(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081427
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】炭化珪素単結晶の製造方法および炭化珪素単結晶
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20240611BHJP
C30B 25/16 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195054
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榊原 聡真
(72)【発明者】
【氏名】神田 貴裕
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077BE08
4G077DB04
4G077DB07
4G077DB21
4G077EA03
4G077EA05
4G077HA12
4G077TJ04
(57)【要約】
【課題】成長速度の向上と高品質化を両立できるSiC単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】SiC原料ガスとなるシランおよびプロパンの原料流量f
SiH4、f
C3H8については目標流量で一定となるように制御しつつ、全圧P
totalを40kPa以上に上昇させることでSiC単結晶6の結晶表面付近のシランおよびプロパンの分圧P
SiH4、P
C3H8を上昇させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素単結晶(6)の製造方法であって、
反応室を構成する中空形状の加熱容器(9)内に種結晶(5)を配置することと、
前記反応室を加熱しつつ前記種結晶の表面に炭化珪素原料ガスを含む供給ガス(3a)を供給することで、前記種結晶の表面上に炭化珪素単結晶(6)を成長させることと、を含み、
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、前記炭化珪素原料ガスの流量を目標流量に制御しつつ、前記加熱容器の内部圧力となる前記供給ガスの全圧を40kPa以上に制御して前記炭化珪素単結晶を成長させる、炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、前記炭化珪素単結晶のインゴットを形成し、前記炭化珪素単結晶の成長方向において該炭化珪素単結晶中の転位密度を減少させていく、請求項1に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、前記全圧を50kPa以上に制御する、請求項1または2に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、前記全圧を大気圧以下に制御する、請求項1または2に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、前記炭化珪素原料ガスとしてシランとプロパンを用い、前記シランの分圧を3kPa~30kPaとし、前記プロパンの分圧を前記シランと前記プロパンに含まれるCとSiとの比であるC/Siが1となる圧力とする、請求項1または2に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項6】
一面側がSi面、他面側がC面とされた炭化珪素単結晶であって、
前記C面側の方が前記Si面側よりも、基底面転位密度が小さくなっており、前記Si面側から前記C面側に向う方向において、180cm-2/mm以上の低下率で転位密度が低下している、炭化珪素単結晶。
【請求項7】
前記転位密度が100cm-2以下になっている、請求項6に記載の炭化珪素単結晶。
【請求項8】
混入された金属不純物の濃度について、Bが1×1011atm/cm3以下、Tiが7×1012atm/cm3以下、Vが5×1012atm/cm3以下になっている請求項6または7に記載の炭化珪素単結晶。
【請求項9】
n型不純物となる窒素が含まれており、該窒素によるn型不純物濃度が5~9×1018atm/cm3またはそれ以上になっている請求項6または7に記載の炭化珪素単結晶。
【請求項10】
p型不純物となるアルミニウムが含まれており、該アルミニウムによるp型不純物濃度が1×1011atm/cm3以下になっている請求項6または7に記載の炭化珪素単結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化珪素(以下、SiCという)単結晶の製造方法およびSiC単結晶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SiC単結晶の結晶成長では、反応容器の外部から種結晶の成長面上にSiC原料ガスを供給するガス供給法や、坩堝内に配置したSiC原料を昇華させることで種結晶にSiC原料ガスを供給する昇華法を用いてSiC単結晶を種結晶の上に成長させている。そして、種結晶の上に成長させたSiC単結晶のインゴットをウェハ状にスライスしてSiC基板を形成し、SiCデバイスの製造に用いている。
【0003】
SiCデバイスの品質に影響を与える項目としてSiC基板の転位密度がある。種結晶の表面上への結晶成長により長尺なSiC単結晶が得られるが、転位密度が大きいと、高品質なSiC基板が得られず、SiCデバイスの製造においても製品歩留まりを悪化させたり、高精度デバイスの製造に適用できなくなる。このため、特許文献1では、SiC原料ガスのC/Si原子比を調整することで、種結晶となる基板からSiC単結晶へのマイクロパイプの継続が低減されるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すSiC単結晶の製造方法によれば、転位密度が小さくして高品質なSiC単結晶にできる。しかしながら、SiC単結晶の製造効率を高めるには、SiC単結晶の成長速度を向上させることが必要である。原料ガス流量を増加させるなどによってSiC単結晶の成長速度を向上させることはできるが、原料の収率が悪くなると共に余剰に投入した原料により気中核生成を促進し、結晶品質を悪化させる。このため、SiC単結晶の成長速度の向上と高品質化の両立が課題となる。
【0006】
なお、このような課題は、ガス成長法だけでなく、昇華法においても発生する。
【0007】
本開示は、成長速度の向上と高品質化を両立できるSiC単結晶の製造方法を提供することを第1の目的とする。また、本開示は、SiCデバイスの製造に適した高品質なSiC単結晶を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、SiC単結晶(6)の製造方法であって、反応室を構成する中空形状の加熱容器(9)内に種結晶(5)を配置することと、反応室を加熱しつつ種結晶の表面にSiC原料ガスを含む供給ガス(3a)を供給することで、種結晶の表面上にSiC単結晶(6)を成長させることと、を含み、SiC単結晶を成長させることでは、SiC原料ガスの流量である原料流量を目標流量に制御しつつ、加熱容器の内部圧力となる供給ガスの全圧を40kPa以上に制御してSiC単結晶を成長させる。
【0009】
このように、SiC原料ガスの原料流量については目標流量となるように制御しつつ、供給ガスの全圧を上昇させ、SiC単結晶の結晶表面付近のSiC原料ガスに含まれる各種ガスの分圧を上昇させている。原料流量を増加させずに分圧を向上させているため、原料の収率の悪化や余剰に投入した原料により気中核生成が促進されることが抑制され、結晶品質の悪化を抑制することが可能となる。また、SiC単結晶の成長表面温度を下げることによって成長速度を上昇させている訳では無いため、SiC単結晶の成長表面でのマイグレーション不足を発生させることも抑制される。したがって、SiC単結晶の成長速度の向上と高品質化の両立を図ることが可能になる。
【0010】
また、請求項6に記載の発明は、一面側がSi面、他面側がC面とされたSiC単結晶であって、C面側の方がSi面側よりも、基底面転位密度が小さくなっており、Si面側からC面側に向う方向において、180cm-2/mm以上の低下率で転位密度が低下している。
【0011】
このように、SiC原料ガスの原料流量については目標流量となるように制御しつつ、供給ガスの全圧を上昇させ、SiC単結晶の結晶表面付近のSiC原料ガスに含まれる各種ガスの分圧を上昇させてSiC単結晶を成長させると、転位密度を低下させられる。具体的には、Si面側からC面側に向う方向において、180cm-2/mm以上の低下率で転位密度が低下させることができる。したがって、例えば高電圧パワーデバイスに適用可能なほどSiC単結晶の高品質化が可能となる。
【0012】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態にかかるSiC単結晶製造装置の概略断面図である。
【
図2】SiC単結晶の成長量(mm)と転位密度(cm
-2)との関係の変化を示した図である。
【
図3】供給ガスの全圧(kPa)が成長速度に及ぼす影響を示した図である。
【
図4】任意の一定の成長量での供給ガスの全圧(kPa)に対する転位密度(cm
-2)の変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0015】
(第1実施形態)
まず、本実施形態にかかるSiC単結晶の製造に用いるSiC単結晶製造装置について説明する。
【0016】
図1に示すSiC単結晶製造装置1は、ガス供給法に基づく長尺成長によってSiC単結晶インゴットを製造するのに用いられるものであり、
図1の紙面上下方向が天地方向に向くようにして設置される。
【0017】
具体的には、SiC単結晶製造装置1は、ガス供給口2を通じてガス供給源3からのSiC原料ガスを含む供給ガス3aを流入させると共に、ガス排出口4を通じて未反応ガスを排出することで、SiC単結晶基板からなる種結晶5上にSiC単結晶6を成長させる。
【0018】
SiC単結晶製造装置1には、ガス供給源3、真空容器7、断熱材8、加熱容器9、台座10、回転引上機構11、第1、第2加熱装置12、13および圧力調整部14が備えられている。
【0019】
ガス供給源3は、SiおよびCを含有するSiC原料ガス、例えばシラン(SiH4)等のシラン系ガスとプロパン(C3H8)等の炭化水素系ガスの混合ガスを少なくとも含む供給ガス3aを筒状のガス供給口2より供給する。このガス供給源3等により、加熱容器9の外部より、種結晶5の下方からSiC原料ガスを供給するガス供給機構が構成されている。
【0020】
ガス供給源3は、供給ガス3aとして、少なくともSiC原料ガスの供給を行えればよいが、キャリアガスを共に供給することで、SiC原料ガスを希釈して流速を高めたり、原料ガス濃度を調整したりすることなども可能である。また、キャリアガスに加えて、もしくはキャリアガスに代えてエッチングガスを供給することもできる。エッチングガスを供給すれば、SiC原料ガスの流速や濃度の調整に加えて、付着させたくない場所への副生成物の付着を抑制することが可能となる。キャリアガスとしては、例えばHe、Arなどの不活性ガスを用いることができ、エッチングガスとしては、例えばH2やHClなどを用いることができる。さらに、成長させるSiC単結晶6にドーパントを導入する場合には、例えばN2(窒素)のようなn型ドーパントとなるN源を導入することもできる。勿論、N源のようなn型ドーパントに限らず、p型ドーパントとなるAl(アルミニウム)源やB(ホウ素)源を導入することもできる。
【0021】
なお、ここでは、SiC単結晶製造装置1の下方位置に備えられたガス供給口2を通じてガス供給源3から供給ガス3aが供給される形態を挙げている。しかしながら、SiC原料ガス、キャリアガス、エッチングガスは1つのガス供給口2を通じて供給される形態だけでなく、別々の供給口から供給される形態であっても良い。
【0022】
真空容器7は、石英ガラスなどで構成され、中空部を有する筒形状、本実施形態の場合は円筒形状をなしており、供給ガス3aの導入導出が行える構造とされている。また、真空容器7は、SiC単結晶製造装置1の他の構成部品を収容すると共に、その収容している内部空間の圧力を真空引きすることにより減圧できる構造とされている。この真空容器7の底部に供給ガス3aのガス供給口2が設けられ、側壁の上方位置にガス排出口4が設けられている。
【0023】
断熱材8は、中空部を有する筒形状、本実施形態の場合は有底円筒形状をなしており、真空容器7に対して同軸的に配置されている。断熱材8は、真空容器7よりも径が縮小された円筒形状部分を有し、真空容器7の内側に配置されることで、断熱材8の内側の空間から真空容器7側への伝熱を抑制している。断熱材8は、例えば黒鉛のみ、もしくは、表面をTaC(炭化タンタル)やNbC(炭化ニオブ)などの高融点金属炭化物にてコーティングした黒鉛などで構成され、熱エッチングされにくいものとされている。
【0024】
断熱材8は、底部の中心部に、底部を貫通する導入孔8aが形成されており、導入孔8aがガス供給口2に繋げられ、ガス供給口2から導入された供給ガス3aが導入孔8aを通じて断熱材8内に導かれるようになっている。
【0025】
加熱容器9は、SiC原料ガスを加熱分解してSiC単結晶6を成長させる反応室を構成する坩堝であり、中空部を有する筒形状、本実施形態の場合は有底円筒形状で構成されている。加熱容器9の中空部が種結晶5の表面にSiC単結晶6を成長させる成長空間となる。加熱容器9は、例えば黒鉛のみ、もしくは、表面をTaCやNbCなどの高融点金属炭化物にてコーティングした黒鉛などで構成され、熱エッチングされにくいものとされている。この加熱容器9は、台座10を囲むように配置されている。この加熱容器9により、ガス供給口2からの供給ガス3aを種結晶5に導くまでに、SiC原料ガスを分解している。
【0026】
加熱容器9は、底部の中心部に、底部を貫通する導入孔9aが形成されており、導入孔9aがガス供給口2や導入孔8aに繋げられ、ガス供給口2や導入孔8aから導入された供給ガス3aが導入孔9aを通じて加熱容器9内に導かれるようになっている。
【0027】
台座10は、種結晶5を設置するための部材である。台座10は、種結晶5が設置される一面が種結晶5の形状と対応する形状とされている。また、台座10は、台座10の中心軸が加熱容器9の中心軸や後述する回転引上機構11のシャフト11aの中心軸と同軸となるように配置されている。本実施形態の場合、台座10を種結晶5と同じ径の円柱形状部材で構成することで、種結晶5が設置される一面が円形状とされており、その円の中心線Cが加熱容器9の中心軸などと同軸とされている。台座10は、例えば黒鉛のみ、もしくは、表面をTaCやNbCなどの高融点金属炭化物にてコーティングした黒鉛などで構成され、熱エッチングされにくいものとされている。
【0028】
この台座10のガス供給口2側の一面に、種結晶5が貼り付けられ、種結晶5の表面にSiC単結晶6が成長させられる。また、台座10は、種結晶5が配置される面と反対側の面においてシャフト11aに連結されており、シャフト11aの回転に伴って回転させられ、シャフト11aが引き上げられることに伴って紙面上方に引き上げ可能となっている。
【0029】
回転引上機構11は、パイプ材などで構成されるシャフト11aを介して台座10の回転および引上げを行う。シャフト11aは、本実施形態では上下に伸びる直線状で構成されており、一端が台座10のうちの種結晶5の貼付面と反対側の面に接続され、他端が回転引上機構11の本体に接続されている。このシャフト11aも、例えば黒鉛のみ、もしくは、表面をTaCやNbCなどの高融点金属炭化物にてコーティングした黒鉛などで構成され、熱エッチングされにくいものとされている。このような構成により、台座10、種結晶5およびSiC単結晶6の回転および引き上げが行え、SiC単結晶6の成長面が所望の温度分布となるようにしつつ、SiC単結晶6の成長に伴って、その成長表面の温度を成長に適した温度に調整できるようになっている。
【0030】
第1、第2加熱装置12、13は、例えば誘導加熱用コイルや直接加熱用コイルなどの加熱コイルによって構成され、真空容器7の周囲を囲むように配置されていて、加熱容器9の加熱を行う。本実施形態の場合、第1、第2加熱装置12、13を誘導加熱用コイルによって構成している。これら第1、第2加熱装置12、13は、対象場所をそれぞれ独立して温度制御できるように構成されており、第1加熱装置12は、加熱容器9に対応した位置に配置され、第2加熱装置13は、台座10と対応した位置に配置されている。したがって、第1加熱装置12によって加熱容器9の下方部分の温度を制御して、SiC原料ガスを加熱して分解することができる。また、第2加熱装置13によって台座10や種結晶5およびSiC単結晶6の周囲の温度をSiC単結晶6の成長に適した温度に制御することができる。なお、ここでは、加熱装置を第1、第2加熱装置12、13によって構成したが、第1加熱装置12のみとしても良いし、これらの配置場所を適宜変更しても良い。
【0031】
圧力調整部14は、SiC単結晶製造装置1の内部圧力、つまりSiC単結晶6の成長空間のガス圧を調整する機構である。SiC単結晶製造装置1の内部圧力は、真空容器7内のガス圧であり、真空容器7内においてはいずれの場所もほぼ同圧と見做すことができる。圧力調整部14は、この真空容器7内のガス圧を調整することで、成長空間のガス圧を調整している。具体的には、圧力調整部14は、ガス排出口4に配置されており、圧力調整バルブ14a、圧力検出器14bおよび制御部14cを有している。
【0032】
圧力調整バルブ14aは、電磁弁などで構成され、制御部14cにて開度が制御されることにより、ガス排出口4を通じて排出されるガスの流量を調整してSiC単結晶製造装置1の内部圧力を調整する。圧力検出器14bは、ガス排出口4を通じてSiC単結晶製造装置1の内部圧力を検出し、内部圧力に応じた検出信号を制御部14cに入力する。制御部14cは、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えたマイクロコンピュータによって構成されている。制御部14cは、圧力検出器14bの検出信号に基づいて、圧力調整バルブ14aの制御信号を出力することで、SiC単結晶製造装置1の内部圧力が目標圧力となるように制御する。
【0033】
このようにして、本実施形態にかかるSiC単結晶製造装置1が構成されている。続いて、本実施形態にかかるSiC単結晶製造装置1を用いたSiC単結晶6の製造方法について説明する。
【0034】
まず、台座10の一面に種結晶5を貼り付ける。種結晶5としては、一面側がSi面、その反対面となる他面側がC面、より詳しくは(000-1)C面に対して4°もしくは8°などの所定のオフ角を有する4H-SiCで構成されたオフ基板を用意している。そして、Si面側を台座10に向け、台座10と反対側となるSiC単結晶6の成長面側をC面側として、台座10に貼り付ける。
【0035】
続いて、加熱容器9内に台座10および種結晶5を配置する。そして、第1、第2加熱装置12、13を制御し、加熱容器9を加熱することで所望の温度分布を付ける。すなわち、供給ガス3aに含まれるSiC原料ガスが加熱分解されて種結晶5の表面に供給され、かつ、種結晶5の表面においてSiC原料ガスが再結晶化されつつ、加熱容器9内において再結晶化レートよりも昇華レートの方が高くなるような温度分布とする。具体的には、加熱容器9内の2000℃以上の高温、好ましくは少なくとも一部が2500℃以上となる環境とする。例えば、加熱容器9の底部の温度を2800±100℃程度、種結晶5の表面の温度を2500±100℃程度とする。
【0036】
さらに、SiC単結晶製造装置1の内部圧力、つまり真空容器7を所望の目標圧にしつつ、ガス供給口2を通じてSiC原料ガスを含む供給ガス3aを導入する。SiC単結晶製造装置1の内部圧力が目標圧となるように制御することで、シラン等のシラン系ガスやプロパン等の炭化水素系ガスを温度に合わせた分圧に制御できる。また、必要に応じてHeやArなどの不活性ガスによるキャリアガスやH
2やHClなどのエッチングガスを導入し、流速や原料ガス濃度を調整して、副生成物が生成し難くなる条件となるようにしている。これにより、供給ガス3aが
図1中の矢印で示したように流動して種結晶5に供給され、供給ガス3a中に含まれる原料ガスにより、種結晶5の表面にSiC単結晶6が成長させられる。
【0037】
そして、回転引上機構11により、シャフト11aを介して台座10や種結晶5およびSiC単結晶6を回転させつつ、SiC単結晶6の成長レートに合せて引上げる。これにより、SiC単結晶6の成長表面の高さがほぼ一定に保たれ、成長表面温度の温度分布を制御性良く制御することが可能となる。
【0038】
ここで、本発明者らは、SiC単結晶を成長させる際に、成長速度の向上と高品質化の両立を図るべく鋭意検討を行い、SiC単結晶製造装置1の内部圧力、つまり供給ガス3aの圧力を制御するという方法を見出した。以下、これについて説明する。なお、以下の説明において、すべてのガスを含む供給ガス3aの全圧力のことを全圧Ptotalと言う。全圧Ptotalは、SiC単結晶製造装置1の内部圧力であるが、SiC単結晶製造装置1の内部のどの場所でもほぼ同圧になるため、SiC単結晶6の成長面に印加される圧力、つまり反応室を構成する加熱容器9の内部圧力に相当する。
【0039】
本実施形態で説明するSiC単結晶製造装置1は、ガス供給法に基づき、HTCVD(高温化学気相成長)法によってSiC単結晶6を製造している。HTCVD法は、高純度のSiC原料ガスを用いて、2000℃以上の高温下で減圧気相成長によってSiC単結晶6を製造する手法である。このHTCVD法における結晶成長速度などは、以下に示す数式で表される。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【数4】
上記数式1~4において、GRはSiC単結晶6の成長速度、P
SiH4はSi原料ガスとなるシランの分圧、f
SiH4はシランの原料流量である。また、Aは定数、Lは反応熱、Rは気体定数、TはSiC単結晶6の成長表面温度、Peは飽和蒸気圧である。なお、C原料ガスとなるプロパンの原料流量f
C3H8については数式中に示されていないが、シランの原料流量f
SiH4に対する原料比である1/3が目標流量となる。また、プロパンの分圧P
C3H8についても同様であり、シランの分圧P
SiH4に対する原料比である1/3、換言すればシランやプロパンに含まれるCとSiとの比であるC/Siが1となる圧力が分圧P
C3H8となる。
【0044】
上記数式4で示されるように、成長速度GRを上昇させるには、全圧Ptotalを上昇させる、もしくは原料流量fSiH4、fC3H8を増加させて分圧PSiH4、PC3H8を上昇させれば良い。また、SiC単結晶6の成長表面温度Tを下げることによっても、成長速度GRを上昇させることが可能である。
【0045】
しかしながら、成長速度GRを上昇させる手法として、原料流量fSiH4、fC3H8を増加させて分圧PSiH4、PC3H8を向上させると、原料の収率が悪くなると共に余剰に投入した原料により気中核生成を促進し、結晶品質を悪化させる。一方、成長表面温度Tを下げて成長速度GRを上昇させようとすると、SiC単結晶6の成長表面でのマイグレーション不足により品質が悪化することが確認された。このため、原料流量fSiH4、fC3H8を増加させて分圧PSiH4、PC3H8を向上させる手法や成長表面温度Tを下げる手法では、成長速度GRを上昇させられても結晶品質を確保できず、SiC単結晶6の成長速度の向上と高品質化の両立を図ることが困難である。
【0046】
これに対して、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、原料流量fSiH4、fC3H8を目標流量で一定となるように制御しつつ、全圧Ptotalを上昇させてSiC単結晶6の結晶表面付近の分圧PSiH4、PC3H8を上昇させると、両者を両立できることが分かった。
【0047】
原料流量fSiH4、fC3H8を目標流量となるように制御していることから、SiC単結晶6の結晶表面でのマイグレーション不足が抑制され、SiC単結晶6の高品質化が可能になる。そして、全圧Ptotalを上昇させることでSiC単結晶6の結晶表面付近の分圧PSiH4、PC3H8を上昇させているため、SiC単結晶6の成長速度GRを向上させることが可能となる。これにより、SiC単結晶6の成長速度の向上と高品質化の両立を図ることが可能になる。
【0048】
適用可能な全圧Ptotalについては、低すぎると原料流量fSiH4、fC3H8を多くすることが必要になって効率が低下することから、40kPa以上、好ましくは50kPa以上としている。また、全圧Ptotalを高くするほどSiC単結晶6の成長速度を高くできて高効率になるが、SiC単結晶製造装置1からのガス漏れの抑制のために全圧Ptotalを大気圧よりも低い減圧雰囲気とするのが好ましい。ただし、専用の耐圧、耐熱容器を準備すればこの限りではない。
【0049】
以下、実験結果を参照して、SiC単結晶6の成長速度の向上と高品質化の両立が図れる理由を説明する。
【0050】
まず、全圧P
totalを異ならせた場合において、SiC単結晶6の成長量(mm)と転位密度(cm
-2)との関係の変化を調べた。
図2は、その結果を示している。この図に示すように、全圧P
totalを50kPa、70kPa、90kPaと3つの異なる値に設定した。ここでは原料流量f
SiH4、f
C3H8を一定の目標流量とし、これらの流量比を一定として実験を行っている。ここでは、一例として、原料流量f
SiH4および原料流量f
C3H8をSi:Cの原料比に対応した流量としている。また、キャリアガスやエッチングガスを適宜導入し、圧力調整部14にて全圧P
totalを調整して一定圧力としている。また、シランの分圧P
SiH4を3kPa~30kPa、プロパンの分圧P
C3H8を分圧P
SiH4に対応してC/Siが1となる圧力としている。そして、それぞれの圧力下においてSiC単結晶6を成長させた場合の成長量、つまり種結晶5の表面からの成長方向の距離、
図1で言えば中心線Cに沿う方向の距離と、その成長量の位置での転位密度を測定した。転位密度については、測定対象とする成長量の場所でSiC単結晶6を切断した後、KOH融液で1時間切断表面をエッチングし、欠陥をピット形状として観測することによって測定している。転位密度は、単位面積cm
2当たりに含まれる様々な転位の数を表している。この転位には、マイクロパイプや基底面転位(BPD)などの転位が含まれる。また、転位については、寸法にかかわらず光学顕微鏡などによって測定可能である。切断したSiC単結晶6の表面全域について転位密度を測定する必要は無く、所定の範囲において数カ所測定することで、測定対象とする成長量での転位密度を得ることができる。
【0051】
図2に示すように、本実験では、SiC単結晶6の成長初期、つまり成長量が0mm近傍においては、転位密度が1000cm
-2程度となっている。しかしながら、成長量が5mm近傍においては、転位密度が100cm
-2以下と1/10以下、換言すれば一桁以上低減されていた。転位密度の低下率で言えば、5mmの成長量で1000cm
-2から100cm
-2以下に減少していることから、180cm
-2/mm以上の低下率になる。さらに、成長量が10mmを超えても転位密度の低下率は小さくなるものの徐々に転位密度が低下しており、100cm
-2以下を維持できていた。
【0052】
SiC単結晶6からSiC基板を切り出してデバイス製造が行われる。適用されるデバイスの仕様などにより、要求される転位密度が異なるが、転位密度が100cm-2以下はMOSFETなどの高電圧パワーデバイスにも適用可能な高品質なSiC基板である。また、高電圧パワーデバイス以外の用途であれば、転位密度が200cm-2以下のSiC基板を適用することも十分可能である。SiC単結晶6の成長量が2.5mm以上において転位密度が200cm-2以下にできており、高電圧パワーデバイス以外の用途に適用可能な程度に高品質化が可能になっていることが分かる。また、SiC単結晶6の成長量が5mm以上となる場所では、転位密度が100cm-2以下という高電圧パワーデバイスに適用可能なほど高品質化が可能になることが分かる。
【0053】
図2に示すように、全圧P
totalにかかわらず、成長量に対する転位密度の変化は同様の傾向になっており、成長量が大きくなるに連れて転位密度が低減している。これは、全圧P
totalの変化は転位密度に影響を及ぼさず、全圧P
totalが異ならせたとしても、成長量に応じて転位密度を低減させられることを意味している。したがって、全圧P
totalを上昇させ、SiC単結晶6の結晶表面付近の分圧P
SiH4、P
C3H8を上昇させたとしても、転位密度を増大させないで済み、SiC単結晶6の高品質化が可能になる。
【0054】
次に、全圧P
totalが成長速度GRに及ぼす影響について調べた。
図3は、その結果を示している。なお、この実験については、原料流量f
SiH4、f
C3H8、キャリアガスおよびエッチングガスの条件については
図2の実験と同条件としており、全圧P
totalについても50kPa、70kPa、90kPaと3つの異なる値に設定した。
【0055】
図3に示すように、SiC単結晶6の成長速度GRは全圧P
totalに依存するという結果となり、全圧P
totalが大きくなるほど成長速度GRが大きくなる。したがって、全圧P
totalを上昇させれば、成長速度GRを上昇させられることが分かる。
【0056】
さらに、任意の一定の成長量での全圧P
totalに対する転位密度の変化について調べた。
図4は、その結果を示している。なお、この実験についても、原料流量f
SiH4、f
C3H8、キャリアガスおよびエッチングガスの条件については
図2の実験と同条件としており、全圧P
totalについても50kPa、70kPa、90kPaと3つの異なる値に設定した。
【0057】
図4に示すように、ある成長量での成長速度GRに対する転位密度については、全圧P
totalが異なっていても変化がなかった。具体的には、全圧P
totalが50kPa、70kPa、90kPaいずれの場合においても、すべて転位密度が100cm
-2以下となっていた。これは、原料流量f
SiH4、f
C3H8を一定としている場合、ある成長量での成長速度GRに対する転位密度が一定になることを意味している。つまり、原料流量f
SiH4、f
C3H8を一定としていれば、全圧P
totalが異なっていてもSiC単結晶6の品質を劣化させないようにでき、高電圧パワーデバイスに適用可能なほどSiC単結晶6ノ高品質化が可能になる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態では、原料流量fSiH4、fC3H8については目標流量で一定となるように制御しつつ、全圧Ptotalを40kPa以上に上昇させることでSiC単結晶6の結晶表面付近の分圧PSiH4、PC3H8を上昇させている。
【0059】
このように、原料流量fSiH4、fC3H8を増加させずに分圧PSiH4、PC3H8を上昇させているため、原料の収率の悪化や余剰に投入した原料により気中核生成が促進されることが抑制され、結晶品質の悪化を抑制することが可能となる。また、成長表面温度Tを下げることによって成長速度GRを上昇させている訳では無いため、SiC単結晶6の成長表面でのマイグレーション不足を発生させることも抑制される。したがって、SiC単結晶6の成長速度GRの向上と高品質化の両立を図ることが可能になる。
【0060】
また、SiC単結晶6の成長に用いる種結晶5は、一面側をSi面、他面側をC面として、Si面が台座10側に向けられ、C面がSiC単結晶6の成長面とされるが、得られたSiC単結晶6については、Si面よりもC面の方が転位密度が減少した状態になる。つまり、種結晶5の表面から成長したSiC単結晶6は、種結晶5側となるSiC単結晶6の成長初期の位置で種結晶5よりもBPD密度が低下したのち、SiC単結晶6の成長方向、つまり種結晶5から離れる方向に沿って転位密度が増加しない。そして、SiC単結晶6の成長が進むにつれて転位密度が減少し、好ましくは、その後も転位密度が増加せずにSiC単結晶6を成長させられる。このような構成になっていれば、成長が進むほど、より品質の良いSiCデバイスの製造に適したSiC単結晶6にできる。また、SiC単結晶6をスライスしてSiC基板を製造した場合には、転位密度が少なくデバイス特性の良好なSiC基板とすることが可能となる。
【0061】
具体的に、原料流量fSiH4、fC3H8が目標流量で一定となるように制御しつつ、全圧Ptotalを40kPa以上、好ましくは50kPa以上としてSiC単結晶6を製造し、SiC単結晶6をスライスしてSiC基板を製造した。このようにして製造したSiC基板ついて調べたところ、キャリアライフタイムは5ns以下、C(炭素)空孔を意味するカーボンベーカンシー(Vc)濃度は1×1015cm-3以上となっており、転位密度が抑制された高品質なものとなっていた。ガス供給法によってSiC単結晶6を成長させる場合、昇華法と比較してVc濃度が高くなる傾向にあるが、本実施形態の製造方法によれば、よりVc濃度を高くできる。Vcがホールとの再結合中心となるため、Vc濃度が高いことでダイオードの順方向劣化の原因である1SSF(Single-Shockley型積層欠陥)の拡張を抑制することが可能になる。
【0062】
また、意図的なドーパントではない不純物として混入された金属不純物の合計濃度が2×1015atm/cm3以下となっていて、デバイス特性の良好なSiC基板が得られていた。より詳しくは、Al(アルミニウム)が1×1011atm/cm3以下、B(ボロン)が1×1011atm/cm3以下、Ti(チタン)が7×1012atm/cm3以下、V(バナジウム)が5×1012atm/cm3以下であった。この金属不純物濃度は、SiCウェハを半導体デバイス形成に用いる場合に、良好なデバイス特性が得られるレベルの少なさであった。
【0063】
さらに、ドーパントとしてn型不純物となるNをドープすべく、供給ガス3aにN2を導入してSiC単結晶6を製造し、SiC単結晶6をスライスしてSiC基板を製造した。その結果、n型不純物濃度が5~9×1018atm/cm3もしくはそれ以上のSiC基板が得られた。このような高濃度のSiC基板は、例えば高電圧パワーデバイスとしてn型MOSFETなどを製造する際のドレイン領域を構成する部分として利用することができる。また、転位密度が小さな高品質なSiC基板であることから、その表面にドリフト層をエピタキシャル成長させた場合にも、ドリフト層の転位密度を小さくできる。このため、BPDが1SSFに拡張することが抑制され、オン抵抗の増大を抑制できる高電圧パワーデバイスとすることが可能になる。
【0064】
同様に、ドーパントとしてp型不純物となるAlをドープすべく、供給ガス3aにTMA(トリメチルアルミニウム)を導入してSiC単結晶6を製造し、SiC単結晶6をスライスしてSiC基板を製造した。その結果、p型不純物濃度が1×1011atm/cm3以下のSiC基板が得られた。このような高濃度のSiC基板は、高電圧パワーデバイスとしてIGBTなどを製造する際のコレクタ領域を構成する部分として利用することができる。また、転位密度が小さな高品質なSiC基板であることから、その表面にドリフト層をエピタキシャル成長させた場合にも、ドリフト層の転位密度を小さくでき、n型不純物をドープする場合と同様の効果が得られる。
【0065】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0066】
すなわち、原料流量f
SiH4、f
C3H8については目標流量となるように制御しつつ、全圧P
totalを上昇させることでSiC単結晶6の結晶表面付近の分圧P
SiH4を上昇させられるSiC単結晶製造装置1であれば、どのような構造でも良い。例えば、
図1に示したSiC単結晶製造装置1は一例を示したに過ぎず、加熱容器9や断熱材8の構造など、部分的に構成が異なっていても構わない。そして、SiC単結晶製造装置1の全圧P
totalを制御する機構として
図1に示したガス排出口4に圧力調整部14を備えるようにしたが、これに限らず、ガス排出口4と異なる場所に圧力調整部14を備えた構造としても良い。
【0067】
また、原料流量fSiH4、fC3H8について、「目標流量に制御する」もしくは「目標流量で一定となるように制御する」とは、目標流量から全く変化がない場合に限らず、フィードバック制御などの各種制御によって目標流量となるように調整される場合も含む。同様に、全圧Ptotalを上昇させることについては、40kPa以上の目標圧となるように制御できればよく、目標圧から全く変化がない場合に限らず、フィードバック制御などの各種制御によって目標圧となるように調整される場合も含まれる。
【0068】
また、
図1中では、種結晶5の表面上に形成されたインゴット状のものをSiC単結晶6として図示してあるが、SiC単結晶6は、インゴットであっても、それを切り出したウェハ状のSiC基板であっても、いずれの形態であっても良い。
【0069】
また、上記実施形態では、種結晶5に対して下方側からSiC原料ガスを含む供給ガス3aを供給するアップフロー方式のSiC単結晶成長装置や製造方法を例に挙げた。しかしながら、これに限らず、ガス供給機構の構成については、サイドフロー方式であってもダウンフロー方式であっても良い。さらに、上記実施形態では、SiC単結晶製造装置1としてガス供給法が適用される構成を例に挙げたが、昇華法が適用される構成であっても良い。
【0070】
さらに、上記実施形態では、SiC単結晶6をn型ドープもしくはp型ドープとする場合を一例に挙げたが、不純物ドープを制限して半絶縁性とすることも可能である。その場合、Nなどのn型不純物やAlなどのp型不純物のドープ源となるN2やTMAを導入しないようにすれば良く、その場合、n型不純物あるいはp型不純物の濃度がBが1×1011atm/cm3以下、Tiが7×1012atm/cm3以下、Vが5×1012atm/cm3以下の半絶縁性のSiC単結晶6を製造することができる。
【0071】
また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。
【0072】
なお、結晶の方位を示す場合、本来ならば所望の数字の上にバー(-)を付すべきであるが、電子出願に基づく表現上の制限が存在するため、本明細書においては、所望の数字の前にバーを付すものとする。
【0073】
また、本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
(本開示の説明)
上記の通りの実施形態についての説明から明らかなように、本明細書には、少なくとも以下の開示事項が開示されている。
[観点1]
炭化珪素単結晶(6)の製造方法であって、
反応室を構成する中空形状の加熱容器(9)内に種結晶(5)を配置することと、
前記反応室を加熱しつつ前記種結晶の表面に炭化珪素原料ガスを含む供給ガス(3a)を供給することで、前記種結晶の表面上に炭化珪素単結晶(6)を成長させることと、を含み、
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、前記炭化珪素原料ガスの流量を目標流量に制御しつつ、前記加熱容器の内部圧力となる前記供給ガスの全圧を40kPa以上に制御して前記炭化珪素単結晶を成長させる、炭化珪素単結晶の製造方法。
[観点2]
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、前記炭化珪素単結晶のインゴットを形成し、前記炭化珪素単結晶の成長方向において該炭化珪素単結晶中の転位密度を減少させていく、観点1に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
[観点3]
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、前記全圧を50kPa以上に制御する、観点1または2に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
[観点4]
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、前記全圧を大気圧以下に制御する、観点1ないし3のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
[観点5]
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、前記炭化珪素原料ガスとしてシランとプロパンを用い、前記シランの分圧を3kPa~30kPaとし、前記プロパンの分圧を前記シランと前記プロパンに含まれるCとSiとの比であるC/Siが1となる圧力とする、観点1ないし4のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
[観点6]
一面側がSi面、他面側がC面とされた炭化珪素単結晶であって、
前記C面側の方が前記Si面側よりも、基底面転位密度が小さくなっており、前記Si面側から前記C面側に向う方向において、180cm-2/mm以上の低下率で転位密度が低下している、炭化珪素単結晶。
[観点7]
前記転位密度が100cm-2以下になっている、観点6に記載の炭化珪素単結晶。
[観点8]
混入された金属不純物の濃度について、Bが1×1011atm/cm3以下、Tiが7×1012atm/cm3以下、Vが5×1012atm/cm3以下になっている観点6または7に記載の炭化珪素単結晶。
[観点9]
n型不純物となる窒素が含まれており、該窒素によるn型不純物濃度が5~9×1018atm/cm3またはそれ以上になっている観点6ないし8のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶。
[観点10]
p型不純物となるアルミニウムが含まれており、該アルミニウムによるp型不純物濃度が1×1011atm/cm3以下になっている観点6ないし8のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶。
【符号の説明】
【0074】
1 SiC単結晶製造装置
3 ガス供給源
3a 供給ガス
5 種結晶
6 SiC単結晶
10 台座
14 圧力調整部
14a 圧力調整バルブ
14b 圧力検出器
14c 制御部
【手続補正書】
【提出日】2023-09-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】