(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081672
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】遺伝子変換による自律型重鎖可変ドメインの改変による抗体の産生
(51)【国際特許分類】
A01K 67/0275 20240101AFI20240611BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
A01K67/0275
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024036618
(22)【出願日】2024-03-11
(62)【分割の表示】P 2020568981の分割
【原出願日】2019-06-05
(31)【優先権主張番号】62/684,607
(32)【優先日】2018-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518059392
【氏名又は名称】クリスタル バイオサイエンス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CRYSTAL BIOSCIENCE INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126354
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100131990
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 玲恵
(72)【発明者】
【氏名】ハリマン,ウィリアム ドン
(72)【発明者】
【氏名】レイトン,フィリップ エー.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】遺伝子変換を介して多様な重鎖のみの抗体を産生するトランスジェニック動物を提供する。
【解決手段】抗体多様化のために遺伝子変換を使用するトランスジェニック動物であって、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座が、(a)自律型重鎖(AHC)可変ドメインをコードする核酸を含む機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子と、(b)当該機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子に作動可能に連結され、遺伝子変換によって、ヌクレオチド配列を(a)のAHC可変ドメインをコードする核酸に供与する複数の偽遺伝子と、を含み、偽遺伝子が、機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子の上流または下流にある、B細胞を含む、トランスジェニック動物を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体多様化のために遺伝子変換を使用するトランスジェニック動物であって、内因性免
疫グロブリン重鎖遺伝子座が、
(a)自律型重鎖(AHC)可変ドメインをコードする核酸を含む機能的免疫グロブリ
ン重鎖遺伝子と、
(b)前記機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子に作動可能に連結され、遺伝子変換によっ
て、ヌクレオチド配列を(a)の前記AHC可変ドメインをコードする核酸に供与する複
数の偽遺伝子と、を含み、前記偽遺伝子が、前記機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子の上流
または下流にある、B細胞を含む、トランスジェニック動物。
【請求項2】
前記偽遺伝子が、AHC可変ドメインをコードする、請求項1に記載のトランスジェニ
ック動物。
【請求項3】
(b)の前記偽遺伝子および(a)の前記遺伝子が、ラクダ化可変ドメインをコードす
る、請求項1に記載のトランスジェニック動物。
【請求項4】
前記偽遺伝子が、AHC可変ドメインではない可変ドメインをコードする、請求項1に
記載のトランスジェニック動物。
【請求項5】
(a)の前記AHC可変ドメインが、ラクダ化ヒト可変ドメインである、請求項1~4
のいずれかに記載のトランスジェニック動物。
【請求項6】
(a)の前記AHC可変ドメインが、ラクダ化ヒトモノクローナル抗体である、請求項
1~5のいずれかに記載のトランスジェニック動物。
【請求項7】
(a)の前記AHC可変ドメインが、最大10個のラクダ化アミノ酸置換を除いて、ヒ
ト生殖系列重鎖Vセグメント、ヒト生殖系列重鎖Dセグメント、およびヒト生殖系列重鎖
Jセグメントによってコードされる、請求項1~6のいずれかに記載のトランスジェニッ
ク動物。
【請求項8】
前記ヒト生殖系列重鎖Vセグメントが、VH3セグメントである、請求項7に記載のト
ランスジェニック動物。
【請求項9】
前記ヒト生殖系列重鎖Jセグメントが、JH1、JH2 JH3、JH4、JH5、ま
たはJH6セグメントである、請求項7に記載のトランスジェニック動物。
【請求項10】
前記偽遺伝子が、Vセグメントのみを含む、請求項1~9のいずれかに記載のトランス
ジェニック動物。
【請求項11】
前記偽遺伝子が、VおよびDセグメントのみを含む、請求項1~10のいずれかに記載
のトランスジェニック動物。
【請求項12】
Dセグメントが、生殖系列D配列またはヒトモノクローナル抗体に由来する、請求項7
~11のいずれかに記載のトランスジェニック動物。
【請求項13】
(a)の前記AHC可変ドメインおよび(b)の前記偽遺伝子が、複数の異なるVH3
ファミリーメンバーによってコードされるCDRを含む、請求項1~12のいずれかに記
載のトランスジェニック動物。
【請求項14】
(b)の前記偽遺伝子において、FR1、FR2、およびFR3、ならびに、存在する
場合、任意にFR4をコードする配列が、組み合わされて、(a)の前記AHC可変ドメ
イン内の対応するFR1、FR2、およびFR3、ならびに任意にFR4をコードする組
み合わされた配列と少なくとも90%同一である、請求項1~13のいずれかに記載のト
ランスジェニック動物。
【請求項15】
(b)の前記偽遺伝子において、前記CDRをコードする配列が、(a)の前記AHC
可変ドメイン内の対応するCDRをコードする配列と90%以下同一である、請求項1~
14のいずれかに記載のトランスジェニック動物。
【請求項16】
前記偽遺伝子が、400ヌクレオチド未満の長さである、請求項1~15のいずれかに
記載のトランスジェニック動物。
【請求項17】
前記偽遺伝子が、300~400ヌクレオチドの長さである、請求項1~16のいずれ
かに記載のトランスジェニック動物。
【請求項18】
前記内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座が、CH1欠失を含む重鎖をコードする、請求
項1~17のいずれかに記載のトランスジェニック動物。
【請求項19】
前記動物のゲノムが、ノックアウトされた軽鎖免疫グロブリン遺伝子を含む、請求項1
~18のいずれかに記載のトランスジェニック動物。
【請求項20】
前記動物のゲノムが、定常領域を含むが可変領域を含まない短縮型軽鎖をコードする軽
鎖免疫グロブリン遺伝子を含む、請求項1~19のいずれかに記載のトランスジェニック
動物。
【請求項21】
前記動物が、ニワトリである、請求項1~20のいずれかに記載のトランスジェニック
動物。
【請求項22】
前記動物が、前記遺伝子座についてホモ接合性である、請求項1~21のいずれかに記
載のトランスジェニック動物。
【請求項23】
前記動物が、前記遺伝子座についてヘテロ接合性である、請求項1~22のいずれかに
記載のトランスジェニック動物。
【請求項24】
(a)請求項1~23のいずれかに記載のトランスジェニック動物を抗原で免疫化する
ことと、
(b)前記動物から、前記抗原に特異的に結合する抗体を得ることと、を含む、方法。
【請求項25】
前記抗体が、ポリクローナルである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記抗体が、モノクローナルである、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
(c)前記トランスジェニック動物のB細胞を使用してハイブリドーマを作製すること
と、
(d)前記ハイブリドーマをスクリーニングして、前記抗原に特異的に結合する抗体を
産生するハイブリドーマを同定することと、をさらに含む、請求項24~26のいずれか
に記載の方法。
【請求項28】
(c)ハイブリドーマを作製せずにB細胞をスクリーニングして、前記抗原に特異的に
結合する抗体を産生するB細胞を同定することをさらに含む、請求項24~26のいずれ
かに記載の方法。
【請求項29】
PCRを使用して、前記トランスジェニック動物のB細胞から少なくとも前記重鎖可変
領域をコードする核酸を増幅することと、前記増幅された核酸を使用して組換え抗体を発
現させることと、をさらに含む、請求項24~26のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記抗体が、自律型重鎖(AHC)可変ドメイン抗体である、請求項1~23のいずれ
かに記載のトランスジェニック動物によって産生される、モノクローナルまたはポリクロ
ーナル抗体。
【請求項31】
請求項1~23のいずれかに記載の動物から単離された、B細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、2018年7月13日に出願された米国仮特許出願第62/684,607
号の優先権を主張し、この出願は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
重鎖のみの抗体は、軽鎖の不在下で発現することができ、したがって、自律型重鎖と称
され得るものを有する。自律型重鎖可変ドメイン(VH)は、折りたたまれて抗原に自律
的に結合することができ、つまり、凝集することなく、可変軽鎖(VL)を必要としない
。自律型重鎖可変ドメインを含む抗体を産生するための戦略は、例えば、Janssen
s et al(Proc.Natl.Acad.Sci.2006 103:1513
0-5)、Bruggemann et al(Crit.Rev.Immunol.2
006 26:377-90)、Zou et al(J.Immunol.2005
175:3769-79)、およびNguyen et al(Immunology
2003 109:93-101)において概説される。
【0003】
重鎖のみの抗体を産生する際の1つの課題は、宿主動物の免疫系を使用してそのような
抗体を効率的に多様化する方法である。
【0004】
本開示の特定の態様は、遺伝子変換を介して多様な重鎖のみの抗体を産生するトランス
ジェニック動物に関する。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、とりわけ、抗体多様化のために遺伝子変換を使用するトランスジェニック動
物であって、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座が、(a)自律型重鎖(AHC)可変ド
メインをコードする核酸を含む機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子と、(b)当該機能的免
疫グロブリン重鎖遺伝子に作動可能に連結され、遺伝子変換によって、ヌクレオチド配列
を(a)のAHC可変ドメインをコードする核酸に供与する複数の偽遺伝子と、を含み、
偽遺伝子が、機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子の上流または下流にある、B細胞を含む、
トランスジェニック動物を提供する。
【0006】
このような動物では、自律型重鎖可変ドメインをコードする核酸は、偽遺伝子との遺伝
子変換を介して変異し、最適化された自律型重鎖可変ドメインを有する多様な抗体を発現
する機能的な免疫グロブリン重鎖遺伝子をもたらし得る。
【0007】
いくつかの実施形態において、偽遺伝子は、AHC可変ドメインではない可変ドメイン
をコードする。これらの実施形態において、機能的遺伝子によってコードされる重鎖の自
律的性質に関与するアミノ酸変化は、遺伝子変換事象によって中止され得る。しかしなが
ら、そのような抗体は、不活性でなければならないので、それらの抗体を発現する細胞は
、動物の免疫系によって選択および拡大されるべきではない。
【0008】
他の実施形態において、偽遺伝子はまた、AHC可変ドメインをコードする。例えば、
場合によっては、(b)の偽遺伝子および(a)の機能遺伝子が、ラクダ化可変ドメイン
をコードし得る。これらの実施形態において、機能的遺伝子によってコードされる重鎖の
自律的性質は、遺伝子変換事象によって保存され得、体細胞超変異の結果として生じる任
意の脱ラクダ化アミノ酸置換は、遺伝子変換によって修復されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
当業者は、以下に記載される図面が例示目的のみであることを理解するだろう。図面は
、本教示の範囲を限定することを意図するものでは決してない。
【0010】
【
図1】B細胞において、(a)自律型重鎖(AHC)可変ドメイン(「cfV」、ラクダ化機能的可変領域)をコードする核酸を含む機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子領域と、(b)当該機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子に作動可能に連結され、遺伝子変換によって、ヌクレオチド配列を(a)のAHC可変ドメインをコードする核酸に供与する複数の偽遺伝子(cP
1~cP
4)と、を含み、偽遺伝子が、機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子の上流または下流にある、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座を概略的に示す。この例では、偽遺伝子はまた、AHC可変ドメインもコードしているため、いくつかの実施形態において、(b)の偽遺伝子および(a)の遺伝子の両方がラクダ化可変ドメインをコードする(ラクダ化アミノ酸置換は、この図中のアスタリスクで示されている)。他の実施形態において、偽遺伝子は、AHC可変ドメインではない可変ドメインをコードし、そのため、いかなるラクダ化アミノ酸置換も有する必要はない。
【
図2】機能的免疫グロブリン重鎖(cfV)における変異が、遺伝子変換を介して偽遺伝子cP
1~cP
4によってどのように誘導することができるかを概略的に例示する。この例では、機能遺伝子および偽遺伝子が、ラクダ化されている。そのため、いかなる遺伝子変換事象も、ラクダ化アミノ酸を維持する。上記のように、自律的に結合する活性重鎖が動物の免疫系によって選択されるべきであるため、偽遺伝子は、自律型可変ドメインをコードする必要はない。
【
図3】ヒト自律型重鎖可変領域を発現するように改変されたニワトリ重鎖遺伝子座の構造を示す。認識されるように、この構築物は、非B細胞にのみ存在し得、B細胞において、VH、D、およびJH領域が単一のリーディングフレームに結合する。
【
図4】ヒト自律型重鎖可変領域を発現するように改変されたニワトリ重鎖遺伝子座がどのように作製することができるかを概略的に例示する。
【0011】
定義
「決定する」、「測定する」、「評価する(evaluating)」、「評価する(
assessing)」、および「アッセイする」という用語は、任意の形態の測定を指
すために本明細書において互換的に使用され、ある要素が存在するかどうかを決定するこ
とを含む。これらの用語は、定量的決定および/または定性的決定の両方を含む。評価す
ること(assessing)は、相対的または絶対的であり得る。「~の存在を決定す
ること」は、存在する何かの量を決定すること、ならびにそれが存在するのかどうかを決
定することを含む。
【0012】
「遺伝子」という用語は、プロモータ領域、コード配列、および3’UTRからなる核
酸配列を指す。
【0013】
「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は、本明細書において互換的に使用
される。
【0014】
「核酸」という用語は、DNA、RNA、一本鎖または二本鎖、およびそれらの化学改
変を包含する。「核酸」および「ポリヌクレオチド」という用語は、本明細書において互
換的に使用される。
【0015】
「作動可能に連結された」という用語は、一方の機能が他方によって影響を与えられる
ように、単一の核酸フラグメント上の核酸配列の会合を指す。例えば、プロモータは、そ
のコード配列の発現に影響を与えることができる(すなわち、コード配列がプロモータの
転写制御下にある)場合、コード配列と作動可能に連結されている。同様に、イントロン
がコード配列に作動可能に連結されている場合、イントロンは、mRNAからスプライシ
ングされて、コード配列の発現を提供する。「連結されていない」は、会合される遺伝的
要素が互いに密接に会合しておらず、一方の機能が他方に影響を与えないことを意味する
。
【0016】
「ホモ接合性」という用語は、同一の対立遺伝子が相同染色体上の同じ遺伝子座に存在
することを示す。対照的に、「ヘテロ接合性」は、異なる対立遺伝子が相同染色体上の同
じ遺伝子座に存在することを示す。トランスジェニック動物は、トランス遺伝子について
ホモ接合性であるか、または相同染色体上の同じ遺伝子座に対応物がない場合、トランス
遺伝子についてヘミ接合性であり得る。
【0017】
遺伝子に関する「内因性」という用語は、遺伝子が細胞に固有であること、すなわち、
遺伝子が非改変細胞のゲノム内の特定の遺伝子座に存在することを示す。内因性遺伝子は
、野生型細胞のその遺伝子座に存在する野生型遺伝子であり得る(自然界に見られるよう
に)。内因性遺伝子は、ゲノム内に野生型遺伝子と同じ遺伝子座に存在する場合、改変内
因性遺伝子であり得る。そのような改変内因性遺伝子の例は、外来核酸が挿入される遺伝
子である。内因性遺伝子は、核ゲノム、ミトコンドリアゲノムなどに存在し得る。
【0018】
「構築物」という用語は、特定のヌクレオチド配列(複数可)の発現を目的として生成
されたか、または他の組換えヌクレオチド配列の構築に使用される組換え核酸、一般に組
換えDNAを指す。構築物は、ベクターまたはゲノムに存在し得る。
【0019】
「組換え」という用語は、宿主細胞に自然には発生しないポリヌクレオチドまたはポリ
ペプチドを指す。組換え分子は、自然には発生しない方法で一緒に連結された2つ以上の
自然に発生する配列を含有し得る。組換え細胞は、組換えポリヌクレオチドまたはポリペ
プチドを含有する。細胞が組換え核酸を受け取る場合、その核酸は、細胞に対して「外因
性」である。
【0020】
「選択可能なマーカー」という用語は、導入された核酸またはベクターを含有するそれ
らの宿主の選択を容易にすることを可能にする、宿主において発現することができるタン
パク質を指す。選択可能なマーカーの例には、抗菌剤(例えば、ハイグロマイシン、ブレ
オマイシン、またはクロラムフェニコール)に対する耐性を付与するタンパク質、宿主細
胞に栄養上の利点などの代謝上の利点を付与するタンパク質、ならびに細胞に機能的また
は表現型の利点(例えば、細胞分裂)を付与するタンパク質が含まれるが、これらに限定
されない。
【0021】
本明細書で使用される場合、「発現」という用語は、遺伝子の核酸配列に基づいてポリ
ペプチドが産生されるプロセスを指す。このプロセスには、転写および翻訳の両方が含ま
れる。
【0022】
細胞への核酸配列の挿入に関する文脈において、「導入する」という用語は、「トラン
スフェクション」および「形質転換」、ならびに細胞に核酸を導入する他の全ての方法を
含み、核酸配列は、細胞のゲノム(例えば、染色体、プラスミド、プラスチド、またはミ
トコンドリアDNA)に取り込まれ得るか、または自律レプリコンに変換されるか、また
は一過性に発現され得る。
【0023】
「コード配列」という用語は、転写および翻訳されると、適切な調節要素の制御下に置
かれたときに、例えば、インビボでタンパク質を産生する核酸配列を指す。本明細書で使
用される場合、コード配列は、連続的なORFを有し得るか、またはイントロンもしくは
非コード配列の存在によって中断されたORFを有し得る。この実施形態において、非コ
ード配列は、プレmRNAからスプライシングされて、成熟mRNAを産生する。
【0024】
ある遺伝子座を別の遺伝子座で置き換えるという文脈での「置き換える」という用語は
、単一のステッププロトコルまたは複数のステッププロトコルを指す。
【0025】
細胞への核酸配列の挿入に関する文脈において、「導入された」という用語は、「トラ
ンスフェクション」、または「形質転換」、または「形質導入」を意味し、真核細胞また
は原核細胞への核酸配列の取り込みについての言及を含み、核酸配列は、細胞内に一過性
に存在し得るか、または細胞のゲノム(例えば、染色体、プラスミド、プラスチド、また
はミトコンドリアDNA)に取り込まれ得、自律レプリコンに変換される。
【0026】
細胞への核酸配列の挿入に関する文脈において、「導入された」という用語は、「トラ
ンスフェクション」、または「形質転換」、または「形質導入」を意味し、真核細胞また
は原核細胞への核酸配列の取り込みについての言及を含み、核酸配列は、細胞内に一過性
に存在し得るか、または細胞のゲノム(例えば、染色体、プラスミド、プラスチド、また
はミトコンドリアDNA)に取り込まれ得、自律レプリコンに変換される。
【0027】
「複数」という用語は、少なくとも2、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも2
0、少なくとも50、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも500、少なく
とも1000、少なくとも2000、少なくとも5000、少なくとも10,000、も
しくは少なくとも50,000、またはそれ以上を指す。ある特定の場合において、複数
は、少なくとも10~50を含む。他の実施形態において、複数は、少なくとも50~1
,000であり得る。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「単離された」は、細胞に関してであり、インビトロ
で培養される細胞を指す。動物が単離された細胞を含有すると記載されている場合、それ
らの単離された細胞は、インビトロで培養され、次いで動物に移植された。
【0029】
「子孫(progeny)」または「子孫(off-spring)」という用語は、
特定の動物または細胞に由来し、その子孫であるすべての将来の世代を指す。したがって
、子孫、F1、F2、F3、世代などがこの定義に含まれるように、任意の連続する世代
の動物の子孫が本明細書に含まれる。
【0030】
「トランスジェニック動物」という語句は、外来核酸(すなわち、動物に固有ではない
組換え核酸)を含有する細胞を含む動物を指す。外来核酸は、動物のすべての細胞、また
は動物のすべてではないがいくつかの細胞に存在し得る。外来核酸分子は、「トランス遺
伝子」と呼ばれ、1つ以上の遺伝子、cDNAなどを含有し得る。トランス遺伝子を初期
胚からの受精卵母細胞または受精細胞に挿入することによって、結果として生じるトラン
スジェニック動物は完全にトランスジェニックであり得、安定して外来核酸をその生殖系
列に伝達することができる。あるいは、外来核酸は、それを含有する組換え細胞または組
織を動物に移入して、例えば、移植して、部分的にトランスジェニック動物を産生するこ
とによって導入され得る。あるいは、トランスジェニック動物は、遺伝子改変された体細
胞からの核の移入によって、または胚性幹細胞もしくは始原生殖細胞などの遺伝子改変さ
れた多能性細胞の移入によって産生され得る。キメラ動物は、生殖系列内の別の動物によ
って供与された細胞を有し得、その場合、動物の子孫は、供与された細胞内の染色体に対
してヘテロ接合性であり得る。供与された細胞が外因性核酸(すなわち、細胞に内因性で
はない核酸)を含有する場合、キメラ動物の子孫は、「トランスジェニック」であり得、
「トランスジェニック」動物は、外来核酸(すなわち、動物に固有ではない組換え核酸)
を含有する細胞からなる動物である。外来核酸分子は、本明細書では「トランス遺伝子」
と呼ばれ得る。
【0031】
「ハイブリッド動物」、「トランスジェニックハイブリッド動物」などの語句は、本明
細書では互換的に使用されて、ある特定の特質を有する第1の動物とある特定の特質を有
する第2の動物との交配から得られた動物を意味する。例えば、本開示のハイブリッド動
物は、共通軽鎖を産生する第1のトランスジェニック動物と、合成重鎖を産生する第2の
トランスジェニック動物との交配から得られたトランスジェニック子孫を指し得る。ハイ
ブリッド動物は、免疫化され、抗原特異性抗体の産生源として使用され得る。
【0032】
「抗体」および「免疫グロブリン」という用語は、本明細書において互換的に使用され
る。これらの用語は当業者に十分に理解されており、抗原に特異的に結合する1つ以上の
ポリペプチドを含有するタンパク質を指す。抗体の一形態は、抗体の基本構造単位を構成
する。この形態は四量体であり、各対が1本の軽鎖および1本の重鎖を有する2対の同一
の抗体鎖からなる。各対では、軽鎖および重鎖の可変領域は一緒に抗原への結合に関与し
、定常領域は抗体のエフェクター機能に関与する。
【0033】
認識されている免疫グロブリンのポリペプチドには、カッパおよびラムダの軽鎖、なら
びにアルファ、ガンマ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、デルタ、イプシロ
ン、およびミューの重鎖、または他の種における等価物が含まれる。完全長の免疫グロブ
リン「軽鎖」(約25kDaまたは約214アミノ酸の)は、NH2末端における約11
0アミノ酸の可変領域、およびCOOH末端におけるカッパまたはラムダの定常領域を含
む。完全長の免疫グロブリン「重鎖」(約50kDaまたは約446アミノ酸の)は、同
様に可変領域(約116アミノ酸の)および前述の重鎖定常領域の1つ、例えば、ガンマ
(約330アミノ酸の)を含む。
【0034】
「抗体」および「免疫グロブリン」という用語には、Fab、Fv、scFv、および
Fdフラグメント、キメラ抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体、ならびに抗体および非抗体タン
パク質の抗原結合部分を含む融合タンパク質を含むが、これらに限定されない、抗原への
特異的な結合を保持する任意のアイソタイプの抗体または免疫グロブリン、抗体のフラグ
メントが含まれる。抗体は、例えば、放射性同位体、検出可能な生成物を産生する酵素、
蛍光タンパク質等を用いて検出可能なように標識され得る。抗体は、特異的結合対のメン
バー、例えばビオチン(ビオチン-アビジン特異的結合対のメンバー)などの他の部分と
さらに複合体化することができる。抗体はまた、限定されないが、ポリスチレンプレート
またはビーズ等を含む固体支持体に結合させてもよい。この用語には、Fab’、Fv、
F(ab’)2、およびまたは抗原への特異的結合を保持する他の抗体フラグメント、お
よびモノクローナル抗体もまた包含される。
【0035】
抗体は、例えば、Fv、Fab、および(Fab’)2、ならびに二機能性(すなわち
、二重特異性)ハイブリッド抗体(例えば、Lanzavecchia and Sch
eidegger,Eur.Immunol.1987,17(1):105-111)
および単鎖(例えば、Huston et al.,Proc.Natl.Acad.S
ci.U.S.A.1988,85(16):5879-5883およびBird et
al.,Science.1988,242(4877):423-426、これらは
、参照によって本明細書に組み込まれる)。(一般的には、Hoodら、“Immuno
logy”、Benjamin、N.Y.、2nd ed1984およびHunkapi
ller and Hood,Nature.1986,323(6083):15-1
6を参照されたい)を含む様々な他の形態で存在し得る。
【0036】
「キメラ抗体」は、抗体の軽鎖遺伝子および重鎖遺伝子が、典型的には遺伝子操作する
ことによって、異なる種に属している抗体可変および定常領域遺伝子から構築されている
抗体を指す。例えば、ニワトリまたはウサギモノクローナル抗体からの遺伝子の可変セグ
メントは、ガンマ1およびガンマ3などのヒト定常セグメントに結合され得る。療法用キ
メラ抗体の例は、ニワトリまたはウサギ抗体からの可変または抗原結合ドメイン、および
ヒト抗体からの定常またはエフェクタードメインから構成されているハイブリッドタンパ
ク質であるが(例えば、A.T.C.C.デポジットアクセッション番号CRL9688
の細胞によって作製された抗Tacキメラ抗体)、他の哺乳動物種も使用され得る。
【0037】
「偽遺伝子」という用語は、開始および/または停止コドンを含有する場合も含まない
場合もあるオープンリーディングフレームを含有する非転写核酸領域を説明するために使
用される。アミノ酸配列は、オープンリーディングフレームのヌクレオチド配列をインシ
リコで翻訳して、アミノ酸配列を産生することができるという意味で、偽遺伝子によって
「コード」され得る。重鎖および軽鎖免疫グロブリン遺伝子座の文脈では、偽遺伝子は、
プロモータ領域、組換えシグナル配列、またはリーダー配列を含有しない。
【0038】
「上流」および「下流」という用語は、転写の方向に関して使用される。
【0039】
「特異的な結合」という用語は、異なる検体の均質な混合物中に存在する特定の検体に
優先的に結合する抗体の能力を指す。ある特定の実施形態において、特異的な結合の相互
作用によって、試料中の望ましい検体と望ましくない検体とが区別され、いくつかの実施
形態において、約10~100倍またはそれ以上を超えて(例えば、約1000~10,
000倍を超えて)区別するであろう。
【0040】
ある特定の実施形態において、抗体/検体の複合体において特異的に結合する場合、抗
体と検体との間の親和性は、10-6M未満、10-7M未満、10-8M未満、10-
9M未満、10-10M、10-11M未満、または約10-12M未満のKD(解離定
数)を特徴とする。
【0041】
重抗体鎖または軽抗体鎖の「可変領域」は、CDR1、CDR2、CD3、およびフレ
ームワーク領域(CDRは、「相補性決定領域」を指す)を含有する鎖のN末端成熟ドメ
インである。抗体の重鎖および軽鎖の両方が、可変ドメインを含有する。すべてのドメイ
ン、CDR、および残基番号は、配列アラインメントおよび構造知識に基づいて割り当て
られる。フレームワークおよびCDR残基の識別および番号付けは、Chothiaら(
Chotia et al.,J.Mol.Biol.1998,278(2):457
-479)によって記載されている通りである。
【0042】
VHは、抗体重鎖の可変ドメインである。VLは、抗体軽鎖の可変ドメインである。
【0043】
「遺伝子」および「遺伝子座」という用語は、本明細書において互換的に使用される。
どちらの用語も、遺伝子が活性転写されている、または無傷であることを意味しない。ど
ちらの用語も、不活性化された遺伝子を包含する。
【0044】
本明細書で使用される場合、「キメラ」ニワトリは、少なくとも2つの供給源からのか
なりの数の遺伝的に異なる細胞を含有するニワトリである。キメラ動物は、ある動物から
の細胞を別の動物の胚に移植することによって、または培養細胞(例えば、改変されたゲ
ノムを有する)を胚に移植することによって作製され得る。移植された細胞は、宿主胚に
組み込まれる前に培養物から収集され得る。胚は動物に成長し、結果として生じる動物は
、宿主からの細胞、ならびに移植された細胞を含有し得る。供与された細胞が外因性核酸
(すなわち、細胞に内因性ではない核酸)を含有する場合、キメラ動物の子孫は、「トラ
ンスジェニック」であり得、「トランスジェニック」動物は、外来核酸(すなわち、動物
に固有ではない組換え核酸)を含有する細胞からなる動物である。外来核酸分子は、本明
細書では「トランス遺伝子」と呼ばれ得る。
【0045】
「不活性化」という用語は、遺伝子によってコードされたタンパク質が発現されないと
いう意味で発現されない遺伝子を示すことを意図する。遺伝子は、遺伝子のコード配列お
よび/または調節配列の一部を除去することによって不活性化され得る。破壊された、例
えば、「ノックアウト」遺伝子は、不活性化遺伝子の一種である。発現されたヒト免疫グ
ロブリン配列によって置き換えられている発現された内因性配列を含有したことのある遺
伝子座は、不活性化された内因性遺伝子を含有する。そのため、発現されたヒト免疫グロ
ブリン配列を含有する遺伝子座は、内因性免疫グロブリン遺伝子がヒト免疫グロブリン配
列によって置き換えられた場合、不活性化された内因性免疫グロブリン遺伝子を有し得る
。多くの場合、これは、内因性配列をノックアウトし(例えば、配列の少なくとも一部を
削除することによって)、次いで、内因性配列によって占められていたことのある位置に
ヒト免疫グロブリン配列を挿入することによって行うことができる。
【0046】
「組換え」という用語は、宿主細胞に自然には発生しないポリヌクレオチドまたはポリ
ペプチドを指す。組換え分子は、自然には発生しない方法で一緒に連結された2つ以上の
自然に発生する配列を含有し得る。組換え細胞は、組換えポリヌクレオチドまたはポリペ
プチドを含有する。細胞が組換え核酸を受け取る場合、その核酸は、細胞に対して「外因
性」である。
【0047】
「遺伝的に連結された」という用語は、減数分裂中に遺伝的要素が一緒に遺伝する傾向
があるように、同じ染色体上に存在する2つの遺伝的要素を指す(すなわち、要素は、5
0%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、または5%未満の組換え
頻度を有する)。互いに密接に連結している2つの遺伝的要素は、染色体の乗換え事象(
または「組換え」)中に異なる染色分体に分離される可能性が低くなる。組換え中に2つ
の遺伝的に連結された要素が分離される可能性は、2つの要素間の配列の量に依存し、「
組換え頻度」と呼ばれる可能性のパーセンテージに計算され得る。
【0048】
「自律型重鎖可変ドメイン」という用語は、すなわち、自律的に凝集することなく、お
よびまたは関連する軽鎖なしに、折りたたまれて、抗原に自律的に結合することができる
、重鎖可変ドメインを指す。「重鎖のみ」または「HCO」抗体、サメ抗体、VHH抗体
、ラクダ科動物、および単一ドメイン抗体はすべて、自律型重鎖可変ドメインを含む抗体
の例である。そのような抗体を産生するためのいくつかの戦略は、Janssens e
t al(Proc.Natl.Acad.Sci.2006 103:15130-5
)、Bruggemann et al(Crit.Rev.Immunol.2006
26:377-90)、Zou et al(J.Immunol.2005 175
:3769-79)、およびNguyen et al(Immunology 200
3 109:93-101)において概説される。自律型重鎖可変ドメインは、VH抗体
の可変ドメインにラクダ化置換を導入することによって作製され得る。
【0049】
本明細書で使用される場合、「機能的」という用語は、その領域が細胞によって転写お
よび翻訳されることを意味することを意図している。
【0050】
さらなる定義は、本開示の他の場所で見ることができる。
【0051】
例示的な実施形態の説明
本主題発明をさらに説明する前に、本発明は、記載される特定の実施形態に限定される
ものではなく、当然のことながら、それ自体変化し得ることを理解されたい。本発明の範
囲は、添付の特許請求の範囲のみによって限定されるため、本明細書で使用される用語は
、特定の実施形態を説明する目的のみのものであり、限定的であることは意図されないこ
ともまた理解されたい。
【0052】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限値と下限値の間の、文脈上そうではないと
明確に指示されない限りは下限値の単位の10分の1までの各介在値、およびその記載さ
れる範囲内の任意の他の記載値または介在値が、本発明に包含されることを理解されたい
。
【0053】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発
明が属する当業者に一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されるも
のと類似または同等の任意の方法および材料が、本発明の実施または試験において使用さ
れ得るが、好ましい方法および材料をここで説明する。本明細書で言及される全ての刊行
物は、刊行物が引用されることに関連して方法かつ/または材料を開示および説明するた
めに参照により本明細書に組み込まれる。
【0054】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an
d」、および「the」は、その内容について別段の明確な指示がない限り、複数の指示
対象を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「1つの細胞(a c
ell)」への言及は、複数の細胞を含み、「1つの候補薬剤(a candidate
agent)」への言及は、1つ以上の候補薬剤および当業者に既知のその等価物など
への言及を含む。請求項は任意の要素を排除するように作成されてもよいことにさらに留
意されたい。したがって、この記述は、特許請求の要素の列挙に関連して、「唯一」、「
のみ」などのような排他的な用語の使用、または「否定的な」限定の使用のための先行詞
として役割を果たすことを意図している。
【0055】
本明細書に論じられる公開物は、本出願の出願日前のそれらの開示のためだけに提供さ
れる。本明細書内のいずれのものも、先行の発明という理由によりそのような公開物に先
立する権利がないという了解として解釈されるべきではない。さらに、提示された公開日
は実際の公開日とは異なる場合があり、別個に確認する必要があり得る。
【0056】
本明細書に引用されるすべての刊行物および特許は、それぞれ個々の刊行物または特許
が参照により組み込まれるように具体的かつ個別に示されているかのように参照により本
明細書に組み込まれ、刊行物が引用される関連する方法および/または材料を開示かつ記
載するために、参照により本明細書に組み込まれる。任意の刊行物の引用は、出願日前の
その開示に関するものであり、本発明が先行発明のためにその刊行物に先行する権限を有
しないことを認めるものと解釈されるべきではない。さらに、提示された公開日は実際の
公開日とは異なる場合があり、別個に確認する必要があり得る。
【0057】
本開示を読むと当業者には明らかであるように、本明細書に説明され例証される個々の
実施形態のそれぞれは、本発明の範囲または趣旨から逸脱することなく、他のいくつかの
実施形態のいずれかの特徴から容易に分離され得るか、または組み合わせられ得る個別の
要素および特徴を有する。任意の列挙された方法は、列挙されたイベントの順序で、また
は論理的に可能な他の順序で実施することができる。
【0058】
上記のように、トランスジェニック動物が提供される。ある特定の実施形態において、
動物は、比較的少数の軽鎖遺伝子を有する任意の非ヒト動物、またはそれらの一次抗原レ
パートリーを開発するために遺伝子変換を用いる動物であり得、そのため、動物は、様々
な任意の異なる動物であり得る。一実施形態において、動物は、トリ、例えば、ニワトリ
またはシチメンチョウなどのキジ目のメンバー、あるいはアヒルまたはガチョウなどのガ
ンカモ目のメンバー、あるいは哺乳動物、例えば、ウサギなどのラガモルフ、またはウシ
、ヒツジ、ブタ、もしくはヤギなどの家畜であり得る。
【0059】
本開示のいくつかは、1つ以上のトランス遺伝子を含有するトランスジェニックニワト
リに関する。多くの動物の免疫グロブリン遺伝子座のヌクレオチド配列が知られており、
同じく、そのような動物のゲノムを改変するための方法も知られているため、下記の一般
的な概念は、任意の好適な動物、特に一次抗原レパートリーを開発するために遺伝子変換
を用いる動物に容易に適合され得る。転写された免疫グロブリン重鎖または軽鎖遺伝子の
可変領域と、異なる可変領域を含有する作動可能に連結された(上流の)偽遺伝子との間
の遺伝子変換による抗体多様性の生成は、例えば、Butler(Rev.Sci.Te
ch.1998 17:43-70)、Bucchini(Nature1987 32
6:409-11)、Knight(Adv.Immunol.1994 56:179
-218)、Langman(Res.Immunol.1993 144:422-4
6)、Masteller(Int.Rev.Immunol.1997 15:185
-206)、Reynaud(Cell1989 59:171-83)、およびRat
cliffe(Dev.Comp.Immunol.2006 30:101-118)
などの様々な公開物に記載されている。US2011/0055938も参照されたい。
【0060】
上記のように、抗体多様化のために遺伝子変換を使用するトランスジェニック動物(例
えば、トランスジェニックニワトリ)が、本明細書で提供される。いくつかの実施形態に
おいて、動物は、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座が、(a)機能的免疫グロブリン重
鎖遺伝子(すなわち、自律型重鎖(AHC)可変ドメインをコードする核酸を含む「機能
的V領域」)と、(b)当該機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子に作動可能に連結され、遺
伝子変換によって、ヌクレオチド配列を(a)のAHC可変ドメインをコードする核酸に
供与する複数の偽遺伝子と、を含み、偽遺伝子が、機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子の上
流または下流にある、B細胞を含む。いくつかの実施形態において、偽遺伝子は、AHC
可変ドメインではない可変ドメインをコードし得る。しかしながら、他の実施形態におい
て、偽遺伝子は、AHC可変ドメインをコードし得る。例えば、いくつかの実施形態にお
いて、(b)の偽遺伝子および(a)の遺伝子は、ラクダ化可変ドメインをコードする。
これらの実施形態は、
図1および2に示されている。
【0061】
いくつかの実施形態において、(a)のAHC可変ドメインは、ラクダ化ヒト可変ドメ
イン、例えば、ラクダ化ヒトモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態において、
(a)のAHC可変ドメインは、最大10個(例えば、最大9個、最大8個、最大7個、
最大6個、最大5個、最大4個、または最大3個)のラクダ化アミノ酸置換、例えば、1
つ、2つ、3つ、4つ、または5つすべてのアミノ酸のFR2の位置37、44、45、
および47、ならびに任意に、FR4の位置103の置換を除いて、ヒト生殖系列重鎖V
セグメント、ヒト生殖系列重鎖Dセグメント、およびヒト生殖系列重鎖Jセグメントによ
ってコードされ、置換が、非疎水性残基に対するものである。これらの実施形態において
、ヒト生殖系列重鎖Vセグメントは、VH3セグメントであり得る。ヒト生殖系列重鎖J
セグメントは、JHセグメントであり得る。
【0062】
ヒトおよびマウスからの典型的な「天然」抗体は、重鎖および軽鎖からなる。軽鎖がな
い場合、これらの抗体の重鎖は、適切に折りたたまれず、凝集する。「ラクダ化」とは、
VHドメイン(この用語はヒトおよびマウスIgGからの結合ドメインのタイプを表す)
が、それ自体で(すなわち、軽鎖なしで)エピトープに結合することができ、凝集しない
ように変更されるプロセスを指す。ラクダ科動物(例えば、ラクダ科動物、ラマ科など)
は、単一のN末端ドメイン(VHH)が完全に抗原結合することができる軽鎖を欠く機能
的抗体を産生するため、「ラクダ科」という用語は、このプロセスの造語である。これら
の自律型重鎖抗体は、高い安定性および溶解性を有する。サメおよび他の軟骨魚もまた、
VHH抗体を産生する。
【0063】
従来のVHドメインと同様に、自律型重鎖抗体は、免疫グロブリンドメインのコア構造
を形成する4つのフレームワーク領域(FR)と、抗原結合に関与する3つの相補性決定
領域(CDR)を含む。例えば、Conrath et al.,Antigen bi
nding and solubility effects upon the ve
neering of a camel VHH in framework-2 to
mimic a VH,J Mol Biol,2005,350:112-25を参
照されたい。ヒトおよびラクダ科の可変ドメインの配列比較は、ラクダ科のプロセスにつ
ながり、ヒトVHドメインへの凝集抵抗性のVHHドメインのいくつかの特徴的な残基の
転移が含まれる。例えば、Davies et al.,‘Camelising’hu
man antibody fragments:NMR studies on VH
domains,FEBS Lett,1994,339:285-90を参照された
い。例えば、VHHの特徴は、従来のVHドメインで保存され、VLドメインを含む疎水
性界面の形成に関与する4つのFR2位置(位置37、44、45、および47;Kab
at番号付け)にアミノ酸置換の存在である。具体的には、ラクダ科動物のFRの配列お
よびヒトVH3ファミリーの配列は、通常はVHドメインで高度に保存されている、FR
2の3つの残基(44、45、および47)を除いては、非常に類似していた。例えば、
Conrath et al.,2005を参照されたい。これらの溶媒曝露された残基
(そのほとんどはラクダ科動物では親水性である)は、以前の軽鎖界面に位置し、VLド
メインとの会合を妨げる。軽鎖可変ドメイン(VL)の界面によるVHの非特異的結合は
、フレームワーク2および4(Val37F、G44E、L45R、W47G、およびW
103R)のアミノ酸変異によって防止された。Da Silva et al,Cam
elized rabbit-derived VH single-domain i
ntrabodies against Vif strongly neutrali
ze HIV-1 infectivity J Mol Biol.2004 Jul
9;340(3):525-42を参照されたい。ラクダ化のための他の戦略は、Ta
nha et al Protein Eng Des Sel.2006 Impro
ving solubility and refolding efficiency
of human V(H)s by a novel mutational ap
proach Nov;19(11):503-9およびDavies et al S
ingle antibody domains as small recognit
ion units:design and in vitro antigen se
lection of camelized,human VH domains wi
th improved protein stability.Protein En
g.1996 Jun;9(6):531-7を参照されたい。
【0064】
VHHをヒト化するための類似の突然変異アプローチも試みられてきた。例えば、Co
nrath et al.,2005を参照されたい。Vincke et al.,G
eneral strategy to humanize a camelid si
ngle-domain antibody and identification
of a universal humanized nanobody scaffo
ld,J Biol Chem,2009,284:3273-84も参照されたい。V
HHの親水性の増加は、主に、以前のVL界面の前述の変更に依存するが、CH1ドメイ
ンと接触する従来のVHドメイン上にわずかに疎水性のパッチを形成する位置の一部のア
ミノ酸もまた、VHHの親水性残基に変更される。例えば、Lesk et al.,E
lbow motion in the immunoglobulins invol
ves a molecular ball-and-socket joint,Na
ture,1988 Sep 8,335(6186):188-90を参照されたい。
Muyldermans et al.,Sequence and structur
e of VH domain from naturally occurring
camel heavy chain immunoglobulins lackin
g light chains,Protein Eng,1994 Sep,7(9)
:1129-35も参照されたい。
【0065】
したがって、いくつかの実施形態において、任意のVH抗体は、FR2の位置37、4
4、45、および47、ならびに任意に、FR4の位置103のうちの1つ以上の任意の
疎水性残基のラクダ化アミノ酸置換を非疎水性残基(Kabat番号付け)に作製するこ
とによってラクダ化され得る。ラクダ化アミノ酸置換は、非疎水性残基を有する1つ以上
の位置での任意の疎水性残基グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、バリン(Val
)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、プロリン(Pro)、フェニルアラ
ニン(Phe)、メチオニン(Met)、およびトリプトファン(Trp)の置換を含み
得る。
【0066】
いくつかの実施形態において、偽遺伝子は、Vセグメントのみを含み得る。他の実施形
態において、偽遺伝子は、VセグメントおよびDセグメントのみを含み得る。Dセグメン
トが偽遺伝子に存在する場合、それらは、生殖細胞系D配列またはヒトモノクローナル抗
体に由来し得る。
【0067】
いくつかの実施形態において、(a)のAHC可変ドメインおよび(b)の偽遺伝子は
、複数の異なるVH3ファミリーメンバーによってコードされるCDRを含み得る(例え
ば、1つの偽遺伝子が1つのファミリーメンバーからのCDRをコードし、別の偽遺伝子
が別のファミリーメンバーからのCDRをコードする)。
【0068】
いくつかの実施形態において、(b)の偽遺伝子において、FR1、FR2、およびF
R3、ならびに、存在する場合、任意にFR4をコードする配列が、組み合わされて、(
a)の可変ドメイン内の対応するFR1、FR2、およびFR3、ならびに任意にFR4
をコードする組み合わされた配列と少なくとも90%同一である。偽遺伝子における各個
々のFRについて、配列同一性のレベルは、多くの場合、少なくとも80%、例えば、少
なくとも90%または少なくとも95%であり得る。いくつかの実施形態において、(b
)の偽遺伝子においてCDRをコードする配列は、(a)の可変ドメインにおいて対応す
るCDRをコードする配列と90%以下同一である。換言すれば、いくつかの実施形態に
おいて、偽遺伝子によってコードされるFW配列と比較して、偽遺伝子によってコードさ
れるCDRにはより多様性があり得る。いくつかの実施形態において、偽遺伝子は、ラク
ダ化アミノ酸(例えば、FR2のアミノ酸位置37、44、45、および47、ならびに
任意にFR4の位置103のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、またはすべての非疎水性残
基)を有することができる。
【0069】
多くの実施形態において、偽遺伝子は、400ヌクレオチド未満の長さ(例えば、30
0~400ヌクレオチドの長さ)である。
【0070】
任意の実施形態において、内因性免疫グロブリン重鎖遺伝子座は、CH1欠失を含む重
鎖をコードし得る。これらの実施形態において、動物のゲノムはまた、ノックアウトされ
た軽鎖免疫グロブリン遺伝子も含み得る。あるいは、動物のゲノムは、定常領域を含むが
可変領域を含まない短縮型軽鎖をコードする軽鎖免疫グロブリン遺伝子を含み得る。
【0071】
任意の実施形態において、動物は、ニワトリであり得る。動物は、その遺伝子座につい
てホモ接合性またはヘテロ接合性であり得る。
【0072】
(a)トランスジェニック動物を抗原で免疫化することと、(b)動物から、抗原に特
異的に結合する抗体を得ることと、を含む方法も、提供される。抗体は、ポリクローナル
またはモノクローナルであり得る。これらの実施形態において、本方法は、(c)トラン
スジェニック動物のB細胞を使用してハイブリドーマを作製することと、(d)ハイブリ
ドーマをスクリーニングして、抗原に特異的に結合する抗体を産生するハイブリドーマを
同定することと、をさらに含み得る。あるいは、本方法は、(c)ハイブリドーマを作製
せずにB細胞をスクリーニングして、抗原に特異的に結合する抗体を産生するB細胞を同
定することを含み得る。任意のスクリーニング方法において、本方法は、PCRを使用し
て、トランスジェニック動物のB細胞から少なくとも重鎖可変領域をコードする核酸を増
幅することと、増幅された核酸を使用して組換え抗体を発現させることと、を含み得る。
【0073】
トランスジェニック動物によって産生されるモノクローナルまたはポリクローナル抗体
も提供され、この抗体は、自律型重鎖(AHC)可変ドメイン抗体である。
【0074】
動物から単離されたB細胞も提供される。
【0075】
トランスジェニック動物は、発現されて(すなわち、転写されて、その後翻訳されるm
RNAを産生し)、抗体の重鎖を産生し、機能的重鎖遺伝子(この場合、これはニワトリ
であり、他の多くの種がそのすぐ上流にある)に作動可能に連結されている機能的免疫グ
ロブリン重鎖遺伝子と、複数の異なる偽遺伝子重鎖可変領域と、を含み、偽遺伝子の可変
領域は、遺伝子変換によって(すなわち、機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子可変領域の配
列を偽遺伝子可変領域の配列で置換することによって)機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子
の配列を変化させるという点で、機能的免疫グロブリン重鎖に作動可能に連結されている
。トランスジェニック動物では、機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子可変領域と偽遺伝子可
変領域との間の遺伝子変換は、機能的免疫グロブリン重鎖遺伝子可変領域の配列を、可変
領域の全長までわずか単一のコドンだけ変更する。ある特定の場合では、偽遺伝子可変領
域は、偽遺伝子可変領域から少なくとも1つのCDR(例えば、CDR1、CDR2、ま
たはCDR3)の配列を機能的遺伝子の可変領域に供与し得る。したがって、トランスジ
ェニック動物によって産生された抗体の重鎖は、偽遺伝子可変領域から機能的重鎖遺伝子
の可変領域に供与される任意の配列によってコードされている。異なる配列が動物の異な
る細胞に供与されるため、動物の抗体レパートリーは、どの配列が偽遺伝子可変領域から
機能的遺伝子の可変領域に供与されるかによって決定される。
【0076】
いくつかの実施形態において、ヒト機能的遺伝子および偽遺伝子のフレームワークセグ
メントは、互いに同一またはほぼ同一であり得るが、機能的遺伝子および偽遺伝子のCD
Rセグメントは異なり得、それにより、遺伝子変換が、偽遺伝子と生殖細胞系列配列のC
DRセグメント間で起こり得る。さらに、CDRは、長さが異なり得る。ある特定の実施
形態において、重鎖CDR1は、6~12アミノ酸残基長さの範囲にあり得、重鎖CDR
2は、4~12アミノ酸残基長さの範囲にあり得、重鎖CDR3は、3~25アミノ酸残
基長さの範囲にあり得るが、これらの範囲外の長さのCDRを有する抗体が想定されてい
る。
【0077】
いくつかの実施形態において、導入された転写可変領域のヌクレオチド配列および/ま
たはアミノ酸配列はヒトであり得、すなわち、ヒト抗体のヌクレオチドおよび/もしくは
アミノ酸配列、または生殖系列配列を含有し得る。これらの実施形態において、CDRお
よびフレームワークの両方がヒトであり得る。他の実施形態において、導入された転写可
変領域のヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列はヒトではなく、代わりに、ヒト
配列と少なくとも80%同一、少なくとも90%同一、少なくとも95%以上同一であり
得る。例えば、ヒト配列と比較して、導入された転写可変領域は、1つ以上のヌクレオチ
ドまたはアミノ酸置換を含有し得る。任意の生殖系列ヒトVHセグメントは、VH1-1
8、VH1-2、VH1-24、VH1-3、VH1-45、VH1-46、VH1-5
8、VH1-69、VH1-8、VH2-26、VH2-5、VH2-70、VH3-1
1、VH3-13、VH3-15、VH3-16、VH3-20、VH3-21、VH3
-23、VH3-30、VH3-33、VH3-35、VH3-38、VH3-43、V
H3-48、VH3-49、VH3-53、VH3-64、VH3-66、VH3-7、
VH3-72、VH3-73、VH3-74、VH3-9、VH4-28、VH4-31
、VH4-34、VH4-39、VH4-4、VH4-59、VH4-61、VH5-5
1、VH6-1、およびVH7-81の配列から選択され得る。異なる生殖細胞系列配列
の説明については、PCTWO2005/005604を参照されたい。
【0078】
いくつかの実施形態において、定常領域を含む重鎖遺伝子座の一部、イントロン領域の
一部、および3’UTRは、動物に対して内因性であり得、機能的遺伝子の可変ドメイン
を含む重鎖遺伝子座の残り、イントロンの残り、および偽遺伝子は、動物に対して外因性
であり得、すなわち、組換え的に作製され、機能的遺伝子が産生され、偽遺伝子が遺伝子
変換によって機能的遺伝子に配列を供与することができるような方法で定常ドメイン、部
分イントロン、および3’UTRの近位で動物に導入され得る。ある特定の場合では、動
物の重鎖遺伝子座は、作動可能な連結において、イントロン領域と、定常ドメインをコー
ドする領域と、3’非翻訳領域と(イントロン領域、定常ドメインをコードする領域、お
よび3’非翻訳領域は、トランスジェニック動物のゲノムに対して内因性である)、複数
の偽遺伝子重鎖可変領域とを含有し得、複数の偽遺伝子重鎖可変領域は、トランスジェニ
ック動物のゲノムに対して外因性である。
【0079】
ある特定の実施形態において、対象のトランスジェニック動物によって産生された抗体
は、内因性定常ドメインおよび動物に対して外因性である可変ドメインを含有し得る。こ
れらの実施形態において、内因性定常領域が用いられ得るため、抗体は依然としてクラス
スイッチおよび親和性成熟を受け得、これによって動物は、正常な免疫系の発達を受け、
正常な免疫応答を開始することができる。特定の実施形態では、トランスジェニックニワ
トリは、IgM、IgY、およびIgAをコードする重鎖遺伝子座に3つの内因性定常領
域を有する。B細胞の発達の初期段階では、B細胞は、IgMを発現する。親和性成熟が
進むにつれて、クラススイッチは、定常領域をIgYまたはIgAに変換する。IgYは
、卵黄に沈着した予備を介して約200mgのIgYを受け取る成体および初生ヒヨコの
両方に体液性免疫を提供する。IgAは、主にリンパ組織(例えば、脾臓、パイエル板、
およびハーダー腺)および卵管に見られる。
【0080】
軽鎖および/または重鎖遺伝子座に存在する導入された偽遺伝子可変領域の数は変動し
得、特定の実施形態において、1~50個、例えば、2~50個、または10~25個の
範囲であり得る。特定の実施形態において、複数の偽遺伝子軽鎖可変領域のうちの少なく
とも1個(例えば、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも5個、少なくとも10
個以上)は、転写された軽鎖可変領域に対して逆配向であり得る。同様に、特定の実施形
態において、複数の偽遺伝子重鎖可変領域のうちの少なくとも1個(例えば、少なくとも
2個、少なくとも3個、少なくとも5個、少なくとも10個以上)は、重鎖の転写された
可変領域に対して逆配向であり得る。特定の実施形態において、複数の偽遺伝子可変領域
は交互の配向ではなく、ある特定の場合には、転写された可変領域に対して反対配向であ
る一連の少なくとも5個または少なくとも10個の隣接する偽遺伝子領域を含有し得る。
一実施形態において、転写された可変領域から最も遠位にある偽遺伝子領域は、転写され
た可変領域と同じ配向にあり、最も遠位の領域と転写された可変領域との間の偽遺伝子領
域は、転写可変領域に対して逆配向にある。
【0081】
偽遺伝子は、典型的には、転写領域の配列と少なくとも80%同一、例えば、少なくと
も85%同一、少なくとも90%同一、または少なくとも895%同一である、少なくと
も50、少なくとも100、少なくとも200、または少なくとも300の連続するヌク
レオチドの配列を含有する。いくつかの実施形態において、偽遺伝子におけるフレームワ
ーク配列は、機能的遺伝子における対応するフレームワーク配列と少なくとも90%同一
であり、CDRは、より少ない配列同一性を有する。
【0082】
上記のトランスジェニック動物は、動物のゲノムを組換え改変することによって作製さ
れ得る。トランスジェニック動物、例えば、マウスおよびニワトリなどを産生するための
方法は知られており、特に、遺伝子変換を使用する動物のゲノムを改変するための方法が
また知られており(例えば、Sayegh,Vet.Immunol.Immunopa
thol.1999 72:31-7およびKamihira,Adv.Biochem
.Eng.Biotechnol.2004 91:171-89(トリの場合)、なら
びにBosze,Transgenic Res.2003 12:541-53および
Fan,Pathol.Int.1999 49:583-94(ウサギの場合)、なら
びにSalamone J.Biotechnol.2006 124:469-72(
ウシの場合)を参照されたい)、同じくこれらの種の多くの生殖系列免疫グロブリン重鎖
および軽鎖遺伝子座の構造および/または配列も知られており(例えば、Butler
Rev Sci Tech 1998 17:43-70およびRatcliffe D
ev Comp Immunol 2006 30:101-118)、上記の動物は、
本開示で供与される通常の方法によって作製され得る。トランスジェニックニワトリを作
製するための方法が知られている。例えば、8,592,644、US8,889,66
2、Collarini et al(Poult Sci.2015 94:799-
803)、van de Lavoir(Nature.2006 441:766-9
)、およびSchusser et al(Proc Natl Acad Sci U
SA.2013 110:20170-5を参照されたい。
【0083】
自律型重鎖(AHC)可変ドメインを含む抗体を産生するための方法も提供される。い
くつかの実施形態において、本方法は、上記のようにトランスジェニック動物を抗原で免
疫化することを含み得、抗体がポリクローナルである場合、本方法は、動物の出血からの
抗体を単離することを含み得る。動物が共通軽鎖配列についてホモ接合である場合、ポリ
クローナル抗血清中の抗体のすべては、自律型重鎖(AHC)可変ドメイン抗体であるは
ずである。モノクローナル抗体が所望される場合、本方法は、b)免疫化されたトランス
ジェニック動物の細胞を使用してハイブリドーマを作製することと、c)ハイブリドーマ
をスクリーニングして、抗原特異性ハイブリドーマを同定することと、d)抗原特異性ハ
イブリドーマから抗原特異性抗体を単離することと、を含み得る。あるいは、B細胞をス
クリーニングすることもできる。
【0084】
ある特定の実施形態において、動物は、GD2、EGF-R、CEA、CD52、CD
20、Lym-1、CD6、補体活性化受容体(CAR)、EGP40、VEGF、腫瘍
関連糖タンパク質TAG-72 AFP(アルファ-胎児性タンパク質)、BLyS(T
NFおよびAPOL-関連リガンド)、CA125(癌抗原125)、CEA(癌胚性抗
原)、CD2(T細胞表面抗原)、CD3(TCRに関連するヘテロ多量体)、CD4、
CD11a(インテグリンアルファ-L)、CD14(単球分化抗原))、CD20、C
D22(B細胞受容体)、CD23(低親和性IgE受容体)、CD25(IL-2受容
体アルファ鎖)、CD30(サイトカイン受容体)、CD33(骨髄細胞表面抗原)、C
D40(腫瘍壊死因子受容体))、CD44v6(白血球の接着を仲介する)、CD52
(CAMPATH-1)、CD80(CD28およびCTLA-4の共刺激因子)、補体
構成成分C5、CTLA、EGFR、エオタキシン(サイトカインA11)、HER2/
neu、HER3、HLA-DR、HLA-DR10、HLA ClassII、IgE
、GPiib/iiia(インテグリン)、インテグリンaVβ3、インテグリンa4β
1およびa4β7、インテグリンβ2、IFN-ガンマ、IL-1β、IL-4、IL-
5、IL-6R(IL6受容体)、IL-12、IL-15、KDR(VEGFR-2)
、ルイス、メソセリン、MUC1、MUC18、NCAM(神経細胞接着分子)、癌胎児
性フィブロネクチン、PDGFβR(ベータ血小板由来成長因子受容体)、PMSA、腎
癌抗原G250、RSV、E-セレクチン、TGFベータ1、TGFベータ2、TNFα
、DR4、DR5、DR6、VAP-1(血管接着タンパク質1)、またはVEGFなど
で免疫化されて、療法用抗体が産生され得る。
【0085】
抗原は、アジュバントの有無にかかわらず、任意の便利な方法でトランスジェニック宿
主動物に投与され得、所定のスケジュールに従って投与され得る。
【0086】
任意の実施形態において、内因性偽遺伝子は、存在するか、または存在しない可能性が
ある。例えば、機能的な免疫グロブリン軽鎖遺伝子がラクダ化ヒト生殖細胞系列配列から
なる場合、内因性のニワトリ偽遺伝子は、存在するか、または存在しない可能性がある。
内因性のニワトリ偽遺伝子が存在する場合、配列同一性が遺伝子変換には低すぎるため、
それらは機能的遺伝子に配列を一切寄与しない。
【0087】
免疫化後、免疫化されたトランスジェニック動物からの血清または乳汁は、抗原に特異
的な医薬品グレードのポリクローナル抗体の精製のために分画され得る。トランスジェニ
ックトリの場合、抗体は、卵黄を分画することによって作製され得る。濃縮された精製免
疫グロブリン画分は、クロマトグラフィー(親和性、イオン交換、ゲル濾過など)、硫酸
アンモニウムなどの塩、エタノールなどの有機溶媒、またはポリエチレングリコールなど
のポリマーによる選択的沈殿によって得ることができる。
【0088】
モノクローナル抗体を作製するために、抗体産生細胞、例えば、脾臓細胞が、免疫化さ
れたトランスジェニック動物から単離され得、ハイブリドーマの産生のために形質転換細
胞株との細胞融合に使用され得るか、または抗体をコードするcDNAが、標準的な分子
生物学技術によってクローン化され、トランスフェクトされた細胞で発現され得る。モノ
クローナル抗体を作製するための手順は、当技術分野で十分に確立されている。例えば、
欧州特許出願第0 583 980 A1号、米国特許第4,977,081号、WO9
7/16537、およびEP0491 057 B1を参照されたく、これらの開示は、
参照により本明細書に組み込まれる。クローン化されたcDNA分子からのモノクローナ
ル抗体のインビトロ産生は、Andris-Widhopf et al.,J Imm
unol Methods 242:159(2000)、およびBurton,Imm
unotechnology 1:87(1995)によって記載されており、これらの
開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0089】
抗体がまだヒトフレームワーク領域を含有しない場合、本方法は、抗体をヒト化するこ
とをさらに含み得、本方法は、抗体の定常ドメインをヒト定常ドメインと交換して、キメ
ラ抗体を作製すること、ならびにある特定の場合には、例えば、CDRグラフト化または
リサーフェシングなどによって抗体の可変ドメインをヒト化することを含み得る。ヒト化
は、Winter(Jones et al.,Nature 321:522(198
6)、Riechmann et al.,Nature 332:323(1988)
、Verhoeyen et al.,Science 239:1534(1988)
)、Sims et al.,J.Immunol.151:2296(1993)、C
hothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901(1987)
、Carter et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.
89:4285(1992)、Presta et al.,J.Immunol.15
1:2623(1993)、米国特許第5,723,323号、同第5,976,862
号、同第5,824,514号、同第5,817,483号、同第5,814,476号
、同第5,763,192号、同第5,723,323号、同第5,766,886号、
同第5,714,352号、同第6,204,023号、同第6,180,370号、同
第5,693,762号、同第5,530,101号、同第5,585,089号、同第
5,225,539号、同第4,816,567号、PCT/:US98/16280、
US96/18978、US91/09630、US91/05939、US94/01
234、GB89/01334、GB91/01134、GB92/01755、WO9
0/14443、WO90/14424、WO90/14430、EP229246の方
法に従って行われ得、各々は、そこに引用されている参考文献を含めて参照により本明細
書に完全に組み込まれる。
【0090】
そのため、トランスジェニック動物に加えて、トランスジェニック動物を抗原で免疫化
することと、トランスジェニック動物から抗原に特異的に結合する抗体を得ることと、を
含む方法も提供される。本方法は、トランスジェニック動物の細胞を使用してハイブリド
ーマを作製することと、ハイブリドーマをスクリーニングして、抗原に特異的に結合する
抗体を産生するハイブリドーマを同定することと、を含み得る。あるいは、B細胞は、ハ
イブリドーマを作製せずにスクリーニングされ得る。
【0091】
抗体の重鎖可変ドメインは、動物の免疫系によって「自然に」作製される。そのような
抗体は、ある特定の場合には、宿主細胞によって翻訳後改変(例えば、グリコシル化)さ
れ得、トランスジェニック動物の種に特徴的なグリコシル化パターンおよび組成を有し得
る。
【0092】
上記のトランスジェニック動物によって産生された抗体の抗原特異性結合領域の配列は
、所望される場合、重鎖可変ドメインの多様な集団のコード配列のすべてまたはいずれか
がPCRプライマーの単一の対を使用してcDNAから増幅され得るため、比較的簡単に
得られるはずである。各抗体の特異性および親和性は、重鎖可変ドメインのアミノ酸配列
によってのみ決定されるべきであるため、同族の軽鎖を同定または配列決定する必要はな
い。そのため、抗原特異性重鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、比較的簡単に得られるは
ずである。上記のように、場合によっては、抗原特異性重鎖を発現する細胞を選択するた
めに、B細胞またはハイブリドーマを機能的にスクリーニングすることができる。重鎖可
変ドメインコード配列は、B細胞(例えば、PBMC)の濃縮または非濃縮集団からまと
めて増幅され得る。配列がB細胞の非濃縮集団から増幅される場合、抗原特異性可変ドメ
インをコードする配列は、抗原特異性でない配列よりも高度に発現され(B細胞の活性化
のため)、かつより可変的なクレードに潜在的に属するため、識別可能であるはずである
。さらに、これらの重鎖は結合のために特定の軽鎖を必要としないため、フォローアップ
作業を実行する前に、どの軽鎖がどの重鎖と対であるかを決定する必要はない。
【実施例0093】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態および態様を実証し、さらに例示するために
提供されたものであり、その範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0094】
実施例1
AHCニワトリの構築
図3は、ヒト自律型重鎖可変領域を発現するように設計された、改変されたニワトリ重
鎖遺伝子座の構造を示す。トランス遺伝子には、ラクダ化変異(*)を持つヒト機能的V
HおよびJH、ならびにヒトDのフルセットが含まれている。VDJ組換え後、機能的な
V領域が発現し、下流のニワトリ定常領域にスプライスして、IgM、IgA、およびI
gYを作製する。上流では、CDR1および2に多様性を持つ設計されたヒト可変領域偽
遺伝子のアレイが示されている。この例では、偽遺伝子には、ラクダ化変異のないフレー
ムワーク領域が含まれている。しかしながら、いくつかの実施形態において、偽遺伝子は
、ラクダ化突然変異を伴うフレームワーク領域を含む。
【0095】
図4は、ヒト自律型重鎖可変領域を発現するように改変されたニワトリ重鎖遺伝子座を
どのように作製することができるかを概略的に例示する。この例では、ニワトリ重鎖遺伝
子座に対して実行され、ヒトAHC遺伝子座を生成する一連の遺伝子改変が、示されてい
る。この例では、ニワトリIgH遺伝子座が、最初にJH遺伝子を標的とし、JHを欠失
し、プロモータのないneo遺伝子およびattP部位に置き換えた。第2に、loxP
部位は、ニワトリ機能的VH遺伝子の上流の位置を標的とする遺伝子によって挿入された
。第3に、AHCおよび関連する偽遺伝子をコードするヒトV、D、およびJ遺伝子は、
phiC31インテグラーゼを使用してattP部位に挿入された。第4に、ニワトリV
遺伝子およびDクラスター、ならびに選択可能なマーカーカセットが、Cre組換えによ
って除去された。