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特開2024-81429トーショナルダンパ、トーショナルダンパの防音カバー、及びこれを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081429
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】トーショナルダンパ、トーショナルダンパの防音カバー、及びこれを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/126 20060101AFI20240611BHJP
   F16F 15/12 20060101ALI20240611BHJP
   F16H 55/36 20060101ALI20240611BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
F16F15/126 B
F16F15/12 S
F16H55/36 H
G10K11/16 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195058
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】成田 信彦
(72)【発明者】
【氏名】塩沼 幸己
【テーマコード(参考)】
3J031
5D061
【Fターム(参考)】
3J031AA04
3J031AC10
3J031BA10
3J031CA03
5D061AA06
5D061AA26
5D061CC15
5D061DD11
(57)【要約】
【課題】トーショナルダンパの回転速度が速くなっても、トーショナルダンパから防音カバーを脱落させにくくする。
【解決手段】トーショナルダンパ101は、クランクシャフト12に固定されるハブ111に振動リング131を連結している。ハブ111は、クランクシャフト12の端部に締結ボルト21によって同軸上に固定されるボス112を有し、ボス112と円環状のリム114とをステー113を介して一体に設けている。振動リング131は、リム114の外周面に弾性体121を介して連結され、質量体をなしている。トーショナルダンパ101には、エンジン11と反対側(前方側F)に位置づけられる端面118Fを覆うように防音カバー201が着脱自在に取り付けられている。防音カバー201は、強磁性体の紛体231、例えば鉄粉を内部に分散している。紛体231は、防音カバー201の外周側の内部領域よりも中央側の内部領域に多く分散されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器から延びる回転軸の端部に締結ボルトによって同軸上に固定されるボスを有し、前記ボスと円環状のリムとをステーを介して一体に設けたハブと、
前記リムの外周面に弾性体を介して連結される円環状の振動リングと、
前記機器と反対側に位置づけられる端面を覆うように前記ハブに着脱自在に取り付けられ、強磁性体の紛体を内部に分散する発泡ウレタン製の防音カバーと、
を備え、
前記紛体は、前記防音カバーの外周側の内部領域よりも中央側の内部領域に多く分散されている、
トーショナルダンパ。
【請求項2】
エンジンのクランクシャフトの端部に締結ボルトによって同軸上に固定されるボスを有し、前記ボスと円環状のリムとをステーを介して一体に設けたハブと、
前記リムの外周面に弾性体を介して連結される円環状の振動リングと、
前記エンジンと反対側に位置づけられる端面を覆うように前記ハブに着脱自在に取り付けられ、強磁性体の紛体を内部に分散する発泡ウレタン製の防音カバーと、
を備え、
前記紛体は、前記防音カバーの外周側の内部領域よりも中央側の内部領域に多く分散されている、
トーショナルダンパ。
【請求項3】
前記リムは、前記リムの内周面から内径側に突出する突出部を有し、
前記防音カバーは、前記ステーの前面と前記リムの内周面とに接触した状態で前記突出部に嵌り合う段部を有し、前記突出部に前記段部が嵌り合うことによって前記ハブに抜け止め固定されている、
請求項1に記載のトーショナルダンパ。
【請求項4】
前記リムは、前記リムの内周面から内径側に突出する突出部を有し、
前記防音カバーは、前記ステーの前面と前記リムの内周面とに接触した状態で前記突出部に嵌り合う段部を有し、前記突出部に前記段部が嵌り合うことによって前記ハブに抜け止め固定されている、
請求項2に記載のトーショナルダンパ。
【請求項5】
前記リムの内周面は、前記ステーに近い奥側の方が手前側よりも小径であり、
前記防音カバーの外周面は、前記リムの内周面の小径部と大径部とのいずれにも接触するように、前記リムの内周面に合わせた形状を有している、
請求項3又は4に記載のトーショナルダンパ。
【請求項6】
前記リムの内周面の小径部は、前記振動リングとともにコンボリューション部を形成している、
請求項5に記載のトーショナルダンパ。
【請求項7】
前記防音カバーは、
前記リムに接触する面に、前記締結ボルトの配置空間となる凹部を有し、
前記凹部によって薄肉化された中央部分の領域にその周辺部分の領域よりも多くの前記紛体を集合させている、
請求項3又は4に記載のトーショナルダンパ。
【請求項8】
前記突出部と前記段部とは、円環形状を有している、
請求項3又は4に記載のトーショナルダンパ。
【請求項9】
機器から延びる回転軸の端部に締結ボルトによって同軸上に固定されるトーショナルダンパの防音カバーであって、
弾性体を介して円環状の振動リングが連結されるハブに対して、前記機器と反対側に位置づけられる端面を覆うように着脱自在に取り付けられる発泡ウレタン製のカバー本体と、
前記カバー本体の内部に分散された強磁性体の紛体と、
を備え、
前記紛体は、前記カバー本体の外周側の内部領域よりも中央側の内部領域に多く分散されている、
トーショナルダンパの防音カバー。
【請求項10】
請求項9に記載のトーショナルダンパの防音カバーを製造する方法であって、
前記機器と反対側を向く前記カバー本体の面を成型するためのキャビティを有し、前記カバー本体の中央側になる位置に磁石を内蔵する第1の金型を用意し、
前記機器側を向く前記カバー本体の面を成型するためのキャビティを有する第2の金型を用意し、
前記キャビティ内に発泡ウレタンの原料液を注入し、
前記キャビティ同士が対面するように前記第1の金型と前記第2の金型とを型締めし、
前記原料液の硬化後、前記第1の金型と前記第2の金型とを型開きして脱型する、
トーショナルダンパの防音カバーを製造する方法。
【請求項11】
エンジンのクランクシャフトの端部に締結ボルトによって同軸上に固定されるトーショナルダンパの防音カバーであって、
弾性体を介して円環状の振動リングが連結されるハブに対して、前記エンジンと反対側に位置づけられる端面を覆うように着脱自在に取り付けられる発泡ウレタン製のカバー本体と、
前記カバー本体の内部に分散された強磁性体の紛体と、
を備え、
前記紛体は、前記カバー本体の外周側の内部領域よりも中央側の内部領域に多く分散されている、
トーショナルダンパの防音カバー。
【請求項12】
請求項11に記載のトーショナルダンパの防音カバーを製造する方法であって、
前記エンジンと反対側を向く前記カバー本体の面を成型するためのキャビティを有し、前記カバー本体の中央側になる位置に磁石を内蔵する第1の金型を用意し、
前記エンジン側を向く前記カバー本体の面を成型するためのキャビティを有する第2の金型を用意し、
前記キャビティ内に発泡ウレタンの原料液を注入し、
前記キャビティ同士が対面するように前記第1の金型と前記第2の金型とを型締めし、
前記原料液の硬化後、前記第1の金型と前記第2の金型とを型開きして脱型する、
トーショナルダンパの防音カバーを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トーショナルダンパ、トーショナルダンパの防音カバー、及びこれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トーショナルダンパは、例えば自動車のエンジンにおいて、補器類を駆動するクランクプーリとして用いられる。クランクプーリは、エンジンに設けられたクランクシャフトの端部に取り付けられ、ベルトを介して補器類を駆動する。
【0003】
クランクプーリとして用いられるトーショナルダンパは、クランクシャフトに固定されるハブを有し、ハブの外周面に弾性体を介して振動リングを連結した構造を有している。振動吸振器として見たとき、弾性体はバネをなし、振動リングはマス(質量体)をなす。クランクシャフトの回転に追従して回転する振動リングは、回転方向に共振してクランクシャフトの捩り共振を抑制する。これがトーショナルダンパによる振動抑制の仕組みである。
【0004】
エンジンの構造上、回転するクランクシャフトには振動が発生する。クランクシャフトの振動はトーショナルダンパに伝わり、トーショナルダンパから放射されて放射音を発生する。放射音は騒音になるため、これを抑制するようにした技術が考えられている。
【0005】
例えば特許文献1には、トーショナルダンパのハブの前面側に防音カバーを取り付け、ハブから放射される放射音を抑えるようにした発明が開示されている。
【0006】
より詳細には、防音カバー(11)は、全体がゴム状弾性体によって円盤状に成形されており、トーショナルダンパー(1)のリム(リム部2c)に着脱自在に取り付けられている。リム(リム部2c)に直接的に着脱されるのは装着部(12)であり、その内周側には、径方向に伸縮する薄肉環状の蛇腹構造(13)、さらに内周側には厚肉円盤状のマス部(14)がそれぞれ一体に設けられている(特許文献1の段落[0028]-[0029]、図1参照)。
【0007】
このような防音カバーについて、特許文献1は、つぎの(1)(2)の主張を展開している。
(1)蛇腹構造を設けているがゆえに、トーショナルダンパに対する防音カバーの着脱作業が容易化し、蛇腹によって吸音率が向上する。特許文献1の段落[0013][0022][0031]参照。
(2)蛇腹構造を共振系のバネとし、マス部を共振系の慣性質量体とするダイナミックダンパー(動的吸振器)が構成され、その吸振(吸音)作用の発揮によって優れた騒音低減効果を発揮する。特許文献1の段落[0014][0032]参照。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-008237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された防音カバーが有する蛇腹構造は、軸方向のみならず、径方向にも剛性が低い。このためトーショナルダンパの回転速度が上昇するにしたがい、遠心力によるマス部の振れ回りの度合いが増し、マス部に大きな力が加わる。その結果トーショナルダンパから防音カバーが脱落し、径方向に吹き飛んでしまう事態の発生が懸念される。
【0010】
軸方向にも径方向にも剛性の低い蛇腹構造を採用する限り、トーショナルダンパの回転速度が高まるにつれてマス部の振れ回りの度合いが増していくことは不可避である。上記(1)(2)の作用効果を確保しながら、抜本的な改善が求められる。
【0011】
本開示の課題は、トーショナルダンパの回転速度が速くなっても、トーショナルダンパから防音カバーを脱落させにくくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
トーショナルダンパの一態様は、機器から延びる回転軸の端部に締結ボルトによって同軸上に固定されるボスを有し、前記ボスと円環状のリムとをステーを介して一体に設けたハブと、前記リムの外周面に弾性体を介して連結される円環状の振動リングと、前記機器と反対側に位置づけられる端面を覆うように前記ハブに着脱自在に取り付けられ、強磁性体の紛体を内部に分散する発泡ウレタン製の防音カバーと、を備え、前記紛体は、前記防音カバーの外周側の内部領域よりも中央側の内部領域に多く分散されている。
【0013】
トーショナルダンパの別の一態様は、エンジンのクランクシャフトの端部に締結ボルトによって同軸上に固定されるボスを有し、前記ボスと円環状のリムとをステーを介して一体に設けたハブと、前記リムの外周面に弾性体を介して連結される円環状の振動リングと、前記エンジンと反対側に位置づけられる端面を覆うように前記ハブに着脱自在に取り付けられ、強磁性体の紛体を内部に分散する発泡ウレタン製の防音カバーと、を備え、前記紛体は、前記防音カバーの外周側の内部領域よりも中央側の内部領域に多く分散されている。
【0014】
トーショナルダンパの防音カバーの一態様は、機器から延びる回転軸の端部に締結ボルトによって同軸上に固定されるトーショナルダンパの防音カバーであって、弾性体を介して円環状の振動リングが連結されるハブに対して、前記機器と反対側に位置づけられる端面を覆うように着脱自在に取り付けられる発泡ウレタン製のカバー本体と、前記カバー本体の内部に分散された強磁性体の紛体と、を備え、前記紛体は、前記カバー本体の外周側の内部領域よりも中央側の内部領域に多く分散されている。
【0015】
上記トーショナルダンパの防音カバーの一態様を製造する方法の一態様は、前記機器と反対側を向く前記カバー本体の面を成型するためのキャビティを有し、前記カバー本体の中央側になる位置に磁石を内蔵する第1の金型を用意し、前記機器側を向く前記カバー本体の面を成型するためのキャビティを有する第2の金型を用意し、前記キャビティ内に発泡ウレタンの原料液を注入し、前記キャビティ同士が対面するように前記第1の金型と前記第2の金型とを型締めし、前記原料液の硬化後、前記第1の金型と前記第2の金型とを型開きして脱型する。
【0016】
トーショナルダンパの防音カバーの別の一態様は、エンジンのクランクシャフトの端部に締結ボルトによって同軸上に固定されるトーショナルダンパの防音カバーであって、弾性体を介して円環状の振動リングが連結されるハブに対して、前記エンジンと反対側に位置づけられる端面を覆うように着脱自在に取り付けられる発泡ウレタン製のカバー本体と、前記カバー本体の内部に分散された強磁性体の紛体と、を備え、前記紛体は、前記カバー本体の外周側の内部領域よりも中央側の内部領域に多く分散されている。
【0017】
上記トーショナルダンパの防音カバーの別の一態様を製造する方法の一態様は、前記エンジンと反対側を向く前記カバー本体の面を成型するためのキャビティを有し、前記カバー本体の中央側になる位置に磁石を内蔵する第1の金型を用意し、前記エンジン側を向く前記カバー本体の面を成型するためのキャビティを有する第2の金型を用意し、前記キャビティ内に発泡ウレタンの原料液を注入し、前記キャビティ同士が対面するように前記第1の金型と前記第2の金型とを型締めし、前記原料液の硬化後、前記第1の金型と前記第2の金型とを型開きして脱型する。
【発明の効果】
【0018】
トーショナルダンパの回転速度が速くなっても、トーショナルダンパから防音カバーを脱落させにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】4気筒エンジンのクランクシャフトに固定されてプーリとしても用いられる本実施の形態のトーショナルダンパの模式図。
図2】トーショナルダンパの正面図。
図3】トーショナルダンパを垂直断面にして正面側から示す斜視図。
図4】トーショナルダンパの縦断側面図。
図5】トーショナルダンパと防音カバーとを分離して示す縦断側面図。
図6】防音カバーを装着したトーショナルダンパの正面図。
図7】防音カバーを装着したトーショナルダンパを垂直断面にして正面側から示す斜視図。
図8】防音カバーを装着したトーショナルダンパを垂直断面にして背面側から示す斜視図。
図9】防音カバーを製造する方法の一例として、(A)は金型が型開きされて原料液が注入された状態、(B)は金型を型締めした状態、(C)は金型のキャビティ内で原料液が発泡している状態、(D)は金型を型開きして製品を取り出した状態をそれぞれ示す模式図。
図10】クランクシャフトの軸方向振動による加振周波数をトーショナルダンパの軸方向共振周波数で割った振動数比と振動伝達率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の一形態を図面に基づいて説明する。本実施の形態は、直列4気筒の4ストロークエンジンに用いられるプーリへの適用例である。つぎの項目に沿って説明する。
1.構成
(1)エンジン
(2)トーショナルダンパ
(3)防音カバー
(a)カバー本体
(b)磁性体
2.防音カバーを製造する方法
3.作用効果
(1)基本的な作用効果
(2)騒音の発生原因
(3)騒音の抑制
(a)振動数比と振動伝達率
(b)マス(質量体)としての防音カバーの作用
(c)遮蔽物としての防音カバーの作用
(4)作業性の向上
(5)防音カバーの脱落防止
4.変形例
【0021】
1.構成
(1)エンジン
図1に示すように、エンジン11(機器)にはクランクシャフト12(回転軸)が回転自在に設けられている。クランクシャフト12は水平に配置され、プーリ31として構成されたトーショナルダンパ101を一端側に固定している。
【0022】
クランクシャフト12は、気筒毎にカウンターバランス13を備え、ピン14にコンロッド15を介してピストン16を取り付けている。ピストン16は、シリンダ17にスライド自在に収納されている。ピストン16のスライド移動方向は、クランクシャフト12の軸と直交する垂直方向である。
【0023】
本実施の形態のエンジン11は、クランクシャフト12にトーショナルダンパ101を取り付けている。トーショナルダンパ101には、防音カバー201が取り付けられている。
【0024】
(2)トーショナルダンパ
図1ないし図4に示すように、トーショナルダンパ101は、ハブ111に弾性体121を介して円環状の振動リング131を連結し、振動リング131の外周面にベルト溝141を設けている。
【0025】
図2は、トーショナルダンパ101の正面図であり、図3は、トーショナルダンパ101を垂直断面にして正面側から示す斜視図である。図4は、トーショナルダンパ101の縦断側面図である。
【0026】
ハブ111は、回転軸であるエンジン11のクランクシャフト12に固定されるボス112を中心位置に備え、ボス112から径方向外方に向けて立ち上げられたステー113を介してリム114を設けている。
【0027】
ボス112は、円筒状をした部材であり、回転軸を嵌合させるための取付孔112aを中心に有している。ハブ111は、取付孔112aに嵌合させたクランクシャフト12の一端部を、センターボルトとも呼ばれている締結ボルト21で固定することで、クランクシャフト12に固定される(図1参照)。この状態でボス112は、クランクシャフト12の回転中心をなす軸Xに軸A(図4参照)を一致させ、クランクシャフト12の回転に伴い回転する。
【0028】
ステー113は、ボス112とリム114との間に介在し、ボス112とリム114とを連結する部材である。本実施の形態では、ステー113は四本設けられ、それぞれがボス112の軸Aと同心の円周上に等間隔に配列されている。これらのステー113は、ボス112とリム114とを連結する部分に設けられた四個の孔115によって形成されている。これらの孔115も、ボス112の軸Aと同心をなす円周上に等間隔で配列されている。
【0029】
リム114は、ステー113の端部からハブ111の軸方向(軸Aの方向)に沿って延びる円環状の部材であり、ボス112の軸Aと同心上に配置されている。したがってリム114の外周面は、ボス112の軸Aと同心の円周上に位置づけられる。もっともリム114の外周面の直径は一定ではなく、軸方向のほぼ中央位置では、リム凹部116によって直径が小さくなっている。リム凹部116は、振動リング131とともにコンボリューション部151を形成するためのもので、その詳細は後述する。
【0030】
ボス112とステー113とリム114とからなるハブ111は、例えば金属を材料として一体に形成されている。
【0031】
図4に示すように、ボス112は、エンジン11が位置するエンジン側Eに突出し、リム114は、エンジン11とは反対側の前方側Fに突出した形状になっている。リム114が前方側Fに突出する結果、ボス112及びステー113の前方側Fの面(前面)とリム114の内周面との間には、窪み状の空間Sが生じている。この空間Sは、後述する防音カバー201を装着するための空間として利用される。
【0032】
弾性体121は、直径が均一な円環状の部材であり、リム114と振動リング131との間に介在し、これらのリム114と振動リング131とを弾性的に連結している。このような弾性体121は、例えばゴムを材料として形成され、全周にわたって均一な肉厚を有している。
【0033】
振動リング131は、ボス112が有するリム114の外周面との間に、弾性体121を介在させる隙間Gを介して、内周面を対面させる円環状の部材である。このような振動リング131は、弾性体121を介して保持されるという構造上、固有の振動数を持つマス(質量体)として機能する。
【0034】
振動リング131の内周面には、リム114の外周面に形成されたリム凹部116と形状を合わせて、リング凸部132が形成されている。これらのリム凹部116とリング凸部132とは、リム114及び振動リング131の全周にわたりその周方向に沿って設けられており、コンボリューション部151を構成している。コンボリューション部151は、リム114と振動リング131との間における弾性体121の摺動抵抗を高め、弾性体121の位置ずれや抜け出しを抑制する。
【0035】
振動リング131は、弾性体121を介してリム114に取り付けられたとき、ボス112の軸Aと同軸上に位置付けられる。
【0036】
前述したように、トーショナルダンパ101は、プーリ31として構成されている。このような構成は、振動リング131の外周面に設けられた複数条のベルト溝141によって実現されている。ベルト溝141は、断面V字形状をしており、クランクシャフト12の回転を取り出してエンジン11の補器類を駆動するために、図示しない動力伝達用のベルトを巻き掛ける構造物である。
【0037】
(3)防音カバー
図5ないし図8に示すように、トーショナルダンパ101は、防音構造として、防音カバー201を着脱自在に取り付けている。
【0038】
図5は、トーショナルダンパ101と防音カバー201とを分離して示す縦断側面図、図6は、防音カバー201を装着したトーショナルダンパ101の正面図である。図7は、防音カバー201を装着したトーショナルダンパ101を垂直断面にして正面側から示す斜視図、図8は、その背面側から示す斜視図である。
【0039】
本実施の形態では、ハブ111が有する二面の端面118のうち、エンジン側Eの端面を端面118Eと呼び、前方側Fの端面を端面118Fと呼ぶ(図4図5参照)。
【0040】
(a)カバー本体
図5及び図6に示すように、防音カバー201は、円板形状をした発泡ウレタン製のカバー本体211を主体としている。カバー本体211は、ハブ111の前方側Fに設けられた窪み状の空間S内に嵌り込むように形成されている。カバー本体211が空間Sに着脱自在に嵌り込むことによって、防音カバー201は、前方側Fの端面118Fを覆うようにハブ111に取り付けられる。
【0041】
図5図7及び図8に示すように、リム114は、ステー113に近い奥側の内径と、前方側F側の内径とを比較したとき、奥側の内径よりも前方側Fの内径の方を大きくしている。奥側の内径は、コンボリューション部151を形成する外周面のリム凹部116の裏側にあたる部分の内径であるため、前方側Fよりも寸法を小さくしている。説明の便宜上、リム114の内周面のうち、小径の部分は小径部114S、大径の部分は大径部114Lと呼ぶ。リム114は、小径部114Sと大径部114Lとを滑らかな曲線で構成された接続部114Cで接続している。ハブ111の前方側Fに設けられた窪み状の空間Sの外周は、小径部114S、接続部114C、及び大径部114Lによって画定されている。
【0042】
防音カバー201の主体をなすカバー本体211は、空間Sに嵌り込み、この空間Sの外周を画定する小径部114S、接続部114C、及び大径部114Lに外周面が接触するように形状及び直径を定められている。カバー本体211の外周面も空間Sの形状に合わせて、小径部114Sに接触する小径部211S、接続部114Cに接触する接続部211C、及び大径部114Lに接触する大径部211Lを有している。
【0043】
図5図7及び図8に示すように、リム114は、その内周面から内径側に突出する円環形状の突出部117を有している。突出部117が設けられているのは、リム114の内周面のうち、前方側Fの端部である。防音カバー201のカバー本体211は、突出部117に嵌り合う円環形状の段部212を有している。これらの突出部117と段部212とは、ステー113の前方側Fの面(前面)とリム114の内周面(小径部114S、接続部114C、大径部114L)とにカバー本体211が接触した状態で、互いに嵌り合うように配置されている。
【0044】
突出部117に段部212が嵌り合ったとき、防音カバー201は、ハブ111に抜け止めされて固定される。このときリム114とカバー本体211との前面、つまり前方側Fの面は、同一面内に位置づけられる。
【0045】
カバー本体211は、中央部分に位置させて、裏面側に凹部213を有している。図1に示すように、凹部213は、ハブ111が有するボス112をクランクシャフト12に締結するための締結ボルト21のために配置空間を提供する。裏面側に凹部213が設けられた結果、カバー本体211の中央部分は薄肉化されている。本実施の形態では、薄肉化されたカバー本体211の中央部分の領域を薄肉部214と呼ぶ。
【0046】
(b)磁性体
防音カバー201は、発泡ウレタン製のカバー本体211の内部に、強磁性体の紛体231を分散している。図5図7及び図8に模式的に示すように、紛体231は、凹部213によって薄肉化された薄肉部214にその大半が配されている。しかも薄肉部214の中央部分の領域に、その周辺部分の領域よりも多くの紛体231が集合している。したがって紛体231は、カバー本体211の外周側の内部領域よりも、中央側の内部領域に多く分散されている。
【0047】
紛体231には、例えば鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などの強磁性体、つまり磁石の磁力で吸引することができる材料からなる紛体が用いられる。強磁性体でありさえすれば、鉄、ニッケル、コバルトに限らず、それらの金属を含む合金、あるいはそれらの金属以外の金属を含む合金を材料とする紛体231を用いるようにしてもよい。
【0048】
2.防音カバーを製造する方法
図9は、防音カバー201を製造する方法の一例を模式的に示している。
【0049】
本製造方法は、第1の金型としての下型301と、第2の金型としての上型311とを用いる。下型301は、エンジン11と反対側、つまり前方側Fを向くカバー本体211の面(前面)を成型するためのキャビティ302を有している。上型311は、エンジン側Eを向くカバー本体211の面(背面)を成型するためのキャビティ312を有している。
【0050】
下型301は、カバー本体211の中央側になる位置に磁石303を内蔵している。磁石は、強磁性体である紛体231を磁力で吸引し得る限り、永久磁石であっても、電磁石であってもよい。
【0051】
図9(A)に示すように、一対の金型をなす下型301と上型311とを型開きし、下型301のキャビティ302に発泡ウレタンの原料液LMを注入する。このとき原料液LMには、紛体231を混入させておく。
【0052】
図9(B)に示すように、互いのキャビティ302、312同士が対面するように、下型301と上型311とを型締めする。これによって下型301のキャビティ302と上型311のキャビティ312とが連絡し、一つのキャビティ空間CSを形成する。
【0053】
図9(C)に示すように、発泡ウレタンの原料液LMは、キャビティ空間CSの内部で発泡し、キャビティ空間CSの全体にいきわたる。このとき原料液LMに混入させた紛体231は、強磁性体であるがゆえに、下型301に内蔵させた磁石303の磁力によって磁石303の方向に吸引され、分散状態に偏りを見せる。その結果紛体231は、薄肉部214をなす部分に集まり、薄肉部214の中央部分の領域により多く集合する。
【0054】
キャビティ空間CSの内部で発砲した原料液LMは、時間の経過とともに硬化し、キャビティ空間CSに合致するカバー本体211の形状に整えられる。そこで図9(D)に示すように、発泡ウレタンの原料液LMが硬化した後、下型301と上型311とを型開きして脱型する。取り出された製品Pは、必要に応じて実施されるバリ取りなどの作業を経て、防音カバー201になる。
【0055】
こうしてカバー本体211の内部に強磁性体の紛体231を分散させた防音カバー201が完成する。このとき紛体231は、防音カバー201の外周側の内部領域よりも中央側の内部領域に多く分散されている。
【0056】
3.作用効果
(1)基本的な作用効果
【0057】
このような構成において、エンジン11の始動によってクランクシャフト12が回転すると、トーショナルダンパ101も回転する。このときトーショナルダンパ101はプーリ31も構成しているので、補器類に対して動力が伝達される。
【0058】
トーショナルダンパ101は、振動リング131がマス(質量体)として機能することから、捻り方向(図2図6中の矢印T方向)に固有振動数を持つ。このためクランクシャフト12が回転して捩り振動が発生する場合、トーショナルダンパ101の捻り方向の固有振動数をその捩り共振周波数に適合するようにチューニングしておけば、クランクシャフト12に発生する捩り振動を吸収して低減することができる。
【0059】
一般的に、クランクシャフト12に生ずる捩り共振周波数は300~600Hz程度になることが多い。そこでトーショナルダンパ101の捩り方向の固有振動数もクランクシャフト12に生ずる捩り共振周波数に合わせて300~600Hz程度にチューニングする。
【0060】
(2)騒音の発生原因
クランクシャフト12は、軸Xの方向にも振動する。このためトーショナルダンパ101も軸Xに一致する軸Aの方向(以下「軸方向」と略称する)に振動する。クランクシャフト12の軸方向共振周波数は500~900Hz程度であり、このときトーショナルダンパ101中のハブ111も、クランクシャフト12と一体的に軸方向に振動する。こうしてハブ111が振動すると、その端面118(118E、118F)が周囲の空気を押し出し、圧力変動が生じてハブ111から放射音が発生する。このとき発生する放射音が騒音となって伝搬されてしまうわけである。
【0061】
より詳しく見ていくと、ハブ111の前方側Fの端面118Fから発生する放射音はエンジンルーム内にそのまま放射され、例えばダッシュボードを隔てた車室内に高周波騒音を響かせたり、エンジンルーム内にこもり音を生じさせたり、あるいはフロントグリルや車体下から漏れ出す漏れ出し音になったりしてしまう。騒音の直接の原因となる放射音であるといえる。
【0062】
ではハブ111のエンジン側Eの端面118Eから発生する放射音は、どのような振る舞いをみせるのだろうか。エンジンルーム内のレイアウトにもよるが、エンジン側Eの端面118Eから発せられた放射音は、例えばチェーンやタイミングベルトを覆うケースなどの反響を生ずる部品に放射されることがあり、この場合には反響音を誘発してしまう。
【0063】
しかもハブ111には個々のステー113の間に孔115が設けられていることから、反響音は、エンジンのチェーンケース(図示せず)自体から放射されるメカニカルノイズとともに、孔115を通り抜けてハブ111の前方側Fに進行し、前方側Fの騒音を一層増大させてしまう。
【0064】
したがってクランクシャフト12の軸方向の振動に伴うトーショナルダンパ101の軸方向の共振によって、ハブ111の両方の端面118E、118Fから発生する放射音が看過できない騒音を引き起こす。
【0065】
(3)騒音の抑制
本実施の形態のトーショナルダンパ101は、防音カバー201のうち、紛体231の分散が集中する中央側の領域をハブ111に付加されるマス(質量体)として機能させ、ハブ111の端面118から発生する放射音を抑制する。
【0066】
(a)振動数比と振動伝達率
図10に示すグラフは、クランクシャフト12の軸Xの方向の振動によって発生する加振周波数を防音カバー201の中央部の軸方向共振周波数で割った振動数比という概念を基軸に据え、この振動数比と振動伝達率との関係を示している。横軸は振動数比、縦軸は振動伝達率である。
【0067】
ハブ111の前方側Fの端面118Fから発生する放射音及びエンジンのチェーンケース(図示せず)から発生する放射音は、防音カバー201の振動伝達率が大きくなるほど増幅されて透過しやすくなる。振動伝達率は、振動数比が1のとき、つまり加振周波数と共振周波数とが1:1のときをピークとして増幅透過し、その前後の領域に共振域を発生させる。共振域は放射音を遮音できず、抑制し得ない領域である。
【0068】
振動伝達率は、振動数比が大きくなるにつれて減少し、振動数比が1.5のあたりから急速に防振域に移行させる。そこで振動数比を大きくして防振域に移行するには、防音カバー201の中央部の軸方向の共振周波数を低くすればよいことがわかる。ところが加振周波数は、クランクシャフト12の軸Xの方向の振動によって発生する周波数であるため、トーショナルダンパ101では制御し得ない。振動伝達率の低い防振域に移行するには、防音カバー201の中央部の軸方向の共振周波数を低くして遮音性能を高めることが決め手になる。
【0069】
(b)マス(質量体)としての防音カバーの作用
防音カバー201のうち、外周側の内部領域は、紛体231の分散量が少ないか、あるいはほとんど分散されていない。このため前述したように、紛体231の分散が集中する中央側の領域はマス(質量体)として機能し、その周辺領域はバネとして機能する。こうして防音カバー201の中央側の領域に生ずるマスとしての機能は、防音カバー201の軸方向共振を低周波に引き下げることを可能にする。このため防音カバー201のマス機能は、防音カバー201の軸方向の共振周波数を低くし、振動数比を大きくして振動伝達率を低下させることに貢献する。その結果クランクシャフト12の軸Xの方向の固有振動数に対して防音カバー201の固有振動数は防振域となり、振動リング131から発生する放射音を低減(遮音)することができる。
【0070】
防音カバー201の中央側の領域に生ずるのマスの質量は、カバー本体211に含ませる紛体231の分量や、カバー本体211内における紛体231の分布によって、自由に変更することができる。例えばマスの質量を増大させたい場合には、紛体231の分量を増やしたり、中央側の内部領域への分散量を増やしたりすることによって、その実現を容易に図ることが可能である。紛体231の分散量は、防音カバー201の製造時、磁石303の大きさや磁力の強さを適宜設定することで、容易に変更が可能である。
【0071】
防音カバー201のマス機能によって低減することができる防音カバー201の軸方向共振周波数は、200Hz程度にすることが望ましい。人間の可聴周波数特性は、低周波域で大幅に低下することから、ハブ111を含むクランクシャフト12の軸方向振動による強制加振が200Hz程度で防音カバー201が共振したとしても、放射音を認知しにくくすることができるからである。
【0072】
(c)遮蔽物としての防音カバーの作用
防音カバー201は、前方側Fに位置するハブ111の端面118Fから放射される放射音、及び個々のステー113の間の孔115を通り抜けて前方側Fに放射される放射音を遮蔽する。防音カバー201は、放射音を遮蔽する遮蔽構造物としても働き、放射音の低減に寄与する。
【0073】
(4)作業性の向上
防音カバー201は、エンジン11のクランクシャフト12に締結ボルト21によってボス112が締結されたトーショナルダンパ101に対して、着脱が可能である。
【0074】
防音カバー201を取り付けるには、小径部211Sを先頭側にして、リム114の内周面などによって形成された空間Sにカバー本体211を押し込む。カバー本体211の先頭面がステー113の前方側Fの面(前面)に突き当たるところまで押し込むと、リム114側の突出部117にカバー本体211側の段部212が嵌り込み、防音カバー201の取り付け作業が完了する。
【0075】
防音カバー201を取り外すには、リム114側の突出部117とカバー本体211側の段部212との間に、例えばスケールのような平板状の工具を差し込み、カバー本体211を手前側に引く。このときカバー本体211の外周面を縮径方向に撓ませ、大径部211Lが突出部117を乗り越えるようにすることで、防音カバー201を取り外すことができる。
【0076】
このような防音カバー201の着脱に際して、カバー本体211は、発泡ウレタンという柔軟性のある材料で成形されているために弾性変形しやすく、着脱作業の作業性が良好である。
【0077】
とりわけ防音カバー201の取り付けに際しては、リム114側の突出部117の内径側にカバー本体211の外周面を通さなければならない。このとき小径部211Sから滑らかな曲線をなす接続部211Cを経て大径部211Lに至るというカバー本体211の外径形状は、空間Sへの押し込み作業の容易化に貢献し、防音カバー201の取り付け作業の作業性を向上させる。
【0078】
(5)防音カバーの脱落防止
防音カバー201は、中央側の内部空間に多くの紛体231が集中し、この部分にマス機能をもつ。同様の構成は、例えば特許文献1にも見られる。特許文献1に記載された防音カバー(11)は、リム部(2c)に対して着脱される装着部(12)の内周側に、径方向に伸縮する薄肉環状の蛇腹構造(13)が配置され、その内周側に厚肉円盤状のマス部(14)が配置されている(特許文献1の段落[0028]-[0029]、図1参照)。
【0079】
防音カバー201の中央領域にマス機能をもたせているという点で、本実施の形態と特許文献1に記載された発明とは共通性を有している。
【0080】
ところが特許文献1に記載の防音カバー(11)では、トーショナルダンパー(1)の回転速度が上昇するにしたがい、遠心力によるマス部(14)の振れ回りの度合いが増してしまう。その理由は、リム部(2c)側の装着部(12)とマス部(14)とを、薄肉環状の蛇腹構造(13)で接続していることにある。蛇腹構造(13)は、径方向に容易に伸縮するがゆえに、どうしてもマス部(14)の振れ回りを抑制することができないわけである。その結果特許文献1に記載された発明では、トーショナルダンパー(1)から防音カバー(11)が脱落し、径方向に吹き飛んでしまう事態の発生が懸念される。
【0081】
この点本実施の形態によれば、防音カバー201の主体をなすカバー本体211が発泡ウレタンによって成形されているので、特許文献1に記載された蛇腹構造(13)のような径方向への伸縮性、換言すると剛性の低さがない。このため防音カバー201は、トーショナルダンパ101の回転速度が速くなっても、中央領域のマス機能を果たす部分の振れ回り度合いをますことがない。
【0082】
したがってトーショナルダンパ101から防音カバー201を脱落させにくくすることができる。
【0083】
4.変形例
実施に際しては、各種の変形や変更が許容される。
【0084】
例えばリム114側の突出部117にカバー本体211側の段部212との配置位置については、必ずしもリム114及びカバー本体211の前方側Fの端部に位置付けられている必要はなく、端部よりも奥まった位置に配置するようにしてもよい。
【0085】
本実施の形態では、ハブ111に四本のステー113を設けた一例を示したが、ステー113は四本に限らず、三本以下であっても、五本以上であってもよい。
【0086】
本実施の形態では、振動リング131の外周面にベルト溝141を設けた一例を示したが、ベルト溝141は、必ず設けなければならないというわけではなく、必要に応じて設ければよい。またベルト溝141の溝数も、適宜設定することが可能である。
【0087】
本実施の形態の製造方法では、磁石303を内蔵する下型301を第1の金型として、上型311を第2の金型とした一例を示したが、実施に際しては、上型311に磁石303を内蔵させて第1の金型とし、下型301を第2の金型としてもよい。
【0088】
本実施の形態の製造方法では、キャビティ空間CSに対して、型締めをする前に原料液LMを注入する一例を示したが、実施に際しては、型締めをした後に原料液LMを注入するようにしてもよい。この場合には、型締め後のキャビティ空間CS内に、原料液LMを注入するための構造が必要になる。
【0089】
その他、あらゆる変更や変形が許容される。
【符号の説明】
【0090】
11 エンジン(機器)
12 クランクシャフト(回転軸)
13 カウンターバランス
14 ピン
15 コンロッド
16 ピストン
17 シリンダ
21 締結ボルト
31 プーリ
101 トーショナルダンパ
111 ハブ
112 ボス
112a 取付孔
113 ステー
114 リム
114C 接続部
114L 大径部
114S 小径部
115 孔
116 リム凹部
117 突出部
118 端面
118E 端面(エンジン側)
118F 端面(前方側)
121 弾性体
131 振動リング
132 リング凸部
141 ベルト溝
151 コンボリューション部
201 防音カバー
211 カバー本体
211C 接続部
211L 大径部
211S 小径部
212 段部
213 凹部
214 薄肉部
231 紛体
301 下型(第1の金型)
302 キャビティ
303 磁石
311 上型(第2の金型)
312 キャビティ
A トーショナルダンパの軸
CS キャビティ空間
E エンジン側
F 前方側
G 隙間
LM 原料液
P 製品
S 空間
X クランクシャフトの軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10