IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-培養システム及び培養方法 図1
  • 特開-培養システム及び培養方法 図2
  • 特開-培養システム及び培養方法 図3
  • 特開-培養システム及び培養方法 図4
  • 特開-培養システム及び培養方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081543
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】培養システム及び培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
C12M1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195240
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】清川 達則
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA08
4B029BB11
4B029GB06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の課題は、培養対象物の培養において、培養対象物の機能を損なうことなく、培養対象物をシート状に形成することと併せ、自動化や量産化のような培養の効率化を容易とする培養システム及び培養方法を提供することである。
【解決手段】上記課題を解決するために、第1のシートと、第1のシート上に培養対象物が配置された状態で、第1のシートと重ね合わせられる第2のシートと、第1のシートと第2のシートを重ね合わせた積層体を、培養液中で移動させる移送手段とを備え、第1のシート及び/又は第2のシートは、培養液が透過可能である培養システム及び培養方法を提供する。
本発明によれば、2枚のシート間に培養対象物を配置・固定した状態とし、その状態で培養液中を移動させることで、培養対象物の機能を損なうことなく、品質が均一化されたシート状培養対象物が形成可能となり、培養の効率化を図ることが容易となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のシートと、
前記第1のシート上に培養対象物が配置された状態で、前記第1のシートと重ね合わせられる第2のシートと、
前記第1のシートと前記第2のシートを重ね合わせた積層体を、培養液中で移動させる移送手段と、を備え、
前記第1のシート及び/又は前記第2のシートは、前記培養液が透過可能であることを特徴とする、培養システム。
【請求項2】
前記第1のシート及び/又は前記第2のシートの表面に、足場材又は剥離材が設けられることを特徴とする、請求項1に記載の培養システム。
【請求項3】
前記培養対象物を回収する回収手段を設けることを特徴とする、請求項1又は2に記載の培養システム。
【請求項4】
前記第1のシートと前記第2のシート間に配置された状態の前記培養対象物を観察する観察手段を備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の培養システム。
【請求項5】
第1のシートと、第2のシートとを備え、
前記第1のシート上に培養対象物を配置する配置工程と、
前記第1のシート上に前記培養対象物が配置された後、前記第1のシートと前記第2のシートとを重ね合わせる積層工程と、
前記第1のシートと前記第2のシートを重ね合わせた積層体を、培養液中で移動させる移送工程と、を備え、
前記第1のシート及び/又は前記第2のシートは、前記培養液が透過可能であることを特徴とする、培養方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養システム及び培養方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の固定やバイオマス燃料としての活用が期待される藻類(特に微細藻類)を増殖するための藻類培養や、薬品開発・再生医療への活用が期待される生体組織(主に動物)から分離した細胞を培地内で培養する細胞培養等、有益な培養対象物を効率的に培養することの重要性が高まっている。
【0003】
従来、培養に係る技術においては、培養液を満たしたタンク内に培養対象物を投入し、撹拌混合によって培養するものや、培養液と培養対象物を容器内で静置して培養するものが知られている。
しかし、タンクを用いた撹拌混合による培養では、撹拌強度を強めると培養対象物へのダメージが生じることがある一方、撹拌強度を弱めると培養対象物の品質を均一にすることが困難となる。また、容器内で静置する培養では、培養液の交換時に遠心操作や吸引操作などの機械的な衝撃が加わることで、培養対象物の機能を損なうおそれや、培養対象物そのものを損失するおそれがある。
【0004】
このため、培養対象物にダメージを与えることなく、培養を行う技術が求められている。例えば、特許文献1には、細胞または細胞塊の培養において、1つの容器内に、細胞または細胞塊を培養するための領域と、培養液を交換するための領域を設け、細胞を透過せず培養液を透過し得る網目状の構造物を設ける培養用容器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-70847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるように、培養対象物(細胞)の培養において、容器内で培養液の移動を可能にすることで、培養液の交換による細胞へのダメージや細胞損失を抑制することは知られている。
また、培養された培養対象物を活用するに当たり、特に再生医療の分野においては、患部への適用(貼付)が簡便になることや、積層による高次化が容易であること等の観点から、培養対象物をシート状とすることが求められる傾向にある。
しかし、特許文献1に記載のように、シャーレのような容器内に培養液及び培養対象物を静置する培養では、容器1つに対して1枚のシートしか得られないため、シート状培養対象物の形成に係る自動化や量産化といった効率化については課題が残るものとなる。
【0007】
本発明の課題は、培養対象物の培養において、培養対象物の機能を損なうことなく、培養対象物をシート状に形成することと併せ、自動化や量産化のような培養の効率化を容易とする培養システム及び培養方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題について鋭意検討した結果、2枚のシート間に培養対象物を配置・固定し、培養液中を移動させることにより、培養対象物に対して過度な外力が加わることなく、培養対象物がシート状に形成されるとともに、連続した培養が可能となることで培養の効率化が容易となることを見出して、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の培養システム及び培養方法である。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の培養システムは、第1のシートと、第1のシート上に培養対象物が配置された状態で、第1のシートと重ね合わせられる第2のシートと、第1のシートと第2のシートを重ね合わせた積層体を、培養液中で移動させる移送手段と、を備え、第1のシート及び/又は第2のシートは、培養液が透過可能であるという特徴を有する。
本発明の培養システムは、2枚のシート間に培養対象物を配置・固定した状態とし、その状態で培養液中を移動させることで、培養対象物に対し、必要以上に強い外力をかけることなく、容易にシート状培養対象物を形成することが可能となる。また、シートの移動に伴い培養が進行するため、連続した培養が可能となる。さらに、培養液を透過する2枚のシート間に固定された培養対象物が培養液内を移動するため、撹拌機構を設けることなく、常に新鮮な培養液が培養対象物と接触する条件下で培養を進行させることが可能となる。
したがって、本発明の培養システムにより、培養対象物の機能を損なうことなく、品質が均一化されたシート状培養対象物を形成可能となることと併せ、自動化や量産化のような培養の効率化を図ることが容易となる。
【0010】
また、本発明の培養システムの一実施態様としては、第1のシート及び/又は第2のシートの表面に、足場材又は剥離材が設けられるという特徴を有する。
この特徴によれば、第1のシート及び第2のシート間における培養対象物の増殖又は剥離に係る動作・操作を容易に行うことが可能となる。これにより、得られるシート状培養対象物に係る品質維持・向上が可能となり、量産化による各種用途への有効活用がより一層容易となる。
【0011】
また、本発明の培養システムの一実施態様としては、培養対象物を回収する回収手段を設けるという特徴を有する。
撹拌タンクや容器(シャーレ等)を用いた従来の培養では、培養後の培養対象物にダメージを与えることなく、シート形状を維持した状態で迅速に回収することは困難であった。一方、この特徴によれば、第1のシート及び第2のシート間にあるシート状培養対象物を、迅速かつ容易に回収することが可能となる。
【0012】
また、本発明の培養システムの一実施態様としては、第1のシートと第2のシート間に配置された状態の培養対象物を観察する観察手段を備えるという特徴を有する。
この特徴によれば、培養状態を維持したまま培養対象物の観察が可能となり、培養対象物自体の情報(観察データ)を得るとともに、培養操作(培養条件)に必要な情報も同時に得ることが可能となる。これにより、培養対象物の培養に係る効率をより一層高めることができる。
【0013】
また、上記課題を解決するための本発明の培養方法としては、第1のシートと、第2のシートとを備え、第1のシート上に培養対象物を配置する配置工程と、第1のシート上に培養対象物が配置された後、第1のシートと第2のシートとを重ね合わせる積層工程と、第1のシートと前記第2のシートを重ね合わせた積層体を、培養液中で移動させる移送工程と、を備え、第1のシート及び/又は第2のシートは、培養液が透過可能であるという特徴を有する。
本発明の培養方法は、2枚のシート間に培養対象物を配置・固定した状態とし、その状態で培養液中を移動させることで、培養対象物に対し、必要以上に強い外力をかけることなく、容易にシート状培養対象物を形成することが可能となる。また、シートの移動に伴い培養が進行するため、連続した培養が可能となる。さらに、培養液を透過する2枚のシート間に固定された培養対象物が培養液内を移動するため、撹拌機構を設けることなく、常に新鮮な培養液が培養対象物と接触する条件下で培養を進行させることが可能となる。
したがって、本発明の培養方法により、培養対象物の機能を損なうことなく、品質が均一化されたシート状培養対象物を形成可能となることと併せ、自動化や量産化のような培養の効率化を図ることが容易となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、培養対象物の培養において、培養対象物の機能を損なうことなく、培養対象物をシート状に形成することと併せ、自動化や量産化のような効率化を容易とする培養システム及び培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施態様における培養システムの概略説明図である。
図2】本発明の第1の実施態様における培養システムの別態様を示す概略説明図である。
図3】本発明の第2の実施態様における培養システムの概略説明図である。
図4】本発明の第3の実施態様における培養システムの概略説明図である。
図5】本発明の第4の実施態様における培養システムの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る培養システム及び培養方法の実施態様を詳細に説明する。本発明における培養方法は、本発明における培養システムの作動の説明に置き換えるものとする。
なお、実施態様に記載する培養システム及び培養方法については、本発明に係る培養システム及び培養方法を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明の培養システム及び培養方法において、培養対象である培養対象物は特に限定されず、様々な分野で培養による増殖が必要とされているものを培養対象物とすることができる。
本発明における培養対象物の具体例としては、例えば、生体組織から分離した各種細胞のほか、クロレラ、アオコなどの植物プランクトン(微細藻類)を含む藻類が挙げられる。なお、細胞を培養対象物とする場合、薬品開発や再生医療への利用可能性が高いものを選択することが好ましいが、これに限定されるものではない。
また、培養対象物の形態は、シート上に配置できるものであればよく、固体状態(固形物、培養対象物そのもの)、または培養対象物を含む溶液の形態であってもよい。
なお、以下の実施態様においては、培養対象物として、細胞を含む水溶液を用いるものについて主に説明するが、これに限定されるものではない。
【0018】
〔第1の実施態様〕
(培養システム)
図1は、本発明の第1の実施態様における培養システムの構造を示す概略説明図である。
本実施態様における培養システム1Aは、図1に示すように、第1のシート2aと、第2のシート2bと、培養対象物Tを配置する配置手段3と、培養液Wが貯留された培養液槽4を備えるものである。また、第1のシート2a及び第2のシート2bには、シート移動機構5が設けられており、第1のシート2aと第2のシート2bを重ね合わせた積層体を、培養液W中で移動させる移送手段として機能する。なお、図1中、一点鎖線の矢印は、データの入出力及び制御が可能となるように接続されていることを示すものである。
【0019】
本実施態様における培養システム1Aは、配置手段3により、第1のシート2a上に培養対象物Tを配置した後、その上部から第2のシート2bを重ね合わせる積層工程を経ることで、第1のシート2aと第2のシート2bの間に培養対象物Tが配置された積層体を形成し、この状態で培養液槽4内(培養液W中)を移動させるものである。すなわち、本実施態様における第1のシート2a及び第2のシート2b間の間隙に培養対象物Tが固定(挟持)され、この状態で培養液Wと接触することで、第1のシート2aと第2のシート2b間で培養対象物Tが増殖し、シート状培養対象物Sが形成されるものである。
また、第1のシート2a及び第2のシート2bに対し、シート移動機構5を設けることで、培養対象物Tの配置(播種)から培養対象物Tの培養までを一連の動作として行うことが可能となる。これにより、培養用容器を用いた従来の培養と比べ、自動化や量産化に係る効率化が容易となる。
【0020】
以下、培養システム1Aの各構成について、詳細に説明する。
【0021】
第1のシート2aは、培養対象物Tが配置され、培養対象物Tを支持するためのものである。また、第2のシート2bは、培養対象物Tが配置された第1のシート2aと重ね合わせられるものであり、これにより、培養対象物Tを固定(挟持)するものである。
【0022】
第1のシート2a及び第2のシート2bとしては、培養対象物Tを配置することができ、かつ培養液Wが透過可能なものであればよく、材質や形状については特に限定されない。
【0023】
第1のシート2a及び第2のシート2bの形状としては、培養対象物Tが積層体側面から溢れずにシート状培養対象物Sを形成するために必要となる幅を有するものであればよい。また、第1のシート2a及び第2のシート2bの形状としては、例えば、ロール状のフィルムとすることが挙げられる。これにより、後述するシート移動機構5によるシートの移動を容易とすることができる。また、第1のシート2a及び第2のシート2bは、カートリッジ式で交換可能な構造とすることが好ましい。これにより、シートの交換が容易となるため、培養に係る作業効率を向上させることが可能となる。
【0024】
本実施態様における第1のシート2a及び第2のシート2bの構造・材質の例としては、培養液Wに対して不溶であり、かつ培養液Wが透過可能な構造を有するものが挙げられる。なお、第1のシート2a及び第2のシート2bのうち、少なくともいずれか一方が培養液Wを透過可能な構造を有するものであればよい。
【0025】
第1のシート2a及び第2のシート2bにおいて培養液Wが透過可能な構造としては、培養対象物Tのサイズよりも目幅が小さい網目構造とすることが挙げられる。この網目構造とは、ポリマー重合等の化学反応により形成される網目構造であってもよく、機械的に孔を設けることによるものであってもよい。また、このとき、シート全体を網目構造とするものであってもよく、シートの一部を網目構造とするものであってもよい。これにより、図1の白抜き矢印で示すように、第1のシート2aと第2のシート2b間に固定された培養対象物Tに対し、培養液Wの成分が供給されることになる。
【0026】
また、後述する観察手段7による観察を可能とするために、第1のシート2a及び第2のシート2bは、光透過性を有することがより好ましい。なお、観察手段7を設ける場合において、第1のシート2a及び第2のシート2bとして好適な材質については、観察手段7の説明と併せて後述する。
さらに、第1のシート2a及び第2のシート2bとしては、各種滅菌処理(電子線滅菌、紫外線滅菌、加熱滅菌等)に対して耐性があるものが好ましい。これにより、培養対象物T以外の菌や微生物の混入を抑制することが可能となる。
【0027】
本実施態様における第1のシート2a及び第2のシート2bの材質としては、樹脂フィルムやガラス製のフィルムなどが挙げられる。例えば、樹脂フィルムとして、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなど、市場における供給量が多く、安価な樹脂フィルムを用いることで、培養に係るランニングコストを低減することができる。
【0028】
第1のシート2a及び第2のシート2bは、それぞれ同じ材質を用いるものとしてもよく、異なる材質を用いるものとしてもよい。また、第1のシート2a及び第2のシート2bは、それぞれのシートの厚みを同一としてもよく、異なるものとしてもよい。
【0029】
また、第1のシート2a及び第2のシート2bは、表面処理を行うものとしてもよい。表面処理の種類としては特に限定されないが、培養に係る作業効率向上に資するものが好ましい。
図2は、本発明の第1の実施態様における培養システムの別態様を示す概略説明図である。より具体的には、図2は、図1に示した培養システム1Aにおいて、第1のシート2a及び第2のシート2bに対し、表面処理剤Mを用いて表面処理を行ったものを用いた場合の別態様を示す概略説明図である。
【0030】
表面処理の一例としては、培養対象物Tをシートに固定化するための物質として、足場材を設けることが挙げられる。
第1のシート2a及び/又は第2のシート2bの表面に足場材を設ける手段は特に限定されない。例えば、図2に示すように、足場材として機能する物質を、第1のシート2a及び/又は第2のシート2bに表面処理剤Mとして予め塗布することのほか、後述する配置手段3と類似の手段により、第1のシート2a上に培養対象物Tとともに足場材として機能する物質を配置することなどが挙げられる。
足場材として機能する物質としては、培養対象物Tの種類に応じ、足場材として公知の物質を用いることができる。足場材の具体例としては、例えば、核酸、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン、天然・合成多糖類、ポリ乳酸、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。これにより、表面処理を行った箇所に培養対象物Tを安定して配置することが可能となる。
【0031】
また、表面処理の別の例としては、培養後の培養対象物T(シート状培養対象物S)の剥離を容易にするための物質として、剥離材を設けることが挙げられる。
第1のシート2a及び/又は第2のシート2bの表面に剥離材を設ける手段は特に限定されない。例えば、図2に示すように、第1のシート2a及び/又は第2のシート2bから容易に剥離することができる剥離材として機能する物質を、第1のシート2a及び/又は第2のシート2bに表面処理剤Mとして予め塗布あるいは積層することのほか、後述する配置手段3と類似の手段により、第1のシート2a上に培養対象物Tとともに剥離材として機能する物質を配置することなどが挙げられる。
剥離材として機能する物質としては、培養対象物Tの増殖には影響せず、第1のシート2a及び/又は第2のシート2bから容易に剥離可能な物質であれば特に限定されない。剥離材の具体例としては、例えば、ガーゼ、和紙、濾紙、不織布、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)膜のほか、シリコーンゴム、ハイドロゲル、生分解性ポリマー、機能性高分子材料などが挙げられる。これにより、シート状培養対象物Sを形成する培養対象物Tにダメージを与えることなく、容易に回収することが可能となる。
【0032】
第1のシート2a及び/又は第2のシート2bの表面に足場材又は剥離材を設けることにより、第1のシート2a及び第2のシート2b間における培養対象物Tの増殖又は剥離に係る動作・操作を容易に行うことが可能となる。これにより、得られるシート状培養対象物Sに係る品質維持・向上が可能となり、量産化による各種用途への有効活用がより一層容易となる。
また、図2に示すように、第1のシート2a及び/又は第2のシート2bの表面全体に表面処理剤Mとして足場材又は剥離材を設けることにより、足場材又は剥離材が第1のシート2a及び第2のシート2b間の間隙を一定に保持する機能や、後述するシート移動機構5における巻出部51a、巻取部51b、支持機構52で用いられるローラによる圧力による影響を緩和する機能を有する構造体としての効果も発揮するものとなる。
【0033】
また、表面処理の他の例としては、親水処理や撥水処理など、水に対する表面特性に係る処理を行うことが挙げられる。なお、水に対する表面特性とは、親水性/疎水性に係るもののほか、ぬれ特性、水の接触角に関するものを含んでいる。
このとき、親水処理や撥水処理をシート全体に行うものとしてもよいが、親水処理や撥水処理を行う箇所について一定のパターンを持たせるものが挙げられる。例えば、正方形、長方形、円形あるいは楕円状のパターンが一定間隔で並ぶように親水処理を行い、後述する配置手段3により、親水処理を行った箇所に対して水溶液中に分散した培養対象物Tを配置する。これにより、表面処理を行った箇所に培養対象物Tを安定して配置することが可能となる。
特に、第1のシート2a及び第2のシート2bのいずれか一方もしくは一部のシートについて、水に対する表面特性が異なるものとすることが好ましい。これにより、培養対象物Tを含む水溶液を第1のシート2a上に配置した後、第2のシート2bを重ね合わせた際、水溶液がシート間において適度に広がり、シート間の間隔を一定に保つことが容易となる。このため、培養対象物Tを安定して固定することが可能となる。
【0034】
配置手段3は、第1のシート2a上に培養対象物Tを配置する配置工程を行うためのものである。
本実施態様の配置手段3は、培養対象物Tを配置することができるものであればよく、特に限定されない。なお、配置手段3は、培養対象物Tの形態(液体あるいは固体)に合わせたものを選択することが好ましい。
【0035】
配置手段3の具体的な例としては、図1に示すように、分注部30と、分注部30に培養対象物Tを供給する供給部31と、分注部30の角度や位置を制御する制御機構32とを備えるものが挙げられる。
【0036】
分注部30は、培養対象物Tが液体である場合に用いるものであり、培養対象物Tを第1のシート2a上に滴下、排出するものである。
分注部30としては、液体の滴下、排出に適した構造を有するものであればよく、チップやシリンジなどが挙げられる。また、分注部30の材質は特に限定されず、培養対象物Tの性質等に応じて選択することができる。分注部30の材質としては、例えば、プラスチック、金属、ガラスなどが挙げられる。
【0037】
分注部30は、交換可能な構造であることが好ましい。これにより、培養対象物Tの種類に応じて分注部30を交換することができ、他の培養対象物Tの混入などのコンタミネーションを抑制することが可能となる。また、コンタミネーションの抑制という観点からは、分注部30を洗浄可能とし、培養対象物Tの種類が変わるごとに洗浄することが挙げられる。
ここで、培養の作業効率を向上させるという観点からは、分注部30を交換可能とすることが好ましく、この際、分注部30として安価なプラスチック製のチップを用い、使い捨ての形で交換することが挙げられる。これにより、チップ内で培養対象物Tが詰まるなど、培養対象物Tの排出に不具合が生じた場合において、チップの交換のみという短時間の作業で培養対象物Tの配置(播種)を連続して行うことが可能となるため、略連続した状態で培養を行うことが可能となる。
一方、分注部30として金属やガラス製のチップあるいはシリンジを用いる場合、分注部30を洗浄する手段を設けることが好ましい。これにより、分注部30を繰り返し使用可能とすることができ、分注部30の交換にかかるコストを削減することができる。
【0038】
供給部31は、分注部30に培養対象物Tを供給するものである。
供給部31としては、分注部30に対して培養対象物Tを供給することができるものであればよく、具体的な構造については特に限定されない。
本実施態様における供給部31としては、例えば、図1に示すように、培養対象物Tを貯留する貯留部31aと、分注部30に培養対象物Tを供給するための供給ライン31b及びポンプ31cを備えるものが挙げられる。
【0039】
供給部31における貯留部31aは、培養対象物T(液体)を貯留することができるものであればよく、特に限定されない。例えば、水槽、フラスコ、ビーカー、チューブなどが挙げられる。なお、培養対象物Tを含む溶液を貯留する場合、貯留部31aに撹拌機構を設け、培養対象物Tを含まない溶液のみが分注部30に供給されることを抑制するものとしてもよいが、培養対象物Tが撹拌(剪断力)によりダメージを受ける場合は省略することができる。
【0040】
供給ライン31b及びポンプ31cは、培養対象物T(液体)を移送することができるものであればよく、特に限定されない。例えば、供給ライン31bとしては、樹脂や金属からなるチューブを用いることが挙げられる。また、ポンプ31cとしては、各種定量ポンプや、流量調節弁を設けたポンプなど、所定の容量を正確に供給することができるポンプを用いることが挙げられる。これにより、培養対象物Tの配置における条件設定が容易となり、適正量の培養対象物Tを第1のシート2a上に配置することが可能となる。
【0041】
制御機構32は、分注部30の角度や位置を制御するためのものである。
制御機構32としては、分注部30に接続させた支持体と、支持体をXYZ軸及び回転軸に沿って駆動する駆動機構を備えるものが挙げられる。なお、駆動機構は手動で操作するものとしてもよく、数値入力による制御やプログラム等による自動制御を行う制御部を設けるものとしてもよい。これにより、第1のシート2aに対する分注部30の角度や位置を調整し、第1のシート2a上の任意の位置に培養対象物Tを配置することが可能となる。また、制御機構32により、分注部30の角度や位置を調整し、第2のシート2b上に培養対象物Tを配置するものとしてもよい。これにより、第1のシート2a上と第2のシート2b上にそれぞれ異なるものを配置することも可能となる。
【0042】
制御機構32による分注部30の位置制御に係る一例としては、分注部30の洗浄中及び洗浄直後、培養対象物Tの種類変更直後など、培養に係る作業を一旦停止して再開する際において、分注部30を第1のシート2aから外れた位置に移動させ、分注部30内の液体を廃液として一定量を排出した後、分注部30を第1のシート2a上に移動させ、培養対象物Tの配置を行うこと等が挙げられる。これにより、培養に適さない液が第1のシート2a上に配置されることを防ぎ、培養に係る作業効率を向上させることが可能となる。
【0043】
配置手段3は、図1に示した構成に限定されるものではない。例えば、配置手段3を複数設けるものとしてもよい。配置手段3を複数設けた場合、配置手段3により第1のシート2a上に配置されるものは培養対象物Tだけではなく、上述した足場材や剥離材を配置するものとしてもよい。
【0044】
また、配置手段3の他の例としては、分注部30の代わりに、ピンセットなどのピックアップ装置を備える分配部を設けることが挙げられる。これにより、培養対象物Tとしての固形物を第1のシート2a上に配置することが可能となる。なお、分配部におけるピックアップ装置としては、培養対象物Tである固形物を掴んで持ち運ぶことができる構造であればよく、一般的なピンセットのように、固形物を挟み込む構造を有するものや、吸着ピンセットのように吸引構造を有するもの等が挙げられる。
【0045】
配置手段3により、第1のシート2a上に培養対象物Tを配置した後、その上部から第2のシート2bを重ね合わせることで、第1のシート2aと第2のシート2bの間に培養対象物Tを固定することができる。なお、第1のシート2a及び第2のシート2bを重ね合わせる積層工程を行う具体的な手段については特に限定されない。例えば、後述するシート移動機構5を用い、第1のシート2a及び第2のシート2bを重ね合わせること等が挙げられる。これにより、培養に係る作業を自動化することが容易となる。
【0046】
培養液槽4は、培養液Wを貯留するものであり、この培養液槽4内を第1のシート2aと第2のシート2bの積層体が移動する。
培養液槽4の構造については、第1のシート2aと第2のシート2bの積層体が培養液Wに浸漬した状態で槽内を移動することができる形状・高さ(深さ)を有するものであればよく、特に限定されない。
【0047】
また、培養液槽4に貯留される培養液Wについては、培養対象物Tに応じて公知のものを用いることができ、特に限定されない。なお、培養液Wは、第1のシート2aと第2のシート2bの積層体が移動可能であればよく、培養対象物Tの培養に必要な成分が溶解した溶液以外に、コロイド溶液(ゾル)等、流動性を有するものも含まれる。
【0048】
シート移動機構5は、第1のシート2a及び第2のシート2bを支持して移動させるためのものであり、第1のシート2aと第2のシート2bを重ね合わせた積層体を、培養液槽4内(培養液W中)で移動させる移送工程を行うためのものである。
シート移動機構5の一例としては、図1に示すように、第1のシート2a及び第2のシート2bを巻き出して供給する巻出部50として巻出ロール50a、50bと、第1のシート2a及び第2のシート2bを巻き取って回収する巻取部51として巻取ロール51a、51bを備え、巻取部51(巻取ロール51a、51b)を回転駆動させるための駆動部(不図示)が設けられるものが挙げられる。なお、図1には、巻取部51として巻取ロール51a、51bを設けるものが記載されているが、これに限定されない。例えば、巻出部50(巻出ロール50a、50b)から巻き出された第1のシート2a及び第2のシート2bを、一つの巻取ロールで巻き取って回収するものとしてもよい。これにより、装置の構造を簡略化することが可能となる。
なお、巻出部50及び巻取部51は、図1に示すように、培養液槽4外に設けることが好ましい。これにより、培養対象物Tの配置・回収に係る操作を容易に行うことが可能となるとともに、駆動部が培養液Wに浸漬することがないため、メンテナンス作業における負荷を低減させることができる。
【0049】
シート移動機構5は、シートの移動に係る制御を行うための機能を備えることが好ましい。
例えば、シート移動機構5は、シートの移動速度を調整する速度調整機能を有することが好ましい。速度調整機能としては、例えば、巻取部51の回転駆動に係る駆動部に対し、回転数の記録もしくは巻径の計測が可能であり、かつ回転数の制御が可能な回転駆動制御部を設けることが挙げられる。これにより、シートの巻き取り(回収)速度の調整が可能となり、シートの移動速度を調整することが可能となる。
【0050】
また、本実施態様におけるシート移動機構5は、シートの移動速度を調整する速度調整機能と併せ、シートの移動と停止を制御する機能を有するものとしてもよい。例えば、巻取部51の回転駆動に係る駆動部に対し、第1のシート2a及び第2のシート2bを一定距離あるいは一定時間移動させた後、一定時間停止させる制御を行うことが挙げられる。ここで、この制御は、上述した回転駆動制御部によって行うものとしてもよく、別途制御部を設けるものとしてもよい。これにより、後述する観察手段7によって培養対象物Tの観察を行う際、培養対象物Tを断続的に移動させ、かつ培養対象物Tが静止状態にある中での観察を行うことができ、観察の精度を高めることが可能となる。
【0051】
また、シート移動機構5におけるシート移動に係る制御の他の例としては、例えば、培養対象物Tの観察用の動作モードとしてシートの移動と停止を繰り返す動作や、培養対象物Tの配置用の動作モードとして一定速度でシートを移動する動作等のように、異なる動作モードを切り替えるようにすること等が挙げられる。これにより、観察手段7における観察条件をより自由に設定できるとともに、培養対象物Tの配置をより正確に行うことができるようになる。
【0052】
本実施態様におけるシート移動機構5は、第1のシート2a及び第2のシート2bの張力制御のための張力制御手段を設けるものとしてもよい。例えば、巻出部50と巻取部51の中間に張力検知部を設けるものとしてもよい。これにより、第1のシート2a及び第2のシート2bの張力制御をより精密に行うことができ、第1のシート2a及び第2のシート2bの歪みや、第1のシート2a及び第2のシート2bの移動速度のずれを低減することが可能となり、培養対象物Tの固定や観察に係る精度を高めることが可能となる。また、張力制御手段の他の例としては、巻出部50にも回転駆動に係る駆動部と回転駆動制御部を設けることや、巻出部50と分注部30の間にシート送り部として回転駆動部を設置することなどが挙げられる。これにより、より高精密に張力制御を行うことができる。
【0053】
本実施態様におけるシート移動機構5は、第1のシート2aを支持して移動させる巻出ロール50aと巻取ロール51a、あるいは第2のシート2bを支持して移動させる巻出ロール50bと巻取ロール51bのいずれか一方あるいは両方が、上下移動可能とすることが好ましい。これにより、第1のシート2aと第2のシート2b間の距離を調整することが可能となり、シート状培養対象物Sの厚さについても調整が可能となる。
【0054】
また、図1に示すように、第1のシート2a及び第2のシート2bに適度な張力をかけるとともに、第1のシート2aと第2のシート2bを重ね合わせるための支持機構52として、上下移動が可能な複数の支持ローラ52aを設けることが好ましい。これにより、第1のシート2a及び第2のシート2bの移動を安定して行うことができる。また、支持機構52を設けることで、第1のシート2aと第2のシート2bの重ね合わせに係る位置調整の精度を高め、2枚のシート間距離の調整を容易に行うことが可能となる。
また、支持機構52は、図1に示すように、培養液槽4内にも配置し、培養液槽4内における第1のシート2aと第2のシート2bの積層体の移送方向をガイドすることが好ましい。
なお、支持機構52を設ける箇所や個数については、第1のシート2a及び第2のシート2bの移動を安定して行うために、必要な箇所に対し、必要な個数を設けるものとすればよく、図1に示した内容に特に限定されるものではない。また、支持機構52を設ける数を減らし、構造を簡略化するものとしてもよい。
【0055】
また、支持機構52に、シートの移動速度を調整する速度調整機能を備えるものとしてもよい。例えば、支持ローラ52aの回転数あるいは回転速度を計測する計測部及び支持ローラ52aの回転駆動が制御可能な回転駆動制御部を設けることが挙げられる。各シート(第1のシート2a及び第2のシート2b)は支持ローラ52aの回転駆動に伴って移動する。このため、支持ローラ52aの回転駆動を制御することで、シートの移動速度を調整することが可能となる。
【0056】
また、本実施態様における培養システム1Aには、配置手段3及びシート移動機構5における各種動作の調整を行う制御手段を設けることが好ましい。より具体的には、配置手段3及びシート移動機構5に接続され、データの入出力及び制御を可能とする制御部を設けることが挙げられる。制御部は、各種手段ごとに設けるものとしてよいが、1つの制御部に複数の手段を接続し、総合的に制御可能とすることが好ましい。これにより、各種動作の調整及び調整に係る操作を簡便かつ効率的に行うことが可能となる。
ここで、制御部における制御対象となる動作の一例としては、配置手段3の供給部31や制御機構32の駆動制御による、培養対象物Tのシート(第1のシート2a)への配置動作のほか、シート移動機構5における速度調整機能(回転駆動制御部)や支持機構52の回転駆動制御によるシートの移動速度やシートの移動・停止などシートの水平移動に直接的に関連する動作、及び、支持機構52の駆動制御によるシートの水平移動を補助することに関連する動作のようなシート動作などが挙げられる。
また、配置手段3に係る培養対象物Tのシート(第1のシート2a)への配置動作としては、培養対象物Tをシート上に配置(供給)する際の供給量、供給速度、供給間隔などの設定・選択が挙げられる。
さらに、シート移動機構5に係るシート動作としては、シートの移動速度や移動時間、停止時間、培養対象物Tの種類を切り替えるまでの時間に係る設定・選択や、緊急停止に係る判断・実行、シート量の管理などが挙げられる。特にシートの移動速度や移動時間については、培養に要する時間に基づき制御することが好ましい。
これらの動作については、上述したように、いずれか一つを制御対象とするものとしてもよく、複数を任意に組み合わせて制御対象とするものとしてもよい。観察に係る作業効率を向上させるという観点からは、複数の動作について制御対象とすることが好ましい。
【0057】
本実施態様における培養システム1Aでは、上述したシート移動機構5により、第1のシート2aと第2のシート2b間に培養対象物Tを固定(挟持)した状態で、培養液槽4内を移動させる。このとき、培養液槽4内では、第1のシート2aと第2のシート2bの積層体が培養液Wに浸漬し、シート(第1のシート2a及び/又は第2のシート2b)を介して培養液Wの成分(培養対象物Tの培養(増殖)に必要な成分)が培養対象物Tと接触する。そして、シート移動機構5により、シート(積層体)が移動し続けることで培養対象物Tには常に新鮮な培養液Wの成分が接触して培養が進行するとともに、必要以上に強い外力をかけることなく、容易にシート状培養対象物Sを形成することが可能となる。すなわち、培養液Wの撹拌ではなく、培養対象物Tの移動によって、培養対象物Tへの培養液Wの成分の物質移動が促進されるため、培養対象物Tへダメージを与えることなく、シート状培養対象物Sを形成することが可能となる。また、シートの移動に伴い培養が進行するため、連続した培養が可能となり、自動化や量産化のような培養の効率化を図ることが容易となる。
【0058】
また、本実施態様における培養システム1Aは、シート移動機構5により、積層体が培養液槽4内を移動することによる培養を行った後、シート状培養対象物S(培養対象物T)を回収する回収手段6を備えることが好ましい。
回収手段6としては、シート状培養対象物S(培養対象物T)を回収することができるものであればよく、特に限定されない。
【0059】
回収手段6の一例としては、第1のシート2a及び第2のシート2bを剥離した後、シートの間に固定されていたシート状培養対象物S(培養対象物T)を取り出す手段を備えることが挙げられる。
本実施態様における回収手段6の一例としては、図1に示すように、シートの移動方向下流側において、支持機構52(支持ローラ52a)を介して、第1のシート2a及び第2のシート2bの移動方向を異なるものとすることで、第1のシート2a及び第2のシート2bを剥離し、シート間に固定されていた培養対象物Tを取り出す手段として、第1のシート2a上にあるシート状培養対象物Sを剥離させるスクレーパ60を設けることが挙げられる。
【0060】
撹拌タンクや容器(シャーレ等)を用いた従来の培養では、培養後の培養対象物にダメージを与えることなく、シート形状を維持した状態で迅速に回収することは困難であった。一方、本実施態様における培養システム1Aは、重ね合わせた2枚のシートは容易に剥離することができる。このため、スクレーパ60のような回収手段6を用いることで、第1のシート及び第2のシート間にあるシート状培養対象物Sについて、シート形状を維持したまま、迅速かつ容易に回収することが可能となる。
【0061】
また、回収手段6の他の例としては、第1のシート2a及び第2のシート2bの間にシート状培養対象物Sが固定された状態で、シートごと切り取る手段を備えることが挙げられる。これにより、シート状培養対象物Sについて、シート形状を維持したまま、迅速かつ容易に回収することが可能となるとともに、シート状培養対象物Sを内包した積層体として回収することが可能となることから、保存・移送における取扱いが容易となる。
【0062】
以上のように、本実施態様の培養システム及び培養方法により、2枚のシート間に培養対象物を配置・固定した状態とし、その状態で培養液中を移動させることで、培養対象物に対し、必要以上に強い外力をかけることなく、容易にシート状培養対象物を形成することが可能となる。また、シートの移動に伴い培養が進行するため、連続した培養が可能となる。さらに、培養液を透過する2枚のシート間に固定された培養対象物が培養液内を移動するため、撹拌機構を設けることなく、常に新鮮な培養液が培養対象物と接触する条件下で培養を進行させることが可能となる。
したがって、本発明の培養システム及び培養方法により、培養対象物の機能を損なうことなく、品質が均一化されたシート状培養対象物を形成可能となることと併せ、自動化や量産化のような培養の効率化を図ることが容易となる。
【0063】
〔第2の実施態様〕
上述した第1の実施態様における培養システム1Aにおいては、培養液槽4内を一方向に移動するものを示したが、これに限定されるものではない。
第2の実施態様に係る培養システム1Bは、第1の実施態様における培養システム1Aに対し、培養液槽4内における第1のシート2a及び第2のシート2bの移送方向が異なるものである。以下、第1の実施態様の構成と同じものについては、説明及び一部図示を省略する。
【0064】
図3は、本発明の第2の実施態様における培養システムを示す概略説明図である。図3は、本実施態様における培養システム1Bのうち、主に培養液槽4周辺における概略説明図である。図3Aは、培養液槽4を上方から見たときの平面図であり、図3Bは、図3Aの白抜き矢印方向から培養液槽4を見たときの断面図である。
【0065】
図3に示すように、本実施態様における培養システム1Bは、第1のシート2a及び第2のシート2bの移送方向が培養液槽4内で複数回反転するものである。
本実施態様における培養システム1Bは、2枚のシート間に培養対象物Tを配置・固定するものであるため、シートの移送方向及びシートの積層状態が上下あるいは左右に反転してもシートから培養対象物Tが脱落するおそれがない。これにより、培養液槽4内を移動する時間を長くとることができ、培養液槽4自体を大型化することなく、十分な培養時間を確保することが可能となる。
併せて、本実施態様における培養システム1Bでは、培養対象物Tが配置・固定されたシートは積層状態となるため、シートの外側の面(培養対象物Tが配置・固定されていない面)に対し、上下(表裏)どちらが支持機構52(支持ローラ52a)と接しても、培養対象物Tと支持機構52が直接接触することがない。これにより、培養に係る作業効率の向上及びメンテナンス作業負荷の低減を図ることが可能となる。
【0066】
第1のシート2a及び第2のシート2bの移送方向を培養液槽4内で反転させる手段については特に限定されない。例えば、図3に示すように、培養液槽4の周縁及び内部にシート移動機構5(支持機構52)を設け、培養液槽4の一側面から巻出部50によって培養液槽4内(Y方向)に送り出された第1のシート2a及び第2のシート2bを、培養液槽4のもう一方の側面に設けた支持機構52によって、移送方向を反転させ、再度培養液槽4内を移動させ、これを繰り返して巻取部51でシート状培養対象物Sを回収することが挙げられる。
なお、本実施態様における支持ローラ52aは、全て培養液槽4内に配置するものとしてもよいが、メンテナンス作業に係るコスト等を鑑み、培養液槽4内に配置する支持ローラ52aの数は最小限とすることが好ましい。
【0067】
〔第3の実施態様〕
図4は、本発明の第3の実施態様における培養システムを示す概略説明図である。
第3の実施態様に係る培養システム1Cは、第1の実施態様に係る培養システム1Aのシート移動機構5における巻出部50及び巻取部51に代えて、第1のシート2a及び第2のシート2bをそれぞれ循環移送させる循環駆動部53a及び53bを備えるものである。ここで、第1の実施態様における構成と同じものについては、説明及び一部図示を省略する。
【0068】
シート移動機構5として、第1のシート2aを循環移送する循環駆動部53aと、第2のシート2bを循環移送する循環駆動部53bを設けることにより、培養液槽4内を移動した後、回収手段6によってシート状培養対象物Sが回収された後の各シートを再度利用することができる。これにより、培養の途中でシートの供給が途切れることがなく、連続した培養操作を安定して行うことが可能となる。
【0069】
循環駆動部53a及び53bは、それぞれ第1のシート2a及び第2のシート2bを循環移送することができるものであればよく、図4に示すように、複数のロール及びロールを回転駆動させるための駆動部(不図示)を備えるものが挙げられる。
また、循環駆動部53a及び53bは、上述した巻出部50及び巻取部51と同様に、培養液槽4外に設けることが好ましい。これにより、培養対象物Tの配置・回収に係る操作を容易に行うことが可能となるとともに、駆動部が培養液Wに浸漬することがないため、メンテナンス作業における負荷を低減させることができる。
【0070】
第1のシート2a及び第2のシート2bを循環移送して繰り返し使用するに当たり、各シートの循環移送経路上に、シート表面を洗浄ないしは滅菌する機構を設けるものとしてもよい。これにより、培養対象物Tの変更におけるコンタミネーションを抑制することが可能となる。
【0071】
〔第4の実施態様〕
図5は、本発明の第4の実施態様における培養システムを示す概略説明図である。
第4の実施態様に係る培養システム1Dは、第1の実施態様に係る培養システム1Aに対し、観察手段7を更に設けるものである。ここで、第1の実施態様における構成と同じものについては、説明及び一部図示を省略する。特に、培養液槽4a及び4bに対する第1のシート2a及び第2のシート2bの移送に係る構造については図示を簡略化している。
【0072】
観察手段7は、第1のシート2a及び第2のシート2bの間に固定された培養対象物Tを観察する観察工程を行うためのものである。
観察手段7としては、培養対象物Tの観察データを取得することができるものであればよく、特に限定されない。例えば、培養対象物Tの形状に係る情報を得るための画像取得手段や、培養対象物Tに対する各種分析に基づく情報を得るための光学分析手段、放射線分析手段、磁場分析手段、電子線回折手段などが挙げられる。
本実施態様における観察手段7としては、顕微鏡の構成を利用することが挙げられる。特に光学顕微鏡の構成を利用することが好ましい。これにより、培養対象物Tを拡大した画像を取得して詳細な観察が可能となるとともに、各種分析手段とも組み合わせることが容易となる。
【0073】
観察手段7としては、光学顕微鏡による観察において一般的に用いられる対物レンズ70、接眼レンズ、反射鏡(光源)を備えるものが挙げられる。また、接眼レンズの代わりに、画像取得のための画像取得手段(CCDカメラ等)を設け、画像データの自動収集を可能とすることが好ましい。これにより、観察データの取得、解析に係る作業効率を向上させることが可能となる。なお、図5には、観察手段7として対物レンズ70のみを図示しており、他の構成については省略している。
【0074】
本実施態様における培養システム1Dにおいては、図5に示すように、対物レンズ70の下方に、シート移動機構5により保持された2枚のシート(第1のシート2a及び第2のシート2b)を設置し、2枚のシート間に固定された培養対象物Tの観察を行うため、一般的な光学顕微鏡におけるステージを設けることは必須ではない。
なお、図5においては、対物レンズ70が培養対象物Tの上方にある正立顕微鏡の構造を示しているが、これに限定されるものではなく、対物レンズ70が培養対象物Tの下方にある倒立顕微鏡の構造を利用するものとしてもよい。また、対物レンズ70を複数設け、複数方向から培養対象物Tの観察を行うものとしてもよい。
【0075】
本実施態様における観察手段7を設ける位置については特に限定されない。例えば、図5に示すように、2つの培養液槽4a及び4bの間に観察手段7を設置し、2枚のシート間に固定された培養対象物Tについて、培養液槽4a内を移動させ、培養を進行させた後、槽外に設けた観察手段7の下方を移動させて観察を行った後、培養液槽4b内を移動させることで、培養を再開することが挙げられる。これにより、培養の経過に係る観察データを取得することが可能となる。
また、培養液槽4内を移動する前の培養対象物Tや、培養液槽4内を所定時間移動し、回収する前の培養対象物Tを観察可能な位置に、観察手段7を設けるものとしてもよい。
【0076】
本実施態様における第1のシート2a及び第2のシート2bとしては、上述した材質から光透過性を有するものを適宜選択することができる。ここで、ポリエチレンフィルムは、テラヘルツ波の透過性が高いことが知られており、観察手段7として電子線観察を用いる際に、特に好適に用いることができる。
また、本実施態様における第1のシート2a及び第2のシート2bとしては、光透過性に加え、自家蛍光や吸光が少ない材質であることがより好ましい。これにより、観察手段7における観察に対する影響を抑制することができる。このような材質としては、例えば、シクロオレフィンフィルムなど、光の吸収が少ない樹脂フィルムや、ガラス製のフィルムを用いることが挙げられる。特に、ガラス製のフィルムは、光学観察に係るプレパラートの代替として好適に用いられる。なお、第1のシート2a及び第2のシート2bにおける自家蛍光や吸光については、観察手段7における観察時にバックグラウンドとして補正することで対応するものとしてもよい。
【0077】
また、本実施態様における第1のシート2a及び第2のシート2bに対する表面処理の例としては、培養対象物Tを観察するための試薬を塗布することが挙げられる。このような試薬としては、例えば、染色試薬、蛍光試薬、各種プローブなどが挙げられる。これにより、表面処理を行った箇所における培養対象物Tについて、観察手段7による観察が容易となり、観察に係る作業効率を向上させることが可能となる。
【0078】
また、本実施態様における第1のシート2a及び第2のシート2bには、観察時における識別を容易にするための各種識別用情報を組み込むものとしてもよい。このような識別用情報としては、グリッドやスケールバー等、サイズに係る識別用情報や、所定間隔ごとに設けたマーカー、コード(ナンバリング、文字コード、バーコード等)などのガイド等、位置情報に係る識別用情報などが挙げられる。また、識別用情報を組み込む手段としては、第1のシート2aあるいは第2のシート2bに識別用情報をあらかじめ印刷することや、手動により書き入れることなどが挙げられる。
特に、生体の観察に広く用いられている染色試薬を配置手段3により配置することが好ましい。このとき、第1のシート2a上に配置された培養対象物Tに対し、直接染色試薬を供給するのではなく、第1のシート2aと第2のシート2bが重なることで、培養対象物Tと染色試薬が混合されるようにすることが好ましい。これにより、分注部30におけるコンタミネーションを抑制することが可能となる。例えば、第1のシート2a上に培養対象物Tと染色試薬を互いが接触しない程度に隣接して配置することや、培養対象物Tを配置する分注部30の角度と、染色試薬を配置する分注部30の角度を異なるものとし、第1のシート2a上と第2のシート2b上にそれぞれ培養対象物Tと染色試薬を配置することなどが挙げられる。
【0079】
また、配置手段3により培養対象物T以外に配置するものとしては、培養対象物Tの観察に必要な試薬(染色試薬)に限定されるものではなく、培養対象物Tの培養状態を判断するための化学物質(試薬)や、培養対象物Tに対する環境変化の影響を観察するための化学物質(試薬)を用いることが挙げられる。例えば、塩濃度やpHの高い溶液を配置手段3により配置し、培養対象物Tと混合させることで、塩濃度やpHの影響についての観察を行うものとすることができる。これにより、培養対象物Tに対する環境変化や培養対象物Tの培養状態に関する観察データについて、迅速かつ容易に取得することが可能となる。
【0080】
観察手段7により得られた観察データは、必要に応じ整理、解析を行うことが好ましい。例えば、データの蓄積や解析を行うデータ記憶部やデータ解析部を設け、観察データを入力することで必要な演算処理を行うことが挙げられる。これにより、培養対象物Tに関する観察データのデータベース化やデータの有効活用が可能となる。
【0081】
観察手段7によって得られる培養対象物Tの観察データや位置に係る情報及びシートに設けた識別用情報に基づき、観察条件あるいは培養条件に係る各種パラメータを算出するものとしてもよい。
【0082】
算出されるパラメータの一例としては、例えば、第1のシート2a及び第2のシート2bの移動速度の算出、第1のシート2a及び第2のシート2bの張力の算出、第1のシート2a及び第2のシート2b間の距離の推計など、シートの移送に関わるものが挙げられる。
また、算出されるパラメータの別の例としては、培養対象物Tの形状や面積など、培養対象物Tの増殖状態に関わるものが挙げられる。
【0083】
なお、算出したパラメータを基に、シート移動機構5の駆動制御や、培養液槽4における培養液Wの調製を行うものとしてもよい。
例えば、シート移送に関わるパラメータを基にしたシート移動機構5の制御としては、第1のシート2a及び第2のシート2bの移動速度にずれが生じていることや、第1のシート2a及び第2のシート2bの張力が過剰あるいは不足していることなどを検知し、観察に適した状態となるように、シートの移動速度、位置及び張力などを補正することが挙げられる。また、併せて、培養条件(培養時間)が培養対象物Tにとって適した状態となるように、シートの移動速度を補正することが挙げられる。
【0084】
以上のように、本実施態様における培養システム1Dは、観察手段による観察を行うことで、培養対象物自体の情報(観察データ)を得るとともに、培養操作(培養条件)に必要な情報も同時に得ることが可能となる。これにより、大量の培養対象物の培養に係る作業効率をより一層高めることができる。
【0085】
なお、上述した実施態様は、培養システム及び培養方法の一例を示すものである。本発明に係る培養システム及び培養方法は、上述した実施態様に限られるものではなく、請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、上述した実施態様に係る培養システム及び培養方法を変形してもよい。
【0086】
例えば、本実施態様の培養システムにおいて、巻出部及び巻取部によるシート移動機構を設ける場合、巻出部における第1のシート及び第2のシートの残量を推定し、一定量以下になった場合に警告を行う機能を設けるものとしてもよい。これにより、培養の途中でシートがなくなり、予告なしに作業が中断することを防止することが可能となる。なお、巻出部におけるシート残量を推定する手段としては、シート自体にあらかじめマーカーを設けるものとすることや、巻取部側の巻取ロールの回転数のほか、シートの移動速度及び時間、接触式あるいは非接触式センサを用いた巻出部の巻径の測定結果等から巻出部におけるロール状シートの残量を推計することなどが挙げられる。
【0087】
また、本実施態様の培養システムにおいて、シート移動機構における支持機構により、シート間の培養対象物に必要以上の圧力(負荷)が掛かることを抑制するための手段(負荷抑制手段)を備えるものとしてもよい。負荷抑制手段の具体例としては、例えば、支持機構として、シートの幅方向全面にわたるローラを用いることに代えて、シートの端部のみを支持する構造(シートの中央部が開放(開口)された状態となる構造)を有するローラを用いることが挙げられる。また、負荷抑制手段の別の例としては、シート間の間隔を一定に維持するためのスペーサーとして機能する物体をシート上に配置することが挙げられる。この場合、物体としては、培養対象物の培養に対する影響が少なく、シート移動時において支持機構から掛かる圧力による変形が少ないものを用いることが好ましい。物体の具体例としては、例えば、チタンなどの金属のほか、樹脂やゴムなどが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の培養システム及び培養方法は、各種培養対象物の培養に利用することができる。特に、自動化や量産化が求められるシート状培養対象物の培養において、好適に利用されるものである。
【符号の説明】
【0089】
1A,1B,1C,1D 培養システム、2a 第1のシート、2b 第2のシート、3 配置手段、30 分注部、31 供給部、31a 貯留部、31b 供給ライン、31c ポンプ、32 制御機構、4 培養液槽、5 シート移動機構、50 巻出部、50a,50b 巻出ロール、51 巻取部、51a,51b 巻取ロール、52 支持機構、52a 支持ローラ、53a,53b 循環駆動部、6 回収手段、60 スクレーパ、7 観察手段、70 対物レンズ、M 表面処理剤、S シート状培養対象物、T 培養対象物、W 培養液
図1
図2
図3
図4
図5