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特開2024-81724アンジェルマン症候群及び自閉症を治療するためのIGF―2受容体作動剤リガンドの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081724
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】アンジェルマン症候群及び自閉症を治療するためのIGF―2受容体作動剤リガンドの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7028 20060101AFI20240611BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
A61K31/7028
A61P25/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024050725
(22)【出願日】2024-03-27
(62)【分割の表示】P 2021506933の分割
【原出願日】2019-08-12
(31)【優先権主張番号】62/717,372
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】500350265
【氏名又は名称】ニューヨーク ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルベリーニ,クリスティーナ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】トローネル,ダーク
(72)【発明者】
【氏名】アープ,クリストファー,ジェームズ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アンジェルマン症候群及び自閉症などの神経発達障害を治療する方法を提供する。
【解決手段】インスリン様成長因子2(IGF-2)受容体の作動剤リガンドを含む組成物を、個体に投与することを含む、アンジェルマン症候群及び自閉症などの神経発達障害の治療方法が提供される。IGF-2受容体の作動剤リガンドは、IGF-2、又はマンノース-6-リン酸又はその誘導体であってもよい。マンノース-6-リン酸誘導体を含む組成物も開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経発達障害の治療のためのIGF-2受容体の作動剤リガンドの使用
【発明の詳細な説明】
【連邦支援の研究又は開発に関する陳述】
【0001】
この発明は、国立衛生研究所によって付与された認可番号MH065635及びMH074736の下で、政府の支援を受けて発明された。政府は本発明に所定の権利を有する。
【関連出願の相互参照】
【0002】
この出願は、2018年8月10日に出願された米国仮出願62/717,372に基づく優先権を主張し、その開示は参照により本明細書に包含される。
【背景技術】
【0003】
アンジェルマン症候群(AS)は、出生数約2万人に1人に発生する神経疾患である。ASの特徴又は症状には、発育遅延、発語障害、歩行及びバランス障害、及び発作が含まれる。てんかん発作は、多くの種類にわたることがあり、しばしば多くの処方薬に非反応性である。ASは認知障害にも関連する。アンジェルマン症候群の特徴のいくつかは、自閉症スペクトラム障害と重複する(この2つの状態は、それら独自の特徴を有するが)。現在のところ、AS又は自閉症の治療法は知られておらず、これらの徴候と関連する多様な症状を緩和するための実行可能な治療アプローチは存在しない。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、アンジェルマン症候群(AS)及び自閉症などの神経発達障害を治療する方法を提供する。前記方法は、治療を必要とする被験体に、インスリン様成長因子2(IGF-2あるいはIGF-II)受容体作動剤リガンド(これはIGF-2受容体に特異的である)を含む組成物を投与することを含む。例えば、前記組成物は、治療的有効量のIGF-2及び/又はマンノース-6-リン酸(M6P)、あるいはそれらの誘導体を含んでもよく、又は本質的にそれらからなってもよい。IGF-2受容体に特異的に結合するM6P又はIGF-2の任意の誘導体を使用することができる。M6Pの誘導体には、炭素1が、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、及び同様のもの)又はアルキンで官能化されている誘導体、及び炭素6が、ホスホネート、エチルエステル、マロン酸メチル、ホスホン酸、カルボキシレート、又はマロネートで官能化されている誘導体が含まれるが、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1IGF-2は、ASのマウスモデルで観察されたほとんどの行動障害を回復させる
グラフの上部に実験スケジュールを示す。すべての実験において、マウスは、訓練又は試験のどちらかの20分前に、ビヒクル又はIGF-2のどちらかを皮下注射(↑)された。データはすべて、平均±標準誤差として表される。N=8~12/群。二元配置分散分析(ANOVA)後に、ボンフェローニ事後検定。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001
(A)ビヒクル又はIGF-2を注射された、対照として役立つ正常マウス(野生型、WT)、及びUbe3a-/+マウス(ASのマウスモデル)に関する、文脈的恐怖条件づけ訓練の間のショック伝達より前(Pre-US)又は後(Post-US)、及び訓練後24時間時の試験(試験)における、すくんでいる時間のパーセンテージ。
(B)訓練の20分前にビヒクル又はIGF-2を注射したWT及びUbe3a-/+マウスについて、訓練後4時間及び24時間目に試験した、新奇物体認識中の、見慣れた物体と比べた新奇物体への探索嗜好性パーセント。
(C)試験の20分前にビヒクル又はIGF-2を注射したWT及びUbe3a-/+マウスの、Y字型迷路における正しい交替のパーセント(正しい%)。
(D)試験の20分前にビヒクル又はIGF-2を注射したWT及びUbe3a-/+マウスが、回転ロッドから落下するまでの潜在時間、3日及び7日後に再び試験を行った。
(E)試験の20分前にビヒクル又はIGF-2を注射したWT及びUbe3a-/+マウスが、ビー玉を埋めるのに費やす時間。
(F)試験の20分前にビヒクル又はIGF-2を注射した後、WT及びUbe3a-/+マウスがオープンフィールドの中心に滞在した時間。
各セットにおける棒グラフは、左から右に、WTビヒクル、WT IGF-2、Ube3a-/+ビヒクル、及びUbe3a-/+IGF-2である。
【0006】
図2WT同腹子と比べた、ASマウスにおける背側海馬(dHC)の生化学マーカーの特性決定
訓練されていない(無処置と称する)8週齢のUbe3a-/+マウス及びWT同腹子から採取した全海馬タンパク質抽出物のウエスタンブロット解析。各相対値は、同じブロットで検出されたβ-アクチン(ローディングコントロールとして使用)に対して正規化された。すべてのデータは、平均±標準誤差として表され、WT無処置マウスの平均値に対して正規化された。N=4/群。独立t検定 *P<0.05、**P<0.01
【0007】
図3WT同腹子と比べた、ASマウスにおける内側前頭前皮質(mPFC)の生化学マーカーの特性決定
無処置(訓練されていない対照)8週齢のUbe3a-/+マウス及びWT同腹子のmPFCから採取した全海馬タンパク質抽出物のウエスタンブロット解析。各相対値は、同じブロットで検出されたβ-アクチン(ローディングコントロールとして使用)に対して正規化された。すべてのデータは、平均±標準誤差として表され、WT無処置マウスの平均値に対して正規化された。N=4/群。独立t検定 *P<0.05、**P<0.01
【0008】
図4正常(野生型、WT)マウスの新奇物体認識(nOR)に対するIGF2R.L1(L1)(M6P)の効果の用量反応曲線
グラフの上部に実験スケジュールを示す。データは、平均±標準誤差として表される。N=4/群。一元配置分散分析(ANOVA)後に、ボンフェローニ事後検定。*P<0.05、**P<0.01。WTマウスに、nORの訓練の20分前に、異なる用量のIGF2R.L1(L1)を皮下注射した。グラフは、訓練後4時間目及び24時間目に行われた試験における、見慣れた物体と比較した新奇物体に対する探索嗜好性のパーセントを示す。
【0009】
図5M6Pは、ASマウスにおける認知及び運動障害を回復させる
グラフの上部に実験スケジュールを示す。すべての実験において、マウスは、訓練又は試験のどちらかの20分前に、ビヒクル又は850μg/kgのM6P(IGF-2R.L1あるいはL1)のどちらかを皮下注射(↑)された。
(A)訓練の20分前にビヒクル又はIGF-2R.L1を注射したWT(対照)及びUbe3a-/+(AS)マウスについて、訓練後4時間及び24時間目に試験した、nORパラダイムの間の、見慣れた物体と比較した新奇物体に対する探索嗜好性パーセント。N=4/群。データは、平均±標準誤差として表される。二元配置分散分析(ANOVA)後に、ボンフェローニ事後検定。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001
(B)試験前にビヒクル又はM6Pを注射したWT及びASマウスの、Y字型迷路における正しい交替のパーセント(正しい%)。データは、平均(±標準誤差)として表される。
(C)試験前にビヒクル又はIGF-2R.L1を注射したWT及びASマウスの、後肢クラスピング(Hindlimb Clasping)スコア。後肢クラスピングスコアは、以下のように測定し、表す;複数の後肢を一貫して、腹部から離れる方向である外側に伸ばす場合、スコア0とする。ぶら下げた時間の50%より多く、後肢の一本を腹部の方に縮める場合、スコア1とする。ぶら下げた時間の50%より多く、両方の後肢を腹部の方にある程度縮める場合、スコア2とする。ぶら下げた時間の50%より多く、複数の後肢を完全に縮めて腹部に触れさせる場合、スコア3とする。データはスコアで表される。B及びC: N=8~14/群。二元配置分散分析(ANOVA)後、チューキー事後検定。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001
【0010】
図6PnM6Pは、ASマウスにおいて、記憶及び運動障害を回復させる
グラフの上部に実験スケジュールを示す。すべての実験において、マウスは、訓練又は試験のどちらかの20分前に、ビヒクル、又は、850μg/kgのIGF-2R.L2(あるいはL2)と呼ばれるホスホネート-M6P(PnM6P)のどちらかを皮下注射(↑)された。
(A)訓練前にビヒクル又はL2を注射したWT(対照)及びUbe3a-/+(AS)マウスについて、訓練後4時間、24時間、及び5日目(5d)に試験した、nORパラダイムの間の、見慣れた物体と比較した新奇物体に対する探索嗜好性パーセント。N=4/群。データは、%平均±標準誤差として表される。
(B)試験の20分前にビヒクル又はL2を注射したWT(対照)及びASマウスが、回転ロッドから落下するまでの潜在時間(試験1)、2日後に再び試験を行った(試験2)。データは秒(s)で表される。
(C)試験前にビヒクル又はL2を注射したWT及びASマウスの、後肢クラスピングスコア。B及びC:N=3~4/群。データは後肢スコアで表される。二元配置分散分析(ANOVA)後、ボンフェローニ事後検定。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、アンジェルマン症候群(AS)及び自閉症スペクトラム障害(ASD)等の、神経変性疾患を治療するための組成物及び方法を提供する。前記組成物及び方法は、IGF-2受容体リガンドに関する。
【0012】
本明細書で用いられる「治療」という用語は、治療される特定の状態(例えば、アンジェルマン症候群)の存在と関連する1つ以上の症状又は特徴の減少又は遅延を指す。治療は、完全な治癒を意味しない。例えば、本開示においてASの治療は、ASに関連する1つ以上の症状を減少させること又は抑制することを意味する。
【0013】
本明細書で用いられる「治療的有効量」という用語は、単一用量又は複数用量にて、治療本来の目的を達成するのに十分な量である。例えば、ASの治療に有効な量は、ASの症状の1つ以上を軽減するのに十分な量である。治療によって軽減される症状は、発達の診査事項(発育段階判定の指標)、発話、知的能力、動作(歩行、バランス)、社会的行動及びてんかんの1つ又は複数を含む。所望の又は必要とされる正確な量は、投与方法、患者の詳細などによって変わるであろう。適切な有効量は、本開示の利益の下、当業者(臨床医など)の一人によって、決定されることができる。
【0014】
値の範囲が本開示で提示されている場合、明確に別段の記載がない限り、その範囲の上限及び下限の間の、下限の単位の10分の1までの各介在値、及びその述べられた範囲内の他の任意の介在値が本発明に包含されると理解されるべきである。これらのより狭い範囲の上限及び下限は、独立して、本開示に包含されるより狭い範囲に含まれてもよい。
【0015】
本開示で使用される場合、文脈が明確に他のことを示していない限り、単数形は複数形を含み、逆もまた同様である。
【0016】
本開示は、アンジェルマン症候群(AS)のような神経発達障害に対する、IGF-2受容体の作動剤リガンドの効果について記載する。ある面では、本開示は、治療を必要とする被験体に、IGF-2受容体の作動剤リガンドを1つ以上含む組成物を投与することによって、アンジェルマン症候群又は自閉症などの神経発達障害を治療する方法を提供する。本開示において、用語「個体」及び「被験体」は互いに互換可能に用いられてもよい。被験体はいかなる動物被験体、例えば、ヒト、実験動物、又は任意の他の動物であってもよい。一実施形態において、IGF-2受容体の作動剤リガンドは、IGF-2受容体に特異的であり、IGF-2に関連する他の受容体(例えば、IGF-1又はインスリン受容体)のリガンドではない。例えば、作動剤リガンド(本明細書では薬剤とも称される)は、修飾マンノース(例えば、M6Pなど)、修飾M6P(たとえば、M6Pの誘導体)、IGF-2、又は修飾IGF-2、又はIGF-2受容体に結合しその細胞応答を活性化する任意の化学物質又はペプチドであってもよい。M6Pのホスホネート誘導体及びスルホネート誘導体は、当分野で既知である(米国特許第6,140,307;Ferguson、その修飾に関する記載は、参照により本明細書に包含される)。さらに、ヒトLeu 27などのアミノ酸置換を伴うIGF-2(Armitaj et al., Neuroscience, 2010 Oct 27;170(3):722-30)が使用されてもよい。
【0017】
M6Pの修飾(本明細書において、M6P誘導体とも称する)には、マンノースの炭素1及び/又は炭素6への修飾が含まれる。誘導体の例には、炭素1が、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、及び同様のもの)又はアルキンで官能化されている例、及び炭素6が、ホスホネート、エチルエステル、マロン酸メチル、ホスホン酸、カルボキシレート、又はマロネートで官能化されている例が含まれる。様々な例には、炭素1が、アルコキシ(例えば、メトキシ)で官能化され、且つ、炭素6がホスホン酸エステルで(本明細書中でL2と称する)、エチルエステルで(本明細書中でL4と称する)、マロン酸メチルで(本明細書中でL6と称する)、ホスホン酸で(本明細書中でL3と称する)、カルボン酸塩で(例えば、カルボン酸のナトリウム塩)( 本明細書中でL5と称する)、又はマロン酸で(本明細書中でL7と称する)で官能化されたもの、及び、炭素1がアルキンで官能化され、且つ、炭素6がホスホン酸で(本明細書中でL8と称する)、又はホスホン酸エステルで(本明細書中でL9と称する)官能化されたものが含まれる。M6P及び上述したその誘導体の構造を以下に示す。
【化1】
【化2】
【0018】
作動剤リガンドは、IGF-2又はM6Pの親和性と類似する親和性でIGF-2受容体に結合してもよい。IGF-2は、その受容体に、約40~60nMのKdで結合することが(Williams et al., Science, 2012 Nov 30, 338(6111):1209-1213)、M6Pは、約1nM又は約1μMの親和性(それが結合する2つの既知のサイトのどちらかにより)でIGF-2受容体に結合することが知られている(Olson et al., J. Biol., Chem. 2004 Aug 6;279(32):34000-9. Epub 2004 May 28)。
【0019】
一般的に、本開示のIGF-2受容体リガンドの治療量は、体重1kgあたり、約1~10,000μgの範囲内である。IGF-2は、体重1kgあたり、約1~500μg(その間のすべての値及び範囲を含む)で使用されてもよい。例えば、IGF-2は、体重1kgあたり、1~500μg/kg、1~100μg/kg、1~50μg/kg、10~500μg/kg、10~100μg/kg、10~50μg/kgで使用されてもよい。一実施形態では、IGF-2は、10~45μg/kgにて皮下投与で使用されてもよい。特定の実施形態において、IGF-2は、体重1kgあたり、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、200、300、400、及び500μg/kgで使用されることができる。
【0020】
M6P及びM6P誘導体は、体重1kg当たり約1~2,000μgで使用されてもよく、この範囲にはすべての値及びその間の範囲が含まれる。例えば、M6Pは、体重1kgあたり、1~2,000μg/kg、1~1,500μg/kg、1~1,000μg/kg、1~500μg/kg、1~100μg/kg、10~2,000μg/kg、10~1,500μg/kg、10~1,000μg/kg、10~500μg/kg、及び10~100μg/kg、50~2,000μg/kg、50~1,500μg/kg、50~1,000μg/kg、50~500μg/kg、及び50~100μg/kg、及び上記範囲の間のすべての値にて使用されてもよい。ある実施形態において、M6P又は誘導体は、850μg/kgの皮下投与で使用することができる。ある実施形態において、M6P又は誘導体は100~1,000μg/kgにて使用されてもよい。特定の実施形態において、MP6は、体重1kgあたり、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1,250、1,500、1,750及び2,000μg/kgにて使用できる。さらに、動物について本明細書で提示されるデータに基づいて、当業者は、MP6及びIGF-2について関連するヒトでの用量を理解することができる。そのような換算のためのガイダンスは、当該分野において既知である(例えば、Nair et al., J. Basic Clin. Pharma., v 7(2), March 2016-May 2016; 27-31を参照、これは参照により本明細書に包含される)。
【0021】
M6Pは、遊離リン酸、又はその薬学的に許容されるモノ又はジ-塩(例えばナトリウム、カルシウム、マグネシウム又はバリウム塩など)の形態で存在してもよい。それはまた、そこからMP6がインビボで放出され得るM6P含有化合物として提供され得るか、又はそこからMP6がインビボで産生され得る前駆体として提供され得る。M6P誘導体はまた、遊離酸として、又はその塩(例えば、そのモノナトリウム塩又はジナトリウム塩)として存在してもよい(適用可能な場合(例えば、L3、L7、及びL8))。
【0022】
一面では、本開示は、発話及び運動の発達遅延、知的障害、幼児期頃までの発作、及び異常な行動及び/又は反復的な行動(ハンドフラッピングなど)を特徴とする神経発達障害の治療のための方法を提供する。このような神経発達障害の例には、アンジェルマン症候群及び自閉症スペクトラム障害が含まれる。
【0023】
アンジェルマン症候群は知的発達遅延を特徴とする神経遺伝性疾患である。ASはE3ユビキチンリガーゼUbe3Aの変異によって引き起こされる。アンジェルマン症候群の症状には、以下が含まれ得る:発達遅延、例えば、6~12ヶ月での腹這い又は喃語の欠如、精神発達の減弱、発話なし又は最小限の発話、運動失調(運動、歩行ができない、又は適切なバランスが取れない)、硬い動き又はぎくしゃくした動き(例えば、ハンドフラッピング)、多動、腕及び脚の震え、頻繁なほほ笑み及び笑い、不適切な笑いの発作、広い間隔のあいた歯、幸福、興奮しやすい人柄、てんかん、ゆっくりしたノッチ付きの波とスパイクを伴う脳波異常、通常2~3歳で始まり、ミオクローヌス及び意識消失を伴うことがある発作、眼球偏位及び嘔吐を伴う部分発作、後ろ側が著しく平坦な小さな頭部(小短頭)、内斜視(斜視)、舌の突き出しと吸引/嚥下障害、舌突出、過剰な咀嚼/口の挙動、異常に活発な下肢深部腱反射、回内又は外反に位置する足首を伴う大股の歩行、熱感受性の増加、両手を振り上げての歩行、水又は皺の多い品物(ある種の紙又はプラスチックなど)に魅惑される、年長児の肥満、便秘、下顎突出、毛髪、皮膚、及び眼の軽度の色素沈着(色素沈着低下)、頻繁なよだれ、顎前突症、乳児期の摂食問題及び/又は体幹緊張低下、及び/又は脊柱側湾症。症状は通常、出生時には明らかではなく、生後6~12カ月の間に腹這いや喃語がない、並びに、生後12カ月前に頭部の成長が遅いなどといった発達の遅れとして最初に明らかになることが多い。また、アンジェルマン症候群の個人は、入眠及び睡眠維持の困難、睡眠潜時の延長、入眠後の覚醒状態の延長、夜間覚醒回数の多さ及び総睡眠時間の減少、遺尿症、歯ぎしり、夜驚症、夢遊症、夜間運動過多、及びいびきなどの睡眠障害を患うこともある。
【0024】
ASの症状の重症度は臨床的に測定することができ(Williams et al., American Journal of Medical Genetics 2005 140A; 413-8、参照により本明細書に包含される)、様々な症状の重症度の定量化も実施することができる(Lossie et al., Journal of Medical Genetics 2001, 38; 834-845、参照により本明細書に包含される; Ohtsuka et al., Brain and Development 2005, 27; 95-100、参照により本明細書に包含される)。これは、言語能力の程度、一人での運動性の程度、発作の頻度及び重症度、言語を理解する能力、運動技能の獲得、成長パラメータを含み得る。22の別個の判断基準の重症度を定量化する、アンジェルマン症候群が疑われる患者のスクリーニング手順(Lossie et al., Journal of Medical Genetics 2001, 38)を用いることができる。AS重症度のその他の測定には、精神運動発達達成に関する発達遅延の程度を識別するための心理測定法、視覚技能、非言語的事象に基づく社会的相互作用(社会的交流)、表出言語能力、受容言語能力、言語障害などがある。歩行障害及び運動障害の程度、ならびに注意能力及びEEG異常の程度を測定することができる(Williams et al., American Journal of Medical Genetics 2005 140A; 413-8)。適切な年齢で、Kaufman Brief Intelligence Test-2 (KBIT-2; Kaufman & Kaufman, Circle Pines, MN: American Guidance Services; 2004、参照により本明細書に包含される)などの知的能力試験を使用することもできる。上記の特徴の1つ以上を使用して、本発明の組成物による治療の有効性を評価することができる。
【0025】
一実施形態では、治療の効果を評価するための評価プロトコルは、神経学的及び神経視覚検査、ならびに運動の評価(例えば、粗大運動機能測定スケール)、認知の評価(例えば、グリフィス精神発達スケール及びウズギリス-ハントスケール及び空間作業記憶試験);適応性の評価(例えば、ヴァインランド適応行動スケール)、コミュニケーションの評価(例えば、マッカーサー-ベイツ-コミュニケーション発達質問票及び子供の言語表現を記録するビデオ)、行動的側面の評価(例えば、IPDDAGスケール)、及びMichelettiら(Ital J Pediatr. 2016; 42(1): 91)に記載されるような神経視覚的側面を含み、これらは参照により本明細書に包含される。
【0026】
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、脳の正常な発達を妨げ、特に社会的相互作用及びコミュニケーション技能に影響を及ぼす複雑な発達障害を特徴とする。それは、典型的には生後3年以内に現れる。自閉症者は、言語及び非言語のコミュニケーション、社会的相互作用、ならびにレジャー又は遊びの活動において困難を有する。社会的相互作用の障害の範囲は、相互作用を開始し維持することの困難さ、感情を認識し経験する能力の障害、及び他者の感情を処理し正しく評価することの困難さにわたる。コミュニケーション不足は自閉症者間で異なり、自閉症者の中には、高い言語能力を有する個体に対するコミュニケーションの形態が非常に限定されている自閉症者もいる。反復的かつ定型的な行動には、複雑な儀式、変化に適応することの困難さ、及びハンドフラッピングなどの異常な動きが含まれる。自閉症の診断に有用な特徴的な行動には、話し言葉の欠如又は遅延、言語の反復的な使用又は運動のマンネリズム(ハンドフラッピング又は物体を振り回す)、アイコンタクトがほとんど又は全くないこと、ある物体への持続的な執着、及び社会化への関心の欠如が含まれる。
【0027】
IGF-2、IGF-2修飾体(例えば、IGF-2類似体)、M6P又はその誘導体の投与は、診断が行われるとすぐに開始することができる。治療の頻度及び長さは、AS又はASDの1つ以上の症状をモニターすることによって決定できる。治療は必要な限り継続することができ、数日、数ヶ月、又は数年でもよい。症状が弱くなった後でも、あるいはもはや測定不能になった後でも、治療を続けることができる。
【0028】
本開示の薬剤は、薬学的に許容される適切なキャリア、賦形剤、及び/又は安定剤とそれらとを組み合わせることによって、投与用の医薬組成物として提供することができる。薬学的に許容されるキャリア、賦形剤、及び安定剤の例は「レミントン:薬学の科学と実践(2005) 21版、ペンシルベニア州フィラデルフィア、Lippincott Williams & Wilkins出版社」に開示されている。例えば、M6Pを懸濁液又は溶液として使用することができる。適切なキャリアには、使用される用量及び濃度でレシピエントに無毒である賦形剤又は安定剤が含まれ、これには、酢酸塩、トリス、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンなどの抗酸化剤;保存剤、例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、又はデキストリンを含む、単糖類、二糖類及び他の炭水化物類;EDTAなどのキレート剤;トレハロース及び塩化ナトリウムなどの等張化剤(tonicifier);スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトールなどの糖類;ポリソルベートなどの界面活性剤;ナトリウムなどの塩形成対イオン;及び/又はTween又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が含まれる。医薬組成物は活性物質(例えば、M6Pもしくはその誘導体、又はIGF-2もしくはその修飾体(例えば、IGF-2類似体))を、0.01~99重量/体積%又は重量/重量%で含み得る。
【0029】
本組成物の投与は、当技術分野で既知の任意の適切な投与経路を用いて実施することができる。例えば、組成物は、静脈内、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液嚢内、経口、局所、又は吸入経路を介して投与され得る。組成物は、非経口的又は経腸的に投与することができる。一実施形態では、本開示の組成物は、例えば、錠剤、カプセル、丸剤、粉末、ペースト、顆粒、エリキシル、溶液、懸濁液、分散液、ゲル、シロップ又は任意の他の摂取可能な形態などの形態で経口投与することができる。M6P及び/又はその誘導体及び/又はIGF-2及び/又はその修飾体(例えば、IGF-2類似体)は、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルを介して送達され得る。組成物は、単回投与として、又は複数回投与として導入されてもよく、又はある期間にわたって連続的な様式で導入されてもよい。例えば、投与は予め指定された回数の投与、又は毎日、毎週(週1回)、又は毎月(月1回)の投与であってもよく、これは、臨床的必要及び/又は治療的指示に応じて、連続的又は断続的であってもよい。
【0030】
一実施形態において、IGF-2受容体リガンドは、唯一の活性成分である。活性成分とは、それがIGF-2受容体に特異的に結合する組成物中の唯一の成分であることを意味する。IGF-2受容体リガンドはIGF-2、その修飾体(例えば、IGF-2類似体)、又はM6Pあるいは他のM6P誘導体であってもよい。一実施形態では、M6P又はその誘導体は、唯一の活性成分である。一実施形態では、M6P又はその誘導体は、いかなる他の成分にも連結されておらず(例えば、直接又はリンカーを介して共有結合されていない)、いかなる他の成分又は薬剤のキャリアとして作用しない。一実施形態では、M6P誘導体はL2、L3、L4、L5、L6、L7、L8、又はL9であってもよい。
【0031】
一側面では、本開示は、M6P誘導体、及びマンノース誘導体を含む組成物を提供する。M6Pの誘導体は、M6Pの炭素1及び/又は炭素6に化学作用を行うことによって作製することができる。六炭糖の炭素1及び/又は炭素6に化学作用を行う様々な方法が当技術分野で知られている。M6P誘導体の例としては、ホスホネート(L2)、エチルエステル(L4)、マロン酸メチル(L6)、ホスホン酸(L3)、カルボキシレート(L5)、マロネート(L7)、アルキン(L8)、及びアルキンプロドラッグ(L9)が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、本開示は、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L8、及びL9からなる群より選択される化合物を提供する。一実施形態では、本開示は、L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L8、及びL9の1つ以上を含む組成物を提供する。
【0032】
以下の実施例は、説明に役立つ例として提示されるものであり、いかなる方法による限定も意図しない。
【0033】
[実施例1]
使用したマウスモデル
マウスは、父性インプリンティングUbe3A(ユビキチンタンパク質リガーゼE3A)ノックアウト変異を保有する変異雄マウス(B6.129S7-Ube3atm1Alb/J)(Jackson labs www.jax.orgから注文;ストックNo.016590)を、C57BL/6J雌正常マウスと交配することによって得た。雌のヘテロ接合性マウスを雄のC57BL/6Jマウスと交配させた;この交配からの子孫は、ヘテロ接合性の雄(母系伝達)、ヘテロ接合性の雌(母系伝達)、野生型の雄、野生型の雌である。これらの子孫を行動学的及び生化学的研究に用いた。これらのマウスは本明細書においてマウスと呼ばれ、それらの正常同腹仔は野生型(WT)マウス又は対照マウスと呼ばれる。
【0034】
処置
行動手順を開始する20分前に、IGF-2又はビヒクル対照溶液を皮下(s.c.)注射
【0035】
結果:
【0036】
IGF-2は、ASマウスにおいて記憶と運動反応の障害ならびに反復行動を逆転させる
【0037】
アンジェルマン症候群(AS)で変化することが知られている学習/認知反応を測定するために、異なるタイプの嫌悪記憶及び非嫌悪記憶を試験した。我々はASマウスが、長期記憶の嫌悪(文脈的恐怖条件付け; CFC)形態及び非嫌悪(新奇物体認識; nOR)形態の両方で強い欠損を示すことを見出した。具体的にはCFCパラダイムにおいて、マウスはチャンバー(状況)を嫌悪性足ショックと関連付けるように訓練された。訓練の20分前にIGF-2又はビヒクル溶液を注射した。我々は1日後(長期記憶を測定するために使用される時間)に、マウスを同じチャンバーに戻すことによって記憶保持を試験し、そしてそれらの恐怖関連(すくみ)挙動を測定した。対照溶液(ビヒクル)を注射したWT同腹仔マウス(対照)は、頑強なすくみ反応によって証明される強力な記憶を有するのに対して、ビヒクル注射ASマウスは有意に少ないすくみ挙動を示すこと(これは、長期記憶保持の欠損を示す)を見出した(図1A)。対照的に、IGF-2を投与したASマウスは、対照マウスと同様のすくみを示し、したがって、対照マウスと同様の記憶保持を示したことから、IGF-2がASマウスの記憶障害を完全に逆転させることが示された。
【0038】
我々は、非嫌悪記憶である、nOR検査で同様の結果を見出した。このタスクは認知記憶のための検証済みテストであり、げっ歯類が、なじみのあるものよりも新しい物体を探索するのに多くの時間を費やす自発的な傾向に基づいている。マウスを、新規アリーナにおいて2つの同一物体にさらし、各物体を探索するのに費やされた時間を測定した。その後、最初の体験の4時間後及び24時間後に、マウスを同じアリーナに戻したが、今回は物体のうちの1つを新しい物体に置き換え、両方の物体を探索するのに費やした時間を測定した。訓練の4時間後に試験した場合、予想されたように、対照マウスは、新規な物体を探索するのに有意に多い割合の時間を費やした(これは、最初の物体を記憶していることを示す)。対照的に、ASマウスはそのような嗜好性を示さず、両方の物体を探索するのに等しい時間を費やし、記憶障害を明らかにした(図1B)。IGF-2注射は、新奇物体に対する有意な嗜好性によって示されるように、ASマウスの記憶障害を完全に逆転させた。さらに、対照マウスとASマウスの両方ともが、訓練の24時間後に試験したとき、記憶保持の有意な減衰を示したが、IGF-2で処置したマウスは両群とも、新奇物体に対する有意な嗜好性を有し、このことは、ASで観察された長期記憶欠損を逆転させるIGF-2の能力が持続的であることを示した。
【0039】
探索的戦略及び作業記憶を評価するために、我々は、3つのアームを有するY字型迷路を使用する自発的交替パラダイムを使用した。ビヒクルを注射した対照マウス(WT)は、3つのアームの間で探索を交互に行い、その一方、ビヒクルを注射したASマウスは非訪問アームを探索する前に、反復的な様式にて、最近訪問したアーム間をより多く行き来した(図1C)。対照的に、Y字型迷路暴露の20分前にIGF-2で処置したASマウスは、対照マウスと同様の探索戦略を有し、このことは、IGF-2がこれらのマウスに見られる反復的で柔軟性のない行動を逆転させることを示す。
【0040】
ASはまた強い運動障害と関連し、これはASマウスにおいて再現される。運動協調性及び能力は、マウスを加速回転ロッド上に置くことによって、マウスで確実に評価される(ロータロッド試験)。この試験では、WT対照マウスと比較して、強い運動能力の欠損がビヒクル処置ASマウスで観察された(図1D)。しかし、IGF-2で処置したASは、回転ロッド上で運動能力の有意な改善を示し、実際、それらが落下するまでの潜在時間は、正常対照マウスのものと同様のレベルに戻った。
【0041】
また、我々は、ビー玉埋め試験において、ASマウスが示す行動に、対照WT同腹仔と比べて有意な差異を観察した。床敷き及びビー玉を入れた空のホームケージに置かれた場合、通常のマウスは、典型的には適度な量の埋め隠し行動を行う。これらの対照マウスと比較して、ASマウスは非常に低いレベルの埋め隠しを示し、埋め隠しに費やされた時間(図1E)及び埋められたビー玉の量の両方において有意な減少を示す。しかし、IGF-2処置はASマウスの欠損を回復させ、その後、正常マウスと同様のレベルの埋め隠しを示した。
【0042】
不安様行動に対するIGF-2の効果を測定するために、オープンフィールドを採用し、中心にいる時間(不安行動を測定する)を測定した。ASマウスに対するIGF-2処置の効果は認められず、正常マウスの行動と比較して変化したままであった(図1F)。
【0043】
基本条件における海馬及び内側前頭前皮質の生化学的特性決定は、IGF-2経路、可塑性及び代謝マーカーの異常を示す。
成体ASマウスとWT同腹仔において、学習と記憶と実行機能に重要な2つの脳領域である、背側海馬(dHC)と内側前頭前皮質(mPFC)における、基本条件下(ホームケージに残存)でのタンパク質レベルを比較するために、ウェスタンブロット解析を行った。我々は、背側海馬(dHC)と内側前頭前皮質(mPFC)におけるグルコース代謝、可塑性、抑制性ニューロン機能、及びIGF-2経路に重要なマーカーのクラスについて有意な変化のエビデンスを見出した。具体的には、AS及びWT同腹仔における全タンパク質及びシナプトニューロソーム(シナプトノイロゾーム:シナプス画分)抽出物を評価し、以下の発現量を比較した:
i)IGF-2及びIGF-2R、ii)mTOR及びホスホ-mTOR、ULK-1及びホスホ-ULK-1、iii)興奮性ニューロン可塑性(Arc/Arg3.1、GluA1、GluA2)、iv)抑制性ニューロンマーカー(GAD67)、及び、v)グルコース/エネルギー代謝(LDHB、MCT1、MCT4、MCT2、GLUT1、GLUT3、pAMPK)である。
【0044】
これまでに実施された解析は、WT同腹仔と比較して、ASマウスが、両方の脳領域において、IGF-2/IGF-2R、可塑性、及びグルコース代謝機構に変化を有することを示す。具体的には、図2(dHC)及び図3(mPFC)に示すように、ASマウスはdHCにおけるGAD67の有意な減少を有し、これは抑制性ニューロンの変化を示唆する。AS dHCはまた、代謝酵素である乳酸脱水素酵素B(LDHB)が有意に減少しており、GLUT3が有意に増加するほか、総、内皮、星状細胞のGLUT1が増加する強い傾向がみられ、これは、ASマウスのグルコース代謝が有意に変化していることを示唆する。AMPA受容体サブユニット、GluA2は強い減少傾向を示したが、有意なレベルには達しなかった。サンプル数の増加は、有意な欠損を明らかにする可能性が高い。IGF-2、IGF-2受容体、AMPA受容体サブユニットGluA1、可塑性関連遺伝子Arc/Arg3.1、シナプス濃縮タンパク質PSD95、pULK及びモノカルボン酸輸送体MCT1、MCT4、及びMCT2のレベルは、ASマウスのdHCにおいて、基本条件下で変化しなかった。
【0045】
mPFC(図3)では、IGF-2経路に有意な変化が認められ、全タンパク質抽出物では成熟型のIGF-2が有意に増加し、pro-IGF-2が有意に減少した。一方、シナプトノイロゾーム画分では、正常マウスと比較してASマウスにおいて、成熟型のIGF-2が劇的に減少し、pro-IGF-2(未成熟型)が強く減少する傾向が認められる。IGF-2受容体レベルは、ASマウスのmPFCでは影響を受けない。また、シナプトノイロゾーム画分も、可塑性関連遺伝子、Arc/Arg 3.1の最初期における有意な減少を明らかにし、GluA2にも有意な減少が認められたが、GluA1では認められなかった。dHCと同様に、ASマウスのmPFCにおいて、LDHBレベルの有意な減少及びGLUT3の減少への強い傾向が見出された。ニューロン抑制マーカーGAD67のレベルは、mPFCで部分的に減少したが、それは統計的に有意な値に達していなかった。さらに、pAMPK、PSD95、pULKモノカルボン酸輸送体MCT1、MCT4、及びMCT2のレベルは、ASマウスのmPFCで変化しなかった。
【0046】
[実施例2]
本実施例は、マンノース-6-リン酸(M6P)の全身投与が、アンジェルマン症候群マウスモデルにおける記憶欠損を逆転させることを実証する。我々は最初に、正常マウスの記憶増強に対する効果について、異なるM6P濃度を試験した。結果を図4に示す。IGF2R.L1は、M6Pである。
【0047】
さらに、我々は、アンジェルマン症候群モデルマウス(Ube3a-/+マウス、ASマウス)にM6Pを全身投与すると、その記憶障害が逆転することを見出した(図5)。
【0048】
具体的には、マウスにおける新奇物体認識(nOR)パラダイムを用いて、非嫌悪性エピソード記憶を評価した。この課題では、げっ歯類の目新しいものに対する先天的選好を用いる。訓練中、マウスは、2つの同一物体を探索することができる。検査日に、前記訓練用物体のうちの1つを新しい物体に置き換える。マウスは生得的に新しい物を好むので、マウスが見慣れた物体を認識すると、より多くの時間を新しい物体に費やすことになる。
【0049】
M6Pの皮下注射は、ASマウスの記憶障害を逆転させた。図5Aに示すように、nOR訓練の4時間後の試験は、対照溶液(ビヒクル)を注射された対照(野生型同腹仔、WT)マウスが強い記憶を有するのに対して、ビヒクルを注射されたASマウスは有意な記憶障害を示すことを明らかにし、確立されている記憶障害を確認した。訓練前のM6P注射は、ASマウスの記憶障害を逆転させ、実際、対照WTマウスと同様の記憶保持レベルを有していた。訓練後24時間で試験した場合、WTマウス及びASマウスの両方が有意な記憶保持を示したが、ビヒクルを注射したWTマウス及びASマウスは忘れた(図5A)。
【0050】
上述のように、ASマウスは、3本アームY字型迷路における自発的交替パラダイムにより測定される、探索戦略/作業記憶において欠損を示す。IGF-2R.L1(M6P)注射は、ビヒクル注射と比較して、欠損を完全に逆転させた(図5B)。
【0051】
ASはまた、ASマウスにおいて再現される運動障害に関連する。運動障害を評価するために使用される1つの試験は後肢クラスピングであり、これは、運動系が損なわれている(運動系の神経変性疾患を含む)マウスモデルにおいて観察される。この検査では、尾を持って吊り下げると、運動障害のあるマウスでは、屈曲反応の代わりに足のクラスピングとコウモリ様の姿勢を示す。図5Cに示すように、ビヒクルを注射したASマウスは、WT対照マウスと比較して有意な後肢クラスピング応答を示した。ASマウスにおけるIGF-2R.L1注射は、後肢クラスピングを有意に減少させ、すなわち、それらの欠陥を逆転させた。
【0052】
[実施例3]
IGF-2R.L2(又はL2)と呼ばれる修飾M6P:ホスホネート-M6P(PnM6P)を試験した。図6に示すように、850μg/kgで注射されたL2は、nORにおけるASマウスの欠損を有意に逆転させ、訓練後4時間でWTマウスにおけるnOR記憶保持を有意に増強した(図6A)。訓練の24時間後に、L2を注射したWTマウス及びASマウスの両方が、ビヒクル注射群と比較して有意な記憶を示した。訓練後5日目で再検査した場合(5d試験)、いずれの群(ビヒクル又はL2注射)も有意な記憶を示さなかったが、WT対照は記憶増強の強い傾向を示し、これは群あたりより多くの数の被験体が含まれる場合に有意になり得る。
【0053】
L2はまた、ロータロッド試験(段落0034に記載)によって明らかにされたように、ASマウスの運動欠損を逆転させた。ビヒクルを注射したASマウスは、WT対照マウスと比較して運動能力に有意な欠損を示したが(図6B)、L2を注射したASマウスは、回転するロッド上での運動能力を有意に改善し、実際、それらが落下するまでの潜伏時間は、WT対照マウスと同様のレベルに戻った(図6B)。
【0054】
L2注射は後肢クラスピングによって測定されるように、運動欠損を逆転させた。ビヒクル注射ASマウスは、ビヒクル注射対照マウスと比較して有意に高いスコアの後肢クラスピング挙動を示したが、L2注射ASマウスは、後肢クラスピング挙動を対照レベルまで回復させた(図6C)。
【0055】
[実施例4]
本実施例は、M6P誘導体の合成及び特性決定を記載する。
【0056】
一般的な合成手順
【0057】
特に断らない限り、すべての反応は、窒素又はアルゴンの陽圧下で、磁気撹拌しながら、火炎乾燥又はオーブン乾燥ガラス製品中で行われた。無水ジクロロメタン(CH2Cl2)、ジエチルエーテル(Et2O)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン(PhMe)、及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)は、これらの溶媒を活性アルミナカラムに通して火炎乾燥ガラス製品に入れることによって得た。他の溶媒及び試薬は、別段の記載がない限り、商業的ベンダー(Acros Organics、AK Scientific、Alfa Aesar、Chem-Impex International、Combi-Blocks、Sigma-Aldrich、Strem Chemicals、Synthonix、Tokyo Chemical Industry Co.)から入手した状態のまま使用した。薄層クロマトグラフィー(TLC)は、F254蛍光指示薬(Millipore Sigma)で予めコーティングされたシリカゲル60ガラスプレートを用いて、反応をモニターするために実施され、紫外光(λ=254nm)を遮断することによって、又は過マンガン酸カリウム(KMnO4)水溶液、酸性モリブデン酸アンモニウムセリウム(IV)(CAM)水溶液、酸性エタノール性p-アニスアルデヒド溶液、又はブタノール性ニンヒドリン溶液で染色し、続いてヒートガンで穏やかに加温することによって可視化された。フラッシュカラムクロマトグラフィーを、室温、窒素圧下、シリカゲル(60Å、40~63μm、Silicycle又はMerck)を用いて、ガラスカラム又はTeledyne Isco MPLC CombiFlash(登録商標)Rf+を用いて行った。プロトン核磁気共鳴(1H NMR)スペクトルを、25℃にて、CryoProbeTMを装備したBruker Avance III HD 400MHz分光計で記録し、テトラメチルシラン(TMS、δ=0ppm)からの百万分率(ppm、δスケール)低磁場で報告し、NMR溶剤の残留プロチウム共鳴(CDCl3:7.26[CHCl3]、CD3OD:4.87[MeOH]、D2O:3.31[H2O]、C6D6:7.16[C6H6]、(CD3)2SO:2.50[(CH3)2SO])を内部参照する。プロトンデカップリング炭素-13核磁気共鳴(13C{1H}NMR)スペクトルを、25℃にてCryoProbeTMを装備したBruker Avance III HD 400MHz分光計で記録し、テトラメチルシラン(TMS、δ=0ppm)からの百万分率(ppm、δスケール)低磁場で報告し、NMR溶媒(CDCl3:77.36[CHCl3]、CD3OD:49.00[MeOH]、(CD3)2SO:39.52[(CH3)2SO])の炭素-13共鳴の中心線を内部参照する。プロトンデカップリング・リン-31核磁気共鳴(31P{1H}NMR)スペクトルを、25℃にてCryoProbeTMを装備したBruker Avance III HD 400MHz分光計で記録し、リン酸(H3PO4、δ=0)からの百万分率(ppm、δスケール)低磁場で報告し、トリフェニルホスフェート標準液(CDCl3中0.0485M、δ=-17.7ppm)を外部参照する。報告されたデータは、百万分率での化学シフト(ppm、δスケール)(積分、多重度、カップリング定数J(Hz)、原子帰属)として表される。
多重度は以下のように略される:s(一重線); d(二重線); t(三重線); q(四重線); quint(五重線); sext(六重線); hept(七重線); br(幅広線); m(多重線);あるいはそれらの組み合わせ。高分解能質量分析(HRMS)は、大気圧化学イオン化(APCI)方法又はエレクトロスプレーイオン化(ESI)方法のいずれかと組み合わせて、Agilent 6224 Accurate-Mass time-of-flight(TOF)液体クロマトグラフィー質量分析計(LC/MS)を用いて行った。フーリエ変換赤外(FT-IR)スペクトルを、ポリスチレン標準を参照するThermo Scientific Nicolet 6700 FT-IRスペクトロメータで記録した。シグナルは、w(弱い);m(中程度);s(強い)、br(広い)と略される記述子を伴い波数(cm-1)での吸収振動数として報告される。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)精製を、逆相(RP)Phenomenex Semipreparativeカラム(00D-4439-E0 Gemini、C18相、3μm粒径、110Å細孔径)を有するAgilent 1260 Infinity II LCで、8mL/分の流速で、及び(A)アセトニトリル(HPLCグレード)と(B)水(HPLCグレード)中の0.1%ギ酸(FA)の溶媒混合物を用いて行った。旋光度測定は、Flint Glass Faraday細胞モジュレータ、ナトリウムランプ光源、及び光電子増倍管(PMT)検出器を備えたJasco P-2000旋光計で記録した。比旋光度は、式[α]=(100・α)/(l・c)に基づいて計算し、ここで、濃度cはg/100ml単位であり、経路長lはデシメートル単位である。計算された比旋光度は単位なしの値として報告され、[α]D T比旋光度(c、濃度、溶媒)として表され、ここで、温度Tは℃単位であり、Dは、ナトリウムD線モニタ波長(589nm)を表す。
【0058】
化合物の合成及び特性決定
【0059】
L2の合成
【0060】
メチル6-O-トリフェニルメチル-α-D-マンノピラノシド(2)
【0061】
トリチルエーテル2を、改変した公開手順に従って調製した(Traboni et al., ChemistrySelect 2017, 2, 4906-4911; Tennant-Eyles et al., J. Tetrahedron: Asymmetry 2000, 11, 231-243)。メチル-α-D-マンノピラノシド(5.02g、25.8mmol、1.0当量)及び塩化トリチル(7.91g、28.4mmol、1.1当量)の混合物に、ピリジン(5.2mL、64.6mmol、2.5当量)を添加した。反応混合物を100℃に加熱し、30分間撹拌した。30分後、40℃で超音波処理することにより、得られた粘性ペーストをCH2Cl2に溶解した。溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄し(2×)、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮した。粗残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(50%~100%酢酸エチル/ヘキサン)によって精製して、2(11.0g、25.2mmol、98%)を白色泡状物として得た。NMRスペクトルは、文献(Traboni et al., ChemistrySelect 2017, 2, 4906-4911; Tennant-Eyles et al., J. Tetrahedron: Asymmetry 2000, 11, 231-243)に報告されているものと一致する。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.48 - 7.28 (15H, m), 4.72 (1H, d, J=1.6 Hz), 3.92 (1H, m), 3.82 - 3.63 (3H, m), 3.50 - 3.39 (2H, m), 3.38 (3H, s), 2.73 (1H, m), 2.54 (1H, m), 2.27 (1H, m). 13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 143.9, 128.9, 128.3, 127.5, 100.9, 87.7, 72.0, 70.64, 70.59, 70.1, 65.2, 55.3.
【0062】
メチル2,3,4-トリ-O-ベンジル-α-D-マンノピラノシド (4)
【0063】
ベンジルエーテル3を、改変した公開手順(Hofmann et al., Carbohydr. Res. 2015, 412, 34-42)に従って調製した。トリチルエーテル2(2.01g、4.61mmol)を無水DMF(115mL)に溶解し、この溶液にNaHの懸濁液(鉱油中60%、14.8g、371mmol、7.2当量)を0℃で少しずつ加えた。反応混合物を0℃で10分間撹拌し、この混合物に塩化ベンジル(39.1g、309mmol、6.0当量)をゆっくり加え、懸濁液を0℃で5分間撹拌し、次いで室温に温め、16時間撹拌した。反応混合物を水でクエンチし、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮して粘稠な黄色油状物として3を得、これを以下の手順において直接使用した。
【0064】
アルコール4を、改変した公開手順に従って調製した(Jaramillo et al., J. Org. Chem. 1994, 59, 3135-3141)。ベンジルエーテル3をMeOH-CH2Cl2(2:1、6ml)に溶解し、p-TsOHをpH<4になるまで加えた。反応混合物を室温で20時間撹拌した後、Et3Nで中和し、減圧濃縮した。残渣をCH2Cl2に溶解し、蒸留水及び塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。粗残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(30%~60%酢酸エチル/ヘキサン)によって精製して、淡黄色シロップとしてアルコール4(0.90g、1.94mmol、42%)を得た。NMRスペクトルは、文献(Norberg et al., Carbohydr. Res. 2017, 452, 35-42)で報告されているものと一致する。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 7.41 - 7.30 (15H, m), 4.97 (1H, d, J=10.9 Hz), 4.81 (1H, d, J=12.3 Hz), 4.75 - 4.65 (5H, m), 3.99 (1H, app. t, J=9.4 Hz), 3.92 (1H, dd, J=9.4, 2.9 Hz), 3.90 - 3.84 (1H, m), 3.83 - 3.76 (2H, m), 3.68 - 3.62 (1H, m), 3.33 (3H, s), 2.00 (1H, app. t, J=6.4 Hz). 13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 138.8, 138.7, 138.6, 128.70, 128.68, 128.67, 128.3, 128.1, 128.0, 127.9, 99.6, 80.5, 75.5, 75.2, 75.0, 73.2, 72.5, 72.4, 62.7, 55.1. HRMS (APCI/LC-TOF) m/z: [M + NH4]+ C28H32O6の計算値:482.2537; 実測値:482.2533
【0065】
メチル2,3,4-トリ-O-ベンジル-6-デオキシ-6-ジエトキシホスフィニルメチレン-α-D-マンノピラノシド(7)
【0066】
アルデヒド5は、第一級アルコールを酸化するための一般的な手順に従って調製した(Tojo et al., Oxidation of alcohols to aldehydes and ketones: a guide to current common practice. Springer Science & Business Media: 2006)。4(0.334g、0.72mmol、0.4M)の溶液を、無水DMSO(1.8mL)中、窒素下で調製した。この溶液にEt3N(1.0ml、7.2mmol、10当量)を加え、反応混合物を氷水浴中で0℃まで冷却し、撹拌した。この溶液に、DMSO(1mL)中の三酸化硫黄-ピリジン錯体(0.347g、2.2mmol、3.0当量)の溶液を0℃で滴下した。反応混合物を室温に温め、20時間撹拌した。溶液をCH2Cl2で希釈し、蒸留水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮して黄色油状物として5を得た。油状物をシリカの栓で濾過し、以下の手順において直接使用した。
【0067】
ホスホネート7を、改変した公開手順(Vidil et al., Eur. J. Org. Chem. 1999, 447-450)に従って調製した。無水トルエン(2mL)中のNaH(鉱油中60%、37.8mg、0.945mmol、2.2当量)の懸濁液に、テトラエチルメチレンジホスホネート(0.27mL、1.08mmol、2.5当量)を滴下し、室温で30分間撹拌した。無水トルエン(5mL)中の5の溶液を、この混合物に窒素下で滴下し、室温で2時間撹拌した。反応混合物をCH2Cl2で希釈し、蒸留水でクエンチした。有機層をCH2Cl2で抽出し(3×)、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。粗残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(40%~100%酢酸エチル/ヘキサン)で精製して、7を無色シロップ(162mg、0.272 mmol、62%)として得た。NMRスペクトルは、文献(Vidil et al., Eur. J. Org. Chem. 1999, 447-450)で報告されているものと一致する。
[α]D 20=+40.4 (c=1.01, CHCl3). 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 7.39 - 7.27 (15H, m), 6.96 (1H, ddd, J=22.1, 17.2, 4.3 Hz), 6.12 (1H, ddd, J=21.2, 17.5, 1.8 Hz), 4.88 及び 4.59 (2H, AMq, J=10.6 Hz), 4.77 及び 4.70 (2H, ABq, J=12.4 Hz), 4.73 (1H, s), 4.63 (2H, s), 4.14 - 4.03 (5H, m), 3.90 (1H, dd, J=9.3, 3.0 Hz), 3.81 - 3.77 (1H, m), 3.72 (1H, t, J=9.5 Hz), 3.29 (3H, s), 1.31 (6H, t, J=7.1 Hz). 13C NMR (CDCl3, 101 MHz) δ 148.4 (d, J=5.8 Hz), 138.7, 138.5, 138.3, 128.7, 128.4, 128.14, 128.05, 127.9, 118.3 (d, J=188.2 Hz), 99.6, 80.4, 78.5 (d, J=1.9 Hz), 75.7, 75.0, 73.2, 72.7, 71.5 (d, J=21.5 Hz), 62.1 (dd, J=5.8, 1.3 Hz), 55.3, 16.7. 31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 18.3. FT-IR (neat, cm-1): ν(C-H)=2982 (m), ν(P=O)=1253 (s), ν(P-O-C)=1024 (s), ν(P-O-C)=969 (m).
【0068】
メチル2,3,4-トリ-O-ベンジル-6-デオキシ-6-ジイソプロピルオキシカルボニルオキシ-メチル-ホスフィニルメチレン-α-D-マンノピラノシド(10)
【0069】
ホスホン酸8を、公開手順(Vidil et al., Eur. J. Org. Chem. 1999, 447-450)に従って調製した。7(0.146g、0.245mmol、1当量)の無水CH3CN(5.6mL)溶液に窒素下で、室温で撹拌しながら、ピリジン(31μL、0.392mmol、1.6当量)及び臭化トリメチルシリル(0.32mL、2.45mmol、10当量)を加えた。2時間後、反応混合物を0℃に冷却し、ピリジン(51μL、0.634mmol、2.6当量)及びH2O(185μL、10.3mmol、42当量)を添加し、次いで室温に温め、撹拌した。2時間後、反応混合物をCH2Cl2及び2M HCl(4mL)及びH2O(4mL)で希釈した。有機層をCH2Cl2で抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮して、8を茶色の油状物として得た。粗残渣を以下の手順において直接使用した。
【0070】
ホスホネート10を改変された手順に従って調製した(Graham et al., (2017). 国際特許出願 公開番号WO2017/87256)。無水CH3CN中の8の混合物を、窒素下でDIPEA(0.480mL、2.76mmol、9.9当量)、TBAB(93.1mg、0.289mmol、1.0当量)及びクロロメチルイソプロピルカーボネート(0.30mL、2.24mmol、8.1当量)で処理し、次いで60℃に加熱した。16時間撹拌した後、反応混合物を減圧下で濃縮した。粗残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(30%~100%酢酸エチル/ヘキサン)で精製して、10を無色油状物として得た(116mg、0.150mmol、54%)。
TLC (EtOH/EtOAc/ヘキサン 1.5:1.5:7): Rf=0.49. 1H NMR (CDCl3, 400 MHz) δ 7.40 - 7.29 (15H, m), 7.10 (1H, ddd, J=24.5, 17.2, 3.8 Hz), 6.40 - 6.17 (1H, m), 5.80 - 5.65 (6H, m), 4.81 - 4.59 (7H, m), 4.22 - 4.14 (1H, m), 3.91 (1H, dd, J=9.3, 3.1 Hz), 3.83 - 3.78 (1H, m), 3.74 (1H, t, J=9.5 Hz), 3.30 (3H, s), 1.32 - 1.29 (12H, m). 13C NMR (CDCl3, 101 MHz) δ 153.5, 138.7, 138.5, 138.3, 128.8, 128.7, 128.6, 128.2, 128.1, 127.9, 99.7, 84.5 (d, J=5.7 Hz), 84.4 (d, J=6.8 Hz), 80.5, 78.3 (d, J=2.1 Hz), 75.8, 75.0, 73.5 (d, J=3.5 Hz), 73.3, 72.7, 71.3 (d, J=22.3 Hz), 55.3. 31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 26.3.
【化7】
【0071】
メチル6-デオキシ-6-ジイソプロピルオキシカルボニルオキシ-メチル-ホスフィニルメチル-α-D-マンノピラノシド(L2)
【0072】
L2の合成における最終工程は、公表された水素化手順(Jeanjean et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 2008, 18, 6240-6243)に従って行った。オーブン乾燥したバイアル中で、10(36.0mg、0.047、1当量)を乾燥させ、高真空下で脱気した。これに10%Pd/C(36.6mg、0.344mmol、7.4当量)を加え、CH2Cl2(2mL)及びEtOH(2mL)ですすいだ。反応混合物を表面下にN2で1分間散布した。次いで、反応混合物を減圧下で脱気し、雰囲気をH2で置換した(5×)。反応混合物をH2下で4時間激しく撹拌し、その後、反応混合物を減圧下で脱気し、N2で再充填した(5×)。反応混合物をCH2Cl2(2ml)で希釈し、湿らせたセライトの栓で濾過した。濾過した有機層を減圧下で濃縮し、粗残渣をHPLC(40%~85%[H2O+0.1%FA]:[CH3CN+0.1%FA]、tR(L2)=7.00分)によって精製して、白色固形物としてL2(10.1mg、0.020mmol、43%)を得た。すべての13C-31Pカップリング定数は規格値の範囲内である(Buchanan et al., Can. J. Chem. 1976, 54, 231-237)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 5.68 (2H, dd, J=20.5 Hz, J=5.3 Hz, H8), 5.65 (2H, dd, J=18.3 Hz, J=5.4 Hz, H8’), 4.93 (2H, hept, J=6.3 Hz, H10) , 4.68 (1H, s, H1), 3.95 - 3.86 (1H, br, H5), 3.74 (1H, m, H2), 3.58 (2H, m, H3, H4), 3.35 (3H, s, OCH 3 ), 3.22 - 3.07 (1H, m, OH), 2.95 (2H, m, 2×OH), 2.27 - 2.07 (2H, m), 2.06 - 1.86 (2H, m, H6, H6’, H7, H7’), 1.32 (12H, d, J=6.2 Hz, H11). 13C NMR (101 MHz, CDCl3) δ 153.6 (d, J=3.7 Hz, C9), 101.2 (s, C1), 84.5 (d, J=6.3 Hz, C8), 84.3 (d, J=6.3 Hz, C8’), 73.7 (d, J=3.2Hz, C10), 72.0 (s, C2), 70.9 (d, J=16.1 Hz, C5), 70.6 (s), 70.5 (s, C3, C4), 55.3 (s, OCH3), 23.8 (d, J=4.5 Hz, C6), 22.4 (s, C11), 21.7 (d, J=142.3 Hz, C7). 31P NMR (162 MHz, CDCl3) δ 34.4. FT-IR (neat, cm-1): ν(O-H)=3409 (br), ν(C-H)=2923 (m), ν(C=O)=1760 (s), ν(P=O)=1269 (s). LR-MS (ESI-) [M+HCOO]-の計算値:549.2; 実測値:549.2.
【0073】
本発明を例示的な実施形態を通して説明してきたが、当業者には通常の修正が明らかであり、そのような修正は本開示の範囲内であることが意図される。
【0074】
[請求1]
アンジェルマン症候群(AS)及び自閉症スペクトラム障害(ASD)からなる群より選択される神経発達障害(ND)を治療する方法であって、NDと診断された被験体に、IGF-2受容体の特異的作動剤リガンドを治療的有効量で含む組成物を投与することを含む、方法。
[請求2]
前記治療が、発達の診査事項、発話、知的能力、動作、社会的行動及びてんかんの1つ以上を軽減することを含む、請求1に記載の方法。
[請求3]
前記作動剤リガンドが、IGF-2又はその修飾体である、請求1に記載の方法。
[請求4]
前記作動剤リガンドが、マンノース-6-リン酸(M6P)又はその誘導体である、請求1に記載の方法。
[請求5]
前記M6P誘導体が、以下からなる群より選択される、請求4に記載の方法。
[請求6]
前記M6P又はその誘導体が、体重1kgあたり1~2,000μgの範囲の量で投与される、請求4に記載の方法。
[請求7]
前記M6P又はその誘導体が、別の成分にコンジュゲートされていない、請求4に記載の方法。
[請求8]
前記組成物において、前記M6P又はその誘導体が、IGF-2受容体に特異的に結合する唯一の薬剤である、請求4に記載の方法。
[請求9]
前記IGF-2が、体重1kgあたり1~500μgの範囲の量で投与される、請求3に記載の方法。
[請求10]
前記組成物において、前記IGF-2が、IGF-2受容体に特異的に結合する唯一の薬剤である、請求9に記載の方法。
[請求11]
前記組成物が、本質的に、i)M6P及びM6P誘導体からなる群より選択されるリガンド、及びii)IGF-2のみからなる、請求1に記載の方法。
[請求12]
L3,L4,L5,L6,L7,L8,及びL9からなる群より選択される化合物。
[請求13]
請求12に記載の化合物及び薬学的に許容されるキャリアを含む、組成物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【外国語明細書】