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特開2024-8172粘着剤付き反射防止フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008172
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】粘着剤付き反射防止フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/115 20150101AFI20240112BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20240112BHJP
   C23C 14/10 20060101ALI20240112BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20240112BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
G02B1/115
G02B1/14
C23C14/10
C23C14/08 J
C23C14/34 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109805
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片桐 正義
【テーマコード(参考)】
2K009
4K029
【Fターム(参考)】
2K009AA02
2K009AA15
2K009BB11
2K009BB28
2K009CC03
2K009CC24
2K009CC26
2K009CC42
2K009DD03
2K009DD04
2K009EE05
4K029AA11
4K029BA43
4K029BA46
4K029BC07
4K029CA06
4K029DC03
4K029FA04
4K029JA10
4K029KA03
(57)【要約】
【課題】カールが小さく、正面から視認した場合に切断加工端面であるエッジ部分が視認され難い粘着剤付き反射防止フィルムを提供する。
【解決手段】透明フィルム基材(1)の第二主面に、光吸収性フィルム(4)が仮着された積層体(203)を準備し、透明フィルム基材の第一主面上に反射防止層(5)を形成し、フィルム基材の第二主面に仮着された光吸収性フィルムをはく離し、透明フィルム基材の第二主面に粘着剤層(3)を積層することにより、粘着剤付き反射防止フィルム(101)が得られる。透明フィルム基材の第二主面から光吸収性フィルムをはく離した後、粘着剤層を積層するまでの時間間隔は、2分以上が好ましい。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一主面および第二主面を有する第一フィルムの第一主面に反射防止層を備える反射防止フィルムと、前記第一フィルムの第二主面に付設された粘着剤層とを備える粘着剤付き反射防止フィルムを製造する方法であって、
第一フィルムの第二主面に、第二フィルムが仮着された積層体を準備する積層体準備工程;
前記積層体の第一フィルムの第一主面上にドライプロセスにより反射防止層を形成する反射防止層形成工程;
前記第一フィルムの第二主面に仮着された前記第二フィルムをはく離するはく離工程;および
前記第一フィルムの第二主面に粘着剤層を積層する粘着剤付設工程、を順に有し、
前記第一フィルムは、全光線透過率が80%以上であり、
前記第二フィルムは、全光線透過率が10%以下であり、
前記第一フィルムの第二主面から前記第二フィルムをはく離して2分以上経過した後に、前記粘着剤層を積層する、
粘着剤付き反射防止フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記反射防止層形成工程、前記はく離工程、および前記粘着剤付設工程が、いずれもロールトゥーロールにより実施され、
前記はく離工程後、前記反射防止フィルムを一旦ロール状の巻回体に巻き取った後、前記巻回体から前記反射防止フィルムを巻き出しながら、前記粘着剤付設工程を実施する、請求項1に記載の粘着剤付き反射防止フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第一フィルムは、透明樹脂フィルムの一方の主面にハードコート層を備え、前記反射防止層形成工程において、前記ハードコート層上に反射防止層を形成する、請求項1または2に記載の粘着剤付き反射防止フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記反射防止層形成工程において、
前記反射防止層を構成する薄膜の1層以上を成膜後に、前記積層体に薄膜形成面側から光を照射して反射光特性を検出してインライン検査を行い、
前記インライン検査の結果をフィードバックして前記薄膜の成膜条件を調整する、
請求項1または2に記載の粘着剤付き反射防止フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記反射防止層がスパッタ法により形成される、請求項1または2に記載の粘着剤付き反射防止フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記第一フィルムの吸水率が1.0%以上である、請求項1または2に記載の粘着剤付き反射防止フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止フィルムの反射防止層非形成面側に粘着剤層が付設された粘着剤付き反射防止フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイや窓ガラスの表面には、透明フィルム上に無機薄膜を設けた機能性フィルムが貼り合わせられている。例えば、液晶表示装置や有機EL表示装置等のディスプレイでは、視認側表面に反射防止フィルムを貼り合わせることにより、ディスプレイの視認性を向上している。
【0003】
画像表示装置の表面には、外表面からの衝撃による画像表示パネルの破損防止等を目的として、ガラスや樹脂からなる硬質の透明板(カバーウインドウ)が設けられる場合があり、モバイル用途や車載用途では、この構成が主流となりつつある。カバーウインドウの視認側表面に、粘着剤層を介して反射防止フィルムを貼り合わせることにより、外光の反射が低減して画像の視認性を向上できる。カバーウインドウの表面に反射防止フィルムを貼り合わせた構成では、カバーウインドウが破損した場合の破片の飛散を防止するための飛散防止フィルムとしても反射防止フィルムが機能し得るため、高い安全性が要求される車載用途等での採用が進んでいる。
【0004】
反射防止フィルムの作製においては、スパッタ法、プラズマCVD法、真空蒸着法等のドライプロセスにより、透明樹脂フィルム上に屈折率の異なる複数の薄膜からなる反射防止層が形成される。反射防止層は、薄膜の多重反射干渉を利用して、可視光の反射率を低減しており、薄膜の屈折率や膜厚が変動すると、反射率や反射光色相等の反射光特性が変化する。そのため、成膜条件を厳密に制御して、薄膜の屈折率や膜厚の変動を抑制し、反射光特性を一定に保持することが要求されている。
【0005】
特許文献1では、ロールトゥーロールの真空成膜装置により、フィルムの表面に反射防止層を形成する反射防止フィルムの製造方法において、透明フィルムの裏面に黒色のフィルムを貼り合わせ、薄膜形成面の反射率を真空成膜装置内でインライン測定しながら、その測定結果を薄膜の成膜条件にフィードバックすることが提案されている。反射防止フィルムは、一般に、薄膜(反射防止層)形成面の可視光反射率が1%以下となるように設計されるのに対して、透明フィルムの裏面(透明フィルムと空気との界面)での可視光反射率は4%程度であり、薄膜形成面の反射率を正確に測定することが困難である。特許文献1で提案されているように、透明フィルムの裏面に黒色のフィルムを貼り合わせることにより、裏面反射を排除できるため、薄膜形成面の反射率をインラインで正確に測定して、成膜条件を緻密に制御することが可能となる。
【0006】
透明フィルムの裏面に黒色フィルムを貼り合わせた状態で薄膜を形成した後、透明フィルムから黒色フィルムをはく離除去し、透明フィルムに粘着剤層を付設することにより、粘着剤付き反射防止フィルムが得られる。ロールトゥーロールにより薄膜を形成する場合は、黒色フィルムのはく離および粘着剤層の付設もロールトゥーロールにより実施することが一般的であり、粘着剤層を付設後に、画像表示装置に貼り合わせるための枚葉に切り出される。画像表示装置の形状に合わせるために、フィルムの切断加工は、トムソン刃等を用いた打ち抜きにより行われることが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-82701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
車載用途等の明所で使用される画像表示装置では、外光存在下でも高い表示特性が要求されるため、反射防止フィルムには、可視光の反射率が小さいことに加えて、反射光特性が均一であることが要求されている。上記のように、薄膜形成の基材となる透明フィルム基材(第一フィルム)の裏面に、黒色フィルム等の別のフィルム(第二フィルム)を貼り合わせた状態で、第一フィルム上に薄膜を形成することにより、薄膜形成面の反射光特性をインラインで正確に測定して、成膜条件にフィードバックできるため、均一性に優れる反射防止フィルムが得られる。
【0009】
反射防止層を形成後、第一フィルムの裏面から第二フィルムをはく離し、粘着剤層を積層することにより、粘着剤層を備える反射防止フィルムが得られる。この粘着剤付き反射防止フィルムを画像表示装置の表面に貼り合わせると、フィルムの加工端面(切断面)の加工不良に起因して、正面から視認した場合にエッジ部分が白く視認される場合があり、端面の加工精度向上が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態は、透明フィルム基材(第一フィルム)の第一主面に反射防止層を備え、透明フィルム基材の第二主面に粘着剤層が付設された粘着剤付き反射防止フィルムの製造方法である。本発明の一実施形態の製造方法では、透明フィルム基材の第二主面に、光吸収性フィルム(第二フィルム)が仮着された積層体を準備し(積層体準備工程)、透明フィルム基材の第一主面上に反射防止層を形成し(反射防止層形成工程)、フィルム基材の第二主面に仮着された光吸収性フィルムをはく離し(はく離工程)、透明フィルム基材の第二主面に粘着剤層を積層する(粘着剤付設工程)。これらの一連のプロセスは、いずれもロールトゥーロールにより実施することが好ましい。
【0011】
上記のはく離工程において、透明フィルム基材の第二主面から光吸収性フィルムをはく離した後、上記の粘着剤付設工程において、透明フィルム基材の第二主面に粘着剤層を積層するまでの時間間隔は、2分以上が好ましい。透明フィルム基材の第二主面から光吸収性フィルムをはく離した後、巻回体から反射防止フィルムを巻き出しながら、透明フィルム基材の第二主面に粘着剤層を積層してもよい。
【0012】
光吸収性フィルムの全光線透過率は10%以下が好ましい。透明フィルム基材の全光線透過率は80%以上が好ましい。
【0013】
透明フィルム基材は、透明樹脂フィルムの一方の主面にハードコート層を備えていてもよい。透明フィルム基材がハードコート層を備える場合、ハードコート層上に反射防止層を形成することが好ましい。透明フィルム基材は、吸水率が1.0%以上であってもよい。
【0014】
反射防止層の成膜は、スパッタ法等のドライプロセスにより行われる。反射防止層の形成においては、少なくとも1層の薄膜を成膜後に、薄膜の形成面側から光を照射して、その反射光を検出するインライン検査を実施してもよい。さらに、インライン検査の結果をフィードバックして薄膜の成膜条件を調整してもよい。
【発明の効果】
【0015】
透明フィルム基材の裏面に光吸収性フィルムを貼り合わせた状態で、薄膜形成面の反射光特性をインラインで測定しながら薄膜を形成することにより、反射光特性の均一性に優れる反射防止フィルムが得られる。反射防止層を形成後、透明フィルム基材の裏面から光吸収性フィルムをはく離し、粘着剤層を貼り合わせるまでの間に、時間間隔を設けることにより、粘着剤付き反射防止フィルムのカールが低減されるとともに、画像表示装置を正面視した際に、フィルムの切断端面(エッジ部分)が白く視認され難くなる傾向がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】粘着剤付き反射防止フィルムの積層形態を示す断面図である。
図2】反射防止フィルムを備える画像表示装置の積層形態を示す断面図である。
図3】透明フィルム基材の裏面に光吸収性フィルムが貼り合わせられた積層体の断面図である。
図4】裏面に透明フィルム基材が貼り合わせられた積層体の透明フィルム基材上に反射防止層を形成した積層体の断面図である。
図5】反射防止層を形成後の透明フィルム基材から光吸収性フィルムをはく離後の反射防止フィルムの断面図である。
図6】透明フィルム基材の裏面に粘着剤層を付設した粘着剤付き反射防止フィルムの断面図である。
図7】正面視した場合にエッジ部分が白く視認される粘着剤付き反射防止フィルム(比較例)の端面近傍の光学顕微鏡象である。
図8】正面視した場合にエッジ部分が白く視認される粘着剤付き反射防止フィルム(比較例)の断面の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一実施形態にかかる粘着剤付き反射防止フィルムの構成を模式的に示す断面図である。粘着剤付き反射防止フィルム101は、透明フィルム基材1(第一フィルム)の一方の主面(第一主面)に反射防止層5が形成された反射防止フィルム8と、透明フィルム基材1の他方の主面(第二主面)に付設された粘着剤層3とを備える。粘着剤層3の表面には、はく離ライナー9が仮着されている。反射防止層5の表面には、保護フィルム(不図示)がはく離可能に貼着されていてもよい。
【0018】
図2は、視認側の最表面に反射防止フィルム8を備える画像表示装置の構成を模式的に示す断面図である。画像表示装置110は、画像表示パネル107の表面に適宜の粘接着剤層103を介して貼り合わせられたカバーウインドウ105を備え、カバーウインドウ105の視認側表面に、粘着剤層3を介して反射防止フィルム8が貼り合わせられている。図1に示す積層体101からはく離ライナー9をはく離し、粘着剤層3をカバーウインドウ105の表面に貼り合わせることにより、画像表示装置110が形成される。図2では、画像表示パネル107とカバーウインドウ105が粘接着剤層103を介して貼り合わせられているが、画像表示パネルとカバーウインドウは必ずしも貼り合わせられている必要はなく、両者の間にエアーギャップが存在していてもよい。
【0019】
[粘着剤付き反射防止フィルムの構成]
<透明フィルム基材>
透明フィルム基材1としては、透明樹脂フィルムが用いられる。透明フィルム基材1は、透明樹脂フィルム10の一方の面にハードコート層11を備えるものであってもよい。透明フィルム基材1の全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。透明フィルム基材1の厚みは特に限定されないが、強度や取扱性等の作業性、薄層性等の観点から、5~300μm程度が好ましく、10~250μmがより好ましく、20~200μmがさらに好ましい。
【0020】
透明樹脂フィルム10を構成する樹脂材料としては、透明性、機械強度、および熱安定性に優れる樹脂材料が好ましい。樹脂材料の具体例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0021】
透明フィルム基材1の吸水率は、1.0%以上、1.5%以上または2.0%以上であってもよい。透明フィルム基材1の吸水率は10%以下が好ましい。後述のように、透明フィルム基材1の吸水率が大きい場合に、粘着剤付き反射防止フィルムのカールが低減される傾向がある。吸水率は、乾燥状態と飽和吸水状態のフィルムの質量の変化率であり、JIS K 7209 「プラスチック 吸水率の求め方」(A法)により測定される。例えば、透明樹脂フィルム10が、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂フィルムであれば、ハードコート層11を形成後も、透明フィルム基材1は1.0%以上の吸水率を有する。
【0022】
透明樹脂フィルム10の反射防止層形成面にハードコート層11が設けられることにより、反射防止フィルムの表面硬度や耐擦傷性等の機械特性を向上できる。透明樹脂フィルム10の裏面側にもハードコート層(不図示)が設けられていてもよい。
【0023】
ハードコート層11を構成する硬化性樹脂としては、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂等が挙げられる。硬化性樹脂の種類としてはポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、アミド系、シリコーン系、シリケート系、エポキシ系、メラミン系、オキセタン系、アクリルウレタン系等の各種の樹脂が挙げられる。これら硬化性樹脂は、一種または二種以上を、適宜に選択して使用できる。
【0024】
これらの中でも、硬度が高く、紫外線硬化が可能で生産性に優れることから、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、およびエポキシ系樹脂が好ましく、中でもアクリルウレタン系樹脂が好ましい。紫外線硬化型樹脂には、紫外線硬化型のモノマー、オリゴマー、ポリマー等が含まれる。好ましく用いられる紫外線硬化型樹脂は、例えば紫外線重合性の官能基を有するもの、中でも当該官能基を2個以上、特に3~6個有するアクリル系のモノマーやオリゴマーを成分として含むものが挙げられる。
【0025】
反射防止フィルム8に、防眩性およびギラツキ防止性を持たせるために、ハードコート層11に防眩性を持たせてもよい。防眩性ハードコート層としては、例えば、上記の硬化性樹脂マトリクス中に、微粒子を分散させたものが挙げられる。樹脂マトリクス中に分散させる微粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等の各種金属酸化物微粒子、ガラス微粒子、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル-スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、ポリカーボネート等の各種透明ポリマーからなる架橋又は未架橋の有機系微粒子、シリコーン系微粒子等の透明性を有するものを特に制限なく使用できる。
【0026】
防眩性付与のために用いられる微粒子の平均粒子径は、1000~8000nmが好ましく、1500~5000nmがより好ましく、2000~4000nmがさらに好ましい。微粒子の割合は特に制限されないが、マトリックス樹脂100重量部に対して1~20重量部が好ましく、1.5~10重量部がより好ましい。微粒子の平均粒子径および含有量が上記範囲であれば、ハードコート層11の表面に光散乱に適した凹凸が形成され、良好な防眩性を付与できる。
【0027】
ハードコート層は、粒子径が1μm未満の微粒子(ナノ粒子)を含んでいてもよい。例えば、ハードコート層が、10nm~100nm程度の平均一次粒子径を有するナノ粒子を含むことにより、反射防止層5との密着性を向上できる。また、ハードコート層がナノ粒子を含むことにより、ハードコート層の屈折率を調整できる。ナノ粒子の材料としては、無機材料が好ましく、金属酸化物、金属、ダイアモンド等が挙げられる。ナノ粒子の表面には、樹脂との密着性や親和性を高める目的で、アクリル基、エポキシ基等の官能基が導入されていてもよい。
【0028】
ハードコート層11は、例えば、透明樹脂フィルム10上に、硬化性樹脂を含有する溶液を塗布することにより形成できる。ハードコート層を形成するための溶液には、紫外線重合開始剤が配合されていることが好ましい。微粒子を含む防眩性ハードコート層を形成するためには、硬化性樹脂に加えて上記の微粒子を含有する溶液を透明フィルム上に塗布することが好ましい。溶液中には、レベリング剤、チクソトロピー剤、帯電防止剤等の添加剤を含有させてもよい。
【0029】
ハードコート層11の厚みは特に限定されないが、高い硬度を実現するためには、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。塗布による形成の容易性を考慮すると、ハードコート層の厚みは40μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。
【0030】
<反射防止層>
反射防止層5は、屈折率の異なる2層以上の薄膜の積層体である。一般に、反射防止層は、入射光と反射光の逆転した位相が互いに打ち消し合うように、薄膜の光学膜厚(屈折率と厚みの積)が調整される。屈折率の異なる複数の薄膜の多層積層体により、可視光の広帯域の波長範囲において、反射率を小さくできる。反射防止層5を構成する薄膜の材料としては、金属の酸化物、窒化物、フッ化物等が挙げられる。反射防止層5は、好ましくは、高屈折率層と低屈折率層の交互積層体である。図1において、反射防止層5は、高屈折率層51,53と低屈折率層52,54とを交互に積層した構成を有する。空気界面での反射を低減するために、反射防止層5の最外層(透明フィルム基材1から最も離れた層)として設けられる薄膜54は、低屈折率層であることが好ましい。
【0031】
高屈折率層51,53は、例えば屈折率が1.9以上、好ましくは2.0以上である。高屈折率材料としては、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)等が挙げられる。中でも、酸化チタンまたは酸化ニオブが好ましい。低屈折率層52,54は、例えば屈折率が1.6以下、好ましくは1.5以下である。低屈折率材料としては、酸化シリコン、窒化チタン、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化ハフニウム、フッ化ランタン等が挙げられる。中でも酸化シリコンが好ましい。特に、高屈折率層としての酸化ニオブ(Nb)薄膜51,53と、低屈折率層としての酸化シリコン(SiO)薄膜52,54とを交互に積層することが好ましい。低屈折率層と高屈折率層に加えて、屈折率1.6~1.9程度の中屈折率層が設けられてもよい。
【0032】
高屈折率層および低屈折率層の膜厚は、それぞれ、3~200nm程度であり、屈折率や積層構成等に応じて、可視光の反射率が小さくなるように、各層の膜厚が設計される。
【0033】
反射防止層5は、透明フィルム基材1と接する面にプライマー層(不図示)を備えていてもよい。透明フィルム基材1上にプライマー層を設け、プライマー層上に接して高屈折率層や低屈折率層等を設けることにより、層間の密着性が向上する傾向がある。プライマー層は無機材料が好ましく、シリコン、ニッケル、クロム、スズ、インジウム、金、銀、白金、亜鉛、チタン、タングステン、アルミニウム、ジルコニウム、パラジウム等の金属;これらの金属の合金;これらの金属の酸化物、フッ化物、硫化物または窒化物;等の無機材料が挙げられる。プライマー層の材料としては無機酸化物が好ましい。中でも、Si,In,Sn,Zn,Ti等の金属を含むものが好ましい。プライマー層は、化学量論組成よりも酸素量が少ない無機酸化物層であってもよい。プライマー層の厚みは、例えば、1~20nm程度であり、好ましくは2~15nmである。
【0034】
反射防止フィルム8は、反射防止層5上に、付加的な機能層を備えていてもよい。例えば、外部環境からの汚染防止や、付着した汚染物質の除去を容易とする等の目的で、反射防止層5上に防汚層(不図示)を設けてもよい。防汚層の材料としては、フッ素基含有のシラン系化合物や、フッ素基含有の有機化合物等が好ましい。防汚層の厚みは、通常、1~100nm程度であり、好ましくは2~50nm、より好ましくは3~30nmである。
【0035】
<粘着剤層>
透明フィルム基材1の反射防止層非形成面に設けられる粘着剤層3は、反射防止フィルム8を、画像表示装置の視認側表面に貼り合わせるために用いられる。粘着剤層3としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を使用できる。中でも、アクリル系ポリマーを主成分とするアクリル系粘着剤が好適に用いられる。粘着剤層の厚みは特に限定されず、例えば5~100μm程度であり、10~50μmが好ましい。
【0036】
[粘着剤付き反射防止フィルムの製造方法]
図3図6は、粘着剤付き反射防止フィルムの製造工程の一例を示す概念図である。まず、透明フィルム基材1(第一フィルム)の裏面(反射防止層非形成面)に、光吸収性フィルム4(第二フィルム)が貼り合わせられた積層体203を準備する(図3)。この積層体203の透明フィルム基材1上に、反射防止層5を形成する(図4)。透明フィルム基材1に反射防止層5を形成後、透明フィルム基材1の反射防止層非形成面に貼り合わせられた光吸収性フィルム4をはく離し(図5)、透明フィルム基材1の反射防止層非形成面に粘着剤層3を積層することにより(図6)、粘着剤付き反射防止フィルム206が得られる。
【0037】
<光吸収性フィルムの貼り合わせおよび反射防止層の形成>
反射防止層5は、真空蒸着、CVD,スパッタ、イオンプレーティング、電子線蒸等のドライプロセスにより形成される。中でも、厳密に膜厚を制御可能であり、膜厚の均一性に優れる薄膜を形成可能であることから、スパッタが好ましい。反射防止層5は、透明フィルム基材1と光吸収性フィルム4との積層体203を、一方向に搬送しながら、連続して成膜される。例えば、反射層防止層がスパッタにより形成される場合、ロールトゥーロールスパッタ装置を用いて連続成膜が行われる。
【0038】
反射防止層を構成する薄膜の少なくとも1層を成膜後に、積層体203の透明フィルム基材1側(薄膜形成面側)から光を照射し、その反射光を検出することにより、インライン検査が実施される。
【0039】
反射防止層の形成時に、透明フィルム基材1の裏面には、光吸収性フィルム4が貼り合わせられている。光吸収性フィルム4の全光線透過率は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。透明フィルム基材1の裏面に光吸収性フィルム4が貼り合わせられているため、積層体203は、透明フィルム基材1側(薄膜形成面側)から光を入射した際の裏面反射が小さい。そのため、裏面反射の影響を排除して、透明フィルム基材1の薄膜形成面での反射光特性を測定可能であり、反射光特性のわずかな変化をインラインで検出できる。
【0040】
インライン検査で測定する反射光特性としては、特定の波長の反射率や、特定の波長領域における反射スペクトルが挙げられる。この検出結果から、薄膜の膜厚を算出できる。反射スペクトルに基づいて複数の薄膜の膜厚を個別に算出することも可能である。インライン検査での反射光特性の測定結果(またはそこから算出された薄膜の膜厚)に基づいて薄膜の成膜条件を調整することにより、薄膜の膜厚を一定範囲に保たれるため、反射光特性の均一性に優れる反射防止フィルムを製造できる。
【0041】
光吸収性フィルム4の材料は特に限定されず、ポリエステル類、セルロース系ポリマー、アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、アミド系ポリマー、ポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリカーボネート等が用いられる。これらの樹脂材料にカーボンブラック等の黒色顔料を添加したり、フィルム表面に黒色インク等による着色層を設けることにより、光吸収性のフィルムが得られる。着色層は、ベースフィルムの一方の面にのみ設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。光吸収性フィルム4の厚みは特に限定されず、例えば、5μm~200μmであり、10μm~130μmまたは15μm~110μmであってもよい。
【0042】
透明フィルム基材1と光吸収性フィルム4とは、好ましくは、粘着剤層2を介して貼り合わせられており、透明フィルム基材1と粘着剤層2との界面ではく離可能に構成されている。光吸収性フィルム4上に粘着剤層2が固着積層された粘着フィルム6を、ロールトゥーロールで透明フィルム基材1上に貼り合わせることにより、透明フィルム基材1の裏面に、粘着剤層2を介して光吸収性フィルム4が貼り合わせられた積層体204のロール状の巻回体が得られる。
【0043】
粘着剤層2は、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等により構成される。中でも、アクリル系ポリマーを主成分とするアクリル系粘着剤が好適に用いられる。粘着剤層2の厚みは特に限定されず、例えば1~100μm程度である。
【0044】
上記の積層体203の巻回体をロールトゥーロール方式の成膜装置にセットし、巻回体から積層体203を巻き出して走行させながら、透明フィルム基材1上に反射防止層5を成膜する。上記の様に、反射防止層5は、複数の薄膜の積層体であり、成膜装置内で複数の薄膜が順に成膜される。ロールトゥーロールスパッタでは、成膜ロールの周方向に沿って、隔壁で区切られた複数のサブ成膜室が設けられており、それぞれのサブ成膜室内にカソードおよびターゲットを配置することにより、複数の薄膜を順に成膜できる。スパッタ成膜装置内に複数の成膜ロールが配置されていてもよい。
【0045】
スパッタ法では、アルゴン等の不活性ガス、および必要に応じて酸素等の反応性ガスを成膜室内に導入しながら薄膜の成膜が行われる。スパッタ法による無機酸化物層の成膜は、酸化物ターゲットを用いる方法、および金属ターゲットを用いた反応性スパッタのいずれでも実施できる。高レートで金属酸化物を成膜するためには、金属ターゲットを用いた反応性スパッタが好ましい。
【0046】
反射防止層5を構成する複数の薄膜の少なくとも1層を成膜後に、積層体203,204の薄膜形成面側から光を照射して反射光を検出し(インライン検査)、その結果を薄膜の成膜条件にフィードバックしながら成膜が行われる。前述の通り、透明フィルム基材1の裏面に、光吸収性フィルム4が貼り合わせられているため、裏面反射の影響が低減し、薄膜の反射光特性の測定精度が向上する。
【0047】
スパッタにより薄膜を成膜する場合、調整の対象となる成膜条件としては、成膜室内へのガス導入量、フィルムの搬送速度、投入電力量等が挙げられる。反射光の特性の変化は、主に薄膜の膜厚の変動に起因する。幅方向の複数個所でインライン検出を行い、幅方向の反射光特性が均一となるように、成膜条件を調整してもよい。
【0048】
積層体203の透明フィルム基材1上に反射防止層5を形成することにより、透明フィルム基材1上に反射防止層5が設けられた反射防止フィルム8の裏面に光吸収性フィルム4が貼り合わせられた積層体204が得られる。この積層体204は、成膜装置内でロール状の巻回体に巻き取られる。
【0049】
<光吸収性フィルムのはく離および粘着剤層の付設>
上記の通り、光吸収性フィルム4は、反射防止層5形成時のインライン検査において、裏面反射を低減して反射光特性の検出精度を高めるために設けられるものである。反射防止層5を形成後、光吸収性フィルム4は、透明フィルム基材1の裏面からはく離除去される。透明フィルム基材1の裏面に粘着剤層2を介して光吸収性フィルム4が貼り合わせられている場合は、光吸収性フィルム4上に粘着剤層2が固着積層された粘着フィルム6が、透明フィルム基材1の裏面からはく離除去される。
【0050】
光吸収性フィルム4(粘着フィルム6)のはく離除去により露出した透明フィルム基材1の裏面に、粘着剤層3を積層することにより、透明フィルム基材1の一方の面に反射防止層5を備え、透明フィルム基材1の他方の面に粘着剤層3を備える粘着剤付き反射防止フィルムが得られる。はく離ライナー9の離型処理面に粘着剤層3を備える積層体7を反射防止フィルム8の透明フィルム基材1に貼り合わせることにより、積層体206が得られる。
【0051】
透明フィルム基材1からの光吸収性フィルム4のはく離、および透明フィルム基材1への粘着剤層3の積層は、いずれもロールトゥーロールにより実施することが好ましい。成膜装置内で積層体203の透明フィルム基材1上に反射防止層5を形成後、ロール状に巻き取られた積層体204の巻回体を成膜装置から取り出し、巻回体から積層体204を巻き出して走行させながら、透明フィルム基材1の裏面から光吸収性フィルム4(粘着フィルム6)をはく離する。その後、光吸収性フィルム4をはく離除去後の積層体205(反射防止フィルム8)を走行させながら、透明フィルム基材1の裏面に粘着剤層3(積層体7)を貼り合わせる。
【0052】
光吸収性フィルム4をはく離除去後は、積層体205を巻き取ることなく、連続走行させながらインラインで粘着剤層3を貼り合わせてもよく、光吸収性フィルム4をはく離除去後の積層体205を、一旦ロール状の巻回体に巻き取り、巻回体から積層体205を巻き出して走行させながら、粘着剤層3を貼り合わせてもよい。
【0053】
(1)光吸収性フィルム4のはく離除去と粘着剤層3の積層とをインラインで連続して実施する場合、および(2)光吸収性フィルム4のはく離除去後に反射防止フィルム205を一旦ロール状に巻き取り、光吸収性フィルム4のはく離除去と粘着剤層3の積層とをオフラインで実施する場合、のいずれにおいても、透明フィルム基材1の裏面から光吸収性フィルム4をはく離してから、2分以上経過後に、透明フィルム基材1の裏面に粘着剤層3を貼り合わせることが好ましい。透明フィルム基材1の裏面から光吸収性フィルム4をはく離してから、透明フィルム基材1の裏面に粘着剤層3を貼り合わせるまでの時間は、3分以上、5分以上、または10分以上であってもよい。
【0054】
光吸収性フィルム4をはく離してから粘着剤層3を積層するまでの時間間隔を設けることにより、粘着剤付き反射防止フィルムのカールが小さくなる傾向がある。特に、透明フィルム基材1(透明樹脂フィルム10)がトリアセチルセルロース等の吸水率が大きい材料である場合に、光吸収性フィルム4のはく離と粘着剤層3の貼り合わせとの時間間隔を長くすることによるカール低減効果が顕著となる傾向がある。
【0055】
枚葉サイズに切り出した際のフィルムのカールが小さい粘着剤付き反射防止フィルムは、加工端面(切断面)の加工状態が良好であり、画像表示装置の最表面(カバーウインドウ105の視認側表面)に貼り合わせた際に、エッジ部分が白く視認され難く、意匠性に優れる傾向がある。
【0056】
ロールトゥーロールにより、フィルムや粘着剤層等のはく離および貼り合わせを実施する場合、工程の簡素化等の観点から、はく離と貼り合わせを連続してインラインで実施することが一般であり、はく離と貼り合わせの時間間隔は、数秒から1分程度である。これに対して、上記の様に、透明フィルム基材1から光吸収性フィルム4をはく離後に、一旦ロール状に巻き取り、オフラインで粘着剤層3を積層する等の方法により、はく離から貼り合わせまでの時間間隔を長くすることにより、カールを低減できる。
【0057】
光吸収性フィルム4のはく離と粘着剤層3の積層とを連続してインラインで実施する場合は、光吸収性フィルム4をはく離するはく離ロールと粘着剤層3(積層体7)を貼り合わせるラミネーションロールとの間の搬送パスラインを長くする;搬送速度を小さくする等の手法により、はく離から貼り合わせまでの時間間隔を長くすることができる。
【0058】
透明フィルム基材1の裏面から光吸収性フィルム4をはく離後、粘着剤層3を積層するまでの時間間隔を長くすることによりカールが低減する推定理由の1つとして、透明フィルム基材1の吸湿が挙げられる。
【0059】
透明フィルム基材1(積層体203)上に反射防止層5をスパッタ法等により成膜する場合、真空環境で成膜が行われるため、反射防止層の成膜前および成膜時のプロセス環境で、透明フィルム基材1に含まれる水分が揮発する。そのため、反射防止層5を形成後の積層体204において、透明フィルム基材1は吸湿量が極めて小さい状態となっている。反射防止層5を成膜後の積層体204を成膜装置から取り出すと、周辺環境からの吸湿が生じるが、反射防止層5は透湿度が小さいため、透明フィルム基材1の反射防止層5形成面からの吸湿速度は極めて小さい。また、積層体204において、透明フィルム基材1の裏面には光吸収性フィルム4が貼り合わせられているため、透明フィルム基材1の裏面からの吸湿速度も小さい。
【0060】
透明フィルム基材1の裏面から光吸収性フィルム4をはく離除去すると、透明フィルム基材1の裏面が周辺環境(大気中)に暴露されるため、透明フィルム基材1の吸湿が進むが、その後、粘着剤層3およびはく離ライナー9を貼り合わせると、透明フィルム基材1の吸湿速度は、光吸収性フィルム4が貼り合わせられている状態(積層体205)と同等に小さくなる。すなわち、透明フィルム基材1の裏面から光吸収性フィルム4(粘着フィルム6)をはく離後、粘着剤層3(積層体7)を貼り合わせるまでの時間間隔が短い場合は、透明フィルム基材1の裏面が大気に露出している時間が短いため、透明フィルム基材1の吸湿量が小さい。光吸収性フィルム4をはく離してから粘着剤層3を積層するまでの時間間隔が長いほど、透明フィルム基材1の裏面が大気に露出している時間が長く、粘着剤層3を貼り合わせた後の積層体206(粘着剤付き反射防止フィルム101)における透明フィルム基材1の吸湿量は、飽和吸水率に近くなる。
【0061】
特に、透明フィルム基材1の吸水率(飽和吸水率)が大きい場合は、真空成膜装置から積層体204を取り出した直後と、光吸収性フィルム4をはく離して透明フィルム基材1の裏面を大気に露出させて吸湿させた状態での吸水量の差が大きく、これがカール低減に寄与していると考えられる。1つの要因として、フィルム基材1の吸湿に伴って、フィルム基材1上に反射防止層5を成膜した際の界面の残存応力が緩和されることが、カール低減に寄与していると考えられる。
【0062】
[粘着剤付き反射防止フィルムの切断および画像表示装置への実装]
上記で得られた粘着剤付き反射防止フィルムは、画像表示装置に貼り合わせるための枚葉に切り出される。枚葉に切り出した後、粘着剤層3に仮着されているはく離ライナー9をはく離し、画像表示装置の視認側表面に配置されたカバーウインドウ105に、貼り合わせることにより、視認側表面に粘着剤層3を介して反射防止フィルム8が貼り合わせられた画像表示装置110が得られる。この積層形態において、粘着剤付き反射防止フィルムは、カバーウインドウ105が破損した場合の破片の飛散を防止するための飛散防止フィルムとしても機能する。
【0063】
粘着剤付き反射防止フィルムの切断方法としては、トムソン刃等の刃型を用いて打ち抜く方法や、丸刃および皿刃等のカッター、レーザー光、水圧を利用する方法等が挙げられる。切り出すサイズおよび形状は、画像表示装置のサイズ(画面サイズ)および形状に合致するように調整すればよい。切断後の枚葉の面積は特に限定されないが、一般には、50~5000cm程度であり、100~1000cmであってもよい。
【0064】
枚葉サイズに切り出した後、粘着剤層3に仮着されているはく離ライナー9をはく離すると、粘着剤付き反射防止フィルムにカールが生じ、画像表示装置(カバーウインドウ)への貼り合わせの作業効率が低下する場合がある。上記の様に、光吸収性フィルム4のはく離と粘着剤層3の貼り合わせとの時間間隔を長くすることにより、カールの発生が抑制され、貼り合わせの作業効率を向上できる。
【0065】
カールが大きい粘着剤付き反射防止フィルムを、画像表示装置のカバーウインドウ105の表面に貼り合わせると、エッジ部分が白く視認される場合がある。エッジ部分が白く視認される原因として、枚葉に切り出す際の加工不良が挙げられる。
【0066】
図7は、カールが大きく、被着体に貼り合わせたて正面視した場合に、エッジ部分が白く視認された粘着剤付き反射防止フィルムの端面近傍の光学顕微鏡象である。図8は、断面の走査型顕微鏡像である。図8では、各層に図1と同一の参照符号を付している。
【0067】
図8では、透明樹脂フィルム10の切断面が、フィルム面の法線から傾いて斜めになっている。この切断加工端面が、図7の領域Xに対応しており、正面から視認した際に、加工不良の「バリ」のように光を散乱・反射し、エッジが白く視認されると考えられる。
【0068】
前述のように、透明フィルム基材と反射防止層との界面等に応力歪が存在すると、カールが大きくなる傾向がある。粘着剤付き光学フィルムを枚葉に切断加工すると、厚み方向に沿って切断部分の応力が解放されながら切断が進む等の要因により、加工端面が斜めになると考えられる。すなわち、カールの発生要因、および切断加工面が斜めになり正面視でエッジが白く視認されることは、いずれも粘着剤付き反射防止フィルムの層間の界面に残存している応力が関与していると推定される。
【0069】
透明フィルム基材1の裏面から光吸収性フィルム4をはく離した後、粘着剤層3を積層するまでの時間間隔を設けることにより、粘着剤付き反射防止フィルムのカールが低減されるとともに、切断加工精度が向上し、正面から視認した際に「バリ」のように白く視認される領域Xの幅が低減する。これらは、光吸収性フィルム4をはく離後に、透明フィルム基材1の裏面(反射防止層非形成面)が大気に露出している間に、層間の界面での応力が緩和されることが関連していると考えられる。
【0070】
枚葉に切断した粘着剤付き反射防止フィルムは、正面から視認した際に、外周端部が「バリ」のように白く視認される領域Xの幅が、外周全周において、40μm以下であることが好ましい。換言すると、枚葉に切断した粘着剤付き反射防止フィルムは、外周における領域Xの幅の最大値が40μm以下であることが好ましい。領域Xの幅の最大値は、35μm以下がより好ましく、30μm以下または25μm以下であってもよい。
【0071】
枚葉に切断した粘着剤付き反射防止フィルムのカール量は、5mm以下が好ましく、4mm以下がより好ましく、3mm以下がさらに好ましく、2mm以下であってもよい。粘着剤付き反射防止フィルムを、15cm×15cmの正方形の枚葉に切り出し、この枚葉の試料を、粘着剤層側が下方となるように水平な台の上に10分間静置した後、試料の4つの頂点の浮き上がり量(台と試料の距離)を測定し、最も大きな浮き上がり量を、カール量とする。粘着剤付き反射防止フィルムの粘着剤層3にはく離ライナー9が仮着されている場合は、枚葉の試料からはく離ライナーをはく離後に、水平な台の上に10分間静置した後にカール量を測定する。
【0072】
前述の通り、はく離ライナーをはく離した後のカールが小さい場合は、カバーウインドウ等の被着体への貼り合わせの作業効率が向上する。また、はく離ライナーをはく離した後のカールが小さいほど、上記の領域Xの幅が小さくなる傾向がある。はく離ライナーをはく離した後のカール量は、界面の応力歪と相関があり、カール量が少ないほど応力歪が小さいため、切断加工精度が高く(加工不良が生じ難く)、領域Xの幅が小さくなると考えられる。
【0073】
画像表示装置110における画像表示パネル107としては、液晶パネルや有機ELパネルセル等が挙げられる。画像表示パネル107は、液晶セルや有機ELセルの視認側表面に偏光板を備えていてもよい。画像表示パネル107は、タッチパネルセンサーを備えていてもよい。
【0074】
カバーウインドウ105としては、適宜の機械強度および厚みを有する透明板が用いられる。このような透明板としては、例えば、アクリル系樹脂やポリカーボネート系樹脂等の透明樹脂板、あるいはガラス板が用いられる。
【0075】
カバーウインドウ105は曲面形状であってもよい。例えば、画像表示パネル107として、フィルム基板を用いた有機ELパネルを採用し、画像表示パネル107と曲面形状のカバーウインドウ105とを、粘接着剤層103を介して貼り合わせることにより、曲面ディスプレイを形成してもよい。
【0076】
画像表示パネル107とカバーウインドウ105を貼り合わせるための粘接着剤層103の材料は特に限定されず、適宜の粘着剤または液状の硬化型接着剤が用いられる。液状接着剤を用いる場合は、貼り合わせ後に接着剤を硬化することが好ましい。光硬化性成分を含有する光硬化型の粘着剤を用い、粘着剤層による貼り合わせ後に光硬化を実施してもよい。前述のように、画像表示パネル107とカバーウインドウ105とは貼り合わせ一体化されている必要はなく、両者の間にエアーギャップが存在していてもよい。
【0077】
カバーウインドウ105の視認側表面に、はく離ライナー9をはく離した粘着剤付き反射防止フィルム101の粘着剤層3側の面を貼り合わせることにより、画像表示装置110が形成される。カバーウインドウ105の表面に粘着剤付き反射防止フィルムを貼り合わせた後に、画像表示パネル107と一体化してもよい。
【0078】
上記の様に、透明フィルム基材1の裏面に光吸収性フィルム4を貼り合わせた状態で反射防止層5を形成し、反射光特性を成膜条件にフィードバックすることにより、反射光特性の均一性に優れる反射防止フィルムが得られる。光吸収性フィルム4をはく離後、粘着剤層3を積層するまでの間に時間間隔を設けて作製した粘着剤付き反射防止フィルムは、はく離ライナー9をはく離後のカールの発生が抑制されており、カバーウインドウ105との貼り合わせの作業性に優れている。また、貼り合わせ後、正面から視認した際に、エッジ部分が白く視認され難く、意匠性に優れている。
【0079】
上記の例では、画像表示パネルの視認側表面に透明板(カバーウインドウ)を備える画像表示装置に、粘着剤付き反射防止フィルムを貼り合わせる例について説明したが、粘着剤付き反射防止フィルムは、カバーウインドウを備えていない画像表示装置にも使用可能である。この構成では、画像表示パネルの視認側表面に配置された偏光板等に、粘着剤付き反射防止フィルムが貼り合わせられる。
【実施例0080】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
[反射防止フィルムの作製]
(ハードコート組成物の調製)
バインダー樹脂成分として、ペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学製「ビスコート♯300」)30重量部、ウレタンアクリレートプレポリマー(日本合成化学製「紫光 UV-1700TL」)50重量部、ならびにヒドロキシエチルアクリルアミド(KJケミカルズ製「HEAA」)20重量部;スチレンとメタクリル酸メチル(MMA)の共重合架橋粒子(積水化成品工業製「テクノポリマー SSX-103DXE」;平均粒子径3.0μm)2重量部;シリコーン粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、「トスパール130」、平均粒子径:3.0μm)1.4重量部;チクソトロピー剤として有機化スメクタイト(クニミネ工業製「スメクトンSAN」)1.5重量部;光重合開始剤(IGM Resins製「OMNIRAD 907」)3重量部;ならびにシリコーン系レベリング剤(共栄社化学製「ポリフロー LE303」)0.15重量部を混合し、トルエン/シクロペンタノン混合溶媒(重量比70/30)で希釈して、固形分濃度48重量%のハードコート組成物を調製した。なお、上記の配合量は、固形分(不揮発分)の量であり、有機化スメクタイトは、トルエンで固形分が6重量%になるように希釈して用いた。
【0082】
(ハードコート層の形成)
厚み60μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フイルム製「TG60UL」)に、上記のハードコート組成物を塗布し、80℃で1分間加熱した。その後、高圧水銀ランプにて積算光量300mJ/cmの紫外線を照射し、塗布層を硬化させて、TACフィルム上に厚み8μmの防眩性ハードコート層を備えるハードコートフィルム(全光線透過率:92%)を得た。
【0083】
(黒色フィルムの貼り合わせ)
厚み38μmの黒色ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(全光透過率3%)の一方の面に厚み20μmのアクリル系粘着剤層を備える黒色粘着フィルムを、上記の防眩性ハードコートフィルムのハードコート層非形成面に貼り合わせて、防眩性ハードコートフィルムと黒色PETフィルムとの積層体を得た。
【0084】
(反射防止層の形成)
上記の積層体を、ロールトゥーロール方式のスパッタ成膜装置に導入し、積層体を走行させながら、防眩性ハードコート層形成面にボンバード処理(Arガスによるプラズマ処理)を行った後、プライマー層として、3.5nmのSiO層(x<2)を成膜し、その上に、10.1nmのNb層、27.5nmのSiO層、105.0nmのNb層および83.5nmのSiO層を順に成膜した。プライマー層およびSiO層の成膜にはSiターゲット、Nb層の成膜にはNbターゲットを用いた。SiO層の成膜およびNb層の成膜においては、プラズマ発光モニタリング(PEM)制御により、成膜モードが遷移領域を維持するように導入する酸素量を調整した。スパッタ装置内の光学モニターにより反射スペクトルを測定しながら、各層の膜厚が一定となるようにPEMの設定値にフィードバックを行い、幅方向および長手方向での膜厚の変動を抑制した。
【0085】
(防汚層の形成)
主鎖骨格に-(O-CF(CF)-CF)-を含むパーフルオロエーテルを含有するフッ素系樹脂溶液を、反射防止層の表面SiO層上に、乾燥後厚みが10nmとなるように塗布して、防汚層を形成した。
【0086】
上記の工程により、反射防止フィルムの反射防止層非形成面に黒色粘着フィルムが貼り合わせられた積層体を得た。
【0087】
[反射防止フィルムへの粘着剤層の付設]
<比較例1>
温度25℃、相対湿度50%の環境下で、上記で得られた積層体から黒色粘着フィルムをはく離して、反射防止フィルムのTACフィルムの表面を露出させた。黒色粘着フィルムをはく離して1分後に、TACフィルムの表面に、はく離ライナー(シリコーン離型処理されたPETフィルム)上に厚み20μmのアクリル系粘着剤層を備える粘着シートを貼り合わせた。上記のプロセスにより、反射防止フィルムの反射防止層非形成面にアクリル系粘着剤層が付設され、その表面にはく離ライナーが仮着された積層体を得た。
【0088】
<実施例1,2>
黒色粘着フィルムをはく離後、粘着シートを貼り合わせるまでの時間間隔を、5分(実施例1)または10分(実施例2)に変更した。それ以外は比較例1と同様にして、積層体を得た。
【0089】
[カール量の評価]
比較例1および実施例1,2の積層体から、ロールトゥーロールでの搬送方向(MD)に沿って対角線を有する正方形(15cm×15cm)に試料を切り出した。この試料を、はく離ライナー側の面を下にして水平な台の上に静置し、カール量を測定した。正方形の試料の搬送方向(MD)と直交する対角線上の2つの頂点の浮き上がり量のうちの大きい方をカール量とした。
【0090】
カール量を測定後に、粘着剤層の表面に仮着されているはく離ライナーをはく離し、粘着剤層側の面を下にして水平な台の上に静置した。はく離ライナーはく離直後、1分後、5分後および10分後に、カール量を測定した。
【0091】
実施例および比較例における黒色粘着フィルムのはく離から粘着シート貼り合わせまでの時間間隔、ならびにカール量の測定結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
黒色粘着フィルムのはく離から粘着シートの貼り合わせまでの時間間隔が1分であった比較例1では、粘着シートからはく離ライナーをはく離後経時的にカールが増大し、10分後にはカール量が11mmとなっていた。時間間隔を長くした実施例1および実施例2では、はく離ライナーをはく離した直後にカール量の変化がみられたが、その後はほとんどカール量の変化がみられなかった。
【0094】
これらの結果から、反射防止層を形成後に、透明フィルム基材の裏面に貼り合わせられているフィルムをはく離してから、粘着剤層を付設するまでの時間間隔を長くすることにより、粘着剤付き反射防止フィルムのカールを低減できることが分かる。
【符号の説明】
【0095】
1 透明フィルム基材
10 透明樹脂フィルム
11 ハードコート層
5 反射防止層
51,53 高屈折率層
52,54 低屈折率層
8 反射防止フィルム
9 はく離ライナー
2,3 粘着剤層
4 光吸収性フィルム
103 粘接着剤層
105 カバーウインドウ
107 画像表示パネル
110 画像表示装置

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8