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特開2024-81342多層フィルムの形成に用いる樹脂組成物の組み合わせ、多層フィルムの製造方法、多層フィルム、および構造体
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  • 特開-多層フィルムの形成に用いる樹脂組成物の組み合わせ、多層フィルムの製造方法、多層フィルム、および構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081342
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】多層フィルムの形成に用いる樹脂組成物の組み合わせ、多層フィルムの製造方法、多層フィルム、および構造体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20240611BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240611BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B32B27/36 102
B32B7/023
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194893
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】大橋 誠司
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK25B
4F100AK25D
4F100AK25E
4F100AK25H
4F100AK45A
4F100AK45B
4F100AK45C
4F100AK45D
4F100AK45E
4F100AL05B
4F100AL05D
4F100AL05E
4F100AR00
4F100AT00
4F100BA05
4F100BA08
4F100BA14
4F100BA15
4F100BA28
4F100EH202
4F100JN10
4F100JN18
4J002AA011
4J002CG001
4J002GF00
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れており、幅広スジの発生が抑制された多層フィルムの形成に用いる樹脂組成物の組み合わせを提供する。
【解決手段】本発明の樹脂組成物の組み合わせは、屈折率が異なる高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層とが交互に50層以上積層した構造の多層フィルムにおける高屈折率樹脂層および低屈折率樹脂層を形成するために用いる樹脂組成物の組み合わせであって、高屈折率樹脂層を形成するための高屈折率樹脂組成物と低屈折率樹脂層を形成するための低屈折率樹脂組成物とを含み、高屈折率樹脂組成物が非結晶性の熱可塑性樹脂Aを含み、低屈折率樹脂組成物が非結晶性の熱可塑性樹脂Bを含み、レオメータを用いて、260℃下、せん断速度1~10(1/s)で測定したときの、高屈折率樹脂組成物における平均粘度をηAとし、低屈折率樹脂組成物における平均粘度をηBとしたとき、|log10ηA-log10ηB|が0.250以下を満たすように構成されるものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率が異なる高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層とが交互に50層以上積層した構造の多層フィルムにおける前記高屈折率樹脂層および前記低屈折率樹脂層を形成するために用いる樹脂組成物の組み合わせであって、
前記高屈折率樹脂層を形成するための高屈折率樹脂組成物と前記低屈折率樹脂層を形成するための低屈折率樹脂組成物とを含み、
前記高屈折率樹脂組成物が非結晶性の熱可塑性樹脂Aを含み、前記低屈折率樹脂組成物が非結晶性の熱可塑性樹脂Bを含み、
レオメータを用いて、260℃下、せん断速度1~10(1/s)で測定したときの、前記高屈折率樹脂組成物における平均粘度をηAとし、前記低屈折率樹脂組成物における平均粘度をηBとしたとき、|log10ηA-log10ηB|が0.250以下を満たすように構成される、
樹脂組成物の組み合わせ。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物の組み合わせであって、
前記高屈折率樹脂組成物および前記低屈折率樹脂組成物を50質量%ずつ混合して得られた混合物を用いて押出成形して得られた試験用フィルムにおける、500~700nmにおける平均透過率が58%以上である、樹脂組成物の組み合わせ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の樹脂組成物の組み合わせであって、
前記高屈折率樹脂組成物と前記低屈折率樹脂組成物とのHSP距離が5.5以下である、樹脂組成物の組み合わせ。
【請求項4】
屈折率が異なる高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層とが交互に50層以上積層した構造の多層フィルムを得る工程を含む、多層フィルムの製造方法であって、
前記多層フィルムを得る工程は、高屈折率樹脂組成物および低屈折率樹脂組成物を使用して、前記高屈折率樹脂層と前記低屈折率樹脂層とが交互に積層した積層を形成する、押出多層成形工程を含み、
前記押出多層成形工程において、前記高屈折率樹脂組成物が、非結晶性の熱可塑性樹脂Aを少なくとも含み、前記低屈折率樹脂組成物が、非結晶性の熱可塑性樹脂Bを少なくとも含み、
レオメータを用いて、260℃下、せん断速度1~10(1/s)で測定したときの、前記高屈折率樹脂組成物における平均粘度をηAとし、前記低屈折率樹脂組成物における平均粘度をηBとしたとき、|log10ηA-log10ηB|が、0.250以下となるように構成される、
多層フィルムの製造方法。
【請求項5】
屈折率が異なる高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層とが交互に50層以上積層した構造の多層フィルムであって、
前記高屈折率樹脂層が非結晶性の熱可塑性樹脂Aを含み、前記低屈折率樹脂層が前記非結晶性の熱可塑性樹脂Aと異なる非結晶性の熱可塑性樹脂Bを含み、
前記多層フィルムの表面をレーザー顕微鏡を用いて観察したときの観察領域の少なくとも一部において、スジの最大幅が70μm以下となるように構成される、多層フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の多層フィルムであって、
前記非結晶性の熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂を含む、多層フィルム。
【請求項7】
請求項5または6に記載の多層フィルムであって、
前記高屈折率樹脂層と前記低屈折率樹脂層との屈折率差が、0.020以上である、多層フィルム。
【請求項8】
請求項5または6に記載の多層フィルムであって、
前記高屈折率樹脂層および前記低屈折率樹脂層のTgが、それぞれ120℃以上である、多層フィルム。
【請求項9】
請求項5または6に記載の多層フィルムを備える構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層フィルムの形成に用いる樹脂組成物の組み合わせ、多層フィルムの製造方法、多層フィルム、および構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで多層フィルムについて様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、結晶性ポリエステルを含む異なる複数の熱可塑性樹脂が50層以上積層されている積層フィルムが記載されている(特許文献1の請求項等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/198635号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の結晶性ポリエステルを含む積層フィルムにおいて、耐熱性の点で改善の余地があることが判明した。
そこで、本発明者が検討したところ、非結晶性の熱可塑性樹脂を用いることにより、多層フィルムの耐熱性を向上できるものの、多層フィルムに幅広スジが発生することが確認された。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、多層フィルムの押出成形において、非結晶性の熱可塑性樹脂を含む高屈折率樹脂組成物および低屈折率樹脂組成物の組み合わせとして、両者のせん断粘度差と相溶性が適切な範囲内となるものを採用することにより、多層フィルムの耐熱性を向上させつつも、幅広スジの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の一態様によれば、以下の多層フィルムの形成に用いる樹脂組成物の組み合わせ、多層フィルムの製造方法、多層フィルム、および構造体が提供される。
【0007】
1. 屈折率が異なる高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層とが交互に50層以上積層した構造の多層フィルムにおける前記高屈折率樹脂層および前記低屈折率樹脂層を形成するために用いる樹脂組成物の組み合わせであって、
前記高屈折率樹脂層を形成するための高屈折率樹脂組成物と前記低屈折率樹脂層を形成するための低屈折率樹脂組成物とを含み、
前記高屈折率樹脂組成物が非結晶性の熱可塑性樹脂Aを含み、前記低屈折率樹脂組成物が非結晶性の熱可塑性樹脂Bを含み、
レオメータを用いて、260℃下、せん断速度1~10(1/s)で測定したときの、前記高屈折率樹脂組成物における平均粘度をηAとし、前記低屈折率樹脂組成物における平均粘度をηBとしたとき、|log10ηA-log10ηB|が0.250以下を満たすように構成される、
樹脂組成物の組み合わせ。
2. 1.に記載の樹脂組成物の組み合わせであって、
前記高屈折率樹脂組成物および前記低屈折率樹脂組成物を50質量%ずつ混合して得られた混合物を用いて押出成形して得られた試験用フィルムにおける、500~700nmにおける平均透過率が58%以上である、樹脂組成物の組み合わせ。
3. 1.または2.に記載の樹脂組成物の組み合わせであって、
前記高屈折率樹脂組成物と前記低屈折率樹脂組成物とのHSP距離が5.5以下である、樹脂組成物の組み合わせ。
4. 屈折率が異なる高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層とが交互に50層以上積層した構造の多層フィルムを得る工程を含む、多層フィルムの製造方法であって、
前記多層フィルムを得る工程は、高屈折率樹脂組成物および低屈折率樹脂組成物を使用して、前記高屈折率樹脂層と前記低屈折率樹脂層とが交互に積層した積層を形成する、押出多層成形工程を含み、
前記押出多層成形工程において、前記高屈折率樹脂組成物が、非結晶性の熱可塑性樹脂Aを少なくとも含み、前記低屈折率樹脂組成物が、非結晶性の熱可塑性樹脂Bを少なくとも含み、
レオメータを用いて、260℃下、せん断速度1~10(1/s)で測定したときの、前記高屈折率樹脂組成物における平均粘度をηAとし、前記低屈折率樹脂組成物における平均粘度をηBとしたとき、|log10ηA-log10ηB|が、0.250以下となるように構成される、
多層フィルムの製造方法。
5. 屈折率が異なる高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層とが交互に50層以上積層した構造の多層フィルムであって、
前記高屈折率樹脂層が非結晶性の熱可塑性樹脂Aを含み、前記低屈折率樹脂層が前記非結晶性の熱可塑性樹脂Aと異なる非結晶性の熱可塑性樹脂Bを含み、
前記多層フィルムの表面をレーザー顕微鏡を用いて観察したときの観察領域の少なくとも一部において、スジの最大幅が70μm以下となるように構成される、多層フィルム。
6. 5.に記載の多層フィルムであって、
前記非結晶性の熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂を含む、多層フィルム。
7. 5.または6.に記載の多層フィルムであって、
前記高屈折率樹脂層と前記低屈折率樹脂層との屈折率差が、0.020以上である、多層フィルム。
8. 5.~7.のいずれか一つに記載の多層フィルムであって、
前記高屈折率樹脂層および前記低屈折率樹脂層のTgが、それぞれ120℃以上である、多層フィルム。
9. 5.~8.のいずれか一つに記載の多層フィルムを備える構造体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性に優れており、幅広スジの発生が抑制された多層フィルムの形成に用いる樹脂組成物の組み合わせ、多層フィルムの製造方法、多層フィルム、および構造体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の多層フィルムの構成の一部を模式的に示す断面図である。
図2】実施例2の多層フィルムの断面図の一部である。
図3】実施例1~2、比較例1~2の多層フィルムの表面におけるレーザー顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
図1の上側を「上」、下側を「下」と言う。また、図1中のx方向を「左右方向」または「流れ方向(MD)」、y方向を「前後方向」または「垂直方向(TD)」、z方向を「上下方向」と言う。また、図1では、光学シートの厚さ方向を誇張して図示しているため、実際の寸法とは大きく異なる。
【0011】
本実施形態の多層フィルムの概要を説明する。
【0012】
図1は、実施形態の多層フィルム113の構成の一部を模式的に示す断面図である。
本実施形態の多層フィルム113は、多層反射樹脂シートであり、屈折率が異なる高屈折率樹脂層31と低屈折率樹脂層32とが交互に50層以上積層した構造を有する。言い換えると、多層フィルム113は、高屈折率樹脂層31と屈折率が低い低屈折率樹脂層32とが積層してなる積層単位33を25層以上有する
【0013】
このような多層反射構造を有する多層フィルム113は、特定の波長領域を有する光を選択的に反射し、反射されない光を透過できる。
【0014】
本実施形態の多層フィルム113は、様々な光学部材の一部に適用できる。多層フィルム113は、例えば、アイウエア用の意匠性ミラー、液晶ディスプレイ、ヘッドアップディスプレイのような表示装置等が備えるカバーフィルム、バイク、車、航空機、鉄道のような移動手段、工作機械、建築物が備える窓部材、ヘッドライト、フォグランプが備えるカバー部材、ヘッドアップディスプレイが備える光源内に設けられる輝度向上フィルムやコールドミラー、赤外線センサーのような車載センサーが備える反射板等の光学部材の一部に使用することが可能である。
【0015】
多層フィルム113は、高屈折率樹脂層31が非結晶性の熱可塑性樹脂Aを少なくとも含み、低屈折率樹脂層32が非結晶性の熱可塑性樹脂Aと異なる非結晶性の熱可塑性樹脂Bを少なくとも含むように構成される。これにより、結晶性ポリエステルを使用した場合と比べて、高屈折率樹脂層31および低屈折率樹脂層32のそれぞれにガラス転移温度を高められるため、全体として多層フィルム113の耐熱性を向上できる。
【0016】
本発明者の知見によれば、非結晶性の熱可塑性樹脂Aを含む高屈折率樹脂組成物と非結晶性の熱可塑性樹脂Bを含む低屈折率樹脂組成物とを用いて、押出機を用いて多層成形した場合、多層フィルムの外観に幅広スジや場合によって色ムラが発生することが判明した。
【0017】
このようなスジ発生に着眼して鋭意検討したところ、本発明者は、高屈折率樹脂組成物および低屈折率樹脂組成物の組み合わせについて、同種の非結晶性の熱可塑性樹脂を用いて相溶性を高めつつも、両方の組成物同士のせん断粘度差を適切な範囲内とすることにより、上記の幅広スジの発生を抑制できること、さらには目視による色ムラも低減できることが分かった。さらに検討を進めた結果、高屈折率樹脂組成物および低屈折率樹脂組成物のせん断粘度について、260℃下、せん断速度1~10(1/s)の範囲で測定し、2つのせん断粘度(平均値)の対数差を、上記のせん断粘度差の指標とすることによって、安定的に幅広スジの発生を抑制できることが見出された。
【0018】
本実施形態では、多層フィルム成形材料として、高屈折率樹脂組成物と低屈折率樹脂組成物との樹脂組成物の組み合わせを、2つのせん断粘度の対数差を指標として適切に選択することにより、幅広スジが低減された多層フィルム113を実現することが可能となる。
【0019】
このような樹脂組成物の組み合わせにより得られた多層フィルム113は、その表面をレーザー顕微鏡を用いて観察したとき、得られる観察領域の少なくとも一部において、スジの最大幅が70μm以下となるように構成される。
【0020】
多層フィルム113中のスジの最大幅は、70μm以以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。
このような多層フィルム113を備える構造体により、意匠性や光学特性に優れた光学部材を実現できる。
【0021】
多層フィルム113の積層数は、50以上でもよく、100以上でもよく、200以上でもよい。
多層フィルム113の厚みは、特に限定されないが、例えば、1μm~1000μm、好ましくは2μm~300μm、より好ましくは3μm~100μmである。
【0022】
高屈折率樹脂層31と低屈折率樹脂層32の屈折率差は、例えば、0.020以上、好ましくは0.030以上、より好ましくは0.040以上である。これにより、適度な反射特性を有する多層フィルム113を実現できる。
【0023】
高屈折率樹脂層31と低屈折率樹脂層32のガラス転移温度(Tg)が、例えば、それぞれ120℃以上、好ましくは125℃以上、より好ましくは130℃以上である。これにより、耐熱性を向上できる。
【0024】
以下、本実施形態の多層フィルムの製造方法を詳述する。
【0025】
本実施形態の多層フィルムの製造方法は、屈折率が異なる高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層とが交互に50層以上積層した構造を有する多層フィルムを得る工程を含む。
多層フィルムを得る工程は、高屈折率樹脂組成物および低屈折率樹脂組成物を使用して、高屈折率樹脂層と低屈折率樹脂層とが交互に積層した積層を形成する、押出多層成形工程を含む。
ただし、かかる押出多層成形工程において、高屈折率樹脂組成物および低屈折率樹脂組成物の組み合わせは、レオメータを用いて、260℃下、せん断速度1~10(1/s)で測定したときの、高屈折率樹脂組成物における平均粘度をηAとし、低屈折率樹脂組成物における平均粘度をηBとしたとき、|log10ηA-log10ηB|が、0.250以下を満たすように構成される。
【0026】
本実施形態の別の態様として、上記|log10ηA-log10ηB|が、0.250以下を満たすような高屈折率樹脂組成物および低屈折率樹脂組成物を含む樹脂組成物の組み合わせ(多層フィルムの成形材料)を提供できる。この樹脂組成物の組み合わせにおいて、高屈折率樹脂組成物は、高屈折率樹脂層を形成するために用いられ、低屈折率樹脂組成物は、低屈折率樹脂層を形成するために用いられる。
【0027】
高屈折率樹脂組成物や低屈折率樹脂組成物の粘度(せん断粘度と呼称することもある)は、レオメータを用いて、260℃下、せん断速度1~10(1/s)で測定して測定される。平均粘度(せん断粘度の平均値)とは、せん断速度1~10(1/s)の範囲内の任意の8点のせん断速度の平均値とすることができる。
|log10ηA-log10ηB|は、このように算出された高屈折率樹脂組成物の平均粘度(せん断速度の平均値)であるηA、低屈折率樹脂組成物の平均粘度であるηBを用いて、ηAの常用対数とηBの常用対数の差から算出する。
【0028】
|log10ηA-log10ηB|の上限は、0.250以下、好ましくは0.230以下、より好ましくは0.200以下である。これにより、押出成形により得られた多層フィルムに発生する幅広スジの発生を効果的に低減させることができる。また、多層フィルムに発生する色ムラを抑制することもできる。
また、|log10ηA-log10ηB|の下限は、とくに限定されないが、例えば、0.01以上としてもよい。
なお、複数の非結晶性の熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物の溶融粘度は、レオメータで測定した個々の樹脂の溶融粘度を指針として適宜調整可能である。
【0029】
高屈折率樹脂組成物と低屈折率樹脂組成物とのHSP距離の上限は、例えば、5.5以下、好ましくは5.0以下、より好ましくは2.0以下である。これにより、高屈折率樹脂組成物と低屈折率樹脂組成物の相溶性を一層向上できる。
上記HSP距離の下限は、とくに限定されないが、例えば、0.1以上としてもよい。
【0030】
高屈折率樹脂組成物および低屈折率樹脂組成物を50質量%ずつ混合して得られた混合物を用いてプレス成形して得られた厚みが200μmの試験用フィルムにおける500~700nmの平均透過率の下限は、例えば、58%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは62%以上、さらに好ましくは68%以上である。これにより、高屈折率樹脂組成物と低屈折率樹脂組成物の相溶性を一層向上できる。
上記500~700nmの平均透過率の上限は、とくに限定されないが、たとえば、90%以下でもよく、80%以下でもよい。
【0031】
詳細なメカニズムは定かではないが、溶融状態の高屈折率樹脂組成物と低屈折率樹脂組成物とのせん断粘度差を小さくし、互いの相溶性を向上させることにより、押出成形により多層フィルムを形成するとき、溶融状態の両者の樹脂組成物における流れ界面に不安定現象(いわゆるメルトフラクチャー)が発生することを低減できるため、多層フィルム中に幅広スジが発生することを抑制できると、考えられる。
また、HSP距離を小さくすることより、高屈折率樹脂組成物と低屈折率樹脂組成物の相溶性が向上でき、また、高屈折率樹脂組成物と低屈折率樹脂組成物との混合物の透過率を向上させることにより、界面の安定性が向上できることが期待できる。
【0032】
本実施形態では、たとえば高屈折率樹脂組成物および低屈折率樹脂組成物の組み合わせを適切に選択することにより、上記平均粘度、屈折率、および平均透過を制御することが可能である。これらの中でも、たとえば非結晶性の熱硬化性樹脂の種類や、2種以上混合する場合は組み合わせや配合比率等を適切に選択すること等が、上記平均粘度差、屈折率差、および平均透過率を所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0033】
高屈折率樹脂組成物が、非結晶性の熱可塑性樹脂Aを1種または2種以上を含む。
低屈折率樹脂組成物が、非結晶性の熱可塑性樹脂Bを1種または2種以上を含む。
【0034】
高屈折率樹脂組成物は、主成分として、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)のようなポリエステル系樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)およびポリアリレート(PAR)からなる群から選ばれる一または二以上を含んでもよい。高屈折率樹脂組成物は、例えば、官能基が異なる2種以上のポリカーボネートや、ポリカーボネートとアクリル系樹脂とのアロイ樹脂を含んでもよい。
【0035】
低屈折率樹脂組成物は、主成分として、例えば、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)のようなポリエステル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)のようなアクリル系樹脂、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)のようなスチレン系樹脂およびポリアリレート(PAR)からなる群から選ばれる一または二以上を含んでもよい。低屈折率樹脂組成物は、例えば、ポリカーボネートとポリエチレンテレフタレートのアロイ樹脂や、ポリカーボネートとアクリル系樹脂とのアロイ樹脂を含んでもよい。
【0036】
非結晶性の熱可塑性樹脂Aおよび非結晶性の熱可塑性樹脂Bは、同一でも異なっていてもよい。非結晶性の熱可塑性樹脂A、および非結晶性の熱可塑性樹脂Bの少なくとも一方が、好ましくは両方が、ポリカーボネートを含んでもよい。
高屈折率樹脂組成物および低屈折率樹脂組成物が、それぞれ複数の非結晶性の熱可塑性樹脂A、Bを含む場合、少なくとも1つの非結晶性の熱可塑性樹脂Aおよび非結晶性の熱可塑性樹脂Bが、主骨格が同一の樹脂であってもよく、主骨格および/または官能基が同一のポリカーボネートであってもよい。また、高屈折率樹脂組成物および低屈折率樹脂組成物の少なくとも一方が、ポリカーボネートとアクリル系樹脂とのアロイ樹脂を含んでもよい。
【0037】
高屈折率樹脂組成物と低屈折率樹脂組成物とに、それぞれ含まれる樹脂成分の組み合わせとしては、具体的には、ポリカーボネート(PC)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)との組み合わせ、ポリアリレート(PAR)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)との組み合わせ、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)との組み合わせ、ポリエーテルサルフォン(PES)とポリアリレート(PAR)との組み合わせ、ポリエチレンナフタレート(PEN)とアクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)との組み合わせ、ポリエチレンナフタレート(PEN)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)との組み合わせ等が挙げられる。
【0038】
高屈折率樹脂組成物および低屈折率樹脂組成物は、非結晶性の熱可塑性樹脂以外の他の成分を発明を損なわない範囲で含んでもよい。他の成分としては、例えば、充填剤などが挙げられる。
【0039】
押出多層成形とは、公知の方法を使用することができ、例えば、数台の押出機により、各層の原料となる樹脂材料を含有する樹脂組成物を、それぞれ、溶融押出するフィードブロック法や、マルチマニホールド法などの共押出Tダイ法、空冷式または水冷式共押出インフレーション法が挙げられる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0041】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0042】
<多層フィルム形成用樹脂組成物>
次のようにして、下記の高屈折率樹脂組成物Aおよび低屈折率樹脂組成物Bを準備した。
樹脂組成物A1、A2およびB1は、市販品(ペレット状の樹脂)をそのまま使用した。
樹脂組成物A2、A3、およびB2は、下記に示す2種のペレット状の樹脂を、室温下、下記の配合比率で乾式混合して作製した。
【0043】
(高屈折率樹脂組成物A)
・A1:ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ユーピロンS-2000)
・A2:ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ユーピロンS-1000)とポリカーボネート/PMMAアロイ樹脂(住化ポリカーボネート社製、SRC7033)とを25質量%:75質量%の配合割合で混合してなる混合物
・A3:ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ユーピロンH-4000)と特殊ポリカーボネート樹脂(三菱ガス化学社製、EP6000)とを50質量%:50質量%の配合割合で混合してなる混合物
【0044】
(低屈折率樹脂組成物B)
・B1:メタクリル樹脂(旭化成社製、SK430N)
・B2:ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、ユーピロンH-4000)とポリカーボネート/PMMAアロイ樹脂(住化ポリカーボネート社製、SRC7033)とを50質量%:50質量%の配合割合で混合してなる混合物
【0045】
<ガラス転移温度>
上記の高屈折率樹脂組成物Aおよび低屈折率樹脂組成物Bのそれぞれについて、示差走査熱量測定(DSC)により測定した。測定装置には示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ製 DSC-6100)を用い、室温から5℃/minの昇温速度で200℃まで昇温を行った。得られた示差走査熱量測定チャートを用いて、ガラス転位温度Tgを求めた。
【0046】
<HSP距離の算出>
ハンセンの溶解度パラメータ(HSP)は、ある物質が他のある物質にどのくらい溶けるのかという溶解性を表す指標である。HSPは、溶解性を3次元のベクトルで表す。この3次元ベクトルは、代表的には、分散項(δd)、極性項(δp)、水素結合項(δh)で表すことができる。そしてベクトルが似ているもの同士は、相溶性が高いと判断できる。ベクトルの類似度をハンセン溶解度パラメータの距離(HSP距離)で判断することが可能である。
ハンセン溶解度パラメーター(HSP値)は、HSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)というソフトを用いて算出することができる。分子構造をHSPiPに付属のY-MB計算ソフトに入力することで、自動的に原子団に分解し、HSP値と分子体積が計算される。
【0047】
<平均透過率の測定>
表1に示す組み合わせの高屈折率樹脂組成物Aおよび低屈折率樹脂組成物Bを、それぞれ、50質量%づつ混合して得られた混合物を用いて、260℃、2minの条件で、プレス成形により、厚み200μmの試験用フィルムを作製した。
得られた試験用フィルムを5cm×5cmで切り出したサンプルについて、分光光度計(島津製作所製UV-2400PC)を用いて、300nm~800nmの波長領域における光吸収スペクトルを測定し、500nm~700nmでの平均値から平均透過率(%)を算出した。
【0048】
<せん断粘度の測定>
レオメータを用いて、パラレルプレートを使用し、260℃の条件下にて、せん断速度を1(1/s)~10(1/s)の間で変更したとき、この間の8点における測定サンプルの粘度(Pa・s)を測定した。ただし、各せん断速度に達した後、150秒間、せん断速度の値を維持した後に粘度の測定を行った。測定サンプルとしいて、高屈折率樹脂組成物A、または低屈折率樹脂組成物Bを使用した。
高屈折率樹脂組成物Aにおける上記8点の粘度の平均粘度をηAとし、低屈折率樹脂組成物Bにおける上記8点の粘度の平均粘度をηBとしたとき、せん断速度差を|log10ηA-log10ηB|から算出した。
【0049】
<屈折率の測定>
ナトリウムD線(波長589nm)を光源とし、マウント液としてヨウ化メチレンを用い、25℃にてアッベ屈折計で厚み方向の屈折率を求めた。なお、厚み方向とはフィルム面に垂直な方向をいう。
屈折率差は、高屈折率樹脂組成物Aからなる高屈折率層の屈折率をRとし、低屈折率樹脂組成物Bからなる低屈折率層の屈折率をRとしたとき、(R-R)から算出した。
また、高屈折率層のサンプルとして、上記の高屈折率樹脂組成物Aを用いて、押出成形により、JIS K7142に準拠して、100μmの厚みのフィルムを作成した。低屈折率層のサンプルも、上記の低屈折率樹脂組成物Bを用いて、同様にして、100μmの厚みのフィルムを作成した。
【0050】
<多層フィルムの作製>
表1に示す組み合わせの高屈折率樹脂組成物Aおよび低屈折率樹脂組成物Bを、それぞれ、数台の押出機で、270℃の溶融状態とし、フィードブロックおよびダイを用いて共押出しして、最表層にスキン層を配置させフィルム形成した後、このものを冷却することで、高屈折率層(樹脂層A)と低屈折率層(樹脂層B)とが交互に繰り返して積層された、合計131層(スキン層:高屈折率層:低屈折率層=2層:65層:64層)の多層フィルムを得た。ここで、積層厚み比が高屈折率層:低屈折率層=1:1になるように吐出量を調整した。
なお、実施例2の多層フィルムの断面におけるSEM画像を図2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
得られた多層フィルムについて、以下の評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0053】
<外観観察>
(レーザー顕微鏡観察)
得られた多層フィルムの表面について、レーザー顕微鏡を用いて観察した。
比較例1、実施例1、および実施例2の顕微鏡写真(視野の一部:1mm×1mm)を、それぞれ、図3(a)~図3(c)に示す。図3中、黒線が「スジ」を表す。
得られた顕微鏡写真に基づいて、スジ幅の最大値(スジの最大値)を求め、表1に記した。スジ幅の数値は、小数点1位を四捨五入した。
なお、比較例1では、幅狭のスジと幅広のスジの両方が混在することが確認された。実施例1では、幅広のスジはないが、幅狭のスジが複数存在すること、実施例で2は、ほとんどスジが存在しないことが確認された。
【0054】
(目視観察)
得られた多層フィルムの表面について、室内灯の下で、目視により確認した。
比較例1では、スジ・色ムラの両方が強く目立つことが確認された。
実施例1では、スジ・色ムラがやや少なく、実施例2では、スジ・色ムラの両方が少なく、それほど目立たないことが確認された。
【0055】
実施例1,2の多層フィルムは、比較例1と比べて、表面側から観察される幅広スジが低減される結果を示した。また、実施例1,2の多層フィルムは、結晶性ポリエステルを使用した場合と比べてガラス転移温度が高くなることから、耐熱性に優れる結果を示した。
このような各実施例の多層フィルムは、アイウエア用の意匠性ミラー等の光学シート材料に好適に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0056】
31 高屈折率樹脂層
32 低屈折率樹脂層
33 積層単位
113 多層フィルム
図1
図2
図3