(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081678
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】抗体構築物がプレロードされた凍結保存NK細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20240611BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20240611BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240611BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240611BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240611BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240611BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240611BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
C12N5/0783 ZNA
C12N1/04
A61K35/17
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P37/02
A61P35/02
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】26
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024039417
(22)【出願日】2024-03-13
(62)【分割の表示】P 2021510450の分割
【原出願日】2019-08-26
(31)【優先権主張番号】18191031.6
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520349436
【氏名又は名称】アフィメッド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツンク
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロイシュク、ウベ
(72)【発明者】
【氏名】コック、ヨアキム
(72)【発明者】
【氏名】トレダー、マルティン
(72)【発明者】
【氏名】デュラット、ホルガー ヨット.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】NK細胞ベースの免疫療法を単純化するための手段および方法を提供する。
【解決手段】凍結する前に抗体構築物がプレロードされた、凍結保存状態の単離されたヒトNK細胞であって、前記抗体構築物が、少なくとも、前記NK細胞の細胞表面上のNK細胞受容体抗原に、少なくとも106M(KD)の親和性で結合する第1の結合ドメインおよび標的細胞の細胞表面上の細胞表面抗原に結合する第2の結合ドメインを含む、単離されたヒトNK細胞が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結する前に抗体構築物がプレロードされた、凍結保存状態の単離されたヒトNK細胞であって、前記抗体構築物が、少なくとも、免疫エフェクター細胞の細胞表面上のNK細胞受容体抗原に結合する第1の結合ドメインおよび標的細胞の細胞表面上の細胞表面抗原に結合する第2の結合ドメインを含む、単離されたヒトNK細胞。
【請求項2】
前記NK細胞が、健康なドナーからの臍帯もしくは胎盤組織、iPSC、またはPBMCから単離される、請求項1に記載の単離されたヒトNK細胞。
【請求項3】
前記NK細胞が凍結溶液中で保存されている、請求項1および2に記載の単離されたヒトNK細胞。
【請求項4】
前記NK細胞が、少なくとも5nMの濃度で前記抗体構築物を含む溶液にプレロードされている、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離されたヒトNK細胞。
【請求項5】
前記抗体構築物の前記第1の結合ドメインが結合する前記NK細胞受容体抗原が、CD16a、CD16b、NKp46、NKG2D、およびCD16a+CD16bからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の単離されたヒトNK細胞。
【請求項6】
前記抗体構築物の前記第2の結合ドメインが結合する標的細胞の前記細胞表面上の前記細胞表面抗原が、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD52、CD70、CD74、CD79b、CD123、CLL1、BCMA、FCRH5、EGFR、EGFRvIII、HER2、およびGD2からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の単離されたヒトNK細胞。
【請求項7】
前記抗体構築物が、CD16aに結合する第1の結合ドメインならびにCD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD52、CD70、CD74、CD79b、CD123、CLL1、BCMA、FCRH5、EGFR、EGFRvIII HER2、およびGD2からなる群から選択される抗原に結合する第2の結合ドメインを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の単離されたヒトNK細胞。
【請求項8】
前記抗体構築物が、第1の結合ドメインにおいて、以下:
(a)配列番号29に示されるCDR-H1、配列番号30に示されるCDR-H2、配列番号31に示されるCDR-H3、配列番号32に示されるCDR-L1、配列番号33に示されるCDR-L2、配列番号34に示されるCDR-L3;
(b)配列番号40に示されるCDR-H1、配列番号41に示されるCDR-H2、配列番号42に示されるCDR-H3、配列番号43に示されるCDR-L1、配列番号44に示されるCDR-L2、配列番号45に示されるCDR-L3;
(c)配列番号51に示されるCDR-H1、配列番号52に示されるCDR-H2、配列番号53に示されるCDR-H3、配列番号54に示されるCDR-L1、配列番号55に示されるCDR-L2、配列番号56に示されるCDR-L3;
(d)配列番号62に示されるCDR-H1、配列番号63に示されるCDR-H2、配列番号64に示されるCDR-H3、配列番号65に示されるCDR-L1、配列番号66に示されるCDR-L2、配列番号67に示されるCDR-L3;
(e)配列番号73に示されるCDR-H1、配列番号74に示されるCDR-H2、配列番号75に示されるCDR-H3、配列番号76に示されるCDR-L1、配列番号77に示されるCDR-L2、配列番号78に示されるCDR-L3;
(f)配列番号84に示されるCDR-H1、配列番号85に示されるCDR-H2、配列番号86に示されるCDR-H3、配列番号87に示されるCDR-L1、配列番号88に示されるCDR-L2、配列番号89に示されるCDR-L3;および
(g)配列番号95に示されるCDR-H1、配列番号96に示されるCDR-H2、配列番号97に示されるCDR-H3、配列番号98に示されるCDR-L1、配列番号99に示されるCDR-L2、配列番号100に示されるCDR-L3
からなる群から選択される3つの重鎖CDRおよび3つの軽鎖CDRを含む、請求項7に記載の単離されたヒトNK細胞。
【請求項9】
前記抗体構築物が、前記第1の結合ドメインにおいて、配列番号35および配列番号36、配列番号46および配列番号47、配列番号57および配列番号58、配列番号68および配列番号69、配列番号79および配列番号80、配列番号90および配列番号91、ならびに配列番号101および配列番号102からなる群から選択される配列の対に示されるような配列を有するVH鎖およびVL鎖の対を含む、請求項8に記載の単離されたヒトNK細胞。
【請求項10】
前記抗体構築物が、第2の結合ドメインにおいて、以下:
(a)配列番号106に示されるCDR-H1、配列番号107に示されるCDR-H2、配列番号108に示されるCDR-H3、配列番号109に示されるCDR-L1、配列番号110に示されるCDR-L2、配列番号111に示されるCDR-L3;
(b)配列番号106に示されるCDR-H1、配列番号107に示されるCDR-H2、配列番号108に示されるCDR-H3、配列番号109に示されるCDR-L1、配列番号110に示されるCDR-L2、配列番号111に示されるCDR-L3;および
(c)配列番号117に示されるCDR-H1、配列番号118に示されるCDR-H2、配列番号119に示されるCDR-H3、配列番号120に示されるCDR-L1、配列番号121に示されるCDR-L2、配列番号122に示されるCDR-L3
からなる群から選択される3つの重鎖CDRおよび3つの軽鎖CDRを含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の単離されたヒトNK細胞。
【請求項11】
前記抗体構築物が、前記第2の結合ドメインにおいて、配列番号112および配列番号113、配列番号123および配列番号124、ならびに配列番号134および配列番号135からなる群から選択される配列の対に示されるような配列を有するVH鎖およびVL鎖の対を含む、請求項7~10のいずれか一項に記載の単離されたヒトNK細胞。
【請求項12】
前記抗体構築物が、配列番号161~171に示されるようなタンパク質配列を含む、請求項7~11のいずれか一項に記載の単離されたヒトNK細胞。
【請求項13】
プレロードされた凍結保存ヒトNK細胞を調製するための方法であって、
(i)NK細胞を抗体構築物とインキュベートすることであって、前記抗体構築物が、少なくとも、免疫エフェクター細胞の細胞表面上のNK細胞受容体抗原に結合する第1の結合ドメインならびに標的細胞の細胞表面上の細胞表面抗原に結合する第2の結合ドメインを含む、上記インキュベートすること;ならびに
(ii)前記NK細胞を凍結すること
を含む、方法。
【請求項14】
前記NK細胞が、健康なドナーからの臍帯組織、iPSC、またはPBMCから単離される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記NK細胞が、少なくとも5nMの濃度で前記抗体構築物を含む溶液にプレロードされている、請求項13および14に記載の方法。
【請求項16】
前記抗体構築物の前記第1の結合ドメインが結合する前記NK細胞受容体抗原が、CD16a、CD16b、NKp46、NKG2D、およびCD16a+CD16bからなる群から選択される、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体構築物の前記第2の結合ドメインが結合する標的細胞の細胞表面上の前記細胞表面抗原が、CD19、CD22、CD30、CD33、CD52、CD70、CD74、CD79b、CD123、CLL1、BCMA、FCRH5、EGFR、HER2、GD2からなる群から選択される、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記NK細胞を凍結するステップが、少なくとも基底細胞培養培地および凍結防止剤を含有する凍結培地を使用して実行される、請求項13~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記抗体構築物が、配列番号161~171に示されるようなタンパク質配列を含む、請求項13~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~12のいずれか一項に記載の凍結保存状態のヒトNK細胞から、または前記細胞をそれを必要とする対象に投与するために請求項13~19のいずれか一項に記載の方法によって調製された、生存可能なプレロードされたヒトNK細胞を再構成/調製するための方法であって、解凍によって患者に投与するための前記細胞を再構成/調製するステップを含む、方法。
【請求項21】
請求項1~12のいずれか一項に記載の凍結保存状態でヒトNK細胞から再構成された、または請求項13~19のいずれか一項に記載の方法によって調製されたヒトNK細胞を含む、医薬組成物。
【請求項22】
患者に静脈内投与される、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
増殖性疾患、腫瘍性疾患、または免疫学的障害から選択される疾患の予防、治療、または改善に使用するための、請求項21または22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記腫瘍性疾患が悪性疾患、好ましくはがんである、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記悪性疾患が、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、および固形腫瘍からなる群から選択される、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
疾患の治療または改善のための方法であって、請求項1~12のいずれか一項に記載の凍結保存状態でヒトNK細胞から再構成された、または請求項13~19のいずれか一項に記載の方法によって調製されたプレロードされたヒトNK細胞を、それを必要とする対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項27】
前記プレロードされたヒトNK細胞が患者に静脈内投与される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記対象が増殖性疾患、腫瘍性疾患、または免疫学的障害に罹患している、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記腫瘍性疾患が悪性疾患、好ましくはがんである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記悪性疾患が、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、および固形腫瘍からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結する前に抗体構築物がプレロードされた、凍結保存状態の単離されたヒトNK細胞であって、抗体構築物が、免疫学的エフェクター細胞の細胞表面上の受容体抗原、特に、NK細胞上で発現される受容体抗原に結合する少なくとも第1の結合ドメイン、および標的細胞の細胞表面上にある細胞表面抗原に結合する第2の結合ドメインを含む、単離されたヒトNK細胞を提供する。
【背景技術】
【0002】
ナチュラルキラー(NK)細胞は、自然免疫系の強力な細胞毒性免疫エフェクター細胞である。それらは、腫瘍細胞だけでなく、ウイルスまたは細菌に感染した細胞を認識して破壊することができる。NK細胞は、悪性細胞に対して抗原非依存性の免疫応答を誘導することができる。さらに、NK細胞に加えて、腫瘍細胞またはウイルスもしくは細菌に感染した細胞を死滅することができる他の免疫学的エフェクター細胞、例えば、単球、マクロファージ、好中球などが存在する。一般的に、これは自然免疫として理解されている。
【0003】
ますます多くの科学的報告および臨床研究が、NK細胞ベースの免疫療法を使用する場合の有望で強力な抗腫瘍効果を示している。現在、NK細胞の数および機能を高めることを目的として、様々なアプローチが検討されている。前記アプローチのうちの1つは、内因性NK細胞をそれぞれの標的細胞と架橋することによって、それらの特異性を増強することを目的として、二重特異性または多重特異性抗体構築物のいずれかを利用する。そのような相乗効果を利用するために、抗体ベースの治療と組み合わせた養子細胞療法の使用は、様々な適応症で組み合わされてきた。養子移入のためのNK細胞の様々な供給源が評価中であり、短期または長期の活性化または拡張を受けた同種異系ハプロタイプ一致NK細胞、定義された条件下でも拡張/活性化される臍帯NK細胞、NK細胞株、または幹細胞由来/分化NK細胞が含まれる。理論的には、すべての供給源を使用して、CAR-NK細胞を生成することもでき、これは、レンチウイルスまたはレトロウイルスによる新しいタイプの遺伝子修飾に由来し、安定した抗原特異的NK細胞を産生する。第1の例には、現在NHL患者で試験されているCD19-CAR-NK細胞アプローチが含まれる。
【0004】
しかしながら、養子移入のために抗体構築物を前述のNK細胞の供給源のいずれかと組み合わせる場合、使用の時点、すなわち、治療がそれぞれの患者に適用される病院で細胞を調製し、続いて、前記患者に必要な用量のそれぞれの抗体構築物を同時投与することが常に必要である。これは大多数の病院にとってロジスティックの問題である可能性があるという事実は別として、管理用の細胞の調製に必要なすべての作業パッケージは、そのようなリスクを高めるあらゆる回避可能な問題を除外するために厳密に制御されたプロトコルに従って実行する必要があることにさらに留意されたい。
【0005】
したがって、特に非専門病院または医療センターにおいて、より多くの患者グループに適用できるようにするために、そのような治療を単純化するための手段および方法が必要である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】10μg/mLの示された抗体をプレロードし、かつ1回の凍結/解凍サイクルの前に洗浄済み(w/)または未洗浄(w/o)の、示されたE:T比での、エフェクター細胞としてのMM.1S(A)またはDK-MG(B)標的細胞であるNK細胞上の4時間のカルセイン放出細胞毒性アッセイを示す図である。対照として、同じNK細胞をプレロードせずに洗浄し、1回の凍結/解凍サイクルに供し、示された抗体を細胞毒性アッセイに追加した(新鮮;実線の灰色のひし形)。
【
図2】ELISAで分析されたコーティングされたCD16抗原変異体への異なる抗CD16抗体の結合を示す図である。96ウェルELISAプレートは、パネルAの凡例に示されている組換え抗原変異体でコーティングした。(A)~(D)に示される異なる抗体を連続希釈し、指定された濃度範囲でプレート上でインキュベートした。結合した抗体を(A)~(C)の抗His-HRP、またはタンパク質L-HRPで検出した。TMB基質反応は450nm(Ext(450nm))で測定した。結合曲線は、4パラメータロジスティック(4PL)曲線モデルlog(アゴニスト)対応答を使用して適合させた-Graphpad Prismの可変勾配。
【
図3】異なる抗CD16 scFv抗体または対照scFvもしくはmAbと、組換えCD16抗原変異体またはEGFR膜貫通ドメイン(TM)もしくはGPIアンカーを備えたCHO細胞上で発現した対照EGFR抗原との反応性を示す図である。
【
図4】表3に要約された実験で組換え抗原として使用されたヒトおよびカニクイザルCD16AならびにヒトCD16B変異体の細胞外ドメインの配列アラインメントを示す図である。カニクイザルCD16A ECD配列の変異は、灰色で強調表示されている。CLUSTAL O(1.2.4)マルチプルアラインメントツールをアラインメントに使用した。
【
図5】SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングによる分離後のCD16抗原変異体への異なる抗CD16抗体の結合を示す図である。レーンごとに2μgの組換え抗原タンパク質をロードし、SDS-PAGEで分離し、PVDF膜にブロットし、示された一次および二次抗体とインキュベートした。DAB基質を用いた比色現像からのシグナルは、CD16AおよびCD16B抗原変異体の明確な認識を示している。
【
図6】ELISAにおけるmAb 3G8との異なる抗CD16 scFv抗体のCD16Aへの結合競合を示す図である。CD16A(48R、158V)-mFc.67抗原でコーティングされたプレートを、1nMのmAb 3G8と、示された濃度範囲の異なる抗CD16 scFvの段階希釈液との混合物とインキュベートした。CD16Aに結合した3G8は、ヤギ抗マウスIgG(H+L)-HRPOで検出した。TMB基質反応は、450nm(Ext(450nm))で測定した。結合曲線は、4パラメータロジスティック(4PL)曲線モデルlog(アゴニスト)対応答を使用して適合させた-Graphpad Prismの可変勾配。
【
図7a-7b】10mg/mLポリクローナルヒトIgGの存在下または非存在下で、37℃の初代ヒトNK細胞上の、クローンCD16-1からのヒトFvドメインを含有するscFv_CD16-1(A)、クローンCD16-2からのヒト抗CD16 Fvドメインを含有するscFv_CD16-2(B)、およびmAb 3G8からのマウスFvドメインを含有するscFv_3G8(C)の滴定を示す図である。
【
図8】10μg/mLの示された抗体がプレロードされ、かつ-80℃で凍結された、示されたE:T比でのエフェクター細胞としてCOLO 205(A)またはKARPAS-299(B)標的細胞であるNK細胞上の4時間のカルセイン放出細胞毒性アッセイを示す図である。対照として、同じNK細胞のアリコートをプレロードしない(抗体なし)が、1回の凍結/解凍サイクルにも供し、示された抗体(EpCAM/NKG2D scFv-IgAb_75またはCD30/CD16A TandAb)を細胞毒性アッセイに対して10μg/mLの濃度で新たに添加した。重複した溶解値の平均およびSDがプロットされる。実験番号:RBL 1464。
【発明の概要】
【0007】
定義
「抗体構築物」という用語は、構造および/または機能が、例えば、完全長もしくは全免疫グロブリン分子の抗体の構造および/もしくは機能に基づく、かつ/または抗体もしくはそのフラグメントの可変重鎖(VH)および/もしくは可変軽鎖(VL)ドメインから引き出された分子を指す。したがって、抗体構築物は、その特定の標的または抗原に結合することができる。さらに、本発明の文脈で定義される抗体構築物の結合ドメインは、標的結合を可能にする抗体の最小構造要件を含む。この最小要件は、好ましくはすべての6つのCDRのうち、例えば、少なくとも3つの軽鎖CDR(すなわち、VL領域のCDR1、CDR2、およびCDR3)ならびに/または3つの重鎖CDR(すなわち、VH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3)の存在によって定義され得る。抗体の最小構造要件を定義するための代替アプローチは、特定の標的の構造内の抗体のエピトープ、それぞれ、エピトープ領域(エピトープクラスター)を含む標的タンパク質のタンパク質ドメインの定義であり、または定義された抗体のエピトープと競合する特定の抗体への参照によるものである。本発明の文脈で定義される構築物が基づく抗体には、例えば、モノクローナル、組換え、キメラ、脱免疫化、ヒト化およびヒト抗体が含まれる。
【0008】
本発明の文脈で定義される抗体構築物の結合ドメインは、例えば、上記で言及されたCDRの群を含み得る。好ましくは、これらのCDRは、抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)の枠組みに含まれるが、両方を含む必要はない。例えば、Fdフラグメントは、2つのVH領域を有し、多くの場合、インタクトな抗原結合ドメインのなんらかの抗原結合機能を保持する。抗体フラグメント、抗体変異体、または結合ドメインのフォーマットの追加の例には、(1)Fabフラグメント、VL、VH、CL、およびCH1ドメインを有する一価フラグメント;(2)F(ab’)2フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを有する二価フラグメント;(3)2つのVHドメインおよびCH1ドメインを有するFdフラグメント;(4)抗体の片腕のVLおよびVHドメインを有するFvフラグメント、(5)VHドメインを有するdAbフラグメント(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546);(6)単離された相補性決定領域(CDR)、ならびに(7)一本鎖Fv(scFv)が含まれ、後者が好ましい(例えば、scFVライブラリーに由来する)。
【0009】
また、「結合ドメイン」または「結合するドメイン」の定義には、VH、VHH、VL、(s)dAb、Fv、Fd、Fab、Fab’、F(ab’)2、または「rIgG」(「半分の抗体」)などの完全長抗体のフラグメントが含まれる。本発明の文脈で定義される抗体構築物はまた、scFv、di-scFvまたはbi(s)-scFv、scFv-Fc、scFv-ジッパー、scFab、Fab2、Fab3、ダイアボディ、一本鎖ダイアボディ、タンデムダイアボディ(タンダブ)、タンデムジ-scFv、タンデムトリ-scFvなどの抗体変異体とも呼ばれる抗体の修飾フラグメント、トライアボディもしくはテトラボディなどの「マルチボディ」、およびナノボディなどの単一ドメイン抗体、または1つの可変ドメインのみを含む単一可変ドメイン抗体を含み得、これは、他のV領域またはドメインとは独立して抗原またはエピトープに特異的に結合するVHH、VH、またはVLである場合がある。
【0010】
本明細書で使用される場合、「一本鎖Fv」、「一本鎖抗体」、または「scFv」という用語は、重鎖および軽鎖の両方からの可変領域を含むが、定常領域を欠く単一ポリペプチド鎖抗体フラグメントを指す。一般に、一本鎖抗体は、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、これにより、抗原結合を可能にする所望の構造を形成することが可能になる。一本鎖抗体は、PlueckthunがThe Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.1 13,Rosenburg and Moore eds.Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994)で詳細に論じている。一本鎖抗体を生成する様々な方法が知られており、これには、米国特許第4,694,778号および同5,260,203号;国際特許出願公開番号WO 88/01649;Bird(1988)Science 242:423-442;Huston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883;Ward et al.(1989)Nature 334:54454;Skerra et al.(1988)Science 242:1038-1041に記載されているものが含まれる。特定の実施形態では、一本鎖抗体はまた、二重特異性、多重特異性、ヒト、ならびに/またはヒト化および/もしくは合成であり得る。
【0011】
さらに、「抗体構築物」という用語の定義には、一価、二価、および多価(polyvalent)/多価(multivalent)構築物、したがって、2つの抗原構造のみに特異的に結合する二重特異性構築物、ならびに別個の結合ドメインを通して、2つを超える抗原構造、例えば、3つ、4つ、またはそれ以上に特異的に結合する多重特異性(polyspecific)/多重(multispecific)特異性構築物が含まれる。さらに、「抗体構築物」という用語の定義には、1つのポリペプチド鎖のみからなる分子、および複数のポリペプチド鎖からなる分子が含まれ、これらの鎖は、同一(ホモ二量体、ホモ三量体、もしくはホモオリゴマー)または異なる(ヘテロ二量体、ヘテロ三量体、もしくはヘテロオリゴマー)のいずれかであり得る。上記で同定された抗体およびその変異体または誘導体の例は、とりわけ、Harlow and Lane,Antibodies a laboratory manual,CSHL Press(1988)、Using Antibodies:a laboratory manual,CSHL Press(1999),Kontermann and Dubel,Antibody Engineering,Springer,2nd ed.2010およびLittle,Recombinant Antibodies for Immunotherapy,Cambridge University Press 2009に記載されている。
【0012】
「価」という用語は、抗原結合タンパク質における決定された数の抗原結合ドメインの存在を意味する。天然のIgGは、2つの抗原結合ドメインを有し、二価である。本発明の文脈で定義されるような抗原結合タンパク質は、少なくとも三価である。四価、五価、および六価の抗原結合タンパク質の例は、本明細書に記載されている。
【0013】
本明細書で使用される「二重特異性」という用語は、「少なくとも二重特異性」である、すなわち、少なくとも第1の結合ドメインおよび第2の結合ドメインを含む抗体構築物を指し、第1の結合ドメインは、1つの抗原または標的(ここでは:NK細胞受容体、例えば、CD16a)に結合し、第2の結合ドメインは、別の抗原または標的(ここでは:標的細胞表面抗原)に結合する。したがって、本発明の文脈で定義される抗体構築物は、少なくとも2つの異なる抗原または標的に対する特異性を含む。例えば、第1のドメインは、好ましくは、ヒト、マカク種、およびげっ歯類の種から選択される種のうちの1つ以上のNK細胞受容体の細胞外エピトープに結合する。
【0014】
本発明の文脈で使用される「NK細胞受容体」という用語は、NK細胞の表面上のタンパク質およびタンパク質複合体を定義する。したがって、この用語は、NK細胞に特徴的ではあるが、NK細胞の表面にのみ発現するわけでなく、マクロファージまたはT細胞などの他の細胞にも発現する細胞表面分子を定義する。NK細胞受容体の例には、CD16a、CD16b、NKp46、およびNKG2Dが含まれるが、これらに限定されない。
【0015】
「CD16A」は、NK細胞の細胞表面に発現する、FcγRIIIAとしても知られる活性化受容体CD16Aを指す。CD16Aは、NK細胞の細胞毒性活性を誘発する活性化受容体である。CD16Aに対する抗体の親和性は、NK細胞の活性化を誘発するその能力と直接相関しているため、CD16Aに対する親和性が高いと、活性化に必要な抗体の用量が減少する。抗原結合タンパク質の抗原結合部位は、CD16Aに結合するが、CD16Bには結合しない。例えば、CD16Aに結合するがCD16Bには結合しない重鎖(VH)および軽(VL)鎖可変ドメインを含む抗原結合部位は、C末端配列SFFPPGYQ(配列番号172)のアミノ酸残基ならびに/またはCD16Bには存在しないCD16A(配列番号23)の残基G130および/もしくはY141を含むCD16Aのエピトープに特異的に結合する抗原結合部位によって提供され得る。
【0016】
「CD16B」は、好中球および好酸球で発現される、FcγRIIIBとしても知られる受容体CD16Bを指す。この受容体は、固定されたグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)であり、CD16B陽性免疫細胞のいかなる種類の細胞毒性活性も誘発しないと理解されている。
【0017】
「NKp46」は、腫瘍細胞溶解を媒介する活性化ナチュラルキラー(NK)細胞の効率の増加に寄与し得る細胞毒性活性化受容体を指す。NCR1またはCD335としても知られている。
【0018】
「NKG2Dは、自己腫瘍細胞およびウイルス感染細胞の表面に表示される様々な細胞ストレス誘導性リガンドに結合する際の免疫監視に関与する活性化および共刺激受容体を指す。活性化キラー(NK)細胞に刺激性および共刺激性の両方の自然免疫応答を提供し、細胞毒性活性をもたらす。T細胞の活性化を増幅することにより、CD8(+)T細胞媒介性適応免疫応答におけるT細胞受容体(TCR)の共刺激受容体として作用する。リガンド発現腫瘍細胞のパーフォリン媒介性除去を刺激する。受容体K1、KLRK1、またはCD314のようなキラー細胞レクチンとしても知られている。
【0019】
「標的細胞表面抗原」という用語は、細胞によって発現され、かつ本明細書に記載されるように抗体構築物がアクセスできるように細胞表面に存在する抗原構造を指す。それは、タンパク質、好ましくはタンパク質の細胞外部分、MHCの状況で細胞表面に提示されるペプチド(HLA-A2、HLA-A11、HLA-A24、HLA-B44、HLA-C4を含む)、または炭水化物構造、好ましくは糖タンパク質などのタンパク質の炭水化物構造であり得る。それは、好ましくは、腫瘍関連または腫瘍制限抗原である。
【0020】
本発明の文脈で定義される「二重特異性抗体構築物」という用語はまた、三重特異性抗体構築物、3つの結合ドメインを含む後者のもの、または3つを超える(例えば4つ、5つ…)特異性を有する構築物などの多重特異性抗体構築物を包含する。二重特異性または多重特異性抗体構築物の例は、例えば、WO 2006/125668、WO 2015/158636、WO 2017/064221、PCT/EP2019/056516、PCT/IB2019/053040、およびEllwanger et a.(MAbs.2019 Jul;11(5):899-918)に提供されている。
【0021】
本発明の文脈で定義される抗体構築物が(少なくとも)二重特異性であることを考えると、それらは、天然に存在せず、それらは、天然に存在する生成物とは著しく異なる。したがって、「二重特異性」抗体構築物または免疫グロブリンは、異なる特異性を有する少なくとも2つの別個の結合サイドを有する人工ハイブリッド抗体または免疫グロブリンである。二重特異性抗体構築物は、ハイブリドーマの融合またはFab’フラグメントの連結を含む種々の方法によって産生することができる。例えば、Songsivilai&Lachmann,Clin.Exp.Immunol.79:315-321(1990)を参照されたい。
【0022】
本発明の抗体構築物の少なくとも2つの結合ドメインおよび可変ドメイン(VH/VL)は、ペプチドリンカー(スペーサーペプチド)を含んでも含まなくてもよい。「ペプチドリンカー」という用語は、本発明によれば、本明細書で定義される抗体構築物のある(可変および/または結合)ドメインならびに別の(可変および/または結合)ドメインのアミノ酸配列が、互いに連結されるアミノ酸配列を含む。ペプチドリンカーを使用して、第3のドメインを本明細書で定義される抗体構築物の他のドメインに融合させることもできる。そのようなペプチドリンカーの本質的な技術的特徴は、それがいかなる重合活性も含まないことである。
【0023】
本発明の文脈で定義されるような抗体構築物は、好ましくは「インビトロで生成された抗体構築物」である。この用語は、可変領域のすべてまたは一部(例えば、少なくとも1つのCDR)は、非免疫細胞選択、例えば、インビトロファージディスプレイ、タンパク質チップ、または候補配列を抗原に結合するそれらの能力について試験することができる任意の他の方法で生成される上記の定義による抗体構築物を指す。したがって、この用語は、好ましくは、動物の免疫細胞におけるゲノム再配列によってのみ生成される配列を除外する。「組換え抗体」は、組換えDNA技術または遺伝子工学を使用して作製された抗体である。
【0024】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」(mAb)またはモノクローナル抗体構築物という用語は、実質的に均質な抗体、すなわち、集団を含む個々の抗体が、天然に存在し得る突然変異および/または少量で存在する可能性のある後翻訳修飾(例えば、異性化、アミド化)を除き、均質である抗体の集団から得られる抗体を指す。モノクローナル抗体は、非常に特異的であり、抗原上の単一の抗原サイドまたは決定基に対して向けられており、異なる決定基(またはエピトープ)に対して向けられた異なる抗体を典型的に含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的である。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養によって合成され、したがって他の免疫グロブリンによって汚染されないという点で有利である。修飾因子「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。
【0025】
モノクローナル抗体の調製には、連続細胞株培養によって産生された抗体を提供する任意の技術を使用することができる。例えば、使用されるモノクローナル抗体は、Koehler et al.,Nature,256:495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製され得るか、または組換えDNA法によって作製され得る(例えば、米国特許第4,816,567号を参照)。ヒトモノクローナル抗体を産生するためのさらなる技術の例には、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozbor,Immunology Today 4(1983),72)、およびEBV-ハイブリドーマ技術(Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.(1985),77-96)が含まれる。
【0026】
次いで、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)および表面プラズモン共鳴(BIACORE(商標))分析などの標準的な方法を使用してハイブリドーマをスクリーニングし、特定の抗原と特異的に結合する抗体を産生する1つ以上のハイブリドーマを同定することができる。関連する抗原の任意の形態、例えば、組換え抗原、天然に存在する形態、それらの任意の変異体またはフラグメント、およびそれらの抗原性ペプチドを免疫原として使用してもよい。BIAcoreシステムで用いられている表面プラズモン共鳴を使用して、標的細胞表面抗原のエピトープに結合するファージ抗体の効率を高めることができる(Schier,Human Antibodies Hybridomas 7(1996),97-105;Malmborg,J.Immunol.Methods 183(1995),7-13)。モノクローナル抗体を作製する別の例示的な方法は、タンパク質発現ライブラリー、例えば、ファージディスプレイまたはリボソームディスプレイライブラリーをスクリーニングすることを含む。ファージディスプレイは、例えば、Ladner et al.,米国特許第5,223,409号;Smith(1985)Science 228:1315-1317,Clackson et ai,Nature,352:624-628(1991)、およびMarks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991)に記載されている。
【0027】
ディスプレイライブラリーの使用に加えて、関連する抗原を使用して、非ヒト動物、例えば、げっ歯類(マウス、ハムスター、ウサギ、またはラットなど)を免疫することができる。一実施形態では、非ヒト動物は、ヒト免疫グロブリン遺伝子の少なくとも一部を含む。例えば、ヒトIg(免疫グロブリン)遺伝子座の大きなフラグメントを用いて、マウス抗体産生が欠損しているマウス系統を操ることが可能である。ハイブリドーマ技術を使用して、所望の特異性を有する遺伝子に由来する抗原特異的モノクローナル抗体を産生および選択し得る。例えば、XENOMOUSE(商標)、Green et al.(1994)Nature Genetics 7:13-21、US 2003-0070185、WO 96/34096、およびWO 96/33735を参照されたい。
【0028】
モノクローナル抗体はまた、非ヒト動物から得られ、次いで、当技術分野で知られている組換えDNA技術を使用して、修飾され、例えば、ヒト化、脱免疫化、キメラ化などされ得る。修飾抗体構築物の例には、非ヒト抗体のヒト化変異体、「親和性成熟」抗体(例えば、Hawkins et al.J.Mol.Biol.254,889-896(1992)およびLowman et al.,Biochemistry 30,10832-10837(1991)を参照)ならびにエフェクター機能(複数可)が変更された抗体変異体(例えば、米国特許第5,648,260号,Kontermann and Dubel(2010),loc.cit.and Little(2009),loc.citを参照)が含まれる。
【0029】
免疫学では、親和性成熟は、免疫応答の過程でB細胞が抗原に対する親和性が増加した抗体を産生するプロセスである。同じ抗原に繰り返し曝露されると、宿主は、より高い親和性の抗体を産生する。自然のプロトタイプのように、インビトロ親和性成熟は、突然変異および選択の原則に基づいている。インビトロ親和性成熟は、抗体、抗体構築物、および抗体フラグメントを最適化するために首尾よく使用されてきた。CDR内のランダムな変異は、放射線、化学変異原、またはエラーが発生しやすいPCRを使用して導入される。加えて、連鎖シャッフリングによって遺伝的多様性を高めることができる。ファージディスプレイのようなディスプレイ方法を使用した2~3ラウンドの突然変異および選択は、通常、低ナノモル範囲の親和性を有する抗体フラグメントをもたらす。
【0030】
抗体構築物のアミノ酸置換変異の好ましいタイプは、親抗体(例えば、ヒト化抗体またはヒト抗体)の1つ以上の超可変領域残基を置換することを伴う。一般に、さらなる開発のために選択された結果として生じる変異体(複数可)は、それらが生成される親抗体に対して改善された生物学的特性を有する。そのような置換変異体を生成するための便利な方法は、ファージディスプレイを使用した親和性成熟を伴う。簡単に言えば、いくつかの超可変領域サイド(例えば、6~7サイド)を変異させて、各サイドですべての可能なアミノ酸置換を生成する。このように生成された抗体変異体は、繊維状ファージ粒子から、各粒子内にパッケージされたM13の遺伝子III産物への融合物として一価の様式で表示される。次いで、ファージ表示された変異体は、本明細書に開示されるように、それらの生物学的活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされる。修飾のための候補超可変領域サイドを同定するために、アラニンスキャニング突然変異誘発を実行して、抗原結合に有意に寄与する超可変領域残基を同定することができる。あるいは、またはさらに、抗原-抗体複合体の結晶構造を分析して、結合ドメインと、例えば、ヒト標的細胞表面抗原との間の接触点を同定することが有益であり得る。そのような接触残基および隣接する残基は、本明細書で詳述される技術による置換の候補である。そのような変異体が生成されると、変異体のパネルは、本明細書に記載されるようにスクリーニングに供され、1つ以上の関連するアッセイにおいて優れた特性を有する抗体が、さらなる開発のために選択され得る。
【0031】
本発明のモノクローナル抗体および抗体構築物は、重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の種に由来する、または特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一または相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)を具体的に含むが、鎖(複数可)の残りは、それらが、所望の生物学的活性を示す限り、別の種に由来する、または別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体の対応する配列、ならびにそのような抗体のフラグメントと同一または相同である(米国特許第4,816,567号;Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81:6851-6855(1984))。本明細書で目的のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、オナガザル、類人猿など)に由来する可変ドメイン抗原結合配列およびヒト定常領域配列を含む「プライム化」抗体が含まれる。キメラ抗体を作製するための種々のアプローチが記載されている。例えば、Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci U.S.A.81:6851,1985;Takeda et al.,Nature 314:452,1985,Cabilly et al.,米国特許第4,816,567号;Boss et al.,米国特許第4,816,397号;Tanaguchi et al.,EP 0171496;EP 0173494;およびGB 2177096を参照されたい。
【0032】
抗体、抗体構築物、抗体フラグメント、または抗体変異体はまた、例えばWO 98/52976またはWO 00/34317に開示された方法によるヒトT細胞エピトープの特異的欠失(「脱免疫化」と呼ばれる方法)によって修飾され得る。簡単に説明すると、抗体の重鎖および軽鎖可変ドメインは、MHCクラスIIに結合するペプチドについて分析することができ;これらのペプチドは、潜在的なT細胞エピトープを表す(WO 98/52976およびWO 00/34317で定義されている)。潜在的なT細胞エピトープの検出には、「ペプチドスレッディング」と称されるコンピューターモデリングアプローチを適用でき、加えて、WO 98/52976およびWO 00/34317に記載されているように、VHおよびVL配列に存在するモチーフについてヒトMHCクラスII結合ペプチドのデータベースで検索することができる。これらのモチーフは、18の主要なMHCクラスII DRアロタイプのいずれかに結合するため、潜在的なT細胞エピトープを構成する。検出された潜在的なT細胞エピトープは、可変ドメイン中の少数のアミノ酸残基を置換することによって、または好ましくは単一のアミノ酸置換によって排除することができる。典型的には、保存的置換が行われる。限定的ではないが、しばしば、ヒト生殖細胞系抗体配列中の位置に共通のアミノ酸が使用され得る。ヒト生殖系列配列は、例えば、Tomlinson,et al.(1992)J.Mol.Biol.227:776-798;Cook、G.P.et al.(1995)Immunol.Today Vol.16(5):237-242;およびTomlinson et al.(1995)EMBO J.14:14:4628-4638に開示されている。V BASEディレクトリは、ヒト免疫グロブリン可変領域配列の包括的なディレクトリを提供する(Tomlinson,LA.et al.MRC Centre for Protein Engineering,Cambridge,UKによって編集)。これらの配列は、例えば、フレームワーク領域およびCDRのためのヒト配列の供給源として使用することができる。コンセンサスヒューマンフレームワーク領域もまた、例えば、米国特許第6,300,064号に記載されているように使用することができる。
【0033】
「ヒト化」抗体、抗体構築物、それらの変異体またはフラグメント(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2もしくは抗体の他の抗原結合サブ配列など)は、抗体またはほとんどがヒト配列の免疫グロブリンであり、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列(複数可)を含有する。大部分について、ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、レシピエントの超可変領域(CDRも)からの残基は、所望の特異性、親和性、および能力を有する、マウス、ラット、ハムスター、またはウサギなどの非ヒト(例えば、げっ歯類)種(ドナー抗体)の超可変領域からの残基によって置き換えられる。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基に置き換えられる。さらに、本明細書で使用される「ヒト化抗体」はまた、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体の性能をさらに精製および最適化するために行われる。ヒト化抗体はまた、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのそれを含み得る。さらなる詳細については、Jones et al.,Nature,321:522-525(1986);Reichmann et al.,Nature,332:323-329(1988);およびPresta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593-596(1992)を参照されたい。
【0034】
ヒト化抗体またはそのフラグメントは、抗原結合に直接関与しないFv可変ドメインの配列をヒトFv可変ドメインからの同等の配列で置き換えることによって生成することができる。ヒト化抗体またはそのフラグメントを生成するための例示的な方法は、Morrison(1985)Science 229:1202-1207;Oi et al.(1986)BioTechniques 4:214;ならびにUS 5,585,089;US 5,693,761;US 5,693,762;US 5,859,205;およびUS 6,407,213によって提供される。それらの方法は、重鎖または軽鎖のうちの少なくとも1つから免疫グロブリンFv可変ドメインのすべてまたは一部をコードする核酸配列を単離、操作、および発現することを含む。そのような核酸は、上記のように、所定の標的に対する抗体を産生するハイブリドーマから、ならびに他の供給源から得られ得る。次いで、ヒト化抗体分子をコードする組換えDNAを適切な発現ベクターにクローン化することができる。
【0035】
ヒト化抗体はまた、ヒト重鎖および軽鎖遺伝子を発現するが、内因性マウス免疫グロブリン重鎖および軽鎖遺伝子を発現することができないマウスなどのトランスジェニック動物を使用して産生され得る。Winterは、本明細書に記載のヒト化抗体を調製するために使用され得る例示的なCDRグラフト法を記載している(米国特許第5,225,539号)。特定のヒト抗体のすべてのCDRを非ヒトCDRの少なくとも一部で置き換えても、または一部のCDRのみを非ヒトCDRで置き換えてもよい。ヒト化抗体の所定の抗原への結合に必要な数のCDRを置き換えるだけでよい。
【0036】
ヒト化抗体は、保存的置換、コンセンサス配列置換、生殖細胞系列置換、および/または逆突然変異の導入によって最適化することができる。そのような変更された免疫グロブリン分子は、当技術分野で知られているいくつかの技術のいずれかによって作製することができる(例えば、Teng et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,80:7308-7312,1983;Kozbor ei a/.,Immunology Today,4:7279,1983;Olsson et al.,Meth.Enzymol.,92:3-16,1982,およびEP 239 400)。
【0037】
「ヒト抗体」、「ヒト抗体構築物」、および「ヒト結合ドメイン」という用語は、例えば、Kabat et al.(1991)(前述)によって記載されたものを含む、当技術分野で知られているヒト生殖系列免疫グロブリン配列に実質的に対応する可変および定常領域またはドメインなどの抗体領域を有する抗体、抗体構築物、および結合ドメインを含む。本発明の文脈で定義されるヒト抗体、ヒト抗体構築物、またはヒト結合ドメインは、例えば、CDR、特にCDR3で、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基を含み得る(例えば、インビトロでのランダムもしくはサイド特異的突然変異誘発またはインビボでの体細胞突然変異によって導入される突然変異)。ヒト抗体、ヒト抗体構築物、またはヒト結合ドメインは、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基で置き換えられた少なくとも1、2、3、4、5、またはそれ以上の位置を有することができる。しかしながら、本明細書で使用されるヒト抗体、ヒト抗体構築物、およびヒト結合ドメインの定義は、Xenomouseなどの技術またはシステムを使用することによって誘導することができる抗体の非人工的および/または遺伝子改変されたヒト配列のみを含む「完全ヒト抗体」も企図する。好ましくは、「完全ヒト抗体」は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基を含まない。
【0038】
いくつかの実施形態では、本明細書で定義される抗体構築物は、「単離された」または「実質的に純粋な」抗体構築物である。「単離された」または「実質的に純粋な」は、本明細書に開示される抗体構築物を説明するために使用される場合、その産生環境の成分から同定、分離、および/または回収された抗体構築物を意味する。好ましくは、抗体構築物は、その産生環境からの他のすべての成分との会合がないか、または実質的にない。組換えトランスフェクト細胞から生じるものなど、その産生環境の汚染成分は、典型的には、ポリペプチドの診断または治療用途を妨害する材料であり、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性溶質を含み得る。抗体構築物は、例えば、所与のサンプル中の総タンパク質の少なくとも約5重量%、または少なくとも約50重量%を構成し得る。単離されたタンパク質は、状況に応じて、総タンパク質含有量の5重量%~99.9重量%を構成し得ることが理解される。ポリペプチドは、誘導性プロモーターまたは高発現プロモーターを使用することにより、著しく高い濃度で作製され得、その結果、それは、増加した濃度レベルで作製される。この定義には、当技術分野で知られている多種多様な生物および/または宿主細胞における抗体構築物の産生が含まれる。好ましい実施形態では、抗体構築物は、(1)スピニングカップシーケンターを使用することによってN末端もしくは内部アミノ酸配列の少なくとも15残基を得るのに十分な程度まで、または(2)クマシーブルーもしくは、好ましくは銀染色を使用した非還元または還元条件下でのSDS-PAGEによって均質になるまで、精製される。しかしながら、通常、単離された抗体構築物は、少なくとも1つの精製ステップによって調製される。
【0039】
「結合ドメイン」という用語は、本発明に関連して、それぞれ、標的分子(抗原)上、例えば、NK細胞受容体抗原(例えば、CD16)および標的細胞表面抗原上の所与の標的エピトープまたは所与の標的サイドに対し、(特異的に)結合する/相互作用する/認識するドメインの特徴を言う。第1の結合ドメイン(例えばCD16を認識する)の構造および機能、ならびに好ましくは第2の結合ドメイン(標的細胞表面抗原を認識する)の構造および/または機能もまた、例えば、完全長または全免疫グロブリン分子の抗体の構造および/または機能に基づき、かつ/または抗体もしくはそのフラグメントの可変重鎖(VH)および/もしくは可変軽鎖(VL)ドメインから引き出される。好ましくは、第1の結合ドメインは、3つの軽鎖CDR(すなわち、VL領域のCDR1、CDR2、およびCDR3)ならびに/または3つの重鎖CDR(すなわち、VH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3)の存在によって特徴付けられる。第2の結合ドメインはまた、好ましくは、標的結合を可能にする抗体の最小構造要件を含む。より好ましくは、第2の結合ドメインは、少なくとも3つの軽鎖CDR(すなわち、VL領域のCDR1、CDR2、およびCDR3)ならびに/または3つの重鎖CDR(すなわち、VH領域のCDR1、CDR2、およびCDR3)を含む。第1および/または第2の結合ドメインは、既存の(モノクローナル)抗体からのCDR配列を足場に移植することによってではなく、ファージディスプレイもしくはライブラリースクリーニング法によって産生されるか、またはそれによって取得可能であると想定される。
【0040】
本発明によれば、結合ドメインは、1つ以上のポリペプチドの形態である。そのようなポリペプチドは、タンパク質性部分および非タンパク質性部分(例えば、化学的リンカーまたはグルタルアルデヒドなどの化学的架橋剤)を含み得る。タンパク質(そのフラグメント、好ましくは生物学的に活性なフラグメント、および通常30アミノ酸未満を有するペプチドを含む)は、共有ペプチド結合を介して互いに結合された2つ以上のアミノ酸を含む(アミノ酸の鎖をもたらす)。
【0041】
本明細書で使用される「ポリペプチド」という用語は、通常30を超えるアミノ酸からなる分子のグループを説明する。ポリペプチドはさらに、二量体、三量体、およびより高次のオリゴマーなどの多量体、すなわち、複数のポリペプチド分子からなる多量体を形成し得る。そのような二量体、三量体などを形成するポリペプチド分子は、同一または非同一であり得る。したがって、そのような多量体の対応する高次構造は、ホモ二量体またはヘテロ二量体、ホモ三量体またはヘテロ三量体などと称される。ヘテロ多量体の例は、抗体分子であり、これは、その天然に存在する形態では、2つの同一の軽ポリペプチド鎖および2つの同一の重ポリペプチド鎖からなる。「ペプチド」、「ポリペプチド」、および「タンパク質」という用語はまた、修飾が、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化などのような翻訳後修飾によって影響を受ける、天然に修飾されたペプチド/ポリペプチド/タンパク質を指す。本明細書で言及される場合の「ペプチド」、「ポリペプチド」、または「タンパク質」はまた、ペグ化など、化学的に修飾され得る。そのような修飾は、当技術分野でよく知られており、本明細書で以下に説明する。
【0042】
好ましくは、NK細胞受容体抗原に結合する結合ドメイン、例えば、CD16および/または標的細胞表面抗原に結合する結合ドメインは、ヒト結合ドメインである。少なくとも1つのヒト結合ドメインを含む抗体および抗体構築物は、非ヒト、例えばげっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、もしくはウサギ)の可変および/または定常領域などを有する抗体または抗体構築物に関連する問題のいくつかを回避する。そのようなげっ歯類由来タンパク質の存在は、抗体もしくは抗体構築物の迅速なクリアランスを引き起こす可能性があり、または患者による抗体もしくは抗体構築物に対する免疫応答の生成を引き起こす可能性がある。げっ歯類由来の抗体または抗体構築物の使用を回避するために、げっ歯類が完全ヒト抗体を産生するように、げっ歯類にヒト抗体機能を導入することにより、ヒトまたは完全ヒト抗体/抗体構築物を生成することができる。
【0043】
YACでメガベースサイズのヒト遺伝子座をクローン化して再構築し、それらをマウスの生殖細胞系列に導入することができることは、非常に大きな遺伝子座または大まかにマッピングされた遺伝子座の機能成分を解明し、ヒトの疾患の有用なモデルを生成するための強力なアプローチを提供する。さらに、マウス遺伝子座をそれらのヒト等価物で置換するためのそのような技術の使用は、開発中のヒト遺伝子産物の発現および調節、他のシステムとのそれらのコミュニケーション、ならびに疾患の誘導および進行へのそれらの関与についての独特の洞察を提供し得る。
【0044】
そのような戦略の重要な実用的な用途は、マウスの体液性免疫システムの「ヒト化」である。内因性Ig遺伝子が不活性化されたマウスへのヒト免疫グロブリン(Ig)遺伝子座の導入は、プログラムされた発現および抗体の集合の根底にあるメカニズム、ならびにB細胞の発達におけるそれらの役割を研究する機会を提供する。さらに、そのような戦略は、完全ヒトモノクローナル抗体(mAbs)-ヒトの疾患における抗体療法の約束を果たすための重要なマイルストーンの産生のための理想的な供給源を提供することができる。完全ヒト抗体または抗体構築物は、マウスまたはマウス誘導体化mAbに固有の免疫原性およびアレルギー反応を最小限に抑え、したがって、投与された抗体/抗体構築物の有効性および安全性を高めることが期待される。完全ヒト抗体または抗体構築物の使用は、反復化合物投与を必要とする炎症、自己免疫、およびがんなどの慢性および再発性のヒト疾患の治療において実質的な利点を提供することが期待できる。
【0045】
この目標に向けた1つのアプローチは、マウス抗体の非存在下でそのようなマウスがヒト抗体の大きなレパートリーを産生することを見越して、ヒトIg遺伝子座の大きなフラグメントでマウス抗体産生が不足しているマウス株を操ることであった。大きなヒトIgフラグメントは、大きな可変遺伝子の多様性ならびに抗体の産生および発現の適切な調節を維持する。抗体の多様化および選択、ならびにヒトタンパク質に対する免疫寛容の欠如のためにマウス機構を利用することにより、これらのマウス株で再現されたヒト抗体レパートリーは、ヒト抗原を含む目的の任意の抗原に対して高親和性抗体を生成するはずである。ハイブリドーマ技術を使用して、所望の特異性を有する抗原特異的ヒトmAbを容易に産生および選択することができた。この一般的な戦略は、最初のXenoMouseマウス系統の生成に関連して実証された(Green et al.Nature Genetics 7:13-21(1994)を参照)。XenoMouse株は、コア可変および定常領域配列を含有した、ヒト重鎖遺伝子座およびカッパ軽鎖遺伝子座のそれぞれ245kbおよび190kbサイズの生殖細胞系列構成フラグメントを含有する酵母人工染色体(YAC)で操った。YACを含有するヒトIgは、抗体の再配列および発現の両方でマウスシステムと互換性があり、不活化されたマウスIg遺伝子を置換することができた。これは、B細胞の発達を誘導し、完全なヒト抗体の成人のようなヒトレパートリーを産生し、かつ抗原特異的なヒトmAbを生成する能力によって実証された。これらの結果はまた、より多くのV遺伝子、追加の調節エレメント、およびヒトIg定常領域を含有するヒトIg遺伝子座のより大きな部分の導入が、感染および免疫に対するヒト体液性応答の特徴である完全なレパートリーを実質的に再現する可能性があることを示唆した。Green et al.の研究は、最近、ヒト重鎖遺伝子座およびカッパ軽鎖遺伝子座のそれぞれのメガベースサイズの生殖細胞系列構成YACフラグメントの導入を通じて、ヒト抗体レパートリーのおよそ80%を超える導入にまで拡大された。Mendez et al.Nature Genetics 15:146-156(1997)および米国特許出願第08/759,620号を参照されたい。
【0046】
XenoMouseマウスの産生については、米国特許出願第 07/466,008号、同第07/610,515号、同第07/919,297号、同第07/922,649号、同第08/031,801号、同第08/112,848号、同第08/234,145号、同第08/376,279号、同第08/430,938号、同第08/464,584号、同第08/464,582号、同第08/463,191号、同第08/462,837号、同第08/486,853号、同第08/486,857号、同第08/486,859号、同第08/462,513号、同第08/724,752号、および同第08/759,620号;ならびに米国特許第6,162,963号;同第6,150,584号;同第6,114,598号;同第6,075,181号、および同第5,939,598号、ならびに日本特許第3068180B2号、同第3068506B2号、および同第3068507B2号でさらに論じられ、描写されている。Mendez et al.Nature Genetics 15:146-156(1997)およびGreen and Jakobovits J.Exp.Med.188:483-495(1998)、EP0463151B1、WO94/02602、WO96/34096、WO98/24893、WO00/76310、およびWO03/47336も参照されたい。
【0047】
別のアプローチでは、GenPharm International,Inc.を含む他の者は、「ミニローカス」アプローチを利用している。ミニ遺伝子座アプローチでは、外因性Ig遺伝子座は、Ig遺伝子座からの断片(個々の遺伝子)を含めることによって模倣される。したがって、1つ以上のVH遺伝子、1つ以上のDH遺伝子、1つ以上のJH遺伝子、ミュー定常領域、および第2の定常領域(好ましくはガンマ定常領域)は、動物に挿入するための構築物に形成される。このアプローチは、Surani et al.に対する米国特許第5,545,807号、ならびにLonbergおよびKayに対する米国特許第5,545,806号;同第5,625,825号;同第5,625,126号;同第5,633,425号;同第5,661,016号;同第5,770,429号;同第5,789,650号;同第5,814,318号;同第5,877,397号;同第5,874,299号;および同第6,255,458号、KrimpenfortおよびBernsに対する米国特許第5,591,669号および同第6,023.010号、Berns et al.に対する米国特許第5,612,205号;同第5,721,367号;および同第5,789,215号、ならびにChoiおよびDunnに対する米国特許第5,643,763号、ならびにGenPharm Internationalの米国国際特許出願第07/574,748号、同第07/575,962号、同第07/810,279号、同第07/853,408号、同第07/904,068号、同第07/990,860号、同第08/053,131号、同第08/096,762号、同第08/155,301号、同第08/161,739号、同第08/165,699号、同第08/209,741号に記載されている。EP0546073B1、WO92/03918、WO92/22645、WO92/22647、WO92/22670、WO93/12227、WO94/00569、WO94/25585、WO96/14436、WO97/13852、およびWO98/24884、ならびに米国特許第5,981,175号も参照されたい。さらに、Taylor et al.(1992)、Chen et al.(1993)、Tuaillon et al.(1993)、Choi et al.(1993)、Lonberg et al.(1994)、Taylor et al.(1994)、およびTuaillon et al.(1995)、Fishwild et al.(1996)を参照されたい。
【0048】
キリンはまた、マイクロセル融合によって、染色体の大きな断片、または染色体全体が導入されたマウスからのヒト抗体の生成を実証した。欧州特許出願第773288号および同第843961号を参照されたい。Xenerex Biosciencesは、ヒト抗体の潜在的な生成のための技術を開発している。この技術では、SCIDマウスは、ヒトリンパ細胞、例えばB細胞および/またはT細胞で再構成される。次いで、マウスは、抗原で免疫され、抗原に対する免疫応答を生成することができる。米国特許第5,476,996号;同第5,698,767号;および同第5,958,765号を参照されたい。
【0049】
ヒト抗マウス抗体(HAMA)応答により、業界はキメラ抗体または他のヒト化抗体を調製するようになった。しかしながら、特に抗体の慢性的または複数回投与の利用においては、特定のヒト抗キメラ抗体(HACA)応答が観察されることが予測される。したがって、HAMAまたはHACA応答の懸念および/または影響を無効にするために、標的細胞表面抗原に対するヒト結合ドメインおよびCD16に対するヒト結合ドメインを含む抗体構築物を提供することが望ましい。
【0050】
「(特異的に)結合する」、(特異的に)認識する」、「(特異的に)向けられる」、および「(特異的に)反応する」という用語は、本発明によれば、結合ドメインが、標的分子(抗原)上の所与のエピトープまたは所与の標的サイド、ここでは、それぞれNK細胞受容体(例えば、CD16a)および標的細胞表面抗原と相互作用するか、または特異的に相互作用することを意味する。
【0051】
「エピトープ」という用語は、抗体もしくは免疫グロブリンなどの結合ドメイン、または抗体または免疫グロブリンの誘導体、フラグメント、もしくは変異体が特異的に結合する抗原上のサイドを指す。「エピトープ」は、抗原性であり、したがって、エピトープという用語は、本明細書では「抗原性構造」または「抗原性決定基」と呼ばれることもある。したがって、結合ドメインは、「抗原相互作用サイド」である。前記結合/相互作用はまた、「特異的認識」を定義すると理解される。
【0052】
「エピトープ」は、タンパク質の三次フォールディングによって並置された隣接アミノ酸または非隣接アミノ酸の両方によって形成することができる。「線状エピトープ」は、アミノ酸の一次配列が認識されたエピトープを含むエピトープである。線状エピトープは、典型的には、固有の配列中に少なくとも3つまたは少なくとも4つ、より通常には、少なくとも5つまたは少なくとも6つまたは少なくとも7つ、例えば、約8~約10個のアミノ酸を含む。
【0053】
「立体配座エピトープ」は、線状エピトープとは対照的に、エピトープを含むアミノ酸の一次配列が認識されるエピトープの唯一の定義成分ではないエピトープである(例えば、アミノ酸の一次配列が必ずしも結合ドメインによって認識されるとは限らない)。典型的には、立体配座エピトープは、線状エピトープに対して増加した数のアミノ酸を含む。立体配座エピトープの認識に関して、結合ドメインは、抗原の三次元構造、好ましくはペプチドもしくはタンパク質またはそれらのフラグメントを認識する(本発明の文脈において、結合ドメインのうちの1つの抗原構造は、標的細胞表面抗原タンパク質内に含まれている)。例えば、タンパク質分子が折りたたまれて三次元構造を形成する場合、特定のアミノ酸および/または立体配座エピトープを形成するポリペプチド骨格が並置され、抗体がエピトープを認識できるようになる。エピトープの立体配座を決定する方法には、X線結晶構造解析、二次元核磁気共鳴(2D-NMR)分光法、ならびに部位特異的スピン標識および電子常磁性共鳴(EPR)分光法が含まれるが、これらに限定されない。
【0054】
結合ドメインとエピトープまたはエピトープを含む領域との間の相互作用は、結合ドメインがエピトープ/特定のタンパク質または抗原(ここでは、それぞれNK細胞受容体(例えば、CD16a)および標的細胞表面抗原)上のエピトープを含む領域に対してかなりの親和性を示し、一般に、NK細胞受容体、例えばCD16a、および標的細胞表面抗原以外のタンパク質または抗原との有意な反応性を示さないことを含意する。「かなりの親和性」には、約106M(KD)以上の親和性での結合が含まれる。好ましくは、結合親和性が約10-12~10-8M、10-12~10-9M、10-12~10-10M、10-11~10-8M、好ましくは約10-11~10-9Mの場合、結合は特異的であると見なされる。結合ドメインが標的と特異的に反応するか、または結合するかどうかは、とりわけ、前記結合ドメインと標的タンパク質または抗原との反応を、前記結合ドメインとNK細胞受容体(例えば、CD16a)および標的細胞表面抗原以外のタンパク質または抗原との反応と比較することによって容易に試験することができる。好ましくは、本発明の文脈で定義される結合ドメインは、NK細胞受容体、例えばCD16a、および標的細胞表面抗原以外のタンパク質または抗原、に本質的または実質的に結合しない(すなわち、第1の結合ドメインは、NK細胞受容体、例えばCD16a以外のタンパク質に結合することができず、第2の結合ドメインは、標的細胞表面抗原以外のタンパク質に結合することができない)。
【0055】
「本質的に/実質的に結合しない」または「結合することができない」という用語は、本発明の結合ドメインが、NK細胞受容体(例えば、CD16a)および標的細胞表面抗原以外のタンパク質または抗原に結合しない、すなわち、NK細胞受容体(例えば、CD16a)および標的細胞表面抗原以外のタンパク質または抗原に対して、30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、特に好ましくは9%、8%、7%、6%、または5%以下の反応性を示さないことを意味し、それにより、NK細胞受容体(例えば、CD16a)および標的細胞表面抗原への結合は、それぞれ、100%に設定される。
【0056】
特異的結合は、結合ドメインのアミノ酸配列および抗原の特定のモチーフによって影響を受けると考えられている。したがって、結合は、それらの一次、二次、および/または三次構造の結果として、ならびに前記構造の二次修飾の結果として達成される。抗原相互作用サイドとその特定の抗原との特異的相互作用は、前記サイドの抗原への単純な結合をもたらし得る。さらに、抗原相互作用サイドとその特定の抗原との特異的相互作用は、代替的または追加的に、例えば、抗原の立体配座の変化の誘導、抗原のオリゴマー化などのために、シグナルの開始をもたらし得る。
【0057】
「可変」という用語は、それらの配列に変動性を示し、特定の抗体の特異性および結合親和性の決定に関与する抗体または免疫グロブリンドメインの部分(すなわち、「可変ドメイン(複数可)」)を指す。可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)のペアリングは、一緒に単一の抗原結合サイドを形成する。
【0058】
変動性は、抗体の可変ドメイン全体に均等に分布しない;これは、重鎖および軽鎖の各可変領域のサブドメインに集中している。これらのサブドメインは、「超可変領域」または「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる。可変ドメインのより保存された(すなわち、非超可変)部分は、「フレームワーク」領域(FRMまたはFR)と呼ばれ、抗原結合表面を形成するための三次元空間における6つのCDRのための足場を提供する。天然に存在する重鎖および軽鎖の可変ドメインは、それぞれ4つのFRM領域(FR1、FR2、FR3、およびFR4)を含み、主にβシート構造を採用し、3つの超可変領域によって接続され、3つの超可変領域はβ-シート構造に接続し、場合によってはβシート構造の一部を形成するループを形成する。各鎖の超可変領域は、FRMによって近接して一緒に保持され、他の鎖からの超可変領域とともに、抗原結合サイドの形成に寄与する(Kabat et al.前述を参照)。
【0059】
「CDR」という用語およびその複数の「CDRs」は、3つが軽鎖可変領域(CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3)の結合特性を構成し、3つが重鎖可変領域(CDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3)の結合特性を構成する相補性決定領域を指す。CDRは、抗体と抗原との特異的相互作用に関与する残基のほとんどを含有し、したがって抗体分子の機能的活性に寄与する:それらは、抗原特異性の主な決定基である。
【0060】
CDRの境界および長さの正確な定義には、様々な分類および番号付けシステムが適用される。したがって、CDRは、Kabat,Chothia,contactまたは本明細書に記載の番号付けシステムを含むその他の境界定義によって参照され得る。境界が異なるにもかかわらず、これらのシステムのそれぞれは、可変配列内のいわゆる「超可変領域」を構成するものにある程度の重複を有する。したがって、これらのシステムによるCDR定義は、隣接するフレームワーク領域に関して長さおよび境界領域が異なってもよい。例えば、Kabat(異種間配列可変性に基づくアプローチ)、Chothia(抗原-抗体複合体の結晶学的研究に基づくアプローチ)、ならびに/またはMacCallumを参照されたい(Kabat et al.,loc.cit;Chothia et al.,J.Mol.Biol,1987,196:901-917;およびMacCallum et al.,J.Mol.Biol,1996,262:732)。抗原結合サイドを特徴付けるためのさらに別の標準は、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって使用されるAbM定義である。例えば、Protein Sequence and Structure Analysis of Antibody Variable Domains.In:Antibody Engineering Lab Manual(Ed.:Duebel、S.およびKontermann,R.,Springer-Verlag,Heidelberg)を参照されたい。2つの残基同定技術を組み合わせて、重複する領域を定義するが同一の領域は定義しない程度までは、ハイブリッドCDRを定義することができる。しかしながら、いわゆるKabatシステムに従った番号付けが好ましい。
【0061】
典型的には、CDRは、カノニカル構造として分類することができるループ構造を形成する。「カノニカル構造」という用語は、抗原結合(CDR)ループによって採用される主鎖立体配座を指す。比較構造研究から、6つの抗原結合ループのうち5つは、利用可能な立体配座の限られたレパートリーしか有さないことが見出された。各カノニカル構造は、ポリペプチド骨格のねじれ角によって特徴付けることができる。したがって、抗体間の対応するループは、ループのほとんどの部分で高いアミノ酸配列の変動性にもかかわらず、非常に類似した三次元構造を有し得る(ChothiaおよびLesk,J.Mol.Biol.,1987,196:901;Chothia et al.,Nature,1989,342:877;MartinおよびThornton,J.Mol.Biol,1996,263:800)。さらに、採用されたループ構造とそれを取り巻くアミノ酸配列との間には関係がある。特定のカノニカルクラスの立体配座は、ループの長さならびにループ内および保存されたフレームワーク内(つまり、ループの外側)の重要な位置にあるアミノ酸残基によって決定される。したがって、特定のカノニカルクラスへの割り当ては、これらの重要なアミノ酸残基の存在に基づいて行うことができる。
【0062】
「カノニカル構造」という用語はまた、例えば、Kabatによってカタログ化されたように(Kabat et al.前述)、抗体の線形配列に関する考慮事項を含み得る。Kabatの番号付けスキーム(システム)は、抗体可変ドメインのアミノ酸残基に一貫した方法で番号付けするために広く採用されている標準であり、本発明の他の場所でも言及されているように、本発明に適用される好ましいスキームである。追加の構造上の考慮事項を使用して、抗体のカノニカル構造を決定することもできる。例えば、Kabatの番号付けによって完全には反映されていないこれらの違いは、Chothia et al.の番号付けシステムによって説明でき、かつ/または結晶学および二次元もしくは三次元の計算モデリングなどの他の手法によって明らかになる。したがって、所与の抗体配列は、とりわけ、適切なシャーシ配列を同定することを可能にするカノニカルクラスに配置され得る(例えば、ライブラリーに種々のカノニカル構造を含めたいという願望に基づいて)。Chothia et al.前述によって記載されている抗体アミノ酸配列のKabat番号付けおよび構造上の考慮事項、ならびに抗体構造のカノニカルな側面を解釈するためのそれらの意味は、文献に記載されている。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元構成は、当技術分野でよく知られている。抗体構造のレビューについては、Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,eds.Harlow et al.,1988を参照されたい。免疫情報学の世界的な参考文献は、IMGT(国際イムノジェネティクス情報システム)の三次元(3D)構造データベースである(Ehrenmann et al.,2010,Nucleic Acids Res.,38、D301-307)。IMGT/3D構造-DB構造データは、Protein Data Bank(PDB)から抽出され、内部ツールを使用して、分類のIMGT概念に従って注釈が付けられる。したがって、IMGT/3D構造-DBは、これらの配列をIMGTドメイン参照ディレクトリと整列させることによって、3D構造のアミノ酸配列で発現される最も近い遺伝子および対立遺伝子を提供する。このディレクトリは、抗原受容体について、定常遺伝子によってコードされるドメインのアミノ酸配列ならびに生殖細胞系列変数および結合遺伝子の翻訳を含有する。アミノ酸配列のCDR領域を、好ましくは、IMGT/3D構造データベースを使用して決定した。
【0063】
軽鎖のCDR3、および特に重鎖のCDR3は、軽鎖および重鎖の可変領域内での抗原結合における最も重要な決定基を構成し得る。いくつかの抗体構築物では、重鎖CDR3は、抗原と抗体との間の主要な接触領域を構成しているように見える。CDR3のみを変動させるインビトロ選択スキームを使用して、抗体の結合特性を変動させ、またはどの残基が抗原の結合に寄与するかを決定することができる。したがって、CDR3は、典型的には、抗体結合サイド内の分子多様性の最大の源である。例えば、H3は、2アミノ酸残基程度の短さ、または26アミノ酸を超え得る。
【0064】
古典的な完全長抗体または免疫グロブリンでは、各軽(L)鎖は、1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖(H)鎖に結合し、2つのH鎖は、H鎖アイソタイプに依存する1つ以上のジスルフィド結合によって互いに結合される。VHに最も近いCHドメインは、通常CH1と示される。定常(「C」)ドメインは、抗原結合に直接関与していないが、抗体依存性、細胞媒介性細胞傷害、補体活性化などの様々なエフェクター機能を示す。抗体のFc領域は、重鎖定常ドメイン内に含まれ、例えば、細胞表面に位置するFc受容体と相互作用することができる。
【0065】
組み立ておよび体細胞変異後の抗体遺伝子の配列は、非常に多様であり、これらの多様な遺伝子は、1010の異なる抗体分子をコードすると推定されている(Immunoglobulin Genes,2nd ed.,eds.Jonio et al.,Academic Press,San Diego,CA,1995)。したがって、免疫系は、免疫グロブリンのレパートリーを提供する。「レパートリー」という用語は、少なくとも1つの免疫グロブリンをコードする少なくとも1つの配列に全体的または部分的に由来する少なくとも1つのヌクレオチド配列を指す。配列(複数可)は、重鎖のV、D、およびJセグメント、ならびに軽鎖のVおよびJセグメントのインビボでの再配列によって生成され得る。あるいは、配列(複数可)は、再配列が、例えば、インビトロ刺激で起こることに応答して、細胞から生成することができる。あるいは、配列(複数可)の一部またはすべては、DNAスプライシング、ヌクレオチド合成、突然変異誘発、および他の方法によって得られ得、例えば、米国特許第5,565,332号を参照されたい。レパートリーは、1つの配列のみを含み得るか、または遺伝的に多様なコレクション中のものを含む複数の配列を含み得る。
【0066】
本発明の文脈で定義される抗体構築物はまた、例えば、分子の単離に役立つか、または分子の適合された薬物動態プロファイルに関連する追加のドメインを含み得る。抗体構築物の単離に役立つドメインは、ペプチドモチーフまたは二次的に導入された部分から選択され得、これは、単離方法、例えば、単離カラムにおいて捕捉することができる。そのような追加のドメインの非限定的な実施形態は、Mycタグ、HATタグ、HAタグ、TAPタグ、GSTタグ、キチン結合ドメイン(CBDタグ)、マルトース結合タンパク質(MBPタグ)、Flagタグ、Strepタグ、およびそれらの変異体(例えば、Strepllタグ)、ならびにHisタグとして知られるペプチドモチーフを含む。同定されたCDRを特徴とする本明細書に開示されるすべての抗体構築物は、Hisタグドメインを含み得、これは、分子のアミノ酸配列における連続するHis残基、好ましくは5つ、より好ましくは6つのHis残基(ヘキサヒスチジン)の繰り返しとして一般に知られている。Hisタグは、例えば、抗体構築物のN末端またはC末端に位置し得、好ましくは、C末端に位置する。最も好ましくは、ヘキサヒスチジンタグ(HHHHHH)(配列番号25)は、ペプチド結合を介して、本発明による抗体構築物のC末端に連結されている。さらに、PLGA-PEG-PLGAの共役システムは、徐放性適用および改善された薬物動態プロファイルのためにポリヒスチジンタグと組み合わせてもよい。
【0067】
本明細書に記載の抗体構築物のアミノ酸配列修飾もまた企図される。例えば、抗体構築物の結合親和性および/または他の生物学的特性を改善することが望ましい場合がある。抗体構築物のアミノ酸配列変異体は、適切なヌクレオチド変化を抗体構築物の核酸に導入することによって、またはペプチド合成によって調製される。以下に説明するすべてのアミノ酸配列修飾は、修飾されていない親分子の所望の生物学的活性(NK細胞受容体(例えば、CD16a)および標的細胞表面抗原への結合)を依然として保持する抗体構築物をもたらすべきである。
【0068】
「アミノ酸」または「アミノ酸残基」という用語は、典型的には、アラニン(AlaまたはA);アルギニン(ArgまたはR);アスパラギン(AsnまたはN);アスパラギン酸(AspまたはD);システイン(CysまたはC);グルタミン(GinまたはQ);グルタミン酸(GluまたはE);グリシン(GlyまたはG);ヒスチジン(HisまたはH);イソロイシン(HeまたはI):ロイシン(LeuまたはL);リシン(LysまたはK);メチオニン(MetまたはM);フェニルアラニン(PheまたはF);プロライン(ProまたはP);セリン(SerまたはS);スレオニン(ThrまたはT);トリプトファン(TrpまたはW);チロシン(TyrまたはY);およびバリン(ValまたはV)からなる群から選択されるアミノ酸などの当技術分野で認められている定義を有するアミノ酸を指すが、修飾、合成、または希少アミノ酸を必要に応じて使用してもよい。一般に、アミノ酸は、非極性側鎖(例えば、Ala、Cys、He、Leu、Met、Phe、Pro、Val);負に帯電した側鎖(例えば、Asp、Glu);正に帯電した側鎖(例えば、Arg、His、Lys);または非荷電極性側鎖(例えば、Asn、Cys、Gin、Gly、His、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、およびTyr)を有するものとしてグループ化することができる。
【0069】
アミノ酸修飾には、例えば、抗体構築物のアミノ酸配列内の残基からの欠失、および/またはその挿入、および/またはその置換が含まれる。最終構築物が所望の特性を有するという条件で、削除、挿入、および置換の任意の組み合わせが行われて、最終構築物に到達する。アミノ酸の変化はまた、グリコシル化部位の数または位置の変化などの抗体構築物の翻訳後プロセスを変更する場合がある。
【0070】
例えば、1、2、3、4、5、または6つのアミノ酸は、(もちろん、それらの長さに応じて)各CDRにおいて挿入、置換、または削除され得るが、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、または25個のアミノ酸は、各FRにおいて挿入、置換、または削除され得る。好ましくは、抗体構築物へのアミノ酸配列挿入は、長さが1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の残基~100以上の残基を含有するポリペプチドの範囲のアミノ末端融合物および/またはカルボキシル末端融合物、ならびに単一または複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。対応する修飾はまた、本発明の文脈で定義された抗体構築物の第3のドメイン内で実行され得る。本発明の文脈で定義される抗体構築物の挿入変異体は、酵素の抗体構築物のN末端もしくはC末端への融合、またはポリペプチドへの融合を含む。
【0071】
置換突然変異誘発について最も関心のある部位には、重鎖および/または軽鎖、特に超可変領域のCDRが含まれるが(ただしこれらに限定されない)、重鎖および/または軽鎖におけるFR変更も企図される。置換は、本明細書に記載されるような保存的置換であることが好ましい。好ましくは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のアミノ酸は、CDRで置換され得、一方、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、または25個のアミノ酸は、CDRもしくはFRの長さに応じて、フレームワーク領域(FR)で置換され得、CDR配列が6個のアミノ酸を包含する場合、これらのアミノ酸のうちの1つ、2つ、または3つが置換されることが想定される。同様に、CDR配列が15個のアミノ酸を包含する場合、これらのアミノ酸のうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つが置換されることが想定される。
【0072】
突然変異誘発のための好ましい場所である抗体構築物の特定の残基または領域を同定するための有用な方法は、Cunningham and Wells in Science,244:1081-1085(1989)によって記載されているように「アラニンスキャニング突然変異誘発」と呼ばれる。ここで、抗体構築物内の残基または標的残基のグループが同定され(例えば、arg、asp、his、lys、およびgluなどの荷電残基)、中性または負に荷電したアミノ酸(最も好ましくはアラニンもしくはポリアラニン)によって置き換えられ、アミノ酸のエピトープとの相互作用に影響を与える。
【0073】
次いで、置換に対する機能的感受性を実証するこれらのアミノ酸の場所は、置換部位に、または置換部位のために、さらなる、または他の変異体を導入することによって精製される。したがって、アミノ酸配列変異を導入するための部位または領域は、事前に決定されているが、突然変異自体の性質は、事前に決定される必要はない。例えば、所与の部位での突然変異の性能を分析または最適化するために、アラニンスキャニングまたはランダム突然変異誘発を標的コドンまたは領域で実施し得、発現された抗体構築物変異体は、所望の活性の最適な組み合わせについてスクリーニングされる。知られた配列を有するDNAの所定の部位で置換突然変異を行うための技術、例えば、M13プライマー突然変異誘発およびPCR突然変異誘発は、よく知られている。変異体のスクリーニングは、NK細胞受容体(例えば、CD16a)および標的細胞表面抗原結合などの抗原結合活性のアッセイを使用して行われる。
【0074】
一般に、アミノ酸が重鎖および/または軽鎖のCDRのうちの1つ以上またはすべてで置換されている場合、その時点で得られる「置換」配列は、「元の」CDR配列に対して少なくとも60%または65%、より好ましくは70%または75%、さらにより好ましくは80%または85%、特に好ましくは90%または95%の同一であることが好ましい。これは、「置換」配列とどの程度同一であるかは、CDRの長さに依存することを意味する。例えば、5つのアミノ酸を有するCDRは、置換された少なくとも1つのアミノ酸を有するために、その置換された配列に対して80%の同一であることが好ましい。したがって、抗体構築物のCDRは、それらの置換された配列に対して異なる程度の同一性を有し得、例えば、CDRL1は、80%を有し得、一方、CDRL3は、90%を有し得る。
【0075】
好ましい置換(または置き換え)は、保存的置換である。しかしながら、抗体構築物が、第1のドメインを介して、NK細胞受容体、例えば、CD16aに、および第2ドメインを介して標的細胞表面抗原に結合するその能力を保持し、かつ/またはそのCDRがその時点で置換された配列と同一性を有する限り(「元の」CDR配列に対して少なくとも60%または65%、より好ましくは70%または75%、さらにより好ましくは80%または85%、特に好ましくは90%または95%同一である)、任意の置換(非保存的置換または以下の表3にリストされた「例示的置換」からの1つ以上を含む)が想定される。
【0076】
保存的置換は、表1の「優先置換」の見出しの下に示されている。そのような置換が生物学的活性の変化をもたらす場合、その場合は、表1の「例示的な置換」と命名される、またはアミノ酸クラスに関して以下にさらに説明されるようなより実質的な変化が導入され得、生成物は、所望の特性についてスクリーニングされる。
【表1】
【0077】
本発明の抗体構築物の生物学的特性における実質的な修飾は、(a)例えば、シートもしくはらせん構造としての、置換のエリアにおけるポリペプチド骨格の構造、(b)標的部位での分子の電荷もしくは疎水性、または(c)側鎖の大部分、を維持することに対するそれらの効果が著しく異なる置換を選択することによって達成される。天然に存在する残基は、一般的な側鎖の特性に基づいて以下のグループに分類される:(1)疎水性:ノルロイシン、met、ala、val、leu、ile;(2)中性親水性:cys、ser、thr、asn、gin;(3)酸性:asp、glu;(4)塩基性:his、lys、arg;(5)鎖の配向に影響を与える残基:gly、pro;および(6)芳香族:trp、tyr、phe。
【0078】
非保存的置換では、これらのクラスの1つのメンバーを別のクラスに交換する必要がある。抗体構築物の適切な立体配座の維持に関与しない任意のシステイン残基は、分子の酸化安定性を改善し、異常な架橋を防ぐために、一般にセリンで置換され得る。逆に、システイン結合(複数可)を抗体に加えて、その安定性を改善し得る(特に、抗体がFvフラグメントなどの抗体フラグメントである場合)。
【0079】
アミノ酸配列の場合、配列同一性および/または類似性は、SmithおよびWatermanの局所配列同一性アルゴリズム、1981、Adv.Appl.Math.2:482、NeedlemanおよびWunschの配列同一性アラインメントアルゴリズム、1970、J.Mol.Biol.48:443、PearsonおよびLipmanの類似性法の検索、1988、Proc.Nat.Acad.Sci.USA.85:2444、これらのアルゴリズムのコンピューター化された実装(GAP,BESTFIT,FASTA,and TFASTA in the Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wis.)、Devereux et al.,によって記載されたベストフィットシーケンスプログラム、1984、Nucl.Acid Res.12:387-395を含むがこれらに限定されない、当技術分野で知られている標準技術を、好ましくは、デフォルト設定を使用するか、または検査によって使用することで、決定される。好ましくは、同一性パーセントは、以下のパラメータに基づいてFastDBによって計算される:1のミスマッチペナルティ;1のギャップペナルティ;0.33のギャップサイズペナルティ;および30の結合ペナルティ、「Current Methods in Sequence Comparison and Analysis」、Macromolecule Sequencing and Synthesis,Selected Methods and Applications,pp127-149(1988),Alan R.Liss、Inc。
【0080】
有用なアルゴリズムの例はPILEUPである。PILEUPは、プログレッシブペアワイズアラインメントを使用して、関連するシーケンスのグループからマルチプルアラインメントを作成する。また、アラインメントを作成するために使用されるクラスタリング関係を示すツリーをプロットすることもできる。PILEUPは、Feng&Doolittle,1987,J.Mol.Evol.35:351-360のプログレッシブ・アライメント法の簡略化を使用し;この方法は、HigginsおよびSharp,1989,CABIOS 5:151-153によって説明されている方法と類似している。デフォルトのギャップの重み3.00、デフォルトのギャップの長さの重み0.10、および重み付きエンドギャップを含む有用なPILEUPパラメータ。
【0081】
有用なアルゴリズムの別の例は、以下に記載されたBLASTアルゴリズムである:Altschul et al.,1990,J.Mol.Biol.215:403-410;Altschul et al.,1997,Nucleic Acids Res.25:3389-3402;およびKarin et al.,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:5873-5787。特に有用なBLASTプログラムは、Altschul et al.,1996,Methods in Enzymology 266:460-480から得たWU-BLAST-2プログラムである。WU-BLAST-2は、いくつかの検索パラメータを使用し、そのほとんどは、デフォルト値に設定されている。調整可能なパラメータは、以下の値で設定される:オーバーラップスパン=1、オーバーラップフラクション=0.125、ワードしきい値(T)=ll。HSPSおよびHSPS2パラメータは、動的な値であり、特定のシーケンスの構成および対象のシーケンスが検索される特定のデータベースの構成に応じて、プログラム自体によって確立されるが、感度を上げるために値を調整してもよい。
【0082】
Altschul et al.,1993,Nucl.Acids Res.25:3389-3402によって報告されているように、追加の有用なアルゴリズムは、ギャップ付きBLASTである。ギャップ付きBLASTは、BLOSUM-62置換スコアを使用し;しきい値Tパラメータを9に設定し;ギャップのない拡張を誘発する2ヒット方式では、ギャップ長kに10+kのコストを課し;Xuは、16に設定され、Xgは、データベース検索段階で40に設定され、アルゴリズムの出力段階で67に設定される。ギャップ付きアラインメントは、約22ビットに対応するスコアによって誘発される。
【0083】
一般に、個々の変異体CDRまたはVH/VL配列間のアミノ酸相同性、類似性、または同一性は、本明細書に示される配列に対して少なくとも60%であり、より典型的には、少なくとも65%または70%、より好ましくは少なくとも75%または80%、さらにより好ましくは少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、およびほぼ100%の好ましくは増加した相同性または同一性を有する。同様に、本明細書で同定された結合タンパク質の核酸配列に関する「パーセント(%)核酸配列同一性」は、抗体構築物のコード配列のヌクレオチド残基と同一である候補配列中のヌクレオチド残基のパーセンテージとして定義される。特定の方法は、デフォルトのパラメータに設定されたWU-BLAST-2のBLASTNモジュールを利用し、オーバーラップスパンおよびオーバーラップフラクションをそれぞれ1および0.125に設定する。
【0084】
一般に、個々の変異体CDRまたはVH/VL配列をコードするヌクレオチド配列と本明細書に示されるヌクレオチド配列との間の核酸配列の相同性、類似性、または同一性は、少なくとも60%であり、より典型的には、少なくとも65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%、およびほぼ100%の好ましくは増加した相同性または同一性を有する。したがって、「変異体CDR」または「変異体VH/VL領域」は、本発明の文脈で定義された親CDR/VH/VLに対して特定の相同性、類似性、または同一性を有するものであり、これらに限定されないが、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の親CDRまたはVH/VLの特異性および/または活性を含む生物学的機能を共有する。
【0085】
一実施形態では、本発明による抗体構築物のヒト生殖系列に対する同一性のパーセンテージは、70%以上もしくは75%以上、より好ましくは80%以上もしくは85%以上、さらにより好ましくは90%以上、および最も好ましくは91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、またはさらには96%以上である。ヒト抗体生殖細胞系遺伝子産物に対する同一性は、治療中に患者の薬物に対する免疫応答を誘発する治療用タンパク質のリスクを低減するための重要な特徴であると考えられている。Hwang&Foote(「Immunogenicity of engineered antibodies」;方法36(2005)3-10)は、薬物抗体構築物の非ヒト部分の減少が、治療中に患者に抗薬物抗体を誘導するリスクの減少につながることを実証する。臨床的に評価された抗体薬物およびそれぞれの免疫原性データの網羅的な数値を比較することにより、タンパク質の免疫原性が、V領域がヒト化された抗体(患者の平均5.1%)では、未変更の非ヒトV領域を持つ抗体(患者の平均23.59%)よりも、低くなる傾向が示されている。したがって、抗体構築物の形態のV領域ベースのタンパク質治療には、ヒト配列に対するより高度な同一性が望ましい。生殖細胞の同一性を決定するこの目的のために、VLのV領域は、ベクターNTIソフトウェアおよび同一のアミノ酸残基をパーセント単位のVLのアミノ酸残基の総数で割ることによって計算されたアミノ酸配列を使用して、ヒト生殖細胞系のVセグメントおよびJセグメント(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)のアミノ酸配列と整列させることができる。VH CDR3は、その多様性が高く、既存のヒト生殖細胞系列VH CDR3アラインメントパートナーがないため、除外され得るという点を除いて、VHセグメント(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)についても同じであり得る。次いで、組換え技術を使用して、ヒト抗体生殖系列遺伝子に対する配列同一性を高めることができる。
【0086】
「骨髄腫細胞」という用語は、腫瘍性形質転換によって骨髄の形質細胞から生じる悪性(がん性)形質細胞である。骨髄腫では、悪性形質細胞は、感染と戦う能力を欠く異常な抗体を大量に産生する。これらの異常な抗体は、骨髄腫の腫瘍マーカーとして機能する、いわゆるモノクローナルタンパク質またはMタンパク質である。骨髄腫細胞の表現型は、CD19-/CD38+/CD138+/BCMA+である。したがって、CD38、CD138、およびBCMAは、骨髄腫細胞で発現する抗原を表す。CD19/CD20/CD22/BCMAおよび他の抗原に陽性であるB細胞系統の悪性表現型も含まれる(これには、形質細胞として古典的に理解されていないが、メモリーB細胞または前形質細胞系統からの進化であり得る表現型が含まれるべきである)。
【0087】
「EGFR」という用語は、上皮成長因子受容体(ヒトにおけるEGFR;ErbB-1;HER1を指し、活性化、突然変異を伴って記載され、病態生理学的プロセスに関係するすべてのアイソフォームまたは変異体を含む。EGFR抗原結合部位は、EGFRの細胞外ドメインのエピトープを認識する。特定の実施形態では、抗原結合部位は、ヒトおよびカニクイザルEGFRに特異的に結合する。上皮成長因子受容体(EGFR)は、受容体型チロシンキナーゼのHERファミリーのメンバーであり、4つのメンバー:EGFR(ErbB1/HER1)、HER2/neu(ErbB2)、HER3(ErbB3)、およびHER4(ErbB4)からなる。リガンド結合(例えば、EGF、TGFa、HB-EGF、ニューレグリン、ベータセルリン、アンフィレグリン)による受容体の刺激は、チロシンリン酸化を通して細胞内ドメインの内因性受容体チロシンキナーゼを活性化し、HERファミリーメンバーとの受容体ホモ二量体化またはヘテロ二量体化を促進する。これらの細胞内ホスホチロシンは、SHC、GRB2、PLCg、およびPI(3)K/Aktを含む様々なアダプタータンパク質または酵素のドッキングサイトとして役割を果たし、細胞増殖、血管新生、アポトーシス抵抗性、浸潤、および転移に影響を与える多くのシグナル伝達カスケードを同時に開始する。
【0088】
MFIは、蛍光強度の中央値を定義する。
【発明を実施するための形態】
【0089】
したがって、第1の態様では、本発明は、凍結する前に抗体構築物がプレロードされた、凍結保存状態の単離されたヒトNK細胞であって、抗体構築物が、免疫エフェクター細胞の細胞表面上のNK細胞受容体抗原に結合する少なくとも第1の結合ドメインならびに標的細胞の細胞表面上の細胞表面抗原に結合する第2の結合ドメインを含む、ヒトNK細胞を提供する。
【0090】
さらに、別の態様では、本発明は、凍結保存状態からそのような抗体構築物がプレロードされたそのような生存可能なヒトNK細胞を再構成/調製するための方法を提供する。
【0091】
今日の時点で、既製の製品(同種異系)は、個別の(自家)アプローチよりもはるかに遅れている。自家細胞移植は、臨床的に検証されているが、細胞製品の製造は、一人の患者ごとに確立する必要がある。個別化された産生は、最適化のための異なる戦略が追求されているにもかかわらず、細胞の単離、拡張、および調製に7~14日を必要とする。1つの制限は、一部の患者にとって、彼らの免疫細胞の自家拡張では十分な数の細胞が得られないことである。加えて、がん患者の免疫エフェクター細胞は、免疫抑制および表現型の変更のために機能的に損なわれていると記載されている。したがって、患者間のばらつきは、個別の製造および臨床効果の両方に悪影響を及ぼす。
【0092】
自家アプローチとは対照的に、同種異系の既製の製品には独自の利点がある:そのような製品は、患者にすぐに、すなわち解凍直後に適用し得るため、サプライチェーン/ロジスティクスの時間が大幅に短縮され、ある一元化された病院を超えて製品の可用性が向上する。同種異系免疫エフェクター細胞の大規模なバッチは、一元化された製品サイトで製造することができ、これにより、製造コストが削減されるだけでなく、免疫エフェクター細胞製品の均質性が高まり、高品質の規制基準が可能になる。そのような一元化された施設はまた、製造プロセスのために最も機能的なエフェクター細胞集団を使用するための適切な健康なドナーの選択を可能にし得る。
【0093】
既に上述したように、本発明は、第1の実施形態では、凍結する前に抗体構築物がプレロードされた、凍結保存状態の単離されたヒトNK細胞であって、抗体構築物が、免疫エフェクター細胞の細胞表面上のNK細胞受容体抗原に結合する少なくとも第1の結合ドメインならびに上記の供給源のいずれかに由来し得る標的細胞の細胞表面上の細胞表面抗原に結合する第2の結合ドメインを含む、単離されたヒトNK細胞を提供する。
【0094】
本発明の文脈で使用されるNK細胞は、例えば、様々な表現型(例えば、適応記憶NK100細胞)を特徴とする健康なドナーの末梢血単核細胞(PBMC)から単離され、臍帯または胎盤組織から単離され、誘導多能性幹細胞由来(iPSC由来)のNK細胞(例えば、FT500もしくはFT516)またはNK細胞株である。好適なNK細胞株の例には、細胞株NK-92細胞(ATCC(登録商標)CRL-2407(商標))、NK-YS細胞(Tsuchiyama et al.1998,Blood)、またはNK-YT細胞(Teshigawara et al.1985,J Immunol)が含まれるが、これらに限定されない。また、好適なNK細胞のグループ内には、上記の供給源のいずれかに由来し得るキメラ抗原受容体(CAR)NK細胞がある。
【0095】
「iPSC」という用語は、本発明の文脈において、遺伝子工学の原理、小分子による定義された治療、および細胞の拡張を利用して、分化した特殊な細胞型(例えば、NK細胞)を作製するために使用することができる誘導多能性幹細胞を定義する。
【0096】
本発明のいくつかの実施形態では、細胞に前記抗体構築物をプレロードするステップの前に、NK細胞を拡張および/または活性化することが必要である。そのような拡張のためのプロトコルは、例えば、WO2017/042393、WO2015/132415、US20110014162、US20120308986A1、US9062287B2、US8026097B2、US9260696B2;US20170119865から当技術分野で知られている。
【0097】
本発明に即し、NK細胞は、抗体構築物とのインキュベーションの前に培養され得る。細胞培養のそのようなステップは、それぞれの細胞を拡大および/または活性化するために必要であり得る。典型的な拡張プロトコルは、CD34+細胞の選択、CD3+細胞の枯渇、4-1BBLおよび/または膜貫通型IL-21を運ぶフィーダー細胞とのインキュベーション、ならびに任意選択でIL-2などのリンパ増殖性サイトカインによる追加の刺激を含み得る。特定の実施形態では、抗体構築物がプレロードされたNK細胞のバッチは、106個および1012個の細胞を含む。患者に投与され得るプレインキュベートされた細胞の数は、体重1kgあたり1×105~1×108NK細胞の範囲であり得る。
【0098】
本発明の文脈において、「凍結保存状態の細胞」は、氷点下の温度(摂氏)まで冷却することによって保存された細胞である。凍結保存細胞は、凍結保護剤の存在下で保存しても、しなくてもよい。DMSO、グリセロール、エチレングリコール、またはプロピレングリコールなどの凍結防止剤は、氷晶形成による氷点下の温度での保管および/または凍結に関連する損傷、例えば、細胞膜の損傷に関連する損傷から細胞を保護する物質である。
【0099】
「凍結前にプレロードされた」という用語は、氷点下の温度に冷却する前の細胞の同定された抗体構築物とのプレインキュベーションに関する。
【0100】
免疫学的エフェクター細胞の細胞表面上のNK細胞受容体抗原が、この細胞が凍結保存状態にある間もその後も細胞表面上の結合の維持を可能にする方法でこの受容体に結合する、記載された抗体構築物の第1の結合ドメインが注目に値する。添付の例1に実証されるように、CD16に特異的な第1の結合ドメイン(aまたはb)を有する抗体構築物は、FcRγIIIのIgG結合ドメインとは異なる特定のエピトープに結合する。そのような特異的なエピトープへの結合は、本発明の一態様によるNK細胞を氷点下の温度に冷却し、その後、それを必要としている対象に投与するために細胞を再構成するプロセスの間でさえ、結合の維持を可能にすると想定される。類似のエピトープは、免疫学的エフェクター細胞の細胞表面上の他のNK細胞受容体抗原、例えばNKp46またはNKG2Dにも存在する。
【0101】
本発明の一実施形態によれば、単離されたヒトNK細胞は、健康なドナーからの臍帯組織またはPBMCから単離されている。
【0102】
また、一実施形態では、本発明の一態様による単離されたヒトNK細胞は、凍結溶液中で保存されている。本発明の文脈における凍結溶液は、少なくとも基底細胞培養培地および凍結保護剤を含む。さらに、凍結溶液は、血漿溶解物、および/または血清アルブミンなどの等張液をさらに含み得る。
【0103】
凍結防止剤の非限定的な例は、本明細書で上記に提供されている。本発明の文脈における凍結防止剤の特定の実施形態は、DMSOおよびグリセロールである。凍結防止剤の濃度は、1%~30%(v/v)の範囲、特定の実施形態では5%~25%(v/v)の範囲、他の実施形態では10%~25%(v/v)の範囲であり得、またいくつかの実施形態では、20%(v/v)の濃度である。「基底細胞培養培地」という用語は、本発明の文脈において、哺乳動物細胞の細胞培養に好適である液体細胞培養培地に関する。そのような「基底細胞培養培地」の例は、当技術分野でよく知られている。等張液の濃度は、1%~60%(v/v)の範囲、いくつかの実施形態では10%~50%(v/v)の範囲、他の実施形態では20%~45%(v/v)、および一実施形態では40%(v/v)の濃度であり得る。血清アルブミンは、ドナーから単離された、または組換えにより産生された、ヒトまたは(胎児)ウシ(好ましくはヒト)血清アルブミンであり得る。凍結溶液中のアルブミンの濃度は、1%~40%(v/v)の範囲、いくつかの実施形態では5%~25%(v/v)の範囲、またいくつかの実施形態では10%~20%(v/v)の範囲であり得る。凍結溶液(凍結培地)の例は、基礎培地、40%血漿溶解物、ヒト血清アルブミン(HSA)、および10%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含み得る。あるいは、ウシ胎児血清(FBS)またはグリセロールを使用して、HSAおよび/またはDMSOをそれぞれ置き換え得る。最も一般的に使用される凍結防止剤は、DMSOである。いくつかの理由で、DSMOは、グリセロール、エチレングリコール、またはプロピレングリコールなどの代替化合物で置換され得る。
【0104】
特定の実施形態によれば、本発明の一態様のNK細胞は、少なくとも5nMの濃度の抗体構築物を含む溶液にプレロードされている。特定の実施形態では、濃度は、少なくとも10nMであり、さらに、特定の実施形態では、濃度は、少なくとも25nMであり、さらに特定の実施形態の濃度は、少なくとも50nMであり、特定の実施形態では、濃度は、少なくとも75nM、90nM、100nM、125nM、または150nMである。
【0105】
本発明の一態様による、抗体構築物の第1の結合ドメインが単離されたヒトNK細胞の表面上で結合するNK細胞受容体抗原は、CD16a、CD16b、NKp46、NKG2D、およびCD16a+CD16bからなる群から選択される。
【0106】
NK細胞受容体の特定の実施形態は、本明細書で上記に定義されている。したがって、記載された抗体構築物の第1の結合ドメインは、CD16a、CD16b、またはCD16aおよびCD16bのいずれかに特異的に結合する。さらに、第1の結合ドメインは、NKp46またはNKG2Dに特異的に結合し得る。
【0107】
抗体構築物の第2結合ドメインが結合する標的細胞の細胞表面上の細胞表面抗原は、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD52、CD70、CD74、CD79b、CD123、CLL1、BCMA、FCRH5、EGFR、EGFRvIII、HER2、GD2からなる群から選択される。
【0108】
標的細胞の表面上のこれらの細胞表面抗原は、特定の疾患実体と関連している。CD30は、ホジキンリンパ腫の悪性細胞に特徴的な細胞表面抗原である。CD19、CD20、CD22、CD70、CD74、およびCD79bは、非ホジキンリンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、T-細胞リンパ腫(形質転換真菌症/セザリー症候群TMF/SSおよび未分化大細胞リンパ腫(ALCL)を含む末梢および皮膚の両方))の悪性細胞に特徴的な細胞表面抗原である。CD52、CD33、CD123、CLL1は、白血病(慢性リンパ性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML))の悪性細胞に特徴的な細胞表面抗原である。BCMA、FCRH5は、多発性骨髄腫の悪性細胞に特徴的な細胞表面抗原である。EGFR、HER2、GD2は、固形がん(トリプルネガティブ乳がん(TNBC)、乳がんBC、結腸直腸がん(CRC)、非小細胞肺癌(NSCLC)、小細胞癌(SCLCは、「小細胞肺がん」または「燕麦細胞癌」としても知られている)、前立腺がん(PC)、膠芽腫(多形性膠芽腫(GBM)としても知られている)に特徴的な細胞表面抗原である。
【0109】
本発明の一態様によるヒトNK細胞の一実施形態では、抗体構築物は、第1の結合ドメインにおいて、以下からなる群から選択される3つの重鎖CDRおよび3つの軽鎖CDRを含む:
(a)配列番号29に示されるCDR-H1、配列番号30に示されるCDR-H2、配列番号31に示されるCDR-H3、配列番号32に示されるCDR-L1、配列番号33に示されるCDR-L2、配列番号34に示されるCDR-L3;
(b)配列番号40に示されるCDR-H1、配列番号41に示されるCDR-H2、配列番号42に示されるCDR-H3、配列番号43に示されるCDR-L1、配列番号44に示されるCDR-L2、配列番号45に示されるCDR-L3;
(c)配列番号51に示されるCDR-H1、配列番号52に示されるCDR-H2、配列番号53に示されるCDR-H3、配列番号54に示されるCDR-L1、配列番号55に示されるCDR-L2、配列番号56に示されるCDR-L3;
(d)配列番号62に示されるCDR-H1、配列番号63に示されるCDR-H2、配列番号64に示されるCDR-H3、配列番号65に示されるCDR-L1、配列番号66に示されるCDR-L2、配列番号67に示されるCDR-L3;
(e)配列番号73に示されるCDR-H1、配列番号74に示されるCDR-H2、配列番号75に示されるCDR-H3、配列番号76に示されるCDR-L1、配列番号77に示されるCDR-L2、配列番号78に示されるCDR-L3;
(f)配列番号84に示されるCDR-H1、配列番号85に示されるCDR-H2、配列番号86に示されるCDR-H3、配列番号87に示されるCDR-L1、配列番号88に示されるCDR-L2、配列番号89に示されるCDR-L3;および
(g)配列番号95に示されるCDR-H1、配列番号96に示されるCDR-H2、配列番号97に示されるCDR-H3、配列番号98に示されるCDR-L1、配列番号99に示されるCDR-L2、配列番号100に示されるCDR-L3。
【0110】
また、本発明の一態様による単離されたヒトNK細胞の一実施形態では、抗体構築物は、第1の結合ドメインにおいて、配列番号35および配列番号36、配列番号46および配列番号47、配列番号57および配列番号58、配列番号68および配列番号69、配列番号79および配列番号80、配列番号90および配列番号91、ならびに配列番号101および配列番号102からなる群から選択された配列の対に示されるような配列を有するVH鎖およびVL鎖の対を含む。
【0111】
本発明の一態様による単離されたヒトNK細胞の実施形態では、抗体構築物は、第2の結合ドメインにおいて、以下からなる群から選択される3つの重鎖CDRおよび3つの軽鎖CDRを含む:
(a)配列番号106に示されるCDR-H1、配列番号107に示されるCDR-H2、配列番号108に示されるCDR-H3、配列番号109に示されるCDR-L1、配列番号110に示されるCDR-L2、配列番号111に示されるCDR-L3;
(b)配列番号106に示されるCDR-H1、配列番号107に示されるCDR-H2、配列番号108に示されるCDR-H3、配列番号109に示されるCDR-L1、配列番号110に示されるCDR-L2、配列番号111に示されるCDR-L3;および
(c)配列番号117に示されるCDR-H1、配列番号118に示されるCDR-H2、配列番号119に示されるCDR-H3、配列番号120に示されるCDR-L1、配列番号121に示されるCDR-L2、配列番号122に示されるCDR-L3。
【0112】
また、本発明の一態様による単離されたヒトNK細胞の一実施形態では、抗体構築物は、第2の結合ドメインにおいて、配列番号112および配列番号113、配列番号123および配列番号124、ならびに配列番号134および配列番号135からなる群から選択される配列の対に示されるような配列を有するVH鎖およびVL鎖の対を含む。
【0113】
本発明の一態様による単離されたヒトNK細胞の一実施形態では、抗体構築物は、配列番号161~171に示されるようなタンパク質配列を含む。
【0114】
代替の実施形態では、本発明は、プレロードされた凍結保存ヒトNK細胞を凍結保存状態で調製するための方法であって、
(i)NK細胞を抗体構築物とインキュベートすることであって、抗体構築物が、免疫エフェクター細胞の細胞表面上のNK細胞受容体抗原に結合する少なくとも第1の結合ドメインおよび標的細胞の細胞表面上の細胞表面抗原に結合する第2の結合ドメインを含む、インキュベートすること;ならびに
(ii)NK細胞を凍結すること
を含む、方法を提供する。
【0115】
さらに、本発明は、NK細胞が、健康なドナーからの臍帯組織、iPSC、またはPBMCから単離される、そのような方法を提供する。
【0116】
上記のように、本発明の一態様による方法で列挙されたNK細胞は、少なくとも5nMの濃度で抗体構築物を含む溶液にプレロードされている。特定の実施形態では、濃度は、少なくとも10nMであり、いくつかの実施形態では、少なくとも25nM、少なくとも50nM、または少なくとも75nMの濃度である。特定の実施形態では、濃度は、少なくとも90nM、100nM、125nM、または150nMである。
【0117】
本発明の一態様による方法の一実施形態では、抗体構築物の第1の結合ドメインが結合するNK細胞受容体抗原は、CD16a、CD16b、NKp46、NKG2D、およびCD16a+CD16bからなる群から選択される。
【0118】
また、特定の実施形態によれば、抗体構築物の第2の結合ドメインが結合する標的細胞の細胞表面上の細胞表面抗原は、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD52、CD70、CD74、CD79b、CD123、CLL1、BCMA、FCRH5、EGFR、HER2、GD2からなる群から選択される。
【0119】
プレロードされた凍結保存ヒトNK細胞を調製するための本発明の一態様による方法に沿って、NK細胞を凍結するステップは、凍結培地/凍結溶液を使用して実行される。本発明に沿った凍結媒体/凍結溶液の特定の組成物および化合物は、本明細書で上述されている。
【0120】
この方法の特定の実施形態では、NK細胞は、健康なドナーからの臍帯組織、iPSC、またはPBMCから単離される。
【0121】
本発明の一態様におけるこの方法では、NK細胞が、少なくとも5nMの濃度の抗体構築物を含む溶液にプレロードされていることも想定される。
【0122】
さらに、抗体構築物の第1の結合ドメインが結合するNK細胞受容体抗原が、CD16a、CD16b、NKp46、NKG2D、およびCD16a+CD16bからなる群から選択されることは、本発明に即している。
【0123】
また、本発明の一態様においてこの方法について想定されるのは、抗体構築物の第2の結合ドメインが結合する標的細胞の細胞表面上の細胞表面抗原が、CD19、CD22、CD30、CD33、CD52、CD70、CD74、CD79b、CD123、CLL1、BCMA、FCRH5、EGFR、HER2、GD2からなる群から選択されることである。
【0124】
本発明の一態様におけるこの方法の一実施形態によれば、NK細胞を凍結するステップは、少なくとも基底細胞培養培地および凍結防止剤を含有する凍結培地を使用して実行される。
【0125】
本発明の方法の一態様では、この方法で使用される抗体構築物は、本明細書で上述された抗体構築物のうちの1つである。本発明の方法の特定の実施形態では、前記抗体構築物は、配列番号161~171に示されるようなタンパク質配列を含む。
【0126】
代替の実施形態では、本発明は、本明細書に上述された凍結保存状態の本発明の一態様によるヒトNK細胞から、またはプレロードされた凍結保存ヒトNK細胞を凍結保存状態で調製するための本発明の一態様による方法に従って調製されたヒトNK細胞から、プレロードされたヒトNK生細胞を、それを必要とする対象に前記細胞を投与するために再構成/調製するための方法であって、解凍によって患者に投与するための細胞を再構成/調製するステップを含む、方法を提供する。
【0127】
凍結細胞の解凍は、よく知られた方法に従って達成され得る。一般的な解凍手順は、凍結細胞を37℃の水浴に迅速に移し、活性化されたNK細胞が完全に解凍されるまで穏やかに撹拌することを伴う。解凍後、解凍されたNK細胞は、例えば、凍結培地の濃度を希釈するため、および/または既に活性化されたNK細胞を洗浄するために、好ましくは滴状に、室温で薬学的に許容される担体を添加することによって、患者に投与するために調製され得る。本明細書で実証されるように、本発明の細胞集団は、そのような保存後、抗体構築物と組み合わせてそれらの活性化状態を保持する。保存後の投与用細胞の調製は、保存方法に依存する。例えば、細胞は、細胞培養および/または冷蔵による保存後、細胞を洗浄すること、細胞を薬学的に許容される担体に再懸濁すること、および/または好適な送達デバイス、例えば、注射器に細胞を収容することのうちの1つ以上により、投与のために調製され得る。一実施形態では、細胞は、凍結保存後、例えば、37℃の水浴中で穏やかに撹拌することによって解凍し、次いで、好適な送達デバイス、例えば、注射器に細胞を収容することによって、投与のために調製される。これらの解凍された細胞集団は、驚くべきことに、例えば、再活性化または他の大規模および/もしくは時間のかかる操作なしに、必要に応じてほぼ即座に診療所で用いられ得る。
【0128】
したがって、不必要ではあるが、凍結保存後に投与するために調製された細胞を、例えば、細胞の濃度を希釈し、かつ/または細胞から凍結培地を洗い流すために、室温で薬学的に許容される担体を、好ましくは滴下様式で添加することによってさらに調製され得る。一実施形態では、薬学的に許容される担体は、活性化剤を実質的に含まない。
【0129】
さらなる代替の実施形態では、本発明は、本発明による凍結保存状態でヒトNK細胞から再構成された、または本発明による方法によって調製されたヒトNK細胞を含む医薬組成物を提供する。
【0130】
特定の実施形態は、本発明の文脈で定義されたプレロードされたNK細胞と、このセクションおよび本明細書の他の場所で例示的に記載されるものなどのさらなる1つ以上の賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。賦形剤は、この点に関して、粘度の調整などの製剤の物理的、化学的、もしくは生物学的特性の調整、およびまたは有効性を改善し、かつまたはそのような製剤を安定化するための本発明の一態様のプロセス、ならびに例えば、製造、出荷、保管、使用前の準備、投与中、およびその後に発生するストレスによる劣化および腐敗に対するプロセスなどの多種多様な目的のために本発明で使用することができる。
【0131】
特定の実施形態では、医薬組成物は、例えば、組成物のpH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、臭気、無菌性、安定性、溶解もしくは放出の速度、吸着もしくは浸透を修飾、維持、または保存する目的で製剤材料を含有し得る(REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,18’’Edition,(A.R.Genrmo,ed.),1990,Mack Publishing Companyを参照)。そのような実施形態では、好適な製剤材料は、以下を含み得るが、これらに限定されない:
・荷電アミノ酸を含む、グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、スレオニン、プロリン、2-フェニルアラニンなどのアミノ酸、好ましくはリジン、酢酸リジン、アルギニン、グルタマート、および/またはヒスチジン
・抗細菌剤および防カビ剤などの抗菌剤
・アスコルビン酸、メチオニン、亜硫酸水素ナトリウム、または亜硫酸水素ナトリウムなどの酸化防止剤;
・組成物を生理学的pHまたはわずかに低いpHに維持するために使用される、緩衝液、緩衝液系、および緩衝剤。緩衝液の例は、ホウ酸塩、重炭酸塩である;
・トリス-HCl、クエン酸塩、リン酸塩、または他の有機酸、コハク酸塩、リン酸塩、およびヒスチジン;例えば、約pH7.0~8.5のトリス緩衝液;
・プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどの非水系溶媒、オリーブオイルなどの植物油、オレイン酸エチルなどの注射用有機エステル;
・生理食塩水および緩衝媒体を含む、水、アルコール/水溶液、乳濁液、または懸濁液を含む水性担体;
・ポリエステルなどの生分解性ポリマー;
・マンニトールまたはグリシンなどの増量剤;
・エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのキレート剤;
・等張および吸収遅延剤;
・カフェイン、ポリビニルピロリドン、ベータシクロデキストリン、またはヒドロキシプロピルベータシクロデキストリンなどの錯化剤)
・充填剤;
・単糖類;二糖類;および他の炭水化物(グルコース、マンノース、デキストリンなど);炭水化物は、非還元糖、好ましくはトレハロース、スクロース、オクタサルファート、ソルビトール、またはキシリトールであり得る;
・(低分子量)タンパク質、ポリペプチド、またはヒトもしくはウシ血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質性担体、好ましくはヒト由来のもの;
・着色料および香料;
・グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α-モノチオグリセロール、およびチオ硫酸ナトリウムなどの硫黄含有還元剤
・希釈剤;
・乳化剤;
・ポリビニルピロリドンなどの親水性高分子)
・ナトリウムなどの塩形成対イオン;
・抗菌剤、酸化防止剤、キレート剤、不活性ガスなどのような防腐剤;例は、塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸または過酸化水素である);
・Zn-タンパク質複合体などの金属錯体;
・溶媒および共溶媒(グリセリン、プロピレングリコール、またはポリエチレングリコールなど);
・糖および糖アルコール、例えばトレハロース、スクロース、オクタサルファート、マンニトール、ソルビトールまたはキシリトールスタキオース、マンノース、ソルボース、キシロース、リボース、ミオイニシトース、ガラクトース、ラクチトール、リビトール、ミオイニシトール、ガラクチトール、グリセロール、シクリトール(例えば、イノシトール)、ポリエチレングリコール;ならびに多価糖アルコール;
・懸濁剤;
・プルロニック(登録商標)、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート20などのポリソルベート、ポリソルベート、トリトン、トロメタミン、レシチン、コレステロール、チロキサパルなどの界面活性剤または湿潤剤;界面活性剤は、好ましくは分子量>1.2KDの洗浄剤および/またはポリエーテル、好ましくは分子量>3KDであり得る;好ましい洗剤の非限定的な例は、Tween 20、Tween 40、Tween 60、Tween 80、およびTween 85である;好ましいポリエーテルの非限定的な例は、PEG 3000、PEG 3350、PEG 4000、およびPEG 5000である;
・ショ糖またはソルビトールなどの安定性向上剤;
・アルカリ金属ハロゲン化物、好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、マンニトールソルビトールなどの張性増強剤;
・塩化ナトリウム溶液、リンガーのデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸菌リンガー、または固定油を含む非経口送達ビヒクル;
・液体および栄養素補充剤、電解質補充剤(リンゲルのデキストロースに基づくものなど)を含む静脈内送達ビヒクル。
【0132】
当業者には、医薬組成物の異なる構成成分(例えば、上記のもの)が例えば、異なる効果を有することができ、アミノ酸が緩衝剤、安定剤、および/または抗酸化剤として作用することができ;マンニトールが増量剤および/または張性増強剤として作用することができ;塩化ナトリウムが、送達ビヒクルおよび/または張性増強剤などとして作用することができることは明らかである。
【0133】
特定の実施形態では、最適な医薬組成物は、例えば、意図される投与経路、送達形式、および所望の投与量に応じて、当業者によって決定されるであろう。例えば、上記のREMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCESを参照されたい。例えば、好適なビヒクルまたは担体は、注射用の水、生理食塩水、または人工脳脊髄液であり得、場合により、非経口投与用の組成物で一般的な他の材料が補充され得る。血清アルブミンと混合された中性緩衝生理食塩水または生理食塩水は、さらなる例示的なビヒクルである。
【0134】
本発明の一態様による医薬組成物の一実施形態では、組成物は、患者に静脈内投与される。
【0135】
本明細書に記載の医薬組成物の静脈内(iv)投与のための方法およびプロトコルは、当技術分野でよく知られている。
【0136】
本発明の医薬組成物の一態様では、前記医薬組成物は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、または免疫学的障害から選択される疾患の予防、治療、または改善に使用される。好ましくは、前記腫瘍性疾患は、悪性疾患、好ましくはがんである。
【0137】
本発明の医薬組成物の一実施形態では、同定された悪性疾患は、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、および固形腫瘍からなる群から選択される。
【0138】
また、一実施形態では、本発明は、疾患の治療または改善のための方法であって、本発明による凍結保存状態のヒトNK細胞から再構成された、または凍結保存状態から生存可能なプレロードされたヒトNK細胞を再構成/調製するための本発明の態様による方法によって調製されたプレロードされたヒトNK細胞をそれを必要とする対象に投与するステップを含む、方法を提供する。
【0139】
本発明の疾患の治療または改善のための方法の一態様に沿って、プレロードされたヒトNK細胞は、患者に静脈内投与される。
【0140】
疾患の治療または改善のための前記方法の一実施形態では、対象は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、または免疫学的障害に罹患している。
【0141】
前記腫瘍性疾患は、悪性疾患、好ましくはがんであることが好ましい。
【0142】
疾患の治療または改善のための前記方法の一実施形態では、前記悪性疾患は、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、白血病、多発性骨髄腫、および固形腫瘍からなる群から選択される。
【0143】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明らかに他のことを示さない限り、複数形の参照を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「試薬」への言及は、そのような異なる試薬のうちの1つ以上を含み、「方法」への言及は、本明細書に記載の方法を修正または置換することができる当業者に知られている同等のステップおよび方法への言及を含む。
【0144】
特に明記しない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、一連の要素のすべての要素を指すと理解すべきである。当業者は、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態に対する多くの同等物を認識するか、または日常的な実験のみを使用して確認することができるであろう。そのような同等物は、本発明に包含されることが意図されている。
【0145】
本明細書で使用される「および/または」という用語は、「および」、「または」、および「前記用語によって接続された要素のすべてまたは任意の他の組み合わせ」の意味を含む。
【0146】
本明細書で使用される「約」または「およそ」という用語は、所与の値または範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を意味する。しかしながら、具体的な数も含まれ、例えば、約20には20が含まれる。
【0147】
「より小さい」または「より大きい」という用語には、具体的な数値が含まれる。例えば、20未満は、以下を意味する。同様に、超える(more than)または超える(greater than)は、それぞれ、以上(more than or equal to)または以上(greater than or equal to)を意味する。
【0148】
本明細書および以下の特許請求の範囲を通じて、文脈上別段の定めがない限り、「含む(comprise)」という単語、および「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変形は、記載された整数もしくはステップまたは整数もしくはステップのグループを含むことを含意すると理解されるが、任意の他の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップのグループを除外しない。本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」という用語は、「含有する」または「含む(including)」という用語で置き換えることができ、または場合により、本明細書で使用される場合、「有する」という用語で置き換えることができる。
【0149】
本明細書で使用される場合、「からなる」は、クレーム要素で指定されていないあらゆる要素、ステップ、または構成要素を除外する。本明細書で使用される場合、「本質的にからなる」は、特許請求の範囲の基本的かつ新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない材料またはステップを除外しない。
【0150】
本明細書の各場合において、「含む」、「本質的にからなる」、および「からなる」という用語のいずれかを、他の2つの用語のいずれかに置き換えてもよい。
【0151】
本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、材料、試薬、および物質などに限定されず、それ自体が変わり得ることを理解されたい。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0152】
上記または下記を問わず、本明細書の本文全体で引用されているすべての刊行物および特許(すべての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の明細書、説明書などを含む)は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなるものも、本発明が先行発明のおかげでそのような開示に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきではない。参照により組み込まれる資料が本明細書と矛盾するか、または相反する場合、本明細書は任意のそのような資料に優先する。
【0153】
本発明に従って使用することができる抗体構築物の例は、MAbs.2019 Jul;11(5):899-918に記載されている。
【0154】
本発明およびその利点のより良い理解は、例示のみを目的として提供される以下の例から得られるであろう。これらの例は、本発明の範囲を決して限定することを意図するものではない。
【実施例0155】
例1:プレロードおよび凍結/解凍後のNK細胞による抗体媒介性細胞傷害の評価
細胞株の培養
MM.1S(ATCC、カタログ番号:CRL2974)およびDK-MG細胞(DSMZ、カタログ番号:ACC277)は、10%熱不活化FCS、2mM L-グルタミン、および100IU/mLペニシリンGナトリウムならびに100μg/mL硫酸ストレプトマイシンを補充したRPMI 1640培地で培養した。すべての細胞株を、標準的な条件下で培養し、5%のCO2の加湿雰囲気下の37℃で供給元の推奨に従って継代培養した。
【0156】
バフィーコートからのPBMCの単離およびヒトNK細胞の濃縮
PBMCは、密度勾配遠心分離によってバフィーコート(German Red Cross,Mannheim,Germany)から単離した。バフィーコートサンプルを2~3倍量のPBS(Invitrogen、カタログ番号:14190-169)で希釈し、Lymphoprep(Stem Cell Technologies、カタログ番号:07861)のクッション上に積層し、ブレーキなしで室温で800xgで25分間遠心分離した。界面にあるPBMCを収集し、PBSで3回洗浄した後、それらを完全RPMI 1640培地(10%熱不活化FCS、2mM L-グルタミン、100IU/mLペニシリンGナトリウムおよび100μg/mLストレプトマイシン硫酸塩(すべての成分をInvitrogenより入手))を補完したRPMI 1640培地)で刺激せずに一晩培養した。NK細胞を濃縮するために、PBMCを一晩培養物から回収し、製造元の指示に従って、手つかずのヒトNK細胞の免疫磁気的単離のためにEasySep(商標)ヒトNK細胞濃縮キット(Stem Cell Technologies、カタログ番号:17055)およびBig Easy EasySep(商標)マグネット(Stem Cell Technologies、カタログ番号:18001)を使用して1ラウンドのネガティブセレクションに使用した。
【0157】
NK細胞のプレロードおよび凍結/解凍
濃縮された初代ヒトNK細胞のアリコートを、10μg/mLの示された抗体構築物を総量0.5mLで含有する完全RPMI 1640培地に再懸濁し、室温で30分間インキュベートした。示されるように、アリコートの半分を5mLの完全RPMI 1640培地で2回洗浄し、次いで0.5mLの完全RPMI 1640培地に再懸濁し、アリコートの残りの半分を洗浄せずに、20%のDMSO(Sigma)を補完したFCSを添加した。次いで、細胞懸濁液を2mLのクライオチューブ(Greiner bio-one)に移し、クライオ1℃凍結容器(Nalgene)において-80℃で12時間を超えて凍結した。
【0158】
4時間のカルセイン放出細胞毒性アッセイ
カルセイン放出細胞毒性アッセイでは、示された標的細胞を培養物から回収し、FCSを含まないRPMI 1640培地で洗浄し、37℃でFCSを含まないRPMI培地で10μMのカルセインAM(Invitrogen/Molecular Probes、カタログ番号:C3100MP)で30分間標識した。穏やかに洗浄した後、標識細胞を完全RPMI 1640培地に1x105/mLの密度で再懸濁し、次いで、1x104標的細胞のアリコートを96ウェル丸底マイクロプレートの個々のウェルに播種した。並行して、37℃の水浴中でクライオチューブをインキュベートすることにより、NK細胞を-80℃から解凍した。最後の氷の結晶が見えたら、細胞懸濁液を完全なRPMI 1640培地で希釈し、遠心分離して、1回洗浄した後、示されるように、総量200μLで新鮮な抗体を添加、または添加しないの二通りで、示されたエフェクター対標的(E:T)比で細胞を標的細胞に添加した。自発的放出は、エフェクター細胞の非存在下および抗体なしでの標的細胞のインキュベーションによって決定し、最大放出は、1%のTriton x-100(最終濃度、Roth)の添加によって誘導され、また各プレート上で4回測定した。
【0159】
200gで2分間遠心分離した後、アッセイを5%のCO2の加湿雰囲気中で37℃で4時間インキュベートした。500gで5分間さらに遠心分離した後、100μLの細胞培養上清を各ウェルから回収し、放出されたカルセインの蛍光を蛍光マルチプレートリーダー(Victor 3またはEnSight,Perkin Elmer)を使用して520nmで測定した。測定されたカウントに基づいて、特定の細胞溶解を、次の式に従って計算した:[蛍光(サンプル)-蛍光(自発的)]/[蛍光(最大)-蛍光(自発的)]x100%。蛍光(自発的)は、エフェクター細胞および抗体の非存在下での標的細胞からの蛍光カウントを表し、蛍光(最大)は、Triton X-100の添加によって誘導された総細胞溶解を表す。溶解値を分析し、GraphPad Prismソフトウェア(Windows用のGraphPad Prismバージョン7.04、GraphPad Software,La Jolla California USA)を使用して平均および標準偏差をプロットした。
【0160】
【0161】
例2:異なる抗原変異体への抗CD16抗体の結合の分析
IgGのFc部分の低親和性受容体であるFcgRIII(CD16)は、2つのほぼ同一の遺伝子:FCGR3A(CD16A)およびFCGR3B(CD16B)によってコードされる2つのアイソフォームで存在し、代替の膜アンカー型アイソフォームの組織特異的発現をもたらす(Ravetch and Perussia,1989,J Exp Med.):
-FcgRIIIA(CD16A)は、NK細胞、マクロファージ、ならびに単球およびT細胞のサブセットで膜貫通タンパク質として発現する
-FcgRIIIB(CD16B)は、好中球によりグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型で、かつ好酸球によるガンマインターフェロン刺激後に発現する。
【0162】
CD16AおよびCD16Bの両方の対立遺伝子変異体/多型は、よく知られている(表2に要約されている)。
【0163】
CD16Bアロタイプ変異体は、細胞外ドメイン(ECD)の5つのアミノ酸が異なる(表2)。これらのうちの2つは、追加のグリコシル化を可能にし、GPIアンカー型FcγRIIIB顆粒球抗原HNA-1a、-1b、ならびに-1c(以前はNA1、NA2、およびSHと呼ばれた)の3つの異なる変異体をもたらす。
【0164】
CD16AおよびBのアミノ酸配列にはわずかな違いしかない。それらの違いは、成熟ECDの2つの代替アミノ酸に限定されている(表2)。追加の違いは、CD16AおよびCD16Bの膜固定の異種のモードにある。成熟したGPIアンカー型で切断されるCD16BのC末端プロペプチド配列は、CD16A ECDをその膜貫通ドメインに接続する配列と高度に相同である(表2)。
【表2】
【0165】
CD16B結合を欠くCD16A特異的抗体「LSIV21」の単離は、以前に記載した(Reusch et al.,2014,MAbs)。
【0166】
CD16A/CD16B配列のバリエーションのどれがCD16A選択的抗体の結合部位を決定するかを調査するために、本発明者らは、可溶性組換えCD16AおよびCD16B抗原変異体のセットを生成して特性評価した。
【0167】
CD16B(NA1)ECD組換えタンパク質は、成熟型(プロペプチドなし)(CD16Bmat)として、またはプロペプチド配列を含有する変異体(CD16Bpr)としてのいずれかで発現した。加えて、CD16B特異的アミノ酸がCD16Aの対応する残基で置き換えられたCD16B ECD変異体を構築し、発現させ、結合アッセイ:CD16BD129G、CD16BH140Y、CD16BS185Fで試験した。これらの抗原変異体はすべて、グリシン-セリンリンカーを介して可溶性単量体Fc(Ying et al、2012,J.Biol.Chem.)に融合し、CHOで発現し、細胞培養上清から精製した。
【0168】
公開されているCD16AおよびCD16B反応性抗体3G8の可変重鎖および軽鎖配列を含むscFv抗体は、試験されたすべてのCD16AおよびCD16B抗原変異体を認識する(
図2、表3)。「LSIV21」または親和性が改善された「P2C47」の可変重鎖および軽鎖配列を含む異なる抗体(一価scFvまたは二価結合四価二重特異性タンデムダイアボディ抗体の形態で)は、CD16Aを認識するが、CD16Bの成熟またはプロペプチド含有ECD融合抗原は、認識しない。しかしながら、CD16B ECDの140位のヒスチジン(H)がチロシン(Y)-CD16Aの対応する位置に存在するアミノ酸-に変異した場合、この変異型のCD16B(CD16B
H140Y)は、「LSIV21」または「P2C47」可変ドメインを含有する抗体によって十分に認識された(
図2、表3)。
【表3】
【0169】
追加の親和性成熟抗CD16 scFv抗体を同様にELISAで分析した。結果は、CD16Bとの弱い交差反応性を示すscFv「CD16-5」を除いて、他の親和性成熟抗CD16 scFv抗体が親抗体のCD16A選択的結合特性を維持することを示す。それらは、CD16Bが前述のアミノ酸交換CD16B
H140Yを含有しない限り、CD16Bには結合しない(表4)。すべての抗CD16抗体は、カニクイザルCD16A ECD配列がヒトCD16Aとは合計16アミノ酸で異なるという事実にもかかわらず、カニクイザルCD16Aと非常に良好な交差反応性を示す(表4)(
図4のアラインメントを参照)。
【0170】
本発明者らの抗体によるCD16A特異的認識のためのCD16 ECDの140位のチロシン(Y)の重要性は、細胞表面上に異なるCD16抗原変異体のトランスジェニック発現を伴う組換えCHO細胞を使用して確認された。ECD配列は、ヒトEGFRの膜貫通ドメインに融合されるか(Wang et al.,2011,Blood 118(5)1255)、またはGPI-固定のための翻訳後プロセシングおよび脂質化のための完全長プロペプチド配列を有するヒトCD16B内因性配列を使用してGPIを介して固定された。
【0171】
公開されているCD16AおよびCD16B反応性抗体3G8の可変重鎖および軽鎖配列を含むscFv抗体は、細胞表面で発現するすべてのCD16AおよびCD16B抗原変異体を認識するが(
図3)、特異性対照として発現する組換えEGFRは認識しない。「LSIV21」または親和性が改善された「P2C47」の可変重鎖および軽鎖配列を含有するscFv抗体は、CHO細胞表面発現CD16A変異体を認識するが、CD16B(NA1)の成熟またはプロペプチド含有ECDは認識しない。しかしながら、CHO膜に固定されたCD16B ECDの140位のヒスチジン(H)がチロシン(Y)-CD16Aの対応する位置に存在するアミノ酸-に変異した場合、この変異型のCD16B(CD16BH140Y)は、「LSIV21」または「P2C47」可変ドメインを含有するscFv抗体によって十分に認識された(
図3)。
【0172】
CD16AおよびCD16BH140Y抗原変異体は、SDS-PAGEおよびウエスタンブロット後に、「LSIV21」、「P2C47」、または親和性成熟可変ドメインを含有する抗体によってサンプルを非還元条件下で処理した場合にも認識されるが、CD16B抗原は、認識されない(
図5)のに対して、抗体3G8は、すべてのCD16AおよびCD16B抗原変異体を認識する。SDS-PAGEゲルにロードする前にサンプルを減らすと、ウエスタンブロットでシグナルが得られず(データは図示せず)、これにより、非線形配列が示唆され、むしろ、結合エピトープとして三次元構造が示唆される。「LSIV21」、「P2C47」、またはこれらの抗体の親和性成熟変異体による認識の場合、三次元エピトープ構造は、CD16の140位のチロシンによって決定される可能性がある。
【表4】
【表5】
【0173】
FcgRIIIのIgG結合部位は、受容体の膜近位細胞外ドメイン上の不連続な結合領域である。FcgRIIIA(CD16A)とIgGのFc部分との低親和性相互作用に重要なアミノ酸は、以前に同定され、記載されている(例えば、Ahmed et al.,2016)。Fc部分のCH2ドメインとの相互作用に関与するCD16Aの残基は、K120、Y132、H134、H135、およびK161である。抗体3G8は、CD16AおよびCD16Bに結合し、IgG結合をブロックすると報告されていたが(Tamm and Schmidt,1996)、本発明者らは、IgGによるCD16Aへの本発明者らの抗CD16抗体の結合のブロックは観察しなかった。本発明者らの抗CD16A特異的抗体の結合部位が、FcgRIIIAのIgG結合部位と異なるという仮説を裏付けるために、本発明者らは、競合ELISAを実行した。3G8mAbのCD16Aへの結合は、3G8の可変ドメインを含有するscFv抗体の濃度を上げることでブロックされるが、他の抗CD16 scFv抗体は、CD16A上の3G8 mAbをブロックまたは取って代わらず、独立して結合する(
図6)。3G8結合部位は、IgG結合をブロックすることが知られているため、本発明者らは、本発明者らの抗CD16抗体の結合部位は、IgG結合部位とは別個であると結論付ける。
【0174】
ELISAにおける結合の分析
96ウェルELISAプレート(Immuno MaxiSorp;Nunc)を、1.5または3μg/mLの濃度の100mMの炭酸塩-重炭酸塩緩衝液中で、ヒトIgG1 FcまたはモノマーmFc.67に融合したCD16細胞外ドメイン(ECD)抗原変異体の組換え産生融合タンパク質で4℃で一晩コーティングした(Ying et al,2012,J.Biol.Chem.)。PBSに溶解した3%(w/v)のスキムミルクパウダー(Merck)によるブロッキングステップの後、0.3%(w/v)のスキムミルクパウダーを含有するPBSでの異なる抗体の段階希釈液を室温で1.5時間プレート上でインキュベートした。0.1%(v/v)のTween 20を含有するPBSのウェルあたり300μLで3回洗浄した後、プレートを検出抗体とともに室温で1時間インキュベートした。Hisタグ付き分析物の検出には、Penta-HIS-HRP(Qiagen)を1:3000希釈で使用した。四価の二重特異性BCMA/CD16 TandAb抗体、T763の検出には、Protein L-HRP共役(Pierce)を1:20.000希釈で室温で1時間使用した。0.1%(v/v)のTween 20を含有するPBSのウェルあたり300μLで3回洗浄した後、発色がはっきりと見えるまでプレートをテトラメチルベンジジン(TMB)基質(Seramun)とインキュベートした。0.5MのH2SO4をウェルあたり100μL添加することにより、反応を停止した。マルチラベルプレートリーダー(Victor,Perkin Elmer)を使用して、450nmで吸光度を測定した。吸収値は、非線形回帰、シグモイド用量反応(可変勾配)、GraphPad Prismバージョン6.07(GraphPad Software,La Jolla California USA)に適合した最小二乗(通常)を使用してプロットおよび分析した。
【0175】
SDS-PAGEおよびウエスタンブロット後の結合の分析
精製された組換えCD16抗原変異体(ヒトCD16A48R、158V-mFc.67、ヒトCD16B(NA1)pr-mFc.67、およびhuCD16B(NA1)prH140Y-mFc.67を、PBSで0.5μg/mLに希釈し、同量の非還元サンプル緩衝液と混合し、8μlのミックスを4~20%のCriterion TGX Precast Gels(Biorad)のウェルにロードした。ゲルを1xTGS緩衝液(Biorad)で300Vで22分間泳動し、Biorad Molecular Imager Gel Documentationシステムを使用して総タンパク質を画像化した。Trans-Blot Turboシステム(Biorad)を使用して、ウエスタンブロッティングによりタンパク質をPVDF Midi Membranes(Biorad)に転写した。膜をTBSに溶解した3%(w/v)スキムミルクパウダー(Merck)と30分間インキュベートして、非特異的結合部位をブロックし、次いで、一次抗体希釈液とインキュベートした:抗CD16抗体を3%(w/v)のスキムミルクパウダーを含有するTBSで4μg/mLの濃度に希釈し、室温で1時間膜上でインキュベートした。TBST(0.1%(v/v)のTween 20を含有するTBS)で洗浄し、TBSで2回洗浄した後、膜を二次抗体検出共役とインキュベートした:scFv-IgAb抗体を含有する抗CD16Aとインキュベートした膜をプロテインL-HRP(Pierce)とインキュベートし、3%(w/v)のスキムミルクパウダーを含有するTBSで1:10.000に希釈し、抗CD16 scFv抗体とインキュベートした膜を、3%(w/v)のスキムミルクパウダーを含有するTBSで1:3000に希釈した抗Penta-His-HRP(QIAGEN)と室温で1時間インキュベートした。TBSTで洗浄し、TBSで2回洗浄した後、TBSに0.66mg/mLのDAB、0.02%のCoCl2、0.015%のH2O2の新たに調製した混合物を添加することによって、比色発色を開始し、発色するまで膜上でインキュベートした。膜を水で洗浄することにより反応を停止させた。膜を乾燥させて写真を撮った。
【0176】
CD16A競合ELISA
96ウェルELISAプレート(Immuno MaxiSorp;Nunc)を、1.5μg/mLの濃度の100mMの炭酸塩-重炭酸塩緩衝液中で、組換えにより産生されたCD16A(48R、158V)ECDの融合タンパク質をモノマーmFc.67に融合させて、4℃で一晩コーティングした(Ying et al,2012、J.Biol.Chem.)。PBSに溶解した3%(w/v)のスキムミルクパウダー(Merck)によるブロッキングステップの後、0.3%(w/v)のスキムミルクパウダーを含有するPBSでの異なるscFv抗体の段階希釈液を1nMの抗CD16 mAb 3G8(BD Bioscience)と混合し、室温で1.5時間プレート上で共インキュベートした。0.1%(v/v)のTween 20を含有するPBSのウェルあたり300μLで3回洗浄した後、プレートを検出抗体とともに室温で1時間インキュベートした。CD16Aに結合した3G8の検出には、ヤギ抗マウスIgG(H+L)-HRPO(Dianova 115-035-003)を1:10.000希釈で使用した。0.1%(v/v)のTween 20を含有するPBSのウェルあたり300μLで3回洗浄した後、発色がはっきりと見えるまでプレートをテトラメチルベンジジン(TMB)基質(Seramun)とインキュベートした。0.5MのH2SO4をウェルあたり100μL添加することにより、反応を停止した。マルチラベルプレートリーダー(Victor,Perkin Elmer)を使用して、450nmで吸光度を測定した。吸収値は、非線形回帰、シグモイド用量反応(可変勾配)、GraphPad Prismバージョン6.07(GraphPad Software,La Jolla California USA)に適合した最小二乗(通常)を使用してプロットおよび分析した。
【0177】
例3:10mg/mLのポリクローナルヒトIgGの存在下または非存在下における37℃での初代ヒトNK細胞への抗CD16A scFvの結合
方法:
バフィーコートからのPBMCの単離およびヒトNK細胞の濃縮
PBMCは、密度勾配遠心分離によってバフィーコート(German Red Cross,Mannheim,Germany)から単離した。バフィーコートサンプルを2~3倍量のPBS(Invitrogen、カタログ番号:14190-169)で希釈し、Lymphoprep(Stem Cell Technologies、カタログ番号:07861)のクッション上に積層し、ブレーキなしで室温で800xgで25分間遠心分離した。界面にあるPBMCを収集し、PBSで3回洗浄した後、それらを完全RPMI 1640培地(10%熱不活化FCS、2mM L-グルタミン、100IU/mLペニシリンGナトリウムおよび100μg/mLストレプトマイシン硫酸塩(すべての成分をInvitrogenより入手)を補完したRPMI 1640培地)で刺激せずに一晩培養した。NK細胞を濃縮するために、PBMCを一晩培養物から回収し、製造元の指示に従って、手つかずのヒトNK細胞の免疫磁気的単離のためにEasySep(商標)ヒトNK細胞濃縮キット(Stem Cell Technologies、カタログ番号:19955)およびBig Easy EasySep(商標)マグネット(Stem Cell Technologies、カタログ番号:18001)を使用して1ラウンドのネガティブセレクションに使用した。
【0178】
細胞結合アッセイおよびフローサイトメトリー分析
0.2-1x106に富むヒトNK細胞のアリコートを、10mg/mLのポリクローナルヒトIgG(Gammanorm,Octapharma)または対応する緩衝液の存在下で、2%の熱不活化FCS(Invitrogen、カタログ番号:10270-106)、0.1%のアジドナトリウム(Roth,Karlsruhe,Germany、カタログ番号:A1430.0100)を含有するFACS緩衝液(PBS、Invitrogen、カタログ番号:14190-169)で示されたscFv構築物の100μLの段階希釈液とともに37℃で45分間インキュベートした。FACS緩衝液で繰り返し洗浄した後、細胞結合抗体を10μg/mLの抗His mAb 13/45/31-2(Dianova,Hamburg,Germany、カタログ番号:DIA910-1MG)、続いて15μg/mLのFITC-共役ヤギ抗マウスIgG(Dianova、カタログ番号:115-095-062)で検出した。最後の染色ステップの後、細胞を再度洗浄し、2μg/mLのヨウ化プロピジウム(PI)(Sigma、カタログ番号:P4170)を含有する0.2mLのFACS緩衝液に再懸濁して、死細胞を排除した。Millipore Guava EasyCyteフローサイトメーター(Merck Millipore,Schwalbach,Germany)またはCytoFlexサイトメーター(Beckman Coulter,Krefeld,Germany)を使用して、2~5x103の生細胞の蛍光を測定し、細胞サンプルの蛍光強度の中央値を決定した。二次および三次試薬のみで染色された細胞の蛍光強度値を差し引いた後、その値をGraphPad Prismソフトウェア(GraphPad Prismバージョン7.04 for Windows,GraphPad Software,La Jolla California USA)を使用した非線形回帰分析に使用した。KDの計算には、1サイト結合(双曲線)の式を使用した。
【0179】
結果
クローンCD16-1からのヒトFvドメインを含有する抗CD16 scFv、クローンCD16-2からのヒト抗CD16 Fvドメインを含有するscFv、およびmAb 3G8からのマウスFvドメインを含有するscFv_3G8を、10mg/mLポリクローナルヒトIgGの存在下または非存在下で、37℃の初代ヒトNK細胞上で滴定した。それぞれの結果を
図7に示す。
【0180】
例4:抗EpCAMおよび抗CD30抗体をプレロードし、凍結/解凍した後のNK細胞による抗体媒介性細胞傷害の評価
方法:
【表6】
【0181】
細胞株の培養
COLO 205(Dr.G.Moldenhauer、ドイツがん研究センター、Heidelberg,Germanyから提供)およびKARPAS-299細胞(DSMZ、カタログ番号:ACC31)は、10%の熱不活化FCS、2mMのL-グルタミン、ならびに100IU/mLのペニシリンGナトリウムおよび100μg/mLの硫酸ストレプトマイシンを補充したRPMI 1640培地で培養した。すべての細胞株を、標準的な条件下で培養し、5%のCO2の加湿雰囲気下の37℃で供給元の推奨に従って継代培養した。
【0182】
バフィーコートからのPBMCの単離およびヒトNK細胞の濃縮
PBMCは、密度勾配遠心分離によってバフィーコート(German Red Cross,Mannheim,Germany)から単離した。バフィーコートサンプルを2~3倍量のPBS(Invitrogen、カタログ番号:14190-169)で希釈し、Lymphoprep(Stem Cell Technologies、カタログ番号:07861)のクッション上に積層し、ブレーキなしで室温で800xgで25分間遠心分離した。界面にあるPBMCを収集し、PBSで3回洗浄した後、それらを完全RPMI 1640培地(10%熱不活化FCS、2mM L-グルタミン、100IU/mLペニシリンGナトリウムおよび100μg/mLストレプトマイシン硫酸塩(すべての成分をInvitrogenより入手))を補完したRPMI 1640培地)で刺激せずに一晩培養した。NK細胞を濃縮するために、PBMCを一晩培養物から回収し、製造元の指示に従って、手つかずのヒトNK細胞の免疫磁気的単離のためにEasySep(商標)ヒトNK細胞濃縮キット(Stem Cell Technologies、カタログ番号:17055)およびBig Easy EasySep(商標)マグネット(Stem Cell Technologies、カタログ番号:18001)を使用して1ラウンドのネガティブセレクションに使用した。
【0183】
NK細胞のプレロードおよび凍結/解凍
濃縮された初代ヒトNK細胞のアリコートを、10μg/mLの示された抗体構築物を総量0.5mLで含有する完全RPMI 1640培地に再懸濁し、室温で30分間インキュベートした。20%のDMSO(Sigma)を補完した0.5mLのFCSを添加した後、次いで、細胞懸濁液を2mLのクライオチューブ(Greiner bio-one)に移し、クライオ1℃凍結容器(Nalgene)において、-80℃で12時間を超えて凍結した。
【0184】
4時間のカルセイン放出細胞毒性アッセイ
カルセイン放出細胞毒性アッセイでは、示された標的細胞を培養物から回収し、FCSを含まないRPMI 1640培地で洗浄し、37℃でFCSを含まないRPMI培地で10μMのカルセインAM(Invitrogen/Molecular Probes、カタログ番号:C3100MP)で30分間標識した。穏やかに洗浄した後、標識細胞を完全RPMI 1640培地に1x105/mLの密度で再懸濁し、次いで、1x104標的細胞のアリコートを96ウェル丸底マイクロプレートの個々のウェルに播種した。並行して、37℃の水浴中でクライオチューブをインキュベートすることにより、NK細胞を-80℃から解凍した。最後の氷の結晶が見えたら、細胞懸濁液を完全なRPMI 1640培地で希釈し、遠心分離して、1回洗浄した後、示されるように、総量200μLで新鮮な抗体を添加、または添加しないの二通りで、示されたエフェクター対標的(E:T)比で細胞を標的細胞に添加した。自発的放出は、エフェクター細胞の非存在下および抗体なしでの標的細胞のインキュベーションによって決定し、最大放出は、1%のTriton x-100(最終濃度、Roth)の添加によって誘導され、また各プレート上で4回測定した。
【0185】
200gで2分間遠心分離した後、アッセイを5%のCO2の加湿雰囲気中で37℃で4時間インキュベートした。500gで5分間さらに遠心分離した後、100μLの細胞培養上清を各ウェルから回収し、放出されたカルセインの蛍光を蛍光マルチプレートリーダー(Victor 3またはEnSight,Perkin Elmer)を使用して520nmで測定した。測定されたカウントに基づいて、特定の細胞溶解を、次の式に従って計算した:[蛍光(サンプル)-蛍光(自発的)]/[蛍光(最大)-蛍光(自発的)]x100%。蛍光(自発的)は、エフェクター細胞および抗体の非存在下での標的細胞からの蛍光カウントを表し、蛍光(最大)は、Triton X-100の添加によって誘導された総細胞溶解を表す。溶解値を分析し、GraphPad Prismソフトウェア(Windows用のGraphPad Prismバージョン7.04、GraphPad Software,La Jolla California USA)を使用して平均および標準偏差をプロットした。
【0186】
結果:
EpCAM/NKp46 scFv-IgAb_73、EpCAM/NKG2D scFv-IgAb_75、EpCAM/CD16A scFv-IgAb_80、およびIgG抗EpCAMなどの抗EpCAM抗体構築物をプレロードした初代ヒトNK細胞は、EpCAM陽性COLO 205細胞の特異的溶解を誘導したが、EpCAM陰性KARPAS-299細胞の特異的溶解は誘導しなかった。二重特異性抗EpCAM構築物の中で、EpCAM/CD16A scFv-IgAb_80をプレロードしたNK細胞は、COLO 205細胞溶解で最高の効果を示し、EpCAM/NKG2D scFv-IgAb_75をロードしたNK細胞は、最低の効果を示した。抗CD30抗体構築物をプレロードしたNK細胞調製物はいずれも、COLO 205の実質的な溶解を媒介しなかった(
図8Aおよび表5)。
【0187】
対照的に、CD30/CD16A TandAbまたはFc強化IgG抗CD30をプレロードしたNK細胞は、CD30陽性KARPAS-299細胞の溶解を媒介したが、CD30陰性COLO205細胞の溶解は媒介しなかった。野生型IgG抗CD30をプレロードしたNK細胞は、KARPAS-299の溶解を媒介しなかったが、これは、この野生型IgG抗CD30が凍結、解凍、および洗浄中にNK細胞から急速に解離し、かつ残りのIgGの数が少なすぎて、実質的な標的細胞の溶解を媒介できなかったことを示唆している(
図8Bおよび表5)。
【0188】
興味深いことに、10μg/mLのEpCAM/NKG2D scFv-IgAb_75またはCD30/CD16A TandAbをプレロードし、凍結、解凍、および洗浄したNK細胞は、それぞれ、プレロードされていないが、細胞毒性アッセイで、10μg/mLの新鮮なEpCAM/NKG2D scFv-IgAb_75またはCD30/CD16A TandAbが補完されたNK細胞と同様の、COLO 205またはKARPAS-299細胞の溶解を誘導した。
【表7】
【表8-1】
【表8-2】
【表8-3】
【表8-4】
【表8-5】
【表8-6】
【表8-7】
【表8-8】
【表8-9】
【表8-10】
【表8-11】
【表8-12】
【表8-13】
【表8-14】
【表8-15】
前記抗体構築物の前記第2の結合ドメインが結合する標的細胞の前記細胞表面上の前記細胞表面抗原が、CD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD52、CD70、CD74、CD79b、CD123、CLL1、BCMA、FCRH5、EGFR、EGFRvIII、HER2、およびGD2からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の単離されたヒトNK細胞。
前記抗体構築物が、CD16aに結合する第1の結合ドメインならびにCD19、CD20、CD22、CD30、CD33、CD52、CD70、CD74、CD79b、CD123、CLL1、BCMA、FCRH5、EGFR、EGFRvIII HER2、およびGD2からなる群から選択される抗原に結合する第2の結合ドメインを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の単離されたヒトNK細胞。
前記抗体構築物が、前記第1の結合ドメインにおいて、配列番号35および配列番号36、配列番号46および配列番号47、配列番号57および配列番号58、配列番号68および配列番号69、配列番号79および配列番号80、配列番号90および配列番号91、ならびに配列番号101および配列番号102からなる群から選択される配列の対に示される配列を有するVH鎖およびVL鎖の対を含む、請求項9に記載の単離されたヒトNK細胞。
前記抗体構築物が、前記第2の結合ドメインにおいて、配列番号112および配列番号113、配列番号123および配列番号124、ならびに配列番号134および配列番号135からなる群から選択される配列の対に示される配列を有するVH鎖およびVL鎖の対を含む、請求項8~11のいずれか一項に記載の単離されたヒトNK細胞。
前記抗体構築物の前記第2の結合ドメインが結合する標的細胞の細胞表面上の前記細胞表面抗原が、CD19、CD22、CD30、CD33、CD52、CD70、CD74、CD79b、CD123、CLL1、BCMA、FCRH5、EGFR、HER2、GD2からなる群から選択される、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。