(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008158
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】合成パルプ、合成紙、及び合成パルプの製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 13/00 20060101AFI20240112BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20240112BHJP
D21H 15/02 20060101ALI20240112BHJP
D01D 5/08 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
D21H13/00
D21H11/18
D21H15/02
D01D5/08 C
D01D5/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109783
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 学
(72)【発明者】
【氏名】中村 健一
【テーマコード(参考)】
4L045
4L055
【Fターム(参考)】
4L045AA05
4L045AA06
4L045BA05
4L045BB12
4L045BB16
4L055AF15
4L055AF17
4L055AF46
4L055AG64
4L055AH33
4L055EA05
4L055EA08
4L055EA12
4L055EA16
4L055EA32
4L055FA14
4L055FA19
4L055GA37
(57)【要約】
【課題】耐熱性が高く、平滑性が良好であり、さらに比表面積が大きい合成紙の製造が可能な合成パルプを提供すること。
【解決手段】上記課題を解決する合成パルプは、融点が150℃以上である熱可塑性樹脂を主成分とし、かつ平均繊維径が20μm以上60μm以下であるミクロフィブリル繊維を含み、カナディアン標準濾水度が200ml以上740ml以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が150℃以上である熱可塑性樹脂を主成分とし、かつ平均繊維径が20μm以上60μm以下であるミクロフィブリル繊維を含み、
カナディアン標準濾水度が200ml以上740ml以下である、
合成パルプ。
【請求項2】
前記ミクロフィブリル繊維の平均繊維長が0.7mm以下である、
請求項1に記載の合成パルプ。
【請求項3】
前記ミクロフィブリル繊維の平均繊維径が25μm以上40μm以下である、
請求項1に記載の合成パルプ。
【請求項4】
カナディアン標準濾水度が350ml以上700ml以下である、
請求項1に記載の合成パルプ。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂はオレフィン系重合体を含む、
請求項1に記載の合成パルプ。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂の割合が90質量%以上である、
請求項1に記載の合成パルプ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の合成パルプを含有する合成紙であって、
平均孔径が1.9μm以下である、
合成紙。
【請求項8】
前記合成パルプの割合が、50質量%以上90質量%以下である、
請求項7に記載の合成紙。
【請求項9】
平均孔径が1.6μm以下である、
請求項7に記載の合成紙。
【請求項10】
最小孔径が1.5μm以下である、
請求項7に記載の合成紙。
【請求項11】
最大孔径が4.0μm以下である、
請求項7に記載の合成紙。
【請求項12】
紙通気度が3.0秒以上10秒以下である、
請求項7に記載の合成紙。
【請求項13】
繊維を叩解する工程を含み、
前記繊維は、
平均繊維長が0.05mm以上3mm以下であり、かつ平均繊維径が20μm以上80μm以下であり、融点が150℃以上の熱可塑性樹脂を主成分とする繊維である、
合成パルプの製造方法。
【請求項14】
前記繊維を叩解する工程の前に、
熱可塑性樹脂を主成分とする紡糸繊維を裁断して前記繊維とする工程をさらに含む、
請求項13に記載の合成パルプの製造方法。
【請求項15】
前記紡糸繊維を裁断する工程の前に、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物を溶融紡糸する工程を含む、
請求項14に記載の合成パルプの製造方法。
【請求項16】
前記紡糸繊維を形成する工程において、
スパンボンド法、またはメルトブロー法のいずれか一方を行う、
請求項15に記載の合成パルプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合成パルプ、合成紙、及び合成パルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンを主成分とする合成パルプ(以下、「ポリオレフィン系合成パルプ」とも称する)は世の中に広く流通し、電池用セパレーター、絶縁紙等の電気用紙、紙おむつ等の衛生材料、耐水ダンボール、耐水紙、ファイバーセメント板、ヒートシール紙等、様々な用途に広く使用されている。中でも、ポリエチレンを主成分とするポリエチレン合成パルプは保水性が高く、抄紙性にも優れている。
【0003】
これに対し、ポリエチレンより高融点の熱可塑性樹脂を主成分とする合成パルプは、耐熱性が高いものの、保水性が低く、抄紙性も低い。そのため、電池用セパレーター、ファイバーセメント板等といった用途に使用し難かった。
【0004】
ここで、ポリオレフィン系合成パルプの製造方法として、フラッシュ法と称される方法が知られている(例えば、特許文献1)。当該方法では、融点の低い脂肪族炭化水素と水とを含む溶媒にポリオレフィンを分散させ、高温で乳化ないし懸濁させる。そして、当該乳化状態もしくは縣濁状態の溶液を低圧域に噴出(フラッシュ)して、ポリオレフィンを繊維状に加工する。しかしながら当該方法で作製されるポリオレフィン系合成パルプは、カナディアン標準濾水度が高く、保水性が低かった。
【0005】
そこで、特許文献2には、フラッシュ紡糸して作製したポリプロピレンの繊維状物をさらに叩解してポリプロピレン合成パルプを得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭53-12604号公報
【特許文献2】特開平04-174708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、特許文献2で得られる合成パルプから合成紙を製造すると、耐熱性は高いものの、合成紙の平滑性が低く、比表面積が低いことが明らかとなった。
【0008】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐熱性が高く、平滑性が良好であり、さらに比表面積が大きい合成紙の製造が可能な合成パルプの提供を目的とする。また、当該合成パルプの製造方法、および当該合成パルプから得られる合成紙の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、以下の合成パルプを提供する。
[1]融点が150℃以上である熱可塑性樹脂を主成分とし、かつ平均繊維径が20μm以上60μm以下であるミクロフィブリル繊維を含み、カナディアン標準濾水度が200ml以上740ml以下である、合成パルプ。
[2]前記ミクロフィブリル繊維の平均繊維長が0.7mm以下である、[1]に記載の合成パルプ。
[3]前記ミクロフィブリル繊維の平均繊維径が25μm以上40μm以下である、[1]または[2]に記載の合成パルプ。
[4]カナディアン標準濾水度が350ml以上700ml以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の合成パルプ。
[5]前記熱可塑性樹脂はオレフィン系重合体を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の合成パルプ。
[6]前記熱可塑性樹脂の割合が90質量%以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の合成パルプ。
【0010】
本開示は、以下の合成紙を提供する。
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載の合成パルプを含有する合成紙であって、平均孔径が1.9μm以下である、合成紙。
[8]前記合成パルプの割合が、50質量%以上90質量%以下である、[7]に記載の合成紙。
[9]平均孔径が1.6μm以下である、[7]または[8]に記載の合成紙。
[10]最小孔径が1.5μm以下である、[7]~[9]のいずれかに記載の合成紙。
[11]最大孔径が4.0μm以下である、[7]~[10]のいずれかに記載の合成紙。
[12]紙通気度が3.0秒以上10秒以下である、[7]~[11]に記載の合成紙。
【0011】
本開示は、以下の合成パルプの製造方法を提供する。
[13]平均繊維長が0.05mm以上3mm以下であり、かつ平均繊維径が20μm以上80μm以下であり、融点が150℃以上の熱可塑性樹脂を主成分とする繊維を叩解する工程を含む、合成パルプの製造方法。
[14]前記繊維を叩解する工程の前に、前記熱可塑性樹脂または前記熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を溶融紡糸する工程をさらに含む、[13]に記載の合成パルプの製造方法。
[15]前記溶融紡糸する工程は、スパンボンド法、またはメルトブロー法によって紡糸繊維を形成する工程であり、前記溶融紡糸する工程と前記繊維を叩解する工程の間に、前記紡糸繊維を裁断し、前記繊維とする工程を含み、前記繊維を叩解する工程では、前記裁断する工程で得られた繊維を叩解する、[14]に記載の合成パルプの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示の合成パルプによれば、耐熱性が高く、平滑性が良好であり、さらに比表面積が大きい合成紙の製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例2で作製した合成紙を電子顕微鏡で観察したときの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本開示の実施形態について説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、実施形態の範囲を制限するものではない。
【0015】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
本開示において、「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、1つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0017】
本開示において、各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。本開示において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0018】
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。本開示において含有成分量を示す「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0019】
本開示において、「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
【0020】
本開示における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。
【0021】
1.合成パルプについて
本開示は、融点が150℃以上である熱可塑性樹脂を主成分とする合成パルプに関する。上述のように、従来公知の融点が150℃以上の熱可塑性樹脂を主成分とする合成パルプは、保水性が低く、さらに合成紙としたときに、十分な平滑性や高い比表面積が得られないという課題があった。本発明者らが検討したところ、従来の方法で得られる合成紙の平滑性等が低い要因としては、原料となる合成パルプのカナディアン標準濾水度が高いことが考えられる。なお、合成紙の比表面積が小さいと、当該合成紙をフィルター等に使用した場合には、フィルター性能が十分に得られ難い。また、合成紙を電池用セパレーターに用いた場合には、電池の性能を十分に高め難い。
【0022】
これに対し、本開示の合成パルプは、後述の特定の製造方法によって得られる、ミクロフィブリル繊維の集合体である。より具体的には、平均繊維径が20μm以上60μm以下であるミクロフィブリル繊維を含む、カナディアン標準濾水度が200ml以上740ml以下である合成パルプである。カナディアン標準濾水度は、合成パルプ中の各繊維の状態と密接に関係する物性であり、合成パルプ中の各繊維の分岐が少なかったり、それぞれの絡み合いが少ないと、カナディアン標準濾水度が低くなる。これに対し、本開示の合成パルプでは、特定の繊維径を有するミクロフィブリル繊維が適度に分岐していたり、ミクロフィブリル繊維どうしが絡み合ったり交差したりしているため、カナディアン標準濾水度が上記範囲となっている。そして、このような合成パルプを用いると、合成紙としたときに、平滑性が良好になったり、比表面積が大きくなったりする。
【0023】
以下、本開示の合成パルプについて、詳しく説明する。
上述のように、本開示の合成パルプは、ミクロフィブリル繊維の集合体であるが、ミクロフィブリル繊維が集合した、成形前の状態であってもよく、抄紙等によって、シート状に成形された状態であってもよい。
【0024】
ミクロフィブリル繊維は、1本の繊維が多数に枝分かれた分岐構造を有する。分岐構造は光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察して確認できる。分岐構造を有するミクロフィブリル繊維は、多数集合して合成パルプを形成したときに、特定方向に整列せず、分岐した繊維同士が互いに絡み合ったり、分岐部分が交差したりしやすい。そのため、合成紙としたときに、良好な平滑性と高い比表面積とを両立できると考えられる。
【0025】
ここで、ミクロフィブリル繊維(以下、「繊維」とも称する)の平均繊維径は、25μm以上60μm以下であればよいが、合成紙としたときに、良好な平滑性および高い比表面積を実現する観点で、25μm以上40μm以下が好ましく、25μm以上38μm以下がより好ましい。合成パルプの平均繊維径は、合成パルプを製造する際の、ディスク型リファイナーによる処理等によって、所望の範囲に調整できる。また、合成パルプの製造時に、繊維を裁断しても調整できる。なお、本明細書における、「平均繊維径」とは、複数の繊維の直径の平均値である。繊維の直径は、合成パルプの濃度が0.02質量%となるように水に分散させて、フィンランド国、バルメットオートメーション社製自動繊維測定機(製品名:ValmetFS5)で合成パルプを構成する繊維を1本1本観察することで測定できる。本開示では、3,000本程度の繊維の直径の平均値を、平均繊維径としてもよい。
【0026】
一方、上記繊維の平均繊維長は特に制限されないが、合成紙としたときに良好な平滑性および高い比表面積を実現する観点で、0.7mm以下が好ましく、0.65mm以下がより好ましい。下限値は特に制限されないが、例えば、0.05mmであってもよい。上記繊維長とは、1本の繊維の一端から他端までの距離であり、繊維が枝分かれしている場合には、当該距離が最長になるように一端および他端を設定したときの距離である。当該繊維長は、合成パルプを製造する際の、ディスク型リファイナーによる処理等によって調整できる。また、合成パルプの製造時に、繊維を裁断することによっても調整できる。
【0027】
平均繊維長は以下の手順で求めることができる。合成パルプを構成する繊維の繊維長を0.05mmごとに分級する。その後、それぞれの級(長さ)に含まれる繊維の実測平均繊維長と、それぞれの級に含まれる繊維の本数を測定する。測定は、12000~13000本の繊維について行えばよい。その後、上記測定結果から、以下の式により、それぞれの級の数平均繊維長Ln(mm)を求める。
Ln=ΣL/N
L:1つの級に含まれる繊維の実測平均繊維長(mm)
N:1つの級に含まれる繊維の本数
その後、以下の式により、合成パルプを構成する繊維の平均繊維長(mm)を求める。
平均繊維長=Σ(Nn×Ln3)/Σ(Nn×Ln2)
Nn:それぞれの級に含まれる繊維の本数
なお、上記実測平均繊維長は、合成パルプの濃度が0.02質量%になるように合成パルプを水に分散し、フィンランド国、バルメットオートメーション社製自動繊維測定機(製品名:ValmetFS5)で合成パルプを構成する繊維の一本一本の繊維の長さを測定する。そして、これらの値を上述の式に当てはめ、求めることができる。当該測定機では、キャピラリー中を流れる際の繊維にキセノンランプ光を照射してCCD(電荷結合素子)センサーで映像信号を採取し、画像解析する。
【0028】
一方、合成パルプのカナディアン標準濾水度(カナディアン・スタンダード・フリーネス、以下「CSF」あるいは単に「濾水度」とも称する)は、200ml以上740ml以下であればよい。合成紙とした際に、さらに平滑性を良好にしたり比表面積を大きくしたりするとの観点で、350ml以上700ml以下が好ましく、380ml以上500ml以下がより好ましい。上記CSFは、JIS P8121-2に準じた方法で測定される。具体的には、絶乾重量24gの合成パルプを量り取り、2000mlの水を加えて濃度1.2%程度とする。そして、JIS P8220-1で規定される離解機にかけて30000回転(10分間)まで離解させる。完全に離解した繊維を、濃度が0.3質量%程度となるように水で希釈し、水温を20.0±0.5℃とする。離解したパルプスラリーを1000ml量り取り、カナダ標準濾水度試験器を用いて、側管から出た排水量を読み取る。
【0029】
ここで、上記繊維は、融点が150℃以上である熱可塑性樹脂を主成分とする。本明細書における「主成分」とは、総質量に対する、当該成分の割合が50質量%以上であることを意味する。すなわち、本開示の合成パルプでは、繊維の総質量に対して、融点が150℃以上である熱可塑性樹脂の割合が50質量%以上である。ただし、繊維の総質量に対する、融点が150℃以上である熱可塑性樹脂の割合は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上がさらに好ましい。
【0030】
上記融点が150℃以上である熱可塑性樹脂の種類は特に制限されず、その例には、ポリアミド樹脂;ポリエステル系樹脂;オレフィン系重合体;ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体;ポリアクリロニトリル;ポリカーボネート;ポリスチレン;アイオノマー等が含まれる。合成パルプは、融点が150℃以上の熱可塑性樹脂を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。以下、これらの樹脂について説明する。
【0031】
(ポリアミド樹脂)
ポリアミド樹脂は、アミド結合を2つ以上有する樹脂であり、例えばジアミンおよびジカルボン酸を重合させて得られる重合体や、ε-カプロラクタム等の環状アミドの開環重合体である。ただし、ポリアミド樹脂は、ジアミンとジカルボン酸との重合体を含むことが好ましく、ポリアミド樹脂中のジアミンとジカルボン酸との重合体の含有割合は、ポリアミド樹脂100質量%に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0032】
ポリアミド樹脂の種類は特に制限されないが、脂肪族モノマーに由来する、環状構造を有さない構造単位を少なくとも含むことが好ましい。ただし、芳香環や、脂環式構造を含んでいてもよく、特に脂肪族モノマー由来の構造単位、および芳香族モノマー由来の構造単位の両方を含むことが特に好ましい。
【0033】
ここで、ポリアミド樹脂が、ジアミンおよびジカルボン酸を重合させて得られる重合体である場合、ジカルボン酸に由来する構造単位のうち、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位の含有量は、5モル%以上70モル%以下が好ましく、15モル%以上60モル%以下がより好ましく、25モル%以上40モル%以下がさらに好ましい。ジカルボン酸に由来する構造単位のうち、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位の含有量が上述の範囲であると、合成パルプの耐熱性が良好になりやすい。
【0034】
一方、ポリアミド樹脂におけるジカルボン酸に由来する構造単位のうち、(環状構造を有さない)脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位の含有量は、20モル%以上80モル%以下が好ましく、30モル%以上70モル%以下がより好ましく、40モル%以上60モル%以下がさらに好ましい。脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位が上述の範囲であると、合成パルプを製造しやすくなる。
【0035】
また、ポリアミド樹脂におけるジアミンに由来する構造単位のうち、脂肪族ジアミンに由来する構造単位の含有量は、70モル%以上100モル%以下が好ましく、90モル%以上100モル%以下がより好ましく、99モル%以上100モル%以下がさらに好ましく、100モル%が特に好ましい。
【0036】
上記ジカルボン酸の例には、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸が含まれる。ポリアミド樹脂は、1種のジカルボン酸由来の構造単位のみを含んでいてもよく、2種以上のジカルボン酸由来の構造を含んでいてもよい。さらに、ジカルボン酸がトランス体およびシス体を有する場合には、これらのいずれか一方由来の構造のみを含んでいてもよく、両方由来の構造を任意の比率で含んでいてもよい。
【0037】
芳香族ジカルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、フランジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の無置換または種々の置換基で置換された炭素数8~20の芳香族ジカルボン酸が含まれる。置換基の例には、炭素数1~6のアルキル基;炭素数6~12のアリール基;炭素数7~20のアリールアルキル基;クロロ基やブロモ基等のハロゲン基;炭素数3~10のアルキルシリル基;スルホン酸基およびその塩(例えばナトリウム塩)等が含まれる。ジカルボン酸は、反応性の観点で、置換基を有さないことが好ましく、テレフタル酸およびイソフタル酸がより好ましい。
【0038】
脂肪族ジカルボン酸の例には、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等の炭素数3~20の直鎖又は分岐状飽和脂肪族ジカルボン酸が含まれる。これらは、無置換であってもよく、置換基を有していてもよい。耐熱性の高い合成パルプを得る観点で、炭素数3~8の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、炭素数3~6の脂肪族ジカルボン酸がより好ましく、アジピン酸がさらに好ましい。
【0039】
脂環式ジカルボン酸の例には、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸等の脂環式構造部分の炭素数が3~10である脂環式ジカルボン酸が含まれる。これらの中でも、脂環式構造部分の炭素数が5~10である脂環式ジカルボン酸が好ましい。また、脂環式ジカルボン酸は、無置換であってもよく、置換基を有していてもよい。置換基の例には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基が含まれる。
【0040】
ポリアミド樹脂は、例えば、少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位および少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位を含むポリアミド樹脂であってもよい。また、1種のみの芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位および1種のみの非脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位を含むポリアミド樹脂であってもよい。2種の芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位を含み、かつ脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位を含まないポリアミド樹脂であってもよい。
【0041】
より具体的には、ポリアミド樹脂が、テレフタル酸由来の構造と、イソフタル酸由来の構造と、炭素数3~6の非環式の脂肪族ジカルボン酸由来の構造とを含んでいてもよい。また、ポリアミド樹脂が、テレフタル酸またはイソフタル酸由来の構造と、炭素数3~6の非環式の脂肪族ジカルボン酸(好ましくはアジピン酸)由来の構造とを含んでいてもよい。さらにポリアミド樹脂が、テレフタル酸由来の構造およびイソフタル酸由来の構造を含み、脂肪族ジカルボン酸由来の構造を含まなくてもよい。
【0042】
テレフタル酸由来の構造単位、イソフタル酸由来の構造単位、および炭素数3~6の脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位の合計含有量(モル)は、ジカルボン酸由来の構造単位量の総量(モル)に対して、95モル%以上100モル%以下が好ましい。
【0043】
ジアミンの例には、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン等が含まれる。ポリアミド樹脂は、1種のジアミン由来の構造単位のみを含んでいてもよく、2種以上のジアミン由来の構造を含んでいてもよい。
【0044】
脂肪族ジアミンの炭素数は、合成パルプや、これから得られる合成紙の耐熱性を高めるとの観点で、4以上12以下が好ましい。炭素数4以上12以下の脂肪族ジアミンの例には、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン等の直鎖状の脂肪族ジアミン;2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2-メチル-1,6-ジアミノヘキサン、2-メチル-1,7-ジアミノヘプタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン、2-メチル-1,9-ジアミノノナン、2-メチル-1,10-ジアミノデカン等の分岐状の脂肪族ジアミン;が含まれる。脂肪族ジアミンの炭素数は、合成パルプの耐熱性を高める観点で、4以上8以下がより好ましく、4以上6以下がさらに好ましく、特に1,6-ジアミノヘキサンが好ましい。
【0045】
また、脂環式ジアミンの例には、炭素数が3以上10以下のジアミンが含まれる。具体例には、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン等が含まれる。
【0046】
芳香族ジアミンの例には、炭素数6以上20以下の芳香族ジアミンが含まれる。炭素数6以上20以下の芳香族ジアミンの例には、ジアミノベンゼン、ジアミノナフタレン、ジアミノビフェニル、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等が含まれる。
【0047】
ポリアミド樹脂は特に、炭素数4以上6以下の直鎖状の脂肪族ジアミン由来の構造単位を含むことが好ましい。炭素数4以上6以下の直鎖状の脂肪族ジアミンの含有量(モル)は、合成パルプの耐熱性を高める観点で、ポリアミド樹脂中のジアミン由来の構造単位の合計含有量(モル)は、に対して、90モル%以上100モル%以下が好ましい。
【0048】
以上のように、ポリアミド樹脂は、合成パルプの耐熱性をより向上させる観点から、炭素数4以上12以下の脂肪族ジアミン由来の構造単位、および芳香族ジカルボン酸由来の構造単位を含むことが好ましく、炭素数4以上6以下の脂肪族ジアミン由来の構造単位、および炭素数8以上20以下の芳香族ジカルボン酸由来の構造単位を含むことがより好ましく、炭素数4以上6以下の脂肪族ジアミン由来の構造単位、ならびにテレフタル酸由来の構造単位およびイソフタル酸由来の構造単位のうちの少なくとも一方を含むことがさらに好ましい。
【0049】
上述のように、ポリアミド樹脂は環状アミドに由来する構造単位を含んでいてもよい。環状アミドの例には、α-ラクタム、β-ラクタム、γ-ラクタム、δ-ラクタム、ε-カプロラクタム、ラウロラクタム等が含まれる。合成パルプの製造しやすさの観点で、ポリアミド樹脂中の、環状アミドに由来する構造単位の含有量は全構造単位に対して、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましい。
【0050】
ポリアミド樹脂はモノカルボン酸に由来する構造単位を含んでいてもよい。モノカルボン酸は、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限されず、その例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物等が含まれる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格等の観点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、および安息香酸が好ましい。モノカルボン酸は末端封止剤として用いられてもよい。ポリアミド樹脂では、合成パルプの製造しやすさの観点で、モノカルボン酸に由来する構造単位の含有量は、全構造単位に対して、0.01モル%~10モル%が好ましく、0.1モル%~5.0モル%がより好ましい。
【0051】
ここで、ポリアミド樹脂がジアミンおよびジカルボン酸を重合させて得られる樹脂である場合、ポリアミド樹脂中のジカルボン酸に由来する構造単位のモル数とジアミンに由来する構造単位のモル数とがほぼ等しいことが好ましい。例えば、ジカルボン酸に由来する構造単位のモル数:ジアミンに由来する構造単位のモル数は、0.5:1.5~1.5:0.5が好ましく、0.8:1.2~1.2:0.8がより好ましく、0.9:1.1~1.1:0.9がさらに好ましい。
【0052】
また、ポリアミド樹脂は、ジカルボン酸またはジアミン由来の構造単位以外の構造単位を含んでいてもよいが、ジカルボン酸に由来する構造単位のモル数とジアミンに由来する構造単位のモル数との合計の含有量は、ポリアミド樹脂の全構造単位に対して、60モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、99モル%以上が特に好ましい。
【0053】
ここで、ポリアミド樹脂の融点は150℃以上であればよい。ポリアミド樹脂は、融点を複数有することがあり、この場合、ポリアミド樹脂の最も高い融点は300℃以上350℃以下であってもよい。この場合、融点は305℃以上340℃以下が好ましく、310℃以上330℃以下がより好ましい。ポリアミド樹脂の最も高い融点は、以下のようにして求められる。
【0054】
ポリアミド樹脂10mgを試料とし、当該試料を(i)100℃/分で340℃まで昇温して340℃で5分間保持した後、(ii)10℃/分で30℃まで降温し、再度(iii)10℃/分で340℃まで昇温させる。2回目の昇温過程(iii)で観測される示差走査熱量曲線(DSC曲線)における吸熱ピーク温度のうち、最も高い吸熱ピーク温度を、ポリアミド樹脂の最も高い融点とする。なお、2回目の昇温過程(iii)の示差走査熱量曲線(DSC曲線)で観測される吸熱ピークは、単一であってもよい。この場合、観測される単一の吸熱ピーク温度を、最も高い融点とする。
【0055】
また、当該ポリアミド樹脂の熱分解開始温度は、330℃以上410℃以下が好ましく、340℃以上400℃以下がより好ましく、350℃以上390℃以下がさらに好ましい。ポリアミド樹脂の熱分解開始温度は、以下のようにして求めることができる。ポリアミド樹脂10mgを試料とし、当該試料を、窒素雰囲気下で25℃から450℃まで10℃/分の昇温速度で示差熱分析(DTA)を行う。そして、試料の質量が1%減少したときの温度(1%熱分解温度)を熱分解開始温度とする。
【0056】
ポリアミド樹脂の熱分解開始温度と最も高い融点との差(=熱分解開始温度-最も高い融点)は、10℃以上80℃以下が好ましく、上限値は60℃がより好ましく、50℃がさらに好ましい。一方、下限値は25℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましい。
【0057】
また、ポリアミド樹脂の極限粘度は0.1dl/g以上1.0dl/g以下が好ましく、0.2dl/g以下0.9dl/g以下がより好ましい。ポリアミド樹脂の極限粘度[η]は、デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した値である。具体的には、以下のようにして求める。ポリアミド樹脂20mgを試料とし、当該試料を、デカリン15mLに溶解させて、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定する。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5mL追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定する。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿したときのηsp/Cの値を極限粘度として求める(下式参照)。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0058】
ポリアミド樹脂のメルトフローレート(MFR:ASTM D-1238、320℃、荷重2160g)は、1g/10min以上1000g/10min以下が好ましく、10g/10min以上500g/10min以下がより好ましい。
【0059】
ポリアミド樹脂の融点、熱分解開始温度、熱分解開始温度と最も高い融点との差、極限粘度またはMFRを、それぞれ上記範囲内とする手法は特に制限されない。例えば、ポリアミド樹脂の重量平均分子量を調整する手法が挙げられる。
【0060】
(ポリエステル系樹脂)
本開示の合成パルプは、融点が150℃以上のポリエステル系樹脂を含んでもよい。本開示におけるポリエステル系樹脂は、融点が150℃以上であり、かつエステル結合を複数含む樹脂であればよい。その例にはエチレングリコール等の多価アルコールと、テレフタル酸等の二塩基酸との共重合体であるポリエチレンテレフタレート系樹脂が含まれる。ポリエチレンテレフタレート系樹脂の例には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンイソフタレート(PBI)、ポリヘキサメチレンテレフタレート(PHT)、ポリヘキサメチレンイソフタレート(PHI)、ポリヘキサメチレンナフタレート(PHN)等が含まれる。
【0061】
(オレフィン系重合体)
本開示の合成パルプは、融点が150℃以上のオレフィン系重合体を含んでいてもよい。オレフィン系重合体とは、オレフィン由来の構造単位を、全構造単位に対して50質量%以上含む重合体であり、本開示の目的および効果を損なわない範囲において、オレフィン以外の化合物由来の構造単位を含んでいてもよい。また、本開示における、オレフィンの例には、エチレン、炭素数が3以上のα-オレフィン、および環状オレフィン等が含まれる。オレフィン系重合体は、これらの単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。なお、オレフィン系重合体が、2種以上のオレフィンの共重合体である場合、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。
【0062】
融点が150℃以上のオレフィン系重合体の具体例には、プロピレン系重合体、4-メチル-1-ペンテン系重合体、および環状オレフィン系重合体が含まれる。以下、これらについて説明するが、オレフィン系重合体は、これらに限定されない。
【0063】
・プロピレン系重合体
プロピレン系重合体は、プロピレン由来の構造単位を主成分とする重合体である。プロピレン系重合体は、プロピレン単独重合体(ポリプロピレン)であってもよく、プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体(プロピレン/α-オレフィン共重合体)であってもよく、これらを両方含んでいてもよい。なお、本開示では、プロピレン系重合体が、プロピレンとプロピレン以外のα-オレフィンとの共重合体である場合に、プロピレン由来の構造単位の量と、プロピレン以外のα-オレフィン由来の構造単位の量とが等しくてもよい。本明細書では、便宜上、エチレンもα-オレフィンに含むものとして説明する。
【0064】
プロピレン/α-オレフィン共重合体は、プロピレンと、炭素数2以上10以下のα-オレフィン(ただしプロピレンは除く)との共重合体が好ましく、プロピレンと、炭素数2以上8以下のα-オレフィン(ただしプロピレンは除く)との共重合体がより好ましい。
【0065】
合成パルプや、合成パルプから得られる合成紙の柔軟性が良好になることから、α-オレフィンは、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセンが好ましく、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体が特に好ましい。プロピレン/α-オレフィン共重合体の全構造単位に対する、α-オレフィンに由来する構造単位の量は、特に限定されず、例えば1モル%以上10モル%以下が好ましく、1モル%以上5モル%以下がより好ましい。
【0066】
プロピレン系重合体の融点(Tm)は、150℃以上であればよく、150℃以上165℃以下がより好ましい。また、プロピレン系重合体のメルトフローレート(MFR)(ASTM D-1238、230℃、荷重2,160g)は、合成パルプを製造しやすいとの観点で、10g/10分以上100g/10分以下が好ましく、20g/10分以上70g/10分以下がより好ましい。
【0067】
プロピレン系重合体の融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定できる。示差走査熱量計(DSC)で、昇温速度10℃/分で昇温したときの融解吸熱曲線の極値を与える温度より50℃程度高い温度まで昇温して、この温度で10分間保持する。その後、降温速度10℃/分で30℃まで冷却し、再度、昇温速度10℃/分で所定の温度まで昇温したときの融解曲線を測定する。当該融解曲線から、ASTM D3418の方法に準拠して、融解吸熱曲線の極値を与える温度(Tp)を求め、当該ピーク温度の吸熱ピークを融点(Tm)として求める。
【0068】
・4-メチルー1-ペンテン系重合体
本開示の合成パルプは、融点が150℃以上の4-メチル-1-ペンテン系重合体を含んでいてもよい。合成パルプが、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含むと、合成パルプの耐熱性が良好になる。また、合成紙を製造した際に、平滑性が良好になり、比表面積が高まりやすい。
【0069】
4-メチル-1-ペンテン系重合体は、4-メチル-1-ペンテン由来の構造を、全構造単位中に50質量%以上含んでいればよい。4-メチル-1-ペンテンの単独重合体であってもよく、4-メチル-1-ペンテンと炭素原子2~20のα-オレフィンとの共重合体であってもよい。4-メチル-1-ペンテンと炭素原子2~20のα-オレフィンとの共重合体は、ランダム共重合体が好ましい。
【0070】
4-メチル-1-ペンテン系重合体中の4-メチル-1-ペンテンに由来する構造単位の量は85~100質量%が好ましい。一方、炭素原子数2~20のα-オレフィンに由来する構造単位の量は0~15質量%が好ましい。
【0071】
炭素原子数2~20のα-オレフィンの例には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンが含まれ、これらの中でも、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンおよび1-エイコセンが好ましい。
【0072】
好ましい4-メチル-1-ペンテン系重合体の例には、4-メチル-1-ペンテン単独重合体、および4-メチル-1-ペンテンと、炭素原子数4以上8以下のα-オレフィン(特に1-ペンテンおよび/または1-ヘキセン)との共重合体が含まれる。なお、4-メチル-1-ペンテンと、炭素原子数4以上8以下のα-オレフィンとの共重合体のいては、4-メチル-1-ペンテン由来の構造単位が85モル%以上95モル%以下であり、炭素原子数4以上8以下のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)の構造単位が5モル%以上15モル%以下であることが好ましい。
【0073】
また、4-メチル-1-ペンテン系重合体のメルトフローレート(ASTM D1238、温度260℃、荷重5kgで測定)は、0.1g/10分以上1000g/10分以下が好ましく、0.5g/分以上500g/10分以下がより好ましい。4-メチル-1-ペンテン系重合体のMFRの制御は、該重合体の重合に際して重合反応系に水素を供給することで、得られる重合体のMFR値を高くすることができる。また、重合反応により得られた4-メチル-1-ペンテン系重合体を、溶融混練等することで、さらに過酸化物を添加して溶融混練等することでMFR値を高くすることができ、これらの方法を適宜組み合わせてMFR値を制御することができる。
【0074】
また4-メチル-1-ペンテン系重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(Waters社製、alliance2000型)を用いて、カラムに東ソー社(GMHタイプ)、移動層にo-ジクロルベンゼンを使用して、ポリスチレンスタンダードによって較正して得られる分子量(重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn)から求めることができ、分子量分布(Mw/Mn)は1.5以上10以下が好ましく、2以上8以下がより好ましく、2以上5以下がより好ましい。4-メチル-1-ペンテン系重合体のMw/Mnは、使用する重合触媒の種類、重合条件等により制御可能であり、特にメタロセン触媒を使用することでMw/Mnが狭い重合体を得ることができる。
【0075】
上記4-メチル-1-ペンテン系重合体の示差走査熱量計(DSC)を用いて、空気中、300℃まで加熱後、5分間ホールドし、20℃/分の降温速度で測定した結晶化温度(Tc)は200℃以上225℃以下が好ましく、210℃以上225℃以下がより好ましい。このような温度範囲であると、後述の方法で合成パルプを製造しやすくなる。また、示差走査熱量計(DSC)を用いて、空気中、20℃/分の昇温速度の条件で測定した融点(Tm)は200℃以上250℃以下が好ましく、230℃以上245℃以下がより好ましい。融点が当該範囲であると、合成パルプやこれを用いた合成紙の耐熱性が良好になる。
【0076】
上記4-メチルー1-ペンテン系重合体は、公知の方法で製造可能であり、例えばマグネシウム担持型チタン触媒、メタロセン触媒等を使用して製造可能である。4-メチル-1-ペンテン系重合体は、例えば特開2015-183141号公報、特開2016-098257号公報、国際公開第2014/050817号、国際公開第2017/150265号等に記載の方法により製造することができる。
【0077】
・環状オレフィン系重合体
環状オレフィン系重合体は、環状オレフィン化合物に由来する構造単位を含む重合体であれば特に限定されない。
【0078】
環状オレフィン系重合体は、以下の環状オレフィン系共重合体(A-1)および以下の環状オレフィン化合物の開環重合体(A-2)から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、以下の環状オレフィン系共重合体(A-1)を含むことがより好ましい。
【0079】
(i)環状オレフィン系共重合体(A-1)
環状オレフィン系共重合体(A-1)は、環状オレフィン化合物に由来する構造単位と、環状オレフィン化合物以外の化合物に由来する構造単位と、を含む共重合体である。環状オレフィン系共重合体(A-1)は、α-オレフィン由来の構造単位と、環状オレフィン化合物に由来する構造単位と、を含む共重合体であることが好ましい。
【0080】
環状オレフィン系共重合体(A-1)を構成する環状オレフィン化合物は、特に限定されず、例えば、国際公開第2006/118261号の段落0037~0063に記載の環状オレフィンモノマーが挙げられる。
【0081】
環状オレフィン系共重合体(A-1)は、構造単位(a)および構造単位(b)を含むことが好ましい。
構造単位(a):下記一般式(I)で表される少なくとも1種である、オレフィン化合物に由来する構造単位。
構造単位(b):下記一般式(II)で表される構造単位、下記一般式(III)で表される構造単位および下記一般式(IV)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1種である、環状オレフィン化合物に由来する構造単位。
【化1】
【0082】
一般式(I)において、R
300は水素原子、又は炭素数1~29の直鎖若しくは分岐状の炭化水素基である。
【化2】
【0083】
一般式(II)において、uは0又は1であり、vは0又は正の整数であり、wは0又は1である。R61~R78並びにRa1およびRb1は、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基である。R75~R78の少なくとも2つは、互いに結合して単環又は多環を形成してもよい。
vは、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0又は1である。
【0084】
【0085】
一般式(III)において、xおよびdはそれぞれ独立に0又は1以上の整数である。yおよびzはそれぞれ独立に0~2の整数である。R81~R99は、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基又はアルコキシ基である。R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子又はR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよい。また、y=z=0のとき、R92とR95又はR95とR99とは互いに結合して単環又は多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0086】
xおよびdはそれぞれ独立に、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0又は1である。
【化4】
【0087】
一般式(IV)において、R100、R101は互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数1~5の炭化水素基を示す。fは1≦f≦18である。
【0088】
環状オレフィン系重合体は、環状オレフィン系重合体(A-1)を含むことが好ましく、環状オレフィン系重合体(A-1)が前述の構造単位(a)および前述の構造単位(b)を含み、かつ前述の構造単位(b)が前述の一般式(II)で表される構造単位を含むことがより好ましく、環状オレフィン系重合体(A-1)が前述の構造単位(a)および以下の構造単位(c)を含むことがさらに好ましく、環状オレフィン系重合体(A-1)が前述の構造単位(a)および以下の構造単位(c)のみからなることが特に好ましい。
構造単位(c):一般式(II)で表され、uは0であり、vは1である構造単位。
【0089】
ここで、上記環状オレフィン系共重合体(A-1)の共重合原料の1つであるオレフィン化合物は、付加重合によって上記一般式(I)で表される構造単位を形成する化合物である。具体的には、上記一般式(I)に対応する下記一般式(Ia)で表されるオレフィン化合物が用いられる。
【化5】
【0090】
上記一般式(Ia)において、R300は水素原子又は炭素原子数1~29の直鎖又は分岐状の炭化水素基である。
【0091】
一般式(Ia)で表されるオレフィン化合物としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。これらの中でも、エチレンおよびプロピレンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0092】
上記一般式(Ia)で表されるオレフィン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0093】
環状オレフィン系共重合体(A-1)を構成する構造単位の全体を100モル%としたとき、オレフィン化合物に由来する構造単位(a)の割合は、5モル%以上95モル%以下であることが好ましく、20モル%以上90モル%以下であることがより好ましく、40モル%以上80モル%以下であることがさらに好ましく、50モル%以上70モル%以下であることが特に好ましい。
【0094】
オレフィン化合物に由来する構造単位(a)の割合は、13C-NMRによって測定することができる。
【0095】
環状オレフィン系共重合体(A-1)の共重合原料の1つである環状オレフィン化合物としては、上記一般式(II)で表される構造単位、上記一般式(III)で表される構造単位および上記一般式(IV)で表される構造単位にそれぞれ対応する、一般式(IIa)で表される環状オレフィンモノマー、一般式(IIIa)で表される環状オレフィンモノマー、および一般式(IVa)で表される環状オレフィンモノマーが挙げられる。
【化6】
【0096】
上記一般式(IIa)において、uは0又は1であり、vは0又は正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0又は1であり、wは0又は1であり、R61~R78並びにRa1およびRb1は、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R75~R78の少なくとも2つは、互いに結合して単環又は多環を形成してもよい。
【0097】
環状オレフィン系共重合体(A-1)の共重合原料の1つである環状オレフィン化合物は、付加重合によって上記一般式(II)で表される構造単位を形成することが好ましい。具体的には、上記一般式(II)に対応する、一般式(IIa)表される環状オレフィンモノマーが用いることが好ましい。
【0098】
環状オレフィン系共重合体(A-1)の共重合原料としては、一般式(Ia)で表されるオレフィン化合物および一般式(IIa)表される環状オレフィン化合物のみを用いることが好ましく、一般式(Ia)で表されるオレフィン化合物および一般式(IIa)表され、uは0であり、vは1である環状オレフィン化合物のみを用いることがより好ましい。
【0099】
【0100】
上記一般式(IIIa)において、xおよびdはそれぞれ独立に0又は1以上の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0又は1であり、yおよびzはそれぞれ独立に0、1又は2であり、R
81~R
99は、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基又はアルコキシ基であり、R
89およびR
90が結合している炭素原子と、R
93が結合している炭素原子又はR
91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R
95とR
92又はR
95とR
99とは互いに結合して単環又は多環の芳香族環を形成していてもよい。
【化8】
上記一般式(IVa)において、R
100およびR
101は、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数1~5の炭化水素基であり、fは1≦f≦18である。
【0101】
共重合成分として、上述した一般式(Ia)で表されるオレフィン化合物と、一般式(IIa)で表される環状オレフィンモノマー、一般式(IIIa)で表される環状オレフィンモノマー、又は一般式(IVa)で表される環状オレフィンモノマーとを用いることが好ましい。これにより、環状オレフィン系共重合体(A-1)の溶媒への溶解性がより向上するため、成形性が良好となる。
【0102】
一般式(IIa)で表される環状オレフィンモノマー、一般式(IIIa)で表される環状オレフィンモノマー、および一般式(IVa)で表される環状オレフィンモノマーの具体例としては、国際公開第2006/118261号の段落0037~0063に記載の化合物が挙げられる。具体的には、ビシクロ-2-ヘプテン誘導体(ビシクロヘプト-2-エン誘導体)、トリシクロ-3-デセン誘導体、トリシクロ-3-ウンデセン誘導体、テトラシクロ-3-ドデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ-3-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ヘキサデセン誘導体、ペンタシクロ-3-ヘキサデセン誘導体、ヘキサシクロ-4-ヘプタデセン誘導体、ヘプタシクロ-5-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-4-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-5-ヘンエイコセン誘導体、オクタシクロ-5-ドコセン誘導体、ノナシクロ-5-ペンタコセン誘導体、ノナシクロ-6-ヘキサコセン誘導体、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン誘導体、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセン誘導体、炭素数3~20のシクロアルキレン誘導体が挙げられる。
【0103】
一般式(IIa)で表される環状オレフィンモノマー、一般式(IIIa)で表される環状オレフィンモノマーおよび一般式(IVa)で表される環状オレフィンモノマーの中でも、一般式(IIa)で表される環状オレフィンモノマーが好ましい。
【0104】
上記一般式(IIa)で表される環状オレフィンモノマーとして、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(ノルボルネンともいう。)、又はテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(テトラシクロドデセンともいう。)を用いることが好ましく、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンを用いることがより好ましい。これらの環状オレフィンモノマーは剛直な環構造を含むため共重合体の弾性率が保持され易くなる利点がある。
【0105】
環状オレフィン系共重合体(A-1)を構成する構造単位の全体を100モル%としたとき、構造単位(b)の割合が、5モル%以上95モル%以下であることが好ましく、10モル%以上80モル%以下であることがより好ましく、20モル%以上60モル%以下であることがさらに好ましく、30モル%以上50モル%以下であることが特に好ましい構造単位(b)の割合は、13C-NMRによって測定することができる。
【0106】
環状オレフィン系共重合体(A-1)の共重合の種類は特に限定されず、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等が挙げられる。本開示においては、環状オレフィン系共重合体(A-1)としては、ランダム共重合体を用いることが好ましい。
【0107】
環状オレフィン系共重合体(A-1)としては、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体およびエチレンとビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンとのランダム共重合体であることが好ましく、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体がより好ましい。
【0108】
環状オレフィン系共重合体(A-1)は1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0109】
環状オレフィン系共重合体(A-1)は、例えば、特開昭60-168708号公報、特開昭61-120816号公報、特開昭61-115912号公報、特開昭61-115916号公報、特開昭61-271308号公報、特開昭61-272216号公報、特開昭62-252406号公報、特開昭62-252407号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0110】
(ii)環状オレフィンの開環重合体(A-2)
環状オレフィン系重合体としては、環状オレフィンの開環重合体(A-2)を用いてもよい。環状オレフィンの開環重合体(A-2)としては、例えば、ノルボルネン系単量体の開環重合体およびノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体、並びにこれらの水素化物等が挙げられる。
【0111】
ノルボルネン系単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(ノルボルネンともいう。)およびその誘導体(環に置換基を含むもの)、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ-3,7-ジエン(ジシクロペンタジエンともいう。)およびその誘導体、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう。)およびその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(テトラシクロドデセンともいう。)およびその誘導体、等が挙げられる。
【0112】
これらの誘導体の環に置換される置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。なお、置換基は、1個又は2個以上であってもよい。このような環に置換基を含む誘導体としては、例えば、8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチル-8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデン-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン等が挙げられる。
【0113】
これらのノルボルネン系単量体は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。ノルボルネン系単量体の開環重合体、又はノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。
【0114】
開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウム等の金属のハロゲン化物と、硝酸塩又はアセチルアセトン化合物と、還元剤とからなる触媒;チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデン等の金属のハロゲン化物又はアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒;等を用いることができる。ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環の環状オレフィン系単量体等が挙げられる。
【0115】
ノルボルネン系単量体の開環重合体の水素化物、ノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体の水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素-炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0116】
環状オレフィンの開環重合体(A-2)は1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
環状オレフィンの開環重合体(A-2)は、例えば、特開昭60-26024号公報、特開平9-268250号公報、特開昭63-145324号公報、特開2001-72839号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0118】
環状オレフィン系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、85℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましく、110℃以上であることが特に好ましく、125℃以上であることが極めて好ましい。
【0119】
環状オレフィン系重合体のガラス転移温度(Tg)は、170℃以下であることが好ましく、160℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。
【0120】
環状オレフィン系重合体のガラス転移温度(Tg)は、85℃~170℃であることが好ましく、90℃~170℃であることがより好ましく、100℃~160℃であることがさらに好ましく、110℃~150℃であることが特に好ましく、125℃~150℃であることが極めて好ましい。
【0121】
環状オレフィン系重合体のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定計(DSC)を用いて測定することができる。例えば、SIIナノテクノロジ-社製RDC220を用いて、窒素雰囲気下で常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に、5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で30℃まで降温した後に、5分保持し、次いで10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際にガラス転移温度を測定することができる。
【0122】
・熱可塑性樹脂以外の成分
合成パルプは、上述の熱可塑性樹脂以外の他に、本開示の目的および効果を損なわない範囲において、乳酸系重合体以外の樹脂等を含んでいてもよい。また、合成パルプは、抗菌剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、各種安定剤、酸化防止剤、分散剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、および充填剤等、公知の化合物を含んでいてもよい。合成パルプは、これらの化合物を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0123】
・用途
上記合成パルプは、単独で、あるいは天然パルプおよび/または他の合成パルプ、および必要に応じて有機繊維、無機繊維、無機粉体等と混合して、種々の合成紙またはシートの製に使用できる。合成紙については、後述する。
【0124】
また、本開示に係る合成パルプは、例えば電池用セパレータ等の保液性物品、成形ボード、ティーバッグ紙、滅菌紙、乾燥剤袋等のヒートシール紙等に特に好適に使用できる。この他、本開示に係る合成パルプを乾燥粉砕して綿状としたものは、例えば、塗料のタレ防止剤、シーラー、シーラント、コーキング材、接着剤等の増粘用添加剤として使用できる。また、本開示に係る合成パルプを木材パルプ等の天然パルプと混抄して得られたシートは耐水性を有し、たとえばラベル紙、ティッシュペーパー、タオルペーパー、払拭材等として、また他の合成繊維と混抄して得られたシートは、たとえば合成紙、インモールドラベル紙等として使用できる。さらに、合成パルプは、他の粉砕パルプ等と混合した後にシート状またはマット状とすることにより、たとえば水、油、溶剤、尿などを吸収する吸水シートまたは吸水マットとして使用できる。さらに合成パルプは、解繊繊維等用の乾式バインダー、電線ケーブル被覆材、絶縁紙、ブックカバー、ファイバーセメント等のセメント製品、気体用フィルター、液体用フィルター、マスク、セラミックスペーパー、紙皿等の成形板紙、壁紙、クッションフロアーの裏打ち材、壁材の補強用繊維、タイルグラウト、濾過助剤等としても使用できる。
【0125】
2.合成パルプの製造方法
上述の合成パルプの製造方法は特に制限されないが、例えば以下の製造方法で製造することができる。
【0126】
当該合成パルプの製造方法は、例えば、融点が150℃以上の熱可塑性樹脂、または当該熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を溶融紡糸法する工程(以下、「溶融紡糸工程」とも称する)、得られた紡糸繊維を裁断して繊維とする工程(以下、「裁断工程」とも称する)、および裁断工程で得られた繊維を叩解する工程(以下、「叩解工程」とも称する)とを行う方法である。
【0127】
一般的に、熱可塑性樹脂を含む合成パルプは、フラッシュ法(例えば、EncyclopediaofChemicalTechnology3rded,Vol.19,P420-425等に記載の製法)で製造されている。しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、当該方法では、上述のCSFが低い熱可塑性樹脂の合成パルプを製造することが難しかった。これに対し、先に熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を溶融紡糸し、これを裁断し、さらに叩解することで、熱可塑性樹脂を含み、かつCSFが十分に小さい合成パルプが得られることが明らかとなった。
【0128】
・溶融紡糸工程
紡糸工程では、上述の熱可塑性樹脂、または上記熱可塑性樹脂および他の成分を含む樹脂組成物を溶融紡糸する。他の成分としては、上述の合成パルプに関する説明で、熱可塑性樹脂以外の成分として挙げた成分が挙げられる。
【0129】
ここで、溶融紡糸法の例には、スパンボンド法、およびメルトブロー法が含まれ、これらのいずれか一方を含む方法で溶融紡糸することが好ましい。例えば、スパンボンド法、およびメルトブロー法でそれぞれ溶融紡糸を行い、各方法で得られた紡糸繊維を混合してもよい。
【0130】
溶融紡糸後の紡糸繊維は、通常、不織布として得られる。なお、紡糸繊維の平均繊維径は、20~80μmが好ましく、25~75μmがより好ましい。紡糸繊維の平均繊維径が当該範囲であると、後述の叩解工程後に得られる合成パルプの平均繊維径が、上述の範囲に収まりやすくなる。
【0131】
・裁断工程
裁断工程では、上記溶融紡糸工程で得られ紡糸繊維を、所望の長さに裁断する工程である。裁断の方法は特に限定されず、溶融紡糸工程で得られた紡糸繊維(不織布)の形状等に合わせて適宜選択される。裁断工程の前に、上述の紡糸繊維を所望の長さもしくは大きさに裁断してもよい。
【0132】
裁断工程に使用可能な装置の例には、アトマイザー、カッターミル、ビーズミル、ボールミル、ジェットミル等の公知の粉砕機や、シュレッダー等が含まれる。またギロチンカッター、カッターナイフ、ハサミに等によって裁断を行ってもよい。さらに、裁断と圧送とを同時に行えるカッターファン(二幸送風機製)等を用いてもよい。裁断工程では、紡糸繊維の長さだけでなく、その繊維径を調整してもよい。裁断工程は、繊維の平均繊維長が0.05mm以上3mm以下、好ましくは0.1mm以上2mm以下、平均繊維径が20μm以上80μm以下、好ましくは25μm以上70μm以下となるように裁断を行う。
【0133】
・叩解工程
叩解工程では、上述の裁断工程によって得られた、平均繊維長が0.05mm以上3mm以下、平均繊維径が20μm以上80μm以下である繊維を、叩解する。具体的には、各種装置を用いて、平均繊維径が20μm以上60μm以下、平均繊維長が好ましくは0.7mm以下になるように叩解する。叩解を行う装置の例には、ワーリング・ブレンダーまたはディスクリファイナー等が含まれる。例えば、ディスクリファイナーの刃の種類、回転数、またはスクリーンの径等を適切に選択することで、得られる合成パルプの平均繊維径やCSFを所望の範囲に調整できる。また、上記繊維を水に濃度が0.5g/L以上5.0g/L以下となるように分散させて、叩解を行ってもよい。
【0134】
叩解工程において、合成パルプの親水性を増大させるために、ノニオン性界面活性剤またはポリプロピレングリコールによる表面処理を行ってもよい。親水化方法は、例えば、特開昭63-235575号公報または特開昭63-66380号公報等に記載された方法を適用できる。
【0135】
3.合成紙
本開示の合成紙は、上記合成パルプを主成分として含む、平均孔径が1.9μm以下の合成紙であればよい。合成紙は、上記合成パルプを一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0136】
合成紙の平均孔径は、JIS Z8703に準拠して測定される値であり、平滑性が良好であり、さらに比表面積が大きい合成紙を得る観点から、1.6μm以下が好ましい。また、当該合成紙の最小孔径は、1.5μm以下が好ましく、最大孔径は4.0μm以下が好ましい。合成紙の平均孔径や最小孔径、最大孔径が当該範囲であると、各種用途に使用しやすくなる。
【0137】
当該合成紙は、上記合成パルプ以外に、他のバインダー繊維や、各種添加剤等をさらに含んでいてもよい。上記合成パルプの量は、10質量%以上90質量%以下が好ましく、15質量%以上85質量%以下がより好ましい。上記合成パルプの量が、10質量%以上であると、耐熱性が高く、平滑性に優れ、さらに比表面積が大きい合成紙とすることができる。一方、合成パルプの90質量%以下であると、バインダー繊維等の量が十分になり、合成紙の引張強度を向上させることができる。なお、合成紙は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、上述の合成パルプ以外の合成パルプを一部に含んでいてもよい。
【0138】
上記バインダー繊維の例には、公知の合成繊維が含まれる。具体例には、上述の合成パルプに相当しない、ポリエチレン系繊維や、低融点ポリエステル繊維、アクリル系繊維、ポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維、ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート複合繊維、ポリエステル複合繊維等が含まれる。
【0139】
バインダー繊維の平均繊維長は、バインダー繊維の添加の目的に応じて適宜選択されるが、0.1mm以上20mm以下が好ましく、1mm以上10mm以下がより好ましい。この範囲内の平均繊維長であれば、上記合成パルプと混合しやすく、かつ均一な合成紙が得られやすい。バインダー繊維の平均繊維長は、上述の合成パルプと同様に測定できる。
【0140】
合成紙中のバインダー繊維の量は、1質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上30質量%以下がより好ましい。
【0141】
また、本発明の合成紙は、抄紙工程における泡立ちを防止や、合成紙の風合い(手触り)の改善を目的として、本開示の合成紙の目的および効果を損なわない範囲で水酸基を有する水溶性高分子をさらに含んでもよい。このような水溶性高分子としては、ポリビニルアルコールが好ましい。さらにポリビニルアルコールとしては、そのケン化度が90%以上のポリビニルアルコールが好ましく、ケン化度が98%以上のポリビニルアルコールがより好ましい。ポリビニルアルコールの具体例としては、日本合成化学社製のゴーセノールの完全ケン化型や準完全ケン化型、日本酢ビ・ポバール社製のJ-ポバールの完全ケン化型や中間ケン化型等が挙げられる。
【0142】
また、本開示の合成紙は、一般的に合成紙に添加される添加剤をさらに含んでいてもよい。このような添加剤としては、乾燥紙力剤、湿潤紙力剤、歩留まり向上剤、凝結剤、凝集剤、分散剤、離型剤、消泡剤、殺菌剤などが挙げられる。
【0143】
本開示の合成紙の紙通気度(王研法透気度とも称される)は、紙風合いの観点、および、紙平滑性と比表面積との両立の観点から、3.0秒以上10秒以下が好ましく、4.0秒以上9.0秒以下がより好ましい。当該紙通気度は、JIS P8117に準拠して測定される値である。
【0144】
本開示の合成紙の平滑度は、14以上50以下が好ましい。本開示の合成紙は、上述の合成パルプを含むことから、当該平滑度を達成できる。当該平滑度は、JIS P8155に準拠して測定される値である。
【0145】
また、本開示の合成紙のBET比表面積は、2.0以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましい。また、上限値は特に制限されないが、例えば10.0以下であってもよい。当該BET比表面積は、JIS Z8830:2013に準拠し、窒素ガスの物理吸着を用いた細孔分布計(Belsorpmax、日本ベル株式会社製)により測定できる。本開示の合成紙は、上述の合成パルプを含むことから、当該比表面積を達成できる。
【0146】
ここで、本開示の合成紙の外観に紙風合いを出すためには、合成紙の目付(JIS P-8124に規定する方法で測定した値)は、30g/m2~400g/m2が好ましい。なお、合成紙は単層紙でも、抄き合わせ紙や、ヒートシールなどの接着による積層紙などの多層紙でもよい。多層紙の場合には、表層の目付は70g/m2~400g/m2が好ましい。また、エンボス深溝化の観点からは、目付は150g/m2~400g/m2が好ましい。
【0147】
本開示の合成紙の引張強度(JIS P8113に規定する方法で測定した値)は2N/15mm以上であることが好ましい。さらに、紙風合いの観点より、合成紙の引張強度は2N/15mm~5N/15mmが好ましい。なお、引張強度は、合成パルプの量や、バインダー繊維の量、合成紙の製造条件等によって調整できる。
【0148】
・合成紙の製造方法
本開示の合成紙の製造方法に特に限定はなく、公知の方法を使用することができる。例えば、エアレイド法と呼ばれる乾式方式や、抄紙法と呼ばれる湿式方式などが挙げられる。なお、合成紙に紙風合いを出すためには、湿式方式が好ましい。
【0149】
例えば、実験室で行う抄紙方法としては、JIS P8222に準拠した、手すき紙を調製する方法が挙げられる。また、実験室での抄紙方法としては、動的抄紙方法を用いることもできる。
【0150】
また特に、環境への配慮の観点から、抄紙工程内の水を意図的には排水しない完全クローズドシステムによる抄紙方法が好ましい。実験室では、複数回抄紙白水を再利用することにより、或いはクローズド状態の白水を理論上再現した疑似白水を用いることにより検証することができる。実験室での抄紙にあたっては、疑似白水を用いることが好ましい。
【0151】
本開示の合成紙では、平滑度を所望の値とするために、さらに熱処理を行ってもよい。熱処理は、ドラム式ドライヤー、エアスルードライヤーなどを用いて行うことができる。また、熱処理可能なカレンダー加工機を用いて、熱処理をしながらカレンダー加工を実施してもよい。熱処理を実施する温度としては95℃以上165℃以下が好ましい。通常、熱処理は、乾燥温度よりも10℃以上55℃以下高い温度で実施する。
【0152】
本開示の合成紙を製造するための実機設備に特に限定はない。例えば、長網抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機、傾斜ワイヤー式抄紙機などの抄紙機と、ヤンキードライヤー、エアスルードライヤー、ドラム式ドライヤーなどの乾燥機との組み合わせが挙げられるが、いずれの方法でも構わない。
【0153】
・合成紙の用途
本開示の合成紙は、紙と同様の風合いを有し、且つ印刷適正や筆記性に優れることから、従来、合成紙が用いられていた用途に加え、紙が使用されていた用途にも使用することが考えられる。具体的な用途としては、例えば、印刷用紙、筆記用紙、ラベルの原紙、包装紙、成形用紙などが挙げられる。特に本開示の合成紙は、従来のポリオレフィン系合成紙と同様の接着性を維持しながらも、印刷適性や筆記性が改善されているため、ラベルの原紙として好適に用いられる。
【0154】
(ラベル)
本開示のラベルは、本開示の合成紙をその原紙として含むものである。ラベルの種類に特に限定はなく、裏面に接着層を設けたステッカー、貼合する直前に接着剤などを裏面に塗布して使用するグルーラベル、樹脂容器の成形と同時に容器の外面に貼り付けるインモールドラベルなどが挙げられる。特に本開示のラベルは、接着層やヒートシール層などを設けずとも、従来のインモールドラベル用フィルムと同様の接着性を有することから、インモールドラベルが好ましい。
【0155】
ラベルは、原紙の上に絵柄部を有してもよい。絵柄部の形成方法に特に制限はなく、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷などの公知の印刷方法を採用することができる。また、使用するインク、塗料なども特に制限はない。
【0156】
本開示のラベルにおいては、原紙となる合成紙が印刷適性に優れるため、絵柄部の耐久性は高く、必ずしも保護層を必要としない。しかし、絵柄部の耐久性をさらに高めたり、表面の耐傷付き性や耐水性を向上させたり、表面光沢を調整する等の目的で、本開示のラベルの視認側に保護層を設ける事もできる。保護層としては、公知のハードコート層材料や、アクリル系のニスを例とする透明塗料等の公知の材料を用いることができる。
【0157】
(容器)
本開示の容器は、上述した本開示のラベルを貼合した容器である。ラベルを貼合する容器の材質に特に限定はなく、ガラス、陶器、磁器、木、樹脂などの材質からなる容器が挙げられる。樹脂製の容器としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン製容器や、ポリエチレンテレフタレート製容器等が挙げられる。ラベルを容器に貼合する方法に特に限定はなく、ラベルと容器が接する面に接着層を設けたり、接着剤をラベルに塗布して容器に貼合したり、インモールドラベルとして、インモールドラベル法で容器の成形と同時に貼合することもできる。特に本開示のラベルは、接着層を設けることなく樹脂製の容器に接着可能であることから、インモールドラベル法で本開示のインモールドラベルを貼合した容器が好ましい。特に、本開示のインモールドラベルを貼合した容器は、安定接着性の面からポリエチエレン容器が好ましい。インモールドラベル法は公知の方法を採用することができる。具体的には、射出成形、ブロー成形、真空成形などを用いたインモールドラベル法を挙げることができる。
【実施例0158】
以下、本開示を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本開示の範囲はこれによって何ら制限を受けない。
【0159】
1.評価方法
(1)繊維耐熱性
合成パルプの繊維耐熱性は、ホットステージ測定により観察した。METTLER製FP82HTのホットステージを備えたニコン製LV100POL光学顕微鏡にて、繊維形状の温度(1℃/分の昇温)による変化を観察画像解析した。
【0160】
(2)平滑性
合成紙の平滑性は、JIS P8155に規定する方法で測定した。
【0161】
(3)平均孔径、最大孔径、および最小孔径
合成紙の平均孔径、最大孔径、および最小孔径は、バブルポイント法により測定した。具体的には、JIS Z8703:1983(試験場所の標準状態)に準拠し、温度20±2℃、湿度65±2%の恒温室内で、試験片にフッ素系不活性液体(3M社製、商品名:フロリナート)を含浸させた。そして、キャピラリー・フロー・ポロメーター(Porousmaterials Inc社製、製品名:CFP-1200AE)で測定した。
【0162】
(4)比表面積
合成紙の比表面積は、JIS Z8830:2013に準拠し、窒素ガスの物理吸着を用いた細孔分布計(Belsorpmax、日本ベル株式会社製)により、試料のBET比表面積(BET法による比表面積)(m2/g)を測定した。
【0163】
(5)電子顕微鏡による観察
電子顕微鏡(日立製作所製S-3500N)を用いて、倍率1000倍で合成紙の写真を撮影した。
【0164】
2.合成パルプおよび合成紙の製造
(1)実施例1
・スパンボンド(SB)による溶融紡糸工程
MFR(ASTM D1238に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgで測定)60g/10分、密度:0.910g/cm3のプロピレン単独重合体(PP、融点161℃)100質量部、230℃にて溶融紡糸を行い、得られた繊維を補集面上に堆積させた後、熱エンボスにより、繊維径が18μm、目付が20g/m2のスパンボンド不織布(SB)を得た。以下、当該スパンボンド不織布を、「PP-SB」と称すことがある。
【0165】
・裁断工程
上記PP-SBをハサミで3cm角程度に切ったのち、シュレッダー(アイリスオーヤマ社製、K10HCS)を用いて細断した。細断後の繊維の平均繊維長は1.6mm、平均繊維径は58μmであった。
【0166】
・叩解工程
その後、パルパー内で、当該繊維の質量に対して、3質量%のポリビニルアルコール(PVA、ケン化度:99%、4質量%水溶液、粘度(20℃):4.6~6.0cps、日本合成化学工業社製、商品名:ゴーセノールNL-05)を分散剤として混合した。そして、当該分散液を、直径12インチのシングルディスク型リファイナー(熊谷理器工業社製)にて、処理量:2g/リットル濃度で3回、ミクロフィブリル化処理を行った。これにより、ミクロフィブリル繊維を含むパルプ状物の合成パルプ1を得た。
【0167】
・合成紙の製造
上記合成パルプ1のスラリーを捕集してシート化した。そして、当該合成パルプ1 70質量部と、市販の合成パルプ(三井化学社製SWP、E620)30質量部とを混合し、250mmの角型抄紙機により、目付60g/m2の合成紙を作製した。この合成紙を表面温度110℃の回転型乾燥機で2分間乾燥させた。その後、さらに、表面温度135℃で2分間熱処理を行なった。なお、合成紙の厚みは260μmであった。当該合成紙の評価結果を表1に示す。
【0168】
(2)実施例2
・メルトブロー(MB)による溶融紡糸工程
MFR(ASTM D1238に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgで測定)1800g/10分のプロピレン単独重合体(融点161℃)をダイに供給した。そして、ノズルの両側から吹き出す280℃の加熱エアと共に、単孔吐出量0.06g/分の速度でプロピレン単独重合体を吐出し、コンベアネット上に吹き付けてメルトブロー不織布を得た。得られたメルトブロー不織布を、巻き取り速度2.4m/分で巻き取りロールAに巻き取った。得られたメルトブロー不織布は目付10g/m2、厚み0.1mm、平均繊維径0.6μmであった。以下、当該不織布を、「PP-MB」と称すことがある。
【0169】
・裁断工程、叩解工程、および合成紙の製造
上記PP-SBの代わりにPP-MBを用いた以外は、実施例1と同様に裁断工程、叩解工程、および合成紙の製造を行った。合成紙を電子顕微鏡で観察したときの写真を
図1に示す。なお、裁断工程後の繊維の平均繊維径は38μm、平均繊維長は1.6mmであった。
【0170】
(3)実施例3
・紡糸繊維の準備
実施例1と同様に作製したメルトブローン不織布(PP-MB)の両面に、実施例2で作製したスパンボンド不織布(PP-SB)をそれぞれ積層し、熱エンボス(エンボス面積率18%)により110℃、線圧1Mpaで熱融着を行って、3層構造(以下、「SMS構造」と称す。)の不織布を得た。以下、当該不織布を、「PP-SMS」と称すことがある。
【0171】
・裁断工程、叩解工程、および合成紙の製造
上記PP-SBの代わりにPP-SMSを用いた以外は、実施例1と同様に裁断工程、叩解工程、および合成紙の製造を行った。なお、裁断工程後の繊維の平均繊維径は47μm、平均繊維長は1.6mmであった。
(4)比較例1
・合成パルプの製造
じゃま板を具備した80リットル容量の攪拌機付オートクレーブ中に、n-ヘキサン20リットル(23℃)、水20リットル(23℃)、プロピレン単独重合体(PP)(MFR60g/10分(ASTMD1238に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgで測定)、密度:0.910g/cm3)300g、酸化分解剤15g、およびポリビニルアルコール(PVA、ケン化度:99%、4質量%水溶液粘度(20℃):4.6~6.0cps、商品名ゴーセノールNL-05、日本合成化学工業社製)20gを投入した。回転数900rpmで攪拌しながら、混合液の液温が145℃になるまで昇温させた。その後、混合液の液温を145℃に保持して、さらに、30分間攪拌を続け、懸濁液を得た。
【0172】
次いで、当該懸濁液を、オートクレーブに取り付けられた直径3mm、長さ20mmのノズルよりパイプを経て、窒素雰囲気下、かつ、-400mmHgの圧力下にあるドラム内に噴出(フラッシュ)させて繊維状物を得た。次いで、繊維状物を受容器内で10g/リットル濃度の水スラリーとした後捕集し、ジューサーミキサーでほぐし、パルプ状物(PP-SWP)を得た。その後、実施例1と同様に合成紙の製造を行った。
【0173】
【0174】
上記表1に示すように、平均繊維径20μm以上60μm以下であり、カナディアン標準濾水度が200ml以上740ml以下である合成パルプを用いて合成紙を製造すると、これを満たさない合成紙(比較例1)より、平滑性が高く、かつ比表面積が大きくなりやすかった(実施例1~3)。
本発明の合成パルプによれば、平滑性が高く、かつ比表面積が大きな合成紙を製造可能である。したがって、当該合成パルプ用いた合成紙は、各種製品に適用可能である。