(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081670
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】トランスグルタミナーゼコンジュゲーション方法およびリンカー
(51)【国際特許分類】
C12P 21/08 20060101AFI20240611BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240611BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
C12P21/08 ZNA
C07K16/00
C12N9/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024034922
(22)【出願日】2024-03-07
(62)【分割の表示】P 2020537053の分割
【原出願日】2018-09-19
(31)【優先権主張番号】17191825.3
(32)【優先日】2017-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】1800878.9
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】501494414
【氏名又は名称】パウル・シェラー・インスティトゥート
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】スピッヒャー,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】シブリ,ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】ベーエ,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルミュラー,ジョリ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】微生物トランスグルタミナーゼを用いて抗体-ペイロードコンジュゲートを生成する方法を提供する。
【解決手段】方法は、第一級アミン残基を有するリンカーを、抗体の重鎖または軽鎖に含まれるGln残基にコンジュゲートするステップを含み、前記リンカーは、ペプチド構造(NからCの方向に示す)
[Aaxは、任意のL-アミノ酸もしくはD-アミノ酸、またはアミノ酸誘導体もしくはミメティックであってもよく、Bは、ペイロードまたは連結部分であり、
は、第一級アミン基を有する側鎖を含む、アミノ酸、アミノ酸誘導体、またはアミノ酸ミメティックである]を有する、方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)を用いて、抗体-ペイロードコンジュゲート
を生成する方法であって、第一級アミン残基を有するリンカーを、抗体の重鎖または軽鎖
に含まれるGln残基にコンジュゲートするステップを含み、前記リンカーは、ペプチド
構造(NからCの方向に示す)
【化1】
[式中、
・mは、0以上12以下の整数であり、
・nは、0以上12以下の整数であり、
・oは、0以上12以下の整数であり、
・m+n+oは、0以上であり、
・Aaxは、任意の天然に存在するまたは天然に存在しないL-アミノ酸もしくはD-
アミノ酸、またはアミノ酸誘導体もしくはミメティックであってもよく、
・Bは、ペイロードまたは連結部分であり、
ここで、
【化2】
は、第一級アミン基を有する側鎖を含む、アミノ酸、アミノ酸誘導体、またはアミノ酸ミ
メティックである]を有する、方法。
【請求項2】
【化3】
が、リジン、またはリジン誘導体、またはリジンミメティックである、請求項1に記載の
方法。
【請求項3】
前記リンカーが、カテプシンBで切断できない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記リンカーが、バリン-アラニンモチーフまたはバリン-シトルリンモチーフを含ま
ない、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記リンカーが、ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール誘導体を含ま
ない、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
m+n+oが25以下、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、より好ましく
は12以下、より好ましくは10以下、より好ましくは8以下、より好ましくは7以下、
より好ましくは6以下、より好ましくは5以下、より好ましくは4以下である、前記請求
項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ペイロードまたは連結部分Bを含む前記リンカーが、分子操作により前記抗体の重
鎖または軽鎖に導入されたGln残基にコンジュゲートされる、前記請求項のいずれか一
項に記載の方法。
【請求項8】
前記ペイロードまたは連結部分Bを含む前記リンカーが、前記抗体のFcドメインのG
lnにコンジュゲートされる、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ペイロードまたは連結部分Bを含む前記リンカーが、前記抗体のCH2ドメインの
Gln残基Q295(EUナンバリング)にコンジュゲートされる、前記請求項のいずれ
か一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ペイロードまたは連結部分Bを含む前記リンカーがコンジュゲートされる前記抗体
が、グリコシル化されている、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記リンカーの正味の電荷が、中性または正である、前記請求項のいずれか一項に記載
の方法。
【請求項12】
前記リンカーが、負荷電アミノ酸残基を含まない、前記請求項のいずれか一項に記載の
方法。
【請求項13】
前記リンカーが、正荷電アミノ酸残基を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法
。
【請求項14】
前記リンカーが、
・リジン、またはリジン誘導体、またはリジンミメティック、
・アルギニン、および/または
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも2つのアミノ酸残基を含む、前記請求項のいずれか
一項に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体が、前記抗体のCH2ドメインにAsn残基N297(EUナンバリング)を
含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記N297残基が、グリコシル化されている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ペイロードまたは連結部分Bを含む前記リンカーが、前記Gln残基のアミド側鎖
にコンジュゲートされる、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
Bが連結部分である場合、実際の前記ペイロードを前記連結部分に連結させるさらなる
ステップが実施される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記微生物トランスグルタミナーゼが、ストレプトミセス・モバラエンシス(Streptom
yces mobaraensis)に由来する、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記連結部分Bが、
・生体直交型マーカー基
・架橋のための他の非生体直交型実体
からなる群から選択される少なくとも1つである、前記請求項のいずれか一項に記載の方
法。
【請求項21】
前記生体直交型マーカー基または前記非生体直交型実体が、
・-N-N≡Nまたは-N3
・Lys(N3)
・テトラジン
・アルキン
・DBCO
・BCN
・ノルボレン
・トランスシクロオクテン
・-RCOH(アルデヒド)
・アシルトリフルオロボレート
・-SH、および/または
・システイン
からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ペイロードBが、
・毒素
・サイトカイン
・成長因子
・放射性核種
・ホルモン
・抗ウイルス剤
・抗細菌剤
・蛍光色素
・免疫調節/免疫刺激剤
・半減期増大部分
・溶解性増大部分
・ポリマー-毒素コンジュゲート
・核酸
・ビオチンまたはストレプトアビジン部分
・ビタミン
・標的結合部分、および/または
・抗炎症剤
からなる群から選択される少なくとも1つである、前記請求項のいずれか一項に記載の方
法。
【請求項23】
前記毒素が、
・ピロロベンゾジアゼピン(PBD)
・アウリスタチン(例えば、MMAE、MMAF)
・メイタンシノイド(メイタンシン、DM1、DM4)
・デュオカルマイシン
・ツブリシン
・エンジイン(例えば、カリケアマイシン)
・PNU、ドキソルビシン
・ピロールベースのキネシンスピンドルタンパク質(KSP)阻害剤
・カリケアマイシン
・アマニチン(例えば、α-アマニチン)、および/または
・カンプトテシン(例えば、エキサテカン、デルクステカン)
からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記抗体が、
・IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY
・IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA
・または標的結合特性を保持し、CH2ドメインを含む、それらの断片もしくは組換え
変異体
からなる群から選択される少なくとも1つである、前記請求項のいずれか一項に記載の方
法。
【請求項25】
前記リンカーが2つ以上の連結部分Bを有する、前記請求項のいずれか一項に記載の方
法。
【請求項26】
2つ以上の連結部分Bが、互いに異なる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記請求項のいずれか一項に記載の方法で生成された、抗体-ペイロードコンジュゲー
ト。
【請求項28】
ペプチド構造(NからCの方向に示す)
【化4】
[式中、
・mは、0以上12以下の整数であり、
・nは、0以上12以下の整数であり、
・oは、0以上12以下の整数であり、
・m+n+oは、0以上であり、
・Aaxは、任意の天然に存在するまたは天然に存在しないL-アミノ酸もしくはD-
アミノ酸、またはアミノ酸誘導体もしくはミメティックであってもよく、
・Bは、ペイロードまたは連結部分であり、
ここで、
【化5】
は、第一級アミン基を有する側鎖を含む、アミノ酸、アミノ酸誘導体、またはアミノ酸ミ
メティックである]を有するリンカー。
【請求項29】
【化6】
が、リジン、またはリジン誘導体、またはリジンミメティックである、請求項28に記載
のリンカー。
【請求項30】
前記リンカーが、カテプシンBで切断できない、請求項28または29に記載のリンカ
ー。
【請求項31】
前記リンカーが、バリン-アラニンモチーフまたはバリン-シトルリンモチーフを含ま
ない、請求項28から30のいずれか一項に記載のリンカー。
【請求項32】
前記リンカーが、ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール誘導体を含ま
ない、請求項28から31のいずれか一項に記載のリンカー。
【請求項33】
m+n+oが25以下、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、より好ましく
は12以下、より好ましくは10以下、より好ましくは8以下、より好ましくは7以下、
より好ましくは6以下、より好ましくは5以下、より好ましくは4以下である、請求項2
8から32のいずれか一項に記載のリンカー。
【請求項34】
前記リンカーの正味の電荷が、中性または正である、請求項28から33のいずれか一
項に記載のリンカー。
【請求項35】
前記リンカーが、負荷電アミノ酸残基を含まない、請求項28から34のいずれか一項
に記載のリンカー。
【請求項36】
前記リンカーが、正荷電アミノ酸残基を含む、請求項28から35のいずれか一項に記
載のリンカー。
【請求項37】
前記リンカーが、
・リジン、またはリジン誘導体、またはリジンミメティック、
・アルギニン、および/または
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも2つのアミノ酸残基を含む、請求項28から36の
いずれか一項に記載のリンカー。
【請求項38】
前記第一級アミン基が、微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)の基質として働くの
に適している、請求項28から37のいずれか一項に記載のリンカー。
【請求項39】
微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)を用いて抗体-ペイロードコンジュゲートを
生成するのに適している、請求項28から38のいずれか一項に記載のリンカー。
【請求項40】
a)表5に示されるリスト、および/または
b)配列番号1~35および38~45のいずれか1つ
から選択される、請求項28から39のいずれか一項に記載のリンカー。
【請求項41】
少なくとも、
a)請求項28から40のいずれか一項に記載のリンカーと、
b)1つまたは複数のペイロードと
を含むリンカー-ペイロードコンストラクトであって、前記コンストラクトにおいて、前
記リンカーおよび/または前記ペイロードが、場合により、結合時に、前記コンストラク
トを形成するために、共有結合または非共有結合が可能になるように化学修飾されている
、リンカー-ペイロードコンストラクト。
【請求項42】
a)請求項41に記載の1つまたは複数のリンカー-ペイロードコンストラクトと、
b)重鎖または軽鎖中に少なくとも1つのGln残基を含む抗体と
を含む抗体-ペイロードコンジュゲートであって、前記コンジュゲートにおいて、前記リ
ンカー-ペイロードコンストラクトおよび/または前記抗体が、場合により、コンジュゲ
ーション時に、前記コンジュゲートを形成するために、共有結合または非共有結合コンジ
ュゲーションが可能になるように化学修飾されている、抗体-ペイロードコンジュゲート
。
【請求項43】
請求項28から40のいずれか一項に記載のリンカー、請求項41に記載のリンカー-
ペイロードコンストラクト、および/または請求項42に記載の抗体-ペイロードコンジ
ュゲートを含む、医薬組成物。
【請求項44】
請求項42に記載の抗体-ペイロードコンジュゲートまたは請求項43に記載の医薬組
成物と、少なくとも1つのさらなる薬学的に許容される成分とを含む、医薬製品。
【請求項45】
新生物性疾患、神経性疾患、自己免疫性疾患、炎症性疾患、または感染性疾患について
・罹患している、
・発症するリスクがある、および/または
・診断されている
患者の処置もしくは予防のため、またはそのような状態の予防のための(医薬を製造する
ための)、請求項42に記載の抗体-ペイロードコンジュゲート、請求項43に記載の医
薬組成物、または請求項44に記載の製品。
【請求項46】
新生物性疾患を処置または予防する方法であって、請求項42に記載の抗体-ペイロー
ドコンジュゲート、請求項43に記載の医薬組成物、または請求項44に記載の製品を、
それを必要とする患者に投与するステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物トランスグルタミナーゼを用いて、抗体-ペイロードコンジュゲート
を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非常に強力なペイロードを抗体に結合させることは、がんまたは炎症性疾患の標的処置
において関心が高まっている。これにより作製されるコンストラクトは、抗体-ペイロー
ドコンジュゲート、または抗体-薬物コンジュゲート(ADC)と呼ばれている。
【0003】
現在、4つのADCが、FDAの承認を得ており(アドセトリス、カドサイラ、ベスポ
ンサ、およびマイロターグ)、これらのADCはすべて、それらのペイロードが抗体に部
位非特異的に化学結合している。したがって、得られる生成物は、抗体とペイロードの化
学量論的関係(ペイロード抗体比、または薬物対抗体比、DAR)についても、抗体上の
コンジュゲーション部位に関しても、極めて不均質である。得られる種それぞれは、同一
の薬物製品中にあっても、異なる特性を有する可能性があり、それにより、インビボ薬物
動態特性および活性が大きく異なる恐れがある。
【0004】
過去のインビボ試験(Lhospice et al., 2015)では、部位特異的薬物結合が、FDA
承認ADCと比較して、腫瘍取り込み率の有意な増加(約2倍)および非標的組織におけ
る取り込み率の低下をもたらすとともに、最大耐用量が少なくとも3倍高いことが示され
た。これらのデータは、化学量論的に明確に定義されたADCが、化学修飾されたADC
と比較して、改善された薬物動態、およびより優れた治療指数を示すことを示唆している
。
【0005】
部位特異的技術として、酵素コンジュゲーションは、そのようなコンジュゲーション反
応が、典型的には迅速であり、かつ生理的条件下で実施できることから、大きな重要性を
示している。使用可能な酵素の中でも、ストレプトミセス・モバラエンシス(Streptomyc
es mobaraensis)種由来の微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)は、抗体を含めた機
能性部分の従来の化学的タンパク質コンジュゲーションに代わる魅力的な手段として、ま
すます関心が高まっている。MTGは、生理的条件下で、タンパク質またはペプチドの「
反応性」グルタミンとタンパク質またはペプチドの「反応性」リジン残基とのアミド基転
移反応を触媒するが、このリジン残基は、5-アミノペンチル基のような単純な低分子量
第一級アミンであってもよい(Jeger et al., 2010, Strop et al., 2014)。
【0006】
形成される結合は、イソペプチド結合であり、これは、それぞれのポリペプチドまたは
タンパク質のペプチド結合骨格の一部をなさないアミド結合である。これは、アシルグル
タミン含有アミノ酸供与体配列のグルタミル残基のγ-カルボキサミドと、本発明による
アミノ供与体を含む基質の第一級(1°)アミンとの間に形成される。
【0007】
本発明者の経験および他者の経験から、典型的には、わずかなグルタミンのみがMTG
の標的となると考えられ、そのため、MTGは、部位特異的かつ化学量論的なタンパク質
修飾のための魅力的な手段となっている。
【0008】
これまでに、グルタミン295(Q295)は、低分子量第一級アミン基質とともに、
MTGが特異的に標的とする、さまざまなタイプのIgGの重鎖の唯一の反応性グルタミ
ンとして同定されている(Jeger et al. 2010)。
【0009】
しかしながら、Q295との定量的コンジュゲーションは、PNGase Fによって
アスパラギン残基297(N297)のグリカン部分を除去した場合にのみ可能であり、
グリコシル化抗体は、効率的にコンジュゲートすることができなかった(コンジュゲーシ
ョン効率<20)。この発見は、Mindt et al. (2008)およびJeger et al. (2010)の研究
によっても裏付けられている。
【0010】
脱グリコシル化を不要にするために、N297残基に点突然変異を挿入して、それによ
り、非グリコシル化と呼ばれるグリコシル化の消失をもたらすことも可能である。
【0011】
しかしながら、いずれの手法も、大きな不利益を伴う。酵素による脱グリコシル化ステ
ップは、高純度の製品を確保するために、脱グリコシル化酵素(例えば、PNGase
F)と切断されたグリカンの双方ともが媒体から除去されていることを確認しなければな
らないため、GMPの面で望ましくない。
【0012】
また、N297の別のアミノ酸による置換も、CH2ドメインの全般的安定性、ひいて
はコンジュゲート全体の有効性に影響し得ることから、望ましくない効果がある。さらに
、N297に存在するグリカンは、抗体依存性細胞傷害(ADCC)をトリガーするなど
、重要な免疫調節作用を有する。このような免疫調節作用は、脱グリコシル化またはN2
97の別のアミノ酸による置換を行うと、失われることになる。
【0013】
さらに、ペイロードを結合するための抗体の遺伝子操作は、配列挿入が免疫原性を高め
、抗体の全般的安定性を低下させる可能性があるという点で、不利益となり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の1つの目的は、事前に抗体、具体的にはN297の脱グリコシル
化を必要としない、トランスグルタミナーゼに基づく抗体コンジュゲーション手法を提供
することである。
【0015】
本発明のまた別の目的は、CH2ドメインにおけるN297の置換または修飾を必要と
しない、トランスグルタミナーゼに基づく抗体コンジュゲーション手法を提供することで
ある。
【0016】
本発明のもう1つの目的は、コンジュゲーションの化学量論性および部位特異性の双方
について極めて均質なコンジュゲーション製品の製造を可能にするような、抗体コンジュ
ゲーション技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらおよびその他の目的は、本発明の独立クレームによる方法および手段により達成
される。従属クレームは、特定の実施形態に関する。
【0018】
本発明は、微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)を用いて、抗体-ペイロードコン
ジュゲートを生成するための方法およびリンカー構造に関する。本発明およびその特徴の
一般的利点について、以下に詳しく記載する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一態様の説明図である。MTG=微生物トランスグルタミナーゼ。星印は、ペイロードまたは連結部分Bを例示する。Kpは、リジン残基、リジン誘導体、またはリジンミメティックであり、これは、ペプチドのN末端もしくはC末端、または鎖内にあってもよく、またこれは、MTGの基質である。このプロセスにより、N297におけるグリコシル化を維持することが可能になることに留意されたい。B/星印は、連結部分であり、実際のペイロードをさらにこの部分にコンジュゲートさせなければならないことに留意されたい。 本明細書の別の部分に記載されるように、B/星印は、例えば、DBCO含有ペイロード(例えば、毒素、または蛍光色素、またはDOTAもしくはNODA-GAのような金属キレート剤)との歪み促進型アルキン-アジド環化付加(SPAAC)クリックケミストリー反応に適した生体直交型の基(例えば、アジド/N
3基)のような、連結部分であってもよい。機能性部分を抗体に結合させるための、このクリックケミストリーに基づく「2ステップ化学酵素」手法は、抗体に対する低い分子過剰量、典型的には、例えば、コンジュゲーション部位当たり5当量以下でクリック結合できるという大きな利点を有する(Dennler et al. 2014)。これにより、費用効果の高いADCの生成が可能になる。さらに、蛍光色素から金属キレート剤に及ぶ事実上すべてのプローブは、この手法でクリック結合させることができる(Spycher et al. 2017, Dennler et al. 2015を参照)。 B/星印はまた、実際のペイロード、例えば毒素であってもよい。そのような実施形態により、結果として得られる化合物が1ステップで迅速に製造できるようになり、精製および作製が容易になる。
【
図2】本発明によるオリゴペプチドを含むリンカーペプチドの例を示す図である。配列は、ArgAlaLysAlaArgLys(N
3)(RAK
1ARK
2、このときK
2=Lys(N
3))である。Lys(N
3)は、第一級アミンがアジド(-N-N≡N、または-N
3)で置き換えられたLys残基である。本発明の命名法によれば、Lys(N
3)またはN
3のみのいずれも連結部分Bとみなすことができる(この例では、N
3がクリックケミストリーに適している)。 このペプチドは、天然IgG1抗体にQ295位で効率的にコンジュゲートする(非最適化条件下でのLC-MS分析からの推定で約77%)。 本明細書に示される一部のリンカーペプチドでは、C末端の部分が単にN
3として指定されていることを理解することが重要である。しかしながら、これは、Lys(N
3)の略記として理解すべきである。例えば、RAKAR(N
3)またはArgAlaLysAlaArg(N
3)は、実際には、RAK
1ARK
2(K
2=Lys(N
3))、またはArgAlaLysAlaArgLys(N
3)を意味する。 さらに、本明細書に示されるさまざまなリンカーペプチドにおいて、C末端および/またはN末端は、そうではないように示されていたとしても、保護されていても、または保護されていなくてもよいことを理解することも重要である。保護は、例えば、C末端のアミド化、および/またはN末端のアセチル化によって達成することができる。本発明の文脈では、保護および非保護リンカーペプチドの双方が包含される。 例えば、RAKARK(N
3)は、実際、a)両末端とも上述のように保護された変異体、b)N末端のみ、またはC末端のみが上述のように保護された変異体、またはc)両末端とも保護されていない変異体、の4つの変異体を包含する。 下図は、C末端がアミド化されたC末端Lys(N
3)を示している。
【化1】
【
図3】所与のペプチドライブラリーのスクリーニング結果を示す図である。MTG反応性リジン残基を含む、長さおよび電荷が異なるさまざまなペプチドをスクリーニングした。分析には、LC-MSを使用した。明らかに、負荷電ペプチドが低いコンジュゲーション収率をもたらす一方、正荷電ペプチドは、Q295コンジュゲーションに有利であるとみられる。
【
図4】リンカーが、マレイミドを含む毒素リンカーコンストラクトをコンジュゲートするのに適した、遊離スルフヒドリル基を有するCys残基を含む、実施形態を示す図である。
図4は、結合反応を示す。
【
図5】リンカーが、マレイミドを含む毒素リンカーコンストラクトをコンジュゲートするのに適した、遊離スルフヒドリル基を有するCys残基を含む、実施形態を示す図である。
図5は、いくつかの可能なリンカーコンストラクトを示している。
【表1】
【
図6】ペプチドが抗体のGln(Q295または分子操作によるもの)にコンジュゲートされる2ステップコンジュゲーションプロセス(
図6A)、および本発明による1ステップコンジュゲーションプロセス(
図6B)を示す図である。 2ステッププロセスでは、リンカーペプチドは、(Aax)m-Lys-(Aax)n-連結部分である。Lys残基は、微生物トランスグルタミナーゼにより、抗体中のGln残基にコンジュゲートされ、次いで、連結部分(この場合、遊離スルフヒドリル基を有するCys残基)は、マレイミドを介して、ペイロード(この場合、MC/VC/PABDCリンカー構造を担持するMMAE毒素)にコンジュゲートされる。 1、2ステッププロセスでは、リンカーペプチド(Aax)m-Lys-(Aax)nは、ペイロードにすでにコンジュゲートされている。Lys残基は、抗体中のGln残基にコンジュゲートされ、ペイロードは、VC/PABDC構造を担持するMMAE毒素からなる。VC構造のバリン残基は、ペプチド結合により、リンカーペプチドの最後のアミノ酸にコンジュゲートされる。
【
図7】二重ペイロード結合に適したリンカーを含む、リンカーの3つの例を示す図である。 (
図7A)アジド(N3)である第1の連結部分を有し、第2の連結部分はテトラジンである(双方とも生体直交型)、ペプチドを示す図である。このオリゴペプチドの構造は、ArgAlaLysLys(N
3)-ArgAlaLys(テトラジン)(RAK
1K
2RAK
3、このときK
2=Lys(N
3)、K
3=Lys(テトラジン))である。 (
図7B)アジド(N
3)およびCys部分からの遊離スルフヒドリル基を担持するペプチドを示す図である。このオリゴペプチドの構造は、Lys(N
3)CysArgAlaLys(K
1CRAK
2、このときK
1=Lys(N
3))である。 (
図7C)アジド(N
3)およびCys部分からの遊離スルフヒドリル基を担持する別のペプチドを示す図である。このオリゴペプチドの構造は、LysAlaArgCysLys(N
3)(K
1ARCK
2、このときK
2=Lys(N
3))である。 結合部分のそれぞれは、同時にクリック結合することができる、生体直交的に適合性の基である。 これらのリンカーは、このように、2つの異なるペイロードを抗体のC
H2ドメインのQ295にコンジュゲートすることを可能にする。第2のペイロードを使用することにより、有効性および力価に関して現在の治療手法を超える、全く新しいクラスの抗体ペイロードコンジュゲートを開発することが可能となる。また、新しい応用分野、例えば、イメージングおよび治療、または外科手術中/後のためのデュアル式イメージング法も想定される(Azhdarinia A. et al., Molec Imaging and Biology, 2012を参照)。例えば、術前ポジトロン放出断層撮影(PET)のための分子イメージング剤とガイド下での切除マージン設定のための近赤外蛍光(NIRF)色素とを含む二重標識抗体は、がんの診断、ステージ分類、および切除を大きく向上させ得る(Houghton JL. et al., PNAS 2015を参照)。PETとNIRF光学イメージングは、相補的な臨床応用を提供し、それぞれ、疾患の位置を特定するための非侵襲的全身イメージング、および手術中の腫瘍マージンの同定を可能にする。しかしながら、そのような二重標識プローブの生成は、これまで、適切な部位特異的な方法がなかったため困難であり、化学的手段により2つの異なるプローブを結合すると、その結果、プローブの無秩序なコンジュゲーションにより、分析および再現性がほぼ不可能であった。さらに、Levengood M. et al., Angewandte Chemie, 2016の研究では、2つの異なるアウリスタチン毒素(異なる生理化学的性質を有し、相補的な抗がん活性を発揮する)を結合させた二重薬物標識抗体が、個々のアウリスタチン要素からなるADCでは効果がなかった細胞株および異種移植モデルにおいて、活性を付与した。このことは、二重標識ADCが、単一の従来のADCのみの場合より、がんの不均一性および耐性により効果的に対処することを可能にすることを示唆している。ADCに対する1つの耐性機序は、がん細胞から細胞傷害性部分を能動的に排出することを含むため、別の二重薬物応用例は、細胞傷害性薬物の排出機序を特異的に阻害する薬物の付加的な同時送達を含んでもよい。そのような二重標識ADCは、このように、従来のADCよりも効果的に、ADCに対するがん耐性を克服する一助となり得る。 アルキンまたはテトラジン/trans-シクロオクテンがリンカーとして使用されている類似の構造は、同様に適切であり、本発明の範囲および趣旨に含まれる。 本明細書に示される一部のリンカーペプチドでは、C末端の部分が単にN
3として指定されていることを理解することが重要である。しかしながら、これは、Lys(N
3)の略記として理解すべきである。例えば、RAKAR(N
3)またはArgAlaLysAlaArg(N
3)は、実際には、RAK
1ARK
2(K
2=Lys(N
3))、またはArgAlaLysAlaArgLys(N
3)を意味する。 さらに、本明細書に示されるさまざまなリンカーペプチドにおいて、C末端および/またはN末端は、そうではないように示されていたとしても、保護されていても、または保護されていなくてもよいことを理解することも重要である。保護は、C末端のアミド化、および/またはN末端のアセチル化によって達成することができる。本発明の文脈では、保護および非保護リンカーペプチドの双方が包含される。例えば、RAKARK(N
3)は、実際、a)両末端とも上述のように保護された変異体、b)N末端のみ、またはC末端のみが上述のように保護された変異体、またはc)両末端とも保護されていない変異体、の4つの変異体を包含する。 C末端および/またはN末端アミド化および/またはアセチル化の有無の問題は、コンジュゲーション条件(緩衝液、媒体、他の反応要素の反応性など)による、実践上の問題である。
【
図8】2つのアジドリンカー部分を有する、可能なリンカー構造を示す図である。
図8Aは、Lys(N
3)ArgAlaLysAlaArgLys(N
3)(K
1RAK
2ARK
3、このときK
1およびK
3=Lys(N
3))を示している。
図8Bは、LysAlaArgLys(N
3)Lys(N
3)(K
1RK
2K
3、このときK
2およびK
3=Lys(N3))を示している。このようにして、抗体ペイロード比4を達成することができる。荷電Arg残基の存在は、疎水性ペイロードを溶液中に保持するのを助ける。 本明細書に示される一部のリンカーペプチドでは、C末端の部分が単にN
3として指定されていることを理解することが重要である。しかしながら、これは、Lys(N
3)の略記として理解すべきである。例えば、RAKAR(N
3)またはArgAlaLysAlaArg(N
3)は、実際には、RAK
1ARK
2(K
2=Lys(N
3))、またはArgAlaLysAlaArgLys(N
3)を意味する。 さらに、本明細書に示されるさまざまなリンカーペプチドにおいて、C末端および/またはN末端は、そうではないように示されていたとしても、保護されていても、または保護されていなくてもよいことを理解することも重要である。保護は、C末端のアミド化、および/またはN末端のアセチル化によって達成することができる。本発明の文脈では、保護および非保護リンカーペプチドの双方が包含される。例えば、RAKARK(N
3)は、実際、a)両末端とも上述のように保護された変異体、b)N末端のみ、またはC末端のみが上述のように保護された変異体、またはc)両末端とも保護されていない変異体、の4つの変異体を包含する。
【
図9】天然抗体とのMTG媒介コンジュゲーションに適したさらなるリンカーを示す図である。これらのリンカー構造は、第2のステップにおける機能性ペイロードのクリックケミストリーに基づく結合に適した連結部分(アジド、N3)、またはマレイミドとの結合に適したチオール基を備えるCys残基を含む。これらの構造は、化学的性質が十分に理解されている、単一のアミノ酸のビルディングブロックから構築されたペプチドに基づくことから、新しいリンカーは、迅速かつ容易に合成および評価することができる。
【表2】
【
図10】IgG1抗体の軽鎖が、コンジュゲーションにより修飾されていないことを示す図である。図示されているのは、IgG1軽鎖のデコンボリュートしたLC-MSスペクトルである。
【
図11】N3機能性ペプチドで選択的に修飾された、2つの異なる天然IgG1重鎖のデコンボリュートしたLC-MSスペクトルを示す図である。これらのスペクトルから、測定された質量差が推定されたペプチドの質量シフトと一致することにより、両重鎖が1つのみのペプチドリンカーで選択的かつ定量的(>95%)に修飾されたことが認められる。
【
図12】異なるDBCO機能性プローブ(FAM色素およびカルボキシローダミン色素)のアジド機能化天然IgG1抗体への変換/クリック結合実験の結果(>95%)を示す図である。これは、単一の残基(Q295)で選択的に修飾された、部位特異的に修飾された天然IgG1抗体を生じる。
【
図13-1】(
図13A)参照として脱グリコシル化変異体を使用した、2つの天然IgG1のフローサイトメトリー実験の結果を示す図である。FAM色素を使用した。ペプチドとしてRAKAR-K(N3)を使用し、クリック結合にDBCO-PEG4-5/6-FAM色素を使用した。LC-MSによると、95%を超える効率のクリック結合が達成された。
【
図13-2】(
図13B)参照として脱グリコシル化変異体を使用した、2つの天然IgG1のフローサイトメトリー実験の結果を示す図である。FAM色素を使用した。ペプチドとしてRAKAR-K(N3)を使用し、クリック結合にDBCO-PEG4-5/6-FAM色素を使用した。LC-MSによると、95%を超える効率のクリック結合が達成された。
【
図14】さまざまなナンバリングスキームで、Ig C
H2ドメインの概要を示す表である。本発明の目的では、EUナンバリングを使用する。
【
図15】遊離第一級アミンを含むLys残基(鎖内またはN末端/C末端)を有するリンカーを抗体のQ295残基の遊離第一級アミンにコンジュゲートする、トランスグルタミナーゼ反応を示す図である。
【
図16】リンカーArgAlaLysLys(N
3)(RAK
1K
2、このときK
2=Lys(N
3))をペイロードで標識したジベンゾシクロオクチンにコンジュゲートする、クリックケミストリー反応スキーム(歪み促進型アルキン-アジド環化付加(SPAAC)を示す図である。
【
図17】トリプシン消化後にLC-MS/MSを実施した、MTGを使用してグリコシル化IgG1参照抗体にコンジュゲートしたArgAlaLysAlaArg(RAKAR)のペプチドマッピングを示す図である。ペプチド断片化により、断片EEQYDSTYR(1
*ペプチド_23_AKAR、Mw:推定および測定1617.7Da)内の修飾部位として、抗体重鎖中のQ295が明確に同定された。
【
図18-1】本発明に関連して使用可能なさまざまなペプチドリンカーを示す図である。
図18Aは、非天然アミノ酸を含むペプチドリンカーを示している。
【
図18-2】
図18Bは、トランスグルタミナーゼ反応のための第一級アミンを備えるリジン誘導体またはミメティックを含むペプチドリンカーを示している。これらのペプチド変異体またはペプチドミメティックはすべて、ArgAlaLysLys(N
3)ペプチド(RAK
1K
2、このときK
2=Lys(N
3))に由来する。Lys(N
3)の代わりに、本明細書の別の部分に記載されるように、他の連結部分Bも使用できることに留意されたい。
【
図19-1】本発明に関連して使用可能なさらなるペプチドリンカーを示す図である。
【
図19-2】本発明に関連して使用可能なさらなるペプチドリンカーを示す図である。
【
図20】本発明に関連して使用可能なさらなるペプチドリンカーを示す図である。ArgLys(N
3)Lysは、(N末端でもC末端でもなく)鎖内にLys(N
3)連結部分を有するペプチドである。LysLys(N
3)およびLysCysは、極めて短いリンカーである。
【
図21】本明細書に記載の方法により、抗体にコンジュゲートすることができるさまざまなリンカー毒素コントラクトを示す図である。すべての場合において、Lys残基は、トランスグルタミナーゼコンジュゲーションのための第一級アミンを担持する。
図21A:RKR-DM1。この図は、疎水性ペイロードDM1の溶解性を向上させるのに役立つ2つのアルギニン基を有する、切断不可能なRKR-DM1ペプチド-毒素コンジュゲートを示している。リジンは、MTGによる抗体とのコンジュゲーションに役立つ。Ahxスペーサは、正荷電アルギニンをDM1から分離させるのに役立ち、リンカーが切断できないことから、DM1がその標的により効率的に結合するのを助ける。
図21B:RKR-DM1。この図は、2つのアルギニン基およびPEG4-スペーサを有し、これら3つの部分すべてが疎水性ペイロードDM1の溶解性を向上させるのに役立つ、切断不可能なRKR-DM1ペプチド-毒素コンジュゲートを示している。リジンは、MTGによる抗体とのコンジュゲーションに役立つ。PEG4は、正荷電アルギニンをDM1から分離させるのをさらに助け、リンカーが切断できないことから、DM1がその標的により効率的に結合するのを助ける。
図21C:RKR-MMAE。この図は、2つのアルギニン基、PEG4-スペーサ、PABC基、およびval-cit配列を有する、切断可能なRKR-MMAEペプチド-毒素コンジュゲートを示している。リジンは、MTGによる抗体とのコンジュゲーションに役立ち、アルギニン基およびPEG4-スペーサは、溶解性を向上させるのに役立ち、PABC基およびval-cit配列は、毒素の放出を助ける。
図21D:RKR-MMAE。この図は、2つのアルギニン基およびPABC基を有し、PEG-スペーサおよびval-cit配列を有さない、切断可能なRKR-MMAEペプチド-毒素コンジュゲートを示している。RKR-ペプチドは本来ペプチダーゼにより分解可能であるため、毒素放出のためにval-cit配列は必要でないかもしれず、2つのアルギニン基は極めて親水性であるため、PEG-スペーサは必要とされない可能性があるので、それにより、ペプチド-毒素コンジュゲート全体をできるだけ小さく保ち、循環血液中での他の分子との望ましくない相互作用を最小限に抑えている。
【
図22】実施例2により実施した細胞毒性アッセイの結果を示す図である。内製ADCは、SK-BR3細胞に対する力価がカドサイラと同様である。したがって、新規のリンカー技術によってもたらされる利益(製造が容易なこと、部位特異性、安定した化学量論性、抗体を脱グリコシル化する必要がないこと)は、細胞毒性に関して、いかなる不利益も伴わない。
【
図23】二重ペイロードコンジュゲーションおよび細胞結合試験の結果を示す図である(実施例6)。
図23A:二重ペイロードコンジュゲーション後のヒト化IgG1の軽鎖:純度>95%。
図23B:二重ペイロードコンジュゲーションならびにマレイミド-NODAGAおよびDBCO-PEG4-Ahx-DM1結合後のヒト化IgG1の重鎖:純度>90%。
【
図24】二重ペイロードコンジュゲーションおよび細胞結合試験のさらなる結果を示す図である(実施例6)。
【
図25】ヒト化IgG1とのコンジュゲーションにおける、Ac-RβAK(N
3)-NH
2(Ac-ArgβAlaLys(N
3)-NH
2)(すなわち、側鎖に第一級アミンを有するアミノ酸を含まないリンカー)の対照コンジュゲーションの結果を示す図である(実施例7)。コンジュゲーションは、検出されなかった。
【
図26-1】ヒトIgG4抗体へのコンジュゲーション実験の結果を示す図である(実施例8)。
図26A:ヒトIgG4の軽鎖:コンジュゲーション検出されず。
図26B:グリコシル化パターンを示す、ヒトIgG4の天然重鎖。
【
図26-2】
図26C:単一残基における選択的修飾を示す、RAKARとのコンジュゲーション後のヒトIgG4の天然重鎖。非最適化条件下で、コンジュゲーション効率85%が達成された。
【
図27-1】ヒト化IgG1からADCを調製後にLC-MSを実施した結果を示す図である(実施例9)。
図27A:天然グリコシル化パターンを示す、ヒト化IgG1の天然重鎖。
図27B:Ac-RAK-Lys(N
3)-NH
2とのコンジュゲーション後のヒト化IgG1の天然重鎖。コンジュゲーション効率98%が達成された。
【
図27-2】
図27C:Ac-RAK-Lys(N
3)-NH
2とのコンジュゲーションおよびDBCO-PEG4-Ahx-DM1とのクリック結合後のヒト化IgG1の天然重鎖。クリック結合効率98%が達成された。
【
図28-1】SEC-MALS実験の結果を示す図である。
図28A:ハーセプチン、
図28B:特許請求の範囲に記載されるリンカー技術を使用した、抗HER2-リンカーコンストラクト。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を詳細に説明する前に、本発明が、記載される方法の特定の構成要素またはプロ
セスステップに限定されず、そのような装置および方法は、変更可能であることを理解さ
れたい。また、本明細書において使用される用語は、特定の実施形態を説明するためにす
ぎず、制限するものではないことも理解されたい。本明細書および添付の特許請求の範囲
において使用される場合、単数形(「a」、「an」、および「the」)は、文脈から
そうでないことが明らかである場合を除き、単数および/または複数の指示対象を含むこ
とに留意しなければならない。さらに、数値によって範囲が定められたパラメータ範囲が
示される場合、その範囲は、それらの境界値を含むものとみなされることも理解されたい
。
【0021】
また、本明細書において開示される実施形態は、互いに関連しない個々の実施形態とし
て理解されるよう意図していないことも理解されたい。1つの実施形態について説明され
る特徴は、本明細書に示される他の実施形態にも関連して開示されるよう意図される。あ
る事例で、特定の特徴が、1つの実施形態について開示されておらず、別の実施形態につ
いて開示されている場合、当業者は、そのことが、前記の特徴が前記の別の実施形態につ
いて開示されるよう意図されていないことを必ずしも意味するものではないことを理解す
るであろう。当業者は、前記の特徴を別の実施形態についても開示することが本出願の趣
旨であり、これがなされていないのは、わかりやすくし、かつ明細書の長さを適度に抑え
るためにすぎないと理解するであろう。
【0022】
また、本明細書に引用されている文書の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
これは、標準的または常套的な方法を開示している文書について、特に当てはまる。その
場合、参照による組み込みは、主に、十分な実施可能な程度の開示を提供し、かつ冗長な
繰り返しを避ける目的を有する。
【0023】
第1の態様によれば、微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)を用いて、抗体-ペイ
ロードコンジュゲートを生成する方法が提供されるが、この方法は、第一級アミン残基を
有するリンカーを、抗体の重鎖または軽鎖に含まれるGln残基にコンジュゲートするス
テップを含み、前記リンカーは、ペプチド構造(NからCの方向に示す)
【0024】
【化2】
[式中、
・mは、0以上12以下の整数であり、
・nは、0以上12以下の整数であり、
・oは、0以上12以下の整数であり、
・m+n+oは、0以上であり、
・Aaxは、任意の天然に存在するまたは天然に存在しないL-アミノ酸もしくはD-
アミノ酸、またはアミノ酸誘導体もしくはミメティック(mimetic)であってもよく、
・Bは、ペイロードまたは連結部分であり、
ここで、
【0025】
【化3】
は、第一級アミン基を有する側鎖を含む、アミノ酸、アミノ酸誘導体、またはアミノ酸ミ
メティックである]を有する。
【0026】
本明細書において使用される際、「第一級アミン」という用語は、一般式R-NH2を
有する、2つの水素原子で置換されたアミンに関する。
【0027】
本明細書に示されるさまざまなリンカーペプチドにおいて、C末端および/またはN末
端は、そうではないように示されていたとしても、保護されていても、または保護されて
いなくてもよいことを理解することが重要である。保護は、C末端のアミド化、および/
またはN末端のアセチル化によって達成することができる。本発明の文脈では、保護およ
び非保護リンカーペプチドの双方が包含される。
【0028】
一実施形態によれば、
【0029】
【化4】
は、リジン、またはリジン誘導体、またはリジンミメティックである。好ましくは、前記
リジン、またはリジン誘導体、またはリジンミメティックは、下記の表1に示すような、
第一級アミンを有するアミノ酸(D型およびL型の両方)である。
【0030】
【0031】
したがって、最も単純な形態では、Bは、Lys、またはリジン誘導体、またはリジン
ミメティックに直接コンジュゲートしていてもよい。そのような場合、m+n+o=0で
ある。
【0032】
そのような、リジン、またはリジン誘導体、またはリジンミメティックが毒素に直接コ
ンジュゲートされる実施形態の2つの例を以下に示す。
【0033】
【0034】
一部の実施形態では、ペプチド構造のN末端またはC末端は、適切な保護基(アミド化
またはアセチル化)で保護することができる。
【0035】
別の実施形態では、Lys誘導体は、第一級アミンを含み、かつトランスグルタミナー
ゼ酵素により許容される有機分子であってもよい。
【0036】
リンカー構造は、したがって、下記の表2(表中、Lysは、Aax-NH2、またはリ
ジン、またはリジン誘導体もしくはミメティックを表す)のいずれの例であってもよい。
【0037】
【0038】
本発明者らは、このプロセスが、極めて高い費用効果で迅速に(24~36時間)、部
位特異的抗体-ペイロードコンジュゲートを作製するのに適しており、それによって、そ
のような分子の大きなライブラリーを作製し、続いてそれをハイスループットスクリーニ
ングシステムでスクリーニングすることが可能となることを示した。
【0039】
これとは対照的に、抗体ペイロードコンジュゲート(antibody payload conjugate)が
作製されるCys操作プロセスでは、遺伝子(分子)操作されたCys残基を介してペイ
ロードが抗体にコンジュゲートされるが、これには、少なくとも約3~4週間を要する。
【0040】
一般に、本方法により、多数のペイロードを抗体にコンジュゲートすることが可能にな
る。ペイロードごとに、大きなリンカーのプールから適切なペプチドリンカー構造を同定
して、最適な臨床的および非臨床的特徴を与えることができる。これは、リンカー構造が
固定されている他の方法では不可能である。
【0041】
本明細書において使用される際、「天然に存在しないアミノ酸」またはアミノ酸類似体
という用語は、一般構造-NH-CHR-CO-を有するが、生体のタンパク質中には存
在しないアミノ酸に関する。この用語は、β-アラニン、α-アミノ酪酸、γ-アミノ酪
酸、α-アミノイソ酪酸、ε-リジン、オルニチン、ヒドロキシプロリン、アグマチン、
(S)-2-アミノ-4-((2-アミノ)ピリミジニル)ブタン酸、4-アミノ酪酸、
4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-
6-メチルヘプタン酸、6-アミノヘキサン酸、α-アミノイソ酪酸、ベンゾフェノン、
t-ブチルグリシン、シトルリン、シクロヘキシルアラニン、デスアミノチロシン、L-
(4-グアニジノ)フェニルアラニン、ホモアルギニン、ホモシステイン、ホモセリン、
ホモリジン、n-ホルミルトリプトファン、ノルロイシン、ノルバリン、フェニルグリシ
ン、(S)-4-ピペリジル-N-アミジノ)グリシン、オルニチン、パラベンゾイル-
L-フェニルアラニン、サルコシン、スタチン、2-チエニルアラニン、および/または
天然に存在するまたは天然に存在しないアミノ酸のD-異性体を含むが、これらに限定さ
れない。
【0042】
「D-アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸および天然に存在しないアミ
ノ酸の双方のD型のものを含むと理解される。
【0043】
一実施形態では、ペプチド構造を有するリンカーは、カテプシンBで切断できない。さ
らなる一実施形態では、ペプチド構造を有するリンカーは、バリン-アラニンモチーフま
たはバリン-シトルリンモチーフを含まない。
【0044】
ADCリンカーに使用されるがLys残基を有さない、1つの典型的なジペプチド構造
は、例えばブレンツキシマブベドチン中に備えられ、Dubowchik and Fi
restone 2002に記載されているような、バリン-シトルリンモチーフである
。このリンカーは、疾患の側で毒素を放出するように、カテプシンBで切断することがで
きる。同じことが、例えばSGN-CD33A中に備えられるような、バリン-アラニン
モチーフにも当てはまる。
【0045】
さらなる一実施形態では、リンカーは、ポリエチレングリコールまたはポリエチレング
リコール誘導体を含まない。
【0046】
ポリエチレングリコール(PEG)は、工業生産から医薬に及ぶ多くの用途を有する、
ポリエーテル化合物である。PEGはまた、その分子量により、ポリエチレンオキシド(
PEO)またはポリオキシエチレン(POE)としても知られている。PEGの構造は、
一般に、H-(O-CH2-CH2)n-OHとして表現される。
【0047】
したがって、Bはペイロードであっても連結部分であってもよいため、本発明による方法
は、下記の表3に示すような2つの主要な実施形態を有する、ということを理解すること
が重要である。
【0048】
【0049】
本発明の一実施形態によれば、m+n+oは、25以下、好ましくは20以下、より好
ましくは15以下、より好ましくは12以下、より好ましくは10以下、より好ましくは
8以下、より好ましくは7以下、より好ましくは6以下、より好ましくは5以下、より好
ましくは4以下である。
【0050】
本発明のさらなる一実施形態によれば、ペイロードまたは連結部分は、分子操作により
抗体の重鎖または軽鎖に導入されたGln残基にコンジュゲートされる。
【0051】
本発明のさらなる一実施形態によれば、ペイロードまたは連結部分は、抗体のFcドメ
インのGlnにコンジュゲートされる。
【0052】
本発明のさらなる一実施形態によれば、ペイロードまたは連結部分は、抗体のCH2ド
メインGln残基Q295(EUナンバリング)にコンジュゲートされる。
【0053】
Q295が、IgG型抗体において非常によく保存されているアミノ酸残基であること
を理解することが重要である。これは、とりわけヒトIgG1、2、3、4、ならびにウ
サギおよびラット抗体などで保存されている。したがって、Q295を使用できることは
、治療用抗体-ペイロードコンジュゲート、または抗体が非ヒト由来のものである場合が
多い診断用コンジュゲートを作製する上で、重要な利点である。本発明による方法は、し
たがって、非常に万能であり、広範囲に適用できる手段を提供する。
【0054】
さらに、ペイロードの結合にQ295を使用する、操作されたコンジュゲートは、良好
な薬物動態および有効性を示し(Lhospice et al. 2015)、分解しやすい不安定な毒素で
さえ担持することができる(Dorywalska et al. 2015)。したがって、この部位特異的方
法でも、グリコシル化抗体のものではあるが、同じ残基が修飾されていることから、類似
の効果が見られることが予想される。グリコシル化は、全般的ADC安定性をさらに助長
する可能性があり、グリカン部分の除去は、上述の手法と同様に、抗体の安定性を低下さ
せることが示されている(Zheng et al. 2011)。
【0055】
本発明のさらなる一実施形態によれば、ペイロードまたは連結部分をコンジュゲートす
る抗体は、グリコシル化されている。
【0056】
典型的なIgG型抗体は、CH2ドメインのN297位(Asp-X-Ser/Thr
-モチーフ)でN-グリコシル化されている。
【0057】
トランスグルタミナーゼを用いた、リンカーのCH2 Gln残基へのコンジュゲーシ
ョンについて記載している文献では、小さい、低分子量の基質に重点が置かれている。し
かしながら、従来技術文献には、そのようなコンジュゲーションを達成するために、N2
97位における脱グリコシル化ステップ、または非グリコシル化抗体の使用が必要である
と常に記載されている(国際公開第2015/015448号パンフレット、国際公開第
2017/025179号パンフレット、国際公開第2013/092998号パンフレ
ット)。
【0058】
しかしながら、かなり驚くべきことに、予想に反して、グリコシル化抗体のQ295へ
の部位特異的コンジュゲーションは、実際には、前述のオリゴペプチド構造を使用するこ
とにより、効率的に行うことが可能である。
【0059】
Q295は、天然の状態でグリコシル化されているN297と極めて近接しているが、
規定のリンカーを使用する本発明による方法は、それでも、リンカーまたはペイロードを
Q295にコンジュゲートすることを可能にする。
【0060】
しかしながら、示されるように、本発明による方法は、事前にQ295の酵素による脱
グリコシル化も、非グリコシル化抗体の使用も、N297の別のアミノ酸による置換も、
グリコシル化を防ぐためのT299A変異の導入も必要としない。
【0061】
これら2つの点は、製造の面で大きな利益をもたらす。酵素による脱グリコシル化ステ
ップは、脱グリコシル化酵素(例えば、PNGase F)と切断されたグリカンの双方
ともが媒体から除去されていることを確認しなければならないため、GMPの面で望まし
くない。
【0062】
さらに、ペイロードを結合するための抗体の遺伝子操作は不要であり、それにより、免
疫原性を高め、抗体の全般的安定性を低下させる可能性がある配列挿入を回避することが
できる。
【0063】
また、N297の別のアミノ酸による置換も望ましくない効果があるが、これは、Fc
ドメイン全体の全般的安定性(Subedi et al, 2015)、ひいてはコンジュゲート全体の有
効性に影響する可能性があり、その結果、抗体の凝集性増加および溶解性の低下につなが
る恐れがあり(Zheng et al. 2011)、これはPBDのような疎水性ペイロードの場合に
特に重要となるからである。さらに、N297に存在するグリカンは、抗体依存性細胞傷
害(ADCC)をトリガーするなど、重要な免疫調節作用を有する。このような免疫調節
作用は、脱グリコシル化、または非グリコシル化抗体を得るための上述の他の手法のいず
れかを行うと、失われることになる。さらに、樹立抗体のいかなる配列修飾も、規制問題
につながる可能性があり、これは、多くの場合、承認を受け臨床的に確認された抗体が、
ADCコンジュゲーションの出発点として使用されることから、問題となる。
【0064】
したがって、本発明による方法は、部位特異的ペイロード結合により、化学量論的に明
確に定義されたADCを容易に、かつ不利益を伴わずに、作製することを可能にする。
【0065】
本発明のさらなる一実施形態によれば、リンカーの正味の電荷は、中性または正である
。
【0066】
ペプチドの正味の電荷は、通常は、中性のpH(7.0)で計算される。最も簡易な手
法では、正味の電荷は、正荷電アミノ酸残基(ArgおよびLys、ならびに場合により
、His)の数、および負荷電アミノ酸残基(AspおよびGlu)の数を加算し、これ
ら2群の差を計算することによって決定される。
【0067】
本発明のさらなる一実施形態によれば、リンカーは、負荷電アミノ酸残基を含まない。
【0068】
好ましくは、オリゴペプチドは、負荷電アミノ酸残基GluおよびAspを含まない。
【0069】
本発明のさらなる一実施形態によれば、リンカーは、正荷電アミノ酸残基を含む。
【0070】
本発明の一実施形態によれば、リンカーは、
・リジン、またはリジン誘導体、またはリジンミメティック、
・アルギニン、および/または
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも2つのアミノ酸残基を含む。
【0071】
本発明のさらなる一実施形態によれば、Bは、遊離スルフヒドリル基を有するCys残
基である。
【0072】
そのようなCys残基(または誘導体)の遊離スルフヒドリル基は、それにマレイミド
を含むリンカー毒素コンストラクトをコンジュゲートするために使用することができる。
もう少し詳細なコンジュゲーション反応、およびいくつかの可能なリンカーコンストラク
トについては、
図5を参照されたい。
【0073】
マレイミドリンカーを含む毒素は、しばしば使用されており、また、アドセトリスなど
は、医療当局の承認を得ている。上述のように、MMAE毒素を含む薬物は、(i)p-
アミノベンジルスペーサ、(ii)ジペプチド、および(iii)マレイミドカプロイル
リンカーを含むリンカーにコンジュゲートされ、それにより、このコンストラクトを抗体
中のCys残基の遊離スルフヒドリル基にコンジュゲートすることが可能になる。
【0074】
本発明によりリンカー中にCys残基を備えることには、したがって、既成の毒素-マ
レイミドコンストラクトを使用して抗体-ペイロードコンジュゲートを作出することがで
きるという利点、またはより一般的には、Cys-マレイミド結合の化学的性質の利益を
十分に活用できるという利点がある。同時に、脱グリコシル化の必要がない既成の抗体を
使用することができる。
【0075】
特定の実施形態では、Cys残基は、ペプチドリンカーのC末端、鎖内、またはN末端
にある。
【0076】
本発明のさらなる一実施形態によれば、抗体は、抗体のCH2ドメインに、Asn残基
N297(EUナンバリング)を含む。
【0077】
本発明のさらなる一実施形態によれば、N297残基は、グリコシル化されている。
【0078】
本発明のさらなる一実施形態によれば、リンカーまたはペイロードは、Gln残基のア
ミド側鎖にコンジュゲートされる。
【0079】
本発明のさらなる一実施形態によれば、Bが連結部分である場合、実際のペイロードを
連結部分に連結させるさらなるステップが実施されることが規定される。
【0080】
本発明のさらなる一実施形態によれば、微生物トランスグルタミナーゼは、ストレプト
ミセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)に由来し、優先的には、天然酵素
との配列同一性が80%である。
【0081】
そのような微生物トランスグルタミナーゼの1つは、Zedira社(ドイツ)から市
販されている。これは、大腸菌(E. coli)から組換えにより産生されたものである。ス
トレプトミセス・モバラエンシス(Streptomyces mobaraensis)トランスグルタミナーゼ
(UniProtKB-Q6E0Y3(Q6E0Y3_STRMB))は、配列番号36
において開示されるアミノ酸配列を有する。
【0082】
別の実施形態では、微生物トランスグルタミナーゼストレプトミセス・ラダカヌム(旧
称は、ストレプトベルティシリウム・ラダカヌム(Streptoverticillium ladakanum))
が使用される。ストレプトミセス・ラダカヌム(Streptomyces ladakanum)トランスグル
タミナーゼ(米国特許第6,660,510号明細書)は、配列番号37において開示さ
れるアミノ酸配列を有する。
【0083】
上記の両トランスグルタミナーゼは、配列が修飾されていてもよい。いくつかの実施形
態では、配列番号36または配列番号37との配列同一性が80%以上のトランスグルタ
ミナーゼを使用することができる。
【0084】
別の適切な微生物トランスグルタミナーゼは、Ajinomoto社から市販されてお
り、ACTIVA TGと称される。Zedira社製のトランスグルタミナーゼと比較
すると、ACTIVA TGは、4つのN末端アミノ酸を欠いているが、同様の活性を示
す。
【0085】
本発明に関連して使用可能なさらなる微生物トランスグルタミナーゼは、Kieliszek an
d Misiewicz 2014、国際公開第2015191883号パンフレット、国際公開第200
8102007号パンフレット、および米国特許第20100143970号明細書に開
示されている(これらの内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0086】
本発明のさらなる一実施形態によれば、連結部分Bは、
・生体直交型マーカー基
・架橋のための他の非生体直交型実体
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0087】
「生体直交型マーカー基」という用語は、天然の生化学的プロセスに干渉することなく
、生体系内で化学反応を生じることが可能な反応性基を指して、Sletten and Bertozzi(2
011)によって確立された。
【0088】
生体直交性の要件を満たすいくつかの化学ライゲーション戦略が開発されているが、こ
れには、アジドとシクロオクチン間(銅フリークリックケミストリーとも称される、Bask
in et al (2007))、ニトロンとシクロオクチン間(Ning et al (2010))の1,3-双極
子付加環化、アルデヒドおよびケトンからのオキシム/ヒドラゾン形成(Yarema, et al
(1998))、テトラジンライゲーションBlackman et al (2008)、イソニトリルに基づくク
リック反応(Stockmann et al (2011))、および最近では、クアドリシクランライゲーシ
ョン(Sletten & Bertozzi (JACS, 2011))、銅(I)触媒アジド-アルキン環化付加(
CuAAC、Kolb & Sharpless 2003)、歪み促進型アジド-アルキン環化付加(SPA
AC、Agard et al 2006)、または歪み促進型アルキン-ニトロン環化付加(SPANC
、MacKenzie et al 2014)が含まれる。
【0089】
これらすべての文書は、十分な実施可能な程度の開示を提供し、かつ冗長な繰り返しを
避けるために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0090】
本発明のさらなる一実施形態によれば、生体直交型マーカー基または非生体直交型実体
は、
・-N-N≡Nまたは-N3
・Lys(N3)
・テトラジン
・アルキン
・DBCO
・BCN
・ノルボレン(Norborene)
・トランスシクロオクテン
・-RCOH(アルデヒド)
・アシルトリフルオロボレート、
・-SH、および/または
・システイン
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0091】
これらの基は、例えば、以下の結合反応のいずれかに関与することができる。
【0092】
【0093】
上記の表4において、前記連結部分は、表中で「結合パートナー1」または「結合パー
トナー2」とされるもののいずれであってもよい。
【0094】
本発明のさらなる一実施形態によれば、ペイロードBは、
・毒素
・サイトカイン
・成長因子
・放射性核種
・ホルモン
・抗ウイルス剤
・抗細菌剤
・蛍光色素
・免疫調節/免疫刺激剤
・半減期増大部分
・溶解性増大部分
・ポリマー-毒素コンジュゲート
・核酸
・ビオチンまたはストレプトアビジン部分
・ビタミン
・標的結合部分、および/または
・抗炎症剤
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0095】
半減期増大部分は、例えば、PEG部分(ポリエチレングリコール部分、PEG化)、
他のポリマー部分、PAS部分(プロリン、アラニン、およびセリンを含むオリゴペプチ
ド、PAS化)、または血清アルブミンバインダーである。溶解性増大部分は、例えば、
PEG部分(PEG化)またはPAS部分(PAS化)である。
【0096】
ポリマー-毒素コンジュゲートは、多くのペイロード分子を担持することができるポリ
マーである。そのようなコンジュゲートはまた、フレキシマー(fleximer)と呼ばれるこ
ともあり、例えば、Mersana therapeutics社が販売している。
【0097】
核酸ペイロードの1つの例は、MCT-485であるが、これは、MultiCell
Technologies,Inc社により開発された、腫瘍溶解性および免疫賦活性
を有する、極めて小さい非コード2本鎖RNAである。
【0098】
抗炎症剤には、例えば、抗炎症性サイトカインがあるが、これは、標的特異的抗体にコ
ンジュゲートすると、例えば自己免疫性疾患に起因する、炎症を改善し得る。
【0099】
本発明のさらなる一実施形態によれば、毒素は、
・ピロロベンゾジアゼピン(PBD)
・アウリスタチン(例えば、MMAE、MMAF)
・メイタンシノイド(メイタンシン、DM1、DM4)
・デュオカルマイシン
・ツブリシン
・エンジイン(例えば、カリケアマイシン)
・PNU、ドキソルビシン
・ピロールベースのキネシンスピンドルタンパク質(KSP)阻害剤
・カリケアマイシン
・アマニチン(例えば、α-アマニチン)、および/または
・カンプトテシン(例えば、エキサテカン、デルクステカン)
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0100】
ビタミンは、葉酸、ホラシン、およびビタミンB9を含む葉酸塩からなる群から選択す
ることができる。
【0101】
標的結合部分は、タンパク質もしくは非タンパク質標的に特異的に結合することができ
る、タンパク質または小分子であってもよい。一実施形態では、そのような標的結合部分
は、scFv型抗体、Fab断片、F(ab)2断片、ナノボディ、アフィボディ、ダイ
アボディ、VHH型抗体、またはDARPINを含む抗体ミメティックである。
【0102】
本発明のさらなる一実施形態によれば、抗体は、
・IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、およびIgY
・IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA、ならびに/ま
たは
・標的結合特性を保持し、CH2ドメインを含む、それらの断片もしくは組換え変異体
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0103】
抗体は、好ましくは、モノクローナル抗体である。
【0104】
抗体は、ヒト由来であってもよいが、さらに、マウス、ラット、ヤギ、ロバ、ハムスタ
ー、またはウサギ由来であってもよい。コンジュゲートが治療用である場合、マウスまた
はウサギ抗体は、場合により、キメラ化またはヒト化してもよい。
【0105】
CH2ドメインを含む、抗体の断片または組換え変異体は、例えば、
・重鎖ドメイン(サメ抗体/IgNAR(VH-CH1-CH2-CH3-CH4-C
H5)2またはラクダ科動物抗体/hcIgG(VH-CH2-CH3)2)のみを含む
抗体フォーマット
・scFv-Fc(VH-VL-CH2-CH3)2
・Fcドメインおよび1つまたは複数の受容体ドメインを含む、Fc融合ペプチド
である。
【0106】
抗体はまた、二重特異性(例えば、DVD-IgG、crossMab、付加IgG-
HC融合体)またはバイパラトピックであってもよい。概説については、Brinkmann and
Kontermann (2017)を参照されたい。
【0107】
本発明のさらなる一実施形態によれば、リンカーは、2つ以上の連結部分Bを有する。
【0108】
そのような実施形態では、抗体-ペイロードコンジュゲートは、例えば、それぞれのQ
295残基に2つのペイロードをコンジュゲートして、抗体対ペイロード比2で作出する
ことができる。
【0109】
本発明のさらなる一実施形態によれば、2つ以上の連結部分Bは、互いに異なる。
【0110】
そのような実施形態では、第1の連結部分は、例えば、アジド(N3)であってもよく
、第2の連結部分は、テトラジンであってもよい。そのようなオリゴペプチドリンカーは
、このように、2つの異なるペイロードを抗体の2つのGln残基、すなわち、抗体のC
H2ドメインのQ295にコンジュゲートすることを可能にする。
【0111】
このようにして、抗体ペイロード比2+2を達成することができる。第2のペイロード
を使用することにより、有効性および力価に関して現在の治療手法を超える、全く新しい
クラスの抗体ペイロードコンジュゲートを開発することが可能となる。
【0112】
そのような実施形態は、とりわけ、細胞中の2つの異なる構造、例えば、DNAと微小
管を標的にすることを可能にする。がんによっては、1つの薬物、例えば、微小管毒素に
耐性を示す可能性があるが、それでもなお、DNA毒素が、がん細胞を殺傷することがで
きる。
【0113】
別の実施形態によれば、同時に同一組織で放出された場合にはじめて十分な効能を発揮
する、2つの薬物を使用することができる。これは、正常組織において抗体が部分的に分
解された場合、または1つの薬物が早期に消失した場合に、標的外毒性を低下させること
ができる。
【0114】
さらに、二重標識プローブは、非侵襲的イメージングおよび治療、または術中/術後の
イメージング/手術のために使用することができる。そのような実施形態では、非侵襲的
イメージングを用いて、腫瘍患者を選択することができる。次いで、執刀医またはロボッ
トがすべての癌組織を同定するのを助ける、もう一方のイメージング剤(例えば、蛍光色
素)を使用して、腫瘍を外科的に切除することができる。
【0115】
本発明の別の態様によれば、前述のステップのいずれか1つによる方法で生成された、
抗体-ペイロードコンジュゲートが提供される。
【0116】
本発明の別の態様によれば、ペプチド構造(NからCの方向に示す)
【0117】
【化6】
[式中、
・mは、0以上12以下の整数であり、
・nは、0以上12以下の整数であり、
・oは、0以上12以下の整数であり、
・m+n+oは、0以上であり、
・Aaxは、任意の天然に存在するまたは天然に存在しないL-アミノ酸もしくはD-
アミノ酸、またはアミノ酸誘導体もしくはミメティックであってもよく、
・Bは、ペイロードまたは連結部分であり、
ここで、
【0118】
【化7】
は、第一級アミン基を有する側鎖を含む、アミノ酸、アミノ酸誘導体、またはアミノ酸ミ
メティックである]を有するリンカーが提供される。
【0119】
一般に、本発明の方法による前述の利益および実施形態はまた、本態様、すなわち、組
成物としてのリンカーにも適用される。したがって、それらの実施形態は、組成物として
のリンカーについても開示されるとみなすものとする。
【0120】
本明細書に示されるさまざまなリンカーペプチドにおいて、C末端および/またはN末
端は、そうではないように示されていたとしても、保護されていても、または保護されて
いなくてもよいことを理解することも重要である。保護は、C末端のアミド化、および/
またはN末端のアセチル化によって達成することができる。本発明の文脈では、保護およ
び非保護リンカーペプチドの双方が包含される。
【0121】
その一実施形態では、
【0122】
【化8】
は、リジン、またはリジン誘導体、またはリジンミメティックである。
【0123】
さらなる実施形態では、リンカーは、カテプシンBで切断できず、および/またはリン
カーは、バリン-アラニンモチーフもしくはバリン-シトルリンモチーフを含まず、およ
び/またはリンカーは、ポリエチレングリコールもしくはポリエチレングリコール誘導体
を含まない。
【0124】
一実施形態によれば、m+n+oは、25以下、好ましくは20以下、より好ましくは
15以下、より好ましくは12以下、より好ましくは10以下、より好ましくは8以下、
より好ましくは7以下、より好ましくは6以下、より好ましくは5以下、より好ましくは
4以下である。
【0125】
一実施形態によれば、連結部分Bは、
・生体直交型マーカー基
・架橋のための他の非生体直交型実体
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0126】
一実施形態によれば、生体直交型マーカー基または非生体直交型実体は、
・-N-N≡Nまたは-N3
・Lys(N3)
・テトラジン
・アルキン
・DBCO
・BCN
・ノルボレン
・トランスシクロオクテン
・-RCOH(アルデヒド)
・アシルトリフルオロボレート、
・-SH、および/または
・システイン
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0127】
さらなる実施形態では、リンカーの正味の電荷は、中性もしくは正であり、および/ま
たはリンカーは、負荷電アミノ酸残基を含まず、および/またはリンカーは、正荷電アミ
ノ酸残基を含み、および/またはリンカーは、
・リジン、またはリジン誘導体、またはリジンミメティック、
・アルギニン、および/または
・ヒスチジン
からなる群から選択される少なくとも2つのアミノ酸残基を含む。
【0128】
一実施形態によれば、第一級アミン基は、微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)の
基質として働くのに適している。
【0129】
さらなる一実施形態によれば、リンカーは、微生物トランスグルタミナーゼ(MTG)
を用いて抗体-ペイロードコンジュゲートを生成するのに適している。
【0130】
さらなる一実施形態によれば、リンカーは、
a)表5に示されるリスト、および/または
b)配列番号1~35および38~45のいずれか1つ
から選択される。
【0131】
本発明のまた別の態様によれば、少なくとも、
a)上記に記載のいずれかのリンカーと、
b)1つまたは複数のペイロードと
を含むリンカー-ペイロードコンストラクトであって、前記コンストラクトにおいて、リ
ンカーおよび/またはペイロードが、場合により、結合時に、前記コンストラクトを形成
するために、共有結合または非共有結合が可能になるように化学修飾されている、リンカ
ー-ペイロードコンストラクトが提供される。
【0132】
2つ以上のペイロードが使用される場合、これらは、互いに同一であっても異なっても
よい。
【0133】
一実施形態では、ペイロードは、
・毒素
・サイトカイン
・成長因子
・放射性核種
・ホルモン
・抗ウイルス剤
・抗細菌剤
・蛍光色素
・免疫調節/免疫刺激剤
・半減期増大部分
・溶解性増大部分
・ポリマー-毒素コンジュゲート
・核酸
・ビオチンまたはストレプトアビジン部分
・ビタミン
・標的結合部分、および/または
・抗炎症剤
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0134】
別の実施形態では、毒素は、
・ピロロベンゾジアゼピン(PBD)
・アウリスタチン(例えば、MMAE、MMAF)
・メイタンシノイド(メイタンシン、DM1、DM4)
・デュオカルマイシン
・ツブリシン
・エンジイン(例えば、カリケアマイシン)
・PNU、ドキソルビシン
・ピロールベースのキネシンスピンドルタンパク質(KSP)阻害剤
・カリケアマイシン
・アマニチン(例えば、α-アマニチン)、および/または
・カンプトテシン(例えば、エキサテカン、デルクステカン)
からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0135】
本発明の別の態様によれば、抗体-ペイロードコンジュゲートであって、
a)上記の記載による1つまたは複数のリンカー-ペイロードコンストラクトと、
b)重鎖または軽鎖中に少なくとも1つのGln残基を含む抗体と
を含み、前記コンジュゲートにおいて、リンカー-ペイロードコンストラクトおよび/ま
たは抗体が、場合により、コンジュゲーション時に、前記コンジュゲートを形成するため
に、共有結合または非共有結合コンジュゲーションが可能になるように化学修飾されてい
る、抗体-ペイロードコンジュゲートが提供される。
【0136】
本発明の別の態様によれば、上記の記載によるリンカー、上記の記載によるリンカー-
ペイロードコンストラクト、および/または上記の記載による抗体-ペイロードコンジュ
ゲートを含む医薬組成物が提供される。
【0137】
本発明の別の態様によれば、上記の記載による抗体-ペイロードコンジュゲートまたは
上記の記載による医薬組成物と、少なくとも1つのさらなる薬学的に許容される成分とを
含む、医薬製品が提供される。
【0138】
本発明の別の態様によれば、新生物性疾患、神経性疾患、自己免疫性疾患、炎症性疾患
、または感染性疾患について
・罹患している、
・発症するリスクがある、および/または
・診断されている
患者の処置もしくは予防のため、またはそのような状態の予防のための(医薬を製造する
ための)、上記の記載による医薬組成物、または上記の記載による製品が提供される。
【0139】
本発明の別の態様によれば、新生物性疾患を処置または予防する方法であって、上記の
記載による抗体-ペイロードコンジュゲート、上記の記載による医薬組成物、または上記
の記載による製品を、それを必要とする患者に投与するステップを含む方法が提供される
。
【0140】
炎症性疾患は、自己免疫性疾患であってもよい。感染性疾患は、細菌感染症またはウイ
ルス感染症であってもよい。
【0141】
前記コンジュゲートまたは製品は、疾患を効率的に処置する量または投薬量で、ヒトま
たは動物対象に投与される。あるいは、それに対応する処置法が提供される。
【0142】
下記の表5は、本発明に関連して使用可能なさまざまなリンカーおよびその配列番号を
示している。疑義を避けるために、電子形式のWIPO ST 25配列表と矛盾がある
場合、この表の配列が正しい配列であるとみなすものとする。
【0143】
本明細書に示される一部のリンカーペプチドでは、C末端の部分が単にN3として指定
されていることを理解することが重要である。しかしながら、これは、Lys(N3)の
略記として理解すべきである。例えば、RAKAR(N3)またはArgAlaLysA
laArg(N3)は、実際には、RAK1ARK2(K2=Lys(N3))、または
ArgAlaLysAlaArgLys(N3)を意味する。
【0144】
さらに、本明細書に示されるさまざまなリンカーペプチドにおいて、C末端および/ま
たはN末端は、そうではないように示されていたとしても、保護されていても、または保
護されていなくてもよいことを理解することも重要である。
【0145】
保護は、C末端のアミド化、および/またはN末端のアセチル化によって達成すること
ができる。本発明の文脈では、保護および非保護リンカーペプチドの双方が包含される。
【0146】
例えば、RAKARK(N3)は、実際、a)両末端とも上述のように保護された変異
体、b)N末端のみ、またはC末端のみが上述のように保護された変異体、またはc)両
末端とも保護されていない変異体、の4つの変異体を包含する。
【0147】
一方、NH2-ArgAlaLysLys(N3)-COOHは、例えば、保護されて
いないペプチド、すなわち、保護されていないN末端およびC末端を有するペプチドを明
確に指定している。
【0148】
【0149】
【0150】
【実施例0151】
図面および上記の記載において、本発明について詳細に説明および記載してきたが、そ
のような説明および記載は、説明または例示のためのものであり、制限するものではない
とみなすべきである。本発明は、開示される実施形態に限定されない。開示される実施形
態の他の変形形態は、図面、開示、および添付の特許請求の範囲を検討することにより、
特許請求の範囲に記載の発明を実施する上で、当業者により理解および達成が可能である
。特許請求の範囲において、「comprising(含むこと)」という用語は、他の
要素またはステップを除外するものではなく、不定冠詞「a(1つの)」または「an(
1つの)」は、複数であることを除外するものではない。ある特定の手段が互いに異なる
従属クレームに記載されていても、それだけで、それらの手段の組み合わせを使用して利
益を得ることができないことを示すものではない。特許請求の範囲における参照記号は、
その範囲を制限するものと解釈すべきではない。
【0152】
本明細書に開示されるすべてのアミノ酸配列は、N末端からC末端の方向に示され、本
明細書に開示されるすべての核酸配列は、5’から3’の方向に示される。
【0153】
[実施例1]
適切なLys含有ペプチドについてのリンカーライブラリーのスクリーニング
本明細書に記載のように、微生物トランスグルタミナーゼを用いて天然抗体のQ295
への定量的コンジュゲーション(すなわち、>95%)を達成するのに適したオリゴペプ
チド構造を同定するために、3つのリジン含有オリゴペプチドライブラリーをスクリーニ
ングした。ライブラリー1のペプチドは、ある程度はCaporale et al., 2015に由来する
ものであるが、独自のペプチドも設計した。一方、ライブラリー2およびライブラリー3
は、先行するライブラリーに関して得た知識から生成および開発したものである。グリコ
シル化IgG(IgG1)を参照抗体として使用した。
【0154】
反応条件は、以下の通りである。天然ヒト化IgG1参照抗体1mg/mL、抗体に対
して80過剰モルのペプチド、MTG6~12U/ml、20時間、37℃、緩衝液pH
7.6。LC-MS-ESI(LCT-Premier、Waters社、米国ミルフォ
ード)で反応混合物を分析した。分析のために、抗体-コンジュゲートをDTT50mM
で還元して(37℃で15分)、軽鎖を重鎖から分離した。これは、液体クロマトグラフ
ィー(LC)およびAeris WIDEPORE XB-C18カラム(3.6μm、
100mm×2.1mm、Phenomenex社、米国)を用い、カラム温度80℃で
、下記の表6に示すLCグラジエントを使用して達成した。
【0155】
【0156】
得られたMSスペクトルをMassLynx V4.1を用いて分析し、MaxEnt
1アルゴリズムを利用してデコンボリュートした。コンジュゲーション率Rcを下記の通
り計算した。
【0157】
【0158】
図3は、3つのライブラリーのスクリーニング結果を示している。正荷電アミノ酸がコ
ンジュゲーション反応に有利であるのに対し、負荷電アミノ酸は、しばしばコンジュゲー
ション反応を抑制するということがわかった。しかしながら、正荷電アミノ酸を導入する
ことによって、負荷電アミノ酸を上回ることが可能である。したがって、トランスグルタ
ミナーゼ酵素は、そのようなペプチドを許容する。
【0159】
これらのペプチドは、機能性ではなく、すなわち、リンカー部分、例えば、生体直交型
の基を担持していないが、単に、最も高い効率でコンジュゲートされるリジン含有ペプチ
ドを発見するためにのみ使用した。
【0160】
荷電オリゴペプチド構造を非脱グリコシル化(=天然)抗体のQ295に効率的にコン
ジュゲートできることは有利であるが、これは、そのことにより、ピロロベンゾジアゼピ
ン毒素(PBD毒素)のような最も疎水性のペイロードでさえ結合することも可能となり
、ポリ(エチレングリコール)ベースの親水性に乏しい低分子量基質と比較して、凝集の
可能性を最小限に抑えながら、効果的に溶液中に維持することができるからである。
【0161】
[実施例2]
細胞毒性アッセイ
細胞株および培養:アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から、MD
A-MB-231およびSK-BR-3を入手し、標準的な細胞培養手順に従って、RP
MI-1640で培養した。
【0162】
SK-BR-3は、1970年にメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターによ
り単離された乳がん細胞株であり、治療法の研究において、特にHER2標的化との関連
で使用されている。MDA-MB-231細胞は、「基底」型のヒト乳腺癌に由来し、ト
リプルネガティブ(ER、PR、およびHER2陰性)である。アドセトリス(ブレンツ
キシマブベドチン)は、CD30を標的とし、したがってCD30を発現しない細胞、例
えば、MDA-MB-231およびSK-BR-3に対しては活性を有さないことが予想
される、市販の抗体薬物コンジュゲートである。カドサイラ(トラスツズマブエムタンシ
ン)は、Her2を標的とし、したがってHer2を発現する細胞(例えば、SK-BR
-3)に対しては活性を有し、Her2を発現しない細胞(例えば、MDA-MB-23
1)に対しては活性を有さないことが予想される、市販の抗体薬物コンジュゲートである
。ADC(内製)は、本明細書に規定のリンカー技術により、非脱グリコシル化抗体を用
いて作製した抗体薬物コンジュゲートであり、Her2を標的とし、薬物対抗体比は2で
あり、したがって2つのエムタンシン(DM-1)分子を有する。抗HER2 mAbは
、Her2を標的とする、非脱グリコシル化、非コンジュゲート抗体である。
【0163】
細胞毒性アッセイ:96ウェルプレート(白壁、透明平底プレート)に、1ウェル当た
り細胞10,000個の密度で細胞を播種し、37oC、5%CO2で一晩インキュベー
トした。モノクローナル抗体(mAbs)および抗体-薬物コンジュゲート(ADC)を
培地で1:4に段階希釈した(出発濃度10μg/mL(66.7nM))。細胞から培
地を除去し、mAb/ADC希釈物を加えた。培地のみで処置した細胞を生存率100%
の参照とした。細胞を抗体とともに、37oC、5%CO2で3日間インキュベートした
。
【0164】
製造業者の説明書に従って、本明細書に簡単に概説するように、Cell Titer
-Glo(登録商標)(Promega社)により細胞生存率を評価した。プレートを室
温に30分間平衡化させた。Cell Titer-Glo緩衝液を基質に添加すること
により、Cell Titer-Glo(登録商標)試薬を作製した。1ウェル当たり5
0μLのCell Titer-Glo(登録商標)試薬を添加し、室温で振盪しながら
2分間インキュベートしたあと、室温でさらに30分間インキュベートした。Perki
n Elmer 2030 Multilabel Reader Victor(商標
) X3プレートリーダーで、1秒の積分時間で発光を検出した。
【0165】
データを以下のように処理した。培地のみで処置したウェルの発光値を平均し、生存率
100%の参照とした。下式を用いて、mAb/ADC処置ウェルの生存率(%)を計算
した。
【0166】
【0167】
GraphPad Prism 7.00を使用して、正規化生存率(%)をmAb/
ADC濃度の対数に対してプロットし、データを当てはめた。
【0168】
図22に見られるように、ADC(内製)は、SK-BR3細胞に対して、カドサイラ
と同じ力価を有する。したがって、新規のリンカー技術によってもたらされる利益(製造
が容易なこと、部位特異性、安定した化学量論性、抗体を脱グリコシル化する必要がない
こと)は、細胞毒性に関して、いかなる不利益も伴わない。このことは、カドサイラの平
均DARが3.53±0.05である一方、ADC(内製)のDARは2であり、したが
ってより多くの毒素を標的細胞に送達することができるため、さらに重要となる。
【0169】
[実施例3]
部位特異的にコンジュゲートしたIgG1抗体の調製
コンジュゲーション後にも天然のままである、部位特異的にコンジュゲートしたIgG
1抗体の調製(
図10~
図12)。以下のコンジュゲーション条件を使用した:標準緩衝
液中の天然IgG1(最終濃度1mg/mL)、アジド含有ペプチド80当量、微生物ト
ランスグルタミナーゼ12U/mL、緩衝液pH7.6(25℃)、37℃で20時間の
インキュベーション。次いで、コンジュゲートした抗体を、PD10カラムを用いて精製
し、続いてAmicon Ultra-4 50kDaフィルターでの遠心ステップを実
施した。次に、DMSOに溶解させた10当量のDBCO-PEG4-5/6-FAM色
素または10当量のDBCO-PEG4-5/6-カルボキシローダミン色素を添加して
、室温の暗所で4時間クリック反応を実施した。緩衝液pH7.6および50kDa A
miconを用い、反復洗浄ステップによりクリーンアップを行った。UV-VIS分光
法により、抗体濃度を測定した。Aeris WIDEPORE XBC18カラム、お
よび実施例1に記載の条件を使用して、LC-MSにより、コンジュゲーションを定量化
した。
【0170】
[実施例4]
フローサイトメトリー実験
SKOV3ip細胞(およそ15×10
6)をPBS10mL(37℃)で洗浄した。
上清を廃棄し、Accutase2.5mLを添加して、37℃で10~30分間、表面
から細胞を溶解した。PBSさらに7.5mLを加え、細胞を穏やかにピペットで混合し
、15mLのFalconチューブに移した。Neubauer細胞計数チャンバーで細
胞を計数した。Falconチューブを1000gで5分間遠心し、上清を廃棄し、細胞
ペレットを氷冷FACS緩衝液(PBS+3%FCS)に再懸濁させた。使用した緩衝液
の量は、試料100μL当たり細胞500,000個の濃度に相当する。ここからは、こ
れを氷上で操作した。96ウェルプレートの対照ウェルに細胞100μLを分注した。ヒ
トIgG1を5μg添加し、ピペット操作によって慎重に混合した。細胞が入った96ウ
ェルプレート全体を穏やかに振盪しながら30分間インキュベートした。インキュベーシ
ョンの15分後、ピペット混合ステップを実施した。次に、このウェルにFACS-緩衝
液をさらに100μL添加し、予冷した遠心分離機を用いて、4℃、5分/500gで細
胞をペレット化した。上清を廃棄し、細胞をFACS緩衝液200μLに穏やかに再懸濁
させた。細胞を再びペレット化し、洗浄手順を少なくとももう一度繰り返した。次に、F
ACS緩衝液100μLを使用して細胞を再懸濁させ、二次ヤギ抗ヒトIgG-FITC
(1:75希釈、Santa Cruz Biotechnology社、米国)1μL
を添加した。次に、残りの他のウェルに、細胞100μLを加えた。対照ウェルには細胞
のみを入れ、試料ウェルには、5μgの対応する抗体(アイソタイプIgG1対照を含め
、コンジュゲーションおよびクリック結合を行ったIgG1)を加えた。30分間のイン
キュベーションステップおよびすべての洗浄ステップを上記と同様に実施した。二度目の
洗浄ステップ後、FACS緩衝液120μLを使用してペレットを再懸濁させ、Guav
a easyCyte Flow Cytometer(Merck-Millipor
e社、スイス)でフローサイトメトリー分析を行った。FlowJoソフトウェア(Tr
eeStar Inc社、米国)でデータを分析した。結果を
図13に示す。
【0171】
[実施例5]
コンジュゲーション効率
ペプチドを入手したままで使用し、製造業者の説明書に従って、適切な原液濃度(例え
ば、25mM)で溶解し、アリコートを調製して-20℃で保管した。IgGサブクラス
の2種の抗体(抗体1:抗Her2 IgG1、抗体2:抗CD38 IgG1)を下記
の通り修飾した。1mg/mLの非脱グリコシル化抗体(約6.67μM)をペプチドリ
ンカー80モル当量(すなわち、約533μM)、MTG 6U/mL、および緩衝液と
混合した。反応混合物を37℃で20時間インキュベートしたあと、還元条件下でLC-
MS分析を行った。Lys(N3)-RAKAR-Lys(N3)には、MTG 12U
/mlを使用した。
【0172】
下表は、本発明によるいくつかの例示的リンカーのコンジュゲーション効率を示してい
る。
【0173】
【0174】
陰性比較として、本発明によるものではない3つのリンカーを使用した。
【0175】
【0176】
これらのリンカーは、いずれもアミノ酸側鎖に第一級アミン基を備えず、したがって、
非脱グリコシル化抗体へのコンジュゲーションは生じなかった。
【0177】
[実施例6]
二重ペイロードコンジュゲーションおよび細胞結合試験
6.1.二重機能化ヒト化IgG1の調製
IgG1抗体を80当量のペプチドNH
2-K(N
3)CRAK-COOHおよび抗体
1mg当たり6UのMTGとともに、緩衝液pH7.6中、37℃で24時間インキュベ
ートした。Superdex 16/600 HiLoad 200カラムでのサイズ排
除クロマトグラフィーにより、コンジュゲートした抗体から過剰リンカーおよびMTG酵
素を取り除いた。Amicon Ultra遠心フィルター装置(30MWCO)で画分
を濃縮した。次いで、抗体-リンカーコンジュゲートを30当量のジチオスレイトール(
DTT)で還元し、精製したあと、10当量のデヒドロアスコルビン酸に8℃で1時間曝
露した。30MWCOのAmiconフィルターチューブを使用して、記載のようにさら
なる浄化ステップを3回行った。次いで、抗体-コンジュゲート試料を20当量のマレイ
ミド-NODAGAとともにインキュベートし、8℃で一晩置いた。Amicon洗浄で
過剰リンカーを除去したあと、試料を20当量のDBCO-PEG4-Ahx-DM1と
ともに4時間インキュベートした。精製後、試料をLC-MSで分析した。結果を
図23
Aおよび23Bに示す。
【0178】
6.2.抗体標識および細胞結合試験(Lindmoアッセイ)
70μlの機能化抗体(1.3mg/mL)に、15μLのインジウム-111(
11
1In)(7.7MBq)、15μLのHCl 0.05M、および30μLの炭酸アン
モニウム0.5Mを加えた。この混合物を37℃で1時間インキュベートしたあと、Am
icon 30 MWCOクリーンアップを6回行った。T150フラスコ中の標的発現
細胞をまずPBS10mLで洗浄し、37℃でPBS10mL+EDTA1mMを用いて
分離した。完全細胞培地10mLを添加し、細胞をFalconチューブで遠心した(5
分間、1000rpm)。次に、PBSで細胞を洗浄してから、PBS+1%BSAに懸
濁させて、細胞4×10
6個/0.5mLの原液を作製した。細胞は、以下のステップの
間、氷上に維持した。チューブ中、0.5mLに細胞0.25×10
6個~4×10
6個(0.25 Mio cells
up to 4 Mio cells)を含む5種の細胞希釈物(3連)を作製した。50μLの標識抗
体(25,000cpmに対して標準化)を各チューブに添加した。非特異的結合のため
の対照に、まず、さらに15μgの非標識天然IgG1抗体を加えた。チューブを37℃
、220rpmで30分間インキュベートした。続いて、2mLの氷冷PBS+1%BS
Aを添加し、試料を4℃、1500rpmで5分間遠心した。上清を除去し、さらに2m
LのPBS+1%BSAを添加した。次いで、遠心ステップを繰り返した。上清を除去し
たあと、ガンマカウンターで試料を測定した。結果は、二重標識ADC(マレイミド-N
ODAGAおよびDBCO-PEG4-Ahx-DM1にコンジュゲートしている)が結
合特異性を維持しながら、インジウム-111で効率的に標識することができたことを示
している。結果を
図24Aおよび24Bに示す。
【0179】
[実施例7]
Ac-RβAK(N
3)-NH
2(Ac-ArgβAlaLys(N
3)-NH
2)(
すなわち、側鎖に第一級アミンを有するアミノ酸を含まないリンカー)のヒト化IgG1
との対照コンジュゲーション
上記の実施例5に概説したように、コンジュゲーションを実施した。LC-MS分析後
、抗体重鎖の修飾は、予想通り検出されなかった。このことは、MTGが、例えば、リジ
ン残基、またはアナログもしくはミメティックの第一級アミンと選択的に反応することを
示している。しかしながら、アルギニンの側鎖のアミン基は、グアニジン基の一部であり
、したがって、本発明の意味での第一級アミンではない。結果として、非脱グリコシル化
抗体とのコンジュゲーションは生じなかった。結果を
図25に示す。
【0180】
[実施例8]
ヒトIgG4抗体とのコンジュゲーション
Ac-RAKAR-NH
2ペプチドを用いて、標準的なコンジュゲーション手順に従っ
て、ヒトIgG4抗体をインキュベートした。コンジュゲーション後、LC-MS分析に
より、IgG4が単一の残基の重鎖のみで選択的に修飾されたことが明らかになった。結
果を
図26A、26B、および26Cに示す。
【0181】
[実施例9]
ヒト化IgG1からADC調製後のLC-MS
3.9mg/mlのヒト化IgG1抗体を抗体1mg当たり2.4UのMTGおよび8
0当量のAc-RAK-Lys(N
3)-NH
2とともに、緩衝液pH7.6中、37℃
でインキュベートし、インキュベーション後、98%を超えるコンジュゲーション率を達
成した。サイズ排除クロマトグラフィーにより過剰リンカーおよびMTGを除去したあと
、試料を濃縮し、10当量のDBCO-PEG4-Ahx-DM1と19時間反応させ、
精製して、98%を超えるクリック結合効率が達成された。それぞれのステップ後にLC
-MSを行い、それによって、ADCの結合状態をステップごとに示した。いずれのステ
ップでも、軽鎖の修飾は検出されなかった。結果を
図27A、27B、および27Cに示
す。
【0182】
[実施例10]
SEC-MALS実験
抗体および抗体コンジュゲート(ハーセプチン、特許請求の範囲に記載されるリンカー
技術を使用した抗HER2-mAb-リンカーコンストラクト、特許請求の範囲に記載さ
れるリンカー技術を使用した抗-HER2-mAb-リンカー-DM1コンジュゲート(
本明細書の別の部分では、内製ADCと称する)、およびカドサイラ(登録商標)を緩衝
液A(緩衝液A:20mM HEPES pH7.5、150mM NaCl)に対して
、室温で3時間透析した。続いて、透析緩衝液を0.1μmフィルターで濾過した。Su
perdex(登録商標) 200 Increase 10/300 GLカラムを濾
過した透析緩衝液で、安定した光散乱ベースラインが達成されるまで室温で一晩平衡化さ
せた。試料を透析緩衝液Aで4mg/mLに希釈し、13000RPMで5分間遠心して
調製してから、30μLをサイズ排除カラムにロードした。流速を0.5mL/分に設定
し、光散乱および屈折率をそれぞれWyatt Technologies MiniD
AWN TREOSおよびoptilab-t-rex detectorでモニターし
た。ベースライン補正およびデータ分析にASTRAクロマトグラフィーソフトウェアを
使用した。
【0183】
結果を
図28A~Dに示す。内製ADCが、光散乱実験(SEC、ピークライン)およ
び多角度光散乱(MALS)実験(中間の傾斜ライン)の双方において、良く定義されて
いることがわかる。両値とも、そのままのハーセプチンと同等であり、断片または凝集体
が存在しないことを示している。本リンカー技術は、したがって、単一ステップで、極め
て純粋な生成物をもたらす。それとは対照的に、マレイミド化学によってコンジュゲート
されるカドサイラは、より広いピークを有し、断片および凝集体がより多いことを示して
いる。
参考文献:
【0184】
【0185】
【0186】
【0187】
【0188】
注意事項
本明細書に示される一部のリンカーペプチドでは、C末端の部分が単にN3として指定
されていることを理解することが重要である。しかしながら、これは、Lys(N3)の
略記として理解すべきである。例えば、RAKAR(N3)またはArgAlaLysA
laArg(N3)は、実際には、RAK1ARK2(K2=Lys(N3))、または
ArgAlaLysAlaArgLys(N3)を意味する。
【0189】
さらに、本明細書に示されるさまざまなリンカーペプチドにおいて、C末端および/ま
たはN末端は、そうではないように示されていたとしても、保護されていても、または保
護されていなくてもよいことを理解することも重要である。保護は、C末端のアミド化、
および/またはN末端のアセチル化によって達成することができる。本発明の文脈では、
保護および非保護リンカーペプチドの双方が包含される。例えば、RAKARK(N3)
は、実際、a)両末端とも上述のように保護された変異体、b)N末端のみ、またはC末
端のみが上述のように保護された変異体、またはc)両末端とも保護されていない変異体
、の4つの変異体を包含する。