(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081439
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】車両制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20240611BHJP
B60W 30/09 20120101ALI20240611BHJP
B60W 10/20 20060101ALI20240611BHJP
B60W 10/184 20120101ALI20240611BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20240611BHJP
B60W 40/10 20120101ALI20240611BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20240611BHJP
B60T 8/1755 20060101ALI20240611BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B60W30/02
B60W30/09
B60W10/00 132
B60W10/184
B60W10/20
B60W10/00 120
B60W10/04
B60W40/10
B60T7/12 C
B60T8/1755 Z
G08G1/16 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195077
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 祐介
【テーマコード(参考)】
3D241
3D246
5H181
【Fターム(参考)】
3D241AA40
3D241AC01
3D241AC26
3D241AD41
3D241AD51
3D241AE02
3D241AE41
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3D241BB27
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3D241CC01
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3D241CC17
3D241CE06
3D241DA52Z
3D241DA58Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
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3D241DC43Z
3D246EA18
3D246GB04
3D246GB27
3D246HA15A
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3D246HC01
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3D246JB11
3D246JB12
3D246JB41
3D246JB53
5H181AA01
5H181CC04
5H181FF27
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL09
(57)【要約】
【課題】横滑り防止制御を無効化する操作のみで衝突回避制動制御も無効化されてしまうことの防止と、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性の担保との両立を図りながら、運転者の煩わしさ低減を図る。
【解決手段】本発明に係る車両制御システムは、車両を制動する制動部を用いて車両についての衝突回避制動制御と横滑り防止制御とを実行可能に構成された車両制御システムであって、衝突回避制動制御が開始された際の車両の挙動である基準車両挙動と、衝突回避制動制御の制御値とに基づいて、衝突回避制動制御の実行中に車両が横滑り挙動を来すか否かについての予測である横滑り予測を行う横滑り予測処理と、横滑り予測処理により横滑り挙動を来すとの予測結果が得られたことに応じて、横滑り防止制御が無効化されていれば横滑り防止制御を有効化する有効化処理と、を実行する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を制動する制動部を用いて前記車両についての衝突回避制動制御と横滑り防止制御とを実行可能に構成された車両制御システムであって、
一又は複数のプロセッサと、
前記一又は複数のプロセッサによって実行されるプログラムが記憶された一又は複数の記憶媒体と、を備え、
前記プログラムは、一又は複数の指示を含み、
前記指示は、前記一又は複数のプロセッサに、
前記衝突回避制動制御が開始された際の前記車両の挙動である基準車両挙動と、前記衝突回避制動制御の制御値とに基づいて、前記衝突回避制動制御の実行中に前記車両が横滑り挙動を来すか否かについての予測である横滑り予測を行う横滑り予測処理と、
前記横滑り予測処理により前記横滑り挙動を来すとの予測結果が得られたことに応じて、前記横滑り防止制御が無効化されていれば前記横滑り防止制御を有効化する有効化処理と、を実行させる
車両制御システム。
【請求項2】
前記横滑り予測処理では、
制動制御に対する前記制動部の応答特性に基づき前記横滑り予測を行う
請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記横滑り予測処理では、
前記基準車両挙動に基づき減速度の閾値を取得すると共に、前記衝突回避制動制御により出力された前記制御値と前記応答特性とに基づいて将来の減速度を予測し、予測した減速度と前記閾値との比較結果に基づいて前記横滑り予測を行う
請求項2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記指示は、前記一又は複数のプロセッサに、
前記有効化処理による前記横滑り防止制御の有効化後において、前記車両の挙動の推定結果に基づき前記横滑り防止制御を無効化する第一有効化後処理を実行させる
請求項1から請求項3の何れかに記載の車両制御システム。
【請求項5】
前記指示は、前記一又は複数のプロセッサに、
前記有効化処理による前記横滑り防止制御の有効化後において、前記横滑り防止制御の無効化を指示する操作入力が行われるまでの間、前記横滑り防止制御の有効状態を維持させる第二有効化後処理を実行させる
請求項1から請求項3の何れかに記載の車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を制動する制動部を用いて前記車両についての衝突回避制動制御と横滑り防止制御とを実行可能に構成された車両制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の制御として、例えばAEB(Autonomous Emergency Braking:衝突被害軽減ブレーキ)等の衝突回避制動制御と、横滑り防止制御(ESC:Electronic Stability Control)が知られている。
ここで言う衝突回避制動制御とは、ブレーキ機構等の制動部を用いて車両の衝突回避を図る制御を意味するものである。車両制動を伴う衝突回避制御全般を含む概念であり、上記したAEBを始めとして、AES(Automatic Emergency Steering:自動操舵回避)のような操舵回避を伴う制動制御も含み得る。
【0003】
衝突回避制動制御は、本来推奨されない車両の急制動や急旋回を実施する場合がある。この際の車両挙動の安定性を担保する目的で、横滑り防止制御が有効化されていることを、衝突回避制動制御の作動条件の一つとするということが行われている。
【0004】
しかしながら、上記のように横滑り防止制御が有効化されていることを衝突回避制動制御の作動条件の一つとしてしまうと、横滑り防止制御を無効化する操作のみによって、衝突回避制動制御も無効化されてしまうということになり、望ましくない。
【0005】
下記特許文献1に記載される技術では、横滑り防止制御が無効化されていても衝突回避制動制御を有効化することを前提として、衝突回避制動制御が発動したことを条件に、横滑り防止制御を有効化するという手法を採っている。これにより、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性が担保されるように図っている。
これは、横滑り防止制御を無効化するための操作のみで衝突回避制動制御が無効化されてしまうことの防止と、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性の担保との両立を図るものであると換言することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記特許文献1に記載の技術では、衝突回避制動制御が発動したことのみを条件として横滑り防止制御を有効化している。
しかしながら、その場合には、衝突回避制動制御が不必要に発動してしまうといった、衝突回避制動制御の誤動作の発生に対しても、横滑り防止制御が有効化されてしまうこととなってしまう。このように衝突回避制動制御の誤動作に反応して横滑り防止制御が有効化されてしまうと、運転者に煩わしさを感じさせてしまう虞がある。
例えば、横滑り防止制御が有効化されていることを示す表示が不必要に為されることになり、運転者に煩わしさを感じさせる虞がある。
また、運転者により横滑り防止制御が無効化されるシーンとしては、例えばサーキット走行等のスポーツ走行を行うシーンが想定されるが、その場合において、衝突回避制動制御の誤動作が発生した場合には、横滑り防止制御が不必要に有効化されてしまい、スポーツ走行におけるドライバビリティの悪化を招き運転者に煩わしさを感じさせてしまう虞がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み為されたものであり、横滑り防止制御を無効化する操作のみで衝突回避制動制御も無効化されてしまうことの防止と、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性の担保との両立を図りながら、運転者の煩わしさ低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る車両制御システムは、車両を制動する制動部を用いて前記車両についての衝突回避制動制御と横滑り防止制御とを実行可能に構成された車両制御システムであって、一又は複数のプロセッサと、前記一又は複数のプロセッサによって実行されるプログラムが記憶された一又は複数の記憶媒体と、を備え、前記プログラムは、一又は複数の指示を含み、前記指示は、前記一又は複数のプロセッサに、前記衝突回避制動制御が開始された際の前記車両の挙動である基準車両挙動と、前記衝突回避制動制御の制御値とに基づいて、前記衝突回避制動制御の実行中に前記車両が横滑り挙動を来すか否かについての予測である横滑り予測を行う横滑り予測処理と、前記横滑り予測処理により前記横滑り挙動を来すとの予測結果が得られたことに応じて、前記横滑り防止制御が無効化されていれば前記横滑り防止制御を有効化する有効化処理と、を実行させるものである。
上記構成によれば、横滑り防止制御が有効化されていることを衝突回避制動制御の作動条件に含まないようにした場合、換言すれば、横滑り防止制御を無効化する操作のみによって衝突回避制動制御が無効化されてしまうことがないようにした場合であっても、衝突回避制動制御中に横滑り防止制御が有効化され得るため、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性の担保を図ることが可能とされる。そして、上記構成によれば、衝突回避制動制御が行われることで車両が横滑り挙動を来すことが予測される場合にのみ、横滑り防止制御が有効化されるようにすることが可能となり、衝突回避制動制御が不必要に発動してしまう誤動作が生じた場合であっても横滑り防止制御が有効化されてしまうことの防止を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、横滑り防止制御を無効化する操作のみで衝突回避制動制御も無効化されてしまうことの防止と、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性の担保との両立を図りながら、運転者の煩わしさ低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態としての車両制御システムを備える車両の構成概要を示す図である。
【
図2】実施形態としての車両制御システムの要部の構成例の説明図である。
【
図3】実施形態における衝突回避制御の具体的な処理例を示したフローチャートである。
【
図4】予測制御ユニットが有する実施形態としての機能を示した機能ブロック図である。
【
図5】実施形態における将来の減速度の予測、及び閾値を用いた横滑り予測についての説明図である。
【
図6】実施形態としての挙動安定化制御を実現するための具体的な処理手順例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<1.装置構成>
以下、本発明に係る実施形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る実施形態としての車両制御システム1を備える車両100の構成概要を示す図であり、
図2は、実施形態としての車両制御システム1の要部の構成例の説明図である。なお、
図2では車両制御システム1の構成例と共に、車両100が有するステアリング機構30の構成例も併せて示している。
【0013】
本実施形態において車両100は、例えば四輪自動車として構成され、車輪の駆動源としてエンジン、走行用モータの少なくとも何れかを有している。つまり車両100としては、車輪の駆動源としてエンジン及び走行用モータのうち走行用モータのみを有するEV(Electric Vehicle)車、エンジンと走行用モータの双方を有するHEV(Hybrid Electric Vehicle)車、或いはエンジンのみを有するエンジン車としての構成を採り得る。
【0014】
車両100は、車両100を制動する制動部(不図示)と、車両を旋回自在とする操舵部(後述するステアリング機構30)とを備えている。
ここで言う制動部は、例えばディスクブレーキやドラムブレーキ等によるブレーキ機構のみでなく、EV車やHEV車として構成された場合における走行用モータによる回生ブレーキにより車両制動を行う構成を広く意味する。
また、操舵部としては、ステアリング機構30等、左右方向への車両旋回を自在とするための構成を広く意味する。
【0015】
また、車両100は、車外環境の認識機能を有する。具体的に本例における車両100は、後述する撮像ユニット10を備えることで車外環境の認識機能を有する。
【0016】
図1に示すように車両100に設けられた車両制御システム1は、本発明に係る制御を行う予測制御ユニット15を備えている。
また、車両制御システム1は、運転支援のための各種制御を行う運転支援制御部13を備え、この運転支援制御部13には、衝突回避制御ユニット14が設けられている。後述もするように衝突回避制御ユニット14は、車両100について、衝突回避制動制御を行う。ここで言う衝突回避制動制御とは、ブレーキ機構等の制動部を用いて車両の衝突回避を図る制御を意味するものである。車両制動を伴う衝突回避制御全般を含む概念であり、AEB(Autonomous Emergency Braking:衝突被害軽減ブレーキ)を始めとして、AES(Automatic Emergency Steering:自動操舵回避)のような操舵回避を伴う制動制御も含む。
【0017】
また、車両制御システム1には、ESC(Electronic Stability Control:横滑り防止制御)ユニット25が設けられている。ここで言うESC(横滑り防止制御)とは、制動部やエンジン出力(走行用モータを有する車両の場合はモータ出力制御も含む)の制御によって、旋回中の車両が横滑りせずに安定した姿勢を維持できるように図る制御を意味する。
【0018】
図2において、車両制御システム1には、衝突回避制御に係るセンサ類として、車速センサ16、動きセンサ17、実舵角センサ18、及び操舵トルクセンサ19が設けられる。
さらに、衝突回避制御の関連部として、表示部23及び発音部24が設けられる。
【0019】
車速センサ16は、車両100の速度を自車速vとして検出するセンサである。
動きセンサ17は、例えばヨーレートセンサや加速度センサ等、車両の動きを検出するセンサ類を包括的に示したものである。
【0020】
実舵角センサ18は、操舵輪40(後述する左右の操舵輪40L、40R)の実際の切れ角(例えば、車両100の前後方向軸とのなす角度)を実舵角として検出する。
操舵トルクセンサ19は、例えば、ステアリング軸32に対する入力トルクを検出することで、ステアリングホイール34を介して運転者が入力した操舵力(操舵入力トルク)を検出する。
【0021】
撮像ユニット10は、車両100において進行方向(前方)を撮像可能に設置された撮像部11L、撮像部11Rと、画像処理部12と、運転支援制御部13とを備えている。
撮像ユニット10には、車速センサ16、動きセンサ17、及び実舵角センサ18が接続され、撮像ユニット10内に設けられた画像処理部12や運転支援制御部13、及び予測制御ユニット15は、これらセンサによる検出信号を入力可能とされている。
【0022】
また、撮像ユニット10に対しては、車両100の運転者等の乗員からの操作入力を受け付ける操作部26が接続されている。これにより、画像処理部12や運転支援制御部13、及び予測制御ユニット15は、操作部26を介した運転者等からの操作入力情報に応じた処理を実行可能とされている。
【0023】
撮像部11L、11Rは、いわゆるステレオ法による測距が可能となるように、例えば車両100のフロントガラスの上部付近において車幅方向に所定間隔を空けて配置されている。撮像部11L、11Rの光軸は平行とされ、焦点距離はそれぞれ同値とされる。また、フレーム周期は同期し、フレームレートも一致している。
【0024】
撮像部11L、11Rの各撮像素子で得られた電気信号(撮像画像信号)はそれぞれA/D(Analog to Digital)変換され、画素単位で所定階調による輝度値を表すデジタル画像信号(撮像画像データ)とされる。撮像画像データは例えばカラー画像データとされる。
【0025】
画像処理部12は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びワークエリアとしてのRAM(Random Access Memory)等を備えたマイクロコンピュータを有して構成され、CPUがROMに格納されたプログラムに従った各種の処理を実行する。
画像処理部12は、撮像部11L、11Rが車両100の前方を撮像して得た撮像画像データとしての各フレーム画像データを内部メモリに格納していく。そして、各フレームとしての二つの撮像画像データに基づき、車外環境を認識するための処理、具体的には、車両100前方に存在する物体を認識するための各種処理を実行する。例えば、道路上に形成された規制線(例えば白線やオレンジ線等)の認識や、先行車両、歩行者、障害物、道路に沿って存在するガードレールや縁石、側壁などの各種立体物の認識を行う。
ここで、規制線は、車両の走行車線(走行レーン)を仕切る線を意味する。画像処理部12は、認識した規制線の情報に基づき、車両100の走行車線(自車走行車線)を認識する。
【0026】
画像処理部12は、車両100前方の立体物の認識にあたり、撮像部11L、11Rにより得られた一対の撮像画像データ(ステレオ画像)に対し、画像内の対応する位置同士のずれ量(つまり視差)から三角測量の原理によって距離情報を求める処理を行い、この距離情報に基づいて三次元の距離分布を表すデータ(距離画像)を生成する。そして、この距離画像を基に、公知のグルーピング処理等を行うことで、上述した規制線やガードレール、縁石、側壁物、歩行者や車両等の立体物の認識を行う。
【0027】
また、画像処理部12は、認識した立体物の位置を、車両100前後方向をz軸、車両100左右方向(横方向)をx軸としたx-z座標系の座標位置として表した立体物位置の情報として記憶する。具体的に、本例における画像処理部12は、特に先行車両や歩行者、障害物等については、立体物の後面の左端点と右端点の位置の情報を記憶する。さらに、この後面における左端点と右端点との中心位置を立体物の中心位置の情報として記憶する。
【0028】
さらに、画像処理部12は、認識した立体物について、立体物縦距離(立体物とのz軸方向における離間距離:以下「立体物縦距離dz」と表記)、立体物縦相対速度(立体物縦距離dzの単位時間あたりの変化量:以下「縦相対速度vrz」と表記)、立体物縦速度(「縦相対速度vrz」+「自車速v」:以下「縦速度vz」と表記)、立体物縦加速度(縦速度vzの微分値:以下「縦加速度az」と表記)の情報も計算し、記憶する。
また、画像処理部12は、認識した立体物について、立体物横距離(立体物とのx軸方向における離間距離:以下「立体物横距離dx」と表記)、立体物横相対速度(立体物横距離dxの単位時間あたりの変化量:以下「横相対速度vrx」と表記)、立体物横速度(「横相対速度vrx」+「車両100の横方向移動速度」:以下「横速度vx」と表記)、立体物横加速度(横速度vxの微分値:以下「横加速度ax」と表記)の情報も計算し、記憶する。
【0029】
画像処理部12は、認識した車両としての立体物のうち、特に自車走行車線上にある最も近い車両で、車両100と略同方向を向くものを先行車両として認識する。なお、先行車両の中で走行速度が略0km/hである車両は停止した先行車両として認識される。
【0030】
画像処理部12により得られる上記のような立体物の位置や速度、加速度の情報、自車走行車線の情報等の画像認識結果情報は、各種の運転支援制御に用いられる。
【0031】
運転支援制御部13は、画像処理部12による画像認識結果情報に基づき、各種運転支援のための制御を行う。
運転支援制御部13は、衝突回避制御ユニット14を備えている。衝突回避制御ユニット14は、例えばCPU、ROM及びRAM等を備えたマイクロコンピュータを有して構成され、ROMに格納されたプログラムに従った各種の処理を実行する。
具体的に、衝突回避制御ユニット14は、AEB(Autonomous Emergency Braking:衝突被害軽減ブレーキ)やAES(Automatic Emergency Steering:自動操舵回避)に係る処理を行う。
ここで、AEBやAESとしての衝突回避制御においては、車外環境の認識結果に基づき、物体との衝突リスクの大きさを表すリスク評価値を計算し、該リスク評価値が示すリスクの大きさに基づいて制動や操舵の介入タイミングを判定する。
具体的に、本例の衝突回避制御ユニット14は、画像処理部12で認識された立体物ごとに、上述した立体物縦距離dz及び縦相対速度vrzの情報に基づきTTC(Time To Collision:衝突余裕時間)としてのリスク評価値を計算する。ここで、TTCは、現在の縦相対速度vrzが維持された場合にあと何秒で衝突するかを表わす指標であり、具体的には、例えば下記式により計算される。
TTC=dz/vrz
このようなTTCは、その値が小さいほど衝突リスクが大きいことを表すリスク評価値となる。
【0032】
衝突回避制御ユニット14は、上記のようなTTCの値に基づき、画像処理部12で認識されている立体物のうち特定種類の立体物である対象物体について、衝突予測物体が存在するか否かの判定を行う。ここで、衝突予測物体とは、車両100との衝突が予測される物体を意味する。
本例において、上記「特定種類の対象物体」とは、人物や動物等の動く生物(以下「動生物」と表記する)を含む立体物を意味する。具体的に本例では、動生物を含む立体物のうち、先行車両として認識されている立体物を除く立体物を意味する。従って、衝突回避の対象物となる立体物には、上述したガードレールや縁石、側壁等も含まれる。
【0033】
衝突予測物体の有無の判定は、TTCに基づいて、例えば以下のようにして行う。
すなわち、「特定種類の対象物体」に該当する立体物のうち、車両100との横方向におけるラップ率が所定値以上の立体物であって且つTTCが所定閾値以下の立体物が存在するか否かを判定する。該当する立体物が存在しなければ、衝突回避制御ユニット14は、衝突予測物体がないとの判定結果を得る。
また、上記の判定により、該当する立体物が一つのみであった場合は、その立体物を衝突予測物体として決定する。該当する立体物が複数あった場合は、例えばそれら立体物のうちTTCの値が最小の立体物を衝突予測物体として決定する。
【0034】
衝突予測物体が存在する場合、衝突回避制御ユニット14は、衝突予測物体についてAEBを実行し、また必要に応じてAESを実行する。具体的には、先ずはAEBのみを開始し、AEBのみで衝突を回避できないと判定される場合には、AEBによる制動を継続させつつ、AESによる衝突回避のための操舵介入を行う。
【0035】
撮像ユニット10において、予測制御ユニット15は、例えばCPU、ROM及びRAM等を備えたマイクロコンピュータを有して構成され、ROMに格納されたプログラムに従った各種の処理を実行する。
予測制御ユニット15は、実施形態としての横滑り予測の処理や、横滑り予測結果に基づいてESCを有効化する処理等を行うが、これら実施形態としての処理の具体的な内容については改めて説明する。
【0036】
車両制御システム1には、車両100の制動制御を実現するための構成として、ブレーキ制御ユニット20及びブレーキ関連アクチュエータ21が設けられている。
ブレーキ制御ユニット20は、マイクロコンピュータを有して構成され、運転支援制御部13(衝突回避制御ユニット14を含む)からの指示に基づき、ブレーキ関連アクチュエータ21として設けられた各種のアクチュエータを制御する。ブレーキ関連アクチュエータ21としては、例えば、ブレーキブースターからマスターシリンダへの出力液圧やブレーキ液配管内の液圧をコントロールするための液圧制御アクチュエータ等、ブレーキ関連の各種のアクチュエータが設けられる。ブレーキ制御ユニット20は、運転支援制御部13からの指示に基づき、上記の液圧制御アクチュエータを制御して車両100の制動制御を行う。
【0037】
衝突回避制御ユニット14は、AEBの作動時には、ブレーキ制御ユニット20に制動指示を行うことで車両100を制動させる。
【0038】
また、衝突回避制御ユニット14は、AESの作動時においては、画像処理部12による画像認識結果に基づいて、目標とする操舵角(目標操舵角)を求める。そして、この目標操舵角に応じたステアリング指示電流値を、後述するEPS(Electric Power Steering:電動パワーステアリング)制御ユニット22に出力する。
【0039】
ESCユニット25は、横滑り防止制御を実現するための制御ユニットであり、例えばCPU、ROM及びRAM等を備えたマイクロコンピュータを有して構成され、ROMに格納されたプログラムに従った各種の処理を実行することで横滑り防止制御を実現する。
本例において、ESCユニット25には、横滑り防止制御に用いられる各種のセンサ、具体的には、車輪速センサやヨーレートセンサ等が設けられており、ESCユニット25のCPUは、これらセンサの検出情報に基づいてブレーキ制御ユニット20を制御することで、横滑り防止制御を実現する。
【0040】
ESCユニット25には、操作部26が接続されている。本例の車両100に対しては、操作部26を用いた操作として、ESCユニット25による横滑り防止制御を有効化する操作、及び無効化する操作を行うことが可能とされている。
ESCユニット25は、該操作に従って、横滑り防止制御を有効化、無効化する機能を有している。
【0041】
ここで、本明細書において、制御の有効化とは、当該制御を実行可能な状態(実行が許可された状態)とすることを意味する。制御の無効化とは、当該制御を実行不能な状態(実行が許可されない状態)とすることを意味する。
【0042】
運転支援制御部13は、運転者に対し運転支援に関する各種通知も行う。具体的に、運転支援制御部13は、表示部23や発音部24に対して表示情報や発音指示情報を供給する。
表示部23は、例えばマイクロコンピュータによる表示制御ユニットと表示デバイスを包括的に示している。表示デバイスとは、例えば運転者の前方に設置されたメータパネル内に設けられるスピードメータやタコメータ等の各種メータやMFD(Multi Function Display)、その他運転者に情報提示を行うためのデバイスである。表示部23では、衝突回避制御に関しては、物体衝突の危険性に係る警告表示や、AEB、AESの作動/停止を運転者に知覚させるための表示が行われる。また、表示部23では、ESCユニット25による横滑り防止制御が有効化されていること、無効化されていることの少なくとも何れか一方を示す表示を行うことが可能とされる。
【0043】
発音部24は、例えばマイクロコンピュータによる発音制御ユニットと、アンプ/スピーカ等の発音デバイスとを包括的に示している。発音部24では、衝突回避制御に関しては、警告音出力やAEB、AESの作動/停止を運転者に知覚させるための通知音等の出力が行われる。
【0044】
EPS制御ユニット22は、例えばマイクロコンピュータを有して構成され、運転支援制御部13(衝突回避制御ユニット14)からのステアリング指示電流値や操舵トルクセンサ19による検出信号に基づき、ステアリング機構30におけるEPSモータ42を制御する。
【0045】
EPS制御ユニット22は、操舵トルクセンサ19の検出信号から取得される運転者による操舵入力トルクの情報に基づき、該操舵入力トルクに応じた操舵のアシストトルクが得られるようにするためのステアリング指示電流値を求め、該指示電流値に基づきEPSモータ42を駆動する。これにより、運転者による操舵をアシストするパワーステアリング制御が実現される。
なお、運転者は、衝突回避制御ユニット14による操舵制御の実行時においても操舵操作を行うことが可能とされているが、このように操舵制御中に手動操舵が行われた際には、EPS制御ユニット22において衝突回避制御ユニット14からのステアリング指示電流値と上記のように求められたパワーステアリング制御のためのステアリング指示電流値とが合算され、合算された電流値に基づいてEPSモータ42が駆動される。
【0046】
操舵制御の対象となるステアリング機構30は、例えば次のように構成される。
ステアリング機構30は、ステアリング軸32が、図示しない車体フレームにステアリングコラム33を介して回動自在に支持されている。ステアリング軸32の一端は運転席側に延出され、このステアリング軸32の一端部には、ステアリングホイール34が取り付けられている。ステアリング軸32の他端部にはピニオン軸35が連結されている。
このピニオン軸35におけるピニオン(図示せず)が、ステアリングギヤボックス36に往復移動自在に挿通支持されているラック軸37に設けられたラックに噛合している。これにより、ラックアンドピニオン式のステアリングギヤ機構が構成されている。
【0047】
また、ラック軸37の左右両端はステアリングギヤボックス36から各々突出されており、該左右両端には、それぞれタイロッド38が連接されている。各タイロッド38は、それぞれラック軸37と連接される側とは逆側の端部にフロントナックル39が接続されている。それぞれのフロントナックル39は、操舵輪40L,40Rのうち対応する操舵輪40を支持すると共に、キングピン(図示せず)を介して車体フレームに支持されている。各フロントナックル39は、それぞれキングピンを中心に回動自在となるように対応するタイロッド38の端部に接続されている。
従って、ステアリングホイール34を操作し、ステアリング軸32、ピニオン軸35を回動させると、このピニオン軸35の回転によりラック軸37が左右方向へ移動し、その移動によりフロントナックル39がキングピンを中心に回動して、操舵輪40L、40Rが左右方向へ転舵される。
【0048】
また、ピニオン軸35には、アシスト伝達機構41を介してEPSモータ42が連設されており、このEPSモータ42により、ステアリングホイール34に加える操舵トルクのアシストや、目標の舵角となるような操舵トルクの付加が行われる。
【0049】
<2.衝突回避制動制御について>
ここで、上述のように本実施形態の車両制御システム1では、衝突予測物体が検出された場合は、AEBの制御が行われ、AEBによる車両100の制動のみでは衝突を回避できないと判定された場合は、AESによる操舵介入が行われる。
確認のため、このような衝突回避制御の具体的な処理例を
図3のフローチャートを参照して説明しておく。
【0050】
図3に示すように、衝突回避制御ユニット14は、先ずステップS11で、衝突予測物体を検出したか否かを判定する。すなわち、先に説明した手法により、画像処理部12で認識されている立体物のうち、前述したラップ率及びTTCに係る条件を満たす立体物の有無を判定し、該条件を満たす立体物がある場合には衝突予測物体が検出されたとの判定結果を得る。なお、先の説明のように、該条件を満たす立体物が複数ある場合には、TTCの値に基づいて一つの立体物を衝突予測物体として決定する。
【0051】
ステップS11に続くステップS12で衝突回避制御ユニット14は、ブレーキ介入を開始する。すなわち、AEBの制御を開始する。具体的には、ブレーキ制御ユニット20に対する指示を行って、AEBによる車両100の制動を開始させる。
【0052】
ステップS12に続くステップS13で衝突回避制御ユニット14は、ブレーキのみで衝突回避可能か否かを判定する。この判定処理は、例えば、公知の手法により実現可能である。一例としては、衝突予測物体についての現在の縦相対速度vrzと、縦相対速度vrzごとに衝突回避可能なTTCの値を示すマップ情報とに基づき行うことができる。
【0053】
ステップS13において、ブレーキのみで衝突回避可能と判定した場合、衝突回避制御ユニット14は
図3に示す一連の処理を終える。つまりこの場合は、AEBのみでの衝突回避が試みられる。
【0054】
一方、ステップS13において、ブレーキのみで衝突回避が不能であると判定した場合、衝突回避制御ユニット14はステップS14に進み、衝突回避のための目標操舵角を算出する。すなわち、衝突予測物体として認識された物体との衝突を回避するための目標操舵角を算出する。
【0055】
ステップS14で目標操舵角を算出したことに応じ、衝突回避制御ユニット14はステップS15に進み、操舵介入を開始する、すなわち、AESの制御を開始する。具体的には、衝突回避のための目標操舵角をEPS制御ユニット22に指示して、衝突回避のための操舵介入を開始させるものである。
【0056】
ステップS15で操舵介入を開始する処理を行ったことに応じて、衝突回避制御ユニット14は
図3に示す一連の処理を終える。
【0057】
<3.実施形態としての挙動安定化制御>
ここで、ESCユニット25による横滑り防止制御については、無効化することが望ましいケースがある。例えば、サーキット走行等のスポーツ走行時、泥濘地や雪道の脱出時等には、無効化できることが望ましい。このため、本例の車両制御システム1のように、横滑り防止制御を操作により有効化/無効化できるように構成することが有効である。
【0058】
一方で、前述した通り、AEB等の衝突回避制動制御は、本来推奨されない車両の急制動や急旋回を実施する場合があるため、車両挙動の安定性を担保する目的で、横滑り防止制御が有効化されていることを、衝突回避制動制御の作動条件の一つとするということが考えられるが、その場合には、横滑り防止制御を無効化する操作のみによって、衝突回避制動制御も無効化されてしまうということになり、望ましくない。
【0059】
そこで、横滑り防止制御を無効化するための操作のみで衝突回避制動制御が無効化されてしまうことの防止と、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性の担保との両立を図るために、横滑り防止制御が無効化されている場合において、衝突回避制動制御の発動に応じて横滑り防止制御を有効化するということが考えられる(前述した特許文献1参照)。
【0060】
しかしながら、単に衝突回避制動制御が発動したことのみを条件として横滑り防止制御を有効化してしまうと、衝突回避制動制御が不必要に発動してしまうといった、衝突回避制動制御の誤動作の発生に対しても、横滑り防止制御が有効化されてしまうこととなり、運転者に煩わしさを感じさせてしまう虞がある。
【0061】
そこで、本実施形態では、横滑り防止制御を無効化する操作のみで衝突回避制動制御も無効化されてしまうことの防止と、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性の担保との両立を図りながら、運転者の煩わしさ低減を図るべく、予測制御ユニット15において以下のような制御を行う。
【0062】
図4は、予測制御ユニット15が有する実施形態としての機能を示した機能ブロック図である。
図示のように予測制御ユニット15は、予測処理部F1、有効化処理部F2、及び有効化後処理部F3としての機能を有している。
【0063】
予測処理部F1は、衝突回避制動制御が開始された際の車両100の挙動である基準車両挙動と、衝突回避制動制御の制御値とに基づいて、衝突回避制動制御の実行中に車両100が横滑り挙動を来すか否かについての予測である横滑り予測を行う。
【0064】
有効化処理部F2は、横滑り予測処理部F1により横滑り挙動を来すとの予測結果が得られたことに応じて、横滑り防止制御が無効化されていれば、横滑り防止制御を有効化する。
【0065】
これら予測処理部F1及び有効化処理部F2を有することで、横滑り防止制御が有効化されていることを衝突回避制動制御の作動条件に含まないようにした場合、換言すれば、横滑り防止制御を無効化する操作のみによって衝突回避制動制御が無効化されてしまうことがないようにした場合であっても、衝突回避制動制御中に横滑り防止制御が有効化され得るため、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性の担保を図ることが可能とされる。そして、衝突回避制動制御が行われることで車両が横滑り挙動を来すことが予測される場合にのみ、横滑り防止制御が有効化されるようにすることが可能となるため、衝突回避制動制御が不必要に発動してしまう誤動作が生じた場合であっても、横滑り防止制御が有効化されてしまうことの防止を図ることが可能となる。
【0066】
ここで、本例において予測処理部F1は、横滑り予測を、制動制御に対する制動部の応答特性に基づき行う。
制動制御において、制動の制御値が出力されてから実際にその応答として該制御値に応じた制動力が発生するまでの間には、時間差が生じ得る。これは、制動部がブレーキ機構により構成される場合には、例えば液圧の制御値が出力されてから実際にブレーキキャリパにおいてその制御値に応じた液圧が発生するまでの応答時間差として表れる。
このような制御部の応答特性を考慮した横滑り予測を行うことで、横滑り防止制御を適切なタイミングで有効化することができるものとなり、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性向上を図ることができる。
【0067】
予測処理部F1による横滑り予測の具体例を説明する。
先ず、予測処理部F1は、衝突回避制動制御が開始されたことに応じて、車両100の挙動を推定する。これは、上述した基準車両挙動の推定と換言できるものである。
ここで推定する車両挙動としては、例えば車両100が旋回中である又は直進中である、どの程度の速度で走行中である等、車両100が横滑り挙動を示すか否かの判断基準となる挙動を推定する。具体的な例としては、車両100のヨーレートや前後左右の加速度等、動きセンサ17で検出できる情報や、車速センサ16で検出される車速の情報、実舵角センサ18で検出される実舵角の情報等に基づき、車両100が横滑り挙動を示すか否かの判断基準となる挙動を推定する。
【0068】
そして、予測処理部F1は、推定した基準車両挙動に基づき、減速度の閾値THrを取得する。
この閾値THrは、車両100の挙動が基準車両挙動であるときに、どの程度の減速度となると横滑りが生じるかという観点での減速度の閾値を意味する。すなわち、車両100の挙動が基準車両挙動であるときに、減速度が閾値THrを超えると、車両100が横滑り挙動を来すと推定できるように定めるべき閾値である。
基準車両挙動に基づき閾値THrを取得する手法については、例えば、基準車両挙動と閾値THrとの対応関係を示すテーブルを用いる手法を挙げることができる。この場合は、基準車両挙動の種別ごとに、対応する閾値THrを例えば実験やシミュレーション等を行った結果に基づいて定めておき、それら基準車両挙動の種別と閾値THrとの対応関係を示すテーブルを作成しておく。このテーブルを予測制御ユニット15のROM等、予測制御ユニット15のCPUが読出可能な記憶装置に記憶させておき、該テーブルと基準車両挙動とに基づいて対応する閾値THrを取得できるようにしておく。
【0069】
基準車両挙動に基づく閾値THrを取得した上で、予測処理部F1は、衝突回避制動制御により算出された制御値と制動部の応答特性とに基づいて、将来の減速度を予測し、予測した減速度と閾値THrとの比較結果に基づいて横滑り予測を行う。
【0070】
図5を参照し、将来の減速度の予測、及び閾値THrを用いた横滑り予測について説明する。
図5において、横軸は時間t、縦軸は減速度(m/s^2:「^」はべき乗を表す)でる。図中、符号先頭に「S」が付された点(丸印)は、衝突回避制動制御により出力された制御値を減速度で表したものである。ここで、衝突回避制御ユニット14が衝突回避制動制御により出力する制御値としては減速度そのものの値であることに限らず、ブレーキ液圧の値等の減速度以外の値である場合も考えられる。符号先頭に「S」が付された減速度(以下「減速度S」と表記する)は、そのような制御値を減速度により表したものである。
減速度Sについて、「Sb」は現在の処理サイクル(t=T)に出力された制御値に対応する減速度Sを、「Sa」は一つ前の処理サイクル(t=T-1)に出力された制御値に対応する減速度Sを表している。
【0071】
また、図中、符号先頭に「E」が付された点は、衝突回避制動制御により出力された制御値と、制動部の応答特性とに基づき予測される減速度(以下「予測減速度E」と表記する)を表している。具体的に、「Eb」で表す予測減速度Eは、処理サイクルT-1に出力された衝突回避制動制御の制御値と制動部の応答特性とに基づき予測される予測減速度Eを表し、「Ea」で表す予測減速度Eは、処理サイクルT-1の一つ前の処理サイクルに出力された衝突回避制動制御の制御値と制動部の応答特性とに基づき予測される予測減速度Eを表している。
【0072】
ここで、制動部の応答特性が既知であれば、図中の太線で表すような予測減速度Eのカーブ、換言すれば予測減速度Eの時間に対する変化軌跡の情報を、該応答特性と衝突回避制動制御の制御値とに基づいて適切に予測することができる。
このため予測処理部F1は、処理サイクルごとに出力される衝突回避制動制御の制御値と、予め記憶された制動部の応答特性を示す情報とに基づき、将来の減速度を予測する。図中、太点線で示す予測減速度Eのカーブは、処理サイクルTのタイミングで予測した予測減速度Eのカーブを表している。
【0073】
本例における予測処理部F1は、上記のように予測した予測減速度Eのカーブと、閾値THrとに基づき、車両100が横滑り挙動を来すか否かの予測を行う。具体的には、予測減速度Eのカーブにおいて、予測減速度Eが閾値THrを超えるか否かを判定する。
予測減速度Eが閾値THrを超えると判定した場合、予測処理部F1は車両100が横滑り挙動を来すとの予測結果を得、予測減速度Eが閾値THrを超えないと判定した場合、予測処理部F1は車両100が横滑り挙動を来さないとの予測結果を得る。
【0074】
例えば上記のような手法により、AEB等の衝突回避制動制御開始後における車両100の横滑り予測を実現することができる。
なお、上記で説明した手法はあくまで一例に過ぎず、横滑り予測の具体的な手法については種々考えられ、特定の手法に限定されるものではない。
例えば、横滑り予測においては、路面μの情報を用いることも考えられる。路面μは、例えば撮像部(11L、11Rの少なくとも何れか)による撮像画像の画像解析や車輪のスリップ率等に基づき推定することが考えられる。
また、横滑り予測においては、気温(外気温)の情報を用いることも考えられる。
【0075】
図4において、有効化処理部F2は、横滑り予測処理部F1により横滑り挙動を来すとの予測結果が得られたことに応じて、横滑り防止制御が無効化されていれば、横滑り防止制御を有効化するように、ESCユニット25に対する指示を行う。
これにより、衝突回避制御ユニット14によるAEB等の衝突回避制動制御が開始された以降、横滑り予測により車両100が横滑り挙動を来すと予測されたことに応じて、ESCユニット25による横滑り防止制御が有効化される。従って、衝突回避制動制御中における車両1000の挙動安定化を図ることができる。
【0076】
有効化後処理部F3は、有効化処理部F2による横滑り防止制御の有効化後において、横滑り防止制御の無効化に係る処理を行う。
本例における有効化後処理部F3は、有効化処理による横滑り防止制御の有効化後において、車両100の挙動の推定結果に基づき横滑り防止制御を無効化する第一有効化後処理を実行する。具体的に、本例の有効化後処理部F3は、横滑り防止制御の有効化後に、動きセンサ17により検出される加速度、ヨーレートの情報や、車速センサ16で検出される車速の情報、実舵角センサ18で検出される実舵角の情報等に基づき、車両100の挙動の推定を行う。具体的には、車両100の挙動が安定化したか否かの推定を行う。ここで言う挙動が安定化したとは、車両100が横滑り挙動を来す可能性の低い挙動となったことを意味するものである。
車両100の挙動が安定化したと推定された場合、有効化後処理部F3は、横滑り防止制御が無効化されるようにESCユニット25に対する指示を行う。
これにより、横滑り防止制御が無効化されていた状態で有効化処理部F2により横滑り防止制御が有効化された場合は、車両100の挙動が安定化したと推定されたことに応じて、横滑り防止制御を無効状態に戻すことができる。
【0077】
<4.処理手順>
図6のフローチャートを参照し、上記により説明した実施形態としての挙動安定化制御を実現するための具体的な処理手順例を説明する。
図6に示す処理は、予測制御ユニット15のCPUが、例えば予測制御ユニット15が備えるROM等の記憶媒体に格納されたプログラムに従って実行する。
【0078】
先ず、予測制御ユニット15はステップS101で、衝突回避制動制御開始を待機する。すなわち、衝突回避制御ユニット14による衝突回避制動制御の開始(本例ではAEBの開始:
図3のS12参照)を待機する。
【0079】
ステップS101に続くステップS102で予測制御ユニット15は、現在の車両挙動を推定する。これは、前述した基準車両挙動の推定と換言できるものである。なお、基準車両挙動の推定手法の例については既に説明済みであるため重複説明は避ける。
【0080】
ステップS102に続くステップS103で予測制御ユニット15は、現在の車両挙動に基づき減速度の閾値THrを取得する。前述のように本例では、車両挙動の種別と閾値THrとの対応関係を示すテーブルに基づいて、推定した車両挙動に対応する閾値THrを取得する。
【0081】
ステップS103に続くステップS104で予測制御ユニット15は、衝突回避制動制御の制御値と制動部の応答特性とに基づき将来の減速度を予測する。すなわち、例えば先の
図5を参照して説明した手法により、衝突回避制動制御の制御値と制動部の応答特性とに基づいて将来の減速度を予測する。
【0082】
ステップS104に続くステップS105で予測制御ユニット15は、予測した減速度が閾値THrを超えるか否かを判定する。これは、前述した横滑り予測に相当するものであり、本例では、前述した予測減速度Eのカーブにおいて、予測減速度Eが閾値THrを超えるか否かを判定する。
【0083】
ステップS105において、予測した減速度が閾値THrを超えないと判定した場合、予測制御ユニット15はステップS104に戻る。これにより、処理サイクルごとに、衝突回避制動制御の制御値と応答特性とに基づく将来の減速度の予測(S104)と、予測した減速度と閾値THrとに基づく横滑り予測(S105)とを繰り返し行うことが可能とされている。
【0084】
一方、ステップS105において、予測した減速度が閾値THrを超えると判定した場合、予測制御ユニット15はステップS106に進み、横滑り防止制御が無効状態であるか否かを判定し、無効状態である場合はステップS107で状態フラグをONとした上で、ステップS108に進んで横滑り防止制御を有効化する。すなわち、ESCユニット25に対して横滑り防止制御を有効化するように指示を行う。
予測制御ユニット15は、このステップS108の有効化処理の実行後、ステップS109に処理を進める。
【0085】
ここで、状態フラグは、衝突回避制動制御の開始時において横滑り防止制御が無効状態であったか否かを示すフラグであり、状態フラグ=ONが無効状態であったことを表し、初期値=OFFである。
【0086】
一方、ステップS106において、横滑り防止制御が無効状態ではなかったと判定した場合、予測制御ユニット15はステップS107及びS108の処理をパスし、ステップS109に処理を進める。
【0087】
ステップS109で予測制御ユニット15は、状態フラグがONであるか否かを判定する。状態フラグがONであった場合、予測制御ユニット15はステップS110に進み、制御により車両挙動が安定化するまで待機する。すなわち、前述した車両100の挙動が安定化したか否かの推定を、車両100の挙動が安定化したとの推定結果が得られるまで行うものである。
【0088】
ステップS110において、車両挙動が安定化したと推定した場合、予測制御ユニット15はステップS111に進んで横滑り防止制御を無効化する。そして、ステップS111に続くステップS112で予測制御ユニット15は、状態フラグをOFFとした上で、
図6に示す一連の処理を終える。
【0089】
また、予測制御ユニット15は、ステップS109で状態フラグがONでないと判定した場合には、
図6に示す一例の処理を終える。すなわち、衝突回避制動制御の開始時に横滑り防止制御が有効状態であった場合は、衝突回避制動制御中も継続して横滑り防止制御が有効状態とされる。
【0090】
<5.変形例>
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明としては上記した具体例に限定されるものではなく、多様な変形例としての構成を採り得る。
例えば、上記では、有効化後処理部F3が、第一有効化後処理として、横滑り防止制御の有効化後に車両100の挙動が安定化したと推定されたことに応じて横滑り防止制御を無効化する処理を行うものとしたが、これに代わる第二有効化後処理として、横滑り防止制御の有効化後において、横滑り防止制御の無効化を指示する操作入力が行われるまでの間、横滑り防止制御の有効状態を維持させる処理を行うことも考えられる。
一度、衝突回避制動制御中における横滑りが予測されたということは、車両100が走行中の路面状況等から、衝突回避制動制御が再度介入した際には横滑りが再度発生する可能性が高いと推定される。このため、上記のように横滑り防止制御を有効化した後においても有効状態を維持させることで、車両挙動の安定性向上を図ることができる。
【0091】
なお、有効化後処理部F3による横滑り防止制御の無効化は、衝突回避制動制御が終了したことに応じて行うようにすることも考えられる。
或いは、事前のユーザ設定(「無効状態に戻す/有効状態を継続」の設定)に従って有効化処理後における横滑り防止制御の無効化を行うことも考えられる。
【0092】
また、上記説明では、衝突回避制動制御に係る車外環境認識処理をカメラによる撮像画像に基づき行う例を挙げたが、当該車外環境認識処理は、例えばレーダーや地図ロケータ(車両位置を検出する位置センサと高精度地図情報とに基づく車両付近の物体認識)を用いて行うことも可能である。
【0093】
<6.実施形態のまとめ>
以上で説明してきたように、実施形態としての車両制御システム(同1)は、車両(同100)を制動する制動部を用いて車両についての衝突回避制動制御と横滑り防止制御とを実行可能に構成された車両制御システムであって、一又は複数のプロセッサと、一又は複数のプロセッサ(予測制御ユニット15のCPU)によって実行されるプログラムが記憶された一又は複数の記憶媒体(予測制御ユニット15のROM)と、を備える。
そして、プログラムは、一又は複数の指示を含み、指示は、一又は複数のプロセッサに、衝突回避制動制御が開始された際の車両の挙動である基準車両挙動と、衝突回避制動制御の制御値とに基づいて、衝突回避制動制御の実行中に車両が横滑り挙動を来すか否かについての予測である横滑り予測を行う横滑り予測処理と、横滑り予測処理により横滑り挙動を来すとの予測結果が得られたことに応じて、横滑り防止制御が無効化されていれば横滑り防止制御を有効化する有効化処理と、を実行させるものである。
上記構成によれば、横滑り防止制御が有効化されていることを衝突回避制動制御の作動条件に含まないようにした場合、換言すれば、横滑り防止制御を無効化する操作のみによって衝突回避制動制御が無効化されてしまうことがないようにした場合であっても、衝突回避制動制御中に横滑り防止制御が有効化され得るため、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性の担保を図ることが可能とされる。そして、上記構成によれば、衝突回避制動制御が行われることで車両が横滑り挙動を来すことが予測される場合にのみ、横滑り防止制御が有効化されるようにすることが可能となり、衝突回避制動制御が不必要に発動してしまう誤動作が生じた場合であっても横滑り防止制御が有効化されてしまうことの防止を図ることが可能となる。
従って、本実施形態によれば、横滑り防止制御を無効化する操作のみで衝突回避制動制御も無効化されてしまうことの防止と、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性の担保との両立を図りながら、運転者の煩わしさ低減を図ることができる。
【0094】
また、実施形態としての車両制御システムにおいて、横滑り予測処理では、制動制御に対する制動部の応答特性に基づき横滑り予測を行う。
これにより、衝突回避制動制御について、例えば制動の制御値が出力されてから該制御値に応じた液圧がブレーキキャリパに実際に発生するまでの応答時間等、制動部の応答特性に基づいて横滑り予測を行うことが可能となる。
従って、横滑り予測の正確性向上を図ることができ、横滑り防止制御を適切なタイミングで有効化することができるものとなり、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性向上を図ることができる。
【0095】
さらに、実施形態としての車両制御システムにおいて、横滑り予測処理では、基準車両挙動に基づき減速度の閾値を取得すると共に、衝突回避制動制御により出力された制御値と応答特性とに基づいて将来の減速度を予測し、予測した減速度と閾値との比較結果に基づいて横滑り予測を行う。
これにより、例えば車両が旋回中である又は直進中である、どの程度の速度で走行中でるか等の基準車両挙動の情報に基づいて、その車両挙動のときにどの程度の減速度となると横滑りが生じるかという観点での減速度の閾値を得ることが可能となると共に、衝突回避制動制御により出力された制御値と制動部の応答特性とに基づいて適切に予測された将来の減速度が、当該閾値を超えるか否かの判定により横滑り予測を適切に行うことが可能となる。
従って、横滑り予測の正確性向上を図ることができ、横滑り防止制御を適切に有効化することができるものとなり、衝突回避制動制御中における車両挙動の安定性向上を図ることができる。
【0096】
さらにまた、実施形態としての車両制御システムにおいて、指示は、一又は複数のプロセッサに、有効化処理による横滑り防止制御の有効化後において、車両の挙動の推定結果に基づき横滑り防止制御を無効化する第一有効化後処理を実行させる。
これにより、運転者の意図に反して横滑り防止制御が有効化される期間が最小限となるように図ることができ、運転者の違和感緩和を図ることができる。
【0097】
また、実施形態としての車両制御システムにおいて、指示は、一又は複数のプロセッサに、有効化処理による横滑り防止制御の有効化後において、横滑り防止制御の無効化を指示する操作入力が行われるまでの間、横滑り防止制御の有効状態を維持させる第二有効化後処理を実行させる。
一度、衝突回避制動制御中における横滑りが予測されたということは、車両が走行中の路面状況等から、衝突回避制動制御が再度介入した際には横滑りが再度発生する可能性が高いと推定される。このため、上記のように横滑り防止制御を有効化した後においても有効状態を維持させる。
これにより、車両挙動の安定性向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0098】
100 車両
1 車両制御システム
10 撮像ユニット
11L、11R 撮像部
12 画像処理部
13 運転支援制御部
14 衝突回避制御ユニット
15 予測制御ユニット
16 車速センサ
17 動きセンサ
18 実舵角センサ
19 操舵トルクセンサ
20 ブレーキ制御ユニット
21 ブレーキ関連アクチュエータ
22 EPS制御ユニット
23 表示部
24 発音部
25 ESCユニット
26 操作部
30 ステアリング機構
F1 予測処理部
F2 有効化処理部
F3 有効化後処理部