(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081495
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20240611BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240611BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20240611BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B23/00 102
C22B26/12
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195165
(22)【出願日】2022-12-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年3月発行のJFE21世紀財団2021年度大学研究助成技術研究報告書にて発表。
(71)【出願人】
【識別番号】522418439
【氏名又は名称】レアメタル技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉塚 和治
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA11
4K001DB02
4K001DB22
4K001DB23
4K001DB35
5H031AA00
5H031BB00
5H031EE04
5H031HH03
5H031HH06
5H031RR02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法を提供する。
【解決手段】使用済みのリチウムイオン電池の正極材及び負極材に含有される、リチウム、マンガン、コバルト及びニッケルの群からなる希少金属を分離回収する方法であって、当該正極材及び当該負極材を無酸素雰囲気下で焙焼させ、焙焼物を溶解及び蒸発乾固させて、炭酸塩としてリチウムを回収する工程、当該リチウム回収後の残渣を酸溶液に溶解した後、酸化剤を接触させて、酸化物として当該マンガンを沈殿させて分離回収する工程、当該マンガン回収後の濾液と、次亜塩素酸ナトリウム溶液を接触させて、酸化物として当該コバルトを沈殿させて分離回収する工程、当該コバルト回収後の濾液に苛性ソーダ溶液を接触させて、水酸化物として当該ニッケルを沈殿させ分離回収する工程、からなることを特徴とする、廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みのリチウムイオン電池の正極材及び負極材に含有される、少なくともリチウム、マンガン、コバルト及びニッケルの群からなる希少金属を分離回収する方法であって、当該方法は、
当該正極材及び当該負極材を無酸素雰囲気下で焙焼させ、焙焼物を溶解及び蒸発乾固させて、炭酸塩としてリチウムを回収する、リチウム回収工程と、
当該リチウム回収後の残渣を酸溶液に溶解した後、酸化剤を接触させて、酸化物として当該マンガンを沈殿させて分離回収する、マンガン回収工程と、
当該マンガン回収後の濾液と、次亜塩素酸ナトリウム溶液を接触させて、酸化物として当該コバルトを沈殿させて分離回収する、コバルト回収工程と、
当該コバルト回収後の濾液に苛性ソーダ溶液を接触させて、水酸化物として当該ニッケルを沈殿させ分離回収する、ニッケル回収工程と、
からなることを特徴とする、廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法。
【請求項2】
前記負極材が、黒鉛、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)及び易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)からなる炭素材料の群から、1つ以上選択されてなることを特徴とする、請求項1に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法。
【請求項3】
前記リチウム回収工程にて、前記正極材及び前記負極材を混合比で0.5~1.0として混合し焙焼させることを特徴とする、請求項1または2に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法。
【請求項4】
前記リチウム回収工程にて、前記正極材及び前記負極材を、800℃以上且つ1時間以上で焙焼させることを特徴とする、請求項1または2に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法。
【請求項5】
前記マンガン回収工程にて、前記酸化剤が過硫酸ソーダ溶液であることを特徴とする、請求項1または2に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法。
【請求項6】
前記マンガン回収工程にて、前記酸化剤をモル比で3以上且つ95℃以上で接触させることを特徴とする、請求項5に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法。
【請求項7】
前記マンガン回収工程にて、キレート樹脂を用いた吸着法を適用して、前記マンガンを分離回収することを特徴とする、請求項1または2に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法。
【請求項8】
前記コバルト回収工程にて、前記次亜塩素酸ナトリウム溶液を50℃以上で前記マンガン回収後の濾液と接触させることを特徴とする、請求項1または2に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法。
【請求項9】
前記ニッケル回収工程にて、前記苛性ソーダ溶液と前記コバルト回収後の濾液をpH10以上で接触させることを特徴とする、請求項1または2に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業廃棄物でも有価廃棄物からのレアメタル(以下、希少金属と称す)回収方法に関し、特に廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム(Li)イオン電池は、ノートパソコン、スマートフォン等の電子機器に幅広く使用されており、近年において急速に普及している。
上記電池は、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池等の従来の二次電池と比較し、小型及び軽量化可能であり且つ高エネルギー密度、高充放電エネルギー、小自己放電及び長寿命等の点で優れている。
【0003】
そのリチウムイオン電池は、正極材、負極材、電解液、セパレータで構成され、正極材にはコバルト系、ニッケル系、マンガン系などがあり、アルミニウム箔などに固着して電極板を構成している。
特に自動車の正極材としては、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)を性能目標に応じて混合した複合正極材も開発されている。
【0004】
今後もリチウムイオン電池は、電気自動車等の普及に伴い増加も見込まれており、使用済みの電池や製造中に生じた不良品等の廃リチウムイオン電池の増加も予測されており、同電池にはリチウム、コバルト、ニッケル、マンガン等のレアメタル(希少金属)が含まれ、同金属およびその化合物は、様々な工業製品に多く利用されている。
【0005】
その希少金属は、新興国の発展に伴う同金属の消費量の世界的な増加、工業製品のさらなる高機能化、環境規制の強化などを背景に需要が増大している。
しかしながら、希少金属は価格変動が激しく、資源の偏在が問題となっていることからも、希少金属を含む廃リチウムイオン電池等の電子機器等は、二次資源または都市鉱山とも呼ばれ、これらのリサイクルにより経済的な利益が見込まれている。
【0006】
上記の背景にて、廃リチウムイオン電池のリサイクルプロセスの開発がなされており、粉砕・選別を行った後に焼却炉中で高温焙焼処理の後、各種金属を浸出させて、多段式の溶媒抽出法を適用して分離回収するプロセスが、産業上で経済性及び操作性の観点から広く採用されている。
【0007】
しかしながら、溶媒抽出法は多量の有機溶剤を使用することが必須であり、安全性及び環境負荷の面で課題を有しており、特に同法を採用した多段式の抽出プロセスにおいては、操作条件を精緻に設定する必要があり、廃棄物リサイクルでは原料組成が刻々と変化するため、操作条件の変更が頻繁となり環境負荷がより大きくなるため、簡便かつ環境負荷が小さい分離回収プロセスの開発が求められている。
【0008】
そこで、非特許文献1には、正極材であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)を負極材である黒鉛と混合して加熱すると、熱還元反応が進行し炭酸リチウム(Li2CO3)および金属コバルトが生成され、得られた固体混合物を水で洗浄することで、炭酸リチウムのみを水へ溶解することができ、リチウムとコバルトの分離回収が達成されていることが開示され、非特許文献2及び3では、リチウム分離後の含有するコバルト、ニッケル及びマンガンに関して、酸化剤である亜硫酸ナトリウムを沈殿剤として 廃リチウムイオン電池の浸出液(リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン)に加え95℃で攪拌することで溶液中の99.9%のマンガンを選択的に沈殿可能であること、非特許文献3には、酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムを沈殿剤として溶液(コバルト, ニッケル, 鉄)に加えることで、コバルトと鉄を選択的に沈殿可能であることがそれぞれ開示されている。
【0009】
更に、特許文献1では、非特許文献1と同様に、リチウムイオン電池から分離された活物質を、不活性雰囲気下、リチウムイオン電池の負極活物質に含まれる還元性物質としての炭素と共に600℃以上の温度で焙焼して、前記活物質に含まれるリチウム化合物を還元して粗炭酸リチウムを得る工程と、前記粗炭酸リチウムに、難溶性炭酸塩を生成し得る金属水酸化物溶液を添加し、水酸化リチウム溶液を得る工程と、前記水酸化リチウム溶液に炭酸ガスを供給し、析出した炭酸リチウムを回収すること及び、同文献2には、コバルト及び/又はニッケルと、鉄及びアルミニウムと、を含むリチウムイオン電池のスクラップから、鉄及びアルミニウムを除去する方法及び有価金属の回収方法に関し、沈殿法及び吸着法を適用して、上記鉄及びアルミニウムを除去及び有価金属を回収することがそれぞれ開示されている。
【0010】
本願発明者は、上記プロセス開発に於ける問題点を鑑み、現在のリチウムイオン電池の正極材として自動車用としても広く採用されている、コバルト、ニッケル、マンガンを含有する三元系の正極材でも、上記した方法を用いて環境負荷の小さい沈殿法及び吸着法を用いた分離回収プロセスに適用可能と考え、以下に後述する本プロセスを開発するに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. Li, G. Wang, Z. Xu, Environmentally - friendly oxygen - free roasting / wet magnetic separation technology for in situ recycling cobalt, lithium carbonate and graphite from spent LiCoO2 / graphite lithium batteries, J. Hazard. Mater.302(25),97-104(2016)
【非特許文献2】S. Bhattacharjee, K. K. Gupta, S. Chakravarty, P. Thakur, G. Bhattacharyya, Separation of Iron, Nickel, and Cobalt from Sulphated Leach Liquor of Low Nickel Lateritic Oxide Ore, Separation Science and Technology 39 (2). 413-429 (2004)
【非特許文献3】J. H. Huang, C. Kargl - Simard, M. Oliazadeh, A. M. Alfantazi, pH - Controlled precipitation of cobalt and molybdenum from industrial waste effluents of a cobalt electrodeposition process, Hydrometallurgy, 75(1-4), 77 - 90 (2004)
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許6651115号公報
【特許文献2】特開2017-36478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記したような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、 廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明は、使用済みのリチウムイオン電池の正極材及び負極材に含有される、少なくともリチウム、マンガン、コバルト及びニッケルの群からなる希少金属を分離回収する方法であって、当該方法は、
当該正極材及び当該負極材を無酸素雰囲気下で焙焼させ、焙焼物を溶解及び蒸発乾固させて、炭酸塩としてリチウムを回収する、リチウム回収工程と、
当該リチウム回収後の残渣を酸溶液に溶解した後、酸化剤を接触させて、酸化物として当該マンガンを沈殿させて分離回収する、マンガン回収工程と、
当該マンガン回収後の濾液と、次亜塩素酸ナトリウム溶液を接触させて、酸化物として当該コバルトを沈殿させて分離回収する、コバルト回収工程と、
当該コバルト回収後の濾液に苛性ソーダ溶液を接触させて、水酸化物として当該ニッケルを沈殿させ分離回収する、ニッケル回収工程と、
からなることを特徴とする、
廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法に関する。
【0015】
請求項2に係る発明は、前記負極材が、黒鉛、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)及び易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)からなる炭素材料の群から、1つ以上選択されてなることを特徴とする、請求項1に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法に関する。
【0016】
請求項3に係る発明は、前記リチウム回収工程にて、前記正極材及び前記負極材を混合比で0.5~1.0として混合し焙焼させることを特徴とする、請求項1または2に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法に関する。
【0017】
請求項4に係る発明は、前記リチウム回収工程にて、前記正極材及び前記負極材を、800℃以上且つ1時間以上で焙焼させることを特徴とする、請求項1または2に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法に関する。
【0018】
請求項5に係る発明は、前記マンガン回収工程にて、前記酸化剤が過硫酸ソーダ溶液であることを特徴とする、請求項1または2に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法に関する。
【0019】
請求項6に係る発明は、前記マンガン回収工程にて、前記酸化剤をモル比で3以上且つ95℃以上で接触させることを特徴とする、請求項5に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法に関する。
【0020】
請求項7に係る発明は、前記マンガン回収工程にて、キレート樹脂を用いた吸着法を適用して、前記マンガンを分離回収することを特徴とする、請求項1または2に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法に関する。
【0021】
請求項8に係る発明は、前記コバルト回収工程にて、前記次亜塩素酸ナトリウム溶液を50℃以上で前記マンガン回収後の濾液と接触させることを特徴とする、請求項1または2に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法に関する。
【0022】
請求項9に関する発明は、前記ニッケル回収工程にて、前記苛性ソーダ溶液と前記コバルト回収後の濾液をpH10以上で接触させることを特徴とする、請求項1または2に記載の廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法に関する。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に係る発明の使用済みのリチウムイオン電池の正極材及び負極材に含有される、少なくともリチウム、マンガン、コバルト及びニッケルの群からなる希少金属を分離回収する方法であって、当該方法は、
当該正極材及び当該負極材を無酸素雰囲気下で焙焼させ、焙焼物を溶解及び蒸発乾固させて、炭酸塩としてリチウムを回収する、リチウム回収工程と、
当該リチウム回収後の残渣を酸溶液に溶解した後、酸化剤を接触させて、酸化物として当該マンガンを沈殿させて分離回収する、マンガン回収工程と、
当該マンガン回収後の濾液と、次亜塩素酸ナトリウム溶液を接触させて、酸化物として当該コバルトを沈殿させて分離回収する、コバルト回収工程と、
当該コバルト回収後の濾液に苛性ソーダ溶液を接触させて、水酸化物として当該ニッケルを沈殿させ分離回収する、ニッケル回収工程と、
からなることによれば、高純度のリチウムを炭酸塩として回収可能であり、他の希少金属を沈殿法の適用により沈殿物を生成させ、物質収支上の回収の損失を抑制でき、高い回収率で分離回収できる効果を奏する。
【0024】
請求項2に係る発明の前記負極材が、黒鉛、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)及び易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)からなる炭素材料の群から、1つ以上選択されてなることによれば、炭素材料を用いることで、還元物質として熱還元反応を進行させることが可能であり、1つ以上用いることで、上記熱還元反応を低エネルギーで促進させる効果を奏する。
【0025】
請求項3に係る発明の前記リチウム回収工程にて、前記正極材及び前記負極材を混合比で0.5~1.0として混合し焙焼させることによれば、正極材と負極材による接触が増大するので反応が促進され、効率よく前記リチウムを熱還元できる効果を奏する。
【0026】
請求項4に係る発明の前記リチウム回収工程にて、前記正極材及び前記負極材を、800℃以上且つ1時間以上で焙焼させることによれば、正極材に含有する炭酸リチウムからの熱分解を抑え、且つ高い反応効率で熱還元反応が進行可能である効果を奏する。
【0027】
請求項5に係る発明の前記マンガン回収工程にて、前記酸化剤が過硫酸ソーダ溶液であることによれば、当該マンガンを酸化物として沈殿回収され、且つ全量のマンガンを回収可能な効果を奏する。
【0028】
請求項6に係る発明の前記マンガン回収工程にて、前記酸化剤をモル比で3以上且つ95℃以上で接触させることによれば、沈殿を生じるマンガンを効率よく酸化させることができ、高い反応率で酸化反応を促進できる効果を奏する。
【0029】
請求項7に係る発明の前記マンガン回収工程にて、キレート樹脂を用いた吸着法を適用して、前記マンガンを分離回収することによれば、吸着法を適用させて希少金属を分離させることで、効率よくマンガンを分離可能である効果を奏する。
【0030】
請求項8に係る発明の前記コバルト回収工程にて、前記次亜塩素酸ナトリウム溶液を50℃以上で前記マンガン回収後の濾液と接触させることによれば、反応温度を上げることで当該コバルトの沈殿反応が迅速に進み、且つ高純度のコバルトを回収可能な効果を奏する。
【0031】
請求項9に係る発明の前記ニッケル回収工程にて、前記苛性ソーダ溶液と前記コバルト回収後の濾液をpH10以上で接触させることによれば、当該ニッケルを水酸化物として沈殿させ、物質収支上損失なく全量を回収可能な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に係る、各希少金属の分離回収工程を示すフロー図である。
【
図2】本発明に係るリチウム回収率に及ぼす電気炉内の雰囲気及び加熱温度の影響と生成物の模式図であって、(A)はリチウム回収率に及ぼす反応温度の影響、(B)はリチウム回収率に及ぼす、焙焼時の雰囲気下の影響、(C)は、リチウム回収率に及ぼす正極材及び負極材の混合比に及ぼす影響及び(D)は、リチウム回収工程で得られた生成物のX線回折パターンを示す図である。
【
図3】本発明に係るマンガンの沈殿法に於ける回収率及び生成物を示す模式図であって、(A)は回収率に及ぼすモル比の影響を示す図、(B)はマンガン回収工程で得られた生成物のX線回折パターンを示す図である。
【
図4】本発明に係るコバルト回収工程で得られた生成物及びコバルト回収率に及ぼす反応温度の影響を示す図であって、(A)はマンガン回収工程で得られた生成物のX線回折パターンを示す図、(B)はコバルト回収率に及ぼす反応温度の影響を示す図である。
【
図5】本発明に係るニッケルの回収率に及ぼすpHの影響を示す模式図である。
【
図6】本発明に係る実施形態を示す模式図であって、焙焼炉(ロータリーキルン)及び各金属を沈殿させる沈殿槽を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る分離回収方法の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る希少金属の分離回収法の流れを示す各工程を示すフロー図である。
図1の中で、本願発明にて開示される希少金属の分離回収方法は、
(S1)当該正極材及び当該負極材を無酸素雰囲気下で焙焼させ、焙焼物を溶解及び蒸発乾固させて、炭酸塩としてリチウムを回収する、リチウム回収工程、
(S2)当該リチウム回収後の残渣を酸溶液に溶解した後、酸化剤を接触させて、酸化物として当該マンガンを沈殿させて分離回収する、マンガン回収工程、
(S3)当該マンガン回収後の濾液と、次亜塩素酸ナトリウム溶液を接触させて、酸化物として当該コバルトを沈殿させて分離回収する、コバルト回収工程、並びに
(S4)当該コバルト回収後の濾液に苛性ソーダ溶液を接触させて、水酸化物として当該ニッケルを沈殿させ分離回収する、ニッケル回収工程
の各工程で構成されている。
【0034】
最初に、廃リチウムイオン電池から希少金属を回収する工程の前処理として、安全対策として放電処理を行った後に、同電池の分解作業を行う。
この際、放電処理にて、負極材に残っているリチウムが正極材へ大半が移動される。
【0035】
その後、電池の分解作業を行い、正極材及び負極材を取り出す。
分解作業としては、リチウムイオン電池から正極材及び負極材を分離する操作は、二軸式破砕機やジョークラッシャー等の破砕機を用いて破砕する操作が例示され、前記正極材及び前記負極材が、電池の外装缶、正極電極板、負極電極板、セパレータ等から分離され、その後電極液の取り出し、電池の外装缶の解体等によって分解される。
電極液の取り出しについて、具体的な方法としては特に限定されないが、針状の刃先で電池を物理的に開孔して、内部の電解液を流し出して除去したり、廃リチウムイオン電池をそのまま加熱し、電解液を燃焼させることで無害化してもよい。
【0036】
なお、電池を構成する外装缶は、金属のアルミニウムや鉄等で構成されている場合が多く、金属製の外装缶をそのまま有価金属として比較的容易に回収することも可能である。
このような分解作業を経ることで、各工程での安全性を高め、且つ、ニッケル、コバルト等の希少金属や有価金属の回収生産性を高めることができる。
【0037】
(リチウム回収工程)
そして、分解作業を経て分離された当該正極材及び負極材を無酸素雰囲気下で焙焼させることで、リチウム分離工程に移る。
即ち、不活性となる雰囲気下での加熱炉内で、リチウムイオン電池の負極材に含まれる、還元性物質としての炭素材料と共に、800℃以上の温度で焙焼して、前記正極材に含まれるリチウム化合物を熱還元させて粗炭酸リチウムを得る。
【0038】
このとき、負極材である炭素材料としては、黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)及び易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)が例示されるが、1つ以上または組み合わせて使用しても良い。
【0039】
更に、不活性雰囲気を生成されうる加熱炉として形状等の限定はされないが、生成物の生産性等を鑑みると、ロータリーキルン等の横型管状炉が好ましく、上記破砕機能を有した加熱炉でも良い。
炉内に導入される無酸素雰囲気としては、不活性ガスとして窒素ガスやアルゴンガス等の希ガス、又は過熱水蒸気等が例示されるが特に限定されず、また、炉内に導入するガス流量は、条件等によって適宜変更しても良い。
更に、上記炉内に炭素材料等の酸素と化合しやすい材料を投入し、当該材料の熱分解等により残存する酸素が化学反応により消費されて、上記炉内を無酸素雰囲気下とすることも可能である。
【0040】
負極材による正極材の還元反応を起こさせるための加熱温度は、好ましくは700~1000℃、より好ましくは800℃である。
還元反応処理の処理時間は、好ましくは1~5時間、最も好ましくは1時間である。
【0041】
また、正極材又は負極材の混合比は、負極材である炭素材料の炭素1モルに対して、モル比で、正極材中のコバルト、ニッケルあるいはマンガンが、好ましくは0.5~1.0モル、最も好ましくは1.0モルである。
上記した範囲内で熱還元反応を用いて、上記混合物の還元処理を効率的に進行させることができる。
【0042】
この結果、前記正極材に含まれるコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、アンミン酸リチウム等に含まれるリチウムが還元され、粗炭酸リチウムを得ることができ、イオン交換水等清水に溶解させ、蒸発乾固(エバポレーション)処理を経て高純度(99.9%以上)の炭酸リチウムを得ることができる。
なお、蒸発乾固前の溶液には、リチウム吸着剤等を用いて、高純度品として回収することも可能である。
更に、熱還元反応後の負極材は、水洗後再度賦活化処理等を経て、炭素材料としての再利用が可能である。
【0043】
(マンガン回収工程)
次に、リチウム回収後のマンガン、ニッケル、コバルトの各金属を回収する工程として、沈殿法や吸着法の適用が挙げられ、沈殿法を適用する場合、上記金属濃度及び水酸化物や硫化物または酸化物等の形態で回収することを考慮して選択する。
【0044】
マンガン回収工程としては、沈殿法を適用し、上記のリチウム回収工程で得られる分離後液に、酸化剤を添加した上で反応させ、分離後液に含まれるマンガンを酸化物として沈殿させる。
酸化剤としては、亜硝酸ナトリウム、過酸化水素等が例示され、空気の吹込みによる酸化剤の添加も可能である。
特に、過硫酸ナトリウム(Na2S2O8)は、沈殿のろ過性が良好な点からも好ましい。また、添加量としてはモル比で3~4となるように添加することが特に好ましい。さらに、沈殿反応を促進させるために加熱させることが好ましく、90℃以上で反応させることが好ましい。
【0045】
酸化剤を添加するに当っては、複数回に分けて少しずつ添加することが好ましい。酸化剤をリチウム分離後の液中に一括で添加することも可能であるが、多量の酸化剤を一度に添加すると、マンガンとコバルト及び/又はニッケルがともに酸化され、ともに沈殿(共沈)してしまう虞がある。
マンガン成分を沈殿させた後、固液分離により沈殿物を分離させて除去することで、マンガン成分が除去された分離後液を得ることができる。なお、この固液分離は、一般的なフィルタープレスやシックナー等により行うことができる。
【0046】
(コバルト回収工程)
上記のようにして、マンガン沈殿物を分離させ、マンガン分離後のコバルト及びニッケルを含有する分離後液に、酸化剤を添加した上で反応させ、マンガン分離後液に含まれるコバルトを酸化物として沈殿させ、上記分離装置を用いて沈殿物を回収して、コバルトを分離回収する。
特にここでは、上記のリチウム及びマンガン回収工程で多くの沈殿物が既に除去されていることから、沈殿物の量が少なくなる。そのため、コバルト及びニッケル回収工程では、酸化剤の添加により、コバルトやニッケルの成分が、沈殿しやすい三価に酸化されても、沈殿物全体の量が少ないことから、共沈し得るコバルトやニッケルの沈殿量も少なくなり、コバルトやニッケルの共沈量を有効に抑制することができる。
【0047】
酸化剤としては、上記マンガン回収工程同様のものが例示されるが、コバルト回収工程では、次亜塩素酸ナトリウムが好適である。
さらに、沈殿反応を促進させるために加熱させることが好ましく、50℃以上で反応させることが好ましい。50℃未満である場合は、マンガン回収工程と同様に酸化反応が十分に進まない。
更に、酸化剤を添加するに当っては、複数回に分けて少しずつ添加することが好ましい。酸化剤を分離後液中に一括で添加することも可能であるが、一度に多量の酸化剤を添加すると、コバルト及びニッケルがともに酸化され、ともに共沈してしまう虞がある。
【0048】
(ニッケル回収工程)
コバルト回収後アルカリを添加して、ニッケルを沈殿分離させる。
コバルト回収後の液中に含まれるニッケルが、二価から水酸化物として沈殿しやすい三価に変化する。ここで添加できるアルカリとして、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウムや、ナトリウム塩もしくはカリウム等のアルカリ性の炭酸水素塩もしくは炭酸塩が例示されるが特に限定されず、pH10以上になるまで添加することが望ましい。更に沈殿物は、上記分離装置を用いて回収することが可能である。
【0049】
なお、リチウム回収工程以降の三種の金属が含有する溶液の金属濃度によるが、吸着法を適用して分離回収することも可能である。
対象となる吸着剤として特に限定するものではないが、陽または陰イオンを交換及び吸着するイオン交換樹脂や、希少金属と結合する官能基を担体に担持させた吸着剤、無機系の吸着剤等が挙げられるが、特にキレート樹脂が好ましい。
【実施例0050】
本発明に係る廃リチウムイオン電池からの希少金属回収方法に関する実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
<正極材及び負極材に及ぼす、熱還元反応の影響とリチウムの分離回収>
実際の三元系正極材を用いて熱還元反応を行い、リチウムを選択的に分離回収が可能な条件について検討した。
[Li2Co1/3Ni1/3Mn1/3O2]の組成をなす正極材と負極材である黒鉛をモル比で0.5~1.0で混合し、アルミナるつぼに入れ、窒素、乾燥空気、アルゴン雰囲気下において、600~1000℃で1~5時間加熱した。加熱後、得られた固体混合物を粉砕し、イオン交換水150mL中に加え攪拌した。攪拌後、遠心分離により上澄み液および残渣を得た。
王水で溶解した残渣溶液と上澄み液中の各金属濃度を誘導結合プラズマ発光分析装置ICP-AES(ICPE-9000:株式会社島津製作所製)および原子吸光分光光度計AAS(AA-7000:株式会社島津製作所製)を用いて定量した。なお、各金属の回収率R%は、以下の式を用いて算出した。なお、式の[M]supは各回収対象の上澄み液中の金属濃度(mg/L)、Vsupは上澄み液の体積(L)、[M]preは残渣溶解液中の金属濃度(mg/L)、Vpreは残渣溶解液の体積(L)を示す。
また、上澄み液を蒸発乾固して回収した生成物を粉末X線回折装置XRD(XRD-6100:株式会社島津製作所製)で測定した。
【0052】
【0053】
リチウムの回収率に及ぼす温度、反応雰囲気の影響を
図2の(A)及び(B)に示す。
600℃加熱では、殆ど回収されず、800℃では、約80%のリチウムが回収されたが、1000℃の加熱では、回収率が約70%にとどまった。
図示はしないが、加熱時間については、加熱時間の増加に伴い回収率は減少した。加熱時間の増加に伴い、生成物が熱分解されたことが考えられた為、以後反応時間は1時間として検討を行った。
なお、加熱温度800℃・加熱時間1時間の条件において、モル比の影響を検討したところ、モル比が0.5のとき回収率は80%程度であったが、同比が1.0のとき回収率は90%に達した(
図2(C)参照)。
反応雰囲気について検討を行った結果、窒素およびアルゴンの還元雰囲気下では回収率に差は見られなかったが、乾燥空気雰囲気下では回収率は10%程度であった。
【0054】
上記上澄み液を蒸発乾固させて回収した回収物のX線回折パターンを
図2(D)に示す。回収物のX線回折パターンは炭酸リチウムの同パターンと一致した。
下記表1に上澄み液中の各金属の組成を示す。上澄み液中にはリチウム以外の金属がほとんど含まれておらず、高純度の炭酸リチウムが生成可能であることが明らかになった。
【0055】
【0056】
(実施例2)
<リチウム回収後のマンガンの分離回収(沈殿法の適用)>
次に、リチウムの回収後の残渣に含まれるニッケル、コバルト、マンガンを分離回収する方法として、沈殿法を基に検討を行った。
三元系正極材からリチウム回収後の残渣(コバルト、ニッケル、マンガン)を2mol/L硫酸と過酸化水素の混合液30mLを加え、100℃で撹拌しながら溶解させた。溶解後の溶液20mLに0.1mol/Lの過硫酸ナトリウム溶液(Na2S2O8)をモル比([Na2S2O8] / [Mn2+])が 3または4 になるように加え100℃で4時間攪拌した。攪拌後、遠心分離機により固液分離操作を行い、沈殿物を得た。
沈殿物は、水洗した後に上記粉末X線回折装置で定性分析を行い、塩酸で溶解して、遠心分離した液相と共に、上記誘導結合プラズマ発光分析装置で金属濃度を測定した。マンガンの回収率R(%)はリチウム回収時と同様に、数1の計算式を用いて算出した。
【0057】
図4(A)にマンガンの回収率及び、表2に沈殿物中に含まれる各金属組成を以下に示す。モル比3で過硫酸ナトリウム溶液を添加したとき、上澄み液中にマンガンが残存していたが、モル比4で添加すると溶液中のマンガンは99.8%沈殿した。
一方で、モル比4のときコバルトの共沈も増加し、薄い濃度の酸溶液で沈殿物を洗浄してコバルトを回収することで、マンガン沈殿操作におけるコバルトの共沈を減らす必要が示唆された。
【0058】
【0059】
図4(B)に沈殿物のX線回折パターンを示す。得られた沈殿物のパターンは二酸化マンガン(MnO
2)のX線回折パターンとほとんど一致した。また、20°付近の一致しなかったピークは、沈殿生成の際に生じた共沈によるコバルト等の不純物(酸化物)のピークと考えられた。
【0060】
(実施例3)
<マンガン回収後のコバルトの分離回収>
過硫酸ナトリウム溶液を用いたマンガン沈殿分離後液20mLに次亜塩素酸ナトリウム溶液(NaClO)を様々なモル比([NaClO]/[Co2+])で加え、0~100℃で加熱しながら1~4時間攪拌し、攪拌後、遠心分離機により固液分離を行って沈殿物を得た。
沈殿物は水洗した後に上記粉末X線回折装置で定性分析を行った。定性分析後、塩酸で溶解し、遠心分離した液相と共に上記誘導結合プラズマ発光分析装置で金属濃度を測定した。なお、コバルトの回収率R(%)はリチウム及びマンガン回収時と同様に、数1の計算式を用いて算出した。
【0061】
図5(A)に沈殿物のX線回折パターンを示す。沈殿物の同定は確定できなかったが、二酸化コバルト(CoO
2)や四酸化三コバルト(Co
3O
4)等のコバルト酸化物が生成していることが考えられた。
コバルト純度および回収率に及ぼす反応温度及び反応時間の影響を
図5(B)に示す。常温では沈殿生成が進まず回収率も10%と低くなったが、温度を上げることで、回収率は約80%以上、純度も約100%と高くなった。なお、図示はしないが、モル比が及ぼす上記純度及び回収率の影響を調査し、モル比が66以降では、回収率が100%近くまで達するも、ニッケルの共沈が増加しコバルト純度は90%以下に低下した。
【0062】
(実施例4)
<コバルト分離回収後のニッケル分離回収>
次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いたコバルト沈殿分離後液20mLに水酸化ナトリウム(NaOH)を様々な液量で加え、攪拌した。攪拌後、遠心分離機により固液分離を行って、沈殿物を得た。
沈殿物は水で洗浄後に塩酸で溶解し、遠心分離した液相と共に上記誘導結合プラズマ発光分析装置で金属濃度を測定し、ニッケルの回収率R(%)は上述した各金属回収時と同様に、数1の計算式を用いて算出した。
【0063】
図5に純度と回収率に対するpHの影響を示す。純度は、各pHにおいて約80%と一定で、pHの影響はほとんど見られなかった。一方で、回収率についてはpH =10以降で100%に達した。
本発明は、環境負荷が小さく、希少金属の回収損失を最小にでき、更に分離回収プロセスにおける操作が簡便なので、効率的に分離回収することが可能なため、低コストで且つ生産性も優れた希少金属の分離回収法として提供することができる。