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特開2024-81635PKRおよびeIF2A-P経路によるRANタンパク質翻訳の調節
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081635
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】PKRおよびeIF2A-P経路によるRANタンパク質翻訳の調節
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240611BHJP
   A61P 25/00 20060101ALN20240611BHJP
   A61P 25/14 20060101ALN20240611BHJP
   A61P 21/04 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P25/00
A61P25/14
A61P21/04
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024025160
(22)【出願日】2024-02-22
(62)【分割の表示】P 2019556606の分割
【原出願日】2018-04-17
(31)【優先権主張番号】62/486,424
(32)【優先日】2017-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/563,588
(32)【優先日】2017-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】501453307
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ フロリダ リサーチ ファンデーション, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラヌム,ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】ズ,タオ
(57)【要約】
【課題】リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳をモジュレートするための方法および組成物が提供される。
【解決手段】いくつかの側面において、本開示は、細胞を、有効量の、eIF2リン酸化のインヒビターまたはプロテインキナーゼR(PKR)のインヒビターに接触させることによる、RANタンパク質翻訳を阻害する方法を提供する。いくつかの態様において、本開示によって記述される方法は、ある神経変性疾患などのRANタンパク質翻訳と関連する疾患を処置するために有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳を阻害する方法であって、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)を発現する細胞を、有効量の真核生物開始因子2(eIF2)モジュレート剤またはプロテインキナーゼR(PKR)モジュレート剤に接触させることを含む、前記方法。
【請求項2】
RANタンパク質が、ポリ-アラニン、ポリ-ロイシン、ポリ-セリン、ポリ-システイン、ポリ-グルタミン、ポリ-Leu-Pro-Ala-Cys、ポリ-Gln-Ala-Gly-Arg、ポリ-Gly-Pro、ポリ-Gly-Arg、ポリ-Gly-Ala、またはポリ-Pro-Ala、ポリ-Pro-Arg、ポリ-Gly-Proである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
RANタンパク質が、少なくとも35のポリ-アミノ酸リピートを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
RANタンパク質が、ハンチントン病(HD、HDL2)、脆弱X症候群(FRAXA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)、脊髄小脳失調症1(SCA1)、脊髄小脳失調症2(SCA2)、脊髄小脳失調症3(SCA3)、脊髄小脳失調症6(SCA6)、脊髄小脳失調症7(SCA7)、脊髄小脳失調症8(SCA8)、脊髄小脳失調症12(SCA12)または脊髄小脳失調症17(SCA17)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳失調症36型(SCA36)、脊髄小脳失調症29型(SCA29)、脊髄小脳失調症10型(SCA10)、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)、筋強直性ジストロフィー2型(DM2)、またはフックス角膜内皮ジストロフィー(例として、CTG181)と関連する遺伝子によってコードされる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
eIF2モジュレート剤が、eIF2αのリン酸化を阻害するか、eIF2Aの発現もしくは活性を阻害するか、または、eIF2αのリン酸化およびeIF2Aの発現もしくは活性を阻害する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
eiF2モジュレート剤またはPKRモジュレート剤が、プロテインキナーゼR(PKR)発現もしくは活性を阻害する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
eIF2モジュレート剤またはPKRモジュレート剤が、タンパク質、核酸、または小分子である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
eIF2モジュレート剤またはPKRモジュレート剤が、式(I)
【化1】

で表される化合物、またはその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体、またはプロドラッグであり、ここで:
は、水素、任意に置換されたアルキル、または窒素保護基であり;および、
は、水素、任意に置換されたアルキル、または窒素保護基である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
が、水素である、請求項8に記載された化合物。
【請求項10】
が、非置換のC1~6アルキルである、請求項8に記載された化合物。
【請求項11】
が、非置換のC1~6アルキルである、請求項8~10のいずれか一項に記載された化合物。
【請求項12】
が、非置換のn-ブチルである、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
が、非置換のメチルである、請求項11に記載の化合物。
【請求項14】
が、置換されたC1~6アルキルである、請求項8~10のいずれか一項に記載された化合物。
【請求項15】
が、式:
【化2】

で表される、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
およびRが、両方とも、非置換のメチルである、請求項8~13のいずれか一項に記載された化合物。
【請求項17】
化合物が、式:
【化3】

(メトホルミン)、
【化4】

(ブホルミン)、
【化5】

(フェンホルミン)、
で表されるものであるか、またはその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体、またはプロドラッグである、請求項8に記載された化合物。
【請求項18】
eIF2モジュレート剤が、阻害性核酸である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
阻害性核酸が、dsRNA、siRNA、shRNA、mi-RNAおよび人工miRNA(ami-RNA)からなる群から選択される干渉RNAである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
阻害性核酸が、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)または核酸アプタマー、任意に、RNAアプタマーである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
eIF2モジュレート剤が、タンパク質である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
タンパク質が、プロテインキナーゼR(PKR)のドミナントネガティブバリアントである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
ドミナントネガティブバリアントが、アミノ酸位置296での突然変異を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
突然変異が、K296Rである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
eiF2モジュレート剤が、ベクターによって細胞へ送達される、請求項1~7および18~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
ベクターが、ウイルスベクター、任意に、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
rAAVが、AAV9カプシドタンパク質またはそのバリアントを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
細胞が、対象の中に位置する、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
細胞が、対象の脳中、任意に、脳の白質中に位置する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患のための追加の治療剤を投与することをさらに含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
追加の治療剤が、抗体、任意に、RANリピート伸長へ特異的に結合する抗体、またはリピート伸長に対してC末端であるRANタンパク質の固有の領域へ特異的に結合する抗体、あるいは、さらなる阻害性核酸である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患を処置する方法であって、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)を発現している対象へ、有効量の真核生物開始因子2(eIF2)モジュレート剤またはPKRモジュレート剤を投与することを含む、前記方法。
【請求項33】
対象が、哺乳動物であり、任意に、対象はヒトである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
RANタンパク質が、ポリ-アラニン、ポリ-ロイシン、ポリ-セリン、ポリ-システイン、ポリ-グルタミン、ポリ-Leu-Pro-Ala-Cys、ポリ-Gln-Ala-Gly-Arg、ポリ-Gly-Pro、ポリ-Gly-Arg、ポリ-Gly-Ala、またはポリ-Pro-Ala、ポリ-Pro-Arg、ポリ-Gly-Proである、請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
RANタンパク質が、少なくとも35のポリ-アミノ酸リピートを含む、請求項32~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患が、 ハンチントン病(HD、HDL2)、脆弱X症候群(FRAXA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)、脊髄小脳失調症1(SCA1)、脊髄小脳失調症2(SCA2)、脊髄小脳失調症3(SCA3)、脊髄小脳失調症6(SCA6)、脊髄小脳失調症7(SCA7)、脊髄小脳失調症8(SCA8)、脊髄小脳失調症12(SCA12)または脊髄小脳失調症17(SCA17)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳失調症36型(SCA36)、脊髄小脳失調症29型(SCA29)、脊髄小脳失調症10型(SCA10)、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)、筋強直性ジストロフィー2型(DM2)、またはフックス角膜内皮ジストロフィー(例として、CTG181)である、請求項32~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
eIF2モジュレート剤またはPKRモジュレート剤が、タンパク質、核酸、または小分子である、請求項32~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
eIF2モジュレート剤が、阻害性核酸である、請求項32~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
阻害性核酸が、dsRNA、siRNA、shRNA、mi-RNAおよび人工miRNA(ami-RNA)からなる群から選択される干渉RNAである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
阻害性核酸が、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)または核酸アプタマー、任意に、RNAアプタマーである、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
eIF2モジュレート剤が、タンパク質である、請求項32~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
タンパク質が、プロテインキナーゼR(PKR)のドミナントネガティブバリアントである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
ドミナントネガティブバリアントが、アミノ酸位置296での突然変異を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
突然変異が、K296Rである、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
eiF2モジュレート剤が、ベクターによって細胞へ送達される、請求項32~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
ベクターが、ウイルスベクター、任意に、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
rAAVが、AAV9カプシドタンパク質またはそのバリアントを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
eIF2モジュレート剤またはPKRモジュレート剤が、式(I)
【化6】

で表される化合物、またはその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体、またはプロドラッグであり、ここで:
は、水素、任意に置換されたアルキル、または窒素保護基であり;および
は、水素、任意に置換されたアルキル、または窒素保護基である、請求項32~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
が、水素である、請求項48に記載された化合物。
【請求項50】
が、非置換のC1~6アルキルである、請求項48に記載された化合物。
【請求項51】
が、非置換のC1~6アルキルである、請求項48~50のいずれか一項に記載された化合物。
【請求項52】
が、非置換のn-ブチルである、請求項51に記載の化合物。
【請求項53】
が、非置換のメチルである、請求項51に記載の化合物。
【請求項54】
が、置換されたC1~6アルキルである、請求項48~50のいずれか一項に記載された化合物。
【請求項55】
が、式:
【化7】

で表される、請求項54に記載の化合物。
【請求項56】
およびRが、両方とも、非置換のメチルである、請求項48~53のいずれか一項に記載された化合物。
【請求項57】
化合物が、式:
【化8】

(メトホルミン)、
【化9】

(ブホルミン)、
【化10】

(フェンホルミン)、
で表されるものであるか、またはその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体、またはプロドラッグである、請求項48に記載の化合物。
【請求項58】
リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患のための追加の治療剤を投与することをさらに含む、請求項32~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
追加の治療剤が、抗体、任意に、RANリピート伸長へ特異的に結合する抗体、またはリピート伸長に対してC末端であるRANタンパク質の固有の領域へ特異的に結合する抗体、あるいは、さらなる阻害性核酸である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
eIF2モジュレート剤またはPKRモジュレート剤が、対象へ全身投与され、任意に、これが静脈注射などの注射による、請求項32~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
eIF2モジュレート剤またはPKRモジュレート剤が、対象のCNSへ投与され、任意に、これが脳室内(ICV)注射などの注射による、請求項32~59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
(i)カプシドタンパク質;および
(ii)プロモーターに作動可能に連結されたeIF2モジュレート剤をコードする導入遺伝子を含む核酸
を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
【請求項63】
カプシドタンパク質が、AAV9カプシドタンパク質またはそのバリアントである、請求項62に記載のrAAV。
【請求項64】
eIF2モジュレート剤が、タンパク質または阻害性核酸である、請求項62または63に記載のrAAV。
【請求項65】
導入遺伝子が、プロテインキナーゼR(PKR)のドミナントネガティブバリアントをコードする、請求項62~64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
ドミナントネガティブバリアントが、アミノ酸位置296での突然変異を含む、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
突然変異が、K296Rである、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
核酸が、少なくとも1つの逆方向末端反復(ITR)、任意に、AAV2 ITRを、さらに含む、請求項62~67のいずれか一項に記載のrAAV。
【請求項69】
注射による送達のために製剤化されている、請求項62~68のいずれか一項に記載のrAAV。
【請求項70】
請求項62~69のいずれか一項に記載のrAAVおよび薬学的に許容し得る賦形剤を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、2017年4月17日に出願された米国仮特許出願番号62/486,424および2017年9月26日に出願された米国仮特許出願番号62/563,588の35 U.S.C.§119(e)下の利益を主張し、その各々の全内容が参照により本明細書に組み込まれる。
連邦政府による資金提供を受けた研究
この発明は、国立衛生研究所によって授与された認可番号NS098819、NS040389、およびNS058901の下、政府の支援によりなされた。政府は発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
背景
リピート関連非ATGリピート関連非ATG(RAN)翻訳の最初の発見以来、ますます多くの疾患関連リピートが、RAN翻訳を経ることが見出されている。RANタンパク質毒性は、トランスフェクトされた細胞およびモデル系において示されており、疾病病因へのRAN翻訳の関連性を暗示するものの、RAN翻訳のメカニズムへの理解は、RAN翻訳の最初の発見以来進歩していない。
【発明の概要】
【0003】
概要
本開示の側面は、細胞(例として、対象の細胞)中におけるリピート関連非ATG(RAN)タンパク質翻訳を低減または阻害するための方法および組成物に関する。いくつかの側面において、本開示は、真核生物開始因子2-アルファ(eIF2α)リン酸化(例として、eIF2α-Pの活性)および/または代替的な真核生物開始因子2A(eIF2A)の発現もしくは活性を阻害することが、RANタンパク質翻訳を阻害する、という認識に関する。いくつかの側面において、本開示は、プロテインキナーゼR(PKR)発現または活性を阻害することがRANタンパク質翻訳を阻害するという認識に関する。
【0004】
したがって、いくつかの側面において、本開示は、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳を阻害する方法を提供し、方法は、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)を発現する細胞を、有効量の真核生物開始因子2(eIF2)モジュレート剤に接触させることを含む。いくつかの側面において、本開示は、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳を阻害する方法を提供し、方法は、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)を発現する細胞を、有効量のプロテインキナーゼR(PKR)モジュレート剤に接触させることを含む。
【0005】
いくつかの側面において、本開示は、eIF2αの阻害および/またはeIF2αの発現もしくは活性の阻害、またはPKRの阻害(例として、PKR経路の阻害)が、対象の、ある組織(例として、脳組織)におけるRANタンパク質翻訳および蓄積を減少させるという認識に関する。よって、いくつかの側面において、本開示は、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患を処置する方法を提供し、方法は、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)を発現している対象へ、有効量の真核生物開始因子2(eIF2)モジュレート剤またはPKRモジュレート剤(例として、PKRインヒビター)を投与することを含む。いくつかの態様において、対象は、ヒトなどの哺乳動物である。
【0006】
いくつかの態様において、RANタンパク質は、ポリ-アラニン、ポリ-ロイシン、ポリ-セリン、ポリ-システイン、ポリ-グルタミン、ポリ-Leu-Pro-Ala-Cys、ポリ-Gln-Ala-Gly-Arg、ポリ-Gly-Pro、ポリ-Gly-Arg、ポリ-Gly-Ala、またはポリ-Pro-Ala、ポリ-Pro-Arg、ポリ-Gly-Proである。いくつかの態様において、RANタンパク質は、少なくとも35のポリ-アミノ酸リピートを含む。
いくつかの態様において、RANタンパク質は、ハンチントン病(HD、HDL2)、脆弱X症候群(FRAXA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)、脊髄小脳失調症1(SCA1)、脊髄小脳失調症2(SCA2)、脊髄小脳失調症3(SCA3)、脊髄小脳失調症6(SCA6)、脊髄小脳失調症7(SCA7)、脊髄小脳失調症8(SCA8)、脊髄小脳失調症12(SCA12)または脊髄小脳失調症17(SCA17)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳失調症36型(SCA36)、脊髄小脳失調症29型(SCA29)、脊髄小脳失調症10型(SCA10)、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)、筋強直性ジストロフィー2型(DM2)、またはフックス角膜内皮ジストロフィー(例として、CTG181)と関連する遺伝子によってコードされる。
【0007】
いくつかの態様において、eIF2モジュレート剤は、eIF2αのリン酸化を阻害するか、eIF2Aの発現もしくは活性を阻害するか、または、eIF2αのリン酸化およびeIF2Aの発現もしくは活性を阻害する。いくつかの態様において、eIF2モジュレート剤は、プロテインキナーゼR(PKR)発現または活性を阻害する。
いくつかの態様において、eIF2モジュレート剤は、タンパク質、核酸、または小分子である。
【0008】
いくつかの態様において、eIF2モジュレート剤は、阻害性核酸である。いくつかの態様において、阻害性核酸は、dsRNA、siRNA、shRNA、mi-RNA、および人工miRNA(ami-RNA)からなる群から選択される干渉RNAである。いくつかの態様において、阻害性核酸は、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)または核酸アプタマー、任意に、RNAアプタマーである。
いくつかの態様において、eIF2モジュレート剤は、タンパク質である。いくつかの態様において、タンパク質は、プロテインキナーゼR(PKR)のドミナントネガティブバリアントである。いくつかの態様において、ドミナントネガティブバリアントは、アミノ酸位置296での突然変異、例えばK296R突然変異を含む。
【0009】
いくつかの態様において、eIF2モジュレート剤またはPKRインヒビターは、小分子である。いくつかの態様において、小分子は、式(I)
【化1】

で表される化合物、またはその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体、またはプロドラッグであり、ここで:Rは、水素、任意に置換されたアルキル、または窒素保護基であり;および、Rは、水素、任意に置換されたアルキル、または窒素保護基である。
【0010】
いくつかの態様において、Rは、水素である。いくつかの態様において、Rは、非置換のC1~6アルキルである。
いくつかの態様において、Rは、非置換のC1~6アルキルである。いくつかの態様において、Rは、非置換のn-ブチルである。いくつかの態様において、Rは、非置換のメチルである。いくつかの態様において、Rは、置換されたC1~6アルキルである。いくつかの態様において、Rは、式:
【化2】

で表される。
【0011】
いくつかの態様において、RおよびRは、両方とも、非置換のメチルである。
いくつかの態様において、式(I)で表される化合物は、式:
【化3】

(メトホルミン)、
【化4】

(ブホルミン)、
【化5】

(フェンホルミン)、
で表されるものであるか、またはその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体、またはプロドラッグである。
【0012】
いくつかの態様において、eiF2モジュレート剤またはPKRモジュレート剤(例として、PKRインヒビター)は、ベクターによって細胞へ送達される。いくつかの態様において、ベクターは、ウイルスベクター、任意に、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)である。いくつかの態様において、rAAVは、AAV9カプシドタンパク質またはそのバリアントを含む。
いくつかの態様において、細胞は、対象の中に位置する。いくつかの態様において、細胞は、対象の脳中、任意に、脳の白質中に位置する。
【0013】
幾つかの態様において、本開示によって記述される方法は、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患のための追加の治療剤を投与することをさらに含む。いくつかの態様において、追加の治療剤は、抗体、任意に、RANリピート伸長へ特異的に結合する抗体、またはリピート伸長に対してC末端であるRANタンパク質の固有の領域へ特異的に結合する抗体、あるいは、さらなる阻害性核酸である。
【0014】
幾つかの態様において本開示によって記述される方法では、eIF2モジュレート剤またはPKRモジュレート剤(例として、PKRインヒビター)は、対象へ全身投与され、これは任意に、静脈内注射などの注射による。いくつかの態様において、eIF2モジュレート剤またはPKRモジュレート剤(例として、PKRインヒビター)は、対象のCNSへ投与され、これは任意に、脳室内(ICV)注射などの注射による。
【0015】
いくつかの側面において、本開示は、(i)カプシドタンパク質;および(ii)プロモーターに作動可能に連結されたeIF2モジュレート剤をコードする導入遺伝子を含む核酸を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)を提供する。
いくつかの態様において、カプシドタンパク質は、AAV9カプシドタンパク質またはそのバリアントである。いくつかの態様において、核酸は、少なくとも1つの逆方向末端反復(ITR)、任意に、AAV2 ITRを含む。いくつかの態様において、rAAVは、注射による送達のために製剤化されている。いくつかの側面において、本開示は、本開示によって記述されるとおりのrAAVおよび薬学的に許容し得る賦形剤を含む、医薬組成物を提供する。
【0016】
いくつかの側面において、本開示は、対象におけるリピート伸長と関連する神経学的疾患を処置するおよび/または予防するための方法を提供し、方法は、治療有効量の、式(I)
【化6】

で表される、ここで:Rは、水素、任意に置換されたアルキル、または窒素保護基であり;およびRは、水素、任意に置換されたアルキル、または窒素保護基である、化合物、または、その薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体、またはプロドラッグを、対象へ投与することを含む。
【0017】
いくつかの態様において、Rは、水素である。いくつかの態様において、Rは、非置換のC1~6アルキルである。
いくつかの態様において、Rは、非置換のC1~6アルキルである。いくつかの態様において、Rは、非置換のn-ブチルである。いくつかの態様において、Rは、非置換のメチルである。いくつかの態様において、Rは、置換されたC1~6アルキルである。いくつかの態様において、Rは、式:
【化7】
【0018】
いくつかの態様において、RおよびRは、両方とも、非置換のメチルである。
いくつかの態様において、式(I)で表される化合物は、式:
【化8】

(メトホルミン)、
【化9】

(ブホルミン)、
【化10】

(フェンホルミン)、
で表されるものであるか、またはその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体、またはプロドラッグである。
【0019】
いくつかの側面において、本開示は、対象、組織、または細胞における、リピート関連非ATGタンパク質(RAN)の蓄積を低減させる方法に関し、方法は、有効量のメトホルミンまたはその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体、またはプロドラッグ、またはその医薬組成物を、対象へ投与するか、または、生体試料(例として、組織または細胞)と接触させることを含む。いくつかの態様において、メトホルミンの誘導体は、式(I)
【化11】

で表される化合物、またはその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体、またはプロドラッグであり、ここで:R1は、水素、任意に置換されたアルキル、または窒素保護基であり;および、R2は、水素、任意に置換されたアルキル、または窒素保護基である。いくつかの態様において、メトホルミンの誘導体は、ブホルミンまたはフェンホルミンである。
【0020】
本開示の別の側面は、本明細書に記載のとおりの、メトホルミン、薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体もしくはプロドラッグまたはその医薬組成物、を有する容器を含む、キットに関する。本明細書に記載のキットは、化合物または医薬組成物の単回用量またはまたは複数回用量を包含してもよい。キットは、本開示の方法において有用であり得る。ある態様において、キットは、化合物または組成物を使用するための指示を、さらに包含する。本明細書に記載のキットは、米国食品医薬品局(FDA)などの規制機関によって要求されているとおりの情報(例として、処方情報)をもまた包含してもよい。
これらおよびその他の本願の側面は、本明細書においてより詳細に記載され、以下の非限定的な図面によって例示される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A-1B】図1A~1Eは、プロテインキナーゼR(PKR)がeIF2a-P経路を通じてCAG、CCTG、G4C2伸長のRAN翻訳を調節することを示す。図1Aは、リピート関連非ATG(RAN)翻訳へのPKRの影響を試験するのに使用したCAG、CCTGおよびGGGCCリピート伸長コンストラクトの図を示す。コンストラクトは、6×ストップコドンカセット、2つのストップを各リーディングフレーム中に、リピート伸長およびC末端エピトープタグの上流に有する。図1Bは、野生型(PKR-WT)、PKRのドミナントネガティブK296R突然変異形態(PKR-K296R)またはC末端のみのドメイン(PKR-CT)を発現するPKRベクターの図を示す。
図1C図1Cは、PKR-WTがCAG伸長コンストラクトからのポリAla RANタンパク質を増加させ;RRMモチーフを欠いたPKR-CTはポリAla RANレベルへの影響を有さず;ドミナントネガティブ突然変異体K296R PKRはポリAla RANレベルを減少させるということを示唆する、トランスフェクトされたHEK293T細胞の代表的な免疫ブロットを示す。eIF2α-Pのパネルは、PKRがeIF2α-Pのレベルを増加させること、PKR-CTは影響を有さないこと、および、PKR-K296RはeIF2α-Pの定常状態レベルを減少させることを示す。
【0022】
図1D-1E】図1Dは、PKR-WTがCCTG伸長コンストラクトからのポリLPAC RANタンパク質を増加させ;PKR-CTはLPAC RANレベルへの影響を有さず;ドミナントネガティブ突然変異体K296R PKRはポリLPAC RANレベルを減少させるということを示唆する、トランスフェクトされたHEK293T細胞の代表的な免疫ブロットを示す。eIF2α-Pのパネルは、PKRがeIF2α-Pの定常状態レベルを増加させ;PKR-CTはeIF2α-Pの定常状態レベルへの影響を有さず;PKR K296RはeIF2α-Pの定常状態レベルを減少させるということを示唆する。図1Eは、ポリGP RANタンパク質レベルを、PKR-WTは増加させ、PKR-CTはこれに影響を有さず、および突然変異体K296R PKRは減少させることを示す、ランスフェクトされたHEK293T細胞の代表的な免疫ブロットを示す。eIF2α-Pのパネルは、eIF2α-Pの定常状態レベルを、PKRは増加させ、PKR-CTはこれに影響を有さず、およびPKR-K296Rは減少させることを示す。
【0023】
図2A図2A~2Cは、eIF2α-PがHEK293T細胞においてRANタンパク質レベルを増加させることを示す。図2Aは、WTまたは突然変異型eIF2αおよびCAG伸長タンパク質(CAGexp)を発現するプラスミドで共トランスフェクトされたHEK293T細胞の代表的なタンパク質ブロットを示し、これはリン酸化模倣型eIF2α-S51D突然変異を過剰発現する細胞において、eIF2α-WTまたはリン酸化可能でないeIF2α-S51Aと比較して、増加したポリAla RANタンパク質レベルを示す。
図2B図2Bは、CAG、CTGおよびCCTGリピート伸長からそれぞれ発現するポリAla、ポリAlaおよびLPAC RANタンパク質が、eIF2α-Pのレベルを低減させるPKRインヒビターの存在下において減少することを示した代表的なタンパク質ブロットを示す。
図2C図2Cは、eIF2α-Pの下流効果を阻害するISIRBの存在下におけるポリAla RANタンパク質レベル減少を示した代表的なタンパク質ブロットを示す。
【0024】
図3A図3A~3Cは、C9-500 BACトランスジェニックマウスにおいて、PKR経路の阻害が、RANタンパク質集合体を減少させ、および行動的表現型を改善することを示す。図3Aは、500 G4C2リピートを含有するC9orf72 ALS/FTDのBACトランスジェニックマウスモデル(C9-500 BAC)へのAAV注射のために使用したAAV2/9コンストラクトの概略図を示す。
図3B-3C】図3Bは、C9-500 BACマウスからの脳梁膨大後部皮質の切片におけるGA RANタンパク質の、代表的な免疫組織化学的(IHC)染色、およびGA RANタンパク質集合体の定量を示す。図3Cは、ドミナントネガティブPKR(K296R)で処置されたC9-500 BAC動物は、EGFP対照動物と比較して、不安様行動を表す表現型である低減されたセンタータイムを示す、ということを示唆するオープンフィールド分析を示す。
【0025】
図4図4は、代替的なeIF2A開始因子がRAN翻訳を増加させることを示す。eIF2Aは、特定条件下でeIF2αの代替物として使用されることができる代替的な真核生物翻訳開始因子である。RANタンパク質を発現させるのに使用したコンストラクトは、6×ストップコドン(各リーディングフレームにおける2つの上流のストップコドン)、リピート伸長変異(CCTG、CAGGまたはGGGCC)、および各リーディングフレーム中のエピトープタグを伴う3’三重タグ、を伴って示される。これらのリピート伸長コンストラクトとの共トランスフェクションは、eIF2Aの過剰発現との組み合わせで、RANタンパク質レベルを増加させ、eIF2Aが、伸長変異を引き起こす様々な疾患にわたるRANに対して代替的な真核生物開始因子として働くことを実証する。
図5図5は、グローバルな翻訳を下方制御し、増加したRANタンパク質レベルに至らせる、eIF2αリン酸化を示した概略図を示す。
【0026】
図6A-6B】図6A~6Gは、プロテインキナーゼR(PKR)が、PKR経路を活性化させることによりCAG、CCTG、CAGG、G4C2伸長のRAN翻訳を調節するということを示唆するデータを示す。図6Aは、HEK293Tトランスフェクションのために使用したリピート伸長コンストラクトを示す。コンストラクトは、6×ストップコドンカセット、2つのストップを各リーディングフレーム中に、リピート伸長およびC末端エピトープタグの上流に有する。図6Bは、ヘアピン形成伸長リピートRNAによるPKRの活性化を示す。タンパク質ブロットは、CAG、CCUG、CAGGおよびGGGGCCリピート伸長の発現が、PKR活性化にとって重大であることが知られている部位(T446およびT451)でのPKRのリン酸化を誘導するということを示す。
図6C-6D】図6Cは、野生型(PKR-WT)、PKRのドミナントネガティブK296R突然変異形態(PKR-K296R)または不活性のC末端ドメイン(PKT-CT)を発現するPKRベクターの図を示す。図6Dは、PKR-WTがCAG伸長コンストラクトからのポリAla RANタンパク質を増加させ、RRMモチーフを欠いたPKR-CTはポリAla RANレベルへの影響を有さず、およびドミナントネガティブ突然変異体K296R PKRはポリAla RANレベルを減少させることを示す、トランスフェクトされたHEK293T細胞の免疫ブロットを示す。
【0027】
図6E図6Eは、PKR-WTがCCTG伸長コンストラクトからのポリLPAC RANタンパク質を増加させ、RRMモチーフを欠いたPKR-CTはポリLPAC RANレベルへの影響を有さず、およびドミナントネガティブ突然変異体K296R PKRはポリLPAC RANレベルを減少させることを示す、トランスフェクトされたHEK293T細胞の免疫ブロットを示す。
図6F図6Fは、PKR-WTがCAGG伸長コンストラクトからのポリQAGR RANタンパク質を増加させ、RRMモチーフを欠いたPKR-CTはポリQAGR RANレベルへの影響を有さず、およびドミナントネガティブ突然変異体K296R PKRはポリQAGR RANレベルを減少させることを示す、トランスフェクトされたHEK293T細胞の免疫ブロットを示す。
図6G図6Gは、PKR-WTがGGGGCC伸長コンストラクトからのポリGP RANタンパク質を増加させ、RRMモチーフを欠いたPKR-CTはポリGP RANレベルへの影響を有さず、およびドミナントネガティブ突然変異体K296R PKRはポリGP RANレベルを減少させることを示す、トランスフェクトされたHEK293T細胞の免疫ブロットを示す。
【0028】
図7A図7A~7Bは、PKR活性化が3つのリーディングフレームにおいてLPAC RANタンパク質を減少させるが、ATG開始のポリグルタミンタンパク質のレベルには影響しないことを示す。図7Aは、トランスフェクトされたHEK293T細胞の免疫ブロットを示す。ATG開始ポリGlnタンパク質のレベルは、PKR-WT、PKR-CTまたはPKR K296Rの過剰発現に影響されない。
図7B図7Bは、PKR-WTの過剰発現がCCTG伸長コンストラクトからのポリLPAC RANタンパク質を増加させ、PKR-CTは影響を有さず、およびドミナントネガティブ突然変異体PKR K296Rは3つ全てのリーディングフレームにおいてポリLPAC RANレベルを減少させるということを示唆する、トランスフェクトされたHEK293T細胞の免疫ブロットを示す。
【0029】
図8A図8A~8Cは、PKR/eIF2a経路によって調節されたRANタンパク質レベルを示す。図8Aは、WTまたは突然変異型eIF2αおよびCAGexpを発現するプラスミドで共トランスフェクトされたHEK293T細胞のタンパク質ブロットを示し、これはリン酸化模倣型eIF2α-S51D突然変異を過剰発現する細胞において、eIF2α-WTまたはリン酸化可能でないeIF2α-S51Aと比較して、増加したポリAla RANタンパク質レベルを示す。
図8B-8C】図8Bは、PKRインヒビターであるトランス活性化応答エレメントRNA結合タンパク質(TARBP2)が、CAGおよびCUG伸長RNAから発現したRANポリAlaおよびCCUGリピートから発現したポリLPACのレベルを減少させることを示した、タンパク質ブロットを示す。加えて、TARBP2は、p-eIF2αのレベルを低減させる。図8Cは、PKR-WT過剰発現とともに上昇し、およびp-eIF2αの下流効果を阻害する統合的ストレス応答インヒビター(ISRIB)でも処置されたときにはまた減少する、ポリAla RANタンパク質レベルを示したタンパク質ブロットを示す。
図9-1】図9は、HEK293T細胞におけるPKRのCRISPR/Cas9ノックアウトを示す。CAG、CCTG、およびCAGG伸長コンストラクトの一過性トランスフェクションは、ポリAla、ポリLPAC、およびポリQAGRタンパク質の低減を示す。
図9-2】図9は、HEK293T細胞におけるPKRのCRISPR/Cas9ノックアウトを示す。CAG、CCTG、およびCAGG伸長コンストラクトの一過性トランスフェクションは、ポリAla、ポリLPAC、およびポリQAGRタンパク質の低減を示す。
【0030】
図10A-10C】図10A~10Dは、C9-500 BACトランスジェニックマウスにおいて、PKR経路の阻害が、RANタンパク質集合体を減少させ、および行動的表現型を改善することを示す。図10Aは、500 G4C2リピートを含有するBACトランスジェニックC9orf72 ALS/FTDマウス(C9-500 BAC)への脳室内(ICV)注射のために使用したEGFP対照およびPKR-K296R AAV2/9コンストラクトの概略図を示す。ICV注射を、EGFPまたはPKR(K296R)のドミナントネガティブ形態のいずれかを発現するAAV2/9ウイルスを用いたP0での注射にて実施し、動物を、月齢3か月で分析のためにサクリファイスした。図10Bは、脳溶解物のメソスケール検出(MSD)アッセイを示し、これは、PKR-K296Rで処置されたマウスがより低い可溶性GP RANタンパク質のレベルを有することを示す。図10Cは、C9-500 BACマウスからの脳梁膨大後部皮質の切片におけるGA RANタンパク質集合体の代表的な免疫組織化学的(IHC)染色(褐色)を、PKR-K296Rで処置されたマウスにおいて対照と比較してGA RANタンパク質集合体が低減されることを示した定量化とともに示す。分析は、盲検式にて行った。
図10D図10Dは、PKR-K296Rで処置されたC9-500 BACマウスは、EGFP対照動物と比較して、不安様行動を表す表現型である低減されたセンタータイムを示す、ということを示したオープンフィールド分析を示す。
【0031】
図11A-11B】図11A~11Jは、メトホルミンがPKRを阻害し、およびRANタンパク質を低減させ、およびC9-BACマウスにおける疾患を和らげることを示す。図11Aは、メトホルミンが、CAG、CCTG、CAGGおよびG4C2伸長コンストラクトで一過的にトランスフェクトされたHEK293T細胞におけるRANタンパク質発現を低減させる、ということを示唆するタンパク質ブロットを示す。図11Bは、メトホルミンが、リピート伸長コンストラクトでトランスフェクトされた細胞におけるp-PKRのレベル(T446およびT451)を低減させる、ということを示唆するデータを示す。
図11C-11E】図11Cは、月齢2~5か月、または月齢6~9か月で、5mMメトホルミンでの処置がなされる、2つのメトホルミン処置群についての研究デザインを示した概略図である。図11Dは、GA集合体を定量したデータを示し、および、2~5か月から飲み水の中の5mMメトホルミンで処置されたマウスにおける、未処置のC9-500マウスと比較したGA集合体の低減を示唆する。図11Eは、C9-500のメトホルミンで処置されたマウスにおいて、C9-500対照動物と比較して反応性神経膠症のレベルが減少したことを示唆する、GFAP染色の定量化を示す。
【0032】
図11F-11G】図11Fは、未処置のC9-500とNT対照との間で異なっていた8つのパラメータについて、メトホルミンで処置されたC9-500動物では、これらのパラメータのうち6つが改善したということを示唆するDigiGait分析を示す。これらの8つのパラメータのうちの4つからの例のデータが示される。図11Gは、C9-500動物における減少したセンタータイムが、メトホルミンで処置されたC9-500動物において正常化されることを示した、オープンフィールド分析を示す。
図11H-11I】図11Hは、メトホルミンで処置されたC9-500動物ではC9-500対照と比較して可溶性GPレベルが低減されることを示唆する、MSDアッセイからのデータを示す。図11Iは、メトホルミンで処置されたC9-500動物ではC9-500対照と比較してGA集合体が低減されることを示す。
図11J図11Jリピート伸長RNAによるPKA経路の慢性的活性化が統合的ストレス応答およびeIF2αリン酸化を通じてRAN翻訳を優先するのを示した概略である。
【0033】
図12図12は、メトホルミンおよび関連薬物フェンホルミンおよびブホルミンが、PKRを阻害し、および、GP RANタンパク質レベルを用量依存的な方式で低減させることを示す。上のパネル:メトホルミン、フェンホルミンおよびブホルミンが、G4C2伸長コンストラクトで一過的にトランスフェクトされたHEK293T細胞におけるRAN GPタンパク質レベルを用量依存的な方式で低減させることを示すタンパク質ブロット。下のパネル:メトホルミン、フェンホルミンおよびブホルミンは、G4C2リピート伸長コンストラクトでトランスフェクトされた細胞におけるp-PKRのレベル(T446およびT451)を低減させる。
【0034】
図13A図13A~13Bは、メトホルミンが、CAG、CCTGまたはGGGGCCリピート伸長モチーフを含有するコンストラクトでトランスフェクトされた細胞において、マルチリーディングフレームにてRAN翻訳を阻害することを示す。図13Aに示された様々なリピート伸長コンストラクトでトランスフェクトされたHEK293T細胞からのタンパク質溶解物に対して、タンパク質ブロットを実行した。
図13B図13Bにおいて、KMQとラベル付けされたレーンは、CAGリピート伸長のすぐ5’側に、かつ、ポリGlnリーディングフレーム内に位置した、メチオニンをコードするATGを有する。KKQベクターは、AUG開始コドンなしのCAG伸長を含有し、以下を指し示す:Ser-Flag、Ala-HA、Gln-Myc。これらのコンストラクトは、ATG開始のポリGlnおよび非ATG開始のRANタンパク質(ポリ-Gln、ポリ-Leu-Pro-Ala-Cysおよびポリ-Gly-Pro)の、これらのリピート伸長にわたって発現する、C末端領域に組み込まれるエピトープタグを含有する。CCTGとラベル付けされたレーンは、以下のRANタンパク質を発現する:LPAC-Flag、LPAC-HA、LPAC-Myc。G4C2とラベル付けされたレーンは、以下のRANタンパク質を検出するように設計されている:GP-Flag、GR-HA、GA-Myc。トランスフェクトされたHEK293T細胞のメトホルミンでの処置は、3つ全てのリーディングフレームにおいて、ポリ-LPAC(ポリ-ロイシン-プロリン-アラニン-システイン)の以下のRANタンパク質、ポリ-Ala、およびポリ-GP(ポリグリシン-プロリン)の、低減されたRANタンパク質レベルを示す。
【0035】
図14図14は、メトホルミンが、in vivoでC9ORF72の発現により産生されるRANタンパク質のレベルを低減させるということを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
詳細な説明
真核生物において、リボソーム、開始因子(eIFs)および具体的な翻訳開始および伸長(elongation)のステップを包含するタンパク質翻訳の機構は、よく保存されている。真核生物開始因子2(eIF2)は、真核生物タンパク質翻訳の開始フェーズに関与する多タンパク質複合体である。一般的に、ヒトにおいて、eIF2は3つの非同一のサブユニット(例として、eIF2α、eIF2β、およびeIF2γ)を含む。典型的には、eIF2αは、グアノシン三リン酸(GTP)およびイニシエーターメチオニル・イニシエータートランスファーRNAと三重複合体を形成して、翻訳の開始に関与する。
【0037】
RANタンパク質翻訳
本願の側面は、リピート関連非ATG(RAN)タンパク質の発現を低減させるための方法および組成物に関する。「RANタンパク質(リピート関連非ATG翻訳タンパク質)」は、AUG開始コドンの非存在下でのヌクレオチド伸長を保有する双方向で転写されたセンスまたはアンチセンスRNA配列から翻訳されたポリペプチドである。一般的に、RANタンパク質は、ポリアミノ酸リピートと呼ばれる、単一のアミノ酸、ジアミノ酸、トリアミノ酸、または四アミノ酸(例として、テトラアミノ酸)の伸長リピートを含む。例えば、「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」(ポリ-アラニン)(配列番号3)、「LLLLLLLLLLLLLLLLLL」(ポリ-ロイシン)(配列番号4)、「SSSSSSSSSSSSSSSSSSSS」(ポリ-セリン)(配列番号5)、または「CCCCCCCCCCCCCCCCCCCC」(ポリ-システイン)(配列番号6)は、それぞれ長さ20アミノ酸残基のポリアミノ酸リピートである。
【0038】
ジアミノ酸RANタンパク質の例は、GPGPGPGPGPGPGPGPGPGP(ポリ-GP)(配列番号7)、GAGAGAGAGAGAGAGAGAGA(ポリ-GA)(配列番号8)、GRGRGRGRGRGRGRGRGRGR(ポリ-GR)(配列番号9)、PAPAPAPAPAPAPAPAPAPA(ポリ-PA)(配列番号10)、およびPRPRPRPRPRPRPRPRPRPR(ポリ-PR)(配列番号11)を包含する。テトラアミノ酸リピートの例は、LPACLPACLPAC(例として、ポリ-LPAC)(配列番号12)およびQAGRQAGRQAGR(例として、ポリ-QAGR)(配列番号13)を包含する。RANタンパク質は、長さが少なくとも25、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、または少なくとも200アミノ酸残基のポリアミノ酸リピートを有する可能性がある。いくつかの態様において、RANタンパク質は、長さが200アミノ酸残基を超える ポリアミノ酸リピートを有する。
【0039】
一般的に、RANタンパク質は、DNAの異常なリピート伸長(例として、CAGリピート)から翻訳される。いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、RANタンパク質蓄積(例として、細胞の核または細胞質中の)は、細胞機能を破壊し、および細胞毒性を誘導する。いくつかの態様において、RANタンパク質の翻訳および蓄積は、疾患または障害、例えば、神経変性疾患または障害と関連する。RANタンパク質翻訳および蓄積と関連する障害および疾患の例は、これらに限定されないが、脊髄小脳失調症8型(SCA8)、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)、脆弱X振戦失調症候群(FXTAS)、およびC9ORF72筋萎縮性側索硬化症/前頭側頭型認知症(ALS/FTD)を包含する。したがって、本願において記載される方法および組成物は、いくつかの態様においては、1つ以上のRANタンパク質関連疾患または状態の処置を、これを必要とする対象において行うために有用である。いくつかの態様において、対象は、哺乳動物対象である。いくつかの態様において、対象は、ヒト対象である。
【0040】
eIF2α-P、eIF2A、およびPKRの阻害
本開示の側面は、eIF2αリン酸化(例として、eIF2α-P)の阻害が細胞中におけるRANタンパク質の翻訳および蓄積を低減させるという認識に関する。いくつかの側面において、本開示は、代替的な哺乳動物eIF(例として、eIF2A)が、伸長変異を引き起こす様々な疾患にわたるRANに対して代替的な真核生物開始因子として働くことができるという認識に基づく。いくつかの側面において、本開示は、プロテインキナーゼR(PKR)の阻害が、細胞中におけるRANタンパク質翻訳および蓄積を低減させるという認識に基づく。
【0041】
したがって、いくつかの側面において、本開示は、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳を阻害するための方法を提供し、方法は、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)を発現する細胞を、有効量の真核生物開始因子2(eIF2)モジュレート剤またはPKRモジュレート剤に接触させることを含む。
本明細書で使用される「eIF2のモジュレーター」は、直接的にまたは間接的に、eIF2タンパク質複合体またはeIF2複合体サブユニット(例として、eIF2α、eIF2β、eIF2γ等々)の発現レベルまたは活性に影響する剤を指す。モジュレーターは、eIF2もしくはeIF2サブユニットのアクチベーター(例として、eIF2もしくはeIF2サブユニットの発現または活性を増加させる)か、またはeIF2もしくはeIF2サブユニットのインヒビター(例として、eIF2もしくはeIF2サブユニットの発現または活性を減少させる)とすることができる。いくつかの態様において、eIF2モジュレーターは、細胞または対象におけるeIF2もしくはeIF2サブユニットの発現および/または活性を、eIF2モジュレーターを投与されていない細胞または対象に対して相対的に、増加させるかまたは減少させる。いくつかの態様において、eIF2モジュレーターは、タンパク質、核酸、または小分子である。
【0042】
一般的に、直接的モジュレーターは、eIF2(もしくはeIF2サブユニット)をコードする遺伝子、またはeIF2タンパク質複合体、またはeIF2サブユニットと、相互作用すること(例として、これと相互作用すること、またはこれと結合すること)によって機能する。一般的に、間接的モジュレーターは、eIF2もしくはeIF2サブユニットの発現または活性を調節する遺伝子またはタンパク質と相互作用することによって機能する(例として、eIF2もしくはeIF2サブユニットをコードする遺伝子またはタンパク質と直接的には相互作用しない)。
【0043】
いくつかの側面において、本開示は、eIF2αのリン酸化(例として、Ser 51でのeIF2αのリン酸化)を阻害することが、RANタンパク質翻訳(例として、細胞中におけるRANタンパク質翻訳)を低減させる、という認識に関する。いかなる特定の理論にも拘束されることを望まないが、eIF2αをリン酸化するあるセリンキナーゼ(例として、プロテインキナーゼR(PKR)等々)のインヒビターは、いくつかの態様において、細胞(例として、対象の細胞)におけるRANタンパク質翻訳および/またはRANタンパク質蓄積を阻害するために有用である。よって、いくつかの態様において、eIF2のモジュレーターは、セリン/スレオニンキナーゼのインヒビターである。セリン/スレオニンキナーゼの例は、これらに限定されないが、プロテインキナーゼA(PKA)、プロテインキナーゼC(PKC)、Mos/Rafキナーゼ、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPKs)、プロテインキナーゼB(AKTキナーゼ)等々を包含する。いくつかの態様において、eIF2モジュレート剤は、プロテインキナーゼR(PKR)インヒビターである。
【0044】
本明細書で使用される「PKRのモジュレーター」は、プロテインキナーゼR(PKR)の発現レベルまたは活性に直接的にまたは間接的に影響を及ぼす剤を指す。モジュレーターは、PKRのアクチベーター(例として、PKRの発現または活性を増加させる)またはPKRのインヒビター(例として、PKRの発現または活性を減少させる)であり得る。いくつかの態様において、PKRモジュレーターは、細胞または対照におけるPKRの発現および/または活性を、PKRモジュレーターを投与されていない細胞または対象に対して相対的に、増加させるかまたは減少させる。いくつかの態様において、PKRインヒビターは、タンパク質、核酸、または小分子である。
一般的に、直接的モジュレーターは、PKRと相互作用すること(例として、これと相互作用すること、またはこれと結合すること)によって機能する。一般的に、間接的モジュレーターは、PKRの発現または活性を調節する遺伝子またはタンパク質と相互作用することによって機能する(例として、PKRをコードする遺伝子またはタンパク質と直接的には相互作用しない)。
【0045】
本開示は、一部分において、eIFαのリン酸化を阻害するようにドミナントネガティブな方式で機能するあるプロテインキナーゼ(PKR)のバリアントに関し、ゆえに、細胞中におけるRANタンパク質翻訳を低減させるために有用である。本明細書で使用される「プロテインキナーゼR(PKR)バリアント」は、野生型プロテインキナーゼR(PKR)(例として、GenBank Accession No. NP_002750.1)と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を含むタンパク質を指し、ここで、バリアントタンパク質は、野生型PKRのアミノ酸配列に対して相対的に少なくとも1つのアミノ酸変異(時に「突然変異」とも称される)を含む。
【0046】
いくつかの態様において、PKRバリアントのアミノ酸配列は、野生型PKRのアミノ酸配列と少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、または少なくとも99.9%同一である。いくつかの態様において、アミノ酸配列は、野生型PKRのアミノ酸配列と約95~99.9%同一である。いくつかの態様において、タンパク質は、野生型PKRのアミノ酸配列に規定されたアミノ酸の配列と比較すると、少なくとも1つの、少なくとも2つの、少なくとも3つの、少なくとも4つの、少なくとも5つの、少なくとも6つの、少なくとも7つの、少なくとも8つの、少なくとも9つの、少なくとも10の、少なくとも11の、少なくとも12の、少なくとも13の、少なくとも14の、または少なくとも15の異なるアミノ酸配列変異を含む。いくつかの態様において、PKRバリアントは、位置296での突然変異(例として、ヒト野生型PKRの位置296)を含む。いくつかの態様において、位置296での突然変異は、K296Rである。
【0047】
本開示は、一部分において、ある条件下でeIF2AがRAN翻訳のための代替的な翻訳開始因子として機能するという認識に関する。よって、いくつかの態様において、eIF2のモジュレーターは、eIF2Aのインヒビターである。
いくつかの態様において、eIF2またはPKRのモジュレーターは、選択的モジュレーターである。「選択的モジュレーター」は、1つのタイプのeIF2サブユニットの活性または発現を、他のタイプのeIF2サブユニットと比べて、優先的にモジュレートするか、またはPKRの活性または発現を、他のキナーゼと比較して優先的にモジュレートする、eIF2またはPKRのモジュレーターを指す。いくつかの態様において、eIF2のモジュレーターは、eIF2αの選択的モジュレーターである。いくつかの態様において、eIF2のモジュレーターは、eIF2Aの選択的モジュレーターである。いくつかの態様において、eIF2のモジュレーターは、選択的PKRインヒビターなどの、プロテインキナーゼR(PKR)の選択的モジュレーターである。
【0048】
eiF2(例として、eIF2サブユニット)を阻害するタンパク質の例は、これらに限定されないが、ポリクローナル抗eIF2抗体、モノクローナル抗eIF2抗体等々を包含する。eiF2(例として、eIF2サブユニット)を阻害する核酸分子の例は、これらに限定されないが、eIF2サブユニットをコードする遺伝子(例として、GenBank受託番号NM_004094.4に規定されたmRNAをコードする遺伝子)を標的とするdsRNA、siRNA、miRNA等々を包含する。eIF2の小分子インヒビターの例は、これらに限定されないが、LY 364947、eIF-2αインヒビターII Sal003等々を包含する。
【0049】
PKRを阻害するタンパク質の例は、これらに限定されないが、あるドミナントネガティブPKRバリアント(例として、K296R PKR突然変異)、TARBP2等々を包含する。PKRを阻害する核酸分子の例は、これらに限定されないが、PKRをコードする遺伝子を標的とするdsRNA、siRNA、miRNA等々を包含する。PKRの小分子インヒビターの例は、これらに限定されないが、6-アミノ-3-メチル-2-オキソ-N-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-1-カルボキサミド、N-[2-(1H-インドール-3-イル)エチル]-4-(2-メチル-1H-インドール-3-イル)ピリミジン-2-アミン、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々を包含する。
【0050】
eIF2Aを阻害する核酸分子の例は、これらに限定されないが、eIF2Aをコードする遺伝子(例として、GenBank受託番号NM_032025.4に規定されたmRNAをコードする遺伝子)を標的とするdsRNA、siRNA、miRNA等々を包含する。eIF2Aの小分子インヒビターの例は、これらに限定されないが、サルブリナール、Sal003、ISRIB等々を包含する。
いくつかの態様において、eIF2モジュレート剤またはPKRモジュレート剤は、阻害性核酸である。いくつかの態様において、阻害性核酸は、dsRNA、siRNA、shRNA、mi-RNA、およびami-RNAからなる群から選択される干渉RNAである。いくつかの態様において、阻害性核酸は、アンチセンス核酸(例として、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO))または核酸アプタマー(例として、RNAアプタマー)である。一般的に、阻害性RNA分子は、修飾されていないものか、または修飾されたものとすることができる。いくつかの態様において、阻害性RNA分子は、1つ以上の修飾されたオリゴヌクレオチド、例として、ホスホチオアート-、2’-O-メチル-等々によって修飾されたオリゴヌクレオチドを含み、これは、かかる修飾が、当該技術分野において、in vivoでのオリゴヌクレオチドの安定性を改善するものとして認識されているためである。
【0051】
いくつかの態様において、干渉RNAは、eIF2サブユニットをコードする核酸配列(RNA配列など)またはPKRをコードする核酸配列(RNA配列など)の5~50個の間の連続したヌクレオチド(例として、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、約30、約35、約40、または約50の連続したヌクレオチド)に相補的である配列を含む。
【0052】
いくつかの態様において、eIF2モジュレート剤またはPKRモジュレート剤は、小分子(例として、化合物)式(I)、
【化12】

またはその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体、またはプロドラッグであり、ここで:R1は、水素、任意に置換されたアルキル、または窒素保護基であり;および、R2は、水素、任意に置換されたアルキル、または窒素保護基である。
【0053】
用語「薬学的に許容し得る塩」は、健全な医学的判断の範囲内で、不当な毒性、刺激、アレルギー反応等がなく、妥当な利益/リスク比に相応の、ヒトおよび下等動物の組織に接触させて使用するのに好適な塩を指す。薬学的に許容し得る塩は、当該技術分野において周知である。例えば、Bergeらは、J. Pharmaceutical Sciences, 1977, 66, 1-19において薬学的に許容し得る塩を詳細に記載しており、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0054】
この発明の化合物の薬学的に許容し得る塩は、好適な無機および有機の酸および塩基に由来するものを包含する。薬学的に許容し得る、非毒性酸付加塩の例は、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、および過塩素酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、またはマロン酸などの有機酸と形成される、あるいはイオン交換などの当該技術分野において知られている他の方法を使用して形成される、アミノ基の塩である。
【0055】
他の薬学的に許容し得る塩は、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩等を包含する。適切な塩基に由来する塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩およびN(C1~4アルキル) 塩を包含する。代表的なアルカリまたはアルカリ土類金属塩は、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等を包含する。さらなる薬学的に許容し得る塩は、適切な場合、ハロゲン化物、水酸化物、カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、低級アルキルスルホン酸塩およびアリールスルホン酸塩などの対イオンを使用して形成された非毒性アンモニウムカチオン、四級アンモニウムカチオン、およびアミンカチオンを包含する。
【0056】
用語「溶媒和物」は、通常は加溶媒分解反応によって、溶媒と会合している化合物の形態を指す。この物理的な会合は、水素結合を包含してもよい。慣用的な溶媒は、水、メタノール、エタノール、酢酸、DMSO、THF、ジエチルエーテル等を包含する。メトホルミンは、例として、結晶形態で調製してもよく、溶媒和してもよい。好適な溶媒和物は、薬学的に許容し得る溶媒和物を包含し、および化学量論的溶媒和物および非化学量論的溶媒和物の両方をさらに包含する。場合によっては、溶媒和物は、例えば、1つ以上の溶媒分子が結晶性固体の結晶格子中に組み込まれるとき、単離されることが可能となる。「溶媒和物」は、溶液相と単離可能な溶媒和物との両方を網羅する。代表的な溶媒和物は、水和物、エタノール和物、およびメタノール和物を包含する。
【0057】
用語「水和物」は、水と会合している化合物を指す。典型的には、化合物の水和物中に含有される水分子の数は、水和物中の化合物分子の数に対して一定割合となる。したがって、化合物の水和物は、例えば一般式R・xHO(式中Rは、化合物であり、xは、0より大きい数である)により表現されてもよい。所与の化合物は、1つより多くのタイプの水和物を形成してもよく、例として、一水和物(xは1である)、より低い水和物(xは0より大きく1より小さい、例として、半水和物(R・0.5HO))、および多水和物(xは1より大きい数であり、例として、二水和物(R・2HO)および六水和物(R・6HO))を包含する。
【0058】
用語「互変異性体」または「互変異性体の」は、水素原子の少なくとも1つの形式移行および原子価内の少なくとも1つの変化(例として、単結合から二重結合へ、三重結合から単結合へ、またはそれらの逆)から生じる、2以上の相互変換可能な化合物を指す。互変異性体の正確な比率は、温度、溶媒、およびpHを包含する、数種の因子に依存する。互変異性体化(すなわち、互変異性体の対を提供する反応)は、酸または塩基によって触媒されてもよい。例示の互変異性化は、ケトからエノールへ、アミドからイミドへ、ラクタムからラクチムへ、エナミンからイミンへ、およびエナミンから異なるエナミンへの互変異性化を包含する。
【0059】
同じ分子式を有するが、それらの原子の結合の性質または順序、またはそれらの原子の空間内の配置において異なる化合物が、「異性体」と呼ばれることもまた理解されるべきである。それらの原子の空間内の配置において異なる異性体は、「立体異性体」と呼ばれる。
互いの鏡像ではない立体異性体は、「ジアステレオマー」と呼ばれ、互いに重ね合わせることができない鏡像であるものは、「鏡像異性体」と呼ばれる。化合物が、不斉中心を有する、例えば、それが、4つの異なる基へ結合されているとき、一対の鏡像異性体が存在し得る。鏡像異性体を、その不斉中心の絶対配置により特徴付けることができ、CahnとPrelogのR-およびS-順序付け規則によって、あるいは分子の偏光面に対する回転の方式によって、右旋性または左旋性として(すなわち、それぞれ(+)または(-)異性体として)指定されて、記述される。キラル化合物は、個別の鏡像異性体またはそれらの混合物のいずれかとして存在することができる。等しい割合の鏡像異性体を含有する混合物は、「ラセミ混合物」と呼ばれる。
【0060】
用語「プロドラッグ」は、開裂可能な基を有し、加溶媒分解によりまたは生理学的条件下で、本明細書に記載の化合物となる化合物を指し、これは、in vivoで薬学的に活性である。かかる例は、これらに限定されないが、コリンエステル誘導体等、N-アルキルモルホリンエステル等を包含する。本明細書に記載の化合物の他の誘導体は、それらの酸および酸誘導体の形態の両方において活性を有するが、酸感受性形態ではしばしば、哺乳類生物での溶解度、組織適合性、または遅延放出の利点を与える(Bundgard, H., Design of Prodrugs, pp. 7-9, 21-24, Elsevier, Amsterdam 1985を参照)。
【0061】
プロドラッグは、当業者に周知の酸誘導体を包含し、例えば、親の酸と好適なアルコールとの反応により調製されるエステル、または親の酸化合物と、置換されたかまたは非置換であるアミンとの反応により調製されるアミド、または酸無水物、または混合無水物などである。本明細書に記載の化合物上にペンダントした酸性基に由来する、単純な脂肪族または芳香族エステル、アミド、および無水物は、特定のプロドラッグである。いくつかの場合において、(アシルオキシ)アルキルエステルまたは((アルコキシカルボニル)オキシ)アルキルエステルなどの二重エステル型プロドラッグを調製することが望ましい。本明細書に記載の化合物の、C~Cアルキル、C~Cアルケニル、C~Cアルキニル、アリール、C~C12置換アリール、およびC~C12アリールアルキルエステルが、好ましいものとなり得る。
【0062】
ある態様において、R1は、水素である。用語「任意に置換された」は、置換されたかまたは非置換である基を指す。例示の炭素原子置換基は、これらに限定されないが、ハロゲン、-CN、-NO2、-N3、-SO2H、-SO3H、-OH、-NH2、C3~10カルボシクリル、3~14員ヘテロシクリル、C6~14アリール、および5~14員ヘテロアリールを包含する。「カルボシクリル」は、3~10個の環炭素原子(「C3~10カルボシクリル」)を有する非芳香族環式炭化水素基のラジカルであって、非芳香族環系中のヘテロ原子が0個であるものを指す。用語「ヘテロシクリル」または「複素環」は、環炭素原子および1~4個の環ヘテロ原子を有する、3~14員の非芳香族環系のラジカルを指し、ここで各ヘテロ原子は、独立して、窒素、酸素、および硫黄から選択される(3~14員ヘテロシクリル」)。
【0063】
用語「アリール」は、芳香環系中に提供される6~14個の環炭素原子を有し、ヘテロ原子が0個である、単環式または多環式(例として、二環式または三環式)の、4n+2芳香族環系(例として、環状アレイ中で共有される6、10、または14個のπ電子を有する)のラジカルを指す(「C6~14アリール」)。用語「ヘテロアリール」は、芳香環系中に提供される環炭素原子および1~4個の環ヘテロ原子を有する、5~14員の単環式または多環式(例として、二環式、三環式)の、4n+2芳香族環系(例として、環状アレイ中で共有される6、10または14個のπ電子を有する)のラジカルを指し、ここで各ヘテロ原子は、独立して、窒素、酸素、および硫黄から選択される(「5~14員ヘテロアリール」)。
【0064】
ある態様において、R1は、任意に置換されたアルキルである。ある態様において、R1は、非置換のC1~6アルキルである。ある態様において、R1は、非置換のメチル、非置換のエチル、非置換のプロピル、または非置換のブチルである。ある態様において、R1は、非置換のメチルである。ある態様において、R1は、非置換のn-ブチルである。ある態様において、R1は、窒素保護基(例として、アミド基、カルバマート基、またはスルホンアミド基(例として、t-ブチルカルバマート(BOC)、ベンジル、ベンジルカルバマート(Cbz)、またはベンジルオキシメチル))である。
【0065】
ある態様において、R2は、水素である。ある態様において、R2は、任意に置換されたアルキルである。ある態様において、R2は、任意に置換されたC1~6アルキルである。ある態様において、R1は、非置換のメチル、非置換のエチル、非置換のプロピル、または非置換のブチルである。ある態様において、R1は、非置換のメチルである。ある態様において、R2は、置換されたC1~6アルキルである。ある態様において、R2は、任意に置換されたメチルである。ある態様において、R2は、任意に置換されたエチルである。ある態様において、R2は、置換されたエチルである。ある態様において、R2は、式:
【化13】

で表される。ある態様において、R2は、置換されたプロピルである。ある態様において、R2は、置換されたブチルである。ある態様において、R1およびR2は、両方とも、非置換のメチルである。ある態様において、R2窒素保護基(例として、アミド基、カルバマート基、またはスルホンアミド基(例として、t-ブチルカルバマート(BOC)、ベンジル、ベンジルカルバマート(Cbz)、またはベンジルオキシメチル))である。
【0066】
いくつかの態様において、式(I)で表される化合物は、式:
【化14】

(メトホルミン)、
【化15】

(ブホルミン)、
【化16】

(フェンホルミン)、
で表されるものであるか、またはその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体、またはプロドラッグである。
【0067】
いくつかの態様において、eIF2の1つ以上のサブユニットおよび/またはPKRの1つ以上のモジュレーター(例として、1つ以上のアクチベーター、または1つ以上のインヒビター)は、核酸リピートの伸長と関連する(例として、リピート関連非ATG翻訳と関連する)疾患を処置するために、対象へ投与される。例えば、いくつかの態様において、対象は、eIF2の1つ以上のサブユニットの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10のモジュレーター(例として、タンパク質、核酸、小分子等々)および/またはPKRの2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、または10のモジュレーター(例として、タンパク質、核酸、小分子等々)を投与される。幾つかの態様において、対象は、eIF2αのインヒビターおよびeIF2Aのインヒビターを投与される。
【0068】
医薬組成物
本開示は、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)、および任意に、薬学的に許容し得る賦形剤を含む、医薬組成物もまた提供する。ある態様において、医薬組成物は、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)またはその薬学的に許容し得る塩、および薬学的に許容し得る賦形剤を含む。
【0069】
ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)は、医薬組成物中に有効量で提供される。ある態様において、有効量は、治療有効量である。ある態様において、有効量は、予防有効量である。ある態様において、治療有効量は、リピート伸長を低減させることにおいて有効な量である。ある態様において、治療有効量は、RANタンパク質を生産するRNAの転写を低減させることにおいて有効な量である。ある態様において、治療有効量は、RANタンパク質の翻訳を低減させることにおいて有効な量である。
【0070】
ある態様において、治療有効量は、対象において1つ以上のRANタンパク質のレベルを低減させることにおいて有効な量である。ある態様において、治療有効量は、リピート伸長と関連する神経学的疾患を処置するために有効な量である。ある態様において、治療有効量は、1つ以上のRANタンパク質のレベルを低減させてリピート伸長と関連する神経学的疾患を処置することにおいて有効な量である。ある態様において、治療有効量は、RANタンパク質の蓄積を低減させることにおいて有効な量である。
【0071】
ある態様において、有効量は、RANタンパク質のレベルを、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%(例として、eIF2モジュレーターまたはPKRモジュレーターを投与されていない細胞または対象におけるRANタンパク質のレベルに対して相対的な、RANタンパク質のレベル)、低減させることにおいて有効な量である。ある態様において、有効量は、RANタンパク質の翻訳を、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%(例として、eIF2モジュレーターまたはPKRモジュレーターを投与されていない細胞または対象におけるRANタンパク質のレベルに対して相対的な、RANタンパク質のレベル)、低減させることにおいて有効な量である。
【0072】
本明細書に記載の医薬組成物は、薬理学の技術分野において知られているあらゆる方法によって調製することができる。一般的に、かかる調製方法は、本明細書に記載の化合物(すなわち、「活性成分」)を、担体または賦形剤、および/または1つ以上の他の補助成分と会合させること、および次に、必要であれば、および/または望ましければ、製品を所望の単回または複数回の用量単位に成形すること、および/または包装すること、を包含する。
医薬組成物は、単回単位用量として、および/または複数の単回単位用量として、大量に調製、包装および/または販売され得る。「単位用量」は、所定量の活性成分を含む医薬組成物の、個別の量である。活性成分の量は、一般的に、対象へ投与されるであろう活性成分の投薬量と等しいか、および/または、かかる投薬量の2分の1または3分の1などの、かかる投薬量の都合の良い画分である。
【0073】
本明細書に記載の医薬組成物中の、活性成分、薬学的に許容し得る賦形剤、および/またはあらゆる追加成分の相対量は、処置される対象の独自性、サイズ、および/または状態に応じて、およびさらに、組成物が投与されるべきルートに応じて、変動する。組成物は、0.1%と100%(w/w)との間で活性成分を含んでもよい。
提供される医薬組成物の製造に使用される、薬学的に許容し得る賦形剤は、不活性希釈剤、分散剤および/または造粒剤、界面活性剤および/または乳化剤、崩壊剤、結合剤、保存剤、緩衝剤、潤滑剤、および/または油を包含する。ココアバターおよび坐剤ワックスなどの賦形剤、着色剤、コーティング剤、甘味料、香味料、および香料もまた、組成物中に存在していてもよい。
【0074】
例示の希釈剤は、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸ナトリウム、ラクトース、スクロース、セルロース、微結晶性セルロース、カオリン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、コーンスターチ、粉砂糖、およびこれらの混合物を包含する。
例示の造粒剤および/または分散剤は、ジャガイモデンプン、トウモロコシデンプン、タピオカデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、クレー、アルギン酸、グアーガム、シトラスパルプ、寒天、ベントナイト、セルロース、および木製品、天然スポンジ、カチオン交換樹脂、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、炭酸ナトリウム、架橋ポリ(ビニル-ピロリドン)(クロスポビドン)、カルボキシメチルスターチナトリウム(デンプングリコール酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(クロスカルメロース)、メチルセルロース、アルファ化デンプン(デンプン1500)、微晶質デンプン、水不溶性デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(Veegum)、ラウリル硫酸ナトリウム、四級アンモニウム化合物、およびこれらの混合物を包含する。
【0075】
例示の界面活性剤および/または乳化剤は、天然の乳化剤(例として、アカシア、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、トラガカント、コンドラックス(chondrux)、コレステロール、キサンタン、ペクチン、ゼラチン、卵黄、カゼイン、羊毛脂、コレステロール、ワックス、およびレシチン)、コロイドクレー(例として、ベントナイト(ケイ酸アルミニウム)およびVeegum(ケイ酸アルミニウムマグネシウム))、長鎖アミノ酸誘導体、高分子量アルコール(例として、ステアリルアルコール、セチルアルコール、オレイルアルコール、トリアセチンモノステアラート、エチレングリコールジステアラート、グリセリルモノステアラート、およびプロピレングリコールモノステアラート、ポリビニルアルコール)、カルボマー(例として、カルボキシポリメチレン、ポリアクリル酸、アクリル酸ポリマー、およびカルボキシビニルポリマー)、カラギーナン、セルロース誘導体(例として、カルボキシメチルセルロースナトリウム、粉末セルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース)、ソルビタン脂肪酸エステル類(例として、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(Tween(登録商標)20)、ポリオキシエチレンソルビタン(Tween(登録商標)60)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(Tween(登録商標)80)、ソルビタンモノパルミタート(Span(登録商標)40)、ソルビタンモノステアラート(Span(登録商標)60)、ソルビタントリステアラート(Span(登録商標)65)、グリセリルモノオレアート、ソルビタンモノオレアート(Span(登録商標)80))、ポリオキシエチレンエステル(例として、ポリオキシエチレンモノステアラート(Myrj(登録商標)45)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエトキシル化ヒマシ油、ポリオキシメチレンステアラート、およびSolutol(登録商標))、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル(例として、Cremophor(登録商標))、ポリオキシエチレンエーテル(例として、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(Brij(登録商標)30))、ポリ(ビニルピロリドン)、ジエチレングリコールモノラウラート、トリエタノールアミンオレアート、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸エチル、オレイン酸、ラウリン酸エチル、ラウリル硫酸ナトリウム、Pluronic(登録商標)F-68、Poloxamer P-188、臭化セトリモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、ドクサートナトリウム、および/またはこれらの混合物を包含する。
【0076】
例示の結合剤は、デンプン(例として、コーンスターチおよびデンプン糊)、ゼラチン、糖(例として、スクロース、グルコース、デキストロース、デキストリン、糖蜜、ラクトース、ラクチトール、マンニトールなど)、天然および合成ゴム(例として、アカシア、アルギン酸ナトリウム、アイリッシュモスの抽出物、パンワルガム(panwar gum)、ガッチガム(ghatti gum)、オオバコエキス(isapol husk)の粘液、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶性セルロース、酢酸セルロース、ポリ(ビニルピロリドン)、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(Veegum(登録商標))、および落葉松アラボガラクタン)、アルギン酸塩、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、無機カルシウム塩、ケイ酸、ポリメタクリラート、ワックス、水、アルコール、および/またはそれらの混合物を包含する。
【0077】
例示の保存剤は、抗酸化剤、キレート剤、抗菌性保存剤、抗真菌性保存剤、抗原虫性保存剤、アルコール保存剤、酸性保存剤、および他の保存剤を包含する。ある態様において、保存剤は、抗酸化剤である。他の態様において、保存剤は、キレート剤である。
例示の酸化防止剤は、アルファトコフェロール、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、および亜硫酸ナトリウムを包含する。
【0078】
例示のキレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびその塩および水和物(例として、エデト酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、エデト酸二カリウム等)、クエン酸およびその塩および水和物(例として、クエン酸一水和物)、フマル酸およびその塩および水和物、リンゴ酸塩およびその塩および水和物、リン酸およびその塩および水和物、および酒石酸およびその塩および水和物を包含する。例示の抗菌性保存剤は、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、ブロノポール、セトリミド、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、クロロクレゾール、クロロキシレノール、クレゾール、エチルアルコール、グリセリン、ヘキセチジン、イミド尿素、フェノール、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、プロピレングリコール、およびチメロサールを包含する。
【0079】
例示の抗真菌性保存剤は、ブチルパラベン、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、安息香酸カリウム、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、およびソルビン酸を包含する。
例示のアルコール保存剤は、エタノール、ポリエチレングリコール、フェノール、フェノール化合物、ビスフェノール、クロロブタノール、ヒドロキシベンゾアート、およびフェニルエチルアルコールを包含する。
例示の酸性保存剤は、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ベータカロチン、クエン酸、酢酸、デヒドロ酢酸、アスコルビン酸、ソルビン酸、およびフィチン酸を包含する。
【0080】
他の保存剤は、トコフェロール、酢酸トコフェロール、メシル酸デテロキシム(deteroxime mesylate)、セトリミド、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、エチレンジアミン、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム(SLES)、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸カリウム、Glydant(登録商標)Plus、Phenonip(登録商標)、メチルパラベン、Germall(登録商標)115、Germaben(登録商標)II、Neolone(登録商標)、Kathon(登録商標)、およびEuxyl(登録商標)を包含する。
【0081】
例示の緩衝剤は、クエン酸緩衝溶液、酢酸緩衝溶液、リン酸緩衝溶液、塩化アンモニウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルセプト酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、D-グルコン酸、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、プロパン酸、レブリン酸カルシウム、ペンタン酸、二塩基性リン酸カルシウム、リン酸、三塩基性リン酸カルシウム、水酸化リン酸カルシウム(calcium hydroxide phosphate)、酢酸カリウム、塩化カリウム、グルコン酸カリウム、カリウム混合物、二塩基性リン酸カリウム、一塩基性リン酸カリウム、リン酸カリウム混合物、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム、一塩基性リン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム混合物、トロメタミン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルギン酸、発熱物質非含有水、等張食塩水、リンゲル溶液、エチルアルコール、およびこれらの混合物を包含する。
【0082】
例示の潤滑剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、シリカ、タルク、麦芽、ベヘン酸グリセリル、水素化植物油、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ロイシン、ラウリル硫酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、およびこれらの混合物を包含する。
【0083】
例示の天然油は、アーモンド、杏仁、アボカド、ババス、ベルガモット、ブラックカレント種子、ルリジサ、カデ、カモミール、キャノーラ、キャラウェイ、カルナバ、ヒマシ油、シナモン、ココアバター、ココナッツ、タラ肝臓、コーヒー、トウモロコシ、綿実、エミュー、ユーカリ、月見草、魚、アマニ、ゲラニオール、ヘチマ、ブドウ種子、ヘーゼルナッツ、ヒソップ、ミリスチン酸イソプロピル、ホホバ、ククイナッツ、ラバンジン、ラベンダー、レモン、リツェアクベバ、マカデミアナッツ、ゼニアオイ、マンゴー種子、メドウフォームシード、ミンク、ナツメグ、オリーブ、オレンジ、オレンジラフィー、ヤシ、オイルヤシの種、桃仁、ピーナッツ、ケシの実、カボチャの種、菜種、米ぬか、ローズマリー、ベニバナ、サンダルウッド、サザンカ、セイボリー、サジー、ゴマ、シアバター、シリコーン、大豆、ヒマワリ、ティーツリー、アザミ、ツバキ、ベチベル、クルミ、および小麦胚芽を包含する。例示の合成油は、これらに限定されないが、ステアリン酸ブチル、カプリル酸トリグリセリド、カプリン酸トリグリセリド、シクロメチコン、セバシン酸ジエチル、ジメチコーン360、ミリスチン酸イソプロピル、鉱油、オクチルドデカノール、オレイルアルコール、シリコーン油、およびこれらの混合物を包含する。
【0084】
経口および非経口投与のための液体剤形は、薬学的に許容し得るエマルション、マイクロエマルション、溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤およびエリキシル剤を包含する。活性成分に加えて、液体剤形は、当該技術分野において一般に使用されている不活性希釈剤、例えば、水または他の溶媒、可溶化剤および乳化剤(エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミドなど)、油(例として、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、およびこれらの混合物を含んでもよい。
【0085】
不活性希釈剤とは別に、経口組成物は、アジュバント(湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、甘味料、香味料、および香料など)を包含することができる。非経口投与のためのある態様においては、本明細書に記載のコンジュゲートは、Cremophor(登録商標)、アルコール、油、変性油、グリコール、ポリソルバート、シクロデキストリン、ポリマー、およびこれらの混合物などの可溶化剤と混合される。ある態様における例示の液体剤形は、嚥下しやすくするために、または補給チューブを介した投与のために、製剤化される。
【0086】
経口投与のための固体剤形は、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉末剤、および顆粒剤を包含する。かかる固体剤形において、活性成分は、少なくとも1つの不活性な、薬学的に許容し得る賦形剤または担体(クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウムなど)と、および/または(a)充填剤または増量剤(デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびケイ酸など)、(b)バインダー(カルボキシメチルセルロース、アルギナート、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、スクロース、およびアカシアなど)、(c)湿潤剤(humectant)(グリセロールなど)、(d)崩壊剤(寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、あるシリカート、および炭酸ナトリウムなど)、(e)溶解遅延剤(パラフィンなど)、(f)吸収促進剤(四級アンモニウム化合物など)、(g)湿潤剤(wetting agent)(セチルアルコールおよびグリセロールモノステアラートなど)、(h)吸収剤(カオリンおよびベントナイトクレーなど)、および(i)滑剤(タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムなど)、およびこれらの混合物と、混合される。カプセル剤、錠剤、および丸剤の場合、剤形は、緩衝剤を包含してもよい。
【0087】
類似のタイプの固体組成物を、ラクトースまたは乳糖ならびに高分子量ポリエチレングリコール等のような賦形剤を使用した軟質および硬質充填ゼラチンカプセル中の充填剤として採用することができる。錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、および顆粒剤の固体剤形は、腸溶コーティング、および薬理学の技術分野において周知の他のコーティングなどのコーティングおよびシェルを用いて調製することができる。それらは、任意に、不透明化剤を含んでもよく、それらが活性成分(単数または複数)のみを、またはこれを優先的に、腸管のある部分において、任意に遅延方式にて放出するような組成物のものとすることができる。使用することができるカプセル化組成物の例は、ポリマー物質およびワックスを包含する。類似のタイプの固体組成物を、ラクトースまたは乳糖ならびに高分子量ポリエチレングリコール等のような賦形剤を使用する、軟質および硬質充填ゼラチンカプセル中の充填剤として採用することができる。
【0088】
活性成分は、上で触れたとおりの1つ以上の賦形剤を用いたマイクロカプセル化された形態とすることができる。錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、および顆粒剤の固体剤形は、腸溶コーティング、放出制御コーティング、および医薬製剤分野において周知の他のコーティングなどの、コーティングおよびシェルを用いて調製することができる。かかる固体剤形において、活性成分は、スクロース、ラクトース、またはデンプンなどの少なくとも1つの不活性希釈剤と混合されることができる。かかる固体剤形は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の追加物質、例として、ステアリン酸マグネシウムおよび微結晶性セルロースなどの錠剤化潤滑剤および他の錠剤化補助剤を含んでもよい。カプセル剤、錠剤および丸剤の場合、剤形は、緩衝剤を含んでもよい。それらは、任意に、不透明化剤を含んでもよく、それらが活性成分(単数または複数)のみを、またはこれを優先的に、腸管のある部分において、任意に遅延方式にて放出するような組成物のものとすることができる。使用することができるカプセル化剤の例は、ポリマー物質およびワックスを包含する。
【0089】
本明細書で提供される医薬組成物の記載は、主に、ヒトへの投与のために好適である医薬組成物へ向けられているが、かかる組成物があらゆる種類の動物への投与のために一般的に好適であることが、当業者に理解される。組成物を様々な動物への投与のために好適なものにするための、ヒトへの投与のために好適な医薬組成物の改変は、よく理解されており、通常の知識を有する獣医薬理学者は、かかる改変を、通常の実験法を用いて設計および/または実施することができる。
【0090】
本明細書で提供される式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)は、投与しやすくするために、および投薬量の均一性のために、投薬量単位形態で製剤化される。しかしながら、本明細書に記載の組成物の合計の1日使用量は、健全な医学的判断の範囲内で医師によって決定されるであろうということが理解される。あらゆる特定の対象または生物に対する具体的な治療有効用量レベルは、処置される疾患、および障害の重症度;採用される具体的な活性成分の活性;採用される具体的な組成物;対象の年齢、体重、全身健康状態、性別、および食事;投与の時間、投与経路、および採用される具体的な活性成分の排出速度;処置の期間;採用される具体的な活性成分との組み合わせでまたは同時に使用される薬物;および医学の技術分野において周知の同様の因子を包含する、様々な因子に依存する。
【0091】
本明細書で提供される式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)および組成物は、経腸(例として、経口)、非経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、髄腔内、皮下、脳室内、経皮、皮内、直腸、膣内、腹腔内、局所(粉末剤、軟膏剤、クリーム剤、および/または滴剤による、など)、粘膜、経鼻、口腔内、舌下を包含するあらゆるルートによって;気管内点滴注入、気管支点滴注入、および/または吸入によって;ならびに/あるいは経口スプレー、鼻腔スプレーおよび/またはエアロゾルとして、投与されることができる。
【0092】
具体的に企図されるルートは、経口投与、静脈内投与(例として、全身静脈内注射)、血液および/またはリンパ供給を介する局部投与、および/または患部への直接投与である。一般的に、最も適切な投与経路は、剤の性質(例として、胃腸管の環境におけるその安定性)、および/または対象の状態(例として、対象が、経口投与を忍容できるかどうか)を包含する様々な因子に依存する。ある態様において、本明細書に記載の化合物または医薬組成物は、対象の眼への局所投与のために好適である。
【0093】
有効量を達成するのに必要な式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)の正確な量は、例えば、種、年齢、および対象の全身状態、副作用もしくは障害の重症度、特定の化合物の独自性、投与の様式等に依存して、対象ごとに変動する。有効量は、単回用量(例として、単回経口用量)または複数回用量(例として、複数回経口用量)に包含されてもよい。ある態様において、複数回用量が対象へ投与されるかまたは生体試料、組織、もしくは細胞へ適用されるとき、複数回用量のいずれか2回の用量は、異なる量かまたは実質的に同じ量の本明細書に記載の化合物を包含する。
【0094】
ある態様において、複数回用量が対象へ投与されるかまたは生体試料、組織、もしくは細胞へ適用されるとき、複数回用量を対象へ投与するかまたは複数回用量を生体試料、組織、もしくは細胞へ適用する頻度は、1日3用量、1日2用量、1日1用量、隔日に1用量、3日おきに1用量、毎週1用量、2週間おきに1用量、3週間おきに1用量、または4週間おきに1用量である。ある態様において、複数回用量を対象へ投与するかまたは生体試料、組織、もしくは細胞へ適用する頻度は、1日あたり1用量である。ある態様において、複数回用量を対象へ投与するかまたは生体試料、組織、もしくは細胞へ適用する頻度は、1日あたり2用量である。ある態様において、複数回用量を対象へ投与するかまたは生体試料、組織、もしくは細胞へ適用する頻度は、1日あたり3用量である。
【0095】
ある態様において、複数回用量が対象へ投与されるかまたは生体試料、組織、もしくは細胞へ適用されるとき、複数回用量の初回用量と終回用量との間の期間は、1日、2日、4日、1週間、2週間、3週間、1か月、2か月、3か月、4か月、6か月、8か月、9か月、1年、2年、3年、4年、5年、7年、10年、15年、20年、または対象、組織、もしくは細胞の一生である。ある態様において、複数回用量の初回用量と終回用量との間の期間は、3か月、6か月、または1年である。ある態様において、ある態様において、複数回用量の初回用量と終回用量との間の期間は、対象、組織、または細胞の一生である。
【0096】
ある態様において、本明細書に記載の用量(例として、単回用量、または、複数回用量のいずれかの用量)は、独立して、0.1μgと1μgとの間、0.001mgと0.01mgとの間、0.01mgと0.1mgとの間、0.1mgと1mgとの間、1mgと3mgとの間、3mgと10mgとの間、10mgと30mgとの間、30mgと100mgとの間、100mgと300mgとの間、300mgと1,000mgとの間、または1gと10gとの間の(両端の値も含む)、本明細書に記載の化合物を包含する。ある態様において、本明細書に記載の用量は、独立して、1mgと3mgとの間の(両端の値も含む)、本明細書に記載の化合物を包含する。ある態様において、本明細書に記載の用量は、独立して、3mgと10mgとの間の(両端の値も含む)、本明細書に記載の化合物を包含する。ある態様において、本明細書に記載の用量は、独立して、10mgと30mgとの間の(両端の値も含む)、本明細書に記載の化合物を包含する。ある態様において、本明細書に記載の用量は、独立して、30mgと100mgとの間の(両端の値も含む)、本明細書に記載の化合物を包含する。
【0097】
一側面において、方法は、治療有効量の、メトホルミン:
【化17】

またはその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体、またはプロドラッグを、対象へ投与することを含む。ある態様において、メトホルミンは、メトホルミン塩酸塩錠として製剤化される。ある態様において、メトホルミンは、メトホルミン塩酸塩徐放錠として製剤化される。ある態様において、メトホルミンは、メトホルミンコハク酸塩またはメトホルミンフマル酸塩として製剤化される。メトホルミンおよびその組成物は、ある態様において、経腸(例として、経口)ルートを介して投与される。
【0098】
ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)は、1日に2回の500mgのメトホルミンの用量で、または1日に1回の850mgのメトホルミンの用量で投与される。ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)は、1日に3回の少なくとも825mgのメトホルミンの用量で投与される。ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)は、1日に3回の825mgのメトホルミンの用量で投与される。ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)は、1日に1回の500mgのメトホルミンの用量で投与される。ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)は、1日に1回の1000mgのメトホルミンの用量で投与される。
【0099】
式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)の用量は、ある態様において、食事とともに与えられる。ある態様において、方法は、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)を、10日間から30日間の間の期間にわたって対象へ投与することを含む。ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)の複数回用量の初回用量と終回用量との間の期間は、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間、20日間、21日間、22日間、23日間、24日間、25日間、26日間、27日間、28日間、29日間、または30日間である。ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)の複数回用量の初回用量と終回用量との間の期間は、少なくとも以下の日数である:10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間、20日間、21日間、22日間、23日間、24日間、25日間、26日間、27日間、28日間、29日間、または30日間。
【0100】
ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)の複数回用量の初回用量と終回用量との間の期間は、 1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月、複数月、少なくとも1年、複数年、少なくとも10年、または数十年である。ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)の用量は、無期限に投与される。ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)の用量は、対象の一生にわたって投与される。ある態様において、本明細書に記載の用量は、少なくとも500mg、600mg、650mg、750mg、700mg、800mg、825mg、850mg、900mg、950mg、1000mg、1500mg、2000mg、2500mg、3000mg、3500mg、4000mg、5000mg、8000mg、9000mg、または10,000mgの、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)である。
【0101】
ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)の複数回用量の初回用量と終回用量との間の期間は、 対象においてRANタンパク質の蓄積を防止するのに要する期間に基づく。ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)の複数回用量の初回用量と終回用量との間の期間は、対象においてRANタンパク質のレベルを低減させるのに要する期間に基づく。ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)の複数回用量は、対象においてRANタンパク質のレベルを低減させるための予防的処置として投与される。予防的処置は、ある態様において、長期間である。ある態様において、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)の複数回用量は、対象においてRANタンパク質のレベルを低減させるための長期間の治療的処置として投与される。
【0102】
対象は、ある態様において、これらに限定されないが、以下のものを引き起こす突然変異を包含するマイクロサテライト伸長変異を有する:C9orf72 ALSまたはC9orf72 FTD、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)および筋強直性ジストロフィー2型(DM2);脊髄小脳失調症1、2、3、6、7、8、10、12、17、31および36型;球脊髄性筋萎縮症;歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA);ハンチントン病(HD);脆弱X振戦失調症候群(FXTAS);ハンチントン病類縁疾患2型(HDL2);脆弱X症候群(FXS);7p11.2葉酸感受性脆弱部位FRA7Aに関連する障害;葉酸感受性脆弱部位2q11 FRA2Aに関連する障害;および脆弱XE症候群(FRAXE)。
【0103】
本明細書に記載のとおりの用量範囲は、提供される医薬組成物の、成人への投与のための指針を提供する。例えば、小児または青年へ投与される量は、医師または当業者によって決定することができ、成人へ投与されるそれより低いか、または同じとすることができる。
本明細書に記載のとおりの、式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)またはその組成物は、1つ以上の追加の医薬剤(例として、治療的および/または予防的に活性な剤)と組み合わせて投与されることができる。
【0104】
化合物または組成物は、それらの活性(例として、疾患の処置を、これを必要とする対象において行うこと、疾患の予防を、これを必要とする対象において行うこと、対象、生体試料、組織、または細胞においてプロテインキナーゼ(例として、CDK)の活性を阻害することにおける活性(例として、効力および/または有効性))を改善し、生物学的利用能を改善し、安全性を改善し、薬剤耐性を低減し、代謝を低減および/または改変し、排出を阻害し、および/または対象生体試料、組織、または細胞の中での分布を改変する、追加の医薬剤と組み合わせて投与されることができる。
【0105】
採用される治療法が、同じ障害に対して所望の効果を達成してもよく、および/またはそれが、異なる効果を達成してもよいこともまた、理解されるであろう。ある態様において、本明細書に記載の化合物および追加の医薬剤を包含する本明細書に記載の医薬組成物は、化合物と追加の医薬剤のうちの一方を包含するがその両方は包含しない医薬組成物には存在しない相乗効果を示す。
【0106】
式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)またはその組成物を、例として、併用療法として有用である1つ以上の追加の医薬材と同時に、これに先立って、またはこれに後続して、投与することができる。医薬剤は、治療的に活性な剤を包含する。医薬剤は、予防的に活性な剤をもまた包含する。医薬剤は、薬物化合物(例として、連邦規則集(CFR)に規定のとおりの、米国食品医薬品局によってヒトまたは家畜への使用について認可された化合物)などの小有機分子、ペプチド、タンパク質、炭水化物、単糖類、オリゴ糖、多糖類、核タンパク質、ムコタンパク質、リポタンパク質、合成ポリペプチドもしくはタンパク質、タンパク質に連結した小分子、糖タンパク質、ステロイド、核酸、DNA、RNA、ヌクレオチド、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、脂質、ホルモン、ビタミン、および細胞を包含する。
【0107】
ある態様において、追加の医薬剤は、疾患(例として、神経学的疾患)を処置および/または予防するために有用な医薬剤である。各追加の医薬剤は、その医薬剤について決定された用量でおよび/またはタイムスケジュールにて投与され得る。追加の医薬剤はまた、互いとともにおよび/または本明細書に記載の化合物または組成物とともに、単回用中で一緒に投与されてもよく、または異なる用量中で別々に投与されてもよい。レジメンにおいて採用すべき特定の組み合わせは、本明細書に記載の化合物の、追加の医薬剤(単数または複数)との適合性、および/または達成すべき所望の治療および/または予防効果を考慮に入れる。一般的に、組み合わせにおける追加の医薬剤(単数または複数)は、それらが個々に利用される場合のレベルを超えないレベルで利用されることが期待される。いくつかの態様において、組み合わせで利用されるレベルは、個別に利用されるレベルよりも低くなる。
【0108】
追加の医薬剤は、これらに限定されないが、抗増殖剤、抗がん剤、抗血管新生剤、抗炎症剤、免疫抑制剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、心血管作動剤、コレステロール低下剤、抗糖尿病剤、抗アレルギー剤、避妊剤、鎮痛剤、およびそれらの組み合わせを包含する。いくつかの態様において、追加の医薬剤は、これらに限定されないが、心血管作動剤、抗糖尿病剤、神経学的疾患を処置するおよび/または予防するための剤を包含する。追加の医薬剤は、これらに限定されないが、抗炎症剤または化合物(例として、ターメリック)を包含する。いくつかの態様において、追加の医薬剤は、抗RAN抗体、例えば、抗ポリGA、抗ポリGP、抗ポリPA、抗ポリPR、抗ポリGR、抗ポリAla、抗ポリSer、抗ポリLeu、抗ポリLPAC、抗ポリQAGR等々である。
【0109】
キット(例として、医薬パック)もまた、本開示によって網羅される。提供されるキットは、本明細書に記載の医薬組成物または化合物、および容器(例として、バイアル、アンプル、ボトル、シリンジ、および/またはディスペンサーぱっけージ、または他の好適な容器)を含み得る。いくつかの態様において、提供されるキットは、任意に、本明細書に記載の医薬組成物または化合物の希釈または懸濁のための医薬品賦形剤を含む第2の容器を、さらに包含してもよい。いくつかの態様において、第1の容器および第2の容器内に提供される、本明細書に記載の医薬組成物または化合物は、混合されて1つの単位投薬形態を形成する。
【0110】
よって、一側面において、本明細書に記載の式(I)で表される化合物(例として、メトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン等々)またはその組成物を含む第1の容器を包含するキットが提供される。ある態様において、キットは、神経学的疾患の処置を、これを必要とする対象において行うことにおいて有用である。ある態様において、キットは、それを必要とする対象において神経学的疾患の予防を、これを必要とする対象において行うことにおいて有用である。ある態様において、キットは、対象、生体試料、組織、または細胞において1つ以上のRANタンパク質のレベルを低減させる(例として、RANタンパク質の発現を低減させる)ために有用である。ある態様において、キットは、対象、生体試料、組織、または細胞においてRANタンパク質の蓄積を低減させるために有用である。ある態様において、キットは、対象、生体試料、組織、または細胞においてRANタンパク質翻訳をモジュレートする(例として、低減させるかまたは阻害する)ために有用である。
【0111】
ある態様において、本明細書に記載のキットは、キットに包含されるメトホルミンまたはその医薬組成物を使用するための指示をさらに包含する。本明細書に記載のキットは、米国食品医薬品局(FDA)などの規制機関によって要求されているとおりの情報をもまた包含していてもよい。ある態様において、キットに包含される情報は、処方情報である。ある態様において、キットおよび指示は、疾患(例として、神経学的疾患)を処置することを、これを必要とする対象において行うことを提供する。ある態様において、キットおよび指示は、疾患(例として、神経学的疾患)の予防を、これを必要とする対象において行うことを提供する。
【0112】
ある態様において、キットおよび指示は、対象、生体試料、組織、または細胞において1つ以上のRANタンパク質のレベルを低減させることを提供する。ある態様において、キットおよび指示は、対象、生体試料、組織、または細胞においてRANタンパク質の蓄積を低減させることを提供する。ある態様においてキットおよび指示は、対象、生体試料、組織、または細胞においてRANタンパク質翻訳をモジュレートすること(例として、低減または阻害すること)を提供する。本明細書に記載のキットは、本明細書に記載の1つ以上の追加の医薬剤を、別個の組成物として、包含してもよい。
【0113】
いくつかの態様において、他のeIF2、eIF2A、および/またはPKRのモジュレーター(例として、タンパク質、小分子、核酸等々)は、上で記載されたとおりの医薬組成物として製剤化される。
【0114】
RANタンパク質翻訳または蓄積と関連する疾患および障害を処置する方法
いくつかの態様において、本開示によって記述されるとおりの組成物および方法は、細胞または対象(例として、RAN翻訳と関連する障害または疾患を有する対象)においてRANタンパク質翻訳または蓄積を低減させるかまたは阻害するために有用である。いくつかの態様において、細胞は、in vitroである。いくつかの態様において、対象は、哺乳動物対象である。いくつかの態様において、対象は、ヒト対象である。
いくつかの側面において、本開示は、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)を発現している対象へ有効量の真核生物開始因子2(eIF2)モジュレート剤または有効量のPKRモジュレート剤(例として、PKRインヒビター)を投与することにより、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患を処置する方法を提供する。
【0115】
いくつかの態様において、eIF2モジュレート剤は、PKRのインヒビターである。いくつかの態様において、PKRのインヒビターは、式(I)
【化18】

で表される化合物、またはその薬学的に許容し得る塩、溶媒和物、水和物、互変異性体、立体異性体、誘導体、またはプロドラッグであり、ここで:Rは、水素、任意に置換されたアルキル、または窒素保護基であり;および、Rは、水素、任意に置換されたアルキル、または窒素保護基である。いくつかの態様において、式(I)で表される化合物は、メトホルミン、ブホルミン、またはフェンホルミンである.
【0116】
いくつかの態様において、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患は、ハンチントン病(HD、HDL2)、脆弱X症候群(FRAXA)、球脊髄性筋萎縮症(SBMA)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)、脊髄小脳失調症1(SCA1)、脊髄小脳失調症2(SCA2)、脊髄小脳失調症3(SCA3)、脊髄小脳失調症6(SCA6)、脊髄小脳失調症7(SCA7)、脊髄小脳失調症8(SCA8)、脊髄小脳失調症12(SCA12)または脊髄小脳失調症17(SCA17)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳失調症36型(SCA36)、脊髄小脳失調症29型(SCA29)、脊髄小脳失調症10型(SCA10)、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)、筋強直性ジストロフィー2型(DM2)、またはフックス角膜内皮ジストロフィー(例として、CTG181)である。
【0117】
本明細書で使用される「有効量」は、RANタンパク質翻訳または蓄積と関連する疾患または障害(例として、神経変性疾患)によって引き起こされる1つ以上の兆候または症状の処置または向上などの医学的に望ましい結果を提供するのに十分な、治療剤の投薬量を指す。有効量は、処置される対象の年齢および健康状態、対象における疾患または障害(例として、RANタンパク質蓄積の量、またはかかる蓄積によって引き起こされる細胞毒性)の重症度、処置の期間、あらゆる併用療法の性質、具体的な投与経路、および医療従事者の知識および専門知識の範囲内の同様の因子とともに変動する。いくつかの態様において、有効量は、eIF2αのリン酸化、eIF2Aの発現もしくは活性、またはこれらのいずれかの組み合わせを、低減させるのに十分なeIF2αインヒビター、eIF2Aインヒビター、またはPKRインヒビターの量である。
【0118】
いくつかの態様において、本開示によって記述されるとおりのリピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳と関連する疾患を処置するための方法は、1つ以上の追加の治療剤を対象へ投与することをさらに含む。適切な追加の治療剤の同定および選択は、当業者の能力の範囲内であり、対象が罹患している疾患に依存する。例えば、いくつかの態様においては、ハンチントン病(例として、テトラベナジン、アマンタジン、クロルプロマジン等々)、脆弱X症候群(例として、選択的セロトニン再取り込み阻害剤、カルバマゼピン、メチルフェニデート、トラゾドン等々)、脊髄小脳失調症(例として、バクロフェン、リルゾール、アマンタジン、バレニクリン等々)、または、筋萎縮性側索硬化症(ALS)(例として、リルゾール等々)、筋強直性ジストロフィー1型(タイドグロブス、メキシレチン等々)、のための1つ以上の治療剤が、対象へ投与される。
【0119】
いくつかの態様において、追加の治療剤は、RANリピート伸長へ特異的に結合する抗体、またはリピート伸長に対してC末端であるRANタンパク質の固有の領域へ特異的に結合する抗体である。例えば、いくつかの態様において、抗体は、ポリ-SerRANリピート伸長へ特異的に結合する。いくつかの態様において、抗体は、ポリ-SerRANリピート伸長を含むタンパク質のC末端領域へ結合する。いくつかの態様において、抗RAN抗体は、細胞内RANタンパク質へ結合する。いくつかの態様において、抗RAN抗体は、細胞外RANタンパク質へ結合する。
【0120】
抗RAN抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体とすることができる。典型的には、ポリクローナル抗体は、マウス、ウサギまたはヤギなどの好適な哺乳動物への接種によって生産されるより大きな哺乳動物が、しばしば、回収できる血清の量がより多いことから好まれる。典型的には、抗原(例として、ポリ-Serリピート領域を含む抗原)が、哺乳動物に注射される。これは、Bリンパ球が抗原に対して特異的なIgG免疫グロブリンを生産するように誘導する。このポリクローナルIgGが、哺乳動物の血清から精製される。モノクローナル抗体は、一般的に、単一の細胞株(例として、ハイブリドーマ細胞株)から生産される。いくつかの態様において、抗RAN抗体は、精製されている(例として、血清から単離されている)。
【0121】
数多くの方法が、抗RAN抗体を得るために使用され得る。例えば、抗体を、組換えDNA法を使用して生産することができる。モノクローナル抗体はまた、知られている方法に従い、ハイブリドーマの産生(例として、KohlerおよびMilstein (1975) Nature, 256: 495-499を参照)によって生産してもよい。この方式で形成されたハイブリドーマは、次に、指定された抗原と特異的に結合する抗体を生産する1つ以上のハイブリドーマを同定するために、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)および表面プラズモン共鳴(例として、OCTETまたはBIACORE)分析などの標準的な方法を使用してスクリーニングされる。
【0122】
指定された抗原(例として、RANタンパク質)のあらゆる形態が、免疫原として使用されてもよく、例として、組換え抗原、自然発生形態、あらゆるバリアントまたはそれらのフラグメントである。抗原を作る1つの例示の方法は、抗原またはそのフラグメント(例として、scFV)を発現するタンパク質発現ライブラリ、例として、ファージもしくはリボソームディスプレイライブラリを、スクリーニングすることを包含する。ファージディスプレイは、例えば、Ladner et al., 米国特許第5,223,409号;Smith (1985) Science 228:1315-1317;Clackson et al. (1991) Nature, 352: 624-628;Marks et al. (1991) J. Mol. Biol., 222: 581-597、WO92/18619;WO91/17271;WO92/20791;WO92/15679;WO93/01288;WO92/01047;WO92/09690;およびWO90/02809において記載されている。
【0123】
処置の投与は、当該技術分野において知られているいずれかの方法によって成し遂げられ得る(例として、Harrison’s Principle of Internal Medicine, McGraw Hill Inc.を参照)。投与は、局所的または全身的であり得る。投与は、非経口(例として、静脈内、皮下、または皮内)または経口であり得る。異なる投与経路のための組成物は、当該技術分野において周知である(例として、E. W. MartinによるRemington's Pharmaceutical Sciencesを参照)。投薬量は、対象および投与経路に依存する。投薬量は、当業者によって決定されることができる。
【0124】
投与経路は、これらに限定されないが、経口、非経口、静脈内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内、舌下、気管内、吸入、皮下、眼内、膣内、および直腸内を包含する。全身経路は、経口および非経口を包含する。数種のタイプのデバイスが、吸入による投与のために常用される。これらのタイプのデバイスには、計量用量吸入器(MDI)、呼吸作動MDI、乾燥粉末吸入器(DPI)、MDIと組合せたスペーサー/保持チャンバー、およびネブライザーを包含する。
【0125】
いくつかの態様において、RANタンパク質発現と関連する疾患のための処置は、これを必要とする対象の中枢神経系(CNS)へ投与される。本明細書で使用される「中枢神経系(CNS)」は、神経細胞、グリア細胞、星状膠細胞、脳脊髄液等々を包含するがこれらに限定されない、対象の脳および脊髄の全ての細胞および組織を指す。対象のCNSへ治療剤を投与する様式は、脳内への直接注入(例として、脳内注射、脳室内注射、実質内注射等々)、対象の脊髄内への直接注入(例として、髄腔内注射、腰椎注射等々)、またはそれらのいずれかの組み合わせを包含する。
【0126】
いくつかの態様において、本開示によって記述されるとおりの処置は、対象へ全身投与され、例えば、静脈内注射による。全身投与される治療用分子(例として、eIF2モジュレート剤、PKRインヒビター等々)は、いくつかの態様において、対象のCNSへの分子の送達を改善するために、修飾されることができる。治療用分子のCNS送達を改善する修飾の例は、これらに限定されないが、血液脳関門標的化剤(例えば、Georgieva et al. Pharmaceuticals 6(4): 557-583 (2014)によって開示されているとおりの、トランスフェリン、メラノトランスフェリン、低密度リポタンパク質(LDL)、アンギオペップ(angiopeps)、RVGペプチド等々)との共投与またはコンジュゲーション、BBB破壊剤(例えばブラジキニン)との共投与、および投与に先立ったBBBの物理的破壊(例として、MRIガイド集束超音波による)等々を包含する。
【0127】
eIF2モジュレート剤は、当該技術分野において知られているいずれかの好適な様式によって送達され得る。いくつかの態様において、eIF2モジュレート剤は、ウイルスベクター(例として、アデノウイルスベクター、組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAVベクター)、レンチウイルスベクター等々)またはプラスミドベースのベクターなどのベクターによって、対象へ送達される。
いくつかの側面において、本開示は、いくつかの態様において、eIF2αモジュレート剤をコードする導入遺伝子を含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の、対象(例として、RANタンパク質の翻訳および蓄積によって特徴付けられる疾患を有する対象)への投与が、対象においてRANタンパク質翻訳およびRANタンパク質蓄積を低減させる、という発見に基づく。
【0128】
いくつかの態様において、組換えrAAV粒子は、一本鎖(ss)または自己相補(sc)AAV核酸ベクターなどの核酸ベクターを含む。いくつかの態様において、核酸ベクターは、本明細書に記載のeIF2モジュレート剤をコードする導入遺伝子、および、発現コンストラクトに隣接する、逆方向末端反復(ITR)配列(例として、野生型ITR配列または 改変ITR配列)を含む1つ以上の領域を含む。いくつかの態様において、核酸は、ウイルスカプシドによってカプシド化されている。いくつかの態様において、導入遺伝子は、プロモーター、例えば、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターに、作動可能に連結されている。いくつかの態様において、プロモーターは、組織特異的(例として、CNS特異的)プロモーターである。
【0129】
したがって、いくつかの態様において、rAAV粒子は、ウイルスカプシド、および、ウイルスカプシドによってカプシド化された本明細書に記載のとおりの核酸ベクターを含む。いくつかの態様において、ウイルスカプシドは、VP1、VP2およびVP3を含む60のカプシドタンパク質サブユニットを含む。いくつかの態様において、VP1、VP2、およびVP3サブユニットは、それぞれ、およそ1:1:10の比率でカプシド中に存在する。
【0130】
本明細書に記載の核酸または核酸ベクターのITR配列は、いずれかのAAV血清型(例として、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)に由来する可能性があるか、または1つより多い血清型に由来する可能性がある。本明細書で提供される核酸または核酸ベクターのいくつかの態様において、ITR配列は、AAV2に由来する。ITR配列、およびITR配列を含有するプラスミドは、当該技術分野において知られており、市販されている(例として、Vector Biolabs, Philadelphia, PA;Cellbiolabs, San Diego, CA;Agilent Technologies, Santa Clara, Ca;およびAddgene, Cambridge, MAから入手可能な商品およびサービス;ならびに「Gene delivery to skeletal muscle results in sustained expression and systemic delivery of a therapeutic protein.」Kessler PD, Podsakoff GM, Chen X, McQuiston SA, Colosi PC, Matelis LA, Kurtzman GJ, Byrne BJ. Proc Natl Acad Sci U S A. 1996 Nov 26;93(24):14082-7;およびCurtis A. Machida. 「Methods in Molecular MedicineTM.」 「Viral Vectors for Gene Therapy Methods and Protocols.」 10.1385/1-59259-304-6:201 (C) Humana Press Inc. 2003. 第10章「Targeted Integration by Adeno-Associated Virus.」 Matthew D. Weitzman, Samuel M. Young Jr., Toni CathomenおよびRichard Jude Samulski;米国特許第5,139,941号および5,962,313号を参照、その全てが参照により本明細書に組み込まれる。)。
【0131】
例示のAAV2 ITR配列は、下記に示される:
TTGGCCACTCCCTCTCTGCGCGCTCGCTCGCTCACTGAGGCCGGGCGACCAAAGGTCGCCCGACGCCCGGGCTTTGCCCGGGCGGCCTCAGTGAGCGAGCGAGCGCGCAGAGAGGGAGTGGCCAACTCCATCACTAGGGGTTCCT (配列番号14)
いくつかの態様において、発現コンストラクトは、サイズが7キロベース以下、6キロベース以下、5キロベース以下、4キロベース以下、または3キロベース以下である。いくつかの態様において、発現コンストラクトは、サイズが4~7キロベースの間である。
【0132】
rAAV粒子は、あらゆる派生型(血清型の自然発生でないバリアントを包含する)または偽型を包含する、あらゆるAAV血清型(例として、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)のものであり得る。いくつかの態様において、rAAV粒子は、rAAV9粒子である。追加のAAV血清型および派生型/偽型、およびかかる派生型/偽型を生産する方法は、当該技術分野において知られている(例として、Mol Ther. 2012 Apr;20(4):699-708. doi: 10.1038/mt.2011.287. Epub 2012 Jan 24.「The AAV vector toolkit: poised at the clinical crossroads.」Asokan A1, Schaffer DV, Samulski RJ.を参照)。
これらおよびその他の本願の側面は、以下の非限定的な例によって例示される。
【実施例0133】

例1.プロテインキナーゼR(PKR)は、eIF2a-P経路を通じてCAG、CCTG、G4C2伸長のRAN翻訳を調節する。
リピート関連非ATG(RAN)翻訳へのPKRの影響を試験するのに使用したCAG、CCTGおよびGGGCCリピート伸長コンストラクの図が、図1Aに示される。手短に言うと、コンストラクトは、6×ストップコドンカセットを有する(例として、各リーディングフレーム中の2つのストップ、リピート伸長およびC末端エピトープタグの上流)。野生型(PKR-WT)、PKRのドミナントネガティブK296R突然変異形態(PKR-K296R)、またはC末端のみのドメイン(PKR-CT)、を発現するPKRベクターの図が、図1Bに示される。
【0134】
HEK293T細胞を、RANタンパク質発現およびPKR発現コンストラクトでトランスフェクトした。免疫ブロット分析は、PKR-WTがCAG伸長コンストラクトからのポリAla RANタンパク質を増加させること、RRMモチーフを欠いたPKR-CTはポリAla RANレベルに影響を有さないこと、および、ドミナントネガティブ突然変異体K296R PKRはポリAla RANレベルを減少させるということを示唆した(図1C)。免疫ブロットは、PKRがeIF2α-Pのレベルを増加させること、PKR-CTは影響を有さないこと、および、PKR-K296RはeIF2α-Pの定常状態レベルを減少させるということもまた示唆した。
【0135】
免疫ブロット分析は、PKR-WTがCCTG伸長コンストラクトからのポリLeu-Pro-Ala-Cys(ポリLPAC)RANタンパク質を増加させ、PKR-CTはLPAC RANレベルへの影響を有さず、およびドミナントネガティブ突然変異体K296R PKRはポリLPAC RANレベルを減少させるということを示唆した(図1D)。eIF2α-Pの定常状態レベルにPKR-CTは影響を有さず、およびPKR-K296Rはこれを減少させるということもまた観察された。
免疫ブロット分析は、ポリGP RANタンパク質レベルをPKR-WTは増加させ、PKR-CTはこれに影響を有さず、および突然変異体K296R PKRは減少させるということ、および、eIF2α-Pの定常状態レベルをPKRは増加させ、PKR-CTはこれに影響を有さず、およびPKR-K296Rは減少させるということを示唆した(図1E)。
【0136】
eIF2α-PはHEK293T細胞におけるRANタンパク質レベルを増加させる。
eIF2αリン酸化の、RANタンパク質翻訳への影響を調査した。WTまたは突然変異型eIF2αおよびCAG伸長(CAGexp)を発現するプラスミドで共トランスフェクトされたHEK293T細胞のタンパク質ブロットは、リン酸化模倣型eIF2α-S51D突然変異を過剰発現する細胞において、eIF2α-WTまたはリン酸化可能でないeIF2α-S51Aと比較して、増加したポリAla RANタンパク質レベルを示す(図2A)。CAG、CTG、およびCCTGリピート伸長からそれぞれ発現するポリAla、ポリAlaおよびLPAC RANタンパク質は、eIF2α-Pのレベルを低減させるPKRインヒビター(TARBP2)の存在下において減少するということが観察された(図2B)。eIF2α-Pの下流効果を阻害するISIRBの存在下において、ポリAla RANタンパク質レベルが減少するということもまた観察された(図2C)。
【0137】
PKR経路の阻害は、RANタンパク質集合体を減少させ、およびC9-500 BACトランスジェニックマウスにおける行動的表現型を改善する。
500 G4C2リピートを含有するC9orf72 ALS/FTDのBACトランスジェニックマウスモデル(C9-500 BAC)へのAAV注射のために使用したAAV2/9コンストラクトの概略図が、図3Aに示される。手短に言うと、EGFPまたはPKR(K296R)のドミナントネガティブ形態のいずれかを発現するAAV2/9ウイルスを用いた、出生後第1日(P1)での脳室内(ICV)注射の後に、動物を、月齢3か月で分析のためにサクリファイスした。
【0138】
C9-500 BACマウスからの脳梁膨大後部皮質の切片におけるGA RANタンパク質の、代表的な免疫組織化学的(IHC)染色(図3B、左)。GA RANタンパク質集合体の定量もまた実施した(図3B、右)。分析は、盲検式にて行った。データは、ドミナントネガティブ変異体PKR(K296R)を用いて処置された動物は、年齢をマッチさせたEGFP対照動物と比較してより少数のGA RANタンパク質集合体を有するということを示唆していた。オープンフィールド分析もまた実施したところ(図3C)、ドミナントネガティブPKR(K296R)を用いて処置されたC9-500 BAC動物は、EGFP対照動物と比較して、不安様行動を表す表現型である低減されたセンタータイムを示す、ということを示唆していた。
【0139】
代替的なeIF2A開始因子はRAN翻訳を増加させる。
eIF2Aは、代替的な真核生物翻訳開始因子であり、いくつかの態様において、特定条件下でeIF2αの代替として使用されることができる。典型的には、eIF2αのリン酸化は、転写開始におけるその使用を防止し、および、RAN翻訳は、eIF2α-Pを優先する条件下で増加する。ゆえに、eIF2Aが、RAN翻訳のための代替的な開始因子として働くことができるかどうかを調査した。RANタンパク質を発現させるのに使用したコンストラクトが示される(図4)。リピート伸長コンストラクトを用いた共トランスフェクションは、eIF2Aの過剰発現との組み合わせにおいて、RANタンパク質レベルを増加させており、これは、eIF2Aが、伸長変異を引き起こす様々な疾患にわたってRANについての代替的な真核生物開始因子として働くことができるということを示唆する。これらのデータは、RANタンパク質レベルをモジュレートするための新規な薬物標的としても、eIF2Aを同定している。
【0140】
グローバルな翻訳を下方調節するeIF2αリン酸化は、増加したRANタンパク質レベルに至らせる。
一般的に、4つの主要なストレス経路(PKR、ヘム調節インヒビター(HRI)、一般制御非脱抑制(general control nonderepressible)(GCN)、およびプロテインキナーゼRNA様小胞体キナーゼ(PERK))が、eIF2αリン酸化(eIF2α-P)、およびグローバルなタンパク質合成を抑制することに至らせる。驚くべきことに、eIF2α-Pを優先する条件は、リピートの複数のタイプにわたってRAN翻訳を上方調節に至らせるということが観察された。
【0141】
いくつかの態様において、リピート伸長変異を引き起こす疾患が発現するとき、ヘアピンを形成する二本鎖RNA(dsRNA)および/またはセンスおよびアンチセンスの転写産物の発現からのdsRNAが生産される。いくつかの態様において、これらの突然変異型dsRNAは、PKR経路を慢性的な過剰活性化に至らせる。いくつかの態様において、PKR経路の慢性的な活性化は、eIF2αリン酸化、代替的な開始因子eIF2Aの使用、および増加したRAN翻訳に至らせる。
【0142】
上記の例に記載されたとおり、RAN翻訳は、PKR過剰発現によって上方調節され、PKR経路からeIF2α-Pをブロックするドミナントネガティブ形態のPKRの過剰発現によって実質的に低減される、ということが観察された。RANタンパク質レベルが、eIF2αリン酸化のレベルの増加に伴って増加し、TARDBP2を包含するeIF2αリン酸化のインヒビターで減少するということもまた観察された。代替的な開始因子eIF2Aが、RANタンパク質レベルを増加させるということもまた観察された。いくつかの態様において、この代替的な真核生物開始因子(例として、eIF2A)は、eIF2αリン酸化がeIF2αでの正規の翻訳開始を防止するストレス条件下で使用することができる。いくつかの態様において、eIF2AはAUG開始コドンを要しないので、RAN翻訳の特徴である非AUG開始コドンの複数のタイプで翻訳開始を可能にする。
【0143】
要約すると、ストレス経路は、RAN翻訳の重要なドライバーとして、および、これらに限定されないがC9orf72 ALS/FTD(G4C2およびG2C4リピート)、筋強直性ジストロフィー1型、ハンチントン病および複数の形態の脊髄小脳失調症(CAGおよびCTGリピート)、および筋強直性ジストロフィー2型(CCTGおよびCAGGリピート)を包含する疾患においてRAN翻訳をモジュレートするために使用することができるドラッガブル(druggable)な標的として、同定されている。データは、PKRまたはeIF2α経路の阻害がRANタンパク質の蓄積を減少させることを示唆する。eIF2Aはまた、代替的な真核生物開始因子としても同定されている。図5は、グローバルな翻訳を下方制御し、増加したRANタンパク質レベルに至らせる、eIF2αリン酸化を示した概略図を示す。
【0144】
例2:メトホルミンはPKR経路を通じてRAN翻訳を阻害し、およびC9orf72マウスモデルにおける表現型を向上させる
この例は、構造化されたRANポジティブのリピート伸長RNAによるPKR経路の活性化について記載する。いくつかの態様において、活性化は、増加したホスホeIF2α(p-eIF2α)および増加したRANタンパク質レベルに至らせる。PKRの阻害は、細胞培養およびC9orf72 ALS/FTDのBACトランスジェニックマウスモデル(C9-BAC)においてRANタンパク質レベルを低減させたことが観察された。メトホルミン(およびあるメトホルミン誘導体、例えば、ブホルミンおよびフェンホルミン)は、ホスホ-PKR活性化を阻害し、RANタンパク質レベルを低減させ、およびC9-BACマウスにおける表現型を改善するということもまた観察された。
【0145】
材料および方法
細胞培養およびトランスフェクション
HEK293T細胞を、10%ウシ胎児血清を添加したDMEM培地中で培養し、5%COを含有する湿った環境において37℃でインキュベートした。Lipofectamine 2000 Reagent(Invitrogen)を使用して、製造者の指示に従ってDNAトランスフェクションを実施した。
【0146】
AAV構築および調製
サイトメガロウイルスエンハンス/ニワトリベータアクチン(CAG)プロモーターの制御下でPKRを発現するAAVベクター、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)、およびウシ成長ホルモンのポリAを、でのHEK293T細胞へのトランスフェクションによって産生した。細胞を、AAVヘルパープラスミドpDP8.apeで共トランスフェクトしたことで、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターrAAV2/8を生産した。
【0147】
脳室内(ICV)注射
新生仔に、生後0~12時間以内に注射を行った。ナイーブな新生仔を、アルミニウム箔で覆い、3~4分間完全に氷で取り囲み、これは<0℃まで低下した体温をもたらした。仔は、全ての動きが止まり、皮膚の色がピンクから紫色に変化したときに、完全に冷凍麻酔されたものとみなした。10μlシリンジ(30度面取りしたもの)を使用して、2μlのウイルス(1013ウイルスゲノム/ml)をゆっくりと脳室へ注射した。注射後、仔を加温ブランケット上で完全に回復させ、ホームケージに戻した。
【0148】
免疫蛍光染色
高分子タンパク質の細胞内分布を、免疫蛍光染色によって、トランスフェクトされたHEK293T細胞において評価した。細胞を、8ウェル細胞培養チャンバ上にプレーティングし、および翌日にプラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞をPBS中の4%パラホルムアルデヒド(PFA)にて30分間固定し、および、15分間氷上で、PBS中の0.5% triton X-100にて透過処理した。細胞を、PBS中の1% ヤギ正常血清(NGS)にて30分間ブロッキングした。ブロッキング後、ウサギ抗Myc(Abcam)、マウス抗HA(Covance)、マウス抗Flag(Sigma)、ウサギα-GRおよびウサギα-GR-CTの一次抗体を希釈率1:400で含有するブロッキング溶液中で、細胞を1時間室温でインキュベートした。スライドを3回PBS中で洗浄し、および、Cy3(Jackson ImmunoResearch, PA)にコンジュゲートされたヤギ抗ウサギおよびAlexa Fluor 488(Invitrogen)にコンジュゲートされたヤギ抗マウスの二次抗体を希釈率1:200で含有するブロッキング溶液中で、1時間室温でインキュベートした。
【0149】
スライドを3回PBS中で洗浄し、DAPI(Invitrogen)を含有する封入媒体を用いて標本化した。患者の海馬組織における免疫蛍光染色を、6μmの新鮮凍結切片に対して実施した。NGSをブロッキング緩衝液として使用した点および、より高い希釈率の抗体(マウスα-GP 1:1000およびウサギα-GP-CT 1:5000)を使用した点以外ではトランスフェクトされた細胞に使用したものと類似のプロトコルを使用した。
【0150】
ウエスタンブロッティング
6ウェル組織培養プレートの各ウェル中のトランスフェクトされた細胞をPBSですすぎ、および、45分間氷上で、プロテアーゼインヒビターカクテルを用いて300μLのRIPA緩衝液中に溶解させた。21ゲージ針への通過を通じて、DNAをせん断した。細胞溶解物を16,000×gにて15分間4℃で遠心分離し、および上清を回収した。タンパク質アッセイ試薬(Bio-Rad)を使用して、細胞溶解物のタンパク質濃度を決定した。タンパク質20μgを、4-12% NuPAGE Bis-Trisゲル(Invitrogen)中で分離させ、および、ニトロセルロース膜(Amersham)へ転写した。膜を、0.05% Tween-20を含有するPBS(PBS-T)中の5%の粉乳中でブロックし、ブロッキング溶液中の抗Flag(1:2000)、抗Myc(1:1000)、抗HA(1:1000)、またはウサギポリクローナル抗体(1:1000)でプローブした。抗ウサギまたは抗マウスHRPコンジュゲート二次抗体(Amersham)を用いて膜をインキュベートした後、ECL plus Western Blotting Detection System (Amersham)によってバンドを可視化させた。
【0151】
患者の前頭皮質解剖組織の連続抽出を、以下のとおり実施した:組織を、1% Triton-X100、15mM MgCl、0.2mg/ml DNase Iおよびプロテアーゼインヒビターカクテルを含有するPBS中においてホモジナイズし、および、16,000×gにて15分間4℃で遠心分離した。上清を回収した。ペレットを2% SDS中に再懸濁させ、室温で1時間インキュベートし、次に16,000×gにて15分間4℃で遠心分離した。上清を回収し、および2% SDSに不溶性のペレットを、8% SDS、62.5mM Tris-HCl pH6.8、10%グリセロールおよび20% 2-メルカプトエタノール、の中にタンパク質ブロッティングのために再懸濁させた。
【0152】
伸長RNAによるPKRの活性化はRAN翻訳を誘導する
リピート伸長は、RAN翻訳を受けることが観察されている。CUGリピートは、PKRを活性化させることが観察されている。ゆえに、他のRANポジティブリピート伸長の、PKRを活性化させる能力、およびRAN翻訳上のPKRの役割を試験した。CAG、CCUG、CAGGおよびGGGGCC伸長RNA(図6A)を発現するHEK293T細胞は、PKR活性化にとって重要である部位(T446およびT451)でのホスホ-PKRのレベルを増加させていたことが観察された(図6B)。
【0153】
次に、リピート伸長の数種のタイプにわたる、RANタンパク質蓄積へのPKR過剰発現および阻害の影響を試験した。CAG、CCUG、CAGGまたはGGGGCCリピート伸長を発現するプラスミドを、全長PKR、酵素のドミナントネガティブ形態(PKR-K296R)、または結合ドメインを欠いた不活性PKR(PKR-Cter)のいずれかを発現するコンストラクトとともに共トランスフェクトした(図6C)。 CAGEXPを発現する細胞については、PKR-WT過剰発現が、増加したp-PKRおよびp-eIF2α、および増加したRANポリAlaタンパク質レベルに至らせた。対照的に、ドミナントネガティブPKR-K296R突然変異体の発現は、ポリAla RANタンパク質レベルを減少させた。酵素の不活性な形態の発現は、影響を有さなかった(図6D)。AUG開始コドンを含有するポリGlnリーディングフレームは、PKRによって影響されない(図7A)。
【0154】
CCUG、CAGGおよびGGGGCCリピートにわたって発現したRANポリLPAC、ポリQAGRおよびポリGPタンパク質は、PKR-WT過剰発現で増加し、およびPKR-K296Rで減少した(図6E~6Gおよび図7B)。これらのデータは、マイクロサテライト伸長変異の数種のタイプがPKR経路を活性化するということ、および、PKRがRANタンパク質蓄積を調節するということを示唆した。
【0155】
PKRに媒介されるeIF2αのリン酸化を通じたRAN翻訳の上方調節。
PKRは、TAR RNA結合タンパク質(TRBPまたはTARBP2ともまた称される)を過剰発現させることによって阻害された。共トランスフェクション実験は、TARBP2過剰発現が、CAGおよびCUG伸長RNAから発現したRANポリAlaおよびCCUG転写産物から発現したポリLPACのレベルを減少させるということを示唆する(図8A~8B)。いくつかの態様において、三元(terinary)複合体[eIF2α-GTP/Met-tRNA Met]の形成が、AUGにて開始される翻訳のために要求される。いくつかの態様において、eIF2αのリン酸化は、ストレスの条件下で全体的な翻訳を減少させる重要な調節メカニズムである。統合的ストレス応答経路におけるPKRの役割に合致して、TARBP2によるPKR阻害は、p-eIF2αを減少させることが観察された(図8B)。これらのデータは、RAN翻訳の調節が、伸長に誘導されるPKR活性化によって、eIF2α経路を通じて上方調節されるということを示唆する。
【0156】
eIF2α経路がRAN翻訳に影響するかどうかを直接試験するため、HEK293T細胞を、eIF2αのWT、リン酸化模倣型(S51D)、またはリン酸化可能でないS51A突然変異の形態 を発現するCAG伸長コンストラクトで共トランスフェクトした。eIF2αのリン酸化模倣型の形態(eIF2α-S51D)の発現は、ポリAla RANタンパク質の定常状態レベルを増加させることが観察されたが、一方、リン酸化可能でないeIF2α-S51A突然変異は、WTのeIF2αを発現する細胞と比較して効果を有さなかった(図8A)。
ISRIBは、eIF2αリン酸化の効果を減少させてPKRを包含する全てのeIF2αキナーゼの下流効果をブロックするISR経路インヒビターの強力なインヒビターとして同定されている。ここでは、伸長CAGおよびPKR-WTのコンストラクトでトランスフェクトされたHEK293TにおけるポリAla RANタンパク質レベルを、ISRIBが低減させるということが観察された(図8C)。
【0157】
RAN翻訳におけるPKRの役割を独立に試験するために、CRISPR/Cas9を使用してHEK293T PKRノックアウト細胞株を生産した。いくつかの態様において、PKR KO細胞は、CAG伸長(例として、DM1、SCA1、2、3、6、7、8、17、DRPLA、HD、HDL2、SBMA等々に関連性がある)から発現したポリAlaの、ならびにCCUGおよびCAGGリピート伸長RNA(例として、筋強直性ジストロフィー2型に関連性がある)の低減したレベルを示す。CAG、CCTG、CAGG伸長コンストラクトを使用した一過性のトランスフェクトは、ポリAla、ポリLPACおよびポリQAGRタンパク質の劇的な低減を示す(図9)。
まとめると、これらの結果は、いくつかの態様において、リピート伸長RNAによる活性化を包含するPKR活性化が、eIF2αリン酸化経路を通じてRANタンパク質レベルを増加させるということを示唆する。
【0158】
C9-500マウスモデルにおけるRAN翻訳へのPKRの影響。
ドミナントネガティブPKR-K296R、または対照としてのEGFPの、rAAVに媒介される送達を、C9orf72 ALS/FTD BACトランスジェニックマウス(C9-BAC)および非トランスジェニック(NT)の同腹子対照において、P0での脳室内(ICV)注射を使用して実施した。各コンストラクトの概略描写が、図10Aに記載されている。動物の4つの群(EGFP/C9、EGFP/NT、PKR-K296R/C9およびPKR-K296R/NT)は、月齢3ヶ月までであった。遺伝子型決定は、PCRおよびサザンブロット分析の両方によって行われ、これは、C9処置群と対照群とが同等なリピート伸長サイズを有していたということを示唆した。モノクローナルGA抗体を使用した免疫組織化学法(IHC)は、PKR-K296Rを用いて処置したC9マウスが、C9 EGFP対照と比較して減少した数の、脳梁膨大後部皮質中のGA集合体を有していたということを示唆した(図10B~10C)。
【0159】
同様に、メソスケール検出(MSD)アッセイによって検出された可溶性GPレベルは、C9のPKR-K296Rで処置された動物からの脳溶解物において、C9のEGFP対照と比較して低減していた。PKR-K296Rで処置された動物は、オープンフィールド試験において、C9のEGFP対照動物と比較して増加したセンタータイムを伴った改善を示した(図10D)。加えて、DigiGait分析は、12週での未処置のC9-500とNTのEGFP注射された対照との間で異なった15のパラメータのうち、これらの9つのパラメータがC9のPKR-K296Rで処置された動物において改善されたことを示唆した。加えて、C9のPKR-K296R処置群からの動物は、15のパラメータのうちの2つのみがC9のPKR-K296RとNTの処置群間で有意に異なる、類似したDigiGaitによるパフォーマンスを示した。
【0160】
メトホルミンはRAN翻訳を低減させ、およびリピートに誘導されるPKRアクチベーションを軽減する
いくつかの態様において、メトホルミンは、CAG、CCUGまたはG4C2伸長RNAを発現する細胞においてRANタンパク質レベルを減少させるということが観察された(図11A)。メトホルミンによるRANタンパク質阻害は、PKR-K296Rでの阻害に類似し、リピート伸長RNAによって誘導されるPKR活性化をメトホルミンが軽減するということを示唆する。メトホルミンありまたはなしで処置した伸長コンストラクトの一過性トランスフェクションを実施した。タンパク質ブロットは、メトホルミンが、PKR活性化のために要求されることが観察されている部位であるT446およびT451でのPKRリン酸化を減少させるということを示唆する(図11B)。
【0161】
加えて、メトホルミンおよび関連薬物フェンホルミンおよびブホルミンは、Gリピート伸長に誘導されるp-PKRレベルおよびRANポリGPレベルについての、類似した用量依存的阻害を媒介する(図12)。
要約すると、メトホルミンは、哺乳動物細胞において数種のタイプのRANタンパク質のレベルを低減しており、PKRは、PKR活性化およびeIF2αリン酸化を阻害するメトホルミン標的として同定された。
【0162】
メトホルミンはC9-500マウスモデルにおける神経病理学的および行動的表現型を向上させる
C9orf72マウス、C9-500 BACおよびNTマウスを、飲み水の中にメトホルミン(5mg/ml)を含むかまたは含まないものにて3ヶ月間処置した。群Aの動物において、処置は月齢2ヶ月で、顕性の行動的または病的表現型の発症の前に始めた。群Bにおいては、動物のより小さなコホート(n=8/群)を、行動的表現型が明白となる月齢である6ヶ月に処置し始めた。
【0163】
処置レジメンを描いた模式図が、図11Cにおいて示されている。群Aマウスの5か月でのDigiGait分析は、未処置のC9とNTのコホートの間で異なった8つのDigiGaitパラメータを同定した。C9のメトホルミンで処置されたマウスでは、これらのパラメータのうちの6つが、C9の水処置群と比較して改善した(図11E~11G)。同様に、群Aのメトホルミンで処置されたC9マウスは、未処置のC9マウスと比較して、オープンフィールド試験によるセンタータイムの増加を示した。これらのデータは、この不安様行動がメトホルミン処置によって改善されたことを示唆する(図11G)。
【0164】
我々のC9-BACマウスにおいて先に報告された神経炎症のマーカーであるグリア線維酸性タンパク質(GFAP)についての群A動物のIHC染色は、C9のメトホルミンで処置されたものにおいて、未処置のC9動物と比較して有意に低減された(図11E)。加えて、C9のメトホルミンで処置された動物は、発症前(8週、群A)または症状のある齢(6か月、群B)に処置を始めたコホートにおけるC9対照と比較して、脳梁膨大後部皮質中のGA集合体の減少した数を示した(図11D)。C9のメトホルミンで処置された動物では、より高齢の群BにおいてはC9対照と比較して可溶性GPレベルの減少が観察されたが、より若い群Aの処置コホートにおいては観察されなかった(図11H~11I)。
【0165】
まとめると、データは、メトホルミンがRANタンパク質レベルをin vitroおよびin vivoにおいて低減させ、および、メトホルミン処置がC9 BACトランスジェニックマウスにおいて行動を改善させ、かつ神経炎症を減少させるということを示唆する。いくつかの態様において、この例に記載のデータは、リピート伸長RNAが、p-eIF2aのレベルの増加、グローバルなタンパク質合成の減少およびRAN翻訳の上方調節をもたらす状態であるPKR経路の慢性的な活性化に至らせるというモデルに合致する(図11J)。
【0166】
例3:
メトホルミンを、CAG、CCTGまたはGGGGCCリピート伸長モチーフを含有するコンストラクトでトランスフェクトされたHEK293T細胞におけるRANタンパク質翻訳に対する影響について評価した。トランスフェクトされたHEK293T細胞を、メトホルミンで処置した。図13Aに示された様々なリピート伸長コンストラクトでトランスフェクトされたHEK293T細胞からのタンパク質溶解物に対して、タンパク質ブロットを実行した。図13Bにおいて、KMQとラベル付けされたレーンは、以下を示す:RANポリ-Ser-Flag、RANポリ-Ala-HA、ATG開始のポリGln-Myc。図13Bにおいて、KMQとラベル付けされたレーンは、CAGリピート伸長のすぐ5’側に、かつ、ポリGlnリーディングフレーム内に位置した、メチオニンをコードするATGを有する。
【0167】
KKQとラベル付けされたレーンは、AUG開始コドンなしのCAG伸長を含有するKKQベクターを指し示し、および、以下を指し示す:RANポリSer-Flag、RANポリAla-HA、RANポリGln-Myc。これらのコンストラクトは、ATG開始のポリGlnおよび非ATG開始のRANタンパク質(ポリ-Gln、ポリ-Leu-Pro-Ala-Cysおよびポリ-Gly-Pro)の、これらのリピート伸長にわたって発現する、C末端領域に組み込まれるエピトープタグを含有する。CCTGとラベル付けされたレーンは、以下のRANタンパク質を発現する:RANポリLPAC-Flag、RANポリLPAC-HA、RANポリLPAC-Myc。
【0168】
G4C2とラベル付けされたレーンは、以下のRANタンパク質を検出するように設計されている:RANポリGP-Flag、RANポリGR-HA、RANポリGA-Myc。図13Bにおけるタンパク質ブロットは、3つ全てのリーディングフレームにおいて、ポリ-LPAC(ポリ-ロイシン-プロリン-アラニン-システイン)の以下のRANタンパク質、ポリ-Ala、およびポリ-GP(ポリグリシン-プロリン)の、低減されたRANタンパク質レベルを示す。図13Bは、メトホルミンが、例示のリピート伸長コンストラクトでトランスフェクトされた細胞においてRANタンパク質蓄積を阻害するということを示す。
【0169】
メトホルミンを、C9ORF72での処置前および後のC9ORF72伸長ポジティブである研究対象末梢血から抽出されたタンパク質における、in vivoで検出されたグリシン-プロリン(GP)RANタンパク質の定常状態レベルへの影響について評価した。これらのレベルは、ヒト研究対象において、メトホルミン(1日あたり500mgまたは1000mgのメトホルミン塩酸塩徐放錠)を、対象の医師によって処方されたとおりの異なる用量で、対象へ投与する前および投与した後に測定した。
【0170】
C9ORF72リピート伸長を有する単一のヒト対象から取られた血液試料において、処置前のレベルと比較したグリシン-プロリン(GP)RANタンパク質レベルの用量依存的な低減が観察された。GPレベルは、500または1000mg/日でのメトホルミン処置後10~30日の間の複数の時点で、末梢血から単離した白血球からのタンパク質溶解物中において測定した。多重比較のための修正後、* p<0.05、*** p<0.001。図14は、メトホルミンが、in vivoでC9ORF72の発現により産生されるRANタンパク質のレベルを低減させるということを示す。
【0171】
他の態様
本明細書に開示されているすべての特徴は、任意の組み合わせで組み合わせることができる。本明細書に開示されている各特徴は、同じ、同等、または類似の目的を果たす代替の特徴によって置き換えられてもよい。よって、他に明示的に述べられていない限り、開示された各特徴は、包括的な一連の同等または類似の特徴の一例にすぎない。
上記の説明から、当業者は本開示の本質的な特徴を容易に確認することができ、その趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な使用および条件に適合させるために開示の様々な変更および修正をすることができる。よって、他の態様も特許請求の範囲内にある。
【0172】
均等物
本明細書ではいくつかの発明の態様が説明され、例示されたが、当業者は、機能を実行し、および/または結果を得るための様々な他の手段および/または構造および/または本明細書に説明した利点のうちの1つ以上を容易に想到するであろう。かかる変形および/または修正の各々は、本明細書に記載の発明の態様の範囲内にあるとみなされる。より一般的には、当業者は、本明細書に記載のすべてのパラメータ、寸法、材料、および構成が例示的であることを意味し、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成は発明の教示が使用されている特定の用途(単数または複数)に依存することを容易に理解するであろう。当業者であれば、本明細書に記載の特定の発明の態様に対する多くの均等物を認識し、または日常的な実験のみを用いて確かめることができるであろう。したがって、前述の態様は例としてのみ提示され、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内で、発明の態様は具体的に説明および特許請求の範囲に記載されるもの以外の方法で実施され得ることを理解されたい。本開示の発明の態様は、本明細書に記載されている個々の特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法のそれぞれに関する。さらに、かかる特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法が互いに矛盾していない場合、かかる特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法の2つ以上の任意の組み合わせも本開示の発明の範囲内に含まれる。
【0173】
本明細書で定義および使用されるすべての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれる文書中の定義、および/または定義された用語の通常の意味を支配すると理解されるべきである。
本明細書に開示されているすべての参考文献、特許および特許出願は、それぞれが引用されている主題に関して参照により組み込まれており、場合によっては文書の全体を包含し得る。
本明細書および特許請求の範囲で使用される不定冠詞「a」および「an」は、そうでないことが明確に示されていない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0174】
本明細書および特許請求の範囲で使用される「および/または」なる句は、そのように結合された要素、すなわち場合によっては結合的に存在し、他の場合には分離的に存在する要素の「いずれかまたは両方」を意味すると理解されるべきである。「および/または」で列挙された複数の要素は、同じように、すなわち、そのように結合された要素の「1つ以上」であるものと解釈されるべきである。具体的に識別された要素に関連しているかどうかにかかわらず、「および/または」なる節によって具体的に識別された要素以外の他の要素が任意に存在してもよい。よって、非限定的な例として、「含む」などのオープンエンド言語と共に使用されるときの「Aおよび/またはB」への言及は、一態様において、Aのみ(任意にB以外の要素を含む)を、別の態様では、Bのみ(任意にA以外の要素を含む)を、さらに別の態様では、AとBの両方(任意に他の要素を含む)等を指し得る。
【0175】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるように、「または」は、上記で定義されたような「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト内の項目を分離するとき、「または」または「および/または」は包括的、すなわち、少なくとも1つを含むが、複数の数またはリストの要素も含み、任意にリストに含まれていない追加の項目も含むものとして解釈されるものとする。「のうちの1つのみ」または「のうちの正確に1つ」、または、特許請求の範囲で使用される場合「からなる」などの反対に明確に示された用語のみが、正確に1つの数の要素または要素のリストの包含を指すであろう。一般に、本明細書で使用される「または」という用語は、「どちらか」、「の1つ(one of)」、「の1つのみ(only one of)」、または「の正確に1つ(exactly one of)」などの排他性の用語が先行するときに排他的な選択肢(すなわち「一方または他方、両方ではない」)を示すと解釈されるに過ぎない。「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲において使用されるとき、特許法の分野において使用されるその通常の意味を有するものとする。
【0176】
明細書および特許請求の範囲で使用されるように、1つ以上の要素のリストに関する句「少なくとも1つ」は、要素のリストにおける任意の1つ以上の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味すると理解されるべきであるが、必ずしも要素のリスト内に具体的に列挙された各要素の少なくとも1つおよびすべての要素を含まず、要素のリストにおける要素の任意の組み合わせを除外しない。この定義はまた、「少なくとも1つ」という句が指す要素のリスト内で具体的に識別された要素以外の要素が、具体的に識別されたそれらの要素に関係するか関係しないかに関わらず、任意に存在し得ることを可能にする。よって、非限定的な例として、「AおよびBの少なくとも1つ」(または同等に「AまたはBの少なくとも1つ」、または同等に「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」)は、一態様において、少なくとも1つ(任意に1つより多いものを含む)のA(Bは存在しない(そして、任意にB以外の要素を含む))を、別の態様において、少なくとも1つ(任意に1つより多いものを含む)のB(Aは存在しない(そして、任意にA以外の要素を含む))を、さらに別の態様において、少なくとも1つ(任意に1つより多いものを含む)のA、および、少なくとも1つ(任意に1つより多いものを含む)のB(そして、任意に他の要素を含む)等を指し得る。
【0177】
反対に明確に示されていない限り、1つより多いステップまたは行為を含む特許請求の範囲の任意の方法において、方法のステップまたは行為の順序は、必ずしも方法のステップまたは行為が列挙されている順序に限定されないことも理解されるべきである。
特許請求の範囲ならびに上記の明細書において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「もつ(carrying)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「伴う(involving)」、「保持する(holding)」、「から構成される(composed of)などのすべての移行句は、オープンエンドである、すなわち、限定するものではないが含むことを意味すると理解されるべきである。「からなる(consisting of)」および「から本質的になる(consisting essentially of)」という移行句のみが、それぞれ、米国特許庁の特許審査手続、第2111.03節に記載されているように、クローズまたはセミクローズの移行句であるものとする。オープンエンドの移行句(例えば、「含む」)を使用してこの文書に記載されている態様もまた、代替的な態様において、オープンエンドの移行句によって記述された特徴「からなる」および「から本質的になる」ものとして企図される。例えば、開示が「AおよびBを含む組成物」を記載する場合、開示はまた、代替的な態様「AおよびBからなる組成物」および「AおよびBから本質的になる組成物」も企図する。
図1A-1B】
図1C
図1D-1E】
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B-3C】
図4
図5
図6A-6B】
図6C-6D】
図6E
図6F
図6G
図7A
図7B
図8A
図8B-8C】
図9-1】
図9-2】
図10A-10C】
図10D
図11A-11B】
図11C-11E】
図11F-11G】
図11H-11I】
図11J
図12
図13A
図13B
図14
【配列表】
2024081635000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-03-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)翻訳を阻害する方法であって、リピート非ATGタンパク質(RANタンパク質)を発現する細胞を、有効量の真核生物開始因子2(eIF2)モジュレート剤またはプロテインキナーゼR(PKR)モジュレート剤に接触させることを含む、前記方法。
【外国語明細書】