(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081681
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】自動運転装置、車両制御方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240611BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20240611BHJP
G01C 21/30 20060101ALI20240611BHJP
B60W 50/035 20120101ALI20240611BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20240611BHJP
G09B 29/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
G08G1/16 C
G08G1/00 A
G01C21/30
B60W50/035
B60W50/14
G09B29/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024041206
(22)【出願日】2024-03-15
(62)【分割の表示】P 2022535359の分割
【原出願日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2020117903
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】項 警宇
(72)【発明者】
【氏名】大澤 弘幸
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ユーザを困惑させてしまう恐れを低減できる自動運転装置、車両制御方法を提供する。
【解決手段】自動運転装置は、現在位置に応じた部分地図データを地図サーバからダウンロードして制御計画を作成するように構成されている。自動運転装置は、通信の不具合等により、所定時間以内に進入予定のエリアに関する部分地図データである次エリア地図データを取得できていない場合、地図取得残余時間を算出する。地図取得残余時間は、自動運転を継続する上で実際に次エリア地図データが必要となるタイミングまでの残り時間に相当する。自動運転装置は、地図取得残余時間が所定の閾値未満となったことに基づいて、乗員への通知や速度抑制処理等を非常行動として計画及び実行する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地図データを用いて車両の自律的に走行させる制御計画を作成する自動運転装置であって、
前記地図データの取得状況を判定する地図管理部(F5)と、
前記地図データを用いて前記制御計画を作成する制御計画部(F7)と、を備え、
前記制御計画部は、前記地図管理部が判定した前記地図データの取得状況に応じて前記制御計画の内容を変更するように構成されている自動運転装置。
【請求項2】
請求項1に記載の、地図収録地域全体のうちの一部についての地図データである部分地図データを用いて前記制御計画を作成する自動運転装置であって、
地図サーバから前記車両の位置に応じた前記部分地図データを取得する地図取得部(F4)を備え、
前記地図管理部は、所定時間以内に前記車両が進入する領域についての前記部分地図データである次エリア地図データを取得できているか否かを判定し、
前記制御計画部は、前記地図管理部によって前記次エリア地図データを取得できていないと判定されたことに基づいて、所定の非常行動の実行を計画するように構成されている、自動運転装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動運転装置であって、
前記地図管理部は、前記次エリア地図データを取得できていない場合には、前記次エリア地図データが必要となるまでの残り時間に応じて定まる地図取得残余時間を算出し、
前記制御計画部は、前記地図管理部が算出する前記地図取得残余時間が所定の閾値未満となったことに基づいて、前記非常行動の実行を計画するように構成されている自動運転装置。
【請求項4】
請求項3に記載の自動運転装置であって、
前記制御計画部は、
前記地図取得残余時間が所定の第1時間未満となったことに基づいて、前記非常行動として、乗員又はオペレータに対して前記部分地図データの取得状況に関する所定の情報を通知する処理を実行するとともに、
前記地図取得残余時間が前記第1時間よりも短い所定の第2時間未満となったことに基づいて、前記非常行動として、前記車両の走行速度を落とすように構成されている自動運転装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の自動運転装置であって、
前記制御計画部は、
前記地図取得残余時間に応じて緊急度を算出し
前記緊急度に応じて前記非常行動の内容を変更するように構成されている自動運転装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の、地図収録地域全体のうちの一部についての地図データである部分地図データを用いて前記制御計画を作成する自動運転装置であって、
地図サーバから前記車両の位置に応じた前記部分地図データを取得する地図取得部(F4)を備え、
前記地図管理部は、前記地図取得部が取得した前記部分地図データに不備があるか否かを判定し、
前記制御計画部は、前記地図管理部によって前記部分地図データに不備があると判定されたことに基づいて、所定の非常行動の実行を計画するように構成されている、自動運転装置。
【請求項7】
請求項6に記載の自動運転装置であって、
前記地図管理部は、前記車両に搭載された周辺監視センサから提供されるセンシング情報に基づいて前記地図データが現実世界と整合しているか否かを判定し、
前記地図データと現実世界が整合していない場合に前記地図データに前記地図取得部が取得した前記部分地図データに不備が有ると判定するように構成されている自動運転装置。
【請求項8】
請求項7に記載の自動運転装置であって、
前記制御計画部は、先行車両の車間距離が安全距離以上となるように前記制御計画を作成するものであって、
前記制御計画部は、前記地図管理部によって前記部分地図データに不備があると判定されたことに基づき、前記非常行動として、前記安全距離の設定値を所定の標準値よりも大きい値に一時的に設定する自動運転装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の自動運転装置であって、
前記地図管理部は、
前記センシング情報に基づいて、前記車両の前方を走行している前方車両が車線区画線をまたぐ動作を行い、かつ、前記前方車両が走行していたレーン上に静止物が存在することが特定されている場合、又は
前記センシング情報に基づいて、同一の車線を走行していた複数の前記前方車両が連続して前記車線区画線をまたぐ動作を実施したことが特定されている場合、又は、
前記車両の周辺を走行している周辺車両の走行位置が、前記地図データが示す道路の範囲外となっている場合の少なくとも何れか1つの場合において、前記地図データは現実世界と整合していないと判定する自動運転装置。
【請求項10】
請求項2から9の何れか1項に記載の自動運転装置であって、
前記非常行動は、乗員又は前記車両の外部に存在するオペレータに前記部分地図データの取得に失敗していることを通知すること、先行車両との車間距離の延長すること、走行速度を抑制すること、乗員又は前記オペレータに運転操作の引き継ぎ要求を実行すること、緊急停車に向けた減速を開始すること、車車間通信を用いて周辺車両に対して前記部分地図データを要求すること、及び、前記地図データを用いずに自動運転を継続すること、の少なくとも何れか1つを含む自動運転装置。
【請求項11】
請求項10に記載の自動運転装置であって、
前記地図データの取得状況に由来する前記非常行動を実施した場合には、前記地図データの取得状況を示すデータを、前記車両の走行時の車室内及び車室外の状況を記録するための運行記録装置に出力するように構成されている自動運転装置。
【請求項12】
地図収録地域全体のうちの一部についての地図データである部分地図データを用いて前記制御計画を作成する、請求項1から11の何れか1項に記載の自動運転装置であって、
少なくとも1つのプロセッサ(21)を備え、
前記プロセッサは、前記地図管理部及び前記制御計画部としての処理を実行するように構成されている自動運転装置。
【請求項13】
請求項12に記載の自動運転装置であって、
前記プロセッサは、
前記車両に搭載された無線通信機を介して地図サーバから前記車両の位置に応じた前記部分地図データを取得することと、
走行用電源がオフに設定されてもデータが保持される所定の記憶領域である地図保持部(M1)に、前記地図サーバから取得した前記部分地図データを保存することと、
所定時間以内に前記車両が進入する領域である次エリアについての前記部分地図データが前記地図保持部に保存されているか否かを判定することと、
前記次エリアについての前記部分地図データが前記地図保持部に保存されている場合には、前記次エリアについての前記部分地図データを前記地図サーバから新たに受信するための処理は行わずに、前記地図保持部に保存されている前記部分地図データを用いて前記制御計画を作成することと、を実行するように構成されている自動運転装置。
【請求項14】
請求項13に記載の自動運転装置であって、
前記プロセッサは、
前記地図保持部に保存されている、前回以前の走行時に取得した前記部分地図データを用いて制御計画を作成している場合には、前記車両に搭載された周辺監視センサから提供されるセンシング情報に基づいて前記部分地図データが現実世界と整合しているか否かを判定することと、
前記部分地図データが現実世界と整合していないと判定したことに基づいて、現在位置に対応する前記部分地図データを前記地図サーバからダウンロードすることと、を実行するように構成されている自動運転装置。
【請求項15】
請求項12に記載の自動運転装置であって、
前記プロセッサは、
走行用電源がオンになったことに基づき、前記車両に搭載された無線通信機を介して、地図サーバから現在位置に対応する前記部分地図データと、所定時間以内に前記車両が進入する領域である次エリアについての前記部分地図データと、をダウンロードするための処理を実行することと、
走行用電源がオフに設定されてもデータが保持される所定の記憶領域である地図保持部(M1)に、前記地図サーバから取得した前記部分地図データを保存することと、
前記制御計画の作成する上で前記次エリアの前記部分地図データが必要な状況において、前記走行用電源がオンになってからまだ前記次エリアの前記部分地図データをダウンロードできておらず、かつ、前記地図保持部に前記次エリアの前記部分地図データが保存されている場合には、その保存されている前記部分地図データを用いて前記制御計画を作成することと、を実行するように構成されている自動運転装置。
【請求項16】
請求項13から15の何れか1項に記載の自動運転装置であって、
前記プロセッサは、
前記地図保持部に保存されている前回以前の走行時に取得した前記部分地図データを用いて前記制御計画を作成する場合と、新たに前記地図サーバからダウンロードした前記部分地図データを用いて前記制御計画を行う場合とで、制御条件を変更するように構成されている自動運転装置。
【請求項17】
請求項12から16の何れか1項に記載の自動運転装置であって、
前記プロセッサは、
前記車両に搭載された周辺監視センサから提供されるセンシング情報に基づいて前記制御計画に使用している前記部分地図データが現実世界と整合しているか否かを判定することと、
前記部分地図データが現実世界と整合しているか否かの判定結果を示す画像をディスプレイに表示することと、を実行するように構成されている自動運転装置。
【請求項18】
請求項12に記載の自動運転装置であって、
前記プロセッサは、
走行用電源がオンになったことに基づき、前記車両に搭載された無線通信機を介して、地図サーバから現在位置に対応する前記部分地図データをダウンロードしようとすることと、
前記現在位置に対応する前記部分地図データをダウンロードできない場合には、前記車両に搭載された周辺監視センサから提供されるセンシング情報に基づいて車両前方の走行環境を示す地図である即席地図をリアルタイムに作成することと、
前記即席地図を作成できている距離である地図作成距離に応じて前記制御計画の内容を変更することと、を実行するように構成されている自動運転装置。
【請求項19】
請求項12から18の何れか1項に記載の自動運転装置であって、
前記プロセッサは、
前記車両に搭載された無線通信機を介して地図サーバから、カメラによる撮影が禁止されている区域である撮影禁止エリア、又は、法律又は条例に基づき地図の作成及び配信が禁止されている区域である配信禁止エリアの位置情報を取得することと、
前記地図サーバから取得した前記撮影禁止エリア又は前記配信禁止エリアの位置情報に基づき、前記車両が前記撮影禁止エリア又は前記配信禁止エリアに接近中であるか否かを判定することと、
前記車両が前記撮影禁止エリア又は前記配信禁止エリアに接近中であることに基づいて、運転席乗員又は前記車両の外部に存在するオペレータに運転操作の引き継ぎ要求を実行することと、を実行するように構成されている自動運転装置。
【請求項20】
少なくとも1つのプロセッサによって実行される、地図データを用いて車両の自律的に走行させるための車両制御方法であって、
前記地図データの取得状況を判定する地図管理ステップ(S201、S302)と、
前記地図データを用いて前記車両の制御計画を作成する制御計画ステップ(S203、S205、S206、S208、S306)と、を備え、
前記制御計画ステップは、前記地図管理ステップで判定された前記地図データの取得状況に応じて前記制御計画の内容を変更するように構成されている車両制御方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2020年7月8日に日本に出願された特許出願第2020-117903号を基礎としており、基礎の出願の内容を、全体的に、参照により援用している。
【技術分野】
【0002】
本開示は、地図データを用いて自動運転車の制御計画を生成する技術に関する。
【背景技術】
【0003】
特許文献1には、自動運転において、RSS(Responsibility Sensitive Safety)モデルと呼ばれる数学的公式モデルと地図データを用いて車両の走行計画、換言すれば制御計画を生成する構成が開示されている。
【0004】
RSSモデルにおいて制御計画を策定する機能ブロックであるプランナーは、地図データを用いて複数の制御プランのそれぞれにおける潜在事故責任値を算出し、潜在事故責任値が許容範囲となる制御プランを採用する。潜在事故責任値は、自車両の周囲に存在する周辺車両と自車両との間に事故が生じた場合における、自車両の責任の程度を示すパラメータである。潜在事故責任値は、自車両と周辺車両との間の車間距離が、道路構造等に基づいて定まる安全距離よりも短いかどうかを考慮した値である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
RSSモデルは、車両が地図データを保有していることを前提としている。仮に車両が全エリアの地図データを最新の状態で保持している場合には、地図データの欠損又は劣化といった地図の不備によって潜在事故責任値が算出できなくなるといった不具合は生じにくい。しかしながら、全エリアの地図データを常に最新の状態で車両が保持し続けることは、データ容量等や通信頻度の観点から難しい。
【0007】
そのような懸念から、車両は、現在位置等に応じた局所的な範囲についての地図である部分地図を地図サーバから都度ダウンロードして使用する構成が想定される。しかしながら、部分地図をダウンロードして使用する構成では、通信エラーやダウンロードミスやシステムの処理ミスなどにより、潜在事故責任値の算出に必要なエリアの部分地図データを取得できない事態が起こりうる。
【0008】
また、現実世界における環境変化に伴い、地図サーバが配信している地図データが、現実世界と整合していないケースもあり得る。地図データを取得できていない場合や、地図データが現実世界と整合していない場合、プランナーは正当な潜在事故責任値が算出できなくなってしまう。そして、RSSモデルを利用するプランナーは、潜在事故責任値が算出できない場合、各制御プランの安全性を定量的に評価できなくなるため、自動運転を継続できなくなってしまう恐れがある。
【0009】
一方、通常のユーザは、車両における自動運転のための地図の取得状況は把握しないことが想定される。そのため、地図データの不備に基づく自動運転の中断はユーザにとって意図しないもの、換言すれば想定外の挙動となりうる。その結果、ユーザを困惑させてしまう可能性がある。
【0010】
本開示は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、ユーザを困惑させてしまう恐れを低減できる自動運転装置、車両制御方法を提供することにある。
【0011】
その目的を達成するための自動運転装置は、一例として、地図データを用いて車両の自律的に走行させる制御計画を作成する自動運転装置であって、地図データの取得状況を判定する地図管理部と、地図データを用いて制御計画を作成する制御計画部と、を備え、制御計画部は、地図管理部が判定した地図データの取得状況に応じて制御計画の内容を変更するように構成されている。
【0012】
上記構成によれば、地図の取得状況に応じて、制御計画、換言すれば車両の挙動が変化する。そのためユーザは、車両の挙動が通常時と同じか否かに基づいて、自動運転が中断される予兆を感じ取ることが可能となる。その結果、ユーザを困惑させてしまう恐れを低減可能となる。
【0013】
また上記目的を達成するための車両制御方法は、少なくとも1つのプロセッサによって実行される、地図データを用いて車両の自律的に走行させるための車両制御方法であって、
地図データの取得状況を判定する地図管理ステップと、地図データを用いて車両の制御計画を作成する制御計画ステップと、を備え、制御計画ステップは、地図管理ステップで判定された地図データの取得状況に応じて制御計画の内容を変更するように構成されている。
【0014】
上記の方法によれば、自動運転装置についての開示と同様の作用により、ユーザを困惑させてしまう恐れを低減可能となる。
【0015】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】自動運転システム100の全体構成を概略的に示す図である。
【
図2】車載システム1の構成を説明するための図である。
【
図3】地図データの取得状況を示すアイコン画像の一例を示した図である。
【
図4】自動運転装置20の構成を説明するための図である。
【
図5】地図管理部F5の作動を説明するための図である。
【
図6】整合性判定部F51の作動を説明するための図である。
【
図7】整合性判定部F51の作動を説明するためのフローチャートである。
【
図8】地図未取得対応処理について説明するためのフローチャートである。
【
図9】不整合対応処理について説明するためのフローチャートである。
【
図10】緊急度の概念を適用した場合の制御計画部F7の作動を説明するための図である。
【
図11】緊急度ごとの非常行動の内容の変形例を示す図である。
【
図12】非常行動終了処理について説明するためのフローチャートである。
【
図13】保存地図データを活用する処理フローの一例を示す図である。
【
図14】保存地図データと現実世界とが矛盾していることを条件として地図データをダウンロードし直す処理フローの一例を示す図である。
【
図15】保存地図データを活用する処理フローの他の例を示す図である。
【
図16】制御計画に使用している地図データが保存地図データであるか否かに応じて制御計画に使用する上限速度の設定値を変更する処理フローの一例を示す図である。
【
図17】地図データと現実世界との整合性の判定結果を通知する処理フローの一例を示す図である。
【
図18】即席地図を作成できている距離に応じて制御を変更する処理フローの一例を示す図である。
【
図19】撮影禁止エリア又は配信禁止エリアに接近中であることに基づいてハンドオーバーリクエストを実行する処理フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照しながら本開示にかかる自動運転装置の実施の形態について説明する。なお、以下では、左側通行が法制化されている地域を例に挙げて説明を行う。右側通行が法制化されている地域では、以下の説明における左右を逆にするなど、適宜変更して実施することができる。本開示の内容は、自動運転システム100が使用される地域の法律や慣習に準拠するように適宜変更して実施することができる。
【0018】
以下、本開示の実施形態について図面を用いて説明する。
図1は、本開示に係る自動運転システム100の概略的な構成の一例を示す図である。
図1に示すように、自動運転システム100は、車両Maに構築されている車載システム1と、地図サーバ3と、を備える。車載システム1は、地図サーバ3と無線通信を実施することにより、地図サーバ3から局所的な高精度地図データである部分地図データをダウンロードして、自動運転やナビゲーションに使用する。
【0019】
車載システム1は、道路上を走行可能な車両に搭載可能であって、車両Maは、四輪自動車のほか、二輪自動車、三輪自動車等であってもよい。原動機付き自転車も二輪自動車に含めることができる。車両Maは、個人によって所有されるオーナーカーであってもよいし、シェアカーやサービスカーであってもよい。サービスカーには、タクシーや路線バス、乗り合いバスなどが含まれる。車両Maは、運転手が搭乗していない、ロボットタクシー、無人運行バスなどであってもよい。車両Maは、自動運転困難な状況に陥った場合には、外部に存在するオペレータによって遠隔操作可能に構成されていてもよい。ここでのオペレータとは、所定のセンタなど、車両の外部から遠隔操作によって車両を制御する権限を有する人物を指す。オペレータもまた、ドライバ/運転席乗員の概念に含めることができる。なお、オペレータは、人工知能に基づきシーンに応じた運転操作を決定可能に構成されたサーバ、又は、ソフトウェアであっても良い。
【0020】
<地図データについて>
ここではまず地図サーバ3が保有する地図データについて説明する。地図データは、道路構造、及び、道路沿いに配置されている地物についての位置座標等を、自動運転に利用可能な精度で示す地図データに相当する。
【0021】
地図データは、ノードデータ、リンクデータ、及び、地物データなどを含む。ノードデータは、地図上のノード毎に固有の番号を付したノードID、ノード座標、ノード名称、ノード種別、ノードに接続するリンクのリンクIDが記述される接続リンクID等の各データから構成される。
【0022】
リンクデータは、ノード同士を接続する道路区間であるリンクについてのデータである。リンクデータは、リンクごとに固有の識別子であるリンクID、リンクの長さを示すリンク長、リンク方位、リンク旅行時間、リンクの形状情報(以下、リンク形状)、リンクの始端と終端とのノード座標、及び道路属性等の各データから構成される。リンク形状は、リンクの両端とその間の形状を表す形状補間点の座標位置を示す座標列で表現されていても良い。リンク形状は道路形状に相当する。リンク形状は3次スプライン曲線で表現されていてもよい。道路属性としては、道路名称、道路種別、道路幅員、車線数を表す車線数情報、速度規制値等がある。リンクデータは車線単位に細分化されて記述されていても良い。地図データは、進行方向を同一とする車線をまとめた道路単位でのリンクデータに相当する道路リンクデータと、個々の車線についてのリンクデータに相当する下位レイヤとしてのレーンリングデータとを備えていても良い。リンクデータは、道路区間別に加え、車線(つまり、レーン)別にまで細分化されていてもよい。
【0023】
地物データは、区画線データと、ランドマークデータとを備える。区画線データは、区画線ごとの区画線ID、及び、設置部分を表す座標点群を備える。区画線データは、破線や実線、道路鋲などといったパターン情報を含む。区画線データは、例えばレーンIDやレーンレベルでのリンクIDなどといった、レーン情報と対応付けられている。ランドマークとは、地図上における自車両の位置を特定するための目印として利用可能な地物を指す。ランドマークには、道路沿いに配置されている所定の立体構造物が含まれる。道路沿いに設置される立体構造物とは、例えば、ガードレール、縁石、樹木、電柱、道路標識、信号機などである。道路標識には、方面看板や道路名称看板などの案内標識などが含まれる。さらに、道路端や区画線もランドマークに含めることができる。ランドマークデータは、ランドマークごとの位置及び種別を表す。各地物の形状および位置は、座標点群によって表現されている。POIデータは、高速道路の本線から退出するための分岐点や、合流地点、制限速度変化点、車線変更地点、渋滞区間、工事区間、交差点、トンネル、料金所などといった、車両の走行計画に影響を及ぼす地物の位置及び種別を示すデータである。POIデータは種別や位置情報を含む。
【0024】
地図データは、道路形状及び構造物の特徴点の点群を含む3次元地図データであってもよい。3次元地図データは、道路端や車線区画線、道路標識などの地物の位置を3次元座標で表す地図データに相当する。なお、3次元地図は、REM(Road Experience Management)によって撮像画像をもとに生成されたものでもよい。また、地図データは、走行軌道モデルを含んでいてもよい。走行軌道モデルは、複数の車両の走行軌跡を統計的に統合することで生成された軌道データである。走行軌道モデルは、たとえば車線ごとの走行軌跡を平均化したものである。走行軌道モデルは、自動運転時の基準となる走行軌道を示すデータに相当する。
【0025】
地図データは、静的地図情報と準静的地図情報とを含みうる。ここでの静的地図情報とは、道路網や、道路形状、路面表示、ガードレールなどの構造物、建築物などといった、変化が生じにくい地物についての情報を指す。静的地図情報は、例えば1週間~1ヶ月以内での更新が求められる地物についての情報と解することもできる。静的な地図情報は、ベース地図とも称される。準静的地図情報は例えば1時間~数時間以内での更新が求められる情報である。道路工事情報や、交通規制情報、渋滞情報、広域気象情報が準静的地図情報に該当する。例えば地図サーバ3が取り扱う地図データは静的地図情報、及び準静的地図情報を含む。もちろん、地図サーバ3が取り扱う地図情報は、静的地図情報だけであってもよい。
【0026】
地図サーバ3は、地図収録地域全体に対応する全地図データを備える。ただし全地図データは、複数のパッチに区分されて管理される。各パッチはそれぞれ異なる区域の地図データに相当する。地図データは、例えば
図1に示すように地図収録領域を2km四方の矩形状に分割したマップタイルの単位で格納されている。なお、
図1の破線は、マップタイルの境界を概念的に示している。マップタイルは前述のパッチの下位概念に相当する。
【0027】
各マップタイルには、そのマップタイルが対応している現実世界の領域を示す情報が付与されている。現実世界の領域を示す情報は例えば緯度、経度および高度などで表現されている。また、各マップタイルには固有のID(以降、タイルID)が付与されている。マップタイルには隣接するエリアのタイルIDである隣接タイルIDが紐付けられている。隣接タイルIDは、次エリア地図データを特定するためなどに利用されうる。パッチごと、あるいは、マップタイルごとの地図データは、地図収録地域全体の一部、換言すれば局所的な地図データである。マップタイルが部分地図データに相当する。地図サーバ3は、車載システム1からの要求に基づき、車載システム1の位置に応じた部分地図データを配信する。
【0028】
マップタイルの形状は、2km四方の矩形状に限定されない。1km四方や4km四方の矩形状であってもよい。また、マップタイルは、六角形や円形などであってもよい。各マップタイルは、隣接するマップタイルと部分的に重なるように設定されていてもよい。地図収録領域は、車両が使用される国全体であってもよいし、一部のエリアだけであってもよい。例えば地図収録領域は、一般車両の自動運転が許可されているエリアや、自動運転移動サービスが提供される地域だけであっても良い。
【0029】
また、複数のマップタイルの大きさ、及び形状は一律でなくともよい。例えば、ランドマーク等の地図要素の存在密度が相対的に疎である可能性が高い田園部のマップタイルは、ランドマーク等の地図要素が密に存在する可能性が高い都市部のマップタイルよりも大きく設定されていてもよい。例えば、田園部のマップタイルは4km四方の矩形状とする一方、都市部のマップタイルは1kmや0.5km四方の矩形状としてもよい。ここでの都市部とは、例えば人口密度が所定値以上となっている地域や、オフィスや商業施設が集中している地域を指す。田園部は、都市部以外の地域とすることができる。田園部は、農村部と読み替えてもよい。
【0030】
加えて、全地図データの分割態様は、データサイズによって規定されていてもよい。換言すれば、地図収録地域は、データサイズによって規定される範囲で分割されて管理されてもよい。その場合、各パッチは、データ量が所定値未満となるように設定されている。そのような態様によれば、1回の配信におけるデータサイズを一定値以下とすることができる。
【0031】
<車載システム1の概略構成>
ここでは車載システム1の構成について
図2を用いて説明する。
図2に示す車載システム1は、自動運転が可能な車両(以下、自動運転車両)で用いられる。車載システム1は、
図2に示すように、周辺監視センサ11、車両状態センサ12、ロケータ13、V2X車載器14、HMIシステム15、走行アクチュエータ16、運行記録装置17、及び自動運転装置20を備える。なお、部材名称中のHMIは、Human Machine Interfaceの略である。V2XはVehicle to X(Everything)の略で、車を様々なものをつなぐ通信技術を指す。
【0032】
車載システム1を構成する上記の種々の装置又はセンサは、ノードとして、車両内に構築された通信ネットワークである車両内ネットワークNwに接続されている。車両内ネットワークNwに接続されたノード同士は相互に通信可能である。なお、特定の装置同士は、車両内ネットワークNwを介することなく直接的に通信可能に構成されていてもよい。例えば自動運転装置20と運行記録装置17は専用線によって直接的に電気接続されていても良い。また、
図2において車両内ネットワークNwはバス型に構成されているが、これに限らない。ネットワークトポロジは、メッシュ型や、スター型、リング型などであってもよい。ネットワーク形状は適宜変更可能である。車両内ネットワークNwの規格としては、例えばController Area Network(CAN:登録商標)や、イーサネット(Ethernetは登録商標)、FlexRay(登録商標)など、多様な規格を採用可能である。
【0033】
以降では車載システム1が搭載されている車両を自車両Maとも記載するとともに、自車両Maの運転席に着座している乗員(つまり運転席乗員)をユーザとも記載する。なお、以下の説明における前後、左右、上下の各方向は、自車両Maを基準として規定される。具体的に、前後方向は、自車両Maの長手方向に相当する。左右方向は、自車両Maの幅方向に相当する。上下方向は、車両高さ方向に相当する。別の観点によれば、上下方向は、前後方向及び左右方向に平行な平面に対して垂直な方向に相当する。
【0034】
自車両Maは、自動運転が可能な車両であればよい。自動運転の度合い(以下、自動化レベル)としては、例えば米国自動車技術会(SAE International)が定義しているように、複数のレベルが存在し得る。自動化レベルは、例えばSAEの定義では、以下のようにレベル0~5に区分される。
【0035】
レベル0は、システムが介入せずに運転者が全ての運転タスクを実施するレベルである。運転タスクには、例えば操舵及び加減速が含まれる。レベル0は、いわゆる完全手動運転レベルに相当する。レベル1は、操舵と加減速との何れかをシステムがサポートするレベルである。レベル2は、ステアリング操作と加減速操作のうちの複数をシステムがサポートするレベルを指す。レベル1~2は、いわゆる運転支援レベルに相当する。
【0036】
レベル3は、運行設計領域(ODD:Operational Design Domain)内においてシステムが全ての運転操作を実行する一方、緊急時にはシステムからドライバに操作権限が移譲されるレベルを指す。ODDは、例えば走行位置が高速道路内であること等の、自動運転を実行可能な条件を規定するものである。レベル3では、システムから運転交代の要求があった場合に、運転席乗員が迅速に対応可能であることが求められる。なお、運転席乗員の代わりに、車両外部に存在するオペレータが運転操作を引き継いでもよい。レベル3は、いわゆる条件付き自動運転に相当する。レベル4は、対応不可能な道路、極限環境等の特定状況下を除き、システムが全ての運転タスクを実施可能なレベルである。レベル4は、ODD内にてシステムが全ての運転タスクを実施するレベルに相当する。レベル4は、いわゆる高度自動運転に相当する。レベル5は、あらゆる環境下でシステムが全ての運転タスクを実施可能なレベルである。レベル5は、いわゆる完全自動運転に相当する。レベル3~5は、いわゆる自動運転に相当する。レベル3~5は、車両の走行に係る制御のすべてを自動で実行する、自律走行レベルと呼ぶこともできる。
【0037】
本開示の「自動運転」が指すレベルは、例えばレベル3相当であってもよいし、レベル4以上であってもよい。以降では、自車両Maが少なくとも自動化レベル3以上の自動運転を行う場合を例に挙げて説明を行う。なお、自車両Maの運転モードとしての自動化レベルは切り替え可能であってもよい。例えば、自動化レベル3以上の自動運転モードと、レベル1~2の運転支援モードと、レベル0の手動運転モードと、を切り替え可能であってもよい。
【0038】
周辺監視センサ11は、自車の周辺を監視するセンサである。周辺監視センサ11は、所定の検出対象物の存在及びその位置を検出するように構成されている。検出対象物には、例えば、歩行者や、他車両などの移動体が含まれる。他車両には自転車や原動機付き自転車、オートバイも含まれる。また、周辺監視センサ11は、所定の地物及び障害物も検出可能に構成されている。周辺監視センサ11が検出対象とする地物には、道路端や、路面標示、道路沿いに設置される立体構造物が含まれる。路面標示とは、交通制御、交通規制のための路面に描かれたペイントを指す。例えば、レーンの境界を示す車線区画線や、横断歩道、停止線、導流帯、安全地帯、規制矢印などが路面標示に含まれる。車線区画線は、レーンマークあるいはレーンマーカーとも称される。車線区画線には、チャッターバーやボッツドッツなどの道路鋲によって実現されるものも含まれる。道路沿いに設置される立体構造物とは、前述の通り、例えば、ガードレールや道路標識、信号機などである。すなわち、周辺監視センサ11は、ランドマークを検出可能に構成されていることが好ましい。ここでの障害物とは道路上に存在し、車両の通行を妨げる立体物を指す。障害物には、事故車両、事故車両の破片などが含まれる。また、例えば矢印板や、コーン、案内板といった車線規制のための規制資器材などや、工事現場、駐車車両、渋滞の末尾なども障害物に含めることができる。周辺監視センサ11は、車体から脱落したタイヤなどの路上落下物を検出可能に構成されていてもよい。
【0039】
周辺監視センサ11としては、例えば、周辺監視カメラ、ミリ波レーダ、LiDAR、ソナー等を採用することができる。LiDARは、Light Detection and Ranging又はLaser Imaging Detection and Rangingの略である。なお、ミリ波レーダは、所定方向に向けてミリ波又は準ミリ波を送信するとともに、当該送信波が物体で反射されて返ってきた反射波の受信データを解析することにより、自車両Maに対する物体の相対位置や相対速度を検出するデバイスである。ミリ波レーダは、検出結果として、例えば検出方向及び距離毎の受信強度及び相対速度を示すデータ又は検出物の相対位置及び受信強度を示すデータを生成する。LiDARは、レーザ光を照射することによって、検出方向ごとの反射点の位置を示す3次元点群データを生成するデバイスである。
【0040】
周辺監視カメラは自車両の外側、所定方向を撮像するように配置されている車載カメラである。周辺監視カメラには、自車両Maの前方を撮影するようにフロントガラスの車室内側の上端部や、フロントグリル等に配置された、前方カメラが含まれる。前方カメラは、例えばCNN(Convolutional Neural Network)やDNN(Deep Neural Network)などを用いた識別器を用いて上記の検出対象物を検出する。
【0041】
周辺監視センサ11が生成する観測データに基づく物体認識処理は、自動運転装置20など、センサ外のECU(Electronic Control Unit)が実行しても良い。前方カメラやミリ波レーダなどの周辺監視センサ11が備える物体認識機能の一部又は全部は、自動運転装置20が備えていてもよい。その場合、各種周辺監視センサ11は、画像データや測距データといった観測データを検出結果データとして自動運転装置20に提供すればよい。
【0042】
車両状態センサ12は、自車両Maの走行制御に関わる状態量を検出するセンサ群である。車両状態センサ12には、車速センサ、操舵センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ等が含まれる。車速センサは、自車の車速を検出する。操舵センサは、自車の操舵角を検出する。加速度センサは、自車の前後加速度、横加速度等の加速度を検出する。加速度センサは負方向の加速度である減速度も検出するものとすればよい。ヨーレートセンサは、自車の角速度を検出する。なお、車両状態センサ12として車載システム1が使用するセンサの種類は適宜設計されればよく、上述した全てのセンサを備えている必要はない。
【0043】
ロケータ13は、複数の情報を組み合わせる複合測位により、自車両Maの高精度な位置情報等を生成する装置である。ロケータ13は、例えば、GNSS受信機を用いて構成されている。GNSS受信機は、GNSS(Global Navigation Satellite System)を構成する測位衛星から送信される航法信号を受信することで、当該GNSS受信機の現在位置を逐次検出するデバイスである。例えばGNSS受信機は4機以上の測位衛星からの航法信号を受信できている場合には、100ミリ秒ごとに測位結果を出力する。GNSSとしては、GPS、GLONASS、Galileo、IRNSS、QZSS、Beidou等を採用可能である。
【0044】
ロケータ13は、GNSS受信機の測位結果と、慣性センサの出力とを組み合わせることにより、自車両Maの位置を逐次測位する。例えば、ロケータ13は、トンネル内などGNSS受信機がGNSS信号を受信できない場合には、ヨーレートと車速を用いてデッドレコニング(Dead Reckoning :すなわち自律航法)を行う。デッドレコニングに用いるヨーレートは、SfM技術を用いて前方カメラで算出されたものでもよいし、ヨーレートセンサで検出されたものでもよい。ロケータ13は加速度センサやジャイロセンサの出力を用いてデッドレコニングしても良い。車両位置は、例えば緯度、経度、及び高度の3次元座標で表される。測位した車両位置情報は車両内ネットワークNwに出力され、自動運転装置20等で利用される。
【0045】
なお、ロケータ13は、ローカライズ処理を実施可能に構成されていても良い。ローカライズ処理は、前方カメラなどの周辺監視カメラで撮像された画像に基づいて特定されたランドマークの座標と、地図データに登録されているランドマークの座標とを照合することによって自車両Maの詳細位置を特定する処理を指す。ランドマークとは、例えば、交通標識や信号機、ポール、商業看板など、道路沿いに設置された立体構造物などである。また、ロケータ13は、前方カメラやミリ波レーダで検出されている道路端からの距離に基づいて、自車両Maが走行しているレーンの識別子である走行レーンIDを特定するように構成されていても良い。走行レーンIDは、例えば左端又は右端の道路端から何番目のレーンを自車両Maが走行しているかを示す。ロケータ13が備える一部又は全部の機能は、自動運転装置20が備えていてもよい。自車両Maが走行しているレーンはエゴレーンと呼ぶことができる。
【0046】
V2X車載器14、自車両Maが他の装置と無線通信を実施するための装置である。なお、V2Xの「V」は自車両Maとしての自動車を指し、「X」は、歩行者や、他車両、道路設備、ネットワーク、サーバなど、自車両Ma以外の多様な存在を指しうる。V2X車載器14は、通信モジュールとして広域通信部と狭域通信部を備える。広域通信部は、所定の広域無線通信規格に準拠した無線通信を実施するための通信モジュールである。ここでの広域無線通信規格としては例えばLTE(Long Term Evolution)や4G、5Gなど多様なものを採用可能である。なお、広域通信部は、無線基地局を介した通信のほか、広域無線通信規格に準拠した方式によって、他の装置との直接的に、換言すれば基地局を介さずに、無線通信を実施可能に構成されていても良い。つまり、広域通信部はセルラーV2Xを実施するように構成されていても良い。自車両Maは、V2X車載器14の搭載により、インターネットに接続可能なコネクテッドカーとなる。例えば自動運転装置20は、V2X車載器14との協働により、地図サーバ3から自車両Maの現在位置に応じた最新の部分地図データをダウンロードする。V2X車載器14が無線通信機に相当する。
【0047】
V2X車載器14が備える狭域通信部は、通信距離が数百m以内に限定される通信規格である狭域通信規格によって、自車両Ma周辺に存在する他の移動体や路側機と直接的に無線通信を実施するための通信モジュールである。他の移動体としては、車両のみに限定されず、歩行者や、自転車などを含めることができる。狭域通信規格としては、WAVE(Wireless Access in Vehicular Environment)や、DSRC(Dedicated Short Range Communications)など、多様なものを採用可能である。狭域通信部は、例えば所定の送信周期で自車両Maについての車両情報を周辺車両に向けて同報送信するとともに、他車両から送信された車両情報を受信する。車両情報は、車両IDや、現在位置、進行方向、移動速度、方向指示器の作動状態、タイムスタンプなどが含まれる。
【0048】
HMIシステム15は、ユーザ操作を受け付ける入力インターフェース機能と、ユーザへ向けて情報を提示する出力インターフェース機能とを提供するシステムである。HMIシステム15は、ディスプレイ151とHCU(HMI Control Unit)152を備える。なお、ユーザへの情報提示の手段としては、ディスプレイ151の他、スピーカや、バイブレータ、照明装置(例えばLED)等を採用可能である。
【0049】
ディスプレイ151は、画像を表示するデバイスである。ディスプレイ151は、例えば、インストゥルメントパネルの車幅方向中央部に設けられたセンターディスプレイである。ディスプレイ151は、フルカラー表示が可能なものであり、液晶ディスプレイ、OLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイ、プラズマディスプレイ等を用いて実現できる。なお、HMIシステム15は、ディスプレイ151として、フロントガラスの運転席前方の一部分に虚像を映し出すヘッドアップディスプレイ(HUD:Head-Up Display)を備えていてもよい。ディスプレイ151は、メータディスプレイであってもよい。
【0050】
HCU152は、ユーザへの情報提示を統合的に制御する構成である。HCU152は、例えばCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)などのプロセッサと、RAMと、フラッシュメモリ等を用いて実現されている。HCU152は、自動運転装置20から入力される制御信号や、図示しない入力装置からの信号に基づき、ディスプレイ151の表示画面を制御する。例えばHCU152は、自動運転装置20からの要求に基づき、
図3に例示するような、部分地図データの取得状況を示す地図アイコン80をディスプレイ151に表示する。
図3の(A)は、部分地図データのダウンロードができていない状態を示す地図未取得アイコン80Aの一例を示している。
図3の(B)は、部分地図データのダウンロードが成功している状態を示す地図取得済みアイコン80Bの一例を示している。
図3の(C)は、部分地図データのダウンロード実行中を示す地図取得中アイコン80Cの一例を示している。地図アイコン80の表示先は例えばディスプレイ151の上端隅部とすることができる。
【0051】
走行アクチュエータ16は、走行用のアクチュエータ類である。走行アクチュエータ16には例えば制動装置としてのブレーキアクチュエータや、電子スロットル、操舵アクチュエータなどが含まれる。操舵アクチュエータには、EPS(Electric Power Steering)モータも含まれる。走行アクチュエータ16は自動運転装置20によって制御される。なお、自動運転装置20と走行アクチュエータとの間には、操舵制御を行う操舵ECU、加減速制御を行うパワーユニット制御ECU及びブレーキECU等が介在していてもよい。
【0052】
運行記録装置17は、車両の走行時の車両内の状況、及び、車室外の状況の少なくとも何れか一方を示すデータを記録する装置である。車両の走行時の車両内の状況には、自動運転装置20の作動状態や、運転席乗員の状態を含めることができる。自動運転装置20の作動状態を示すデータには、自動運転装置20における周辺環境の認識結果や、走行計画、各走行アクチュエータの目標制御量などの算出結果も含まれる。また、ディスプレイ151の表示画面をキャプチャした画像、いわゆるスクリーンショットを記録対象に含めても良い。記録対象とするデータは、車両内ネットワークNw等を介して、自動運転装置20や周辺監視センサ11など、車両に搭載されているECUやセンサから取得する。運行記録装置17は所定の記録イベントが発生した場合に、当該イベント発生時点の前後所定時間における各種データを記録する。記録イベントとしては、例えば運転操作の権限移譲や、ODDの退出、後述する非常行動の実施、自動化レベルの変動、MRM(Minimum Risk Maneuver)の実行等を採用可能である。例えば運行記録装置17は、自動運転装置20が非常行動を実行した場合には、その時点で取得されていた部分地図データを特定可能なデータを保存する。取得済みの部分地図データを特定可能なデータとは、例えばタイルIDやバージョン情報、取得日時などである。データの記録先は、自車両Maに搭載された不揮発性の記憶媒体であってもよいし、外部サーバであってもよい。
【0053】
自動運転装置20は、周辺監視センサ11などの検出結果をもとに走行アクチュエータ16を制御することにより、運転操作の一部又は全部を運転席乗員の代わりに実行するECU(Electronic Control Unit)である。ここでは一例として自動運転装置20は、自動化レベル5までを実行可能に構成されており、各自動化レベルに対応する動作モードを切り替え可能に構成されている。以降では便宜上、自動運転レベルN(N=0~5)に対応する動作モードを、レベルNモードとも記載する。例えばレベル3モードとは、自動運転レベル3相当の制御を実施する動作モードを指す。
【0054】
以降では自動化レベル3以上のモードで動作している場合を想定して説明を続ける。レベル3以上の走行モードにおいては、自動運転装置20は、運転席乗員又はオペレータによって設定された目的地まで、道路に沿って自車両Maが走行するように、車両の操舵、加速、減速(換言すれば制動)等を自動で実施する。なお、動作モードの切り替えは、ユーザ操作の他、システム限界や、ODDの退出等に起因して自動的に実行される。
【0055】
自動運転装置20は、処理部21、RAM22、ストレージ23、通信インターフェース24、及びこれらを接続するバス等を備えたコンピュータを主体として構成されている。処理部21は、RAM22と結合された演算処理のためのハードウェアである。処理部21は、CPU等の演算コアを少なくとも一つ含む構成である。処理部21は、RAM22へのアクセスにより、後述する各機能部の機能を実現するための種々の処理を実行する。ストレージ23は、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含む構成である。ストレージ23には、処理部21によって実行されるプログラムである自動運転プログラムが格納されている。処理部21が自動運転プログラムを実行することは、車両制御方法として、自動運転プログラムに対応する方法が実行されることに相当する。通信インターフェース24は、車両内ネットワークNwを介して他の装置と通信するための回路である。通信インターフェース24は、アナログ回路素子やICなどを用いて実現されればよい。自動運転装置20の詳細については別途後述する。
【0056】
<自動運転装置20の構成について>
ここでは
図4を用いて自動運転装置20の機能及び作動について説明する。自動運転装置20は、ストレージ23に保存されている自動運転プログラムを実行することにより、
図4に示す種々の機能ブロックに対応する機能を提供する。すなわち、自動運転装置20は機能ブロックとして、自車位置取得部F1、センシング情報取得部F2、車両状態取得部F3、地図取得部F4、地図管理部F5、走行環境認識部F6、制御計画部F7、及び制御信号出力部F8を備える。地図管理部F5はサブ機能として整合性判定部F51を備える、制御計画部F7はサブ機能として、責任値演算部F71、安全距離設定部F72、及び行動決定部F73を備える。また、自動運転装置20は地図保持部M1を備える。
【0057】
自車位置取得部F1は、ロケータ13から自車両Maの現在位置座標を取得する。なお、自車位置取得部F1は、車両の走行用電源がオンとなった直後は、不揮発性のメモリに保存されている、最新の自車位置情報を現在位置情報として読み出すように構成されていても良い。メモリに保存されている最新の位置算出結果は、前回のトリップの終了地点、すなわち駐車位置に相当する。トリップとは走行用電源がオンになってからオフになるまでの一連の走行を指す。なお、上記の処理を実行するために、自動運転装置20は駐車後のシャットダウン処理として、駐車時点で観測されていた自車位置情報を不揮発性メモリに保存するように構成されていることが好ましい。ここでの走行用電源とは、車両が走行するための電源であって、車両がガソリン車である場合にはイグニッション電源を指す。また、車両が電気自動車やハイブリッドカーである場合、システムメインリレーが走行用電源に相当する。
【0058】
センシング情報取得部F2は、周辺監視センサ11の検出結果(つまり、センシング情報)を取得する。センシング情報には、自車両Ma周辺に存在する他の移動体や、地物、障害物などの位置や、移動速度が含まれる。例えば、自車両Maの前方を走行する車両である前方車両と自車両Maとの距離や、前方車両の移動速度が含まれる。ここでの前方車両には、自車と同一のレーンを走行する、いわゆる先行車両のほか、隣接レーンを走行する車両を含める事ができる。つまり、ここでの前方には自車両Maの真正面方向に限らず、斜め前方を含めることができる。また、センシング情報には、道路端までの横方向距離や、走行レーンID、走行レーンにおける中心線からのオフセット量などが含まれる。車両状態取得部F3は、車両状態センサ12から自車両Maの走行速度や加速度、ヨーレートなどを取得する。
【0059】
地図取得部F4は、地図サーバ3とV2X車載器14を介して無線通信することで、自車両Maの現在位置に対応する部分地図データを取得する。例えば、地図取得部F4は自車両Maが所定時間以内に通過予定の道路に関する部分地図データを地図サーバ3に要求して取得する。地図サーバ3から取得した部分地図データは例えば地図保持部M1に保存される。地図保持部M1は、不揮発性のメモリなどを用いて、走行用電源がオフに設定されてもデータが保持されるように構成されている。地図保持部M1は、例えばストレージ23が備える記憶領域の一部を用いて実現されている。
【0060】
なお、地図保持部M1は、RAM22が備える記憶領域の一部を用いて実現されていてもよい。仮に地図保持部M1がRAM22を用いて実現されている場合であっても、車載バッテリの電源をRAM22に供給する事により、走行用電源がオフの間もデータを保持することは可能である。また、他の態様として、地図保持部M1は、走行用電源がオフに設定されると保存データが消失するように構成されていてもよい。地図保持部M1は、非遷移的な記憶媒体である。
【0061】
便宜上、現在位置を含む部分地図データのことを、現エリア地図データと称するとともに、また、現エリア地図データの収録範囲を現地図範囲又は現エリアと記載する。さらに、次に使用される部分地図データのことを次エリア地図データと称する。次エリア地図データは、現エリア地図データの自車両Maの進行方向側に隣接する部分地図データに相当する。次エリア地図データは、所定時間以内に進入予定の領域についての部分地図データに相当する。次エリア地図データは走行予定経路をもとに決定されても良い。次エリア地図データの収録範囲を次地図範囲又は次エリアとも記載する。なお、隣り合う部分地図データがオーバーラップするように構成されている場合には、現地図範囲(現エリア)と次地図範囲(次エリア)は部分的に重なりうる。
【0062】
地図管理部F5は、自車両の進行方向又は走行予定経路に対応する部分地図データの取得及び保持状況を管理する。例えば地図管理部F5は、地図取得部F4が取得した部分地図データ、及び、地図保持部M1に保存されている地図データを管理する。ここでは一例として、地図管理部F5は、少なくとも走行用電源がオフになったタイミングで地図保持部M1内の地図データは全て削除するように構成されている。
【0063】
なお、地図取得部F4がダウンロードした地図データの保存規則は、地図保持部M1の容量等を鑑みて、多様な規則を適用可能である。例えば地図保持部M1の容量が相対的に小さい場合、地図管理部F5は自車両Maがすでに離脱した領域について部分地図データは、離脱次第あるいは所定距離以上離れたタイミングで削除してもよい。そのような構成によれば、容量の小さい地図保持部M1を用いて自動運転装置20を実現できる。すなわち、自動運転装置20の導入コストを低減することができる。
【0064】
また、地図管理部F5は、地図保持部M1にダウンロードされた地図データを、ダウンロードされた時点から所定時間(例えば1日)経過したタイミングで削除するように構成されていてもよい。通勤路や通学路など、日常的に使用する道路についての地図データについては、可能な限り地図保持部M1にキャッシュするように構成されていてよい。例えば空き容量が所定値以下とならない限りは日常的に使用する道路についての地図データについては保持するように構成されていてもよい。ダウンロードされた地図データの保存期間は、データの属性に応じて変更されてもよい。例えば静的地図データについては一定量まで地図保持部M1に保存する。一方、例えば工事情報などの動的地図データについては、当該動的地図データに対応する地域を通過したタイミングでから削除するように構成されていてもよい。
【0065】
また、地図管理部F5は、例えば制御計画部F7等が次エリア地図データを使用し始めるまでの残り時間を次地図使用開始時間Tmxとして算出する。次エリア地図データを使用し始めるタイミングは、例えば、自車両Maが現地図範囲を離脱する場合とすることができる。現地図範囲を離脱する場合に次エリア地図データの使用を開始するように構成されている場合、地図管理部F5は、次地図使用開始時間Tmxとして、自車両Maの現在位置、及び走行速度に基づいて現地図範囲を退出するまでの残り時間を算出する。
図5は、次地図使用開始時間にかかる地図管理部F5の作動を概念的に示した図である。
図5中に示す「L」は、現在位置から現地図範囲の退出点までの距離を表している。次地図使用開始時間Tmxは、例えば距離Lを車速Vで除算した値に基づいて決定される。
【0066】
また、次エリア地図データを使用し始めるタイミングは、例えば、次地図範囲に進入する場合とすることもできる。自車両Maが次地図範囲に進入する場合に次エリア地図データの使用を開始するように構成されている場合、地図管理部F5は、自車両Maの現在位置、次地図範囲情報、及び、自車両の走行速度に基づいて次地図使用開始時間Tmxを算出可能である。その他、自車両Maから所定の地図参照距離、自車両Ma前方に位置する地点が、現地図範囲外となる場合、又は、次地図範囲に属する場合を、次エリア地図データを使用し始めるタイミングとしてもよい。地図参照距離は、例えば後述の安全距離よりも十分に長く設定されていることが好ましい。例えば地図参照距離は、安全距離の1.5倍に設定されていても良い。また地図参照距離は固定値であって、例えば200mなどであってもよい。地図参照距離は、走行速度が大きいほど長く設定されても良い。また、地図参照距離は、道路種別に応じて変更されても良い。例えば自動車専用道路の地図参照距離は、一般道路用の地図参照距離よりも長く設定されていても良い。
【0067】
地図管理部F5は、次エリア地図データを取得済みであるか否かなど、地図データの取得状況などを制御計画部F7に通知する。例えば、地図管理部F5が次地図使用開始時間Tmxが所定の準備期限時間未満である状態において、まだ次エリア地図データを取得できていない場合には、当該次地図使用開始時間Tmxを、地図取得残余時間Tmgとして、制御計画部F7に出力する。地図取得残余時間Tmgは、制御計画を策定する上で次エリア地図データが必要となるまでの残り時間に相当する。制御計画を策定する上で次エリア地図データが必要となる状態とは、後述する潜在事故責任値を算出する上で次エリア地図データを使用する場合が含まれる。次エリア地図データが必要となる状態には、現地図エリアを退出する場合や、次地図エリアに進入する場合も含まれる。
【0068】
なお、地図取得残余時間Tmgは、次地図使用開始時間Tmxから所定の余裕時間を減算した値に設定されても良い。余裕時間は例えは通信遅延や受信後の処理遅延などを考慮した時間であって、例えば5秒などとすることができる。地図取得残余時間Tmgは、次地図使用開始時間Tmxよりも短い時間とすることができる。なお、地図取得残余時間Tmgは次地図使用開始時間Tmxそのままでもよい。本開示の構成は、地図取得残余時間Tmgを次地図使用開始時間Tmxに置き換えて実施可能である。また、次地図使用開始時間Tmxが所定の準備期限時間以上である場合や、すでに次エリア地図データを取得済みである場合には地図取得残余時間Tmgは十分に大きい値に設定されて出力されても良い。
【0069】
また、地図管理部F5は、次地図使用開始時間Tmxが準備期限未満である状態において、まだ次エリア地図データを取得できていない場合には、V2X車載器14に対し、次エリア地図データを取得するための通信を優先的に実行するように要求してもよい。当該要求は、地図取得部F4を介して実施されても良い。準備期限時間は例えば2分など、後述する第1時間Th1よりは長く設定されていることが好ましい。
【0070】
整合性判定部F51は、地図取得部F4が取得した現エリア地図データが示す内容と、周辺監視センサ11のセンシング情報とを照合することにより、地図データが現実世界と整合しているか否かを判定する。例えば整合性判定部F51は、
図6に示すように前方車両Mbが車線区画線Ln1をまたいだことを検出しており、かつ、前方車両Mbが走行していたレーン上に静止物Obtを検出した場合に、地図データと現実世界が不整合と判定する。前方車両Mbによる回避行動及び静止物Obtの検出は、例えば前方カメラの認識結果などのセンシング情報に基づいて検出されればよい。なお、前提として地図データには
図6に示す路上の静止物Obtの情報は登録されていないものとする。静止物Obtは、例えば路上の駐車車両や、道路工事、車線規制、落下物などである。それらの準静的な情報が地図データに反映されていない場合、地図データと現実世界との不整合が生じうる。
【0071】
このように整合性判定部F51は、地図上は直進できる区間において、前方車両が車線変更などの回避行動を実施している場合に、地図と現実世界が整合していないと判定する。ここでの直進とは、車線変更等の走行位置の変更をせずに、それまで走行してきたレーンを道なりに沿って走行することを指す。ここでの直進とは必ずしも操舵角を0°に維持して走行する挙動に限定されない。
【0072】
また、回避行動とは、例えば障害物を避けるための車両挙動であって、例えば走行位置の変更を指す。ここでの走行位置の変更とは、道路上における車両の横方向の位置を変更することを指す。走行位置の変更には、車線変更だけでなく、同一レーン内における走行位置を左右のどちらか隅部に寄せる動きや、レーン境界線をまたいで走行する態様も含まれる。なお、通常の車線変更との違いを明確とするために、回避行動は、減速及びその後の加速を伴う走行位置の変更/操舵とすることが好ましい。例えば減速操作を伴う走行位置の変更や、所定の速度以下までの減速を伴う走行位置の変更を回避行動とすることができる。なお、上記の回避行動について説明は、本開示で想定する回避行動の概念を示したものである。回避行動としての走行位置の変更を実行したか否かは、センシング情報による前方車両の走行軌跡や、方向指示器の作動履歴などから判定可能である。
【0073】
その他、整合性判定部F51は、地図上は直進可能な道路区間において、複数の前方車両が連続して回避行動を実施していることを検出した場合に、地図データと現実世界とが整合していないと判定しても良い。また、地図データに示される地物情報と、センシング情報が表す地物情報とが一致していないことに基づいて、地図データと現実世界とが整合していないと判定しても良い。さらに整合性判定部F51は、周辺車両の走行位置が、地図データが示す道路範囲外となっている場合に、地図と現実世界が整合していないと判定してもよい。
【0074】
図7は整合性判定部F51による整合性の判定方法の一例を示したものである。
図7に示す整合性判定処理は、前方車両の走行位置が車線からはみ出しているか否かを判定するステップS101と、地図データに登録されていない静止物が検出されているか否かを判定するステップS102とを含む。整合性判定部F51は、前方車両の走行位置が車線からはみ出したことが検出されており(S101 YES)、かつ、地図に登録されていない静止物が検出されている場合(S102 YES)に、地図データが現実世界と整合していないと判定する(S103)。なお、ステップS101とステップS102の何れか一方は省略されても良い。ステップS101を省略する場合にはステップS102からフローを開始すれば良い。
【0075】
走行環境認識部F6は、周辺監視センサ11での検出結果等に基づいて、自車両Maの周囲の環境である周辺環境を認識する。ここでの周辺環境には、現在位置や走行レーン、道路種別、制限速度、地物の相対位置などの静的な環境要因だけでなく、他の移動体の位置や移動速度、周辺物体の形状及びサイズ等なども含まれる。他の移動体には、他車両としての自動車や、歩行者、自転車などが含まれる。
【0076】
走行環境認識部F6は、周辺監視センサ11で検出する周辺物体が移動体であるか静止物体であるかを区別して認識することが好ましい。また、周辺物体の種別も区別して認識することが好ましい。周辺物体の種別については、例えば周辺監視カメラの撮像画像にパターンマッチングを行うことで種別を区別して認識すればよい。種別については、例えばガードレール等の構造物、路上落下物、歩行者、自転車、自動二輪車、自動車等を区別して認識すればよい。周辺物体の種別は、周辺物体が自動車の場合には、車格、車種等とすればよい。周辺物体が移動体であるか静止物体であるかについては、周辺物体の種別に応じて認識すればよい。例えば、周辺物体の種別が構造物、路上落下物の場合は静止物体と認識すればよい。周辺物体の種別が歩行者、自転車、自動二輪車、自動車の場合は移動体と認識すればよい。なお、駐車車両のように直ちに移動する可能性の低い物体は、静止物体として認識してもよい。駐車されている車両か否かは、停止しており、且つ、画像認識によってブレーキランプが点灯していないこと等に基づいて判別すればよい。
【0077】
走行環境認識部F6は、複数の周辺監視センサ11のそれぞれから検出結果を取得し、それらを相補的に組み合わせることにより、自車周辺に存在する物体の位置及び種別を認識してもよい。周辺物体の位置や速度は、自車両Maを基準とする相対位置、相対速度であっても良いし、地面を基準とする絶対位置、絶対速度であってもよい。
【0078】
また、走行環境認識部F6は、周辺監視センサ11の検出結果や地図データをもとに、自車周辺の路面標示や、ランドマークの位置や種別、信号機の点灯状態を認識してもよい。加えて、走行環境認識部F6は、周辺監視センサ11の検出結果と地図データの少なくとも何れか一方を用いて、走路の境界に関する境界情報として、自車両Maが現在走行する車線の左右の区画線及び道路端の相対位置及び形状を特定してもよい。なお、走行環境認識部F6が各周辺監視センサ11から取得するデータは、解析結果ではなく、画像データ等の観測データであってもよい。その場合、走行環境認識部F6は、種々の周辺監視センサ11の観測データに基づき、左右の区画線又は道路端の位置や形状を含む周辺環境を特定すればよい。
【0079】
その他、走行環境認識部F6はV2X車載器14が他車両から受信した他車両情報や、路車間通信にて路側機から受信した交通情報等を用いて周辺環境を特定しても良い。路側器から取得できる交通情報には道路工事情報や、交通規制情報、渋滞情報、気象情報、制限速度や、信号機の点灯状態、点灯サイクルなどを含めることができる。
【0080】
制御計画部F7は、走行環境認識部F6が特定する走行環境及び地図データを用いて、自動運転によって自車両Maを自律的に走行させるための走行計画、換言すれば制御計画を生成する。例えば制御計画部F7は、中長期の走行計画として、経路探索処理を行って、自車位置から目的地へ向かわせるための推奨経路を生成する。また、制御計画部F7は、中長期の走行計画に沿った走行を行うための短期の制御計画として、車線変更の走行計画、レーン中心を走行する走行計画、先行車に追従する走行計画、及び障害物回避の走行計画等が生成する。
【0081】
制御計画部F7は、短期の制御計画として、例えば、認識した走行区画線から一定距離又は中央となる経路を走行計画として生成したり、認識した先行車の挙動又は走行軌跡に沿う経路を走行計画として生成したりする。制御計画部F7は、自車の走行路が片側複数車線の道路に該当する場合には、隣接車線に車線変更するプラン候補を生成してもよい。制御計画部F7は、センシング情報又は地図データに基づき自車両Ma前方に障害物が存在することが確認された場合には、障害物の側方を通過する走行計画を生成してもよい。制御計画部F7は、センシング情報又は地図データに基づき自車両Ma前方に障害物が存在することが確認された場合には、障害物の手前で停車する減速を走行計画として生成してもよい。制御計画部F7は、機械学習等によって最適と判定される走行計画を生成する構成としてもよい。
【0082】
制御計画部F7は、短期の走行計画の候補として、例えば1以上のプラン候補を算出する。複数のプラン候補は、それぞれ加減速量や、ジャーク、操舵量、各種制御を行うタイミングなどが異なる。すなわち、短期の走行計画には、算出した経路における速度調整のための加減速のスケジュール情報を含みうる。プラン候補は経路候補と呼ぶこともできる。行動決定部F73は、複数の制御プランのうち、後述する責任値演算部F71で算出された潜在事故責任値が最も小さいプラン、又は、潜在事故責任値が許容レベルとなっているプランを、最終的な実行プランとして採用する。なお、地図データは、例えば車線数や道路幅に基づいて車両が走行可能な領域を特定したり、前方道路の曲率に基づいて操舵量や目標速度を設定したりするために使用される。また、地図データは、道路構造や交通ルールに基づく安全距離の算出処理や、潜在事故責任値の算出処理にも使用される。
【0083】
責任値演算部F71は、制御計画部F7で生成する走行計画の安全性を評価する構成に相当する。一例として、責任値演算部F71は、自車と周辺物体との対象間の距離(以下、対象間距離)が、安全距離設定部F72で設定されている安全距離の設定値以上か否かに基づいて安全性を評価する。
【0084】
例えば責任値演算部F71は、制御計画部F7が計画した各プラン候補を自車両Maが走行した場合について、そのプラン候補を走行して自車両Maに事故が生じた場合に、自車両Maの責任の程度を示す潜在事故責任値を決定する。潜在事故責任値は、プラン候補を自車両Maが走行した場合の自車両Maと周辺車両との間の車間距離と安全距離との比較結果を因子の1つとして用いて決定する。
【0085】
潜在事故責任値は、責任が低いほど小さい値になる。したがって、潜在事故責任値は、自車両Maが安全運転をしているほど小さい値になる。たとえば、車間距離が十分に確保されている場合には、潜在事故責任値は小さい値になる。また、潜在事故責任値は、自車両Maが急加速や急減速をする場合に大きい値になりうる。
【0086】
また、責任値演算部F71は、自車両Maが交通ルールに従って走行している場合に潜在事故責任値を低い値にすることができる。つまり、自車位置における交通ルールを遵守した経路になっているか否かも、潜在事故責任値の値に影響する因子として採用可能である。自車両Maが交通ルールに従って走行しているかどうかを判定するために、責任値演算部F71は、自車両Maが走行している地点の交通ルールを取得する構成を備えることができる。自車両Maが走行している地点の交通ルールは、所定のデータベースから取得しても良いし、自車両Maの周辺を撮像するカメラが撮像した画像を解析して、標識、信号機、路面標示などを検出することで、現在位置の交通ルールを取得してもよい。交通ルールは、地図データに含まれていても良い。
【0087】
安全距離設定部F72は、責任値演算部F71で使用される、走行環境に応じた安全距離を動的に設定する構成である。安全距離は、対象間の安全性を評価するための基準となる距離である。安全距離としては、先行車との間の安全距離、すなわち縦方向の安全距離と、左右方向すなわち横方向の安全距離とがある。数学的公式モデルには、これら2種類の安全距離を決定するためのモデルが含まれている。安全距離設定部F72は、安全運転の概念を数式化した数学的公式モデルを用いて縦方向及び横方向の安全距離を算出し、算出した値を、その時点での安全距離として設定する。安全距離設定部F72は、少なくとも自車両Maの加速度などの挙動の情報を用いて安全距離を算出して設定する。安全距離の算出方法としては多様なモデルを採用可能であるため、ここでの詳細な算出方法の説明は省略する。なお、安全距離を算出するための数学的公式モデルとしては、例えば、RSS(Responsibility Sensitive Safety)モデルを用いることができる。また、安全距離を算出するための数学的公式モデルとしては、SFF(Safety Force Field、登録商標)を採用することもできる。安全距離設定部F72が上記数学的公式モデルを用いて算出した安全距離を以降では安全距離の標準値dminとも記載する。安全距離設定部F72は、整合性判定部F51の判定結果に基づいて、安全距離を標準値dminよりも長く設定可能に構成されている。
【0088】
なお、上記の数学的公式モデルは、事故が完全に生じないことを担保するものではなく、安全距離未満となった場合に衝突回避のための適切な行動を取りさえすれば事故の責任を負う側にならないことを担保するためのものである。ここで言うところの衝突回避のための適切な行動の一例としては、合理的な力での制動が挙げられる。合理的な力での制動とは、例えば、自車にとって可能な最大減速度での制動等が挙げられる。数学的公式モデルによって算出される安全距離は、自車と障害物との近接をさけるために自車が障害物との間に最低限空けるべき距離と言い換えることができる。
【0089】
行動決定部F73は、複数の制御プランのうち、前述の通り、責任値演算部F71で算出された潜在事故責任値に基づいて、最終的な実行プランを決定する構成である。また、行動決定部F73としての制御計画部F7は、地図管理部F5から入力される地図取得残余時間Tmgに基づいて、最終的な実行プランを決定する。地図取得残余時間Tmgに基づく行動内容、換言すれば制御計画を決定するための処理である地図未取得対応処理については別途後述する。
【0090】
制御信号出力部F8は、行動決定部F73で決定された制御計画に対応する制御信号を、制御対象とする走行アクチュエータ16及び又はHCU151へ出力する構成である。例えば減速が予定されている場合には、ブレーキアクチュエータや、電子スロットルに対して計画された減速度を実現するための制御信号を出力する。また、部分地図データの取得状況に応じた地図アイコンを表示させるための制御信号をHCU151に出力する。なお、所定の記録イベント発生時には、制御信号出力部F8の出力信号は運行記録装置17によって記録されうる。
【0091】
その他、自動運転装置20は、非常行動を実施した場合には、部分地図データの取得状況を示すデータを運行記録装置17に出力する。部分地図データの取得状況には、取得できていたマップタイルのIDが含まれる。また整合性判定部F51によって地図データと現実世界とが整合していないと判定されていたか否かも、部分地図データの取得状況を示すデータとして出力する。
【0092】
<地図未取得対応処理について>
ここでは
図8に示すフローチャートを用いて制御計画部F7が実行する地図未取得対応処理について説明する。
図8に示すフローチャートは、例えば自動運転などの地図データを利用する所定のアプリケーションを実行している間、所定の周期(例えば500ミリ秒毎)に実行される。所定のアプリケーションとしては、自動運転を行うアプリケーションの他に、ACC(Adaptive Cruise Control)、LTC(Lane Trace Control)、ナビゲーションアプリなどを含めることができる。なお、地図管理部F5より次エリア地図データを取得済みであると通知されている場合、すなわち次エリア地図データを取得済みである場合には本フローは省略可能である。
【0093】
まずステップS201では地図管理部F5から地図取得残余時間Tmgを取得してステップS202を実行する。ステップS202では地図取得残余時間Tmgが所定の第1時間Th1未満であるか否かを判定する。地図取得残余時間Tmgが第1時間Th1未満である場合にはステップS202を肯定判定してステップS204に移る。一方、地図取得残余時間Tmgが第1時間Th1以上である場合にはステップS202を否定判定してステップS203に移る。なお、次エリア地図データを取得済みである場合にもステップS202を否定判定してステップS203に移って良い。本判定で使用する第1時間Th1は、別途後述する第1非常行動を実施する必要があるか否かを判定するための閾値として機能するパラメータである。第1時間Th1は例えば、60秒などに設定されている。なお、第1時間Th1は例えば45秒や90秒、100秒などであってもよい。
【0094】
ステップS203では、通常通りの制御を実行する。すなわち、目的地に向かって自律的に走行するための複数のプラン候補のうち、潜在事故責任値に基づいて決定された制御計画を実行する。
【0095】
ステップS204では、地図取得残余時間Tmgが所定の第2時間Th2未満であるか否かを判定する。第2時間Th2は0秒よりも長く、かつ、第1時間Th1よりも短く設定されている。本判定で使用する第2時間Th2は、別途後述する第2非常行動を実施する必要があるか否かを判定するための閾値として機能するパラメータである。第2時間Th2は例えば、30秒などに設定されている。なお、第2時間Th2は例えば20秒や、40秒などであってもよい。地図取得残余時間Tmgが第2時間Th2未満である場合にはステップS204を肯定判定してステップS206に移る。一方、地図取得残余時間Tmgが第2時間Th2以上である場合にはステップS204を否定判定してステップS205に移る。なお、本構成によればステップS205を実行する場合とは、地図取得残余時間Tmgが第1時間Th1未満であってかつ第2時間Th2以上である場合となる。
【0096】
ステップS205では所定の第1非常行動の実行を計画し、実行開始する。第1非常行動は、例えば、自動運転等を継続する上で間もなく必要となる地図が未だ取得できていないことを運転席乗員又は車両の外部に存在するオペレータに通知することである。便宜上、次エリア地図データを未取得であることを乗員等に通知する処理を地図未取得通知処理とも記載する。地図未取得通知処理での通知内容は、上記の通り、自動運転等を継続する上で必要な地図が未取得であることを示す情報とすることができる。例えば
図3の(A)に示す地図未取得アイコン80Aを、テキスト又は音声メッセージとともにディスプレイ151に表示しても良い。
【0097】
また、地図未取得通知処理での通知内容は、地図の不備に基づき、まもなく自動運転が中断される可能性があることを示す画像又は音声メッセージであってもよい。上記構成は、乗員又はオペレータに対して部分地図データの取得に失敗していることを通知する構成に相当する。上記通知の媒体は、画像であっても良いし、音声メッセージであってもよい。地図未取得通知処理の結果として、制御信号出力部F8は、上記内容に対応するアイコン画像やメッセージ画像をディスプレイ151に出力するように指示する制御信号をHCU152に出力する。なお、第1非常行動として、地図未取得通知処理を実行する場合には、別途、複数のプラン候補の中から通常通りの手順で選定された制御計画が並列的に実施されればよい。
【0098】
ステップS206では、地図取得残余時間Tmgが所定の第3時間Th3未満であるか否かを判定する。第3時間Th3は0秒よりも長く、かつ、第2時間Th2よりも短く設定されている。本判定で使用する第3時間Th3は、別途後述する第3非常行動を実施する必要があるか否かを判定するための閾値として機能するパラメータである。第3時間Th3は例えば、10秒などに設定されている。なお、第3時間Th3は例えば5秒や、15秒などであってもよい。地図取得残余時間Tmgが第3時間Th3未満である場合にはステップS206を肯定判定してステップS208に移る。一方、地図取得残余時間Tmgが第3時間Th3以上である場合にはステップS206を否定判定してステップS207に移る。なお、本構成によればステップS207を実行する場合とは、地図取得残余時間Tmgが第2時間Th2未満であってかつ第3時間Th3以上である場合となる。
【0099】
ステップS207では所定の第2非常行動の実行を計画し、実行開始する。第2非常行動は、例えば、車両の走行速度を予定されていた目標速度よりも所定量低減する処理とすることができる。便宜上、走行速度を抑制する処理を速度抑制処理とも記載する。車両の走行速度を当初の計画値よりも小さい値に設定することにより、次エリア地図データが必要となる地点に到達するまでの時間を長くすることができる。つまり、地図取得残余時間Tmgを長くすることができる。それに伴い、次エリア地図データが必要となる地点に到達するまでに次エリア地図データを取得できる確率を高めることができる。なお、第2非常行動としての速度抑制処理の実行が決定された場合には、速度抑制処理を実行することを前提としたプラン候補を作成し、潜在事故責任値に基づいて最終的な減速の実施の態様を決定してもよい。第2非常行動としての減速量は、例えば5km/hや10km/hなどの固定値とすることができる。また、減速後の目標速度は当初予定されていた目標速度に対して1未満の所定係数を乗算した値としても良い。例えば減速後の目標速度は当初予定されていた目標速度の0.9倍や0.8倍などとしてもよい。なお、現在の走行車線が追い越しレーンなどである場合には、第2非常行動の実施の決定に伴い、走行車線へと車線変更することも合わせて計画されても良い。ここでの走行車線とは追越車線ではない車線を指す。例えば日本においては右端以外の車線が走行車線に相当する。またドイツにおいては右端の車線が走行車線に相当する。追越車線及び走行車線の設定は、走行地域の交通ルールに準拠するように変更されればよい。
【0100】
ステップS208では所定の第3非常行動の実行を計画し、実行開始する。第3非常行動は、例えば、MRMとすることができる。MRMの内容は、例えば、周囲に警報を発しながら安全な場所まで車両を自律走行させて駐車させる処理とすることができる。安全な場所としては、所定値以上の幅を有する路肩や、緊急退避エリアとして規定されている場所などである。なお、MRMの内容は、緩やかな減速で現在走行中の車線内に停止するものであってもよい。その際の減速度としては、例えば2[m/s^2]や3[m/s^2]など、4[m/s^2]以下の値を採用することが好ましい。もちろん、先行車両との衝突等を回避する必要がある場合には、4[m/s^2]を超過する減速度も採用可能である。MRM時の減速度は、例えば10秒以内に停止できる範囲で、MRM開始時点の走行速度や、後続車両との車間距離を鑑みて動的に決定及び逐次更新されてもよい。MRMを開始することは、緊急停車に向けた減速を開始することに相当する。
【0101】
<不整合対応処理について>
ここでは
図9に示すフローチャートを用いて自動運転装置20が実行する不整合対応処理について説明する。
図9に示すフローチャートは、例えば自動運転やナビゲーションなどの地図データを利用する所定のアプリケーションを実行している間、所定の周期(例えば200ミリ秒毎)に実行される。なお、本フローは、
図8に示す地図未取得対応処理とは独立して、換言すれば並列的に、逐次実行可能である。本実施形態では一例として不整合対応処理はステップS301~S306を備える。
【0102】
まずステップS301では周辺監視センサ11のセンシング情報を取得してステップS302に移る。ステップS302では整合性判定部F51が整合性判定処理を実施する。当該整合性判定処理は、例えば
図7に示すフローチャートを用いて説明した内容とすることができる。ステップS302の結果として地図と現実世界の間にギャップがあると判定した場合にはステップS304に移る。一方、ステップS302の結果として地図と現実世界の間にギャップがあるとは判定しなかった場合にはステップS305に移る。
【0103】
なお、地図と現実世界の間にギャップがある状態とは、換言すれば地図と現実世界とが整合していない状態に相当する。地図と現実世界とが整合していない状態には、例えば、地図に登録されていない障害物が道路上に存在する状態や、地図上では走行可能な領域が現実には走行不可能となっている状態に相当する。また、地図に示される道路形状と周辺監視センサ11で検出されている道路形状が相違する場合も、地図データと現実世界とが整合していない場合の一例に相当する。ここでの道路形状とは、車線数や、曲率、道路幅などの少なくとも何れか1つを指す。例えば地図に示される道路端形状が前方カメラで実際に観測されている形状と相違する場合や、地図データに登録されていないランドマークが検出されている場合も、地図と現実世界の間にギャップがある状態の一例に相当する。加えて、前方に他車両が存在しない状態、すなわち前方カメラの視界が開けている状態において、地図データに登録されているランドマークを検出できていない場合も、地図データと現実世界とが整合していない場合の一例に相当する。地図データに登録されている看板の色合いや形状、位置、表示内容が、画像認識結果と相違する場合も、地図データと現実世界とが整合していない場合の一例に相当する。
【0104】
ステップS304では安全距離設定部F72が、安全距離の設定値dsetを標準値dminよりも長めに設定する。例えば安全距離の設定値dsetは次の式1のように設定可能である。
【0105】
dset=dmin+εd ・・・(式1)
なお、式1中のεdは、延長分に相当するパラメータであって、便宜上、拡張距離と称する。例えば拡張距離εdは、0よりも大きい値である。拡張距離εdは、20mや50mなどの固定値とすることができる。また、拡張距離εdは、自車両Maの速度や加速度に応じて動的に決定されてもよい。例えば拡張距離εdは、車速が大きいほど、長く設定されても良い。また、拡張距離εdは自車両Maの加速度が大きいほど、あるいは、減速度合いが小さいほど、長く設定されても良い。その他、拡張距離εdは、自車両Maが走行している道路の種別に応じて調整されても良い。例えば自車両Maの走行路が一般道路である場合には、拡張距離εdは、走行路が高速道路などの自動車専用道路である場合よりも小さい値が設定されても良い。
【0106】
また、他の態様として、安全距離の設定値dsetは次の式2のように設定してもよい。
dset=dmin×α ・・・(式2)
【0107】
なお、式1中のαは、安全距離を伸ばすための係数であって、便宜上、拡張係数と称する。拡張係数αは、1よりも大きい実数である。拡張係数αは、例えば1.1や1.2などの固定値とすることができる。また、拡張係数αは、自車両Maの速度や加速度に応じて動的に決定されてもよい。例えば拡張係数αは、車速が大きいほど、大きい値に設定されても良い。また、拡張係数αは自車両Maの加速度が大きいほど、あるいは、減速度合いが小さいほど、大きく設定されても良い。その他、拡張係数αは、自車両Maが走行している道路の種別に応じて調整されても良い。例えば自車両Maの走行路が一般道路である場合の拡張係数αは、走行路が高速道路などの自動車専用道路である場合よりも小さい値が設定されても良い。ステップS304での処理が完了するとステップS306に移る。
【0108】
ステップS305では、安全距離の設定値dsetとして数学的公式モデルに基づいて算出された標準値dminを設定してステップS306に移る。ステップS306では制御計画部F7が、以上の処理で決定された安全距離を確保可能な制御計画を作成する。なお、ステップS306で作成された制御計画については、責任値演算部F71が潜在自己責任値を算出し、その算出された潜在事故責任値に基づいて最終的に実行する行動が選定される。
【0109】
<上記構成の効果>
上記の構成によれば、地図取得残余時間Tmgが第1時間未満となると、非常行動として運転席乗員への通知などを実行する。このような構成によれば、地図データの欠損に由来して最終的に自動運転が中断される場合であっても、事前の通知が存在するため、自動運転の中断がユーザにとって想定外の挙動となる恐れは低減できる。つまり、ユーザが想定外となるタイミングで自動運転が中断される恐れを低減できる。その結果ユーザを困惑されてしまう恐れを低減できる。
【0110】
また、地図取得残余時間Tmgが第2時間未満となると、非常行動として車速を抑制する。このような構成によれば、次エリア地図データが必要となるまでの時間を伸ばすことができる。その結果、次エリア地図データの取得が間に合う可能性を高めることができる。また、ユーザは、車速が通常時よりも抑制されたことに基づいてシステムに何か不具合が生じていることを察することも期待できる。つまり、地図データの不備に由来して最終的に自動運転が中断されたとしても、当該自動運転の中断がユーザの想定外の挙動となる恐れは低減できる。加えて、本開示においては、非常行動として車速の抑制を実施する前に、運転席乗員への通知を実施する。このような構成によれば、運転席乗員は車速が抑制される理由を推定可能となるため、車速の抑制によってユーザを困惑させたり、不快感を与えたりする恐れを低減できる。
【0111】
さらに、上記構成によれば、地図取得残余時間Tmgが所定の閾値としての第3時間Th3未満となると、MRM、つまり停車に向けた減速を開始する。このような構成によれば地図データが存在しないまま自動運転が継続される恐れを低減できる。また、地図データを保持している範囲内でMRMが実行されることとなるため、地図データを保持していない範囲でMRMを実行する場合よりも安全にMRMを実行可能となる。
【0112】
また、上記構成によれば、地図と現実世界との間にギャップがある場合に安全距離を延長する。地図と現実世界との間にギャップがある場合とは、地図の信頼性が損なわれている状態に相当する。そのような状況においては、潜在事故責任値など各プラン候補の評価を間違える可能性が高まってしまう。故に、安全距離を一時的に標準値dminよりも長くすることにより、安全性を高めることができる。
【0113】
<制御計画部F7の作動の補足>
以上では、地図取得残余時間Tmgに基づく非常行動として、運転席乗員への通知、車速の抑制、及びMRMの少なくとも何れか1つを実行する態様を開示したが、非常行動の内容やその組み合わせはこれに限定されない。制御計画部F7は非常行動として、地図サーバ3から提供される地図データを持たない状態で自律走行を継続する制御である無地図自律走行を採用可能に構成されていても良い。無地図自律走行は、例えば、周辺監視センサ11の検出結果を元に即席で作成した自車両周辺の地図である即席地図を用いて走行を継続する動作モードとすることができる。即席地図は、例えばカメラ画像を主体とするSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)であるVisual SLAMによって生成されうる。即席地図はセンサフュージョンによって作成されても良い。即席地図は、簡易地図、自製地図、あるいはセンシング地図と呼ぶこともできる。また、無地図自律走行は、先行車両の軌跡を自車両の走行軌道として採用しつつ、周辺監視センサ11によって検出される割込車両や道路横断者に呼応して減速を行う動作モードであっても良い。無地図自律走行は、例えばMRMの代替案とすることができる。
【0114】
制御計画部F7は、周囲の交通状況に応じて、非常行動として無地図自律走行を採用しても良い。例えば、地図取得残余時間Tmgが第2時間Th2未満又は第3時間Th3未満となっている場合において、自車両Maの前後左右に他車両が存在する場合には、無地図自律走行を採用しても良い。自車両Maの前後左右に他車両が存在する場合には、それら周辺車両との車間距離を維持するように走行することで、安全性を担保できる見込みがあるためである。無地図自律走行を採用する条件、換言すれば状況は、車両メーカの設計思想に基づいて決定可能である。無地図自律走行は、例外的な非常行動と呼ぶことができる。
【0115】
また、非常行動としては、ハンドオーバーの要求処理を採用可能である。ハンドオーバーの要求処理は、HMIシステム15と連動して、運転席乗員又はオペレータに対して運転操作の引き継ぎ要求を実施することに相当する。ハンドオーバーの要求処理はハンドオーバーリクエストと呼ぶことができる。例えば制御計画部F7は、地図取得残余時間Tmgが第2時間未満となった場合の非常行動としてハンドオーバーリクエストを計画及び実行するように構成されていても良い。その他、制御計画部F7は、地図取得残余時間Tmgが、例えば第2時間Th2などの所定の閾値未満となったことに基づいて、非常行動として安全距離を延長するように構成されていても良い。安全距離の延長方式はステップS304と同様の方法を採用可能である。
【0116】
また、制御計画部F7は、地図取得残余時間Tmgをもとに緊急度を算出し、緊急度に応じて非常行動を実行するように構成されていても良い。緊急度は、地図取得残余時間Tmgが短いほど高く設定されるパラメータである。例えば緊急度はレベル1~3の3段階で表現可能である。レベル1は例えば地図取得残余時間Tmgが第1時間Th1未満、かつ、第2時間Th2以上である状態とする事ができる。また、レベル2は例えば地図取得残余時間Tmgが第2時間Th2未満、かつ、第3時間Th3以上である状態とする事ができる。レベル3は例えば地図取得残余時間Tmgが第3時間Th3未満である状態とする事ができる。
図10は、緊急度のレベルごとの非常行動の一例をまとめたものである。例えば制御計画部F7は緊急度がレベル1の場合に、第1非常行動として運転席乗員又はオペレータへの通知を計画及び実行する。また、制御計画部F7は緊急度がレベル2の場合に、第2非常行動として速度抑制処理を計画及び実行する。さらに、制御計画部F7は緊急度がレベル3の場合に、第3非常行動としてMRMを計画及び実行する。
【0117】
なお、緊急度又は地図取得残余時間Tmgに応じて実行される非常行動の内容及び組み合わせは適宜変更可能である。例えば
図11に示すように、緊急度がレベル1である場合の非常行動としては、運転席乗員又はオペレータへの通知とともに、比較的に減速量の小さい速度抑制処理を実行してもよい。また、緊急度がレベル2である場合の非常行動としては、レベル1よりも相対的に減速量の大きい速度抑制処理を実行しても良い。緊急度がレベル1時の速度抑制処理の減速量は、緊急度がレベル2時の速度抑制処理の減速量よりも小さい。例えば緊急度がレベル1時の速度抑制処理の減速量を5km/hとする場合には、緊急度がレベル2時の速度抑制処理の減速量は10km/hとすることができる。また、緊急度がレベル2である場合の非常行動としてはハンドオーバーリクエストを実行しても良い。
【0118】
なお、緊急度のレベル数や判定基準は適宜変更可能である。緊急度は5段階やそれ以上で判定されても良い。また、緊急度は、地図取得残余時間Tmgのほかに、自車両の周辺の交通状況を鑑みて決定されてもよい。例えば、渋滞状況においては、渋滞状況ではない場合よりも、緊急度は低めに設定されても良い。渋滞状況においては、周辺車両との位置関係が急激に変わるおそれは低いためである。なお、渋滞状況とは、例えば、自車両の前後左右に他車両が存在し、かつ、走行速度が60km/h以下となっている状態を指す。
【0119】
<非常行動の終了条件について>
ここでは非常行動を終了する際の自動運転装置20の作動について
図12に示すフローチャートを用いて説明する。
図12に示すフローチャートは、例えば自動運転やナビゲーションなどの地図データを利用する所定のアプリケーションを実行している間、所定の周期(例えば200ミリ秒毎)に実行される。なお、本フローは、
図8に示す地図未取得対応処理や、
図9に示す不整合対応処理とは独立して逐次実行可能である。本実施形態では一例として非常行動終了処理はステップS401~S403を備える。各ステップは制御計画部F7によって実行されればよい。
【0120】
まずステップS401では非常行動を実施中であるか否かを判定する。非常行動を実施中ではない場合には本フローは終了する。一方、非常行動を実施中である場合には、ステップS401を肯定判定してステップS402を実行する。
【0121】
ステップS402では所定の解除条件を充足しているか否かを判定する。解除条件は現在実行中の非常行動を終了するための条件である。例えば制御計画部F7は、次エリア地図データ等の自動運転の継続に必要な部分地図データを取得できた場合、換言すれば地図取得残余時間Tmgが十分に大きい値まで回復した場合に、解除条件が充足されたと判定する。また、制御計画部F7は、運転席乗員又はオペレータによって運転操作の権限を取得する操作、すなわちオーバーライド操作が実行された場合に解除条件が充足したと判定しても良い。換言すれば自動運転モードから手動運転モード又は運転支援モードに切り替えられた場合に解除条件が充足したと判定しても良い。その他、車両が停車した場合に解除条件が充足されたと判定しても良い。
【0122】
ステップS402において解除条件が充足していると判定した場合にはステップS403を実行する。一方、解除条件が充足していないと判定した場合には本フローは終了する。その場合、地図取得残余時間Tmg又は緊急度に応じた非常行動は継続される。
【0123】
ステップS403では現在実行中の非常行動を終了して、本フローを終了する。例えば地図未取得通知処理を実行している場合には、画像表示や音声メッセージの出力を終了する。また、速度抑制処理を実行している場合には、目標速度の抑制を解除し、本来の目標速度に復帰させる。なお、非常行動を終了する際には、非常行動を終了する旨の通知をしてもよい。非常行動の終了は、終了理由とともに運転席乗員に通知されることが好ましい。例えば、自動運転に必要な地図データ、すなわち次エリア地図データを取得できたことに伴い非常行動を終了することを通知しても良い。
【0124】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。例えば下記の種々の変形例は、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施できる。なお、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用できる。
【0125】
<地図データの管理方法の補足>
前述の通り、地図管理部F5としての処理部21は、通勤路や通学路など、日常的に使用する道路に関連する地図データについては可能な限り地図保持部M1にキャッシュとして残すように構成されていてもよい。日常的に使用する道路に関連する地図データとは、例えば、ダウンロード回数が一定回数以上となっているタイルIDの地図データや、自宅/勤務先/通学先から一定距離以内のエリアについての部分地図データが挙げられる。また、処理部21は、日常的に使用する道路に限定せず、ダウンロードした地図データを、地図保持部M1の容量が一杯になるか、又は、地図データごとに適宜設定される有効期限が切れるまでは保存するように構成されていてもよい。
【0126】
以降では便宜上、地図保持部M1に保存されている地図データのことを保存地図データとも称する。ここでの保存地図データとは、走行用電源がオンになった時点で既に地図保持部M1に保存されていたデータを指す。つまり、前回以前の走行時に取得した地図データを指す。保存地図データは、以前取得地図データと呼ぶ事ができる。これに対し、走行用電源がオンになってから地図サーバ3よりダウンロードした地図データは、新規取得地図データと呼ぶことができる。なお、保存地図データは、その保存形式や保存領域によってはキャッシュ地図データと呼ぶこともできる。
【0127】
処理部21は、走行用電源オフ後も地図保持部M1に地図データを残す構成においては、地図保持部M1に保存されている地図データを積極的に再利用するように構成されていても良い。例えば処理部21は、
図13に示す処理手順により地図データのダウンロード要否を判定するように構成されていてもよい。なお、
図13に示す処理フローは例えば使用する地図データが切り替わったことや、現エリアを退出するまでの残り時間が所定値未満となったことなどをトリガとして開始されれば良い。
【0128】
すなわち処理部21は、移動に伴って制御計画の作成に使用する部分地図が切り替わったことに基づいて、地図保持部M1を参照し、次エリア地図データが地図保持部M1に保存されているか否かを判定する(ステップS501)。例えば、地図管理部F5は、現エリア地図データに紐付けられている隣接タイルIDと、自車両の進行方向とに基づいて、次エリアのタイルIDを特定する。そして、地図保持部M1内で、次エリアのタイルIDを有する地図データを探索する。次エリアのタイルIDを有する地図データがあった場合には(ステップS501 YES)、その保存されていた部分地図データを、制御計画に使用する地図データとして採用する(ステップS502)。
【0129】
また、処理部21は、次エリアのタイルIDを有する地図データが地図保持部M1に保存されていなかった場合には(ステップS501 NO)、地図サーバ3から次エリア地図データをダウンロードするための処理を開始する(ステップS503)。地図データをダウンロードするための処理には、例えば地図サーバ3に地図要求信号を送信するステップが含まれる。地図要求信号は、地図データの配信を要求する信号であって、要求する部分地図のタイルIDを含む。すなわち、S503は、次エリアのタイルIDを含む地図要求信号を送信するとともに、地図サーバ3からの応答として配信されてきた地図データを受信する処理とすることができる。
【0130】
なお、地図要求信号は、地図サーバ3が配信すべきマップタイルを特定可能な情報を含んでいればよく、例えばタイルIDの代わりに、又はそれと合わせて、自車両の現在位置及び進行方向などを含んでいても良い。また、次エリアのタイルIDを有する地図データが保存されていない場合には、次エリアのタイルIDを有する地図データは保存されていたものの、そのデータの有効期限が切れていた場合を含めることができる。
【0131】
このような構成によれば、地図サーバ3との通信頻度及び通信量を抑制することができる。また、保存済みの地図データを再利用する場合には、地図取得残余時間Tmgが所定の閾値未満となる恐れも低下できる。よって非常行動が実施される恐れを低減できる。
【0132】
ところで、保存地図データは、最新バージョンではない可能性がある。例えば、ランドマークとして地図に登録されている商業看板の形状/色合いが現実世界の形状/色合いと相違することがありうる。地図が示す内容と現実世界とが矛盾していると、自己位置の推定精度が劣化しかねない。
【0133】
そのような事情を踏まえ、整合性判定部F51としての処理部21は、保存地図データを利用している場合には、
図14に示すように保存地図データと現実世界との整合性を逐次判定してもよい(ステップS601)。処理部21は、保存地図データが現実世界と整合していると判定されている限りは(ステップS602 YES)、その保存地図データの使用を継続してもよい(ステップS603)。一方、処理部21は、保存地図データが現実世界と整合していないと判定されたことに基づいて(ステップS602 NO)、現エリアの部分地図データを地図サーバ3からダウンロードし直しても良い(ステップS604)。現エリアに対応する保存地図データは、地図データのダウンロードが完了次第、削除/上書きされうる。
図14に示す一連の処理は例えば保存地図データを使用している間、例えば1秒毎など、定期的に実施されれば良い。
【0134】
なお、地図管理部F5は、保存地図データが現実世界と整合していないと判定された場合、地図サーバ3と相互通信することで、保存地図データが最新バージョンであるか否かを確認しても良い。保存地図データが最新バージョンであるか否かは、保存地図データのバージョン情報を地図サーバ3に送信するか、又は、地図サーバ3から現エリアの地図データの最新バージョン情報を取得することで確認可能である。保存地図データが最新バージョンである場合には、ダウンロードし直す意味はないため、ステップS604は省略してもよい。その場合、ロバスト性を高めるべく、前述の不整合対応処理や、走行速度を抑制するなど、制御条件を変更しても良い。
【0135】
なお、整合性判定部F51としての処理部21は、保存地図データが現実世界と整合しているか否かの2段階ではなく、整合性を例えば0%から100%までの百分率で評価してもよい。以降では整合性を示すスコア値を整合率とも称する。整合性判定部F51は、整合率が所定値以下であると判定したことに基づいて、保存地図データが現実世界と整合していないと判定しても良い。また、瞬間的なノイズの影響を抑制するために、整合性判定部F51は、整合率が所定値以下であるとの評価結果が所定時間以上継続して得られたことに基づいて保存地図データが現実世界と整合していないと判定しても良い。
【0136】
その他、地図管理部F5は、ステップS501又はステップS602を肯定判定した際、保存地図データの取得日を参照し、取得日からの経過時間が所定の閾値未満であることを条件として当該保存地図データを援用するように構成されていても良い。換言すれば、地図管理部F5は、或る保存地図データを読みだした際、取得日からの経過時間が所定の閾値以上となっている場合には、地図サーバ3から当該エリアの地図データをダウンロードし直すように構成されていてもよい。
【0137】
また、処理部21は、地図保持部M1に地図データを残す構成においても、基本的には地図サーバ3から新たに取得した地図データを用いて走行制御を行うように構成されていてもよい。処理部21は、通信の不具合等により地図サーバ3から部分地図データを取得できない場合にのみ、地図保持部M1に保存されている地図データを用いて制御計画を作成及び実行するように構成されていても良い。そのような構成は、保存地図データを消極的に再利用する構成に相当する。
【0138】
図15は上記の技術思想に対応する処理部21の作動の一例を示すフローチャートである。
図15に示すフローチャートは例えば次エリア地図データを地図サーバ3から取得できていない状況において実行されれば良い。
図15に示す処理フローは、例えば
図8に示す処理など前述の種々の処理と並列的に、又は、組み合わせて、又は置き換えて実施可能である。例えば
図15に示す処理フローは、ステップS204が否定判定された場合の処理として実行されうる。
図15に示す処理はステップS701~S704を含む。
【0139】
処理部F21は、ステップS701として、地図取得残余時間Tmgが所定のキャッシュ使用閾値Thx未満であるか否かを判定する。キャッシュ使用閾値Thxは15秒や30秒など、第3時間Th3よりも長い値に設定されている。キャッシュ使用閾値Thxは、前述の第1時間Th1又は第2時間Th2と同じであってもよい。キャッシュ使用閾値Thxは上記閾値とは独立したパラメータとして用意されていても良い。
【0140】
処理部21は、地図取得残余時間Tmgが所定のキャッシュ使用閾値Thx以上である場合には(ステップS701 NO)、
図15に示すフローを一旦終了する。その場合、処理部21は所定時間後、次エリア地図データが未取得であることを条件として
図15に示す処理フローを再実行しうる。一方、地図取得残余時間Tmgが所定のキャッシュ使用閾値Thx未満である場合には(ステップS701 YES)、次エリアのタイルIDを有する地図データが地図保持部M1に保存されているか否かを判定する。次エリアの部分地図データが地図保持部M1に保存されている場合には(ステップS702 YES)、その保存されていた部分地図データを用いて次エリア内での制御計画を作成する(ステップS703)。一方、次エリアの部分地図データが地図保持部M1に保存されていない場合には(ステップS702 NO)、地図取得残余時間Tmgに応じた非常行動を採用する。
【0141】
地図取得残余時間Tmgがキャッシュ使用閾値Thx未満である状況が、制御計画の作成する上で次エリアの部分地図データが必要な状況に対応する。その他、地図取得残余時間Tmgが0秒となったタイミングや、現エリアを退出するタイミングなどもまた、制御計画の作成する上で次エリアの部分地図データが必要な状況に該当しうる。なお、処理部21は、ステップS703で保存地図データを使用し始めた場合であっても、定期的に地図サーバ3から次/現エリア地図データをダウンロードするための処理を実施しても良い。そして、通信状態の回復などによって地図データから次/現エリア地図データを取得できた場合には、保存地図データに替えて、地図サーバ3から取得した地図データを用いて制御を実行してもよい。
【0142】
なお、前述の通り、保存地図データを利用している場合、地図が古いことによって、自己位置推定(ローカライズ)の誤差が増大しうる。そのような懸念から、保存地図データを使用している場合と、地図サーバ3から新規ダウンロードした地図データを使用している場合とで、処理部21は、制御態様/作動を異ならせるように構成されていてもよい。
【0143】
例えば処理部21は、
図16に示すように、保存地図データを使用していない場合(ステップS801 NO)には、制御計画において許容する走行速度の上限値を、走行路の種別に応じた標準上限値に設定する(ステップS802)。
図16中のVmx_setは、許容する走行速度の上限値、つまり上限速度の設定値を表すパラメータである。また、Vmx_RdTypは、走行路の種別に応じた標準上限値を示すパラメータである。なお、保存地図データを使用していない場合とは、地図サーバ3から取得した部分地図データを用いて制御計画等を作成する場合に相当する。
【0144】
標準上限値は、例えば走行路の種別、例えば高速道路か一般道路かに応じた値が適用される。例えば走行路が高速道路である場合上限値は120km/hに設定される一方、走行路が一般道路である場合には上限値は例えば60km/hなどに設定される。道路種別ごとの標準上限値は、ユーザが任意の値に設定可能に構成されていても良い。なお、標準上限値は、道路ごとに設定されている制限速度が適用されても良い。制限速度は、地図データを参照することで決定されても良いし、制限速度標識を画像認識することで特定されても良い。制御計画に使用する上限速度の設定値を変えることは制御条件を変更することに相当する。さらに、標準上限値は、交通の円滑な流れを実現すべく、周辺車両の平均速度を基準として設定されても良い。周辺車両の平均速度は、周辺監視センサ11で観測される車両の速度を元に算出されても良いし、車々間通信で受信する他車両の速度情報をもとに算出しても良い。
【0145】
一方、保存地図データを使用している場合(ステップS801 YES)には、制御計画において許容する走行速度の上限値を、走行路の種別に応じた標準上限値から所定の抑制量減算した値に設定する(ステップS803)。
図16中のVdpは抑制量を示すパラメータである。抑制量は、10km/hなどの一定値であっても良いし、道路種別に応じた標準上限値の10%又は20%に相当する値であってもよい。
【0146】
以上の構成によれば、保存地図データを使って走行している場合には、新規取得地図データを使って走行している場合よりも最高速度が抑制されうる。走行速度が抑制されれば、ロバスト性が向上するため、自律的な走行制御が中断されるおそれを低減できる。
【0147】
なお、整合性判定部F51が地図データと現実世界との不整合度合い、換言すれば整合率を算出する構成においては、処理部21は、整合率に応じて制御条件を変更しても良い。例えば整合率が低いほど抑制量(Vd)を大きくしても良い。具体的には整合率が95%以上である場合には抑制量(Vd)を0に設定する一方、整合率が90%以上95%未満である場合には抑制量を5km/hに設定しても良い。また、整合率が90%以下である場合には抑制量を10km/h以上に設定しても良い。例えば整合率が80%未満である場合には抑制量を15km/hに設定しても良い。
【0148】
さらに、処理部21は整合率が所定の閾値以上である場合には自動的な追い越し制御を実行可能なモードで動作する一方、整合率が閾値未満である場合には自動的な追い越しが禁止されたモードで動作するように構成されていてもよい。自動的な追い越し制御とは、追越車線への移動、加速、及び走行車線への復帰を含む一連の制御を指す。
【0149】
なお、処理部21は、整合率が所定の閾値以下となった場合には、地図データよりも周辺監視センサ11の検出結果を優先的に用いて制御計画を作成するように構成されていてもよい。また、処理部21は、整合率が所定の閾値未満である場合には、整合率が所定の閾値以上である場合よりも積極的に先行車に追従走行する計画を作成してもよい。例えば通常時では追い越し制御を行うシーンにおいても、整合率が所定の閾値未満である場合には追い越さずに先行車に追従する制御を計画及び実行しても良い。ここでの通常時とは整合率が所定の閾値以上である場合を指す。当該構成によれば、地図データの不備によって急な加減速や急操舵が行われる恐れを低減できる。
【0150】
処理部21は、
図17に示すように、整合性判定部F51の判定結果を示すアイコン画像を用いてディスプレイ151に表示しても良い(ステップS902)。なお、ステップS901は整合性判定部F51が整合性を判定するステップを示している。処理部21は地図データと現実世界とが整合していると判定されている場合、地図と現実とが整合していることを示す画像を表示しても良い。処理部21は地図データと現実世界とが整合していると判定されている場合には、地図と現実とが整合していることを示す画像を表示しなくとも良い。処理部21は、地図データと現実世界との不整合を検知した場合にのみ、その検知結果、すなわち地図と現実との不整合を検知したことを示す画像を表示しても良い。
【0151】
また、処理部21は、地図データと現実世界との不整合を検知した場合には、その具体的な箇所である不整合箇所を表示しても良い。処理部21は、例えばディスプレイ151がセンターディスプレイである場合には、地図画像上に不整合箇所を示すマーカー画像を重ねた画像を表示しても良い。また、ディスプレイ151としてHUDを備える場合には、処理部21は、HUDを用いて不整合箇所を示すマーカー画像を実際の不整合箇所に重畳表示してもよい。自動運転装置20がレベル3モードである場合には、運転席乗員は前方を見ていることが期待できる。故に、HUDで不整合箇所を前景に重畳表示する構成によれば、運転席乗員は視線を前方から離すことなく不整合箇所を認識可能となる。
【0152】
さらに、処理部21は、地図データと現実世界との不整合を検知した場合には、その旨をHUDなどで運転席乗員に通知したうえで、今後の制御方針を選択するよう運転席乗員に要求する処理を実施しても良い。今後の制御方針にかかる選択肢としては、例えば、手動運転への切替、又は、車速を抑制した上での自動運転の継続などが挙げられる。手動運転への切替にはレベル2モード又はレベル1モードへの移行も含まれる。運転席乗員の指示は、例えば、スイッチ操作や、ペダル操作、ハンドル把持により取得する。なお、地図と現実との不整合への応答指示は、視線や、ジェスチャー、音声認識などに基づいて取得しても良い。視線やジェスチャーは運転席乗員を撮像するように車内に設置されたカメラの映像を解析することによって抽出されうる。
【0153】
ところで、自動運転装置20の動作モードがレベル4モードである場合、運転席乗員は前方を見ているとは限らない。また、セカンドタスクとしてスマートフォンの操作や、読書等を実施している可能性がある。そのような状況下ではHUDやセンターディスプレイに、今後の制御方針の指示入力を要求する画像を表示しても、運転席乗員は気づきにくい。レベル4モード時には、振動や音声などで運転席乗員の視線をディスプレイ151に誘導した後に、上記不整合の通知及び指示入力を要求しても良い。
【0154】
なお、乗員に提示する情報が多すぎたり、細かすぎたりすると、乗員に煩わしさを与えかねない。そのような事情から、地図データと現実世界との不整合を検知した場合に乗員に通知する内容は、具体的な内容を含まずに、地図と現実との不整合を検知したことだけであっても良い。また、ステップS902で表示する画像は、地図データと現実との整合が取れているか否かの状態表示でもよい。また、不整合の通知が頻繁に実行されると乗員にシステムへの不信感を与えてしまう恐れが生じる。そのような事情から、地図データと現実世界との不整合を検知したことの通知は、一定時間以内における通知回数が所定値以下となるように制限してもよい。また、地図と現実世界との不整合を検知したことの通知は、車速の抑制やハンドオーバーリクエストなどといった、地図の不備に対応するための処理を実行する場合のみ、その予告として実行されてもよい。車速の抑制中や、先行車追従中、又は手動運転中は、地図と現実世界との不整合を検知したことの通知は停止されても良い。
【0155】
<車車間通信の活用例>
例えば地図取得部F4は、データの信頼性の観点から、地図サーバ3から部分地図データを取得することを原則としつつも、地図取得残余時間Tmgが所定の閾値未満となった場合には、周辺車両から部分地図データを取得するように構成されていても良い。例えばV2X車載器14と連携して、周辺車両に対して次エリア地図データを要求することにより、周辺車両から現エリア/次エリアの地図データを取得してもよい。そのように車車間通信で他車両から部分地図データを取得する制御も非常行動として採用可能である。
【0156】
当該構成によれば、広域通信網又はV2X車載器14の広域通信部に不具合が生じた場合に自動運転が中断されるおそれを低減できる。なお、当該周辺車両から取得した地図データは、地図サーバ3から地図データを取得するまでの仮の地図データとして用いてもよい。また、周辺車両から取得する地図データには、データの信頼性を担保する電子的な証明書が付加されていることが好ましい。証明書情報は、発行元情報や、信頼性を担保するコード等を含む情報とすることができる。
【0157】
上記構成に関連して、車両同士、換言すれば、各車両の自動運転装置20同士は、自身が保持する現エリア又は次エリアの地図データの鮮度情報を、車々間通信で共有するように構成されていても良い。鮮度情報は、ダウンロードした日時情報であってもよいし、バージョン情報であっても良い。そして、処理部21は、現エリア又は次エリアの地図データとして、他装置が自装置よりも新しい地図データを保有していることが検出された場合には、当該他装置から当該地図データを車車間通信により取得しても良い。ここでの他装置とは、他車両に搭載されている自動運転装置又は運転支援装置を指す。他装置は、地図データを利用する装置であればよい。通信相手としての他装置との表現は、他車両又は周辺車両と置き換えることができる。他車両は自車両前方を走行する車両に限らず、側方や後方に位置する車両などであってもよい。
【0158】
その他、処理部21は、工事/車線規制等に由来する不整合箇所が検出された場合には、不整合箇所の存在を車車間通信により後方車両に通知してもよい。また、処理部21は、先行車両が検知した不整合箇所を車車間通信により前方車両から取得してもよい。
【0159】
<即席地図の活用例>
前述の通り、処理部21は地図データを取得できなかった場合の非常行動の1つとして、周辺監視センサ11の検出結果を元に即席地図を作成し、当該即席地図を用いて自律的な走行を継続するための制御計画を作成及び実行してもよい。また、処理部21は、即席地図を作成できている距離範囲である地図作成距離Dmpに応じて、挙動を変更するように構成されていても良い。例えば処理部21は、
図18に示すように、所定の機能維持距離Dth以上前方まで即席地図を作成できている場合には(ステップT102 YES)、通常制御を維持する(ステップT103)。一方、地図作成距離Dmpが機能維持距離Dth未満である場合に(ステップT102 NO)、MRM又は走行速度を所定量抑制する処理を実行する(ステップT104)。
【0160】
なお、
図18に示すステップT101は、周辺監視センサ11の検出結果を用いて即席地図をリアルタイムに作成する処理ステップを示している。ステップT101は例えば100ミリ秒又は200ミリ秒などで逐次実行されうる。地図作成距離Dmpは、周辺監視センサ11で物標を検出できている距離に対応する。地図作成距離Dmpは例えばエゴレーンの左右区画線を認識できている距離とすることができる。また、地図作成距離Dmpは左側又は右側の道路端を認識できている距離であってもよい。
【0161】
機能維持距離Dthは、例えば50mなどの一定値であってもよいし、速度に応じて定まる可変値であってもよい。例えば機能維持距離Dthは、MRMで停止するまでに移動する距離であるMRM所要距離Dmrmに、所定の裕度を加えた値とすることができる。MRM所要距離Dmrmは、MRMで使用する負の加速度(つまり減速度)と、現在の速度とから等加速度運動の方程式の援用により定まる。すなわちDmrmは、現在の速度をVo、減速度をaとすると、Dmrm=Vo^2/(2a)により決定される。なお、MRMで使用される減速度は、10秒以内に完全停止可能なように動的に決定されても良い。
【0162】
処理部21は、上記の構成は、即席地図がMRM所要距離Dmrmよりも遠方まで作成できている場合には、MRMを行わずに、走行を継続する構成に相当する。なお、処理部21は、地図作成距離Dmpが機能維持距離Dth以上であっても、即席地図を利用中は速度の上限値を抑制するように構成されていても良い。MRM所要距離Dmrmは、車速が小さいほど短くなる。そのため、即席地図を使用している間は車速を抑制する構成によれば、MRMが実行される可能性をより一層低減可能となる。なお、即席地図を使用しているシーンとは、地図サーバ3との通信により制御計画に必要な地図データを受信できないシーンに対応する。
【0163】
<撮影禁止区域への対応>
本システムが使用される地域によっては、カメラを向けられない場所である撮影禁止エリアが存在しうる。撮影禁止エリアとしては、例えば軍事施設や、軍用住宅地、空港、港湾、王宮、政府施設などの内部及びその周辺が想定される。地図サーバ3は、地図の管理者等によって登録される撮影禁止エリアの位置情報を、各車両に配信しても良い。処理部21は、地図サーバ3から撮影禁止エリアの位置情報を取得した場合には、当該撮影禁止エリアの位置情報に基づき、ハンドオーバーリクエストを実行しても良い。
【0164】
例えば
図19に示すように処理部21は、地図サーバ3からの配信情報に基づき、自車両の前方に撮影禁止エリアが存在することを検知した場合(ステップT201 YES)、撮影禁止エリアに到達するまでの残り時間Trmnを算出する(ステップT202)。そして、撮影禁止エリアに到達するまでの残り時間Trmnが所定の閾値Tho未満となった場合には(ステップT203 YES)、ハンドオーバーリクエストを開始する(ステップT204)。その後、所定時間以内に運転席乗員からの応答が得られた場合には(ステップT205 YES)、運転席乗員に運転権限を移譲するとともにその旨の通知を実施する(ステップT206)。一方、所定時間経過しても運転席乗員からの応答が得られなかった場合には(ステップT205 NO)、MRMを実行する。
【0165】
残り時間Trmnに対する閾値Dhoは、例えば20秒など、所定の標準引き継ぎ時間よりも十分に長く設定されている。標準引き継ぎ時間は、例えば路上駐車や車線規制等、動的な要因によりハンドオーバーリクエストを行う際の応答待機時間であって、例えば6秒や7秒、10秒などに設定されている。撮影禁止エリアへの接近を理由とするハンドオーバーリクエストの応答待機時間もまた15秒など、標準引き継ぎ時間よりも長く設定される。
【0166】
上記の構成によれば、動的要因によるハンドオーバーリクエスト時よりも、時間的な余裕をもって権限移譲を実施可能となる。なお、以上では撮影禁止エリアの位置情報に基づいて計画的にハンドオーバーを実行する構成について述べたが、撮影禁止エリア付近の地図データは法律又は条例に基づき作成及び配信が禁止されることも想定される。地図サーバ3は、撮影禁止エリアの情報に替えて又はそれとあわせて、法律等に基づき地図が用意されていない配信禁止エリアについての位置情報を配信してもよい。
図19のフローは、撮影禁止エリアとの表現を配信禁止エリアに置き換えて実施することができる。つまり処理部21は配信禁止エリアに到達するまでの残り時間/距離に基づいて計画的にハンドオーバーリクエストを開始するように構成されていても良い。
【0167】
なお、処理部21は、撮影禁止エリアを退出する場合や、配信禁止エリアを退出する場合など、自動運転可能なエリアに移る場合には、自動運転が可能なことを示す表示を行っても良い。自動運転可能なエリアに移る場合とは、ODD内に移ることに対応する。なお、自動運転機能を利用可能となることの通知は、通知音や音声メッセージを併用して実施されても良い。また、ステアリングホイールに設けられたLED等の発光素子を点灯/点滅させたり、ステアリングホイールを振動させたりすることで、自動運転可能となったことを通知しても良い。処理部21は、撮影禁止エリアや配信禁止エリアを退出するまでの残り距離/時間、あるいは、自動運転が可能となるまでの残り距離/時間を算出し、HUD等に表示しても良い。
【0168】
<付言(その1)>
本開示における「非常」とは、自動運転制御を継続する上で必要な地図データに不備がある状態を指す。換言すれば、自動運転制御を継続する上で必要な地図データを取得できている状態は、逆説的に通常の状態に相当する。地図取得部F4が取得した部分地図データに不備が有る状態には、例えば通信遅延等の理由により、例えば次エリア地図データなど、自動運転制御を実施する上で必要となる地図データセットの一部が取得できていない状態、換言すれば欠けている状態が含まれる。また、地図取得部F4が取得した地図データに不備がある状態には、現実世界との間にギャップがある状態も含まれる。地図取得部F4が取得した地図データに不備がある状態には、地図の更新日時が所定時間過去である状態や、最新バージョンではない状態も含まれる。上記の構成は、地図取得部F4が取得した部分地図データに、一部のデータの欠損を含む、不備が存在する場合に所定の非常行動を実行する構成に相当する。なお、ステップS201、S302が地図管理ステップに相当する。また、ステップS203、S205、S206、S208、及びS306の少なくとも何れか1つが制御計画ステップに相当する。非常行動は1つの側面において緊急行動と呼ぶこともできる。
【0169】
<付言(その2)>
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路により、実現されてもよい。さらに、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。つまり、自動運転装置20が提供する手段および/又は機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供できる。自動運転装置20が備える機能の一部又は全部はハードウェアとして実現されても良い。或る機能をハードウェアとして実現する態様には、1つ又は複数のICなどを用いて実現する態様が含まれる。処理部21は、CPUの代わりに、MPUやGPU、DFP(Data Flow Processor)を用いて実現されていてもよい。また、処理部21は、CPUや、MPU、GPUなど、複数種類の演算処理装置を組み合せて実現されていてもよい。さらに、ECUは、FPGA(field-programmable gate array)や、ASIC(application specific integrated circuit)を用いて実現されていても良い。各種プログラムは、非遷移的実体的記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に格納されていればよい。プログラムの保存媒体としては、HDD(Hard-disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、EPROM(Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ、USBメモリなど多様な記憶媒体を採用可能である。
【0170】
<付言(その3)>
本開示には以下の構成も含まれる。
【0171】
[構成(1)]
地図収録地域全体のうちの一部についての地図データである部分地図データを用いて制御計画を作成する自動運転装置であって、
地図サーバから車両の位置に応じた部分地図データを取得する地図取得部(F4)と、
部分地図データの取得状況を判定する地図管理部(F5)と、
部分地図データを用いて制御計画を作成する制御計画部(F7)と、を備え、
地図管理部は、所定時間以内に車両が進入する領域についての部分地図データである次エリア地図データを取得できているか否かを判定し、
制御計画部は、地図管理部によって次エリア地図データを取得できていないと判定されたことに基づいて、所定の非常行動の実行を計画するように構成されている、自動運転装置。
【0172】
[構成(2)]
上記構成(1)に記載の自動運転装置であって、
次エリア地図データを取得できていない場合には、次エリア地図データが必要となるまでの残り時間を算出し、
次エリア地図データが必要となるまでの残り時間が所定の閾値未満となったタイミングで、非常行動の実行を計画するように構成されている自動運転装置。
【0173】
[構成(3)]
上記構成(1)に記載の自動運転装置であって、
次エリア地図データが必要となるまでの残り時間は、車両の現在位置に対応する部分地図データである現エリア地図データが対応している領域から車両が退出するまでに時間である自動運転装置。
【0174】
[構成(4)]
上記構成(1)に記載の自動運転装置であって、
次エリア地図データが必要となるまでの残り時間は、次エリア地図データが対応している領域に車両が進入するまでの残り時間である自動運転装置。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地図を用いて車両の自律的に走行させる制御計画を作成する自動運転装置であって、
メモリにおける前記地図の保持状況を管理する地図管理部(F5)と、
前記地図を用いて前記制御計画を作成する制御計画部(F7)と、を備え、
前記地図管理部は、前記メモリに保存されている前記地図に不備があるか否かを判定し、
前記制御計画部は、前記地図管理部によって前記地図に不備があると判定されたことに基づいて、地図サーバから提供される地図を用いずに自律走行を継続する制御の実施を計画するように構成されている自動運転装置。
【請求項2】
前記地図サーバから提供される地図を用いずに自律走行を継続する前記制御は、前記車両に搭載された周辺監視センサから提供されるセンシング情報に基づいて車両前方の走行環境を示す地図である即席地図をリアルタイムに作成し、前記即席地図を用いて自律的な走行を継続する制御である、請求項1に記載の自動運転装置。
【請求項3】
前記制御計画部は、前記即席地図を作成できている距離が所定値以上であるか否かに応じて前記車両の挙動を変更するように構成されている、請求項2に記載の自動運転装置。
【請求項4】
前記制御計画部は、
前記即席地図を作成できている距離が所定値以上である場合、前記自律的な走行を継続する一方、
前記即席地図を作成できている距離が前記所定値未満である場合、MRM(Minimal Risk Maneuver)を開始するように構成されている、請求項2に記載の自動運転装置。
【請求項5】
前記MRMは、安全な場所まで前記車両を自律走行させて停車させること、又は、現在走行中のレーン内に前記車両を停車させることである、請求項4に記載の自動運転装置。
【請求項6】
前記MRMは、停車に向けて減速することを含み、
前記制御計画部は、前記所定値を、前記MRMで停車するまでに必要な制動距離よりも長い値に設定するように構成されている、請求項4に記載の自動運転装置。
【請求項7】
前記即席地図を作成できている距離が所定値未満である場合には、前記即席地図を作成できている距離が前記所定値未満である場合に比べて、走行速度を抑制するように構成されている、請求項2に記載の自動運転装置。
【請求項8】
前記地図サーバから前記車両が通過予定の道路に関する地図を取得して前記メモリに保存する地図取得部(F4)をさらに備え、
前記地図サーバから提供される地図を用いずに自律走行を継続する前記制御を実施している場合には、前記地図サーバから取得した前記地図を用いて自律走行をしている場合よりも、自律走行における走行速度の上限値を低減するように構成されている、請求項1に記載の自動運転装置。
【請求項9】
前記地図サーバから提供される地図を用いずに自律走行を継続する前記制御は、先行車両の軌跡を自車両の走行軌道として採用しつつ、周辺監視センサの検出される他車両の割り込み又は歩行者の横断に反応して減速を実施する制御である、請求項1に記載の自動運転装置。
【請求項10】
前記地図管理部は、前記車両に搭載された周辺監視センサから提供されるセンシング情報と前記メモリに保存されている前記地図とを比較することにより、前記地図が現実世界と整合しているか否かを判定し、
前記地図と現実世界が整合していない場合に前記地図に不備が有ると判定するように構成されている、請求項1に記載の自動運転装置。
【請求項11】
前記地図サーバから地図を取得し、前記メモリに保存する地図取得部(F4)を備え、
前記地図管理部は、自動運転を継続する上で必要となる前記地図の一部が前記メモリに保存されていない場合に、前記地図に不備が有ると判定するように構成されている、請求項1に記載の自動運転装置。
【請求項12】
前記地図サーバから前記車両が通過予定の道路に関する地図を取得して前記メモリに保存する地図取得部(F4)をさらに備え、
前記制御計画部は、
前記メモリに保存されている前記地図に不備がない場合には、当該メモリに保存されている地図を用いて前記車両を自律的に走行させるための制御計画を作成し、
前記メモリに保存されている前記地図に不備がある場合には、前記地図サーバから提供される地図を用いない前記制御の計画を作成するように構成されている、請求項1から11のいずれか1項に記載の自動運転装置。
【請求項13】
少なくとも1つのプロセッサによって実行される、地図を用いて車両の自律的に走行させるための車両制御方法であって、
メモリにおける前記地図の保持状況を管理することと、
前記地図を用いて前記車両の制御計画を作成することと、を備え、
前記保持状況を管理することは、前記メモリに保存されている前記地図に不備があるか否かを判定することを含み、
前記制御計画を作成することは、前記地図に不備があると判定されたことに基づいて、地図サーバから提供される地図を用いずに自律走行を継続する制御の実施を計画することを含む、車両制御方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
その目的を達成するための自動運転装置は、一例として、地図を用いて車両の自律的に走行させる制御計画を作成する自動運転装置であって、メモリにおける地図の保持状況を管理する地図管理部(F5)と、地図を用いて制御計画を作成する制御計画部(F7)と、を備え、地図管理部は、保持している地図に不備があるか否かを判定し、制御計画部は、地図管理部によって地図に不備があると判定されたことに基づいて、地図サーバから提供される地図を用いずに自律走行を継続する制御の実施を計画するように構成されている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
また上記目的を達成するための車両制御方法は、少なくとも1つのプロセッサによって実行される、地図を用いて車両の自律的に走行させるための車両制御方法であって、メモリにおける地図の保持状況を管理することと、地図を用いて車両の制御計画を作成することと、を備え、保持状況を管理することは、保持している地図に不備があるか否かを判定することを含み、制御計画を作成することは、地図に不備があると判定されたことに基づいて、地図サーバから提供される地図を用いずに自律走行を継続する制御の実施を計画することを含む。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0052
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0052】
運行記録装置17は、車両の走行時の車両内の状況、及び、車室外の状況の少なくとも何れか一方を示すデータを記録する装置である。車両の走行時の車両内の状況には、自動運転装置20の作動状態や、運転席乗員の状態を含めることができる。自動運転装置20の作動状態を示すデータには、自動運転装置20における周辺環境の認識結果や、走行計画、各走行アクチュエータの目標制御量などの算出結果も含まれる。また、ディスプレイ151の表示画面をキャプチャした画像、いわゆるスクリーンショットを記録対象に含めても良い。記録対象とするデータは、車両内ネットワークNw等を介して、自動運転装置20や周辺監視センサ11など、車両に搭載されているECUやセンサから取得する。運行記録装置17は所定の記録イベントが発生した場合に、当該イベント発生時点の前後所定時間における各種データを記録する。記録イベントとしては、例えば運転操作の権限移譲や、ODDの退出、後述する非常行動の実施、自動化レベルの変動、MRM(Minimal Risk Maneuver)の実行等を採用可能である。例えば運行記録装置17は、自動運転装置20が非常行動を実行した場合には、その時点で取得されていた部分地図データを特定可能なデータを保存する。取得済みの部分地図データを特定可能なデータとは、例えばタイルIDやバージョン情報、取得日時などである。データの記録先は、自車両Maに搭載された不揮発性の記憶媒体であってもよいし、外部サーバであってもよい。