IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川上 優の特許一覧

<>
  • 特開-ウナギ目仔魚形質測定装置 図1
  • 特開-ウナギ目仔魚形質測定装置 図2
  • 特開-ウナギ目仔魚形質測定装置 図3
  • 特開-ウナギ目仔魚形質測定装置 図4
  • 特開-ウナギ目仔魚形質測定装置 図5
  • 特開-ウナギ目仔魚形質測定装置 図6
  • 特開-ウナギ目仔魚形質測定装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081549
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】ウナギ目仔魚形質測定装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/95 20170101AFI20240611BHJP
【FI】
A01K61/95
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195253
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】722013254
【氏名又は名称】川上 優
(72)【発明者】
【氏名】川上 優
【テーマコード(参考)】
2B104
【Fターム(参考)】
2B104AA07
2B104GA01
(57)【要約】
【課題】ウナギ目魚類の種苗生産時における給餌や清掃に見られる煩雑かつ長時間作業の軽減化、および、種苗生産に半年以上費やす事で発生する生産コストの高騰化を解決するため、作業の高効率化や生産期間の短縮を可能とする、ウナギ目仔魚用測定装置、および、その使用方法を提供する。
【解決手段】ウナギ目仔魚の体サイズや変態ステージ判定に対し、ハンドリングによる死亡リスクを軽減しながら短時間で成長評価を可能とする有効形質測定装置。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウナギ目仔魚の撮影動画および撮影画像から取得した情報をもとに、有効形質の位置を識別する形質測定装置
【請求項2】
前記対象となる有効形質部位から、全長、体高、最終垂直血管棘長、前肛門長を算出する形質測定装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動画および画像から、ウナギ目仔魚の成長および変態ステージを判定するための方法に関する。また、本発明は、有効形質を数値化するための装置及びコンピュータープログラムに関する。さらに、本発明は、自動形質測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ニホンウナギ(Anguilla japonica)は、ウナギ目魚類の中で種苗生産に唯一成功している種類である(特許文献1参照)。そこで用いている仔魚用飼料はサメ卵や鶏卵黄などを含むペースト状の飼料が開発されている(特許文献2参照)。
【0003】
現在のペースト状飼料およびそれを用いた飼育方法は、天然海域で成長するニホンウナギ仔魚が摂餌していると予想されているマリンスノーと性状が異なり(非特許文献1参照)、餌および摂餌環境が再現出来ていない。そのため、天然仔魚よりも人工仔魚は成長が遅いと考えられている。
【0004】
ニホンウナギ仔魚の初期形態は、レプトケファルス幼生と呼ばれ、孵化直後は3mmほどであるが、その後、全長50mm以上に成長する。そこからさらに変態しシラスウナギと呼ばれるウナギ型仔魚にまで成長する。天然環境下では、孵化からシラスウナギまでに要する日数は、およそ130-150日程度と考えられている(非特許文献2参照)。一方、人工でのシラスウナギ生産期間は、平均200日以上の長期飼育が必要で、400日以上要する個体もいる(非特許文献1参照)。このように、ニホンウナギの種苗生産期間は非常に長いため、生産コストは非常に高い。
【0005】
仔魚飼育の長期化は、仔魚間の成長差が大きくなると言った問題も生じる。例えば、ニホンウナギ仔魚をおよそ130日間飼育したところ、最小サイズは全長29.8mm、最大サイズは全長40.6mmとおよそ10mmのサイズ差が生じた(非特許文献3参照)。一般的に、種苗生産では成長の遅い小型仔魚を救済する目的で、分別、分送作業、さらにサイズ毎の分別飼育を定期的に行う必要がある。そのため、ニホンウナギ種苗生産にみられる半年以上に及ぶ長期飼育下では、定期的にサイズ毎に分別飼育を行う必要があるが、分別作業は煩雑で多くの時間を費やしてしまう。
【0006】
ニホンウナギ種苗生産で飼育されるレプトケファルス幼生は、透明である事が大きな特徴であるため、水槽内での個体数や体サイズの確認は視覚的に非常に困難な作業となる。さらに擦れに弱く、仔魚を取り出すなどのハンドリング頻度や長時間の作業操作は死亡リスクが高まるため出来る限り避けたい案件である。レプトケファルス幼生の体サイズを確認する方法として、飼育水槽から取り出し麻酔をかけ、動きが緩慢になったのを見計らい実体顕微鏡下で計測版にてサイズ測定が行われる。しかし、上述した様にレプトケファルス幼生に対し過分にストレスを与えるため、効率的な方法とは言い難い。
【0007】
これまで、魚類では甲状腺ホルモンを用いて仔魚の変態を誘導する方法が報告されている(非特許文献4参照)。ウナギ目魚類においても甲状腺ホルモンを用いた早期変態誘導法が確立され、変態可能サイズに満たないニホンウナギレプトケファルス幼生をシラスウナギまで誘導する事が可能となった(非特許文献3参照))。つまり、シラスウナギ生産に要する飼育期間を従来法より大幅に短縮出来る。
【0008】
早期変態誘導法において、対象とする仔魚のサイズ測定や変態誘導工程の判定作業は、麻酔後、実体顕微鏡下で有効形質間を測定する、もしくは、撮影装置で取得した画像データから画像解析ソフトを用いて測定判定するなどどちらも煩雑である。つまり、操作時間やハンドリング頻度を重ねる事は幼弱であるレプトケファルス幼生の生死に大きく関わり、一度に多くの仔魚を短時間で判定する事が困難であるため、効果的とは言い難い。
【0009】
このように、従来から実践されている飼育方法では、生産期間の長期化による生産コストの高騰や作業効率が著しく低いため、さらなる開発の余地がある。そのため、産業的用途に有効に用い得る飼育方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11-253111号公報
【特許文献2】特開2005-13116号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】田中秀樹 野村和晴 山本剛史 奥宏海 2006 ウナギ仔魚用飼料・飼育システムの開発 &#8211;世界で初めてシラスウナギの人工生産に成功- 水産総合研究センター研究報告63-69
【非特許文献2】Yutaka Kawakami Noritaka Mochioka Ryo Kimura Akinobu Nakazono 1999 Seasonal changes of the RNA/DNA ratio, size and lipid contents and immigaration adaptability of Japanese glass-eels, Anguilla japonica, collected in northern Kyushu, Japan Journal of Experimental Marine Biology and Ecology 238 1-19
【非特許文献3】Yutaka Kawakami 2023 Sensitivity of Anguilliformes leptocephali to metamorphosis stimulated by thyroid hormone depends on larval size and metamorphic stage Comparative Biochemistry and Physiology Part A 276 111339
【非特許文献4】Yasuo Inui Satoshi Miwa 1985 Thyroid hormone induces metamorphosis of flounder larvae.General and Comparative Endocrinology 60 450-454
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑み、当業界における要望に応えるためになされたものであって、その目的とするところは、ウナギ仔魚の大きさや変態過程を短時間で判定する事によって、仔魚生産工程で発生する分別作業の高効率化を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであって、本発明者らは、各方面から検討した結果、ウナギ目仔魚の成長や変態ステージの判定が可能である事を見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の形質測定装置は、透明であるウナギ目仔魚を自動識別し、全長を含む有効形質間を短時間で測定表示する事で幼弱な仔魚のハンドリング作業を軽微化し死亡リスクを軽減する事、大量の仔魚に対し短時間で分別作業を可能とする事で、種苗生産の効率化を高められる事を特徴とする。
【0014】
本発明の第1の態様によれば、ウナギ目仔魚の識別方法が提供される。この方法は、1個もしくは複数個の収容容器に、飼育水槽からウナギ目仔魚を単独もしくは数尾を飼育水と共に収容する工程と、撮影装置前に収容容器を設置し、撮影装置にて動画もしくは画像を撮影する工程と、撮影データを解析装置に認識させ、撮影データ内からウナギ目仔魚を識別する工程とを含む。
【0015】
本発明の第2の態様によれば、ウナギ目仔魚の有効形質の識別方法が提供される。この方法は、撮影データ内の認定されたウナギ仔魚より、成長および変態ステージを判定するために有効形質である、吻端、背鰭始部、体側正中線、垂直血管棘、肛門端部、尾鰭末端の位置を識別する工程を含む。
【0016】
本発明の第3の態様によれば、ウナギ目仔魚の有効形質間の測定数値が提供される。この測定項目は、吻端と尾鰭末端間を体側正中線に沿ってトレースした曲線長を全長とする工程と、吻端から最終垂直血管棘と体側正中線との交点をつなぐ曲線長を最終垂直血管棘長とする工程と、吻端から肛門端部より体側正中線に直線を伸ばし直角に交わる交点をつなぐ曲線長を前肛門長とする工程とを含む。
【0017】
本発明の第4の態様によれば、ウナギ目仔魚の有効形質間測定数値から変態ステージ情報が提供される。この方法は、前肛門長と全長の比として算出する工程と、前肛門長と最終垂直血管棘長の比として算出する工程と、全長を含む複数のパラメーターから変態ステージを判定する工程とを含む。
【0018】
本発明の第5の態様によれば、プロセッサ及びこのプロセッサの制御下にあるメモリを含むコンピュータを備える、有効形質間測定のための装置を提供する。上記のメモリには、撮影データから仔魚情報を取得するステップと、仔魚情報から取得した形態情報に基づいて、有効形質を識別するステップと、有効形質間を測定し、変態ステージを判定するステップとを、上記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されている。
【0019】
本発明の第6の態様によれば、コンピュータが読み取り可能な媒体に記録されている有効形質間測定のためのコンピュータプログラムを提供する。このコンピュータプログラムは、撮影データから仔魚情報を取得するステップと、仔魚情報から取得した形態情報に基づいて有効形質を判別するステップと、有効形質間を測定し変態ステージを判定するステップとを、上記コンピュータに実行させる事を特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、対象物であるウナギ目仔魚の大きさと、有効形質間測定数値による変態ステージ判定を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1はニホンウナギ仔魚であるレプトケファルス幼生とシラスウナギの外観を示す。
図2図2はニホンウナギ仔魚であるレプトケファルス幼生の有効形質間を正中線上にトレースした曲線長を示す。図2Aは、全長を示し、図2Bは、最終垂直血管棘長を示し、図2Cは、前肛門長を示す。
図3図3はニホンウナギ仔魚であるレプトケファルス幼生から変態時の形態を示す。図3Aは変態前のレプトケファルス幼生を示し、下矢印が最終垂直血管棘の位置を、上矢印が肛門端部の位置を示す。図3Bは変態ステージ2の個体を示し、下矢印が最終垂直血管棘の位置を、上矢印が肛門端部の位置を示す。図3Cは変態ステージ3の個体を示し、下矢印が最終垂直血管棘の位置を、上矢印が肛門端部の位置を示す。
図4図4はウナギ目仔魚形質測定装置の外観の構成を示す斜視図である。
図5図5はウナギ目仔魚を収容し撮影するための収容容器を示す図である。
図6図6はウナギ目仔魚形質測定装置を構成するコンピュータプログラミングによる撮影データ内の仔魚を判別し、有効形質を識別するまでの解析処理工程を示す図である。図6Aは、撮影データを示す。図6Bはグレースケールへの画質変換を示す。図6Cは、白黒反転し、撮影データ内の物体の識別を示す。図6Dは、レプトケファルス幼生の識別を示す。図6Eはレプトケファルスの輪郭線を示す。図6Fは輪郭線を撮影データに貼り合わせ、各有効形質の配置を示す。
図7図7はウナギ目仔魚形質測定装置を用いて測定した、早期変態誘導法処理によるニホンウナギ仔魚の変態過程を示すグラフである。図7Aは開始から処理9日目の前肛門長/全長の比の減少推移を示す。図7Bは開始から処理9日目の前肛門長/最終垂直血管棘の比の減少推移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、用いるウナギ目魚類仔魚について、図面を参照して説明する。
【0023】
本発明において対象とするウナギ目仔魚とは、ウナギ目魚類の葉形仔魚であるレプトケファルス幼生から、変態しウナギ型となったシラスウナギを指す。例えば、図1は、種苗生産によって生産された、ニホンウナギ(Anguilla japonica)レプトケファルス幼生とシラスウナギを示す。
レプトケファルス幼生は透明で体高が高い。外観は葉の形をしているため、葉形仔魚と呼ばれる。ウナギ目レプトケファルス幼生は総じて葉形であるため、他魚種の仔魚と大きく外見が異なり、判別は容易である。一方、シラスウナギは葉形仔魚が劇的な形態変化、所謂、変態を経て、ウナギ型へと変化したウナギ型仔魚である。両者ともに透明度が高く、撮影装置を用いて撮影データを記録する場合、コントラストを高めるために照明装置を用いた方が良い。
【0024】
図2は、ニホンウナギ仔魚における全長、最終垂直血管棘長と前肛門長の位置関係を示す
本発明で用いる吻端とは頭部鼻先の先端を示す。垂直血管棘とは直腸上端部から脊索下部へ伸びる数本の血管棘を示す。最終垂直血管棘とは頭部から見て最後尾に配置される血管棘を示す。肛門端部とは、直腸の末端に位置する肛門の最後部を示す。尾鰭末端とは尾鰭の最後部を示す。
本発明で用いるウナギ目仔魚の全長(A)とは吻端から尾鰭末端までを体側正中線上を沿う様に描いた曲線長を示す。
最終垂直血管棘長(B)とは最終垂直血管棘が脊索下端に接する点を最終垂直血管棘位置とし、吻端から最終垂直血管棘位置までを体側正中線上を沿う様に描いた曲線長を示す。
前肛門長(C)とは肛門端部から上に伸ばした直線が体側正中線と直角に交わる点を肛門位置とし、吻端から肛門位置までを体側正中線上を沿う様に描いた曲線長を示す。
体高とは背鰭始部から直腸に向かって垂直に伸ばした長さを示す。
【0025】
図3はニホンウナギ仔魚の変態時の形態を示す。変態期ステージについて図3を参照して説明する。
【0026】
ステージ0 変態は開始されていない(A)。
ステージ1 変態始動期。吻端が丸まり、腸管の退縮が始まる。70%<前肛門長/全長。
ステージ2 変態最盛期(B)。腸管の退縮が顕著になる。後半期では肛門が最終垂直血管棘付近まで到達する。前肛門長/全長≦70%。
ステージ3 変態後期(C)。前肛門長が最終垂直血管棘長と同じもしくは、さらに短くなる。前肛門長/最終垂直血管棘長≦100%。
ステージ4 前シラスウナギ期。ほぼウナギの形態になるが、まだ体高が残っている。体表や内在性の黒色素胞は認められない。
ステージ5 シラスウナギ期。
【0027】
ニホンウナギの変態ステージについてさらに解説する。
ステージ0は図3Aで示す。全長50mmを超えたレプトケファルス幼生は最大伸長期に達した、と判断される。最大伸長期とは変態可能となったサイズを指す。それ以下、例えば全長30mm台や40mm台サイズでは、通常、変態は認められない。
ステージ1は、変態開始直後である。軽微な形態変化は認められ、変態が始動されたと判断出来る。
図3Bは変態ステージ2に相当し、消化管の退縮が顕著にみられる。肛門端部が前方へ移動する点が大きな特徴である。その進行度合いは、前肛門長/全長の比と、前肛門長/最終垂直血管棘長の比で示され、数値は変態ステージ3に達するまで徐々に減少する。レプトケファルス幼生は歯が認められるが、変態が進行すると、徐々に消失する。
図3Cは変態ステージ3に相当し、前肛門長/最終垂直血管棘長の比が100%以下となる。体高は徐々に低くなり、葉形の形態から遠ざかる。体高は変態開始前より明らかに低く、体は肉厚となる。
【0028】
本発明の形質測定装置を用いて解析するレプトケファルス幼生のサイズは特に限定しないが、ニホンウナギレプトケファルス幼生の場合は、全長が20mm以上である事が望ましい。さらに、全長30mm以上である事が望ましい。
【0029】
以下、ウナギ目仔魚形質測定装置について、図4を参照して説明する。本発明は、以下に説明する形態に限定されるものではなく、以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0030】
本発明の形質測定装置の特徴は、動画、静止画など撮影データからウナギ目仔魚の形態を判別し、数値化する装置である。さらに言うと、仔魚のサイズや形態判定に有効な形質である、吻端、尾鰭末端、最終垂直血管棘、肛門端部などの位置を自動で識別し、吻端から尾鰭末端までの長さから全長を、吻端から最終垂直血管棘間で最終垂直血管棘長を、吻端から肛門端部間で前肛門長などを測定する成長判定装置である。
【0031】
本発明の形質測定装置は、前肛門長/最終垂直血管棘長、前肛門長/全長と言った有効形質間の比を併せて算出する事が出来る。本発明が対象とするウナギ目仔魚は、変態が進行するにつれ、肛門端部が前方へと退縮するため前肛門長は変態過程を判定する上で特に重要な測定値である。
【0032】
図4は本発明の形質測定装置の構成を示す。構成は、収容容器、撮影装置、照明装置、撮影台、解析装置に分けられる。
【0033】
収容容器(1)は対象種のウナギ目仔魚を生存させた状態で収容する容器である。容器は撮影を目的としているため、撮影面は透明である事が望ましい。容器の形状は特に限定しないが、直方体の6面体で、上面は仔魚を収容、回収出来る様に開口している事が望ましい。また上部開口部に蓋を付属しても良い。透明容器の材質は、透明度の高いアクリルが望ましいが、撮影に支障が無い透明素材であれば特に限定しない。収容容器の大きさは特に限定しないが、魚体運動を制限出来る大きさ、および、奥行である事が望ましい。縦横の長さは、それぞれ30cm以内である事が望ましく、さらに、15cm以内である事が望ましい。主要容器の奥行は、魚体と撮影装置間が常に安定し、撮影焦点が常に合う事が望ましいため、奥行は5cm以内である事が望ましく、さらに2cm以内である事が望ましい。収容容器の開口部の形状は特に限定しないが、ウナギ目仔魚をスムーズに収容し易くするため広く設計する事が望ましい。図5は収容容器の例を示すが、例えばロート状(8)に開口部が広がっている形状が望ましい。
【0034】
収容容器は手動だけでなく自動もしくは半自動化された輸送システムを組み込む事も出来る。例えば、フィッシュカウンターの様に測定対象魚を収容した準備水槽から接続されたホースもしくは通路内を順次魚体が移動し、撮影装置と対峙する位置に配置した収容容器内検出部をウナギ目仔魚が通過した際に撮影記録され、撮影データが速やかに解析装置で処理されると言った輸送システムを組み込んだ収容容器を指す。
【0035】
撮影装置(2)はデジタルカメラやビデオカメラなど一般に普及している製品を使用する事も出来る。また高感度CCDカメラを使用する事も出来る。収容容器(1)内のウナギ目仔魚は動くため、高感度、かつ、高解像度撮影装置である事が望ましい。設置位置は特に制限しないが、収容容器(1)内の魚体体側全貌が撮影出来る様に、収容容器(1)に対して垂直もしくは水平方向に設置する事が望ましい。さらに収容容器(1)間の距離は常に一定である事が望ましく、撮影装置(2)と収容容器(1)間を固定化するため、例えば収容容器用ホルダーなど固定器(4)を設置する事が望ましい。
【0036】
照明装置(3)は透明であるウナギ目仔魚の解像度およびコントラストを高める目的で設置する。写真撮影用のLED照明装置など市販品であっても良い。照明装置(3)は撮影面に対し両側面に1対配置する事が望ましい。ウナギ目仔魚が収容された収容容器(1)の両側面から照明を当てる事で収容容器(1)の影が相殺され、さらに、ウナギ目仔魚に対するコントラストが際立つ。
【0037】
撮影台(5)は撮影装置(2)と収容容器(1)が常に水平もしくは垂直に保たれる様に設置する。撮影装置(2)と収容容器(1)が水平に設置される場合は、収容容器用ホルダーなど固定器(4)を付属する事が出来る。撮影台(5)の大きさは特に限定しない。撮影装置(2)と収容容器(1)の距離間に併せた長さが確保出来れば良い。
【0038】
解析装置(6)は解析手法をプログラミングされたプログラミングソフトをインストールしたメモリを内蔵する。撮影データの入力や測定数値の出力を考えた場合、コンピュータが望ましいが、上記装置をコンパクト化した一体成型型装置であっても良い。解析装置(6)は、撮影装置(2)からの入力ケーブル(7)が接続され、さらに付属する出力端子で外部モニターと接続し、測定数値を外部表示する事も出来る。
【0039】
解析装置(6)内の解析手法をプログラミングしたプログラミングソフトは、取り込んだ撮影データからウナギ目仔魚を抽出し、次のステップへと進む。ウナギ目仔魚の認識手順は自動で処理され、プログラミングソフトに学習させた多くのレプトケファルス幼生および変態個体の形態パターンを基に判別される。さらに、学習した形態パターンから各有効形質を認識し、有効形質間が数値化される。一連の操作は自動で制御されているが、手動による操作も可能である。
【0040】
図6はプログラミングソフトで撮影データから有効形質を識別するまでのフローを示す。
解析装置に内蔵されたプログラミングソフトは、撮影データからウナギ目仔魚を識別する事が出来る。例えばニホンウナギ仔魚の撮影データを読み込み様々な大きさや輪郭パターンを学習させる。
図6Aはプログラミングソフトに取り込んで撮影データである。
図6Bは撮影データのカラーバランスをグレーバランスに変更した図である。グレースケールとなった撮影データはさらにコンストラストを強調し、白黒スケールへと変換される。
図6Cは白黒スケールを反転させた図である。レプトケファルス幼生を含む物体は黒塗りで表現される。
図6Dは黒塗りの物体の中からレプトケファルス幼生を抽出した図である。学習内容から近似形態を抽出する。
図6Eは黒塗りレプトケファルス幼生の外縁を描いた線画である。これによってレプトケファルス幼生の輪郭が決定され、この時点で学習した画像パターンから頭部側の吻端と尾部側の尾鰭末端を認識出来る。
図6Fは、図6Eで描かれた輪郭を図6Bのグレースケールデーターと合成した図である。輪郭よりレプトケファルス幼生と認識した撮影データ内で、中央部に認められる白色線を体側正中線と認識する。プログラミングソフトは吻端と尾鰭末端を基点として体側正中線に沿った曲線を引く。この曲線を全長と認識する。次に、学習パターンから直腸位置を認識し、その末端部の凸部を肛門端部と判断する。さらに、肛門端部から体側正中線に直線を引き、その交点から頭部側に向かって数本の垂直血管棘が認められるが、最初に出現する、つまり、肛門位置により近い垂直血管棘を最終垂直血管棘として決定する。
【0041】
以下にニホンウナギレプトケファルス幼生を用いた本発明の実施例を挙げる。本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例0042】
(甲状腺ホルモンを用いた変態誘導飼育水の作製)
甲状腺ホルモンであるサイロキシン(T4)を1-2mL容量のメスフラスコで 50-100mMに調整する。
【0043】
例えば50mMに調整した、T4に対して、500倍、5000倍、50000倍にそれぞれ希釈し、10μM、1μM、100nMに調整する。
【0044】
飼育容器に人工海水を加え、10μMのT4を1000分の1量加えて、10nM-T4飼育水を調整する。
【0045】
飼育水は2日に1度の頻度で、半量を同じ濃度の飼育水と交換する。
【0046】
(レプトケファルス幼生の準備と早期変態誘導法を用いた変態誘導)
140日飼育したニホンウナギレプトケファルス幼生を用いる。本発明形質測定装置を用いて、レプトケファルス幼生の全長を測定する。
【0047】
レプトケファルス幼生を10nM-T4、23℃に設定した海水を加えた飼育容器に収容し変態誘導飼育を開始する。最初の1週間は、2日おきに経過観察を行い、その都度、半量の10nM-T飼育水を交換する。
【0048】
誘導開始9日目に本発明形質測定装置を用い、変態仔魚のステージを判別する。ステージ2の後半期に到達した変態仔魚は、1nM-T4に調整した新たな飼育水槽に移し、引き続き飼育を行う。それ以外の、個体は元の濃度で飼育を継続する。ステージ2の後半期に達した変態仔魚が確認された以降は、可能であれば毎日測定を行う。
【0049】
ステージ3に達した変態仔魚は速やかに、0.1nM-T4飼育水を加えた飼育水槽に移す。肛門位置が最終垂直血管棘に到達していない変態仔魚においても、ステージ3直前と判定すれば、0.1nM-T4濃度に変更する。
【0050】
ステージ3の段階は継続的に0.1nM-T4飼育水で飼育を行う。体高が徐々に低くなり、ステージ4のほぼシラスウナギの体型に到達したと判定された仔魚以降はT4飼育水から取り上げ、淡水下で飼育する。ステージ4以降は、ホルモン処理は行わない。
【0051】
図7は早期変態誘導法で処理する直前のレプトケファルス幼生と誘導9日目の変態仔魚の、前肛門長/全長(A)と前肛門長/最終垂直血管棘長(B)の比を本発明形質測定装置を用いて測定した結果を示す。横軸が変態誘導開始前と誘導9日目の仔魚の全長を、縦軸が前肛門長/全長(A)と前肛門長/最終垂直血管棘長(B)の比をパーセントで示す。
結果から、変態誘導中の前肛門長/全長(A)と前肛門長/最終垂直血管棘長(B)の比は減少する事が分かる。
【符号の説明】
【0052】
1 収容容器
2 撮影装置
3 照明装置
4 固定器
5 撮影台
6 解析装置
7 入力ケーブル
8 ロート状開口口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7