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特開2024-81374駆動装置、駆動方法、駆動プログラム、リニア搬送システム
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  • 特開-駆動装置、駆動方法、駆動プログラム、リニア搬送システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081374
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】駆動装置、駆動方法、駆動プログラム、リニア搬送システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/064 20160101AFI20240611BHJP
【FI】
H02P25/064
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194953
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】沖 智浩
(72)【発明者】
【氏名】市川 智子
【テーマコード(参考)】
5H540
【Fターム(参考)】
5H540AA01
5H540BA03
5H540BB03
5H540BB05
5H540BB09
5H540EE02
5H540EE05
5H540FA03
5H540FA04
5H540FA13
5H540FA14
5H540FA23
5H540FA24
(57)【要約】
【課題】環状軌道における原点を跨ぐ可動子の駆動を安定化できる駆動装置等を提供する。
【解決手段】リニア搬送システム1は、原点Oおよび当該原点OからのX軸方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子3を駆動する駆動部41と、可動子3の目標座標xを設定する目標座標設定部42と、駆動部41が可動子3を駆動開始時の現在座標xから目標座標xに駆動する際に当該可動子3が原点Oを通過する場合、その通過回数分の環状軌道の周長Lを当該目標座標xと当該現在座標xの差に加減した目標駆動量を駆動部41に対して提供する周長加減部44と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原点および当該原点からの第1方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子を駆動する駆動部と、
前記可動子の目標座標を設定する目標座標設定部と、
前記駆動部が前記可動子を現在座標から前記目標座標に駆動する際に当該可動子が前記原点を通過する場合、その通過回数分の前記環状軌道の周長を当該目標座標と当該現在座標の差に加減した目標駆動量を前記駆動部に対して提供する周長加減部と、
を備える駆動装置。
【請求項2】
前記周長加減部は、前記駆動部が前記可動子を前記現在座標から前記目標座標に駆動する際に当該可動子が前記原点を前記第1方向に通過する場合、その通過回数分の前記環状軌道の周長を当該目標座標と当該現在座標の差に加算した前記目標駆動量を前記駆動部に対して提供する、請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記周長加減部は、前記駆動部が前記可動子を前記現在座標から前記目標座標に駆動する際に当該可動子が前記原点を前記第1方向と逆の第2方向に通過する場合、その通過回数分の前記環状軌道の周長を当該目標座標と当該現在座標の差から減算した前記目標駆動量を前記駆動部に対して提供する、請求項1または2に記載の駆動装置。
【請求項4】
原点および当該原点からの第1方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子を駆動する駆動部と、
前記可動子の目標座標を設定する目標座標設定部と、
前記目標座標が前記原点から所定範囲内である場合、当該目標座標と前記可動子の現在座標の差、および、当該差に前記環状軌道の周長を加減したもののうち、絶対値の小さい方を目標駆動量として前記駆動部に対して提供する周長加減部と、
を備える駆動装置。
【請求項5】
原点および当該原点からの第1方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子を駆動する駆動ステップと、
前記可動子の目標座標を設定する目標座標設定ステップと、
前記可動子を現在座標から前記目標座標に駆動する際に当該可動子が前記原点を通過する場合、その通過回数分の前記環状軌道の周長を当該目標座標と当該現在座標の差に加減した目標駆動量を前記駆動ステップに対して提供する周長加減ステップと、
を備える駆動方法。
【請求項6】
原点および当該原点からの第1方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子を駆動する駆動ステップと、
前記可動子の目標座標を設定する目標座標設定ステップと、
前記目標座標が前記原点から所定範囲内である場合、当該目標座標と前記可動子の現在座標の差、および、当該差に前記環状軌道の周長を加減したもののうち、絶対値の小さい方を目標駆動量として前記駆動ステップに対して提供する周長加減ステップと、
を備える駆動方法。
【請求項7】
原点および当該原点からの第1方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子を駆動する駆動ステップと、
前記可動子の目標座標を設定する目標座標設定ステップと、
前記可動子を現在座標から前記目標座標に駆動する際に当該可動子が前記原点を通過する場合、その通過回数分の前記環状軌道の周長を当該目標座標と当該現在座標の差に加減した目標駆動量を前記駆動ステップに対して提供する周長加減ステップと、
をコンピュータに実行させる駆動プログラム。
【請求項8】
原点および当該原点からの第1方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子を駆動する駆動ステップと、
前記可動子の目標座標を設定する目標座標設定ステップと、
前記目標座標が前記原点から所定範囲内である場合、当該目標座標と前記可動子の現在座標の差、および、当該差に前記環状軌道の周長を加減したもののうち、絶対値の小さい方を目標駆動量として前記駆動ステップに対して提供する周長加減ステップと、
をコンピュータに実行させる駆動プログラム。
【請求項9】
原点および当該原点からの第1方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子を駆動するリニアモータと、
前記可動子の目標座標を設定する目標座標設定部と、
前記リニアモータが前記可動子を現在座標から前記目標座標に駆動する際に当該可動子が前記原点を通過する場合、その通過回数分の前記環状軌道の周長を当該目標座標と当該現在座標の差に加減した目標駆動量を前記リニアモータに対して提供する周長加減部と、
を備えるリニア搬送システム。
【請求項10】
原点および当該原点からの第1方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子を駆動するリニアモータと、
前記可動子の目標座標を設定する目標座標設定部と、
前記目標座標が前記原点から所定範囲内である場合、当該目標座標と前記可動子の現在座標の差、および、当該差に前記環状軌道の周長を加減したもののうち、絶対値の小さい方を目標駆動量として前記リニアモータに対して提供する周長加減部と、
を備えるリニア搬送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動子を軌道に沿って駆動する駆動装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、環状軌道に沿って可動子を駆動するリニア搬送システムが開示されている。可動子を環状軌道上の目標位置に駆動する際、駆動部には当該目標位置に対応する環状軌道上の目標座標が与えられる。一般的に、駆動部は、可動子の目標座標と現在座標の差(以下では偏差、位置偏差、座標偏差とも表される)に基づいて、可動子を駆動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-99385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動部が可動子を環状軌道に沿って現在位置から目標位置に駆動する際、可動子が座標系における原点を通過する場合がある。原点の通過前後では、可動子の現在座標が急激に変化するため、駆動部が可動子の駆動に利用する偏差が急激に変化してしまう。この結果、環状軌道における原点を跨ぐ可動子の駆動が不安定になってしまう恐れがある。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、環状軌道における原点を跨ぐ可動子の駆動を安定化できる駆動装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の駆動装置は、原点および当該原点からの第1方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子を駆動する駆動部と、可動子の目標座標を設定する目標座標設定部と、駆動部が可動子を現在座標から目標座標に駆動する際に当該可動子が原点を通過する場合、その通過回数分の環状軌道の周長を当該目標座標と当該現在座標の差に加減した目標駆動量を駆動部に対して提供する周長加減部と、を備える。
【0007】
この態様では、環状軌道における原点を跨ぐ可動子の駆動においては、目標座標と駆動開始時の現在座標の偏差に環状軌道の周長が加減された目標駆動量が使用される。このように、駆動部による可動子の駆動が、原点の通過前後で急激に変化する座標偏差ではなく、駆動開始時の現在座標からの駆動量に基づいて行われるため、環状軌道における原点を跨ぐ可動子の駆動を安定化できる。
【0008】
本発明の別の態様もまた、駆動装置である。この装置は、原点および当該原点からの第1方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子を駆動する駆動部と、可動子の目標座標を設定する目標座標設定部と、目標座標が原点から所定範囲内である場合、当該目標座標と可動子の現在座標の差、および、当該差に環状軌道の周長を加減したもののうち、絶対値の小さい方を目標駆動量として駆動部に対して提供する周長加減部と、を備える。
【0009】
この態様では、例えば、目標座標が原点に近く可動子の位置変動によっては現在座標が原点を跨いで急激に変化してしまう場合、目標座標と現在座標の偏差、および、当該偏差に環状軌道の周長が加減されたもののうち、絶対値の小さい方が目標駆動量として使用される。このため、現在座標が原点を跨いで環状軌道の周長の分だけ急激に変化したとしても、安定した目標駆動量が得られる。
【0010】
本発明の更に別の態様は、駆動方法である。この方法は、原点および当該原点からの第1方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子を駆動する駆動ステップと、可動子の目標座標を設定する目標座標設定ステップと、可動子を現在座標から目標座標に駆動する際に当該可動子が原点を通過する場合、その通過回数分の環状軌道の周長を当該目標座標と当該現在座標の差に加減した目標駆動量を駆動ステップに対して提供する周長加減ステップと、を備える。
【0011】
本発明の更に別の態様もまた、駆動方法である。この方法は、原点および当該原点からの第1方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子を駆動する駆動ステップと、可動子の目標座標を設定する目標座標設定ステップと、目標座標が原点から所定範囲内である場合、当該目標座標と可動子の現在座標の差、および、当該差に環状軌道の周長を加減したもののうち、絶対値の小さい方を目標駆動量として駆動ステップに対して提供する周長加減ステップと、を備える。
【0012】
本発明の更に別の態様は、リニア搬送システムである。このシステムは、原点および当該原点からの第1方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子を駆動するリニアモータと、可動子の目標座標を設定する目標座標設定部と、リニアモータが可動子を現在座標から目標座標に駆動する際に当該可動子が原点を通過する場合、その通過回数分の環状軌道の周長を当該目標座標と当該現在座標の差に加減した目標駆動量をリニアモータに対して提供する周長加減部と、を備える。
【0013】
本発明の更に別の態様もまた、リニア搬送システムである。このシステムは、原点および当該原点からの第1方向の距離に応じた座標が定められる環状軌道に沿って可動子を駆動するリニアモータと、可動子の目標座標を設定する目標座標設定部と、目標座標が原点から所定範囲内である場合、当該目標座標と可動子の現在座標の差、および、当該差に環状軌道の周長を加減したもののうち、絶対値の小さい方を目標駆動量としてリニアモータに対して提供する周長加減部と、を備える。
【0014】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本発明に包含される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、環状軌道における原点を跨ぐ可動子の駆動を安定化できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】リニア搬送システムの全体構造を示す斜視図である。
図2】リニア搬送システムの機能ブロック図である。
図3】可動子が原点を正方向に1回通過する場合の、可動子の現在座標と、駆動開始座標からの移動量の時間的な推移の例を模式的に示す。
図4】可動子が原点を負方向に1回通過する場合の、可動子の現在座標と、駆動開始座標からの移動量の時間的な推移の例を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下では実施形態とも表される)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0018】
図1は、本発明に係る駆動装置の一態様であるリニア搬送システム1の全体構造を示す斜視図である。リニア搬送システム1は、環状のレールまたは軌道を構成する固定子2と、当該固定子2に対して駆動されレールに沿って移動可能な複数の可動子3A、3B、3C、3D(以下では総称して可動子3とも表される)を備える。固定子2に設けられる電磁石またはコイルと、可動子3に設けられる永久磁石が互いに対向することで、環状のレールに沿ってリニアモータが構成されている。なお、固定子2が形成するレールの設置方向は任意である、図1の例では水平面内にレールが配設されるが、レールは鉛直面内に配設されてもよいし、任意の傾斜角の平面内や曲面内に配設されてもよい。
【0019】
固定子2は、水平方向を法線方向とするレール面21を有する。レール面21はレールの形成方向に沿って帯状に延在し、図1の例のように環状のレールを形成する場合は(仮想的な)両端が連結された無端帯状となる。このように任意の形状のレールを形成可能なレール面21には、電磁石を備える複数の駆動モジュール(不図示)が、レールに沿って連続的または周期的に埋設または配置されている。駆動モジュールにおける電磁石は、可動子3の永久磁石に対してレールに沿った推進力を及ぼす磁界を発生させる。具体的には、これらの多数の電磁石に三相交流等の駆動電流を流すと、永久磁石を備える可動子3をレールに沿う所望の接線方向に直線駆動する移動磁界が発生する。なお、図1の例では環状のレールを水平面内に形成するレール面21の法線方向が水平方向であったが、レール面21の法線方向は鉛直方向その他の任意の方向でもよい。
【0020】
固定子2において、レール面21に対して垂直な上面または下面に設けられる現在位置検知部としての測位部22には、可動子3に取り付けられる測位対象としての磁気スケール(不図示)の位置を測定可能な複数の磁気測位装置(不図示)が連続的にまたは周期的に埋設されている。一定ピッチの縞状の磁気パターンによって形成される磁気スケールを測位対象とする磁気測位装置は、一般的に複数の磁気検出ヘッドを備える。磁気スケールの磁気パターンのピッチまたは周期に対して、複数の磁気検出ヘッドの間隔をずらすことによって、磁気測位装置は磁気スケールの位置を高精度に測定できる。二つの磁気検出ヘッドが設けられる典型的な磁気測位装置では、例えば、二つの磁気検出ヘッドの間隔が磁気スケールの磁気パターンに対して1/4ピッチずれている(位相が90度ずれている)。測位部22によって測定された可動子3の位置を時間で微分すれば可動子3の速度を検知でき、当該速度を時間で微分すれば可動子3の加速度を検知できる。なお、以上とは逆に、可動子3に磁気測位装置を設け、固定子2に磁気スケールを設けてもよい。
【0021】
固定子2(すなわち環状軌道)に磁気スケールが設けられる場合、その任意の一点が環状軌道における原点Oとして定められる。また、原点Oを基準点または零点として環状軌道に沿って延びる座標軸(X軸とする)を有する一次元の座標系が定められる。可動子3の位置は、X軸上の座標xによって表される。座標xは、原点OからのX軸方向(第1方向)の距離または変位に対応する。環状軌道の周長を「L」とすれば、座標xは、原点Oにおける最小値「0」と最大値「L」の値を取る。可動子3が原点OからX軸方向に移動(回転)し続ける場合、その座標xは「0」から「L」まで単調に増加し、可動子3が再び原点Oまで来ると最大値の「L」から最小値の「0」まで急激に減少する。
【0022】
可動子3に磁気スケールが設けられる場合も、固定子2に磁気スケールが設けられる場合と同様に、環状軌道上の任意の一点を原点Oとして設定できる。可動子3の位置(座標x)は、当該可動子3に設けられる磁気スケールのピッチを、固定子2に設けられる磁気測位装置が計数することで得られる。可動子3が任意の原点Oにある時の磁気測位装置の計数値(座標x)が「0」とされ、X軸方向に移動する可動子3が再び原点Oまで来た時の磁気測位装置の計数値(座標x)が最大値の「L」から最小値の「0」にリセットされる。複数の可動子3が設けられる場合、原点O(磁気測位装置の計数値の零点およびリセット点)は可動子3毎に異なっていてもよい。但し、複数の可動子3に共通の原点Oを設定することで、後述する目標座標設定処理や周長加減処理を共通化するのが好ましい。
【0023】
固定子2および/または可動子3に設けられる測位装置および測位対象は以上のような磁気式に限らず、光学式その他の方式でもよい。光学式の場合、可動子3(または固定子2)には一定ピッチの縞模様によって形成される光学スケールが取り付けられ、固定子2(または可動子3)には光学スケールの縞模様を光学的に読み取り可能な光学測位装置が設けられる。磁気式や光学式では、測位装置が測位対象(磁気スケールや光学スケール)を非接触で測定するため、可動子3が搬送する被搬送物が飛散して測位箇所(固定子2の上面)に入り込んだ場合の測位装置の故障等のリスクを低減できる。但し、光学式では測位箇所に入り込んだ液体や粉体等の被搬送物によって光学スケールが覆われると測位精度が悪化してしまうため、磁性が無視できる被搬送物であれば測位箇所に入り込んでも測位精度を悪化させない磁気式とするのが好ましい。
【0024】
可動子3は、固定子2のレール面21に対向する可動子本体31と、可動子本体31の上部から水平方向に張り出して固定子2の測位部22に対向する被測位部32と、被測位部32とは反対側(固定子2から遠い側)に可動子本体31から水平方向に張り出して被搬送物が載置または固定される搬送部33を備える。可動子本体31は、レールに沿って固定子2のレール面21に埋設されている複数の電磁石と対向する一または複数の永久磁石(不図示)を備える。固定子2の電磁石が発生させる移動磁界が可動子3の永久磁石にレールの接線方向の直線動力または推進力を加えるため、可動子3は固定子2に対してレール面21に沿って直線駆動される。
【0025】
可動子3の被測位部32には、測位対象としての磁気スケールや光学スケールが、固定子2の測位部22に設けられる測位装置と対向するように設けられる。測位装置が固定子2の上面に設けられる図1の例では、磁気スケール等の測位対象が可動子3の被測位部32の下面に取り付けられる。測位部22および被測位部32が磁気式の場合、レール面21の電磁石および可動子本体31の永久磁石の間の磁界が、測位部22および被測位部32の磁気測位に影響しないように、固定子2においてはレール面21と測位部22を異なる面または離れた箇所に形成し、可動子3においては可動子本体31と被測位部32を異なる面または離れた箇所に形成するのが好ましい。
【0026】
図1では四つの可動子3A、3B、3C、3Dが例示されたが、例えば少量の被搬送物を多数搬送するリニア搬送システム1では、1,000を超える数の可動子3が必要になることも想定される。
【0027】
図2は、本実施形態に係るリニア搬送システム1の機能ブロック図である。リニア搬送システム1は、駆動部41と、目標座標設定部42と、現在座標取得部43と、周長加減部44を備える。リニア搬送システム1が以下で説明する作用および/または効果の少なくとも一部を実現できる限り、これらの機能ブロックの一部は省略できる。これらの機能ブロックは、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現される。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。
【0028】
駆動部41は、固定子2の環状軌道(レール面21)に沿って可動子3を駆動する。駆動部41は、環状軌道に沿って連続的または周期的に埋設または配置されている、電磁石を備える前述の駆動モジュールに相当する。駆動部41は、実際にはレール面21下に配置されるが、本図では模式的にレール面21外に示されている。
【0029】
目標座標設定部42は、可動子3の目標座標xを設定する。現在座標取得部43は、可動子3の駆動開始時の現在座標xを取得する。具体的には、現在座標取得部43は、前述の測位部22によって測定された可動子3の環状軌道上における位置を駆動開始時の現在座標xとして取得する。本図では、駆動部41が、駆動開始時に現在座標xにある可動子3を目標座標xまで駆動する例について具体的に説明する。この例では、駆動部41によってX軸方向(以下では便宜的に正方向とも表される)に駆動される可動子3が、駆動開始時の現在座標xから目標座標xまで移動する際に原点Oを正方向に通過する。
【0030】
周長加減部44は、駆動部41が可動子3を駆動開始時の現在座標xから目標座標xに駆動する際に当該可動子3が原点Oを通過する場合、その通過回数分の環状軌道の周長Lを当該目標座標xと当該現在座標xの偏差Δx(=x-x)に加減した目標駆動量を駆動部41に対して提供する。可動子3が原点Oを正方向に1回通過する図示の例では、周長加減部44は、その通過回数(1回)分の環状軌道の周長L(L×1回)を偏差Δxに加算した目標駆動量「Δx+L=xg-xs+L」を駆動部41に対して提供する。この目標駆動量は、駆動開始時の可動子3の現在位置xと目標位置xの物理的な変位(または正方向の距離)、すなわち、可動子3が駆動開始位置xから目標位置xまで実際に移動する正の量を表す。以降、駆動部41は、可動子3が目標位置xに到達するまでの間、駆動開始位置xからの可動子3の実際の移動量(変位)が目標駆動量に近づくように可動子3を正方向に駆動する。
【0031】
このように、本実施形態では、環状軌道における原点Oを跨ぐ可動子3の駆動においては、目標座標xと駆動開始時の現在座標xの偏差Δxに環状軌道の周長L(の自然数倍)が加減された目標駆動量が使用される。駆動部41による可動子3の駆動が、原点Oの通過前後で急激に変化する可動子3の現在座標や座標偏差ではなく、駆動開始座標xからの移動量(あるいは変位、距離等)に基づいて行われるため、環状軌道における原点Oを跨ぐ可動子3の駆動を安定化できる。
【0032】
図3は、図2のように可動子3が原点Oを正方向に1回通過する場合の、測位部22によって測定される可動子3の現在座標xと、本実施形態において可動子3の駆動に使用される駆動開始座標xからの移動量の時間的な推移の例を模式的に示す。前述のように、測位部22によって測定される可動子3の現在座標xは、可動子3が原点Oを正方向に通過する際に最大値の「L」から最小値の「0」まで急激に減少する。このため、目標座標xとの偏差(x-x)に基づく可動子3の駆動が、原点O付近で不安定になってしまう恐れがある。これに対して、駆動開始座標xからの移動量および目標駆動量に基づく可動子3の駆動は、原点Oにおける急激な変化を伴わないため安定している。なお、駆動開始座標xからの移動量が目標駆動量に到達した後、駆動部41は、目標駆動量に基づく可動子3の駆動を終了し、目標座標xと現在座標xの偏差に基づく可動子3の通常の駆動に復帰してもよい。
【0033】
図2および図3の例とは逆に、駆動部41によってX軸方向(第1方向)と逆の第2方向(以下では便宜的に負方向とも表される)に駆動される可動子3が、駆動開始時の現在座標xから目標座標xまで移動する際に原点Oを負方向に通過してもよい。
【0034】
この場合、周長加減部44は、原点Oの負方向の通過回数(例えば、Nを自然数としてN回)分の環状軌道の周長L×Nを偏差Δx(=x-x)から減算した目標駆動量「Δx-L*N=xg-xs-L*N」を駆動部41に対して提供する。この目標駆動量は、駆動開始時の可動子3の現在位置xと目標位置xの物理的な変位(または負方向の距離)、すなわち、可動子3が駆動開始位置xから目標位置xまで実際に移動する負の量を表す。以降、駆動部41は、可動子3が目標位置xに到達するまでの間、駆動開始位置xからの可動子3の実際の移動量(変位)が目標駆動量に近づくように可動子3を負方向に駆動する。
【0035】
図4は、可動子3が原点Oを負方向に1回通過する場合の、測位部22によって測定される可動子3の現在座標xと、本実施形態において可動子3の駆動に使用される駆動開始座標xからの移動量の時間的な推移の例を模式的に示す。測位部22によって測定される可動子3の現在座標xは、可動子3が原点Oを負方向に通過する際に最小値の「0」から最大値の「L」まで急激に増加する。このため、目標座標xとの偏差(x-x)に基づく可動子3の駆動が、原点O付近で不安定になってしまう恐れがある。これに対して、駆動開始座標xからの移動量および目標駆動量に基づく可動子3の駆動は、原点Oにおける急激な変化を伴わないため安定している。なお、駆動開始座標xからの移動量が目標駆動量に到達した後、駆動部41は、目標駆動量に基づく可動子3の駆動を終了し、目標座標xと現在座標xの偏差に基づく可動子3の通常の駆動に復帰してもよい。
【0036】
周長加減部44は、目標座標xが原点Oから所定範囲内である場合(例えば、任意の正の閾値をxthとして、目標座標xの絶対値がxth以下の場合)、当該目標座標xと可動子3の現在座標xの偏差(x-x)、および、当該偏差に環状軌道の周長Lを加減したもの(x-x±L)のうち、絶対値が小さい方を目標駆動量として駆動部41に対して提供する。
【0037】
例えば、目標座標xが最小値の「0」に近い小さい値の場合(すなわち、例えば図2において、目標座標xが原点Oの右隣にある場合)、可動子3の位置変動によって現在座標xが原点Oを負方向に跨いでしまうことが考えられる。原点Oを負方向に跨いだ現在座標xは、最小値の「0」から最大値の「L」まで急激に増加する。具体的には、目標座標xと現在座標xの偏差(x-x)が周長Lの分だけ急激に減少する。この影響を避けるため、本実施形態に係る周長加減部44は、絶対値が急激に増加した偏差(x-x)の代わりに、当該偏差に周長Lを加算したもの(x-x+L)を目標駆動量として駆動部41に対して提供する。この目標駆動量では、原点Oを負方向に跨いだことによる偏差(x-x)の減少が、周長Lを加算することで補償されているため、可動子3の駆動が安定化される。
【0038】
同様に、目標座標xが最大値の「L」に近い大きい値の場合(すなわち、例えば図2において、目標座標xが原点Oの左隣にある場合)、可動子3の位置変動によって現在座標xが原点Oを正方向に跨いでしまうことが考えられる。原点Oを正方向に跨いだ現在座標xは、最大値の「L」から最小値の「0」まで急激に減少する。具体的には、目標座標xと現在座標xの偏差(x-x)が周長Lの分だけ急激に増加する。この影響を避けるため、本実施形態に係る周長加減部44は、絶対値が急激に増加した偏差(x-x)の代わりに、当該偏差から周長Lを減算したもの(x-x-L)を目標駆動量として駆動部41に対して提供する。この目標駆動量では、原点Oを正方向に跨いだことによる偏差(x-x)の増加が、周長Lを減算することで補償されているため、可動子3の駆動が安定化される。
【0039】
このように、本実施形態では、例えば、目標座標xが原点Oに近く可動子3の位置変動によっては現在座標xが原点Oを跨いで急激に変化してしまう場合、目標座標xと現在座標xの偏差、および、当該偏差に環状軌道の周長Lが加減されたもののうち、絶対値の小さい方が目標駆動量として使用される。このため、現在座標xが原点Oを跨いで環状軌道の周長Lの分だけ急激に変化したとしても、安定した目標駆動量が得られる。
【0040】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本発明の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0041】
実施形態では、可動子に設けられる永久磁石と固定子に設けられる電磁石の間の磁力に基づいて可動子を駆動するリニア搬送システムを例示したが、本発明は磁気以外の任意の原理(例えば電気や流体)に基づく任意の駆動装置に適用できる。
【0042】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0043】
1 リニア搬送システム、2 固定子、3 可動子、22 測位部、32 被測位部、41 駆動部、42 目標座標設定部、43 現在座標取得部、44 周長加減部。
図1
図2
図3
図4