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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081337
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】高周波加熱装置用の加熱コイル
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/40 20060101AFI20240611BHJP
   H05B 6/42 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H05B6/40
H05B6/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194876
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】522475328
【氏名又は名称】ティーケーエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(72)【発明者】
【氏名】後藤 文和
(72)【発明者】
【氏名】河辺 正臣
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AA08
3K059AB09
3K059AD05
3K059CD48
3K059CD53
(57)【要約】
【課題】被加工物に外向きの凸状に角張った部分が存在する場合でも、その部分のみが過度に加熱される事態を効果的に防止して、被加工物の機械的強度が低下する事態を生じさせない高周波加熱装置用の加熱コイルを提供する。
【解決手段】加熱コイル1は、三次元データに基づいて導電性物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法を用いて一体的に形成されており、高周波電流を生じさせる電極に当着させるための一対の板状の接地部2a,2bと、各接地部2a,2bに対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状の支持部3a,3bと、それらの支持部3a,3bの先端同士を繋ぐように設けられた周状の加熱部4とを有している。そして、加熱部4には、被加工物に対して冷却用の気体を噴射するための気体噴射孔25,25・・が形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電流による電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための高周波加熱装置に用いる加熱コイルであって、
三次元データに基づいて電導物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法、あるいは、三次元データに基づいて溶融させた導電性物質を積層する造形方法を用いて一体的に形成されたものであり、
高周波電流を通電させる電極に当着させるための一対の板状の接地部と、
前記各接地部に対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状の支持部と、
それらの支持部の先端同士を繋ぐように設けられた周状の加熱部とを有しており、
前記加熱部に、被加工物に対して気体を噴射するための気体噴射孔が形成されていることを特徴とする高周波加熱装置用の加熱コイル。
【請求項2】
前記加熱部に、冷却媒体を流下させるための冷却媒体流下路と、前記気体噴射孔へ気体を導くための気体流下路とが設けられているとともに、
その気体流下路が、冷却媒体流下路内に二重管状に形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の高周波加熱装置用の加熱コイル。
【請求項3】
前記気体噴射孔から噴射される気体が、被加工物の凸状の稜線に向けて吹き付けられるように構成されていることを特徴とする請求項1、または2に記載の高周波加熱装置用の加熱コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電流による電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための高周波加熱装置に用いられる加熱コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製の被加工物(ワーク)の表面際の部分の硬さを高めるために、金属の変態点(オーステナイト変態点)以上の温度まで被加工物の表面を加熱した後に急冷する加工(所謂、焼入れ加工)が行われている。そして、そのような焼き入れ加工を行うための方法として、高周波加熱装置を用いて、高周波電流を流した金属製で環状の部材(加熱コイル)を被加工物の表面に近接させて、電磁誘導により発生した熱によって被加工物を加熱する方法が広く採用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-115428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の如き金属製で環状の加熱コイルを用いて被加工物の焼き入れ加工を行う場合には、被加工物に外向きの凸状に角張った部分が存在すると、その部分のみが過度に加熱されてしまい、当該部分の結晶粒度が大きくなって耐衝撃性等の機械的強度が低下する事態を誘発してしまう。また、特許文献1の如き従来の加熱コイルは、複数の部品を銀ロウ等で接着することによって形成しなければならないため、高い出力条件の下で(高電圧の高周波電源を印加する加工条件で)使用し続けると、破損して冷却媒体が漏れ出す事態が発生し易い。さらに、特許文献1の如き従来の加熱コイルは、複数の部品をロウ付けすることによって形成しなければならないため、製造時に同一特性のものを再現性良く製造することが困難であり、そのことに起因して、加熱される被加工物の品質にバラツキを生じてしまう、という不具合もあった。
【0005】
本発明の目的は、上記した従来の高周波加熱処理用の加熱コイルの問題点を解消し、被加工物に外向きの凸状に角張った部分が存在する場合でも、その部分のみが過度に加熱される事態を効果的に防止して、被加工物の機械的強度が低下する事態を生じさせず、高周波電源の出力を高くした場合でも、破損しにくい上、製造時に同一特性のものを再現性良く安価かつ容易に製造することができる高周波加熱装置用の加熱コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内、請求項1に記載された発明は、高周波電流による電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための高周波加熱装置に用いる加熱コイルであって、三次元データに基づいて電導物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法(以下、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法という)、あるいは、三次元データに基づいて溶融させた導電性物質を積層する造形方法(以下、導電性物質の溶融押出積層方法という)を用いて一体的に形成されたものであり、高周波電流を通電させる電極に当着させるための一対の板状の接地部と、前記各接地部に対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状の支持部と、それらの支持部の先端同士を繋ぐように設けられた周状の加熱部とを有しており、前記加熱部に、被加工物に対して冷却用の気体を噴射するための気体噴射孔が形成されていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記加熱部に、冷却媒体を流下させるための冷却媒体流下路と、前記気体噴射孔へ気体を導くための気体流下路とが設けられているとともに、その気体流下路が、冷却媒体流下路内に二重管状に形成されたものであることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載された発明は、請求項2に記載された発明において、前記気体噴射孔から噴射される気体が、被加工物の凸状の稜線に向けて吹き付けられるように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の高周波加熱装置用の加熱コイル(以下、単に加熱コイルという)は、被加工物に対して気体を噴射するための気体噴射孔が加熱部に形成されているため、ガス注入管からガス(窒素等を)注入し、ガス噴射孔から被加工物にガスを噴射することによって、被加工物の特定の部分(たとえば、外向きの凸状に角張った部分)を急速に冷却して過度な加熱を回避することができる。したがって、請求項1に記載の加熱コイルによれば、被加工物の特定の部分の結晶粒度が大きくなって耐衝撃性等の機械的強度が低下してしまう事態を、効果的に防止することができる。
【0010】
また、請求項1に記載の加熱コイルは、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法あるいは導電性物質の溶融押出積層方法によって形成されるものであるため、周状の加熱部が気体噴射孔を設けた複雑な形状を有しているにも拘わらず、安価かつ非常に容易に製造することができる上、同一形状、同一特性を有する製品を、製造作業者の技量に左右されることなく再現性良く効率的に製造することができる。さらに、請求項1に記載の加熱コイルは、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法あるいは導電性物質の溶融押出積層方法によって形成されるものであるので、従来の加熱コイルのように銀ロウによる接着部分が存在しないため、連続使用により温度が上昇しても変形したりせず、長期間に亘って規格通りの加熱処理(焼入れ処理)を実施することができる。
【0011】
請求項2に記載の加熱コイルは、気体噴射孔へ気体を導くための気体流下路が加熱部内に形成された冷却媒体流下路の内部に二重管状に形成されているため、冷却媒体流下路中の冷却媒体によって気体流下路内のガスを低温に保った状態で被加工物に噴射することができるので、被加工物の特定の部分を、より効率的に冷却することができる。
【0012】
請求項3に記載の加熱コイルは、気体噴射孔から噴射される気体が、被加工物の凸状の稜線に向けて吹き付けられるように構成されているので、被加工物の凸状に角張った部分を非常に効果的に冷却することが可能であるため、被加工物の特定の部分の結晶粒度が大きくなって機械的強度が低下する事態をきわめて効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】加熱コイルの斜視図である。
図2】加熱コイルの平面図である。
図3】加熱コイルの左側面図である。
図4】加熱コイルの右側面図である。
図5】加熱コイルの正面図である。
図6】加熱コイルの鉛直断面図(図2におけるA-A線断面図)である。
図7】加熱コイルの鉛直断面図(図2におけるB-B線断面図)である。
図8】加熱コイルの接地部の鉛直断面図(図2におけるC-C線断面図)である。
図9】加熱コイルの加熱部の鉛直断面図である(aは図2におけるD-D線断面図であり、bはaにおけるE部分の拡大図である)。
図10】加熱部の水平断面図(図5におけるF-F線断面図)である。
図11】加熱コイルを製造する様子を示す説明図である(aは平面図であり、bは鉛直断面図である)。
図12】加熱コイルの使用状態を示す説明図(加熱部の鉛直断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る加熱コイルは、三次元プリンタを利用して三次元データに基づく造形方法によって一体的に形成されたものであることが必要である。かかる造形方法としては、三次元データに基づいて導電性物質からなる粉末の敷設、溶融、凝固、積層を繰り返す造形方法(導電性物質粉末層の部分溶着積層方法)、あるいは、三次元データに基づいて溶融させた導電性物質を積層する造形方法(導電性物質の溶融押出積層方法)を採用することができる。なお、加熱コイルの造形方法として、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法を用いると、複雑な形状・構造を有する加熱コイルを容易に製造することが可能となるので好ましい。
【0015】
本発明において造形の原料として用いる導電性物質とは、実質的に磁性を有しておらず、かつ、良好な導電性を有する物質のことを言う。かかる導電性物質としては、銅、黄銅、銀等を挙げることができる。それらの導電性物質の中でも、銅を用いると、材料費等のコストの低減が可能となり、加熱コイルを三次元プリンタによって安価かつ容易に製造することが可能となる上、導電性がきわめて良好なものとなり、電磁誘導による発熱効率が高いものとなるので好ましい。
【0016】
また、導電性物質として銅を用いる場合には、純銅を用いることも可能であるが、銅に、鉄、スズ、ニッケル、チタン、ベリリウム、ジルコニウム、クロム、ケイ素等を銅に比べて少ない割合で含有させた合金(高銅合金)を用いると、レーザの吸収を高めて温度上昇を促進することが可能となるので好ましい。さらに、それらの銅合金の中でも、銅にクロムを含有させた銅クロム合金を用いると、三次元プリンタによる製造効率を高く維持したまま加熱コイルの強度を効果的に高めることが可能となるのでより好ましく、銅に所定の割合でクロムおよびジルコニウムを含有させた合金(たとえば、98.71~99.45質量%の銅と、0.50~1.00質量%のクロムと、0.05~0.25質量%のジルコニウムとを含有するもの(高銅合金)等)を用いると、特に好ましい。
【0017】
導電性物質粉末層の部分溶着積層方法を利用して本発明に係る加熱コイルを造形する場合には、敷設された造形の原料(すなわち、導電性物質からなる粉末)をレーザあるいは電子ビームの照射によって溶融させる必要がある。その際のレーザとしては、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ、YAGレーザ、ファイバレーザ等を好適に用いることができるが、ファイバレーザ(すなわち、Yb等の希土類元素を添加した光ファイバをレーザ媒質として用いるレーザ)を用いると、小型の装置により高い出力で光軸にずれのないレーザ光を得ることが可能となり、寸法精度の高い加熱コイルを非常に効率良く製造することが可能となるので好ましい。
【0018】
また、導電性物質粉末層の部分溶着積層方法により加熱コイルを造形する場合のファイバレーザの出力、波長は、特に限定されないが、出力を400~1,000wの範囲内に調整し、波長を1,000~1,100nmの範囲内に調整すると、短時間での効率的な造形が可能となるので好ましい。また、導電性物質として銅(純銅)を用いる場合には、銅粉末におけるレーザの吸光率を向上させて加熱コイルの製造効率を高めるために、銅粉末中に、黒鉛と無機酸化物との混合粉末等からなる吸収剤を添加することも可能である。
【0019】
また、本発明に係る加熱コイルは、高周波電流を通電させる電極に当着させるための一対の板状の接地部と、各接地部に対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状の支持部と、それらの支持部の先端同士を繋ぐように設けられた周状の加熱部とを有していることが必要である。各支持部は、各接地部に対してそれぞれ直交するように配置された一対の板状(あるいは棒状)のものであれば、その形状は特に限定されないが、電力印加時に放電現象が生じないように角部を面取りしたものであると好ましい。
【0020】
一方、加熱部は、一連の周状に形成されていることが必要であるが、円環状のものに限定されず、非円環状(たとえば、平面視が矩形のリング状)のもの、円環の一部を成す形状(すなわち、円弧状)のもの、矩形あるいは多角形状のリングの一部を成す形状のもの等でも良い。加えて、上下に配置された複数の円環状体、非円環状体(平面視が矩形のリング状体等)、円弧状体、矩形あるいは多角形状のリングの一部を成す形状体を、1本あるいは複数本の鉛直な柱状体等で連結した形状を有するもの等でも良い。
【0021】
そして、本発明に係る加熱コイルにおいては、その周状の加熱部に、被加工物に対して気体を噴射するための気体噴射孔が形成されていることが必要である。当該気体噴射孔から被加工物に対して噴射する気体としては、エア、窒素ガス、焼き入れ冷却剤のミスト等を好適に利用することができる。そのように、周状の加熱部に気体噴射孔を形成し、その気体噴射孔から被加工物に冷却用のガスを噴射することによって、被加工物の特定の部分(たとえば、外向きの凸状に角張った部分)を急速に冷却して過度な加熱を回避することが可能となる。
【0022】
また、周状の加熱部は、加熱後の被加工物の冷却や加熱部自体の冷却を行うための冷却媒体流下路を設けたものであると好ましい。さらに、当該冷却媒体流下路には、加熱後の被加工物に冷却媒体を噴射するための複数の噴射孔を設けることも可能である。そのような噴射孔を設けることによって、加熱後の被加工物の冷却効率を一層向上させることが可能となる。
【0023】
加えて、本発明に係る加熱コイルは、各支持部の内部、あるいは、各接地部および各支持部の内部にも、加熱部の内部の冷却媒体流下路と連なるように、冷却用の媒体を流下させるための一連の冷却媒体流下路を形成したものであると好ましい。当該冷却媒体流下路は、左右の接地部、左右の支持部および加熱部の内部を繋ぐように設けられた単一のものでも良いし、加熱コイルの左右において、それぞれ、接地部、支持部および加熱部の内部を繋ぐように設けられた2本のものでも良い。加えて、冷却媒体流下路を、内壁に継ぎ目や所定の高さ以上(1.0mm以上)の段差のないものや、屈曲部分、連結部分がなだらかな曲線状(曲率半径が5mm以上の曲線状)に形成されたものとすると、冷却媒体の流下態様が非常にスムーズなものとなり、加熱コイルの加熱部、接地部や支持部の冷却効率がきわめて良好なものとなるので好ましい。
【0024】
本発明に係る加熱コイルは、上記の如く、周状の加熱部に気体噴射孔が形成されており、周状の加熱部の形状が複雑であるにも拘わらず、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法あるいは導電性物質の溶融押出積層方法によって形成されるものであるため、非常に容易に製造することができる。
【実施例0025】
以下、本発明に係る加熱コイルの一実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0026】
[実施例1]
<加熱コイルの構造>
図1図10は、実施例1の加熱コイルを示したものであり、加熱コイル1は、銅合金(高銅合金)によって一体的に形成されたコイル本体5、絶縁性および耐熱性を有する合成樹脂(フッ素樹脂)によってシート状に形成された絶縁板(図示せず)、ネジ部材(図示せず)によって構成されている。そして、加熱コイル1は、縦(前後)×横(幅)×高さ=300mm×150mm×100mm(縦、横、高さとも最大部分の長さ)の大きさを有している。
【0027】
コイル本体5は、後述する三次元プリンタを利用した造形方法によって成形されたものであり、高周波電源の電極に当着させるための接地部2a,2b、誘導加熱により被加工物(ワーク)を加熱するための周状の加熱部4、および、各接地部2a,2bから離れた位置で加熱部4を支持するための支持部3a,3bを有している。また、加熱部4は、上側周状体15と下側周状体16とに分割されている。そして、左側の支持部3aが上側周状体15を支持し、右側の支持部3bが下側周状体16を支持した状態になっている。なお、コイル本体5は、三次元プリンタを利用した造形方法によって成形されているため、全体が同一色を呈しており、表面全体が同じ粗度(表面粗さ)になっている。
【0028】
各接地部2a,2bは、左右一対の扁平な直方体状(板状)に形成されており、片方の側面を向かい合わせた状態で、所定の距離(約2mm)を隔てて左右に隣り合うように配置されている。また、図8の如く、左側の各接地部2aの内部には、冷却用の媒体(水等)を流下させるための冷却媒体流下路10aが形成されており、先端側の部分が二股状に分離して、上側流下路10αと下側流下路10βとを形成した状態になっている。同様に、右側の接地部2bの内部にも、冷却用の媒体を流下させるための冷却媒体流下路10bが形成されており、先端側の部分が二股状に分離して、上側流下路10γと下側流下路10δとを形成した状態になっている。また、各接地部2a,2bの上面には、それぞれ、円筒形の排出管7a,7bが上方に突出するように設けられており、それぞれ、冷却媒体流下路10a、冷却媒体流下路10bと連通した状態になっている。
【0029】
また、左側の支持部3aは、基端側が扁平な直方体状に形成されており、先端側が基端側に比べて上下幅の狭い扁平な直方体状に形成されている。そして、左側の支持部3aは、左側の接地部2aと、加熱部4の上側周状体15とを繋いだ状態になっている。また、左側の支持部3aの内部には、冷却用の媒体を流下させるための縦長な楕円状の断面を有する上側冷却媒体流下路11と、上側冷却媒体流下路11より狭幅で縦長な楕円状の断面を有する下側冷却媒体流下路12とが上下に平行に設けられている。そして、それらの上側冷却媒体流下路11、下側冷却媒体流下路12の基端が、それぞれ、接地板2aの上側流下路10α、下側流下路10βと連通した状態になっている。
【0030】
一方、右側の支持部3bは、基端側が左側の支持部3aと同じ上下幅の扁平な直方体状に形成されており、先端側が加熱部4の下側周状体16と同じ上下幅の扁平な直方体状に形成されている。そして、右側の接地部2bと、加熱部4の下側周状体16とを繋いだ状態になっている。また、右側の支持部3aの内部には、冷却用の媒体を流下させるための縦長な楕円状の断面を有する上側冷却媒体流下路13と、上側冷却媒体流下路13より狭幅で縦長な楕円状の断面を有する下側冷却媒体流下路14とが上下に平行に設けられている。そして、それらの上側冷却媒体流下路13、下側冷却媒体流下路14の基端が、それぞれ、接地板2bの上側流下路10γ、下側流下路10δと連通した状態になっている。
【0031】
上記した左右の支持部3a,3bは、片方の板面を向かい合わせた状態で、所定の距離(約2mm)を隔てて左右に隣り合うように配置されている。そして、各支持部3a,3bの基端縁の部分が、左右の接地部2a,2bの内側の端縁際に連なり、各支持部3a,3bの板面が、各接地部2a,2bの板面に対して直交した状態になっている。
【0032】
<加熱部の構造>
一方、加熱部4は、被加工物を挿入させた状態(近接させた状態)で加熱するためのものであり、同一の外径を有する上側周状体15と下側周状体16とを中心軸を合わせて上下に併設した形状を有している。上側周状体15は、肉厚な円筒状(基端において左右に分離した円筒状)に形成されており、内部が冷却用の媒体を流下させるための冷却媒体流下路17として機能するようになっている。なお、上側周状体15の内周には、所定の上下幅の突起体18が、内側へ突出するように周状に設けられている。
【0033】
さらに、上側周状体15は、基端側の部分が左右に分割されており、左側の部分は、支持部3aの先端に?がっている。また、分離した右側の部分は、一定の上下幅の直方体状に形成された配管支持体19に接続されている。そして、その配管支持体19の板面が、支持部3aと平行になっている(すなわち、支持部3bと面一になっている)。加えて、配管支持体19の内部には、冷却媒体流下路17と連通するように、冷却媒体流下路20が形成されている。さらに、配管支持体19は、注入管9bが板面に直交するように設けられており、冷却媒体流下路20と連通した状態になっている。
【0034】
また、下側周状体16は、扁平で肉厚な円筒状に形成されており、内部が、冷却用の媒体を流下させるための冷却媒体流下路21として機能するようになっている。また、当該却媒体流下路21の内部には、被加工物の冷却用のガス(窒素等)を流下させるための気体流下路22が形成されている。すなわち、下側周状体16の内部は、二重管構造になっており、気体流下路22の内部が、冷却媒体流下路21の内部から独立した状態になっている。なお、気体流下路22は、内外の側壁23a,23bが下側周状体16の中心軸に対して所定の角度(約45°)で傾斜した状態になっており、断面が平行四辺形状になっている。また、冷却媒体流下路21の上板(天板)が、気体流下路22の上板を兼ねた状態になっている。さらに、下側周状体16には、外部から気体流下路22へガスを注入するための3つのガス注入管24,24・・が放射状に設けられている。そして、各ガス注入管24,24・・が、下側周状体16の外周の下端際の前方、および、左右から外側へ突出した状態になっている。
【0035】
また、冷却媒体流下路21の上板(すなわち、下側周状体16の上面)には、被加工物へガスを噴射するための12個のガス噴射孔25,25・・が、同一円周上に等間隔に穿設されている(図10参照)。それらのガス噴射孔25,25・・は、下側周状体16の中心軸に対して所定の角度(約45°)で傾斜するように円柱状に穿設されている(図9参照)。また、各ガス噴射孔25,25・・は、下側周状体16の中心軸に対して放射状に配置された状態になっている。そして、それらのガス噴射孔25,25・・の中心軸Cから気体流下路22の内外の側壁23a,23bまでの長さが等しくなっている。
【0036】
さらに、下側周状体16は、基端側の部分が左右に分割されており、右側の部分は、支持部3bの先端に?がっている。また、分離した左側の部分は、下側周状体16と同じ上下幅の直方体状に形成された配管支持体26に接続されている。そして、その配管支持体26の板面が、支持部3bと平行になっている(すなわち、支持部3aと面一になっている)。加えて、配管支持体26の内部には、冷却媒体流下路21と連通するように、冷却媒体流下路27が形成されている。さらに、配管支持体26には、注入管9aが板面に直交するように設けられており、冷却媒体流下路27と連通した状態になっている。
【0037】
<冷却媒体流下路の構造>
上記した加熱コイル1においては、加熱部4、左右の接地部2a,2bおよび支持部3a,3bの内部に、コイル自身と被加工物とを冷却するための2つの一連の冷却媒体流下路6a,6bが形成されている。すなわち、片方の冷却媒体流下路6aは、右側の注入管9bから、右側の配管支持体19の内部の冷却媒体流下路20、上側周状体15の内部の冷却媒体流下路17、左側の支持部3aの内部の上側冷却媒体流下路11、および、左側の接地部2aの内部の冷却媒体流下路10aを経由して、排出管7aに至っている。一方、他方の冷却媒体流下路6bは、左側の注入管9aから、左側の配管支持体26の内部の冷却媒体流下路27、下側周状体16の内部の冷却媒体流下路21、右側の支持部3bの内部の下側冷却媒体流下路14、および、右側の接地部2bの内部の冷却媒体流下路10bを経由して、排出管7bに至っている。
【0038】
また、加熱コイル1は、三次元プリンタによって一体的に形成されたものであるため、2つの冷却媒体流下路6a,6bとも、すべての屈曲部分、連結部分がなだらかな曲線状(曲率半径が5mm以上の曲線状)に形成されており、急峻な折れ曲がり形状が形成されていない状態になっている。加えて、2つの冷却媒体流下路6a,6bとも、内壁に継ぎ目や所定の高さ(1.0mm)以上の段差が形成されていない状態になっている。
【0039】
さらに、左右の接地部2a,2bの間、左右の支持部3a,3bの間、加熱部4の左右の基端部分の間には、所定の厚み(約2.0mm)のシート状の絶縁板(図示せず)が挟み込まれており、その状態で、左右の支持部3a,3bおよび絶縁板31が、ネジ孔8,8を挿通させたボルト(図示せず)によって螺着されている。なお、それらのボルトは、絶縁性・耐熱性を有する合成樹脂(ガラスエポキシ樹脂)製のブッシュ(図示せず)を介して支持部3a,3bおよび絶縁板31を螺着した状態になっており、当該ボルトを介して支持部3a,3b同士が導通しないようになっている。
【0040】
<加熱コイルの製造方法>
図11は、加熱コイル1のコイル本体5を形成する様子を示したものであり、加熱コイル1を形成するための三次元プリンタ装置Mは、中央に直方体状の凹状部を形成してなるフレームF、そのフレームFに対して昇降可能に設けられた昇降部材、レーザLを照射するための照射手段S、レーザを反射させるための反射手段R、昇降部材を昇降させるための駆動手段(図示せず)等を有している。そして、昇降部材には、フレームFの凹状部の開口部分と略同一の面積を有するテーブルTが設けられている。
【0041】
三次元プリンタ装置Mにより加熱コイル1を製造する際には、まず、上昇位置にある昇降部材のテーブルTの表面に、銅合金(高銅合金)の粉末を、所定の厚み(たとえば、30μm)になるように敷設する(テーブルTの表面とフレームFの外枠の表面とのギャップだけ銅粉末を敷き詰める)。そして、その銅合金粉末に対して、所定の出力のレーザ(ファイバレーザ)Lを所定の形状に照射して銅合金粉末の一部を溶融させ、冷却して凝固させることによって、加熱コイル1の一部を形成する。
【0042】
上記の如く、加熱コイル1の一部を形成した後には、駆動手段により昇降部材のテーブルTを所定の高さ(たとえば、30μm)だけ降下させる。そして、その高さ位置において、“先に形成された加熱コイル1の一部の上側での銅合金粉末の敷設→銅合金粉末に対するレーザLの照射→溶融した銅合金の冷却・固化(凝固による固化)”という動作を繰り返す。そして、上記の如く、“昇降部材のテーブルTを降下→銅合金粉末の敷設→銅合金粉末に対するレーザLの照射→溶融した銅合金の冷却・固化”という動作を、所定の回数(たとえば、5,000回)だけ繰り返すことによって、銅合金からなる加熱コイル1を一体的に形成することができる。
【0043】
<加熱コイルの作用>
上記の如く構成された加熱コイル1は、左右の接地部2a,2bを電極に接地させ、図12の如く、周状の加熱部4の内部に、被加工物W(たとえば、大径の円柱状部分の下面から小径の円柱状部分を同心円状に下向きに突出させた形状を有するもの等)を挿入させた状態で、電極を介して外部電源(高周波電源)を投入し、電磁誘導現象を利用して、被加工物Wを加熱する(焼き入れる)ことができる。
【0044】
また、冷却媒体を、左右の注入管9a,9bから冷却媒体流下路6a,6bに注入し、加熱部4(すなわち、上側周状体15および下側周状体16)の内部を通過させた後に、支持部3a,3b、接地部2a,2bを通過させて排出管7a,7bから排出することで、加熱部4、支持部3a,3bおよび支持部3a,3bを効率的に冷却することによって、絶縁板(図示せず)の溶融による損傷等を精度良く防止することができる。
【0045】
そして、そのように被加工物Wに対して焼き入れ処理を行う際に、ガス注入管24,24・・からガス(窒素等)を注入し、ガス噴射孔25,25・・から被加工物Wにガスを噴射することによって、被加工物Wの特定の部分(たとえば、外向きの凸状に角張った部分、図12におけるα部分)を急速に冷却して過度な加熱を回避することができる。なお、ガス注入管24,24・・から注入されるガスは、加熱部4の上側周状体15の内部に円周状に設けられた気体流下路22を介して、ガス噴射孔25,25・・から噴射されるので、ガス噴射孔25,25・・から噴射されるガスの圧力のバラツキが小さいため、被加工物Wの特定の部分を斑なく冷却することができる。
【0046】
<加熱コイルの効果>
加熱コイル1は、上記の如く、加熱部4に、被加工物Wに対して気体を噴射するための気体噴射孔25,25・・が形成されているため、外部から導入したガス(窒素等)をガス噴射孔25,25・・から被加工物Wにガスを噴射することによって、被加工物Wの特定の部分(外向きの凸状に角張った図12におけるα部分)を急速に冷却して過度な加熱を回避することができる。したがって、加熱コイル1によれば、被加工物Wの特定の部分の結晶粒度が大きくなって耐衝撃性等の機械的強度が低下してしまう事態を、効果的に防止することができる。
【0047】
また、加熱コイル1は、三次元プリンタ装置Mを用いた造形方法(すなわち、三次元データに基づく導電性物質粉末層の部分溶着積層方法)によって形成されるものであるため、周状の加熱部4が複雑な形状を有しているにも拘わらず、非常に容易に製造することができる上、同一形状、同一特性を有する製品を、製造作業者の技量に左右されることなく再現性良く効率的に製造することができる。さらに、加熱コイル1は、三次元プリンタ装置Mを用いた造形方法によって形成されるものであるので、従来の加熱コイルのように銀ロウによる接着部分が存在しないため、連続使用により温度が上昇しても変形したりせず、長期間に亘って規格通りの加熱処理(焼入れ処理)を実施することができる。
【0048】
さらに、加熱コイル1は、加熱部4に、冷却媒体を流下させるための冷却媒体流下路17および冷却媒体流下路21と、気体噴射孔25,25・・へ気体を導くための気体流下路22とが設けられているとともに、その気体流下路22が、冷却媒体流下路21内に二重管状に形成されたものであるため、冷却媒体流下路21中の冷却媒体によって気体流下路22内のガスを低温に保った状態で被加工物Wに噴射することができるので、被加工物Wの特定の部分(図12におけるα部分)を、より効率的に冷却することができる。
【0049】
加えて、加熱コイル1は、気体噴射孔25,25・・から噴射される気体が、被加工物Wの凸状の稜線に向けて吹き付けられるように構成されている(すなわち、軸心が所定の角度で傾斜している)ので、被加工物Wの外向きの凸状に角張った部分(図12におけるα部分)を非常に効果的に冷却することができるため、被加工物Wの外向きの凸状の部分の結晶粒度が大きくなって機械的強度が低下する事態をきわめて効果的に防止することができる。
【0050】
<加熱コイルの変更例>
本発明に係る加熱コイルは、上記した実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、材質や、接地部、支持部、加熱部、注入管、排出管、気体噴射孔、気体流下路、冷却媒体流下路等の形状、構造等の構成を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【0051】
たとえば、加熱コイルの加熱部は、上記実施形態の如く、上側周状体と下側周状体とを所定の隙間を設けて上下に併設したものに限定されず、単純な円環状であるもの、平面視矩形の周状であるものや、分割した円環状体や周状体を上下に水平に配置させて鉛直な柱状体(上下方向に伸長した柱状体)によって連結してなるもの等に変更することも可能である。
【0052】
さらに、加熱部は、上記実施形態の如く、加熱部内に複数の冷却媒体流下路を設けたものに限定されず、加熱部内に単一の冷却媒体流下路を設けたものでも良い。なお、上記実施形態の如く、加熱部内に複数の冷却媒体流下路を設けた場合には、加熱後の被加工物の冷却および加熱部自体の冷却をより効率的に行うことが可能となる。また、加熱部は、上記実施形態の如く、気体流下路を冷却媒体流下路内に二重管状に形成したものに限定されず、気体流下路を冷却媒体流下路内とは別個に形成したものでも良い。
【0053】
加えて、本発明に係る加熱コイルは、上記実施形態の如く、フッ素樹脂(PTFE、PFA、FEP、ETFE、PCTFE、ECTFE、PVDF)からなる絶縁板によって一対の接地部および一対の支持部が絶縁されているものに限定されず、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の絶縁性および耐熱性を有する他の合成樹脂からなる絶縁板によって一対の接地部および一対の支持部が絶縁されているもの等に変更することも可能である。
【0054】
加えて、本発明に係る加熱コイルの全体の形状・大きさ、加熱部の形状(全体の形状、被加工物と対向する気体噴射孔の本数・角度等)、接地部の形状・大きさ、支持部の形状・大きさ、シート状の絶縁板の種類(素材)・厚み、絶縁板を挟み込むためのボルトの本数等も、上記実施形態の態様に何ら限定されず、焼き入れ加工するワークの形状等に応じて適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る加熱コイルは、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、電磁誘導を利用して被加工物を加熱するための部材として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0056】
1・・加熱コイル
2a,2b・・接地部
3a,3b・・支持部
4・・加熱部
6a,6b・・冷却媒体流下路
7a,7b・・排出管
9a,9b・・注入管
10a,10b・・冷却媒体流下路
11・・上側冷却媒体流下路
12・・下側冷却媒体流下路
13・・上側冷却媒体流下路
14・・下側冷却媒体流下路
15・・上側周状体
16・・下側周状体
17・・冷却媒体流下路
21・・冷却媒体流下路
22・・気体流下路
24a,24b・・ガス注入管
25・・ガス噴射孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12