(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081690
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】細胞の凍結保存のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20240611BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20240611BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20240611BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
C12N1/00 F
C12N1/04
C12N5/071
C12N5/10
【審査請求】有
【請求項の数】37
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024044060
(22)【出願日】2024-03-19
(62)【分割の表示】P 2021564413の分割
【原出願日】2020-04-24
(31)【優先権主張番号】62/840,617
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.FIREWIRE
(71)【出願人】
【識別番号】305023366
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ、ルイ
(72)【発明者】
【氏名】ヒューベル、アリソン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】細胞を凍結保存するための組成物および方法を提供する。
【解決手段】凍結保存用組成物は、300mM以下の組成物中の糖成分の総濃度を有する糖成分、2M以下の組成物中の糖アルコール成分の総濃度を有する糖アルコール成分、ならびにポリマー成分およびアルブミンの少なくとも1つを含み、但し、凍結保存用組成物が凍結保存量未満のジメチルスルホキシド(DMSO)を含む。細胞を凍結保存する方法は、細胞を凍結保存用組成物に加えること、凍結保存用組成物を凍結すること、凍結した凍結保存用組成物を保存すること、凍結保存用組成物を解凍すること、解凍した凍結保存用組成物から細胞を移すこと、ならびに細胞が生存可能であるために効果的な条件下で細胞を培養することを含む。上記凍結することは、0.1℃/分~5℃/分の速度で冷却することを含み得る。当該方法は、解凍後の洗浄工程なしで実施され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結保存用組成物であって、凍結保存用組成物が、
糖成分であって、凍結保存用組成物中の糖成分の総濃度が300mM以下である、糖成分と、
糖アルコール成分であって、凍結保存用組成物中の糖アルコール成分の総濃度が2M以下である、糖アルコール成分と、
1%~15%の濃度でのポリマー成分と、
グリシン、アラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、およびセリンを含むアミノ酸成分と、
任意に、0.5%~10%の濃度でのアルブミンと、
を含み、但し、凍結保存用組成物が140mM未満のジメチルスルホキシド(DMSO)を含む、凍結保存用組成物。
【請求項2】
前記糖成分が、1mM~250mM、10mM~200mM、20mM~120mM、25mM~100mM、または30mM~80mMの濃度で提供される、請求項1記載の凍結保存用組成物。
【請求項3】
前記糖成分が、トレハロース、マルトース、ラクトース、フルクトース、スクロース、グルコース、デキストラン、メレジトース、ラフィノース、ニゲロトリオース、マルトトリオース、マルトトリウロース、ケストース、セロビオース、キトビオース、およびラクツロースからなる群より選択される少なくとも1つの糖を含む、請求項1または2に記載の凍結保存用組成物。
【請求項4】
前記糖成分が、トレハロース、マルトース、およびラクトースからなる群より選択される少なくとも1つの糖を含む、請求項3記載の凍結保存用組成物。
【請求項5】
前記糖成分がトレハロースを含む、請求項4記載の凍結保存用組成物。
【請求項6】
前記糖成分が、10mM~200mM、20mM~120mM、または30mM~80mMのトレハロース、マルトース、ラクトース、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の凍結保存用組成物。
【請求項7】
前記糖成分が、10mM~200mM、20mM~120mM、または30mM~80mMのトレハロースを含む、請求項6記載の凍結保存用組成物。
【請求項8】
30mM~80mMのトレハロースを含む、請求項7記載の凍結保存用組成物。
【請求項9】
前記糖アルコール成分が、0.2M~1.2M、0.2M~1M、または0.3M~0.8Mの濃度で提供される、請求項1~8のいずれか1項に記載の凍結保存用組成物。
【請求項10】
前記糖アルコール成分が、グリセロール、ソルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、イノシトール、キシリトール、マンニトール、アラビトール、リビトール、エリスリトール、スレイトール、ガラクチトール、およびピニトールからなる群より選択される少なくとも1つの糖アルコールを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の凍結保存用組成物。
【請求項11】
前記糖アルコール成分が、グリセロール、ソルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、イノシトール、キシリトール、およびマンニトールからなる群より選択される少なくとも1つの糖アルコールを含む、請求項10記載の凍結保存用組成物。
【請求項12】
前記糖アルコール成分が、グリセロールを含む、請求項10記載の凍結保存用組成物。
【請求項13】
0.4M~1Mのグリセロールを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の凍結保存用組成物。
【請求項14】
少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、または少なくとも5%、かつ15%以下、12%以下、10%以下、8%以下、7%以下、6%以下、または5%以下の前記ポリマー成分を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の凍結保存用組成物。
【請求項15】
1.5%~10%の前記ポリマー成分を含む、請求項14記載の凍結保存用組成物。
【請求項16】
3%~8%の前記ポリマー成分を含む、請求項15記載の凍結保存用組成物。
【請求項17】
前記ポリマー成分がポロキサマーである、請求項1~16のいずれか1項に記載の凍結保存用組成物。
【請求項18】
0.5%~8%の濃度での前記アルブミンを含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の凍結保存用組成物。
【請求項19】
前記アルブミンの濃度が1%~5%である、請求項18記載の凍結保存用組成物。
【請求項20】
少なくとも0.05%(w/v)、少なくとも0.1%、少なくとも0.2%、少なくとも0.3%、少なくとも0.4%、少なくとも0.5%、少なくとも0.6%、または少なくとも0.7%、かつ2.5%(w/v)以下、2%以下、1.5%以下、1.3%以下、1.2以下%、1.1%以下、または1.0%以下の濃度でのイオン成分をさらに含み、イオン成分が、塩、酸、塩基、またはそれらの組み合わせを含み、随意に、塩が、CaCl2、MgCl2、MgSO4、KCl、KH2PO4、NaHCO3、NaCl、およびNa2HPO4から選択される、請求項1~19のいずれか1項に記載の凍結保存用組成物。
【請求項21】
前記イオン成分の濃度が0.2%~2%である、請求項20記載の凍結保存用組成物。
【請求項22】
前記イオン成分の濃度が0.3%~1.6%である、請求項20記載の凍結保存用組成物。
【請求項23】
前記アミノ酸成分が、少なくとも0.1mM、少なくとも1mM、少なくとも2mM、少なくとも3mM、少なくとも4mM、少なくとも5mM、少なくとも6mM、少なくとも7mM、少なくとも8mM、少なくとも9mM、または少なくとも10mM、かつ100mM以下、80mM以下、50mM以下、40以下mM、30mM以下、25mM以下、22.5mM以下、20mM以下、15mM以下、14mM以下、または10mM以下の濃度である、請求項1~22のいずれか1項に記載の凍結保存用組成物。
【請求項24】
前記アミノ酸成分の濃度が0.1mM~50mMである、請求項23記載の凍結保存用組成物。
【請求項25】
前記アミノ酸成分が、イソロイシンおよびクレアチンの少なくとも1つをさらに含む、請求項1~24のいずれか1項に記載の凍結保存用組成物。
【請求項26】
1つまたは複数のアミノ酸、アミノ酸誘導体、ペプチド、またはそれらの組み合わせを含む第2のアミノ酸成分をさらに含む、請求項1~25のいずれか1項に記載の凍結保存用組成物。
【請求項27】
前記第2のアミノ酸成分が、バリン、ヒスチジン、システイン、トリプトファン、チロシン、アルギニン、グルタミン、タウリン、ベタイン、エクトイン、ジメチルグリシン、エチルメチルグリシン、RGDペプチド、またはそれらの組み合わせの1つまたは複数を含む、請求項26記載の凍結保存用組成物。
【請求項28】
細胞をさらに含む、請求項1~27のいずれか1項に記載の凍結保存用組成物。
【請求項29】
前記細胞が、iPS細胞、胚性幹細胞、心臓前駆細胞、心筋細胞、神経前駆細胞、ニューロン、グリア細胞、ベータ細胞、内皮細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、腱細胞、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、角膜細胞、網膜細胞、小柱網細胞、腸細胞、腎細胞、造血細胞、配偶子、またはそれらの組み合わせである、請求項28記載の凍結保存用組成物。
【請求項30】
前記細胞が、iPS細胞、胚性幹細胞、心臓前駆細胞、心筋細胞、神経前駆細胞、ニューロン、グリア細胞、上皮細胞、内皮細胞、網膜細胞、またはそれらの組み合わせである、請求項29記載の凍結保存用組成物。
【請求項31】
前記細胞がiPS細胞である請求項30記載の凍結保存用組成物。
【請求項32】
前記細胞が、生存可能な回復された凍結保存細胞である、請求項28~31のいずれか1項に記載の凍結保存用組成物。
【請求項33】
細胞を凍結保存する方法であって、
(a)請求項1~27のいずれか1項に記載の凍結保存用組成物に細胞を加えること、
(b)前記凍結保存用組成物中の分子成分の結晶化を氷核形成温度で開始すること、および
(c)前記凍結保護用組成物をある速度で冷却すること
を含む方法。
【請求項34】
前記氷核形成温度が、0℃~-3℃、-1℃~-20℃、-1℃~-12℃、-12℃~-20℃、-6℃~-12℃、-1℃~-8℃、-1.5℃~-7℃、-2℃~-6℃、-3℃~-6℃、または-3℃~-5℃である、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記氷核形成温度が-4℃である、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記凍結保護用組成物の冷却速度が、0.1℃/分~5℃/分、0.3℃/分~3℃/分、または0.8℃/分~1.2℃/分である、請求項33~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
洗浄工程なしに前記凍結保護用組成物を解凍および使用することを含む、請求項33~36のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、細胞を凍結保存するための組成物および方法に関する。
【0002】
[継続出願のデータ]
本出願は、引用により本明細書に組み込まれる、2019年4月30日に出願された、米国仮特許出願第62/840,617号の利益を主張する。
【0003】
[政府の資金援助]
本発明は、国立衛生研究所によって与えられたEB023880のもと、政府の支援を受けてなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【発明の概要】
【0004】
本出願は、細胞を凍結保存するための組成物および方法に関する。凍結保存用組成物は、300mM以下の凍結保存用組成物中の糖成分の総濃度を有する糖成分、2M以下の凍結保存用組成物中の糖アルコール成分の総濃度を有する糖アルコール成分、ならびに1%~15%の濃度でのポリマー成分および0.5%~10%の濃度でのアルブミンの少なくとも1つを含むことができ、但し、凍結保存用組成物は凍結保存量未満のジメチルスルホキシド(DMSO)を含む。
【0005】
糖成分は1mM~100mMの濃度で提供され得る。糖成分は、トレハロース、マルトース、ラクトース、フルクトース、スクロース、グルコース、デキストラン、メレジトース、ラフィノースラフィノース、ニゲロトリオース、マルトトリオース、マルトトリウロース、ケストース、セロビオース、キトビオース、ラクツロース、またはそれらの組み合わせを含み得る。
【0006】
糖アルコール成分は0.2M~1.2Mの濃度で提供され得る。糖アルコール成分は、グリセロール、ソルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、イノシトール、キシリトール、マンニトール、アラビトール、リビトール、エリスリトール、スレイトール、ガラクチトール、ピニトール、またはそれらの組み合わせを含み得る。
【0007】
凍結保存用組成物は、0.1%~2.5%の濃度でイオン成分をさらに含み得る。凍結保存用組成物は、0.1mM~50mMの濃度でアミノ酸成分をさらに含み得る。アミノ酸成分は、イソロイシン、クレアチン、またはそれらの組み合わせを含み得る。凍結保存用組成物は第2のアミノ酸成分をさらに含み得る。第2のアミノ酸成分は、1つまたは複数のプロリン、バリン、アラニン、グリシン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、ヒスチジン、システイン、トリプトファン、チロシン、アルギニン、グルタミン、タウリン、ベタイン、エクトイン、ジメチルグリシン、エチルメチルグリシン、RGDペプチド、またはそれらの組み合わせを含み得る。
【0008】
凍結保存用組成物は細胞をさらに含んでもよい。細胞はiPS細胞であり得る。細胞は、生存可能な回復された凍結保存された細胞であり得る。
【0009】
細胞を凍結保存する方法は、細胞を凍結保存用組成物に加えること、該組成物を凍結すること、凍結した組成物を0℃未満の温度で保存すること、該組成物を解凍すること、解凍した組成物から細胞を移すこと、および細胞が生存可能であるために効果的な条件下で細胞を培養することを含む。上記組成物の凍結は、0℃/分超から5℃/分までの速度で冷却することを含む。当該方法は、解凍後の洗浄工程なしで実施され得る。本開示の凍結保存方法は、定義された温度で氷核形成を活発に誘導する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4A】実施例で使用される冷却プロファイルを示す。
【
図4B】実施例で使用される冷却プロファイルを示す。
【
図4C】実施例で使用される冷却プロファイルを示す。
【
図5】実施例で使用される凍結保存ワークフローのグラフィック描写である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、細胞を凍結保存するための組成物および方法に関する。特に、本開示は、DMSOを使用せずに細胞を凍結保存するための組成物および方法に関する。本開示の組成物は、凍結保存後およびその後の使用前に細胞を洗浄する必要がない方法で細胞を凍結保存するために使用することができる。
【0012】
本明細書で使用される「実質的に(substantially)」という用語は、「著しく(significantly)」と同じ意味を有し、後に続く用語を少なくとも約75%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約98%で修飾すると理解され得る。本明細書で使用される「実質的ではない(not substantially)」という用語は、「著しくない(not significantly)」と同じ意味を有し、「実質的に」の逆の意味を有する、すなわち、後に続く用語を25%以下、10%以下、5%以下、または2%以下で修飾すると理解され得る。
【0013】
「約」という用語は、本明細書では、当業者によって予期される測定値の通常の変動を含むように数値と組み合わせて使用され、「ほぼ」と同じ意味を有し、記載値の±5%などの典型的な許容誤差をカバーすると理解される。
【0014】
「a」、「an」、および「the」などの用語は、単一の実体のみを指すことを意図するものではなく、具体的な例が説明のために使用され得る一般的なクラスを含む。
【0015】
「a」、「an」、および「the」という用語は、「少なくとも1つ」という用語と交換可能に使用される。リストが続く「少なくとも1つ」および「少なくとも1つを含む」という句は、リストにある項目のいずれか1つおよびリストにある2つまたはそれ以上の項目の任意の組み合わせを指す。
【0016】
本明細書で使用される場合、「または」という用語は、内容が明確に別段の指示をしない限り、「および/または」を含むその通常の意味で一般的に使用される。「および/または」という用語は、リストされた要素の1つもしくはすべてまたはリストされた要素の任意の2つもしくはそれ以上の組み合わせを意味する。
【0017】
エンドポイントによる数値範囲の列挙には、その範囲内に含まれるすべての数が含まれる(たとえば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含むか、または10以下は、10、9.4、7.6、5、4.3、2.9、1.62、0.3などを含む)。値の範囲が特定の値、「最大」または「少なくとも」である場合、その値は範囲内に含まれる。
【0018】
「好ましい(preferred)」および「好ましくは(preferably)」という用語は、特定の状況下で特定の恩恵をもたらし得る実施形態に言及する。しかし、同じまたは他の状況下では、他の実施形態も好ましい場合がある。さらに、1つまたは複数の好ましい実施形態の列挙は、他の実施形態が有用ではないことを意味するものではなく、特許請求の範囲などの本開示の範囲から他の実施形態を排除することを意図するものではない。
【0019】
「凍結保存量(cryopreservative amount)」という用語は、本明細書では、細胞などのサンプルの凍結保存を提供するのに十分な量を指すように使用される。「凍結保存量未満のジメチルスルホキシド(DMSO)」という句は、140mM未満のDMSOを指し得る。
【0020】
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は再生医療への現在のアプローチの基礎となるものである。たとえば、ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)は、さまざまな体細胞からの再プログラミングから形成することができる多細胞凝集体であり、3つの胚葉すべてに分化される可能性があり、組織工学、疾患モデリング、およびパーソナライズされた薬において大変興味を引き付けられるものである。iPS細胞は、分化されて肝臓細胞として機能する肝細胞を形成することができ、肝不全を治療するために肝補助装置または移植可能な肝臓で使用することができる。iPS細胞はまた、神経細胞、心臓細胞、およびそうでなければ入手が困難な他の細胞タイプに分化され得る。しかし、そのような治療法の開発は細胞の入手可能性によって制限されている。
【0021】
臨床的および科学的目的の両方のために、iPS細胞の効果的な凍結保存が、凍結されたiPS細胞の輸送、貯蔵、および他の下流の使用のために必要とされる。しかし、凍結保存されたiPS細胞は、生存率、機能、または多能性の損失に対して脆弱である。
【0022】
研究所およびバイオレポジトリでの現在の慣行は、所望の用途に応じて、凝集体または単一細胞のいずれかとしてiPS細胞を凍結保存することを伴う。iPS細胞の凍結保存には、典型的に、DMSOを含む溶液またはDMSOをほとんど含まない溶液という2種類の溶液のうちの1つ、および従来の徐冷またはガラス化という2つの異なる方法のうちの1つを要し得る。ガラス化は典型的に、凍結中の氷の形成を回避するために、高濃度の凍結防止剤を高い冷却速度と組み合わせて使用する。たとえば、サンプルは、専用のストローまたは膜に含まれ、液体窒素に急速に浸漬され得る。段階的冷却では、サンプルは、0℃(氷上)から-20℃に移され得、その後、正規化されていない時間の間-80℃に移され得、最終的に-196℃で保存され得る。冷凍庫内に細胞を収容し、冷却速度をおよそ1℃/分に減速するように構築されている専用の容器が利用可能である(商標名MR.FROSTY(商標)およびCOOLCELL(商標)の下で販売される)。制御された凍結速度を提供する速度制御冷凍庫も利用可能である。従来の徐冷は典型的に、10%のジメチルスルホキシド(DMSO)の溶液および1℃/分の冷却速度を使用することを意味している。ガラス化では高い解凍後の回復率(最大約100%)が観察されるが、当該方法では、スケーラビリティが低く、汚染のリスクが高いという制限に直面する。
【0023】
DMSOは、細胞に対して毒性であることが知られており、細胞のエピジェネティクスを変更し得る。これは、iPS細胞などの再プログラムされている細胞の場合には、細胞の下流での使用に関する懸念につながりかねない。具体的には、iPS細胞に関する懸念の1つは遺伝的安定性である。遺伝的安定性に影響を与える要因は、細胞の臨床使用に関する懸念を引き起こす。
【0024】
凍結保存溶液中でDMSOを使用することで、ユーザは、溶液の導入後すぐに細胞を冷凍し、解凍後すぐに溶液を洗い流して、冷凍されていない/解凍された細胞のDMSOへの曝露時間を最小限に抑えることになる。この要件はワークフローに影響を与え、細胞の保存をより困難かつ高価なものにしている。
【0025】
iPS細胞を保存する細胞バンクは細胞生存率の高い変動性を説明している。所与の細胞株の1つのバイアルが比較的高い生存率を示し、同じ細胞株の別のバイアルが非常に低い生存率を示すことは一般的である。結果に変動性があることで、研究および潜在的な細胞治療製品にiPS細胞を使用することはより費用がかかり困難になる。
【0026】
多細胞凝集体の凍結保存を改善する試みにもかかわらず、異なる凍結条件からの損傷のメカニズムは十分に理解されていない。単一細胞と同様に、広範な細胞内氷形成(IIF)が損傷を与えることが証明されている。低温での高溶質濃度への曝露は、細胞に溶質効果を引き起こしかねず、凍結防止剤の添加または除去は、結果として、浸透圧ストレスに起因する細胞損失をもたらしかねない。しかし、細胞凝集体の凍結応答は単一細胞の凍結応答よりも複雑である。たとえば、ギャップ結合を通した細胞凝集体におけるIIFの広がりは、さまざまな細胞タイプにおいて実験的に観察されている。
【0027】
解離されたhiPSC(すなわち、単一細胞)の生存を増強するために、Rhoキナーゼ(「ROCK」)阻害剤(ROCKi)Y-27632が使用されてきた。ROCK阻害の結果としての非筋細胞ミオシンIIA(NMMIIA)およびアクチンの破壊は、単一のhiPSCの生存率および多能性を増加させることが示されている。しかし、ROCKiを追加すると、hiPSC凝集体の場合に矛盾する影響が生じかねない。NMMIIAのダウンレギュレーションは、hiPSC凝集体の細胞接着、細胞間結合、自己複製、および多能性を損なわせることが示されている。
【0028】
自発的で可変の冷却プロファイルを有するパッシブ冷凍を結果としてもたらす、NALGENE(登録商標)MR.FROST(商標)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)または同等の超低温冷凍庫内の冷凍コンテナを使用する幹細胞研究における一般的な慣行とは異なり、本開示の凍結保存方法は、定義された一貫した冷却プロファイルに従うようにプログラムされている速度制御凍結を使用する。また、定義された冷却速度ではあるが自発的で可変の氷核形成温度を用いる速度制御凍結を使用する、研究所および幹細胞レポジトリにおける既存の慣行とは異なり、本開示の凍結保存方法は、定義された温度で氷核形成を積極的に誘発する。冷却プロファイル(高いサブゼロ温度および核形成温度での冷却速度)は、凍結保存された細胞の質に影響を与える。冷却プロファイルの変動性は、凍結保存された細胞の生存および機能の変動性に寄与する。最適以下の冷却速度および氷核形成温度は、それらが自発的に発生することを可能にされた場合に生じる可能性があり、これは深刻な細胞死および解凍後の培養の失敗につながり、これは既存の慣行下での凍結保存されたiPS細胞のユーザに共通の経験である。比較すると、本開示の凍結保存方法は、氷核形成温度と冷却プロファイルの冷却速度の両方を定義し、これにより、変動を最小限に抑え、凍結保存された細胞の質を改善する。
【0029】
使用が容易であり、結果として高い細胞生存率をもたらし、および/またはROCK阻害剤の使用を必要としない凍結保存用組成物および方法が望まれる。
【0030】
本開示の凍結保存用組成物および方法は、さまざまなタイプの細胞および細胞形成での使用に適している。たとえば、凍結保存用組成物および方法は、懸濁中の解離した単一細胞;たとえば水溶液に懸濁された、無傷の細胞間接着のある解離した細胞の二次元クラスタ;たとえば水溶液に懸濁された、細胞の三次元凝集体;三次元マトリックス(たとえば、ヒドロゲル)に埋め込まれた単一細胞;三次元マトリックス(たとえば、ヒドロゲル)の表面に付着した細胞の二次元単層;二次元マトリックスの表面に付着した細胞の二次元単層;およびオルガノイドを用いて使用され得る。
【0031】
本開示の凍結保存用組成物および方法は、iPS細胞や他のタイプの細胞を凍結保存するのに適している。さまざまな細胞タイプには、たとえば、iPS細胞、胚性幹細胞、または胚様体;肝細胞または肝臓オルガノイド;ニューロンまたは神経前駆細胞、またはニューロスフェアまたは脳オルガノイド;グリア細胞またはグリア前駆細胞;心筋細胞、心臓前駆細胞、心臓組織、または心臓オルガノイド;内皮細胞または内皮;上皮細胞または上皮;筋細胞、平滑筋細胞、骨格筋組織、または平滑筋組織;腱細胞または腱組織;骨細胞、軟骨細胞、または骨軟骨前駆細胞;ベータ細胞、膵島組織、または膵臓オルガノイド;脂肪細胞または脂肪組織;角膜細胞または角膜;網膜細胞または網膜組織;小柱網細胞または小柱網組織;腸細胞、腸組織、または腸オルガノイド;腎細胞または腎臓オルガノイド;造血細胞;脈管細胞、リンパ細胞、血管、またはリンパ管;または配偶子が含まれ得る。
【0032】
細胞、複数の細胞、または組織の凍結保存は、検体の冷却および/または保存を含み得る。検体は、0℃以下、-20℃以下、-40℃以下、-90℃以下、-150℃以下、-190℃以下、または-196℃以下の温度に冷却され得るか、またはその温度で保存され得る。検体は、0℃未満および-196℃以上の温度に冷却され得るか、またはその温度で保存され得る。たとえば、検体は、0℃~-196℃、0℃~-40℃、-40℃~-196℃、-40℃~-90℃、または-90℃~-196℃の範囲の温度に冷却され得るか、またはその温度で保存され得る。
【0033】
一実施形態によれば、本開示の方法は、0℃~-40℃などの比較的高いサブゼロ温度でサンプルを保存するために使用され得る。それゆえ、速度制御冷凍庫を使用する従来の凍結保存方法の最終温度(-90℃~-196℃)とは異なり、いくつかの実施形態では、本開示の凍結方法の最終温度は、-18℃~-30℃の間という、一般的な家庭用または研究室用の冷凍庫の温度により近くなり得る。したがって、いくつかの実施形態では、本開示の方法は、速度制御冷凍庫および極低温貯蔵ユニットを含み得る専用の装置、または液体窒素を含み得る専用の材料、または凍結サンプルを凍結モダリティから貯蔵ユニットに移すことを含み得る専用の取り扱い手順の使用を必要としない。数年または数十年といった液体窒素貯蔵の対象とされるサンプル安定性の範囲とは異なり、本開示の方法のいくつかの実施形態は、数日、数週間、または数か月の高いサブゼロ貯蔵におけるサンプル安定性の範囲を対象とし得る。他の実施形態では、本開示の方法は、数年または数十年などの長期貯蔵の安定性を対象とする。
【0034】
本開示のいくつかの実施形態によれば、凍結保存用組成物は、DMSOを含まないか、または実質的に含まない。一実施形態によれば、本開示の凍結保存用組成物は、解凍後に細胞を洗浄することなく使用することができる。さらに一実施形態によれば、本開示の凍結保存用組成物および凍結保存方法は、結果として、解凍された細胞の高い回復率、高い生存率、正常な増殖速度、および正常な核型のうちの1つまたは複数をもたらす。細胞生存は、本開示内で議論されるように、濃度および他のパラメータの特定の範囲内で維持され得る。たとえば、細胞生存は、凍結前の凍結保存用組成物への細胞曝露の時間、冷却速度、氷核形成温度、解凍後の凍結保存用組成物への細胞曝露の時間、またはそれらの任意の組み合わせを変化させながら維持され得る。本開示の凍結保存方法は、凍結、解凍、および培養の複数のサイクルを含み得る。本開示の凍結保存方法は、自動化された細胞培養システムによって実行され得る。
【0035】
一実施形態によれば、凍結保存用組成物は、少なくとも1つの第1の成分および少なくとも1つの第2の成分を含む。第1の成分は、糖成分、糖アルコール成分、アミノ酸成分、ポリマー成分、タンパク質成分、またはそれらの組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態では、第1の成分は、少なくとも、糖成分および糖アルコール成分を含む。いくつかの実施形態では、第1の成分は、糖成分、糖アルコール成分、アミノ酸成分、ポリマー成分、およびタンパク質成分を含む。アミノ酸成分はさらに、第1のアミノ酸成分と第2のアミノ酸成分に分けられ得る。いくつかの実施形態では、凍結保存用組成物は、第1のアミノ酸成分と第2のアミノ酸成分の両方を含む。いくつかの実施形態では、凍結保存用組成物は、第1のアミノ酸成分または第2のアミノ酸成分のみを含む。
【0036】
糖成分は、任意の適切な単糖、二糖、もしくは三糖、またはそれらの組み合わせを含み得る。たとえば、糖成分は、トレハロース、マルトース、ラクトース、フルクトース、スクロース、グルコース、デキストラン、メレジトース、ラフィノース、ニゲロトリオース、マルトトリオース、マルトトリウロース、ケストース、セロビオース、キトビオース、ラクツロース、または糖の組み合わせを含み得る。糖成分は、少なくとも1mM、たとえば、少なくとも2mM、少なくとも3mM、少なくとも4mM、少なくとも5mM、少なくとも6mM、少なくとも7mM、少なくとも8mM、少なくとも9mM、少なくとも10mM、少なくとも20mM、少なくとも30mM、少なくとも40mM、少なくとも50mM、少なくとも100mM、少なくとも150mM、少なくとも200mM、または少なくとも250mMなどの濃度を有し得る。糖成分は、500mM以下の最大濃度(たとえば、糖の総量で)、たとえば、400mM以下、300mM以下、250mM以下、200mM以下、150mM以下、125mM以下、100mM以下、90mM以下、80mM以下、70mM以下、60mM以下、または50mM以下などの最大濃度で提供され得る。糖成分は、上に挙げられた任意の最小濃度とその最小濃度よりも大きい上に挙げられた任意の最大濃度とによって定義されるエンドポイントを有する範囲内の濃度で提供することもできる。1つよりも多くの糖が凍結保存用組成物中に存在する場合、糖成分の濃度は、凍結保存用組成物中のすべての糖の総濃度を反映している。したがって、いくつかの実施形態では、糖成分は、0.1mM~250mMの濃度、たとえば、1mM~250mM、1mM~200mM、2mM~150mM、5~120mM、10mM~100mM、15~100mM、または20mM~80mMなどの濃度で存在し得る。いくつかの実施形態では、糖成分は、10mM~200mM、20~120mM、または30mM~80mMのトレハロース、マルトース、ラクトース、またはそれらの組み合わせを含む。
【0037】
糖アルコール成分は、任意の適切な糖アルコールまたはそれらの組み合わせを含み得る。たとえば、糖アルコール成分は、グリセロール、ソルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、イノシトール、キシリトール、マンニトール、アラビトール、リビトール、エリスリトール、スレイトール、ガラクチトール、ピニトール、または糖アルコールの組み合わせを含むことができる。糖アルコール成分は、少なくとも0.1Mの濃度、たとえば、少なくとも0.2M、少なくとも0.3M、少なくとも0.4M、少なくとも0.5M、少なくとも0.6M、少なくとも0.7M、少なくとも0.8M、少なくとも0.9M、または少なくとも1.0Mなどの濃度を有し得る。糖アルコール成分は、2.0M以下の最大濃度(たとえば、糖アルコールの総量で)、たとえば、1.9M以下、1.8M以下、1.7M以下、1.6M以下、1.5M以下、1.4M以下、1.3M以下、1.0M以下、0.90M以下、0.8M以下、0.7M以下、0.6M以下、または0.5M以下などの最大濃度で提供され得る。糖アルコール成分は、上に挙げられた任意の最小濃度とその最小濃度よりも高い上に挙げられた任意の最大濃度とによって定義されるエンドポイントを有する範囲内の濃度で提供することもできる。1つよりも多くの糖アルコールが凍結保存用組成物中に存在する場合、糖アルコール成分の濃度は、凍結保存用組成物中のすべての糖アルコールの総濃度を反映している。したがって、いくつかの実施形態では、糖アルコール成分は、0.1M~1.2M、0.2M~1.2M、0.2M~1M、0.3M~1M、0.5M~1M、または0.3M~0.8Mの濃度で存在し得る。たとえば、特定の実施形態は、0.2M~1.0Mの濃度でグリセロールを含むことができる。他の特定の実施形態は、0.3M~0.8Mの濃度で代替の糖アルコールを含むことができる。
【0038】
アミノ酸成分は、任意の適切なアミノ酸、アミノ酸誘導体、ペプチド、またはそれらの組み合わせを含み得る。たとえば、アミノ酸成分は、イソロイシン(たとえば、L-イソロイシン)、プロリン(たとえば、L-プロリン)、バリン(たとえば、L-バリン)、アラニン(たとえば、L-アラニン)、グリシン、アスパラギン(たとえば、L-アスパラギン)、アスパラギン酸(たとえば、L-アスパラギン酸)、グルタミン酸(たとえば、L-グルタミン酸)、セリン(たとえば、L-セリン)、ヒスチジン(たとえば、L-ヒスチジン)、システイン(たとえば、L-システイン)、トリプトファン(たとえば、L-トリプトファン)、チロシン(たとえば、L-チロシン)、アルギニン(たとえば、L-アルギニン)、グルタミン(たとえば、L-グルタミン)、クレアチン(たとえば、L-クレアチン)、タウリン(たとえば、L-タウリン)、ベタイン、エクトイン、ジメチルグリシン、エチルメチルグリシン、RGDペプチド、またはそれらの組み合わせを含み得る。アミノ酸のうち、イソロイシンおよびクレアチンは第1のアミノ酸成分と見なされ得る。アミノ酸成分は、少なくとも0.1mMの濃度、たとえば、少なくとも1mM、少なくとも2mM、少なくとも3mM、少なくとも4mM、少なくとも5mM、少なくとも6mM、少なくとも7mM、少なくとも8mM、少なくとも9mM、または少なくとも10mMなどの濃度を有し得る。アミノ酸成分は、100mM以下の最大濃度、たとえば、80mM以下、50mM以下、40mM以下、30mM以下、25mM以下、22.5mM以下、20mM以下、15mM以下、14mM以下、または10mM以下などの最大濃度で提供され得る。アミノ酸成分の濃度は、アミノ酸全体(第1および第2を含む)、または第1のアミノ酸成分のみを指し得る。したがって、いくつかの実施形態では、アミノ酸成分は、0mM~80mM、0.1mM~50mM、1mM~15mM、1mM~10mM、または2mM~10mMの濃度で存在し得る。たとえば、特定の実施形態は、1mM~15mMの濃度でのアミノ酸成分を含むことができる。他の特定の実施形態は、2mM~10mMの濃度でのアミノ酸成分を含むことができる。
【0039】
ポリマー成分は、任意の適切なポリマー成分またはそれらの組み合わせを含み得る。一実施形態によれば、適切なポリマー成分は、生体適合性ポリマー、親水性または両親媒性ポリマー、非細胞接着分子(「CAM」)結合ポリマーである。たとえば、ポリマー成分は、ポロキサマー(たとえば、ポロキサマー142、ポロキサマー188、ポロキサマー331、またはポロキサマー407)、アルギン酸塩、ポリエチレングリコール、ポリグルタミン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、またはそれらの組み合わせを含み得る。ポリマー成分は、少なくとも1%(w/v)、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、または少なくとも5%の濃度を有し得る。ポリマー成分は、15%以下、12%以下、10%以下、8%以下、7%以下、6%以下、または5%以下の最大濃度で提供され得る。したがって、いくつかの実施形態では、ポリマー成分は、1%~15%、1%~12%、2%~12%、1%~10%、3%~10%、または3%~8%の濃度で存在し得る。たとえば、特定の実施形態は、2%~12%の濃度でポリマー成分を含むことができる。他の特定の実施形態は、3%~8%の濃度でポリマー成分を含むことができる。
【0040】
タンパク質成分は、任意の適切な血清成分またはそれらの組み合わせを含み得る。たとえば、タンパク質成分はアルブミンを含み得る。タンパク質成分は、少なくとも0.5%(w/v)、少なくとも1%、少なくとも1.5%、少なくとも2%、または少なくとも3%の濃度を有し得る。タンパク質成分は、10%以下、8%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、または2%以下の最大濃度で提供され得る。したがって、いくつかの実施形態では、タンパク質成分は、0%~10%、0.5%~10%、0%~6%、1%~6%、0%~5%、1%~5%、または1.5%~4%の濃度で存在し得る。たとえば、特定の実施形態は、1%~6%の濃度でのタンパク質成分を含むことができる。他の特定の実施形態は、1.5%~4%の濃度でのタンパク質成分を含むことができる。
【0041】
第2の成分は、塩、無機イオン、pH平衡剤、およびそれらの組み合わせなどの、1つまたは複数のイオン成分を含み得る。第2のアミノ酸成分はまた第2の成分の1つと見なされ得る。いくつかの実施形態では、第2の成分は、少なくとも塩、無機イオン、pH平衡剤、および第2のアミノ酸成分を含む。
【0042】
イオン成分は、任意の適切なイオン性化合物またはそれらの組み合わせを含み得る。たとえば、イオン成分は、Ca+、Mg2+、Na+、K+、Cl-、HCO3-などのイオン、またはそれらの組み合わせを提供する塩、酸、または塩基を含み得る。適切な塩の例としては、CaCl2、MgCl2、MgSO4、KCl、KH2PO4、NaHCO3、NaCl、Na2HPO4などが挙げられる。イオン成分は、少なくとも0.05%(w/v)、少なくとも0.1%、少なくとも0.2%、少なくとも0.3%、少なくとも0.4%、少なくとも0.5%、少なくとも0.6%、または少なくとも0.7%の濃度を有し得る。イオン成分は、2.5%(w/v)以下、2%以下、1.5%以下、1.3%以下、1.2%以下、1.1%以下、または1.0%以下の最大濃度で提供され得る。したがって、いくつかの実施形態では、イオン成分は、0.1%~2.5%の濃度で存在し得る。たとえば、特定の実施形態は、0.2%~2%の濃度でのイオン成分を含むことができる。他の特定の実施形態は、0.3%~1.6%の濃度でのイオン成分を含むことができる。イオン成分の濃度は、モル濃度で表されてもよく、たとえば、50mM~300mM、75mM~250mM、または100mM~200mMの範囲であり得る。
【0043】
第2のアミノ酸成分は、タンパクを構成するアミノ酸、タンパクを構成しないアミノ酸、アミノ酸誘導体、またはペプチドを含み得る。たとえば、第2のアミノ酸成分は、プロリン(たとえば、L-プロリン)、バリン(たとえば、L-バリン)、アラニン(たとえば、L-アラニン)、グリシン、アスパラギン(たとえば、L-アスパラギン)、アスパラギン酸(たとえば、L-アスパラギン酸)、グルタミン酸(たとえば、L-グルタミン酸)、セリン(たとえば、L-セリン)、ヒスチジン(たとえば、L-ヒスチジン)、システイン(たとえば、L-システイン)、トリプトファン(たとえば、L-トリプトファン)、チロシン(たとえば、L-チロシン)、アルギニン(たとえば、L-アルギニン)、グルタミン(たとえば、L-グルタミン)、タウリン(たとえば、L-タウリン)、ベタイン、エクトイン、ジメチルグリシン、エチルメチルグリシン、RGDペプチド、またはそれらの組み合わせを含み得る。第2のアミノ酸成分は、個別にまたは全体として、少なくとも0.05mMの濃度、たとえば、少なくとも0.08mM、少なくとも0.1mM、少なくとも0.12mM、少なくとも0.15mM、少なくとも0.2mM、少なくとも0.4mM、少なくとも0.6mM、少なくとも0.8mM、または少なくとも1mMなどの濃度を有し得る。第2のアミノ酸成分は、個別にまたは全体として、10mM以下の最大濃度、たとえば、8mM以下、5mM以下、4mM以下、3mM以下、2mM以下、1.5mM以下、1.3mM以下、または1.0mM以下などの最大濃度で提供され得る。したがって、第2のアミノ酸成分は、個別にまたは全体として、0.05mM~5mM、0.08mM~3mM、または0.1mM~1.5mMの範囲の濃度を有し得る。
【0044】
概して、凍結保存用組成物は、DMSOを含まなくてもよく、または少なくとも実質的にDMSOを含まなくてもよい。本明細書で使用される場合、「DMSOを含まない」とは、微量以下のDMSOを含み、DMSOを完全に含まない可能性がある組成物を指す。本明細書で使用されるように、「少なくとも実質的にDMSOを含まない」とは、溶液の残りの成分よりも大きな凍結保存を提供しないレベルのDMSO、すなわち、溶液の機能性に重要ではない量のDMSOを含む溶液を指す。典型的な凍結保存溶液は10%のDMSOを含む。しかし、本開示のいくつかの実施形態では、組成物中のDMSOの量は、5%(w/v)未満、2%未満、1%未満、または0.1%未満、または0%である。
【0045】
したがって、一態様では、本開示は凍結保存用組成物について記載している。概して、凍結保存用組成物は、上記でより詳細に明記されるように、糖成分および糖アルコール成分を含む。いくつかの実施形態では、糖成分の少なくとも一部は、必ずしも細胞膜を貫通しなくてもよく、したがって、細胞の外面に作用する。そのような場合、糖成分はトレハロースを含むことができる。いくつかの実施形態では、凍結保存用組成物は、ポリマー成分、少なくとも1つのアミノ酸、イオン成分、およびアルブミンをさらに含むことができる。概して、凍結保存用組成物は、DMSOを含まない凍結保存用組成物の残りの成分よりも多くの凍結保護を提供しない量のDMSOを有する。例示的な凍結保存用組成物が以下に示される。
【0046】
いくつかの場合では、凍結保存用組成物は細胞をさらに含む。最初に、細胞は、凍結保存および保存される前に、凍結保存用組成物に添加され得る。他の場合では、細胞は、凍結された凍結保存用組成物の成分として保存されている可能性がある。さらに他の場合では、細胞は、解凍された凍結保存用組成物から回復可能である生存可能な細胞であり得る。本明細書で使用されるように、「生存可能な」細胞は、凍結保護液中で凍結保存され、0℃未満で保存され、その後、解凍され、凍結保護用組成物から移された後、細胞に適した培養条件下で生存可能なままである細胞を含む。一実施形態によれば、細胞は、生存可能なままであるために解凍後に洗浄する必要はない。
【0047】
本開示はまた、細胞を凍結保存および保存する方法を記載している。細胞は、凍結保存が望まれる任意の生細胞であり得る。いくつかの実施形態では、細胞はiPS細胞などの幹細胞である。概して、当該方法は、上記の凍結保護用組成物の任意の実施形態に細胞を添加すること、凍結保護用組成物を凍結すること、凍結した凍結保護用組成物を0℃未満の温度で保存すること、凍結保護用組成物を解凍すること、解凍した凍結保護用組成物から細胞を移すこと、ならびに細胞が生存可能なままであるために効果的な条件下で細胞を培養することを含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、当該方法は、冷却速度の制御および/または再加温速度の制御を含む。いくつかの実施形態では、当該方法は、0℃~-3℃、-1℃~-20℃、-1℃~-12℃、-12℃~-20℃、-6℃~-12℃、-1℃~-8℃、-1.5℃~-7℃、-2℃~-6℃、-3℃~-6℃、または-3℃~-5℃の温度(「氷核形成温度」と呼ばれる)で凍結保存用組成物中の分子成分の結晶化を開始することを含む。1つの特定の実施形態では、当該方法は、約-4℃の温度での凍結保存用組成物中の分子成分の結晶化を開始することを含む。当該方法は、0℃/分を超える速度、たとえば、0.1℃/分以上、0.2℃/分以上、0.3℃/分以上、0.4℃/分以上、0.5℃/分以上、0.8℃/分以上、1.0℃/分以上、1.2℃/分以上、2℃/分以上、5℃/分以上、または10℃/分以上などの速度で凍結保護用組成物を細胞と共に冷却することを含み得る。当該方法は、50℃/分以下、20℃/分以下、10℃/分以下、5℃/分以下、3℃/分以下、2.5℃/分以下、2.0℃/分以下、1.8℃/分以下、1.5℃/分以下、1.2℃/分以下、または1.0℃/分以下の速度で凍結保護用組成物を細胞と共に冷却する工程を含み得る。したがって、凍結保護用組成物は細胞と共に、0℃/分超から5℃/分まで、0.3℃/分~3℃/分、0.40℃/分~2℃/分、0.5℃/分~1.5℃/分、または0.8℃/分~1.2℃/分の速度で冷却され得る。一実施形態では、凍結保護用組成物は細胞と共に、約1℃/分の速度で冷却される。凍結保護用組成物は細胞と共に、約-5℃以下、-10℃以下、-20℃以下、-50℃以下、-70℃以下、-80℃以下、-100℃以下、-15-℃以下、または-190℃以下などの典型的な保存温度まで冷却され得る。上に指定された冷却速度は、温度が約-5℃以下、-10℃以下、-20℃以下、-25℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-60℃以下になるまで、または最終保存温度に達するまで維持され得る。凍結保護用組成物は細胞と共に、約-5℃以下、-10℃以下、-20℃以下、-25℃以下、-40℃以下、-50℃以下、または-60℃以下の温度に達した後、より速い速度でさらに冷却され得る。
【0049】
細胞を含む凍結保護用組成物は、20℃/分以上、40℃/分以上、または60℃/分以上の速度で解凍され得る。細胞を含む凍結保護用組成物は、90℃/分以下、80℃/分以下、または70℃/分以下の速度で解凍され得る。
【0050】
一実施形態によれば、凍結保存および無洗浄解凍のための細胞調製は、完全に自動化された方法で実行することができる。たとえば、細胞調製は、37℃、湿度85%、および5%のCO2で、自動化されたインキュベータである、FLUENT(登録商標)780 Workstation(テカン グループ社製、メンネドルフ、スイス)、およびCYTATION 1(バイオテックインスツルメント社製、ウィヌースキ、VT))などの自動化された細胞イメージングリーダを使用して実行され得る。
【0051】
少なくともいくつかの実施形態では、細胞は解凍後に洗浄される必要はない。言い換えれば、細胞は洗浄することなく解凍直後に使用されてもよい。
【実施例0052】
細胞を保存する凍結保存用組成物の能力を以下のように試験した。
【0053】
実施例1
細胞株および培養の維持
人工多能性幹(iPS)細胞株(iPS-DF 19-9-11T.H(ウィセル(WiCell))およびUMN PCBC16iPSV(またはvShiPS 9-1))を使用して、凍結保存方法を開発した。細胞を、hESC認定のMATRIGEL(登録商標)(コーニング社(Corning, Inc.)製、コーニング、NY)または組換えヒトビトロネクチン(ペプロテックUS社(PeproTech US)製、ロッキーヒル、NJ)上でE8培地(TeSR-E8、ステムセルテクノロジー社(STEMCELL Technologies Inc.)製、バンクーバー、カナダおよびEssential 8、サーモフィッシャーサイエンティフィック社(ThermoFisher Scientific)製、ウォルサム、MA)中で培養し、コロニーが75~80%のコンフルエンスに達したら、酵素不含解離試薬ReLeSR(ステムセルテクノロジー社製))を使用して凝集体として継代した。
【0054】
DMSO不含凍結保存溶液の製剤
基礎溶液は、Ca
2+およびMg
2+を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS++)中に5%w/vのポロキサマー188(P188、スペクトラムケミカル社(Spectrum Chemical)製、ニューブランズウィック、NJ)を含んだ。2倍濃度(2×)の凍結保存溶液は、PBS++中に、60mMのスクロース(シグマ-アルドリッチ社製、セントルイス、MO)、10%v/vのグリセロール(フムコ社(Humco)製、オースチン、TX)、15mMのL-イソロイシン(シグマ-アルドリッチ社製)、5%w/vのP188および2倍濃度のMEM非必須アミノ酸(NEAA、シグマ-アルドリッチ社製)を含んだ。1:1の容量比で基礎溶液と2倍濃度の凍結保存溶液との混合により、PBS++中に、30mMのスクロース、5%v/vのグリセロール、7.5mMのL-イソロイシン、5%w/vのP188、および1倍濃度(1×)のNEAAを得た。最終組成物は以下を含んだ:
【0055】
凍結保存のための細胞調製
細胞を、ReLeSR(商標)を使用して解離し、~3×106/mlの細胞濃度で基礎溶液中において遠心分離なしで凝集体として収集した。細胞凝集体の懸濁液を0.5ml/バイアルでクライオバイアル(Nunc CryoTube、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)へと充填した。2倍濃度の凍結保存溶液を0.5ml/バイアルで細胞に滴下した。細胞を、その後、凍結前に室温で正確に30分間インキュベートした。
【0056】
速度制御凍結
細胞のクライオバイアルを、1℃/分の冷却速度Bおよび-4℃の播種(または氷核形成)温度TNUCを使用して以下に列記される工程に従って速度制御冷凍庫(Kryo 10 Series III、プランナー社(Planer PLC)製、ミドルセックス、英国)を用いて凍結した:
1.開始温度20℃
2.0℃まで-10℃/分
3.10分間0℃で保持して、クライオバイアルの内側と外側の温度を平衡化する
4.-4℃まで-1℃/分
5.15分間-4℃で保持する
6.工程5の終了に向けてクライオバイアルの内部温度が-4℃に達したときに氷核形成を誘発する
7.-60℃まで-1℃/分
8.-100℃まで-10℃/分
【0057】
凍結したクライオバイアルを、CRYOPODキャリア(バイオシジョン社(Biocision, LLC)製、サンラファエル、CA)に移し、液体窒素中で保存した。
【0058】
無洗浄解凍
凍結したクライオバイアルを37℃の水浴で解凍した。クライオバイアルを蓋の下に沈め、2.5分間撹拌した。
【0059】
アポトーシス阻害剤を含むかまたは含まないかいずれかのE8培地を、~1ml/分の流速を使用して細胞凝集体の解凍した懸濁液に添加した。希釈係数2を使用した。これは、細胞の各クライオバイアルを用い、解凍後の細胞培養物の6ウェルプレートの1ウェルを作成したことを意味している。希釈した細胞を、新たにコーティングした培養容器上に播種し、24時間37℃のインキュベータで5%のCO2中に静置した。
【0060】
実験結果
ここで、
図1A~1Eを参照すると、
図1Aの上部のパネルでは、-50℃の氷、および-4℃で播種され、さまざまな冷却速度で凍結されたiPS細胞凝集体のラマンヒートマップが、1℃/分および3℃/分では細胞内の氷がほとんどまたはまったくなく、10℃/分では大きな量およびサイズの細胞内の氷晶を示した。中央のパネルでは、-50℃の氷、および-8℃で播種され、さまざまな冷却速度で凍結された細胞凝集体のラマンヒートマップが、すべての凝集体における細胞内氷形成を示し、細胞内氷晶の量およびサイズが冷却速度とともに増加することを示した。下部のパネルでは、さまざまな冷却速度および氷核形成温度で測定されたAICが、より高い氷核形成温度に対して統計学的に有意なより少量の細胞内氷を示した。n.s.:p≧0.05;
*p<0.05;
**p<0.01;
***p<0.001。
図1Bでは、さまざまな冷却速度および氷核形成温度での膜の完全性に基づく解凍後の回復が、-8℃、-6℃、および-4℃での氷核形成の間の統計学的な有意差に加え、凍結保存されたiPS細胞凝集体と単一細胞との間の類似性を示した。
図1Cでは、さまざまな冷却速度および氷核形成温度でのエステラーゼ活性に基づく解凍後の再付着が、-8℃、-6℃、および-4℃での氷核形成の間の統計学的に有意な差を示し、凍結保存された単一のiPS細胞から生存可能な培養物はほとんどまたはまったくなく、iPS細胞に対する凍結条件を開発するためのこの測定基準の高い選択性を示した。
図1Dでは、ヘキスト33342で染色された、継代後または解凍後4、8、12、および24時間の培養でのコロニーが示されている。白い矢印は、アポトーシスの兆候である凝縮クロマチンを指している。白い円は、有糸分裂の証拠である、形成された、整列した、または分離した姉妹染色分体を強調している。スケールバー:50μm。
図1Eでは、f-アクチンに対して染色された、継代後または解凍後4、8、12、および24時間の培養でのコロニーが示されている。ハニカム状のパターンは、継代後約8時間および解凍後約12時間ではっきりと見える。スケールバー:50μm。
【0061】
図1Aに示されるように、1℃/分の冷却速度と-4℃の氷核形成温度の組み合わせは、細胞内氷形成(IIF)を阻害し、これは、細胞膜、細胞小器官、および細胞骨格を氷害から保護する。氷核形成温度が低いと、結果としてIIFの総量が統計学的に有意に大きくなり、冷却速度が速いと、結果としてIIFに統計学的に有意な差は生じなかったたが、質的により大きな氷晶およびより崩壊した細胞凝集体が生じた。
図1Bに示されるように、その凍結条件は、結果として98.5%の解凍後の細胞回復をもたらした。最小の細胞死は、ラマン分光法によって観察された最小のIIFと一致していた。より高い冷却速度またはより低い氷核形成温度は、結果として、より乏しい細胞回復をもたらした。様々な条件下で凍結保存用細胞凝集体と同様の量の解凍後の生細胞が得られたにもかかわらず、
図1Cに見られるように、凍結保存する単一のiPS細胞は、冷却速度または氷核形成温度に関係なく、Rhoキナーゼ(「ROCK」)阻害剤なしでは解凍後の培養物を産生することができなかった。しかし、1℃/分または3℃/分の低い冷却速度と-4℃または-6℃の高い氷核形成温度を組み合わせると、凍結保存するiPS細胞は凝集体として、ROCK阻害剤を使用せずに解凍後の培養物の産生に成功した。また、これらの条件下では、凍結保存された細胞凝集体の解凍後の再付着は、8時間以内の細胞増殖の早期開始(
図1D)および通常のハニカム状のf-アクチンネットワークの解凍後の培養における24時間以内の形成(
図1E)を伴って、新鮮な細胞に匹敵していた。
【0062】
より大量の細胞アポトーシスおよびその後の増殖の開始にもかかわらず(
図1D)、-4℃での核形成および1℃/分の冷却速度からわずかにオフセットされた凍結条件(すなわち、3℃/分の冷却速度または-6℃の氷核形成)は、最小の氷害(
図1A)を伴う生きたiPS細胞凝集体の確実な保存(
図1B)、解凍後に培養物を産生する能力(
図1C)および正常なf-アクチン組織を回復する能力(
図1E)、ならびに検証されるべき正常な増殖および多能性を実証した。氷核形成の手動誘発(
図3A)は追加の技術訓練を必要とするが、氷核形成の自動誘発(
図3B)は、労力を必要とせず、液体窒素で冷却されたCRFによって達成可能である。液体窒素を含まないCRFは、冷却速度のその動作範囲によって制限され、急速冷却による自動氷核形成を実施することができないが、サンプル温度を-4℃よりわずかに低く保持し、理論的に氷核形成を誘発することができる。いくつかの場合では、冷却速度(1~3℃/分)は、氷核形成温度(-4~-6℃)と組み合わされてもよく、これは、自発的な氷核形成が-15℃もの低い温度で生じ得るためである(
図3C)。自発的な氷核形成が生じる一方で、凍結保存は、結果として、解凍後の細胞の生存能力および機能の大幅な喪失、および生存可能な解凍後の培養物の産生の不能をもたらす可能性がある。これは、NALGENE(登録商標)MR.FROSTY(商標)などの凍結容器の主要な問題であり、iPS細胞の凍結保存にCRFを使用する正当な理由である。
【0063】
ここで、
図2A~2Dを参照すると、
図2Aにおいて、左側では、iPS細胞凝集体および氷の組み合わされたラマンヒートマップが、4つのサンプル細胞凝集体すべての周辺から細胞への特定の氷の伝播の他に、1つの凝集体における各細胞の細胞質に由来する大きな氷晶(右上)を示した。右側では、AICのボックスチャートは、その統計分布の大きなばらつきを示し、これは大きく変動可能なIIFを示唆している。
図2Bでは、細胞凝集体を、浸透圧調節物質のみ、P188と共に、またはP188とNEAAの両方と共に使用して凍結保存した。凍結保存された細胞の定性および定量分析は、細胞間接触、膜の完全性および生存率の維持に対するP188およびNEAAの添加のプラス効果を示した。
図2Cでは、細胞凝集体を、Normosol R中に浸透圧調節物質、P188、NEAAを含む、(B)からの凍結保存溶液中で処理した。ROSインデューサでの処理後(第1のカラム)、凍結前の細胞処理後(第2のカラム)および凍結解凍後(第3のカラム)に、ROSラベルで染色された細胞凝集体の明視野および蛍光画像を取得した。凍結前および解凍後の処理された細胞における酸化ストレスの陰性検出が示され、未処理の染色された陰性対照と比較して統計学的に有意な差は見られなかった。
図2Dでは、FAM-FLICAで染色された細胞ペレットの明視野および蛍光画像が、アポトーシス細胞集団の存在量を示した。
【0064】
本組成物は、iPS細胞凝集体に関するIIFにおける非常に可変的な結果の発生を低減する(
図2A)。これは、少なくとも部分的に、ポロキサマーP188、およびNEAAまたはHBSS緩衝液の存在に起因し得る。P188およびNEAAは、iPS細胞凝集体の保存および解凍後の培養物の産生を助け得る。P188またはNEAAなしでhMSC(ヒト間葉系幹細胞)製剤で凍結された細胞凝集体は、構造的崩壊、ほぼ完全な細胞死を受け、生存可能な解凍後の培養物を産生しなかった(
図2B、左側)。P188の添加により、細胞間接触における細胞凝集体の完全性が改善されたが、NEAAなしでは、凍結保存から溶解またはアポトーシスへの間に細胞集団の大部分が失われ、生存可能な解凍後の培養物は産生されなかった(
図2B、中央)。P188とNEAAの両方が添加された場合、大きな凝集体サイズおよび73.3%の高い解凍後の回復率の証拠として、凍結保存された細胞凝集体の構造的完全性と生存率の両方が改善された。しかし、緩衝液としてNormosol Rを用いて、hMSCから適合されたこの製剤は、解凍後の培養において生存可能なコロニーの収量が非常に低かった(
図2B、右側)。凍結保存細胞において活性酸素種(ROS)またはフリーラジカルが検出されなかったため、この低収量は、酸化ストレスによって引き起こされたものではなかった(
図2C)が、ほとんどがFAM-FLICA陽性集団を有する凍結保存細胞のペレットに見られる、解凍後の細胞凝集体における高レベルの初期アポトーシスと関連していた(
図2D)。
【0065】
Normosol Rを緩衝液としてPBS++に置き換えた場合、解凍後の再付着は27%までわずかに上昇したが、アポトーシスは凍結保存された細胞において依然として顕著なものであった。様々なアポトーシス経路のスクリーニングにより、Rhoキナーゼ媒介内因性アポトーシス、FasリガンドおよびTRAILR2媒介外因性アポトーシスが、凍結保存溶液中での凍結前のインキュベーションの際に細胞中で始まり、それら外因性アポトーシスが凍結解凍に応答してさらに進行したことが示唆された(表1、2)。
【0066】
【0067】
【0068】
PBS++を緩衝液としてHBSSに置き換えた場合、解凍後の再付着は劇的に96%まで改善した(表3)。さらに、外因性アポトーシスと内因性アポトーシスの両方が縮小された(表4)。保存状態が良くなく且つ高度にアポトーシスを起こした細胞を救済するためにY-27632および他のアポトーシス阻害剤を使用するiPS細胞の凍結保存における一般的な慣行とは対照的に、すべてのアポトーシス阻害剤は、凍結保存された細胞に対して有意な負の効果を示し、解凍後の培養物における細胞増殖を減少させた(表5)。その組成物の凍結保存の結果は、DMSOに基づく製剤の結果を上回り、細胞増殖が改善され、アポトーシス阻害剤から独立した。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
最終製剤は、アルブミン、スクロース、グリセロール、イソロイシン、P188、NEAAおよびHBSSを含んだ。HBSSの組成物は以下の表6に示される。
【0073】
【0074】
浸透圧調節物質の予備スクリーニングにおいて、iPS細胞が、様々な二糖類で類似した投与量応答を示し、不浸透性糖アルコールよりも細胞透過性に対してより良好な応答を示すことも分かった(表7)。iPS細胞凍結保存の同等の結果をもたらすため、代替の二糖分子(たとえば、トレハロース、マルトース、ラクトース)、糖アルコール(たとえば、エチレングリコール)およびアミノ酸(たとえば、クレアチン)が、スクロース、グリセロール、およびイソロイシンに代えて使用され得る。
【0075】
【0076】
実施例2
細胞株および培養の維持
人工多能性幹(iPS)細胞株UMN PCBCI6iPSV(またはvShiPS 9-1)を使用して、凍結保存方法を開発した。細胞を、組換えヒトビトロネクチン(ペプロテックUS社製、ロッキーヒル、NJ)上でTeSR-E8培地(ステムセルテクノロジー社製、バンクーバー、カナダ)で培養し、コロニーのコンフルエンスが55~65%に達したら、4日ごとに1:8の分割比で0.02%のエチレンジアミン四酢酸溶液(シグマ-アルドリッチ社製、セントルイス、MO)を使用して凝集体として継代した。
【0077】
DMSO不含凍結保存溶液の製剤
基礎溶液は、Ca
2+、Mg
2+、およびグルコースを有するハンクス平衡塩類溶液(HBSS、ロンザ社製、バーゼル、スイス)中に5%w/vのポロキサマー188(P188、スペクトラムケミカル社製、ニューブランズウィック、NJ)を含んだ。2倍濃度の凍結保存溶液は、HBSS中に、180mMのスクロース(シグマ-アルドリッチ社製、セントルイス、MO)、10%v/vのグリセロール(フムコ社製、オースチン、TX)、5%w/vのP188、および2倍濃度のMEM非必須アミノ酸(NEAA、シグマ-アルドリッチ)を含んだ。1:1の容量比での基礎溶液と2倍濃度の凍結保存溶液との混合により、HBSS中に、90mMのスクロース、5%v/vのグリセロール、5%w/vのP188、および1倍濃度のNEAAを得た。最終的な組成物は以下を含んだ:
【0078】
凍結保存のための細胞調製
細胞を、ReLeSR(商標)を使用して解離し、~3×106/mlの細胞濃度で基礎溶液中において遠心分離なしで凝集体として収集した。細胞凝集体の懸濁液を0.5ml/バイアルでクライオバイアル(Nunc CryoTube、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)へと充填した。2倍濃度の凍結保存溶液を0.5ml/バイアルで細胞に滴下した。細胞を、その後、室温で正確に30分間インキュベートした後、凍結させた。
【0079】
速度制御凍結
細胞のクライオバイアルを、1℃/分の冷却速度Bおよび-4℃の播種(または氷核形成)温度TNUCを使用して以下に列記される工程に従って速度制御冷凍庫(Kryo 10 Series III、プランナー社製、ミドルセックス、英国)を用いて凍結した:
1.開始温度0℃
2.0℃まで-10℃/分
3.10分間0℃で保持して、クライオバイアルの内側と外側の温度を平衡化する
4.-4℃まで-1℃/分
5.15分間-4℃で保持する
6.工程5の終了に向けてクライオバイアルの内部温度が-4℃に達したときに氷核形成を誘発する
7.-60℃まで-1℃/分
8.-100℃まで-10℃/分
【0080】
凍結したクライオバイアルを、CRYOPODキャリア(バイオシジョン社製、サンラファエル、CA)に移し、液体窒素に保存した。
【0081】
無洗浄解凍
凍結したクライオバイアルを、37℃の水浴またはTHAWSTAR(登録商標)自動解凍システム(Automated Thawing System)(バイオシジョン社製)のいずれかで解凍した。37℃の水浴を使用する場合、クライオバイアルを、蓋の下に沈め、2.5分間撹拌した。ThawSTARを使用する場合、サンプルが解凍されたことをデバイスが示した後に、クライオバイアルを20秒間撹拌した。
【0082】
アポトーシス阻害剤または他の添加剤を含まないTeSR-E8培地を、-1ml/分の流速を使用して細胞凝集体の解凍した懸濁液に添加した。希釈係数2を使用した。これは、細胞の各クライオバイアルを用い、解凍後の細胞培養物の6ウェルプレートの1ウェルを作成したことを意味している。希釈した細胞を、新たにコーティングした培養容器上に播種し、24時間37℃のインキュベータで5%のCO2中に静置した。
【0083】
実験結果
ここで、
図3A~3Cを参照すると、
図3Aにおいて、出現する集団として収束したDMSOを含まない凍結保存溶液の差分進化アルゴリズム主導の開発を、第6世代で繰り返した。計量としての解凍後の細胞の再付着を、DMSO対照に対して正規化した。DMSO対照の製剤は、HBSS中に10%v/vのDMSOおよび5%w/vのP188を含んだ。
図3Bは、さまざまな濃度のスクロース、グリセロール、およびイソロイシンによる解凍後の細胞再付着の4Dプロットを示している。解凍後の細胞再付着に関するこのパラメータ空間のトポグラフィは、非線形であって、単様式ではなく、最適値を含む領域内に密集した等高線を有する複雑なものであったが、最適値からの距離では滑らかであった。
図3Cでは、差分進化アルゴリズム主導の開発からの最良の12の製剤の解凍後の再付着率を、10%のDMSO対照と比較して4つの独立した生物学的複製で検証した。複数の製剤(たとえば、製剤#2-4-2)に対して解凍後の細胞再付着に高い変動が見られた一方で、製剤#3-5-0に対しては低い変動および高い解凍後の細胞再付着が見られた。
【0084】
図4A~4Cは、氷核形成温度T
NUCおよび潜熱ΔHでラベル付けされた、1℃/分の一定の冷却速度下で氷核形成を誘発する様々な方法で記録された実施例において使用された冷却プロファイルを示している。図面では以下で表される:破線:プログラムされたCRFチャンバ温度;実線:記録されたCRFチャンバ温度(またはクライオバイアル外部温度);点線:記録されたサンプル温度(またはクライオバイアル内部温度)。
図4Aでは、自発的な氷核形成が-15℃で発生したが、-4℃での15分間の保持では発生せず、潜熱の大量放出が大量の望ましくない氷形成を示唆している。
図4Bでは、CRFを手動で開き、液体窒素をクライオバイアル上に迅速に噴霧することで、予想通り-4℃での氷核形成の誘発に成功し、潜熱の最小限の放出が氷形成の十分な阻害を示唆している。
図4Cでは、CRFチャンバの自動化された急速冷却によって、予想された-4℃をわずかに下回る氷核形成の誘発に成功し、潜熱の最小限の放出が氷形成の十分な阻害を示唆している。
【0085】
実施例3
細胞株および培養の維持
人工多能性幹(iPS)細胞株UMN PCBCl6iPSV(またはvShiPS 9-1)を使用して凍結保存方法を開発し、追加の社内および市販のiPS細胞株(UMN AMD3-6B4、ACS 1024(ATCC)、およびhiPSC-CCND2OE)を使用して、当該方法を検証した。細胞を、hESC認定のMATRIGEL(登録商標)(コーニング社製、コーニング、NY)または組換えヒトビトロネクチン(ペプロテックUS社製、ロッキーヒル、NJ)上でTeSR-E8培地(ステムセルテクノロジー社製、バンクーバー、カナダ)で培養し、コロニーのコンフルエンスが65~75%に達したら、4日ごとに1:8の分割比で酵素を含まない解離試薬ReLeSR(ステムセルテクノロジー社製)を使用して凝集体として継代した。
【0086】
DMSO不含凍結保存溶液の製剤
基礎溶液は、Ca
2+、Mg
2+、およびグルコースを有するハンクス平衡塩類溶液(HBSS、ロンザ社製、バーゼル、スイス)中に5%w/vのポロキサマー188(P188、スペクトラムケミカル社製、ニューブランズウィック、NJ)を含んだ。2倍濃度の凍結保存溶液は、HBSS中に、120mMのスクロース(シグマ-アルドリッチ社製、セントルイス、MO)、10%v/vのグリセロール(フムコ社製、オースチン、TX)、15mMのL-イソロイシン(シグマ-アルドリッチ社製)、5%w/vのP188、4%のアルブミン(ALBUTEIN(登録商標)、グリフォルス社(Grifols S.A.)製、バルセロナ、スペイン)、および2倍濃度のMEM非必須アミノ酸(NEAA、シグマ-アルドリッチ社製)を含んだ。1:1の容量比での基礎溶液と2倍濃度の凍結保存溶液との混合により、HBSS中に、60mMのスクロース、5%v/vのグリセロール、7.5mMのL-イソロイシン、5%w/vのP188、2%のアルブミン、および1倍濃度のNEAAを得た。最終的な組成物は以下を含んだ:
【0087】
凍結保存のための細胞調製
細胞を、ReLeSR(商標)を使用して解離し、~3×106/mlの細胞濃度で基礎溶液中において遠心分離なしで凝集体として収集した。細胞凝集体の懸濁液を0.5ml/バイアルでクライオバイアル(Nunc CryoTube、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)へと充填した。2倍濃度の凍結保存溶液を0.5ml/バイアルで細胞に滴下した。細胞を、その後、室温で1時間インキュベートした後、凍結させた。
【0088】
速度制御凍結
細胞のクライオバイアルを、1℃/分の冷却速度Bおよび-4℃または-12℃の播種(または氷核形成)温度TNUCを使用して以下に列記される工程に従って速度制御冷凍庫(Kryo 10 Series III、プランナー社製、ミドルセックス、英国)を用いて凍結した:
1.開始温度20℃
2.0℃まで-10℃/分
3.10分間0℃で保持して、クライオバイアルの内側と外側の温度を平衡化する
4.TNUCまで-1℃/分
5.15分間TNUCで保持する
6.工程5の終了に向けてクライオバイアルの内部温度がTNUCに達したときに氷核形成を誘発する
7.-60℃まで-B℃/分
8.-100℃まで-10℃/分
【0089】
凍結したクライオバイアルを、CRYOPODキャリア(バイオシジョン社製、サンラファエル、CA)に移し、液体窒素に保存した。
【0090】
パッシブ冷凍
速度制御凍結の代わりに、断熱された凍結容器CoolCell(バイオシジョン社製)を使用してパッシブ凍結を実施した。細胞のクライオバイアルを、室温でCoolCell内に入れ、4時間にわたって-80℃の機械式冷凍庫内で凍結した。サンプル温度を、DI-245 USB熱電対データ取得システム(DATAQインスツルメンツ社製、アクロン、OH)を使用して記録した。熱電対を、穴の開いたキャップを介して、実験サンプルと同じ量の細胞と凍結保存溶液が入っている「ダミー」バイアルに挿入した。凍結後、クライオバイアルを、CRYOPODキャリアに移し、液体窒素中に保存した。
【0091】
無洗浄解凍
凍結したクライオバイアルを、37℃の水浴またはTHAWSTAR(登録商標)自動解凍システム(バイオシジョン社製)のいずれかで解凍した。37℃の水浴を使用する場合、クライオバイアルを、蓋の下に沈め、2.5分間撹拌した。ThawSTARを使用する場合、サンプルが解凍されたことをデバイスが示した後に、クライオバイアルを20秒間撹拌した。
【0092】
細胞凝集体の解凍した懸濁液を、遠心分離または他の添加物なしで、-1ml/分の流速を使用してE8培地に移した。希釈係数2~15を使用した。これは、細胞の各クライオバイアルを用い、解凍後の細胞培養物の6ウェルプレートの1ウェルと1つのT75フラスコを作成したことを意味している。希釈した細胞を、新たにコーティングした培養容器上に播種し、24時間37℃のインキュベータで5%のCO
2中に静置した。解凍後の培養物を、継代して細胞培養を維持するか、一定方向への分化などの下流のワークフローに直接使用した。
図5は、上記の凍結保存ワークフロー全体の説明図を示している。
【0093】
実験結果
ここで、
図6A~6Cを参照すると、
図6Aにおいて、出現集団として収束したDMSOを含まない凍結保存溶液の差分進化アルゴリズム主導の開発を、第7世代で、またはそれぞれ5つの区間に離散化された4つの可変パラメータ、スクロース、グリセロール、イソロイシン、およびアルブミンのパラメータ空間において、8セットの10サンプル実験後に繰り返した。計量としての解凍後の細胞の再付着を、DMSO対照に対して正規化した。DMSO対照の製剤は、HBSS中に7.5%v/vのDMSOおよび5%w/vのP188を含んだ。DMSOを含まない製剤の範囲は、解凍後の細胞再付着でDMSO対照を上回った。これらの製剤は、20~60mMのスクロース、4~5%v/vのグリセロール、0~22.5mMのイソロイシン、0~2%のアルブミン、5%w/vのP188、1倍濃度のNEAAおよびHBSSを含んだ。
図6Bは、5次元のうちの4次元で示される、DEアルゴリズムが開発中にナビゲートしたパラメータ空間の4Dランドスケープを示している。このパラメータ空間のトポロジーは、非線形であって、単様式ではないが、矢印で示されるように最適値を含む領域内の密集した等高線を有する複雑なものであった。
図6Cは、すべて5次元で示される、DEアルゴリズムによって試験されたすべての製剤の5Dバブルチャートを示している。最適値(星)は、レベル2のスクロース、レベル5のグリセロール、レベル1のイソロイシン、レベル4のアルブミンに位置した。
【0094】
iPS細胞凝集体の効果的な凍結保存
ここで、
図7Aを参照すると、凍結保存方法を、3回の凍結解凍サイクルを介してストレス試験した。解凍後の培養物の凍結、解凍、および1継代というタイプIサイクルを使用して、凍結保存から結果として生じ得る表現型の不安定性を増幅させた。
図7B~7EはタイプIサイクルによるものである。解凍後の培養の凍結、解凍、および3継代のタイプIIサイクルを使用して、凍結保存から結果として生じ得る染色体の不安定性を増幅させた。
図7FはタイプIIサイクルによるものである。
【0095】
図7Bでは、凍結保存した細胞凝集体は、新鮮な細胞に匹敵する、その解凍後の再付着によって証明される、培養を再確立する強力な能力を示した。解凍後24時間で、DMSOを含まない凍結保存から培養中に結果として生じた生細胞の量は、新鮮な細胞を継代した場合と統計学的に有意な差はなかった。これは、3回の無洗浄凍結解凍サイクル全体で一貫しており、凍結保存の任意のラウンド後に、解凍後の付着に統計学的に有意な差は見られなかった。
図7Cでは、凍結保存細胞の解凍後の培養は、Cytation 1細胞イメージングマルチモードリーダ(BioTek)を使用した自動化イメージングによって定量化された両方の成長曲線によって示されるコンフルエンスの増加、コロニーの真円度の回復、およびコロニーサイズの増大によって証明されるように、第3ラウンドの解凍後4日間にわたって正常な増殖、コロニーの成長および圧縮を示した。
【0096】
図7Dでは、凍結保存した細胞はまた、凍結解凍ストレス試験において正常な多能性を示した。表面マーカーTRA-1-60の発現は、3つのラウンドの凍結保存全体にわたって高かった。95.8%および93.7%のTRA-1-60陽性集団を、それぞれ、最初の2ラウンドの解凍直後に測定し、これは、DMSOを含まない凍結保存方法がポドカリキシン膜タンパク質にほとんど物理機械的損傷を引き起こさなかったことを示唆した。99.5%のTRA-1-60陽性集団を、第3ラウンドの解凍後6日目に75~80%のコンフルエント培養で測定し、前の2つの測定値よりもわずかに高く、一貫して保存されたポドカリキシンのみならず、現行のプロトコル下での解凍後培養物の100%の多能性に向けた効果的な回復を示した。さらに、転写因子OCT-4およびNANOGの発現は両方とも凍結保存された細胞において高かった。99.1%のOCT-4陽性集団および97.1%のNANOG-陽性集団を、第3ラウンドの凍結保存後の継代コンフルエンスで解凍後の培養について測定した。TRA-1-60発現と共に、これは、自発的な分化がほとんどまたはまったくない、高度に多能性であるiPS細胞培養を表した。第4ラウンドの解凍で、凍結保存された細胞を3つの胚葉すべてに分化し、
図7Eの蛍光画像によって示されるように、内胚葉マーカーFOXA2およびSOX17、中胚葉マーカーNCAMおよびT、外胚葉マーカーPAX6およびNestinの陽性の同時発現を伴った。
【0097】
図7Fでは、第3のタイプII凍結解凍サイクル後の第3の継代で、凍結保存した細胞の細胞遺伝学的発見は、正常な男性の核型を表した。分析に利用可能な16個の中期細胞の中に、クローンの数値的または構造的な染色体異常は見つからなかった。上記のすべての発見は、非常に望ましい、効果的なDMSOを含まない凍結保存方法を実証した。
【0098】
上記のすべての発見は、非常に望ましい、効果的なDMSOを含まない凍結保存方法を実証した。
【0099】
P188、スクロース、グリセロール、イソロイシンおよびアルブミンを含む組成物の使用は、結果として、過冷却に対してはるかに低い感受性を示す多細胞凝集体をもたらす。
図8Aは、この凍結方法の製剤に記載されたDMSOを含まない組成物が使用される限り、より大きな程度の過冷却下でも解凍後の細胞付着が損なわれなかったことを示しているが、組成物がDMSOを含まない組成物からわずかに逸脱したとき、またはDMSOを使用したときには著しく低下した。
図8Bは、氷核形成が-4℃または-12℃のどちらで発生したかにかかわらず、解凍後の培養での凍結保存iPS細胞の成長が、標準継代後の新鮮なiPS細胞の成長に匹敵したことを示している。
【0100】
図8Cは、-4℃で手動により誘発された氷核形成を伴う速度制御凍結の過程にわたって記録されたサンプルの内部温度を示している。
図8Dは、対応するサンプル内部温度に対してプロットされた
図8Cの一次導関数を示す。
図8Eは、自発的な氷核形成を伴うCololCellにおけるパッシブ凍結の過程にわたって記録されたサンプル内部温度を示している。
図8Fは、対応するサンプル内部温度に対してプロットされた
図8Eの一次導関数を示す。凍結保存溶液に関係なく、速度制御凍結の使用が、過冷却および冷却速度に対する細胞の感受性を軽減することによって解凍後の細胞の生存を大幅に改善した一方で、パッシブ凍結の使用は、長期間にわたってより低い冷却速度を伴い、結果として冷却速度に対する細胞の感受性による大幅な細胞の損失をもたらした。
【0101】
凍結防止剤としてのP188の作用機構は、その氷形成の阻害および組成物中の他の浸透圧調節物質とのその相乗的相互作用に起因した。
図9Aは、-50℃で氷に埋め込まれたP188ミセルの液滴に対する氷晶間の凍結されていないP188水溶液のチャネルで獲得されたラマンスペクトルを示している。広いOH伸縮ピークの赤色移動(破線の矢印)およびハイドロハライトピークのダウンシフト(星)は、P188ミセルが水格子の水素結合ネットワークを強化し、ハイドロハライト形成を阻害したことを示唆している。P188をグリセロールと混合したとき、ミセルは存在しなかった。
図9Bは、-50℃での氷晶間のP188がある場合とない場合の凍結されていないDMSO溶液のラマンスペクトルを示している。2つのスペクトルの差は、P188のシグナルのDMSO上への重ね合わせによって説明され得る。P188の添加時に広いOH伸縮ピークの赤色移動がないことは、水素結合ネットワークへの効果がないことを示唆していた。
図9Cは、-50℃での氷晶間のP188がある場合とない場合の凍結されていないDMSOを含まない溶液のラマンスペクトルを示している。2つのスペクトルの差は、P188の信号のDMSOを含まない溶液の残りの部分上への重ね合わせによって説明され得る。P188の添加時に広いOH伸縮ピークの赤色移動がないことは、水素結合ネットワークへの効果がないことを示していた。
図9A~9Cを要約すると、本開示の方法におけるP188が水素結合を強化するように作用することを示唆している証拠はない。
【0102】
図9Dでは、DMSOを含まない溶液中で形成された氷晶のラマンヒートマップは、横方向および軸方向に-50℃でP188を使用した場合と使用しない場合のサンプル中の氷形態に明確な違いを示した。
図9Eでは、iPS細胞凝集体を、P188を使用した場合と使用しない場合のDMSO溶液中で-50℃まで凍結した。ラマンヒートマップは、細胞内P188の位置が軽度の細胞内容物の喪失(破線の円)の位置と一致したことを示し、これは、シーラントとしてのP188の機能を実証し、ラマンヒートマップはまた、P188は氷が細胞内に伝播するのを防ぎ、細胞凝集体の崩壊を防いだこと(矢印)を示した。
図9Fでは、-50℃での異なるDMSOを含まないおよびDMSOベースの溶液のラマンヒートマップは、P188がスクロース、グリセロール、イソロイシンおよびアルブミンの組成物と共に使用された場合にのみ観察された特有の氷形態を示した。伝播する各氷晶の前面が柔らかくなり、隣接する氷晶間の凍結していない空間の量が増加した。表8は、氷の形成とiPS細胞の凍結反応に対するDMSOを含まない組成物と組み合わせたP188の効果を示している。
【0103】
【0104】
表9では、示差走査熱量測定の結果は、P188の存在が、氷形成を(融解温度を著しく低下させることによって)抑圧し、(融解のエンタルピーを著しく低下させることによって)抑制したことを示している。
【0105】
【0106】
実施例4
細胞株および培養の維持
加齢性黄斑変性症を有するドナーの結膜に元来由来する人工多能性幹(iPS)細胞株UMN AMD3-6B4を使用して、凍結保存方法を開発した。細胞を、組換えヒトビトロネクチン(ペプロテックUS社製、ロッキーヒル、NJ)上でTeSR-E8培地(ステムセルテクノロジー社製、バンクーバー、カナダ)で培養し、コロニーのコンフルエンスが65~75%に達したら、4日ごとに1:8の分割比で酵素を含まない解離試薬ReLeSR(ステムセルテクノロジー社製)を使用して凝集体として継代した。
【0107】
DMSO不含凍結保存溶液の製剤
基礎溶液は、Ca
2+、Mg
2+、およびグルコースを有するハンクス平衡塩類溶液(HBSS、ロンザ社製、バーゼル、スイス)中に5%w/vのポロキサマー188(P188、スペクトラムケミカル社製、ニューブランズウィック、NJ)を含んだ。2倍濃度の凍結保存溶液は、HBSS中にさまざまな濃度のトレハロース(シグマ-アルドリッチ社製、セントルイス、MO)、グリセロール(フムコ社製、オースチン、TX)、L-イソロイシン(シグマ-アルドリッチ社製)およびP188を含んだ。基礎溶液と2倍濃度の凍結保存溶液を1:1の容量比で混合することによって、結果として、HBSS中のトレハロース、グリセロール、L-イソロイシン、およびP188の希釈溶液が得られた。最終的な組成物は以下を含んだ:
【0108】
凍結保存のための細胞調製
細胞を、ReLeSR(商標)を使用して解離し、~3×106/mlの細胞濃度で基礎溶液中において遠心分離なしで凝集体として収集した。細胞凝集体の懸濁液を0.5ml/バイアルでクライオバイアル(Nunc CryoTube、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)へと充填した。2倍濃度の凍結保存溶液を0.5ml/バイアルで細胞に滴下した。細胞を、その後、室温で1時間インキュベートした後、凍結させた。
【0109】
パッシブ冷凍
細胞のクライオバイアルを、2~8℃に予冷した熱伝導性サンプルモジュールColorRac(バイオシジョン社製、サンラファエル、CA)内に入れ、80分間にわたって20℃の機械的冷凍庫内で凍結した。サンプル温度を、DI-245 USB熱電対データ取得システム(DATAQインスツルメンツ社製、アクロン、OH)を使用して記録した。熱電対を、穴の開いたキャップを介して、実験サンプルと同じ量の細胞と凍結保存溶液が入っている「ダミー」バイアルに挿入した。凍結したクライオバイアルを-20℃で保存した。
【0110】
無洗浄解凍
凍結したクライオバイアルを37℃の水浴で解凍した。クライオバイアルを、蓋の下に沈め、2.5分間撹拌した。細胞凝集体の解凍した懸濁液を、遠心分離または他の添加物なしで、-1ml/分の流速を使用してTeSR-E8培地に移した。希釈係数2を使用した。これは、細胞の各クライオバイアルを用い、解凍後の細胞培養の6ウェルプレートの1ウェルを作成したことを意味している。希釈した細胞を、新たにコーティングした培養容器上に播種し、24時間37℃のインキュベータで5%のCO2中に静置した。
【0111】
実験結果
ここで、
図10A~10Bを参照すると、このパッシブ凍結方法の冷却プロファイルを評価した。
図10Aは、異なる凍結保存製剤の3つの独立した複製からの、互いに大部分が類似した一連の3つの温度プロファイルを経時的に示している。
図10Bは、上記と同じ3つの複製からの、再び互いに大部分が類似した温度変化に対応する一連の3つのリアルタイム冷却速度プロファイルを示している。リアルタイム冷却速度は、経時的なサンプル温度の一次導関数であった。言い換えれば、温度プロファイルの勾配は、冷却速度プロファイルのy軸値と一致していた。この凍結保存方法によって実証される冷却プロファイルは、以下の4つの段階に分けることができる:サンプルを周囲温度からその凝固点のすぐ上まで急速に冷却する第1の段階、氷核形成と溶融潜熱が冷却速度を低下させる第2の段階、1℃/分に近い冷却速度での継続的な氷成長の第3の段階、およびサンプル温度が-20℃近くで安定する最終段階。-20℃の冷凍庫内で熱伝導性サンプルホルダーを使用するパッシブ凍結のこの傾向は、-80℃の冷凍庫内で断熱容器を使用する他の一般的なパッシブ凍結方法の傾向と似ていた。
【0112】
図11は、差分進化アルゴリズム主導型の開発実験におけるDMSOを含まない凍結保存製剤の初期生成の結果を示している。9つのサンプルの1つのセットを、トレハロース、グリセロール、イソロイシン、およびP188の4つの可変パラメータのパラメータ空間でランダムに生成し、それぞれ4つの区間に離散化した。計量としての解凍後の細胞の再付着を、新鮮な細胞対照に対して正規化した。DMSO対照も使用した。DMSO対照製剤は、HBSS中に7.5%v/vのDMSOおよび5%w/vのP188を含み、実施例3で使用されたDMSO対照と同じ製剤であった。9つの新しい製剤のうち8つは、解凍後の細胞再付着においてDMSO対照を上回った。これらの製剤は、13.6~22.9mMのトレハロース、410~685mMのグリセロール、30~50mMのイソロイシン、1~5%w/vのP188およびHBSSを含んだ。
【0113】
DMSO対照製剤は、サンプルを-90℃以下に冷却して保存する一般的な速度制御凍結およびパッシブ凍結方法では実行可能であったが、サンプルを-18℃以下および-30℃以上に冷却して保存する場合には実行不可能であった。これは、細胞が、DMSOを含まない凍結保存製剤(たとえば製剤#430)において有意により安定しており、解凍後の培養で再付着して生存する能力を維持した一方で、DMSO対照製剤では安定せず、解凍後の培養で生存する能力を維持しなかったことを示唆している。
【0114】
実施例5
細胞株および培養の維持
続いて、人工多能性幹(iPS)細胞株UMN PCBCl6iPSV(またはvShiPS 9-1)のために開発された凍結保存方法を、iPS細胞株(hiPSC-CCND2OE)に由来するコミットした心臓前駆細胞(CCP)細胞で試験した。iPS細胞を、hESC認定のMATRIGEL(登録商標)(コーニング社製、コーニング、NY)上でTeSR-E8培地(ステムセルテクノロジー社製、バンクーバー、カナダ)で培養し、コロニーのコンフルエンスが75~85%に達したら、4日ごとに1:8の分割比で酵素を含まない解離試薬ReLeSR(ステムセルテクノロジー社製)を使用して凝集体として継代した。CCPを、Lianらによって開発された14日間のGiWi心臓分化プロトコルに従って、6日目に12ウェルプレートにおけるコンフルエントな付着単層として得た。
【0115】
DMSO不含凍結保存溶液の製剤
基礎溶液は、Ca
2+、Mg
2+、およびグルコースを有するハンクス平衡塩類溶液(HBSS、ロンザ社製、バーゼル、スイス)中に5%w/vのポロキサマー188(P188、スペクトラムケミカル社製、ニューブランズウィック、NJ)を含んだ。2倍濃度の凍結保存溶液は、HBSS中に、120mMのスクロース(シグマ-アルドリッチ社製、セントルイス、MO)、10%v/vのグリセロール(フムコ社製、オースチン、TX)、15mMのL-イソロイシン(シグマ-アルドリッチ社製)、5%w/vのP188、4%のアルブミン(ALBUTEIN(登録商標)、グリフォルス社製、バルセロナ、スペイン)、および2倍濃度のMEM非必須アミノ酸(NEAA、シグマ-アルドリッチ社製)を含んだ。1:1の容量比での基礎溶液と2倍濃度の凍結保存溶液との混合により、HBSS中に、60mMのスクロース、5%v/vのグリセロール、7.5mMのL-イソロイシン、5%w/vのP188、2%のアルブミン、および1倍濃度のNEAAを得た。最終的な組成物は以下を含んだ:
【0116】
凍結保存のための細胞調製
細胞を、15mMクエン酸ナトリウムを使用して解離し、~2×106/mlの細胞濃度で基礎溶液中において遠心分離なしで凝集体として収集した。細胞凝集体の懸濁液を0.5ml/バイアルでクライオバイアル(Nunc CryoTube、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)へと充填した。2倍濃度の凍結保存溶液を0.5ml/バイアルで細胞に滴下した。細胞を、その後、室温で1時間インキュベートした後、凍結させた。
【0117】
速度制御凍結
細胞のクライオバイアルを、1℃/分の冷却速度Bおよび-4℃の播種(または氷核形成)温度TNUCを使用して以下に列記される工程に従って速度制御冷凍庫Kryo 10 Series III、プランナー社製、ミドルセックス、英国)を用いて凍結した:
1.開始温度20℃
2.0℃まで-10℃/分
3.10分間0℃で保持して、クライオバイアルの内側と外側の温度を平衡化する
4.-4℃まで-1℃/分
5.15分間-4℃で保持する
6.工程5の終了に向けてクライオバイアルの内部温度が-4℃に達したときに氷核形成を誘発する
7.-60℃まで-1℃/分
8.-100℃まで-10℃/分
【0118】
凍結したクライオバイアルを、CRYOPODキャリア(バイオシジョン社製、サンラファエル、CA)に移し、液体窒素に保存した。
【0119】
無洗浄解凍
凍結したクライオバイアルを37℃の水浴で解凍した。クライオバイアルを、蓋の下に沈め、2.5分間撹拌した。細胞凝集体の解凍した懸濁液を、遠心分離または他の添加物なしで、-1ml/分の流速を使用してインスリン(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、ウォルサム、MA)を含むRPMI B27(+)に移した。希釈係数2を使用した。これは、細胞の各クライオバイアルを用い、解凍後の細胞培養物の12ウェルプレートの1ウェルを作成したことを意味している。希釈した細胞を、新たにコーティングした培養容器上に播種し、24時間37℃のインキュベータで5%のCO2中に静置した。
【0120】
実験結果
iPS細胞から分化したCCP細胞を凍結保存するために一般的に使用される方法とは異なり、本開示の凍結保存方法は、その凍結保護製剤または解凍後の細胞増殖培地においてアポトーシス阻害剤なしで実施され得る。凍結保存または継代培養の目的でCCPを二次元付着培養から解離する一般的な方法は、主に単一細胞の形でCCPを得る、Accutase(イノベイティブセルテクノロジー社(Innovative Cell Technologies)製、サンディエゴ、CA)などの酵素試薬を使用する。これらの単一のCCP細胞は、アポトーシス阻害なしでアポトーシスを受ける。代わりに、酵素を含まないキレート剤であるクエン酸ナトリウムを、本開示の方法で使用して、主に多細胞凝集体の形態でCCPを得た。
図12は、HBSS中で5%のP188に懸濁されたCCP凝集体の明視野画像を示している。示された関心領域(ROI)の細胞の大部分は、無傷の細胞間接触を伴う多細胞凝集体であった。
【0121】
従来のCCPの凍結保存および継代培養のアプローチでCCPの全集団を懸濁液に解離することの困難性とは異なり、細胞のパッチまたはスポットが一般に、解離工程後に培養基板上で視覚的に検出され得る場合、この方法は、結果として、解離後にCCP集団全体の容易な脱離および懸濁をもたらした。
図13は、クエン酸ナトリウム処理前のCCP細胞のコンフルエントな単層で覆われた培養基板の明視野顕微鏡および携帯電話による画像を示し、培養基板上に細胞がほとんどまたはまったく残っておらず、クエン酸ナトリウム処理およびP188懸濁後に組織培養容器の底全体が目に見えてきれいであった。
【0122】
本実施例で使用される凍結保存剤製剤は、結果として、解凍後24時間での67.85%の表面コンフルエンスにおけるCCP培養物をもたらした。
【0123】
図14は、低温ラマン分光法を使用してレンダリングされた、凍結されたCCP細胞凝集体ならびに氷および凍結防止剤の分布のヒートマップを示している。細胞内氷形成(矢印)および細胞完全性の喪失(破線の円)によって、凍結損傷のメカニズムを特定した。凍結防止剤分子の分配を、細胞内領域におけるよりも細胞外領域における有意に高い濃度から示した。これらのCCPで観察された細胞内氷形成の量は、同じ製剤中のiPS細胞で観察された量よりもはるかに多かった。
【0124】
実施例6
細胞株および培養の維持
続いて、人工多能性幹(iPS)細胞株UMN PCBC16iPSV(またはvShiPS 9-1)のために使用される凍結保存方法を、コンフルエントな付着単層の形態で、iPS細胞株(hiPSC-CCND2OE)に由来するコミットした心臓前駆細胞(CCP)細胞を保存するように修正した。iPS細胞を、hESC認定のMATRIGEL(登録商標)(コーニング社製、コーニング、NY)上でTeSR-E8培地(ステムセルテクノロジー社製、バンクーバー、カナダ)で培養し、コロニーのコンフルエンスが75~85%に達したら、4日ごとに1:8の分割比で酵素を含まない解離試薬ReLeSR(ステムセルテクノロジー社製)を使用して凝集体として継代した。Lianらによって開発された14日間のGiWi心臓分化プロトコルを、96ウェルのマイクロプレートにおいて培養細胞にスケールダウンした。CCPを6日目に得た。
【0125】
DMSO不含凍結保存溶液の製剤
基礎溶液は、Ca
2+、Mg
2+、およびグルコースを有するハンクス平衡塩類溶液(HBSS、ロンザ社製、バーゼル、スイス)中に5%w/vのポロキサマー188(P188、スペクトラムケミカル社製、ニューブランズウィック、NJ)を含んだ。2倍濃度の凍結保存溶液は、HBSS中に、さまざまな濃度のスクロース(シグマ-アルドリッチ社製、セントルイス、MO)、グリセロール(フムコ社製、オースチン、TX)、L-イソロイシン(シグマ-アルドリッチ社製)、アルブミン(ALBUTEIN(登録商標)、グリフォルス社製、バルセロナ、スペイン)、5%w/vのP188および2倍濃度のMEM非必須アミノ酸(NEAA、シグマ-アルドリッチ社製)を含んだ。基礎溶液と2倍濃度の凍結保存溶液を1:1の容量比で混合することによって、結果として、HBSS中のスクロース、グリセロール、L-イソロイシン、P188、アルブミン、およびNEAAの希釈溶液が得られた。最終的な組成物は以下を含んだ:
【0126】
凍結保存のための細胞調製
インスリンを含まないRPMI B27(-)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、ウォルサム、MA)を吸引によって除去した。96ウェルプレートにおいて25μl/ウェルで細胞凝集体のコンフルエントな単層を覆うために、基礎溶液を加えた。2×凍結保存溶液を25μl/ウェルでゆっくりと細胞に導入した。続いて、細胞を1時間室温でインキュベートし、凍結する前に、96ウェルプレートをシリコーンウェルプレートライナ(JGフィネラン社製、バインランド、NJ)を使用して密封した。
【0127】
速度制御凍結
シリコーン密封したプレートを、1℃/分の冷却速度Bおよび-4℃の播種(または氷核形成)温度TNUCを使用して以下に列記される工程に従って速度制御冷凍庫(Kryo 10 Series III、プランナー社製、ミドルセックス、英国)を用いて凍結した:
1.開始温度20℃
2.0℃まで-10℃/分
3.10分間0℃で保持して、クライオバイアルの内側と外側の温度を平衡化する
4.-4℃まで-1℃/分
5.15分間-4℃で保持する
6.工程5の終了に向けてクライオバイアルの内部温度が-4℃に達したときに氷核形成を誘発する
7.-60℃まで-1℃/分
8.-100℃まで-10℃/分
【0128】
凍結したプレートを、CRYOPODキャリア(バイオシジョン社製、サンラファエル、CA)に移し、液体窒素の気相に保存した。
【0129】
無洗浄解凍
凍結したプレートを37℃の水浴で解凍した。密封したプレートを、プレートの縁の下に沈め、2.5分間撹拌した。シリコンウェルライナを取り外した。インスリンを含むRPMI B27(+)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、ウォルサム、MA)を、96ウェルプレートにおいて250μl/ウェルで、解凍した細胞の単層にゆっくりと添加した。希釈した細胞培養物を、37℃のインキュベータで5%のCO2に入れて24時間静置し、続いて、7日目の細胞として14日間のGiWi心臓分化プロトコルを再開するために使用した。
【0130】
実験結果
心臓前駆細胞および心筋細胞の凍結保存製剤または他のアッセイのハイスループットスクリーニングのための技術的基盤を確立した。GiWi心臓分化プロトコルを96ウェルのフォーマットにスケールダウンした。16日目に、試験した96ウェルプレートのすべてのウェルにおいて拍動が観察され、分化の成功が実証された。細胞をカルセインAMで染色することによって、コンフルエントな単層による細胞収量の広がりを定量化した。96ウェルプレートのウェルあたりの細胞収量の95%の信頼区間を、ウェルあたりの平均細胞収量の97.17~102.8%であると測定し、これは、心臓細胞単層のスケールダウン培養物の生産における高い一貫性および凍結保存製剤の差分進化アルゴリズム主導の開発などの実験において凍結保存細胞単層の解凍後の細胞脱離を定量化するこの構成の適合性を実証している。
【0131】
図15は、CCP単層の凍結保存を発展させるための差分進化アルゴリズム主導の実験におけるDMSOを含まない製剤の最初の2世代の結果を示している。8個のサンプルの1つのセットを、4つの可変パラメータ、スクロース、グリセロール、イソロイシン、およびアルブミンのパラメータ空間でランダムに生成し、それぞれ5つの区間に離散化した。測定基準としての解凍後の培養コンフルエンスを、コンフルエントな単層の新鮮な細胞対照に対して正規化した。DMSO対照を使用した。DMSO対照製剤は、HBSS中に7.5%v/vのDMSOおよび5%w/vのP188を含み、実施例3で使用されたDMSO対照と同じ製剤であった。DMSOを含まない対照も使用した。DMSOを含まない対照製剤は、HBSS中に60mMのスクロース、5%v/vのグリセロール、7.5mMのイソロイシン、2%w/vのアルブミン、および5%w/vのP188を含み、実施例3におけるiPS細胞凝集体用に開発されたものと同じ製剤であった。解凍後の細胞生存の世代平均とDMSO対照およびDMSOを含まない対照より優れた実験製剤の数との両方が、世代0から世代1まで改善された。16の新しい製剤のうち3つが、細胞脱離を最小限に抑え、細胞単層の大部分を解凍後の培養で無傷に保つ点でDMSO対照を上回った。これらの製剤は、100~120mMのスクロース、5%v/vのグリセロール、0mMのイソロイシン、0.5~2.5%w/vのアルブミン、5%w/vのP188およびHBSSを含んだ。トレハロースなどの代替の凍結防止剤が使用されてもよい。P188などの追加の凍結防止剤が可変パラメータとして調整されてもよい。
【0132】
懸濁液中のiPS細胞凝集体の速度制御凍結のために開発されたDMSOを含まない対照製剤は、一貫して~100%の高い解凍後の再付着率をもたらし、結果として、iPS細胞から分化した付着性CCP単層の速度制御凍結の凍結保存単層において42.3%の細胞脱離をもたらした。
【0133】
実施例で使用される実験方法
解凍後の細胞再付着
解凍後に培養を再確立する凍結保存された細胞の能力を、解凍後の細胞再付着の測定基準に基づいて評価した。解凍した細胞を特定の分割比で蒔いた。24時間後、解凍後の培養物を洗浄し、細胞透過性色素、カルセインAM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を使用して、エステラーゼ活性を有する生細胞に対して染色した。各サンプルにおける生細胞を、平均蛍光強度に基づいてスキャンモードでSynergy HTマイクロプレートリーダ(バイオテック社製)を使用して定量化した。蛍光測定を、DMSOベースの対照製剤を使用する同じ細胞密度で継代された新鮮な細胞または同じ凍結前の細胞濃度で凍結保存された細胞のいずれかであった対照に対して正規化し、任意単位での各サンプルに対する解凍後の細胞再付着の値を判定した。
【0134】
解凍後の細胞増殖およびコロニー形成
凍結保存した細胞を1:6の解凍比で蒔いた。DMSOを含まない溶液で凍結保存された細胞の解凍後の培養物を、デフォルトのフォーカス方法を使用した明視野およびスキャンモードでの4倍の対物レンズ(NA 0.13、オリンパス社製)を備えたCytation 1細胞イメージングマルチモードリーダ(バイオテック社製)を用いて毎日画像化することによって、ラベルフリーで評価した。境界認識を使用するGen 5ソフトウェア(バイオテック社製)によって画像を自動的に分析し、コロニーのコンフルエンス、サイズ、および真円度を測定した。
【0135】
凍結保存細胞の品質管理
核型分析を行って、染色体異常を検出した。細胞を、3時間コルセミドで処理し、標準的な細胞遺伝学的プロトコルに従って採取した。この細胞株は16個の中期細胞のみを産生し、これらを400バンドレベルの解像度でGバンディングによって完全に分析した。
【0136】
表面多能性マーカー、TRA-1-60の発現を、フローサイトメトリーを使用して特徴付けた。細胞を、Accutase(イノベイティブセルテクノロジー社製、サンディエゴ、CA)を使用して培養から単一細胞に分離し、マウス抗TRA-1-60抗体およびAlexa Fluor 488標識ヤギ抗マウス抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を使用して染色した。フローサイトメトリーを、Accuri C6フローサイトメーター(BDバイオサイエンス社(BD Biosciences)製、サンジョゼ、CAから)で低流量にて実施した。50,000の事象を、各サンプルに対して記録し、前方散乱細胞集団および側方散乱細胞集団の他に、陰性の未染色対照を有する蛍光に対してゲートした。
【0137】
転写因子、OCT-4およびNANOGの発現を、免疫蛍光および定量的蛍光顕微鏡法を使用して特徴付けた。細胞培養物を、3.7%のホルムアルデヒド(シグマ-アルドリッチ社製)を使用して固定し、0.2%のTriton X-100(シグマ-アルドリッチ社製)を使用して透過処理し、Hoechst 33342(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に対する、Alexa Fluor 488標識ヤギ抗マウス抗体を有するマウス抗OCT-4抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、Alexa Fluor 555標識ウサギ抗ヤギ抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を有するヤギ抗NANOG抗体(R&Dシステムズ社(R&D Systems)製、ミネアポリス、MN)を使用して染色した。20倍の空気対物レンズ(NA 0.50、Plan-Neofluar、カールツァイス社(Carl Zeiss)製)およびSpotInsight Firewire 2カメラを備えたCarl Zeiss Axioskop 50を使用して、画像を取得した。OCT-4およびNANOG陽性細胞を、FIJIを使用してバイナリ閾値および粒子分析によって定量化した。
【0138】
使用説明書に従いSTEMdiff三血球系分化キット(ステムセルテクノロジーズ社製)を使用して三血球系分化を実施した。3つの胚葉の分化細胞を、内胚葉マーカーである、FOXA2(デベロップメンタル・スタディーズ・ハイブリドーマ・バンク(Developmental Studies Hybridoma Bank)製、アイオワシティー、IA)およびSOX17(ミリポアシグマ社(MilliporeSigma)製、バーリントン、MA)、中胚葉マーカーである、NCAM(ミリポアシグマ社製)およびT(R&Dシステムズ社製)、および外胚葉マーカーである、PAX6(R&Dシステムズ社製)およびNestin(R&Dシステムズ社製)に対して染色した。Cytation 1細胞イメージングマルチモードリーダ(バイオテックインスツルメント社製、ウィヌースキ、VT)を使用して、20倍の倍率で画像を取得した。
【0139】
統計
特に他に明記のない限り、平均プラス/マイナス標準誤差をすべての測定に関して報告した。2サンプルの比較のために両側スチューデントのt検定を実施し、複数のサンプル間の同時比較のためにボンフェローニ補正を用いる一元配置分散分析の試験を実施して、0.05に設定された有意水準でのp値を得た。帰無仮説を、サンプルのどのペアにも統計学的差異がないこととして定義し、0.05未満のp値を使用して、帰無仮説を棄却し、サンプル間の有意差を判定する決定を下した。
【0140】
低温ラマン分光法
低温ラマン分光法を、指定された速度制御凍結工程に従って、4段ペルチェ(サーモナミックエレクトロニクス社(Thermonamic Electronics)製)およびシリーズ800の温度制御装置(アルファオメガインスツルメント社(Alpha Omega Instruments)製)を使用して温度制御の段階で実施した。-50℃で、ラマンスペクトルデータを、UHTS300分光計、600/mmのDV401 CCD検出器、532nmのNd:YAGレーザ、100×空気対物レンズ(NA 0.90、ニコン社製)、および~300nmの横方向光学分解能を備えるAlpha 300R共焦点ラマン顕微鏡(ウィテック社(WITec)製、ウルム、ドイツ)を使用して0.2秒の積分時間で2Dスキャンモードで取得した。3125cm1の波数を中心として結晶性O-H伸縮のラマン散乱を使用して氷を特徴付け、1660cm1でのアミドIおよびC=Cの伸縮のラマン散乱を使用して細胞を特徴付け、485cm1でのCCO揺動のラマン散乱を使用してグリセロールを特徴付け、1285cm1でのCEL捻じれのラマン散乱を使用してP188を特徴付け、850cm1でのCC伸縮のラマン散乱を使用してすべてのDMSOを含まないCPA分子を特徴付け、および673cm1での対称CS伸縮のラマン散乱を使用してDMSOを特徴付けた。ラマンスペクトルを、5秒間の積分時間にわたって一定のレーザ出力を使用して各サンプルから取得し、10回の累積で平均化した。指定された物質のラマンヒートマップを、それぞれ、3ピクセル/μmでのその特徴的なラマン波数のピーク下の領域からレンダリングし、その分布および相互の空間的関係を視覚化した。
【0141】
緩衝液および添加剤の開発
速度制御凍結プロトコルは、1℃/分の冷却速度および-4℃の氷核形成温度で一定のままであった。浸透圧調節物質(すなわち、Normosol R中の30mMのスクロース、5%v/vのグリセロール、7.5mMのイソロイシン)の組成物を、開始点として使用された基本的な製剤である、hMSC用に事前に最適化された凍結保存溶液(Pollock K., Algorithm optimization of cryopreservation protocols to improve mesenchymal stem cell functionality. Dissertation, University of Minnesota, 2016を参照。hdl.handle.net/11299/191466で入手可能)から適合させた。
【0142】
細胞損傷の異なる形態を特定した。前述のように低温分光法を実施して、-50℃での細胞内氷形成を特徴付けた。凍結前と解凍後の両方で、細胞を、45分間37℃でH2DCFDA(ROS検出アッセイキット、バイオビジョン社製)を使用して、ROSおよびフリーラジカルに対して染色し、免疫蛍光法およびマイクロプレートアッセイによって酸化ストレスを特徴付けた。また、解凍した細胞を、FAM-FLICA(イムノケミストリーテクノロジーズ社(ImmunoChemistry Technologies, LLC)製、ブルーミングトン、MN)を使用してカスパーゼ酵素活性に対して染色し、アポトーシスを検出した。解凍後の細胞凝集体のサイズを視覚的に観察した。解凍後の細胞の回復、再付着および増殖を、前述のように測定した。PBS++中の10%のDMSOを使用して凍結保存された細胞を、対照として使用した。明視野および蛍光画像を、10倍の空気対物レンズ(NA 0.30、Plan-Neofluar、カールツァイス社製)または20倍の空気対物レンズ(NA 0.50、Plan-Neofluar、カールツァイス社製)およびSpot Insight Firewire 2のカメラを備えたCarl Zeiss Axioskop 50を使用して取得した。マイクロプレートアッセイを、Synergy HTマイクロプレートリーダ(バイオテック社製)を使用して定量化した。
【0143】
異なるタイプの添加剤を試験した。5%w/vのP188を、基礎溶液と2×凍結保存溶液の両方に添加して、細胞膜を安定化させた。2×NEAAを、2×凍結保存溶液に添加して予め凍結し、細胞エネルギーを節約した。以下の分子を、一般的または特定のアポトーシス経路を標的とするために使用し、凍結前または解凍後のいずれかに所定の作業濃度で添加した:10μMのrhoキナーゼ阻害剤(またはROCK阻害剤、Y-27632、ステムセルテクノロジーズ社製)、20μMのパンカスパーゼ阻害剤(Z-VAD-FMK、アペックスバイオテクノロジー社(ApexBio Technology LLC)製、ハウストン、TX)、1μg/mlのFasリガンド阻害剤(組み換えヒトFas/TNFRSF6-Fcキメラ、バイオレジェンド社(BioLegend)製、サンディエゴ、CA)、TRAIL受容体1(組換えヒトTNFRSF10A-Fcキメラ、バイオレジェンド社製)、TRAIL受容体2(組換えヒトTNFRSF10B-Fcキメラ、バイオレジェンド社製)、およびTRAIL受容体4(組換えヒトTNFRSF10D-Fcキメラ、バイオレジェンド社製)を標的とする各100ng/mlのTNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)。
【0144】
2つの異なるタイプの緩衝液を、Normosol Rを置き換えるために試験した。Mg2+およびCa2+を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS++、組織内)を、基礎溶液と2×凍結保存溶液の両方の一部として、Mg2+、Ca2+、HCO3-およびグルコースを含むハンクス平衡塩類溶液(HBSS、ロンザ社製)と比較した。それらは、凍結前および解凍後の細胞処理において周囲の大気条件下で塩のバランスおよび中性pHを維持することを目的としていた。HEPESを、基礎溶液または凍結保存溶液に対する懸濁液とは見なさず、無洗浄解凍すると、E8に含まれるHEPESは、5%のCO2条件下で中性pHを維持する役割を果たす。
【0145】
凍結保存溶液のスクリーニング
異なるタイプの糖(二糖類)および糖アルコール(すべてバイオウルトラ(BioUltra)または医薬グレード、シグマ-アルドリッチ社製)を、細胞再付着への影響に基づいて、細胞毒性の限界について個別に試験した。凍結前の細胞処理を考慮して、300mM、150mM、および75mMの所与の濃度の各分子を使用して、30分または1時間室温でHBSS中に懸濁した細胞凝集体をインキュベートした。その後、最小希釈率2での無洗浄解凍を考慮して、細胞凝集体の各サンプルを、E8培地を用いて1:1の容量比で混合し、ビトロネクチンでコーティングした培養容器に蒔いた。24時間後、Nikon TMS逆相差顕微鏡下で細胞再付着を定性的に観察した。二糖類は、スクロース、トレハロース、マルトース、およびラクトースを含んだ。糖アルコールは、エチレングリコール、グリセロール(フムコ社製)、D-ソルビトール、D-マンニトール、キシリトール、ミオイノシトール、およびアドニトールを含んだ。
【0146】
凍結保存製剤の差分進化アルゴリズム主導型の最適化
基本的な変異戦略(DE/rand/l/bin)(Stom and Price, 1997)を用いたDEアルゴリズムを使用して、解凍後の再付着率の機能的測定基準に基づいて、hiPSC用のDMSOを含まない凍結溶液の組成物を迅速に最適化した。簡潔には、DEアルゴリズムは、確率的直接検索を利用して、パラメータ空間全体にまたがる集団からサンプルパラメータ(つまり、DMSOを含まないCPA分子の濃度)の初期の群(世代0)をランダムに生成する。世代0のサンプルを実験的に試験し、それらの解凍後の再付着率を、アルゴリズムによって、試験対象の世代0の変異したバージョンであったCPA濃度の次の群(世代1)を出力するために使用した。各世代の累積的に最適なメンバーを緊急集団として保存した。差分進化アルゴリズム主導型の最適化を完了させ、最新世代の出現集団が前世代の出現集団と同じになったときに収束を達成した。DEアルゴリズムのパラメータ空間を、細胞毒性限界によって判定し、複数の区間に離散化した。細胞毒性を、新鮮な細胞対照と比較したそれぞれの分子への1時間の曝露の24時間後にカルセインAMを使用して測定された細胞培養における細胞再付着の減少として定義した。
【0147】
本明細書で引用されるすべての参考文献および公報は、本開示と直接矛盾し得る場合を除いて、それら全体が引用により本開示に明示的に組み込まれる。具体的な実施形態が本明細書で例示および説明されてきたが、様々な代替および/または同等の実装を、本開示の範囲から逸脱することなく、示され説明される具体的な実施形態に置き換えることができることが当業者に理解される。本開示が、本明細書に明記される例示的な実施形態および実施例によって過度に限定されることを意図するものではなく、そのような実施例および実施形態が、本明細書で明記される請求項によってのみ限定されることを意図する本開示の範囲でのみ例として提示されることを理解されたい。
【0148】
まとめ
第1項.凍結保存用組成物であって、凍結保存用組成物が、
糖成分であって、凍結保存用組成物中の糖成分の総濃度が300mM以下である、糖成分と、
糖アルコール成分であって、凍結保存用組成物中の糖アルコール成分の総濃度が2M以下である、糖アルコール成分と、
1%~15%の濃度でのポリマー成分および0.5%~10%の濃度でのアルブミンのうちの少なくとも1つと、
を含み、但し、凍結保存用組成物が凍結保存量未満のジメチルスルホキシド(DMSO)を含む、凍結保存用組成物。
【0149】
第2項.前記糖成分が、1mM~250mM、10mM~200mM、20mM~120mM、25mM~100mM、または30mM~80mMの濃度で提供される、第1項に記載の凍結保存用組成物。
【0150】
第3項.前記糖成分が、トレハロース、マルトース、ラクトース、フルクトース、スクロース、グルコース、デキストラン、メレジトース、ラフィノース、ニゲロトリオース、マルトトリオース、マルトトリウロース、ケストース、セロビオース、キトビオース、ラクツロース、またはそれらの組み合わせ、好ましくは、トレハロース、マルトース、ラクトース、またはそれらの組み合わせ、最も好ましくはトレハロースを含む、第1項または第2項に記載の凍結保存用組成物。
【0151】
第4項.前記糖成分が、10mM~200mM、20mM~120mM、または30mM~80mMのトレハロース、マルトース、ラクトース、またはそれらの組み合わせ、好ましくは、10mM~200mM、20mM~120mM、または30mM~80mMのトレハロース、最も好ましくは30mMから80mMのトレハロースを含む、第1項~第3項のいずれかに記載の凍結保存用組成物。
【0152】
第5項.前記糖アルコール成分が、0.2M~1.2M、0.2M~1M、または0.3M~0.8Mの濃度で提供される、第1項~第4項のいずれかに記載の凍結保存用組成物。
【0153】
第6項.前記糖アルコール成分が、グリセロール、ソルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、イノシトール、キシリトール、マンニトール、アラビトール、リビトール、エリスリトール、スレイトール、ガラクチトール、ピニトール、またはそれらの組み合わせ、好ましくは、グリセロール、ソルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、イノシトール、キシリトール、マンニトール、またはそれらの組み合わせ、最も好ましくはグリセロールを含む、第1項~第5項のいずれかに記載の凍結保存用組成物。
【0154】
第7項.0.4M~1Mのグリセロールを含む、第1項~第6項のいずれかに記載の凍結保存用組成物。
【0155】
第8項.少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、または少なくとも5%、かつ15%以下、12%以下、10%以下、8%以下、7%以下、6%以下、または5%以下のポリマー成分、好ましくは1.5%~10%のポリマー成分、最も好ましくは3%~8%のポリマー成分を含み、好ましくはポリマー成分がポロキサマーを含む、第1項~第7項のいずれかに記載の凍結保存用組成物。
【0156】
第9項.0.5%~8%、好ましくは1%~5%の濃度でのアルブミンを含む、第1項~第8項のいずれかに記載の凍結保存用組成物。
【0157】
第10項.少なくとも0.05%(w/v)、少なくとも0.1%、少なくとも0.2%、少なくとも0.3%、少なくとも0.4%、少なくとも0.5%、少なくとも0.6%、または少なくとも0.7%、かつ2.5%(w/v)以下、2%以下、1.5%以下、1.3%以下、1.2以下%、1.1%以下、または1.0%以下、好ましくは0.2%~2%、より好ましくは0.3%~1.6%の濃度でのイオン成分をさらに含み、イオン成分が、塩、酸、塩基、またはそれらの組み合わせを含み、随意に、塩が、CaCl2、MgCl2、MgSO4、KCl、KH2PO4、NaHCO3、NaCl、およびNa2HPO4から選択される、第1項~第9項のいずれかに記載の凍結保存用組成物。
【0158】
第11項.少なくとも0.1mM、少なくとも1mM、少なくとも2mM、少なくとも3mM、少なくとも4mM、少なくとも5mM、少なくとも6mM、少なくとも7mM、少なくとも8mM、少なくとも9mM、または少なくとも10mM、かつ100mM以下、80mM以下、50mM以下、40以下mM、30mM以下、25mM以下、22.5mM以下、20mM以下、15mM以下、14mM以下、または10mM以下、好ましくは0.1mM~50mMの濃度でのアミノ酸成分をさらに含む、第1項~第10項のいずれかに記載の凍結保存用組成物。
【0159】
第12項.前記アミノ酸成分が、イソロイシン、クレアチン、またはそれらの組み合わせを含む、第1項~第11項のいずれかに記載の凍結保存用組成物。
【0160】
第13項.1つまたは複数のアミノ酸、アミノ酸誘導体、ペプチド、またはそれらの組み合わせを含む第2のアミノ酸成分をさらに含む、第11項または第12項に記載の凍結保存用組成物。
【0161】
第14項.前記第2のアミノ酸成分が、1つまたは複数のプロリン、バリン、アラニン、グリシン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、ヒスチジン、システイン、トリプトファン、チロシン、アルギニン、グルタミン、タウリン、ベタイン、エクトイン、ジメチルグリシン、エチルメチルグリシン、RGDペプチド、またはそれらの組み合わせを含む、第13項に記載の凍結保存用組成物。
【0162】
第15項.細胞をさらに含む、第1項~第14項のいずれかに記載の凍結保存用組成物。
【0163】
第16項.前記細胞が、iPS細胞、胚性幹細胞、心臓前駆細胞、心筋細胞、神経前駆細胞、ニューロン、グリア細胞、ベータ細胞、内皮細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、腱細胞、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、角膜細胞、網膜細胞、小柱網細胞、腸細胞、腎細胞、造血細胞、配偶子、またはそれらの組み合わせ、好ましくは、iPS細胞、胚性幹細胞、心臓前駆細胞、心筋細胞、神経前駆細胞、ニューロン、グリア細胞、上皮細胞、内皮細胞、網膜細胞、またはそれらの組み合わせ、最も好ましくはiPS細胞である、第15項に記載の凍結保存用組成物。
【0164】
第17項.前記細胞が、生存可能な回復された凍結保存細胞である、第15項または第16項に記載の凍結保存用組成物。
【0165】
第18項.細胞を凍結保存する方法であって、
第1項~第14項のいずれかに記載の組成物に細胞を加えること、
該組成物を凍結すること、
前記凍結した組成物を0℃未満の温度で保存すること、
前記組成物を解凍すること、
解凍した前記組成物から前記細胞を移すこと、ならびに
前記細胞が生存可能なままであるために効果的な条件下で前記細胞を培養すること
を含む方法。
【0166】
第19項.前記組成物の前記凍結することが、0.1℃/分~5℃/分、好ましくは0.3℃/分~3℃/分、最も好ましくは0.8℃/分~1.2℃/分の速度で冷却することを含む、第18項に記載の方法。
【0167】
第20項.洗浄工程を含まない、第18項に記載の方法。