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特開2024-81569抗菌または抗ウイルス性フィルムおよびそれを含む積層体
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  • 特開-抗菌または抗ウイルス性フィルムおよびそれを含む積層体 図1
  • 特開-抗菌または抗ウイルス性フィルムおよびそれを含む積層体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081569
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】抗菌または抗ウイルス性フィルムおよびそれを含む積層体
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/08 20060101AFI20240611BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240611BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240611BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240611BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20240611BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240611BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240611BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20240611BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20240611BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20240611BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240611BHJP
【FI】
C08L25/08
B32B27/00 M
B32B27/18 F
B32B27/30 B
C08K3/08
A01P1/00
A01P3/00
A01N25/10
A01N59/16 A
C09J7/24
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084519
(22)【出願日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2022195002
(32)【優先日】2022-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000166649
【氏名又は名称】五洋紙工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】吉田 航太
(72)【発明者】
【氏名】谷 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】崎濱 祥子
【テーマコード(参考)】
4F100
4H011
4J002
4J004
【Fターム(参考)】
4F100AB17
4F100AB17A
4F100AB18
4F100AB18A
4F100AB24
4F100AB24A
4F100AK12
4F100AK12A
4F100AK12B
4F100AL09
4F100AL09A
4F100AL09B
4F100BA03
4F100BA07
4F100GB07
4F100GB81
4F100JB16
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100JC00
4F100JC00A
4F100JK06
4F100JK12
4F100JL13
4F100JL13C
4H011AA02
4H011AA04
4H011BA01
4H011BB18
4H011BC01
4H011BC19
4H011BC20
4H011DA08
4H011DH02
4J002BC041
4J002BC051
4J002BP011
4J002DA076
4J002EN136
4J002EU046
4J002EU116
4J002EV316
4J002EW176
4J002FD186
4J002GC00
4J002GF00
4J002GJ01
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
4J004AA05
4J004AA06
4J004AB01
4J004CA03
4J004CC02
4J004DB02
4J004FA09
(57)【要約】
【課題】 様々な被貼着材に対して追従性および密着性が良好であり、かつ適度な粘着性を有する抗菌または抗ウイルス性フィルムおよびそれを含む積層体を提供すること。
【解決手段】 本発明の抗菌または抗ウイルス性フィルムは、抗菌または抗ウイルス剤および第1のスチレン系熱可塑性エラストマーを含有する。本発明の積層体は、当該フィルムで構成される第1層と、該第1層と接して配置された、粘着性を有しかつ第2のスチレン系熱可塑性エラストマーを含む第2層とを備える。このような積層体は、種々の被貼着材に対する粘着性をさらに高め、かつ容易に取り外すこともできる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌または抗ウイルス性を有する生理活性物質および第1のスチレン系熱可塑性エラストマーを含有する、抗菌または抗ウイルス性フィルム。
【請求項2】
前記抗菌または抗ウイルス性を有する生理活性物質が、銀イオン、銅イオンおよび亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンを含む化合物である、請求項1に記載の抗菌または抗ウイルス性フィルム。
【請求項3】
前記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーにおけるJIS K 6253-3:2012に準拠して測定したショアA硬度(S)が0~90である、請求項1に記載の抗菌または抗ウイルス性フィルム。
【請求項4】
25mm幅にカットしかつ測定面と反対側の面に伸長防止のための粘着テープを貼着して試験片を得た後、該測定面をステンレスチール板に0.06MPaの圧力でプレスし、次いで該試験片を、引張試験機により300mm/分の速度で該ステンレススチール板から剥がした際の粘着力が0.01N/25mm~1.5N/25mmである、請求項1に記載の抗菌または抗ウイルス性フィルム。
【請求項5】
抗菌性または抗ウイルス性を有する積層体であって、
請求項1に記載のフィルムで構成される第1層と、
該第1層と接して配置された、粘着性を有しかつ第2のスチレン系熱可塑性エラストマーを含む第2層と、
を備える、積層体。
【請求項6】
前記第1層に含まれる前記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーのショアA硬度(S)が前記第2層に含まれる前記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーのショアA硬度(S)よりも大きく、かつ該第1のスチレン系熱可塑性エラストマーのショアA硬度(S)と該第2のスチレン系熱可塑性エラストマーのショアA硬度(S)との差(S-S)が5~90である、請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記積層体を25mm幅にカットしかつ前記第2層が配置された測定面と反対側の面に伸長防止のための粘着テープを貼着して試験片を得た後、該測定面をステンレススチール板に0.06MPaの圧力でプレスし、次いで該試験片を、引張試験機により300mm/分の速度で該ステンレススチール板から剥がした際の粘着力が0.01N/25mm以上である、請求項5に記載の積層体。
【請求項8】
前記第1層の厚み(T)が前記第2層の厚み(T)の0.1倍~50倍である、請求項5に記載の積層体。
【請求項9】
前記第1層の厚み(T)と前記第2層の厚み(T)との合計が50μm~500μmである、請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
被貼着材上に請求項1から4のいずれかに記載の抗菌または抗ウイルス性フィルムが配置された身体接触性部材。
【請求項11】
被貼着材上に請求項5から9のいずれかに記載の積層体が配置された身体接触性部材であって、該積層体を構成する第2層が該被貼着材と接触している、身体接触性部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌または抗ウイルス性フィルムおよびそれを含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のウイルス感染症の拡大に伴う、抗ウイルス対策として、各種の対策が講じられ、特に多くの人が触れる机、テーブル、椅子、ドア、ノブ、スイッチなどの製品または部材への抗ウイルス剤のスプレー付与や、住宅・公共施設における抗菌マットの設置、建築物壁面への抗菌加工が行われている。しかし、上記スプレーによる付与は短期的な効果しか期待できず、マットの設置は移動が容易な反面、当該移動によって定常的な効果が期待できず、壁面への抗菌加工は長期間に亘る効果の持続が必要とされる。
【0003】
これに対し、特許文献1は、建装材のような被貼着材に用いられるシートとして、硬化性樹脂および粒径1~10μmの抗ウイルス剤を含有する保護層と、透明性伸展性フィルム層と、粘着剤とをこの順で含む粘着シートを開示している。
【0004】
しかし、このような粘着シートは表面硬度および剛性が高く、被貼着材への追従性に劣ることが指摘されている。しかも、多層化構造を有する点で多種の素材が使用されており、使用後の当該素材の回収が難しく、再生および再利用が実質的に不可能であることも懸念されている。
【0005】
特許文献2は、抗ウイルス剤含有層を有する抗ウイルス性デスクまたはテーブルマット(以下、デスクマット類)を開示している。この抗ウイルス剤含有層には、表面硬度を保つためにバインダー樹脂として硬化性樹脂等が使用される。しかし、このようなデスクマット類は、平坦なデスクトップやテーブルトップへの配置を想定するのみである。例えば曲面を多用する自動車内装材等に使用しようとしても、当該曲面への追従が困難である。
【0006】
特許文献3は、表面の算術平均粗さを規定した抗菌・抗ウイルス性の積層体を開示している。当該積層体では、汎用熱可塑性樹脂が抗菌剤や抗ウイルス剤のバインダーとして使用されているが、より汎用性を高めるためには未だ十分な柔軟性を有しているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-052392号公報
【特許文献2】特開2022-117396号公報
【特許文献3】特開2022-097957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、様々な被貼着材に対して追従性および密着性が良好であり、かつ適度な粘着性を有する抗菌または抗ウイルス性フィルムおよびそれを含む積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、抗菌または抗ウイルス性を有する生理活性物質および第1のスチレン系熱可塑性エラストマーを含有する、抗菌または抗ウイルス性フィルムである。
【0010】
1つの実施形態では、上記抗菌または抗ウイルス性を有する生理活性物質は、銀イオン、銅イオンおよび亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種の金属イオンを含む化合物である。
【0011】
1つの実施形態では、上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーにおけるJIS K 6253-3:2012に準拠して測定したショアA硬度(S)は0~90である。
【0012】
1つの実施形態では、本発明の抗菌または抗ウイルス性フィルムを25mm幅にカットしかつ測定面と反対側の面に伸長防止のための粘着テープを貼着して試験片を得た後、該測定面をステンレススチール板に0.06MPaの圧力でプレスし、次いで該試験片を、引張試験機により300mm/分の速度で該ステンレススチール板から剥がした際の粘着力は0.01N/25mm~1.5N/25mmである。
【0013】
本発明はまた、抗菌性または抗ウイルス性を有する積層体であって、
上記のフィルムで構成される第1層と、
該第1層と接して配置された、粘着性を有しかつ第2のスチレン系熱可塑性エラストマーを含む第2層と、
を備える、積層体である。
【0014】
1つの実施形態では、上記第1層に含まれる上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーのショアA硬度(S)は上記第2層に含まれる上記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーのショアA硬度(S)よりも大きく、かつ該第1のスチレン系熱可塑性エラストマーのショアA硬度(S)と該第2のスチレン系熱可塑性エラストマーのショアA硬度(S)との差(S-S)は5~90である。
【0015】
1つの実施形態では、本発明の積層体を25mm幅にカットしかつ上記第2層が配置された測定面と反対側の面に伸長防止のための粘着テープを貼着して試験片を得た後、該測定面をステンレススチール板に0.06MPaの圧力でプレスし、次いで該試験片を、引張試験機により300mm/分の速度で該ステンレススチール板から剥がした際の粘着力は0.01N/25mm以上である。
【0016】
1つの実施形態では、上記第1層の厚み(T)は上記第2層の厚み(T)の0.1倍~50倍である。
【0017】
さらなる実施形態では、上記第1層の厚み(T)と上記第2層の厚み(T)との合計は50μm~500μmである。
【0018】
本発明はまた、被貼着材上に上記抗菌または抗ウイルス性フィルムが配置された身体接触性部材である。
【0019】
本発明はまた、被貼着材上に上記積層体が配置された身体接触性部材であって、該積層体を構成する第2層が該被貼着材と接触している、身体接触性部材である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、貼着される被貼着材との間で所望でない空隙が形成され難い、被貼着材への追従性および密着性に優れた抗菌または抗ウイルス性フィルムおよびそれを用いた積層体を得ることができる。このようなフィルムおよび積層体は、被貼着材に対して貼着および剥離を繰り返して行うことができる。これにより新たなフィルムまたは積層体による交換が可能であり、貼着を中断した際も容易に除去できる。本発明のフィルムおよび積層体は比較的単純な樹脂組成で構成されていることからリサイクル可能であり、環境保護に配慮した製品として提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の抗菌または抗ウイルス性フィルムの一例を示す模式断面図である。
図2】本発明の抗菌または抗ウイルス性を有する積層体の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳述する。
【0023】
(1)抗菌または抗ウイルス性フィルム
本発明のフィルムは、生理活性物質および第1のスチレン系熱可塑性エラストマーを含有する。
【0024】
第1のスチレン系熱可塑性エラストマーは、図1に示すようにフィルム100においてマトリックス成分110として含有されている。第1のスチレン系熱可塑性エラストマーは、柔軟性や弾力性に優れるゴム様性状を有し、スチレンを主成分とするハードセグメントと、ブタジエン、イソプレン、ブチレン、エチレン、プロピレンなど(一部水添加物を含む)のソフトセグメントとで構成される共重合エラストマーである。このようなスチレン系熱可塑性エラストマーは、例えば、クラレプラスチックス株式会社から「アーネストン」の商品名で、アロン化成株式会社から「エラストマーAR」の商品名で市販されている。
【0025】
一方、図1に示すように本発明のフィルム100において、生理活性物質120は上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーのマトリックス成分110内に、例えば略均一に分散した状態で含有されている。
【0026】
生理活性物質120は、抗菌または抗ウイルス性を有する化合物で構成されている。本発明で使用され得る生理活性物質は、例えば抗菌剤および/または抗ウイルス剤である。ここで、本明細書中に用いられる用語「抗菌または抗ウイルス(性)」とは、細菌、カビ等の微生物、ならびにウイルスを殺菌、滅菌および/または除菌する性質、ならびにそれらの増殖を抑制または低減する性質を包含していう。本発明のフィルム100はこのような生理活性物質120を含有することにより、フィルム全体に対して優れた抗菌または抗ウイルス性を発揮し得る。
【0027】
抗菌または抗ウイルス性を有する生理活性物質120は、無機系のものおよび有機系のもの、ならびにそれらの組み合わせのいずれであってもよい、
【0028】
抗菌または抗ウイルス性を有する無機系の生理活性物質120としては、例えば、金属イオンをゼオライト、アパタイト、ジルコニア、ガラス等の酸化物やリン酸塩に担持させたものの1種またはそれらの組み合わせが挙げられる。金属イオンの例としては、銀イオン、銅イオン、および亜鉛イオン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0029】
抗菌または抗ウイルス性を有する有機系の生理活性物質120としては、第4級アンモニウム塩系化合物、第4級ホスホニウム塩系化合物、ピリジン系化合物、ピリチオン系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物、有機ヨード系化合物、イソチアゾリン系化合物、およびアニオン系化合物、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0030】
本発明においては、上記有機系の生理活性物質と比較して、安全性、効果の持続性、耐熱性等の点で優れているとの理由から、金属イオン(例えば、銀イオン、銅イオンおよび亜鉛イオン、ならびにそれらの組み合わせ)を含む化合物であることが好ましい。抗菌または抗ウイルス性を有する生理活性物質120のうち、これらの金属イオンを含む化合物の例としては、銀イオン担持ゼオライトが挙げられる。生理活性物質120が銀イオン担持ゼオライトである場合、得られるフィルムの透明性を高めることができる。銀イオン担持ゼオライトは、例えば、株式会社シナネンゼオミックから「ゼオミック」の商品名で市販されている。
【0031】
本発明のフィルム100に含まれ得る生理活性物質120の含有量は、特に限定されないが、例えば第1のスチレン系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、好ましくは0.5質量部~10質量部、より好ましくは2質量部~4質量部である。生理活性物質の含有量が0.5質量部を下回ると、得られるフィルムが十分な抗菌または抗ウイルス性を発揮できないことがある。生理活性物質の含有量が10質量部を上回ると、フィルム中に含まれる生理活性物質が過剰量となる結果、得られるフィルムを被貼着材に貼着した際に生理活性物質が容易に離脱する、フィルム自体の透明性が損なわれる、フィルム自体の物性が変化してその柔軟性が損なわれる等の懸念を生じることがある。
【0032】
本発明のフィルム100はまた、上記生理活性物質および第1のスチレン系熱可塑性エラストマー以外に他のエラストマーおよび/または添加剤を含有していてもよい。
【0033】
他のエラストマーの例としては、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、および1,2-ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。なお、環境保護およびリサイクル可能な製品を提供するという観点から見れば、本発明のフィルムにおいては、上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマー以外に、このような他のエラストマーを含んでいないか、あるいは含まれているとしても僅かな量であることが好ましい。
【0034】
添加剤の例としては、特に限定されないが、紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤および/またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤);帯電防止剤(例えば、アニオン系活性剤、カチオン系活性剤、非イオン系活性剤、および/または両性活性剤);透明化剤(例えば、カルボン酸金属塩、ソルビトール類、および/またはリン酸エステル金属塩類);滑剤(例えば、炭化水素系滑剤、脂肪酸系滑剤、高級アルコール系滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、金属石ケン系滑剤、および/またはエステル系滑剤);難燃剤(例えば、有機系難燃剤および/または無機系難燃剤);可塑剤(例えば、エポキシ化植物油、フタル酸エステル類、および/またはポリエステル系可塑剤);および着色剤(例えば、顔料および/または染料);ならびにそれらの組み合わせ;が挙げられる。本発明のフィルムに含有され得る上記添加剤の含有量は、特に限定されず、当業者によって任意の量が選択され得る。
【0035】
本発明のフィルム100は、十分な表面硬度を有していることが好ましい。そのためには、例えば、フィルム100のマトリックス成分として含有されている上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーが所定範囲内のショアA硬度を有していることが好ましい。具体的には、第1のスチレン系熱可塑性エラストマーでは、JIS K 6253-3:2012に準拠して測定したショアA硬度(S)が好ましくは0~90、より好ましくは0~50である。第1のスチレン系熱可塑性エラストマーがこのような範囲のショアA硬度を有していることにより、当該エラストマーを含有する本発明のフィルムは、被貼着材に対して適切な追従性および/または適度な粘着性(例えば、ベタつき感)を有し得る。
【0036】
本発明のフィルム100はまた、その表面自体が固有の粘着性を有していることが好ましい。これにより、後述する第2層(粘着層)が設けられていない場合でも、被貼着材に対してそれ自体の貼着が可能である。
【0037】
すなわち、本発明のフィルム100は、後述する実施例に記載の方法にしたがって測定された粘着力が所定の範囲を満たしていることが好ましい。具体的には、本発明のフィルム100は、25mm幅にカットしかつ測定面と反対側の面に伸長防止のための粘着テープ(例えば、セロハンテープ)を貼着して試験片を得た後、該測定面をステンレススチール板に0.06MPaの圧力でプレスし、次いでこの試験片を引張試験機により300mm/分の速度で該ステンレススチール板から剥がした際に、好ましくは0.01N/25mm~1.5N/25mm、より好ましくは0.08N/25mm~0.8N/25mm、さらにより好ましくは0.1N/25mm~0.5N/25mmの粘着力を有する。このような粘着力を有していることにより、本発明のフィルム100は被貼着材に対して貼着することが可能であり、その一方で当該被貼着材から容易に剥離することができる。
【0038】
本発明のフィルム100はまた、好ましくは50μm~500μm、より好ましくは80μm~400μm、さらにより好ましくは200μm~400μmの厚み(T)を有する。フィルムの厚みが50μmを下回ると、得られるフィルムのコシが失われ、フィルム表面同士が密着し易くなることがある。その結果、被貼着材へ貼り付ける際に皺を避けるために細心の注意が必要となり、作業性が低下することがある。フィルムの厚みが500μmを上回ると、得られるフィルム自体の柔軟性が損なわれ、被貼着材に対する追従性が低下することがある。
【0039】
本発明のフィルム100自体を製品として流通させる場合、周囲への所望でない貼着や塵埃によるフィルム表面の汚染を防止するために、紙のような紙製材料やポリエチレンテレフタレートのような樹脂材料で構成される剥離シートが両面に配置されていてもよい。剥離シートを構成する材料およびその厚みは特に限定されず、適切な材料および厚みが当業者によって選択され得る。
【0040】
本発明のフィルム100は、それ自体が適度な柔軟性を有し、被貼着材に対して適切な追従性および密着性を伴って貼着可能である。これにより、平面で構成される被貼着材に限らず、円柱や角材のような非平面を有する被貼着材に対しても十分な追従性および密着性を持って貼着可能である。さらに、その粘着力は比較的穏やかであるため、貼着した被貼着材から本発明のフィルム100を容易に剥離することも可能である。さらにその後の再度の貼着も可能である。
【0041】
貼着可能な被貼着材の材質の例としては、特に限定されないが、金属(例えば、当業者に公知の塗料、めっきおよび/または表面処理剤でコーティングまたは処理されていてもよい、スチール、ステンレススチール、銅、金、銀、およびチタン)、木材(例えば、当業者に公知の塗料および/または表面処理剤でコーティングまたは処理されていてもよい、製材、合板、集成材、単板積層材、ランバーコアボード、配向性ストランドボード、木質ボード、パーティクルボード、およびファイバーボード)、および合成樹脂(例えば、当業者に公知の塗料、めっきおよび/または表面処理剤でコーティングまたは処理されていてもよい、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂;ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、およびポリブチレンサクシネート)、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0042】
一方、本発明のフィルム100では、フィルム表面に存在する生理活性物質120により抗菌または抗ウイルス性を発揮することができる。また、このような生理活性物質120は、マトリックス成分110である第1のスチレン系熱可塑性エラストマー内に適度に閉じ込められていることから、容易に脱落することなく、さらにフィルム表面が擦れたり傷ついたりしても、内部の生理活性物質120が当該表面に現われることにより再び抗菌または抗ウイルス性を発揮できる。結果として、長期に亘ってその抗菌または抗ウイルス性を発揮することができる。
【0043】
本発明のフィルム100は、上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーおよび生理活性物質、ならびに必要に応じて他のエラストマーおよび/または添加剤を配合したエラストマー組成物を、例えばTダイ押出機を通じて押出すことにより得ることができる。押出に要する成形条件は特に限定されず、当業者によって適宜選択され得る。
【0044】
(2)抗菌または抗ウイルス性を有する積層体
図2は、本発明の抗菌または抗ウイルス性を有する積層体の一例を示す模式断面図である。
【0045】
本発明の積層体200は、第1層130と当該第1層130と接して配置された第2層140とを備える。
【0046】
第1層130は、上記抗菌または抗ウイルス性を有するフィルム100で構成されている。積層体200を構成し得る第1層130(フィルム100)の成分、表面硬度、厚み等は図1に示されるものと同様であるため、説明を省略する。
【0047】
第2層140は、例えば被貼着材に対して粘着性を有し、かつ第2のスチレン系熱可塑性エラストマーを含有する。
【0048】
第2層140に含まれる第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの例は、上記図1に示すフィルム100に含まれる第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと同様である。第2層140に含まれる第2のスチレン系熱可塑性エラストマーの種類は、第1層130でマトリックス成分110として含まれる第1のスチレン系熱可塑性エラストマーと同一のものであってもよく、互いに異なるものであってもよい。
【0049】
第2層140はまた、上記第2の熱可塑性スチレン系熱可塑性エラストマー以外に、上記フィルム100(第1層130)について記載したような他のエラストマーおよび/または添加剤を含有していてもよい。他のエラストマーおよび/または添加剤の含有量は特に限定されず、第2層140中の第2のスチレン系熱可塑性エラストマーによる粘着性を阻害しない程度において適切な量が当業者によって選択され得る。
【0050】
本発明の積層体200において、第1層130および第2層140はそれぞれ独立して適度な表面硬度を有していることが好ましい。そのためには、例えば、積層体200の第1層130に含有されている上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマー、および第2層140に含有されている上記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーがそれぞれ所定範囲内のショアA硬度を有していることが好ましい。
【0051】
具体的には、第1層130に含まれる第1のスチレン系熱可塑性エラストマーにおけるJIS K 6253-3:2012に準拠して測定したショアA硬度(S)は好ましくは0~90、より好ましくは20~50である。また、第2層140に含まれる第2のスチレン系熱可塑性エラストマーにおけるJIS K 6253-3:2012に準拠して測定したショアA硬度(S)は好ましくは0~90、より好ましくは0~50、さらにより好ましくは0~10である。第1層130に含まれる第1のスチレン系熱可塑性エラストマー、および第2層140に含まれる第1のスチレン系熱可塑性エラストマーがそれぞれ独立してこのような範囲のショアA硬度(S)および(S)を有していることにより、本発明の積層体は被貼着材に対して優れた追従性および/または粘着性(例えば、ベタつき)を有し得る。
【0052】
ここで、本発明の積層体200においては、第1層130に含まれる上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーのショアA硬度(S)が第2層140に含まれる上記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーのショアA硬度(S)よりも大きくなるように調節されていることが好ましい。また、その場合の第1層130に含まれる上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーのショアA硬度(S)と第2層140に含まれる上記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーのショアA硬度(S)との差(S-S)は、好ましくは5~90、より好ましくは30~40である。積層体200における第1層130に含まれる上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーのショアA硬度(S)と第2層140に含まれる上記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーのショアA硬度(S)とがこのような関係を満たしていることにより、本発明の積層体200は、第2層140が位置する側を被貼着材に貼着した際、上記図1に示すフィルム100単独で構成される場合と比較して、例えば、第2層140の外側面では被貼着材に対する追従性を維持しながらも、第1層130の外側面では直接手が触れた際にベタつきをほとんど感じることのない状態を得ることができる。すなわち、例えば、角部を有する被貼着材の当該角部に貼着しても、当該被貼着材と積層体200(第2層140)との間の所望でない空隙の形成が一層防止または低減される一方で、積層体200(第1層130)に触れても不快なベタつきがなく、適度なグリップ感のある掴み心地を得ることができる。
【0053】
本発明の積層体200において、第2層140の露出面(第2層140が第1層130と接触する面と反対側の面)の粘着力は、当該第2層140の被貼着材への貼着を容易にするために、第1層130の露出面(第1層130が第2層140と接触する面と反対側の面)の粘着力よりも高められていることが好ましい。
【0054】
すなわち、本発明の積層体200の第2層140は、後述する実施例に記載の方法にしたがって測定された粘着力が所定の範囲を満たしていることが好ましい。具体的には、本発明の積層体200を25mm幅にカットしかつ第2層140が配置された測定面と反対側の面に伸長防止のための粘着テープ(例えば、セロハンテープ)を貼着して試験片を得た後、当該測定面をステンレススチール板に0.06MPaの圧力でプレスし、次いでこの試験片を引張試験機により300mm/分の速度で該ステンレススチール板から剥がした際に、好ましくは0.01N/25mm以上、より好ましくは0.4N/25mm~0.8N/25mmの粘着力を有する。第2層140がこのような粘着力を有していることにより、本発明の積層体200は、図1に示すフィルム100単独を被貼着材に貼着する場合と比較して、より容易に被貼着材に貼着可能であり、その一方で当該被貼着材から容易に剥離することができる。
【0055】
本発明の積層体200において、第2層140は、好ましくは1μm~100μm、より好ましくは5μm~50μmの厚み(T)を有する。また、第1層130の厚み(T)と第2層140の厚み(T)との関係において、第1層130の厚み(T)は第2層140の厚み(T)の好ましくは0.1倍~50倍、より好ましくは1倍~30倍、さらにより好ましくは9倍~15倍となるように設計されていることが好ましい。第2層140の厚み(T2)、および/または第1層130の厚み(T)と第2層140の厚み(T)とがこのような関係を満たしていることにより、硬度の異なる第1層130と第2層140とを積層した際の成形収縮率の差に起因して発生する積層体の所望でないカールの発生を抑制することができる。
【0056】
さらに、本発明の積層体200において、第1層130の厚み(T)と第2層140の厚み(T)との合計は好ましくは50μm~500μm、より好ましくは80μm~400μm、さらにより好ましくは200μm~300μmである。これらの厚みの合計(T+T)が50μmを下回ると、得られる積層体のコシが失われ、積層体を構成する層同士が密着し易くなることがある。その結果、被貼着材へ貼り付ける際に皺を避けるため細心の注意が必要となり、作業性が低下することがある。これらの厚みの合計(T+T)が500μmを上回ると、得られる積層体自体の柔軟性が損なわれ、被貼着材に対する追従性が低下することがある。
【0057】
本発明の積層体200はまた、周囲への所望でない貼着や塵埃による積層体表面の汚染を防止するために、紙のような紙製材料やポリエチレンテレフタレートのような樹脂材料で構成される剥離シートが両面に配置されていてもよい。剥離シートを構成する材料およびその厚みは特に限定されず、適切な材料および厚みが当業者によって選択され得る。
【0058】
本発明の積層体200は、それ自体が適度な柔軟性を有し、例えば上述したような材質で構成される被貼着材に対して貼着可能である。これにより、平面で構成される被貼着材に限らず、円柱や角材のような非平面を有する被貼着材に対しても十分な追従性および密着性を持って貼着可能である。さらに、その粘着力は比較的穏やかであるため、貼着した被貼着材から本発明の積層体200を容易に剥離することも可能である。さらにその後の再度の貼着も可能である。
【0059】
一方、本発明の積層体200では、第1層130の表面に存在する生理活性物質120により抗菌または抗ウイルス性を発揮することができる。また、このような生理活性物質120は、マトリックス成分110である第1のスチレン系熱可塑性エラストマー内に適度に閉じ込められていることから、容易に脱落することなく、さらに積層体200の第1層130の表面が擦れたり傷ついたとしても、内部の生理活性物質120が当該表面に現われることにより再び抗菌または抗ウイルス性を発揮できる。結果として、長期に亘ってその抗菌または抗ウイルス性を発揮することができる。
【0060】
本発明の積層体200は、上記第1のスチレン系熱可塑性エラストマーおよび生理活性物質、ならびに必要に応じて他のエラストマーおよび/または添加剤を配合した第1のエラストマー組成物と、上記第2のスチレン系熱可塑性エラストマーおよび必要に応じて他のエラストマーおよび/または添加剤を配合した第2のエラストマー組成物とを、例えばタンデム型押出機や共押出機を通じて押出しすることによっても得ることができる。押出に要する成形条件は特に限定されず、当業者によって適宜選択され得る。
【0061】
(3)身体接触性部材
本発明の身体接触性部材は、被貼着材上に、図1に示すフィルム100または図2に示す積層体200が配置されることにより構成されている。なお、図2に示す積層体200が配置される場合には、積層体200を構成する第2層140が該被貼着材と接触するように配置される。被貼着材への貼着に際し、図1に示すフィルム100または図2に示す積層体200はいずれも被貼着材の形状やサイズに応じて所定の大きさおよび形状に切断されてもよい。
【0062】
本明細書中に用いられる用語「身体接触性部材」とは、使用の際にヒトの身体の一部(例えば、手および/または指)の接触を必要とする部材を指して言う。身体接触性部材は、例えば上述のような材質から構成されている被貼着材に、図1に示すフィルム100または図2に示す積層体200直接貼着したものである。
【0063】
このようにして得られる身体接触性部材の例としては、取手・把持部材(例えば、ドアノブ、車椅子の車輪の掴み部分、吊輪、各種レバー)、手摺(例えば、ドア手摺、階段用手摺、廊下用手摺、介護用手摺、リハビリ用歩行補助手摺を包含する)、窓枠などの建築用部品;家具;家電部品およびその筐体;事務用品;玩具構成部品;各種操作ボタン(例えば、エレベータ操作ボタン、非常用ボタン、自動販売機ボタン);車両用内装材(例えば、インストルメントパネル、コンソールパネル、ステアリング、シフトノブ、シフトレバー、ウインカーレバー、ワイパーレバー、ドアパネル、各種操作スイッチ等)が挙げられる。
【0064】
身体接触性部材は、使用の結果、その表面が損傷および/または汚れた場合には、予め配置されていたフィルムまたは積層体を新たなものに置き換えることも可能である。また、使用状況に応じて、より使用し易い位置にフィルムまたは積層体を貼り直すこともできる。
【実施例0065】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
実施例および比較例で作製したフィルムまたは積層体について以下の評価を行った。
【0067】
(抗菌性の評価)
実施例および比較例で作製したフィルムまたは積層体の抗菌性について、JIS Z 2801:2010を参照して以下の方法により評価した。
【0068】
まず、実施例および比較例で作製したフィルムまたは積層体を50mm×50mmのサイズにカットして試験片を得た。一方、5mLの普通ブイヨン培地(栄研化学株式会社製)で大腸菌(Escherichia coli NBRC3972)を27℃で一晩振盪培養した後、終濃度で1/500濃度の普通ブイヨン培地を含む滅菌水で希釈して菌懸濁液を得た。この菌懸濁液0.4mLをプラスチック容器内に配置した試験片(なお、積層体については粘着層である第2層をプラスチック容器に接触するように配置し、生理活性物質を含む第1層が上方を指向するように配置した)上に滴下し、その上から40mm×40mmのポリエチレンシートを被せて30℃にて静置した。このとき、試験片とポリエチレンシートとの間には互いの粘着力により両者が密着した部分があった。24時間後に試験片上の菌懸濁液を4.5mLのSCDLP寒天培地(日本製薬株式会社製ダイゴ)中に回収し、10倍ずつの5段階希釈を行い、その後得られた希釈菌懸濁液1mL中の生菌数を測定した。
【0069】
なお、生菌数の測定については、衛生試験法・注解(2005)「1.2.1.1細菌一般試験法,3)菌数測定,(1)混釈平板培養法(p.59)」を参考にして行った。ただし、微生物の培養には、SCDLP寒天培地(日本製薬株式会社製ダイゴ)を用い、37℃で24時間培養した。得られた生菌数の対数値(A)と、生理活性物質を含有させることなく作製した積層体またはフィルムを用いたこと以外は上記と同様にして処理した試験片(無加工試験片)における生菌数の対数値(U)とを用いて、抗菌活性値(R=U-A)を算出した。また、抗菌活性値(R)が2.0以上である場合に抗菌活性があると判断した。
【0070】
(抗ウイルス性の評価)
実施例および比較例で作製したフィルムまたは積層体の抗ウイルス性について、ISO 21702:2019を参照して以下の方法により評価した。
【0071】
まず、実施例および比較例で作製したフィルムまたは積層体を50mm×50mmのサイズにカットした試験片を99%エタノールで洗浄した。次いで、A型インフルエンザウイルス(H3N2)を用いて調製したウイルス懸濁液0.4mLを接種し、40mm×40mmのポリエチレンシートを被せた後、25℃かつ90%RH以上にて24時間培養した。その後、試験片から培養後のウイルス懸濁液を回収し、10倍希釈系列を作成してプラーク測定法によるウイルス感染価を測定した。得られたウイルス感染価(PFU/cm)の常用対数の平均値(A)と、生理活性物質を含有させることなく作製した積層体またはフィルムを用いたこと以外は上記と同様にして処理した試験片(無加工試験片)におけるウイルス感染価(PFU/cm)の常用対数の平均値(U)とを用いて、抗ウイルス活性値(R=U-A)を算出した。なお、抗ウイルス活性値(R)が2.0以上である場合に抗ウイルス効果があると判断した。
【0072】
(ショアA硬度)
実施例および比較例で使用した各スチレン系熱可塑性エラストマーについて、デュロメータ(西東京精密株式会社製WESTOP WR-104A)によりショアA硬度を測定した。
【0073】
具体的には、実施例および比較例で使用した各スチレン系熱可塑性エラストマーを単独で使用してなる400μmのフィルムを、ハンドローラーを使って空気層を挟み込まないようにして16枚重ね合わせることにより約6.4mmの厚みを有する試験体を作製し、この試験体についてデュロメータによりショアA硬度を測定した。
【0074】
(粘着力)
実施例および比較例で作製したフィルムまたは積層体について、各表面の粘着力を以下のようにして測定した。
【0075】
実施例および比較例で作製したフィルムまたは積層体で得られたフィルムまたは積層体を25mm幅にカットした。
【0076】
このうち、カットしたフィルムについては、測定面と反対側の面に伸長防止のためのセロハンテープを貼着して試験片Aを作製した後、測定面にステンレススチール製の平板(SUS板)を貼り付け、プレスロール(φ75mm,20rpm)を用いて0.06MPaの圧力でプレスすることにより試験片AとSUS板との積層サンプルaを得た。
【0077】
カットした積層体については、まず、第1層の露出面(第1層が第2層と接触する面と反対側の面)と反対側の第2層の露出面(第2層が第1層と接触する面と反対側の面)に伸長防止のためのセロハンテープを貼着して試験片Bを作製した後、測定面となる第1層の露出面にステンレススチール製の平板(SUS板)を貼り付け、プレスロール(φ75mm,20rpm)を用いて0.06MPaの圧力でプレスすることにより試験片BとSUS板との積層サンプルbを得た。
【0078】
他方、第2層の露出面(第2層が第1層と接触する面と反対側の面)と反対側の第1層の露出面(第1層が第2層と接触する面と反対側の面)に伸長防止のためのセロハンテープを貼着して試験片Bを作製した後、測定面となる第2層の露出面にステンレススチール製の平板(SUS板)を貼り付け、プレスロール(φ75mm,20rpm)を用いて0.06MPaの圧力でプレスすることにより試験片BとSUS板との積層サンプルbを得た。
【0079】
その後、引張試験機(株式会社今田製作所製SDT-203NB)を用いて各積層サンプルa、bおよびbから、試験片A、BおよびBを300mm/分の速度で剥離した際の剥離力を各試験片A、BおよびBの粘着力として測定した。
【0080】
(被貼着材への追従性)
実施例および比較例で作製したフィルムまたは積層体について、被貼着材への追従性を以下のようにして評価した。
【0081】
実施例および比較例で作製したフィルムまたは積層体で得られたフィルムまたは積層体を50mm幅にカットした試験片を得た。
【0082】
このうち、フィルムから得られた試験片については、剥離層を除いた状態で、机のステンレススチール製天板周りに位置する90°角部(被貼着材)に当該試験片の一方の面(測定面)を手で貼り付けた。積層体から得られた試験片については、剥離層を除いた状態で同一の被貼着材に当該試験片の第2層の露出面を手で貼り付けた。その後、被貼着材と試験片との間で当該試験片の追従性不良に伴って形成される空隙の有無およびその数を目視により観察し、以下の基準にしたがってパネラー7名の協議により決定した。
◎・・・被貼着材と試験片との間に空隙は形成されていなかった。
〇・・・被貼着材と試験片との間にわずかな空隙が形成されていたが、手で押さえると容易に消失する程度のものであった。
△・・・被貼着材と試験片との間にわずかな空隙が形成されており、手で押さえると一旦は消失するが、時間経過とともに再び空隙が形成された。
×・・・被貼着材と試験片との間に顕著な空隙が形成され、手で押さえても容易に消失しなかった。
【0083】
(露出面のベタつきの抑制)
実施例および比較例で作製したフィルムまたは積層体について、露出面のベタつきを以下のようにして評価した。
【0084】
実施例および比較例で作製したフィルムまたは積層体を100mm×100mmの大きさにカットした試験片を得た。
【0085】
このうち、フィルムから得られた試験片については、剥離層を除いた状態で、露出面に片手の人差し指、中指および薬指を一度に押し当てた。積層体から得られた試験片については、剥離層を除いた状態で当該試験片の第1層の露出面に片手の人差し指、中指および薬指を一度に押し当てた。その後、押し当てた指を試験片から引き剥がす際の不快感の有無をパネラー7名が個々に判断し、不快感がないと感じた者の人数を以下の基準で分類した。
◎・・・パネラーの6名~7名が不快感なく引き剥がすことができた。
〇・・・パネラーの3名~5名が不快感なく引き剥がすことができた。
△・・・パネラーの1名~2名が不快感なく引き剥がすことができた。
×・・・パネラーの誰もが(0名)不快感なく引き剥がすことができなかった。
【0086】
(カールの抑制)
実施例および比較例で作製したフィルムまたは積層体について、カールの形成有無を以下のようにして評価した。
【0087】
実施例および比較例で作製したフィルムまたは積層体で得られたフィルムまたは積層体について、押出機から得られた後1日以上放置したものを、25mm×50mmの大きさにカットした試験片を作製し、これを25℃にて塩化ビニル樹脂製の平坦なカッティングマット上に配置した。10分間以上経過した後、カッティングマット上に配置された試験片の両端が浮き上がりカールを生じていたか否かを目視により観察し、以下の基準にしたがってパネラー7名の協議により決定した、
◎・・・試験片にはカールが生じておらず、当該試験片のすべての端部がカッティングマットの平面に触れた状態が保持されていた。
〇・・・試験片が僅かにカールしており、当該試験片の端部の少なくとも1つがカッティングマットの平面から10mm未満の範囲で浮き上がっていた。
△・・・試験片が幾分カールしており、当該試験片に1周程度の巻きカールが形成されていた。
×・・・試験片が明らかにカールしており、当該試験片に2周以上の巻きカールが形成されていた。
【0088】
(実施例1:抗菌または抗ウイルス性を有するフィルム(E1)の作製および評価)
スチレン系熱可塑性エラストマー(クラレプラスチックス株式会社製アーネストンCJ101K1C-3F)100質量部と、銀イオン担持ゼオライト(株式会社シナネンゼオミック製ゼオミック)2質量部とを混合した樹脂組成物を、Tダイ押出機より押出樹脂温度250℃にて押出して、厚み300μmを有し、かつスチレン系熱可塑性エラストマーをマトリックス成分として、銀イオン担持ゼオライトは略均一に分散したフィルム(E1)を得た。さらに、得られたフィルム(E1)の両面には剥離層としてシリコーン系剥離剤で処理した2軸延伸PETフィルムをラミネートし、上記各評価を行うまでは剥離層を配置した状態を保持した。
【0089】
その後、得られたフィルム(E1)について、剥離層を除いた状態で上記各評価を行った。フィルム(E1)の使用材料を表1に示し、かつ得られた評価結果を表2に示す。
【0090】
(実施例2:抗菌または抗ウイルス性を有するフィルム(E2)の作製および評価)
スチレン系熱可塑性エラストマーとして、クラレプラスチックス株式会社製アーネストンCJ101K1C-3Fの代わりにクラレプラスチックス株式会社製アーネストンJS20N(100質量部)を用いかつ押出樹脂温度を230℃に変更したこと以外は実施例1と同様にしてフィルム(E2)を作製し、得られたフィルム(E2)の両面には剥離層としてシリコーン系剥離剤で処理した2軸延伸PETフィルムをラミネートした。その後、フィルム(E2)について、剥離層を除いた状態で上記各評価を行った。フィルム(E2)の使用材料を表1に示し、かつ得られた評価結果を表2に示す。
【0091】
(実施例3:抗菌または抗ウイルス性を有する積層体(E3)の作製および評価)
スチレン系熱可塑性エラストマー(クラレプラスチックス株式会社製アーネストンCJ101K1C-3F)100質量部と、銀イオン担持ゼオライト(株式会社シナネンゼオミック製ゼオミック)2質量部とを混合した樹脂組成物をTダイ押出機(第1段)より押出して第1層を形成し、一方、第2層として、スチレン系熱可塑性エラストマー(クラレプラスチックス株式会社製アーネストンJS20N)をTダイ押出機(第2段)を用い(第1段および第2段とも幅400mm,有効幅約250mm,単軸スクリューφ40mm)、第1段の押出樹脂温度を250℃、第2段の押出樹脂温度を230℃に設定して押出しすることにより、厚み270μmを有する第1層および厚み30μmを有する第2層で構成される積層体(E3)を得た。
【0092】
さらに、得られた積層体(E3)の両面には剥離層としてシリコーン系剥離剤で処理した2軸延伸PETフィルムをラミネートし、上記各評価を行うまでは剥離層を配置した状態を保持した。その後、得られた積層体(E3)について、剥離層を除いた状態で上記各評価を行った。積層体(E3)の使用材料を表1に示し、かつ得られた評価結果を表2に示す。
【0093】
(実施例4:抗菌または抗ウイルス性を有する積層体(E4)の作製および評価)
第1層の厚みが150μmであり、第2層の厚みが150μmであるように押出機を調整したこと以外は実施例3と同様にして2層で構成される積層体(E4)を得、その両面をシリコーン系剥離剤で処理した2軸延伸PETフィルムの剥離層でラミネートした。その後、得られた積層体(E4)について、剥離層を除いた状態で上記各評価を行った。積層体(E4)の使用材料を表1に示し、かつ得られた評価結果を表2に示す。
【0094】
(実施例5:抗菌または抗ウイルス性を有する積層体(E5)の作製および評価)
第1層の厚みが30μmであり、第2層の厚みが270μmであるように押出機を調整したこと以外は実施例3と同様にして2層で構成される積層体(E5)を得、その両面をシリコーン系剥離剤で処理した2軸延伸PETフィルムの剥離層でラミネートした。その後、得られた積層体(E5)について、剥離層を除いた状態で上記各評価を行った。積層体(E5)の使用材料を表1に示し、かつ得られた評価結果を表2に示す。
【0095】
(実施例6:抗菌または抗ウイルス性を有する積層体(E6)の作製および評価)
第1層のマトリックス成分を構成するスチレン系熱可塑性エラストマーをアロン化成株式会社製エラストマーAR AR-SC-30(第1段の押出樹脂温度180℃)に変更し、第2層のスチレン系熱可塑性エラストマーをアロン化成株式会社製エラストマーAR AR-SC-5(第2段の押出樹脂温度180℃)に変更したこと以外は実施例3と同様にして第2層で構成される積層体(E6)を得、その両面をシリコーン系剥離剤で処理した2軸延伸PETフィルムの剥離層でラミネートした。その後、得られた積層体(E6)について、剥離層を除いた状態で上記各評価を行った。積層体(E6)の使用材料を表1に示し、かつ得られた評価結果を表2に示す。
【0096】
(実施例7:抗菌または抗ウイルス性を有する積層体(E7)の作製および評価)
第1層の厚みが277μmであり、第2層の厚みが23μmであるように押出機を調整したこと以外は実施例3と同様にして第2層で構成される積層体(E7)を得、その両面をシリコーン系剥離剤で処理した2軸延伸PETフィルムの剥離層でラミネートした。その後、得られた積層体(E7)について、剥離層を除いた状態で上記各評価を行った。積層体(E7)の使用材料を表1に示し、かつ得られた評価結果を表2に示す。
【0097】
(実施例8:抗菌または抗ウイルス性を有する積層体(E8)の作製および評価)
第1層の厚みが500μmであり、第2層の厚みが20μmであるように押出機を調整したこと以外は実施例3と同様にして第2層で構成される積層体(E8)を得、その両面をシリコーン系剥離剤で処理した2軸延伸PETフィルムの剥離層でラミネートした。その後、得られた積層体(E8)について、剥離層を除いた状態で上記各評価を行った。積層体(E8)の使用材料を表1に示し、かつ得られた評価結果を表2に示す。
【0098】
(比較例1:フィルム(C1)の作製および評価)
スチレン系熱可塑性エラストマー(クラレプラスチックス株式会社製アーネストンJS20N)を、Tダイ押出機より押出樹脂温度230℃にて押出して、厚み300μmを有するフィルム(C1)を得た。さらに、得られたフィルム(C1)の両面には剥離層としてシリコーン系剥離剤で処理した2軸延伸PETフィルムをラミネートし、上記各評価を行うまでは剥離層を配置した状態を保持した。その後、得られたフィルム(C1)について、剥離層を除いた状態で上記各評価を行った。フィルム(C1)の使用材料を表1に示し、かつ得られた評価結果を表2に示す。
【0099】
(比較例2:抗菌または抗ウイルス性を有する積層体(C2)の作製および評価)
第1層のマトリクス成分を構成するスチレン系熱可塑性エラストマーをポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製、プライムポリプロ、フィルムグレード)に変更し、第1層の厚みを100μmに変更したこと以外は実施例3と同様にして第2層で構成される積層体(C2)を得、第2層のみの表面をシリコーン系剥離剤で処理した2軸延伸PETフィルムの剥離層でラミネートした。その後、得られた積層体(C2)について、剥離層を除いた状態で上記各評価を行った。積層体(C2)の使用材料を表1に示し、かつ得られた評価結果を表2に示す。
【0100】
(比較例3:抗菌または抗ウイルス性を有する積層体(C3)の作製および評価)
第1層のマトリクス成分を構成するスチレン系熱可塑性エラストマーを低密度ポリエチレン(住友化学株式会社製、スミカセン、押出ラミネートグレード)に変更し、第1層の厚みを100μmに変更したこと以外は実施例3と同様にして第2層で構成される積層体(C3)を得、第2層のみの表面をシリコーン系剥離剤で処理した2軸延伸PETフィルムの剥離層でラミネートした。その後、得られた積層体(C3)について、剥離層を除いた状態で上記各評価を行った。積層体(C3)の使用材料を表1に示し、かつ得られた評価結果を表2に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
表1に示すように、実施例1~8で得られたフィルム(E1)および(E2)、ならびに積層体(E3)~(E8)は、抗菌性および抗ウイルス性のいずれの効果も発揮でき、被貼着材への追従性にも優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、樹脂成形分野、金属加工分野、建築分野、電気・電子分野、食品分野、化粧品分野、医薬品分野などの各種技術分野で使用される部品や筐体、容器等の構成材料として有用である。
【符号の説明】
【0105】
100 抗菌または抗ウイルス性フィルム
110 マトリックス成分
120 生理活性物質
130 第1層
140 第2層(粘着層)
200 抗菌または抗ウイルス性を有する積層体
図1
図2