(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081694
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】ヒト抗セマフォリン4D抗体
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240611BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240611BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240611BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P25/28
C12N15/13 ZNA
C07K16/30
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024044422
(22)【出願日】2024-03-21
(62)【分割の表示】P 2023039438の分割
【原出願日】2018-05-04
(31)【優先権主張番号】62/501,981
(32)【優先日】2017-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】504455148
【氏名又は名称】バクシネックス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】スミス アーネスト エス.
(72)【発明者】
【氏名】コーネリソン アンジェリカ
(72)【発明者】
【氏名】スクライヴンス マリア ジー.エム.
(72)【発明者】
【氏名】パリス マーク
(72)【発明者】
【氏名】ザウデラー モーリス
(57)【要約】
【課題】セマフォリン4D(SEMA4D)の病理に関連する疾患(たとえば、自己免疫疾患、炎症性疾患、がん、神経炎症性疾患、及び神経変性疾患)を治療するための組成物及び方法を提供する。
【解決手段】重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む、セマフォリン4D(SEMA4D)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片、ならびに該抗体またはその抗原結合断片と、キャリアとを含む、医薬組成物を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む、セマフォリン4D(SEMA4D)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む、アルツハイマー病、ハンチントン病、軽度認知障害、またはそれらの組み合わせの治療に使用するための医薬組成物であって、
前記VHが、相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、及びHCDR3を含み、HCDR1が配列番号2のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号3のアミノ酸配列を含み、及びHCDR3が配列番号4のアミノ酸配列を含み、且つ
前記VLが、相補性決定領域(LCDR)LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含み、LCDR1が配列番号6のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号7のアミノ酸配列を含み、及びLCDR3が配列番号8のアミノ酸配列を含む、
前記医薬組成物。
【請求項2】
重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む、セマフォリン4D(SEMA4D)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片を含む、固形腫瘍またはリンパ腫の治療に使用するための医薬組成物であって、
前記VHが、相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、及びHCDR3を含み、HCDR1が配列番号2のアミノ酸配列を含み、HCDR2が配列番号3のアミノ酸配列を含み、及びHCDR3が配列番号4のアミノ酸配列を含み、且つ
前記VLが、相補性決定領域(LCDR)LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含み、LCDR1が配列番号6のアミノ酸配列を含み、LCDR2が配列番号7のアミノ酸配列を含み、及びLCDR3が配列番号8のアミノ酸配列を含む、
前記医薬組成物。
【請求項3】
前記VHが、配列番号1と少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは100%同一のアミノ酸配列を含むか、または
前記VLが、配列番号5と少なくとも80%、85%、90%、95%、または100%同一のアミノ酸配列を含むか、または
前記VHが、配列番号1と少なくとも80%、85%、90%、95%、もしくは100%同一のアミノ酸配列を含み、かつ前記VLが、配列番号5と少なくとも80%、85%、90%、95%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、
請求項1または請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗体またはその抗原結合断片が、前記VHのC末端に融合されている重鎖定常領域またはその断片をさらに含み、前記重鎖定常領域またはその断片が、ヒト重鎖定常領域または非ヒト重鎖定常領域である、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記重鎖定常領域またはその断片が、ヒトIgG4定常領域である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記抗体またはその抗原結合断片が、前記VLのC末端に融合されている軽鎖定常領域またはその断片をさらに含み、前記軽鎖定常領域またはその断片が、ヒト軽鎖定常領域または非ヒト軽鎖定常領域である、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記軽鎖定常領域またはその断片が、ヒトラムダ軽鎖定常領域である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記抗体またはその抗原結合断片が、SEMA4DのSEMA4D受容体への結合を阻害することができる、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記SEMA4D受容体が、プレキシン-B1、プレキシン-B2、CD72、またはそれらの組み合わせである、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記固形腫瘍が、肉腫、癌腫、黒色腫、またはそれらの転移である、請求項2~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記固形腫瘍が、SEMA4D受容体、及び/またはSEMA4Dを発現する、請求項2~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
アルツハイマー病の治療に使用するための、請求項1に記載の、または請求項3~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
ハンチントン病の治療に使用するための、請求項1に記載の、または請求項3~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
軽度認知障害の治療に使用するための、請求項1に記載の、または請求項3~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、全体として参照によって本明細書に組み入れられる2017年5月5日に出願された米国仮特許出願第62/501,981号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
背景
CD100としても知られるセマフォリン4D(SEMA4D)は、セマフォリン遺伝子ファミリーに属する膜貫通タンパク質である。SEMA4Dはホモ二量体として細胞表面で発現するが、細胞の活性化の際、SEMA4Dはタンパク分解による切断を介して細胞表面から放出され、タンパク質の可溶性形態であり、生物学的に活性もあるsSEMA4Dを生成することができる。Suzuki,et al.,Nature Rev.Immunol.3:159-167(2003);Kikutani,et al.,Nature Immunol.9:17-23(2008)(非特許文献1)を参照のこと。
【0003】
SEMA4Dは、脾臓、胸腺及びリンパ節を含むリンパ系臓器、ならびに脳及び腎臓のような非リンパ系臓器にて高レベルで発現する。リンパ系臓器では、SEMA4Dは休止T細胞上では豊富に発現するが、休止B細胞及びたとえば、樹状細胞(DC)のような抗原提示細胞(APC)では弱く発現するにすぎない。しかしながら、その発現は種々の免疫学的な刺激による活性化に続いてこれらの細胞では上方調節される。免疫細胞からの可溶性SEMA4Dの放出も細胞の活性化によって高められる。
【0004】
SEMA4Dは特定のがんの発生に関与しており(Ch’ng,et al.,Cancer,110:164-72(2007)(非特許文献2);Campos,et al.,Oncology Letters,5:1527-35(2013)(非特許文献3);Kato,et al.,Cancer Sci.102:2029-37(2011)(非特許文献4))、幾つかの報告は、この影響のメカニズムの1つが腫瘍血管新生の促進におけるSEMA4Dの役割であることを示唆している(Conrotto,et al.,Blood,105:4321-4329(2005)(非特許文献5);Basile,et al.,J.Biol.Chem.282:34888-34895(2007)(非特許文献6);Sierra,et.al.J.Exp.Med.205:1673(2008)(非特許文献7);Zhou,et al.,Angiogenesis,15:391-407(2012)(非特許文献8))。腫瘍の増殖及び転移は、腫瘍細胞、間質及び免疫浸潤、ならびに内皮細胞及び脈管構造の間でのクロストークの複雑な過程を伴う。SEMA4Dは多種多様な腫瘍型で過剰発現し、腫瘍微小環境に動員された炎症性細胞によっても産生される。最近の研究は、SEMA4Dが腫瘍間質を構成する様々な細胞型の移動、生存、分化及び組織化にて役割を担うことを示唆している(Evans,et al.,Cancer Immunol.Res.3:689-701(2015)(非特許文献9))。
【0005】
SEMA4Dは、神経変性疾患、自己免疫疾患、脱髄疾患、及びがんに関与する。中枢神経系(CNS)では、SEMA4Dは、たとえば、浸潤している免疫細胞及び乏突起膠細胞前駆細胞で発現し、その受容体は、たとえば、ニューロン、乏突起膠細胞、星状細胞、及び内皮細胞で発現する(Okuno,T.,et al.,J.Immunol.184:1499-1506(2010)(非特許文献10))。SEMA4Dは、軸索誘導分子として役立つことができ(Swiercz,et al.,Neuron,35:51-63(2002)(非特許文献11))、他の活性の間でGABA作動性及びグルタミン酸作動性のシナプスの発達に介在することができる(Paradis,et al.,Neuron,53:217-232(2007)(非特許文献12))。
【0006】
SEMA4Dはまた、ニューロン及び乏突起膠細胞前駆細胞の移動及び分化、CNSの炎症ならびに神経変性にて役割を担うことが示されている。たとえば、SEMA4D欠損マウスは実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)の発生に抵抗性であり(Kumanogoh,A et al.,Immunity,13:621-631(2000)(非特許文献13))、SEMA4Dの遮断はEAEにおけるミクログリア活性化及び神経炎症を抑制することができる(Okuno,T.,et al.,J.Immunol.184:1499-1506(2010)(非特許文献14))。同様に、内皮細胞のSEMA4D刺激は炎症誘発性サイトカインIL-8の産生をもたらすことができる(Yang,YH,et al.,PLoS One,6:e25826(2011)(非特許文献15))。
【0007】
最近の出版物は、がん及び神経炎症性/神経変性疾患の双方の治療における抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体またはその抗原結合断片)の有効性を実証している。たとえば、抗SEMA4D抗体であるVX15/2503による最近のフェーズI臨床試験は、固形腫瘍の治療における安全性及び有効性を実証した。たとえば、Patnaik,A.,et al.Clin.Cancer Res.22:827-836(2016)(非特許文献16)及びSouthwell,AL,et al.,Neurobiol.Dis76:46-56(2015)(非特許文献17)を参照のこと。しかしながら、たとえば、結合特性、免疫原性及び/または効力に関して改変された及び/または改善された特性を持つ追加の抗SEMA4D抗体に対するニーズが残っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Suzuki,et al.,Nature Rev.Immunol.3:159-167(2003);Kikutani,et al.,Nature Immunol.9:17-23(2008)
【非特許文献2】Ch’ng,et al.,Cancer,110:164-72(2007)
【非特許文献3】Campos,et al.,Oncology Letters,5:1527-35(2013)
【非特許文献4】Kato,et al.,Cancer Sci.102:2029-37(2011)
【非特許文献5】Conrotto,et al.,Blood,105:4321-4329(2005)
【非特許文献6】Basile,et al.,J.Biol.Chem.282:34888-34895(2007)
【非特許文献7】Sierra,et.al.J.Exp.Med.205:1673(2008)
【非特許文献8】Zhou,et al.,Angiogenesis,15:391-407(2012)
【非特許文献9】Evans,et al.,Cancer Immunol.Res.3:689-701(2015)
【非特許文献10】Okuno,T.,et al.,J.Immunol.184:1499-1506(2010)
【非特許文献11】Swiercz,et al.,Neuron,35:51-63(2002)
【非特許文献12】Paradis,et al.,Neuron,53:217-232(2007)
【非特許文献13】Kumanogoh,A et al.,Immunity,13:621-631(2000)
【非特許文献14】Okuno,T.,et al.,J.Immunol.184:1499-1506(2010)
【非特許文献15】Yang,YH,et al.,PLoS One,6:e25826(2011)
【非特許文献16】Patnaik,A.,et al.Clin.Cancer Res.22:827-836(2016)
【非特許文献17】Southwell,AL,et al.,Neurobiol.Dis76:46-56(2015)
【発明の概要】
【0009】
概要
本開示は、セマフォリン4D(SEMA4D)の病理に関連する疾患(たとえば、自己免疫疾患、炎症性疾患、がん、神経炎症性疾患、及び神経変性疾患)を治療するための組成物及び方法を提供する。本明細書で説明されている本開示の態様によれば、SEMA4Dに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片が提供される。本明細書で説明されている本開示の他の態様によれば、SEMA4Dに特異的に結合し、且つSEMA4D活性を中和する抗体または抗原結合断片の有効量を対象に投与することを含む、自己免疫疾患、炎症性疾患、がん、神経炎症性疾患及び神経変性疾患の対象を治療する方法が提供される。
【0010】
特定の態様では、SEMA4Dに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片は重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含み、ここで、VHは、それぞれ配列番号2、配列番号3、及び配列番号4と同一のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、及びHCDR3を含むか、またはHCDRのうちの1つ、2つ、または3つすべてにおける1つ、2つ、3つ、または4つのアミノ酸置換を除いてそれと同一のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、及びHCDR3を含み、VLは、それぞれ配列番号6、配列番号7、及び配列番号8と同一のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(LCDR)LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含むか、またはLCDRのうちの1つ、2つ、または3つすべてにおける1つ、2つ、3つ、または4つのアミノ酸置換を除いてそれと同一のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(LCDR)LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含む。
【0011】
特定の態様では、抗SEMA4D抗体またはその抗原結合断片は、それぞれ配列番号2、配列番号3、及び配列番号4と同一のアミノ酸配列を含むVH相補性決定領域HCDR1、HCDR2、及びHCDR3を含み、且つそれぞれ配列番号6、配列番号7、及び配列番号8と同一のアミノ酸配列を含むVL相補性決定領域LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含む。
【0012】
特定の態様では、抗SEMA4D抗体またはその抗原結合断片は、フレームワーク領域(HFW)HFW1、HFW2、HFW3、及びHFW4を含むVHと、フレームワーク領域(LFW)LFW1、LFW2、LFW3、及びLFW4を含むVLとを含む。特定の態様では、フレームワーク領域はヒト抗体または非ヒト抗体に由来することができる。
【0013】
特定の態様では、抗SEMA4D抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のアミノ酸配列を含むVHを含む。特定の態様では、抗SEMA4D抗体またはその抗原結合断片は配列番号5のアミノ酸配列を含むVLを含む。特定の態様では、抗SEMA4D抗体またはその抗原結合断片はそれぞれ配列番号1のアミノ酸配列及び配列番号5を含むVH及びVLを含む。
【0014】
特定の態様では、本明細書で提供される抗SEMA4D抗体またはその抗原結合断片のVHは、配列番号1と少なくとも80%、85%、90%、95%、または100%同一のアミノ酸配列を含む。特定の態様では、本明細書で提供される抗SEMA4D抗体またはその抗原結合断片のVLは、配列番号5と少なくとも80%、85%、90%、95%、または100%同一のアミノ酸配列を含む。特定の態様では、VHは、配列番号1と少なくとも80%、85%、90%、95%、または100%同一のアミノ酸配列を含むことができ、且つVLは、配列番号5と少なくとも80%、85%、90%、95%、または100%同一のアミノ酸配列を含むことができる。
【0015】
特定の態様では、本明細書で提供される抗SEMA4D抗体またはその断片は、VHのC末端に融合される重鎖定常領域またはその断片を含む。特定の態様では、重鎖定常領域またはその断片は、ヒトの重鎖定常領域である。特定の態様では、重鎖定常領域またはその断片は、ヒトIgG4の定常領域であることができる。特定の態様では、重鎖定常領域またはその断片は、非ヒト定常領域である。特定の態様では、重鎖定常領域またはその断片は、マウスIgG1の定常領域である。特定の態様では、抗SEMA4D抗体またはその断片は、VHとVLとを含み、その際、軽鎖定常領域またはその断片はVLのC末端に融合される。特定の態様では、本明細書で提供される抗SEMA4D抗体またはその断片は、VLのC末端に融合される軽鎖定常領域またはその断片を含む。特定の態様では、軽鎖定常領域は、ヒト軽鎖定常領域、たとえば、ヒトのラムダまたはカッパ軽鎖定常領域である。特定の態様では、軽鎖定常領域は、非ヒト軽鎖定常領域、たとえば、マウスのラムダ軽鎖定常領域である。
【0016】
特定の態様では、本明細書で提供される抗SEMA4D抗体またはその断片は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fd断片、単鎖Fv断片(scFv)、またはジスルフィド結合Fv断片(sdFv)であることができる。特定の態様では、抗SEMA4D抗体またはその断片は多重特異性、たとえば、二重特異性であることができる。
【0017】
特定の態様では、本明細書で提供される抗SEMA4D抗体またはその断片は、ヒトSEMA4D、マウスSEMA4D、ラットSEMA4D、及び/または非ヒト霊長類SEMA4D、たとえば、カニクイザルSEMA4D及び/またはマーモセットSEMA4Dに特異的に結合することができる。特定の態様では、本明細書で提供される抗SEMA4D抗体またはその断片は、500nM以下、100nM以下、50.0nM以下、40.0nM以下、30.0nM以下、20.0nM以下、10.0nM以下、9.0nM以下、8.0nM以下、7.0nM以下、6.0nM以下、5.0nM以下、4.0nM以下、3.0nM以下、2.0nM以下、1.0nM以下、0.50nM以下、0.10nM以下、0.050nM以下、0.01nM以下、0.005nM以下、または0.001nM以下の解離定数KDを特徴とする親和性でSEMA4D、たとえば、ヒトSEMA4D、マウスSEMA4D、ラットSEMA4D、及び/または非ヒト霊長類SEMA4D、たとえば、カニクイザルSEMA4D及び/またはマーモセットSEMA4Dに結合することができる。
【0018】
特定の態様では、本明細書で提供される抗SEMA4D抗体またはその断片は、SEMA4DがSEMA4D受容体、たとえば、プレキシン-B1、プレキシン-B2、CD72、またはそれらの組み合わせに結合するのを阻害することができる。
【0019】
特定の態様では、抗SEMA4D抗体またはその断片は、対象への投与の際、最少限の抗抗体免疫応答を引き起こすか、またはそれを引き起こさない。
【0020】
特定の態様では、抗SEMA4D抗体またはその断片は、それに融合またはコンジュゲートされている異種部分を含む。特定の態様では、異種部分は、たとえば、ポリペプチド、細胞傷害剤、治療剤、プロドラッグ、脂質、糖質、核酸、検出できる標識、ポリマーまたはそれらの組み合わせであることができる。特定の態様では、異種部分には、結合分子、酵素、サイトカイン、リンホカイン、ホルモンペプチド、またはそれらの組み合わせを挙げることができる。別の態様では、異種部分には、放射性核種、生物毒素、酵素活性がある毒素、またはそれらの組み合わせを挙げることができる。別の態様では、異種部分には、酵素、蛍光標識、化学発光標識、生物発光標識、放射性標識またはそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0021】
特定の態様では、本開示は、本明細書で提供される抗SEMA4D抗体またはその断片とキャリアとを含む医薬組成物を提供する。
【0022】
特定の態様では、本開示は、抗SEMA4D抗体またはその断片をコードする1つまたは複数の核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせを提供する。別の態様では、ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせは、抗SEMA4D抗体またはその断片のVHをコードする核酸配列を含む。別の態様では、ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせは、抗SEMA4D抗体またはその断片のVLをコードする核酸配列を含む。別の態様では、ポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせは、抗SEMA4D抗体またはその断片のVHとVLとをコードする核酸配列を含む。さらに別の態様では、本開示は、抗SEMA4D抗体またはその断片をコードする1つまたは複数の核酸配列を含むポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。別の態様では、本開示は、ベクターを含む宿主細胞を提供する。別の態様では、本開示は、抗SEMA4D抗体またはその断片を製造する方法を提供する。
【0023】
提供される方法の特定の態様では、抗SEMA4D抗体または抗原結合断片は、ヒト対象においてSEMA4Dを中和する。
【0024】
本明細書で説明されている態様によれば、本開示は、SEMA4Dに特異的に結合し、且つSEMA4Dの活性を中和する抗体またはその抗原結合断片の有効量を対象に投与することを含む、自己免疫疾患もしくは障害、炎症性疾患もしくは障害、がん、神経炎症性疾患もしくは障害、神経変性疾患もしくは障害、またはそれらの組み合わせの対象を治療する方法を提供する。特定の態様では、神経炎症性疾患または障害は多発性硬化症である。特定の態様では、神経変性疾患または障害は、脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋委縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連の認知障害、CNSループス、軽度認知障害、またはそれらの組み合わせである。特定の態様では、自己免疫疾患または炎症性疾患は関節炎である。特定の態様では、自己免疫疾患または炎症性疾患は関節リウマチである。
[本発明1001]
重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む、セマフォリン4D(SEMA4D)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
前記VHが、それぞれ配列番号2、配列番号3、及び配列番号4と同一、またはHCDRのうちの1つ、2つ、もしくは3つすべてにおける1つ、2つ、3つ、もしくは4つのアミノ酸置換を除いて同一のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、及びHCDR3を含み、且つ
前記VLが、それぞれ配列番号6、配列番号7、及び配列番号8と同一、またはLCDRのうちの1つ、2つ、もしくは3つすべてにおける1つ、2つ、3つ、もしくは4つのアミノ酸置換を除いて同一のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(LCDR)LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含む、
前記抗体またはその抗原結合断片。
[本発明1002]
前記HCDR1、HCDR2、及びHCDR3が、それぞれ配列番号2、配列番号3、及び配列番号4と同一のアミノ酸配列を含み、且つ前記LCDR1、LCDR2、及びLCDR3が、それぞれ配列番号6、配列番号7、及び配列番号8と同一のアミノ酸配列を含む、本発明1001の抗体またはその断片。
[本発明1003]
前記VHが、フレームワーク領域(HFW)HFW1、HFW2、HFW3、及びHFW4をさらに含み、且つ前記VLが、フレームワーク領域(LFW)LFW1、LFW2、LFW3、及びLFW4をさらに含む、本発明1001または1002の抗体またはその断片。
[本発明1004]
前記フレームワーク領域が、ヒト抗体に由来する、本発明1003の抗体またはその断片。
[本発明1005]
前記フレームワーク領域が、非ヒト抗体に由来する、本発明1003の抗体またはその断片。
[本発明1006]
前記VHが、配列番号1のアミノ酸配列を含む、本発明1001~1004のいずれかの抗体またはその断片。
[本発明1007]
前記VLが、配列番号5のアミノ酸配列を含む、本発明1001~1004のいずれかの抗体またはその断片。
[本発明1008]
前記VHが配列番号1のアミノ酸配列を含み、且つ前記VLが配列番号5のアミノ酸配列を含む、本発明1001~1004のいずれかの抗体またはその断片。
[本発明1009]
重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む、セマフォリン4D(SEMA4D)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
前記VHが、配列番号1と少なくとも80%、85%、90%、95%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、前記抗体またはその抗原結合断片。
[本発明1010]
前記VLが、配列番号5と少なくとも80%、85%、90%、95%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、本発明1009の抗体またはその断片。
[本発明1011]
重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む、セマフォリン4D(SEMA4D)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
前記VLが、配列番号5と少なくとも80%、85%、90%、95%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、前記抗体またはその抗原結合断片。
[本発明1012]
前記VLが、配列番号5と少なくとも80%、85%、90%、95%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、本発明1011の抗体またはその断片。
[本発明1013]
重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)を含む、セマフォリン4D(SEMA4D)に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片であって、
前記VHが、配列番号1と少なくとも80%、85%、90%、95%、または100%同一のアミノ酸配列を含み、且つ
前記VLが、配列番号5と少なくとも80%、85%、90%、95%、または100%同一のアミノ酸配列を含む、前記抗体またはその抗原結合断片。
[本発明1014]
前記VHが配列番号1のアミノ酸配列を含み、且つ前記VLが配列番号5のアミノ酸配列を含む、本発明1013の抗体またはその断片。
[本発明1015]
前記VHのC末端に融合されている重鎖定常領域またはその断片をさらに含む、本発明1001~1014のいずれかの抗体またはその断片。
[本発明1016]
前記重鎖定常領域またはその断片が、ヒト重鎖定常領域である、本発明1015の抗体またはその断片。
[本発明1017]
前記重鎖定常領域またはその断片が、ヒトIgG4定常領域である、本発明1016の抗体またはその断片。
[本発明1018]
前記重鎖定常領域またはその断片が、非ヒト重鎖定常領域である、本発明1015の抗体またはその断片。
[本発明1019]
前記重鎖定常領域またはその断片が、マウスIgG1定常領域である、本発明1018の抗体またはその断片。
[本発明1020]
前記VLのC末端に融合されている軽鎖定常領域またはその断片をさらに含む、本発明1001~1019のいずれかの抗体またはその断片。
[本発明1021]
前記軽鎖定常領域またはその断片が、ヒト軽鎖定常領域である、本発明1020の抗体またはその断片。
[本発明1022]
前記軽鎖定常領域またはその断片が、ヒトラムダ軽鎖定常領域である、本発明1021の抗体またはその断片。
[本発明1023]
前記軽鎖定常領域またはその断片が、非ヒト軽鎖定常領域である、本発明1020の抗体またはその断片。
[本発明1024]
前記軽鎖定常領域またはその断片が、マウスラムダ軽鎖定常領域である、本発明1023の抗体またはその断片。
[本発明1025]
Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fd断片、単鎖Fv断片(scFv)、またはジスルフィド結合Fv断片(sdFv)である、本発明1001~1024のいずれかの抗体またはその断片。
[本発明1026]
多重特異性である、本発明1001~1025のいずれかの抗体またはその断片。
[本発明1027]
ヒトSEMA4D、マウスSEMA4D、ラットSEMA4D、または非ヒト霊長類SEMA4Dに特異的に結合することができる、本発明1001~1026のいずれかの抗体またはその断片。
[本発明1028]
前記非ヒト霊長類SEMA4Dが、カニクイザルSEMA4DまたはマーモセットSEMA4Dである、本発明1027の抗体またはその断片。
[本発明1029]
前記抗体またはその断片が、500nM以下、100nM以下、50.0nM以下、40.0nM以下、30.0nM以下、20.0nM以下、10.0nM以下、9.0nM以下、8.0nM以下、7.0nM以下、6.0nM以下、5.0nM以下、4.0nM以下、3.0nM以下、2.0nM以下、1.0nM以下、0.50nM以下、0.10nM以下、0.050nM以下、0.01nM以下、0.005nM以下、または0.001nM以下の解離定数KDを特徴とする親和性でSEMA4Dに特異的に結合し、前記SEMA4Dが、ヒトSEMA4D、マウスSEMA4D、カニクイザルSEMA4D、マーモセットSEMA4D、またはそれらの組み合わせである、本発明1027または1028の抗体またはその断片。
[本発明1030]
SEMA4DのSEMA4D受容体への結合を阻害することができる、本発明1001~1029のいずれかの抗体またはその断片。
[本発明1031]
前記SEMA4D受容体が、プレキシン-B1、プレキシン-B2、CD72、またはそれらの組み合わせである、本発明1030の抗体またはその断片。
[本発明1032]
ヒト対象への投与時に抗抗体免疫応答を最少限にしか引き起こさないかまたは引き起こさない、本発明1001~1031のいずれかの抗体またはその断片。
[本発明1033]
前記抗体またはその断片に融合またはコンジュゲートされている異種部分をさらに含む、本発明1001~1032のいずれかの抗体またはその断片。
[本発明1034]
前記異種部分が、ポリペプチド、細胞傷害剤、治療剤、プロドラッグ、脂質、糖質、核酸、検出可能な標識、ポリマー、またはそれらの組み合わせを含む、本発明1033の抗体またはその断片。
[本発明1035]
前記ポリペプチドが、結合分子、酵素、サイトカイン、リンホカイン、ホルモンペプチド、またはそれらの組み合わせを含む、本発明1034の抗体またはその断片。
[本発明1036]
前記細胞傷害剤が、放射性核種、生物毒素、酵素活性がある毒素、またはそれらの組み合わせを含む、本発明1034の抗体またはその断片。
[本発明1037]
前記検出可能な標識が、酵素、蛍光標識、化学発光標識、生物発光標識、放射性標識、またはそれらの組み合わせを含む、本発明1034の抗体またはその断片。
[本発明1038]
本発明1001~1037のいずれかの抗体またはその断片と、キャリアとを含む、組成物。
[本発明1039]
本発明1001~1037のいずれかの抗体もしくはその断片またはそのサブユニットをコードする1つまたは複数の核酸配列を含む、単離されたポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせ。
[本発明1040]
前記抗体またはその断片のVHをコードする核酸配列を含む、本発明1039のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせ。
[本発明1041]
前記抗体またはその断片のVLをコードする核酸配列を含む、本発明1039のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせ。
[本発明1042]
前記抗体またはその断片のVHをコードする核酸配列と、前記抗体またはその断片のVLをコードする核酸配列とを含む、本発明1039のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせ。
[本発明1043]
前記VHをコードする核酸配列と前記VLをコードする核酸配列とが同一のベクター上に位置する、本発明1042のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせ。
[本発明1044]
本発明1043のベクター。
[本発明1045]
前記VHをコードする核酸配列と前記VLをコードする核酸配列とが別々のベクター上に位置する、本発明1042のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせ。
[本発明1046]
本発明1045のベクター。
[本発明1047]
前記抗体またはその断片の発現を可能にする遺伝因子をさらに含む、本発明1044または1046のベクター。
[本発明1048]
本発明1039~1043もしくは1045のいずれかのポリヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドの組み合わせを含むか、または本発明1044もしくは1046のベクターを含む、宿主細胞。
[本発明1049]
本発明1001~1037のいずれかの抗体またはその断片を製造する方法であって、
本発明1048の宿主細胞を培養することと、前記抗体またはその断片を回収することとを含む、前記方法。
[本発明1050]
ヒト対象においてSEMA4Dを中和する方法であって、本発明1001~1037のいずれかの抗体もしくはその断片または本発明1038の組成物を前記ヒト対象に投与することを含む、前記方法。
[本発明1051]
前記ヒト対象が、自己免疫疾患もしくは障害、炎症性疾患もしくは障害、がん、神経炎症性疾患もしくは障害、神経変性疾患もしくは障害、またはそれらの組み合わせについて治療を必要とする、本発明1050の方法。
[本発明1052]
前記神経炎症性疾患または障害が、多発性硬化症である、本発明1051の方法。
[本発明1053]
前記神経変性疾患または障害が、脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋委縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連の認知障害、CNSループス、軽度認知障害、またはそれらの組み合わせである、本発明1051の方法。
[本発明1054]
前記自己免疫疾患または前記炎症性疾患が関節炎である、本発明1051の方法。
[本発明1055]
前記自己免疫疾患または前記炎症性疾患が関節リウマチである、本発明1054の方法。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1Aは、ELISAによって測定したとき、ヒトSEMA4Dに対するMAbD2517及びMAbVX15/2503(双方ともPBSにて作成した)の結合を比較する図である。
図1Bは、ELISAによって測定したとき、カニクイザルSEMA4Dに対するMAbD2517及びMAbVX15/2503(双方ともPBSにて作成した)の結合を比較する図である。
図1Cは、ELISAによって測定したとき、マーモセットSEMA4Dに対するMAbD2517及びMAbVX15/2503(双方ともPBSにて作成した)の結合を比較する図である。
図1Dは、ELISAによって測定したとき、マウスSEMA4Dに対するMAbD2517及びMAbVX15/2503(双方ともPBSにて作成した)の結合を比較する図である。
【
図2A】MAbVX15/2503と比較したときのMAbD2517の、ヒトSEMA4Dが293PLXNB1細胞に結合するのを阻止する能力を示す図である。
【
図2B】MAbVX15/2503と比較したときのMAbD2517の、カニクイザルSEMA4Dが293PLXNB1細胞に結合するのを阻止する能力を示す図である。
【
図2C】MAbVX15/2503と比較したときのMAbD2517の、マウスSEMA4Dが293PLXNB1細胞に結合するのを阻止する能力を示す図である。
【
図2D】MAbVX15/2503と比較したときのMAbD2517の、ラットSEMA4Dが293PLXNB1細胞に結合するのを阻止する能力を示す図である。
【
図3A】対照マウスIgG1/2B8またはキメラ抗体MAbD2585(10mg/kg,IP,毎週×5)のいずれかで処理したBalb/cマウスにおける腫瘍体積の測定値を示す図である。
【
図3B】対照マウスIgG1/2B8またはキメラ抗体MAbD2585のいずれかで処理したBalb/cマウスの生存期間を示す図である。
【
図3C】対照マウスIgG1/2B8またはキメラ抗体MAbD2585のいずれかで処理したBalb/cマウスにおける腫瘍退縮の頻度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
定義
用語「a」または「an」の実体は、その実体の1以上を指し;たとえば、「結合分子」は1以上の結合分子を表すように理解されることが言及されるべきである。そのようなものとして、用語「a」(または「an」)、「1以上の」及び「少なくとも1」は本明細書では相互交換可能に使用することができる。
【0027】
さらに、「及び/または」は、本明細書で使用される場合、他の有無にかかわらず、2つの特定された特徴または成分のそれぞれの具体的な開示として解釈されるべきである。従って、用語「及び/または」が「A及び/またはB」のような語句で使用されるとき、「A及びB」、「AまたはB」、「A」(単独)及び「B」(単独)を含むように意図される。同様に、用語「及び/または」が、たとえば、「A、B及び/またはC」のような語句で使用されるとき、以下の実施形態:A、B及びC;A、BまたはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独)、B(単独)、ならびにC(単独)のそれぞれを包含するように意図される。
【0028】
特に定義されない限り、本明細書で使用される専門用語及び科学用語は、本開示が関係する当該技術の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。たとえば、the Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology,Juo,Pei-Show,2nd ed.,2002,CRC Press;The Dictionary of Cell and Molecular Biology,3rd ed.,1999,Academic Press;及びthe Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology,Revised,2000,Oxford University Pressは当業者に本開示で使用されている用語の多くの一般的な辞書を提供する。
【0029】
単位、接頭辞、及び記号は、国際単位系(SI)が受け入れた形態で示される。数的範囲は、範囲を定義する数を含む。指示されない限り、アミノ酸配列は、アミノ方向からカルボキシ方向に左から右に記述される。本明細書で提供される見出しは、種々の態様または本開示の態様の限定ではなく、それは全体として本明細書を参照することよって得ることができる。従って、直後に定義される用語は、全体として明細書を参照してさらに完全に定義される。
【0030】
実施形態が言語「含む(comprising)」を用いて記載される場合は必ず、用語「から成る(consisting of)」及び/または「から本質的に成る(consisting essentially of)」で記載される別の類似の実施形態も提供される。
【0031】
アミノ酸は、IUPAC-IUB生化学命名法委員会によって推奨されている一般に知られる3文字記号または1文字記号によって本明細書で言及される。ヌクレオチドは同様に一般に受け入れられている1文字コードによって言及される。
【0032】
本明細書で使用されるとき、用語「がん」及び「がん性の」は、細胞の集団が無秩序な細胞増殖を特徴とする哺乳類における生理的状態を指す、または記載する。がんは、たとえば、固形腫瘍もしくは固形悪性腫瘍、または血液癌もしくは血液悪性腫瘍として分類することができる。双方の型は転移として遠隔部に移動することができる。固形腫瘍は、たとえば、肉腫、癌腫、黒色腫またはそれらの転移として分類することができる。
【0033】
「腫瘍」及び「新生物」は、本明細書で使用されるとき、過剰な細胞の成長または増殖から生じる、前癌病変を含む良性(非がん性)または悪性(がん性)の組織の塊を指す。特定の実施形態では、本明細書に記載されている腫瘍は、SEMA4D受容体、たとえば、プレキシン-B1、プレキシン-B2、及び/もしくはCD72を発現し、かつ/またはSEMA4Dを発現することができる。
【0034】
本明細書で使用されるとき、用語「ポリペプチド」は、単一の「ポリペプチド」と同様に複数の「ポリペプチド」を包含するように意図され、アミド結合(ペプチド結合としても知られる)によって線状に連結された単量体(アミノ酸)の分子化合物を指す。用語「ポリペプチド」は、2以上のアミノ酸の鎖(単数)または鎖(複数)を指し、生成物の特定の長さを指さない。従って、2以上のアミノ酸の鎖(単数)または鎖(複数)を指すのに使用されるペプチド、ジペプチド、トリペプチド、オリゴペプチド、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」または他の用語は、「ポリペプチド」の定義の範囲内に含まれ、用語「ポリペプチド」は、これらの用語のいずれかの代わりにまたはそれと相互交換可能に使用することができる。用語「ポリペプチド」は、限定しないで、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、及び既知の保護基/ブロッキング基、タンパク分解による切断、または天然に存在しないアミノ酸による修飾による誘導体化を含むポリペプチドの発現後修飾の生成物を指すようにも意図される。ポリペプチドは生物起源に由来することができ、または組換え技術によって生産することができるが、必ずしも指定された核酸配列から翻訳されない。それは化学合成を含めてどんな方法でも生成することができる。
【0035】
本明細書で開示されているようなポリペプチドは、約3以上、5以上、10以上、20以上、25以上、50以上、75以上、100以上、200以上、500以上、1,000以上、または2,000以上のアミノ酸のサイズであることができる。ポリペプチドは、必ずしもそのような構造を有さないが、定義された三次元構造を有することができる。定義された三次元構造を持つポリペプチドは折り畳まれたと呼ばれ、定義された三次元構造を持たないが、むしろ多くの異なる構造を採用することができるポリペプチドは折り畳まれないと呼ばれる。本明細書で使用されるとき、用語、糖タンパク質は、アミノ酸、たとえば、セリンまたはアスパラギンの酸素含有側鎖または窒素含有側鎖を介してタンパク質に連結される少なくとも1つの糖質部分に結合したタンパク質を指す。
【0036】
「単離された」ポリペプチドまたはその断片、変異体、もしくは誘導体によって、自然環境にないポリペプチドが意図される。特定のレベルの精製は要求されない。たとえば、単離されたポリペプチドはネイティブまたは天然の環境から取り出すことができる。宿主細胞で発現する組換え産生されたポリペプチド及びタンパク質は、好適な技法によって分離され、分画され、または部分的にもしくは実質的に精製されているネイティブまたは組換えのポリペプチドと同様に本明細書で開示されているように単離されたと見なされる。
【0037】
本明細書で使用されるとき、用語「天然に存在しないポリペプチド」またはその文法的な変形は、判定者または行政機関または裁判機関によって「天然に存在する」と判定されもしくは解釈されているまたは判定されもしくは解釈されてもよいポリペプチドの形態を明白に排除するが、単に排除するに過ぎない条件付き定義である。
【0038】
本明細書で開示されている他のポリペプチドは、前述のポリペプチドの断片、誘導体、類似体または変異体、及びそれらの組み合わせである。本明細書で開示されているような用語「断片」、「変異体」、「誘導体」、及び「類似体」には、たとえば、抗原に特異的に結合する相当するネイティブの抗体またはポリペプチドの特性の少なくとも一部を保持するポリペプチドが含まれる。ポリペプチドの断片には、本明細書のどこか他で議論されている特異的な抗体断片に加えて、たとえば、タンパク分解断片と同様に欠失断片が挙げられる。たとえば、ポリペプチドの変異体には、上記に記載されているような断片、及びアミノ酸の置換、欠失または挿入のせいで変化したアミノ酸配列を持つポリペプチドも挙げられる。特定の態様では、変異体は天然に存在することができない。天然に存在しない変異体は当該技術で既知の変異誘発法を用いて生産することができる。変異体ポリペプチドは、保存的なまたは非保存的なアミノ酸の置換、欠失または付加を含むことができる。誘導体は、元々のポリペプチドに見いだされない追加の特徴を示すように変えられているポリペプチドである。例には融合タンパク質が挙げられる。変異体ポリペプチドは本明細書では「ポリペプチド類似体」とも呼ばれ得る。本明細書で使用されるとき、ポリペプチドの「誘導体」は機能的な側基の反応によって化学的に誘導体化された1以上のアミノ酸を有する主題のポリペプチドを指すこともできる。「誘導体」として挙げられるのはまた、20の標準アミノ酸の1以上の誘導体を含有するそれらペプチドである。たとえば、プロリンを4-ヒドロキシプロリンで置換することができ;リシンを5-ヒドロキシリシンで置換することができ;ヒスチジンを3-メチルヒスチジンで置換することができ;セリンをホモセリンで置換することができ;及びリシンをオルニチンで置換することができる。
【0039】
「保存的アミノ酸置換」は、1つのアミノ酸が類似の側鎖を有する別のアミノ酸で置き換えられるものである。類似の側鎖を有するアミノ酸のファミリーは、塩基性側鎖(たとえば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(たとえば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(たとえば、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(たとえば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分岐側鎖(たとえば、スレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(たとえば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含めて当該技術で定義されている。たとえば、チロシンに代わるフェニルアラニンの置換は保存的置換である。特定の実施形態では、本開示のポリペプチド及び抗体の配列における保存的置換は、そのアミノ酸配列を含有するポリペプチドまたは抗体の、結合分子が結合する抗原への結合を無効にはしない。抗原結合を解消しないヌクレオチド及びアミノ酸の保存的置換を同定する方法は当該技術で周知である(たとえば、Brummell,et al.,Biochem.32:1180-1,187(1993);Kobayashi,et al.,Protein Eng.12(10):879-884(1999);及びBurks,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,94:.412-417(1997)を参照のこと)。
【0040】
用語「ポリヌクレオチド」は、単数の核酸と同様に複数の核酸を包含するように意図され、単離された核酸の分子または構築物、たとえば、メッセンジャーRNA(mRNA)、cDNAまたはプラスミドDNA(pDNA)を指す。ポリヌクレオチドは、従来のホスホジエステル結合または従来ではない結合(たとえば、ペプチド核酸(PNA)に見いだされるアミド結合)を含むことができる。用語「核酸」または「核酸配列」はポリヌクレオチドに存在する任意の1以上の核酸セグメント、たとえば、DNAまたはRNAの断片を指す。
【0041】
「単離された」核酸またはポリヌクレオチドによって、天然環境から分離されている核酸またはポリヌクレオチドの形態が意図される。たとえば、ベクターに含有されるポリペプチドをコードするゲル精製したポリヌクレオチドまたは組換えポリヌクレオチドは「単離されている」と見なされる。また、クローニングのための制限部位を有するように操作されているポリヌクレオチドセグメント、たとえば、PCR産物は「単離されている」と見なされる。単離されたポリヌクレオチドのさらなる例には、異種宿主細胞で維持される組換えポリヌクレオチドまたは、たとえば、緩衝液もしくは生理食塩水のようなネイティブではない溶液における(部分的にまたは実質的に)精製されたポリヌクレオチドが挙げられる。単離されたRNA分子には、ポリヌクレオチドのインビボまたはインビトロでのRNA転写物が挙げられ、その際、転写物は自然界で見いだされるものではない。単離されたポリヌクレオチドまたは核酸にはさらに、合成で製造されたそのような分子が挙げられる。加えて、ポリヌクレオチドまたは核酸は、たとえば、プロモーター、リボソーム結合部位または転写ターミネーターのような調節要素であることができ、またはそれを含むことができる。
【0042】
本明細書で使用されるとき、用語「天然に存在しないポリヌクレオチド」またはその文法的な変形は、判定者または行政機関または裁判機関によって「天然に存在する」と判定されもしくは解釈されているまたは判定されもしくは解釈されてもよい核酸またはポリヌクレオチドの形態を明白に排除するが、単に排除するに過ぎない条件付き定義である。
【0043】
本明細書で使用されるとき、「コーディング領域」は、アミノ酸に翻訳されるコドンから成る核酸の部分である。「停止コドン」(TAG、TGAまたはTAA)はアミノ酸に翻訳されないが、それはコーディング領域の一部であると見なすことができ、しかし、隣接配列、たとえば、プロモーター、リボソーム結合部位、転写ターミネーター、イントロン、等はコーディング領域の一部ではない。2以上のコーディング領域は、たとえば、単一ベクターでの単一ポリヌクレオチド構築物にて、または、たとえば、別々の(異なる)ベクターでの別々のポリヌクレオチド構築物にて存在することができる。さらに、ベクターは、単一のコーディング領域を含有することができ、または2以上のコーディング領域を含むことができ、たとえば、単一のベクターが免疫グロブリン重鎖可変領域と免疫グロブリン軽鎖可変領域とを別々にコードすることができる。加えて、ベクター、ポリヌクレオチドまたは核酸は、別のコーディング領域に融合しているまたは融合していない異種のコーディング領域を含むことができる。異種のコーディング領域には限定しないで、特定された要素またはモチーフ、たとえば、分泌シグナルペプチドまたは異種の機能性ドメインをコードするものが挙げられる。
【0044】
特定の実施形態では、ポリヌクレオチドまたは核酸はDNAである。DNAの場合、ポリペプチドをコードする核酸を含むポリヌクレオチドは普通、1以上のコーディング領域と操作可能に結合されたプロモーター及び/または他の転写もしくは翻訳の制御要素を含むことができる。操作可能な結合は、遺伝子産物の発現を調節配列の影響下または制御下に置くような方法で、遺伝子産物、たとえば、ポリペプチドのためのコーディング領域を1以上の調節配列と結合する場合である。プロモーター機能の誘導が所望の遺伝子産物をコードするmRNAの転写を生じるならば、且つ2つのDNA断片間の結合の性質が遺伝子産物の発現を指図する発現調節配列の能力を妨害しなければ、または転写されるDNA鋳型の能力を妨害しなければ、2つのDNA断片(たとえば、ポリペプチドのコーディング領域とそれに結合するプロモーター)は「操作可能に結合されている」。従って、プロモーターがポリペプチドをコードする核酸の転写を達成することができたのであれば、プロモーター領域はその核酸と操作可能に結合されていることになる。プロモーターは、所定の細胞にてDNAの実質的な転写を指図する細胞特異的なプロモーターであることができる。プロモーターに加えて他の転写制御要素、たとえば、エンハンサー、オペレーター、リプレッサー、及び転写終結シグナルはポリヌクレオチドと操作可能に結合されて細胞特異的な転写を指図することができる。
【0045】
種々の転写制御領域が当業者に知られている。これらには限定しないで、たとえば、サイトメガロウイルス(イントロンAと併せて、前初期プロモーター)、サルウイルス40(初期プロモーター)及びレトロウイルス(たとえば、ラウス肉腫ウイルス)に由来するプロモーター及びエンハンサーのセグメントのような、しかし、これらに限定されない脊椎動物細胞で機能する転写制御領域が挙げられる。他の転写制御領域には、たとえば、アクチン、熱ショックタンパク質、ウシ成長ホルモン及びウサギβグロビンのような脊椎動物遺伝子に由来するもの、ならびに真核細胞で遺伝子発現を制御することができる他の配列が挙げられる。追加の好適な転写制御領域には、組織特異的なプロモーター及びエンハンサー、ならびにリンホカイン誘導性のプロモーター(たとえば、インターフェロンまたはインターロイキンによって誘導できるプロモーター)が挙げられる。
【0046】
同様に、種々の翻訳制御要素が当業者に知られている。これらには、リボソーム結合部位、翻訳開始及び終結のコドン、ならびにピコルナウイルスに由来する要素(特にCITE配列とも呼ばれる内部リボソーム進入部位またはIRES)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
他の実施形態では、ポリヌクレオチドは、RNA、たとえば、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA、またはリボソームRNAの形態であることができる。
【0048】
ポリヌクレオチド及び核酸のコーディング領域は、本明細書で開示されているようなポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの分泌を指図する、分泌ペプチドまたはシグナルペプチドをコードする追加のコーディング領域と結合することができる。シグナル仮説によれば、哺乳類細胞によって分泌されるタンパク質は、粗面小胞体を横切る成長しているタンパク質鎖の排出がいったん開始されると成熟タンパク質から切断されるシグナルペプチドまたは分泌リーダー配列を有する。当業者は、脊椎動物細胞から分泌されるポリペプチドがポリペプチドのN末端に融合されているシグナルペプチドを有することができ、それは完全なまたは「完全長」のポリペプチドから切断されてポリペプチドの分泌された形態または「成熟」形態を生じることを承知している。特定の実施形態では、ネイティブのシグナルペプチド、たとえば、免疫グロブリン重鎖または軽鎖のシグナルペプチド、またはそれに操作可能に結合されるポリペプチドの分泌を指図する能力を保持するその配列の機能的誘導体が使用される。あるいは、異種哺乳類のシグナルペプチド、またはその機能的誘導体を使用することができる。たとえば、野生型リーダー配列をヒト組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)またはマウスβ-グルクロニダーゼのリーダー配列で置き換えることができる。
【0049】
本明細書で開示されるのは、特定の結合分子または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体である。完全サイズの抗体を具体的に言及しない限り、用語「結合分子」は、完全サイズの抗体、ならびにそのような抗体の抗原に結合するサブユニット、断片、変異体、類似体、または誘導体、たとえば、抗体分子に類似した様式で抗原に結合するが異なる足場を使用する、操作された抗体分子または断片を包含する。
【0050】
本明細書で使用されるとき、用語「結合分子」は、その最も広い意味で、受容体、たとえば、エピトープまたは抗原決定基に特異的に結合する分子を指す。本明細書にさらに記載されているように、結合分子は、本明細書に記載されている1以上の「抗原結合ドメイン」を含むことができる。結合分子の非限定例は抗体または抗原特異的結合を保持するその断片である。
【0051】
本明細書で使用されるとき、用語「結合ドメイン」または「抗原結合ドメイン」は、エピトープに特異的に結合するのに必要で且つ十分な結合分子の領域を指す。たとえば、「Fv」、たとえば、抗体の可変重鎖及び可変軽鎖は2つの別々のポリペプチドサブユニットまたは単鎖として「結合ドメイン」であると見なされる。他の結合ドメインには限定しないで、ラクダ種に由来する抗体の可変重鎖(VHH)、またはフィブロネクチンの足場で発現する6つの免疫グロブリン相補性決定領域(CDR)が挙げられる。本明細書に記載されているような「結合分子」は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12以上の「抗原結合ドメイン」を含むことができる。
【0052】
用語「抗体」及び「免疫グロブリン」は、本明細書では相互交換可能に使用することができる。抗体(または本明細書で開示されているようなその断片、変異体、もしくは誘導体)は、少なくとも重鎖の可変領域(ラクダ種について)または少なくとも重鎖及び軽鎖の可変領域を含む。脊椎動物系の基本的な免疫グロブリンの構造は相対的によく理解されている。たとえば、Harlow,et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988)を参照のこと。特に述べられない限り、用語「抗体」は、抗体の小さな抗原結合断片から完全サイズの抗体に及ぶどんなものでも、たとえば、2本の完全な重鎖と2本の完全な軽鎖を含むIgG抗体、4本の完全な重鎖と4本の完全な軽鎖とを含み、且つ任意でJ鎖及び/または分泌成分を含むIgA抗体、または10もしくは12本の完全な重鎖と10もしくは12本の完全な軽鎖とを含み、且つ任意でJ鎖を含むIgM抗体を包含する。
【0053】
以下でさらに詳細に議論するように、用語「免疫グロブリン」は、生化学的に区別することができる種々の広いクラスのポリペプチドを含む。当業者は、重鎖がそれらの間での幾つかのサブクラス(たとえば、γ1~γ4またはα1~α2)と共にガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはイプシロン(γ、μ、α、δ、ε)として分類されることを十分に理解するであろう。それは、それぞれIgG、IgM、IgA、IgGまたはIgEとして抗体の「クラス」を決定するこの鎖の性質である。免疫グロブリンのサブクラス(アイソタイプ)、たとえば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、等は、よく特徴付けられており、機能的な特殊化を付与することが知られている。これらのクラス及びアイソタイプのそれぞれの修飾された型は、本開示から見て技量のある熟練者には容易に認識でき、従って本開示の範囲内にある。
【0054】
軽鎖は、カッパまたはラムダ(κ、λ)のいずれかとして分類される。各重鎖は、カッパ軽鎖またはラムダ軽鎖のいずれかと結合することができる。一般に、軽鎖及び重鎖は互いに共有結合し、2つの重鎖の「尾」部は、免疫グロブリンがハイブリドーマ、B細胞、または遺伝子操作された宿主細胞のいずれかによって生成される場合、共有ジスルフィド結合または非共有結合によって互いに結合される。重鎖では、アミノ酸配列は、Y形状の分岐した末端でのN末端から各鎖の底でのC末端までである。特定の抗体、たとえば、IgG抗体の基本構造は、ジスルフィド結合を介して共有結合して本明細書では「H2L2」構造とも呼ばれる「Y」構造を形成する2つの重鎖サブユニット及び2つの軽鎖サブユニットを含む。
【0055】
軽鎖及び重鎖は双方とも、構造的な且つ機能的な相同性の領域に分けられる。用語「定常」及び「可変」は機能的に使用される。この点で、可変軽鎖(VL)部分と可変重鎖(VH)部分双方の可変領域は抗原認識及び特異性を決定する。逆に、軽鎖(CL)及び重鎖(CH1、CH2またはCH3)の定常領域は、たとえば、分泌、経胎盤移動性、Fc受容体結合、補体結合、等のような生物学的特性を付与する。慣例により、定常領域の番号付けは、それらが抗体の抗原結合部位またはアミノ末端から遠くなるにつれて増える。N末端部分は可変領域であり、C末端部分は定常領域であり;CH3(IgMの場合CH4)及びCLのドメインは実際それぞれ重鎖及び軽鎖のカルボキシ末端を含む。
【0056】
上記で示したように、可変領域(すなわち、「結合ドメイン」)は、結合分子が抗原上のエピトープを選択的に認識し、特異的に結合できるようにする。すなわち、結合分子、たとえば、抗体のVL領域とVH領域、または相補性決定領域(CDR)のサブセットが一緒になって三次元の抗原結合部位を規定する可変領域を形成する。さらに具体的には、抗原結合部位は、VH鎖及びVL鎖のそれぞれにおける3つのCDRによって規定される。特定の抗体は、さらに大きな構造を形成する。たとえば、IgAは、すべてジスルフィド結合を介して共有結合する2つのH2L2単位とJ鎖と分泌成分とを含む分子を形成することができ、IgMは、ジスルフィド結合を介して共有結合する5または6のH2L2単位と任意でJ鎖とを含む五量体または六量体の分子を形成することができる。
【0057】
抗体の抗原結合ドメインに存在する6つの「相補性決定領域」または「CDR」は、抗体が水性環境ではその三次元配置を前提としているので、特異的に配置されて結合ドメインを形成するアミノ酸の短い不連続の配列である。「フレームワーク」領域と呼ばれる、結合ドメインにおけるアミノ酸の残りは、少ない分子間可変性を示す。フレームワーク領域は大部分βシート構造を採用し、CDRは接続するループを形成し、場合によってはβシート構造の一部を形成する。従って、フレームワーク領域は、鎖間非共有結合性相互作用によって正しい方向性でCDRを配置することを提供する足場を形成するように作用する。配置されたCDRによって形成される結合ドメインは、免疫反応性抗原上のエピトープに対する表面相補性を規定する。この相補性表面が抗体のその同族エピトープへの非共有結合を促進する。それらは種々の異なる方法で定義されているので、CDR及びフレームワーク領域をそれぞれ構成するアミノ酸は、所与の重鎖または軽鎖の可変領域について当業者によって容易に同定され得る(全体として参照によって本明細書に組み入れられる “Sequences of Proteins of Immunological Interest,”Kabat,E.,et al.,U.S.Department of Health and Human Services,(1983);ならびにChothia及びLesk,JMol.Biol.,196:901-917(1987)を参照のこと)。
【0058】
当該技術の範囲内で使用され及び/または受け入れられている用語の定義が2以上ある場合、本明細書で使用される用語の定義は、それとは反対に明白に述べられない限り、そのような意味すべてを含むように意図される。具体例は、重鎖及び軽鎖のポリペプチド双方の可変領域内で見いだされる不連続の抗原結合部位を記載するための用語「相補性決定領域」(「CDR」)の使用である。これらの特定の領域は、たとえば、参照によって本明細書に組み入れられるKabat,et al.,U.S.Dept,of Health and Human Services,“Sequences of Proteins of Immunological Interest”(1983)によって及びChothia,et al.,J.Mol.Biol.196:901-917(1987)によって記載されている。Kabat及びChothiaの定義は、互いに対して比べると、アミノ酸の重複またはサブユニットを含む。にもかかわらず、抗体のCDRまたはその変異体を指すためのいずれかの定義(または当業者に既知の他の定義)の適用は、特に指示されない限り、本明細書で定義され、使用されるような用語の範囲内にあるように意図される。上記引用文献のそれぞれによって定義されたようなCDRを包含する適当なアミノ酸を比較として表1にて以下に示す。特定のCDRを包含する正確なアミノ酸番号は、CDRの配列及びサイズに応じて変化するであろう。当業者は、抗体の可変領域アミノ酸配列を前提としてどのアミノ酸が特定のCDRを構成するのかを日常的に決定することができる。
【0059】
(表1)CDRの定義
1
1表1におけるCDRの定義すべての番号付けは、Kabat,et al.(以下を参照のこと)によって示された番号付けの慣例に従う。
【0060】
免疫グロブリンの可変領域は、CDRを含む可変領域のセグメントを同定するためのIMGT情報システム(www://imgt.cines.fr/)(IMGT(登録商標)/V-Quest)を用いて解析することもできる。たとえば、Brochet,X.et al.,NuclAcids Res. 36:W503-508(2008)を参照のこと。
【0061】
Kabat,et al.は、どんな抗体にも適用できる可変領域配列についての番号付け方式も定義した。当業者は、配列自体を超える実験データを当てにしないで「Kabatの番号付け」のこの方式を任意の可変領域配列に明確に割り当てることができる。本明細書で使用されるとき、「Kabatの番号付け」は、Kabat,et al.,U.S.Dept,of Health and Human Services,“Sequence of Proteins of Immunological Interest”(1983)によって示された番号付け方式を指す。しかしながら、Kabatの番号付け方式の使用が明白に言及されない限り、本開示におけるアミノ酸配列すべてには連続的な番号付けが使用される。
【0062】
結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体、単鎖抗体、エピトープ結合断片、たとえば、Fab、Fab’及びF(ab’)2、Fd、Fv、単鎖Fv(scFv)、単鎖抗体、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、VL領域またはVH領域を含む断片、Fab発現ライブラリによって作られる断片が挙げられるが、これらに限定されない。scFv分子は当該技術で既知であり、米国特許第5,892,019号に記載されている。本開示によって包含される免疫グロブリンまたは抗体の分子は、免疫グロブリン分子の任意の型(たとえば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)、クラス(たとえば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)、またはサブクラスであることができる。
【0063】
「特異的に結合する」によって、結合分子(たとえば、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体)が抗原結合ドメインを介してエピトープに結合し、結合が抗原結合ドメインとエピトープの間でのいくらかの相補性を必然的に伴うことを一般的に意味する。この定義によれば、結合分子が無作為で無関係なエピトープに結合するよりも素早くその抗原結合ドメインを介してエピトープに結合する場合、結合分子は、そのエピトープに「特異的に結合する」と言われる。用語「特異的に」は、それによって特定の結合分子が特定のエピトープに結合する相対的親和性を限定するのに本明細書で使用される。たとえば、結合分子「A」は結合分子「B」よりも所与のエピトープについて高い特異性を有すると考えられることができ、または結合分子「A」はそれが関連するエピトープ「D」について有するよりも高い特異性でエピトープ「C」に結合すると言われ得る。
【0064】
本明細書で開示されている結合分子(たとえば、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体)は、5×10-2秒-1、10-2秒-1、5×10-3秒-1、10-3秒-1、5×10-4秒-1、10-4秒-1、5×10-5秒-1、または10-5秒-1、5×10-6秒-1、10-6秒-1、5×10-7秒-1、または10-7秒-1以下のオフ速度(k(オフ))で標的抗原に結合すると言われ得る。
【0065】
本明細書で開示されている結合分子(たとえば、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体)は、103M-1秒-1、5×103M-1秒-1、104M-1秒-1、5×104M-1秒-1、105M-1秒-1、5×105M-1秒-1、106M-1秒-1、または5×106M-1秒-1、または107M-1秒-1以上のオン速度(k(オン))で標的抗原に結合すると言われ得る。
【0066】
結合分子(たとえば、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体)は、それが参照抗体または抗原結合断片の所与のエピトープへの結合をある程度阻止する程度に優先的にそのエピトープに結合するならば、参照抗体または抗原結合断片のそのエピトープへの結合を競合して阻害すると言われる。競合阻害は、当該技術で既知の方法、たとえば、競合ELISAアッセイによって判定することができる。結合分子は、参照抗体または抗原結合断片の所与のエピトープへの結合を少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%または少なくとも50%競合して阻害すると言われ得る。
【0067】
本明細書で使用されるとき、用語「親和性」は、たとえば、免疫グロブリン分子の1以上の結合ドメインとの個々のエピトープの結合の強さの評価基準を指す。たとえば、Harlow,et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988)、ページ27-28を参照のこと。本明細書で使用されるとき、用語「結合活性」は、結合ドメインの集団と抗原との間での複合体の全体的な安定性を指す。たとえば、Harlowのページ29-34を参照のこと。結合活性は、集団における個々の結合ドメインの特定のエピトープとの親和性と免疫グロブリン及び抗原の価数との双方に関係する。たとえば、二価のモノクローナル抗体と高度に反復するエピトープ構造を持つ抗原、たとえば、ポリマーとの間の相互作用は、高い結合活性の1つである。二価のモノクローナル抗体と細胞表面上に高密度で存在する受容体との間での相互作用も高い結合活性のものである。
【0068】
本明細書で開示されているような結合分子または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体は、その交差反応性という点でも記載され、または特定され得る。本明細書で使用されるとき、用語「交差反応性」は、1つの抗原に特異的な結合分子(たとえば、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体)の第2の抗原と反応する能力;2つの異なる抗原性物質間の関連性の評価基準を指す。従って、結合分子は、それがその形成を誘導したもの以外のエピトープに結合すれば、交差反応性である。交差反応性のエピトープは一般に、誘導性エピトープと同じ相補性の構造的特徴の多数を含有し、場合によっては、元々のものより実際上手く嵌め合わせすることができる。
【0069】
結合分子(たとえば、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体)は、抗原に対するその結合親和性という点でも記載または特定され得る。たとえば、結合分子は、5×10-2M以下、10-2M以下、5×10-3M以下、10-3M以下、5×10-4M以下、10-4M以下、5×10-5M以下、10-5M以下、5×10-6M以下、10-6M以下、5×10-7M以下、10-7M以下、5×10-8M以下、10-8M以下、5×10-9M以下、10-9M以下、5×10-10M以下、10-10M以下、5×10-11M以下、10-11M以下、5×10-12M以下、10-12M以下、5×10-13M以下、10-13M以下、5×10-14M以下、10-14M以下、5×10-15M以下、または10-15M以下の解離定数またはKDで抗原に結合することができる。
【0070】
単鎖抗体または他の結合ドメインを含む抗体断片は、単独で存在することができ、または以下:ヒンジ領域、CH1、CH2、CH3またはCH4、J鎖または分泌成分の1以上との組み合わせで存在することができる。可変領域のヒンジ領域、CH1、CH2、CH3、またはCH4のドメイン、J鎖または分泌成分の1以上との任意の組み合わせを含むことができる抗原結合断片もまた含められる。結合分子(たとえば、抗体またはその抗原結合断片)は、鳥類及び哺乳類を含む任意の動物起源に由来することができる。抗体は、ヒト、マウス、ロバ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ラマ、ウマまたはニワトリの抗体であることができる。別の実施形態では、可変領域は、起源がコンドリクトイド(condricthoid)(例えば、サメ由来)であり得る。本明細書で使用されるとき、「ヒト」抗体には、ヒトの免疫グロブリンのアミノ酸配列を有する抗体が含まれ、且つヒトの免疫グロブリンライブラリから単離された、または1以上のヒト免疫グロブリンに関して遺伝子導入された動物から単離された抗体が含まれ、場合によっては、上記及び、たとえば、Kucherlapati,et al.による米国特許第5,939,598号に記載されているように内在性の免疫グロブリンを発現することができることもあるが、そうでないこともある。
【0071】
本明細書で使用されるとき、用語「重鎖サブユニット」には、免疫グロブリン重鎖に由来するアミノ酸配列が含まれ、重鎖サブユニットを含む結合分子(たとえば、抗体)は、VH領域、CH1ドメイン、ヒンジ(たとえば、上部、中部及び/または下部ヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、CH4ドメイン、またはそれらの変異体または断片の少なくとも1つを含む。たとえば、結合分子(たとえば、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体)は、VH領域に加えて、CH1ドメイン;CH1ドメインとヒンジとCH2ドメイン;CH1ドメインとCH3ドメイン;CH1ドメインとヒンジとCH3ドメイン;またはCH1ドメインとヒンジドメインとCH2ドメインとCH3ドメインを含むことができる。特定の態様では、結合分子(たとえば、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体)は、VH領域に加えて、CH3ドメインとCH4ドメイン;またはCH3ドメインとCH4ドメインとJ鎖を含むことができる。さらに、本開示で使用するための結合分子は、特定の定常領域部分(たとえば、CH2ドメインの全部または一部)を欠くことができる。これらのドメイン(たとえば、重鎖サブユニット)は、それらが元々の免疫グロブリン分子からアミノ酸配列で異なるように修飾できることが、当業者によって理解されるであろう。
【0072】
結合分子(たとえば、抗体またはその断片)の重鎖サブユニットは、異なる免疫グロブリン分子に由来するドメインを含むことができる。たとえば、ポリペプチドの重鎖サブユニットは、IgG1分子に由来するCH1ドメインとIgG3分子に由来するヒンジ領域とを含むことができる。別の例では、重鎖サブユニットは、IgG1分子にある程度及びIgG3分子にある程度由来するヒンジ領域を含むことができる。別の例では、重鎖サブユニットは、IgG1分子にある程度及びIgG4分子にある程度由来するキメラヒンジ領域を含むことができる。
【0073】
本明細書で使用されるとき、用語「軽鎖サブユニット」は、免疫グロブリン軽鎖に由来するアミノ酸配列を含む。軽鎖サブユニットは、VLまたはCL(たとえば、CκまたはCλ)ドメインの少なくとも一方を含む。
【0074】
結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、それらが認識し、特異的に結合する抗原のエピトープまたは一部という点で記載されまたは特定され得る。抗体の抗原結合ドメインと特異的に相互作用する標的抗原の一部は、「エピトープ」または「抗原決定基」である。標的抗原は、単一のエピトープまたは少なくとも2つのエピソードを含むことができ、抗原のサイズ、構造及び種類に応じてどんな数のエピトープも含むことができる。
【0075】
前に示したように、種々の免疫グロブリンクラスの定常領域のサブユニット構造及び三次元配置は周知である。本明細書で使用されるとき、用語「VH領域」には免疫グロブリン重鎖のアミノ末端可変領域が含まれ、用語「CH1ドメイン」には免疫グロブリン重鎖の第1(最もアミノ末端側)の定常領域ドメインが含まれる。CH1ドメインは、VH領域に隣接し、典型的な免疫グロブリン重鎖分子のヒンジ領域に対してアミノ末端側にある。
【0076】
本明細書で使用されるとき、用語「CH2ドメイン」には、従来の番号付け規定を用いてIgG抗体のほぼアミノ酸244からアミノ酸360まで伸びる重鎖分子の一部が含まれる(Kabat番号付け方式:アミノ酸244~360;EU番号付け方式:アミノ酸231~340;Kabat,EA.et al.op.citを参照のこと)。CH3ドメインは、CH2ドメインからIgG分子のC末端まで伸び、およそ108のアミノ酸を含む。特定の免疫グロブリンクラス(たとえば、IgM)は、CH4領域をさらに含む。
【0077】
本明細書で使用されるとき、用語「ヒンジ領域」は、CH1ドメインをCH2ドメインに連結する重鎖分子の一部を含む。このヒンジ領域は、およそ25のアミノ酸を含み、柔軟性があるので、2つのN末端抗原結合領域が独立して動けるようにする。
【0078】
本明細書で使用されるとき、用語「ジスルフィド結合」は、2つのイオウ原子の間で形成される共有結合を含む。アミノ酸システインは、第2のチオール基とジスルフィド結合またはジスルフィド架橋を形成することができるチオール基を含む。特定のIgG分子では、CH1領域とCL領域は、ジスルフィド結合によって連結され、2つの重鎖は、Kabat番号付け方式を用いて239及び242(EU番号付け方式では226位または229位)に相当する位置で2つのジスルフィド結合によって連結される。
【0079】
本明細書で使用されるとき、用語「キメラ抗体」は、免疫反応性の領域または部位が第1の種から得られまたはそれに由来し、定常領域(インタクト、一部である、または修飾され得る)が第2の種から得られる抗体を指す。一部の実施形態では、標的に結合する領域または部位は非ヒト起源(たとえば、マウスまたは霊長類)に由来し、定常領域はヒトに由来する。
【0080】
用語「多重特異性抗体」または「二重特異性抗体」は、単一抗体分子内で2以上の異なるエピトープに対する結合ドメインを有する抗体を指す。標準の抗体構造に加えて他の結合分子は、2つの結合特異性によって構築することができる。二重特異性または多重特異性の抗体によるエピトープ結合は、同時または順次であることができる。トリオーマ及びハイブリッドハイブリドーマは、二重特異性抗体を分泌することができる細胞株の2つの例である。二重特異性抗体は、組換え手段によって構築することもできる(Strohlein及びHeiss,Future Oncol.6:1387-94(2010);Mabry及びSnavely,IDrugs.13:543-9(2010))。二重特異性抗体はジアボディであることもできる。
【0081】
本明細書で使用されるとき、用語「操作された抗体」は、重鎖及び軽鎖のいずれかまたは双方における可変領域がCDRまたはフレームワーク領域のいずれかにおける1以上のアミノ酸の少なくとも部分的な置き換えによって変えられる抗体を指す。特定の態様では、既知の特異性の抗体に由来するCDR全体を異種抗体のフレームワーク領域に移植することができる。代替のCDRは、フレームワーク領域が由来する抗体と同じクラスまたはさらにサブクラスの抗体に由来することができるが、CDRは、たとえば、異なる種の抗体からの異なるクラスの抗体に由来することもできる。既知の特異性の非ヒト抗体に由来する1以上の「ドナー」CDRがヒト重鎖または軽鎖のフレームワーク領域に移植される操作された抗体は、本明細書では「ヒト化抗体」と呼ばれる。特定の態様では、すべてというわけではないCDRがドナーの可変領域に由来する完全なCDRで置き換えられ、なおかつ、ドナーの抗原結合能をレシピエントの可変領域にさらに移すことができる。たとえば、米国特許第5,585,089号、同第5,693,761号、同第5,693,762号、及び同第6,180,370号で示された説明を考えると、機能的な操作された抗体またはヒト化抗体を得ることは、日常の実験を行うことによってまたは試行錯誤によって当業者の力量の十分に範囲内であろう。
【0082】
本明細書で使用されるとき、用語「操作された」には、合成手段による(たとえば、組換え法、インビトロでのペプチド合成による、ペプチドの酵素カップリングもしくは化学カップリングまたはこれらの技法の幾つかの組み合わせによる)核酸分子またはポリペプチド分子の操作が含まれる。
【0083】
本明細書で使用されるとき、用語「連結される」、「融合される」、もしくは「融合」または他の文法的同等物は、相互交換可能に使用することができる。これらの用語は、化学的結合または組換え手段を含む任意の手段によって2以上の要素または成分が一緒に連結されることを指す。「インフレーム融合」は、元々のオープンリーディングフレーム(ORF)の翻訳リーディングフレームを維持する方法で連続するさらに長いORFを形成する、2以上のポリヌクレオチドのORFの連結を指す。従って、組換え融合タンパク質は、元々のORF(そのセグメントは、自然界では普通そのように連結されない)によってコードされるポリペプチドに相当する2以上のセグメントを含有する単一のタンパク質である。リーディングフレームは、融合されたセグメント全体にわたってこうして連続性にされるが、セグメントは、たとえば、インフレームのリンカー配列によって物理的にまたは空間的に分離することができる。たとえば、免疫グロブリン可変領域のCDRをコードするポリヌクレオチドはインフレームで融合されることができるが、「融合された」CDRが連続するポリペプチドの一部として同時翻訳される限り、少なくとも1つの免疫グロブリンフレームワーク領域または追加のCDR領域をコードするポリヌクレオチドによって分離することができる。
【0084】
ポリペプチドの文脈で、「直鎖状配列」または「配列」は、配列にて互いに隣接するアミノ酸がポリペプチドの一次構造で連続しているアミノ末端からカルボキシル末端の方向でのポリペプチドにおけるアミノ酸の順序である。ポリペプチドの別の部分に対して「アミノ末端側」または「N末端側」にあるポリペプチドの部分は、一連のポリペプチド鎖にて前に来るその部分である。同様に、ポリペプチドの別の部分に対して「カルボキシ末端側」または「C末端側」にあるポリペプチドの部分は、一連のポリペプチド鎖にて後に来るその部分である。たとえば、典型的な抗体では、可変領域は定常領域に対して「N末端側」にあり、定常領域は可変領域に対して「C末端側」にある。
【0085】
用語「発現」は、本明細書で使用されるとき、遺伝子が生化学物質、たとえば、ポリペプチドを生産する過程を指す。過程には、非限定的に、遺伝子のノックダウン、ならびに一過性発現及び安定的発現の双方を含む細胞内での遺伝子の機能的存在の操作が含まれる。それには限定しないで、遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)への転写及びそのようなmRNAのポリペプチドへの翻訳が含まれる。最終的な所望の産物が生化学物質であるならば、発現にはその生化学物質及び任意の前駆体の生成が含まれる。遺伝子の発現は「遺伝子産物」をもたらす。本明細書で使用されるとき、遺伝子産物は、遺伝子の転写によって生じる核酸、たとえば、メッセンジャーRNA、または転写物から翻訳されるポリペプチドであることができる。本明細書に記載されている遺伝子産物にはさらに、転写後修飾、たとえば、ポリアデニル化を伴った核酸、または翻訳後修飾、たとえば、メチル化、グリコシル化、脂質の付加、他のタンパク質サブユニットとの会合、タンパク分解性切断、等を伴ったポリペプチドが含まれる。
【0086】
本明細書で使用されるとき、用語「抗SEMA4D結合分子」は、SEMA4Dに特異的に結合する分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を指す。たとえば、天然に存在する抗体のような完全サイズの抗体に具体的に言及しない限り、用語「抗SEMA4D抗体」は、完全サイズの抗体、及びそのような抗体の抗原結合断片、及びそのような抗体の、抗原に結合する断片、類似体、または誘導体、たとえば、天然に存在する抗体または免疫グロブリン分子または操作された抗体分子または抗体分子に類似する様式で抗原に結合する断片を包含する。
【0087】
たとえば、「治療すること」または「治療」または「治療すること」または「緩和すること」または「緩和すること」のような用語は、存在する診断された病状または障害の症状を治癒させる、減速する、減らす、及び/またはその進行を止めるまたは遅くする治療方策を指す。たとえば、「予防する」、「予防」、「回避する」、「阻止」等のような用語は、診断されていない標的とされる病状または障害の発生を防ぐ予防上のまたは予防的な方策を指す。従って、「治療を必要とする者」は、すでに障害がある者;障害を有し易い者;及び障害が予防されるべきである者を含むことができる。本明細書で使用されるとき、たとえば、「治療法から利益が得られる対象」及び「治療を必要とする動物」のような語句には、本明細書に記載されているような治療法の投与から利益が得られる哺乳類対象のような対象が含まれる。
【0088】
用語「治療上有効な量」は、対象または哺乳類にて疾患または障害を「治療する」のに有効な抗体、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、有機小分子、または他の薬剤の量を指す。
【0089】
「対象」または「個体」または「動物」または「患者」または「哺乳類」によって、診断、予後診断または治療法が所望される対象、特に哺乳類対象を意味する。哺乳類対象には、ヒト、家畜、産業用動物、及び動物園動物、スポーツ用動物またはペット動物、たとえば、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウス、ウマ、ブタ、ウシ、クマ、等が挙げられる。
【0090】
標的ポリペプチドの説明-SEMA4D
本明細書で使用されるとき、用語「セマフォリン4D」、「SEMA4D」、及び「SEMA4Dポリペプチド」は、「SEMA4D」及び「Sema4D」のように相互交換可能に使用される。特定の実施形態では、SEMA4Dは、細胞の表面上で発現し、細胞によって分泌される。別の実施形態では、SEMA4Dは、膜に結合される。別の実施形態では、SEMA4Dは、可溶性、たとえば、sSEMA4Dである。別の実施形態では、SEMA4Dは、完全サイズのSEMA4Dまたはその断片、またはSEMA4D変異体ポリペプチドを含むことができ、その際、SEMA4Dの断片またはSEMA4D変異体ポリペプチドは、完全サイズSEMA4Dの機能的特性の一部または全部を保持する。
【0091】
完全サイズのヒトSEMA4Dタンパク質は、150kDaの2本のポリペプチド鎖から成るホモ二量体の膜貫通タンパク質である。SEMA4Dは、細胞表面受容体のセマフォリンファミリーに属し、CD100とも呼ばれる。ヒト及びマウス双方のSEMA4D/Sema4Dは、その膜貫通形態からタンパク分解で切断されて120kDaの可溶性形態を生成し、2つのSema4Dアイソフォームを生じる(Kumanogoh,et al.,J.Cell Science,116:3464(2003))。セマフォリンは、ニューロンとその標的との間で正確な接続を確立するのに重要な役割を担う軸索誘導因子として元々定義された可溶性及び膜結合性のタンパク質から成る。構造的にクラスIVのセマフォリンと見なされるSEMA4Dは、アミノ末端側のシグナル配列とそれに続く17の保存されたシステイン残基を含有する特徴的な「Sema」ドメインとIg様ドメインとリシンが豊富な区間と疎水性膜貫通領域と細胞質尾部とから成る。
【0092】
SEMA4Dポリペプチドには、約13アミノ酸のシグナル配列とそれに続く約512アミノ酸のセマフォリンドメインと約65アミノ酸の免疫グロブリン様(Ig様)ドメインと104アミノ酸のリシンが豊富な区間と約19アミノ酸の疎水性膜貫通領域と110アミノ酸の細胞質尾部とが含まれる。細胞質尾部におけるチロシンリン酸化のためのコンセンサス部位は、SEMA4Dのチロシンキナーゼとの予測された関連を支持している(Schlossman,et al.,Eds.(1995),Leucocyte Typing V,(Oxford University Press,Oxford)。
【0093】
SEMA4Dは、少なくとも3つの機能的な受容体、プレキシン-B1、プレキシン-B2及びCD72を有することが知られている。プレキシン-B1は、非リンパ系組織で発現し、SEMA4Dに対して高親和性(1nM)の受容体であることが示されている(Tamagnone,et al.,Cell,99:71-80(1999))。プレキシン-B1のシグナル伝達のSEMA4Dによる刺激は、ニューロンの成長円錐の崩壊を誘導し、且つ乏突起膠細胞の突起伸長崩壊及びアポトーシスを誘導することが示されている(Giraudon,et al.,J.Immunol.172:1246-1255(2004);Giraudon,et al.,NeuroMolecular Med.7:207-216(2005))。SEMA4Dに結合した後、プレキシン-B1のシグナル伝達は、R-Rasの不活性化を媒介し、インテグリンが介在する細胞外マトリクスへの結合の低下及びRhoAの活性化をもたらし、細胞骨格の再編成による細胞崩壊をもたらす(Kruger,et al.,Nature Rev.Mol.Cell Biol.6:789-800(2005);Pasterkamp,TRENDS in Cell Biology,15:61-64(2005))。プレキシン-B2はSEMA4Dに対して中程度の親和性を有し、最近の報告は、プレキシン-B2が角化細胞上で発現し、SEMA4D陽性γδT細胞を活性化して上皮修復に寄与することを示している(Witherden,et al.,Immunity,37:314-25(2012))。
【0094】
リンパ系組織では、CD72は低親和性(300nM)のSEMA4D受容体として利用される(Kumanogoh,et al.,Immunity,13:621-631(2000))。B細胞及び抗原提示細胞(APC)はCD72を発現し、抗CD72抗体は、たとえば、CD40が誘導するB細胞応答の増強及びCD23のB細胞からの遊離のようなsSEMA4Dと同様の効果の多数を有する。CD72は、多くの阻害性受容体と会合することができるチロシンホスファターゼSHP-1を動員することによってB細胞応答の負の調節因子として作用すると考えられている。SEMA4DのCD72との相互作用は、SHP-1の解離及びこの負の活性化シグナルの喪失を生じる。SEMA4DはインビトロでT細胞の刺激及びB細胞の凝集や生存を促進することが示されている。SEMA4Dを発現している細胞またはsSEMA4Dの添加は、インビトロでCD40が誘導するB細胞の増殖及び免疫グロブリンの産生を増強し、インビボで抗体反応を加速する(Ishida,et al.,Inter.Immunol.15:1027-1034(2003);Kumanogoh及びH.Kukutani,Trends in Immunol.22.670-676(2001))。sSEMA4Dは、共刺激分子の上方調節及びIL-12分泌の増大を含む、CD40が誘導するDCの成熟を増強する。加えて、sSEMA4Dは免疫細胞の移動を阻害することができ、それはブロッキング抗SEMA4Dマウス抗体を加えることによって元に戻すことができる(Elhabazi,et al.,J.Immunol.166:4341-4347(2001);Delaire,et al.,J.Immunol.166:4348-4354(2001))。
【0095】
Sema4Dは、脾臓、胸腺及びリンパ節を含むリンパ系臓器、ならびに脳、心臓及び腎臓のような非リンパ系臓器にて高レベルで発現する。リンパ系臓器では、Sema4Dは、休止T細胞にて豊富に発現するが、休止B細胞及び樹状細胞(DC)のような抗原提示細胞(APC)では弱く発現するにすぎない。
【0096】
細胞の活性化は、SEMA4Dの表面発現および可溶性SEMA4D(sSEMA4D)の生成を増やす。SEMA4Dの発現パターンは、それが免疫系にて重要な生理的役割および病的な役割を担うことを示唆している。SEMA4Dは、B細胞の活性化、凝集及び生存を促進し;CD40が誘導する増殖及び抗体産生を高め;T細胞依存性の抗原に対する抗体反応を高め;T細胞の増殖を増やし;樹状細胞の成熟及びT細胞を刺激する能力を増強することが示され;脱髄及び軸索変性に直接関与する(Shi,et al.,Immunity,13:633-642(2000);Kumanogoh,et al.,J.Immunol.169:1175-1181(2002);及びWatanabe,et al.,J.Immunol.167:4321-4328(2001))。
【0097】
ヒト抗SEMA4D抗体
本開示は、それぞれ配列番号1及び配列番号5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)に関係するまたはそれと同一であるVH及びVLを持つ抗SEMA4D結合分子、たとえば、抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を提供する。特定の態様では、提供される結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は完全にヒトのものである。
【0098】
特定の態様では、本明細書で提供されている抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、それぞれ配列番号1及び配列番号5のアミノ酸配列を含むVH及びVLの領域を持つ参照抗SEMA4D抗体分子のVH及びVLの領域と少なくとも約80%、約85%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、または100%同一のアミノ酸配列を含むVH及びVLの領域を有する。
【0099】
特定の態様では、抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、SEMA4Dのその受容体、たとえば、プレキシン-B1、プレキシン-B2、またはCD72との相互作用を阻害することができる。特定の態様では、抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、SEMA4Dが介在するプレキシン-B1のシグナル伝達を阻害することができる。
【0100】
特定の態様では、抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、配列番号1のアミノ酸配列を含む可変重鎖領域(VH)と配列番号5のアミノ酸配列を含む可変軽鎖領域(VL)とを含む参照抗体がSEMA4Dに結合するのを競合して阻害する。特定の態様では、抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、配列番号1のアミノ酸配列を含むVHと配列番号5のアミノ酸配列を含むVLとを含む参照抗体と同じSEMA4Dエピトープに結合する。特定の態様では、抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)のVHは、3つの相補性決定領域(CDR):HCDR1、HCDR2、及びHCDR3を含み、且つVLは3つのCDR:LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含み、CDRは、CDRの1以上における少なくとも1、2、3、4、5または6つの単一の保存的なアミノ酸置換を除いて、それぞれアミノ酸配列、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8を含む。特定の態様では、CDRはそれぞれアミノ酸配列、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8を含む。
【0101】
特定の態様では、抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)のVHは、配列番号1と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%同一のアミノ酸配列を含み、且つ抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)のVLは、配列番号5と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%同一のアミノ酸配列を含む。特定の態様では、VHは配列番号1のアミノ酸配列を含み、且つVLは配列番号5のアミノ酸配列を含む。
【0102】
本明細書で提供されるのはまた、本明細書に記載されているような抗SEMA4D抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体をコードするポリペプチド、たとえば、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子、たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体を作製するのに使用するためのそのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、そのようなポリヌクレオチドを含むベクター、及びそのようなベクターまたはポリヌクレオチドを含む宿主細胞である。
【0103】
抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)の好適な生物学的活性がある変異体が本開示によって提供され、本明細書で提供される方法に従って、または当業者に周知の方法に従って作製し、使用することができる。そのような変異体は、本明細書で提供される参照抗SEMA4D抗体の特定の所望の結合特性を保持する。抗体の変異体を作製する方法は、一般に当該技術で利用できる。
【0104】
変異誘発及びヌクレオチド配列の変更のための方法は当該技術で周知である。たとえば、参照によって本明細書に組み入れられるWalker及びGaastra,eds.(1983),Techniques in Molecular Biology(MacMillan Publishing Company,New York);Kunkel,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82:488-492(1985);Kunkel,et al.,Methods Enzymol.154:367-382(1987);Sambrook,et al.(1989),Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor,N.Y.);米国特許第4,873,192号;及びその中で引用されている参考文献を参照のこと。対象とするポリペプチドの生物活性に影響を与えない適当なアミノ酸置換に関するガイダンスは、全体として参照によって本明細書に組み入れられるDayhoff,et al.(1978),in Atlas of Protein Sequence and Structure,(Natl.Biomed.Res.Found.,Washington,D.C.),pp.345-352のモデルに見いだすことができる。Dayhoff,et al.のモデルは、受容点突然変異(PAM)アミノ酸類似性マトリクス(PAM250マトリクス)を使用して好適な保存的アミノ酸置換を決定する。特定の態様では、たとえば、1つのアミノ酸を類似の特性を有する別のアミノ酸と交換することのような保存的置換が使用される。Dayhoff,et al.のモデルのPAM250マトリクスによって教示されるような保存的アミノ酸置換の例には、Gly⇔Ala、Val⇔Ile⇔Leu、Asp⇔Glu、Lys⇔Arg、Asn⇔Gln、及びPhe⇔Trp⇔Tyrが挙げられるが、これらに限定されない。
【0105】
抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、対象とするポリペプチド)の変異体の構築において、変異体が所望の特性(たとえば、細胞の表面上で発現したまたは細胞によって分泌されたSEMA4D、たとえば、ヒトSEMA4D、非ヒト霊長類SEMA4D(たとえば、カニクイザル、マーモセット、及び/またはアカゲザルのSEMA4D)及び齧歯類SEMA4D(たとえば、マウス及び/またはラットのSEMA4D)に特異的に結合することができる特性)を持ち続けるように修飾が行われ、ここで、結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、本明細書に記載されているようなSEMA4D結合活性、受容体遮断活性、または中和活性を有する。特定の態様では、変異体ポリペプチドをコードするDNAで行われた突然変異はリーディングフレームを維持し、二次mRNA構造を生じ得る相補性領域を作り出さない。EP特許出願公開第75,444号を参照のこと。
【0106】
抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)の結合特異性及び/または結合活性を測定する方法には、競合結合アッセイを含む標準の結合アッセイ、T細胞またはB細胞による免疫グロブリンの分泌をモニターするアッセイ、T細胞の増殖アッセイ、アポトーシスのアッセイ、ELISAアッセイ、等が挙げられるが、これらに限定されない。たとえば、そのすべてが参照によって本明細書に組み入れられるWO93/14125;Shi,et al.,Immunity,13:633-642(2000);Kumanogoh,et al.,J.Immunol.169:1175-1181(2002);Watanabe,et al.,J.Immunol.167:4321-4328(2001);Wang,et al.,Blood,97:3498-3504(2001);及びGiraudon,et al.,J.Immunol.172:1246-1255(2004)にて開示されているそのようなアッセイを参照のこと。
【0107】
本明細書で開示されている定常領域、CDR、VH領域またはVL領域を含む特定のポリペプチドが別のポリペプチドと少なくとも約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、またはさらに約100%同一であるかどうかを本明細書で議論する場合、当該技術で既知の方法及びコンピュータープログラム/ソフトウェアを用いて%同一性を決定することができる。比較のための配列の最適な配置比較は、たとえば、局地的相同性アルゴリズム(Smith及びWaterman,Adv.Appl.Math.2:482-489(1981)によって、大域的配列比較アルゴリズム(Needleman及びWunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)によって、類似性方法の検索(Pearson及びLipman,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444(1988);Altschul,et al.,Nucl.Acids Res.25:3389-402(1997)によって、これらのアルゴリズムのコンピューターによる実施(たとえば、Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,Wis.におけるGAP,BESTFIT,FASTA,及びBLAST)によって、通常、初期設定を用いて、または手動のアルゴリズム及び目視検査(たとえば、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al.(eds.),1994を参照のこと)によって実施することができる。
【0108】
本開示の目的で、パーセント配列同一性は、12のギャップ開放ペナルティ及び2のギャップ伸長ペナルティ、62のBLOSUMマトリクスによる検索を用いたSmith-Watermanの相同性検索アルゴリズムを用いて決定することができる。変異体は、たとえば、わずか1~15のアミノ酸残基、わずか1~10のアミノ酸残基、たとえば、6~10、わずか5、わずか4、3、2、または1のアミノ酸残基で参照の抗SEMA4D抗体(たとえば、本明細書で提供されているMAb2517)とは異なることができる。
【0109】
特定の態様では、本開示は、SEMA4Dに特異的に結合する抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体を提供し、当該抗体またはその断片はVH及びVLを含む。特定の態様では、VHは、それぞれ配列番号2、配列番号3、及び配列番号4と同一の、または相補性決定領域(HCDR)の1、2、または3すべてにおける1、2、3、4、5、または6つのアミノ酸置換を除いてそれと同一のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、及びHCDR3を含む。特定の態様では、HCDR1、HCDR2、及びHCDR3は、それぞれ配列番号2、配列番号3、及び配列番号4と同一のアミノ酸配列を含む。特定の態様では、VLは、それぞれ配列番号6、配列番号7、及び配列番号8と同一の、または相補性決定領域(LCDR)の1、2、または3すべてにおける1、2、3、4、5、または6つのアミノ酸置換を除いてそれと同一のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(LCDR)LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含む。特定の態様では、LCDR1、LCDR2、及びLCDR3は、それぞれ配列番号6、配列番号7、及び配列番号8と同一のアミノ酸配列を含む。特定の態様では、VHはさらに、フレームワーク領域(HFW)HFW1、HFW2、HFW3及びHFW4を含み、且つVLはさらに、フレームワーク領域(LFW)LFW1、LFW2、LFW3及びLFW4を含む。特定の態様では、フレームワーク領域はヒト抗体に由来する。特定の態様では、たとえば、抗体が非ヒトモデル系で使用されるべきである場合、フレームワーク領域は、非ヒト抗体、たとえば、マウス抗体に由来する。特定の態様では、VHは配列番号1のアミノ酸配列を含む。特定の態様では、VLは配列番号5のアミノ酸配列を含む。
【0110】
特定の態様では、本開示は、VH及びVLを含む、セマフォリン4D(SEMA4D)に特異的に結合する抗体、たとえば、完全ヒト抗体、または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体を提供する。特定の態様では、VHは、配列番号1と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のアミノ酸配列を含む。特定の態様では、VLは、配列番号5と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のアミノ酸配列を含む。特定の態様では、VHは、配列番号1と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のアミノ酸配列を含み、且つVLは、配列番号5と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のアミノ酸配列を含む。特定の態様では、VHは配列番号1のアミノ酸配列を含み、且つVLは配列番号5のアミノ酸配列を含む。特定の態様では、VH及びVLは完全にヒトのものである。
【0111】
特定の態様では、本明細書で提供されているような抗SEMA4D抗体、または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体は、ヒトSEMA4D、齧歯類SEMA4D、たとえば、マウスSEMA4D及び/またはラットSEMA4D、及び/または非ヒト霊長類SEMA4D、たとえば、カニクイザルSEMA4D及び/またはマーモセットSEMA4Dに特異的に結合することができる。
【0112】
特定の態様では、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体はさらに、VHのC末端に融合されている重鎖定常領域またはその断片、変異体、もしくは誘導体を含む。重鎖定常領域またはその断片は、任意の種に由来することができるが、特定の態様では、重鎖定常領域またはその断片、変異体、もしくは誘導体は、ヒト重鎖定常領域、たとえば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgE、もしくはIgMの定常領域であるか、またはそれに由来する。特定の態様では、重鎖定常領域は、ヒトIgG4の定常領域またはその断片、変異体、もしくは誘導体である。特定の態様では、たとえば、提供されている抗SEMA4D抗体またはその断片が非ヒトモデル系で使用されるべきである場合、重鎖定常領域またはその断片は、非ヒト重鎖定常領域、たとえば、マウスIgGの定常領域のようなマウス重鎖定常領域であることができる。
【0113】
特定の態様では、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体は、VLのC末端に融合されている軽鎖定常領域またはその断片、変異体、もしくは誘導体をさらに含む。軽鎖定常領域またはその断片は、任意の種に由来することができるが、特定の態様では、軽鎖定常領域またはその断片は、ヒト軽鎖定常領域、たとえば、ヒトのカッパまたはラムダ定常領域に由来する。特定の態様では、軽鎖定常領域またはその断片、変異体、もしくは誘導体は、ヒトのラムダ軽鎖定常領域である、またはそれに由来する。特定の態様では、軽鎖定常領域はヒトのラムダ定常領域である。特定の態様では、たとえば、提供されている抗SEMA4D抗体またはその断片が非ヒトモデル系で使用されるべきである場合、軽鎖定常領域またはその断片は、非ヒト軽鎖定常領域、たとえば、マウスのラムダ定常領域のようなマウスの軽鎖定常領域であることができる。
【0114】
特定の態様では、本開示は、上記に記載されているようなVH及びVLの領域を含む抗SEMA4D抗体断片を提供する。特定の態様では、断片は、たとえば、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fd断片、単鎖Fv断片(scFv)、またはジスルフィド結合されたFv断片(sdFv)であることができる。
【0115】
特定の態様では、本開示によって提供される抗SEMA4D抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体は、多重特異性、たとえば、二重特異性であることができる。本明細書で提供されているようなSEMA4D抗体の結合特性に加えて、本明細書で提供されているような多重特異性抗体またはその断片は、追加のSEMA4Dエピトープに結合することができ、または他の無関係なエピトープに結合することができる。
【0116】
特定の態様では、本明細書で提供されているような抗SEMA4D抗体またはその断片は、500nM以下、100nM以下、50.0nM以下、40.0nM以下、30.0nM以下、20.0nM以下、10.0nM以下、9.0nM以下、8.0nM以下、7.0nM以下、6.0nM以下、5.0nM以下、4.0nM以下、3.0nM以下、2.0nM以下、1.0nM以下、0.50nM以下、0.10nM以下、0.050nM以下、0.01nM以下、0.005nM以下、または0.001nM以下の解離定数KDを特徴とする結合親和性でSEMA4D、たとえば、ヒトSEMA4D、マウスSEMA4D、カニクイザルSEMA4D、マーモセットSEMA4D、またはそれらの組み合わせに特異的に結合することができる。抗体またはその断片のSEMA4Dに対するKDを測定する方法及び装置、たとえば、BIACOREは当業者に周知である。
【0117】
特定の態様では、本開示によって提供されている抗SEMA4D抗体またはその断片は、SEMA4DがSEMA4D受容体(たとえば、プレキシン-B1、プレキシン-B2、及び/またはCD72)に結合するのを阻害することができる。
【0118】
特定の態様では、本明細書で提供されている抗SEMA4D抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体は完全にヒトのものであり、ヒト対象への投与の際、最少限の抗抗体免疫応答を引き出す、またはそれを引き出さない。対象において抗抗体免疫応答を測定する方法は当該技術で周知である。たとえば、Darwish,IA,Int.J.Biomed.Sci.2:217-235(2006)を参照のこと。
【0119】
多くの方法で抗SEMA4D抗体の定常領域を変異させてエフェクター機能を変えることができる。たとえば、Fc受容体への抗体結合を最適化するFcの突然変異を開示している米国特許第6,737,056B1号及び米国特許出願公開第2004/0132101A1号を参照のこと。
【0120】
本明細書で提供されている特定の抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体)では、当該技術で既知の技法を用いてFc部分を変異させてエフェクター機能を調節する、たとえば、高めるまたは低めることができる。たとえば、定常領域ドメインの欠失または不活化(点突然変異または他の手段を介した)は、循環している修飾された抗体のFc受容体結合を減らすことができ、それによって腫瘍の局在化を増やす。他の場合では、本開示に一致する定常領域の修飾は、補体結合を調節するので、血清半減期を増やすまたは減らすことができる。定常領域のさらに他の修飾を用いて高い抗原特異性及び抗体柔軟性のせいで増強された局在化を可能にするジスルフィド結合またはオリゴ糖の部分を修飾することができる。得られる生理的なプロファイル、生体利用効率及び修飾の他の生化学的効果、たとえば、腫瘍の局在化、生体分布、及び血清半減期は、過度の実験を行うことなく周知の免疫学的技法を用いて容易に測定し、定量することができる。
【0121】
本明細書で提供されている抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体またはその断片)には、たとえば、共有結合がその同族エピトープに抗体が特異的に結合するのを妨げないように任意の種類の分子を抗体に共有結合することによって修飾される誘導体が含まれる。たとえば、しかし、限定のつもりではなく、抗体誘導体には、たとえば、既知の保護基/ブロッキング基、タンパク分解性切断、細胞性リガンドまたは他のタンパク質への結合、等によるグリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、誘導体化によって修飾されている抗体が含まれる。特異的な化学切断、アセチル化、ホルミル化、等を含むが、これらに限定されない既知の技法によって多くの化学修飾のいずれかを行うことができる。さらに、誘導体は、1以上の非古典的なアミノ酸を含有することができる。
【0122】
「保存的なアミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似の電荷を持つ側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられるものである。類似の電荷を持つ側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当該技術で定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖(たとえば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(たとえば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(たとえば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(たとえば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分岐側鎖(たとえば、スレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(たとえば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジ)を持つアミノ酸が挙げられる。あるいは、突然変異は、たとえば、飽和変異誘発によって、コーディング配列の全部または一部に沿って無作為に導入することができ、得られた変異体を生物活性について選抜して活性(たとえば、抗SEMA4Dポリペプチドに結合する能力、SEMA4Dのその受容体との相互作用を阻止する能力、または対象(たとえば、がん患者)における転移を抑制する、遅らせる、もしくは減らす能力)を保持する変異体を同定することができる。
【0123】
たとえば、抗体分子のフレームワーク領域にのみ、またはCDR領域にのみ突然変異を導入することは可能である。導入された突然変異は、サイレント突然変異または中立ミスセンス突然変異であることができ、すなわち、抗体の抗原に結合する能力に影響を有さない、またはほとんど有さない。これらの型の突然変異は、コドン使用頻度を最適化するまたはハイブリドーマの抗体産生を改善するのに有用であることができる。あるいは、非中立のミスセンス突然変異は、抗体の抗原に結合する能力を変えることができる。当業者は、たとえば、抗原結合で変化なしまたは結合活性で変化(たとえば、抗原結合活性における改善または抗体特異性における変化)のような所望の特性を持つ変異体分子を設計し、調べることができる。変異誘発に続いて、コードされたタンパク質を日常的に発現させ、本明細書に記載されている技法を用いて、または当該技術で既知の技法を日常的に改変することによって、コードされたタンパク質の機能的活性及び/または生物活性(たとえば、SEMA4Dポリペプチドの少なくとも1つのエピトープを免疫特異的に結合する能力)を決定することができる。
【0124】
特定の態様では、本明細書で提供されている抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体またはその断片)は、なくとも1つの最適化された相補性決定領域(CDR)を含むことができる。「最適化されたCDR」によって、最適化されたCDRを含む抗SEMA4D結合分子に付与される結合親和性及び/または抗SEMA4D活性を改善するようにCDRが修飾され、最適化されることが意図される。「抗SEMA4D活性」または「SEMA4D遮断活性」には、1以上のSEMA4D活性を調節する、たとえば、低下させる、除去する、減らす、または阻止する活性を挙げることができる。非限定のSEMA4D活性には、B細胞の活性化、凝集及び生存;CD40が誘導する増殖及び抗体産生;T細胞依存性抗原に対する抗体反応;T細胞または他の免疫細胞の増殖;樹状細胞の成熟;脱髄及び軸索変性;多能性神経前駆細胞及び/または乏突起膠細胞のアポトーシス;内皮細胞移動の誘導;自然発生の単球の移動の阻害;腫瘍細胞の増殖または転移の促進;細胞表面のプレキシン-B1または他の受容体への結合;または可溶性SEMA4DもしくはSEMA4D+細胞の表面で発現するSEMA4Dに関連する他の活性が挙げられる。特定の実施形態では、抗SEMA4D活性には、原発腫瘍細胞の増殖及び腫瘍転移の抑制、遅延、もしくは低減と組み合わせて、または原発腫瘍細胞の増殖及び腫瘍転移とは無関係に腫瘍転移を抑制する、遅延させる、または低減する能力が挙げられる。抗SEMA4D活性は、固形腫瘍及びリンパ腫を含む特定の種類のがん、自己免疫疾患、中枢神経系(CNS)及び末梢神経系(PNS)の炎症性疾患を含む炎症性疾患、神経変性疾患、移植拒絶、及び侵襲性血管新生を含むが、これらに限定されない、SEMA4Dの発現に関連する疾患の発生率または重症度の低下にも帰することができる。
【0125】
抗SEMA4D抗体をコードするポリヌクレオチド
本開示はまた、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)をコードする1つまたは複数の核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチド、または2以上のポリヌクレオチドを提供する。
【0126】
一態様では、本開示は、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体)またはそのサブユニット(たとえば、重鎖サブユニットもしくはその断片、または軽鎖サブユニットもしくはその断片)をコードする1つまたは複数の核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせを提供する。
【0127】
特定の態様では、本明細書で提供されているようなポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせは、抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体)のVHをコードする核酸配列を含む。特定の態様では、本明細書で提供されているようなポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせは、抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体)のVLをコードする核酸配列を含む。特定の態様では、本明細書で提供されているようなポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせは、抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体)のVHをコードする核酸配列とVLをコードする核酸配列とを含む。特定の態様では、VHをコードする核酸配列とVLをコードする核酸配列とは同一のベクターに置かれる。そのようなベクターが本開示によって提供される。特定の態様では、VHをコードする核酸配列とVLをコードする核酸配列とは別々のベクターに置かれる。そのようなベクターも本開示によって提供される。本開示によって提供されるベクターはさらに、抗体またはその断片の発現を可能にする遺伝因子を含むことができる。たとえば、プロモーター、ポリアデニル化配列、及びエンハンサーなどそのような遺伝因子は、本明細書のどこかほかに記載されている。本開示はさらに、本明細書で提供されているポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせ、及び/または本明細書で提供されているベクター(単数)及び/またはベクター(複数)を含む宿主細胞を提供する。
【0128】
提供されるのはまた、本明細書で提供されているような抗SEMA4D抗体またはその断片、変異体、もしくは誘導体を生産する方法であり、その際、方法は、本明細書で提供されているような宿主細胞を培養することと、抗体またはその断片を回収することとを含む。
【0129】
特定の態様では、本開示は、抗SEMA4D抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体、またはそのサブユニットをコードする1つまたは複数の核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチド、または2以上のポリヌクレオチドを提供し、その際、抗体はVH及びVLを含み、VHは、それぞれ配列番号2、配列番号3、及び配列番号4と同一の、または相補性決定領域(HCDR)の1、2、または3すべてにおける1つ、2つ、3つ、または4つのアミノ酸置換を除いて同一のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(HCDR)HCDR1、HCDR2、及びHCDR3を含み、VLは、それぞれ配列番号6、配列番号7、及び配列番号8と同一の、または相補性決定領域(LCDR)の1、2、または3すべてにおける1つ、2つ、3つ、または4つのアミノ酸置換を除いて同一のアミノ酸配列を含む相補性決定領域(LCDR)LCDR1、LCDR2、及びLCDR3を含む。
【0130】
特定の態様では、本開示は、抗SEMA4D抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体、またはそのサブユニットをコードする1つまたは複数の核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチド、または2以上のポリヌクレオチドを提供し、その際、抗体はVH及びVLを含み、VHは、配列番号1と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のアミノ酸配列を含み、VLは、配列番号5と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一のアミノ酸配列を含む。
【0131】
上記に記載されているポリヌクレオチドのいずれかはさらに、たとえば、本明細書のどこか他に記載されているような重鎖または軽鎖の定常領域またはその断片、コードされたポリヌクレオチドの分泌を指図するシグナルペプチド、または本明細書に記載されているような他の異種ポリペプチドをコードする追加の核酸配列を含むことができる。また、本明細書のどこか他で詳細に記載されているように、本開示は、上記に記載されているポリヌクレオチドの1以上を含む組成物を含む。
【0132】
一実施形態では、本開示は、第1のポリヌクレオチドと第2のポリヌクレオチドとを含む組成物を含み、第1のポリヌクレオチドは、本明細書に記載されているようなVHをコードする核酸配列を含み、第2のポリヌクレオチドは、本明細書に記載されているようなVLをコードする。
【0133】
本開示はまた、どこか他に記載されているような本明細書で提供されているポリヌクレオチドの断片も含む。さらに、提供されるのは、本明細書に記載されているような融合ポリペプチド、Fab断片、及び他の誘導体をコードするポリヌクレオチドである。
【0134】
本開示によって提供されるポリヌクレオチドは、当該技術で既知の方法によって作製するまたは製造することができる。たとえば、抗体の核酸配列が既知であれば、化学合成されたオリゴヌクレオチドから抗体をコードするポリヌクレオチドを構築することができ(たとえば、Kutmeier,et al.,Bio Techniques,17:242(1994)に記載されているように)、それには手短には、抗体をコードする配列の一部を含有するオリゴヌクレオチドを重ね合わせることと、これらオリゴヌクレオチドのアニーリングとライゲーションと、その後のライゲーションしたオリゴヌクレオチドのPCRによる増幅という合成が関与する。
【0135】
あるいは、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)をコードするポリヌクレオチドは、好適な供給源に由来する核酸配列から生成することができる。特定の抗体をコードするポリヌクレオチドを含有するクローンは利用できないが、抗体分子の配列が既知であるならば、抗体をコードする核酸は化学的に合成することができ、または配列の3’及び5’末端とハイブリット形成できる合成プライマーを用いたPCR増幅によって、もしくは抗体もしくは他の抗SEMA4D抗体をコードするcDNAライブラリに由来する、たとえば、cDNAクローンを同定するための特定の遺伝子配列に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを用いたクローニングによって好適な供給源(たとえば、抗体のcDNAライブラリ、または抗体もしくは他の抗SEMA4D抗体を発現する組織または細胞、たとえば、抗体を発現するように選択されたハイブリドーマ細胞から生成されるcDNAライブラリ、またはそれから単離される核酸、たとえば、ポリA+RNA)から得ることができる。PCRによって生成される増幅された核酸はその後、当該技術で周知の方法を用いて複製できるクローニングベクターにクローニングすることができる。
【0136】
抗SEMA4D抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体のヌクレオチド配列及び対応するアミノ酸配列がいったん決定されると、ヌクレオチド配列の操作についての当該技術で周知の方法、たとえば、組換えDNA法、部位特異的変異誘発、PCR、等(たとえば、双方とも全体として参照によって本明細書に組み入れられるSambrook,et al.(1990),Molecular Cloning,A Laboratory Manual(2nd ed.;Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.)及びAusubel,et al.,eds.(1998),Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons,NY)に記載されている技法を参照のこと)を用いてそのヌクレオチド配列を操作して、たとえば、アミノ酸の置換、欠失及び/または挿入を作り出す様々なアミノ酸配列を有する抗体を生成することができる。
【0137】
抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)をコードするポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせは、未修飾のRNAまたはDNAまたは修飾されたRNAまたはDNAであることができるポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドで構成することができる。たとえば、抗SEMA4D抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体をコードするポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせは、一本鎖及び二本鎖のDNA、一本鎖及び二本鎖の領域の混合物であるDNA、一本鎖及び二本鎖のRNA、一本鎖及び二本鎖の領域の混合物であるRNA、一本鎖、さらに通常、二本鎖または一本鎖及び二本鎖の領域の混合物であることができるDNA及びRNAを含むハイブリット分子で構成することができる。加えて、抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)をコードするポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせは、RNAまたはDNAまたはRNAとDNAの双方を含む三本鎖領域で構成することができる。抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)をコードするポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせは、1以上の修飾された塩基または安定性もしくは他の理由で修飾されたDNAもしくはRNAの主鎖も含有することができる。「修飾された」塩基には、たとえば、トリチル化された塩基及びイノシンのような稀な塩基が挙げられる。種々の修飾をDNA及びRNAに対して行うことができるので、「ポリヌクレオチド」は、化学的、酵素的、または代謝的に修飾された形態を包含する。
【0138】
免疫グロブリン(たとえば、免疫グロブリン重鎖の一部または軽鎖の一部)に由来するポリペプチドの非天然変異体をコードする単離されたポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせは、1以上のアミノ酸の置換、付加または欠失がコードされるタンパク質に導入されるように1以上のヌクレオチドの置換、付加または欠失を免疫グロブリンのヌクレオチド配列に導入することによって作り出すことができる。突然変異は、標準の技法、たとえば、部位特異的変異誘発及びPCRが介在する変異誘発によって導入することができる。特定の態様では、1以上の非必須アミノ酸残基にて保存的なアミノ酸置換を行うことができる。
【0139】
融合タンパク質及び抗体コンジュゲート
本明細書のどこか他で詳細に議論されているように、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)はさらに、N末端もしくはC末端で異種ポリペプチドに組換えで融合することができ、またはポリペプチドもしくは他の異種部分に化学的にコンジュゲートすることができる(共有結合及び非共有結合のコンジュゲートを含む)。たとえば、抗SEMA4D抗体は、検出アッセイにて標識として有用な分子及び異種ポリペプチド、薬剤、放射性核種、または毒素のようなエフェクター分子に組換えで融合するまたはコンジュゲートすることができる。たとえば、PCT公開WO92/08495;WO91/14438;WO89/12624;米国特許第5,314,995号;及びEP396,387を参照のこと。特定の態様では、異種部分は、ポリペプチド、細胞傷害剤、治療剤、プロドラッグ、脂質、糖質、核酸、検出可能な標識、ポリマーまたはそれらの組み合わせであることができる。例となる異種ポリペプチドには限定しないで、結合分子、酵素、サイトカイン、リンホカイン、ホルモンペプチド、またはそれらの組み合わせが挙げられる。例となる細胞傷害剤には限定しないで、放射性核種、生物毒素、酵素活性がある毒素、またはそれらの組み合わせが挙げられる。例となる検出可能な標識には限定しないで、酵素、蛍光標識、化学発光標識、生物発光標識、放射性標識またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0140】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、結合分子がSEMA4Dに結合するのを共有結合が妨げないように、たとえば、任意の種類の部分を抗体に共有結合することによって修飾される誘導体を含むことができる。たとえば、ただし、限定目的ではなく、抗体の誘導体は、たとえば、既知の保護基/ブロッキング基、タンパク分解性切断、細胞性リガンドまたは他のタンパク質への結合、等によるグリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、誘導体化によって修飾することができる。特定の化学切断、アセチル化、ホルミル化、等を含むが、これらに限定されない既知の技法によって多くの化学修飾のいずれかを実施することができる。さらに、誘導体は、1以上の非古典的なアミノ酸を含有することができる。
【0141】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、ペプチド結合または修飾されたペプチド結合、たとえば、ペプチド同配体によって互いに連結されたアミノ酸で構成することができ、20の遺伝子がコードするアミノ酸以外のアミノ酸を含有することができる。たとえば、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、天然のプロセス、たとえば、翻訳後プロセッシングによって、または当該技術で周知である化学修飾法によって修飾することができる。そのような修飾は、基礎教科書、さらに詳細なモノグラフ、及び多くの研究文献で十分に説明されている。修飾は、ペプチド主鎖、アミノ酸側鎖及びアミノ末端またはカルボキシル末端を含む抗SEMA4D結合分子におけるどこでも、または糖質のような部分で発生することができる。また、所与の抗SEMA4D結合分子は、多くの種類の修飾を含有することができる。抗SEMA4D結合分子は、たとえば、ユビキチン化の結果分岐することができ、それらは、分岐の有無にかかわらず、環状であることができる。環状分岐鎖の及び分岐鎖環状の抗SEMA4D結合分子は、翻訳後天然のプロセスから生じることができ、合成法によって作製することができる。修飾には、アセチル化、アシル化、ADP-リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスホチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合の形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、システインの形成、ピログルタミンの形成、ホルミル化、ガンマ-カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカーの形成、ヒドロキシル化、ヨード化、メチル化、ミリストイル化、酸化、ペグ化、タンパク分解性プロセッシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレン化(selenoylation)、硫酸化、たとえば、アルギニル化及びユビキチン化のような転移RNAが介在するタンパク質へのアミノ酸の付加が挙げられる(たとえば、Proteins-Structure and Molecular Properties,T.E.Creighton,W.H.Freeman and Company,NY;2nd ed.(1993);Johnson,ed.(1983)Posttranslational Covalent Modification of Proteins(Academic Press,NY),pgs.1-12;Seifter et al., Meth. Enzymol. 182:626-646 (1990);Rattan,et al.,Ann.NY Acad.Sci.663:48-62(1992)を参照のこと)。
【0142】
本開示はまた、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)と、異種ポリペプチドとを含む融合タンパク質も提供する。抗体が融合される異種ポリペプチドは、機能のために有用であることができ、SEMA4Dポリペプチドを発現している細胞を標的とするのに有用である。ポリペプチドのインビボでの半減期を増やすために、または当該技術で既知の方法を用いた免疫アッセイで使用するために、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を1以上の異種ポリペプチドまたは他の部分に融合するまたはコンジュゲートすることができる。たとえば、一実施形態では、PEGまたはヒト血清アルブミンを本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子に融合して、またはコンジュゲートしてそのインビボでの半減期を増やすことができる。Leong,et al.,Cytokine,16:106(2001);Adv.in Drug Deliv.Rev.54:531(2002);またはWeir,et al.,Biochem.Soc. Transactions,30:512(2002)を参照のこと。
【0143】
さらに、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を、たとえば、ペプチドのような1以上のマーカー配列に融合してその精製または検出を円滑にすることができる。特定の実施形態では、マーカーのアミノ酸配列は、とりわけ、pQEベクター(QIAGEN,Inc)で提供されたタグのようなヘキサヒスチジンペプチドであり、その多くは市販されている。Gentz,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86:821-824(1989)に記載されているように、たとえば、ヘキサヒスチジンは、融合タンパク質の都合の良い精製を提供する。精製に有用な他のペプチドタグには、インフルエンザ血球凝集素タンパク質に由来するエピトープに相当する「HA」タグ(Wilson,et al.,Cell,37:767(1984))及び「flag」タグが挙げられるが、これらに限定されない。
【0144】
融合タンパク質は、当該技術で周知である方法を用いて調製することができる(たとえば、米国特許第5,116,964号及び同第5,225,538号を参照のこと)。融合が行われる正確な部位は、融合タンパク質の分泌または結合の特性を最適化するように経験的に選択することができる。次いで融合タンパク質をコードするDNAで発現用の宿主細胞に形質移入する。
【0145】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、非コンジュゲート形態で使用することができ、または、たとえば、分子の治療特性を改善し、標的の検出を円滑にするために、または患者の画像化もしくは治療のために種々の分子の少なくとも1つにコンジュゲートすることができる。本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、精製の前にまたは後で、または精製を行うときに標識することができ、またはコンジュゲートすることができる。
【0146】
特に、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、治療剤、プロドラッグ、細胞傷害剤、ペプチド、タンパク質、酵素、ウイルス、脂質、生物反応調節因子、医薬剤またはPEGにコンジュゲートすることができる。
【0147】
当業者は、コンジュゲートを、コンジュゲートされる選択された作用物質に応じて種々の技法を用いて構築することもできることを十分に理解するであろう。たとえば、ビオチンとのコンジュゲートは、たとえば、ビオチンN-ヒドロキシスクシンイミドエステルのようなビオチンの活性化エステルと結合するポリペプチドを反応させることによって調製される。同様に、蛍光マーカーとのコンジュゲートは、カップリング剤、たとえば、本明細書でリストにされたものの存在下にて、またはイソチオシアネート、たとえば、フルオレセインイソチオシアネートとの反応によって調製することができる。本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)のコンジュゲートは、類似の方法で調製することができる。
【0148】
本開示はさらに、診断剤または治療剤とコンジュゲートした本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を包含する。そのような抗SEMA4D結合分子を診断に用いて、たとえば、臨床検査手順の一部として疾患の発症または進行をモニターし、たとえば、所与の治療投薬計画及び/または予防投薬計画の有効性を判定することができる。たとえば、検出は、抗SEMA4D結合分子を検出可能な物質とカップリングさせることによって円滑にすることができる。検出可能な物質の例には、種々の酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、放射性物質、種々のポジトロン放出断層撮影を生かすポジトロン放出金属、及び非放射性常磁性金属イオンが挙げられる。たとえば、本開示に従って診断として使用するために抗体にコンジュゲートすることができる金属イオンについては、米国特許第4,741,900号を参照のこと。好適な酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが挙げられ;好適な補欠分子族複合体の例には、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンが挙げられ;好適な蛍光物質の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシルまたはフィコエリスリンが挙げられ;発光物質の例には、ルミノールが挙げられ;生物発光物質の例にはルシフェラーゼ、ルシフェリン及びエクオリンが挙げられ;好適な放射性物質の例には125I、131I、111In、90Y、または99Tcが挙げられる。
【0149】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、たとえば、細胞毒素、治療剤または放射性金属イオンのような治療用部分にコンジュゲートすることができる。細胞毒素または細胞傷害剤には細胞に有害である作用物質が挙げられる。
【0150】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)はまた、化学発光化合物にそれをカップリングすることによって検出可能に標識することもできる。その後、化学発光でタグ付けされた抗SEMA4D結合分子の存在は、化学反応の経過の間に生じる発光の存在を検出することによって判定される。特に有用な化学発光標識化合物の例は、ルミノール、イソルミノール、芳香族(theromatic)アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩、及びシュウ酸エステルである。
【0151】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を検出可能に標識することができる方法の1つは、それを酵素に結合し、結合した生成物を酵素免疫アッセイ(EIA)にて使用することによる(Voller,A.,“The Enzyme Linked Immunosorbent Assay(ELISA)”,Microbiological Associates Quarterly Publication,Walkersville,Md.;Diagnostic Horizons,2:1-7(1978);Voller,et al.,J.Clin.Pathol.31:507-520(1978);Butler,Meth.Enzymol.73:482-523(1981);Maggio,ed.(1980),Enzyme Immunoassay,CRC Press,Boca Raton,Fla.;Ishikawa,et al.,eds.(1981),Enzyme Immunoassay(Kgaku Shoin,Tokyo)。抗SEMA4D結合分子に結合される酵素は、たとえば、分光光度、蛍光測定または目視の手段によって検出できる化学部分を生じるような方法で適当な基質、たとえば、発色性基質と反応するであろう。抗体を検出可能に標識するのに使用することができる酵素には、リンゴ酸脱水素酵素、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、デルタ-5-ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコール脱水素酵素、アルファ-グリセロリン酸脱水素酵素、トリオースリン酸イソメラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、グルコアミラーゼ及びアセチルコリンエステラーゼが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、検出は、酵素のために発色性基質を採用する比色法によって達成することができる。検出はまた、同様に調製した標準との比較で基質の酵素反応の程度を目視で比較することによって達成することもできる。
【0152】
検出はまた、種々の他の免疫アッセイを用いて達成することもできる。たとえば、抗SEMA4D結合分子を放射性に標識することによって、放射性免疫アッセイ(RIA)の使用を介して結合分子を検出することが可能である。放射性同位元素は、ガンマカウンター、シンチレーションカウンター、またはオートラジオグラフィを含むが、これらに限定されない手段によって検出することができる。
【0153】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、ランタニドシリーズの152Euまたはその他のような蛍光放出金属を用いて検出可能に標識することもできる。これらの金属は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)のような金属キレート剤を用いて結合分子に結合することができる。
【0154】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子に種々の部分をコンジュゲートする技法は当業者によって周知である。
【0155】
抗体ポリペプチドの発現
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)の軽鎖及び重鎖をコードするDNA配列は、周知の方法に従って逆転写酵素及びDNAポリメラーゼを用いて同時にまたは別々に作製することができる。公開された重鎖及び軽鎖のDNA配列及びアミノ酸配列に基づいたコンセンサス定常領域プライマーによって、またはさらに特異的なプライマーによってPCRを開始することができる。上記で議論したように、PCRを用いて抗体の軽鎖及び重鎖をコードするDNAクローンを単離することもできる。この場合、コンセンサスプライマーまたはたとえば、マウス定常領域プローブのようなさらに大きな相同性プローブによってライブラリを選抜することができる。
【0156】
DNA、通常プラスミドDNAは、当該技術で既知の技法を用いて細胞から単離し、たとえば、本明細書のどこか他で提供されている組換えDNA法に関する参考文献にて詳細に示された標準の周知の技法に従って、制限マッピングし、配列決定することができる。
【0157】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を提供するための単離された遺伝物質の操作に続いて、結合分子をコードするポリヌクレオチドを、所望の量の抗SEMA4D結合分子を産生させるのに使用することができる1以上の宿主細胞への導入のために発現ベクターに挿入することができる。
【0158】
抗SEMA4D抗体またはその断片、誘導体または類似体、たとえば、抗体の重鎖または軽鎖の組換え発現は、抗体をコードするポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせを含有する1以上の発現ベクターの構築を必要とする。抗体分子または抗体の重鎖または軽鎖またはその一部(たとえば、重鎖または軽鎖の可変領域を含有する)をコードするポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせがいったん得られると、抗体分子の産生のためのベクターは、当該技術で周知の技法を用いた組換えDNA技術によって作製することができる。従って、抗体をコードする核酸配列を含有するポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせを発現させることによってタンパク質を調製する方法が本明細書に記載されている。当業者に周知である方法を用いて、抗体のコーディング配列と適当な転写制御シグナルと翻訳制御シグナルとを含有する発現ベクターを構築することができる。これらの方法には、たとえば、インビトロでの組換えDNA法、合成法、及びインビボでの遺伝子組換えが挙げられる。従って、本開示は、プロモーターに操作可能に連結された、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子、たとえば、抗体、またはその重鎖または軽鎖または重鎖可変領域または軽鎖可変領域をコードする核酸配列を含む複製可能なベクターを提供する。そのようなベクターは、抗体の重鎖及び/または軽鎖の定常領域をコードするヌクレオチド配列を含むことができ(たとえば、PCT公開WO86/05807;PCT公開WO89/01036;及び米国特許第5,122,464号を参照のこと)、抗体の可変領域は、重鎖または軽鎖全体の発現のためにそのようなベクターにクローニングすることができる。
【0159】
用語「ベクター」または「発現ベクター」は、宿主細胞にて所望の遺伝子を導入し、発現させるための媒体として本開示に従って使用されるベクターを意味するのに本明細書で使用される。当業者に知られているように、そのようなベクターは、たとえば、プラスミド、ファージ、及びウイルス、たとえば、レトロウイルスから容易に選択することができる。一般に、本開示に適合するベクターは、選択マーカー、所望の遺伝子のクローニングを円滑にするための適当な制限部位及び真核細胞または原核細胞に侵入する及び/またはそこで複製する能力を含むであろう。
【0160】
多くの発現ベクター系を採用することができる。たとえば、ベクターのクラスの1つは、たとえば、ウシパピローマウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウィルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス(RSV、MMTVまたはMOMLV)またはSV40ウイルスのような動物ウイルスに由来するDNA要素を利用する。他には内部リボソーム結合部位(IRES)を持つポリシストロン系の使用が含まれる。さらに、その染色体にDNAを組み込んでいる細胞は、形質移入された宿主細胞の選択を可能にする1以上のマーカーを導入することによって選択することができる。マーカーは、栄養要求性の宿主に対する原栄養、殺生物剤耐性(たとえば、抗生剤)または銅のような重金属に対する耐性を提供することができる。選択可能なマーカー遺伝子は、発現するDNA配列に直接連結されることができ、または同時形質転換によって同一細胞に導入されることができる。mRNAの最適な合成には追加の要素も必要とされ得る。これらの要素には、シグナル配列、スプライスシグナル、ならびに転写プロモーター、エンハンサー、及び終結シグナルを挙げることができる。
【0161】
特定の態様では、クローニングした可変領域の核酸分子を、上記で議論したように合成した重鎖及び軽鎖の定常領域の遺伝子と共に発現ベクターに挿入することができる。当然、真核細胞で発現を引き出すことができる発現ベクターを使用することができる。好適なベクターの例には、プラスミドpcDNA3、pHCMV/Zeo、pCR3.1、pEF1/His、pIND/GS、pRc/HCMV2、pSV40/Zeo2、pTRACER-HCMV、pUB6/V5-His、pVAX1、及びpZeoSV2(Invitrogen、San Diego、Calif.から入手できる)、及びプラスミドpCI(Promega、Madison、Wis.から入手できる)が挙げられるが、これらに限定されない。一般に、好適に高いレベルの免疫グロブリン重鎖及び軽鎖を発現するものについて多くの形質転換された細胞を選抜することは、たとえば、ロボットシステムによって実施することができる日常の実験である。
【0162】
さらに一般的に、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)の単量体サブユニットをコードするベクターまたはDNA配列がいったん調製されると、発現ベクターを適当な宿主細胞に導入することができる。プラスミドの宿主細胞への導入は、当業者に周知の種々の技法によって達成することができる。これらには、形質移入(電気泳動及びエレクトロポレーションを含む)、原形質融合、リン酸カルシウム沈殿、エンベロープを持つDNAによる細胞融合、微量注入、及びインタクトなウイルスによる感染が挙げられるが、これらに限定されない。Ridgway(1988),“Mammalian Expression Vectors”in Vectorsed.Rodriguez及びDenhardt(Butterworths,Boston,Mass.),Chapter 24.2,pp.470-472を参照のこと。通常、プラスミドの宿主への導入はエレクトロポレーションによる。発現構築物を内部に持つ宿主細胞は、軽鎖及び重鎖の産生に適する条件下で増殖させ、重鎖及び/または軽鎖のタンパク質合成及び構築についてアッセイすることができる。例となるアッセイ技法には、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、放射性免疫アッセイ(RIA)、または蛍光活性化細胞選別解析(FACS)、免疫組織化学法、等が挙げられる。
【0163】
従来の技法によって発現ベクターで宿主細胞に形質移入することができ、次いで、形質移入された細胞を従来の技法によって培養し、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を産生させることができる。従って、本開示は、プロモーター、たとえば、異種プロモーターに操作可能に連結された本明細書で提供されているような抗体またはその重鎖または軽鎖をコードするポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの組み合わせを含有する宿主細胞を含む。二本鎖抗体の発現についての特定の実施形態では、重鎖及び軽鎖の双方をコードするベクターは、以下で詳述するように、結合分子全体の発現及び構築のために宿主細胞にて同時発現させることができる。
【0164】
本明細書で使用されるとき、「宿主細胞」は、組換えDNA技法を用いて構築され、少なくとも1つの異種ポリヌクレオチドをコードするベクターを内部に持つ細胞を指す。組換え宿主からの抗体に単離についてのプロセスの記載では、用語「細胞」及び「細胞培養物」は相互交換可能に使用されて、明瞭に特定されない限り、抗体の供給源を示す。言い換えれば、「細胞」からのポリペプチドの回収は、全細胞の遠心分離から、または培地と浮遊させた細胞の双方を含有する細胞培養物からのいずれかを意味することができる。
【0165】
種々の宿主・発現ベクター系を利用して、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を発現させることができる。そのような宿主・発現系は、対象とするコーディング配列が産生され、続いて精製され得る媒体を表すが、また適当なヌクレオチドコーディング配列で形質転換または形質移入されるとその場で本明細書で提供されているような抗体分子を発現することができる細胞も表す。これらには、抗体のコーディング配列を含有する組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNAの発現ベクターで形質転換された細菌(たとえば、E.coli、B.subtilis)のような微生物;抗体のコーディング配列を含有する組換え酵母発現ベクターで形質転換された酵母(たとえば、Saccharomyces,Pichia);抗体のコーディング配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(たとえば、バキュロウイルス)で感染させた昆虫細胞系;抗体のコーディング配列を含有する組換えウイルス発現ベクター(たとえば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)で感染させた、もしくは組換えプラスミド発現ベクター(たとえば、Tiプラスミド)で形質転換した植物細胞系;または哺乳類細胞のゲノムに由来するプロモーター(たとえば、メタロチオネインプロモーター)もしくは哺乳類ウイルスに由来するプロモーター(たとえば、アデノウィルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター、またはヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーター)を含有する組換え発現構築物を内部に持つ哺乳類細胞系(COS、CHO、BLK、293、3T3の細胞)が挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様では、特に組換え抗体分子全体の発現のための、たとえば、Escherichia coliのような細菌細胞または真核細胞を組換え抗体分子の発現に使用することができる。たとえば、ベクターと併せたチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)のような哺乳類細胞は、抗体にとって有効な発現系である(Foecking,et al.,Gene,45:101(1986);Cockett,et al.,Bio/Technology,8:2(1990))。
【0166】
タンパク質の発現に使用される宿主細胞株は、哺乳類起源のものであることができる。例となる宿主細胞株には、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)、DG44及びDUXB11(チャイニーズハムスター卵巣株、DHFRマイナス)、HeLa(ヒト子宮頸癌)、CVI(サル腎臓株)、COS(SV40T抗原を持つCVIの誘導体)、VERY、BHK(幼若ハムスター腎臓)、MDCK、293、WI38、R1610(チャイニーズハムスター線維芽細胞)、BALBC/3T3(マウス線維芽細胞)、HAK(ハムスター腎臓株)、SP2/O(マウス骨髄腫)、P3.times.63-Ag3.653(マウス骨髄腫)、BFA-lclBPT(ウシ内皮細胞)、RAJI(ヒトリンパ球)及び293(ヒト腎臓)が挙げられるが、これらに限定されない。宿主細胞株は通常、商業サービスであるアメリカンティッシューカルチャーコレクションまたは公開された参考文献から入手できる。
【0167】
加えて、挿入された配列の発現を調節するまたは所望の特定の方法で遺伝子産物を修飾し、処理する宿主細胞株を選択することができる。タンパク質産物のそのような修飾(たとえば、グリコシル化)及び処理(たとえば、切断)は、タンパク質の機能に重要であることができる。様々な宿主細胞がタンパク質及び遺伝子産物の翻訳後の処理及び修飾について特徴的で且つ特異的なメカニズムを有する。適当な細胞株または宿主系を選択して発現する外来タンパク質の正しい修飾及び処理を確保することができる。この目的で、一次転写物の適正なプロセッシング、遺伝子産物のグリコシル化及びリン酸化のための細胞機構を持つ真核宿主細胞を使用することができる。
【0168】
組換えタンパク質の長期の高収率の産生のために安定した発現を使用することができる。たとえば、抗体分子を安定して発現する細胞株を操作することができる。ウイルスの複製開始点を含有する発現ベクターを使用するのではなく、適当な発現制御要素(たとえば、プロモーター、エンハンサー、配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位、等)によって制御されたDNAと選択可能なマーカーとで宿主細胞を形質転換することができる。外来DNAの導入に続いて、操作した細胞を強化培地で1~2日間増殖させることができ、次いで選択培地に交換する。組換えプラスミドにおける選択可能なマーカーは、選択に対する耐性を付与し、細胞がプラスミドをその染色体に安定して組み込めるようにし、増殖させてその後クローニングされ、細胞株に増やされ得る増殖巣を形成できるようにする。この方法を有利に用いて抗体分子を安定して発現する細胞株を操作することができる。
【0169】
抗体分子の発現レベルは、ベクターの増幅によって高めることができる(概説については、Bebbington及びHentschel(1987),“The Use of Vectors Based on Gene Amplification for the Expression of Cloned Genes in Mammalian Cells in DNA Cloning”(Academic Press,NY),Vol.3を参照のこと)。抗体を発現するベクター系におけるマーカーが増幅可能である場合、宿主細胞の培養物に存在する阻害剤のレベルの上昇は、マーカー遺伝子のコピー数を増やすであろう。増幅された領域は抗体遺伝子と関連するので、抗体の産生も増えるであろう(Crouse,et al.,Mol.Cell.Biol.3:257(1983))。
【0170】
インビトロでの産生は、規模拡大で大量の所望のポリペプチドが得られるようにする。組織培養条件下での哺乳類細胞の培養のための技法は、当該技術で既知であり、それには、たとえば、エアリフト反応器もしくは連続スターラー反応器における均質浮遊培養、または、たとえば、中空繊維、マイクロカプセル、アガロースマイクロビーズもしくはセラミックカートリッジにおける不動化細胞培養もしくは捕捉細胞培養が挙げられる。必要であれば及び/または所望であれば、たとえば、合成ヒンジ領域ポリペプチドの生合成の後で、または本明細書に記載されているHICクロマトグラフィー工程に先立ってもしくはそれに続いて、ポリペプチドの溶液を普通のクロマトグラフィー法、たとえば、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、DEAE-セルロースでのクロマトグラフィー、または(免疫)アフィニティークロマトグラフィーによって精製することができる。
【0171】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)をコードする核酸分子はまた、たとえば、昆虫、細菌または酵母または植物の細胞のような非哺乳類細胞で発現させることもできる。容易に核酸を取り込む細菌には、たとえば、Escherichia coliまたはSalmonellaの株のようなEnterobacteriaceae、及びBacillus suhtilisのようなBacillaceae;Pneumococcus;Streptococcus、及びHaemophilus influenzaeのメンバーが挙げられる。細菌で発現する場合、異種ポリペプチドは通常、封入体の一部になることがさらに十分に理解されるであろう。封入体を単離し、精製し、次いで機能的分子に構築することができる。抗体の四価形態が所望である場合、サブユニットは次いで四価の抗体に自己集合することができる(WO02/096948A2)。
【0172】
細菌系では、発現する抗体分子について意図される使用に応じて多くの発現ベクターを有利に選択することができる。たとえば、大量のそのようなタンパク質が生産されるべきである場合、抗体分子の医薬組成物の生成については、容易に精製される高レベルの融合タンパク質産物の発現を指図するベクターが望ましくてもよい。
【0173】
原核生物に加えて、真核微生物も使用することができる。多くの他の株、たとえば、Pichia pastorisが一般的に利用できるが、Saccharomyces cerevisiaeまたは普通のパン屋の酵母が、真核微生物の間で最も一般的に使用されている。
【0174】
昆虫系では、Autographa californica核多角体病ウイルス(AcNPV)が通常、外来遺伝子を発現させるためのベクターとして使用される。そのウイルスは、Spodoptera frugiperda細胞で増殖する。抗体のコーディング配列を個々にウイルスの非必須領域(たとえば、ポリヘドリン遺伝子)にクローニングし、AcNPVプロモーター(たとえば、ポリヘドリンプロモーター)の制御下に置くことができる。
【0175】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)がいったん組換え発現すると、免疫グロブリン分子の精製について当該技術で既知の方法によって、たとえば、クロマトグラフィー(たとえば、イオン交換クロマトグラフィー、特にプロテインAに対する親和性による、及びサイズ選別カラムクロマトグラフィー)、遠心分離、差別的溶解度によって、またはタンパク質の精製についての他の標準的な技法によってそれを精製することができる。あるいは、本明細書で提供されているような抗体の親和性を高める方法は、米国特許出願公開第20020123057A1号にて開示されている。
【0176】
治療用抗SEMA4D抗体を用いた治療方法
本開示は、SEMA4Dの病理に関連する疾患または障害を有する対象を治療するための本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)の使用の方法を提供する。
【0177】
以下の議論は、SEMA4D、たとえば、ヒト、マウスまたはヒトとマウスのSEMA4Dを特異的に結合することができ、且つSEMA4Dを中和する活性を有する本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)による種々の疾患及び障害の診断方法及び治療に言及する。
【0178】
一態様では、本開示は、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)をヒト対象に投与することを含む、ヒト対象においてSEMA4Dを中和する方法を提供する。特定の態様では、ヒト対象は、自己免疫疾患もしくは障害、炎症性疾患もしくは障害、がん、神経炎症性疾患もしくは障害、神経変性疾患もしくは障害、またはそれらの組み合わせの治療を必要としている。特定の態様では、神経炎症性疾患もしくは障害は多発性硬化症である。特定の態様では、神経変性疾患もしくは障害は、脳卒中、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ダウン症候群、運動失調、筋委縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭型認知症(FTD)、HIV関連の認知障害、CNSループス、軽度認知障害、またはそれらの組み合わせである。特定の態様では、自己免疫疾患または炎症性疾患は、関節炎、たとえば、関節リウマチ、アテローム性硬化症(たとえば、全体として参照によって本明細書に組み入れられるPCT公開第WO2015/054628号を参照のこと)、または骨粗鬆症のような骨変性疾患(たとえば、全体として参照によって本明細書に組み入れられる米国特許第9,447,191号を参照のこと)である。
【0179】
一態様では、治療には、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)の対象への適用もしくは投与、または対象に由来する単離された組織もしくは細胞株への適用もしくは投与が含まれ、その際、対象は、疾患、疾患の症状、または疾患に罹りやすい傾向を有する。別の態様では、治療には、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を含む医薬組成物の、疾患、疾患の症状または疾患に罹りやすい傾向を有する対象への、または患者に由来する組織もしくは細胞株への適用または投与も含まれる。
【0180】
一態様では、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、がんの治療、たとえば、種々の悪性及び非悪性の腫瘍の治療に有用であることができる。「抗腫瘍活性」によって、悪性細胞の増殖もしくは蓄積の速度の低下、従って存在する腫瘍のもしくは治療の間に生じる腫瘍における増殖速度の低下、及び/または存在する新生物(腫瘍)細胞もしくは新しく形成される新生物細胞の破壊、従って治療の間での腫瘍の全サイズの低下が意図される。たとえば、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)による治療法は、生理的応答を引き出すことができ、たとえば、血管新生の低下または腫瘍微小環境へのCTLの移動を引き出すことができる。本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)によってがんを治療する方法は、たとえば、全体として参照によって本明細書に組み入れられるPCT公開第WO2014/209802号[組み合わせ免疫療法]にて見いだすことができる。
【0181】
一態様では、本開示は、薬物として使用するための、特に、がんの治療もしくは予防で使用するための、または前がんの状態または病変で使用するための本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を提供する。
【0182】
別の態様では、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、自己免疫疾患または炎症性疾患の治療で有用であることができる。別の態様では、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、神経炎症性疾患または神経変性疾患の治療で有用であることができる。神経炎症性疾患または神経変性疾患を治療する方法は、たとえば、その内容が全体として参照によって本明細書に組み入れられるPCT公開第WO2013/055922号[BBB]、PCT公開第WO2015/061330号[HD]、及びPCT公開第WO2013/170221号[神経発生/脳卒中]にて見いだすことができる。
【0183】
本明細書で提供されている方法によれば、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を用いて悪性ヒト細胞に関する肯定的な治療反応を促進することができる。がんの治療に関して「肯定的な治療反応」によって、これらの結合分子(たとえば、抗体またはその断片)の抗腫瘍活性に関連する疾患での改善、及び/または疾患に関連する症状での改善が意図される。すなわち、抗増殖効果、さらなる腫瘍増生の阻止、腫瘍サイズの低下、腫瘍血管形成の減少、がん細胞の数の減少、及び/または疾患に関連する1以上の症状の減少を観察することができる。従って、たとえば、疾患における改善は、完全奏効として特徴づけることができる。「完全奏効」によって、以前の異常な放射線検査、骨髄及び脳脊髄液(CSF)の正常化と共に臨床的に検出できる病気の非存在が意図される。あるいは、疾患における改善は、部分奏効であると分類することができる。「部分奏効」によって、新しい病変の非存在下で、且つ少なくとも1ヵ月間持続する測定可能な全腫瘍量(すなわち、対象に存在する腫瘍細胞の数)での少なくとも約50%の低下が意図される。そのような奏効は、測定可能な腫瘍にのみ適用できる。
【0184】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)はまた、炎症性疾患及び免疫系の欠損または障害の治療でも使用することができる。炎症性疾患は、炎症及び組織破壊またはそれらの組み合わせを特徴とする。「抗炎症活性」によって、炎症の軽減または予防が意図される。「炎症性疾患」には、免疫応答の開始事象または標的に、たとえば、同種抗原、異種抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、未知の抗原またはアレルゲンを含む非自己抗原が含まれる場合の炎症性の免疫介在プロセスが含まれる。一実施形態では、炎症性疾患は、末梢神経系または中枢神経系の炎症性障害である。別の実施形態では、炎症性疾患は、関節の炎症性障害である。
【0185】
さらに、用語「炎症性疾患」には「自己免疫疾患」が含まれる。本明細書で使用されるとき、用語「自己免疫」は一般に、「自己」抗原が関与する炎症性の免疫介在プロセスを包含すると理解される。自己免疫疾患では、自己抗原が宿主の免疫応答を誘発する。自己免疫疾患は、自己寛容の正常状態からの逸脱である、自己抗原(自家抗原)に対して向けられた不適当な免疫応答から生じ得る。一般に、細胞傷害分子としてまたは免疫複合体として作用する抗体(特に、しかし、専らではなく、IgG抗体)は、その多くが消耗性であり、命を脅かすことができる種々の自己免疫疾患の主要なメディエーターである。
【0186】
一実施形態では、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を用いて多発性硬化症(MS)を治療することができる。散在性硬化症または散在性脳脊髄炎としても知られるMSは、免疫系が中枢神経系を攻撃し、脱髄をもたらす自己免疫状態である。多発性硬化症の名称は、神経系で生じる瘢痕(硬化、プラークまたは病変とも呼ばれる)を指す。MSの病変には一般に、小脳の脳室、脳幹、脳幹神経節及び脊髄、及び視神経に近接する白質領域が含まれる。MSは、髄鞘を作り出し、維持することに関与する細胞である乏突起膠細胞の破壊を生じる。MSは、ミエリンの薄化または完全な喪失を生じ、疾患の進行につれて軸索の横断面の薄化または完全な喪失を生じる。
【0187】
神経学的な症状はMSによって異なる場合があり、当該疾患は身体障害及び認知障害に進むことが多い。MSは幾つかの形態を取り、新しい症状は、個別の罹患(再発形態)または時間をかけてゆっくりと蓄積すること(進行性形態)で発生する。罹患の間で、症状は完全になくなり得るが、特に疾患の進行につれて永続的な神経損傷が生じることが多い。
【0188】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を用いたSEMA4Dの中和を用いて幾つかの異なるメカニズムを介してMSの重症度を軽減することができ、たとえば、抗SEMA4Dモノクローナル抗体は、CNS抗原に対する二次的な免疫応答を軽減することによってSEMA4Dによる免疫系の成熟及び活性化を阻止し、再発の比率を減らすことができ、且つ抗SEMA4Dモノクローナル抗体は、CNSにおける乏突起膠細胞のアポトーシスへの介在における可溶性SEMA4Dの効果を遮断することができ、脱髄を減らすことによって疾患の重症度を軽減することができる。
【0189】
一態様では、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を用いて関節炎を治療することができる。関節炎は関節の炎症性疾患であり、それは免疫系が関節を攻撃する自己免疫状態によって引き起こされ得る。特定の実施形態では、関節炎は、変形性関節症、痛風性関節炎、強直性脊椎炎、乾癬関節炎、反応性関節炎、関節リウマチ、小児発症関節リウマチ、感染性関節炎、炎症性関節炎、敗血症性関節炎、変性関節炎、破壊性関節炎、及びライム関節炎から成る群から選択される。一実施形態では、関節炎は関節リウマチ(RA)である。
【0190】
本開示は、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子を対象に投与することによって関節炎を治療するまたは予防する方法を含む。本明細書で提供されているような方法は、関節炎、たとえば、関節リウマチに関連する疼痛、腫脹またはこわばりを軽減することができる。本開示はまた、関節の性能、機能及び健康を改善する方法も指向する。本開示の一部の実施形態では、治療は、関節炎重症度スコアの低下、関節炎の重症度/曲線下面積の低下、関節炎に関連する組織病理パラメーター(炎症、パンヌス、軟骨損傷及び骨損傷)の低下、血清アラキドン酸レベルの低下、または抗コラーゲン抗体の低下を生じる。特定の実施形態では、有益なまたは所望の臨床成績には、関節炎に関連する症状の緩和;関節炎の予防;関節炎の発症における遅延;集団における関節炎の低い発生率;関節炎に関連する状態の程度の低下;関節炎に関連する状態、障害または疾患の状況の安定化(たとえば、悪化しない);関節炎に関連する状態、障害または疾患の発症の遅延またはその進行の減速;検出できようと検出できまいと、関節炎に関連する状態、障害または疾患の状況の改善、関節炎に関連する状態、障害または疾患の寛解(部分的であれ、または全体的であれ);あるいは関節炎に関連する状態、障害または疾患の向上または改善が挙げられるが、これらに限定されない。
【0191】
本明細書で提供されている方法を用いて関節炎を有する個体または関節炎を発症するリスクがある個体を治療することができる。従って、一部の実施形態では、本開示は、正常な関節、境界領域の関節炎関節またはまさに関節炎の関節を有する対象を治療する方法を提供し、該方法は、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子を本明細書に記載されているような対象に投与することを含む。一部の実施形態では、本明細書で提供されている方法を用いて対象の余生の間、慢性関節炎を治療することができる。
【0192】
本明細書で提供されているような方法によれば、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を用いて自己免疫疾患及び/または炎症性疾患の治療または予防に関して肯定的な治療反応を促進することができる。自己免疫疾患及び/または炎症性疾患に関して「肯定的な治療反応」によって、これらの抗体の抗炎症活性、抗血管新生活性、抗アポトーシス活性、等に関連した疾患の改善、及び/または疾患に関連した症状の改善が意図される。すなわち、抗増殖効果、SEMA4Dを発現している細胞のさらなる増殖の阻止、炎症性サイトカイン、接着分子、プロテアーゼ、免疫グロブリン(SEMA4Dを担う細胞がB細胞である場合)、それらの組み合わせ、等の分泌の低下を含むが、これらに限定されない炎症反応の低下、抗炎症性タンパク質の産生の増加、自己反応性細胞の数の減少、免疫寛容の増大、自己反応性細胞の生き残りの抑制、アポトーシスの減少、内皮細胞の移動の減少、自然発生の単球の移動の増加、sSEMA4DまたはSEMA4D発現細胞の刺激が介在する1以上の症状の軽減及び/または減少を観察することができる。そのような肯定的な治療反応は、投与の経路に限定されず、ドナー、ドナーの組織(たとえば、臓器潅流)、宿主、それらの組み合わせ、等への投与を含むことができる。
【0193】
ELISA、RIA,クロマトグラフィー、等によって検出可能な変化を含むが、これらに限定されない臨床反応は、たとえば、磁気共鳴画像診断(MRI)走査、X線画像診断、コンピューター断層撮影(CT)走査、フローサイトメトリーまたは蛍光活性化細胞選別(FACS)解析、組織学、肉眼的病理及び血液検査のようなスクリーニング法を用いて評価することができる。これらの肯定的な治療反応に加えて、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)による治療法を受けている対象は、疾患に関連する症状における改善の有益な効果を経験することができる。
【0194】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を、外科手術または外科的処置;免疫調節療法;放射線療法;任意で自己骨髄移植と併用した化学療法、または他のがん治療法を含むが、これらに限定されない少なくとも1つのがん治療法との併用で使用することができ、その際、追加のがん治療法は、抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片)による治療法に先立って、その最中に、それに続いて投与される。従って、併用療法が、化学療法、放射線療法、他の抗がん抗体療法、小分子に基づくがん治療法、またはワクチン/免疫療法に基づくがん治療法と同様に別の治療剤との併用での本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片)の投与を含む場合、本明細書で提供されているような方法は、別々の製剤もしくは単一の医薬製剤を用いた同時投与、または及びいずれかの順での連続投与を包含する。
【0195】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を、有用であることが知られている、または自己免疫疾患及び炎症性疾患の治療で使用されているもしくは現在使用中である作用物質または作用物質の組み合わせを含む、自己免疫疾患及び炎症性疾患のための既知の治療法との併用で使用することができる。従って、併用療法が別の治療剤の投与との併用で抗SEMA4D結合分子の投与を含む場合、本明細書で提供されている方法は、別々の製剤もしくは単一の医薬製剤を用いた同時投与、及びいずれかの順での連続投与を包含する。一部の実施形態では、本明細書に記載されている抗SEMA4D抗体は、免疫抑制薬または抗炎症薬との併用で投与され、その際、抗体及び治療剤は、いずれかの順で逐次投与することができ、または同時に(すなわち、付随してまたは同じ時間枠の範囲内で)投与することができる。
【0196】
特定の態様では、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を単独でまたは免疫抑制剤との併用で用いて関節リウマチを治療する及び/または予防することができる。上記で議論したように、治療の有効性は、任意の手段を用いて評価することができ、それには、米国リウマチ学会の基準、欧州リウマチ学会の基準または他の基準によって定義された臨床反応により測定される有効性が挙げられるが、これらに限定されない。たとえば、Felson,et al.,Arthritis.Rheum.38:727-35(1995)及びvan Gestel,et al.,Arthritis Rheum.39:34-40(1996)を参照のこと。
【0197】
さらに他の態様では、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を単独で、または免疫抑制剤との併用で使用し、多発性硬化症を治療する及び/または予防することができる。
【0198】
本開示のさらなる態様は、臨床検査手順の一部として組織におけるタンパク質のレベルを診断上モニターして、たとえば、所与の治療計画の有効性を判定するための、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)の使用である。たとえば、検出は、検出可能な物質に抗体を結合させることによって円滑にすることができる。検出可能な物質の例には、種々の酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、及び放射性物質が挙げられる。好適な酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが挙げられ;好適な補欠分子族複合体の例には、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンが挙げられ;好適な蛍光物質の例には、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシルまたはフィコエリスリンが挙げられ;発光物質の例には、ルミノールが挙げられ;生物発光物質の例にはルシフェラーゼ、ルシフェリン及びエクオリンが挙げられ;好適な放射性物質には125I、131I、35S、または3Hが挙げられる。
【0199】
VIII.医薬組成物及び投与方法
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を調製し、それを必要とする対象にそれを投与する方法は当業者に周知であり、当業者によって容易に決定される。抗SEMA4D結合分子の投与の経路は、たとえば、経口、非経口、吸入による、または局所である。用語、非経口には本明細書で使用されるとき、たとえば、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、直腸、または膣での投与が含まれる。投与のこれらの形態全てが本開示の範囲内にあるとして熟考される一方で、投与のための形態の例は、注射、特に静脈内または動脈内の注射または点滴のための溶液である。普通、注射用の好適な医薬組成物は、緩衝液(たとえば、酢酸、リン酸またはクエン酸緩衝液)、界面活性剤(たとえば、ポリソルベート)、任意で安定剤(たとえば、ヒトアルブミン)、等を含むことができる。しかしながら、本明細書の教示に適合する他の方法では、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、不利益な状態、たとえば、固形腫瘍の部位に直接送達することができ、それによって病んだ組織の治療剤への曝露を増やす。
【0200】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、SEMA4Dが介在する疾患、たとえば、がん、自己免疫疾患、中枢神経系(CNS)及び末梢神経系(PNS)の炎症性疾患を含む炎症性疾患、神経変性疾患及び侵襲性血管新生のインビボでの治療のために薬学上有効な量で投与することができる。この点で、開示されている結合分子は投与を円滑にし、活性剤の安定性を助長するように製剤化できることが十分に理解されるであろう。特定の態様では、本明細書で提供されているような医薬組成物は、薬学上許容できる、非毒性で無菌のキャリア、たとえば、生理食塩水、非毒性の緩衝液、保存剤、等を含むことができる。本出願の目的で、コンジュゲートされているまたはコンジュゲートされていない本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)の薬学上有効な量は、標的への有効な結合を達成し、且つ、たとえば、疾患もしくは障害の症状を改善するまたは物質もしくは細胞を検出する利益を達成するのに十分な量を意味する。
【0201】
本開示で使用される医薬組成物は、たとえば、イオン交換剤、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンのような血清タンパク質、たとえば、リン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウムのような緩衝液物質、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質、たとえば、プロタミン硫酸、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三珪酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコール及び羊毛脂を含む薬学上許容できるキャリアを含む。
【0202】
非経口投与のための調製物には限定しないで、無菌の水性または非水性の溶液、懸濁液及びエマルションが挙げられる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、たとえば、オリーブ油のような植物油及び、たとえば、オレイン酸エチルのような注射用有機エステルである。水性キャリアには、たとえば、水、生理食塩水及び緩衝化培地を含むアルコール性/水性の溶液、エマルションまたは懸濁液が挙げられる。薬学上許容できるキャリアには、0.01~0.1M、たとえば、0.05Mのリン酸緩衝液または0.8%の生理食塩水が挙げられるが、これらに限定されない。他の一般的な非経口媒体には、リン酸ナトリウム溶液、リンガーのデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸加リンガー液または固定油が挙げられる。静脈内媒体には流体及び栄養補充剤、電解質補充剤、たとえば、リンガーのデキストロースに基づくもの、等が挙げられる。保存剤及び他の添加剤は、たとえば、抗微生物剤、抗酸化剤、キレート剤、及び不活性気体、等も存在することができる。
【0203】
特定の態様では、注射用途に好適な医薬組成物には、無菌の水溶液(水溶性の場合)または分散液及び無菌の注射用の溶液もしくは分散液の即時調製のための無菌の粉末が含まれる。そのような場合、組成物は無菌でなければならず、容易な注射針通過性が存在する程度に流動性であるべきである。それは製造及び保存の条件下で安定であるべきであり、且つたとえば、細菌または真菌のような微生物の混入活動に対して保護することができる。キャリアは、たとえば、水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液状ポリエチレングリコール、等)及びそれらの好適な混合物を含有する溶媒または分散媒であることができる。たとえば、レシチンのようなコーティングの使用によって、分散液の場合必要とされる粒度の維持によって、及び界面活性剤の使用によって適正な流動性を維持することができる。本明細書で開示されている治療法で使用するのに好適な製剤はRemingtonのPharmaceutical Sciences(Mack Publishing Co.),16th ed.(1980)に記載されている。
【0204】
微生物の活動の防止は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、たとえば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール、等によって達成することができる。特定の態様では、等張剤、たとえば、糖、多価アルコール、たとえば、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを組成物に含めることができる。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅らせる作用物質、たとえば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物に含めることによってもたらすことができる。
【0205】
どんな場合でも、無菌の注射用溶液は、必要に応じて本明細書で列挙されている成分1つまたは成分の組み合わせと共に、活性化合物(たとえば、それ自体または他の活性剤との併用で、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体))を必要量で適当な溶媒に組み込むことと、その後の濾過滅菌によって調製することができる。一般に、分散液は、基本的な分散媒と上記で列挙されたものに由来する必要とされる他の成分とを含有する無菌媒体に活性化合物を組み込むことによって調製される。無菌の注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合、調製方法は真空乾燥及び凍結乾燥を含むことができ、それによって有効成分に加えた以前無菌濾過したその溶液に由来する追加の所望の成分の粉末が得られる。注射用製剤は、当該技術で既知の方法に従って処理され、たとえば、アンプル、バッグ、ビン、注射器またはバイアルのような容器に充填され、無菌条件下で密封される。さらに、製剤は、たとえば、米国特許出願第09/259,337号に記載されたもののようなキットの形態で包装され、販売される。そのような製造物品は、関連する組成物が疾患もしくは障害を患っている対象または疾患もしくは障害に罹り易い対象を治療するのに有用であることを示すラベルまたは添付文書を有することができる。
【0206】
非経口製剤は、単回ボーラス用量、点滴用量、または負荷ボーラス用量に続く維持用量であることができる。これらの組成物は、特定の固定されたまたは変動する間隔で、たとえば、1日1回、または「必要に応じて」基準で投与することができる。
【0207】
本開示によって提供される特定の医薬組成物は、たとえば、カプセル剤、錠剤、水性懸濁液または水溶液を含む許容できる剤形で経口投与することができる。特定の医薬組成物は、鼻内噴霧または吸入によって投与することもできる。そのような組成物は、生理食塩水にて溶液として調製することができ、ベンジルアルコール、または他の好適な保存剤、生体利用効率を高める吸収促進剤及び/または他の従来の可溶化剤または分散剤を採用する。
【0208】
キャリア物質と組み合わせて単回剤形を生じることができる、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)の量は、治療される宿主及び投与の特定の方式に応じて変化するであろう。組成物は、単回用量、複数回用量として、または点滴にて確立された時間にわたって投与することができる。投薬計画を調整して最適で所望の反応(たとえば、治療反応または予防反応)を提供することもできる。
【0209】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、治療効果を生じるのに十分な量で前述の治療方法に従ってヒトまたは他の動物に投与することができる。本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)は、既知の技法に従って従来の薬学上許容できるキャリアまたは希釈剤と抗体を組み合わせることによって調製される従来の剤形でヒトまたは他の動物に投与することができる。薬学上許容できるキャリアまたは希釈剤の形態及び特徴は、組み合わせられるべきである有効成分の量、投与の経路及び他の周知の可変のものによって指示されることが当業者によって認識されるであろう。
【0210】
「治療上有効な用量または量」または「有効量」によって、投与されると治療される疾患を持つ患者の治療に関して肯定的な治療反応をもたらす本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)の量が意図される。
【0211】
たとえば、がん;自己免疫疾患、たとえば、関節炎、多発性硬化症、中枢神経系(CNS)及び末梢神経系(PNS)の炎症性疾患を含む炎症性疾患;神経変性疾患;及び侵襲性血管新生のようなSEMA4Dが介在する疾患の治療について本明細書で提供されているような組成物の治療上有効な用量は、投与の手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトであるか動物であるか、投与される他の薬物、治療が予防的であるか治療的であるかを含む多くの様々な因子に応じて変化する。普通、患者はヒトであるが、トランスジェニック哺乳類を含む非ヒト哺乳類も治療することができる。治療投与量は、当業者に既知の日常的な方法を用いて設定され、安全性及び有効性を最適化することができる。
【0212】
投与される本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)の量は、過度の実験を行うことなく当業者によって容易に決定される。投与の方式及び抗SEMA4D結合分子の各量に影響を及ぼす因子には、疾患の重症度、病歴、及び治療を受ける個体の年齢、身長、体重、健康状態及び身体状態が挙げられるが、これらに限定されない。同様に、投与される抗SEMA4D結合分子の量は、投与の方式及び対象がこの作用物質の単回投与を受けるのか、または複数回投与を受けるのかに左右されるであろう。
【0213】
本開示はまた、たとえば、関節炎、多発性硬化症、CNS及びPNSの炎症性疾患を含む自己免疫疾患及び/または炎症性疾患、神経変性疾患またはがんを治療するための薬物の製造における抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)の使用も提供する。
【0214】
本開示はまた、たとえば、関節炎、多発性硬化症、CNS及びPNSの炎症性疾患を含む自己免疫疾患及び/または炎症性疾患、神経変性疾患またはがんを治療するための薬物の製造における抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)の使用も提供し、その際、薬物は、少なくとも1つの他の治療法で前治療されている対象で使用される。「前治療された」または「前治療」によって、抗SEMA4D結合分子を含む薬物を受け入れるのに先立って対象が1以上の他の治療を受けている(たとえば、少なくとも1つの他の治療法で治療されている)ことが意図される。「前治療された」または「前治療」には、本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を含む薬物による治療の開始に先立って2年以内に、18ヵ月以内に、1年以内に、6ヵ月以内に、2ヵ月以内に、6週以内に、1ヵ月以内に、4週以内に、3週以内に、2週以内に、1週以内に、6日以内に、5日以内に、4日以内に、3日以内に、2日以内に、またはさらに1日以内に、少なくとも1つの他の治療法で治療された対象が含まれる。対象が前の治療法(単数)または治療法(複数)による前治療に対するレスポンダーであったことは必要ではない。従って、抗SEMA4D結合分子を含む薬物を受け入れる対象は、前の治療法に対してまたは前治療が複数の治療法を構成する前の治療法の1以上に対して応答できたこともありうるし、または応答できなかった(たとえば、がんは難治性だった)こともありうる。本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を含む薬物を受け入れるのに先立って対象が前治療を受け入れた可能性がある他のがん治療法の例には、外科手術;放射線療法;任意で自己骨髄移植と組み合わせた化学療法;他の抗癌モノクローナル抗体療法;小分子に基づくがん治療法;ワクチン/免疫療法に基づくがん治療法;ステロイド療法;他のがん治療法;またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0215】
IX.診断
本開示はさらに、たとえば、特定の種類のがん、自己免疫疾患、たとえば、関節炎、多発性硬化症、中枢神経系(CNS)及び末梢神経系(PNS)の炎症性疾患を含む炎症性疾患、神経変性疾患、及び侵襲性血管新生のようなSEMA4Dが介在する疾患の診断の間に有用な診断法を提供するが、それには、個体に由来する組織または他の細胞または体液にてSEMA4Dのタンパク質または転写物の発現レベルを測定することと、正常な組織または体液における標準のSEMA4Dの発現レベルと測定された発現レベルを比較することとが含まれ、それによって標準と比べた発現レベルの上昇が障害を示す。
【0216】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を使用し、当業者に既知の従来の免疫組織学的方法を用いて生体試料にてSEMA4Dタンパク質のレベルをアッセイすることができる(たとえば、Jalkanen,et al.,J.Cell.Biol.101:976-985(1985);Jalkanen,et al.,J.Cell Biol.105:3087-3096(1987)を参照のこと)。SEMA4Dタンパク質の発現を検出するのに有用な他の抗体に基づく方法には、免疫アッセイ、たとえば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、免疫沈降法またはウエスタンブロッティングが挙げられる。好適なアッセイは、本明細書のどこか他にさらに詳細に記載されている。
【0217】
「SEMA4Dポリペプチドの発現レベルをアッセイすること」によって、第1の生体試料にて直接(たとえば、絶対的タンパク質レベルを測定するまたは推定することによって)または相対的に(たとえば、第2の生体試料における疾患関連のポリペプチドのレベルと比べることによって)SEMA4Dポリペプチドのレベルを定性的にまたは定量的に測定することまたは推定することが意図される。特定の態様では、第1の生体試料におけるSEMA4Dポリペプチドの発現レベルを測定し、または推定し、標準のSEMA4Dポリペプチドのレベルと比較することができ、標準は、障害を有さない個体から得られる第2の生体試料から採取され、または標準は、障害を有さない個体の集団に由来するレベルを平均することによって決定される。当該技術で十分に理解されているように、いったん「標準」のSEMA4Dポリペプチドのレベルが知られると、比較のための標準として繰り返しそれを使用することができる。
【0218】
「生体試料」によって、SEMA4Dを潜在的に発現する個体、細胞株、組織培養物、または細胞の他の供給源から得られる任意の生体試料が意図される。哺乳類から組織生検及び体液を得る方法は当該技術で周知である。
【0219】
X.免疫アッセイ
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を当該技術で既知の方法によって免疫特異的な結合についてアッセイすることができる。使用することができる免疫アッセイには、ほんの数例を挙げれば、たとえば、ウエスタンブロット、放射性免疫アッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、「サンドイッチ」免疫アッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降素反応、ゲル拡散沈降素反応、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体固定アッセイ、免疫放射測定アッセイ、蛍光免疫アッセイ、プロテインA免疫アッセイのような技法を用いた競合及び非競合のアッセイ系が挙げられるが、これらに限定されない。そのようなアッセイは日常的であり、当該技術で周知である(たとえば、全体として参照によって本明細書に組み入れられるAusubel,et al.,eds,(1994),Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons,Inc.,NY),Vol.1を参照のこと)。例となる免疫アッセイは以下で手短かに記載されている(ただし、限定の目的では意図されない)。
【0220】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)を、SEMA4Dタンパク質またはその保存された変異体またはペプチド断片の原位置での検出のために、免疫蛍光、免疫電子顕微鏡または非免疫アッセイのように組織学的に採用することができる。原位置での検出は、患者から組織学的検体を取り出し、標識された抗SEMA4D抗体またはその抗原結合断片をそれに適用する、たとえば、生体試料上に標識抗体(または断片)を重ね合わせることによって達成することができる。そのような手順の使用を介して、SEMA4Dタンパク質または保存された変異体またはペプチド断片の存在だけでなく、調べた組織におけるその分布も決定することが可能である。本開示を用いて、当業者は、そのような原位置検出を達成するために多種多様な組織学的方法(たとえば、染色法)のいずれかを改変することができることを容易に理解するであろう。
【0221】
本明細書で提供されているような抗SEMA4D結合分子(たとえば、抗体または抗原に結合するその断片、変異体、もしくは誘導体)の所与のロットの結合活性は、周知の方法に従って決定することができる。当業者は、日常の実験を採用することによって各決定についての有効であり且つ最適なアッセイ条件を決定することができるであろう。
【0222】
抗体・抗原の相互作用の親和性を測定するのに利用できる種々の方法があるが、速度定数を決定する方法は相対的に少ない。方法のほとんどは抗体または抗原を標識することを当てにするが、それは日常の測定を必然的に複雑にし、測定された量に不確実性を導入する。
【0223】
BIACORE(登録商標)で実施されるような表面プラズモン共鳴(SPR)は抗体・抗原相互作用も親和性を測定する従来の方法を超えて多くの利点:(i)抗体または抗原のいずれかを標識する必要がない;(ii)前もって抗体を精製する必要がなく、細胞の培養上清をそのまま使用することができる;(iii)異なるモノクローナル抗体の相互作用の迅速で半定量的な比較を可能にするリアルタイム測定が可能になり、多くの評価目的に十分である;(iv)一連の様々なモノクローナル抗体を同一条件下で容易に比較できるように二重特異性の表面を再生することができる;(v)分析手順は完全に自動化され、ユーザーの介入なしで広範な測定を実施することができる;を提供している。BIAapplications Handbook,バージョンAB(1998年再版),BIACORE(登録商標)コード番号BR-1001-86;BIAtechnology Handbook,バージョンAB(1998年再版),BIACORE(登録商標)コード番号BR-1001-84。SPRに基づく結合試験は、結合ペアの一方のメンバーがセンサー表面に不動化されることを必要とする。不動化された結合相手はリガンドと呼ばれる。溶液中の結合相手は検体と呼ばれる。場合によっては、リガンドは、捕捉分子と呼ばれる別の不動化された分子への結合を介して間接的に表面に連結される。SPR反応は、検体が結合するまたは解離するにつれての検出器表面での質量濃度の変化を反映する。
【0224】
SPRに基づいて、リアルタイムBIACORE(登録商標)測定は、相互作用が発生するにつれてそれを直接モニターする。その技法は、動態パラメーターの測定に上手く適合している。比較親和性ランキングは実施し易く、速度定数及び親和性定数の双方は、センサーグラムのデータに由来することができる。
【0225】
検体をリガンド表面にわたって別個のパルスで注入する場合、得られるセンサーグラムは、3つの必須相:(i)試料注入の間での検体のリガンドとの会合;(ii)試料注入の間での、検体結合の速度が複合体からの解離によって均衡が保たれる平衡状態または定常状態;(iii)緩衝液の流れの間での表面からの検体の解離に分けることができる。
【0226】
会合相及び解離相は、検体・リガンド相互作用の動態に関する情報を提供する(Ka及びKd、複合体形成及び解離の速度、Kd/Ka=KD)。平衡相は、検体・リガンド相互作用の親和性(KD)に関する情報を提供する。
【0227】
BIAevaluationソフトウェアは、数値積分法及び全域適合アルゴリズムの双方を用いて曲線適合のための総合手段を提供する。データの好適な分析によって、相互作用についての分離速度及び親和性定数は、単純なBIACORE(登録商標)での検討から得ることができる。この技法によって測定できる親和性の範囲は、mMからpMに及んで非常に広い。
【0228】
エピトープ特異性は、モノクローナル抗体の重要な特徴である。BIACORE(登録商標)によるエピトープマッピングは、放射性免疫アッセイ、ELISAまたは他の表面吸着法を用いた従来の技法とは対照的に、標識または精製抗体を必要とせず、幾つかのモノクローナル抗体の配列を用いた複数部位特異性試験を可能にする。さらに、多くの分析を自動的に処理することができる。
【0229】
一対での結合実験は、同一抗原に同時に結合する2つのMAbの能力を調べる。別々のエピトープに対するMAbは独立して結合するのに対して、同一エピトープまたは密接に関連するエピトープに対するMAbは、互いの結合を妨害するであろう。BIACORE(登録商標)によるこれらの結合実験は実施し易い。
【0230】
たとえば、第1のMAbに結合する捕捉分子を使用し、それに続いて抗原及び第2のMAbを順次添加することができる。センサーグラムは、(1)どれだけ多くの抗原が第1のMAbに結合するか、(2)表面に連結した抗原にどの程度第2のMAbが結合するか、(3)第2のMAbが結合しなければ、一対での試験の順を逆にすることが結果を変えるかどうか、を明らかにするであろう。
【0231】
ペプチド阻害は、エピトープマッピングに使用される別の技法である。この方法は、一対での抗体結合試験を補完することができ、抗原の一次配列が知られる場合、機能的エピトープを構造的特徴に関連付けることができる。ペプチドまたは抗原断片を不動化された抗原に対する様々なMAbの結合の阻害について調べる。所与のMAbの結合を妨害するペプチドは、そのMAbによって定義されるエピトープに構造的に関係すると推測される。
【0232】
本開示は、特に指示されない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA及び免疫学の従来の技法を採用し、それらは当該技術の技量の範囲内にある。そのような技法は文献にて完全に説明されている。たとえば、Sambrook,et al.,ed.(1989),Molecular Cloning A Laboratory Manual,(2nd ed.;Cold Spring Harbor Laboratory Press);Sambrook,et al.,ed.(1992),Molecular Cloning:A Laboratory Manual,(Cold Springs Harbor Laboratory,NY);D. N.Glover ed.,(1985),DNA Cloning,Volumes I and II;Gait,ed.(1984),Oligonucleotide Synthesis;Mullis,et al.米国特許第4,683,195号;Hames及びHiggins,eds.(1984),Nucleic Acid Hybridization;Hames及びHiggins,eds.(1984) Transcription And Translation;Freshney,(1987),Culture Of Animal Cells,(Alan R. Liss, Inc.);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press),(1986);Perbal(1984),A Practical Guide To Molecular Cloning;the treatise,Methods In Enzymology,(Academic Press,Inc.,N.Y.);Miller及びCalos eds.(1987),Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells,(Cold Spring Harbor Laboratory);Wu,et al.,eds.,Methods In Enzymology,Vols.154 and 155;Mayer及びWalker,eds.(1987),Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology,(Academic Press, London);Weir及びBlackwell,eds.,(1986),Handbook Of Experimental Immunology,Volumes I-IV;Manipulating the Mouse Embryo,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,(1986);ならびにin Ausubel,et al.(1989),Current Protocols in Molecular Biology,(John Wiley and Sons,Baltimore,Md.)を参照のこと。
【0233】
抗体操作の一般原理は、Borrebaeck,ed.(1995),Antibody Engineering,(2nd ed.;Oxford Univ.Press)に示されている。タンパク質操作の一般原理は、Rickwood,et al.,eds.(1995),Protein Engineering,A Practical Approach,(IRL Press at Oxford Univ.Press,Oxford,Eng.)に示されている。抗体及び抗体・ハプテン結合の一般原理は、Nisonoff,(1984),Molecular Immunology,(2nd ed.;Sinauer Associates,Sunderland,Mass.);及びSteward,(1984),Antibodies,Their Structure and Function,(Chapman and Hall,New York,N.Y.)に示されている。さらに、当該技術で既知の且つ具体的に記載されていない免疫学における常法は、Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons,New York;Stites,et al.,eds.(1994),Basic and Clinical Immunology,(8th ed;Appleton & Lange,Norwalk,Conn.)ならびにMishell及びShiigi(eds)(1980),Selected Methods in Cellular Immunology,(W.H.Freeman and Co.,NY)のように進めることができる。
【0234】
免疫学の一般原理を説明する標準の参考文献には、Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons,New York;Klein,J.,Immunology:The Science of Self-Nonself Discrimination,(John Wiley & Sons,NY(1982));Kennett,et al.,eds.(1980),Monoclonal Antibodies,Hybridoma:A New Dimension in Biological Analyses,(Plenum Press,NY);Campbell,(1984)“Monoclonal Antibody Technology”in Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology,ed.Burden,et al.,(Elsevier,Amsterdam);Goldsby,et al.,eds.(2000),Kuby Immunology(4th ed.;W.H.Freeman and Co.,NY);Roitt,et al.(2001),Immunology(6th ed.;London:Mosby);Abbas,et al.(2005),Cellular and Molecular Immunology(5th ed.;Elsevier Health Sciences Division);Kontermann及びDubel,(2001),Antibody Engineering(Springer Verlag);Sambrook及びRussell,(2001),Molecular Cloning:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Press);Lewin,(2003),Genes VIII(Prentice Hall,2003);Harlow及びLane(1988),Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Press);Dieffenbach and Dveksler,(2003),PCR Primer,(Cold Spring Harbor Press)が挙げられる。
【0235】
上記で引用された参考文献のすべて、ならびに本明細書で引用された参考文献すべては、その全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【0236】
以下の実施例は、説明目的で提供されるのであって、限定目的ではない。
【実施例0237】
実施例1:完全ヒト抗SEMA4Dモノクローナル抗体MAb D2517の生成
以下の方法によって完全ヒト抗SEMA4Dモノクローナル抗体D2517を生成した。全体として参照によって本明細書に組み入れられる米国特許出願第2013-0288927-A1号に記載された方法に従って完全ヒト抗体のライブラリをワクシニアウイルスで生成し、SEMA4Dへの結合について選抜した。競合ELISAによって合計96の抗体を9つの異なるエピトープ群にビン分けした。マウス抗体MAb76及びMAb67、及びマウスIgG対照を用いて、Jurkat細胞上のヒトSEMA4Dのネイティブ形態へのヒト抗体の競合結合を評価した。MAb76及びMAb67はヒトSEMA4Dの既知のエピトープに結合し、いずれかとの競合は機能性を示す。FACS緩衝液(1×PBS+0.05%BSA+2mMのEDTA)中での100uLと200,000個の細胞にて5ug/mLでのMAb76、MAb67、またはマウスIgG対照と共に氷上でJurkat細胞を30分間予備インキュベートした。これは、結合エピトープを遮断するマウス抗体の結合を飽和させた。ヒト試験抗体及び対照抗体を1ug/mLで、二次試薬であるヤギ抗ヒトFc-Dylight649抗体(Jackson Immunoresearch 496-170)と共に氷上で30分間予備インキュベートした。マウスIgG抗体とのJurkat細胞のインキュベートに続いて、細胞を洗浄し、試験抗体/二次複合体の混合物と共に氷上で30分間インキュベートした。その後、細胞を200uLのFACS緩衝液で2回洗浄し、PIを伴ったPBS/1%BSA及び0.5%パラホルムアルデヒドの固定溶液250uLに再浮遊させた。再浮遊に続いて、FACS CANTOIIでのフローサイトメトリーによって細胞を解析した。PI陰性の集団にゲートをかけ、Dylight649のシフトを記録し、評価した。無関係なマウスIgGと共に予備インキュベートしたJurkat細胞へのヒト抗体の結合と比べて結合のパーセント阻害を算出した。
【0238】
以前特徴付けたマウス抗SEMA4D抗体67-2及び76-1を交差遮断するその能力によるさらなる特徴付けについてMAb C2305を選択した。たとえば、その開示が全体として参照によって本明細書に組み入れられる米国特許第8,496,938号を参照のこと。
【0239】
MAb C2305のVHをコードするポリヌクレオチドを、ヒトガンマ4重鎖定常領域のコーディング配列を含有する哺乳類の発現ベクターにクローニングして完全長の重鎖を作り出した。MAb C2305のVLをコードするポリヌクレオチドを、ヒトラムダ定常領域のコーディング配列を有する哺乳類の発現ベクターにクローニングして完全長の軽鎖を作り出した。重鎖及び軽鎖を含有する発現ベクターでCHO-S細胞に同時形質移入した。産生されたモノクローナル抗体が細胞から分泌され、3~6日間の発現期間の後、それを回収した。得られたMAbを、プロテインAクロマトグラフィー用いて精製し、特徴付けた。得られた完全ヒトMAb(MAb C2305)は、フローサイトメトリー及びELISAによってSEMA4Dに特異的であることが明らかにされ、SEMA4Dへの結合についてマウスMAb67-2と競合できることが示された。MAb C2305の機能的活性を、以下の実施例3の方法に従って受容体遮断アッセイにてさらに評価した。受容体遮断は観察されたが、比較基準として使用したヒト化MAb2503(米国特許第8,496,938号、VX15/2503とも呼ばれる)のそれよりも低いレベルだった。
【0240】
MAb C2305を完全に配列決定し、次いで親和性の改善のために操作した。重鎖相補性決定領域3(HCDR3)を標準の部位特異的変異誘発法に供し、米国特許出願公開第2013-0288927-A1号に記載された方法に従って軽鎖ライブラリを用いて新しい完全ヒト軽鎖可変領域(VL)を同定した。これらの変更から、改善された親和性を持つMAbであるMAb D2517をリード抗体として選択した。MAb D2517をクローニングし、構築し、ラムダ軽鎖を持つ完全ヒトIgG4抗体として発現させた。MAb D2517のVH、VL及びCDRの配列を表2に提示する。
【0241】
【0242】
実施例2:MAb D2517の結合特性
以下のように、BIACOREアッセイによってMAb D2517の結合特性を決定した。双方ともPBSにて処方した抗体、ならびに比較抗体VX15/2503を低密度でのヤギ抗ヒトIgGFcを伴ったセンサーに捕捉させ、次いで0~25nmの抗原濃度範囲でマーモセットのSEMA4D-Hisを捕捉された抗体上に流した。結果を表3に示す。SEMA4Dに対するMAb D2517の親和性は、VX15/2503の親和性に類似していた。
【0243】
【0244】
MAb D2517のヒト、マウス、マーモセット及びカニクイザルのSEMA4Dに結合する能力を、以下の方法を用いてELISAによって決定した。Nunc MaxisorpCウェルELISAプレートを、1×PBSで処方したCD100-Hisの100μL/ウェルで一晩被覆した。一晩のインキュベートに続いて、プレートを洗浄し、その後、PBS+0.5%BSA+0.25%Tween20によって200uL/ウェルにて室温で少なくとも1時間ブロックした。追加の洗浄の後、100μl/ウェルの希釈したMAb(100ng/mL)をELISAプレートの各ウェルに加え、それを室温で2時間インキュベートし、次いで洗浄した。次に、100μl/ウェルの1:10,000ヤギ抗ヒトFc(Jacksonカタログ#109-035-098ロット118460)を各ウェルに加え、ELISAプレートを室温で1時間インキュベートした。次いでプレートを洗浄し、100uL/ウェルのTMB基質で15分間発色させた。100uL/ウェルの2N硫酸を用いて検出反応を止め、プレートリーダーを用いて450~570nmの波長にてプレートを読み取った。
【0245】
結果を
図1A(ヒトSEMA4D)、
図1B(マーモセットSEMA4D)、
図1C(カニクイザルSEMA4D)、及び
図1D(マウスSEMA4D)に示す。
【0246】
実施例3:MAb D2517は、SEMA4Dがその受容体に結合するのを阻止する
種々の種に由来するSEMA4Dが、その受容体プレキシンB1に結合するのを阻止するMAb D2517の能力を、以下のように調べた。
【0247】
MAb D2517及びMAb VX15/2503を酢酸緩衝液で処方した。SEMA4D-His複合体(ヒト、カニクイザル、マウス、またはラットのSEMA4D)が293PLXNB1細胞に結合するのを阻止する抗体の能力について、3つ組の希釈シリーズで抗体を比較した。96穴プレートにて抗体すべてを1.5μg/mLから88ng/mLまで希釈し、0.8ug/mLの適当なSEMA4D-Hisと1:1で組み合わせ、4℃で一晩インキュベートした。
【0248】
翌日、96穴プレートにて抗体/SEMA4D-His複合体または対照を2.5×10
5個の293PLXNB1細胞に加え、4℃で30分間結合を生じさせた。洗浄の後、細胞を抗6×His-APCで染色し(4℃で30分間)、洗浄し、FACS CantoIIでのフローサイトメトリーによって解析した。結果を
図2A~2Dに示す。EC50値を曲線から算出し、表4に示す。
【0249】
(表4)SEMA4Dのその受容体への結合の阻止についてのEC50値(nM)
【0250】
実施例4:腫瘍モデルにおけるMAb D2517のマウスのキメラ同等物の試験
MAb D2517のVH及びVLのアミノ酸配列(配列番号1及び配列番号5)を、マウスのIgG1とラムダ定常領域を発現しているベクターに挿入し、キメラ抗体MAb D2585を作った。その抗体をCHO-S細胞で発現させ、実施例1で説明したように精製した。
【0251】
6~8週齢のBalb/cメスマウス(n=12)に30,000個のTubo.A5乳癌細胞をマウスの乳腺脂肪体にて皮下で移植した。対照のマウスIgG1/2B8.1E7または抗SEMA4Dキメラ抗体MAb D2585による処理は、播種の7日後に開始した(10mg/kg、IP、毎週×5)。移植の11日後に開始してノギスで週2回腫瘍を測定した。腫瘍体積が800mm3に達すると動物を屠殺した。
【0252】
ノギスによって腫瘍増殖を測定し、測定値を用い、w=腫瘍の幅、さらに小さな測定値、及びl=mmでの長さである式(w
2×l)/2を用いて腫瘍体積を算出した。平均腫瘍体積及び腫瘍体積=800mm
3までの時間として定義されるKaplan・Meierの生存曲線をそれぞれ
図3A及び
図3Bに示す。統計的解析はそれぞれ、平均腫瘍体積については二元分散分析(ANOVA)(p<0.05)を、生存についてはログランク分析(p<0.1)を用いて実施し、それらは統計的に有意だった。
【0253】
Tubo腫瘍モデルにおける腫瘍退縮の頻度も測定したが、
図3Cにそれを示す。退縮は、少なくとも2回の連続した測定値について<50mm
3を測定する腫瘍として定義される触診可能な腫瘍の欠如である。キメラ抗体MAb D2585による処理は、Tubo担癌マウスにて退縮の数を増やした。キメラ抗体MAb D2585で処理したマウス群における退縮の数は、Fisherの正確検定によって決定されたように、対照Igと比べて統計的に有意だった(p=0.01)。
【0254】
本開示の幅広さ及び範囲は、上述の例となる実施形態のいずれによっても限定されるべきではないが、添付の特許請求の範囲及びそれと同等のことに従ってのみ定義されるべきである。
【0255】
配列情報
SEQUENCE LISTING
<110> VACCINEX, INC.
<120> HUMAN ANTI-SEMAPHORIN 4D ANTIBODY
<150> US 62/501,981
<151> 2017-05-05
<160> 9
<170> PatentIn version 3.5
<210> 1
<211> 113
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
polypeptide
<400> 1
Glu Val Gln Leu Val Glu Ser Gly Gly Gly Leu Val Gln Pro Gly Gly
1 5 10 15
Ser Leu Arg Leu Ser Cys Ala Ala Ser Gly Phe Ile Phe Ser Asp Tyr
20 25 30
Trp Met Val Trp Val Arg Gln Ala Pro Gly Lys Gly Leu Glu Tyr Val
35 40 45
Ala His Met Asn Gln Asp Gly Gly Ala Arg Tyr Tyr Ala Glu Ser Val
50 55 60
Arg Gly Arg Phe Thr Ile Ser Arg Asp Asn Ala Lys Asn Ser Leu Tyr
65 70 75 80
Leu Gln Met Asn Ser Leu Arg Ala Glu Asp Thr Ala Val Tyr Tyr Cys
85 90 95
Ala Arg Asp Pro Trp Gly Tyr Asp Ser Trp Gly Gln Gly Thr Leu Val
100 105 110
Thr
<210> 2
<211> 5
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
peptide
<400> 2
Asp Tyr Trp Met Val
1 5
<210> 3
<211> 11
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
peptide
<400> 3
His Met Asn Gln Asp Gly Gly Ala Arg Tyr Tyr
1 5 10
<210> 4
<211> 5
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
peptide
<400> 4
Asp Pro Trp Gly Tyr
1 5
<210> 5
<211> 104
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
polypeptide
<400> 5
Ser Tyr Glu Leu Thr Gln Pro Pro Ser Val Ser Val Ser Pro Gly Gln
1 5 10 15
Thr Ala Ser Ile Thr Cys Ser Gly Asp Lys Leu Gly Asp Lys Tyr Ala
20 25 30
Val Trp Tyr Gln Gln Lys Pro Gly Gln Ser Pro Val Leu Val Ile Tyr
35 40 45
Gln Asp Ser Lys Arg Pro Ser Gly Ile Pro Glu Arg Phe Ser Gly Ser
50 55 60
Asn Ser Gly Asn Thr Ala Thr Leu Thr Ile Ser Gly Thr Gln Ala Met
65 70 75 80
Asp Glu Ala Asp Tyr Tyr Cys Gln Ala Trp Glu Gln Glu Ala Ala Trp
85 90 95
Val Phe Gly Gly Gly Thr Lys Leu
100
<210> 6
<211> 11
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
peptide
<400> 6
Ser Gly Asp Lys Leu Gly Asp Lys Tyr Ala Val
1 5 10
<210> 7
<211> 7
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
peptide
<400> 7
Gln Asp Ser Lys Arg Pro Ser
1 5
<210> 8
<211> 10
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
peptide
<400> 8
Gln Ala Trp Glu Gln Glu Ala Ala Trp Val
1 5 10
<210> 9
<211> 6
<212> PRT
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> Description of Artificial Sequence: Synthetic
6xHis tag
<400> 9
His His His His His His
1 5
前記抗体またはその抗原結合断片が、前記VHのC末端に融合されている重鎖定常領域またはその断片をさらに含み、前記重鎖定常領域またはその断片が、ヒト重鎖定常領域または非ヒト重鎖定常領域である、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
前記抗体またはその抗原結合断片が、前記VLのC末端に融合されている軽鎖定常領域またはその断片をさらに含み、前記軽鎖定常領域またはその断片が、ヒト軽鎖定常領域または非ヒト軽鎖定常領域である、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。