(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081679
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】金属缶、陽圧缶及び金属缶の製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 1/16 20060101AFI20240611BHJP
B21D 51/26 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B65D1/16 111
B21D51/26 B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039599
(22)【出願日】2024-03-14
(62)【分割の表示】P 2020085889の分割
【原出願日】2020-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019096000
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠島 信宏
(72)【発明者】
【氏名】眞仁田 清澄
(57)【要約】
【課題】多面体壁と非加工領域の境目部の形状を変更することで、座屈強度の高い多面体壁を有する金属缶、陽圧缶及び金属缶の製造方法を提供する。
【解決手段】缶胴の多面体壁が形成されていない領域を円筒状の非加工領域とすると、多面体壁と非加工領域との境目に位置する単位パネルの横稜線に対して非加工領域側に形成される半パネル部が、該半パネル部を構成する斜め稜線が頂部を形成しない不完全な半パネル部となっており、それ以外の半パネル部は前記横稜線と斜め稜線により完全な半パネル部が形成されている金属缶において、不完全な半パネル部の成形時に内型工具が接触する成形領域の先端から前記横稜線までの缶胴の中心軸線と平行方向の軸方向距離が、前記完全な半パネルの横稜線から頂部までの軸方向距離もよりも短いことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶胴の一部に凸状の境界稜線によって区画された多数の単位パネルで構成される多面体壁を有し、
前記単位パネルは前記境界稜線としての斜め稜線によって区画される菱形形状で、前記缶胴の中心軸線を通る中心面上に位置する2つの頂部と、中心面に対して対称位置に位置する2つの頂部の計4つの頂部を有し、前記中心面に対して対称位置に位置する頂部を結び前記中心面と直交する谷折りの横稜線を有し、
前記多面体壁は、複数の前記単位パネルが前記缶胴の中心軸線と平行方向に並んだ単位パネル列が周方向に互いに半位相ずつずらして交互に配列され、前記単位パネルの前記横稜線を通り前記缶胴の中心軸と直交する軸直角断面形状が多角形状で、
前記缶胴の前記多面体壁が形成されていない領域を円筒状の非加工領域とすると、前記多面体壁と前記非加工領域との境目に位置する単位パネルの前記横稜線に対して前記非加工領域側に形成される半パネル部が、該半パネル部を構成する斜め稜線が頂部を形成しない不完全な半パネル部となっており、それ以外の半パネル部は前記横稜線と前記斜め稜線により完全な半パネル部が形成されている金属缶において、
前記不完全な半パネル部の成形時に内型工具が接触する成形領域の先端から前記横稜線までの前記中心軸線と平行方向の軸方向距離が、前記完全な半パネルの横稜線から頂部までの軸方向距離もよりも短いことを特徴とする金属缶。
【請求項2】
前記成形領域の先端から前記横稜線までの前記中心軸線と平行方向の軸方向距離は、前記完全な半パネルの横稜線から頂部までの軸方向距離の、70%以下に設定される請求項1に記載の金属缶。
【請求項3】
前記成形領域の距離は、横稜線から斜め稜線の端部位置までの距離とする請求項1または2に記載の金属缶。
【請求項4】
前記不完全な半パネル部の板厚が0.106mm以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属缶。
【請求項5】
前記単位パネルの横稜線を通り前記缶胴の中心軸と直交する断面が13角以上である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の金属缶。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の金属缶と、該金属缶を陽圧状態で密閉する缶蓋とを備え、前記単位パネルは、自由状態では缶胴の内方に窪んだ形状で、前記缶胴に作用する内圧によって窪みが小さくなる方向に変形し、缶蓋の開封時に元の形状に復元する構成の陽圧缶。
【請求項7】
円筒状の胴部ブランクの軸方向の一部領域を内型と外型で挟み、前記内型によって前記胴部ブランクに対して境界稜線を外向きに山折りすると共に、前記外型によって前記境界稜線で囲まれる領域を内向きに窪ませて複数の単位パネルを形成して多面体壁を成形し、前記胴部ブランクに、前記多面体壁と、前記多面体壁が加工されない円筒形状の非加工領域とを成形し、
前記缶胴の前記多面体壁が形成されていない領域を円筒状の非加工領域とすると、前記多面体壁と前記非加工領域との境目に位置する単位パネルの前記横稜線に対して前記非加工領域側に形成される半パネル部が、該半パネル部を構成する斜め稜線が頂部を形成しない不完全な半パネル部となっており、それ以外の半パネル部は前記横稜線と前記斜め稜線により完全な半パネル部が形成されている金属缶の製造方法において、
前記不完全半パネル部の成形は、前記内型の前記胴部ブランクとの接触範囲を、前記完全な半パネル部の接触範囲より小さくして成形することを特徴とする金属缶の製造方法。
【請求項8】
前記不完全半パネル部の成形は、前記内型の前記胴部ブランクとの接触範囲を、前記完全な半パネル部の接触範囲の70%以下とする請求項7に記載の金属缶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、缶胴に複数の単位パネルによって構成される多面体壁を有する金属缶、陽圧缶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の多面体壁を有する金属缶としては、たとえば、特許文献1に記載のようなものが知られている。
この金属缶は、缶胴の一部に凸状の境界稜線によって区画された多数の単位パネルで構成される多面体壁を有している。単位パネルは境界稜線としての斜め稜線によって区画される菱形形状で、缶胴の中心軸線を通る中心面上に位置する2つの頂部と、中心面に対して対称位置に位置する2つの頂部の計4つの頂部を有し、前記中心面に対して対称位置に位置する頂部を結ぶ谷折りの横稜線を有している。多面体壁は、複数の前記単位パネルが缶胴の中心軸線と平行方向に並んだ単位パネル列が、周方向に互いに半位相ずつずらして交互に配列され、単位パネルの横稜線を通り前記缶胴の中心軸と直交する断面が多角形状となっている。
多面体壁と非加工領域との境目に位置する単位パネルは、横稜線に対して非加工領域側の半パネル部が、この半パネル部を構成する斜め稜線が頂部を形成しないで非加工領域に移行する不完全な半パネル部の形状となっており、多面体壁の多角形状からなめらかに非加工領域の円筒形状に移行する形状となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、缶胴の一部に多面体壁を加工した金属缶の場合、従来から多面体壁よりも円筒状の非加工領域の方が軸圧縮荷重に対する座屈強度が高いので、多面体壁で座屈が生じることが知られている。
近年、容器の軽量化を図るために、板厚を薄肉化する要請があり、板厚を薄くしていくと、多面体壁と非加工領域の境目付近で座屈変形が生じる傾向となるがわかった。板厚を厚肉とすれば、境目付近での座屈が生じにくくなるが、容器重量が増しコストアップとなる。
座屈変形が生じるのは、非加工領域との境目に周方向に配列される不完全な半パネル部の間の領域から生じている。この領域で座屈が生じるのは、不完全な半パネル部には頂部が無いものの、軸圧縮荷重が作用した場合に、斜め稜線の延長線の交点付近に圧縮応力の応力集中部が生じ、この部分が疑似頂部として缶の外方に突出する方向に変形し、応力集中部の間の領域には缶内方に窪ませる方向に引っ張り応力が生じ、窪みが生じると一気に座屈変形が進行するものと考えられる。
鋭意研究した結果、多面体壁から非加工領域に移行する境目の不完全な半パネル部の形状によって、板厚を薄くしても境目での座屈が生じにくくなり、結果的に座屈強度を高めることができるという知見を得た。
本発明の目的は、多面体壁と非加工領域の境目の不完全な半パネル部の形状を変更することで、多面体壁を有する座屈強度の高い金属缶、陽圧缶及び金属缶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、缶胴の一部に凸状の境界稜線によって区画された多数の単位パネルで構成される多面体壁を有し、
前記単位パネルは前記境界稜線としての斜め稜線によって区画される菱形形状で、缶胴の中心軸線を通る中心面上に位置する2つの頂部と、中心面に対して対称位置に位置する2つの頂部の計4つの頂部を有し、前記中心面に対して対称位置に位置する頂部を結び前記中心面と直交する谷折りの横稜線を有し、
前記多面体壁は、複数の前記単位パネルが前記缶胴の中心軸線と平行方向に並んだ単位パネル列が周方向に互いに半位相ずつずらして交互に配列され、前記単位パネルの横稜線を通り前記缶胴の中心軸と直交する軸直角断面形状が多角形状で、
前記缶胴の前記多面体壁が形成されていない領域を円筒状の非加工領域とすると、前記多面体壁と前記非加工領域との境目に位置する単位パネルの前記横稜線に対して前記非加工領域側に形成される半パネル部が、該半パネル部を構成する斜め稜線が頂部を形成しない不完全な半パネル部となっており、それ以外の半パネル部は前記横稜線と前記斜め稜線により完全な半パネル部が形成されている金属缶において、
前記不完全な半パネル部の成形時に内型工具が接触する成形領域の先端から前記横稜線までの前記中心軸線と平行方向の軸方向距離が、前記完全な半パネルの横稜線から頂部までの軸方向距離もよりも短いことを特徴とする。
境目を構成する不完全な半パネル部と周方向に隣接する領域は、非加工領域の円筒面形状の一部が入り込んだ部分円筒領域となっており、この円筒領域の円筒形状が斜め境界稜線を越えて、境目の不完全な半パネル部の形状をあいまいな形状としている。
本発明者らは、この部分円筒領域から境目の不完全な半パネル部に至るあいまいな形状は、成形加工段階での成形型の接触状態で変化し、加工度合をより甘くすることで、より円筒に近くなり、圧縮応力を分散させて座屈強度が高まることを見出した。
加工度合いをより甘くするために、本第3の発明では、内型工具と外型工具で挟まれる成形領域の横稜線からの軸方向の距離を短くしている。このようにすれば、部分円筒領域の円筒形状の影響がより大きくなり、形状的に円筒に近くなって、座屈強度を高めることができる。
【0006】
また、本発明は次のように構成することができる。
1.前記成形領域の先端から前記横稜線までの前記中心軸線と平行方向の軸方向距離は、前記完全な半パネルの横稜線から頂部までの軸方向距離の、70%以下に設定される。
このようにすれば、座屈強度を大きくすることができる。
2.前記成形領域の距離は、横稜線から斜め稜線の端部位置までの距離とする。
このように構成することにより、接触範囲を確認することができる。
【0007】
また、次のように構成することもできる。
1.前記不完全な半パネル部の板厚が、0.106mm以下とする。
この程度の薄肉の板厚であっても、非加工部との境目付近での座屈の発生を防止できる。
2.前記単位パネルの横稜線を通り前記缶胴の中心軸と直交する断面が13角以上であることを特徴とする。
このように13角以上の場合、単位パネルが小さくなりパネルデプスが小さくなるため、座屈強度が向上し、薄肉化と多角化を実現することができる。
また、本願の他の発明は、
上記した発明に係る金属缶と、金属缶を陽圧状態で密閉する缶蓋と、を備え、前記単位パネルは、自由状態では缶胴の内方に窪んだ形状で、前記缶胴に作用する内圧によって窪みが小さくなる方向に変形し、缶蓋の開封時に元の形状に復元する陽圧缶に使用されること特徴とする。
陽圧缶に使用すると、内圧により座屈強度が向上し、薄肉化を実現することができる。
【0008】
また、他の発明は、
円筒状の胴部ブランクの軸方向の一部領域を内型と外型で挟み、前記内型によって前記胴部ブランクに対して境界稜線を外向きに山折りすると共に、前記外型によって前記境界稜線で囲まれる領域を内向きに窪ませて複数の単位パネルを形成して多面体壁を成形し、前記胴部ブランクに、前記多面体壁と、前記多面体壁が加工されない円筒形状の非加工領域とを成形し、
前記缶胴の前記多面体壁が形成されていない領域を円筒状の非加工領域とすると、前記多面体壁と前記非加工領域との境目に位置する単位パネルの前記横稜線に対して前記非加工領域側に形成される半パネル部が、該半パネル部を構成する斜め稜線が頂部を形成しない不完全な半パネル部となっており、それ以外の半パネル部は前記横稜線と前記斜め稜線により完全な半パネル部が形成されている金属缶の製造方法において、
前記不完全半パネル部の成形は、前記内型の前記胴部ブランクとの接触範囲を、前記完全な半パネル部の接触範囲より小さくして成形することを特徴とする。
これにより、加工度合いをより甘くなって、隣接する部分円筒領域の円筒形状の影響がより大きくなり、形状的に円筒に近くなって、座屈強度を高めることができる。
また、この発明は、次のように構成することもできる。
1.前記不完全半パネル部の成形は、前記内型の前記胴部ブランクとの接触範囲を、前記完全な半パネル部の接触範囲の70%以下とする。
このようにすれば、より確実に座屈強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0009】
本願発明によれば、多面体壁と非加工領域の境目の不完全半パネル部の形状を変更することで、座屈強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る16角の金属缶を示すもので、(A)は正面図、(B)は(A)のA-A線断面図、である。
【
図2】
図2(A)は
図1の金属缶の要部拡大斜視図、(B)は(A)のタテB-B線断面図である。
【
図3】
図3は内型工具と外型工具による多面体壁加工状態を示す缶軸方向からみた概念図である。
【
図4】
図4(A)は
図3の内型工具と外型工具を離して示す要部斜視図、(B)は(A)の内型工具と外型工具によって胴部ブランクを加工している状態の一部断面正面図である。
【
図5】
図5(A)は
図2の金属缶の多面体壁を成形する内型工具の成形領域と非加工領域との境目付近の平面図、(B)は(A)の内型工具のB-B断面位置にて金属缶の成形状態を切断して示す断面図、(C)は(A)のC-C断面位置にて金属缶の成形状態を切断した断面図である。
【
図6】
図6(A)は
図1の金属缶のパネル列を示す図、(B)は(A)のB-B線断面図である。
【
図7】
図7は、パネル傾斜角とパネルデプスを測定する測定装置を示す図である。
【
図8】
図8(A)は傾斜角比率と多面体壁の角数との関係、(B)はデプス比率と多面体壁の角数との関係を示す図である。
【
図9】
図9は座屈強度の測定方法を示す図で、(A)は測定装置全体図、(B)は座屈強度を測定する際に用いるネック部補強ジグを示す図である。
【
図10】
図10(A)は、本実施形態の金属缶に内圧が陽圧となる内容物を充填して缶蓋を巻締めた陽圧缶、(B)は陽圧の開放状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
まず、
図1を参照して、本発明の実施形態に係る金属缶の全体構成について説明する。
この金属缶1は、一般的なアルミ合金等の絞りしごき缶で、ストレートに延びる円筒形状の缶胴21と、缶胴21の上端の径を絞ったネック部22と、底部23とを有する構成で、ネック部22上端の口部に、不図示の缶蓋が巻締められるフランジ24が設けられている。
この実施形態では、たとえば、内容量が160ml~500ml用、5℃における缶内圧が20~300[kPa]の陽圧缶に使用される金属缶で、缶胴21の板厚は、0.075~0.135[mm]であり、缶胴径Dが50~70[mm](202径~211径)、缶高さHが90~170[mm]の範囲で使用を想定している。缶胴径Dに対する缶高さHの比率は、1.3~2.6程度である。
なお、本発明は陽圧缶用の金属缶に限らず、陰圧缶用にも適用可能であり、また、アルミ合金等に限らず、スチール缶にも適用でき、金属缶に広く適用可能である。
【0012】
多面体壁4は、缶胴21の周長は変化させずに折り構造によって凹凸形状としたもので、境界稜線51の折り目で区画された菱形形状の多数の単位パネル5で構成されている。単位パネル5は缶胴21の中心軸線である缶軸Oと平行方向(以下、単に軸方向という)に所定数配列されてパネル列(単位パネル列)50を構成し、このパネル列50が缶胴21の周方向に全周的に配列された構成となっている。互いに隣り合うパネル列50の単位パネル5の軸方向の位相は、単位パネル5の軸方向の長さの半分だけずらして配列され、単位パネル5が軸方向及び周方向に密に配列されている。
隣り合うパネル列50は、単位パネル5の長さの半分だけ軸方向にずれているので、周方向に一つ置きに位置するパネル列50の単位パネル5は、軸方向に同一位相にあり、谷折りの横稜線52が、共通する頂部53を介してつながっている。
したがって、単位パネル5の横稜線52の位置で、缶軸Oに対して軸直角方向に切断した軸直角断面形状は、
図1(B)に示すように、正多角形状となる。図示例では、好適な例として正16角形の断面形状のものを例示しているが、角数は16角に限定されず、16角よりも少ない角数の多角形状であってもよいし、16角よりも多い角数の多角形上であってもよい。
多面体壁4は、この例では、缶胴21の軸方向中途部分に、帯状に設けられ、多面体壁4の上部及び下部の非加工領域は、凹凸の無い円筒状のストレート部21a,21bとなっている。
【0013】
図10は、上記金属缶を用いた陽圧缶10を示している。
図10(A)は開口前の内圧が加わった状態、
図10(B)は開口した段階の内圧開放状態を示している。
すなわち、陽圧缶10は、金属缶1と、金属缶に内容物を充填して陽圧状態で密閉する缶蓋3とを備え、多面体壁4の単位パネル5は自由状態では缶胴2の内方に窪んだ形状で、
図10(A)に示すように、缶胴2に作用する内圧によって窪みが小さくなる方向に変形し、缶蓋3の開封時に、
図10(B)に示すように、元の形状に復元する構成となっている。
【0014】
本発明は、多面体壁4の軸方向両端に位置する単位パネル5の、非加工領域との境目の形状を工夫したものである。以下、
図2を参照して、単位パネルの形状について説明する。
図2(A)は、
図1の多面体壁の開口端側の端部とストレート部との境界付近の単位パネルを軸直角方向に対して仰角を有する視点で見た要部斜視拡大図、(B)は(A)のB-B線に沿って缶軸を通る面で切断した断面図である。多面体壁の底部側の端部とストレート部との境目付近についても上下対称となるだけで、同じ構造である。
まず、ストレート部の境目の単位パネルではなく、端から2番目の単位パネル5を例にとって、完全な形態の単位パネル5(完全単位パネル)の構成について説明する。
単位パネル5は、缶胴21の缶軸Oを通る中心面M上に位置する2つの頂部53、53と、中心面Mに対して対称位置に位置する2つの頂部53、53の計4つの頂部を有している。これら4つの頂部53は、理想的には缶軸Oを中心とする円筒面上に位置し、中心面Mに対して対称位置に位置する頂部53、53を結ぶ谷折りの横稜線52によって、軸方向に缶胴21の内方にくの字状に屈曲して窪んだ構成となっている。4つの頂部53~53を通る仮想の円筒面の径は、缶胴21の最大径となる。
横稜線52を隔てて、開口端側に位置する三角形状の部分を上半パネル部5aと、底部側に位置する三角形状部分を下半パネル部5bとすると、上半パネル部5aと下半パネル部5bは、横稜線52を底辺とし、中心面M上に位置する頂部53を頂点とする同一形状の二等辺三角形状であり、以後、完全半パネル部と呼ぶ。
【0015】
次に、ストレート部21aとの境目に位置する不完全な形態な単位パネル5(不完全単位パネル)について説明する。
この端部に位置する単位パネルは、下半パネル部5bは横稜線52を底辺とし、頂部53を頂点とする完全半パネル部であるが、上半パネル部5aは、横稜線52を底辺とするものの、頂部が無く、横稜線52から軸方向開口端側に向かってほぼ直線的に缶の外側に傾斜する直線的傾斜面X1と、直線的傾斜面X1から徐々に傾斜が緩やかになってストレート部21aに移行する曲線的傾斜面X2を備えている不完全半パネル部となっている。また、周方向に上半パネル部5aと隣接する逆三角状の領域は、ストレート部21aの円筒面形状の一部が入り込んだ部分円筒領域Yとなっており、境界稜線51は、加工時の折り曲げ度合が甘くなっている。そのため、部分円筒領域Yの円筒形状が境界稜線51を越えて上半パネル部5aに入り込み、横稜線52の近傍の形状剛性の高い直線的傾斜面X1を囲むように、曲線的傾斜面X2に連続している。
本発明者らは、この部分円筒領域Yから曲線的傾斜面X2に至るあいまいな形状について、不完全半パネル部のパネル傾斜角またはパネルデプスを、その他の完全半パネル部のパネル傾斜角またはパネルデプスよりも小さくすることで、形状的に軸荷重を分散させることができ、座屈強度を高めることができることを見出した。
【0016】
パネル傾斜角について
まず、パネル傾斜角について説明する。
各半パネル部5a、5bのパネル傾斜角θa,θbは、
図2(B)に示すように、缶胴21の缶軸(中心軸線)Nを通り、かつ単位パネル5の横稜線52の中点mを通る中心面M上において、各半パネル部5a、5bと、缶軸Oとのなすパネル傾斜角θa,θbである。より具体的には、パネル傾斜角は、缶胴の缶軸Oを通り、かつ単位パネル5の横稜線52の中点mを通る中心面Mで切断した単位パネル5の外面側の輪郭線(中央軸方向輪郭線)Zと、中心面M上において、中点mを通る缶軸Oと平行な基準線L1となす角度である。
不完全半パネル部は、円筒面に移行する部分であり、他の完全な半パネル部のように三角形の平面形状とならず、横稜線52からの立ち上がり部分は直線的に立ち上がり、徐々に傾斜角が小さくなって非加工領域に移行する曲面構成となるが、本実施形態では、この直線的傾斜面X1についての角度をパネル傾斜角とする。
そして、本発明では、不完全半パネル部のパネル傾斜角を、完全半パネル部のパネル傾斜角よりも小さく設定している。
これにより、軸圧縮荷重が作用した場合に、非加工領域の境目に位置する不完全な半パネル部の斜め稜線(境界稜線)51の延長線上に生じる圧縮応力の応力集中部において、缶の外方に突出させる方向の分力は、多面体壁の頂部に作用する力よりも小さくなり、応力集中部の間に作用する引っ張り応力も小さくなって、従来よりも座屈変形しにくい構造となり座屈強度を高めることができる。
この不完全な半パネル部のパネル傾斜角が、完全な半パネル部のパネル傾斜角に対する割合を傾斜角比率α[%]すると、傾斜角比率αは、多面体壁4の横稜線52を通り缶軸O(缶胴2の中心軸)と直交する軸直角断面の多角形状の角数をNとすると、
α≦0.50×N+59.0
の数式を満足する構成とする。
このようにすれば、より確実に非加工部との境目付近での座屈強度を大きくできる。
【0017】
パネルデプスについて
各単位パネル5の完全半パネル部についてのパネルデプスは、缶胴21の缶軸Oを通り、かつ単位パネル5の横稜線52の中点mを通る中心面M上において、各単位パネルの各半パネル部の頂部と中点mとの間の前記缶軸Oと直交方向の距離である。この実施形態では、中心面M上において、頂部を通り缶軸Oと平行に引いた基準線(頂部外径線)L2から横稜線位置まで、すなわち横稜線の中点mまでの、缶軸Oと直交方向の距離である。
また、上部ストレート部21aとの境目に位置する不完全の上半パネル部5a1のパネルデプスは、横稜線52の中点を通る中心面M上において、上部ストレート部21aから横稜線の中点mまでの、缶軸Oと直交方向の距離とする。
そして、本発明では、不完全半パネル部のパネルデプスを、完全半パネル部のパネルデプスよりも小さく設定している。
このように設定すれば、パネル傾斜角と同様に、軸圧縮荷重が作用した場合に、非加工領域の境目に位置する不完全な半パネル部によって生じる圧縮応力の応力集中部を缶の外方に突出させる方向の分力は、多面体壁の頂部に作用する力よりも小さくなることを意味しており、応力集中部の間に作用する引っ張り応力も小さくなって、従来よりも座屈変形しにくい構造となり座屈強度を高めることができる。
そして、境目に位置する不完全な半パネル部のパネルデプスが、前記完全な半パネル部のパネルデプスに対する割合をβ[%]とし、前記多面体壁の前記横稜線を通り前記缶胴の中心軸と直交する軸直角断面の多角形状の角数をNとすると、
β≦3.50×N+12.9
の数式を満足する構成とする。
このようにすれば、より確実に非加工部との境目付近での座屈強度を大きくできる。
【0018】
このような不完全半パネル部の部分円筒領域Yから曲線的傾斜面X2に至るあいまいな形状は、後述する製造方法における成形加工段階での成形型の接触状態で変化し、加工度合をより甘くすることで、より円筒に近くなり、軸荷重を分散させて座屈強度を高めることができる。本発明は、不完全な半パネル部の成形時に内型工具と外型工具で挟まれる成形領域Wの先端から横稜線52までの軸方向の距離(
図5のL11)が、完全半パネルの横稜線52から頂部53までの軸方向の距離(
図5のL10)もよりも短く設定している。
成形領域Wは、内型工具のエッジ部の成形痕として残る斜め稜線51の端部位置までの距離である。
具体的には、この距離は、完全半パネルの横稜線から頂部までの軸方向の距離の、70%以下に設定することが好適である。
【0019】
製造方法
次に、
図3乃至
図5を参照して、本実施形態の金属缶の製造方法について説明する。
図3は、製造方法に用いる成形型の一例である。
図に示すように、胴部ブランク400の軸方向の一部領域を内型工具200と外型工具300で内周側と外周側からはさみ、内型工具200と外型工具300を同期して回転することで、外型工具300の周面に設けられた凸部305を、内型工具200の周面に設けられた単位パネル形状の凹部205に押し込んで、順次単位パネル5を成形していく。すなわち、内型工具200によって胴部ブランク400に対して境界稜線51を外向きに山
折りすると共に、外型工具30によって境界稜線51で囲まれる領域を内向きに窪ませて単位パネル5を成形する。
外型工具300は回転体ではなく、公知の扇形状の円弧上の周面に凸部を設けたものでもよいし、凸部を平面上に直線状に並べて直線運動させるものでもよい。
図4には、内型工具200の凹部205のパターンと、外型工具300の凸部305のパターンを示している。
内型工具200の外周面には、多面体壁4に対応して、n個の単位パネル成形用の凹部205と、位相が半位相ずれた(n-1)個の凹部205で構成されるパネル列成形部250が周方向に交互に形成されている。
内型工具200の凹部205は、単位パネル5の横稜線52に対応する屈曲線252を底辺とし、上半パネル部5aを成形する三角形状の上半パネル成形面205aと、下半パネル部5bを成形する三角形状の下半パネル成形面205bとを有し、各上,下半パネル成形面205a,205bは、底辺となる屈曲線252から三角形の頂部側に向かって、回転軸からの距離が拡大する方向に傾斜している。
外型工具300の凸部305は、胴部ブランク400を凹部205との間で挟み込み、内型工具200の回転に合わせて転がるように連れ回りする構成で、横稜線52を成形するための円弧状稜線352を有し、この円弧状稜線352を隔てて、上半パネル成形面205a及び下半パネル成形面205bの傾斜に合わせた互いに逆向きの円錐の一部を構成する上半パネル押さえ面352aと、下半パネル押さえ面352bとを備えている。
【0020】
次に、
図5を参照して、非加工領域であるストレート部と多面体壁4との境目の成形について説明する。
図5(A)は、上部ストレート部の境目付近の多面体壁を成形する内型工具の要部概略平面図、(B)は(A)のB―B断面位置での内型工具と外型工具による成形状態の概略断面図、(C)は(A)のC-C断面位置での内型工具と外型工具による成形状態の概略断面図である。
多面体壁4と上部ストレート部21aとの境目にある、1番目の単位パネル5(1)に対応する1番目の凹部205(1)の上半パネル(不完全半パネル)成形面205aは、先端部分が軸方向に切断された逃げ部205cとなっており(
図5(A)及び(B)参照)、胴部ブランク400に接触する接触領域における屈曲線252から逃げ部205cまでの軸方向距離L11(内型工具で言えば、内型工具の回転軸と平行方向、胴部ブランクの中心軸と並行であり、成形される金属缶の缶軸方向と平行方向の距離)が、完全半パネル部の半パネル成形面205a,205bの屈曲線252から頂部253までの軸方向距離L10よりも短く設定されている。
この凹部205の上半パネル成形面205aの接触領域が、金属缶1のストレート部21aとの境目の単位パネル5の上半パネル部5a(不完全半パネル部)の成形領域となる。
なお、
図5(A)中、×を付した部分は、胴部ブランク400に、外型工具300と内型工具200が共に接触して成形する領域であり、点(・)を付した逃げ部205cの領域は、外型工具300の凸部上半パネル押さえ面352aで接触して成形はするが、内型工具200が接触しない領域、白抜きの逆三角形状の領域210は、外型工具300の円筒部205dが接触して円筒形状を保持するものの、押圧することなく成形しない領域である。
この成形領域について、屈曲線252から接触領域の先端(逃げ部205cとの境界)までの軸方向距離L11は、完全半パネル部の半パネル成形面205a,205bの屈曲線252から頂部253までの軸方向距離L10の70%以下とすることが好ましく、64%以下とすることがより好ましい。
【0021】
次に、このように成形された金属缶の軸荷重についての評価試験について説明する。
試験は、本実施形態のように、ストレート部との境目の不完全半パネル部について、内型工具の接触範囲を制限して製造した金属缶を実施例、内型工具の接触範囲を制限しない
で100%接触させて製造した金属缶を比較例とし、
図1のA-A断面の角数と不完全半パネル部(境目)の板厚を変えている。
比較例1,2及び実施例1,2は、350mlの飲料に用いられる13角のアルミ缶である。不完全半パネル部(境目)の板厚は、それぞれ、0.118mm、0.097mmである。
比較例3,4および実施例3,4は、350mlの飲料缶に用いられる16角のアルミ缶で、不完全半パネル部(境目)の板厚は、0.118mm,0.106mmである。
比較例5,6及び実施例5,6は、500ml用の飲料缶に用いられる16角のアルミ缶で、不完全半パネル部(境目)の板厚は、0.105mm、0.102mmである。
比較例1~6の金属缶は、いずれも、内型工具200の胴部ブランク400との接触範囲を、完全な半パネル部の接触範囲の100%で成形されている。
実施例については、13角の実施例1,2の金属缶は、内型工具200の胴部ブランク400との接触範囲を、完全な半パネル部の接触範囲の64%で成形されている。16角の実施例3~6の金属缶は、内型工具200の胴部ブランク400との接触範囲を、完全な半パネル部の接触範囲の70%で成形されている。
【0022】
パネル傾斜角及びパネルデプスの測定
評価試験にあたって、境目の不完全半パネル部の形状を特徴づける要素として、パネル傾斜角とパネルデプスを測定した。
図6には、一つのパネル列の各単位パネルについての、パネル傾斜角とパネルデプスを示している。
図において、パネル列50の5個の単位パネル5について、上部ストレート部21a側の端部に位置する単位パネルを1番目とし、下部ストレート部側に向けて昇順に番号を付け、5(1),5(2),・・5(5)とし、各単位パネル5の上半パネル部5aと下半パネル部5bを、5a1,5b1、・・5a5,5b5とする。
各単位パネル5について、上半パネル部と下半パネル部の2つのパネル傾斜角を測定し、それぞれのパネル傾斜角θa,θbを、θa1,θb1、・・・θa5,θb5とする。また、パネルデプスについても、上半パネル部と下半パネル部の2つのパネルデプスを測定し、それぞれのパネルデプスを、da1,db1、・・・da5,db5とする。
一番目の単位パネル5(1)の上半パネル部5a1と、5番目の単位パネル5(5)の下半パネル部5b5が、不完全半パネル部である。
【0023】
図7には、パネル傾斜角とパネルデプスの測定装置を示している。
・パネル傾斜角の測定
測定台103上に置かれた2個のVブロック102に、缶胴2のストレート部21a,21bが接触するように金属缶1を載せ、缶胴2の缶軸Oを水平に合わせる。そして、形状測定装置100の測定子101を缶胴に接触させ、測定子101を缶軸O方向にスライドさせて輪郭形状データを取得する。測定装置100としては、株式会社ミツトヨ製のコントレーサCV-4100を用いた。
得られた輪郭形状データをCADデータに変換し、CAD上で各半パネル部と水平線(缶軸と平行)との成す角度を測定する。両端の不完全半パネル部5xは横稜線52近傍では直線的な傾斜面であるが、途中から曲面となるため、直線的な傾斜面での傾斜角度を測定する。
・パネルデプスの測定
パネル傾斜角と同様に輪郭形状データをCADデータに変換し、CAD上で各頂部又はストレート部と横稜線部分の垂直方向距離を測定する。
【0024】
表1には、比較例1~6、実施例1~6の、パネル傾斜角とパネルデプスを示している。
【0025】
【0026】
各単位パネル5の上半パネル部と下半パネル部のパネル傾斜角θa,θbは、板厚分布
や加工精度等によってばらつきがあるために、各完全半パネル部のパネル傾斜角の平均値をとり、この完全半パネル部のパネル傾斜角の平均値に対する、不完全半パネル部のパネル傾斜角の平均値の割合を規定するものとする。
すなわち、不完全半パネル部である1番目の上半パネル部5a1のパネル傾斜角θa1及び5番目の下半パネル部5b5のパネル傾斜角θb5の平均値[(θa1+θb5)/2]、それ以外の完全半パネル部を構成する上半ネル部及び下半パネル部(5b1、5a2,5b2、・・・5a5)のパネル傾斜角(θb1,θa2,θb2,・・・θa5)の平均値[(θb1+θa2+θb2+・・+θa5)/8]から、その比率を算出した。この比率をパネル傾斜角比率αとし、パーセンテージで示すものとする。すなわち、パネル傾斜角比率αは、次式で示される。
α=[[(θa1+θb5)/2]/[(θb1+θa2+θb2+・・+θa5)/
8]]×100
同様に、不完全半パネル部である1番目の上半パネル部5a1のパネルデプスda1及び5番目の下半パネル部5b5のパネルデプスdb5の平均値:((da1+db5)/2)が、完全半パネル部のパネルデプス(db1,da2,db2,・・・da5)の平均値[(db1+da2+db2+・・+da5)/8]から、その比率を算出した。この比率をパネルデプス比率βとし、パーセンテージで示すものとする。すなわち、パネルデプス比率βは、次式で示される。
β=[[(da1+db5)/2]/[(db1+da2+db2+・・+da5)/
8]]×100
【0027】
(パネル傾斜角とパネルデプスの測定結果)
図8(A)は、表1に示したパネル傾斜角の比率αと角数の関係を示すグラフである。
グラフから明らかなように、実施例1~6は、いずれも比較例1~6に対して低い値となり、明瞭に分かれている。パネル傾斜角の比率αは多面体壁4の角数Nが大きくなると大きくなる傾向があり、13角から16角の間は比例的に変化すると考えられるので、比例配分をし、13角における最大値(実施例2の65.5%)と16角における最大値(実施例4の67%)を通る直線より下方の領域を示す、
α≦0.50×N+59.0
の数式を得た。この領域に入るように、不完全半パネル部のパネル傾斜角を設定することが好適である。
すなわち、16角であれば、比率が67%以下に、13角であれば、65.5%以下になるように設定することが好ましく、14角、15角あるいは16角より大きい場合には、上式の比例配分で求めた比率以下に設定することが好ましい。
この13角、16角におけるパネル傾斜角の比率αの意味は、内型工具200の胴部ブランク400との接触範囲と関係し、座屈荷重の向上が認められ始めるパネル傾斜角の比率αを、実験的に求めたものであり、たとえば、66.7%あるいは70%程度に設定することもできる。
【0028】
図8(B)は、表1に示したパネルデプスの比率βと角数の関係を示すグラフである。グラフから明らかなように、実施例1~6は、パネル傾斜角と同様に、いずれも比較例1~6に対して低い値となり、明瞭に分かれている。パネルデプスの比率βは多面体壁4の角数Nが大きくなると、パネル傾斜角と同様に、大きくなる傾向があり、13角から16角の間は比例的に変化すると考えられるので、比例配分をし、13角における最大値(実施例2の58.4%)と16角における最大値(実施例4の68.9%)を通る直線より下方の領域を示す、
β≦3.50×N+12.9
の数式を得た。この領域に入るように、不完全半パネル部のパネルデプスを設定することが好適である。
すなわち、13角であれば、比率が58.4%以下に、16角であれば、68.9%以
下になるように設定することが好ましく、14角、15角あるいは16角より大きい場合には、上式の比例配分で求めた比率以下に設定することが好ましい。
この13角、16角におけるパネルデプスの比率βの意味について、パネル傾斜角と同様に、内型工具200の胴部ブランク400との接触範囲と関係し、軸荷重の向上が認められ始めるパネルデプスの比率βを、実験的に求めたものである。
【0029】
次に座屈強度の測定方法について説明する。
座屈強度の測定装置には「株式会社島津製作所」製、オートグラフ(型番:AG-2000D)を用いた。まず、金属缶1のフランジ24側が上向きになるように測定装置6の受圧テーブル61に置き、
図8(B)に示す様に、金属缶1の開口部にネック部補強ジグ62を載せる。次に、
図8(A)に示すように、試験装置にて、金属缶1に載せたネック部補強ジグ62に10mm/minの圧縮速度で圧縮荷重を加え、横軸に圧縮量、縦軸に圧縮荷重のグラフを出力する。座屈が発生すると圧縮荷重が低下するので、グラフの最大値を読み取り、その値を座屈強度とする。測定数量は12缶以上とし、その平均値を求めた。
【0030】
(試験結果)
表2は、上記した比較例1~6の金属缶と、実施例1~6の金属缶についての、座屈強度の測定結果である。表1中の(n)は、測定したサンプル数である。
比較例1と実施例1を比較すると、比較例1の座屈強度の平均値は、1165N、実施例1の座屈強度の平均値は、1174Nに増大した。
比較例2と実施例2とを比較すると、比較例2の座屈強度の平均値は794Nに対して、実施例2の座屈強度の平均値は831Nに増大した。
比較例3と実施例3とを比較すると、比較例3の座屈強度の平均値は1400Nで、実施例3の座屈強度の平均値は1383Nとなった。
比較例4と実施例4とを比較すると、比較例4の座屈強度の平均値は1084Nで、実施例4の座屈強度の平均値は1129Nに増大した。
比較例5と実施例5とを比較すると、比較例5の座屈強度の平均値は1138Nで、実施例5の座屈強度の平均値は1238Nとなった。
比較例6と実施例6とを比較すると、比較例6の座屈強度の平均値は977Nで、実施例6の座屈強度の平均値は1081Nとなった。
比較例3と実施例3の場合を除いて、すべて実施例の方が、座屈強度が増大している。実施例3の場合は座屈強度が98.8%と僅かに低下しているが、測定誤差を考慮するとほぼ変わらないものと判断される。実施例3は板厚が厚く、板厚が厚いと座屈強度が境目の不完全半パネル部の形状よりも板厚に依存する傾向が大きくなる。
板厚が低下するほど、本実施例の、不完全半パネル部のパネル傾斜角及びパネルデプスで特徴づけられる形状変更の効果が高くなる。表2の結果からすると、境目の不完全半パネル部の板厚が0.106mm以下の場合に、13角、16角共に、座屈強度増大の効果がより顕著に得られる。
なお、座屈強度は、350ml同士を比べると、13角(実施例1,実施例2)よりも
16角(実施例3,実施例4)の方が大きくなっているが、16角においては、350m
l(実施例3,実施例4)より500ml(実施例5,実施例6)の方が小さくなっている。これは、缶胴の長さが500mlの方が長いためであり、実施例5、実施例6についても、同じ容量で比較すれば、比較例5,比較例6に比べて座屈強度は大きくなっている。
このように座屈強度の大きさ自体は、容器の容量、寸法によって異なるが、パネル傾斜角比率、パネルデプス比率を適切な範囲に選択することによって、座屈強度を増大させることができる。
【0031】
【0032】
なお、上記実施形態では、5個の単位パネルを有するパネル列と、半位相ずれた4個の
単位パネルを有するパネル列があり、5個の単位パネルを有するパネル列の両端に不完全半パネル部を有する形状であるが、2種類のパネル列の単位パネル数が同数であり、一方のパネル列の軸方向一端側に不完全半パネル部を有し、他方のパンチ列の軸方向他端側に不完全半パネル部を有するような構成でもよい。
また、上記実施形態では、多面体壁が周方向全周にわたって形成されているが、周方向に部分的に設けられていてもよい。さらに、軸方向に複数の多面体壁が非加工部を隔てて配置されているような場合にも適用可能である。
さらに、上記実施形態では、開口端側及び底部側の両方にストレート部(非加工領域)を有する形状となっているが、開口端側と底部側の一方にのみストレート部(非加工領域)があるような構成の金属缶にも適用可能である。要するに、本発明は、非加工領域との境目に位置する不完全半パネル部の形状に適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 金属缶
4 多面体壁
5 単位パネル
50 パネル列
51 境界稜線(斜め稜線)、52 横稜線、53 頂部
5a 上半パネル部、5b 下半パネル部
5a1 上半パネル部(不完全半パネル部)、
5b5 下半パネル部(不完全半パネル部)
21 缶胴、21a,21b ストレート部(非加工領域)
22 ネック部、23 底部、24 フランジ
100 形状測定装置
101 測定子、102 Vブロック、103 測定台
6 測定装置
61 受圧テーブル、62 ネック部補強ジグ
200 内型工具、205 凹部
205a 上半パネル成形面、205b 下半パネル成形面
205b 半パネル成形面
250 パネル列成形部、251 稜線、252 屈曲線
300 外型工具
305 凸部、352 円弧状稜線
400 胴部ブランク
L1 基準線、L2 基準線
L10、L11 軸方向距離
M 中心面、O 缶軸(中心軸線)
W 成形領域
X1 直線的傾斜面、X2 曲線的傾斜面
Y 部分円筒領域
Z 輪郭線
m 中点、
θa,θb パネル傾斜角