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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081447
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】腐食因子飛散抑制構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 9/02 20060101AFI20240611BHJP
   E04B 1/70 20060101ALI20240611BHJP
   E04D 13/158 20060101ALI20240611BHJP
   E04D 13/16 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
E04B9/02 300
E04B1/70 E
E04D13/158 501R
E04D13/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195087
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 修三
(72)【発明者】
【氏名】松原 悟志
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001NA07
2E001NB01
2E001NB05
2E001NC02
2E001NC05
2E001ND21
2E001ND23
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で、小屋裏空間内における腐食因子の飛散を抑制すること。
【解決手段】腐食因子飛散抑制構造は、住宅の小屋裏空間(100)内における腐食因子の飛散を抑制するための構造であって、軒元換気口(20)から軒先側に離れた位置に軒天貫通孔(30)が設けられた軒天ボード(3)と、軒天ボード上に配置されるチャンバ(4)とを備える。チャンバは、小屋裏空間に連通する開口部(41)と、軒天貫通孔を介して屋外空間に連通する通気口(40)と、開口部を閉鎖する蓋材(43)とを有し、蓋材は、チャンバの内部空間(4S)の圧力と小屋裏空間内の軒元換気口付近(120)の圧力との圧力差によって、開口部を開閉可能に取り付けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
住宅の小屋裏空間内における腐食因子の飛散を抑制するための腐食因子飛散抑制構造であって、
軒元換気口から軒先側に離れた位置に軒天貫通孔が設けられた軒天ボードと、
前記軒天ボード上に配置され、前記小屋裏空間に連通する開口部と、前記軒天貫通孔を介して屋外空間に連通する通気口と、前記開口部を閉鎖する蓋材とを有するチャンバとを備え、
前記蓋材は、前記チャンバの内部空間の圧力と前記小屋裏空間内の前記軒元換気口付近の圧力との圧力差によって、前記開口部を開閉可能に取り付けられている、腐食因子飛散抑制構造。
【請求項2】
前記蓋材は、前記チャンバの内部空間の空気が前記通気口および前記軒天貫通孔から屋外の強風に誘引されて前記内部空間の圧力が減圧することによって、前記開口部を閉鎖する閉位置から前記開口部を開放する開位置に変位する、請求項1に記載の腐食因子飛散抑制構造。
【請求項3】
前記蓋材は、屋根の桁方向に沿って延びる回転軸を介して回動可能に設けられており、
前記蓋材が前記軒元換気口側に回動することを防止するストッパをさらに備える、請求項1に記載の腐食因子飛散抑制構造。
【請求項4】
前記軒天貫通孔または前記通気口に、フィルタ部材が設けられている、請求項1に記載の腐食因子飛散抑制構造。
【請求項5】
住宅の小屋裏空間内における腐食因子の飛散を抑制するための腐食因子飛散抑制構造であって、
軒元換気口から軒先側に離れた位置に軒天貫通孔が設けられた軒天ボードと、
前記軒天ボード上に配置され、前記小屋裏空間に連通する開口部と、前記軒天貫通孔を介して屋外空間に連通する通気口と、前記開口部を閉鎖する蓋材とを有するチャンバとを備え、
前記蓋材は、前記軒元換気口から前記小屋裏空間内に吹き込む風の風速によって、前記開口部を開閉可能に取り付けられている、腐食因子飛散抑制構造。
【請求項6】
前記軒元換気口から吹き込む風の流路を前記蓋材側に仕向けるガイド部材をさらに備え、
前記蓋材に当たる風の風速が一定速度以上となった場合に、前記蓋材が閉位置から開位置に変化する、請求項5に記載の腐食因子飛散抑制構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅の小屋裏(屋根裏)空間内における腐食因子の飛散を抑制するための腐食因子飛散抑制構造に関し、特に、軒元換気タイプの小屋裏換気構造を採用した住宅に適した腐食因子飛散抑制構造に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅の小屋裏換気構造としては、屋根の軒部に外気の入り口となる換気口を設け、頂部に排気口を設けることで、小屋裏空間を自然換気する構造が一般的である。換気口は、軒元(外壁側)に設けられるケースと、軒先に設けられるケースとがある。いずれのケースにおいても、換気口は、屋根の桁方向に沿って延びる換気部材(見切金具)に一定間隔で設けられた複数の貫通孔により形成されることが一般的である。換気部材は、換気口周辺の形状を工夫して、風雨に伴う有害な浸水を抑える防水構造となっている。
【0003】
たとえば特開平8-260611号公報(特許文献1)および特開平8-312017号公報(特許文献2)には、強風時に弾性変形する開閉弁によって換気用開口部を閉鎖可能な換気部材が開示されている。
【0004】
また、換気口を閉鎖するという観点では、実用新案出願公開昭59-62192号公報(特許文献3)には、換気カバー内の換気口に防火ダンパーを設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-260611号公報
【特許文献2】特開平8-312017号公報
【特許文献3】実用新案出願公開昭59-62192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
沿岸部に近接した地域では、換気口から外気とともに海塩粒子が侵入し、小屋裏空間内で飛散することがある。この場合、小屋裏空間内の構造物が腐食する(具体的にはトラスなどの金属製の構造物に錆が生じる)などの被害が発生する。そのため、海塩粒子の飛散への対応が要求されているが、現状では、沿岸部からの一定距離を建設の制約条件とするなどの塩害対応に留まっている。
【0007】
また、豪雪地帯のロードサイドには、融雪剤として塩化ナトリウムや塩化カルシウム等が撒かれており、これらが粉砕された微粒子は錆の原因となる。したがって、海塩粒子と同様に、小屋裏空間における融雪剤の微粒子の飛散対策も望まれている。
【0008】
特許文献1、2では、強風時に換気用開口部が閉鎖されるため、小屋裏空間に海塩粒子等の腐食因子が侵入することを防止できるものの、換気部材自体の形状を変更する必要があるため、汎用性に欠ける。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、簡易な構成で、小屋裏空間内における腐食因子の飛散を抑制することのできる腐食因子飛散抑制構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のある局面に従う腐食因子飛散抑制構造は、住宅の小屋裏空間内における腐食因子の飛散を抑制するための構造であって、軒元換気口から軒先側に離れた位置に軒天貫通孔が設けられた軒天ボードと、軒天ボード上に配置されるチャンバとを備える。チャンバは、小屋裏空間に連通する開口部と、軒天貫通孔を介して屋外空間に連通する通気口と、開口部を閉鎖する蓋材とを有し、蓋材は、チャンバの内部空間の圧力と小屋裏空間内の軒元換気口付近の圧力との圧力差によって、開口部を開閉可能に取り付けられている。
【0011】
好ましくは、蓋材は、チャンバの内部空間の空気が通気口および軒天貫通孔から屋外の強風に誘引されて内部空間の圧力が減圧することによって、開口部を閉鎖する閉位置から開口部を開放する開位置に変位する。
【0012】
好ましくは、蓋材は、屋根の桁方向に沿って延びる回転軸を介して回動可能に設けられている。この場合、腐食因子飛散抑制構造は、蓋材が軒元換気口側に回動することを防止するストッパをさらに備えることが望ましい。
【0013】
好ましくは、軒天貫通孔または通気口に、フィルタ部材が設けられている。
【0014】
この発明の他の局面に従う腐食因子飛散抑制構造は、住宅の小屋裏空間内における腐食因子の飛散を抑制するための構造であって、軒元換気口から軒先側に離れた位置に軒天貫通孔が設けられた軒天ボードと、軒天ボード上に配置されるチャンバとを備える。チャンバは、小屋裏空間に連通する開口部と、軒天貫通孔を介して屋外空間に連通する通気口と、開口部を閉鎖する蓋材とを有し、蓋材は、軒元換気口から小屋裏空間内に吹き込む風の風速によって、開口部を開閉可能に取り付けられている。
【0015】
この飛散抑制構造は、軒元換気口から吹き込む風の流路を蓋材側に仕向けるガイド部材をさらに備えることが望ましく、蓋材に当たる風の風速が一定速度以上となった場合に、蓋材が閉位置から開位置に変化する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡易な構成で、小屋裏空間内における腐食因子の飛散を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(A)は、一般的な住宅における小屋裏空間の換気経路を模式的に示す図であり、(B)は、本発明の実施の形態に係る腐食因子飛散抑制構造を採用した住宅における小屋裏空間の換気経路を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係る腐食因子飛散抑制構造を模式的に示す図である。
図3】(A)は通常時における風の流れを模式的に示す図であり、(B)は上昇気流発生時における風の流れを模式的に示す図である。
図4】強風時における風の流れを模式的に示す図であり、(A)は本発明の実施の形態に係る蓋材の作動パターン(差圧により作動するパターン)を示し、(B)は本発明の実施の形態の変形例1に係る蓋材の作動パターン(風速により作動するパターン)を示す。
図5】本発明の実施の形態の変形例2に係る腐食因子飛散抑制構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0019】
(概要について)
図1を参照して、本実施の形態における腐食因子飛散抑制構造(以下「飛散抑制構造」と略す)1の概要について説明する。図1(A)は、一般的な住宅における小屋裏空間100の換気経路を模式的に示す図である。図1(B)は、飛散抑制構造1を採用した住宅における小屋裏空間100の換気経路を模式的に示す図である。
【0020】
本実施の形態の住宅は、屋根の軒部101,103の根元、すなわち軒元部分に設けられた換気口(以下「軒元換気口」という)20と、屋根の棟部102に設けられた棟排気口80とを有している。小屋裏空間100は、軒元換気口20から取り入れられた外気が棟排気口80から排気されることによって自然換気される。なお、後述の図2に示されるように、軒元換気口20は、軒天ボード3と外壁部11の上端部との交差部に固定された換気部材2の貫通孔により構成されている。換気部材2は、屋根の桁方向(屋根の勾配方向に直交する方向)に沿って延在し、複数の貫通孔(軒元換気口20)が一定間隔で設けられている。
【0021】
このような、いわゆる軒元換気タイプの小屋裏換気構造を採用した住宅においては、沿岸部から強風が吹いた場合、沿岸部側の外壁に当たった風が壁をつたい、軒元換気口20から海塩粒子を含んだ外気が小屋裏空間100内に吹き上がるように侵入する。住宅全体を見た場合、沿岸部側の外壁付近の圧力が、反対側の外壁付近の圧力よりも高くなる。また、小屋裏空間100では、沿岸部側の軒部101の軒元換気口20付近の空間の圧力が相対的に高くなる。
【0022】
図1(A)に示す一般的な住宅では、沿岸部側の軒部101の軒元換気口20から小屋裏空間100に侵入した外気が、そのまま上昇し、棟排気口80および沿岸部の反対側の軒部103の軒元換気口20から排気される。この場合、小屋裏空間100内で気流が発生し易くなるため、小屋裏空間100の広範囲に海塩粒子が飛散(拡散)してしまう。
【0023】
これに対し、本実施の形態の住宅は、図1(B)に示すように、沿岸部側の軒部101に、強風時に軒元換気口20から侵入した外気の少なくとも一部を軒先側から直接排出する飛散抑制構造1を採用している。これにより、棟排気口80や沿岸部の反対側の軒元換気口20への引き込み量が減るため、小屋裏空間100内における海塩粒子の飛散を抑制することができる。以下に、飛散抑制構造1の具体例について詳細に説明する。
【0024】
(飛散抑制構造の構成について)
図2は、本実施の形態に係る飛散抑制構造1を模式的に示す図である。飛散抑制構造1は、沿岸部側の軒部101に設けられている。図2の矢印A1は、屋根の軒先方向(水下側)であって、沿岸部側を示す。飛散抑制構造1は、沿岸部の反対側の軒部103には設けられていなくてよい。
【0025】
飛散抑制構造1は、軒元換気口20から軒先側に離れた位置に貫通孔(以下「軒天貫通孔」という)30が設けられた軒天ボード3と、軒天ボード3上に配置されたチャンバ4とを備えている。以下の説明において、小屋裏空間100内のうち軒元換気口20付近の空間(換気部材2の直上の空間)を、小屋裏入口空間120という。また、軒先方向を外側、その反対方向(軒元側)を内側ともいう。
【0026】
チャンバ4は、破風板12と軒元野縁13との間に配置されている。チャンバ4は、軒元野縁13との間に一定の間隔をあけて配置されることが望ましい。図2に示す軒部101のように外壁部11からの出寸法が比較的短い場合、チャンバ4は、破風板12に接して配置されていてもよい。
【0027】
チャンバ4は、本体ケース部40により外郭が形成された空気室であり、主に、小屋裏空間100に連通する開口部41と、軒天貫通孔30を介して屋外空間に連通する通気口42と、開口部41を閉鎖する蓋材43とを有している。チャンバ4の説明において、桁方向に沿う方向を幅方向といい、桁方向に直行する方向(内外方向)に沿う方向を奥行き方向ともいう。
【0028】
本体ケース部40は、典型的には直方体または立方体の箱状に形成され、軒天ボード3に接する底壁部51と、底壁部51に対面する天壁部52と、底壁部51および天壁部52に下端および上端が連結された側壁部53とを含む。側壁部53は、軒元側を向く前面部(図示せず)と、軒先側を向く後面部53bと、幅方向両側に位置する一対の側面部53cとを有している。
【0029】
チャンバ4(本体ケース部40)の高さ寸法、幅寸法、および奥行き寸法は、たとえば200~400mm程度であり、一例として、一辺を300mm程度とした立方体形状に形成されている。チャンバ4の高さ寸法は、軒元野縁13の高さ寸法よりも大きいことが望ましい。
【0030】
軒天ボード3上に、複数のチャンバ4が、桁方向に沿って互いに間隔をあけて配置されていることが望ましい。
【0031】
開口部41は、小屋裏入口空間120に対面する前面部に形成されている。開口部41は、小屋裏空間100のうちの小屋裏入口空間120に連通する貫通孔である。本実施の形態では、前面部の全体に形成されている。なお、前面部の一部をくり抜くことによって開口部41が形成されていてもよい。
【0032】
通気口42は、底壁部51に設けられている。具体的には、軒天貫通孔30に重なる位置に設けられている。言い換えると、軒天貫通孔30は、底壁部51の通気口42に対応する位置に設けられている。なお、軒天貫通孔30は、軒天ボード3の内外方向中央部よりも軒先側に設けられていることが望ましいものの、軒天ボード3の外側端部を除く位置に設けられていることが望ましい。これにより、後述するように、軒天ボード3に沿う横向きの風への誘引効果を発揮し易くなる。
【0033】
通気口42の開口面積は、開口部41の開口面積よりも小さい。通気口42は、底壁部51の内外方向中央部よりも外方寄り(軒先側)に設けられている。通気口42の個数は一個であってもよいし、複数個であってもよい。後者の場合、複数の通気口42が桁方向に沿って互いに間隔をあけて設けられることが望ましい。この場合、通気口42の合計面積が開口部41の開口面積よりも小さいことが望ましい。通気口42および軒天貫通孔30の形状は、丸形状であってもよいし、縦長のスリット形状であってもよい。
【0034】
蓋材43は、開口部41の全体を覆うように、本体ケース部40に直接または間接的に取り付けられている。本実施の形態の蓋材43は、チャンバ4の内部空間4Sの圧力と小屋裏入口空間120の圧力との圧力差によって、開口部41を開閉可能に取り付けられている。蓋材43は、それ自体が風圧等によって弾性変形するものではなく、ある程度剛性を有する材料(たとえば樹脂)により形成された板材である。
【0035】
本実施の形態において、蓋材43は差圧ダンパー6により実現されている。差圧ダンパー6は、蓋材43を取り囲む矩形形状の枠体61と、枠体61内を幅方向に延びる回転軸62とを含み、回転軸62によって蓋材43が回動可能に取り付けられている。枠体61は、本体ケース部40に固定されており、枠体61の内部が開口部41を形成している。回転軸62は、枠体61の上端付近に設けられている。回転軸62の位置高さは、軒元野縁13の上端高さよりも上方であることが望ましい。
【0036】
チャンバ4の内部空間4Sの圧力と小屋裏入口空間120の圧力とに大差がない場合、蓋材43は、自重により鉛直方向に起立した姿勢に維持される。このとき、蓋材43と枠体61とは気密状態とされるので、蓋材43は開口部41を全閉(閉鎖)する。チャンバ4の内部空間4Sの圧力が小屋裏入口空間120の圧力よりも相対的に低くなった場合に、蓋材43は、表面側(軒元側)からの加圧力により、裏面側(軒先側)に押されて回動する。このとき、蓋材43は開口部41を開放する。蓋材43には、圧力差調整用の錘63が固定されていることが望ましい。
【0037】
通常姿勢(起立姿勢)の蓋材43の下端部は、枠体61の下枠部から上方に突出した凸部61aに接触している。凸部61aは、蓋材43が軒元側に回動することを防止するストッパとして機能する。
【0038】
(作用効果について)
図3および図4(A)を参照して、本実施の形態に係る飛散抑制構造1による作用効果について説明する。なお、図3および図4では、図面が煩雑になるのを避けるために、換気部材2および軒元野縁13の図示を省略する。
【0039】
図3(A)は、強風時以外の通常時(たとえば風速10m/s以下の場合)における風の流れを模式的に示す図である。通常時においては、軒元換気口20を通過して小屋裏入口空間120に侵入してきた外気の圧力はチャンバ4の内部空間4Sの圧力と大差がないため、蓋材43は通常姿勢を維持する。つまり、蓋材43の位置は開口部41を閉鎖する全閉位置を維持する。そのため、小屋裏入口空間120に侵入してきた外気はチャンバ4内に流入することなく、小屋裏空間100内を上昇する。そのため、一般的な住宅と同様に、小屋裏空間100を自然換気することができる。
【0040】
図3(B)は、上昇気流発生時における風の流れを模式的に示す図である。軒部101の下方側で上昇気流が発生した場合、図3(B)に示すように、上昇気流により、軒天貫通孔30および通気口42から風が吹き込む可能性がある。本実施の形態では、チャンバ4にストッパ(凸部61a)が設けられているため、チャンバ4の内部空間4S側からの加圧力が生じたとしても、蓋材43は軒元側に回動せず、開口部41を全閉状態に維持することができる。したがって、チャンバ4の内部空間4Sから小屋裏空間100への外気の逆流を防止することができる。
【0041】
図3(B)に示すように、軒天貫通孔30または通気口42に、フィルタ部材64が設けられていることが望ましい。これにより、屋外空間から内部空間4Sへの異物の侵入を防止することができる。
【0042】
図4(A)は、強風時における風の流れを模式的に示す図である。図4(A)に示されるように、屋外空間において沿岸部側から、たとえば風速10m/sを超える強風が吹いた場合、屋外空間において風は軒天ボード3に沿って軒元方向に流れる(矢印F1)。そして、外壁部11に当たった風が外壁部11をつたい、軒元換気口20から小屋裏入口空間120に吹き上がるように侵入する(矢印F2)。
【0043】
また、このとき、チャンバ4の内部空間4Sの空気が、通気口42および軒天貫通孔30から屋外の強風(軒天ボード3に沿う横向きの風)に誘引される(矢印F3)。つまり、内部空間4Sの空気が、屋外空間に強制排気される。これにより、内部空間4Sの圧力が減圧するので、チャンバ4の内部空間4Sの圧力が小屋裏入口空間120の圧力よりも小さくなる。これらの圧力差が所定値(許容値)以上になると、蓋材43が、開口部41を閉鎖する閉位置(一点鎖線で示す)から開口部41を開放する開位置(実線で示す)に変位するので、開口部41から内部空間4Sに外気が流入する(矢印F4)。
【0044】
このように、強風時には、屋外空間→軒元換気口20→小屋裏入口空間120→チャンバ4→軒天貫通孔30→屋外空間という風の循環経路(ショートサーキット)が、軒部101に形成される。これにより、強風時には、軒部101の軒元換気口20から小屋裏入口空間120に侵入した外気の少なくとも一部を、チャンバ4を介して軒天貫通孔30から排気することができる。その結果、住宅の棟排気口80や沿岸部の反対側の軒部103の軒元換気口20への外気の引き込み量を減らすことができるので、小屋裏空間100内における海塩粒子の飛散を抑制することができる。
【0045】
(変形例1)
本実施の形態では、蓋材43がチャンバ4の内部空間4Sの圧力と小屋裏入口空間120の圧力との圧力差によって作動する例を示したが、蓋材43は、軒元換気口20から小屋裏入口空間120内に吹き込む外気の風速によって作動するものであってもよい。すなわち、蓋材43は、差圧ダンパー6によって実現される例に限定されない。
【0046】
図4(B)は、本実施の形態の変形例1に係る飛散抑制構造1Aおける強風時の風の流れを模式的に示す図である。本変形例においても、蓋材43は、回転軸62を介して本体ケース部40または枠体61に取り付けられている。
【0047】
図4(B)に示されるように、軒元換気口20(換気部材2)の上方に、上端部が軒先側に折り曲げられた逆L字状の水返し部材7が設けられている。水返し部材7は、外壁部11の上端部に固定されて上方に立ち上がる立上り部71と、立上り部71の上端縁から軒先側に向かって水平に延びる折曲部72とを有している。水返し部材7は、換気部材2と同様、桁方向に沿って延在している。なお、水返し部材7と換気部材2とは一部が重なっていてもよいし、これらが一体的に設けられていてもよい。水返し部材7の折曲部72が、軒元換気口20と対面する位置に設けられていることが望ましい。
【0048】
水返し部材7が小屋裏入口空間120に配置されているため、軒元換気口20から小屋裏入口空間120に流入した外気の風向を軒先側に仕向けることができる。水返し部材7は、軒元換気口20から吹き込む風の流路を蓋材43側に仕向けるガイド部材として機能する。
【0049】
高さ方向において、回転軸62の位置は水返し部材7の折曲部72よりも上方であり、蓋材43の表面に当たる風の風速が一定速度以上となった場合に、蓋材43はその風力によって回動するように取り付けられている。一定速度は、たとえば0.2m/sである。屋外空間の風速が10m/sの場合、小屋裏入口空間120に侵入して折曲部72により軒先側を指向する風の速度は0.2~0.4m/sとなることが想定されるためである。本変形例にいては、蓋材43に作動風速調整用の錘63Aが取り付けられている。
【0050】
本変形例では、屋外空間において沿岸部側から、たとえば風速10m/sを超える強風が吹いた場合、屋外空間において風は軒天ボード3に沿って軒元方向に流れる(矢印F11)。そして、外壁部11に当たった風が外壁部11をつたい、軒元換気口20から小屋裏入口空間120に吹き上がるように侵入する(矢印F12)。
【0051】
小屋裏入口空間120に侵入した上向きの風は水返し部材7の折曲部72に当たり、風路が軒先方向に変わる(矢印F13)。一定速度以上の横向きの風が蓋材43の表面にぶつかると、蓋材43は軒先方向に回動する。つまり、蓋材43が、開口部41を閉鎖する閉位置(一点鎖線で示す)から開口部41を開放する開位置(実線で示す)に変位する。これにより、開口部41から内部空間4Sに流入した小屋裏入口空間120の空気が、通気口42および軒天貫通孔30から排気されるので(矢印F14,15)、本変形例においても、小屋裏空間100内における海塩粒子の飛散を抑制することができる。
【0052】
(変形例2)
本実施の形態では、軒天貫通孔30に重なる位置にチャンバ4の通気口42が設けられている例を示したが、軒部101の出寸法が比較的大きい形態においては、図5に示すように、軒天貫通孔30の位置と通気口42の位置とがずれていてもよい。軒部101において、チャンバ4の配置位置は軒元換気口20に近い方が望ましく、軒天貫通孔30は軒元換気口20から遠い方が望ましいからである。
【0053】
図5に示すように、通気口42が側壁部53の後面部53bに設けられ、軒天貫通孔30と通気口42とがダクト8により接続されていてもよい。なお、チャンバ4と換気部材2との離間距離は、200mm以下であり、150mm以下であることが望ましい。軒天貫通孔30と破風板12との離間距離は、150mm以上かつ300mm以下であることが望ましい。
【0054】
(他の変形例)
本実施の形態ではチャンバ4の本体ケース部40が底壁部51を有していることとしたが、このような例に限定されず、軒天ボード3が底壁部として機能してもよい。この場合、本体ケース部40の下端開口全体が通気口42として機能する。
【0055】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
1,1A 飛散抑制構造、2 換気部材、3 軒天ボード、4 チャンバ、4S 内部空間、6 差圧ダンパー、7 水返し部材(ガイド部材)、8 ダクト、20 軒元換気口、30 軒天貫通孔、41 開口部、42 通気口、61a 凸部(ストッパ)、62 回転軸、64 フィルタ部材、100 小屋裏空間、101,103 軒部、102 棟部、120 小屋裏入口空間。
図1
図2
図3
図4
図5