IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アステックの特許一覧

特開2024-81338細胞懸濁液の調整器具、および細胞を含む調整液の製造方法
<>
  • 特開-細胞懸濁液の調整器具、および細胞を含む調整液の製造方法 図1
  • 特開-細胞懸濁液の調整器具、および細胞を含む調整液の製造方法 図2
  • 特開-細胞懸濁液の調整器具、および細胞を含む調整液の製造方法 図3
  • 特開-細胞懸濁液の調整器具、および細胞を含む調整液の製造方法 図4
  • 特開-細胞懸濁液の調整器具、および細胞を含む調整液の製造方法 図5
  • 特開-細胞懸濁液の調整器具、および細胞を含む調整液の製造方法 図6
  • 特開-細胞懸濁液の調整器具、および細胞を含む調整液の製造方法 図7
  • 特開-細胞懸濁液の調整器具、および細胞を含む調整液の製造方法 図8
  • 特開-細胞懸濁液の調整器具、および細胞を含む調整液の製造方法 図9
  • 特開-細胞懸濁液の調整器具、および細胞を含む調整液の製造方法 図10
  • 特開-細胞懸濁液の調整器具、および細胞を含む調整液の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081338
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】細胞懸濁液の調整器具、および細胞を含む調整液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240611BHJP
   C12M 1/12 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194877
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】592250746
【氏名又は名称】株式会社アステック
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100215164
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 正美
(72)【発明者】
【氏名】園田 勝裕
(72)【発明者】
【氏名】坂井 孝則
(72)【発明者】
【氏名】朴 晶淑
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 覚
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB01
4B029CC01
4B029DG08
4B029GB02
4B029GB04
4B029HA06
(57)【要約】
【課題】細胞懸濁液の液組成を調整することができる、新たな細胞懸濁液の調整器具および調整方法を提供する。
【解決手段】フィルタ22の配置部222を有する細胞懸濁液20を収容するための内側容器21と、内側容器21の少なくとも一部を収容しフィルタ22が外側液30と接触する量の液を収容するための外側容器31とを有する複合容器41と、内側容器21を振動させる振動部24と、を有する、細胞懸濁液20の液組成を調整した細胞を含む調整液の調整器具100。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタの配置部を有する細胞懸濁液を収容するための内側容器と、前記内側容器の少なくとも一部を収容し前記フィルタが外側液と接触する量の液を収容するための外側容器とを有する複合容器と、
前記内側容器を振動させる振動部と、を有する、
前記細胞懸濁液の液組成を調整した細胞を含む調整液の調整器具。
【請求項2】
前記外側容器が、前記外側液の液量を調整するための複数の異なる高さの排出口を有する、請求項1に記載の調整器具。
【請求項3】
前記内側容器に、前記細胞懸濁液を供給する第一の供給ラインと、
前記外側容器に、前記外側液を供給する第二の供給ラインと、を有する、請求項2に記載の調整器具。
【請求項4】
前記複合容器を傾けて、前記フィルタに前記内側容器内の液が接触しない状態とする姿勢制御部と、
前記姿勢制御部で傾けた前記複合容器の前記内側容器に収容された液を回収する回収ラインと、を有する、請求項1に記載の調整器具。
【請求項5】
フィルタの配置部を有する内側容器および前記内側容器の少なくとも一部を収容する外側容器を有する複合容器と、前記内側容器を振動させる振動部と、を有する調整器具を用いる細胞を含む調整液の製造方法であって、
前記内側容器に、細胞懸濁液を収容し、前記外側容器に、前記フィルタに接触する液量の外側液を収容する、前記複合容器に液を収容する工程と、
前記内側容器を前記振動部で振動する工程と、を有する、前記細胞懸濁液の液組成を調整した細胞を含む調整液の製造方法。
【請求項6】
前記外側液が、前記細胞懸濁液を濾過するための誘導液および/または前記細胞懸濁液の液を置換するための置換液であり
前記外側容器が、前記外側液の液量を調整するための複数の異なる高さの排出口を有し、前記排出口から選択した排出口を開口した状態で、前記調整液を得る、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞懸濁液の液組成を調整して調整液を得るための調整器具に関する。また、細胞懸濁液の液組成を調整して得られる細胞を含む調整液の製造方法に関する
【背景技術】
【0002】
細胞は生命を持つ最小単位であり、人間の体は多数の細胞からなっている。細胞からなる臓器や組織の機能が失われたとき、失われた人体機能の回復を目指すものが再生医療である。再生医療の市場規模は今後も拡大が予測されている。再生医療に重要な細胞としては、様々な細胞へ分化する能力を有する幹細胞などが臨床に応用されている。
【0003】
液中で培養した細胞懸濁液や、剥離した細胞を液中に回収した液は、細胞濃度が低く濃縮が求められる場合がある。また、細胞培養や細胞を利用する過程で、培地置換することが求められる場合がある。このような回収や濃縮、培地置換等するとき、細胞懸濁液の遠心分離などが行われている。
【0004】
特許文献1は、細胞培養液に含まれる細胞を濾過する金属製多孔膜と、前記金属製多孔膜の外周部を保持する保持部材と、前記細胞培養液の流路となる中空部分が前記金属製多孔膜の主面の少なくとも一部と対向するように前記保持部材に接続された管状部材と、を備える、細胞培養液回収フィルタユニットを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2018-092513
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
濾過フィルタを用いる細胞懸濁液の濃縮は、フィルタに細胞が目詰まりして分離ができない場合がある。また、濾過するために加圧などを行うと、細胞と液体とが過剰に分離されてフィルタの孔内に細胞が拘束されて細胞の回収が難しくなる場合や、細胞がフィルタを通過する場合、細胞が損傷する場合などがある。
【0007】
細胞を利用する技術は発展傾向にあり、その応用や研究のために、より多くの細胞懸濁液の調整手法が求められている。かかる状況下、本発明は、新たな細胞懸濁液の調整器具などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0009】
<1> フィルタの配置部を有する細胞懸濁液を収容するための内側容器と、前記内側容器の少なくとも一部を収容し前記フィルタが外側液と接触する量の液を収容するための外側容器とを有する複合容器と、前記内側容器を振動させる振動部と、を有する、前記細胞懸濁液の液組成を調整した調整液の調整器具。
<2> 前記外側容器が、前記外側液の液量を調整するための複数の異なる高さの排出口を有する、前記<1>に記載の調整器具。
<3> 前記内側容器に、前記細胞懸濁液を供給する第一の供給ラインと、前記外側容器に、前記外側液を供給する第二の供給ラインと、を有する、前記<2>に記載の調整器具。
<4> 前記複合容器を傾けて、前記フィルタに前記内側容器内の液が接触しない状態とする姿勢制御部と、前記姿勢制御部で傾けた前記複合容器の前記内側容器に収容された液を回収する回収ラインと、を有する、前記<1>~<3>のいずれかに記載の調整器具。
<5> フィルタの配置部を有する内側容器および前記内側容器の少なくとも一部を収容する外側容器を有する複合容器と、前記内側容器を振動させる振動部と、を有する調整器具を用いる細胞を含む調整液の製造方法であって、
前記内側容器に、前記細胞懸濁液を収容し、前記外側容器に、前記フィルタに接触する液量の外側液を収容する、前記複合容器に液を収容する工程と、
前記内側容器を前記振動部で振動する工程と、を有する、前記細胞懸濁液の液組成を調整した細胞を含む調整液の製造方法。
<6> 前記外側液が、前記細胞懸濁液を濾過するための誘導液および/または前記細胞懸濁液の液を置換するための置換液であり
前記外側容器が、前記外側液の液量を調整するための複数の異なる高さの排出口を有し、前記排出口から選択した排出口を開口した状態で、前記調整液を得る、前記<5>に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の調整器具等によれば、細胞懸濁液の液組成を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の調整器具にかかる第一の実施形態の概要図である。
図2】本発明の製造方法のフロー図の一例である。
図3】本発明の調整器具にかかる第二の実施形態の概要図である。
図4】本発明の調整器具にかかる第二の実施形態の構成で濃縮する流れを説明するための図である。
図5】本発明の調整器具にかかる第二の実施形態の構成で濃縮する流れを説明するための図である。
図6】本発明の調整器具にかかる第二の実施形態の構成で濃縮する流れを説明するための図である。
図7】本発明の調整器具にかかる第二の実施形態の構成で置換する流れを説明するための図である。
図8】本発明の調整器具にかかる第三の実施形態の構成で回収する流れを説明するための図である。
図9】本発明の調整器具の製造例の像である。
図10】本発明の調整器具の製造例により振動した複合容器の状態を示す像である。
図11】本発明の調整器具の製造例により調製した液を回収する状態を示す像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0013】
[本発明の調整器具]
本発明の調整器具は、フィルタの配置部を有する細胞懸濁液を収容するための内側容器と、前記内側容器の少なくとも一部を収容し前記フィルタが外側液と接触する量の液を収容するための外側容器とを有する複合容器と、前記内側容器を振動させる振動部と、を有する、前記細胞懸濁液を調整した調整液の調整器具である。本発明の調整器具は、前記細胞懸濁液の液組成を調整した細胞を含む調整液を調整することができる。
【0014】
[本発明の製造方法]
本発明の製造方法は、フィルタの配置部を有する内側容器および前記内側容器の少なくとも一部を収容する外側容器を有する複合容器と、前記内側容器を振動させる振動部と、を有する調整器具を用いる細胞を含む調整液の製造方法であって、
前記内側容器に、前記細胞懸濁液を収容し、前記外側容器に、前記フィルタに接触する液量の外側液を収容する、前記複合容器に液を収容する工程と、
前記内側容器を前記振動部で振動する工程と、を有する、前記細胞懸濁液の液組成を調整した細胞を含む調整液の製造方法である。
【0015】
なお、本願において本発明の調整器具を用いて本発明の製造方法を行うこともでき、本願においてそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。
【0016】
本発明の調整器具は、調整液の製造時に、フィルタが、外側液に浸漬した状態となっているため、フィルタの上下で液の流動性が確保された状態となっていると考えられる。この状態で振動させることで、重力や液の流れによってフィルタの孔を通過できずに捕捉された細胞懸濁液中の細胞も、再度、細胞懸濁液内に浮上する。そして、フィルタの孔は開放されて液体が通過する。
【0017】
本発明によれば、フィルタの目詰まりを軽減して細胞懸濁液を処理することができる。また、本発明によれば、濾過して濃縮するときや、培地交換するとき、細胞の周囲には液が存在するため、細胞の損傷が少ない。また、濃縮や置換等により、細胞懸濁液を任意の濃度や液組成に調整をした調整液を得ることができる。また、調整された後、液状のため調整液を回収しやすい。また、大量の液の調整や、連続的な調整にも利用しやすい。
【0018】
[調整器具100]
図1は、本発明の調整器具にかかる第一の実施形態の概要図である。調整器具100は、複合容器41と、振動部24を有する。複合容器41は、内側容器21と、外側容器31を有する。内側容器21は配置部222を有する。この配置部は、フィルタ22を取り付ける事ができ、内部に細胞懸濁液20を収容している。外側容器31は、内側容器21をその内側に配置するものである。外側容器31は、内側容器21のフィルタ22が接するように外側液30を収容するためのものである。
【0019】
調整器具100を用いて、細胞懸濁液20の調整を行うことができる。内側容器21内に細胞懸濁液20を収容する。外側容器31内に外側液30を収容する。この状態で、振動部24を振動することで、フィルタ22を通って、細胞懸濁液20と、外側液30の液が入れ替わることができる状態である。さらに、フィルタ22を通過しない大きさの細胞懸濁液20内の細胞は内側容器21内に留まる。
【0020】
[製造フロー例]
図2は、本発明の製造方法のフロー図の一例である。
ステップS11は、複合容器の内側容器内に細胞懸濁液を収容し、外側容器内に内側容器のフィルタに接触する量の外側液を収容することで、複合容器内にそれぞれの液を収容する工程である。
ステップS21は、内側容器を振動する工程である。この振動により、内側容器内の細胞懸濁液と、外側容器内の外側液とが移動して、液を調整する。
ステップS22は、液の調整が完了するかを確認するものであり、液の調整が完了するまで、ステップS21を行う。
ステップS31は、調整した液を回収する工程である。
【0021】
[調整器具101]
図3は、本発明の調整器具にかかる第二の実施形態の概要図である。調整器具101は、調整器具100(図1)を応用した調整器具である。調整器具101は、内側容器21と外側容器31を複合した複合容器41を有する。また、内側容器21は、振動部24が取り付けられている。内側容器21は、供給ライン61や回収ライン8が取り付けられている。外側容器31は、排出口321~323が設けられている。外側容器31は、供給ライン62が取り付けられている。
【0022】
[内側容器21]
内側容器21は、フィルタ22の配置部222を有する。内側容器21は、細胞懸濁液20を収容するため容器である。内側容器21は、外側容器31の内側にその配置部を収容できる形状であればよい。例えば、内側容器21は、胴が外側容器31よりも小径の筒状のものを用いて、底側に向けて縮径する円錐台形状として、その底部分に配置部222を設けている。この配置部222にフィルタ22を取り付ける。
【0023】
[細胞懸濁液20]
細胞懸濁液20は、細胞を含有する調整対象となる液である。細胞懸濁液は、液中で培養したり、容器の壁などから剥離した細胞を含む液や、調整用に細胞を混合して分散させた液などを用いることができる。
【0024】
[フィルタ22]
フィルタ22は、配置部222に取り付けられている。内側容器21に収容されている細胞懸濁液20と、外側容器31に収容されている外側液30とは、このフィルタ22で仕切られている。それぞれの液は、フィルタ22を通過できる液は通過して相互に移動可能であり、フィルタの目開きを通過できない大きさのものは他方に移動しない。フィルタの材質は、特に限定はないが、金属メッシュや、メンブレンフィルタ、樹脂フィルタなどがあげられる。
【0025】
フィルタ22は、細胞懸濁液20に含まれる細胞として調整液内に維持したい大きさのものに合わせた目開きのものを用いることができる。例えば、より小さい細胞まで確実に捕捉したい場合、目開き10μm以下程度のものを用いることができる。また、比較的大きい細胞を選択的に捕捉したい場合、目開き34~40μm程度のものを用いることができる。
【0026】
また、フィルタ22は、金属メッシュを用いることが好ましい。振動部により振動させても金属メッシュの損傷などは生じにくく強度が高い点や、開口率が安定している点、多量の液が通過し長時間液と接しても物性が変化しにくい点などで優れているためである。また、金属メッシュは、層が少なく内部に細胞を捕捉しにくいため、振動により細胞懸濁液中に浮遊させやすいと考えられる。
【0027】
[振動部24]
振動部24は、内側容器21を振動させる部分である。振動部24の振動により、細胞がフィルタ22に拘束されないように振動を与える。振動部24は、液量や細胞の大きさ、濃度、容器の大きさなどによって、その振動や音波の種類や強さの程度を適宜設定することができる。例えば、振動部24は、周波数1~100Hz程度や、5~50Hz程度や、10~30Hz程度とすることが好ましい。また、振動の振幅は0.5~3mm程度のものとすることができる。
【0028】
[外側容器31]
外側容器31は、内側容器21の少なくとも一部を収容する容器である。また、外側容器31は、外側液30を収容する。また、外側容器31は、外側液30が少なくともフィルタ22と接することができる程度に収容する。外側容器31は、内側容器21の形状に合わせて、内側容器21の一部を収容できるものであればよいが、内側容器21の大部分や、全体を収容できるものとしてもよい。例えば、内側容器21が筒状の場合、外側容器31は、内側容器21よりも径が大きい筒状の胴部を有するものなどを用いることができる。外側容器31は、上部の固定部34に蓋42を設けている。
【0029】
[外側液30]
外側液30は、細胞懸濁液20から、その濃度や液組成を調整し、細胞を含む調整液を調整するための液である。外側液30は、誘導液や置換液を用いることができる。誘導液は、細胞懸濁液を濾過するための液である。置換液は、細胞懸濁液の液を置換するための液である。
【0030】
外側液30は、細胞懸濁液20の調整目的に応じて、適したものを利用することができる。外側液30は、フィルタ22を介して、細胞懸濁液20の液と置換される可能性がある。このため、細胞懸濁液20の周辺の液として適したものとすることが好ましい。外側液30は、例えば、細胞培養の希釈用の緩衝液や、培地交換用の液などを用いることができる。例えば、リン酸緩衝液(PBS)などを用いることができる。また、置換を目的とする場合、培地に混合したい成分を予め外側液に混合しておくことで、外側液の濃度に調整された状態で用いることができるため、その成分の置換の影響を緩慢に細胞懸濁液に与えることができる。
【0031】
[複合容器41]
複合容器41は、内側容器21と外側容器31を有する。複合容器41を用いることで、細胞懸濁液20と、外側液30との液を移動させて細胞懸濁液20から調整液を調製することができる。内側容器21や外側容器31などの各部品は、それぞれに適した材質で成形されたものを用いることができる。内側容器21や外側容器31の基本構造は、ガラスや、樹脂、金属などを成形したものを用いることができる。特に、内容物を視認しやすいように、側壁部分には、透明ガラスや、透明樹脂などを用いることが好ましい。
【0032】
内側容器21内の細胞懸濁液20と、外側容器31内の外側液30とは、フィルタ22を介して移動する。これにより、それぞれに含まれている液量や液の組成、内圧などに基づいて、液面や内圧が平衡するように、フィルタを移動できる液などが移動する。
【0033】
[排出口321~323]
外側容器31は、排出口321~323を有するものとすることができる。排出口321~323は、外側容器31から外側液30の液量を調整するための開口部である。これらの排出口321~323は、外側容器31の異なる高さに設けられている。排出口321~323のいずれを用いるかを選択して、その選択された排出口を用いることで、内側容器21内の液面を設定でき、濃縮率や希釈率、置換率を設定できる。
【0034】
図4図6は、本発明の調整器具にかかる第二の実施形態の構成で濃縮する流れを説明するための図である。これらの図は、細胞懸濁液20を濃縮する場合を例に説明する。排出口321~排出口323は、いずれの排出口を開口したものとするかによって、外側容器31内の外側液30(301~303)の液面を調整する事ができる。この液面は、調整後の内側容器21内の調整液201~203の液面にも相当する。この液面は、内側容器21内の液面にあたるため、細胞懸濁液20の濃度の調整にも相当する量となる。このように、排出口321~323により、細胞濃縮や洗浄時の内側容器と外側容器の液面高さの制御ができる。
【0035】
図3に示すように、細胞懸濁液20の液量が多くその液面が高く、外側液30の液量が少なくその液面が低い状態で調整することで、細胞懸濁液20の細胞濃度を上昇させる濃縮する調整ができる。図3の状態を基に調整する場合を、図4図6を用いて説明する。
【0036】
図4は、排出口321を用いて、調整する例である。排出口321は、外側容器30の最も低い位置に設けた液面調整用の排出口である。排出口321は、切替弁51に接続され、配管54に接続されている。配管54は、三方の切替弁55を介して排液槽56に接続されている。図3の状態から、切替弁51を開放状態として、配管54に接続することで、外側容器31内の外側液301の液面は、排出口321となる。このため、内側容器21内の液も、振動されながら調整された結果、液面は排出口321に相当する高さとなる。すなわち、調整液201は細胞懸濁液20(図3)の細胞が内側容器20内の液中に維持されながら、調整液201の液量は細胞懸濁液20(図3)より少なくなる。このため、調整液201は、細胞濃度が濃い液となる。
【0037】
図5は、排出口322を用いて、調整する例である。排出口322は、外側容器30の中段に設けた液面調整用の排出口である。排出口322は、切替弁52に接続され、配管54に接続されている。図3の状態から、排出口322以外の排出口は閉じた状態として、排出口322を開放状態として、配管54に接続することで、外側容器31内の外側液302の液面は、排出口322となる。このため、内側容器21内の細胞懸濁液も、振動されながら調整された結果、液面は排出口322に相当する高さとなる。すなわち、調整液202は細胞懸濁液20(図3)の細胞が内側容器21内の液中に維持されながら、調整液202の液量は細胞懸濁液20(図3)より少なく、調整液201(図4)より多くなる。このため、調整液202は、細胞濃度が、細胞懸濁液20(図3)より濃く、調整液201(図4)よりも薄い液となる。
【0038】
図6は、排出口323を用いて、調整する例である。排出口323は、外側容器30の上段に設けた液面調整用の排出口である。排出口323は、切替弁53に接続され、配管54に接続されている。図3の状態から、排出口323以外の排出口は閉じた状態として、排出口323を開放状態として、配管54に接続することで、外側容器31内の外側液303の液面は、排出口323となる。このため、内側容器21内の細胞懸濁液も、振動されながら調整された結果、液面は排出口323に相当する高さとなる。すなわち、調整液203は細胞懸濁液20(図3)の細胞が内側容器20内の液中に維持されながら、調整液203の液量は調整液201(図4)や調整液202(図5)より多くなる。このため、調整液203は、細胞濃度が、細胞懸濁液20(図3)より濃く、調整液201(図4)や調整液202(図5)よりも薄い液となる。
【0039】
[調整液201~203]
調整液は、細胞懸濁液20を調整した後の液である。図4図6のように、図3のような多量の細胞懸濁液20を基に調整することで、調整液201~203のように細胞懸濁液を濃縮することができる。
【0040】
[第一の供給ライン61、第二の供給ライン62]
第一の供給ライン61は、内側容器21に、細胞懸濁液20を供給するための構成である。第二の供給ライン62は、外側容器31に、外側液30を供給するための構成である。
【0041】
内側容器21は、上部に接続部231を有する。接続部231は、三方コックの切替弁613と接続されている。切替弁613は配管612を介して、細胞懸濁液槽611に接続されている。第一の供給ライン61は、細胞懸濁液槽611、配管612、ポンプ614を有する。これらの構成により、細胞懸濁液槽611から、配管612を通って、ポンプ614により、内側容器21に送液される。
【0042】
外側容器31は、下部に接続部33を有する。接続部33は、配管625を通して三方コックの切替弁624に接続されている。そして、配管623を通して外側用液槽621に接続されている。第二の供給ライン62は、外側用液槽621、切替弁622、ポンプ627、配管623を有する。外側用液槽621は、外側液として用いるための液である外側用液を収容している槽である。これらの構成により、外側用液槽621から、配管623を通って、ポンプ627により、外側容器31に送液される。
【0043】
[エアフィルタ71、72]
エアフィルタ71は、内側容器21の内圧調整等のために接続されている。エアフィルタ72は、外側容器31の内圧調整やコンタミネーションの防止等のために接続されている。
【0044】
内側容器21は通気接続部25を有している。この内側容器21は、切替弁711を介して、配管712を通ってエアフィルタ71に接続されている。エアフィルタ71は、コンタミネーションの原因となるような異物の通過を防止しながら、内側容器21に空気の給排ができるように接続されている。
【0045】
同様に、外側容器31は通気接続部35を有している。外側容器31は、切替弁721を介して、配管722を通ってエアフィルタ72に接続されている。エアフィルタ72は、コンタミネーションの原因となるような異物の通過を防止しながら、外側容器31に空気の給排ができるように接続されている。
【0046】
[回収ライン8]
回収ライン8は、細胞懸濁液20を調整した後の調整液201~203(図4図6参照)などを回収するための構成である。回収ライン8は、後述する図8のような姿勢制御部91などを利用して、適宜、内側容器21から選択的に調整液を回収する。
【0047】
このように、本発明の調整器具は、内側容器21内の調整液の液量を調整できるため、細胞への損傷も少なく、一方で、フィルタ22への目詰まりなどもないため、細胞を最大限に回収する事ができる。
【0048】
また、供給ライン61や、供給ライン62、排出口の選択位置などを調整することで、供給量との平衡が生じる条件設定を行って、細胞懸濁液や外側液を、それぞれに充填して調整することで、細胞回収するまでの作業を自動化することもできる。
【0049】
[細胞懸濁液の置換]
図7は、本発明の調整器具にかかる第二の実施形態の構成で細胞懸濁液の液を置換する流れの一例を説明するための図である。なお、以下、図7(a)の細胞懸濁液を希釈する流れを例に説明する。ただし、この図7(a)の細胞懸濁液204は、前述した図3から図4の流れで調整した調整液201を用いてもよい。すなわち、細胞懸濁液を濃縮してから、希釈することで置換するものとしてもよい。
【0050】
図7(a)に示すように、内側容器21内の細胞懸濁液204の液面を、外側容器31内の外側液304の液面よりも低いものとして、調整を開始することもできる。図7(a)では、外側液304は、排出口323の高さから排出されるようにして調整を開始する。
【0051】
この状態で、振動部24で内側容器21を振動させると、液面が高い外側液304側から、液面が低い細胞懸濁液204側に、フィルタ22を通過できる液などの成分が通過する。調整を開始してから、内側の調整液と、外側液との液面が平衡に達したとき排出口322に相当する液面となるように、それぞれの液を収容して調整を行うと、排出口322が液面高さとなる。このとき、内側容器21内の細胞懸濁液204は、図7(b)に示すように、外側液304から移行した液により希釈されて液面が上昇する。他方、外側容器31内は、外側液305のように液量が減る。そして、外側液304(305)に含まれていた成分で希釈されるように置換された調整液205が得られる。
【0052】
また、外側用液槽から外側容器31に外側用液を、連続して供給しながら、液面高さに合わせて排出口322を選択して、切替弁52を開放して調整を連続して行うことができる。このようにすると、内側容器21内の調整液205の液面は、排出口322の高さに維持される。また、調整液205内の細胞はフィルタ22を通過せずに細胞濃度は維持されたままとなる。一方で、フィルタ22を通過できる液は、継続して置換するため、調整液205の細胞濃度を維持しながら、液組成をより外側液305の組成に近似するものに置換させることができる。
【0053】
[調整液の回収]
このような液の流れを利用して、排出口321~323のように外側液(30、301~305)の液面を適宜調整することで、内側容器21内の細胞の漏出を防止して、その培地交換を効率よく行うこともできる。
【0054】
図8は、本発明の調整器具にかかる第三の実施形態の構成で回収する流れを説明するための図である。図8(a)は、調整完了後の複合容器41を姿勢制御部91で固定した状態である。内側容器21内には、調整液206が収容されている。外側容器31内には、外側液306が収容されている。外側容器31の接続部や排出口などの開口部は、栓80で閉栓されている。
【0055】
[姿勢制御部91]
姿勢制御部91は、複合容器41を傾けて、フィルタ22に調整液206が接触しない状態とする構成である。姿勢制御部91は、保持部92と回転部93を有する。保持部92は、複合容器41を保持している。回転部93を回転させることで、保持部92に保持された複合容器41を任意の角度に傾斜させることができる。
【0056】
図8(b)は、複合容器41を上下反転させた状態である。図8(b)の構成は、姿勢制御部91で傾けた複合容器41の内側容器21に収容された調整液206を回収する回収ライン8を有する。回収ライン8は、内側容器21の接続部231に切替弁613を介して配管81を通って、回収槽81に接続された系を有する。図8(b)のように、複合容器41を上限反転させた状態の時、内側容器21内の調整液206と、外側容器31側の外側液306は、分離されているため、調整液206を選択的に回収することができる。
【0057】
フィルタ22には、少量の細胞が部分的に捕捉されたままとなっている場合がある。図8(b)に示すような構成で、内側容器21は、複合容器41を上下反転させたとき、フィルタ22の上側に凹状部221が生じる形状としておくことができる。そして、この凹状部221に、外側容器31の接続部33を通して、分離液槽73から滴下するように分離させるための液を供給する。これにより、凹状部221に液を配置して振動することで、フィルタ22に捕捉されていた細胞を同伴させて落下させることができる。この液は、調整液206と混ざり、重力で自然落下しながら接続部231から排液されて、回収槽81に回収される。
【0058】
[製造例]
以下、調整器具の製造例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の製造例に限定されるものではない。
【0059】
図9は、本発明の調整器具の製造例の像である。調整器具102は、筒状部を有する内側容器21と、内側容器21よりも径が大きい外側容器31とを一体化させた複合容器41を有している。内側容器21の底側には、フィルタ22が配置されている。内側容器21内には細胞懸濁液20が収容されている。外側容器31内には外側液30が収容されている。細胞懸濁液20と、外側液30とは、フィルタ22で分離されている。内側容器21の天板側には、振動部24となるモーターが取り付けられている。この振動部は、30~40Hzで内側容器21を振動させる。
【0060】
図10は、本発明の調整器具の製造例により振動した複合容器の状態を示す像である。図10は、図9の状態から振動させたものである。図9の状態のとき、細胞懸濁液20の液面の方が外側液30の液面よりも高い。このため、細胞懸濁液20の組成のうち、フィルタ22を通過する液などが、フィルタ22を通って、外側液30側に移行する構成である。そして、振動部24を振動させることで、フィルタ22に目詰まりすることなく、液面が同程度となるように液が移行していく。この結果、内側容器21内には、細胞懸濁液20を調整した調整液が得られる。
【0061】
図11は、本発明の調整器具の製造例により調整した液を回収する状態を示す像である。調整後に、複合容器41を傾けると、内側容器21と、外側容器31とは、特に内側容器21の側壁が、透明樹脂で成形されており、それぞれの液を分離する。このため、フィルタ22を取り外すと、内側容器21内に残っている調整液を選択的に容易に回収できる。図11では、フィルタ22を取り外した部分に、回収用の配管を挿入して、シリンジで吸い取るよう調整液を回収している。
【0062】
[実験例1]
図9図11に示す構成で、細胞懸濁液を濃縮する実験を行った結果を表1に示す。
・細胞:脂肪由来の間葉系幹細胞を用いた。
・フィルタ:金属メッシュのフィルタを用いて、目開き7μm、フィルタサイズ直径29mmの円盤状のフィルタを用いた。
表1に示すような状態の濃縮前の細胞懸濁液を、内側容器内に収容した。外側容器内には、誘導液としてフィルタに接する量のPBSを収容した。
内側容器内の方が、十分に液面が高いものとなるように液量を調整して、振動させながら、液を移行させた。
その結果、表1に示すように、濃縮後は、濃縮倍率12.5倍となり、細胞密度が十分に濃く、かつ、細胞回収率92.3%と優れたもので、細胞の生存率も高いものを得ることができた。
【0063】
【表1】
【0064】
このように、本発明の調整器具を用いることで、濃縮するときの濃度を調整しやすく、細胞の周辺液も十分に残るように、過剰な圧力などもかけることなく調整ができるため、濃縮前後の細胞の損傷も非常に少ない調整ができる。さらに、上下反転させるように傾けるだけで、内外の液を分離できるため、それぞれの液の回収も容易である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、細胞の培養液などの調整に利用することができ、産業上有用である。
【符号の説明】
【0066】
100、101、102 調整器具
20、204 細胞懸濁液
201~203、205 調整液
21 内側容器
22 フィルタ
221 凹状部
222 配置部
231、33 接続部
24 振動部
25 通気接続部
30 外側液
31 外側容器
321~323 排出口
34 固定部
35 通気接続部
41 複合容器
42 蓋
51~53、55、613、622、624、711、721 切替弁
54、612、623、625、712、722、81 配管
56 排液槽
61、62 供給ライン
611 細胞懸濁液槽
614、627 ポンプ
621 外側用液槽
71、72 エアフィルタ
73 分離液槽
8 回収ライン
80 栓
82 回収槽
91 姿勢制御部
92 保持部
93 回転部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11