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特開2024-81451人工抗体の製造方法、人工抗体および生体物質検出センサー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081451
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】人工抗体の製造方法、人工抗体および生体物質検出センサー
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240611BHJP
   G01N 5/02 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
A61K39/395 B
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195093
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】小島 力
(72)【発明者】
【氏名】望月 理光
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】久保 景太
(72)【発明者】
【氏名】佐野 和貴
(72)【発明者】
【氏名】村井 清昭
(72)【発明者】
【氏名】小林 正彦
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085AA37
4C085BA02
4C085BA07
4C085BA49
4C085BA51
4C085BB50
4C085CC31
4C085DD90
(57)【要約】
【課題】鋳型の配置密度の個体差が少ない人工抗体およびその製造方法、ならびに、生体物質を高精度に検出可能な生体物質検出センサーを提供すること。
【解決手段】生体物質またはそのレプリカで構成される成形型とモノマーとを含む分散液をガイドに供給し、前記ガイドにより、前記成形型を整列させる整列工程と、前記成形型が整列した状態で、前記モノマーを重合させ、ポリマー層を形成するポリマー層形成工程と、前記成形型を前記ポリマー層から除去して、前記成形型の立体構造に相補的な三次元構造の鋳型を持つ前記ポリマー層を備える人工抗体を得る除去工程と、を有することを特徴とする人工抗体の製造方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体物質またはそのレプリカで構成される成形型とモノマーとを含む分散液をガイドに供給し、前記ガイドにより、前記成形型を整列させる整列工程と、
前記成形型が整列した状態で、前記モノマーを重合させ、ポリマー層を形成するポリマー層形成工程と、
前記成形型を前記ポリマー層から除去して、前記成形型の立体構造に相補的な三次元構造の鋳型を持つ前記ポリマー層を備える人工抗体を得る除去工程と、
を有することを特徴とする人工抗体の製造方法。
【請求項2】
前記ガイドは、前記成形型を収容する凹部を有する請求項1に記載の人工抗体の製造方法。
【請求項3】
前記整列工程は、前記分散液に振動を付与する操作を含む請求項1または2に記載の人工抗体の製造方法。
【請求項4】
前記成形型は、生体物質のレプリカであり、
前記レプリカは、磁性材料を含み、
前記整列工程は、前記分散液に磁場を印加して整列させる操作を含む請求項1または2に記載の人工抗体の製造方法。
【請求項5】
前記成形型は、生体物質のレプリカであり、
前記レプリカは、磁性材料を含み、
前記除去工程は、前記レプリカに磁場を印加して吸引する操作を含む請求項1または2に記載の人工抗体の製造方法。
【請求項6】
前記成形型は、生体物質のレプリカであり、
前記レプリカは、表面が無機材料で構成されている請求項1または2に記載の人工抗体の製造方法。
【請求項7】
前記除去工程は、前記ポリマー層を加熱して膨張させる操作を含む請求項1または2に記載の人工抗体の製造方法。
【請求項8】
生体物質の立体構造に相補的な三次元構造の鋳型を持つポリマー層と、
前記ポリマー層を支持し、前記鋳型に対応する位置に設けられている凹部を有するガイドと、
を備えることを特徴とする人工抗体。
【請求項9】
前記ガイドは、水晶片を有し、
前記水晶片は、薄膜部と、前記薄膜部よりも厚い厚膜部と、を有し、
前記ポリマー層は、前記薄膜部に設けられている請求項8に記載の人工抗体。
【請求項10】
前記ポリマー層における前記鋳型の配置密度は、1×10[個/cm]以上である請求項8または9に記載の人工抗体。
【請求項11】
請求項8または9に記載の人工抗体と、
前記鋳型への生体物質の捕捉に伴って共振周波数が変化する共振デバイスと、
を備えることを特徴とする生体物質検出センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工抗体の製造方法、人工抗体および生体物質検出センサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品衛生、医学的診断、環境モニタリング等の分野で、細菌等の生体物質を迅速かつ簡便に検出するセンサーの実現が期待されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、検出用電極と、検出対象の微生物の立体構造に相補的な三次元構造の鋳型を持つポリマー層と、を有する検出部、および、検出部の質量変化等を検出する水晶片を備えたセンサーが開示されている。ポリマー層が持つ鋳型は、微生物の立体構造に相補的な三次元構造を有しているため、その三次元構造を持つ微生物を選択的に捕捉する一方、その三次元構造を持たない微生物は捕捉しない。このため、鋳型での捕捉状態に基づいて、標的微生物を高感度に検出することができる。
【0004】
また、特許文献1では、実際の微生物を用いてポリマー層を形成している。具体的には、微生物が取り込まれるようにポリマー層を形成する工程と、取り込まれた微生物を破壊する工程と、を有するポリマー層の形成方法が開示されている。これにより、ポリマー層には、実際の微生物の立体構造に相補的な三次元構造を持つ鋳型が形成される。このような鋳型を持つポリマー層は、人工抗体とも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/156584号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の人工抗体では、その形成にあたって実際の微生物を用いる必要がある。ところが、実際の微生物を用いて人工抗体を製造する場合、微生物の存在密度を一定に管理することが困難である。このため、特許文献1に記載の人工抗体には、鋳型の配置密度の個体差が大きいという課題がある。鋳型の配置密度の個体差が大きい場合、センサーにおける微生物の検出精度が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の適用例に係る人工抗体の製造方法は、
生体物質またはそのレプリカで構成される成形型とモノマーとを含む分散液をガイドに供給し、前記ガイドにより、前記成形型を整列させる整列工程と、
前記成形型が整列した状態で、前記モノマーを重合させ、ポリマー層を形成するポリマー層形成工程と、
前記成形型を前記ポリマー層から除去して、前記成形型の立体構造に相補的な三次元構造の鋳型を持つ前記ポリマー層を備える人工抗体を得る除去工程と、
を有する。
【0008】
本発明の適用例に係る人工抗体は、
生体物質の立体構造に相補的な三次元構造の鋳型を持つポリマー層と、
前記ポリマー層を支持し、前記鋳型に対応する位置に設けられている凹部を有するガイドと、
を備える。
【0009】
本発明の適用例に係る生体物質検出センサーは、
本発明の適用例に係る人工抗体と、
前記鋳型への生体物質の捕捉に伴って共振周波数が変化する共振デバイスと、
を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】生体物質の一例である細菌を示す概略図、および、実施形態に係る人工抗体の断面図である。
図2図1のA1部およびA3部の拡大図である。
図3図1の人工抗体の製造方法を示すフローチャートである。
図4図3に示す製造方法を説明するための断面図であって、生体物質の一例である細菌を示す概略図、および、細菌のレプリカの断面図である。
図5図3に示す製造方法を説明するための断面図であって、図4のA1部およびA2部の拡大図である。
図6図3に示す製造方法を説明するための断面図であって、ガイドにレプリカおよびモノマーを含む分散液を供給している状態を示す図である。
図7図3に示す製造方法を説明するための断面図であって、ガイドの凹部にレプリカが収まった状態を示す図である。
図8図3に示す製造方法を説明するための断面図であって、ポリマー層が形成された状態を示す図である。
図9図3に示す製造方法を説明するための断面図であって、図8のA4部の拡大図である。
図10図3に示す製造方法を説明するための断面図であって、レプリカをポリマー層から除去する様子を示す図である。
図11図3に示す製造方法を説明するための断面図であって、図10のA5部の拡大図である。
図12図3に示す製造方法を説明するための断面図であって、ポリマー層を加熱して膨張させた様子を示す図である。
図13図3に示す製造方法を説明するための断面図であって、磁気的吸引力によりレプリカを吸引する様子を示す図である。
図14】実施形態に係る生体物質検出センサーを模式的に示す断面図である。
図15図14に示す共振デバイスの変形例である。
図16図14に示す共振デバイスの変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の人工抗体の製造方法、人工抗体および生体物質検出センサーを添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0012】
1.人工抗体
まず、実施形態に係る人工抗体について説明する。
【0013】
図1は、生体物質の一例である細菌BAを示す概略図、および、実施形態に係る人工抗体1の断面図である。図2は、図1のA1部およびA3部の拡大図である。
【0014】
図1に示す細菌BAは、生体物質の一例であり、表面には、図2に示すような固有の立体構造S1を有する。この立体構造S1は、例えば細菌BAが持つ固有の分子構造に由来するものであり、生体物質の種類ごとに異なる。一方、図1に示す人工抗体1は、細菌BAの立体構造S1に相補的な相補的構造S3を有する鋳型2を持つポリマー層3(高分子層)を備え、細菌BAを選択的に捕捉する性質を有する。このため、人工抗体1を用いて細菌BAを高感度に検出するバイオセンサー等を実現することができる。
【0015】
図1および図2に示す矢印Comは、細菌BAの立体構造S1と鋳型2の相補的構造S3とが、互いに相補的であることを表す。本明細書において相補的とは、細菌BAの立体構造S1の少なくとも一部と、鋳型2の相補的構造S3とが、互いに隙間なく組み合わせられる形状であるか、または、いずれか一方を拡大もしくは縮小することで互いに隙間なく組み合わせられる形状になる関係のことをいう。なお、組み合わせられる形状は、製造誤差による形状のずれ(製造誤差による隙間)を許容する。また、いずれか一方を拡大または縮小する場合も、その拡大率や縮小率は、元の大きさに対して例えば5%以下程度と小さい。したがって、鋳型2は、細菌BAがほぼ原寸大で転写された模型であるといえる。
【0016】
なお、鋳型2に転写される部位は、細菌BAの全部であってもよいし、任意の一部であってもよい。図1に示す鋳型2は、棒状をなす細菌BAの長手方向の一部が転写されたものである。また、生体物質は、細菌に限定されず、例えばウイルス、真菌、原虫のような細菌以外の微生物、細胞、エクソソーム等であってもよい。
【0017】
細菌の具体例としては、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、枯草菌等が挙げられる。ウイルスとしては、例えば、A型肝炎ウイルス、アデノウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス等が挙げられる。真菌としては、例えば、カンジダが挙げられる。原虫としては、例えば、クリプトスポリジウムが挙げられる。
【0018】
図1および図2に示す人工抗体1は、鋳型2を持つポリマー層3と、ポリマー層3を支持し、鋳型2に対応する位置に設けられている凹部71を有するガイド7と、を備える。
【0019】
鋳型2がとり得る最も長い軸を長軸とするとき、長軸の長さL2は、生体物質の種類に応じて異なるが、例えば細菌の場合、0.3μm以上10μm以下とされる。また、長軸に直交する軸を短軸とするとき、短軸の長さW2は、例えば細菌の場合、0.1μm以上5μm以下とされる。
【0020】
ポリマー層3は、モノマーを重合させてなる高分子層である。モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、ピロール、アニリン、チオフェンまたはそれらの誘導体等が挙げられる。モノマーとして例えばピロールを用いた場合、ポリマー層3はポリピロール層となる。
【0021】
ガイド7は、ポリマー層3を支持するとともに、ポリマー層3に鋳型2を形成するとき、鋳型2の位置を案内するガイドとなる。ガイド7は、凹部71を有しているが、この凹部71に対応する位置に鋳型2が形成される確率が高くなる。したがって、凹部71を有するガイド7を備えることで、鋳型2が目的とする配置密度で配置された人工抗体1を実現することができる。これにより、鋳型2の配置密度において個体差の少ない人工抗体1、および、鋳型2をより高密度に配置した人工抗体1が得られる。
【0022】
ポリマー層3における鋳型2の配置密度は、好ましくは1×10[個/cm]以上であり、より好ましくは1×10[個/cm]以上である。このような配置密度を実現することにより、細菌BAの検出感度が特に高いバイオセンサー等を実現可能な人工抗体1が得られる。なお、凹部71の配置密度は、鋳型2の配置密度と同様であると考えられる。このため、凹部71の配置密度も、上記範囲を満たすことが好ましい。
【0023】
なお、鋳型2の配置密度は、例えば、ポリマー層3を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像し、画像に存在する鋳型2の数、および、画像の面積から算出される。
【0024】
凹部71は、後述するように、鋳型2を形成するための成形型の位置を規制する。したがって、凹部71の大きさや深さは、位置を規制しようとする成形型のサイズに応じて適宜設定される。よって、凹部71の長軸の長さは、前述した鋳型2の長軸の長さL2の範囲と同程度に設定することができる。凹部71の短軸の長さも、前述した鋳型2の短軸の長さW2の範囲と同程度に設定することができる。
【0025】
ガイド7の構成材料は、特に限定されないが、例えば、樹脂のような有機材料、金属、セラミックス、ガラス、結晶のような無機材料等が挙げられる。このうち、結晶材料が好ましく用いられ、水晶または単結晶シリコンもしくは多結晶シリコンがより好ましく用いられる。これらは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)加工技術、つまり、フォトリソグラフィーとエッチングを用いて微細な加工を行うことができる材料であるため、ガイド7の構成材料として有用である。また、これらは、共振子の振動片の材料としても用いられる。このため、後述するように、ガイド7自体を振動片として用いることもできる。
【0026】
また、樹脂は、比重が小さいので、例えば、人工抗体1をバイオセンサー等に適用する場合に、生体物質の検出感度を高め得るガイド7を実現することができる。
【0027】
樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。ガイド7の構成材料が樹脂を含むことにより、ガイド7の低コスト化を容易に図ることができる。また、樹脂の成形性を利用して、寸法精度の高いガイド7が得られる。さらに、樹脂は、比重が小さいため、例えば、人工抗体1をバイオセンサー等に適用する場合に、生体物質の検出感度を高め得るガイド7を実現することができる。
【0028】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリスチレン、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂、メタクリル樹脂、ノリル樹脂、ポリウレタン、アイオノマー樹脂、セルロース系プラスチック、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、フッ素樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0029】
熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミドイミド、ベンゾシクロブテン、ベンゾオキサジン、シアネート樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0030】
金属としては、例えば、Fe、Co、Ni、Cu、Ti、Al、Mg、Ag、Au、Pt、Mo、W、Nb、Taのような金属元素の単体またはこれらを主成分とする合金等が挙げられる。
【0031】
セラミックスとしては、例えば、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ホウ素、酸化イットリウムのような酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化タングステンのような非酸化物系セラミックス等が挙げられる。
ガラスとしては、例えば、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス等が挙げられる。
【0032】
2.人工抗体の製造方法
次に、実施形態に係る人工抗体の製造方法について説明する。なお、以下の説明では、前述した実施形態に係る人工抗体1を製造する方法を例に説明する。
【0033】
図3は、図1の人工抗体1の製造方法を示すフローチャートである。図4ないし図13は、図3に示す製造方法を説明するための断面図である。なお、図4ないし図13において、図1および図2と同様の構成については、同一の符号を付している。
【0034】
図3に示す人工抗体1の製造方法は、整列工程S102、ポリマー層形成工程S104および除去工程S106を有する。
【0035】
2.1.整列工程
整列工程S102では、細菌BAまたはそのレプリカ8で構成される成形型とモノマーとを含む分散液をガイド7に供給し、ガイド7により、成形型を整列させる。この成形型は、鋳型2を形成するための型であり、実際の細菌BAまたはそのレプリカ8のいずれであってもよい。本実施形態では、細菌BAのレプリカ8を用いる。レプリカ8は、細菌BAの立体構造S1に相似な相似的構造S2を有する。
【0036】
レプリカ8は、人工抗体1の製造に用いられた後も、1回または複数回の再使用が可能である。したがって、レプリカ8を用いることにより、実際の細菌BAを用いて人工抗体1を作製する場合に比べて、人工抗体1の効率的な作製が可能になる。
【0037】
図4は、生体物質の一例である細菌BAを示す概略図、および、細菌BAのレプリカ8の断面図である。図5は、図4のA1部およびA2部の拡大図である。
【0038】
図4および図5に示す矢印Simは、細菌BAの立体構造S1とレプリカ8の相似的構造S2とが、互いに相似的であることを表す。本明細書において相似的とは、細菌BAの立体構造S1の少なくとも一部と、レプリカ8の相似的構造S2とが、互いに同一の形状であるか、または、いずれか一方を拡大もしくは縮小することで互いに同一の形状になる関係のことをいう。なお、同一の形状は、製造誤差による形状のずれを許容する。また、いずれか一方を拡大または縮小する場合も、その拡大率や縮小率は、元の大きさに対して例えば5%以下程度と小さい。したがって、レプリカ8は、細菌BAをほぼ原寸大で模造した模型であるといえる。
【0039】
なお、レプリカ8が模造する部位は、細菌BAの全部であってもよいし、任意の一部であってもよい。図4に示すレプリカ8は、棒状をなす細菌BAの長手方向の一部が模造されたものである。また、生体物質は、細菌に限定されず、例えばウイルス、真菌、原虫のような細菌以外の微生物、細胞、エクソソーム等であってもよい。
【0040】
図4および図5に示すレプリカ8は、本体部4と、その表面を被覆する被覆膜5と、を備えるコアシェル構造になっている。したがって、相似的構造S2は、被覆膜5の一部が三次元形状に成形されている部位である。このような被覆膜5は、好ましくは無機材料で構成されている。無機材料は、有機材料に比べて、機械的強度、剛性、耐摩耗性のような機械的特性、耐食性、耐熱性のような化学的特性に優れている。このため、被覆膜5が無機材料で構成されていること、つまり、表面が無機材料で構成されていることにより、相似的構造S2が安定して維持されるレプリカ8が得られる。
【0041】
レプリカ8がとり得る最も長い軸を長軸とするとき、長軸の長さL1は、生体物質の種類に応じて異なるが、例えば細菌の場合、0.3μm以上10μm以下とされる。また、長軸に直交する軸を短軸とするとき、短軸の長さW1は、例えば細菌の場合、0.1μm以上5μm以下とされる。
【0042】
整列工程S102では、図6に示すように、レプリカ8とモノマー91とを含む分散液9を、ガイド7に供給する。これにより、レプリカ8は、分散液中を移動しながら、ガイド7に繰り返し接触する。そして、所定の確率で、凹部71にレプリカ8が入り込む。その結果、図7に示すように、各凹部71にレプリカ8が収まった状態になる。また、このとき、凹部71とレプリカ8との間には、モノマー91が存在している。
【0043】
このように凹部71は、レプリカ8の一部または全部を収容するように構成されているのが好ましい。これにより、分散液9に分散しているレプリカ8の挙動を制御しやすくなり、レプリカ8を整列させやすくなる。
【0044】
なお、ガイド7は、凹部71以外の形状、例えば凸部、凸条、撥液部等により、レプリカ8を配列させるように構成されていてもよい。
【0045】
ガイド7は、例えば、図6に示すような板状をなしている。そして、凹部71は、ガイド7の一方の主面に開口している。この場合、凹部71が開口している面に分散液9を供給すれば、レプリカ8と凹部71との接触確率を高めやすくなる。
【0046】
また、整列工程S102は、分散液9に振動Vを付与する操作を含んでいてもよい。このような操作により、レプリカ8が凹部71に収まるように移動する確率が高くなる。これにより、鋳型2の配置密度を自在に制御することができる。振動Vは、例えば、ガイド7に振動を付与する振動発生装置、分散液9に超音波を照射する超音波発生装置等により付与される。
【0047】
また、整列工程S102は、分散液9を吸引する操作を含んでいてもよい。具体的には、凹部71の底部に吸引孔を形成し、吸引孔から真空ポンプ等により引き圧を印加してもよい。このような操作により、レプリカ8が凹部71に収まるように移動する確率が高くなる。これにより、鋳型2の配置密度を自在に制御することができる。
【0048】
本体部4の構成材料としては、例えば、樹脂のような有機材料、金属、金属系化合物、非金属、非金属系化合物のような無機材料が挙げられる。また、有機材料と無機材料とを組み合わせた複合材料であってもよい。
【0049】
金属としては、例えば、Fe、Co、Ni、Cu、Ti、Al、Mg、Ag、Au、Pt、Mo、W、Nb、Taのような金属元素の単体またはこれらを主成分とする合金等が挙げられる。金属系化合物としては、例えば、金属の酸化物、炭化物、窒化物、塩化物、硫化物、炭酸物、水酸化物等が挙げられる。
【0050】
非金属としては、例えば、Si、B、C等が挙げられる。非金属系化合物としては、例えば、非金属の酸化物、炭化物、窒化物等が挙げられる。
【0051】
なお、本体部4の構成材料は、上記のような無機材料から選択される2種以上を組み合わせた複合材料、または、上記の少なくとも1種と他の無機材料とを組み合わせた複合材料であってもよい。
【0052】
樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。
特に熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を用いた場合は、熱可塑性樹脂を用いた場合よりも、本体部4の剛性および耐熱性を高めることができる。さらに、光硬化性樹脂の場合は、光照射により重合するため、硬化による樹脂の体積変化が小さく、レプリカ8として元の鋳型の形状、サイズをより高い精度で保持することができる。
【0053】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリスチレン、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂、メタクリル樹脂、ノリル樹脂、ポリウレタン、アイオノマー樹脂、セルロース系プラスチック、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、フッ素樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0054】
熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミドイミド、ベンゾシクロブテン、ベンゾオキサジン、シアネート樹脂等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0055】
被覆膜5は、前述したように無機材料で構成されている。この無機材料としては、例えば、酸化物、窒化物、炭化物、硫化物、フッ化物等が挙げられる。このうち、無機材料は、酸化物または窒化物であるのが好ましい。これらは、無機材料の中でも特に機械的特性および化学的特性に優れている。このため、相似的構造S2を特に安定して維持し得る被覆膜5を得ることができる。
【0056】
酸化物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素等が挙げられる。
【0057】
このうち、酸化ケイ素、酸化チタンまたは酸化アルミニウムが好ましく用いられる。これらは、緻密な被覆膜5を形成可能であるとともに、機械的特性および化学的特性が特に良好である。酸化ケイ素は、組成式SiO(0<x≦2)で表される酸化物であるが、好ましくはSiOである。酸化チタンは、組成式TiO(0<x≦2)で表される酸化物であるが、好ましくはTiOである。酸化アルミニウムは、組成式AlO(0<x≦2)で表される酸化物であるが、好ましくはAlである。
【0058】
窒化物としては、例えば、窒化ガリウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化チタン等が挙げられる。
【0059】
また、被覆膜5の構成材料は、上記のような無機材料から選択される2種以上を組み合わせた複合材料、または、上記の少なくとも1種と他の無機材料とを組み合わせた複合材料であってもよい。複合材料の例としては、Al-SiO複合材料が挙げられる。
【0060】
被覆膜5の平均厚さは、特に限定されないが、1nm以上500nm以下であるのが好ましく、3nm以上100nm以下であるのがより好ましく、5nm以上50nm以下であるのがさらに好ましい。被覆膜5の平均厚さが前記範囲内であれば、相似的構造S2を形成するのに十分な厚さを確保できるとともに、被覆膜5が厚すぎることに伴う弊害を抑制することができる。すなわち、被覆膜5の平均厚さが前記下限値を下回ると、様々な突出高さの相似的構造S2を十分に形成できないおそれがある。一方、被覆膜5の平均厚さが前記上限値を上回ると、被覆膜5の形成に必要以上の時間がかかるため、レプリカ8の作製効率が低下するおそれがある。
【0061】
なお、被覆膜5の平均厚さは、レプリカ8の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)で観察して、任意に選択した10か所以上の膜厚を測定したとき、その平均値として求められる。
【0062】
また、レプリカ8は、磁性材料を含んでいてもよい。この場合、整列工程S102は、分散液9に磁場を印加して整列させる操作を含んでいてもよい。磁性材料には、磁場の方向に沿って整列する性質があるため、この操作によってレプリカ8を効率よく整列させることができる。磁場を印加する方法としては、例えば、図6に示すように、ガイド7に磁場発生源6を近づける方法が挙げられる。磁場発生源6としては、例えば、永久磁石、電磁石等が挙げられる。
【0063】
磁性材料は、常磁性材料であってもよいが、強磁性材料であるのが好ましい。強磁性材料であれば、透磁率が高いため、印加された磁場に対して大きな磁気的吸引力を発生させることができる。
【0064】
また、強磁性材料は、硬磁性材料であってもよいが、軟磁性材料であるのが好ましい。軟磁性材料は、透磁率が高く、かつ、保磁力が低い。このため、磁場が印加された状態では、大きな磁気的吸引力を発生させる一方、磁場の印加を停止すると、磁気的吸引力を大きく減少させることができる。これにより、磁場の印加のオン・オフを利用して、整列工程S102におけるレプリカ8の整列や、後述する除去工程S106におけるレプリカ8の除去を、効率よく行うことができる。軟磁性材料の保磁力は、好ましくは800A/m以下とされ、より好ましくは400A/m以下とされる。
【0065】
軟磁性材料としては、例えば、Fe基合金、Ni基合金、Co基合金のような金属系軟磁性材料、いずれもFeを主成分とするスピネル型フェライト、マグネトプランバイト型フェライト、ガーネット型フェライトのような酸化物系軟磁性材料等が挙げられる。このうち、酸化物系軟磁性材料が好ましく用いられる。酸化物系軟磁性材料は、nmサイズの粒子を低コストで製造可能であるため、レプリカ8が含む磁性材料として有用である。
【0066】
一方、成形型が細菌BAの場合、分散液9に電場を印加するようにしてもよい。細菌BAは、一般に負電荷を帯びている。このため、電場の向きを適宜設定することにより、細菌BAをガイド7側に泳動させることができる。
【0067】
2.2.ポリマー層形成工程
ポリマー層形成工程S104では、レプリカ8が整列した状態で、モノマーを重合させ、ポリマー層3を形成する。前述した整列工程S102により、ガイド7の各凹部71には、図7に示すようにレプリカ8が収まった状態になる。また、凹部71とレプリカ8との間には、モノマー91が存在している。
【0068】
ポリマー層形成工程S104では、分散液9中のモノマー91に重合反応を生じさせる。これにより、図8に示すように、ポリマー層3が得られる。
【0069】
図9は、図8のA4部の拡大図である。図9に示すように、ポリマー層3には、レプリカ8の相似的構造S2が転写される。その結果、図9に示す、相補的構造S3を有する鋳型2を持つポリマー層3が得られる。
【0070】
モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、ピロール、アニリン、チオフェンまたはそれらの誘導体等が挙げられる。モノマーとして例えばピロールを用いた場合、ポリマー層3はポリピロール層となる。また、この場合、重合反応としては、例えば、電解重合反応が挙げられるが、本工程での重合反応は、これに限定されない。
【0071】
2.3.除去工程
除去工程S106では、図10に示すように、レプリカ8をポリマー層3から除去する。これにより、相補的構造S3(相補的な三次元構造)の鋳型2を持つポリマー層3を備える人工抗体1が得られる。図11は、図10のA5部の拡大図である。図11に示す相補的構造S3は、レプリカ8の相似的構造S2(成形型の立体構造)に相補的な構造である。
【0072】
レプリカ8を除去する方法としては、レプリカ8をポリマー層3から引き抜く操作を行う方法が挙げられる。このとき、鋳型2への影響を最小化するため、次のような操作を併用することが好ましい。
【0073】
まず、ポリマー層3を加熱して膨張させる操作が挙げられる。この操作では、加熱によってポリマー層3を膨張させる。これにより、図12に示すように、ポリマー層3とレプリカ8との間に隙間を生じさせることができる。その結果、レプリカ8を円滑に分離、除去することができる。加熱温度は、ポリマー層3を熱変性させない温度であれば、特に限定されないが、例えば40℃以上100℃以下とされる。また、レプリカ8の本体部4が無機材料である場合、ポリマー層3との熱膨張差が大きいので、より低温での加熱でも分離が可能になる。
【0074】
また、レプリカ8が磁性材料を含む場合、レプリカ8に対して磁場を印加すると、レプリカ8に磁気的吸引力が発生する。具体的には、図13に示すように、ガイド7の凹部71の開口側から磁場発生源6を近づけると、レプリカ8には磁場発生源6へ向かう磁気的吸引力が発生する。これにより、レプリカ8をより簡単に除去することができる。磁場発生源6としては、例えば、永久磁石、電磁石等が挙げられる。このうち、回収後のレプリカ8を磁場発生源6から容易に分離可能であるという観点から、電磁石が好ましく用いられる。
【0075】
以上のような製造方法によれば、ガイド7を用いてレプリカ8を整列させ、その状態でポリマー層3を形成するので、レプリカ8を目的とする配置密度で配置することができる。これにより、鋳型2の配置密度の個体差が少ない人工抗体1を製造することができる。また、レプリカ8の配置密度を高めることができるので、鋳型2の配置密度が高い人工抗体1を製造することができる。このような人工抗体1は、細菌BAを高感度に検出するバイオセンサー等の実現に寄与する。
【0076】
特に、成形型としてレプリカ8を用いることで、実際の細菌BAを使うことなく、ポリマー層3を作製することができる。また、レプリカ8は、細菌BAを代替する成形型として繰り返し使用することができる。このため、ポリマー層3の効率的な作製が可能になり、人工抗体1の低コスト化を容易に図ることができる。また、入手しにくい細菌BAであっても、需要に応じて人工抗体1を安定的に作製することが可能になる。
【0077】
3.生体物質検出センサー
次に、実施形態に係る生体物質検出センサーについて説明する。
【0078】
図14は、実施形態に係る生体物質検出センサー10を模式的に示す断面図である。
図14に示す生体物質検出センサー10は、人工抗体1と、共振デバイス100と、制御装置200と、を備える。共振デバイス100は、鋳型2への細菌BA(生体物質)の捕捉に伴って共振周波数が変化する。制御装置200は、共振デバイス100を発振させるとともに、共振デバイス100の共振周波数の変化に基づいて、細菌BAを検出する。
【0079】
図14に示す人工抗体1は、前述したように、鋳型2を持つポリマー層3と、ポリマー層3を支持するガイド7と、を備える。また、図14に示す共振デバイス100は、ガイド7のポリマー層3を支持する面とは反対の面を支持している。
【0080】
共振デバイス100は、共振子を有する。共振子は、圧電体110の圧電現象を利用して、一定の周波数を生み出す素子であり、水晶振動子、シリコン振動子、セラミック振動子等の種類がある。共振子の基本共振周波数は、高い精度で一定を維持するが、共振子に質量変化が生じると、共振子の共振周波数が変化する。
【0081】
共振デバイス100に用いられる共振子としては、水晶振動子が好ましく用いられ、ATカット水晶振動子がより好ましく用いられる。水晶振動子では、エネルギー損失が少なく、その結果として安定して振動を継続できる。また、ATカット水晶振動子は、基本共振周波数がMHz帯であり、kHz帯の共振子に比べて、質量変化をより精度よく検出することが可能である。
【0082】
図14に示す共振デバイス100は、圧電体110と、それを挟むように積層された電極120、130と、を備える。人工抗体1は、電極120を介して圧電体110と接している。図14に示す圧電体110は、ほぼ一定の厚さの薄片である。水晶振動子の場合、この薄片は水晶片である。圧電体110の厚さは、質量変化の検出感度および発振に必要な駆動力に影響を及ぼすため、人工抗体1の構成材料等に応じて適宜選択される。一例としては、10μm以上200μm以下であるのが好ましい。
【0083】
制御装置200は、発振回路210および周波数カウンター220を有する。発振回路210は、共振デバイス100に交流電圧を印加し、共振デバイス100を発振させる。周波数カウンター220は、発振回路210から出力された信号に基づいて、共振周波数を測定し、基本共振周波数からの変化を算出する。制御装置200では、この共振周波数の変化幅に基づいて質量変化を検出する。検出した質量変化から、生体物質検出センサー10は、人工抗体1に対する細菌BAを定量的に検出する。また、人工抗体1では、鋳型2の配置密度の個体差が少なく、配置密度を容易に高められる。このため、人工抗体1を備える生体物質検出センサー10は、細菌BAをより高精度かつ高感度に検出することができる。
【0084】
図15に示す共振デバイス100は、図14に示す共振デバイス100の変形例である。
【0085】
図15に示す圧電体110では、内側に位置する薄膜部112と、その外側に位置する厚膜部114と、で厚さが異なっている。そして、薄膜部112で人工抗体1を支持するように構成されている。
【0086】
このような構成によれば、薄膜部112における高い検出感度と、厚膜部114における大きな駆動力と、を両立させることができる。つまり、人工抗体1に捕捉される細菌BAの数が少なくても、薄膜部112において細菌BAの捕捉状態を精度よく検出することができ、高感度の生体物質検出センサー10を実現することができる。また、細菌BAは、一般に分散媒とともに供給される。このため、共振デバイス100では、分散媒の粘性の影響を受けた状態でも発振を継続できる駆動力が求められる。厚膜部114では、大きな駆動力が得られるため、人工抗体1に分散媒が接触している状態でも薄膜部112の発振を継続させることができる。
【0087】
薄膜部112の厚さは、3μm以上50μm以下であるのが好ましく、5μm以上20μm以下であるのがより好ましい。厚膜部114の厚さは、薄膜部112よりも厚ければよいが、好ましくは80μm以上500μm以下とされ、より好ましくは150μm以上250μm以下とされる。
【0088】
図16に示す共振デバイス100も、図14に示す共振デバイス100の変形例である。
【0089】
図16に示す共振デバイス100は、ガイド7の機能も併せ持っている。換言すれば、図16に示すガイド7は、共振デバイス100としても機能する。したがって、図16に示す共振デバイス100は、凹部71を有するとともに、その位置に対応する鋳型2を持つポリマー層3を支持している。
【0090】
このような構成によれば、人工抗体1の質量が共振デバイス100の発振に及ぼす影響を最小限に抑えることができる。つまり、共振デバイス100がガイド7の機能も併せ持っているため、ガイド7の分だけ、人工抗体1の軽量化が図られる。その結果、分散媒の影響下でも、より発振しやすい共振デバイス100が得られる。
【0091】
なお、図14図15および図16に示す共振デバイス100の構成は、一例であり、適宜組み合わせることも可能である。例えば、図15では、人工抗体1が共振デバイス100の中央部付近のみに配置され、端部が補強されているが、端部は必ずしも補強されていなくてもよい。これにより、図14の構成よりも高感度であるが、図15の構成よりも製造は容易な共振デバイスとなる。
【0092】
また、図15に示す共振デバイス100の構成と、図16に示す共振デバイス100の構成と、を組み合わせるようにしてもよい。つまり、図15に示す薄膜部112の表面に加工を施し、ガイド7の機能を作り込むようにしてもよい。これにより、さらに発振しやすい共振デバイス100が得られる。その結果、細菌BAを定量的かつ高感度に検出することができ、取り扱いが容易な生体物質検出センサー10を実現することができる。
【0093】
4.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る人工抗体1の製造方法は、整列工程S102と、ポリマー層形成工程S104と、除去工程S106と、を有する。整列工程S102では、レプリカ8(生体物質またはそのレプリカで構成される成形型)とモノマー91とを含む分散液9をガイド7に供給し、ガイド7により、レプリカ8を整列させる。ポリマー層形成工程S104では、レプリカ8が整列した状態で、モノマー91を重合させ、ポリマー層3を形成する。除去工程S106では、レプリカ8をポリマー層3から除去して、レプリカ8の相似的構造S2(成形型の立体構造)に相補的な相補的構造S3(相補的な三次元構造)の鋳型2を持つポリマー層3を備える人工抗体1を得る。
【0094】
このような構成によれば、ガイド7を用いてレプリカ8を整列させ、その状態でポリマー層3を形成するので、レプリカ8を目的とする配置密度で配置することができる。これにより、鋳型2の配置密度の個体差が少ない人工抗体1を製造することができる。このような人工抗体1は、細菌BAを高精度に検出する生体物質検出センサー10等の実現に寄与する。また、レプリカ8の配置密度を高めることができるので、鋳型2の配置密度が高い人工抗体1を製造することができる。このような人工抗体1は、細菌BAを高感度に検出する生体物質検出センサー10等の実現に寄与する。
【0095】
また、ガイド7は、レプリカ8(成形型)を収容する凹部71を有することが好ましい。これにより、分散液9に分散しているレプリカ8の挙動を制御しやすくなり、レプリカ8を整列させやすくなる。
【0096】
また、整列工程S102は、分散液9に振動Vを付与する操作を含んでいてもよい。これにより、レプリカ8が凹部71に収まるように移動する確率が高くなる。その結果、鋳型2の配置密度を自在に制御することができる。
【0097】
また、成形型は、細菌BA(生体物質)のレプリカ8で構成されていることが好ましい。これにより、実際の細菌BAを使うことなく、ポリマー層3を作製することができる。また、レプリカ8は、細菌BAを代替する成形型として繰り返し使用することができる。このため、ポリマー層3の効率的な作製が可能になり、人工抗体1の低コスト化を容易に図ることができる。また、入手しにくい細菌BAであっても、需要に応じて人工抗体1を安定的に作製することが可能になる。
【0098】
また、レプリカ8は、磁性材料を含んでいてもよい。この場合、整列工程S102は、分散液9に磁場を印加して整列させる操作を含んでいてもよい。これにより、レプリカ8を効率よく整列させることができる。
【0099】
さらに、この場合、除去工程S106は、レプリカ8に磁場を印加して吸引する操作を含んでいてもよい。これにより、レプリカ8に磁気的吸引力を発生させ、レプリカ8をより簡単に除去することができる。
【0100】
また、レプリカ8は、表面が無機材料で構成されていることが好ましい。これにより、相似的構造S2が安定して維持されるレプリカ8が得られる。
【0101】
また、除去工程S106は、ポリマー層3を加熱して膨張させる操作を含んでいてもよい。これにより、ポリマー層3とレプリカ8との間に隙間を生じさせることができる。その結果、レプリカ8を円滑に分離、除去することができる。
【0102】
前記実施形態に係る人工抗体1は、ポリマー層3と、ガイド7と、を備える。ポリマー層3は、細菌BA(生体物質)の立体構造S1に相補的な相補的構造S3(三次元構造)の鋳型2を持つ。ガイド7は、ポリマー層3を支持し、鋳型2に対応する位置に設けられている凹部71を有する。
【0103】
このような構成によれば、鋳型2の配置密度において個体差の少ない人工抗体1、および、鋳型2をより高密度に配置した人工抗体1が得られる。これにより、人工抗体1を備える生体物質検出センサー10は、細菌BAをより高精度かつ高感度に検出可能なものとなる。
【0104】
また、ガイド7は、水晶片を有していてもよい。この水晶片は、薄膜部112と、薄膜部112よりも厚い厚膜部114と、を有する。ポリマー層3は、薄膜部112に設けられている。
【0105】
このような構成によれば、薄膜部112における高い検出感度と、厚膜部114における大きな駆動力と、を両立させることができる。厚膜部114では、大きな駆動力が得られるため、人工抗体1に分散媒が接触している状態でも薄膜部112の発振を継続させることができる。
【0106】
また、ポリマー層3における鋳型2の配置密度は、1×10[個/cm]以上であることが好ましい。これにより、細菌BA(生体物質)の検出感度が特に高い生体物質検出センサー10等を実現可能な人工抗体1が得られる。
【0107】
前記実施形態に係る生体物質検出センサー10は、人工抗体1と、共振デバイス100と、を備える。共振デバイス100は、鋳型2への細菌BA(生体物質)の捕捉に伴って共振周波数が変化する。
【0108】
人工抗体1では、鋳型2の配置密度の個体差が少なく、配置密度を容易に高められる。このため、人工抗体1を備える生体物質検出センサー10は、細菌BAをより高精度かつ高感度に検出することができる。
【0109】
以上、本発明の人工抗体の製造方法、人工抗体および生体物質検出センサーを図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本発明の人工抗体および生体物質検出センサーでは、前記実施形態の各部の構成が、同様の機能を有する任意の構成に置換されていてもよく、前記実施形態に他の任意の構成物が付加されていてもよい。また、本発明の人工抗体の製造方法は、前記実施形態に任意の目的の工程が追加された方法であってもよい。
【符号の説明】
【0110】
1…人工抗体、2…鋳型、3…ポリマー層、4…本体部、5…被覆膜、6…磁場発生源、7…ガイド、8…レプリカ、9…分散液、10…生体物質検出センサー、71…凹部、91…モノマー、100…共振デバイス、110…圧電体、112…薄膜部、114…厚膜部、120…電極、130…電極、200…制御装置、210…発振回路、220…周波数カウンター、BA…細菌、Com…矢印、S1…立体構造、S102…整列工程、S104…ポリマー層形成工程、S106…除去工程、S2…相似的構造、S3…相補的構造、Sim…矢印、V…振動、L1…長さ、L2…長さ、W1…長さ、W2…長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図16