(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008144
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】走行シナリオ検索装置およびシミュレーションシステム
(51)【国際特許分類】
G06F 11/34 20060101AFI20240112BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
G06F11/34 157
G08G1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109747
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝彦
【テーマコード(参考)】
5B042
5H181
【Fターム(参考)】
5B042HH07
5B042MA08
5B042MA14
5B042MC40
5H181AA01
5H181EE02
(57)【要約】
【課題】シミュレーションによって模擬的に生成される交通流から、事前に検証したい走行シナリオを検索する。
【解決手段】走行シナリオ検索装置は、道路ネットワーク上の交通流を模擬的に生成する交通流シミュレータ30と、交通流シミュレータ30によって生成された交通流に含まれる各車両モデルの挙動を表す時系列データを交通流ログデータとして生成する交通流ログデータ生成部222と、交通流ログデータ生成部222によって生成された交通流ログデータを解析し、交通流に含まれる車両モデルの中から、特定の走行シナリオに合致する特定車両モデルを検索する交通流ログデータ解析部223とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路ネットワーク上の交通流を模擬的に生成する交通流シミュレータと、
前記交通流シミュレータによって生成された交通流に含まれる各車両モデルの挙動を表す時系列データを交通流ログデータとして生成する交通流ログデータ生成部と、
前記交通流ログデータ生成部によって生成された交通流ログデータを解析し、前記交通流に含まれる車両モデルの中から、特定の走行シナリオに合致する特定車両モデルを検索する交通流ログデータ解析部と、
を備える、走行シナリオ検索装置。
【請求項2】
前記交通流ログデータ解析部は、前記特定の走行シナリオに合致する特定車両モデルが複数存在する場合、前記複数の特定車両モデルのうち時系列的に最も早いタイミングで出発した車両モデルを、前記特定車両モデルとして選択する、請求項1に記載の走行シナリオ検索装置。
【請求項3】
前記交通流ログデータ解析部は、前記交通流に含まれる各車両の時系列走行軌跡を作成し、前記特定の走行シナリオに関連する基準シナリオパターンに合致する前記時系列走行軌跡同士を比較することにより、前記特定の走行シナリオが成立するかを判定する、請求項1または2に記載の走行シナリオ検索装置。
【請求項4】
前記交通流シミュレータは、個々の車両モデルが設定されたパラメータ範囲内でランダムに振る舞う交通流を生成する、請求項1または2に記載の走行シナリオ検索装置。
【請求項5】
車両の自動運転機能を机上検証するためのシミュレーションシステムであって、
請求項1に記載の走行シナリオ検索装置と、
自動運転機能を模擬する検証車両モデルを生成する検証シミュレータと、
前記検証シミュレータと前記交通流シミュレータとを連携して作動させる管理装置と、
を備え、
前記管理装置は、前記走行シナリオ検索装置によって検索された前記特定車両モデルを置き換え車両モデルとして指定し、前記交通流シミュレータによって生成される交通流において、前記検証シミュレータの前記検証車両モデルを、前記置き換え車両モデルに置き換えて模擬的に走行させる、シミュレーションシステム。
【請求項6】
前記管理装置は、
前記検証シミュレータから取得される前記検証車両モデルの挙動を表す時系列データを検証ログデータとして生成する検証ログデータ生成部と、
前記検証ログデータ生成部によって生成された検証ログデータを解析し、前記検証車両モデルが前記特定の走行シナリオ通りの振る舞いをしたか否かを判定する検証ログデータ解析部と、
を有する、請求項5に記載のシミュレーションシステム。
【請求項7】
前記管理装置は、前記検証ログデータ解析部において前記検証車両モデルが前記特定の走行シナリオ通りの振る舞いをしなかったと判定された場合、再度、前記検証車両モデルを前記置き換え車両モデルに置き換えて模擬的に走行させる、請求項6に記載のシミュレーションシステム。
【請求項8】
前記管理装置は、前記検証ログデータ解析部において前記検証車両モデルが前記特定の走行シナリオ通りの振る舞いをしたと判定された場合に、前記検証車両モデルの前記検証ログデータに基づいて、前記特定の走行シナリオにおける前記自動運転機能を検証する機能検証部をさらに有する、請求項6または7に記載のシミュレーションシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行シナリオ検索装置およびシミュレーションシステムに関し、さらに詳しくは、シミュレーションによって生成される交通流中から特定の走行シナリオに合致する車両モデルを見つけ出す検索装置、および検索した車両モデルを自動運転機能を模擬する車両モデルに置き換えて模擬的に走行させるシミュレーションシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の前後左右の動きを長時間制御することにより、車両を車線内に保持し、所定の車速以下で走行させる自動車線維持システム(ALKS;Automated Lane Keeping System)が知られている。ALKSは、自車位置認識、車速・経路目標生成、車速制御・経路追従制御および自動操舵を組み合わせることで実現される。ALKSを含む高度運転支援システム(ADAS;Advanced Driver Assistance System)や自動運転(AD;Automated Driving)の機能・性能を検証する手法としては、テストコースでのテスト、実路でのテストなどに加えて、シミュレーションツールを用いて、ADASまたはADの制御モデルを搭載した車両モデルの走行シミュレーションを行う方法がある。例えば、走行シミュレーションにおいては、複数の交通参加者の振る舞いをモデル化した交通流を生成し、生成した交通流の中でADASまたはADの制御モデルを搭載した車両モデルを走行させる。
【0003】
例えば、特許文献1には、様々な状況における自動運転の機能をシミュレーションにより確認する運転シミュレーションシステムにおいて、基準車両を基準とした複数の他車両の初期状態と、各他車両の動作定義を含む走行シナリオに基づいて、各他車両について初期状態からの状態遷移を管理し、多数の他車両によりシミュレーション内の交通流を制御するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シミュレーションによりADASまたはADの機能・性能を検証する方法としては、上記特許文献1のように予め他の交通参加者の車速、位置、経路等を規定したシナリオを作成し、規定されたシナリオの中でADASまたはADの制御モデルを搭載した車両モデルを走行させる方法と、他の交通参加者の時間当たりの出現台数、速度範囲などのみを定義してランダムな交通流を生成し、その中でADASまたはADの制御モデルを搭載した車両モデルを走行させる方法とが考えられる。
【0006】
前方車両に追従するシチュエーションや、追い越しを行うシチュエーションなどの特定の走行シナリオにおけるADASまたはADの機能を検証するためには、検証したい走行シナリオがシミュレーションツールによって模擬的に生成される交通流中に含まれている必要がある。しかし、上述したようにランダムな交通流を生成する手法においては、交通参加者同士の相互の関係により各交通参加者の挙動が変化するため、どのような走行シナリオが生成されるかを事前に予測することができない。したがって、シミュレーションを実行しても、生成された交通流中に、検証したい走行シナリオが含まれていないというケースがあり得る。
【0007】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、シミュレーションによって模擬的に生成される交通流から、事前に検証したい走行シナリオを検索することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、走行シナリオ検索装置は、道路ネットワーク上の交通流を模擬的に生成する交通流シミュレータと、前記交通流シミュレータによって生成された交通流に含まれる各車両モデルの挙動を表す時系列データを交通流ログデータとして生成する交通流ログデータ生成部と、前記交通流ログデータ生成部によって生成された交通流ログデータを解析し、前記交通流に含まれる車両モデルの中から、特定の走行シナリオに合致する特定車両モデルを検索する交通流ログデータ解析部とを備える。
本発明の一態様によれば、車両の自動運転機能を机上検証するためのシミュレーションシステムは、上記走行シナリオ検索装置と、自動運転機能を模擬する検証車両モデルを生成する検証シミュレータと、前記検証シミュレータと前記交通流シミュレータとを連携して作動させる管理装置と、を備え、前記管理装置は、前記走行シナリオ検索装置によって検索された前記特定車両モデルを置き換え車両モデルとして指定し、前記交通流シミュレータによって生成される交通流において、前記検証シミュレータの前記検証車両モデルを、前記置き換え車両モデルに置き換えて模擬的に走行させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、模擬的に生成される交通流から、事前に検証したい走行シナリオを検索することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態におけるシミュレーションシステムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図2(a)~(d)は、走行シナリオの例を示す図である。
【
図3】
図3は、シミュレーションシステムにおける処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図4】
図4(a)~(d)は、特定の走行シナリオを判定するための基準シナリオパターンを例示する図である。
【
図5】
図5(a)~(d)は、特定の走行シナリオに合致する車両モデルを探索する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に説明する本発明の一実施の形態においては、例えば車両の前後(縦)方向および左右(横)方向の動きを自動で制御してレーンキープする自動車線維持システム(ALKS)を有する高度運転支援システム(ADAS)や自動運転(AD)の機能・性能を検証する方法として、シミュレーションにより、ランダムな交通流の中でADASまたはADの制御モデルを搭載した車両モデルを走行させる方法を用いる。ここで、高度運転支援システム(ADAS)は、自動運転(AD)という概念/機能の一部と考えることができるので、以下では、両者をまとめて自動運転機能と呼ぶ。
【0012】
具体的には、予め他の交通参加者の振る舞い、例えば車両の時間当たりの出現台数、車速、前車追従時の車間距離などのパラメータに幅を持たせた交通流モデルを設定してランダムな交通流を模擬的に生成する。そして、生成したランダムな交通流の中で自動運転機能の制御モデルを搭載した車両モデルを模擬的に走行させることにより、自動運転制御システムの機能・性能の机上検証を行う。ここで、ランダムな交通流とは、個々の車両が設定したパラメータ範囲内でランダムに振舞う交通流を意味し、個々の車両がどのように振る舞うかを事前に予測することはできない。ランダム交通流において、個々の車両モデルは、設定されたパラメータ範囲内で自由に振る舞う。
【0013】
ランダム交通流は、例えば、交通参加者を粒子としてモデル化し、交通参加者同士の相互関係に基づいて、個々の交通参加者の位置や速度等を含むミクロ変数を算出することにより生成することができる。このように生成される交通流はミクロ交通流と呼ばれる。ミクロ交通流中の個々の車両は、道路ネットワーク、信号、他の交通参加者の振る舞いなどの周囲環境によって、算出されたミクロ変数に応じてランダムな動きをする。
【0014】
すなわち、ランダム交通流において、個々の車両モデルは予め一義的に規定された動作を行うのではなく、車速、前方・後方視認距離、車間距離、減速度など、設定されたパラメータの範囲内で、他の車両モデルとの相互関係を保持しながら走行して交通流を生成する。したがって、設定されたパラメータの範囲が同じであっても、個々の車両モデルはパラメータ範囲内で自由に振る舞うため、シミュレーション毎に異なる交通流が生成される。
【0015】
例えば追い越しなどの特定の走行シナリオにおいて自動運転機能の制御モデルを搭載した車両モデルの振る舞いを検証するためには、シミュレータによって生成される交通流中に、検証したい走行シナリオが含まれている必要がある。しかし、シミュレータによって生成されるランダム交通流中で車両モデルを走行させる場合、シミュレーションを行っても検証したい走行シナリオがランダム交通流に含まれていなかったという事態が想定される。
【0016】
そこで、本発明の一実施の形態においては、ランダム交通流を生成する交通流シミュレータと機能・性能の検証を行うための検証シミュレータの2つのシミュレータを含むシミュレーションプラットフォームを構成し、ランダム交通流中から事前に検証したい走行シナリオを検索する。そして、検証したい走行シナリオに含まれることが確定している車両モデルを、検証用の車両モデルに置き換えてシミュレーションを行う。
【0017】
「走行シナリオ検索装置およびシミュレーションシステムの構成」
以下に、図面を参照して、本発明の一実施の形態に係る走行シナリオ検索装置およびシミュレーションシステムについて詳細に説明する。
図1に、一実施の形態におけるシミュレーションシステムの概略構成を示す。
【0018】
シミュレーションシステム100は、自動運転機能の機能・性能を検証するための走行シナリオを含むシナリオリストを格納するシナリオデータベース10、走行シナリオを管理し、シミュレーションの実行指示から結果保存までを行うシミュレーション実行管理ツール(以降、実行管理ツールまたは管理装置とも呼ぶ)20、および実行管理ツール20からの実行指示に基づいてシミュレーションを行う交通流シミュレータ30と検証シミュレータ40を含むシミュレーションツールを備える。実行管理ツール20、交通流シミュレータ30および検証シミュレータ40は、互いに信号線で接続されている。
【0019】
シミュレーションシステム100は、自動運転機能を搭載した車両モデルの機能・性能を検証するためのシミュレーションプラットフォームとして構成され、交通流シミュレータ30と検証シミュレータ40とを連携し、連携シミュレーションを実行するように構成されている。すなわち、自動運転機能を搭載した車両モデルの機能・性能検証は、交通流シミュレータ30と検証シミュレータ40の連携シミュレーションとして実行される。
【0020】
シナリオデータベース10は、自動運転機能の機能・性能を検証するための複数の走行シナリオを格納する記録媒体である。ここで、走行シナリオとは、道路ネットワーク上の交通参加者の振る舞い(挙動)を時系列で表現したものであり、交通参加者同士の相互関係によってさまざまな走行シナリオが生成され得る。各走行シナリオにはシナリオ名称とシナリオIDが与えられ、シナリオデータベース10においてリスト化されて保存されている。また、シナリオデータベース10には、後述する走行シナリオの合致判定のための基準シナリオパターンが各走行シナリオに関連付けられて保存されている。
【0021】
図2(a)~(d)に、検証対象となり得る走行シナリオの例を示す。
図2(a)~(d)は、それぞれ、追い越しシナリオ、他車カットインシナリオ、他車カットアウトシナリオ、および追従シナリオの概要を示している。例えば、
図2(a)に示す追い越しシナリオは、片側2車線の直線路において後方車両Aが前方車両Bを追い越すシチュエーションであり、「直線路、片側2車線、追い越し」というシナリオ名称およびID-1というシナリオIDが与えられている。
【0022】
追い越しシナリオは、例えば、後方車両を自車両、前方車両を先行車、左側の車線を第1車線、右側の車線を第2車線と定義して、(i)第1車線維持→(ii)先行車追従→(iii)右車線変更→(iv)第2車線維持→(v)左車線変更→(vi)第1車線維持、と記述される。なお、ここでは、車両通行区分が左側通行である場合を例として説明している。
【0023】
図2(b)に示す他車カットインシナリオは、片側2車線の直線路において左隣接車線を走行する自車両Dの前方に、右隣接車線から他車両Cがカットインしてくるシチュエーションであり、シナリオ名称は「直線路、片側2車線、カットイン」、シナリオIDはID-2である。
【0024】
図2(c)に示す他車カットアウトシナリオは、片側2車線の直線路において左隣接車線を走行する自車両Fの前方の他車両Eがカットアウトしていくシチュエーションである。
図2(c)に示す例においては、カットアウトする他車両Eの前方に、別の前方車両E0が存在している。シナリオ名称は、「直線路、片側2車線、カットアウト」、シナリオIDはID-3である。
【0025】
図2(d)に示す追従シナリオは、片側2車線の直線路において自車両Gが前方を走行する他車両Hに追従して車線維持するシチュエーションであり、シナリオ名称は「直線路、片側2車線、追従」、シナリオIDはID-4である。他車カットインシナリオ、他車カットアウトシナリオ、および追従シナリオも、上述した追い越しシナリオと同様に、自車両と他車両を含む周囲環境の時系列的な遷移が記述される。
【0026】
交通流シミュレータ30は、道路ネットワークを含む周囲環境モデルを設定し、道路ネットワーク上の交通流を模擬的に生成するように構成されたシミュレーションツールである。交通流シミュレータ30は、例えば、コンピュータ、すなわち、プログラム及びデータを記憶したROM、演算処理を行うCPU、前記プログラム及びデータを読出し、動的データや演算処理結果を記憶するRAM、および、入出力インターフェースなどで構成される。
【0027】
交通流シミュレータ30は、ROMに格納されたプログラムを実行することにより、交通流モデルに基づくランダム交通流を生成する。具体的には、車両や歩行者などの交通参加者の振る舞い(挙動)が、車両の流れや人の行動を理論的に表現した交通工学モデルに基づく交通流として生成される。交通流シミュレータ30によって生成される交通流は、上述したように、個々の車両モデルが、車速、前方・後方視認距離、車間距離、減速度などを含む設定されたパラメータの範囲内で、他の車両との相互関係を保持しながらランダムに走行する、ランダム交通流である。
【0028】
検証シミュレータ40は、自動運転機能の機能・性能を検証するために、自動運転機能を搭載した車両モデルを生成して模擬的に走行させるように構成されたシミュレーションツールである。検証シミュレータ40は、センサモデル、車両制御モデル、車両モデル、および道路ネットワークを含む周囲環境モデルを設定し、交通流シミュレータ30との連携シミュレーションを行う。
【0029】
検証シミュレータ40は、例えば、コンピュータ、すなわち、プログラム及びデータを記憶したROM、演算処理を行うCPU、前記プログラム及びデータを読出し、動的データや演算処理結果を記憶するRAM、および、入出力インターフェースなどで構成される。検証シミュレータ40は、ROMに格納されたプログラムを実行することにより、交通流シミュレータ30によって生成された交通流中において、自動運転機能を搭載した車両モデルを模擬的に走行させる。
【0030】
実行管理ツール20は、交通流シミュレータ30および検証シミュレータ40を制御して連携シミュレーションの実行・管理を行うコントローラである。実行管理ツール20は、コンピュータ、すなわち、プログラム及びデータを記憶したROM、演算処理を行うCPU、前記プログラム及びデータを読出し、動的データや演算処理結果を記憶するRAM、および、入出力インターフェースなどで構成され、シミュレーションの実行指示から結果保存までを行い、シミュレーションシステム100の全体の制御を行う。
【0031】
実行管理ツール20は、走行シナリオ管理部21、交通流シミュレータ30の制御を行う交通流管理部22、交通流シミュレータ30と検証シミュレータ40の連携シミュレーションの制御を行う連携管理部23、および連携シミュレーションの結果に基づいて自動運転機能を搭載した車両モデルの機能・性能を検証する機能検証部24を含む。
【0032】
走行シナリオ管理部21は、シナリオデータベース10が保存するリストと同様の走行シナリオのリストを有している。走行シナリオ管理部21は、例えば不図示の入力部材を介してユーザなどによって検証したい走行シナリオが選択されると、選択された特定の走行シナリオをシナリオデータベース10から取得する。
【0033】
交通流管理部22は、設定指示部221、交通流ログデータ生成部222、および交通流ログデータ解析部223を含む。設定指示部221は、交通流シミュレータ30に対して周囲環境モデルの設定、および交通流生成の指示を行い、シミュレーションを実行させる。
【0034】
交通流シミュレータ30のシミュレーション結果は交通流管理部22に入力される。交通流ログデータ生成部222は、交通流シミュレータ30によって生成された交通流に含まれる各車両モデルの挙動を表す時系列データとして交通流ログデータを生成する。交通流ログデータ解析部223は、生成された交通流ログデータに基づいて、交通流中に含まれるシナリオパターンを抽出・解析し、交通流中に特定の走行シナリオが包含されているか否かを判定する。
【0035】
なお、交通流管理部22と交通流シミュレータ30は、協働して特定の走行シナリオの検索を行う走行シナリオ検索装置として機能する。走行シナリオ検索装置による特定の走行シナリオの検索方法の詳細は、後述する。
【0036】
連携管理部23は、設定指示部231、検証ログデータ生成部232、および検証ログデータ解析部233を含む。設定指示部231は、交通流シミュレータ30と検証シミュレータ40に対して周囲環境モデルの設定を指示するとともに、検証シミュレータ40に対して検証対象とする自動運転機能を搭載した車両モデル(以降、検証車両モデルとも呼ぶ)、および検証車両モデルのセンサモデルと車両制御モデルの設定を指示する。なお、周囲環境モデルに含まれる道路ネットワークは、交通流シミュレータ30と検証シミュレータ40とで共通のものを使用する。
【0037】
設定指示部231は、さらに、交通流シミュレータ30によって生成された交通流中の特定の走行シナリオに含まれる車両モデル、すなわち、特定の走行シナリオを実行することが確定している車両モデル(以降、特定車両モデルとも呼ぶ)を指定して、検証車両モデルと置き換え、交通流シミュレータ30と検証シミュレータ40の連携シミュレーションの実行を指示する。
【0038】
連携シミュレーションの結果は連携管理部23に入力される。検証ログデータ生成部232は、交通流シミュレータ30によって生成された交通流中を模擬的に走行する検証車両モデルの挙動を表す時系列データとして検証ログデータを生成する。検証ログデータ解析部233は、生成された検証ログデータに基づいて、検証車両モデルの振る舞いを解析し、検証車両モデルが特定の走行シナリオ通りの振る舞いをしたか否かを判定する。
【0039】
機能検証部24は、連携シミュレーションの結果に基づいて、特定の走行シナリオにおける自動運転機能の機能・性能を検証する。実行管理ツール20において生成されたログデータ、シミュレーション結果、および機能・性能の検証結果などは、例えば不図示のメモリに保存される。
【0040】
「走行シナリオ検索装置およびシミュレーションシステムの動作」
図3のフローチャートを参照して、本実施の形態によるシミュレーションシステム100によって実行される処理の流れを説明する。シミュレーションシステム100においては、(1)検証したい特定の走行シナリオの指定(S1)、(2)交通流シミュレーションの条件設定(S2)、(3)交通流生成(S3)、(4)交通流ログデータ生成(S4)、(5)交通流ログデータ解析(S5)、(6)特定の走行シナリオの合致判定(S6)、(7)置き換え車両の決定(S7)、(8)連携シミュレーションの条件設定(S8)、(9)連携シミュレーションの実行(S9)、(10)検証ログデータの生成(S10)、(11)検証車両モデルの振る舞い解析(S11)、(12)特定の走行シナリオの実行判定(S12)、(13)機能・性能の検証(S13)、の各処理が行われる。
【0041】
シミュレーション100における処理の全体は、実行管理ツール20で制御されるが、とくに、上記S2~S6の処理は交通流管理部22で制御される特定の走行シナリオの検索に関し、上記S7~S12の処理は連携管理部23で制御される特定の走行シナリオの実行判定に関する。以下、各処理について説明する。
【0042】
(1)検証したい特定の走行シナリオの指定(S1)
まず、自動運転機能の機能・性能を検証したい特定の走行シナリオが指定される。例えばユーザによって、不図示のディスプレイに表示された走行シナリオのリストの中から、不図示の入力部材を介して、検証したい特定の走行シナリオの名称またはシナリオIDが選択される。走行シナリオ管理部21は、選択された特定の走行シナリオと、後述する走行シナリオ合致判定のための基準シナリオパターンを、シナリオデータベース10から取得する。
【0043】
(2)交通流シミュレーションの条件設定(S2)
交通流管理部22の設定指示部221は、交通流シミュレータ30による交通流生成のための周囲環境条件を設定する。交通流生成のための周囲環境条件は、例えば、不図示の入力部材の操作を介してユーザによって選択される。
【0044】
具体的には、道路ネットワーク、信号ステータス、交通流シミュレーションの実行時間、および交通流モデルのステータスなどが設定される。道路ネットワークは、例えば、交通流が生成される道路の種別、車線数、交差点の有無などを含み、S1で選択された特定の走行シナリオに応じた道路構造に関する条件が設定される。信号ステータスは、例えば道路ネットワーク上に存在する交通信号機の点灯パターンを含む。
【0045】
交通流シミュレーションの実行時間は、交通流シミュレーションを実行する時間の長さであり、特定の走行シナリオの実行に必要な時間長さを考慮して、例えば1分程度に設定することができる。交通流モデルは、例えば、全ての交通参加者(例えば車両)の時間当たりの出現台数、出発点(位置)と到着点(位置)、初期車速、前方・後方視認距離、車間距離、減速度などのパラメータおよびその範囲を含む。
【0046】
(3)交通流生成(S3)
交通流管理部22の設定指示部221は、S2で設定された周囲環境条件で交通流を生成するように、交通流シミュレータ30にシミュレーション実行指示を送信する。交通流中の各車両モデルは、設定されたパラメータ範囲内で、他の車両モデルとの相互関係を保持しながら走行する。これにより、交通流シミュレータ30によって、各車両を粒子とするランダムなミクロ交通流が生成される。
【0047】
(4)交通流ログデータ生成(S4)
交通流管理部22の交通流ログデータ生成部222は、交通流シミュレータ30から、S3で模擬的に生成された交通流に含まれる各車両モデルの挙動に関するデータを取得し、各車両モデルの挙動を表す交通流ログデータを生成する。交通流ログデータは、交通流シミュレータ30によって生成された車両モデルの振る舞いの履歴を表す時系列データであり、交通流に含まれる車両モデル毎に生成される。交通流ログデータは、例えば、車両モデルが走行する車線の横方向をx軸、縦方向をy軸、時間をz軸とした車両モデルの時系列位置座標、およびタイムスタンプを含む。
【0048】
(5)交通流ログデータ解析(S5)
交通流管理部22の交通流ログデータ解析部223は、S4で生成された交通流ログデータに基づいて、シナリオパターンの抽出・解析を行う。まず、交通流ログデータ解析部223は、各車両モデルの交通流ログデータに含まれる時系列位置座標を用いて、出発点から到着点に至るまでの車両モデルの時系列走行軌跡をxyz三次元座標上に作成する。ここで、例えば車両モデルの後輪車軸中心を車両モデルの基準点として設定し、出発点における左側の車線の左端をx軸およびy軸の原点(0,0)として、車両の時系列位置をプロットする。
【0049】
車両モデルごとに生成した時系列走行軌跡を、車両出発順に重ね合わせることで、特定の走行シナリオに合致した交通流が生成されているか否かを判定することができる。具体的には、特定の走行シナリオに関連する基準シナリオパターンに合致する車両モデルの時系列走行軌跡を抽出し、基準シナリオパターンに合致する時系列走行軌跡同士を比較することにより、特定の走行シナリオが成立するか否かを判定する。
【0050】
図4(a)~(d)に、片側2車線の直線路における特定の走行シナリオを判定するための基準シナリオパターンの例を示す。基準シナリオパターンは、特定の走行シナリオに関連する車両の横方向および縦方向の動きの特徴を表すものである。
図4(a)~(d)は、中央線CLおよび車線境界線BLで画定される左側の車線(第1車線)と右側の車線(第2車線)からなる片側2車線の直線路を模式的に示している。例示した基準シナリオパターンは、走行シミュレーションの出発点における第1車線の左端を原点(0,0)、車線の横(幅)方向をx軸、縦方向をy軸、時間をz軸とした、出発点から到着点までの車両モデルの時系列走行軌跡を表している。なお、時系列走行軌跡は時間の概念も含んでいるが、
図4(a)~(d)においては、簡単のため、横方向位置と縦方向位置を表すxy座標のみを示している。
【0051】
図4(a)に示す第1の基準シナリオパターンP1は、第1車線維持→右車線変更→第2車線維持→左車線変更→第1車線維持、と記述される。第1車線維持における車両モデルのx座標は、x≦a±wと表される。ここで、aは第1車線の左端から第1車線の中央までの距離、wは車線維持をする際の横方向のふらつきの許容範囲を表す。右車線変更は、車線境界線BLを越える+x軸方向の連続座標移動であり、車両モデルのx座標は、a≦x≦cとするときに、c-a≦vと表される。ここで、cは第1車線の左端から第2車線の中央までの距離であり、vは1車線相当の横移動距離である。第2車線維持における車両モデルのx座標は、x≦c±uと表され、uは車線維持をする際の横方向のふらつきの許容範囲を表す。左車線変更は、車線境界線BLを越える-x軸方向の連続座標移動であり、車両モデルのx座標は、a≦x≦cとするときに、c-a≦vと表される。第1車線維持における車両モデルのx座標は、再び、x≦a±wである。
【0052】
図4(b)に示す第2の基準シナリオパターンP2は、第2車線維持→左車線変更→第1車線維持、と記述される。第2車線維持における車両モデルのx座標は、x≦c±uと表される。左車線変更は、車線境界線BLを越える-x軸方向の連続座標移動であり、車両モデルのx座標は、a≦x≦cとするときに、c-a≦vと表される。第1車線維持における車両モデルの基準点のx座標は、x≦a±wと表される。
【0053】
図4(c)に示す第3の基準シナリオパターンP3は、第1車線維持→右車線変更→第2車線維持、と記述される。第1車線維持における車両モデルのx座標は、x≦a±wと表される。右車線変更は、車線境界線BLを越える+x軸方向の連続座標移動であり、車両モデルのx座標は、a≦x≦cとするときに、c-a≦vと表される。第2車線維持における車両モデルのx座標は、x≦c±uと表される。
【0054】
第4(d)に示す第4の基準シナリオパターンP4は、第1車線維持、と記述される。第1車線維持における車両モデルのx座標は、x≦a±wと表される。なお、片側2車線の直線路における基準シナリオパターンとしては、第2車線維持等も含まれ得るが、ここでは省略する。
【0055】
交通流ログデータ解析部223は、交通流に含まれる車両モデルの時系列走行軌跡を解析し、第1から第4の基準シナリオパターンP1~P4のいずれかに該当する複数の車両モデルを抽出する。そして、抽出した複数の車両モデルの基準シナリオパターンとタイムスタンプに基づいて、特定の走行シナリオを形成する時系列走行軌跡を有する車両モデルを探索する。
図5(a)~(d)を用いて、特定の走行シナリオに合致する時系列走行軌跡を有する車両モデルを探索する方法を説明する。
【0056】
(A)追い越しシナリオ
追い越しシナリオは、
図5(a)に示すように、第1の基準シナリオパターンP1を有する車両モデルAと第4の基準シナリオパターンP4を有する車両モデルBとの組合せからなる。車両モデルAが車両モデルBを追い越ししたか否かは、車両モデルAが出発点から到着点に至る間に、車両モデルBと時間的に重畳し、かつ、車両モデルAが右車線変更→第2車線維持→左車線変更を実行する追い越し区間L1において、車両モデルBが第1車線を走行している必要がある。
【0057】
そこで、まず、交通流に含まれる複数の車両モデルの中から、第1の基準シナリオパターンP1を有する車両モデルAを抽出する。車両モデルAの時系列走行軌跡において、追い越し区間L1に相当する時間範囲を割り当てる。ここで割り当てられる時間範囲は、追い越し区間L1の開始時点から終了時点に相当するz軸の座標範囲と、追い越し区間L1の車線縦方向の範囲に相当するy軸の座標範囲である。そして、交通流に含まれる複数の車両モデルの中から、追い越し区間L1に相当する時間範囲を、第4の基準シナリオパターンP4で走行した車両モデルBを抽出する。車両モデルAと車両モデルBが抽出されると、
図2(a)に示す追い越しシナリオが形成されたと判断することができ、さらに、車両モデルAが追い越しシナリオのシナリオ条件に合致し、追い越しシナリオを実行したと判断することができる。
【0058】
なお、車両モデルAおよび車両モデルBは、それぞれ複数存在する可能性もあるし、存在しない可能性もある。
【0059】
(B)他車カットインシナリオ
他車カットインシナリオは、
図5(b)に示すように、第2の基準シナリオパターンP2を有する車両モデルCと第4の基準シナリオパターンP4を有する車両モデルDとの組合せからなる。車両モデルCが後方車である車両モデルDの前にカットインしたか否かは、車両モデルCが出発点から到着点に至る間に、車両モデルDと時間的に重畳し、かつ、車両モデルCが第2車線維持→左車線変更→第1車線維持を実行するカットイン区間L2において、車両モデルDが第1車線を走行している必要がある。
【0060】
そこで、まず、交通流に含まれる複数の車両モデルの中から、第2の基準シナリオパターンP2を有する車両モデルCを抽出する。車両モデルCの時系列走行軌跡において、カットイン区間L2に相当する時間範囲を割り当てる。ここで割り当てられる時間範囲は、カットイン区間L2の開始時点から終了時点に相当するz軸の座標範囲と、カットイン区間L2の車線縦方向の範囲に相当するy軸の座標範囲である。そして、交通流に含まれる複数の車両モデルの中から、カットイン区間L2に相当する時間範囲を、第4の基準シナリオパターンP4で走行した車両モデルDを抽出する。車両モデルCと車両モデルDが抽出されると、
図2(b)に示す他車カットインシナリオが形成されたと判断することができ、さらに、車両モデルDが他車カットインシナリオのシナリオ条件に合致し、他車カットインシナリオを実行したと判断することができる。
【0061】
なお、車両モデルCおよび車両モデルDは、それぞれ複数存在する可能性もあるし、存在しない可能性もある。
【0062】
(C)他車カットアウトシナリオ
他車カットアウトシナリオは、
図5(c)に示すように、第3の基準シナリオパターンP3を有する車両モデルEと第4の基準シナリオパターンP4を有する車両モデルFとの組合せからなる。車両モデルEが後方車である車両モデルFの前でカットアウトしたか否かは、車両モデルEが出発点から到着点に至る間に、車両モデルFと時間的に重畳し、かつ、車両モデルEが第1車線維持→右車線変更→第2車線維持を実行するカットアウト区間L3において、車両モデルFが第1車線を走行している必要がある。
【0063】
そこで、まず、交通流に含まれる複数の車両モデルの中から、第3の基準シナリオパターンP3を有する車両モデルEを抽出する。車両モデルEの時系列走行軌跡において、カットアウト区間L3に相当する時間範囲を割り当てる。ここで割り当てられる時間範囲は、カットアウト区間L3の開始時点から終了時点に相当するz軸の座標範囲と、カットアウト区間L3の車線縦方向の範囲に相当するy軸の座標範囲である。そして、交通流に含まれる複数の車両モデルの中から、カットアウト区間L3に相当する時間範囲を、第4の基準シナリオパターンP4で走行した車両モデルFを抽出する。車両モデルEと車両モデルFが抽出されると、
図2(c)に示す他車カットアウトシナリオが形成されたと判断することができ、さらに、車両モデルFが他車カットアウトシナリオのシナリオ条件に合致し、他車カットアウトシナリオを実行したと判断することができる。
【0064】
なお、車両モデルEおよび車両モデルFは、それぞれ複数存在する可能性もあるし、存在しない可能性もある。
【0065】
(D)追従シナリオ
追従シナリオは、
図5(d)に示すように、第4の基準シナリオパターンP4を有する車両モデルGと車両モデルHとの組合せからなる。車両モデルGが前方車である車両モデルHに追従走行したか否かは、車両モデルGが出発点から到着点に至る間に、車両モデルHと時間的に重畳し、かつ、車両モデルGが第1車線維持を実行する追従区間L4において、車両モデルHが第1車線を走行している必要がある。
【0066】
そこで、まず、交通流に含まれる複数の車両モデルの中から、第4の基準シナリオパターンP4を有する車両モデルGを抽出する。車両モデルGの時系列走行軌跡において、追従区間L4に相当する時間範囲を割り当てる。ここで割り当てられる時間範囲は、追従区間L4の開始時点から終了時点に相当するz軸の座標範囲と、追従区間L4の車線縦方向の範囲に相当するy軸の座標範囲である。ここで、追従区間L4は、車両モデルGの出発点から到着点までの区間とすることができる。そして、交通流に含まれる複数の車両モデルの中から、追従区間L4に相当する時間範囲を、第4の基準シナリオパターンP4で車両モデルGの前方を走行した車両モデルHを抽出する。車両モデルHが車両Gの前方を走行したか否かは、例えば、追従区間L4に相当する時間範囲における、車両モデルGと車両モデルHのy座標とz座標を比較することで判定することができる。車両モデルGと車両モデルHが抽出されると、
図2(d)に示す追従シナリオが形成されたと判断することができ、さらに、車両モデルGが追従シナリオのシナリオ条件に合致し、追従シナリオを実行したと判断することができる。
【0067】
なお、車両モデルGおよび車両モデルHは、それぞれ複数存在する可能性もあるし、存在しない可能性もある。また、車両モデルHを抽出した後に、車両モデルHに追従する車両モデルGを抽出するようにしてもよい。
【0068】
(6)特定の走行シナリオの合致判定(S6)
交通流ログデータ解析部223は、S5の解析結果に基づいて、交通流シミュレータ30によって生成された交通流中に、S1で指定された特定の走行シナリオが含まれているか否かを判定する。交通流中に特定の走行シナリオが含まれていない場合は、S3へ戻り、交通流生成(S3)、交通流ログデータ生成(S4)、および交通流ログデータ解析(S5)の処理を行い、特定の走行シナリオの探索を繰り返す。上述したように、ランダム交通流において個々の車両モデルは設定されたパラメータ範囲内で走行するので、S2で設定した周囲環境条件が同じであっても、S3で生成される交通流シミュレーションの結果は毎回異なる。一方、交通流中に特定の走行シナリオが含まれている場合は、連携シミュレーションの実行へ移行するためにS7へ進む。
【0069】
(7)置き換え車両の決定(S7)
連携管理部23の設定指示部231は、交通流ログデータ解析部223による解析結果に基づいて、連携シミュレーションにおいて自動運転機能を搭載した検証車両モデルに置き換えるための置き換え車両モデルを決定する。
【0070】
具体的には、交通流シミュレータ30によって生成された交通流中に含まれる特定の走行シナリオのシナリオ条件に合致する特定車両モデルを、検証車両モデルに置き換えるための置き換え車両モデルとして設定する。具体的には、追い越しシナリオの場合は、車両モデルAが置き換え車両モデルとして設定され、他車カットインシナリオの場合は車両モデルDが置き換え車両モデルとして設定され、他車カットアウトシナリオの場合は車両モデルFが置き換え車両モデルとして設定され、追従シナリオの場合は車両モデルGが置き換え車両モデルとして設定される。
【0071】
なお、特定の走行シナリオのシナリオ条件に合致する特定車両モデルは、複数存在する場合があるが、その場合は、複数の特定車両モデルのうち、例えば、時間的に最も早く出発した車両モデルを置き換え車両モデルとして選択することができる。または、ユーザによって、複数の特定車両モデルの中から所望の車両モデルを置き換え車両モデルとして選択するように構成することもできる。
【0072】
(8)連携シミュレーションの条件設定(S8)
連携管理部23の設定指示部231は、連携シミュレーション実行のための周囲環境条件の設定および検証車両モデルの設定を行う。連携シミュレーションにおいては、S7で設定した置き換え車両モデルが実行した特定の走行シナリオを再現するために、交通流シミュレータ30による交通流生成のための周囲環境条件はS2で設定した周囲環境条件と同様とする。
【0073】
設定指示部231は、置き換え車両モデルに置き換える検証シミュレータ40の検証車両モデルについて、センサモデルおよび車両制御モデルを設定する。センサモデルおよび車両制御モデルは、自動運転機能を模擬的に実行するために検証車両モデルが搭載するセンサ群および車両制御システムのモデルである。したがって、検証したい自動運転機能に応じて、必要なセンサの種類、性能、個数などを設定するとともに、車両の前後方向および左右方向の制御の内容を設定し、センサモデルおよび車両制御モデルを構築する。車両の前後方向および左右方向の制御システムは、例えば自動車線維持システム(ALKS)を含む。センサモデルおよび車両制御モデルの設定は、例えば、不図示の入力部材の操作を介してユーザによって行われる。
【0074】
(9)連携シミュレーションの実行(S9)
連携管理部23の設定指示部231は、S8で設定された周囲環境条件、センサモデルおよび車両制御モデルで、検証車両モデルの走行シミュレーションを行うように、交通流シミュレータ30と連携シミュレータ40に連携シミュレーション実行指示を送信する。これにより、交通流シミュレータ30によって生成、すなわち再生された交通流中を、検証シミュレータ40によって生成された自動運転機能を搭載した検証車両モデルが模擬的に走行する連携シミュレーションが実行される。
【0075】
(10)検証ログデータの生成(S10)
連携管理部23の検証ログデータ生成部232は、交通流シミュレータ30および連携シミュレータ40から、S9で模擬的に生成された交通流中を走行する検証車両モデルおよび他の車両モデルの挙動に関するデータを取得し、各車両モデルの挙動を表す交通流ログデータを生成する。交通流ログデータは、交通流シミュレータ30によって生成された交通流中を走行する車両モデルの振る舞いの履歴を表す時系列データであり、上述したS4と同様に、交通流に含まれる車両モデル毎に生成される。ここで生成される交通流ログデータのうち検証車両モデルのログデータは、自動運転機能の機能・性能を検証するためにも用いられるので、以降では、検証ログデータとも呼ぶ。
【0076】
(11)検証車両モデルの振る舞い解析(S11)
連携管理部23の検証ログデータ解析部233は、S10で生成された交通流ログデータに基づいて、上述したS5と同様に、シナリオパターンの抽出・解析を行う。まず、検証ログデータ解析部233は、検証車両モデルの検証ログデータに含まれる時系列位置座標を用いて、出発点から到着点に至るまでの検証車両モデルの時系列走行軌跡をxyz三次元座標上に作成する。検証ログデータ解析部233は、さらに、検証車両モデルが出発点から到着点に至る間に交通流中に存在する他車両モデルについて、交通流ログデータに基づいて時系列走行軌跡を作成する。
【0077】
検証ログデータ解析部233は、まず、検証車両モデルの時系列走行軌跡を解析してシナリオパターンを抽出し、上述した第1から第4の基準シナリオパターンP1~P4のいずれに該当するかを判断する。さらに、他車両モデルの時系列走行軌跡を解析し、第1から第4の基準シナリオパターンP1~P4のいずれかに該当するシナリオパターンを抽出する。検証ログデータ解析部233は、抽出した検証車両モデルのシナリオパターンと他車両モデルのシナリオパターンとを比較することにより、検証車両モデルのシナリオパターンが特定の走行シナリオのシナリオ条件に合致するかを解析する。
【0078】
(12)特定の走行シナリオの実行判定(S12)
検証ログデータ解析233は、S11の解析結果に基づいて、検証車両モデルがS1で指定された特定の走行シナリオのシナリオ条件に合致したか否かを判定する。検証車両モデルが特定の走行シナリオのシナリオ条件に合致しない、すなわち、検証車両モデルが検証したい特定の走行シナリオ通りの振る舞いをしていないと判定されると、S9へ戻って連携シミュレーションを再度実行し、検証ログデータの生成(S10)、および検証車両モデルの振る舞い解析(S11)の処理を行う。上述したように、ランダム交通流において個々の車両モデルは設定されたパラメータ範囲内で走行するので、S8で設定した連携シミュレーションの周囲環境条件および車両モデルの設定が同じであっても、S9で実行される連携シミュレーションの結果は毎回異なる。
【0079】
検証車両モデルが特定の走行シナリオのシナリオ条件に合致した、すなわち、検証車両モデルが検証したい特定の走行シナリオ通りの振る舞いをしたと判定されると、S13へ進む。
【0080】
(13)機能・性能の検証(S13)
検証車両モデルが特定の走行シナリオ通りの振る舞いをしたと判定された場合、機能検証部24は、検証車両モデルの検証ログデータに基づいて、特定の走行シナリオにおける自動運転機能の機能・性能の検証を行う。なお、機能検証部24による機能・性能の検証処理は、任意選択的に実行され、省略することも可能である。
【0081】
以上説明した本実施の形態による走行シナリオ探索装置およびシミュレーションシステム100においては、以下のような作用効果を奏することができる。
【0082】
(1)走行シナリオ検索装置は、道路ネットワーク上の交通流を模擬的に生成する交通流シミュレータ30と、交通流シミュレータ30によって生成された交通流に含まれる各車両モデルの挙動を表す時系列データを交通流ログデータとして生成する交通流ログデータ生成部222と、交通流ログデータ生成部222によって生成された交通流ログデータを解析し、交通流に含まれる車両モデルの中から、特定の走行シナリオに合致する特定車両モデルを検索する交通流ログデータ解析部223とを備える。
【0083】
交通流シミュレータによって生成された交通流に含まれる車両モデルの中から、特定の走行シナリオに合致する特定車両モデルを検索することにより、検証したい特定の走行シナリオが実行されたかを判定するとともに、特定の走行シナリオにおける検証を行うための対象車両を判別することができる。これにより、シミュレーションによって特定の走行シナリオにおける検証を行う前に、特定の走行シナリオが交通流中に含まれるかを確認することが可能となる。また、特定の走行シナリオに合致する特定車両モデルを判別できるので、検証用に置き換えるための車両モデルを指定することが可能となる。
【0084】
(2)交通流ログデータ解析部223は、特定の走行シナリオに合致する特定車両モデルが複数存在する場合、複数の特定車両モデルのうち時系列的に最も早いタイミングで出発した車両モデルを、特定車両モデルとして選択する。これにより、特定車両モデルの検索を速やかに行うことができ、検証のためのシミュレーションを早期に実行することが可能となる。
【0085】
(3)交通流ログデータ解析部223は、交通流に含まれる各車両の時系列走行軌跡を作成し、特定の走行シナリオに関連する基準シナリオパターンに合致する時系列走行軌跡同士を比較することにより、特定の走行シナリオが成立するかを判定する。これにより、特定の走行シナリオが成立するか否かを判定するとともに、特定の走行シナリオに合致する車両モデルを判別することができる。なお、時系列走行軌跡同士を比較するので、特定の時間範囲を走行する車両モデル同士の走行軌跡を比較することができる。したがって、基準シナリオパターンに合致する走行軌跡であっても、異なる時間範囲を走行している車両モデルは、特定の走行シナリオの成立判定からは除外されることになるので、詳細な判定を行うことができる。
【0086】
(4)交通流シミュレータ30は、個々の車両モデルが設定されたパラメータ範囲内でランダムに振る舞う交通流を生成するので、シミュレーションごとに車両モデルのパラメータを変更することなく、異なる交通流を生成することができる。
【0087】
(5)シミュレーションシステム100は、車両の自動運転機能を机上検証するように構成されており、上述した走行シナリオ検索装置と、自動運転機能を模擬する検証車両モデルを生成する検証シミュレータ40と、検証シミュレータ40と交通流シミュレータ30とを連携して作動させるシミュレーション実行管理ツール(管理装置)20とを備える。実行管理ツール20は、走行シナリオ検索装置によって検索された特定車両モデルを置き換え車両モデルとして指定し、交通流シミュレータ30によって生成される交通流において、検証シミュレータ40の検証車両モデルを、置き換え車両モデルに置き換えて模擬的に走行させる。
【0088】
検証したい特定の走行シナリオに含まれることが確定している特定車両モデルを置き換え車両モデルとして指定し、検証車両モデルと置き換えるように構成するので、交通流シミュレータ30と検証シミュレータ40の連携シミュレーションにおいて、検証したい特定の走行シナリオが見つからないという事態を回避することが可能となる。
【0089】
(6)実行管理ツール20は、検証シミュレータ40から取得される検証車両モデルの挙動を表す時系列データを検証ログデータとして生成する検証ログデータ生成部232と、検証ログデータ生成部232によって生成された検証ログデータを解析し、検証車両モデルが特定の走行シナリオ通りの振る舞いをしたか否かを判定する検証ログデータ解析部233とを有する。これにより、交通流シミュレータ30と検証シミュレータ40の連携シミュレーションにおいて、検証したい特定の走行シナリオが実行されたかを確認することができる。
【0090】
(7)実行管理ツール20は、検証ログデータ解析部233において検証車両モデルが特定の走行シナリオ通りの振る舞いをしなかったと判定された場合、再度、検証車両モデルを置き換え車両モデルに置き換えて模擬的に走行させる。これにより、検証したい特定の走行シナリオを確実に実行させることができる。
【0091】
(8)実行管理ツール20は、検証ログデータ解析部233において検証車両モデルが特定の走行シナリオ通りの振る舞いをしたと判定された場合に、検証車両モデルの検証ログデータに基づいて、特定の走行シナリオにおける自動運転機能を検証する機能検証部24をさらに有する。これにより、検証したい特定の走行シナリオにおいて、確実に自動運転機能の検証を行うことができる。
【0092】
-変形例-
(1)上述した実施の形態においては、交通流シミュレータ30によって交通工学モデルに基づくミクロ交通流を生成するように構成した。ここで、ミクロ交通流の粒子として設定される個々の車両のモデルとして、C and C Driver Model(Capable and Careful Driver Model)とも呼ばれる、テストドライバ、ベテランドライバ、またはタクシー運転手などの職業ドライバの運転を模擬可能なパラメータに設定したモデルを利用することもできる。
【0093】
(2)ミクロ交通流の粒子として設定される個々の車両のモデルを、自動運転機能を搭載した車両モデルとしてもよい。交通流シミュレータ30によって生成される交通流に含まれる車両モデルを全て自動運転機能を搭載した車両モデルとすることで、例えば、自動運転機能を搭載した車両のみが走行する専用道路を想定したシミュレーションを実行することができる。
【0094】
(3)上述した実施の形態においては、シミュレーションシステム100が、シナリオデータベース10、シミュレーション実行管理ツール20、交通流シミュレータ30および検証シミュレータ40を含むように構成したが、シミュレーションシステム100の構成はこれには限定されない。例えば、シミュレーション実行管理ツール20と検証シミュレータ40を一体的に構成したり、シミュレーション実行管理ツール20に走行シナリオデータベース10を組み込むように構成したりしてもよい。また、シミュレーション実行管理ツール20の機能検証部24を省略し、シミュレーションシステム100が特定の走行シナリオの実行判定(S12)までを実行するように構成することもできる。
【0095】
(4)シミュレーション実行管理ツール20の交通流管理部22と交通流シミュレータ30のみを備える走行シナリオ検索装置を、シミュレーションシステム100とは独立して構成することも可能である。この場合、走行シナリオ検索装置は、
図3のフローチャートのS1からS6までの処理を実行することができ、また、特定の走行シナリオごとの検索結果を不図示のメモリに保存するように構成することができる。走行シナリオ検索装置によって検索されて保存された特定の走行シナリオは、シミュレーションシステム100が実行する連携シミュレーションにおいて利用することができる。
【0096】
(5)上述した実施の形態においては、特定の走行シナリオとして、片側2車線の直線路における追い越しシナリオ、他車カットインシナリオ、他車カットアウトシナリオ、および追従シナリオを例示した。しかし、自動運転機能の機能・性能を検証するための走行シナリオはこれらには限定されず、あらゆるシナリオが想定可能である。例えば、道路構造としては、片側2車線のカーブ、片側3車線の直線路、および交差点なども含まれる。また、検証車両モデルの挙動としては、例えば、カーブでの先行車への追従、交差点での右左折なども含まれる。また、
図2(c)に示すように、車両Eがカットアウトした後、さらに前方に車両E0が存在する場合のように、他車カットアウトと追従とを組み合わせたシナリオもあり得る。
【0097】
(6)シミュレーションシステム100における処理の流れは、
図3のフローチャートに示したものには限定されない。例えば、S2およびS8における条件設定の処理は、走行シナリオごとに事前に設定しておいてもよい。
【0098】
以上、本発明のいくつかの実施形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内においてさらに各種の変形および変更が可能であることを付言する。
【符号の説明】
【0099】
20 シミュレーション実行管理ツール(管理装置)
22 交通流管理部
222 交通流ログデータ生成部
223 交通流ログデータ解析部
23 連携管理部
232 検証ログデータ生成部
233 検証ログデータ解析部
24 機能検証部
30 交通流シミュレータ
40 検証シミュレータ
100 シミュレーションシステム