対象とした、「実測値」と、「実測値と予測値との差分」との関係が示されている。特に図6においては、性別による「実測値と予測値との差分」の差異を明らかにするために、男女別のグラフが示されている。
【0053】
図7は、年度毎の実測値と予測値との関係(男性)を示すグラフである。図8は、年度毎の実測値と予測値との関係(女性)を示すグラフである。図7および図8は、図6に示されるグラフの作成に用いられた実測値および予測値を、年度を縦軸とし、健康寿命を横軸として、グラフ化したものである。
【0054】
図6に示されるように、実測値と予測値との差分は、最大でも2年に満たない。特に、男性を対象とする実測値と予測値の誤差の範囲は、いずれの年度も1年以内に収まっていることがわかる。この点は、図7に示されるグラフでも明確に示されている。すなわち、図7に示されるグラフから、実測値と予測値との差分が極めて小さいことがわかる。図8に示されるように、女性を対象とする場合においても、図7に示されるグラフ程ではないものの、実測値と予測値との差分が極めて小さいことがわかる。
【0055】
以上により、「国民生活基礎調査のデータ自体から計算された健康寿命」に対する「予測モデル121の予測結果から計算された健康寿命」の誤差が極めて小さいことが、実証された。このことから、本実施の形態に係る予測システム100は、高い精度でユーザの健康度を予測できるといえる。
【0056】
[ユーザ端末20の表示例]
図9および図10は、ユーザ端末20における画面の表示例を示す図である。予測システム100は、ユーザ端末20のアプリケーション(健康度AI診断ツール)と連動して、健康度の予測結果をユーザ端末20に提供する。
【0057】
ユーザ端末20は、健康度の取得に必要とされる情報を入力するためのインタフェースを、ディスプレイ21および入力部22によってユーザに提供する。図9には、健康度の取得に必要とされる情報の入力を受け付ける画面211が示されている。ユーザ端末20は、ディスプレイ21に画面211を表示し、ユーザに年齢等の情報の入力を促す。
【0058】
画面211には、年齢の入力を受け付ける枠と、性別の入力を受け付ける枠と、加療中の病気を受け付ける枠と、実行ボタンとが配置されている。加療中の病気を受け付ける枠は、プルダウン形式によって、予め登録された選択肢からユーザが1または複数の病名を選択できるように工夫されている。選択肢には、図3に示される予測因子のうち、「年齢」および「性別」以外の40項目が含まれている。
【0059】
ユーザは、画面211の枠内に必要事項を入力の上で、実行ボタンにタッチする。ユーザ端末20は、実行ボタンのタッチを受け付けたときに、画面211の入力データを、予測装置10へ送信する。
【0060】
予測装置10の演算装置11は、記憶装置12に格納された訓練済の予測モデル121を用いてユーザの健康度を予測する。訓練済の予測モデル121は、たとえば、加療中の傷病が日常生活に影響しないと予測される確度(「日常生活への影響の無」の確度)を、予測結果として出力する。このように、本実施の形態では、「日常生活への影響の無」の確度は、「健康度」の一例である。
【0061】
演算装置11は、通信インタフェース13から予測結果をユーザ端末20へ送信する。ユーザ端末20は、予測結果を受信し、ディスプレイ21に予測結果を含む様々な情報をする。
【0062】
図10には、予測結果を受信したときに、ユーザ端末20がディスプレイ21に表示する画面212が示されている。図10に示されるように、ユーザ端末20は、予測結果である健康度の他、その健康度に対応する平均年齢(平均健康度)、年齢毎の健康度に関するグラフ、および健康寿命を延伸するために注意すべき事項などを画面212に表示してもよい。
【0063】
画面212に示される「75.3%」は、予測装置10によって算出された健康度である。この健康度は、「加療中の傷病が日常生活に影響しないと予測される確度」に相当する。ただし、本実施の形態において、健康度は、ユーザの健康状態の程度を示す指標の一例に過ぎない。ユーザの健康状態の程度を示す指標として、既に説明した健康寿命を採用してもよい。この場合、予測装置10は、予測結果として、ユーザ端末20に健康寿命の数値を送信する。健康寿命の数値を受診したユーザ端末20は、画面212に「あなたの健康寿命は、80歳です。」などと表示する。
【0064】
画面212に示される「74歳」は、「75.3%」の健康度であると予測装置10によって評価(予測)されるユーザの平均年齢を示す。画面212では、この平均年齢が「平均健康度」という名称で表示される。画面212には、平均健康度の情報に加えて、平均健康度に関するグラフ(年齢毎の健康度)も表示される。このグラフには、予測装置10によって評価(予測)された健康度(75.3%)と平均年齢との関係が示されている。
【0065】
健康度に加えて、健康度に対応する平均年齢(平均健康度)、年齢毎の健康度に関するグラフ、および健康寿命を延伸するために注意すべき事項の3つの情報を、画面212に表示する場合、予測装置10は、それら3つの情報をユーザ端末20へ送信する。予測装置10は、それら3つの情報を特定するための基礎データを予めユーザ端末20へ送信してもよい。この場合、ユーザ端末20は、基礎データに基づいて、それらの情報を生成してもよい。
【0066】
[予測装置10の処理]
図11は、予測装置10が実行する予測処理の手順を示すフローチャートである。図11に示される処理ステップ(以下、これを「S」と略す。)は、予測装置10に含まれる演算装置11が予測プログラム122を実行することによって実現される。
【0067】
はじめに予測装置10は、通信インタフェース13によって、複数種類の特徴量を取得する(S1)。複数種類の特徴量には、図3に示される「年齢」、「うつ病やその他のこころの病気」、「腰痛症」、および「骨折」などが含まれる。次に、予測装置10は、取得した複数種類の特徴量と訓練済みの予測モデル121とに基づいて、ユーザの健康度を予測する(S2)。健康度は、「日常生活への影響の無」の確度に相当する。次に、予測装置10は、通信インタフェース13によって、予測結果をユーザ端末20に出力する(S3)。
【0068】
[比較例との関係]
図12は、本実施の形態と比較例との関係を示す図である。比較例では、予測因子として、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、および肥満などの古典的因子が採用されている。これに対して、本実施の形態では、図3に示されるように、予測因子として、予測精度へのインパクトの大きい、「年齢」、「うつ病やその他のこころの病気」、「腰痛症」、および「骨折」などが採用されている。
【0069】
さらに、比較例では、機械学習により生成される予測モデルが採用されていない。これに対して、本実施の形態では、予測精度へのインパクトの大きい予測因子を含む複数種類の特徴量を用いて、機械学習によって生成された予測モデル121が採用されている。
【0070】
したがって、本実施の形態では、予測因子の選択に関する科学的根拠が高い一方、比較例では、予測因子の選択に関する科学的根拠が低い。本実施の形態は、現在の医学的治療や診断技術に見合っているといえる一方、比較例では、現在の医学的治療や診断技術に見合っているといえない。以上より、本実施の形態は、予測精度が高い一方、比較例は、予測精度が低いといえる。
【0071】
以上、説明したように、本実施の形態に係る予測システム100および予測装置10によれば、複数種類の特徴量と訓練済みの予測モデル121とに基づいて健康度を予測することができるため、より高い精度でユーザの健康状態を予測することができる。さらに、本実施の形態では、国民生活基礎調査のデータが用いられているため、簡易かつ効率的に、ユーザの健康状態を予測することができる。
【0072】
なお、上記実施の形態においては、予測モデル121を生成(訓練)するための複数種類の特徴量として、42の予測因子を採用した。しかしながら、特に、予測精度の高い予測因子を42の予測因子の中から選択し、それら選択された予測因子によって予測モデル121を生成してもよい。たとえば、「年齢」、「うつ病やその他のこころの病気」、「腰痛症」および「骨折」を、予測モデル121を生成するための複数種類の特徴量として選択してもよい。
【0073】
本実施の形態において、ユーザの健康状態の程度を示す指標の一例「健康度」を挙げた。ここで、本実施の形態において、「健康度」は、「加療中の傷病が日常生活に影響しないと予測される確度(日常生活への影響の無の確度)」と定義される。しかし、ユーザの健康状態の程度を示す指標として、「健康度」に代えて「健康寿命」を採用してもよい。この場合、予測装置10は、図11に示されるフローチャートのS2において、「加療中の傷病が日常生活に影響しないと予測される確度」を導出した後、生命表データを用いて、健康寿命を算出する。予測装置10は、図11に示されるフローチャートのS3において、予測結果として「健康寿命」をユーザ端末20に送信する。予測装置10は、「健康寿命」に加えて、「健康度」をユーザ端末20に送信してもよい。この場合、ユーザ端末20は、健康寿命と健康度とをディスプレイ21に表示してもよい。
【0074】
国民生活基礎調査のデータに代えて、レセプトデータ(主に保険診療をした医療機関が発行する診療報酬明細書)を用いて、予測モデル121を生成してもよい。
【0075】
[本実施の形態に係るシステムの活用]
本実施の形態に係る予測システム100は、健康寿命の延伸年数の設定、および設定された延伸年数を達成するための施策の具体化など、医療政策へ活用されることが期待される。さらに、予測システム100によれば、国民の健康意識向上と行動変容とを促すことができる。
【0076】
予測システム100を用いれば、全国または都道府県、市町村の健康寿命延伸のための具体的な施策を立案し、延伸年数を人々に提示することが可能となる。自治体の医療レセプトデータ解析等で各リスク因子の通院率がわかれば、3年毎の国民生活基礎調査の結果を待たずして、健康寿命を評価することも可能となる。
【0077】
図9に示される健康度診断ツールは、特定健診や特定保健指導、医療機関での検診や定期受診の場面、およびスポーツジムなどで活用されることが想定される。図10に示されるように、アプリケーション内では健康を阻害している要因とその対策が提案される。したがって、アプリケーションの利用を促進することにより、国民の健康への意識向上をもたらし、国民の行動変容を促す効果が期待できる。
【0078】
本実施の形態において提唱される「健康度」という指標は、生命保険などの保険加入時の審査に新たな指標として応用できる可能性がある。このように、健康度あるいは健康寿命に関する予測システム100を社会実装することで、健康寿命さらには人々が自立している期間を延伸することができる。したがって、予測システム100は、要介護者の減少や医療費削減、そして自立した高齢者が活躍する真の健康長寿社会の実現に貢献できる。
【0079】
[態様]
(第1項)一態様に係る予測システムは、予測装置であって、ユーザの心身に関連する複数種類の特徴量を取得する取得部と、訓練済みの予測モデルを用いて、複数種類の特徴量に基づいてユーザの健康状態を予測する予測部と、予測部の予測結果を出力する出力部とを備える。
【0080】
(第2項)第1項に記載の予測システムにおいて、複数種類の特徴量は、加療中の傷病に関する情報および年齢を含む。
【0081】
(第3項)第1項に記載の予測システムにおいて、加療中の傷病は、精神疾患を含む。
【0082】
(第4項)第2項または第3項に記載の予測システムにおいて、加療中の傷病は、腰痛症を含む。
【0083】
(第5項)第2項~第4項のいずれか1項に記載の予測システムにおいて、加療中の傷病は、骨折を含む。
【0084】
(第6項)第2項~第5項のいずれか1項に記載の予測システムにおいて予測結果は、加療中の傷病が日常生活に影響しないと予測される確度である。
【0085】
(第7項)第2項~第4項のいずれか1項に記載の予測システムにおいて、予測モデルは、複数種類の特徴量と、加療中の傷病が日常生活に与える影響の有無とに基づく機械学習によって生成されている。
【0086】
(第8項)第7項に記載の予測システムにおいて、予測モデルは、国民生活基礎調査データが訓練データとして用いられて、訓練されている。
【0087】
(第9項)コンピュータを用いた予測方法であって、ユーザの心身に関連する複数種類の特徴量を取得するステップと、訓練済みの予測モデルを用いて、複数種類の特徴量に基づいてユーザの健康状態を予測するステップと、予測するステップによる予測結果を出力するステップとを含む。
【0088】
(第10項)予測プログラムであって、コンピュータに、ユーザの心身に関連する複数種類の特徴量を取得するステップと、訓練済みの予測モデルを用いて、複数種類の特徴量に基づいてユーザの健康状態を予測するステップと、予測するステップによる予測結果を出力するステップとを実行させる。
【0089】
(第11項)予測システムであって、ユーザ端末と、ユーザ端末と通信するように構成された予測装置とを備え、予測装置は、ユーザの心身に関連する複数種類の特徴量をユーザ端末から取得する取得部と、訓練済みの予測モデルを用いて、複数種類の特徴量に基づいてユーザの健康状態を予測する予測部と、予測するステップによる予測結果をユーザ端末に出力する出力部とを備える。
【0090】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0091】
10 予測装置、11 演算装置、12 記憶装置、13 通信インタフェース、20 携帯端末、21 ディスプレイ、22 入力部、23 通信インタフェース、121 予測モデル、122 予測プログラム、211,212 画面、500 ネットワーク、100 予測システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12