(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081582
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 6/92 20060101AFI20240611BHJP
D01F 6/62 20060101ALI20240611BHJP
D04H 1/435 20120101ALI20240611BHJP
D04H 1/728 20120101ALI20240611BHJP
【FI】
D01F6/92 301C
D01F6/62 306V
D04H1/435
D04H1/728
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023124872
(22)【出願日】2023-07-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2022189676
(32)【優先日】2022-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】石田 華緒梨
(72)【発明者】
【氏名】米田 敬太郎
【テーマコード(参考)】
4L035
4L047
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE20
4L035FF05
4L035JJ20
4L047AA21
4L047AA27
4L047AB07
4L047AB08
(57)【要約】
【課題】水系溶媒に対して濡れやすく、同時に水中でも親水化の性質が長く持続しやすい繊維を提供する。
【解決手段】繊維全体の質量に対し、下記の成分Aを50質量%以上、下記の成分Bを10質量%以上含み、前記繊維の内部に前記成分A及び成分Bを含む、繊維。
成分A:脂肪族ポリエステル
成分B:多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物であって、非水溶性で、固化点が30℃以上であり、炭素数が14以上24未満である脂肪酸基を含む、化合物
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維全体の質量に対し、下記の成分Aを50質量%以上、下記の成分Bを10質量%以上含み、前記繊維の内部に前記成分A及び成分Bを含む、繊維。
成分A:脂肪族ポリエステル
成分B:多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物であって、非水溶性で、固化点が30℃以上であり、炭素数が14以上24未満である脂肪酸基を含む、化合物
【請求項2】
前記繊維の濡れ張力試験値が73mN/m以上である、請求項1記載の繊維。
【請求項3】
前記成分Bは板状にして測定される水の接触角が46°以下である化合物を含む、請求項1又は2記載の繊維。
【請求項4】
前記成分Aは生分解性である化合物を含む、請求項1~3のいずれ1項に記載の繊維。
【請求項5】
前記成分Aはポリカプロラクトンを含む、請求項1~4のいずれ1項に記載の繊維。
【請求項6】
前記成分Bは一部が繊維表面に配されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の繊維。
【請求項7】
前記繊維の繊維径が0.1μm以上5μm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の繊維。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の繊維を含む不織布。
【請求項9】
前記不織布の平均繊維径が0.1μm以上5μm以下である、請求項8記載の不織布。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の繊維、又は、請求項8若しくは9に記載の不織布を含む繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維はフィルター、衛生材料、化粧材料、医療材料など様々な場面で使用されている(例えば、特許文献1~4)。例えば医療の分野では極細繊維(例えば繊維径50μm以下)を足場材として用いることが検討され、化粧品分野ではスキンケアシート等として用いる検討がなされている。繊維は有効成分を液体として含浸させて利用されることがあり、含浸させる液物性に合わせて親疎水性のような繊維表面の物性制御が重要となる。紡糸技術の発展により、熱可塑性樹脂で繊維を作製する研究が多くなされているが、熱可塑性樹脂は一般に疎水性であり、その繊維がそのままの表面物性では用途が限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-143157号公報
【特許文献2】特開2020-169201号公報
【特許文献3】特表2012-207350号公報
【特許文献4】国際公開第2006/022430号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の繊維が生体内や皮膚上で使用される場合、該繊維の素材として脂肪族ポリエステルが好ましく用いられることがある。脂肪族ポリエステルを用いた繊維は、そのままでは水系溶媒への濡れ性が十分とはいえないため、従来、繊維表面に親水化剤を塗布することが一般的であった。しかし、塗布・添着処理であるため繊維が水中に存在する場合、親水化剤が溶け出し、親水処理効果が低下することから、改善の余地があった。
本発明は、上記の点を鑑み、水系溶媒に対して濡れやすく、同時に水中でも親水化の性質が長く持続しやすい繊維に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、繊維全体の質量に対し、下記の成分Aを50質量%以上、下記の成分Bを10質量%以上含み、前記繊維の内部に前記成分A及び成分Bを含む、繊維を提供する。
成分A:脂肪族ポリエステル
成分B:多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物であって、非水溶性で、固化点が30℃以上であり、炭素数が14以上24未満である脂肪酸基を含む、化合物
【発明の効果】
【0006】
本発明の繊維は、水系溶媒に対して濡れやすく、同時に水中でも親水化の性質が長く持続しやすいものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係る繊維の一実施形態を模式的に示す断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の繊維について説明する。
本発明の繊維は、構成成分として、脂肪族ポリエステル(以下、成分Aと呼ぶ。)を50質量%以上、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物(以下、成分Bと呼ぶ。)を10%以上含むことが好ましい。ここで言う成分A及び成分Bそれぞれの上記の含有割合は、本発明の繊維全体の質量を100質量%としたときの割合を意味する。
成分A及び成分Bは繊維の内部に含まれることが好ましい。
成分Bは、固化点が30℃以上であることが好ましい。
成分Bは、非水溶性であることが好ましい。
成分Bは、炭素数が14以上24未満である脂肪酸基を含むことが好ましい。この脂肪酸基は複数あってもよい。
【0009】
(各構成成分の抽出方法)
測定対象の繊維集合体から質量が約1gになるように繊維を取り出す。前記繊維集合体が不織布であれば、上記質量の切片を切り出す。取り出した繊維ないし切片から種々の溶媒によって構成成分を抽出し、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって構成成分ごとに単離する。
【0010】
(固化点の測定方法)
前記「固化点」は固化温度とも言い、示差走査熱量測定(DSC)にて、試料を昇温していき溶融後に5℃/分で降温した際に最初に発現する発熱ピークのピーク温度をいう。この測定は具体的には次のようにして行う。前記(各構成成分の抽出方法)により抽出した構成成分をアルミ製サンプルパンに封入して加温し、5℃/分で昇温していく。昇温によって200℃に到達した後600秒以内に5℃/分で降温していく。次いで、0℃になった時点で測定を終了する。
なお、上記のピーク温度は、加温された成分が溶融状態から降温によって凝固し始める温度を意味する。前記「溶融状態」とは、外力を加えたときに上記の成分が流動する状態であり、例えば対象成分の融点以上に加温した状態をいう。前記「凝固」とは、結晶化すること、結晶化が見られない場合はガラス転移することを意味する。
【0011】
(成分A、成分Bの含有割合の測定方法)
前記(各構成成分の抽出方法)により抽出した構成成分を、それぞれが可溶な溶媒であり、重水素化した溶媒に溶解させ、プロトンNMRを用いて、各構成成分を同定する。これにより成分A,Bに該当する構成成分を同定する。
次いで、同定された成分A又はBを溶解可能な溶媒で、繊維集合体からその成分を抽出することで、その含有割合を求める。
例えば、成分Bが溶解可能な有機溶媒に繊維集合体を24時間浸漬し、成分Bを抽出する。有機溶媒から繊維を取り出し、40℃減圧乾燥-0.04MPaにて24時間乾燥する。その後、乾燥後繊維質量を測定することで成分Bの質量%を測定することができる。
成分B含有割合(質量%)=100-(減圧乾燥後繊維質量/繊維初期質量)×100
【0012】
(繊維の内部に成分A、成分Bが含まれることの測定方法)
前記(成分A、成分Bの含有割合の測定方法)で同定された各構成成分について、測定対象繊維を飛行型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)にて測定を行う。測定を行う際に繊維を長手方向に対して垂直な方向に割断した断面を分析することにより、繊維内部に成分A、成分Bが含まれているかを判断する。
【0013】
成分Aは、繊維全体の質量に対し50質量%以上含有され、本発明の繊維の主基剤となることが好ましい。極性を持つエステル結合を複数有する脂肪族ポリエステルが主基剤となることにより、本発明の繊維は生体との親和性が高められる。また、本発明の繊維は、親水性が高められるよう制御された極細繊維とすることが可能となり、例えば化粧品材として有意である。
【0014】
成分Aは、上記の作用をより高める観点から、繊維全体の質量に対する含有割合を、55質量%以上とすることが好ましく、60質量%以上とすることがより好ましく、75質量%以上とすることが更に好ましい。
また、成分Aは、親水性を発現しやすくする観点から、繊維全体の質量に対する含有割合を、90質量%以下とすることが好ましく、87質量%以下とすることがより好ましく、85質量%以下とすることが更に好ましい。
【0015】
成分Bは、本発明の繊維における添加剤として、繊維全体の質量に対して10質量%以上を含まれることが好ましい。これにより、本発明の繊維に親水性を付与する。また、本発明の繊維は水系溶媒に対して濡れやすくなる。ここで言う「水系溶媒」とは、水を主成分とする溶媒のことであり、水に相溶する有機溶媒を少量添加してもよい。また、油相が乳化分散している水を主成分とする溶媒でもよい。
成分Bは、多価アルコール部分の複数の水酸基を含んでいることが好ましく、また脂肪酸基の炭素数を24未満としていることが好ましい。その際に脂肪酸基の数と水酸基の数の比(脂肪酸基の数/水酸基の数)が0.6以下であることが好ましい。これらの構成によって、前記親水性に寄与する。成分Bにおける脂肪酸基の数と水酸基の数は、前記(成分A、成分Bの含有割合の測定方法)により同定した分子構造に基づき計算する。
この観点から、成分Bは、脂肪酸基に繰り返し単位が無い化合物を含むことが好ましい。
加えて、成分Bは、エステル構造を有し、脂肪酸基を構成する疎水基を有する化合物を含むことが好ましい。これにより、成分Aと基本構造的な類似点を有する。そのため、成分Bは成分Aと相溶性が高く、本発明の繊維において成分Bが成分Aから分離し難い。また、後述の製造方法において、成分Bが成分Aに良く分散して安定的な紡糸が可能となる。このことは、極細繊維の製造に技術的に有意義である。
また、成分Aとの構造的な類似点を有し、繊維において成分Bが成分Aから分離し難くなる観点から、成分Bが含む化合物の脂肪酸基は飽和脂肪酸基であることが好ましい。成分Aとの構造的な類似点をさらに有する観点から、前記飽和脂肪酸基は、直鎖飽和脂肪酸であることがさらに好ましい。
成分Bが含む化合物の親水基の分子量は100g/mol以下であることが好ましい。親水基の分子量が小さくなることで立体障害がより抑えられ、成分Bの分子が密に並びやすくなる。その結果として成分Bを繊維の外側により効率的に配置することができ、細い繊維でもより効率的に親水化することができる。ここで親水基の分子量は、成分Bの分子量から、脂肪酸基の分子量の総和を引いた値として計算できる。
【0016】
成分Bにおける「脂肪酸基」とは脂肪酸由来の化学構造部分を意味する。具体的には、前記「脂肪酸基」は、多価アルコールと脂肪酸とがエステル結合した構造における、脂肪酸の炭化水素基と該炭化水素基に結合するカルボニル基とを含む構造を意味する。脂肪酸基の「炭素数」は、脂肪酸基を構成する「脂肪酸の炭化水素基と該炭化水素基に結合するカルボニル基とを含む構造」における炭素数を意味する。ここで、前記脂肪酸基が置換基を有する場合、該置換基の炭素数も前記「炭素数」に含まれる。
また、成分Bにおける「多価アルコール部分」とは、多価アルコール由来の化学構造部分を意味し、成分Bのエステル化合物において前記「脂肪酸基」を除いた部分である。
【0017】
成分Bは非水溶性であることが好ましい。ここで言う「非水溶性」とは、下記方法により測定される非水溶性成分の割合が85質量%以上であることを意味する。
成分Bは、炭素数が14以上24未満である脂肪酸基を含むことが好ましく、また、多価アルコール部分が脂肪酸基との間でエステル化されていることが好ましい。これにより、前記非水溶性に寄与する。
また、成分Bの固化点が30℃以上であることが好ましい。これによって、成分Bが室温(23℃)で固体の状態で存在し、水に溶け出しにくくなっている。
【0018】
(成分Bの非水溶性の測定方法)
前記(各構成成分の抽出方法)により抽出し、前記(成分A、成分Bの含有割合の測定方法)により成分Bを特定する。温度23℃、相対湿度(RH)50%の環境領域で、100mLビーカーに50mLの脱イオン水を入れる。直径1mm以下の粒子状態の0.5gの成分Bを脱イオン水中に添加し、24時間静置する。その後、成分Bを取り出すために、ろ紙を用いて減圧濾過を行う。その際、ろ紙は保持粒子径5μmのものを使用する(例えば、ADVANTEC社製定性ろ紙No.2)。減圧濾過を実施する前に、ろ紙の質量を測定しておく。減圧濾過を実施した際の、ろ紙と成分Bを24時間減圧乾燥させる。この減圧乾燥は、具体的には、温度40℃、減圧度を-0.04MPaとする。
減圧乾燥後のろ紙とろ紙上の成分Bの質量を測定し、減圧濾過前のろ紙の質量を減算することで水に不溶であった分の成分Bの質量を算出する。下記式(1)にて成分Bにおける非水溶性成分の割合を算出する。
(非水溶性成分の割合)=((減圧乾燥後のろ紙と成分B質量-減圧濾過前ろ紙質量)/計量時成分B質量)×100 (1)
【0019】
成分Bは、上記の作用をより高める観点から、繊維全体の質量に対する含有割合を、11質量%以上とすることが好ましく、15質量%以上とすることがより好ましく、18質量%以上とすることが更に好ましい。
また、成分Bは、繊維全体の質量に対する含有割合を、40質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることがより好ましく、25質量%以下とすることが更に好ましい。上記上限以下とすることにより、繊維の強度を維持することができる。
【0020】
成分Bが含む化合物の固化点は、上記作用をより良好にする観点から、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましい。
また、成分Bが含む化合物の固化点は、保存安定性を向上する観点から、100℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましく、80℃以下が更に好ましい。
【0021】
成分Bが含む化合物において、脂肪酸基の炭素数は、前述の非水溶性をより高める観点から、16以上が好ましく、18以上がより好ましく、20以上が更に好ましい。
また、脂肪酸基の炭素数は、本発明の繊維の親水性をより明確にする観点から、23以下が好ましく、22以下がより好ましい。
【0022】
本発明の繊維において、成分A及び成分Bを前述の含有割合にて含有することにより、本発明の繊維が水と接触したり水中にあったりしても成分Bの水への溶解が生じ難く、親水性が維持されやすい。その結果、本発明の繊維は、水系溶媒に対して濡れやすく、同時に水中でも親水化の性質が長く持続しやすいものとなる。
このような本発明の繊維は、例えばシート状の不織布とし、必要により種々の水溶性液を含浸させて使用することができる。本発明の繊維及び該繊維を含む不織布は、種々の繊維製品を構成するものとして含むことができる。該繊維製品としては、例えば、医療分野における足場材等、化粧品分野におけるスキンケアシート等が挙げられる。
【0023】
本発明の繊維は、前述の濡れやすさを有するものとして、下記に示す繊維の濡れ張力試験値が73mN/m以上であることが好ましい。前記濡れ張力試験値が高い程、本発明の繊維の濡れ性が高いことを示す。
【0024】
(繊維の濡れ張力試験方法)
まず、測定対象の繊維を用いて、坪量20g/m2、30mm×30mmの不織布を準備する。雰囲気温度23℃の環境領域で、準備した不織布を空中に水平に張設し、スポイトを用いて前記不織布の上面に濡れ張力試験液を0.02mL滴下する。試験液の滴下から2秒経過後に、前記滴下を行った不織布上面における試験液の状態を目視観察する。その観察において、試験液が不織布の厚み方向に透過又は面方向に拡散した場合は、表面張力のより大きな試験液に変更して同様の操作を行う。そして、試験液が不織布を透過できずにその液滴が不織布の上面に残った場合、又は面方向に拡散せずに該上面に濡れがほとんど認められない場合、斯かる場合の直前の滴下操作に使用した試験液、即ち、不織布を透過又は拡散できた試験液のうち表面張力が最大のものの表面張力を、当該不織布の雰囲気温度20℃における濡れ張力とする。濡れ張力試験液としては、富士フィルム和光純薬会社製の「ぬれ張力試験用混合液」(商品名)を用いる。これはJIS K 6768:1999に従い調製した、エチレングリコールモノエチルエーテル、ホルムアミド、メタノール及び水の混合液である。
【0025】
本発明の繊維は、前述の親水性を有するものとして、下記に示す「成分Bが含む化合物を板状にして測定される水の接触角」が46°以下であることが好ましく、9.2°以上45.9°以下であることがより好ましい。前記接触角が小さい程、親水性が高いことを示す。
【0026】
(成分Bが含む化合物の接触角の測定方法)
まず、成分Bが含む化合物を熱溶融し、板状に成形する。成形板の大きさを5cm×5cmとし、厚みを1mmとする。前記成形板に対して液滴法を用いて接触角を測定する。
具体的には、測定装置として、協和界面科学株式会社製の自動接触角計MCA-Jを用いる。滴下液として脱イオン水を用いる。温度25度、相対湿度(RH)65%の環境領域において、インクジェット方式水滴吐出部(クラスターテクノロジー株式会社製、吐出部孔径が25μmのパルスインジェクターCTC-25)から吐出される液量を1μmに設定して、水滴を成形板の真上に滴下する。滴下の様子を水平に設置されたカメラに接続された高速度録画装置に録画する。録画装置は後に画像解析や画像解析をする観点から、高速度キャプチャー装置が組み込まれたパーソナルコンピュータが望ましい。本測定では、17msec毎に画像が録画される。録画された映像において、不織布から取り出した繊維に水滴が着滴した最初の画像を、付属ソフトFAMAS(ソフトのバージョンは2.6.2、解析手法は液滴法、解析方法はθ/2法、画像処理アルゴリズムは無反射、画像処理イメージモードはフレーム、スレッシホールドレベルは200、曲率補正はしない、とする)にて画像解析を行い、水滴の空気に触れる面と成形板とのなす角を算出し、接触角とする。
【0027】
本発明の繊維において、成分Aが含む脂肪族ポリエステルは種々のものを用いることができる。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン(以下、PCLともいう)、ポリブチレンサクシネート(以下、PBSともいう)、ポリブチレンサクシネートアジペート(以下、PBSAともいう)、ポリジオキサノン(以下、PDOともいう)から選ばれる1又は2以上を含むことが好ましい。
その中でも、生分解性である化合物を含むことがより好ましい。これにより、本発明の繊維が環境中へ流出した場合(例えば、本発明の繊維を用いてなる不織布を化粧品材として用い、再利用等のために洗浄する際に繊維が流された場合)に環境への影響を軽減することができる。なお、ここで言う「生分解性」とは、JIS K 6953-1に準じて測定されるポリエステルの生分解度が30%以上のものをいう。
生分解性である脂肪族ポリエステルの具体例としては、PCL、PBS、PBSA、PDOから選ばれる1又は2以上を含むことが好ましい。その中でも、生分解性の高さからPCLを含むことが好ましい。
【0028】
本発明の不織布において、成分Bは、固化点30℃以上で非水溶性であり、炭素数が14以上24未満である脂肪酸基を含むものを種々用いることができる。例えば、グリセリン脂肪酸エステル化合物及びポリグリセリン脂肪酸エステル化合物から選ばれる1又は2以上を含むことが好ましい。本発明の繊維の親水性をより高める観点から脂肪酸基の数と水酸基の数の比(脂肪酸基の数/水酸基の数)が0.6以下であることが好ましい。
また、成分Bが含む化合物は、炭素原子同士が単結合された骨格を有することが好ましく、該骨格が直鎖であることがより好ましい。更に、脂肪酸基は、前述の通り繰り返し単位を有さないことが好ましい。
【0029】
前記グリセリン脂肪酸エステル化合物としては、例えば、ベヘン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル及びミリスチン酸グリセリルから選ばれる1又は2以上を含むことが好ましい。
前記ポリグリセリン脂肪酸エステル化合物としては、例えば、ペンタステアリン酸ポリグリセリル及びペンタベヘン酸ポリグリセリルから選ばれる1又は2以上を含むことが好ましい。
【0030】
このような本発明の繊維において、前述の親水性をより高めて一段と濡れやすくする観点から、成分Aが繊維の芯部層を構成して該繊維の長手方向(繊維長方向)に延在し、成分Bの一部が繊維表面(すなわち成分Aの芯部層の表面)に配されていることが好ましい。この場合、成分Bは繊維の内部に存在しつつも、その一部が繊維表面側に表出されることとなる。また、繊維の内部にある成分Bは、成分Aの熱可塑性樹脂と混合されているものがあってもよい。
また同様の観点から、
図1に示す構成繊維1のように、成分Aの芯部層2の周囲表面を成分Bの一部が表皮層3として被覆していることが好ましい。その際、成分Bの表皮層3と成分Aの芯部層2との成分濃度の界面が明瞭でなくてもよく、ぼやけていることが好ましい。また、成分Bの表皮層3は、繊維表面の全体を被覆していてもよく、部分的に被覆していてもよい。部分的に被覆する場合、成分Bの表皮層3のある領域の中に成分Bの表皮層3の無い領域を含む海島構造の配置でもよく、成分Bの表皮層3のある領域と無い領域とが分かれた配置でもよい。
【0031】
本発明の繊維において、前述の成分A及び成分Bを特定の含有割合で含むことにより、後述の製造方法にてより細い繊維となることができ、その繊維径の均一性も高められる。
そのため、本発明の繊維を用いて製造する不織布は、平均繊維径を0.1μm以上5μm以下とすることが好ましい。このような極細繊維を構成繊維として含む不織布は、木目が細かくて柔らかい肌触りとなる。また、毛管力がより高いものとなる。すなわち、本発明の繊維は、0.1μm以上5μm以下の繊維径を有することが好ましい。
この不織布に例えば様々な親水性溶液を含浸させて化粧品材とした場合、肌への負担が少なく、前記親水性溶液を肌へと供給する際の徐放性を高めて、その作用をより長く持続させることができる。また、親水化の性質が長く持続しやすいことから、一旦使用した後も洗浄することにより繰り返し使用が可能となる。
その際、成分Aが生分解性である化合物を含むと、前記洗浄時に繊維の一部が流れ出たとしても、環境への負荷が低減される。
【0032】
上記の観点から、本発明の繊維を用いて製造する不織布の平均繊維径は4μm以下がより好ましく、2.5μm以下が更に好ましい。
また、前記平均繊維径は、繊維の強度を向上させる観点から、0.2μm以上がより好ましく、0.5μm以上が更に好ましい。
すなわち、本発明の繊維は、上記範囲の繊維径を有することがより好ましい。
【0033】
(平均繊維径の測定方法)
走査性電子顕微鏡観察による二次元画像から、繊維の塊、構成繊維の交差部分、ポリマー液滴といった欠陥を除いた繊維を任意に200本選び出し、繊維1本1本の長手方向(繊維長方向)に直交する幅(構成繊維の長手方向に直交する断面において、繊維の中心を通る線を引いたときの長さ)を測定する。その値の合計を測定した繊維本数で除して、測定対象の不織布の平均繊維径とする。なお、繊維の長手方向に直交する断面が円でない場合、上記の平均繊維径を円相当直径に換算する。
【0034】
次に本発明の繊維の製造方法の好ましい実施形態について説明する。
本実施形態の繊維の製造方法は、成分Aを50質量%以上と、成分Bを10%以上とを含む熱可塑性樹脂組成物を用いることが好ましい。ここで用いる成分Aは前述の通り脂肪族ポリエステルである。成分Bは、前述のとおり、多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物であって、固化点30℃以上で非水溶性であり、炭素数が14以上24未満である脂肪酸基を含む化合物である。
前記熱可塑性樹脂組成物(成分A+成分B)に対し、加熱溶融する(I)の工程及びノズルから吐出する(II)の工程を行うことが好ましい。
【0035】
前記(I)の工程においては、例えば、ホッパーを介して、該ホッパーに接続された筐体内に、成分Aと成分Bとを投入する。筐体内でこれら成分A及び成分Bを加熱溶融して、前記熱可塑性樹脂組成物の溶融液(以下、単に樹脂混合溶融液ともいう)を作製する。この樹脂混合溶融液をスクリューの回転、もしくは空気等による圧力により吐出用のノズルに向けて押し出し、ノズル先端部の吐出口へと供給する。この場合のノズルは、1本でもよく複数本でもよい。
次に、前記(II)の工程において、供給された樹脂混合溶融液をノズルから吐出し、紡糸を行う。吐出された樹脂混合溶融液は、ノズル先端部の吐出口から離れるに従って延伸、冷却されて固化されていき、繊維となる。このとき、ノズル先端部の吐出口の孔径を適宜設定することにより、前述の極細繊維を紡糸することができる。これにより、好ましくは平均繊維径5μm以下の不織布を製造することができる。この工程において、固化点が異なる成分Aと成分Bが紡糸されると、固化点の高い方が紡糸中に早く固まるため安定となる。空気と溶融樹脂の界面として安定な状態のものが形成されるため、固化しやすいものが空気側にできることになり、固化点の違いにより、前述の芯部層2と表皮層3ができやすい。
【0036】
前記(II)の工程において、前記熱可塑性樹脂組成物の溶融液のノズルからの吐出速度は、0.1g/分・ノズル以上とすることが好ましく、0.2g/分・ノズル以上とすることがより好ましく、0.5g/分・ノズル以上とすることが更に好ましい。
また、前記熱可塑性樹脂組成物の溶融液のノズルからの吐出速度は、10g/分・ノズル以下とすることが好ましく、5g/分・ノズル以下とすることがより好ましく、2g/分・ノズル以下とすることが更に好ましい。
【0037】
樹脂混合溶融液のノズル吐出時の粘度は、紡糸時の千切れ抑制の観点から、1Pa・s以上が好ましく、2Pa・s以上がより好ましく、5Pa・s以上が更に好ましい。
また、樹脂混合溶融液のノズル吐出時の粘度は、粘性を下げて繊維を細くし易くする観点から、20Pa・s以下が好ましく、15Pa・s以下がより好ましく、10Pa・s以下が更に好ましい。
【0038】
(樹脂混合溶融液の粘度の測定方法)
回転型レオメーターを用いて溶融粘度の測定を行う。具体的にはアントンパール社製MCR305装置を用いて測定を行う。測定治具にΦ50mmのパラレルプレートを用いて、せん断速度0.1s-1にて粘度測定を行う。測定時温度については、紡糸条件に合わせた温度に設定する。サンプルをプレートにセットし、樹脂が溶融した後にクリアランスを1mmにセットし、Φ50mmのパラレルプレートからはみ出した部分をトリミングする。その後、サンプルが測定温度に到達するまで待ち、その後、測定をスタートする。粘度値の取得は回転がスタートしてから、100秒後の値を測定値として使用する。
【0039】
本実施形態の繊維の製造方法は、前記(II)の工程において、加熱流体の吹き付け処理を行うことが好ましい。この吹き付けは、ノズルから吐出する樹脂混合溶融液が完全に固化する前の状態に対して行う。吹き付けた加熱流体の熱により、吐出した樹脂混合溶融液をより積極的に延伸することができ、一層極細の繊維を形成することができる。加熱流体の吹き付けは、樹脂混合溶融液の吐出方向に沿って行ってもよく、吐出方向と交差する方向に行ってもよい。
【0040】
前記加熱流体の温度は、上記の延伸をより効果的にする観点から、成分Aの固化点より高いことが好ましい。
具体的には、加熱流体の温度と成分Aの固化点との差は、30℃以上が好ましく、40以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。
また、加熱流体の温度と成分Aの固化点との差は、樹脂の分解抑制の観点から、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下が更に好ましい。
【0041】
本実施形態の繊維の製造方法は、前記(II)の工程において、静電紡糸処理を行うことが好ましい。この静電紡糸処理は、前述の加熱流体の吹き付け処理と共に行ってもよく、加熱流体の吹き付け処理に代えて行ってもよい。
静電紡糸処理は、電界紡糸法(エレクトロスピニング法)とも呼ばれる処理であり、樹脂が吐出されるノズルを直接または間接的に帯電させて樹脂に電荷を付与し紡糸する処理である。これにより、より積極的に延伸することができ、一層極細の繊維を形成することができる。例えば、ノズルと離間して対応する位置に、帯電電極と該帯電電極に接続された高電圧発生装置を配置する。この構成によって、ノズル先端部と帯電電極との間に高電圧を印加して両者間に電場を形成することができ、ノズル先端部から吐出される樹脂混合溶融液を帯電することができる。帯電電極は金属などの導電性材料で構成されているか、誘電体で覆われていることが好ましい。
【0042】
本実施形態の繊維の製造方法において、成分A及び成分Bに加えて、本発明の効果を損なわない限り、更に他の剤を含ませてもよい。例えば、上記の帯電量を増加させる観点から、電荷調整剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤等が挙げられる。また、これ以外に、酸化防止剤、中和剤、光安定剤、紫外線吸収剤などが含まれていてもよい。
【0043】
このようにして本実施形態の繊維の製造方法により得られる繊維を捕集してシート状に形成する工程を経て、不織布を好適に製造することができる。例えば、ノズル先端部から吐出した樹脂混合溶融液を冷却、延伸しながら捕集部にて捕集してシート状に堆積させることで不織布化することができる。前記捕集部は、捕集性を高める観点から、捕集電極と該捕集電極に接続された高電圧発生装置を備えることが好ましい。この捕集部における捕集電極及び高電圧発生装置は、前述の帯電電極及び高電圧発生装置を兼ねてもよく、これとは別に設けてもよい。
本実施形態の不織布の製造方法においては、前述のとおり、成分Aと成分Bとの樹脂混合溶融液から極細繊維を均一に効率良く高速製造することができるため、より大きな面積の本発明の不織布を、実際の製造ラインにて工業的に効率良く製造することができる。
【0044】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の繊維、不織布及び繊維製品を開示する。
【0045】
<1>
繊維全体の質量に対し、下記の成分Aを50質量%以上、下記の成分Bを10質量%以上含み、前記繊維の内部に前記成分A及び成分Bを含む、繊維。
成分A:脂肪族ポリエステル
成分B:多価アルコールと脂肪酸のエステル化合物であって、非水溶性で、固化点が30℃以上であり、炭素数が14以上24未満である脂肪酸基を含む、化合物
【0046】
<2>
前記繊維の濡れ張力試験値が73mN/m以上である、前記<1>に記載の繊維。
<3>
前記成分Bは板状にして測定される水の接触角が46°以下である化合物を含む、前記<1>又は<2>に記載の繊維。
<4>
前記成分Aは生分解性である化合物を含む、前記<1>~<3>のいずれ1に記載の繊維。
<5>
前記生分解性とは、JIS K 6953-1に準じて測定されるポリエステルの生分解度が30%以上をいう、前記<4>に記載の繊維。
<6>
前記成分Aはポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリジオキサノンから選ばれる1又は2以上を含む、前記<1>~<5>のいずれか1に記載の繊維。
<7>
前記成分Aはポリカプロラクトンを含む、前記<6>に記載の繊維。
<8>
前記成分Bは一部が繊維表面に配されている、前記<1>~<7>のいずれか1に記載の繊維。
【0047】
<9>
前記成分Aの含有割合は繊維全体の質量に対し、55質量%以上90質量%以下であり、好ましくは60質量%以上87質量%以下であり、より好ましくは75質量%以上85質量%以下である、前記<1>~<8>のいずれか1に記載の繊維。
<10>
前記成分Bは脂肪酸基の数と水酸基の数の比(脂肪酸基/水酸基)が0.6以下である、前記<1>~<9>のいずれか1に記載の繊維。
<11>
前記成分Bは脂肪酸基に繰り返し単位が無い化合物を含む、前記<1>~<10>のいずれか1に記載の繊維。
<12>
前記成分Bが含む化合物の脂肪酸基は飽和脂肪酸基であり、前記飽和脂肪酸基は直鎖飽和脂肪酸であることが好ましい、前記<1>~<11>のいずれか1に記載の繊維。
<13>
成分Bが含む化合物の親水基の分子量は100g/mol以下である、前記<1>~<12>のいずれか1に記載の繊維。
<14>
前記成分Bの含有割合は繊維全体の質量に対し、11質量%以上40質量%以下であり、好ましくは15質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは18質量%以上25質量%以下である、前記<1>~<13>のいずれか1に記載の繊維。
<15>
前記成分Bが含む化合物の固化点は、40℃以上100℃以下であり、好ましくは50℃以上90℃以下であり、より好ましくは70℃以上80℃以下である、前記<1>~<14>のいずれか1に記載の繊維。
<16>
前記成分Bが含む化合物の脂肪酸基の炭素数は、16以上23以下であり、好ましくは18以上22以下であり、より好ましくは20以上22以下である、前記<1>~<15>のいずれか1に記載の繊維。
<17>
前記成分Bは板状にして測定される水の接触角が9.2°以上45.9°以下である化合物を含む、前記<1>~<16>のいずれか1に記載の繊維。
<18>
前記成分Bは、グリセリン脂肪酸エステル化合物及びポリグリセリン脂肪酸エステル化合物から選ばれる1又は2以上を含む、前記<1>~<17>のいずれか1に記載の繊維。
<19>
前記成分Bは、ベヘン酸グリセリル、ペンタステアリン酸ポリグリセリル及びミリスチン酸グリセリルから選ばれる1又は2以上を含み、好ましくはベヘン酸グリセリルを含む、前記<1>~<18>のいずれか1に記載の繊維。
【0048】
<20>
前記繊維の繊維径が0.1μm以上5μm以下である、前記<1>~<19>のいずれか1に記載の繊維。
<21>
前記繊維の繊維径が0.5μm以上2.5μm以下である、前記<1>~<19>のいずれか1に記載の繊維。
<22>
前記<1>~<21>のいずれか1に記載の繊維を含む不織布。
<23>
前記不織布の平均繊維径が0.1μm以上5μm以下である、前記<22>に記載の不織布。
<24>
前記不織布の平均繊維径が0.5μm以上2.5μm以下である、前記<22>に記載の不織布。
<25>
前記<1>~<21>のいずれか1に記載の繊維、又は、前記<22>~<24>のいずれか1に記載の不織布を含む繊維製品。
<26>
前記繊維製品がスキンケアシートである前記<25>に記載の繊維製品。
【実施例0049】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。なお、本実施例において「部」および「%」は、特に断らない限りいずれも質量基準である。表1において、「←」は左側の欄と同じ内容であることを意味し、「-」はその項目に該当する値等が無いことを意味する。表1記載の化合物の詳細は表2の通り。
【0050】
(実施例1~3)
成分AをPCLとし、成分Bをベヘン酸グリセリルとして、表1に示す割合で混合して熱可塑性樹脂組成物とした。該熱可塑性樹脂組成物の溶融液を作製し、ノズル1本を用いて溶融エレクトロスピニング法により、実施例1~3の繊維試料を作製した。また、紡糸すると同時に前記繊維を堆積させて、実施例1~3の不織布試料(坪量5g/m
2)を作製した。該不織布試料の平均繊維径は2μmとなった。前記溶融エレクトロスピニング法において、印加電圧は-10kVした。また、前記ノズルより吐出した溶融状態の熱可塑性樹脂組成物に対し、180℃の加熱流体を吹き付けて延伸を行った。実施例1及び2の繊維試料は、
図1に示すように成分Bの表皮層が成分Aの芯部層を被覆する構造を有していた。
【0051】
(実施例4及び5)
成分Bを表1及び2に示す化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例3及び4の繊維試料及び不織布試料を作製した。
【0052】
(比較例1)
成分Bを用いなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1の繊維試料及び不織布試料を作製した。
【0053】
(比較例2)
成分Bの含有割合を5質量%とした以外は、実施例1と同様にして比較例2の繊維試料及び不織布試料を作製した。比較例2の繊維試料では、成分Bが繊維表面に配される構造は見られなかった。
(比較例3)
成分Bに代えて表1及び2に示す化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例3の繊維試料及び不織布試料を作製した。
(比較例4)
成分Bに代えて表1及び2に示す化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例4の繊維試料及び不織布資料の作製を試みた。しかし、紡糸過程において、発煙を生じたため、繊維試料及び不織布試料を得ることが出来なかった。
(比較例5)
成分Aを表1及び2の化合物とし、成分A単体で実施例1と同様の方法にて繊維を作製した。成分Bを熱溶融させ、液体になったところに成分Aの繊維を浸漬させることで比較例5の繊維試料及び不織布試料を作製した。
(比較例6)
成分Bに代えて表1及び2に示す化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例6の繊維試料及び不織布試料を作製した。
【0054】
前述の各実施例及び各比較例について、濡れ張力、成分Bの接触角を測定した。これらは、前述の(繊維の濡れ張力試験方法)及び(成分Bの接触角の測定方法)に基づいて測定した。また、水中での親水性の持続性については、下記の(繊維における親水化の性質持続性確認方法)に基づいて測定した。
(繊維における親水化の性質持続性確認方法)
温度23℃、相対湿度(RH)50%の環境領域で、100mLビーカーに50mLの脱イオン水を入れ、繊維を0.5g取り出し、脱イオン水中に24時間静置した。その後、繊維を取り出し、ろ紙に挟み、2kgの錘で10分間荷重し、十分に脱イオン水を取った。その繊維の脱イオン水をさらに除去するために、減圧乾燥を行った。具体的には、温度40℃、圧力-0.04MPaで24時間乾燥させた。その後、繊維に対し前述の(繊維の濡れ張力試験方法)と同様に濡れ張力試験を実施し、脱イオン水中で保管する前の値と同じであるかを確認した。その変化値が0の場合、親水化の性質を維持できていると判断した。変化値が0より大きい場合、親水化の性質が低減したと判断した。
(変化値)=(水中保管前の濡れ試験液値(表面張力))-(水中保管後の濡れ試験液値(表面張力))
【0055】
【0056】
【0057】
表1に示す通り、成分Bの含有割合が5%である比較例1に対し、実施例1~5において、紡糸後繊維の濡れ張力はすべて73mN/m以上であり、親水性が十分であった。即ち、濡れ張力試験液が73mN/mまでのもので透過したことを確認した。また、成分Bに代えて用いた化合物が液状である比較例3と比べ、実施例1~5では水中での親水性の持続性についても、水に浸漬する前と変化が無かった。成分Bに代えて用いた化合物の炭素数14未満であった比較例4と比べ、実施例1~5は首尾よく繊維試料を得ることができた。成分Aに代えてポリプロピレンを用い、成分Bを後添加した比較例5と比べ、実施例1~5は濡れ張力試験液が73mN/mまで透過した上に、水中での親水性の持続性についても、水に浸漬する前と変化が無かった。