(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081644
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】血液脳関門移動化合物及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240611BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240611BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240611BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240611BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240611BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240611BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240611BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240611BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240611BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20240611BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/18
C07K19/00
C12N15/62 Z
C07K16/46
C12N15/63 Z
A61K39/395 N
A61P25/28
A61K47/68
A61K47/65
A61K48/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024031648
(22)【出願日】2024-03-01
(62)【分割の表示】P 2019541280の分割
【原出願日】2018-01-30
(31)【優先権主張番号】62/452,015
(32)【優先日】2017-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/530,980
(32)【優先日】2017-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500276482
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】チャクラバーシー,バル
(72)【発明者】
【氏名】スタニミロヴィック,ダニカ
(72)【発明者】
【氏名】ドローチャー,イブ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アミロイドβ結合ペプチドの脳浸透性組成物を提供する。
【解決手段】組成物は、例えば、血液脳関門を通過して脳に移動できるFc断片を介して連結された、血液脳関門を越える抗体とアミロイドβ標的ペプチドとを含む二機能性分子として、及びそれを含む組成物として、アルツハイマー病の治療に有用である。アルツハイマー病を治療するためにこの組成物を使用する方法も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
βアミロイドに結合するポリペプチドである血液脳関門(BBB)を移動する抗体又はその断片を含む融合タンパク質を含む、化合物。
【請求項2】
Fc断片をさらに含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記βアミロイドに結合するポリペプチドが、配列
X1TFX2TX3X4ASAQASLASKDKTPKSKSKKX5X6STQLX7SX8VX9NI(配列番号31)
式中、X1=G又はA,X2=G又はV,X3=G又はA,X4=G又はA,X5=G又はV,X6=G又はV,X7=G又はV,X8=G又はA,X9=G又はA
である、を含む請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項3】
前記βアミロイドに結合するポリペプチドが、
【化1】
FSSMPDPVDPTTVTKTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSK(配列番号28);
KDKTPKSKSKKRNSTQLKSRVKNITHARRILQQSNRNACN(配列番号29);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKRNSTQLKSRVKNI(配列番号30);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号32);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI(配列番号33);
KTFKTRGASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号34);
KTFKTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号35);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI(配列番号36);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTVKNI(配列番号37);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKRG(配列番号38);
及び上記の配列のいずれかと実質的に同一の配列
からなる群から選択される配列を含む、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
前記抗体又はその断片が、
GFKITHYTMG(配列番号1)の相補性決定領域(CDR)1配列、RITWGGDNTFYSNSVKG(配列番号2)のCDR2配列、GSTSTATPLRVDY(配列番号3)のCDR3配列を含む抗体又はその断片;
EYPSNFYA(配列番号4)のCDR1配列、VSRDGLTT(配列番号5)のC
DR2配列、AIVITGVWNKVDVNSRSYHY(配列番号6)のCDR3配列を含む抗体又はその断片;
GGTVSPTA(配列番号7)のCDR1配列、ITWSRGTT(配列番号8)のCDR2配列、AASTFLRILPEESAYTY(配列番号9)のCDR3配列を含む抗体又はその断片;及び
GRTIDNYA(配列番号10)のCDR1配列、IDWGDGGX(式中、XはA又はT)(配列番号11)のCDR2配列、AMARQSRVNLDVARYDY(配列番号12)のCDR3配列を含む抗体又はその断片
からなる群から選択される配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
前記抗体又はその断片がヒト化されている、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
前記抗体又はその断片が、
【化2】
式中、X1=D又はE,X2=A又はE,X3=F又はV,X4=E又はG,X5=R又はL,X6=F又はW,X7=L又はV;
【化3】
式中、X1はE又はQ;X2はK又はQ;X3はV又はE;X4はA又はP;X5はV又はA;X6はF又はV;X7はE又はG;X8はR又はL;X9はF又はW;X10はA又はS;X11はM又はI;X12はA又はS;X13はV又はL;X14はD又はY;X15はV又はL;X16はK又はR;及びX17はQ又はL;
【化4】
式中、X1はE又はQ;X2はK又はQ;X3はV又はE;X4はA又はP;X5はA又はE;X6はV又はA;X7はV又はF;X8はG又はE;X9はL又はR;X10はF又はW;X11はG又はS;X12はV又はY;X13はD又はG;X14はN又はS;X15はA又はS;X16はL又はV;X17はK又はR;X18はA又はS;及びX19はL又はQ;及び
【化5】
式中、X1はE又はQ;X2はK又はQ;X3はV又はE;X4はA又はP;X5はV又はS;X6はD又はG;X7はL又はR;X8はF又はW;X9はA又はS;X10はA
又はT;X11はA又はS;X12はG又はN;X13はM又はL;X14はN又はR;X15はE又はR;X16はP又はA;X17はS又はY;及びX18はQ又はLからなる群から選択される配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
前記抗体又はその断片が、
【化6】
及び上記の配列のいずれかと実質的に同一の配列
のいずれか1つから選択される配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
前記抗体又はその断片が単一ドメイン抗体(sdAb)である、請求項1及び7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
前記Fc断片がマウスFc2a又はヒトFc1である、請求項1~8のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
前記Fc断片が、配列番号39、配列番号40、配列番号41を含む、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
前記融合タンパク質が二量体を形成する、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
前記融合タンパク質が、抗体又はその断片、Fc断片、及びβアミロイドに結合するポリペプチドを含む、請求項10~11のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項13】
前記融合タンパク質が前記Fc断片のN末端に連結される抗体又はその断片を含み、前記βアミロイドに結合する前記ポリペプチドが前記Fc断片のC末端に連結される、請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
前記抗体又はその断片が前記Fc断片のC末端に連結され、前記βアミロイドに結合する前記ポリペプチドが前記Fc断片のN末端に連結される、請求項12に記載の化合物。
【請求項15】
前記融合タンパク質がリンカーをさらに含む、請求項13又は14に記載の化合物。
【請求項16】
前記リンカーが、前記抗体又はその断片を前記Fcに連結する、及び/又はβアミロイドに結合する前記ポリペプチドを前記Fcに連結する、独立して選択されたリンカー配列である、請求項15に記載の化合物。
【請求項17】
前記リンカー配列がGGGSGGGGS、又は任意の適切なリンカーであり、配列番号53中にある、請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
前記融合タンパク質が、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号19、配列番号20、配列番号22、配列番号23、配列番号25、配列番号26からなる群から選択される、抗体又はその断片;配列番号32、配列番号33、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38からなる群から選択される、βアミロイドに結合するポリペプチド;及び配列番号39、配列番号40、配列番号41からなる群から選択される、Fc断片を含む、請求項13に記載の化合物。
【請求項19】
前記融合タンパク質が、配列番号42~配列番号53、及びこれらの配列のいずれかと実質的に同一である配列、及び/又はその二量体のいずれか1つを含む、請求項18に記載の化合物。
【請求項20】
前記融合タンパク質が任意の適切なリンカー配列を置換してもよいリンカー配列を含む、請求項19に記載の化合物。
【請求項21】
前記化合物が前記融合タンパク質の二量体を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項22】
前記抗体又はその断片が血液脳関門を移動する、請求項1~20のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項23】
請求項1~20のいずれか一項に記載の化合物をコードする、核酸分子。
【請求項24】
請求項23に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項25】
請求項1~22のいずれか一項に記載の化合物と、薬理的に許容可能な担体、希釈剤、又は賦形剤とを含む、組成物。
【請求項26】
請求項25に記載の医薬組成物を含む、キット。
【請求項27】
患者においてアルツハイマー病を治療するための請求項25に記載の組成物。
【請求項28】
請求項1~22のいずれか一項に記載の化合物又は請求項25に記載の組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、アルツハイマー病を治療する方法。
【請求項29】
十分な量の請求項25の医薬組成物を対象に反復非経口投与するステップを含む、脳アミロイドβレベルが増加している対象の脳内の毒性βアミロイドレベルを減少させる方法。
【請求項30】
非経口投与が皮下又は静脈内投与である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
請求項25に記載の組成物の反復非経口投与後に、脳アミロイドβレベルが増加している対象の脳内の毒性βアミロイドレベルが減少する、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項32】
請求項22に記載の組成物の反復非経口投与の4週間以内に毒性βアミロイドが減少する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
請求項25に記載の組成物の非経口投与後に、CSFが増加している対象の脳脊髄液(CSF)中の毒性βアミロイドレベルが減少する、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
請求項25に記載の組成物の単回非経口投与の24時間以内に、CSFが増加している対象の脳脊髄液(CSF)中の毒性βアミロイドレベルが減少する、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
請求項1~22のいずれか一項に記載の化合物を投与することを含む、脳アミロイドβのレベルが増加している対象の脳内の毒性βアミロイドレベルを減少させる方法。
【請求項36】
アミノ酸配列
X1TFX2TX3X4ASAQASLASKDKTPKSKSKKX5X6STQLX7SX8VX9NI(配列番号31)
(式中、X1=G又はA、X2=G又はV、X3=G又はA、X4=G又はA、X5=G又はV、X6=G又はV、X7=G又はV、X8=G又はA、X9=G又はA)
を含む、単離ポリペプチド。
【請求項37】
前記ポリペプチド配列が、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35
、配列番号36、配列番号37、配列番号38、及びそれと実質的に同等の配列からなる群から選択される、請求項36に記載の単離ポリペプチド。
【請求項38】
血液脳関門を移動できる抗体又は断片に融合された、請求項36又は37に記載の単離ポリペプチド。
【請求項39】
血液脳関門を移動できる抗体又は断片をさらに含む、請求項36又は37に記載の単離ポリペプチド。
【請求項40】
Fc断片をさらに含む、請求項36又は37に記載の単離ポリペプチド。
【請求項41】
配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号19、配列番号20、配列番号22、配列番号23、配列番号25、配列番号26からなる群から選択される、抗体又はその断片;配列番号32、配列番号33、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38からなる群から選択される、βアミロイドに結合するポリペプチド;及び配列番号配列番号39、配列番号40、配列番号41からなる群から選択されるFc断片を含む、融合タンパク質。
【請求項42】
前記融合タンパク質がリンカーペプチド(例えばGGGSGGGGS)をさらに含み;前記融合タンパク質が一本鎖ポリペプチドである、請求項41に記載の融合タンパク質。
【請求項43】
前記融合タンパク質が二量体ポリペプチドを形成する、請求項42に記載の融合タンパク質。
【請求項44】
請求項41~43のいずれか一項に記載の融合タンパク質と、薬理学的に許容可能な担体とを含む組成物。
【請求項45】
エフェクター機能が減弱されたFcを含む、請求項41~43のいずれか一項に記載の融合タンパク質。
【請求項46】
請求項41~43及び45のいずれか一項に記載の融合タンパク質をコードする、核酸又は核酸を含むベクター。
【請求項47】
アルツハイマー病の症状を改善するための、請求項36~40のいずれか一項に記載の単離ポリペプチドと、薬学的に許容される希釈剤、担体、ビヒクル又は賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項48】
脳アミロイドβのレベルが増加している対象の脳内の毒性βアミロイドレベルを減少させるのに使用するための請求項47に記載の医薬組成物。
【請求項49】
請求項48に記載の医薬組成物を対象の体内に導入するステップを含む、脳アミロイドβのレベルが増加している対象の脳内の毒性βアミロイドレベルを減少させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、血液脳関門を移動する化合物とその使用とに関する。より具体的には、本発明は、血液脳関門を通過する抗体又はその断片、免疫グロブリンFcドメイン又はその断片、及びβアミロイドに結合するポリペプチド、融合タンパク質及びその組成物を含んでなってもよい化合物、並びにアルツハイマー病の治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患は、これら身体障害性病状態に対する有効な治療法が現在ないため、高齢化社会の負担を増大させる。アルツハイマー病(AD)は、65歳以上の人口のおよそ15%が罹患する不可逆的神経変性障害であり、高齢人口における進行性の知的及び認知性障害の主な原因である(Hardy et al, 2014)
。
【0003】
ADでは、コリン作動性ニューロンの重度の喪失があり、その結果、記憶処理及び保存に関与する重要な神経伝達物質である、アセチルコリン(ACh)のレベルが減少する。さらに、神経伝達物質であるグルタミン酸によって誘導される興奮毒性も、ADの病因に関与する。したがって、グルタミン酸毒性のコリン作動性増強及び/又は阻害は、ADにおける認知力を改善するかもしれない。確かに、ADの治療のためにFDAが承認した唯一の薬剤は、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害剤(例えば、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)であり、AChの喪失を予防して特定のグルタミン酸受容体(例えば、メマンチン)を阻害する(Mangialasche et al, 2010; Ji and Ha, 2010; Savonenko et al, 2012)。しかし、これらの対症療法薬物の有益な効果は限定的で一時的なものであり、認知機能の一時的な改善をもたらすが、疾患の進行は止まらない。抗酸化剤、抗炎症薬(NSAIDS)、コレステロール低下薬、及びエストロゲン療法などのその他の治療法が検討されているものの、これらの治療法はいずれも、特にAD患者の記憶及び認知機能の改善に長期的な有益な効果をもたらしそうにない(Magialasche et al, 2010; Ji and Ha, 2010)。
【0004】
アルツハイマー病の主要な特徴は、39~43アミノ酸ペプチドであるβアミロイド(Aβ)が、凝集体及びプラークの形態で脳に蓄積することである。遺伝的、病理学的、及び生化学的研究に基づく相当数の証拠が、Aβ、特にそのオリゴマー凝集体がAD病理の発生において中心的な役割を果たすことを示唆している(Hardy et al, 2014; DeLaGarza, 2003; Selkoe and Hardy, 2016)。アミロイド仮説によれば、脳内のAβの産生とクリアランスの慢性的な不均衡は、加齢に伴うその蓄積と凝集をもたらす。これらのAβ凝集体は、シナプス喪失及び神経機能をもたらす一連の事象を開始すると考えられ、記憶及びその他の認知機能の進行性喪失をもたらす(Hardy et al, 2014; DeLaGarza, 2003; Selkoe and Hardy, 2016; Sengupta et al, 2016)。
【0005】
前駆体タンパク質APPからのAβの生成は、プロテアーゼβ及びγセクレターゼによるAPPの逐次タンパク質分解によって達成される(Barageb and Sonawane, 2015)。これらの酵素の阻害剤は、Aβ産生を減少させることが示されており、ADを治療するための潜在的な薬剤として開発されている(Hardy et al, 2014; Mangialasche et al, 2010;
Selkoe and Hardy, 2016; Ji and Ha, 2010)。同様に、Aβクリアランスを隔離及び/又は促進する薬剤もまた開発されている。これらの中で注目に値するのは、ADワクチンによる免疫療法の開発である。能動免疫(Aβペプチド)及び受動免疫(Aβ抗体)はど
ちらも、ADの遺伝子組換え動物モデルにおいて、そしてAD患者が参加する臨床試験において、アミロイド沈着を予防するのに、そしてあらかじめ形成されたアミロイド斑を除去するのに、有効であることが示されている(Mangialasche et al, 2010; Ji and Ha, 2010; Morrone et al, 2015; Lannfelt et al, 2014; Selkoe and Hardy, 2016; Goure et
al, 2014)。
【0006】
アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解性切断を防止し、それによって脳Aβ産生を減少させ又は抑制するβ及びγセクレターゼの阻害剤が開発されている(例えば、タレンフルビル、セマガセスタット、ベルベセスタット)。しかし、Aβ負荷の軽減におけるそれらの治療有効性はまだ知られておらず、これらの薬物の多くは前臨床又は臨床試験において失敗している(Savonenko et al, 2012; Musiek and Holtzman, 2015)。さらに、これらの酵素は、神経細胞の発達と関連があるその他の酵素及びNotchなどのシグナル伝達分子のプロセシングにも関与しているため(Savonenko et al, 2012;
Musiek and Holtzman, 2015)、これらの阻害剤は、深刻な非特異的副作用をもたらすこともある。
【0007】
能動免疫(Aβワクチン、AN1792)及び受動免疫(例えば、バピネズマブ、ソラネズマブ、クレネズマブ、アデュカヌマブなど)などの免疫療法的アプローチは、遺伝子組換え動物におけるAβ沈着の低減と記憶欠損の部分的除去とに、かなり効果的であることが示されている(Monsonego and Weiner, 2003; Bard et al, 2000, Sevigny J et al., 2016)。能動免疫と受動免疫の双方を用いたいくつかの臨床試験では、認知の中等度の改善を伴う脳Aβ沈着の減少が示されている。しかし、AD患者の重度の炎症反応(髄膜脳炎症状)、血管原性浮腫、及び微小出血のために、臨床試験を中止する必要があった。これらの限界にもかかわらず、免疫療法のアプローチは、Aβを効果的に隔離してその沈着と毒性を防ぐ薬剤が、ADの進行を阻止する効果的な薬物の役割を潜在的に果たし、その進行さえ予防し得ることを示す(Rafii and Aisen, 2015, Selkoe and Hardy, 2016)
。
【0008】
適切な治療用分子及び診断薬の大部分は、厳密で高度に制限的な血液脳関門(BBB)に侵入できないため、脳に由来するADとその他の疾患の治療並びに早期診断は困難なままである(Abbott, 2013)。BBBは、血管を裏打ちし密着接合部を介して互いに接続する脳内皮細胞(BEC)によって形成される、物理的なバリケードを構成する(Abbott, 2013)。BEC間に形成される密着接合部は、BBBの完全性に不可欠であり、500ダルトン(Da)を超える分子の傍細胞輸送を妨げる。脳内皮細胞は非常に低い飲作用率を示すことから(Abbott, 2013)、より大きな分子の経細胞輸送は、非常に特異的な受容体媒介トランスサイトーシス(RMT)経路と、受動的な電荷ベースの吸着媒介トランスサイトーシスとに限定される(Abbott, 2013; Pardridge, 2002)。さらに、P糖タンパク
質や多剤耐性タンパク質-1(MDR-1)などの排出ポンプの高密度は、脳からの望まれない物質の除去に寄与する(Abbott, 2013)。
【0009】
これらの特性は全て、脳を病原体や毒素から保護するが、ほとんどの治療薬の侵入も同等に妨げる。実際には、それらが明確に「フェリー」される、すなわち、輸送体分子と共役している場合を除いて、小分子治療薬の5%未満が薬理学的に適切な濃度(すなわち、中枢神経系(CNS)標的に結合して薬理学的/治療応答を引き出すのに十分な濃度)でBBBを通過し得て、より大きな治療薬は通過し得ない。BBBを越えて分子を輸送する効果的な「担体」が欠如していることから十分な量が脳にされ得ないため、神経変性疾患に対する多数の薬物が「棚上げされ」又はさらなる開発から排除されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
AD病理の分子機構の理解はかなり進歩しているにもかかわらず、現在、病気の進行を予防又は治療し得る有効な薬物や治療法はない。さらに、大容量で高選択性のBBB「担体」の欠如のために、脳腫瘍や神経変性疾患などの脳に源を発する疾患の新たな治療法及び診断法の開発が遅れている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
本発明は、血液脳関門を移動する化合物又は組成物と、その使用とに関する。
【0012】
本発明は、βアミロイド(βアミロイド)に結合するポリペプチドを提供する。βアミロイドに結合するポリペプチド(又はタンパク質)は、病理学的に関連したβアミロイド1~42(Aβ1~42)凝集体に選択的に結合してもよく、本明細書でABP又はABP変異型と略記され言及されることもある。
【0013】
本発明は、血液脳関門(BBB)を通過する抗体又はその断片に連結される、ベータアミロイド(βアミロイド)結合ポリペプチド(ABP又はABP変異型)を含む、融合タンパク質(本明細書では化合物、組成物又はコンストラクトとも称される)を提供し、本明細書におけるBBBは、血液脳関門を移動する担体抗体又は断片の略語を指す。好ましい実施形態では、融合タンパク質は、ABP又はABP変異型及びBBB担体、又はその断片を含み、融合タンパク質のABP及びBBB構成要素は、Fc領域又はその一部を介して連結されてもよい。好ましい実施形態では、ABP又はABP変異型とBBBとを含む融合タンパク質は、Fcとして知られているイムノグロブリン(immunoglobumin)タンパク質エフェクタードメイン又はその断片をさらに含み、融合タンパク質のABP及びBBB構成要素は、Fc領域又はその部分を介して連結されてもよい。例えば、本発明のコンストラクトはリンカー(L)をさらに含んでなってもよく、Lは小型の連結ペプチド又はペプチド様鎖である。例えば、提供されるBBB-Fc-L-ABPコンストラクトは、一本鎖ポリペプチド又は二量体ポリペプチドであってもよく、BBB-Fc-L-ABPを含む一本鎖ポリペプチドは、Fc二量体化によって二量体を形成してもよい。Fc二量体化は、2つのFc CH3ドメイン間の大きな緊密に詰め込まれた疎水性界面の相互作用によって媒介されてもよい。例えば、本発明のコンストラクトはBBB-Fc-ABPを含んでもよい。提供されるBBB-Fc-ABPコンストラクトは、一本鎖ポリペプチド(一価)又は二量体ポリペプチド(二価)であってもよく、BBB-Fc-ABPを含む一本鎖ポリペプチドは、融合タンパク質の二量体化を可能にするFcを介して二量体を形成してもよい。本発明の化合物は、融合タンパク質、コンストラクト、融合分子、製剤又は組成物と称されてもよい。
【0014】
本発明の化合物は、アルツハイマー病(AD)の治療で使用されてもよい。
【0015】
βアミロイドに結合するポリペプチドは、
【化1】
FSSMPDPVDPTTVTKTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSK(配列番号28);
KDKTPKSKSKKRNSTQLKSRVKNITHARRILQQSNRNACN
(配列番号29);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKRNSTQLKSRVKNI(配列番号30);
からなる群から選択される配列を含んでもよい。
【0016】
βアミロイドに結合するポリペプチドは、配列、X1TFX2TX3X4ASAQASLASKDKTPKSKSKKX5X6STQLX7SX8VX9NI(式中、X1=G又はA、X2=G又はV、X3=G又はA、X4=G又はA、X5=G又はV、X6=G又はV、X7=G又はV、X8=G又はA、X9=G又はA)(配列番号31)である)を含む変異型であってもよい。
【0017】
特定の非限定的な実施形態では、ABP、又はその変異型は、
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号32);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI(配列番号33);
KTFKTRGASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号34);
KTFKTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号35);
GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI(配列番号36);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTVKNI(配列番号37);
KTFKTRKASAQASLASKDKTPKSKSKKRG(配列番号38);及び上記の配列のいずれかと実質的に同一の配列のいずれか1つから選択される配列を含んでもよい。
【0018】
βアミロイド変異型に結合するポリペプチド(ABP)は、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、及び配列番号38からなる群から選択されるポリペプチド配列を含んでもよい。配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、及び配列番号38からなる群から選択される配列ポリペプチドを含むABPは、ABP又はABP変異型と称されてもよい。本発明は、コンセンサス配列である配列番号31を有するABP変異配列をさらに含み、例えば、配列番号35、又は配列番号36、又は任意の同等に安定なポリペプチド配列であってもよい。同等に安定なポリペプチド配列は、哺乳類発現系における融合タンパク質の発現及び産生中にペプチド安定性を示す。例えば、本発明のABP変異型は、先行技術のABPペプチドよりも改善されたペプチド安定性を示してもよい(参考文献、国際公開第2006/133566号)。
【0019】
本発明は、βアミロイドに結合する単離ポリペプチドを提供し、βアミロイドに結合する単離ポリペプチドは、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、及び配列番号38、又は同等に安定なポリペプチド配列を含む配列からなる群から選択される配列を含んでもよい。
【0020】
本発明は、配列番号31、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、及び配列番号38からなる群から選択される、ABP又はABP変異型を含む、融合タンパク質を提供する。非限定的な例では、ABP変異型は、配列、KTFKTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKRGSTQLKSRVKNI(配列番号35)
;GTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI(配列番号36)を含んでもよい。
【0021】
本発明の融合タンパク質は、血液脳関門(BBB)を越えて移動する抗体、又はその断片を含んでもよい(上述のように、BBBは血液脳関門を移動する抗体担体の略称である)。抗体又はその断片(BBB)は、血液脳関門を越えた移動を可能にする脳内皮細胞上の表面受容体エピトープに結合してもよい。例えば、このような表面受容体エピトープは、TMEM30A又はインスリン様成長因子1受容体(IGF1R)エピトープ、又はそのイソ型、変異型、部分、又は断片であってもよい。
【0022】
抗体、又はその断片は、
GFKITHYTMG(配列番号1)の相補性決定領域(CDR)1配列、RITWGGDNTFYSNSVKG(配列番号2)のCDR2配列、GSTSTATPLRVDY(配列番号3)のCDR3配列を含む抗体又はその断片;
EYPSNFYA(配列番号4)のCDR1配列、VSRDGLTT(配列番号5)のCDR2配列、AIVITGVWNKVDVNSRSYHY(配列番号6)のCDR3配列を含む抗体又はその断片;
GGTVSPTA(配列番号7)のCDR1配列、ITWSRGTT(配列番号8)のCDR2配列、AASTFLRILPEESAYTY(配列番号9)のCDR3配列を含む抗体又はその断片;及び
GRTIDNYA(配列番号10)のCDR1配列、IDWGDGGX(式中、XはA又はT)(配列番号11)のCDR2配列、AMARQSRVNLDVARYDY(配列番号12)のCDR3配列を含む抗体又はその断片からなる群から選択される配列を含んでもよい。
【0023】
抗体、又はその断片は、
【化2】
式中、X
1=D又はE,X
2=A又はE,X
3=F又はV,X
4=E又はG,X
5=R又はL,X
6=F又はW,X
7=L又はV;
【化3】
式中、X
1はE又はQ;X
2はK又はQ;X
3はV又はE;X
4はA又はP;X
5はV又はA;X
6はF又はV;X
7はE又はG;X
8はR又はL;X
9はF又はW;X
10はA又はS;X
11はM又はI;X
12はA又はS;X
13はV又はL;X
14はD又はY;X
15はV又はL;X
16はK又はR;及びX
17はQ又はL;
【化4】
式中、X
1はE又はQ;X
2はK又はQ;X
3はV又はE;X
4はA又はP;X
5はA又はE;X
6はV又はA;X
7はV又はF;X
8はG又はE;X
9はL又はR;X
10はF又はW;X
11はG又はS;X
12はV又はY;X
13はD又はG;X
14はN又はS;X
15はA又はS;X
16はL又はV;X
17はK又はR;X
18はA又はS;及びX
19はL又はQ;及び
【化5】
式中、X
1はE又はQ;X
2はK又はQ;X
3はV又はE;X
4はA又はP;X
5はV又はS;X
6はD又はG;X
7はL又はR;X
8はF又はW;X
9はA又はS;X
10はA又はT;X
11はA又はS;X
12はG又はN;X
13はM又はL;X
14はN又はR;X
15はE又はR;X
16はP又はA;X
17はS又はY;及びX
18はQ又はL
からなる群から選択される配列を含んでもよい。
【0024】
特定の非限定的な実施形態では、抗体、又はその断片は、
【化6】
及び上記の配列のいずれかと実質的に同一の配列のいずれか1つから選択される配列を含んでもよい。
【0025】
BBBは抗体又はその断片であってもよく、好ましい実施形態では、BBBは単一ドメイン抗体(sdAb)であってもよい。sdAbは、ヒト化されていてもよい。
【0026】
好ましい実施形態では、抗体又はその断片(BBB)はFc又はその断片に連結されてもよく、BBB-Fcコンストラクトは二量体を形成してもよい。本発明は、BBB-Fc-L-ABPを含む融合ペプチドをさらに提供し、融合ペプチドのBBB-Fc部分は、短いペプチド性リンカー(例えば、12個未満のアミノ酸を有するリンカー)を介してABPに連結され、Fc又はFc断片は、前記融合ペプチドの二量体化を可能にして二量体を提供し、したがってコンストラクトを分解から保護し、その血清半減期を延長する。Fc断片は、望ましい薬物動態を与えるために選択された任意の適切なFc断片であってもよく、Fc又はFc断片は、融合分子の長い半減期に寄与する。その他の好ましいFc又はFc断片の実施形態は、免疫学的エフェクター機能を調節、修飾又は抑制してもよい(Shields et al., 2001)。その他の非常に好ましいFc断片の実施形態は、脳からの融合ペプチドのクリアランスを媒介してもよい(Caram-Salas N, 2011)。非限定的な例で
は、Fc又はFc断片は、エフェクター機能が減弱された、配列番号39、配列番号40、配列番号41のいずれか1つ、及びそれと実質的に同一の配列から選択される、FcマウスFc2a、又はヒトFc1であってもよく、これが前記融合ペプチドに含まれる場合、脳からのアミロイドのクリアランスが促進されてもよい。
【0027】
本発明の化合物において、BBBは、Fc断片、及び/又は任意の追加的な適切なリンカーLを介して、ABPに連結されてもよい。
【0028】
本発明の化合物は融合タンパク質を含み;融合タンパク質は、抗体又はその断片、Fc断片、及びβアミロイドに結合するポリペプチドを含む。融合タンパク質は、Fc断片のN末端に連結された抗体又はその断片を含んでもよく、βアミロイドに結合するポリペプチドは、連結ペプチド又は化学リンカーであるLを介して、Fc断片のC末端に連結される。抗体又はその断片は、Fc断片のC末端に連結されてもよく、βアミロイドに結合するポリペプチドは、Fc断片のN末端に連結されてもよい。
【0029】
したがって、本発明は、配列番号13~配列番号26からなる群から選択される抗体又はその断片;配列番号27~配列番号38からなる群から選択されるβアミロイドに結合するポリペプチド;及び配列番号39~配列番号41からなる群から選択されるFc断片を含む融合タンパク質を提供する。提供されるFcは、エフェクター機能が減弱されたFcを含んでもよい。
【0030】
例えば、融合タンパク質は、配列番号42~配列番号52又はそれと実質的に同一の配列を含んでもよい。融合タンパク質は一本鎖ポリペプチドであってもよく、融合タンパク質の一本鎖ポリペプチドは二量体ポリペプチドのためのものであってもよい。配列番号42~配列番号52に含まれる融合タンパク質に提供される(GGGSGGGGS又はGGGGSGGGGS)リンカーは、任意の適切なリンカー配列であってもよいことに留意されたい。例えば、強調表示されたリンカー配列(例えば、GGGSGGGGS)は、配列番号53で例示されるように、提供される融合タンパク質の構成要素の連結を可能にする任意の同等のペプチド連結配列であってもよく、リンカーは任意のペプチド又は化学リンカーであってもよい。
【0031】
一実施形態では、BBBはFc断片に連結され、したがって二量体を形成してもよい。Fc断片は、エフェクター機能が減弱された、例えばマウスFc2a又はヒトFc1などの任意の適切なFc断片であってもよい(Shields et al., 2001)。
【0032】
本発明のABP変異型は、配列番号31を含んでもよく、例えば、配列番号32~38のいずれか1つから選択される配列であってもよい。本明細書で提供されるABP変異型は、先行技術のABPポリペプチドに優る予想外の有意な利点を示す。より具体的には、
本ABP変異型は、安定性及び生物製造可能性の向上を示す。さらに、本明細書で提供されるリンカー及び/又はFc断片を介してBBBと共役した場合、本明細書で提供されるABP又は変異型を含む本発明の化合物又は組成物は、血液脳関門の移動において相乗的且つ予想外の効力を示す。このようなABP変異型は、本明細書で提供される選択されたFc断片を介してBBBと共役すると、脳からのAβの予想外の、迅速且つ改善されたクリアランスを提供する。さらに、本明細書で提供されるABP又はABP変異型を含む本発明の融合タンパク質は、BBBの移動における相乗的且つ予想外の効力と、脳からのAβの改善されたクリアランスとを示す。
【0033】
したがって、βアミロイドに結合するポリペプチド(ABP又はABP変異型体)に連結した血液脳関門移行抗体又はその断片(BBB)、Fc(Fc)を含む治療用組成物が提供され、前記ポリペプチドは、提供される治療用組成物の安定性及び有効性の相乗的増加をもたらす。示されるように、意外なことに且つ最も顕著に、BBB-Fc-ABPの単回のボーラス投与は、動物で同様の結果を達成するための遊離ABPによる3ヶ月間の複数回処置(ADのマウスモデル)(
図9A)と比較して、処置の24時間以内に脳Aβ負荷を50%減少させた(
図9B)。したがって、本明細書で提供される化合物は、脳Aβ負荷の低減において遊離ABPよりもはるかにより強力であることが示された。さらに、Fcを含むこの融合タンパク質は、遊離ABP又はBBB-ABPと比較して、実質的により長い血清半減期を提供し(国際公開第2006/133566号)、それによって改善された治療用化合物を提供した(
図10)。
【0034】
本発明のABP変異型、及びABPを含む融合タンパク質(コンストラクト)は、先行技術の欠点を克服する。先行技術では、ABPとBBB担体のみの連結(国際公開第2006/133566号)は、有効な分子の生成を保証しない。血清半減期の延長を目的としたFcを含む融合物は、血液脳関門を越えるABPの効率的な輸送を保証しない。BBB担体とFc断片とABPとを含む融合分子の特定の設計及び配合は、効率的なBBB透過性治療用化合物を提供する。提供される効率的な血液脳関門透過性治療用化合物は、BBB-Fc-ABPの特別に設計された製剤を含み、製剤は、化合物の安定性と有効性の相乗的改善を示す。
図9に示されるように、前記融合タンパク質コンストラクトを含む組成物では、融合組成物の安定性の予想外の増加、そして血液脳関門の移動の効率と脳からのAβのより速いクリアランス(24時間以内)との相乗的増加が提供される。
【0035】
本明細書で提供される化合物は、化合物、融合タンパク質、製剤、組成物又はコンストラクトと称されてもよい。提供されるコンストラクトは、抗体又はその断片(BBBと略記される)、Fc断片(Fcと略記される)、及びβアミロイドに結合するポリペプチド(ABPと略記される)を含んでもよい。提供されるコンストラクト又は組成物(本明細書ではBBB-Fc-ABP又はBBB-Fc-L-ABPと略記されることがある)は、血液脳関門移動、効力及び化合物安定性に関して先行技術で遭遇する欠点を相乗的に克服する構成要素を含む。したがって、本明細書で提供される化合物は、血液脳関門の移動における予想外の優れた効率、治療有効性及び化合物安定性を有する新規製剤を含む。
【0036】
Fc融合物では血清半減期は必ずしも延長しないが、先行技術では、Fc融合物が血清半減期を延長する事例がある。さらに、Fc融合物は、血液脳関門を越えた移動を必ずしも改善しない。
【0037】
本発明は、βアミロイドに結合するポリペプチドを提供し、ポリペプチド配列は、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、及び配列番号38、及びペプチド安定性において実質的に同一の配列からなる群から選択されてもよい。
【0038】
本発明は、βアミロイドに結合するポリペプチドを提供し、ポリペプチド配列がABP又はABP変異型と称される場合、ABP変異配列は配列番号31を含んでもよく、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、及び例えば、配列番号31の任意の配列変異型などのペプチド安定性において実質的に同一の配列からなる群から選択されてもよい。本発明の配列番号31を有するABP変異型は、ポリペプチドの安定性に関する先行技術の欠点を克服する。さらに、本発明のABPを含む化合物は、改善された化合物安定性及び生物製造可能性を示す。さらに、本明細書で提供されるABP又はABP変異型を含む化合物は、相乗的且つ予想外の治療改善を示す。
【0039】
本発明のABP変異型は、配列番号31~配列番号38のいずれか1つから選択される配列、及び同等に安定なポリペプチド配列を含んでもよい。本発明のABP変異型は先行技術のABP配列よりも優れており、本ABP変種ポリペプチドは改善された安定性を示す(
図2Aと
図16との比較で示されるように)。
【0040】
本発明はまた、本発明のABP又はABP変異型を含む、融合タンパク質(化合物、コンストラクト、又は融合分子とも称される)を提供する。融合タンパク質は、Fc断片を含んでもよい。融合タンパク質は、血液脳関門を移動する抗体又はその断片と、Fc断片と、配列番号31及び配列番号32~38からなる群から選択されてもよいβアミロイド結合ポリペプチド配列とを含んでもよい。提供されるBBB-Fc-ABP製剤は、脳から毒性アミロイドを除去する際に、化合物の安定性と治療効果との相乗的な改善を示す。
【0041】
本明細書でBBB-Fc-ABPと称されることもある融合タンパク質又はコンストラクトは、その中に含まれる構成要素に関して配向が異なっていてもよい。本発明の化合物において、融合タンパク質は二量体を形成し(
図1に示されるように)、融合ペプチドはFc領域を介して二量体化する。例えば、一実施形態では、提供される化合物は、c断片(Fc)のN末端に連結されるBBBと、C末端に付着する短いペプチド性リンカーを介してFc断片のC末端に連結されるABP又はABP変異型(ABP)とを含む、融合タンパク質を含んでもよい(
図1A、化合物は融合タンパク質の二量体として示される)。さらなる実施形態では、提供される化合物は、Fc断片(Fc)のC末端に連結されるBBBを含んでもよく、ABP又はABP変異型(ABP)は、適切なリンカー(L)を介してFc断片のN末端に連結されてもよい(
図1B)。構成1Aでは、ABP又はABP変異型は、Fcに融合/連結されたN末端(融合)又はC末端(化学的結合)であってもよいことに留意されたい。その他の可能な構成では、BBBはABPのN末端に連結され、ABPはFc断片のN末端に連結される(
図1C)。さらに別の可能な構成では、BBBはABPのC末端に連結され、ABPはFc断片のC末端に連結される(
図1D)。
【0042】
本明細書で提供される化合物は、配列番号42配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、及びこれらの配列のいずれかと実質的に同一の配列のいずれか1つから選択される配列を含む融合タンパク質を含む。本発明の融合タンパク質は、融合タンパク質(BBB-Fc-ABP又はBBB-Fc-L-ABP、Lは任意の適切なリンカーであってもよい)二量体である(
図1に示され、好ましくは
図1A又は1Bに示される)」。非限定的な例では、提供される化合物又は融合タンパク質は、配列番号35(ABP-GG-G)又は配列番号36(ABP-6G)の配列を含むポリペプチド;配列番号17(FC5-H3)の配列を含む抗体又はその断片;及び配列番号40(hFc1X7)の配列を含むFc断片を含んでもよい。
【0043】
本発明の特定の非限定的な実施形態では、化合物は、配列番号46[FC5-H3-hFc1X7-L-ABP(GG-G)]又は配列番号47[FC5-H3-hFc1X7
-L-ABP(6G)]の配列を含んでもよく、式中、Lは任意の適切なリンカーであってもよい。
【0044】
本発明の化合物は、血液脳関門を移動する。
【0045】
本発明は、本明細書に記載されるような本発明の任意の化合物をコードする核酸分子を包含する。本発明の融合タンパク質の核酸分子又は化合物を含むベクターもまた、本発明の範囲に含まれる。
【0046】
本発明は、本発明の化合物又は融合タンパク質と、薬理的に許容可能な担体、希釈剤、又は賦形剤とを含む組成物を包含する。
【0047】
本発明の医薬組成物を含むキットもまた、本発明の範囲に含まれる。
【0048】
本発明の組成物は、患者においてアルツハイマー病を治療するために使用されてもよい。
【0049】
本発明の組成物は、脳Aβレベルが増加している対象の脳内又はCSF中の毒性βアミロイド(Aβ)レベルを減少させるために使用されてもよい。
【0050】
本発明は、アルツハイマー病を治療する方法を提供し、本発明の医薬組成物は、それを必要とする対象に投与されてもよい。
【0051】
本発明は、脳Aβのレベルが増加している対象の脳内の毒性βアミロイド(Aβ)レベルを減少させる方法を提供する。本発明の方法は、本発明の化合物をADを有する患者に投与することを含む。より具体的には、本方法は、十分な量の本発明の医薬組成物を対象に反復非経口投与するステップを含む。
【0052】
本発明の方法では、非経口投与は、皮下又は静脈内投与である。
【0053】
本発明の方法は、本明細書で提供される組成物の反復非経口投与後に、Aβの脳レベルが増加した対象の脳内の毒性βアミロイドレベルを減少させる。より具体的には、毒性βアミロイドレベルは、本発明の組成物の反復非経口投与の4週間以内に減少する。
【0054】
本発明の方法は、本発明の組成物の非経口投与後に、対象の脳脊髄液(CSF)中の毒性βアミロイドレベルを減少させる。より具体的には、対象の脳脊髄液(CSF)中の毒性βアミロイドレベルは、本発明の組成物の単回非経口投与の24時間以内に有意に減少し、有意な減少は24時間以内に50%に至る。
【0055】
本発明は、血液脳関門透過性単一ドメイン抗体(sdAb)を提供し、sdAbは、ラクダ科動物FC5又はそのヒト化バージョンのどちらかである。二価形態で提示されたFC5は、VHH形態のFC5と比較して、血液脳関門通過特性が改善されていることが示されている(Farrington et al., 2014)。
【0056】
本発明は、生体外で血液脳関門移動を促進するBBBとFc断片とを含む化合物を提供し、融合分子の血清半減期を延長して、Fc融合体の血清半減期は完全IgGと同様になる。FC5-Fc-ABPの血清半減期の延長は脳全体の曝露を増加させ、これは、アルツハイマー病などの慢性疾患の治療にとって特に重要である。
【0057】
FC5-Fc-ABP融合分子並びにヒト化バージョンFC5(H3)-hFc-AB
P、及びIGF1R5-H2-ABP融合分子はCHO細胞で産生された。配列番号31に記載される本発明のABP変異型は、融合分子(配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53)の生物製造可能性及び安定性を高める特定の点変異又は欠失をもって、系統的に再設計される。本発明のABP変異型を含む融合分子はAβ結合能力を維持するだけでなく、提供されたABP変異型を含む融合分子は血液脳関門に浸透するだけでなく、例えば、投与から24時間以内の脳からのAβの急速なクリアランスなどの脳からのAβのクリアランスを有利に可能にする。
【0058】
例えば、ABP(GG-G)(配列番号35)又はABP(6G)(配列番号36)などの本発明のABP変異型は、コンストラクトの安定性及び製造可能性を高めるために特異的に操作された(
図16に示されるように)。本発明のコンストラクトの向上した安定性及び生物製造可能性は、本技術分野において意義深い。したがって、本発明は、提供される融合分子の安定性及び生物製造可能性を高めるが、治療活性もまた維持する、ABP及びABP変異型を包含する(
図15Aに記載されるように)。
【0059】
したがって、配列番号32~38などの配列番号31に記載されるような異なるABP変異型を含む融合分子は、生体外で親ABPのAβオリゴマー結合能を維持し(
図2B、2C、12及び15A、B、及びC)、生体外及び生体内の双方で親FC5のBBB浸透性を維持する(
図4、5A、6、7、17A、17B、18、及び19)。ABPは、ラット及びイヌのCSF中に存在することで確立されたように、生体外及び生体内で例えばFC5などの担体によってBBBを越えて輸送される(
図5及び6)。ABP融合体はまた、野生型及びAD遺伝子組換えマウスの双方で、海馬や皮質などの脳内の標的領域にも輸送され送達された(
図8及び19)。脳に送達されたABPはまた、CSF(
図9C及び11A及び11B)及びAD遺伝子組換えマウス及びラットの皮質及び海馬領域(
図9B及び11C)において、Aβクリアランスも促進した。さらに、そして最も重要なことには、ラットADモデルにおけるAβクリアランスは、海馬の体積及び神経細胞結合性の強化と相関し(
図12A及び12B)、治療に対する望ましい薬理学的/生理学的応答が示唆された。
【0060】
意外なことに且つ最も顕著に、BBB-Fc-ABPの単回のボーラス投与は、動物で同様の結果を達成するための遊離ABPによる3ヶ月間の複数回処置(
図9A)と比較して、処置の24時間以内に脳Aβ負荷を50%減少させた(
図9B)。したがって、BBB対応のABPは、脳のAβ負荷を軽減させる上で、遊離ABPよりもはるかにより強力であることが示された。さらに、この化合物は、Fcとの融合により、遊離又はFC5-ABPと比較して、実質的により長い血清半減期を有し、それはより良い治療薬に必須の特徴である(
図10)。
【0061】
先行技術では、ABPとBBB担体のみの連結(国際公開第2006/133566号)は、有効な分子の生成を保証しない。血清半減期を延長するためのFcとの融合もまた、血液脳関門を越えるABPの効率的な輸送は保証しない。本発明の融合タンパク質コンストラクトで提供されるような、BBB担体、Fc断片、及びABP融合分子の適切な設計及び配合は、効率的なBBB透過性治療用化合物を提供する。
【0062】
この新しい二機能性融合分子は、現在開発中の従来の治療用抗体に優る明確な利点がある。第一に、BBB融合治療用ABPは、はるかにより高いレベルで、より速い速度で脳に浸透し、治療効果を実質的に改善する。さらに、ABP及びBBB(例えば、FC5)は、それぞれの受容体に対する親和性が比較的低く、したがって脳からより早く除去される可能性が高いため、ABP結合Aβの迅速なクリアランスが促進される。より緩慢なプロセスである、Aβクリアランスのための反応性小膠細胞/星状細胞を主に用いる治療用
抗体(例えば、アデュカヌマブ)とは異なり、本発明の融合分子は、Aβクリアランスのためにより速い血管周囲排液経路を用いる可能性が高い。これは、同様の結果を得るために複数回の反復投与による数ヶ月間の処置が必要である、遊離ABP(
図9B)及び抗体ベースの治療法と比較して、処置の24時間以内にCNSのAβが50%近く減少することによって裏付けられる。
【0063】
さらに、本化合物は、抗体ベースの治療薬と比較して、神経炎症応答を誘発する可能性がより低い。
【0064】
図面の簡単な説明
本発明のこれらの及びその他の特徴を添付の図面を参照して、例としてここで説明する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】血液脳関門を通過するアミロイド結合融合タンパク質の概略図を示す。融合タンパク質は、BBB通過単一ドメイン抗体(BBB又はBBB担体)、Fc断片(Fc)、及びアミロイド結合ペプチド(ABP)を含む。
図1は、BBB-Fc-ABPを含む融合タンパク質の対応する二量体を示す。3つの構成要素(すなわち、BBB、Fc、及びABP)は、
図1A、1B、1C、及び1Dに示されるように、様々な構成で描写される。
【
図2】CHO細胞におけるFC5-mFc-ABP及びヒト化FC5(H3)-hFc-ABP(ABP配列番号32)融合分子の産生を示す。
図2Aは、SDS-PAGE(NR-非還元及びR-還元条件)によるFC5融合分子の分離後のクマシーブルー染色ゲルは、組換え融合分子の産生の成功を示す。
図2Bと2Cは、ELISA及びウエスタンブロット(WB)オーバーレイアッセイによる、遊離ABP及びBBB-Fc-ABP融合タンパク質のAβオリゴマー結合。遊離又は融合ABPは、ELISAプレート上で固定化され、Aβに曝露された。結合Aβは、Aβ特異的抗体6E10又は4G8を用いて検出された。融合分子もまたSDS-PAGEによって分離され、PVDF紙に転写され、Aβに曝露された。結合Aβは、上記のように特異的抗体で検出された。結果は、ABPがBBB担体との融合後に、Aβオリゴマー結合能力を維持したことを示す。Mo:Aβモノマー;Oli:Aβオリゴマー
【
図3】AD-Tgマウス(B6.Cg-Tg、Jackson Lab)のアミロイド沈着物へのFC5-Fc-ABPの結合の免疫組織蛍光アッセイを示す。ABPは、免疫組織蛍光アッセイで示されるように、AD-Tgマウス脳内で自然に生成されたAβ凝集体を結合する能力を維持する。野生型及びAD遺伝子組換えマウスの脳切片がIR800標識されたFC5-mFc-ABPと共にインキュベートされ、結合した融合分子が蛍光顕微鏡下で視覚化された。選択的結合(明るい点)は、Aβ沈着物を産生するAD-Tgマウスの脳切片で見られ、アミロイド沈着物を産生しない野生型マウスの脳切片では見られなかった。
【
図4】生体外でABPとの融合後に、FC5のBBB透過性が維持されていることを示す。FC5-ABP融合分子の血液脳関門通過は、ラット及びヒトの生体外BBBモデルで評価された。BBBを通過する融合分子は、nanoLC-MRM法(
図4A、
図4B、及び
図4C)によって、そしてFc特異的抗体を用いたウエスタンブロット分析によって検出された(
図4D、3連で実施された)。FC5-mFc-ABPがFC5-mFcと同程度に効果的にBBBを通過したのに対して、BBB担体部分FC5のないFc-ABPは、脳内皮細胞単層を横断しなかった。予測されたように、対照の単一ドメイン抗体EG2及びA20.1、又は対照の完全IgG(抗HEL)は、血液脳関門を通過しなかった。ヒト化FC5-H3-hFc-ABP融合タンパク質でも、同様の結果が得られた(
図4C及び
図4D)。
【
図5】生体内におけるFC5-Fc-ABPの血清及びCSF薬物動態を示す。FC5-mFc-ABPは、示された用量(2.5、6.25、12.5、及び25mg/kg)で尾静脈注射を通じてラットに静脈内投与された。血清及びCSFが連続的に採取された。FC5-Fc-ABPレベルは、nanoLC-MRM法を用いて定量化された。
図5に示されように、FC5-mFc-ABPは時間及び用量依存様式でCSF中に出現し、Cmaxは12~24時間であり、生体内におけるFC5による脳及びCSF区画内へのABPの輸送が示唆される。血清PKパラメータ(
図5及び表1)は、FC5-mFc-ABPのα及びβ半減期が、完全IgG(ラットFcを含む基準抗体)のそれと同様であることを示す。
【
図6】ビーグル犬のFC5-mFc-ABPの血清及びCSFPKプロファイルを示す。FC5-mFc-ABPが10~12歳齢のビーグル犬に静脈内注射によって投与され、血清及びCSFが連続的に採取され、nanoLC-MRM(
図6A)によって、及びFc特異的抗体を使用したウエスタンブロット(
図6B)によって分析された。星印は、血液に汚染されたサンプルを示す(MRM分析には示されない)。見て分かるように、FC5-mFc-ABPはCSF中に時間依存様式で現れ、生体内でイヌの血液脳関門を通過するFC5によるABPの輸送を示唆する。PKパラメータ及びCSF暴露は、WinNonlinソフトウエアによって分析され、以下の表2に示される。
【
図7】生体内(ラットモデル)においてヒトFc(hFc)と融合しABP(FC5-hFc-ABP)に化学的に連結された、FC5のBBB透過性とCSFの外観を示す。FC5-hFcは、製造会社の使用説明書(ThermoFisher Scientific)に従ってヘテロ二機能性架橋剤スルホ-SMCC(スルホスクシンイミジル4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシレート)を使用して、ABP-シスタミドと連結された。化学的にコンジュゲートされた分子がラットに6.25mg/kgで尾静脈を介して静脈内投与され、血清及びCSFサンプルが4及び24時間目に採取され、nanoLC-MRMで分析された。FC5-hFc-ABPは、BBB担体のないFc-ABPとは対照的に、CSFに時間依存様式で出現する。この化学的に連結されたコンストラクトでは、FcのC末端に融合されているのがABPのN末端であり、ABPのC末端は遊離している融合コンストラクトとは異なり、ABPのC末端がFc断片(ランダム領域)に連結され、N末端は遊離していることに留意すべきである。ABPの配向のこの逆転は、そのAβ結合能力及び血液脳関門を越える輸送に影響を及ぼさなかった。
【
図8】マウスにおける静脈内注射後に、様々な脳領域(皮質及び海馬)で測定されたFC5-mFc-ABPのレベルを示す。15mg/kg用量のFC5-mFc-ABPが野生型(WT)又はAD遺伝子組換えマウス(AD-Tg、B6.Cg-Tg、Jackson Lab)の尾静脈に静脈内注射され、心臓内生理食塩水灌流の4時間後及び24時間後に脳が採取された。海馬及び皮質組織が解剖され、nanoLC-MRM(
図8A)によって、そしてFc特異的抗体を使用したウエスタンブロット(
図8B)によって分析された。融合分子の3つの構成要素全て(この例ではFC5、Fc、及びABP)に属する特定のペプチドが、皮質と海馬の双方でMRMによって検出され、FC5担体がABPを脳の標的領域に成功裏に送達したことが示唆された。Fc又はFc断片のみに融合した対照単一ドメイン抗体A20.1で典型的に測定される約50ng/g組織と比較して、測定されたレベルは、異なる時点で750~1400ng/g脳組織に及んだ。これはさらに、組織抽出物中のFc及びABPを探索するウエスタンブロット分析によって確認された(
図8B)。生理食塩水のみが投与された動物では、ウエスタンブロットによって融合分子のタンパク質シグナルは検出されなかった。脳の標的領域でウエスタンブロットによって検出されたFC5-mFc-ABPレベルの用量依存的な増加があった。
【
図9】遺伝子組換え(Tg)マウスにおけるAβレベルに対するABPの効果を示す。ABP単独(
図9A)又はBBB担体FC5と融合したABP(
図9B及び
図9C)による処置の比較。2つの異なるAD Tgマウスモデル、三重遺伝子組換え(PS1M146V、APP
Swe、及びtauP301L導入遺伝子を保有する、3XTg-AD、sv129/C57BL6マウス、Dr. F.M. LaFerla, University of California)及び二重遺伝子組換え(B6.Cg-Tg、PSEN1dE9及びAPP
Swe導入遺伝子を保有する、Jackson Lab)が使用され;マウスには、それぞれ3ヶ月間又は2ヶ月間期間にわたり、隔日で300nmol/kgの遊離ABPが皮下(sc)投与された。処置期間の終了時に、脳のAβレベルがELISAで測定された。ABP単独による処置は、2~3ヶ月の複数回の(隔日)処置後に、脳Aβの25~50%の減少をもたらした(
図9A)。FC5-mFc-ABPコンストラクトが二重遺伝子組換えADマウス(B6.Cg-Tg、15mg/kg、220nmol/kgに相当)に静脈内注射され、ELISAとnanoLC-MRMの双方によって、注射後24時間の脳Aβレベルが測定された。意外なことに、FC5-mFc-ABPによる処置の24時間以内に約50%のアミロイドの減少が観察され(
図9B)、Fcに適切に連結されたFC5によるABPの効率的な脳送達が、Aβレベルの減少におけるABPの有効性を劇的に高めたことが示唆された。CSF分析はまた、FC5-mFc-ABP処置後24時間以内にAβ
1~42レベルの有意な減少を示した(
図9C)。MRM又はELISA分析によって検出されたAβのシグネチャペプチド又はエピトープは、ABPによって認識されるAβエピトープから離れている/異なる(したがって、ELISA又はMRMによる定量化に干渉しない)。
【
図10】FC5-ABP(Fc成分なし)と比較したFC5-Fc-ABPコンストラクトの血清半減期の延長の一例を示す。FC5-ABP及びFC5-Fc-ABPは尾静脈を介してラットに注射され、様々な時点で連続血清サンプルが採取され、FC5特異的抗体を用いた直接ELISAによって分析された。
図10Aに見られるように、FC5-Fc-ABP(
図10B)と比較して、FC5-ABPコンストラクトは血清中で急速に除去され(1時間未満)、Fc断片を含む分子の血清安定性の実質的な増加が示唆される。
【
図11】Tgラットの脳アミロイド負荷に対する、FC5-mFc-ABPの効果を示す。AD-Tgラットは、生理食塩水又はFC5-mFc-ABPのどちらかを4週間にわたり毎週尾静脈から投与された(30mg/kgの初回負荷量及び引き続く15mg/kgの4回の週用量)。FC5-mFc-ABP及びAβのCSFレベルは、nanoLC MRMによって分析された(
図11A及び
図11B)。4週間の処置の前後に、特定のAβ結合剤[18F]NAV4694を使用して、PETスキャンによって脳Aβレベルが判定された。トレーサー注入後、60分間の動的画像が取得され、透過スキャンが取得され、画像が再構築され、結合能(BP
ND)パラメトリックマップが作成された。FC5-mFc-ABPは、24時間以内にラットにおけるCSFのAβレベルを減少させた(
図11A及び
図11B)。Tgラットにおけるように、FC5-mFc-ABPのCSFレベルとAβとの逆相関が観察され、FC5によって脳及びCSFに送達されたABPによる、Aβの標的結合と急速なクリアランスが示唆された(
図11B)。これは、FC5-mFc-ABPによる4週間の処置に続くラット脳Aβレベルの有意な減少(30~50%)を明確に示したPETスキャンによって、さらに裏付けられた(
図11C)。
【
図12】生理食塩水又はFC5-mFc-ABPによる処置の前後のTgラットの体積磁気共鳴画像法(MRI、定常歳差運動の高速画像法を使用)及び機能的MRI(fMRI)を示す。
図12Aに示されるように、4週間の処置後、生理食塩水処置Tgラット(Tg-Sal)と比較してABP処置Tgラット(Tg-ABP)海における海馬体積の増加が観察された。
図12Bに示されるように、4週間の処置後のグループ比較では、ABPで処置されたTgラット(Tg-ABP)は、生理食塩水で処置されたTgラット(Tg-Sal)と比較して、前帯状皮質(ACC)の結合性が高いことが示された。
【
図13】ビーグル犬のCSF中のFC5-mFc-ABPの時間及び用量依存性の出現と、Tgマウス(
図9C)及びTgラット(
図11A及びB)に見られるようなCSFのAβレベルの減少とを示す。FC5-mFc-ABPが10~12歳齢のビーグル犬に15mg/kg及び30mg/kgで静脈注射によって投与され、血清及びCSFが連続的に採取され、FC5-mFc-ABP及びAβレベルがnanoLC-MRMによって分析された。見て分かるように、FC5-mFc-ABPは、CSF中に時間及び用量依存様式で出現した。重要なことには、Tgマウス及びTgラットで見られるように、FC5-mFc2a-ABP注射後24時間以内にCSFのAβレベルの有意な減少があり、大型動物におけるFC5担体の翻訳特性と、CNSのAβ負荷の低減におけるABPの異種間効力が示唆される。
【
図14】異なるBBB担体を使用したABP融合分子の生成を示す。ABP融合分子の汎用性を評価するために、ABPは、別のヒト化BBB担体IGF1R5(H2)と成功裏に融合された。示されるように、分子の二機能性が維持され、ABPがAβオリゴマーに結合する能力(ELISA及びオーバーレイアッセイ)が維持され、IGF1R5が生体外でBBBモデルを越えてABPを送達する能力もまた維持された(データ未掲載)。これは、ABPが、異なるBBB通過単一ドメイン抗体と融合され、脳に送達され得ることを明確に示唆する。
【
図15】異なる単一ドメイン抗体-Fc-ABPコンストラクトによる、Aβオリゴマーの結合を示す(
図15A、15B、及び15C)。これらのコンストラクトのいくつかでは、配列番号に示されるように、ABPは部位特異的変異又は分子のC末端部分の除去によって修飾されている。全てのコンストラクトは、ELISA法によって、Aβオリゴマーの結合における同様の効力を維持した。
【
図16】安定性及び生物製造可能性を改善するための特定の変異を有する、FC5-hFc1X7-ABPの生成を示す。特定の変異を担持するFC5-hFc1X7-ABP(配列番号35又は配列番号36のABPなど)がCHO細胞で産生され、還元(R)及び非還元(NR)条件下においてSDS-PGE上で分離され、
図2に記載されるようにクマシーブルーで染色された。分離されたタンパク質は、ニトロセルロース膜に転写され、FC5特異的、hFc特異的、又はABP特異的いずれかの抗体を用いて免疫ブロット法が実施された。別のセットでは、融合分子中のABPのAβ結合もまたオーバーレイアッセイにより試験された。結合したAβは、Aβ特異的抗体6E10によって検出された。見て分かるように、特定の変異を伴うABPの方法論的修飾は、還元及び非還元条件下における単一タンパク質バンドによって示されるように、生成された分子の安定性を実質的に高めた。
【
図17】生体外における様々なFC5-Fc-ABPコンストラクト及びIGF1R5-Fc-ABPコンストラクトの血液脳関門透過性を示す。
図4に記載されているように、BBB通過は生体外ラットBBBモデルで評価され、血液脳関門を通過する分子がnanoLC-MRM法で検出された。ヒト化FC5及びIGF1R担体に融合した全てのABP変異型は、血液脳関門を効果的に通過した。予測されたように、非BBB透過性sdAbであるA20.1は血液脳関門を通過せず、A20.1に融合したABPもまた同様にBBBを通過しなかった(
図17A)。
図17Bでは、融合分子FC5、Fc、及びABPの3つの成分全ての「フィンガープリント」ペプチドがnanoLC-MRMによって検出されることが示され、その結果、無傷のFC5、Fc、及びABPのBBBを越える移動が示唆される。
【
図18】ヒト化FC5(H3)-hFc1X7-ABPコンストラクト(ABP、配列番号35及び配列番号36)が、FC5によって生体外血液脳関門を越えて無傷で輸送されることを示す。血液脳関門通過は、
図4について記載されるような生体外ラットBBBモデルで評価され、BBBを通過する分子は、ウエスタンブロット及びELISAアッセイによって検出された。
図18(1)A及びBは、hFc及びABP特異的抗体で探索された免疫ブロットを示す。分子サイズは、生体外血液脳関門モデルに適用された融合分子のサイズと全く同一である。
図18(1)Cは、BBBを通過した後の分子がELISAプレート上のFC5特異的抗体によって捕捉され、ABP特異的抗体を用いて検出された、サンドイッチELISAを示す。このサンドイッチELISAは、生体外でラットの血液脳関門を通過した後に、FC5(H3)-hFc1X7-ABPが無傷のままであったことを確認した。C5(H3)-hFc1X7-ABP(ABP、配列番号36)で同様の結果が得られた;
図18(2)A、B、及びC。
【
図19】ヒト化FC5(H3)-hFc1X7-ABPコンストラクト(ABP、配列番号35及び配列番号36)が、FC5によって生体内血液脳関門を越えて輸送され、無傷で脳に送達されることを示す。FC5-ABP融合分子は、
図8に記載されるように、野生型及びAD-Tgマウスに尾静脈を介して静脈内投与され、心臓内灌流に続いて脳が採取された。脳皮質は均質化され、RIPA緩衝液で抽出され、抽出物は、
図18に記載されるように、ウエスタンブロット及びサンドイッチELISA分析に供された。
図19Aは、ABP特異的抗体で探索された免疫ブロットを示す。分子サイズは、動物に注射された融合分子のサイズと全く同じである。
図19Bは、サンドイッチELISA、ELISAプレート上のFC5特異的抗体を用いて捕捉され、ABP特異的抗体を用いて検出された、同一抽出物中の分子を示す。これは、FC5(H3)-hFc1X7-ABPが生体内でBBBを越えて輸送され無傷で脳に送達されるという、免疫ブロットの結果を裏付ける。
【
図20】AD-Tgマウス脳(B6.Cg-Tg、Jackson Lab)内のAβ沈着物に対する、FC5(H3)-hFc1X7-ABP(ABP、配列番号36)の内因性生体外結合(A)及び生体内結合(B)の免疫組織化学的分析を示す。AD遺伝子組換えマウス由来の脳切片は、FC5(H3)-hFc1X7-ABP(ABP、配列番号36)と共にインキュベートされ、結合した融合分子はHRPコンジュゲートFC5特異的抗体を用いて視覚化された。FC5(H3)-hFc1X7-ABPコンストラクトでは選択的結合(黒点)が見られたが、ABPのないFC5(H3)-hFc1X7(A)では見られず、脳内のAβ沈着のABP依存性結合(標的結合)が示唆された。アミロイド沈着を生じない野生型マウス由来の脳切片には、結合は見られなかった(データ未掲載)。AD遺伝子組換えマウスへのFC5(H3)-hFc-ABPコンストラクトの海馬内注射後(注射の4時間後)、Aβ沈着物の同様の結合が検出された(ABP特異的抗体を使用)。
【
図21】生体内における、FC5(H3)-hFc1X7-ABP(ABP、配列番号32)による標的結合を示す。
図21Aは、海馬内注射後の生体内AD遺伝子組換えマウスにおける、Alexa 647標識FC5-hFc-ABPコンストラクトの天然アミロイドβ(Aβ)沈着物への結合を示す。Aβの同定は、Alexa 488で標識されたAβ特異的抗体6E10を用いて脳切片を探索し、2つのシグナルの同時局在化(Merge)を実証することで確認された。
図21Bは、ELISAによる標的結合の実証を示す。野生型及びAD遺伝子組換えマウスへのFC5(H3)-hFc-ABPコンストラクトの海馬内注射に続いて(注射の4時間後)、海馬体が解剖され均質化された。FC5-ABP融合コンストラクトは、捕捉抗体としてFC5抗体、検出抗体としてABP抗体を使用する、サンドイッチELISAによって検出された。ABPの内因性Aβへの生体内結合は、同一サンドイッチELISAによって検出されたが、検出抗体としてAβ特異的抗体が使用された。
図21A及び21Bから、野生型とAD遺伝子組換えマウスの双方において、FC5-ABPコンストラクトが注射の4時間後に無傷のままであることが明らかである。最も重要なことは、ヒトAβを発現するTgマウスでは、注射されたABPはAβに結合して複合体(FC5(H3)-hFc-ABP
*Aβ)として沈降し、生体内におけるABPによるAβ標的結合が示唆される。
【
図22】非ヒト化及びヒト化FC5-Fc-ABPコンストラクト間のPK、PD比較を示す。FC5-mFc2a-ABP又はFC5(H3)-hFc1x7-ABPは、
図5に記載されるように15mg/kgで尾静脈注射を通じてラットに静脈内投与された。血清及びCSFが連続的に採取された。FC5-Fc-ABPレベルをnanoLC-MRM法を用いて定量化した。
図22Aに示されるように、血清及びCSFのPKプロファイルは、非ヒト化及びヒト化コンストラクトで非常に良く似ていた。FC5-mFc2a-ABP又はFC5(H3)-hFc1x7-ABPは、
図9Bに記載されるように15mg/kgで尾静脈注射を通じてTgマウスに静脈内投与された。CSF中のFC5-Fc-ABP及びAβレベルは、
図9Bに記載されるようにnanoLC-MRMによって測定された。
図22Bに示されるように、CSF中の非ヒト化及びヒト化FC5-Fc-ABPのレベルは類似しており、最も重要なことには、CSFのAβレベルの変化(減少)も非常に良く似ており、FC5-Fc-ABPコンストラクトのヒト化は、融合コンストラクのPK及びPDプロファイルに影響を及ぼさなかった。
【発明を実施するための形態】
【0066】
発明の詳細な説明
本発明は、血液脳関門を移動する、ポリペプチド、前記ポリペプチドを含む融合タンパク質、及び前記ポリペプチドと抗体又はそれらの断片とを含む融合タンパク質を提供する。
【0067】
本発明は、βアミロイド(βアミロイド)に結合するポリペプチドを提供する。βアミロイドに結合するポリペプチド(又はタンパク質)は、病理学的に関連したβアミロイド1~42(Aβ1~42)凝集体に選択的に結合してもよく、本明細書でABP又はABP変異型(又は集合的にABP)と略記され言及されることもある。
【0068】
本発明は、血液脳関門を通過する抗体又はその断片に連結されたABP又はABP変異型を含む、融合タンパク質を提供する。好ましい実施形態では、ABP及びBBBを含む融合タンパク質は、Fc又はその断片をさらに含み、融合タンパク質のABP及びBBB構成要素は、Fc領域又はその一部を介して連結されてもよい。例えば、本発明のコンストラクトは、BBB-Fc-ABP又はBBB-Fc-L-ABPを含んでもよく、式中、Lは任意の適切なリンカーであってもよい。提供されるBBB-Fc-APB又はBBB-Fc-L-ABPコンストラクト一本鎖ポリペプチド又は二量体ポリペプチドであってもよく、BBB-Fc-ABPを含む一本鎖ポリペプチドは、構成要素Fc領域を介して多量体(好ましくは二量体)を形成してもよい。
【0069】
本発明は、血液脳関門を移動する化合物とその使用とに関する。より具体的には、本発明は、BBB及びABPを含む化合物と、アルツハイマー病(AD)の治療におけるそれらの使用とに関する。
【0070】
血液脳関門を越えてABPを効率的に移動し、ABPの結合を通じてAβの除去を提供し得る治療用製剤に対する必要がある。先行技術では、ADの発症に関係するAβ1~42オリゴマーに選択的に結合する、40アミノ酸のAβ結合ペプチド(ABP)が同定された(国際公開第2006/133566号)。このAβ結合ペプチドは、生体外で細胞タンパク質へのAβ結合を阻害し、Aβ1~42誘導細胞毒性を阻害する(Chakravarthy
et al, 2013)。このAβ結合ペプチドは、AD遺伝子組換えマウス脳内の内のアミロイド沈着に結合し、並びに生体外でAD患者由来の脳内アミロイド沈着に結合する。より重要なことには、生きたAD遺伝子組換えマウス脳に直接注射された場合(Chakravarthy et al, 2014)、ABPは生体内で天然アミロイド沈着を標的化する。したがって、ABPは潜在的にCNSのAβを標的化し得て、脳からのAβの除去を助け得て、その毒性効果を減少させる。しかし、全身投与されたABPは、BBBを通過して脳実質に単独で接近する能力が限定的である。
【0071】
したがって、ABPは直接適用されるとAβ沈着物に結合することが示されているが、Aβに結合して脳から除去するためには、非経口投与されたABPが血液脳関門を透過する必要がある。本発明は、有利には、Fc断片を介してFC5又はIGF1RなどのBBB透過性単一ドメイン抗体に融合されたABPを提供し、二重特異性血液脳関門透過性治療薬を提供する(Farrington et al, 2014)。本発明のBBB-Fc-ABPコンストラクトは二量体化されてもよく、すなわち、BBB-Fc-ABP一本鎖融合タンパク質は、2つの一本鎖融合タンパク質の二量体を形成して二量体化合物を生じてもよく、二量体の各一本鎖は、BBB、Fc断片、及びABPを含んで、BBB-Fc-ABP二量体を提供する。BBB-Fc-ABP又はBBB-Fc-L-ABPコンストラクト及びそれらの二量体は、血液脳関門を越えるABPの効率的な移動を可能にする。したがって、C
SF及び脳実質におけるABPの結合を通じたAβの有利な治療的除去が、本発明のコンストラクト及び方法において提供される。
【0072】
ABPの脳への送達を可能にしてその有効性を改善するために、40アミノ酸のABPポリペプチドが現在、Fc断片のC末端に融合されているのに対して、FC5などのBBB透過性単一ドメイン抗体(国際公開第2002/057445号)は同一Fc断片のN末端に融合されて、二重特異性BBB透過性治療薬を生じる(Farrington et al, 2014)。本発明の非限定的な実施形態では、Fc断片は、マウス(配列番号39)又はヒト(配列番号40;配列番41)であってもよい。好ましい実施形態では、本発明のFc断片は、エフェクター機能を減少させるように設計された(Shields et al., 2001)。例えば、Fc断片はhFc1x7(配列番号40)であってもよく、BBB-Fc-ABP融合タンパク質中のFc断片は、有利には、融合タンパク質の二量体化を可能にして、血液脳関門を移動できる治療的に有効な融合分子(BBB-Fc-ABP二量体)を生じる。一実施形態では、BBB-Fc-ABP融合タンパク質は、FC5-H3-hFc1x7-ABP(6G)(配列番号47)及びその二量体であってもよい。融合タンパク質は、配列番号47又は配列番号53中で具現化されるリンカー配列L、又は任意の適切なリンカー配列を含んでもよい。
【0073】
本発明は、ベータアミロイド(βアミロイド)を結合する単離ポリペプチドを提供する。本発明のポリペプチドは、配列を含んでもよい。
X1TFX2TX3X4ASAQASLASKDKTPKSKSKKX5X6STQLX7SX8VX9NI(配列番号31)
(式中、X1=G又はA、X2=G又はV、X3=G又はA、X4=G又はA、X5=G又はV、X6=G又はV、X7=G又はV、X8=G又はA、X9=G又はA)。
【0074】
本発明のポリペプチド(ABP及びABP変異型)は、配列番号27~配列番号38又はそれと実質的に同一の配列からなる群から選択されてもよい。一実施形態では、提供されるポリペプチドは、配列番号31と実質的に同等の配列を含むABP変異型である。それと実質的に同等の配列は、融合分子に同等の安定性を付与してもよい。
【0075】
本発明は、血液脳関門(BBB)を越えて移動する抗体又はその断片と、βアミロイドに結合するポリペプチドとを含む化合物、すなわち融合タンパク質を提供する。本発明は、BBB、βアミロイドに結合するポリペプチド、及びFc含む、融合タンパク質を提供する。
【0076】
当該技術分野で「免疫グロブリン」(Ig)とも称される「抗体」という用語は、本明細書の用法では重及び軽ポリペプチド鎖の対から構築されたタンパク質を指し;IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMなどの様々なIgイソタイプが存在する。抗体が正しく折り畳まれると、それぞれの鎖は、より線形のポリペプチド配列によって連結された別個の球状ドメインに折り畳まれる。例えば、免疫グロブリン軽鎖が可変(VL)及び定常(CL)ドメインに折り畳まれる一方で、重鎖は可変(VH)及び3つの定常(CH、CH2、CH3)ドメインに折り畳まれる。重鎖及び軽鎖可変ドメイン(VH及びVL)の相互作用は、抗原結合領域(Fv)の形成をもたらす。各ドメインは、当業者に良く知られている十分確立された構造を有する。
【0077】
軽鎖及び重鎖の可変領域は標的抗原の結合に関与するため、抗体間で顕著な配列多様性を示し得る。定常領域は配列の多様性がより少なく、いくつかの天然タンパク質の結合に関与して重要な生化学的事象を誘発する。抗体の可変領域は、分子の抗原結合決定基を含み、したがって、その標的抗原に対する抗体の特異性を決定する。配列の可変性の大部分は、可変重鎖(VH)及び軽鎖(VL)毎に3つ、合わせて6つの超可変領域で生じ;超
可変領域は組み合わさって抗原結合部位を形成し、抗原決定基の結合と認識に寄与する。抗原に対する抗体の特異性及び親和性は、超可変領域の構造、並びにそれらのサイズ、形状、及びそれらが抗原に提示する表面の化学的性質によって決定される。超可変性の領域を同定するための様々なスキームが存在するが、最も一般的な2つがKabat及びChothia and Leskの領域である。Kabat et al(1991)は、VH及びVLドメインの抗原結合領域での配列の可変性に基づいて、「相補性決定領域」(CDR)を定義する。Chothia and Lesk(1987)は、VH及びVLドメインの構造ループ領域の位置に基づいて、「超可変ループ」(H又はL)を定義する。これらの個々のスキームは、隣接し又は重複するCDR及び超可変ループ領域を定義し、抗体分野の当業者はしばしば用語「CDR」及び「超可変ループ」を同義的に用いて、それらは本明細書でそのように使用されることもある。本明細書では、Kabatスキームに従ってCDR/ループが同定される。
【0078】
本明細書で言及される「抗体断片」は、当該技術分野で公知の任意の適切な抗原結合抗体断片を含んでもよい。抗体断片は、天然に存在する抗体断片であってもよく、又は天然に存在する抗体の操作によって、又は組換え法を使用することによって、得られてもよい。例えば、抗体断片としては、Fv、一本鎖Fv(scFv;ペプチドリンカーで結合されたVLとVHからなる分子)、Fab、F(ab’)2、単一ドメイン抗体(sdAb;単一のVL又はVHから構成される断片)、及びこれらのいずれかの多価提供形態が挙げられるが、これに限定されるものではない。ここで記載されるような抗体断片は、断片の異なる部分を連結するために、リンカー配列、ジスルフィド結合、又はその他のタイプの共有結合を必要とすることもあり;当業者は、異なるタイプの断片の要件、及びそれらの構築のための様々なアプローチ及び様々なアプローチ(and various approaches and various approaches)に精通しているであろう。
【0079】
非限定的な例では、抗体断片は、天然に存在する供給源に由来するsdAbであってもよい。ラクダ科動物由来の重鎖抗体(Hamers-Casterman et al, 1993)は軽鎖を欠いており、したがってその抗原結合部位は、VHHと称される1つのドメインからなる。sdAbはサメでも観察されており、VNARと称される(Nuttall et al, 2003)。その他の
sdAbは、ヒトIg重鎖及び軽鎖配列に基づいて設計されてもよい(Jespers et al, 2004; To et al, 2005)。本明細書の用法では、「sdAb」という用語は、ファージデ
ィスプレイ又はその他の技術を通じて、任意の起源のVH、VHH、VL、又はVNARリザバーから直接単離されたsdAb;上記sdAbに由来するsdAb;組換え的に生成されたsdAb;並びにヒト化、親和性成熟、安定化、可溶化、ラクダ化、又は抗体工学のその他の方法による、このようなsdAbのさらなる修飾によって生成されたsdAbを含む。sdAbの抗原結合機能及び特異性を維持する同族体、誘導体、又は断片もまた本発明に包含される。
【0080】
SdAbは、プロテアーゼ高い熱安定性、高い洗剤耐性、プロテアーゼに対する比較的高い耐性(Dumoulin et al, 2002)、及び高い生産収率(Arbabi-Ghahroudi et al, 1997)などの抗体分子にとって望ましい特性を有し;それらはまた、免疫ライブラリーからの単離によって(Li et al, 2009)、又は生体外親和性成熟によって(Davies & Riechmann, 1996)、親和性が非常に高くなるように設計され得る。非標準的なジスルフィド結合の導入などの、安定性を高めるためのさらなる修飾(Hussack et al, 2011a,b; Kim et al,
2012)もまたsdAbに導入されてもよい。
【0081】
当業者は、単一ドメイン抗体の構造に精通しているであろう(例えば、Protein Data Bankの3DWT、2P42を参照されたい)。sdAbは、免疫グロブリンの折り畳みを
維持する単一の免疫グロブリンドメインを含み;最も注目すべきは、3つのCDR/超可変ループのみが抗原結合部位を形成することである。しかし、当業者に理解されるように、抗原を結合するために全てのCDRが必要とは限らないこともある。例えば、限定する
ことは望まないが、CDRの1つ、2つ、又は3つが、本発明のsdAbによる抗原の結合及び認識に寄与してもよい。sdAb又は可変ドメインのCDRは、本明細書ではCDR1、CDR2、及びCDR3と称される。
【0082】
本明細書に記載の抗体又はその断片は、血液脳関門を移動してもよい。脳は、血液脳関門(BBB)として知られる特殊な内皮組織によって、身体体のその他の部分から分離されている。BBBの内皮細胞は密着接合部によって連結され、多くの治療用化合物が脳に侵入するのを効率的に妨げる。小胞輸送の低率に加えて、BBBの特定の特徴の1つは、酵素的関門の存在と、BBBの反管腔(脳)側におけるP-糖タンパク質をはじめとするATP依存性輸送体の高レベルの発現であり(Gottesman and Pastani, 1993; Watanabe,
1995)、それは様々な分子を脳から血流に能動的に輸送する(Samuels, 1993)。小型(<500ダルトン)で疎水性(Pardridge, 1995)の分子のみが、BBBを容易に通過し
得る。したがって、表面受容体に特異的に結合し、脳内皮細胞に内部移行し、リソソーム分解から逃れることによって血液脳関門を通過するトランスサイトーシスを受ける、上述したような抗体又はその断片の能力は、神経学の分野で有用である。血液脳関門を通過する抗体又はその断片は、脳組織への送達のために、治療薬などのその他の分子を輸送するために使用されてもよい。抗体又はその断片は、血液脳関門を移動することが当該技術分野で知られている、任意の適切な抗体又はその断片であってもよい。
【0083】
本発明は、血液脳関門(BBB)を移動する抗体又はその断片を含む、化合物又は融合タンパク質を提供する。本発明の抗体又は断片は、例えば、国際公開第2007/036021号に記載される膜貫通タンパク質30A(TMEM30A)、又はインスリン様成長因子1受容体(IGF1R)エピトープ、又はそのイソ型、変異型、部分、若しくは断片に、結合してもよい。
【0084】
本発明の化合物中の抗体又はその断片は、HYTMG(配列番号1)の相補性決定領域(CDR)1配列、RITWGGDNTFYSNSVKG(配列番号2)のCDR2配列、及びGSTSTATPLRVDY(配列番号3)のCDR3配列;又は
EYPSNFYA(配列番号4)のCDR1配列、VSRDGLTT(配列番号5)のCDR2配列、AIVITGVWNKVDVNSRSYHY(配列番号6)のCDR3配列;又は
GGTVSPTA(配列番号7)のCDR1配列、ITWSRGTT(配列番号8)のCDR2配列、AASTFLRILPEESAYTY(配列番号9)のCDR3配列;又はGRTIDNYA(配列番号10)のCDR1配列、IDWGDGGX(式中、XはA又はT)(配列番号11)のCDR2配列、AMARQSRVNLDVARYDY(配列番号12)のCDR3配列を含む抗体又はその断片
を含んでもよい。
【0085】
前述したように、抗体又はその断片は、ラクダ科動物起源のsdAbであっても又はラクダ科動物VHHから誘導されてもよく、したがってラクダ科動物フレームワーク領域をベースとしてもよく;代案としては、上述したCDRは、VNAR、VHH、VH又はVLフレームワーク領域上にグラフトされてもよい。さらに別の代案では、上述した超可変ループは、任意の起源(例えば、マウス又はヒト)のその他の各種抗体断片(Fv、scFv、Fab)のフレームワーク領域上に、又はその上にCDRをグラフトし得る同様のサイズと性質のタンパク質タンパク質上に、グラフトされてもよい(例えば、Nicaise et
al, 2004を参照されたい)。
【0086】
本発明は、キメラ(又はキメラ化)、ベニア化、又はヒト化された抗体又はその断片をさらに包含する。キメラ抗体又はそれらの断片は、その中で(マウス又はラクダ科動物起源の)天然可変ドメインが、ヒト定常ドメインに連結されているコンストラクトである(
Gonzales et al 2005を参照されたい )。抗体のベニアリング又はリサーフェシングは、天然抗体又はその断片のフレームワーク領域の露出残基をヒトの対応物のアミノ酸残基で置き換えることを伴う(Padlan, 1991; Gonzales et al 2005)。抗体又は抗体断片のヒ
ト化は、抗原結合能力又は特異性を失うことなく、配列中のアミノ酸をヒトコンセンサス配列中に見られるそのヒト対応物で置換することを含み;このアプローチは、抗体又はその断片がヒト対象に導入された場合、その免疫原性を減少させる。このプロセスでは、本明細書で定義される1つ又は複数のCDRが、ヒト可変領域(VH、又はVL)に、その他のヒト抗体(IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM)に、ヒト抗体断片フレームワーク領域(Fv、scFv、Fab)に、又はその上にCDRを移植し得る同様のサイズと性質のヒトタンパク質に融合又は移植されてもよい(Nicaise et al, 2004)。こ
のような場合、前記1つ又は複数の超可変ループの立体構造はおそらく保存され、sdAbのその標的(すなわち、TMEM30Aなどの脳内皮細胞上のエピトープ、又はIGF1Rエピトープ)脳内皮細胞)に対する親和性及び特異性胞は、ほとんど影響を受けない。当業者に知られているように、結合及び特異性を維持するために、特定の天然アミノ酸残基をヒトフレームワークに組み込むことが必要であってもよい。CDRグラフトによるヒト化は、当該技術分野で公知であり(例えば、Tsurushita et al, 2005; Jones et al,
1986; Tempest et al, 1991; Riechmann et al, 1988; Queen et al, 1989; Gonzales et al, 2005におけるレビューを参照されたく、その中で引用される参考文献もまた参照
されたい)、当業者は、このようなヒト化抗体又はその断片を調製する方法に十分精通しているであろう。
【0087】
提供される抗体又はその断片は、FC5抗体のヒト化バージョン(国際公開第2002/057445号に記載される)又はIGF1R抗体であってもよい。FC5(配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17のいずれか1つの配列を含む)、及びIGF1R(配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、又は配列番号26のいずれか1つの配列を含む)は、脳内皮細胞上の受容体エピトープの表面に結合し、引き続いて血液脳関門(BBB)を移動する。FC5はまた、BBBを越える様々なサイズの分子を導く担体として機能することも示されている(例えば、国際公開第2011/127580号を参照されたい)。FC5の移動を媒介する抗原は、膜貫通ドメインタンパク質30A(TMEM30A;国際公開第2007/036021号)として暫定的に同定され、脳内皮細胞の表面に豊富にある。
【0088】
例えば、限定することは望まないが、抗体又はその断片は、以下の配列を含んでもよい。
【化7】
式中、X
1=D又はE,X
2=A又はE,X
3=F又はV,X
4=E又はG,X
5=R又はL,X
6=F又はW,X
7=L又はV,又はそれと実質的に同一の配列;
【化8】
式中、X
1はE又はQ;X
2はK又はQ;X
3はV又はE;X
4はA又はP;X
5はV又
はA;X
6はF又はV;X
7はE又はG;X
8はR又はL;X
9はF又はW;X
10はA又はS;X
11はM又はI;X
12はA又はS;X
13はV又はL;X
14はD又はY;X
15はV又はL;X
16はK又はR;及びX
17はQ又はL;又はそれと実質的に同一の配列;
【化9】
式中、X
1はE又はQ;X
2はK又はQ;X
3はV又はE;X
4はA又はP;X
5はA又はE;X
6はV又はA;X
7はV又はF;X
8はG又はE;X
9はL又はR;X
10はF又はW;X
11はG又はS;X
12はV又はY;X
13はD又はG;X
14はN又はS;X
15はA又はS;X
16はL又はV;X
17はK又はR;X
18はA又はS;及びX
19はL又はQ;又はそれと実質的に同一の配列;
【化10】
式中、X
1はE又はQ;X
2はK又はQ;X
3はV又はE;X
4はA又はP;X
5はV又はS;X
6はD又はG;X
7はL又はR;X
8はF又はW;X
9はA又はS;X
10はA又はT;X
11はA又はS;X
12はG又はN;X
13はM又はL;X
14はN又はR;X
15はE又はR;X
16はP又はA;X
17はS又はY;及びX
18はQ又はL;又はそれと実質的に同一の配列。
【0089】
より具体的には、どのようにも限定することは望まないが、抗体又はその断片は、
【化11】
及びそれと実質的に同一の配列のいずれか1つから選択される配列を含んでもよい。抗体又はその断片は、単一ドメイン抗体であってもよい。
【0090】
実質的に同一の配列は、1つ又は複数の保存的アミノ酸変異を含んでもよい。参照配列に対する1つ又は複数の保存的アミノ酸変異が、参照配列と比較して、生理学的、化学的
、物理化学的又は機能的特性に実質的な変化のない変異ペプチドをもたらしてもよいことは、当該技術分野で知られており;このような場合、参照配列と変異体配列は、「実質的に同一」のポリペプチドと見なされる。保存的アミノ酸置換は、本明細書において、同様の化学的性質(例えば、サイズ、電荷、又は極性)を有する別のアミノ酸残基へのアミノ酸残基の置換として定義される。これらの保存的アミノ酸変異は、上に列挙されるCDR配列と、抗体又は断片のCDRの全体的構造とを維持しながら、sdAbのフレームワーク領域に生じてもよく;したがって、抗体の特異性と結合が維持される。
【0091】
実質的に同等の配列は、1つ又は複数の保存的アミノ酸変異を含んでもよく;ここで、変異ペプチドは、ペプチドの安定性及び生物製造可能に関して実質的に同等である。実質的に同等とは、融合分子の安定性に関して同等であることを指してもよい;例えば、SDS PAGE(還元及び非還元条件)で見られるような、分解産物の欠如、又は低分子量バンド。参照配列に対する1つ又は複数の保存的アミノ酸変異が、参照配列と比較して、生理学的、化学的、物理化学的又は機能的特性に実質的な変化のない変異ペプチドをもたらしてもよいことは、当該技術分野で知られており;このような場合、参照配列と変異体配列は、「実質的に同等」のポリペプチドと見なされる。
【0092】
非限定的な例では、保存的変異はアミノ酸置換であってもよい。このような保存的アミノ酸置換は、塩基性、中性、疎水性、又は酸性アミノ酸を同一グループの別のアミノ酸で置換してもよい。「塩基性アミノ酸」という用語は、生理的pHで典型的に正に荷電する、7より大きい側鎖pK値を有する親水性アミノ酸を意味する。塩基性アミノ酸としては、ヒスチジン(His又はH)、アルギニン(Arg又はR)、及びリジン(Lys又はK)が挙げられる。「中性アミノ酸」という用語(「極性アミノ酸」とも)は、生理学的pHで非荷電の側鎖を有する親水性アミノ酸を意味するが、それはその中で、2つの原子が共有する電子の対が、1つの原子によってより密接に保持される、少なくとも1つの結合を有する。極性アミノ酸としては、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、システイン(Cys又はC)、チロシン(Tyr又はY)、アスパラギン(Aβn又はN)、及びグルタミン(Gln又はQ)が挙げられる。「疎水性アミノ酸」という用語は、(「非極性アミノ酸」とも)は、Eisenberg(1984)の正規化されたコンセンサス疎水性スケールに従って、0より大きい疎水性示すアミノ酸を含むことが意図される。疎水性アミノ酸としては、プロリン(Pro又はP)、イソロイシン(Ile又はI)、フェニルアラニン(Phe又はF)、バリン(Val又はV)、ロイシン(Leu又はL)、トリプトファン(Trp又はW)、メチオニン(Met又はM)、アラニン(Ala又はA)、及びグリシン(Gly又はG)が挙げられる。「酸性アミノ酸」は、典型的には生理学的pHで負に荷電する、7未満の側鎖pK値を有する親水性アミノ酸を指す。酸性アミノ酸としては、グルタミン酸(Glu又はE)、及びアスパラギン酸(Asp又はD)が挙げられる。
【0093】
2つの配列の類似性を評価するために、配列同一性が使用され;これは、2つの配列を残基位置間の最大の対応のために整列させた場合に、同一である残基のパーセントを計算することによって決定される。任意の既知の方法を使用して、配列同一性が計算されてもよく;例えば、コンピューターソフトウエアを使用して、配列同一性を計算できる。限定することは望まないが、配列同一性は、Swiss Institute of Bioinformaticsが管理する
NCBIBLAST2サービス(ca.expasy.org/tools/blast/)や、BLAST-P、Blast-N、若しくはFASTA-Nなどのソフトウエア、又は当技術分野で知られているその他の適切なソフトウエアによって計算され得る。
【0094】
本発明の実質的に同一の配列は、少なくとも90%同一であってもよく;別の例では、実質的に同一の配列は、アミノ酸レベルで本明細書に記載配列と、少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、又は100%、又はそれらの間の
任意の百分率が同一であってもよい。重要なことには、実質的に同一の配列は、参照配列の活性及び特異性を保持している。非限定的な実施形態では、配列同一性の違いは、保存的アミノ酸変異に起因してもよい。非限定的な例では、本発明は、本明細書に記載の抗体と、少なくとも95%、98%、又は99%同一である配列を含む、抗体又はその断片を対象としてもよい。
【0095】
本発明の化合物中の抗体又はその断片は、例えば、ヒトFcドメインをはじめとするが、これに限定されるものではない、Fcドメインに連結されてもよい。Fcドメインは、IgG、IgMをはじめとするが、これに限定されるものではない様々なクラスから、又はIgG1、IgG2などをはじめとするが、これに限定されるものではない様々なサブクラスから、選択されてもよい。このアプローチでは、Fc遺伝子がsdAb遺伝子と共にベクターに挿入されて、sdAb-Fc融合タンパク質が生成され(Bell et al, 2010; Iqbal et al, 2010);融合タンパク質が組換え的に発現され、次に精製される。例え
ば、どのようにも限定することは望まないいが、多価提示形態は、Fcドメインに連結されたFC5-H3及びその変異体のキメラ形態を包含してもよい。このような抗体は、設計及び製造が容易であり、sdAbの血清半減期を大幅に延長し得る(Bell et al., 2010)。
【0096】
ここで記載されるような化合物のFcドメインは、当該技術分野で公知の任意の適切なFc断片であってもよい。Fc断片は、任意の適切な起源に由来してもよく;例えば、Fcはマウス又はヒト起源であってもよい。その他の好ましいFc又はFc断片の実施形態は、免疫学的エフェクター機能を調節、修飾又は抑制してもよい(Shields 2001)。その他の非常に好ましいFc断片の実施形態は、脳からの融合ペプチドのクリアランスを媒介してもよい(Caram-Salas N, 2011)。特定の非限定的な例では、Fcは、マウスFc2
a断片又はヒトFc1断片であってもよい(Bell et al, 2010; Iqbal et al, 2010)。
特定の非限定的な例では、多量体化コンストラクトは、本明細書に記載の単離又は精製された抗体又は断片と、配列番号39;配列番号40;配列番号41の配列のFcを含み得る。したがって、本明細書で提供されるBBB-Fc-ABP融合タンパク質は、Fcを介して二量体を形成し、二価の二機能性BBB-Fc-ABPを提供してもよい。
【0097】
抗体又はその断片を含む本発明の化合物は、βアミロイドに結合するポリペプチドに連結される。リンカーは、任意のポリペプチドであってもよく、適切な長さの中性又は親水性アミノ酸を含む。非限定的な例では、長さは好ましくは12アミノ酸未満であり、ポリペプチドはGGGSGGGSである。正しい配向のアミド又はエステル結合などの非ペプチド性形態を使用する、その他の化学リンカーが用いられてもよい。例えば、配列番号53は、任意の適切なリンカーを含む融合タンパク質を提供し、本発明の任意の融合タンパク質、すなわち、配列番号42~52は、配列番53で例示されるような任意の適切なリンカーを含んでもよい。βアミロイド(Aβ)に結合するポリペプチドは、AD病理に関与するAβ1~42凝集体などの病理学的に関連したβアミロイドに結合してもよく;ポリペプチドは、高親和性(nM範囲)でAβに結合し、生体外で細胞タンパク質へのAβ結合及びAβ1~42誘導細胞毒性を阻害してもよく、生体外でAD遺伝子組換えマウス脳内及びAD患者由来の脳内のアミロイド沈着物に結合する。本発明の化合物中のポリペプチドは、逆方向ペプチドAβ42~1に結合しない。
【0098】
本明細書で提供される化合物では、βアミロイドに結合するポリペプチドは、(配列番号27);(配列番号28);(配列番号29);(配列番号30);(配列番号31);(配列番号32);(配列番号33);(配列番号34);(配列番号35);(配列番号36);(配列番号37);(配列番号38);及びそれと実質的に同一の配列からなる群から選択される配列を含んでもよい。「実質的に同一の」配列は、上記のとおりである。
【0099】
したがって、本発明は、βアミロイドに結合するポリペプチド及びその変異型(すなわち、ABP及びABP変異型)を提供する。ABP変異型は、例えば、配列番号31を有する配列を含んでもよく、提供されるABP変異型は、配列番号31~配列番号38又はそれと実質的に同等の配列からなる群から選択される配列を含んでもよい。
【0100】
したがって、ABPの詳細な生物物理学的特徴に基づいた、特定の系統的及び方法論的修飾を含む、ABPポリペプチド配列が提供される。ABPポリペプチドに対する特定のそして方法論的に向けられた修飾は、配列番号31に記載されるような、本発明の新規であり自明でないABP変異型を含む。
【0101】
本明細書で提供されるペプチドは、配列番号27~配列番号38、及びそれと実質的に同等の配列からなる群から選択されてもよい配列を含むABPを含んでもよい。
【0102】
本明細書で提供されるペプチドは、例えば、配列番号32~配列番号38、又は配列番号31の同等の任意の配列のいずれか1つから選択されてもよい配列を含むABPなどのABP変異型を含んでもよい。本明細書で提供されるABP又はABP変異型を含むコンストラクトは、化合物の安定性及び生物製造可能の有利な改善を示す(
図14に見られるように)。
【0103】
本明細書で提供される融合タンパク質及び化合物は、改善された治療有効性を示す。より具体的には、提供される化合物は、増強された生物製造可能性のための安定なBBB-Fc-ABP融合分子の生成を可能にする、特に修飾されたABPを含む(ヒト哺乳類発現系での産生)。本明細書で提供されるABPへの特定の修飾は、ABPの詳細な生物物理学的特性に基づく系統的及び方法論的な修飾であった。本明細書で提供される修飾ABPは、例えば、配列番号32~配列番号38、及びそれと実質的に同等の配列番号31などの配列から選択される配列を含んでもよい。本明細書で提供される化合物は、有利には、改善された安定性及び生物製造可能性、並びに脳内のAβレベルを減少させる有効性の最も顕著な増加を示し;本発明のコンストラクトによる処置の24時間以内に、50%のアミロイドの減少が観察された。
【0104】
本明細書では「コンジュゲートされた」とも称される「連結された」という用語は、2つの部分が、直接又は間接的に(例えば、リンカーを介して)、共有結合的に又は非共有結合的に(例えば、吸着、イオン性相互作用)連結することを意味する。共有結合は、化学的架橋反応を通じて、又は細菌、酵母、哺乳類細胞ベースのシステムなどのペプチド発現系と組み合わされた組換えDNA方法論を使用した融合を通じて、達成されてもよい。抗体又はその断片をAβ又はFcに結合するポリペプチドにコンジュゲートさせる場合、適切なリンカーが使用されてもよい。例えば、適切なリンカーは、BBB-Fc-ABPタンパク質融合物の構成要素のコンジュゲーションを可能にする、適切な長さの中性又は親水性アミノ酸を含む、任意のポリペプチドであってもよい。例えば、融合タンパク質の構成要素(例えば、配列番号42~52)をそれに応じて結合させるリンカーは、GGGGSGGGGS又は(GGGS)nリンカーを強調表示したものに限定されず、任意の適切なリンカーであってもよい(すなわち、配列番号53の非限定的な融合タンパク質のように)。非限定的な例では、長さは好ましくは12アミノ酸未満であり、ポリペプチドはGGGSGGGSであってもよい。正しい配向のアミド又はエステル結合などの非ペプチド性形態を使用する、その他の化学リンカーが用いられてもよい。本技術分野の当業者は、抗体又はその断片をポリペプチドに連結するリンカー又は方法を良く承知しているであろう。抗体又はその断片をポリペプチド又はFcに連結させる方法は、当業者に良く知られている。
【0105】
本明細書で提供される化合物は、抗体又はその断片、βアミロイドに結合するポリペプチド、及びFc断片を含み、連結されてコンストラクトを提供し(本明細書では化合物又は融合分子とも称される)、コンストラクトは融合タンパク質及びその二量体を含む。抗体又はその断片は、Fc断片又は適切なリンカーを介してβアミロイドに結合する、ポリペプチドに連結されてもよい。
【0106】
抗体又はその断片は、配列番号14、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号19、配列番号20、配列番号22、配列番号23、配列番号25、配列番号26、及びそれと実質的に同一の配列のいずれか1つから選択される配列を含む。抗体又はその断片は、血液脳関門を移動する。抗体又は断片はsdAbであってもよく;sdAbはヒト化されていてもよい。
【0107】
βアミロイドに結合するポリペプチドは、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、及びそれと実質的に同一の配列、及び好ましくは配列番号31を含む配列からなる群から選択される配列を含む。
【0108】
Fc断片は、配列番号39、配列番号40、配列番号41のいずれか1つ、及びそれと実質的に同一の配列から選択される配列を含む。本発明のFc断片は、エフェクター機能が減弱された任意の適切なFc断片であってもよい。融合タンパク質中で提供されるFc断片は、二量体構造の形成を可能にし;例えば、配列番号42~配列番号53からなる群から選択される配列を含む一本鎖融合タンパク質は、その中のFc断片を介してコンジュゲートされた二量体構造を形成してもよい。
【0109】
したがって、本発明の化合物又はコンストラクトは、配列番号42、配列番号43、配列番号44配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列53及びそれと実質的に同一の配列、又はその二量体構造からなる群から選択される配列を含んでもよい。
【0110】
本発明は、BBB通過単一ドメイン抗体(BBB)、Fc断片(Fc)、及びアミロイド結合ペプチド(ABP)を含む融合タンパク質を提供し、各部分は連結されて、
図1に示される融合分子を提供してもよい。例えば、本発明の非限定的な実施形態では、BBBはFcのN末端に連結され、ABPはFc断片のC末端に連結されてもよい(
図1A)。
図1は、BBB-Fc-ABPを含む一本鎖融合タンパク質の対応する二量体を示す。3つの構成要素(すなわち、BBB、Fc、及びABP)は、
図1A、1B、1C、及び1Dに示されるように、様々な構成で描写される。本発明の化合物の特定の非限定的な例では、βアミロイドに結合するポリペプチドは、配列番号31の配列を含んでもよい。一実施形態では、ABP変異型は、本明細書でABP(6G)と称されるGTFGTGGASAQASLASKDKTPKSKSKKGGSTQLKSRVKNI(配列番号36)の配列及びそれと実質的に同等の配列を含む。
【0111】
抗体又はその断片は、
本明細書でFC5-H3と称される、
【化12】
の配列を含んでもよい。
【0112】
抗体又はその断片は、
本明細書ではhFc1X7とも称される、
【化13】
などのヒトFcの配列をさらに含んでなってもよい。
【0113】
どのようにも限定することは望まないが、本発明の化合物は、
本明細書ではFC5-H3-hFc1X7-ABP(6G)とも称される、
【化14】
の配列を含んでもよい。
【0114】
【0115】
上記の表では、BBB-Fc-ABP融合タンパク質コンストラクトはまた、リンカー(L)も含んでもよいことに留意されたく、式中、BBB-Fc-ABPコンストラクトは、本発明のBBB-Fc-L-ABP融合タンパク質であり、式中、Lは、GGGSGGGGS、又は配列番号53のコンセンサスリンカー配列に例示されるような任意の適切なリンカーであってもよい。
【0116】
本明細書ではFC5-H3-hFc1X7-L-ABP(6G)とも称される、配列番号47の融合タンパク質中で提供される本発明の化合物は、その中に含まれる各構成要素のバリエーションを含んでもよく、例えば、配列番号46に記載されように、ABPはABP(GG-G)であってもよい。その中で提供されるリンカー配列(例えば、配列番号42~配列番号53中で強調表示される)は、BBB-Fc-ABP融合タンパク質の連結を可能にする任意のリンカーであってもよい。本発明の化合物はまた、組換え抗体又はその断片の発現、検出又は精製を補助する追加の配列も含んでもよい。当業者に知られている任意のこのような配列又はタグが、使用されてもよい。例えば、限定することは望まないが、抗体又はその断片は、標的化又はシグナル配列(例えば、ompAであるが、これに限定されるものではない)、検出/精製タグ(例えば、c-Myc、His5、又はHis6であるが、これに限定されるものではない)、又はそれらの組み合わせを含んでもよい。別の例では、追加の配列は、Cronan et al(国際公開第95/04069号)又はVoges et al(国際公開第/2004/076670号)によって記載されるものなど
のビオチン認識部位であってもよい。これもまた当業者に知られているように、リンカー配列は、追加の配列又はタグと組み合わせて使用されてもよく、又は検出/精製タグとして機能してもよい。
【0117】
本発明はまた、本明細書に記載されるような化合物をコードする核酸配列も包含する。遺伝コードの縮重を考慮すると、いくつかのヌクレオチド配列は、当業者によって容易に理解されるように、ポリペプチドをコードする効果を有するであろう。核酸配列は、様々な微生物における発現のためにコドン最適化されてもよい。本発明はまた、ここで記載さ
れるような核酸を含むベクターも包含する。さらに、本発明は、記載されるような核酸及び/又はベクターを含む細胞を包含する。
【0118】
本発明は、本明細書に記載されるような1つ又は2つ以上の化合物と、薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤、又は担体とを含む組成物をさらに包含する。組成物はまた、薬学的に許容可能な希釈剤、賦形剤、又は担体も含んでもよい。希釈剤、賦形剤、又は担体は、当該技術分野で公知の任意の適切な希釈剤、賦形剤、又は担体であってもよく、組成物のその他の成分、組成物の送達方法と適合性でなくてはならず、組成物の受容者にとって有害でない。組成物は、任意の適切な形態であってもよく;例えば、組成物は、懸濁形態又は粉末形態で提供されてもよい(例えば、限定されるものではないが、凍結乾燥又は封入される)。例えば、限定することは望まないが、組成物が懸濁形態で提供される場合、担体は、水、生理食塩水、適切な緩衝液、又は添加剤を含んで、溶解性及び/又は安定性が改善されてもよく;懸濁液を作成するための再構成は、抗体又はその断片の生存度を保証するために、適切なpHの緩衝液中で実施される。乾燥粉末はまた、安定性を改善するための添加剤、及び/又は嵩/体積を増加させるための担体も含んでもよく;例えば、限定することは望まないが、乾燥粉末組成物は、ショ糖又はトレハロースを含んでもよい。本化合物を含む適切な組成物を調製することは、当業者の能力の範囲内であろう。
【0119】
本発明の化合物又は組成物がそれを必要とする対象に投与される、アルツハイマー病を治療する方法もまた提供される。静脈内、腹腔内、非経口、頭蓋内、筋肉内、皮下、口腔、又は経鼻をはじめとするが、これに限定されるものではない、任意の適切な投与経路が使用されてもよい。最適な投与量及び投与経路は、一般に実験的に決定される。
【0120】
増加したβアミロイドレベルを有する対照の脳脊髄液(CSF)中及び脳実質内の毒性βアミロイドレベルを減少させる方法が提供される。より具体的には、対照の脳脊髄液(CSF)中及び脳実質内の毒性βアミロイドレベルは、本発明の組成物の単回非経口投与の24時間という早い時期に減少する。
【実施例0121】
本発明を以下の実施例でさらに例証する。しかし、これらの実施例は例示のみを目的とするものであり、本発明の範囲をどのようにも限定するためには使用されないものと理解される。
【0122】
実施例1:BBB-Fc-L-ABP融合分子の構築
a)FC5 sdAb(配列番号14)、マウスFc(配列番号39)、及びABP(配列番号30)、
b)FC5(FC5-H3;配列番号17)のヒト化バージョン、ヒトFc(配列番号40)、及びABP(配列番号30;配列番号31;配列番号32;配列番号33;配列番号34;配列番号35;配列番号36;配列番号37;配列番号38)、
c)IGF1R-5 sdAb(IGF1R-5-H2;配列番号26)のヒト化バージョン、マウスFc(配列番号39)、及びABP(配列番号30)
を含む融合分子を調製した。融合タンパク質コンストラクトの概略的を
図1に示す。融合タンパク質は、BBB通過単一ドメイン抗体、Fc断片、及びアミロイド結合ペプチドを含む。
【0123】
実施例2:BBB-Fc-L-ABP融合分子の生成
実施例1に記載されるコンストラクトFC5-mFc-ABP及びヒト化FC5(H3)-hFc-ABPをCHO細胞内で発現させ、発現化合物をMabSelect Sureアフィニティーカラム上で精製した。
【0124】
実施例1に記載されるようにABP変異型にそれらのC末端で融合された、マウス又はヒトFc抗体断片N末端に融合された、FC5変異型FC5及びFC5-H3VHHを含むコンストラクトを調製し、発現させ精製した。
【0125】
FC5-Fc-ABP変異型DNA(DNA合成供給業者)は、哺乳類発現ベクターpTT5にクローン化させた(Durocher 2002)。プラスミドベクター(80%)、pTT
-AKTdd(15%、タンパク質キナーゼBの活性化変異体)、及びpTTo-GFP(5%、形質移入効率モニターするため)と、PEI MAX(Polysciences、カタログ
番号24765)とを混合することによって、細胞1リットルあたり1mgのDNAの最終濃度のためのポリプレックスを事前に形成した。PEI:DNA比は4:1(W:W)であり、どちらも補給F17培地(4mMグルタミン、0.1%Kolliphor)中で調製し
た。細胞培養物への添加前に、混合物を室温で5分間インキュベートした。DNA/PEIポリプレックス(polyplexe)の体積は、最終培養体積の10%に相当する(すなわち
培養物1L当たり100ml)。形質移入の24時間後に、1%の最終濃度のトリプトンN1(40%w/v溶液、Organotechnie)と、0.5mMバルプロ酸(200mM溶液
)とを培養物に供給した。細胞密度及び生存率、並びに生産力価(1L当たりのFcのmg)についてを形質移入/生成をモニターし、細胞生存率が最低65%に達したら、遠心分離によって回収した(上清)。清澄化した細胞培養培地は、5mlのプロテインA MabSelect Sure樹脂(GE Healthcare)を充填したカラムに装入する前に、0.45μmメ
ンブレンを通して濾過した。装入後、カラムを5容量のリン酸緩衝食塩水pH7.1(PBS)で洗浄し、抗体を100mMクエン酸ナトリウム緩衝液pH3.0で溶出した。溶出された抗体を含む画分を貯留し、PBSで平衡化された脱塩Econo-Pacカラム(BioRad
)に装入することによって、緩衝液交換を実施した。次に、脱塩抗体をMillex GP(Millipore)フィルターユニット(0.22μm)に通過させて滅菌濾過し、アリコートにした。
【0126】
SDS-PAGE及びAβオーバーレイ:Laemmliサンプル緩衝液中で調製されたタン
パク質サンプル(非還元ゲルでは70℃、還元ゲルでは95°Cで加熱した、sME又はDTT)は、12%Tris-Tricineゲル又はTGX4-15%ゲル(BioRad)上のSDS-PAGEによって分離した。ゲルをクマシーブルーで染色するか、或いはウエスタンブロット/Aβオーバーレイアッセイのためにタンパク質をPVDF又はニトロセルロース膜に転写した。疫ブロットを脱脂粉乳でブロックし、次に室温で45分間Aβ製剤(50~100nM)に曝露させ、前述のように6E10抗体を使用して結合Aβを検出した(Chakravarthy et al. 2013)。
【0127】
ELISA:Aβ結合アッセイをChakravarthy et al(2013)によって記載されるように実施した。Maxisorp 96ウェルELISAプレート(Nunc)は、PBS中4°Cで一晩、遊離ABP(合成)又は様々なFC5-ABPコンストラクトで被覆した。ウェルをTBS-T中の1%BSAで30分間ブロックし、次にTBS-T中の単量体及び二量体(Mo)又はそれを越えるオリゴマー(Oli)のいずれかで主に構成されるAβ1-42調製物と共に、穏やかに撹拌しながら室温で45分間インキュベートした。3回のTBS-T洗浄に続いて、HRPコンジュゲートAβ特異的抗体(6E10又は4G8)をTBS-T中にてRTで90分間インキュベートすることによって、結合したAβを検出した。結合抗体は、SureBlue(商標)TMB試薬キット(KPL)を用いて、製造会社の使用説明書に従って450nmにおける比色分析によって検出した。
【0128】
組換え融合分子の産生の成功を示唆する、SDS-PAGE(NR-非還元及びR-還元条件)によるFC5融合分子の分離後のクマシーブルー染色ゲルを
図2Aに示す。ELISA及びウエスタンブロット(WB)オーバーレイアッセイによる、遊離ABP及びFC5-Fc-ABP融合タンパク質のAβオリゴマー結合を
図2B及びCに示す。Chakra
varthy et al., 2013に記載されるように、リン酸緩衝食塩水(PBS)中のサンプルを
4℃で一晩コーティングし、Aβ製剤に曝露させることによって、ELISAプレート上に遊離又は融合ABPを固定した。結合AβをAβ特異的抗体6E10又は4G8を用いて検出した(Chakravarthy et al, 2013)。融合分子もまたSDS-PAGEによって分離し、PVDF紙に転写してAβオリゴマーに曝露させた。結合Aβを上記のように特異的抗体で検出した。結果は、ABPがBBB担体との融合後に、Aβオリゴマー結合能力を維持したことを示す。Mo:Aβモノマー;Oli:Aβオリゴマー
【0129】
実施例3:生体外でのAD-Tgマウス(B6.Cg-Tg、Jackson Lab)のAβ沈着
物へのBBB-Fc-L-ABP融合分子の結合
実施例2で生成したコンストラクトを免疫組織蛍光アッセイに供し、FC5-Fc-ABP融合分子が、記載されるようなマウス脳の天然に産生されたアミロイド沈着に結合する能力を維持しているかどうかを評価した(Chakravarthy et al., 2014)。野生型(W
t)及びAD遺伝子組換え(AD-Tg)マウス由来の凍結半頭脳をOCTに埋め込み、Jung CM 3000クリオスタットを使用して10μm切片を調製し、-80℃で保存した。組織切片を解凍し、かみそりの刃でOCTを切片から剥離させ、Dakoタンパク質ブロッキング試薬と共に室温で30分間インキュベートした。ブロッキング剤を除去し、切片をTBS中で穏やかに洗浄した。抗体希釈液中のIR800標識FC5-mFc-ABP(5.0μg/μl溶液の1:250希釈)を添加し、室温で1時間インキュベートした。次に、切片をTBSで2回洗浄し、ミリQ水ですすぎ、過剰なすすぎ溶液を除去し、切片にDako Fluorescent Mounting Mediaと共にカバーグラスを載せた。蛍光顕微鏡下で視覚化さ
れた切片(
図3)。選択的結合(明るい点)は、Aβ沈着物を産生するAD-Tgマウスの脳切片で見られ、アミロイド沈着物を産生しないWtマウスの脳切片では見られず、FC5-Fc-ABPコンストラクトのABPが、AD-Tgマウス脳内で天然に産生されたAβ凝集体に結合する能力を維持することが示唆された。提供されるBBB-Fc-ABPコンストラクトにおいて、BBBはFC5又は抗IGF1R抗体であってもよい。
【0130】
実施例4:生体外におけるFC5-Fc-L-ABP融合分子のBBB移動
生体外ラット及びヒト由来のBBBモデルで、FC5-Fc-ABP融合分子のBBB通過を評価した(
図4)。Papp測定のための単一時点を使用して、BBBを通過する融合分子を生体外BBB透過性アッセイでスクリーニングした。変異型の定量化をMRM-ILISによって実施した(
図4A、4B、及び4C)。
【0131】
SV40不死化成体ラット脳(SV-ARBEC)及びヒト脳内皮細胞(HBEC)を使用して、記載されるような生体外血液脳関門(BBB)モデルを作製した(Garberg et
al., 2005; Haqqani et al., 2013)。Sv-ARBEC(80,000細胞/メンブレン)を1mlの増殖培地中の0.1mg/mLラット尾コラーゲンI型被覆組織培養インサート(孔サイズ1μm;表面積0.9cm
2、Falcon)に播種した。インサートアセンブリーの下部チャンバーは、1:1(v/v)比で不死化新生児ラット星状細胞-馴化培地が添加された、2mlの増殖培を含んだ。等モル量(5.6μM)の陽性(FC5コンストラクト)又は陰性対照(A20.1、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)毒素A結合V
HH;及びEG2、EGFR結合V
HH)と、実施例1から
のFc-ABPとを、ラット又はヒト生体外BBBモデルを通過する能力について試験した。等モル量のsdAbのBBB管腔側への曝露に続いて、反管腔側から15、30、及び60分後にサンプルを採取した。次に、各サンプルのsdAb含有量を質量分析(多重反応モニタリング-イソタイプ標識内標準;MRM-ILIS)で定量化した(
図4A、4B、4C)。
【0132】
MRM-ILIS:方法は、全てHaqqani et al.(2013)に記載されるとおりである。簡潔に述べると、VHHのSRM(多重反応モニタリング(MRM)アッセイとして
も知られる、選択された反応モニタリング)アッセイを開発するために、データ依存収集を使用して全てのイオン化可能(ionizible)ペプチドを識別するnanoLC-MS/
MSによって、各VHHを最初に分析した。各ペプチドについて、3~5個の最も強力な断片イオンを選択した。最初のSRMアッセイを開発し、アトモル量の消化物(約100~300amol)でこれらの断片をモニターした。少量で再現可能な強度比を示した(すなわち、より高い量と比較してピアソンr2≧0.95を有した)断片は安定していると見なされ、最終SRMアッセイのために選択した。アッセイをさらに最適化するために、m/z(質量電荷比)と溶出時間が近いペプチドを選択しないように注意して、各ペプチドの溶出時間も含めた。
【0133】
細胞培地又は体液(血清又は脳脊髄液(CSF))中のVHHの典型的な多重SRM分析は、既知量のILIS(0.1~10nM)のスパイクを伴い、nanoLC-MSシステムへの100~400ngのCSF又は培養培地タンパク質(0.3~1μL)又は約50~100ngの血清タンパク質(1~3ナノリットル)の注入がそれに続いた。規定される標的の溶出時間に、各標的ペプチドイオンの前駆体m/zをイオントラップで選択し(残りの無関係のイオンは廃棄した)、衝突誘起解離(CID)断片化と、検出器によるモニターのためのイオントラップ内の所望の断片イオンのみの選択とがそれに続いた。定量分析のために、LTQ(ThermoFisher)によって生成された生ファイルを標準的な質量分析データ形式mzXMLに変換し、MatchRxソフトウエアの修正バージョンである、Q-MRM(Quantitative-MRM; Haqqani et al. 2013を参照されたい)と称さ
れる自社内ソフトウエアを使用して、強度を抽出した。各VHHについて、溶出時間全体にわたって、断片m/zの0.25Da以内の合わせた強度からなる、断片イオン毎の抽出イオンクロマトグラムを作成した。各断片の最終強度値を得るために、予想される保持時間の0.5分以内の全ての強度を合計した。VHHは、そのペプチドの少なくとも1つの断片が予想される強度比を示した場合に、サンプル中で検出可能と定義され、すなわち、最終強度値が、その対応する純粋なVHHの最終強度値と比較して、r≧0.95及びp<0.05の強いピアソン相関を示した。
【0134】
VHH(培地、血清、CSF)の混合物を含むサンプルは、前述のように還元、アルキル化、及びトリプシン消化された(Haqqani et al., 2012; Gergov et al., 2003)。消
化物(トリプシンペプチド)を酢酸(最終濃度5%)で酸性化し、LTQ XL ETD又はLTQ Orbitrap ETD質量分析計(ThermoFisher, Waltham, MA)に接
続した逆相nanoAcquity UPLC(Waters, Milford, MA)で分析した。サンプルの所望のア
リコートを300μm内径×0.5mm 3μm PepMaps C18トラップ(ThermoFisher)に注入し負荷した後、400nL/minの流量で、1分間で0%から20%、1
6分間で20%から46%、1分間で46%から95%のアセトニトリル(0.1%ギ酸中)への勾配を使用して、100μm内径×10cm 1.7μm BEH130C18 nan
oLCカラム(Waters)上に溶出させた。ペプチドイオンの断片化のためのCIDを使用して、MS/MS及びSRM分析のためのエレクトロスプレーイオン化(ESI)によって、溶出したペプチドを質量分光計内でイオン化させた。CIDは、衝突ガスとしてヘリウムを用いて、35%の正規化された衝突エネルギー及び30msの活性化時間で実行した。線形イオントラップへのイオン注入時間は、6×103の自動ゲイン制御(AGC)目標値及び200msの最大蓄積時間を使用して、機器によって調節した。
【0135】
見かけの透過係数の判定:定量化された値は直接プロットされ得て、又はPapp(見かけの浸透係数)値を所定の式[Qr/dt=時間に対する受け手区画内の累積量;A=細胞単層の面積;C0=投与溶液の初期濃度]を用いて判定され、プロットされ得る。Papp値が一般に使用されて、BBBを通過する分子の能力が判定される。Papp値は、脳内皮単層を越える化合物の比透過性の尺度である。
【0136】
FC5コンストラクトの検出及び定量に使用される特定のペプチドを以下の表1に示す。
【0137】
【0138】
サンプルはまた、実施例2に記載されるように、Fc特異的抗体を使用してウエスタンブロット分析によっても分析した(
図4D、三連で実施)。FC5-mFc-ABPがFC5-mFcと同程度に効果的に血液脳関門を通過したのに対して、BBB担体部分FC5のないFc-ABPは、脳内皮細胞単層を横断しなかった。予測されたように、対照の単一ドメイン抗体EG2及びA20.1、又は対照の完全IgG(抗HEL)は、血液脳関門を通過しなかった。ヒト化FC5-H3-hFc-ABP融合タンパク質でも、同様の結果が得られた(
図4C及び
図4D)。IGF1R5-mFc-ABPABPでも、同様の結果が得られた(
図17A及びB)。
【0139】
実施例5:生体内におけるFC5-Fc-L-ABP融合分子のBBB移動及び薬物動態学
実施例2のコンストラクトが、血液脳関門から脳、特に脳脊髄液(CSF)に移動する能力を生体内で評価し、並びCSF及び血清中のコンストラクトの存在を定量化した。FC5-mFc-ABPを示された用量(2.5、6.25、12.5、及び25mg/kg)で尾静脈を通じてラットに静脈内投与した。血清及びCSFを連続的に採取した。FC5-Fc-ABPレベルをnanoLC-MRM法を用いて定量化した。
【0140】
大槽CSFの複数の試料採取に使用される技術は、以前記載された方法の修正によってNRCで開発された(Huang et al.,1995; Kornhuber et al., 1986)。全ての動物は、Charles River Laboratories International, Inc. (Wilmington, MA, USA)から購入し
た。動物は、温度24°C、相対湿度50±5%で12時間の明暗サイクルで3匹ずつのグループに収容し、食物と水を自由摂取させた。全て動物の処置は、NRCの動物管理委員会によって承認され、カナダ動物管理ガイドラインに準拠した。8~10週齢のオスウ
ィスターラット(体重範囲、230~250g)を全ての研究で使用した。
【0141】
全ての実験で、試験抗体(FC5 Fc融合物)を等モル投与量(7mg/kg)で尾静脈に静脈内投与した。CSFのサンプル採取は、96時間にわたる5回までの穿刺によって大槽から行った。サンプル採取のために、ラットを3%イソフルランで短時間軽く麻酔し、定位固定枠に入れ、頭部を45°の角度で下向きに回転させた。後頭稜から開始して、耳の間に2cmの正中切開を行い、筋肉を分離して大槽を覆う硬膜を露出させた。1mlシリンジに管材料を取り付けた、27Gバタフライニードル(QiuckMedical、カタログ番号SV27EL)を使用して硬膜を穿刺し、約20μlのCSFを吸引した。次に、CSFをサンプルガラスバイアル(Waters、カタログ番号186000384c)に移し、さらなる分析まで-80°Cの冷凍庫に入れた。
【0142】
血液サンプルは、市販のチューブで尾静脈から採取した(BD microtainer、カタログ番号365956)。室温で15~30分間凝固させた後、1100rcf(3422rpm)で10分間遠心分離して凝血塊を除去し;次に、血清を清浄なガラスバイアル(Waters、カタログ番号186000384c)に移し、ドライアイスで凍結させ、さらなる分析まで-80°Cで保存した。採取の終了時に、ラットを心臓穿刺によって殺処分した。血液及びCSF PK分析は、WinLin 6.0プログラムを使用して実施した。
【0143】
血清及びCSFサンプルは、表1に示されるペプチドシグネチャーを使用して、実施例4に記載される質量分析及びnanoLC-SRMベースの定量によって分析した。
【0144】
CSF採取は、CSFが血液で容易に汚染され得る繊細な手順である。VHHの量は、CSF中では血中よりもはるかに少ない(<0.1%)と予想されるために、わずかな血液の混入でも個々のCSFサンプルの価値を著しく損ない得る。したがって、血液で汚染されたCSFサンプルについて厳密な除外基準を開発する必要があった。血液とCSFのアルブミン比を評価するために、血漿及びCSF中のアルブミンレベルを定量化するためのnanoLC-SRM法が開発された。多重アッセイにおいて、その他のペプチドピークとの干渉を最小限に抑えるために、アルブミンペプチドAPQVSTPTLVEAARをその独自の保持時間及びm/z値(Mol Pharm)に基づいて選択した。ペプチドの強度
は、上述したようなSRMを使用して、CSF及び血漿サンプルの双方で定量化した。アルブミン比は、各ラットについて次のように計算した:
アルブミン比=分析された血漿のnLあたりの強度/分析されたCSFのnLあたりの強度
1500以下の比率は、血液汚染と見なされた。
【0145】
図5に示されように、FC5-mFc-ABPは時間及び用量依存様式でCSF中に出現し、Cmaxは12~24時間であり、生体内におけるFC5による脳及びCSF区画内へのABPの輸送が示唆された(A)。血清PKパラメーター(
図5及び以下の表2)は、FC5-mFc-ABPのα及びβ半減期が、完全IgG(ラットFcを含むベンチマーク抗体)の半減期と同様であり、Fcを含まないABP又はFC5又はFC5-ABPよりもかなり高いことを示す。
【0146】
【0147】
実施例6:非BP歯類の大型動物の脳へのFC5-ABPコンストラクトの送達
FC5-mFc-ABPの血清及びCSF PKプロファイルをビーグル犬において評価した。FC5-mFc-ABPPを10~12歳齢のビーグル犬に静脈内注射によって投与し、血清及びCSFを連続的に採取して、上記の実施例5に記載されるように、nanoLC-MRMM(左パネル)によって、及びFc特異的抗体を使用したウエスタンブロットによって分析した(
図6B)。星印は、血液に汚染されたサンプルを示す(MRM分析には示されない)。見て分かるように、FC5-mFc-ABPはCSF中に時間依存様式で出現し、生体内でイヌ血液脳関門を越えるFC5によるABPの輸送を示唆し、BBB担体の翻訳特性を裏付けた。PKパラメータ及びCSF暴露をWinNonlinソフトウ
エアによって分析し、以下の表3に示す。
【0148】
【0149】
実施例7:BBB透過性
生体内(ラットモデル)においてヒトFc(hFc)と融合しABP(FC5-hFc-ABP)に化学的に連結されたFC5のBBB透過性とCSFの外観。FC5-hFcは、製造会社の使用説明書(ThermoFisher Scientific)に従ってヘテロ二機能性架橋剤
スルホ-SMCC(スルホスクシンイミジル4-[N-マレイミドメチル]シクロヘキサン-1-カルボキシレート)を使用して、ABP-シスタミドと連結させた。化学的にコンジュゲートされた分子をラットに6.25mg/kgで尾静脈を介して静脈内投与し、血清及びCSFサンプルを4及び24時間目に採取して、
図5に記載されるように分析した。
図7に示されるように、FC5-hFc-ABPはCSF中に時間依存様式で出現するが、BBB担体のないFc-ABPは出現せず、血液脳関門を越えるABPのFC5媒介輸送を裏付けた。
【0150】
実施例8:BBB-Fc-L-ABPコンストラクトの脳への送達
実施例2のFC5-Fc-ABPコンストラクトが、生体内で血液脳関門を移動し脳実質に浸透する能力をマウスで評価した。
【0151】
FC5-mFc-L-ABPは、野生型(WT)及びAD遺伝子組換え(AD-Tg、B6.Cg-Tg、Jackson Lab)マウスに15mg/kgで尾静脈を介して静脈内注射
によって投与し(
図8A及び8B)、又はAD-Tgマウスに7.5、15、及び30mg/kgで投与し、4及び24時間循環させた。次に、マウスの左総頸動脈を介して、1ml/分の速度で10mlのヘパリン化(100U/ml)生理食塩水で脳を完全に灌流し、脳の特定の灌流を促進した。次に、脳を摘出して海馬及び皮質の組織を解剖し、即座に凍結して、使用するまで-80℃で保存した。50mM Tris-HCl pH8、150mM NaCl及び、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich, Oakville, ON)を含む氷冷均質化緩衝液中で、ダウンスホモジナイザー(4℃で10~12回のスト
ローク)を使用して、凍結組織を均質化した。次に、サンプルを4℃でそれぞれ10秒間
3回超音波分解し、不溶性物質を除去した(10,000×g、4℃で10分間)。上清をタンパク質含量について分析し、実施例4に記載の方法及び表1に示すペプチドシグネチャーを使用して、約0.5μgのタンパク質をSRM分析に使用した(
図8A)。サンプルはまた、mFc特異的抗体を使用してウエスタンブロットによって分析した(
図8B及び8C)。融合分子の3つの成分全て(FC5、Fc、及びABP)に属する特定の「シグネチャ」ペプチドが、皮質及び海馬の双方でMRMによって検出され、FC5担体がABPを脳の標的領域に成功裏に送達したことが示唆された(FC5ペプチドのデータのみが
図8Aに示される)。Fc又はFc断片のみに融合した対照単一ドメイン抗体A20.1で典型的に測定される約50ng/g組織と比較して、測定されたレベルは、異なる時点で750~1400ng/g脳組織に及んだ。これは、組織抽出物中のFc及びABPを探索するウエスタンブロット分析によって、さらに確認された(8B及び8C)。生理食塩水のみが投与された動物では、ウエスタンブロットによって融合分子のタンパク質シグナルは検出されなかった。脳の標的領域でウエスタンブロットによって検出されたFC5-mFc-ABPレベルの用量依存的な増加があった(
図8C)。これらの結果は、野生型(WT)及びAD-Tgマウスにおいて、FC5がABPを脳の標的領域(すなわち、海馬及び皮質)に成功裏に送達することを明確に示す。
【0152】
実施例9:マウス脳からのAβクリアランス
Tgマウスのアミロイド負荷に対するABPの有効性を評価するために、ABP単独又はFC5-ABPコンストラクトによる処置の結果を比較した。
【0153】
ABP単独(
図9A)又はBBB担体FC5と融合したABP(
図9B及び9C)による処置の比較。2つの異なるAD Tgマウスモデル、三重遺伝子組換え(PS1M146V、APP
Swe、及びtauP301L導入遺伝子を保有する、3XTg-AD、sv129/C57BL6マウス、Dr. F.M. LaFerla, University of California)及び二重遺伝子組換え(B6.Cg-Tg、PSEN1dE9及びAPP
Swe導入遺伝子を保有する、Jackson Lab)を使用し;マウスに、それぞれ3ヶ月間又は2ヶ月間期間にわた
り、隔日で300nmol/kgの遊離ABPを皮下(sc)投与した。処置期間の終了時に、市販のアッセイキット(InVitrogen、KHB3544)を使用して、製造業者のアッセイ手順に従って脳内AβレベルをELISAで測定した。ABP単独による処置は、2~3ヶ月の複数回の(隔日)処置後に、脳Aβの25~50%の減少をもたらした(9A)。FC5-mFc-ABPコンストラクトを二重遺伝子組換えADマウス(B6.Cg-Tg、15mg/kg、220nmol/kgに相当)に静脈内注射し、上記の実施例8に記載されるように、ELISAとnanoLC-MRMの双方で注射後24時間の脳Aβレベルを測定した。意外なことに、FC5-mFc-ABPによる処置の24時間以内に約50%のアミロイドの減少が観察され(
図9B)、FC5によるABPの効率的な脳送達が、Aβレベルの減少におけるABPの有効性を劇的に高めたことが示唆された。CSF分析はまた、FC5-mFc-ABP処置後24時間以内にAβ
1~42レベルの有意な減少を示した(
図9C)。MRMによって検出されたAβペプチド配列(配列:LVFFAEDVGSNK、表1/ELISA分析は、ABPによって認識されるAβエピトープと離れている/異なる(したがって、ELISA又はMRMによる定量化に干渉しない)。
【0154】
実施例10:FC5-ABPコンストラクトへのFc構成要素の導入はその血清半減期を延長する
FC5-ABP(FC5配列番号17;及びABP配列番号36)及びFC5-hFc-ABP(FC5配列番号17;hFc1x7配列番号40及びABP配列番号36]コンストラクトを実施例2に記載されるようにCHO細胞で生成した。血清PKは、実施例5に記載されるように判定した。FC5-ABP及びFC5-Fc-ABPコンストラクトを15mg/kgでラットの尾静脈に静脈内投与した。血清を連続的に採取し、FC5
-ABP及びFC5-Fc-ABPレベルをFC5-及びABP-特異的抗体を使用した直接ELISAによって定量化した。血清サンプルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈(1:5,000)し、Maxisorbプレートに適用して、4℃で一晩インキュベートした。ELISAプレートを3X×100μlのPBSで洗浄し、室温で(RT)30分間、TBST中の1%BSAでブロックした。ブロッキング溶液を除去し、プレートをHRP結合FC5モノクローナル抗体と共にインキュベートした(90分間)。インキュベーションと洗浄に続いて、100μlのSureBlue試薬を添加し、室温で10~15分間暗所でインキュベートした。反応の終了時に、100μlの1M HClを添加し、プレートリーダーで450nmにおける発色を読み取った。
図10に示されるように、Fcを含まないFC5-ABPは、Fc成分を含むFC5-ABPコンストラクト(FC5-Fc-ABP)と比較して、血清中で非常に急速に(1時間以内)除去された。このアッセイはまた、ABP特異的抗体でも同様の結果で繰り返された。サンプル適用後、ELISAプレートを最初にABPウサギポリクローナル抗体と共にでインキュベートし(90分間)、HRPコンジュゲートウサギ二次抗体がそれに続き(30分間)、結合抗体を上記のように検出した(データ未掲載)。
【0155】
実施例11:ラット脳からのAβクリアランス
AD-Tgラットに、生理食塩水又はFC5-mFc-ABPのどちらかを4週間にわたり毎週尾静脈から投与した(30mg/kgの初回負荷量及び引き続く15mg/kgの4回の週用量)。FC5-mFc-ABP及びAβのCSFレベルをnanoLC MRMによって分析した。4週間の処置の前後に、特定のAβ結合剤[18F]NAV4694を使用して、PETスキャンによって脳Aβレベルを判定した。FC5-mFc-ABPは、24時間以内にラットにおけるCSFのAβレベルを減少させた。Tgマウスにおけるように、FC5-mFc-ABPのCSFレベルとAβとの逆相関が観察され、FC5によって脳及びCSFに送達されたABPによる、Aβの標的結合と急速なクリアランスが示唆された(
図11A及び
図11B)。これは、FC5-mFc-ABPによる4週間の処置に続くラット脳Aβレベルの有意な減少(30~50%)を明確に示したPETスキャンによって、さらに裏付けられた(
図11C)。
【0156】
実施例12:海馬の体積の増加及び神経細胞結合性の改善
実施例11に記載される実験では、生理食塩水処置及びFC5-mFc-ABP処置Tgマウスを、処置前に体積測定及び機能的磁気共鳴画像化(MRI)に供した。体積測定MRI(
図12A)は、生理食塩水処置対象と比較して、ABP処置Tgマウスにおける海馬の体積の増加を示し、ABPで処置すると海馬の萎縮が停止したことが示唆された。機能的MRI(
図12B)は、生理食塩水処置対象と比較して、ABP処置Tgマウスの前帯状回(cingulated)皮質における改善された結合性を示し、神経細胞の結合性の回復が示唆された。このデータは、現在提供されている意義、有効性、及び優れた治療上の利点を裏付ける。
【0157】
実施例13:FC5-mFc2a-ABP処置はイヌのCSFAβレベルの低下を示す
実施例6に記載されるように、FC5-mFc-ABPの血清及びCSFのPKプロファイルを2つの用量(15mg/kg及び30mg/kgで、ビーグル犬において評価した。nanoLC-MRMによるFC5-mFc2a-ABPの血清及びCSFレベルの測定に加えて、AβのCSFレベルもまた、実施例9に記載されるようにnanoLC-MRMによって測定した。見て分かるように、FC5-mFc-ABPは、用量及び時間依存様式でCSF中に出現した(
図13B)。最も重要なことは、Tgマウス及びTgラットで見られるように、CSF FC5-mFc2a-ABPレベルに反比例する、CSF Aβレベルの有意な減少があった。
【0158】
実施例14:異なるBBB担体を用いたABP融合分子の生成
ABP融合分子の汎用性を評価するために、ABPを別のヒト化BBB担体IGF1R5(H2)と成功裏に融合させた。
図12に示されるように、分子の二機能性が維持され、ABPがAβオリゴマーに結合する能力(ELISA及びオーバーレイアッセイ)、及びIGF1R5が生体外でBBBモデルを越えてABPを送達する能力(データ未掲載)もまた維持された。これは、ABPが、異なるBBB通過単一ドメイン抗体と融合され、脳に送達され得ることを明確に示唆する。
【0159】
実施例15:異なるBBB通過単一ドメイン抗体-Fc-ABPコンストラクトによるAβオリゴマーの結合
修飾されたABP(表1及び
図15に示される配列番号によって示されるような分子の部位特異的変異又はC末端部分の除去)を有する、様々なFC5-Fc-ABPコンストラクトが提供される。
図15に示されるように、全てのコンストラクトは、ELISA法によって、Aβオリゴマーの結合における同様の効力を維持した。
【0160】
実施例16:安定性及び生物製造可能性を改善するための特定の変異を含むFC5-hFc1X7-L-ABPの生成。
特定の変異を有するFC5-hFc1X7-L-ABP(配列番号35のABP;配列番号36のABP)をCHO細胞で生成し、還元(R)及び非還元(NR)条件下においてSDS-PGE上で分離して、
図2に記載されるようにクマシーブルーで染色した。分離されたタンパク質をニトロセルロース膜に転写し、FC5特異的、hFc特異的、及びABP特異的の抗体を用いて免疫ブロット法を実施した。別のセットでは、融合分子中のABPのAβ結合もまたオーバーレイアッセイにより試験した。結合したAβをAβ特異的抗体6E10によって検出した。見て分かるように、特定の変異(例えば、ここに示されているように、ABP配列番号35及びABP配列番号36)によるABPの系統的修飾は、例えば、還元及び非還元条件下での単一タンパク質バンドによって本明細書で明確に示されているように、生成される分子の安定性を実質的に高めた(二重タンパク質バンドが見られる、
図2Aのその他のABPコンストラクトと比較して)。融合分子の安定性におけるこの実質的な強化は、有利には、均質分子の生物製造可能性を促進する。
【0161】
実施例17:様々なFC5-Fc-L-ABPコンストラクト及びIGF1R5-Fc-ABPコンストラクトのin vitroBBB透過性。
図4に記載されているように、BBB通過を生体外ラットBBBモデルで評価し、血液脳関門を通過する分子をnanoLC-MRM法で検出した。ヒト化FC5及びIGF1R担体に融合された全てのABP変異型は、BBBを効果的に通過した。予測されたように、非BBB透過性sdAbであるA20.1はBBBを通過せず、同様に、A20.1に融合されたABPはBBBを透過しなかった(
図17A)。
図17Bでは、融合分子の3つの構成要素、FC5、Fc、及びABP全ての「フィンガープリント」ペプチドが、nanoLC-MRMによって検出されたことが示される。
【0162】
本明細書に記載される実施形態及び実施例は例示的であり、特許請求される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。代替物、修正、及び均等物をはじめとする前述の実施形態のバリエーションは、発明者らによって特許請求の範囲に含まれることが意図される。さらに、論じられる特徴の組み合わせは、本発明の解決策には必要ではないかもしれない。
【0163】
実施例18:ヒト化FC5-Fc-ABPコンストラクト[FC5(H3)-hFc-ABP(ABP配列番号35及びABP配列番号36)]は生体外ラット血液脳関門を無傷で通過する。
ヒト化FC5-ABP融合分子の血液脳関門通過を実施例4に記載されるように評価した。血液脳関門を通過する融合分子をウエスタンブロット法及びELISA法によって分
析した。免疫ブロットは、hFc特異的及びABP特異的抗体で探索した。どちらの抗体もBBB(下部チャンバー)を通過する分子を認識し、分子サイズは生体外BBB(上部チャンバー)に適用されたFC5-ABP融合コンストラクトの分子サイズと同一であり、BBBを通過した分子が無傷のままであることを示した。これは、サンドイッチELISAアッセイによって立証され、BBB通過分子がFC5特異的抗体で捕捉され、捕捉された分子がABP抗体を用いて検出された。
【0164】
実施例19:ヒト化FC5-Fc-ABPコンストラクト[FC5(H3)-hFc-L-ABP(ABP配列番号35及びABP配列番号36)]はFC5によって生体内でBBBを越えて輸送され脳に無傷で送達される。
マウスにおけるヒト化FC5-ABP融合分子の血液脳関門通過及び脳送達を、実施例8に記載されるように評価した。分子の静脈内投与及び心臓内灌流に続いて4時間後、脳を摘出し、皮質をRIPA緩衝液で抽出し、注入されたFC5-ABP融合分子の存在を、ABP特異的抗体でプローブするウエスタンブロットによって、及び分子をFC5特異的抗体で捕捉してABP特異的抗体で検出するサンドイッチELISAによって、検出した。ウエスタンブロットは、皮質に完全長のFC5-ABPコンストラクトが存在することを明らかにした。これはサンドイッチELISAによって立証され、FC5特異的抗体によって分子が捕捉され、ABP特異的抗体によって捕捉された分子が検出される能力によって示唆されるように、それは分子の無傷の特性を明らかにした。
【0165】
実施例20:ヒト化FC5-Fc-ABPコンストラクト[FC5(H3)-hFc-ABP(ABP配列番号36]の生体外(A)及び生体内(B)結合(標的結合)
免疫組織化学検査を実施例3に記載されるように実施した。AD遺伝子組換えマウス由来の脳切片をFC5(H3)-hFc1X7-ABP(ABP、配列番号36)と共にインキュベートし、結合した融合分子はHRPコンジュゲートFC5特異的抗体を用いて視覚化した。陰性対照として、切片をコンストラクトなしで、又は融合ABPなしのFC5-hFcコンストラクトと共に、インキュベートした。簡潔に述べると、APP/PS1遺伝子組換えマウスの皮質及び海馬を含むホルマリン固定40μmの浮遊切片を、10mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH9)中で80°Cで30分間抗原賦活化に供し、次に室温まで冷却した。切片をPBSですすぎ、PBS中の3%H2O2で30分間処理して内因性ペルオキシダーゼをブロックし、再度すすいだ。0.3%トリトンX-100を含むDako無血清タンパク質ブロック中での1時間のインキュベートに続いて、切片を0.3%トリトンX-100を含むDako希釈液中のFC5(H3)-hFc1x7-ABと、又はFC5-hFc1x7のモル当量と共に、室温で90分間インキュベートした。PBSで完全にすすいだ後、切片をDako希釈液中の抗FC5-HRPと共に室温で60分間インキュベートし、再度すすぎ、次にキットの指示に従ってVector Immpact DABを使用して展開した。切片をSuperfrostプラスストスライドに載せて一晩風乾させ、次に再水和させてメチルグリーンで対比染色し、アセトン/0.05%酢酸(v/v)に浸浸して脱水し、透明化してPermountで覆った。FC5(H3)-hFc1X7-ABPコンストラクトでは選択的結合(黒点)が見られたが、ABPのないFC5(H3)-hFc1X7では見られず、脳内のAβ沈着のABP依存性結合(標的結合)が示唆された。アミロイド沈着を生じない野生型マウス由来の脳切片には、結合は見られなかった(データ未掲載)。
【0166】
Aβ沈着物の同様の結合が、AD遺伝子組換えマウスへのFC5(H3)-hFc-ABPコンストラクトの海馬内注射後に検出された(B)。海馬内注射の4時間後、Tgマウスを灌流して脳を摘出し、切片化した。FC5(H3)-hFc-ABPのAβ沈着物(光沢のある白い点)への結合を、ABP特異的ポリクローナル抗体で可視化した。脳切片を最初にABP特異的モノクローナル抗体と共にインキュベートし、Alexa-647コンジュゲート抗ウサギFc二次抗体がそれに続いた。
【0167】
実施例21:生体内におけるヒト化FC5-Fc-ABPコンストラクト(FC5(H3)-hFc-ABP(配列番号46)による標的結合
フルオロフォア標識(
図18A)又は未感作FC5-ABP(
図18B)融合分子を、野生型(Wt)及びAD-Tg(Tg)マウスの海馬領域に微量注入した。フルオロフォア標識FC5-ABP融合分子のマイクロインジェクションの30分後、脳を摘出し、切片化して蛍光顕微鏡下で観察した。21Aに示されるように、注入された分子は、Aβ特異的抗体との共局在によって確認されるように、Aβ沈着物に結合した。並行研究では、未感作FC5-ABP融合分子の海馬内注射の4時間後に、注入領域(ips)及び非注入領域(con)からの海馬体を採取して、トリス緩衝化生理食塩水で均質化した。捕捉抗体としてFC5抗体を用い、検出抗体としてABP又はAβ特異的抗体のどちらかを用いる、サンドイッチELISAに海馬抽出物を供した。21Bに示されるように、微量注入されたFC5-ABP分子は無傷のままであり、Aβ特異的抗体によって検出されたプルダウン複合体中のAβの存在によって示されるように、ABPは生体内で標的Aβと会合し結合できた。
【0168】
実施例22:非ヒト化及びヒト化FC5-Fc-L-ABPコンストラクト間のPK/PD比較
FC5-mFc2a-ABP又はFC5(H3)-hFc1x7-ABPを、
図5に記載されるように15mg/kgで尾静脈注射を通じてラットに静脈内投与した。血清及びCSFを連続的に採取した。FC5-Fc-ABPレベルをnanoLC-MRM法を用いて定量化した。
図22Aに示されるように、血清及びCSFのPKプロファイルは、非ヒト化及びヒト化コンストラクトで非常に良く似ていた。FC5-mFc2a-ABP又はFC5(H3)-hFc1x7-ABPを
図9Bに記載されるように15mg/kgで尾静脈注射を通じてTgマウスに静脈内投与した。CSF中のFC5-Fc-ABP及びAβレベルを
図9Bに記載されるようにnanoLC-MRMによって測定した。
図22Bに示されるように、CSF中の非ヒト化及びヒト化FC5-Fc-ABPのレベルは類似しており、最も重要なことには、CSFのAβレベルの変化(減少)も非常に良く似ており、FC5-Fc-ABPコンストラクトのヒト化は、融合コンストラクのPK及びPDプロファイルに影響を及ぼさなかった。
【0169】
【0170】
【0171】
【0172】
【0173】
【0174】
【0175】
参考文献
本明細書及び本出願全体を通して参照される全ての特許、特許出願、及び刊行物は、参照により本明細書に援用される。
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