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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081795
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】二機能性結合ポリペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20240611BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240611BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20240611BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240611BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240611BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240611BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240611BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240611BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240611BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240611BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240611BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240611BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240611BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240611BHJP
   C07K 1/14 20060101ALI20240611BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240611BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240611BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240611BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240611BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240611BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240611BHJP
   A61P 17/08 20060101ALI20240611BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240611BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20240611BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240611BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20240611BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240611BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240611BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240611BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240611BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K16/28 ZNA
C07K14/725
C07K14/47
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C12P21/02 C
C07K1/14
A61K38/02
A61K48/00
A61P1/04
A61P3/10
A61P17/00
A61P17/06
A61P17/08
A61P19/02
A61P25/04
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P37/02
A61P37/08
A61P27/02
A61K39/395 U
A61K47/68
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024061563
(22)【出願日】2024-04-05
(62)【分割の表示】P 2020563943の分割
【原出願日】2019-05-14
(31)【優先権主張番号】1807767.7
(32)【優先日】2018-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1819584.2
(32)【優先日】2018-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】510019129
【氏名又は名称】イムノコア リミテッド
【住所又は居所原語表記】92 Park Drive Milton Park,Abingdon Oxfordshire OX14 4RY,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボッシ,ジョヴァンナ
(72)【発明者】
【氏名】ライス,カルロス
(72)【発明者】
【氏名】タワー,ラジブクマル
(72)【発明者】
【氏名】カーノック,アダム
(72)【発明者】
【氏名】スミス,ニコラ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自己免疫疾患の治療のための、より安全でより効果的なPD-1アゴニストを提供する。
【解決手段】pMHC結合部分とPD-1アゴニストとを含む二機能性結合ポリペプチドを提供する。pMHC結合部分がTCR可変領域および/または抗体可変領域を含み得る。pMHC結合部分は、ヘテロ二量体アルファ/ベータTCRポリペプチド対であり得る。PD-1アゴニストがPD-L1またはその機能的断片であり得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pMHC結合部分とPD-1アゴニストとを含む二機能性結合ポリペプチド。
【請求項2】
前記pMHC結合部分がTCR可変領域および/または抗体可変領域を含む、請求項1に記載の
二機能性結合ポリペプチド。
【請求項3】
前記pMHC結合部分がT細胞受容体(TCR)またはTCR様抗体である、請求項1に記載の二機
能性結合ポリペプチド。
【請求項4】
前記pMHC結合部分がヘテロ二量体アルファ/ベータTCRポリペプチド対である、請求項1
~3のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項5】
前記pMHC結合部分が一本鎖アルファ/ベータTCRポリペプチドである、請求項1~3のい
ずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項6】
前記TCRが、アルファ鎖の定常領域とベータ鎖の定常領域との間に非天然のジスルフィド
結合を含む、請求項3~5のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項7】
前記TCRがペプチド抗原に特異的に結合する、請求項3~6のいずれか1項に記載の二機
能性結合ポリペプチド。
【請求項8】
前記PD-1アゴニストがPD-L1またはその機能的断片である、請求項1~7のいずれか1項
に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項9】
前記PD-L1が以下の配列を含むかまたはそれからなる、請求項8に記載の二機能性結合ポ
リペプチド。
FTVTVPKDLYVVEYGSNMTIECKFPVEKQLDLAALIVYWEMEDKNIIQFVHGEEDLKVQHSSYRQRARLLKDQLSLGNAALQITDVKLQDAGVYRCMISYGGADYKRITVKVNAPY
【請求項10】
前記PD-1アゴニストが完全長抗体またはその断片である、請求項1~7のいずれか1項
に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項11】
前記PD-1アゴニストがscFv抗体である、請求項10に記載の二機能性結合ポリペプチド
【請求項12】
前記PD-1アゴニストが、前記pMHC結合部分のCまたはN末端に融合されている、請求項1
~11のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項13】
前記PD-1アゴニストがリンカーを介して前記pMHC結合部分に融合されている、請求項1
~12のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項14】
前記リンカーが2、3、4、5、6、7または8アミノ酸長である、請求項13に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチドを含む医薬組成物。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチドをコードする核酸。
【請求項17】
請求項16に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項18】
任意に前記二機能性結合ポリペプチドをコードする核酸が、アルファ鎖およびベータ鎖をコードする、単一のオープンリーディングフレームとして存在するか、または、それぞれコードする2つの別個のオープンリーディングフレームとして存在する、請求項16に記載の核酸または請求項17に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項19】
核酸の発現のための任意の条件下で請求項18に記載の宿主細胞を維持し、二機能性結合ペプチドを単離することを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチドを作製する方法。
【請求項20】
医学において使用するため、特に自己免疫疾患を治療するための、または、痛み、特に炎症に関連する痛みの治療または予防に使用するための、請求項1~14のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチド、請求項15に記載の医薬組成物、請求項16に記載の核酸および/または請求項17に記載のベクター。
【請求項21】
前記己免疫疾患が、円形脱毛症、強直性脊椎炎、アトピー性皮膚炎、バセドウ病、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、1型糖尿病および白斑、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、小児脂肪便症(セリアック病)、眼疾患(例えば、ブドウ膜炎)、皮膚エリテマトーデスおよびループス腎炎、およびPD-1/PD-L1アンタ
ゴニストによって引き起こされる癌患者の自己免疫疾患のいずれかである、請求項20に記載の使用のための二機能性結合ポリペプチド、医薬組成物、核酸および/またはベクター。
【請求項22】
請求項1~14のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチド、請求項15に記載の医薬組成物、請求項16に記載の核酸および/または請求項17に記載のベクターを、必要とする患者に投与することを含む、自己免疫障害を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
PD-1経路は、免疫系における抑制性シグナルと刺激性シグナルのバランスを調節する上
で重要な役割を果たすことが知られている。PD-1経路の活性化は免疫活性をダウンレギ
ュレートし、末梢免疫寛容を促進し、自己免疫を防ぐ(Keirら、Annu Rev Immunol、26:677-704,2008; Okazakiら、Int Immunol 19:813-824,2007)。PD-1は、T細胞、B細胞、NK細胞、単球などの活性化免疫細胞の表面に発現する膜貫通型受容体タンパク質である(Agataら、Int Immunol 8:765-772,1996)。PD-1の細胞質尾部は、免疫受容体チロシン
ベースの阻害モチーフ(ITIM)を含む。PD-L1およびPD-L2はPD-1の天然リガンドであ
り、抗原提示細胞の表面に発現する(Dongら、Nat Med.、5:1365-1369,1999; Freemanら、J Exp Med 192:1027-1034,2000; Latchmanら、Nat Immunol 2:261-268,2001)。リガンドが関与すると、ホスファターゼがPD-1のITIM領域に動員され、TCRを介したシグナル伝達が阻害され、続いてリンパ球の増殖、サイトカイン分泌、および細胞毒性活性が低下する。PD-1は、共刺激による生存シグナルを阻害する能力を介してT細胞にアポトーシスを誘導する可能性もある(Keirら、Annu Rev Immunol、26:677-704,2008)。
【0002】
自己免疫の制御におけるPD-1経路の中心的な役割は、PD-1ノックアウトマウスが遅発性進行性関節炎、狼瘡様糸球体腎炎、および自己免疫性心筋症を発症することの観察により最初に実証された(Nishimuraら、Immunity 11:141-151,1999;Nishimuraら、Science 291:319-322,2001)。さらに、非肥満糖尿病(NOD)マウスにPD-1欠損症が導入されると、糖尿病の発生率が大幅に増進し、すべてのマウスが10週齢までに糖尿病を発症した(Wangら、PNAS 102:11823-11828, 2005)。ヒトでは、PD-1も同等の調節機能を示すようである。PD-1遺伝子内の単一ヌクレオチド多型は、エリテマトーデス、多発性硬化症、I型糖尿病、関節リウマチ、バセドウ病などのさまざまな自己免疫疾患と関連しており(Prokuninaら、Arthritis Rheum 50:1770,2004; Neilsonら、Tissue Antigens 62:492,2003;
Kronerら、Ann Neurol 58:50,2005; Okazakiら、Int Immunol 19:813-824,2007); PD-1経路の摂動(perturbation)は、他の自己免疫疾患でも報告されている(Kobayashiら、J Rheumatol 32:215,2005; Matakiら、Am J Gastroenterol 102:302,2007)。最後に、拮抗抗体によるPD-1経路の遮断は、癌患者における自己免疫性副作用と関連している
(Michotら、Eur J Cancer 54:139-148,2016)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PD-1経路の活性化につながる治療戦略は、自己免疫状態の治療のための有望なアプロー
チを提供する。たとえば、PD-L1を過剰発現する人工樹状細胞は、マウスモデルにおいて脊髄の炎症と実験的自己免疫性脳脊髄炎の臨床的重症度を軽減することが示されている(Hirataら、J Immunol 174:1888-1897,2005)。さらに、共刺激分子の遮断を伴うPD-L1
を発現する組換えアデノウイルスは、BXSBマウスのループス腎炎を予防することが示されている(Dingら、Clin Immunol 118:258-267,2006)。ヒトの様々な自己免疫疾患の治療のために、多くのPD-1アゴニスト抗体が開発されてきた(例えば、WO2013022091、WO2004056875、WO2010029435、WO2011110621、WO2015112800を参照)。しかし、そのような試
薬の開発にもかかわらず、可溶性薬剤がPD-1シグナル伝達を誘発するのに効率的である
ことを示唆する証拠はほとんどなく、私たちの知る限り、そのような分子は1つだけが、乾癬の治療のために臨床試験に入っている(NCT03337022を参照)。PD-1アゴニストの投与は、臨床毒性につながる疾患部位から離れた全身性免疫効果を引き起こす可能性もある。したがって、自己免疫疾患の治療のための、より安全でより効果的なPD-1アゴニスト
療法の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、驚くべきことに、ペプチド-MHC結合部分に融合されているPD-1アゴニストを含む分子が、PD-1シグナル伝達の効率的な阻害をもたらすことを発見した。
【0005】
理論に拘束されることなく、本発明者らは、T細胞活性化の効率的な阻害には、免疫シナ
プスへのPD-1アゴニストの局在化が必要であると仮定している。TCRまたはTCR様抗体な
どの疾患特異的ペプチド-MHCに結合する部分にPD-1アゴニストを結合させると、アゴニストが免疫シナプスに誘導され、PD-1経路を調節するためのより安全でより強力な戦略
が提供される。
【0006】
T細胞受容体(TCR)は、CD4+およびCD8+ T細胞によって自然に発現する。TCRは、主要組
織適合遺伝子複合体(MHC)分子(ヒトでは、MHC分子はヒト白血球抗原(HLA)としても
知られている)と複合体を形成した抗原提示細胞の表面に表示される短いペプチド抗原を認識するように設計されている(Davisら、(1998), Annu Rev Immunol 16:523-544.)。細胞毒性T細胞とも呼ばれるCD8+T細胞は、MHCクラスIに結合したペプチドを特異的に認識し、一般に感染細胞または癌細胞の破壊を発見して媒介する役割を果たす。
【0007】
免疫療法用のTCRが標的抗原を強く認識できることが望ましい。これは、強力な応答を発
揮するために、TCRが標的抗原に対して高い親和性および/または長い結合半減期を有す
ることを意味する。自然界に存在するTCRは通常、標的抗原に対する親和性が低い(マイ
クロモル範囲が低い)ため、抗原結合を改善するために、所与のTCR配列に対して行うこ
とができる置換、挿入、および/または削除を含むがこれらに限定されない変異を特定する必要がある。可溶性標的剤として使用するためには、TCR抗原結合親和性がナノモルか
らピコモルの範囲で、結合半減期が数時間であることが好ましい。治療用TCRが標的抗原
に対して高レベルの特異性を示して、標的外結合に起因する臨床応用における毒性のリスクを軽減することも望ましい。このような高い特異性は、TCR抗原認識の自然な縮退を考
えると、取得するのが特に難しい場合がある(Wooldridgeら、(2012), J Biol Chem 287(2):1168-1177; Wilsonら、(2004), Mol Immunol 40(14-15):1047-1055)。最
後に、治療用TCRが非常に安定した形で発現および精製できることが望ましい。
【0008】
本発明は、第1の側面として、pMHC結合部分とPD-1アゴニストとを含む二機能性結合ポ
リペプチドを提供する。pMHC結合部分は、TCR可変領域および/または抗体可変領域を含
み得る。pMHC結合部分は、T細胞受容体(TCR)またはTCR様抗体であり得る。pMHC結合部
分は、ヘテロ二量体アルファ/ベータTCRポリペプチド対または一本鎖アルファ/ベータTCRポリペプチドであり得る。PD-1アゴニストはPD-L1の可溶性細胞外形態またはその機
能的断片であり得、PD-L1は以下の配列を含むかまたはそれからなり得る:FTVTVPKDLYVVEYGSNMTIECKFPVEKQLDLAALIVYWEMEDKNIIQFVHGEEDLKVQHSSYRQRARLLKDQLSLGNAALQITDVKLQDAGVYRCY。PD-1アゴニストは、完全長抗体またはその断片、例えば、scFv抗体であり得る。
【0009】
PD-1アゴニストは、pMHC結合部分のCまたはN末端に融合され得、そしてリンカーを介し
てpMHC結合部分に融合され得る。そのリンカーの長さは最大25アミノ酸である。好ましくは、リンカーは、2、3、4、5、6、7または8アミノ酸長である。
【0010】
pMHC結合部分がTCRである場合、そのTCRは、アルファ鎖の定常領域とベータ鎖の定常領域との間に非天然型ジスルフィド結合を含み得、ペプチド抗原に特異的に結合し得る。
【0011】
本発明のさらなる側面として、円形脱毛症、強直性脊椎炎、アトピー性皮膚炎、バセドウ病、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、1型糖尿病、白斑および炎症性腸疾患などの自己免疫疾患の治療に使用するための本発明の第1の側面による二機能性結合ポリペプチドを提供する。
【0012】
本発明はまた、第1の側面による二機能性結合ポリペプチドを含む医薬組成物を提供する。
【0013】
第1の側面による二機能性結合ポリペプチドをコードする核酸、ならびにそのような核酸を含む発現ベクターが提供される。
【0014】
二機能性結合ポリペプチドをコードする核酸が、単一のオープンリーディングフレームとして、またはTCRのアルファ鎖およびベータ鎖をそれぞれコードする2つの別個のオープ
ンリーディングフレームとして存在し得る、そのような核酸またはそのようなベクターを含む宿主細胞がさらに提供される。
【0015】
第1の側面による二機能性結合ポリペプチドを作製する方法も提供され、その方法は、核酸の発現のための任意の条件下で本発明の宿主細胞を維持し、第1の側面の二機能性結合ペプチドを単離することを含む。
【0016】
第1の側面による二機能性結合ポリペプチドを、それを必要とする患者に投与することを含む自己免疫障害を治療する方法もまた、本発明に含まれる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の詳細な説明
本発明は、第1の側面として、pMHC結合部分およびPD-1アゴニストを含む二機能性結合
ポリペプチドを提供する。pMHC結合部分は、TCR可変領域を含み得る。あるいは、pMHC結
合部分は抗体可変領域を含み得る。pMHC結合部分は、T細胞受容体(TCR)またはTCR様抗
体であり得る。
【0018】
TCR配列は、ほとんどの場合、TCR分野の当業者に広く知られアクセス可能なIMGT命名法を参照して説明される。たとえば、LeFranc and LeFranc、(2001)、「T cell Receptor Factsbook」、Academic Press; Lefranc,(2011)、Cold Spring Harb Protoc 2011(6)
:595-603; Lefranc,(2001)、Curr Protoc Immunol Appendix 1:Appendix 10; およびLefranc,(2003)、Leukemia 17(1):260-266を参照。簡単に、αβTCRは2つのジスル
フィド結合鎖からなる。各鎖(アルファおよびベータ)は、一般に2つの領域、つまり可変領域と定常領域を持っていると見なされる。短い結合領域は、可変領域と定常領域とを接続し、通常、アルファ可変領域の一部と見なされる。さらに、ベータ鎖には通常、結合領域の隣に短い多様性領域が含まれている。これは通常、ベータ可変領域の一部と見なされる。
【0019】
各鎖の可変領域はN末端に位置し、フレームワーク配列(FR)に埋め込まれた3つの相補
性決定領域(CDR)を含む。CDRは、ペプチド-MHC結合の認識部位を含む。アルファ鎖可
変(Vα)領域をコードするいくつかの遺伝子とベータ鎖可変(Vβ)領域をコードするいくつかの遺伝子があり、それらはフレームワーク、CDR1とCDR2配列、および部分的に定義されたCDR3配列によって区別される。VαおよびVβ遺伝子は、IMGT命名法でそれぞれ接頭辞TRAVおよびTRBVによって参照される(Folch and Lefranc、(2000)、Exp Clin Immunogenet 17(1):42-54; Scaviner and Lefranc、(2000)、Exp Clin Immunogenet 17(2):83-96; LeFranc and LeFranc、(2001)、「T cell Receptor Factsbook」、Academic Press)。同様に、アルファ鎖とベータ鎖それぞれにはTRAJまたはTRBJと呼ばれるいく
つかの結合遺伝子またはJ遺伝子があり、ベータ鎖にはTRBDと呼ばれる多様性またはD遺伝子がある(Folch and Lefranc、(2000)、Exp Clin Immunogenet 17(2):107-114; Scaviner and Lefranc、(2000)、Exp Clin Immunogenet 17(2):97-106; LeFranc and LeFranc、(2001)、「T cell Receptor Factsbook」、Academic Press)。T細胞受容体
鎖の莫大な多様性は、対立遺伝子変異型を含むさまざまなV、J、およびD遺伝子間のコン
ビナトリアル再配列、および結合多様性に起因する(Arstilaら、(1999)、Science 286(5441):958-961 ; Robinsら、(2009)、Blood 114(19):4099-4107。)TCRアルフ
ァおよびベータ鎖の定常またはC領域は、それぞれTRACおよびTRBCと呼ばれる(Lefranc、(2001)、Curr Protoc Immunol Appendix 1:Appendix 10)。
【0020】
pMHC結合部分がTCRである場合、TCRは、天然に存在しないものであってもよく、および/または精製および/または遺伝子を操作されていてもよい。天然のTCRと比較して、アル
ファ鎖可変領域および/またはベータ鎖可変領域に1以上の変異が存在し得る。変異は、好ましくは、CDR領域内で行われる。そのような変異は、典型的には、特定のペプチド抗
原HLA複合体への結合部分(例えば、TCR)の結合親和性を改善するために導入される。
【0021】
pMHC結合部分は、TCR様抗体であり得る。TCR様抗体は、MHCによって提示されるペプチド
抗原に対するTCR様の特異性を備えた抗体分子について当技術分野で使用される用語であ
り、通常、天然のTCRよりも抗原に対して高い親和性を有する。(Dahanら、Expert Rev Mol Med 14:e6、2012)。そのような抗体は、それぞれが可変領域および定常領域を含む
重鎖および軽鎖を含み得る。そのような抗体の機能的断片は、scFv、Fab断片など当技術
分野で周知であるように、本発明に包含される。
【0022】
本発明の二機能性結合ポリペプチドは、特定のペプチド抗原-MHC複合体に結合する特性
を有する。本発明のポリペプチドに関して、特異性は、ペプチド抗原-MHC複合体を提示
しない標的細胞を認識する能力が最小限である一方、ペプチド抗原-MHC複合体を提示す
る標的細胞を認識するそれらの能力に関連する。
【0023】
本発明の二機能性結合ポリペプチドは、治療試薬として使用するための理想的な安全性プロファイルを有し得る。理想的な安全性プロファイルとは、良好な特異性を示すことに加えて、本発明のポリペプチドがさらなる前臨床安全性試験に合格する可能性があることを意味する。このような試験の例には、代替HLAタイプの認識の可能性が低いことを確認す
るための同種抗原反応性試験が含まれる。
【0024】
本発明の二機能性結合ポリペプチドは、高収率の精製に適用し得る。収量は、精製プロセス中に保持された材料の量(すなわち、リフォールディング前に得られた可溶化材料の量に対する精製プロセスの最後に得られた正しくフォールディングした材料の量)に基づいて決定され得、およびまたは収量は、元の培養量に対する精製プロセスの最後に得られた正しくフォールディングした材料の量に基づいて決定され得る。高収率とは、1%を超え
る、より好ましくは5%を超える、またはより高い収率を意味する。高収量とは、1mg/ml
を超える、より好ましくは3 mg/mlを超える、または5 mg/mlを超える、またはより高い収量を意味する。
【0025】
本発明の二機能性結合ポリペプチドは、ペプチド抗原およびPD-1に対して適切な結合親
和性を有する。結合親和性(平衡定数KDに反比例する)および結合半減期(T1/2として表される)を決定する方法は、当業者に知られている。好ましい実施形態では、結合親和性および結合半減期は、表面プラズモン共鳴(SPR)またはバイオレイヤー干渉法(BLI)を使用して、例えば、それぞれBIAcore機器またはOctet機器を使用して決定される。結合ポリペプチドの親和性が2倍になると、KDが半分になることが理解されよう。T1/2は、ln2
をオフレート(koff)で割ったものとして計算される。したがって、T1/2が2倍になると、koffが半分になる。KDおよびkoff値は通常、可溶型のポリペプチドについて測定される。独立した測定間の変動、特に20時間を超える解離時間との相互作用を説明するために、所与のポリペプチドの結合親和性およびまたは結合半減期を数回、例えば3回以上、同じアッセイプロトコルを使用して測定することができ、得られた結果の平均を取ることが
できる。2つの試料(すなわち、2つの異なるポリペプチドおよび/または同じポリペプチドの2つの調製物)間の結合データを比較するために、同じアッセイ条件(例えば、温度)を使用して測定を行うことが好ましい。
【0026】
pMHC結合部分がTCR可変領域を含む本発明の二機能性結合ポリペプチドの場合、その領域
は、αおよびβ可変領域であり得る。pMHC結合部分がTCRである場合、そのようなTCRは、αβヘテロ二量体であり得る。場合によっては、pMHC結合部分はγおよびδTCR可変領域
を含む。pMHC結合部分がTCRである場合、そのようなTCRはγδヘテロ二量体であり得る。
【0027】
本発明のpMHC結合部分は、細胞外アルファ鎖TRAC定常領域配列および/または細胞外ベータ鎖TRBC1またはTRBC2定常領域配列を含み得る。その定常領域は、膜貫通領域および細胞質領域が存在しないように切り詰められ(truncated)得る。定常領域の一方または両方
は、天然のTRACおよび/またはTRBC 1/2配列と比較して、変異、置換、または欠失を含み得る。TRACおよびTRBC 1/2という用語は、天然の多型変異体、たとえばTRACの4位のNからKへの置換も包含する(BragadoらInternational immunology、1994 Feb; 6(2):223-30)。
【0028】
あるいは、完全長または切り詰められた定常領域ではなく、TCR定常領域がない場合があ
る。したがって、本発明のpMHC結合部分は、TCRアルファ鎖およびベータ鎖の可変領域か
ら構成され得る。
【0029】
pMHC結合部分がTCR可変領域を含む場合、そのようなTCR可変領域は、例えば一本鎖TCRな
どの一本鎖の形態であり得る。一本鎖の形態には、Vα-L-Vβ、Vβ-L-Vα、Vα-Cα-L-Vβ、Vα-L-Vβ-Cβ、またはVα-Cα-L-Vβ-CβタイプのαβTCRポリペプチドが含まれるが、これらに限定されない(ここで、VαおよびVβはそれぞれTCRαおよび
β可変領域であり、CαおよびCβはそれぞれTCRαおよびβ細胞外定常領域であり、Lはリンカー配列である)(Weidanzら、(1998)J Immunol Methods. Dec 1; 221(1-2):59-76; Epelら、(2002)、Cancer Immunol Immunother. Nov; 51(10):565-73; WO 2004/033685; WO9918129)。存在する場合、細胞外定常領域の一方または両方は、完全長であ
り得るか、またはそれらは上記のように切り詰められ得るか、および/または変異を含み得る。特定の実施形態では、本発明の一本鎖TCR可変領域および/または一本鎖TCRは、WO
2004/033685に記載されているように、それぞれの定常領域の残基間に導入されたジスルフィド結合を有し得る。一本鎖TCRはさらに、WO2004/033685; WO98/39482; WO01 / 62908; Weidanz ら(1998)J Immunol Methods 221(1-2):59-76; Hooら(1992)Proc Natl Acad Sci U S A 89(10):4759-4763; Schodin(1996)Mol Immunol 33(9):819-829
)に記載されている。
【0030】
pMHC結合部分がTCRである本発明の二機能性結合ポリペプチドの場合、そのようなTCRのアルファおよびベータ鎖定常領域配列は、TRACのエクソン2のCys4とTRBC1またはTRBC2のエ
クソン2のCys2との間の天然のジスルフィド結合を削除するために、切り詰めまたは置換
によって修飾され得る。アルファおよび/またはベータ鎖定常領域配列は、例えば、WO 03/020763に記載されているように、それぞれの定常領域の残基間に導入されたジスルフィド結合を有し得る。好ましい実施形態において、アルファおよびベータ定常領域は、TRACの位置Thr 48およびTRBC1またはTRBC2の位置Ser 57のシステイン残基の置換によって修飾され得、前記システインは、TCRのアルファおよびベータ定常領域間にジスルフィド結合
を形成する。TRBC1またはTRBC2は、定常領域の位置75でのシステインからアラニンへの変異、および定常領域の位置89でのアスパラギンからアスパラギン酸への変異をさらに含み得る。本発明のαβヘテロ二量体に存在する細胞外定常領域の一方または両方は、C末端
で、例えば、最大15、最大10、または最大8以下のアミノ酸を切り詰められ得る。本発明のαβヘテロ二量体に存在する細胞外定常領域の一方または両方は、例えば、最大1
5個、最大10個、または最大8個のアミノ酸を、C末端で切り詰められ得る。アルファ
鎖の細胞外定常領域のC末端は8アミノ酸を切り詰められ得る。
【0031】
非天然型ジスルフィド結合は、細胞外定常領域間に存在し得る。前記非天然型ジスルフィド結合は、WO03020763およびWO06000830にさらに記載されている。非天然型ジスルフィド結合は、TRACの位置Thr 48とTRBC1またはTRBC2の位置Ser 57との間にあり得る。定常領域の一方または両方は、天然のTRACおよび/またはTRBC1/2配列と比較して1以上の変異、
置換または欠失を含み得る。
【0032】
pMHC結合部分がTCR可変領域を含む二機能性結合ポリペプチドの別の好ましい形態では、TCR可変領域およびPD-1アゴニスト領域は、別々のポリペプチド鎖上で互い違いに位置し
て、二量体化をもたらしてもよい。そのような形態は、WO2019012138に記載されている。簡単に、第1のポリペプチド鎖は、(N末端からC末端へ)第1の抗体可変領域、続いてTCR可変領域、場合により続いてFc領域を含み得る。第2の鎖は、(N末端からC末端へ)TCR可変領域とそれに続く第2の抗体可変領域、場合により続いてFc領域を含み得る。適切な長さのリンカーが与えられると、鎖は二量体化して多重特異性分子になり、場合によりFc領域を含み得る。領域がこのように異なる鎖上に位置する分子は、ダイアボディ(diabodies)と呼ばれることもあり、これも本明細書で企図されている。追加の鎖および領域を
追加して、例えば、トリアボディ(triabodies)を形成することができる。
【0033】
したがって、本明細書では、第1のポリペプチド鎖および第2のポリペプチド鎖を含む分子の群から選択される二重特異性ポリペプチド分子も提供され、ここで、
第1のポリペプチド鎖は、PD-1アゴニスト抗体の可変領域の第1の結合領域(VD1)、およびMHC結合ペプチドエピトープに特異的に結合するTCRの可変領域の第1の結合領域(VR1)、ならびに前記領域を接続する第1のリンカー(LINK1)を含み、
第2のポリペプチド鎖は、MHC結合ペプチドエピトープに特異的に結合するTCRの可変領域の第2の結合領域(VR2)、およびPD-1アゴニスト抗体の可変領域の第2の結合領域(VD2)、ならびに前記領域を接続する第2のリンカー(LINK2)を含み、
ここで、前記第1の結合領域(VD1)および前記第2の結合領域(VD2)は、会合して第1の結合部位(VD1)(VD2)を形成し、
前記第1の結合領域(VR1)および前記第2の結合領域(VR2)は、会合して前記MHC結合
ペプチドエピトープに結合する第2の結合部位(VR1)(VR2)を形成し、
ここで、前記2つのポリペプチド鎖は、ヒトIgGヒンジ領域および/またはヒトIgG Fc領
域またはその二量体化部分に融合され、そして
ここで、前記2つのポリペプチド鎖は、前記ヒンジ領域間および/またはFc領域間の共有結合および/または非共有結合によって接続され、そして
ここで、前記二重特異性ポリペプチド分子は、PD-1を刺激すること(agonising)およびMHC結合ペプチドエピトープに結合することが同時にでき、二重特異性ポリペプチド分子
は、2つのポリペプチド鎖の結合領域の順序がVD1-VR1およびVR2-VD2、またはVD1-VR2およびVR1-VD2、またはVD2-VR1およびVR2-VD1、またはVD2-VR2およびVR1-VD1から選択され、その領域はLINK1またはLINK2のいずれかによって接続されている。
【0034】
PD-1アゴニストは、PD-L1(Uniprot ref:Q9NZQ7)またはPD-L2(Q9BQ51)の可溶性細胞外領域またはその機能的断片に対応し得る。PD-L1は、以下に記載されるような配列を含み得るか、またはそれからなり得る。
【0035】
完全長PD-L1は以下の配列を有する。
FTVTVPKDLYVVEYGSNMTIECKFPVEKQLDLAALIVYWEMEDKNIIQFVHGEEDLKVQHSSY
RQRARLLKDQLSLGNAALQITDVKLQDAGVYRCMISYGGADYKRITVKVNAPYNKINQRILVV
DPVTSEHELTCQAEGYPKAEVIWTSSDHQVLSGKTTTTNSKREEKLFNVTSTLRINTTTNEIF
YCTFRRLDPEENHTAELVIPELPLAHPPNER
【0036】
PD-L1の切り詰め型は、PD-1に結合して刺激する能力を保持していることを前提として
、pMHC結合部分に融合され得る。このような切り詰められた断片は、以下の配列に示されているとおりである。
FTVTVPKDLYVVEYGSNMTIECKFPVEKQLDLAALIVYWEMEDKNIIQFVHGEEDLKVQHSSY
RQRARLLKDQLSLGNAALQITDVKLQDAGVYRCMISYGGADYKRITVKVNAPY
あるいは、より短いまたはより長い切り詰めもまた、pMHC結合部分に融合され得る。
【0037】
PD-1アゴニストは、完全長抗体またはscFv抗体もしくはFab断片もしくはナノボディのようなその断片であり得る。そのような抗体の例は、WO2011110621およびWO2010029434およびWO2018024237に提供されている。本発明の抗体分子は、完全長の重鎖および軽鎖を有する完全な抗体分子またはその断片を含み得、そしてこれらに限定されないが、Fab、修飾Fab、Fab '、修飾Fab'、F(ab ')2、Fv、単一領域抗体(例えば、VHもしくはVLまたはVHH)、scFv、2、3または4価抗体、Bis-scFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボ
ディ、ナノボディおよび上記のいずれかのエピトープ結合断片であり得る。
【0038】
PD-1アゴニストは、pMHC結合部分のCまたはN末端に融合され得、2、3、4、5、6、7、ま
たは8アミノ酸長のリンカーを介してpMHC結合部分に融合され得る。リンカーは、10、12
、15、16、18、20または25アミノ酸長であり得る。リンカー配列を繰り返して、より長いリンカーを形成し得る。各リンカーは、より短いリンカー配列の1、2、3、または4の繰り返しで形成され得る。リンカー配列は通常、可撓性を制限する可能性のある嵩高い側鎖を持たないグリシン、アラニン、およびセリンなどのアミノ酸で主に構成されているという点で可撓性がある。あるいは、より高い剛性を有するリンカーが望ましい場合がある。リンカー配列の使用可能なまたは最適な長さは容易に決定され得る。リンカーは最大25アミノ酸長である。多くの場合、リンカー配列は約12以下、たとえば10以下、または2~8アミノ酸長である。本発明のTCRで使用できる適切なリンカーの例には、GGGGS、GGGSG、GGSGG、GSGGG、GSGGGP、GGEPS、GGEGGGP、およびGGEGGGSEGGGS(WO2010/133828に記載されているように)が含まれるが、これらに限定されない。
【0039】
本発明の二機能性結合ポリペプチドは、pK修飾部分をさらに含み得る。免疫グロブリンFc領域が使用される場合、それは任意の抗体Fc領域であり得る。そのFc領域は、細胞表面のFc受容体および補体系のいくつかのタンパク質と相互作用する抗体の尾部領域である。Fc領域は、典型的には、共に2つまたは3つの重鎖定常領域(CH2、CH3およびCH4と呼ばれ
る)およびヒンジ領域を有する2つのポリペプチド鎖を含み、この2つの鎖はヒンジ領域内のジスルフィド結合によって結合される。免疫グロブリンサブクラスIgG1、IgG2、およびIgG4からのFc領域は、FcRnと結合しFcRnを介したリサイクルを受け、長い循環半減期(3~4週間)をもたらす。IgGとFcRnの相互作用は、CH2およびCH3領域をカバーする、Fc領
域の部分に局在している。本発明で使用するための好ましい免疫グロブリンFcには、IgG1またはIgG4からのFc領域が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、Fc領域はヒト配列に由来する。Fc領域はまた、好ましくは、二量体化を促進するKiH変異、ならびに
活性化受容体との相互作用を防止する変異(すなわち機能的に休止している分子)を含み得る。免疫グロブリンFc領域は、他の領域(すなわち、TCR可変領域または免疫エフェク
ター)のCまたはN末端に融合され得る。免疫グロブリンFcは、リンカーを介して他の領域(すなわち、TCR可変領域または免疫エフェクター)に融合され得る。リンカー配列は通
常、可撓性を制限する可能性のある嵩高い側鎖を持たないグリシン、アラニン、およびセリンなどのアミノ酸で主に構成されているという点で可撓性がある。あるいは、より高い剛性を有するリンカーが望ましい場合がある。リンカー配列の使用可能なまたは最適な長さは容易に決定され得る。多くの場合、リンカー配列は約12以下、たとえば10以下、または2~10アミノ酸長であり、リンカーは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14
、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30アミノ酸長であり得る。本発明の多重領域結合分子を使用し得る適切なリンカーの例には、GGGSGGGG、GGGGS、GGGSG、GGSGG、GSGGG、GSGGGP、GGEPS、GGEGGGP、およびGGEGGGSEGGGS(WO2010/133828に記載されているように)が含まれるが、これらに限定されない。免疫グロブリンFcがTCRに融合されている場合、リンカーの有無にかかわらず、アルファ鎖またはベータ鎖のいずれかに融合し得る。さらに、Fcの個々の鎖は、TCRの個々の鎖に融合され得る。
【0040】
好ましくは、Fc領域は、IgG1またはIgG4サブクラスに由来し得る。2つの鎖は、CH2およ
びCH3定常領域ならびにヒンジ領域の全部または一部を含み得る。ヒンジ領域は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4からのヒンジ領域に実質的または部分的に対応し得る。ヒンジは
、コアヒンジ領域の全部または一部と、下部ヒンジ領域の全部または一部を含み得る。好ましくは、ヒンジ領域は、2つの鎖を連結する少なくとも1つのジスルフィド結合を含む。
【0041】
Fc領域は、WT配列に対する変異を含み得る。変異には、置換、挿入、および削除が含まれる。そのような変異は、望ましい治療特性を導入する目的で行われ得る。たとえば、ヘテロ二量体化を促進するために、knobs into holes(KiH)変異をCH3領域に組み込むことができる。この場合、一方の鎖はYのような嵩高い突出した残基(つまりknob)を含むよう
に設計され、もう一方の鎖は相補的なポケット(つまりhole)を含むように設計される。KiH変異の適切な位置は、当技術分野で知られている。追加的または代替的に、Fcy受容体への結合を無効化または低減する、および/またはFcRnへの結合を増加させる、および/
またはFabアーム交換を防止する、またはプロテアーゼ部位を除去する変異を導入し得る
【0042】
PK修飾部分はまた、半減期を延長するように作用し得るアルブミン結合領域であり得る。当技術分野で知られているように、アルブミンは、そのサイズ、腎閾値を超えること、およびその特異的相互作用およびFcRnを介したリサイクルに一部起因して、19日の長い循環半減期を有する。アルブミンへの付着は、in vivoでの治療用分子の循環半減期を改善す
るための、周知の戦略である。アルブミンは、特異的アルブミン結合領域の使用を通じて非共有結合的に、または接合または直接的な遺伝子融合によって共有結合され得る。半減期を改善するためにアルブミンへの付着を利用した治療用分子の例は、Sleepら、Biochim
BiophysActa. 2013年12月; 1830(12):5526-34に記載されている。
【0043】
アルブミン結合領域は、任意の既知のアルブミン結合部分を含む、アルブミンに結合することができる任意の部分であり得る。アルブミン結合領域は、内因性または外因性のリガンド、小有機分子、脂肪酸、ペプチド、およびアルブミンに特異的に結合するタンパク質から選択され得る。好ましいアルブミン結合領域の例には、Dennisら、J Biol Chem. 2002年9月20日; 277(38):35035-43に記載されているような短いペプチド(例えばペプチ
ドQRLMEDICLPRWGCLWEDDF)、抗体、抗体断片、および抗体様足場といったアルブミンに結合するように設計されたタンパク質、例えば、GSKによって商業的に提供されているAlbudab(登録商標)(O'Connor-Semmesら、Clin Pharmacol Ther. 2014年12月; 96(6):704-12)およびAblynxによって商業的に提供されているNanobody(登録商標)(Van Royら、Arthritis Res Ther. 2015年5月20日; 17:135)および連鎖球菌タンパク質Gタンパク質
(Storkら、Eng Des Sel. 2007年11月; 20(11):569-76)といった自然界に見られる
アルブミン結合領域に基づくタンパク質、例えばAffibodyによって商業的に提供されているAlbumod(登録商標)が含まれる。
【0044】
好ましくは、アルブミンは、ヒト血清アルブミン(HSA)である。ヒトアルブミンに対す
るアルブミン結合領域の親和性は、ピコモルからマイクロモルの範囲であり得る。ヒト血清中のアルブミンの濃度が非常に高い場合(35~50 mg/ml、約0.6mM)、実質的にすべて
のアルブミン結合領域がin vivoでアルブミンに結合すると計算される。
【0045】
アルブミン結合部分は、他の領域(すなわち、TCR可変領域または免疫エフェクター)のCまたはN末端に連結され得る。アルブミン結合部分は、リンカーを介して他の領域(すな
わち、TCR可変領域または免疫エフェクター)に連結され得る。リンカー配列は通常、可
撓性を制限する可能性のある嵩高い側鎖を持たないグリシン、アラニン、およびセリンなどのアミノ酸で主に構成されているという点で可撓性がある。あるいは、より高い剛性を有するリンカーが望ましい場合がある。リンカー配列の使用可能なまたは最適な長さは容易に決定され得る。多くの場合、リンカー配列は約12以下、たとえば10以下、または2~10アミノ酸長であり、リンカーは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30アミノ酸長であり得る。本発明の多重領域結合分子を使用し得る適切なリンカーの例には、GGGSGGGG、GGGGS
、GGGSG、GGSGG、GSGGG、GSGGGP、GGEPS、GGEGGGP、およびGGEGGGSEGGGS(WO2010/133828に記載されているように)が含まれるが、これらに限定されない。アルブミン結合部分は、TCRに結合している場合、リンカーの有無にかかわらず、アルファ鎖またはベータ鎖の
いずれかに連結され得る。
【0046】
本発明のさらなる側面は、円形脱毛症、強直性脊椎炎、アトピー性皮膚炎、バセドウ病、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、1型糖尿病、白斑、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、小児脂肪便症(セリアック病)、眼疾患(例えば、ブドウ膜炎)、皮膚エリテマトーデスおよびループス腎炎、およびPD-1/PD-L1アン
タゴニストによって癌患者に引き起こされる自己免疫疾患のような、自己免疫疾患の治療に使用するための本発明の第1の側面による二機能性結合ポリペプチドを提供する。
【0047】
本発明はまた、痛み、特に炎症に関連する痛みの治療または予防に使用するための、本発明の第1の側面による二機能性結合ポリペプチドを提供する。
【0048】
任意に、本発明の二機能性ポリペプチドは、1型糖尿病、炎症性腸疾患、および関節リウマチの治療に使用するためである。
【0049】
本発明はまた、第1の側面による二機能性結合ポリペプチドを含む医薬組成物を提供する。
【0050】
さらなる側面において、本発明は、本発明の二機能性結合ポリペプチドをコードする核酸を提供する。いくつかの実施形態では、核酸はcDNAである。いくつかの実施形態では、核酸はmRNAであり得る。いくつかの実施形態において、本発明は、本発明のTCRのα鎖可変
領域をコードする配列を含む核酸を提供する。いくつかの実施形態において、本発明は、本発明のTCRのβ鎖可変領域をコードする配列を含む核酸を提供する。いくつかの実施形
態において、本発明は、TCR様抗体の軽鎖をコードする配列を含む核酸を提供する。いく
つかの実施形態において、本発明は、TCR様抗体の重鎖をコードする配列を含む核酸を提
供する。いくつかの実施形態において、本発明は、PD-1アゴニストの全部または一部、
例えば、PD-L1またはその切り詰め型、あるいは抗体の軽鎖および/または重鎖などのアゴニストPD-1抗体の全部または一部をコードする配列を含む核酸を提供する。その核酸
は、天然に存在しないものもあり得、および/または、精製および/または遺伝子を操作されていてもよい。核酸配列は、利用される発現系に従って、コドン最適化され得る。当業者に知られているように、発現系は、大腸菌などの細菌細胞、もしくは酵母細胞、もしくは哺乳動物細胞、もしくは昆虫細胞を含み得るか、またはそれらは無細胞発現系であり得る。
【0051】
別の側面では、本発明は、本発明の核酸を含むベクターを提供する。好ましくは、そのベ
クターは適切な発現ベクターである。
【0052】
本発明はまた、本発明のベクターを収容する細胞を提供する。適切な細胞には、大腸菌などの細菌細胞、または酵母細胞、または哺乳動物細胞、または昆虫細胞が含まれる。ベクターは、TCRのアルファ鎖およびベータ鎖を、またはTCR様抗体の軽鎖および重鎖単一のオープンリーディングフレームに、またはそれぞれ2つの別個のオープンリーディングフレームにコードする本発明の核酸を含み得る。
【0053】
別の側面は、本発明のポリペプチドのTCR/TCR様抗体のアルファ鎖/軽鎖をコードする核酸を含む第1の発現ベクター、および本発明のTCR/TCR様抗体のベータ鎖/重鎖をコードする核酸を含む第2の発現ベクターを有する細胞を提供する。本発明の細胞は、単離され、および/または組換え体であり、および/または非天然に存在し、および/または遺伝子操作されていてもよい。
【0054】
当技術分野で周知であるように、ポリペプチドは、翻訳後修飾を受け得る。グリコシル化はそのような修飾の1つであり、TCR/TCR様抗体/PD-L1もしくはPD-1抗体または他のPD-1アゴニストの規定されたアミノ酸へのオリゴ糖部分の共有結合を含む。たとえば、アスパラギン残基、またはセリン/スレオニン残基は、オリゴ糖結合の周知の位置である。特定のタンパク質のグリコシル化状態は、タンパク質配列、タンパク質の立体構造、および特定の酵素の利用可能性を含む、いくつかの要因に依存する。さらに、グリコシル化状態(すなわち、オリゴ糖の型、共有結合、および結合の総数)は、タンパク質の機能に影響を与え得る。したがって、組換えタンパク質を製造する際、多くの場合、グリコシル化を制御することが望ましい。制御されたグリコシル化は、抗体ベースの治療法を改善するために使用されてきた。(Jefferisら、(2009)Nat Rev Drug Discov Mar; 8(3):226-34。)本発明の可溶性TCRの場合、グリコシル化は、例えば特定の細胞株(チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはヒト胎児腎臓(HEK)細胞などの哺乳動物細胞株を含むがこれらに限定されない)を使用することによって、または化学修飾によって制御され得る。グリコシル化は薬物動態を改善し、免疫原性を低下させ、天然のヒトタンパク質をより厳密に模倣できるため、このような修飾が望ましい場合がある(Sinclair and Elliott、(2005)Pharm Sci. Aug; 94(8):1626-35)。
【0055】
患者への投与のために、本発明の二機能性結合ポリペプチドは、1以上の薬学的に許容される担体または賦形剤と共に、無菌医薬組成物の一部として提供され得る。この医薬組成物は、任意の適切な形態であり得る(患者にそれを投与する所望の方法に依存する)。それは単位投与量の形態で提供され得、一般に密封された容器で提供され、キットの一部として提供され得る。このようなキットには、通常(必ずしもそうとは限らないが)使用説明書が入っている。それは、複数の前記単位投与量形態を含み得る。
【0056】
医薬組成物は、非経口(皮下、筋肉内、髄腔内または静脈内を含む)、経腸(経口または直腸を含む)、吸入または鼻腔内経路などの任意の適切な経路による投与に適合させ得る。そのような組成物は、薬学の当技術分野で知られている任意の方法によって、例えば、無菌条件下で有効成分を担体または賦形剤と混合することによって調製され得る。
【0057】
本発明の物質の投与量は、治療される疾患または障害、治療される個体の年齢および状態などに応じて、広い範囲の間で変動し得る。二機能性結合ポリペプチドの適切な用量の範囲は、25ng/kg~50μg/kgまたは1μg~1gの範囲である。医師が最終的に使用する適切な
投与量を決定する。
【0058】
本発明の二機能性結合ポリペプチド、医薬組成物、ベクター、核酸および細胞は、実質的に純粋な形態、例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも
91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%純粋な形態で提供
され得る。
【0059】
二機能性結合ポリペプチドをコードする核酸が、TCRのアルファ鎖およびベータ鎖をコー
ドする、単一のオープンリーディングフレームとして存在するか、または、それぞれコードする2つの別個のオープンリーディングフレームとして存在し得る、核酸またはベクターを含む宿主細胞がさらに提供される。
【0060】
第1の側面による二機能性結合ポリペプチドを作製する方法も提供され、この方法は、本発明の核酸の発現のための任意の条件下で、本発明の宿主細胞を維持し、第1の側面の二機能性結合ペプチドを単離することを含む。
【0061】
本発明の各側面の好ましい特徴は、他の側面の各々についても同様である(ただし必要な変更を加える)。本明細書に記載の先行技術文献は、法律で許可される最大限の範囲で組み込まれている。
【0062】
ここで、本発明は、以下の非限定的な例および図を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1図1は、ペプチドパルス化標的細胞の存在下での、可溶性TCRおよび切り詰め型PD-L1を含む本発明の二機能性ポリペプチドによる、NFATレポーター活性の用量依存的阻害を示す。
図2図2は、ペプチドパルス化標的細胞の存在下での、可溶性TCRおよびPD-1アゴニストscFv抗体断片を含む本発明の二機能性ポリペプチドによる、NFATレポーター活性の阻害を示す。
図3図3は、ペプチドパルス化標的細胞の存在下での、可溶性TCRおよびPD-1アゴニストscFv抗体断片を含む本発明の二機能性ポリペプチドによる、初代ヒトT細胞活性化の阻害を示す。
図4図4は、ペプチドパルス化標的細胞の存在下で、特異性の異なる2つの可溶性TCRの1つとPD-1アゴニストscFv抗体断片とを含む本発明の二機能性ポリペプチドによる、NFATレポーター活性の阻害を示す。
【実施例0064】
実施例1
次の実施例は、可溶性TCRに融合したPD-1アゴニストが、免疫シナプスを標的とした場合にT細胞の活性化を効果的に阻害できることを示している。
【0065】
この二機能性結合ポリペプチドで使用される可溶性TCRは、ヒトプレ-プロインスリンに
由来するHLA-A*02制限ペプチドを特異的に認識する天然のTCRの親和性増強バージョンである(このような分子はWO2015092362に記載されている)。PD-1アゴニストは、PD-1相互作用部位を含むPD-L1の細胞外領域の切り詰めバージョンである(Zakら、Structure 23:2341-2348,2015)。PD-L1は、標準5アミノ酸リンカーを介してTCRアルファ鎖のN末端に融合している。
【0066】
Jurkat NFATルシフェラーゼPD-1レポーターアッセイを用いて、HEK293T抗原提示標的細
胞の存在下でTCR-PD1アゴニスト融合分子を介したT細胞NFAT活性の阻害を測定した。
【0067】
方法
TCR-PD1アゴニスト融合分子の発現、リフォールディングおよび精製
TCR-PD1アゴニスト融合分子の発現は、浮遊培養に適応したチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞に基づく高収量の一過性発現系(ExpiCHO Expression system、Thermo Fisher)を用いて実施した。PD-1アゴニストに融合したTCR鎖を含む哺乳動物発現プラスミド
を使用して、製造元の指示に従って細胞をコトランスフェクトした。回収後、冷蔵遠心分離機で4000~5000 x gで30分間遠心分離することにより、細胞培養上清の清澄化を行った。上清を0.22μmフィルターでろ過し、さらに精製するために収集した。
【0068】
あるいは、TCR-PD1アゴニスト融合分子の発現は、宿主生物として大腸菌を使用して実施された。アルファ鎖およびベータ鎖を含む発現プラスミドを別々に、BL21pLysS大腸菌株
に形質転換し、100μg/mLアンピシリンを含むLB寒天プレートに播種した。各形質転換体
から白金耳量のコロニーを採取し、LB培地(100μg/mLアンピシリンと1%グルコースを含む)にて37℃でOD600が約0.5~1.0に達するまで増殖させた。次に、そのLBスターターカ
ルチャーを自動誘導培地(Foremedium)に加え、細胞を37℃で約3時間、続いて30℃で一
晩増殖させた。遠心分離により細胞を回収し、Bugbuster(Novagen)で溶解した。封入体(IB)は、2回のTriton洗浄(50 mMのTris pH 8.1、100 mM、NaCl、10 mMのEDTA、0.5%Triton)を実行して、細胞の破砕片と膜を除去することにより抽出した。各回、10000gで5分間の遠心分離によってIBを回収した。界面活性剤を除去するために、IBを50 mMのTris pH8.1、100 mMのNaClおよび10 mMのEDTAで洗浄した。最後に、IBを50 mMのTris pH8.1、100 mMのNaClおよび10mMのEDTAバッファーに再度懸濁した。タンパク質の収量を測定する
ために、IBを8Mの尿素バッファーに溶解し、280nMでの吸光度によって濃度を測定した。
【0069】
リフォールディングのために、アルファ鎖とベータ鎖を1:1のモル比で混合し、6Mのグアニジン-HCl、50 mMのTris pH8.1、100mMのNaCl、10 mMのEDTA、20 mMのDTT中にて37℃で30分間変性させた。次に、変性した鎖を、4Mの尿素、100mMのTris pH 8.1、0.4MのL-
アルギニン、2 mMのEDTA、1mMのシスタミン、および10 mMのシステアミンからなるリフォールディングバッファーに加え、絶えず撹拌しながら10分間インキュベートした。変性した鎖を含むリフォールディングバッファーをスペクトラポア1透析膜で、10倍量のH2Oに
対して約16時間、10倍量の10mMのTris pH 8.1で約7時間、および10倍量の10mMのTris pH8.1で約16時間透析した。
【0070】
哺乳動物または大腸菌発現系から得られた可溶性タンパク質を、ローディングバッファーとして20mMのTris pH8.1を、結合および溶出バッファーとして20mMのTris pH8.1と1MのNaClを使用するPOROS 50 HQ(Thermo Fisher Scientific)陰イオン交換カラムを用いるAKTA pure(GEヘルスケア)で精製した。タンパク質をカラムにロードし、溶出バッファーの0~50%勾配で溶出した。タンパク質を含む画分をプールし、20mMのMES pH6.0および20mMのMES pH6.0、1MのNaClをそれぞれ結合および溶出バッファーとして使用するPOROS 50 HS(Thermos Fisher Scientific)カラムでの第2段階の陽イオン交換クロマトグラフィー
用に、20mMのMES pH6.0で20倍(容量/容量)に希釈した。陽イオン交換カラムからの結
合タンパク質は、溶出バッファーの0~100%勾配を使用して溶出した。タンパク質を含む陽イオン交換画分をプールし、PBSをランニングバッファーとして使用してSuperdex 200 HR(GEヘルスケア)ゲルろ過カラムでさらに精製した。ゲルろ過からの陽性画分をプールし、濃縮し、必要になるまで-80℃で保存した。
【0071】
Jurkat NFAT Luc-PD-1レポーターアッセイ
HLA-A*02陽性HEK293T標的細胞に、TCRアクティベータープラスミド(BPS Bioscience、
カタログ番号:60610)を一過性にトランスフェクトし、TCR-PD1アゴニスト融合分子に
よって認識される該当ペプチドで細胞をパルスした。次に、標的細胞を異なる濃度のTCR
-PD1アゴニスト融合分子とインキュベートして、同族のペプチド-HLA-A2複合体への結
合を可能にした。PD-1を構成的に発現するJurkat NFAT Luc PD-1エフェクター細胞を標的細胞に添加し、18~20時間後にNFAT活性を測定した。実験は(TCR-PD1アゴニスト融合
分子結合後に)洗い流しありまたはなしで実施された。非パルス化標的細胞を使用して、さらなる対照実験を行った。TCRアクティベーター/PD-L1をトランスフェクトしたHEK293T A2B2M標的細胞を陽性対照として含めた。
【0072】
結果
図1に示すデータは、NFATレポーター活性の用量依存的阻害が、ペプチドパルス化標的細胞の存在下で、洗い流しのありまたはなしで、TCR-PD1アゴニスト融合分子で観察されることを示している。重要なことに、パルス化されていない標的細胞では最小限の阻害が観察され、免疫シナプスへの標的化がPD-1アゴニスト活性にとって重要であることを示し
ている。
【0073】
実施例2
次の例は、可溶性TCRに融合したPD-1アゴニストが、免疫シナプスを標的とした場合にT
細胞の活性化を効果的に阻害できるという、さらなる証拠を提供する。
【0074】
この実施例で使用される実験系および方法は、この場合、TCR-PD1アゴニスト融合分子のPD-1アゴニスト部分がWO2011110621に記載されるようなscFv抗体断片であったことを除
いて、実施例1に記載されるものと同じであった。
【0075】
実施例1に記載のJurkat NFATルシフェラーゼPD-1レポーターアッセイを使用して、HEK293T抗原提示標的細胞の存在下でTCR-PD1アゴニスト融合分子を介したT細胞NFAT活性の阻害を測定した。
【0076】
結果
図2aに示すように、100nMのTCR-PD1アゴニスト融合分子で処理したペプチドパルス化
細胞(+PPIとラベル付け)では、NFAT活性の実質的な阻害(> 60%)が観察された。一方、TCR-PD1アゴニスト融合分子で処理された非パルス化標的細胞(-PPIと表示)では、
最小限の阻害が見られた。可溶性TCRのみ、またはPD-1アゴニストのみ(scFvまたはIgG4形態の両方において)を使用した対照実験では、レポーター活性の阻害は示されず、PD-1アゴニストが免疫シナプスを標的とすることがPD-1アゴニスト活性に必要であることを示している。図2bはさらにNFAT活性の用量依存的阻害を示している。この場合も、TCR
-PD1アゴニスト融合分子形態のみがNFAT活性を阻害することができる。標的付けられて
いないPD-1アゴニスト抗体は活性を阻害することができない。
【0077】
まとめると、これらの結果は、PD-1アゴニストが免疫シナプスを標的とすることが、PD
-1アゴニスト活性にとって重要であることを示している。
【0078】
実施例3
次の例は、可溶性TCRに融合したPD-1アゴニストが免疫シナプスを標的とした場合、T細
胞の活性化を効果的に阻害できるというさらなる証拠を提供する。
【0079】
この実施例で使用されたTCR-PD1アゴニスト融合分子は、PD-1アゴニストがscFv抗体断
片である実施例2に記載されたものと同じであった。
【0080】
この場合、代替アッセイを使用して、初代ヒトT細胞機能に対するTCR-PD1アゴニスト融
合分子の効果を評価した。
【0081】
方法
初代ヒトT細胞アッセイ
初代ヒトT細胞は、pan-T細胞単離キット(Miltenyi、カタログ番号:130-096-535)を使
用して、新たに調製したPBMCから単離した。HLA-A*02陽性RajiB細胞(Raji A2B2M)にブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB、100ng/ml、Sigma S4881)を1時間事前にロードし、
その後33Gyで照射した。事前活性化のために、初代ヒトT細胞を、24ウェル細胞培養プレ
ートで各細胞タイプの1x10E6細胞/mlを使用して、SEBをロードしたRaji A2B2M標的細胞と1:1の比率でインキュベートした。初代ヒトT細胞を、SEBをロードしたRajiA2B2M細胞と
ともに10日間インキュベートし、3日目と7日目にIL-2(50 U/ml)を添加した。10日目に、事前に活性化したT細胞を洗浄し、新鮮な培地に再懸濁した。新鮮なRajiA2B2M細胞に、TCR-PD1アゴニスト融合分子によって認識される20μMの該当するペプチドで2時
間パルスするか、またはパルスしないままにした。ペプチドパルス化の最後の1時間、Raji A2B2M細胞にSEB(10ng/ml)をロードし、その後33Gyで照射した。Raji A2B2M細胞を1x10E5細胞/ウェルで96ウェル細胞培養プレートに播種し、その後TCR-PD1アゴニスト融合分子滴定物とともに1時間プレインキュベートした。事前活性化されたT細胞を1x10E5細
胞/ウェルでRajiA2B2M標的細胞に添加し、48時間インキュベートした。上清を収集し
、MSD ELISAを使用してIL-2レベルを決定した。
【0082】
結果
図3に示すデータは、TCR-PD1アゴニスト融合分子が、ペプチドパルス化標的細胞の存在下で初代ヒトT細胞IL-2産生を用量依存的に阻害するのに対し、標的付けられていないTCR-PD1アゴニスト融合分子(すなわち非パルス化標的細胞)では、またはPD-1アゴニス
トscFv単独では阻害しないことを示している。これらのデータは、PD-1アゴニストが免
疫シナプスを標的とすることが、初代細胞でのPD-1アゴニスト活性を導くことを示して
いる。
【0083】
実施例4:
次の例は、代替抗原を認識するTCRを使用して同じ技術的効果が観察されることを示して
いる。
【0084】
この実施例で使用された実験系および方法は、実施例2に記載されたものと同じであった。この場合、PD-1アゴニスト抗体は、2つの異なる可溶性TCRに融合された。
【0085】
実施例1に記載のJurkat NFATルシフェラーゼPD-1レポーターアッセイを使用して、HEK293T抗原提示標的細胞の存在下でTCR-PD1アゴニスト融合分子を介したT細胞NFAT活性の阻害を測定した。
【0086】
結果
図4に示すように、2つのTCR-PD1アゴニスト融合分子(TCR1またはTCR2のいずれかに融合したPD-1アゴニストscFv抗体断片を含む)を、それぞれのペプチド(ペプチド1または2)でパルス化した標的細胞の存在下で投与すると、強力で用量依存的な阻害が観察され
た。両方のTCR-PD1アゴニスト融合分子について、標的ペプチドの存在なしで研究を行った場合、最小限の活性が観察された。
【0087】
これらの結果は、TCR-PD1アゴニスト融合分子が、異なるpMHCに対して特異性を持つ可溶性TCRを使用してさまざまな組織に指向させ、T細胞活性の標的化阻害を促進できることを示している。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2024081795000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-05-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pMHC結合部分とPD-1アゴニストとを含む二機能性結合ポリペプチドであって、前記PD-1アゴニストが:
(a)以下の配列を含むかまたはそれからなるPD-L1またはその機能的断片である
FTVTVPKDLYVVEYGSNMTIECKFPVEKQLDLAALIVYWEMEDKNIIQFVHGEEDLKVQHSSYRQRARLLKDQLSLGNAALQITDVKLQDAGVYRCMISYGGADYKRITVKVNAPY;
(b)完全長抗体またはその断片である;又は
(c)scFv抗体であり、かつ
前記pMHC結合部分がTCR可変領域および/または抗体可変領域を含む、
二機能性結合ポリペプチド
【請求項2】
前記pMHC結合部分がT細胞受容体(TCR)またはTCR様抗体である、請求項1に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項3】
前記pMHC結合部分がヘテロ二量体アルファ/ベータTCRポリペプチド対である、請求項1又は2に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項4】
前記pMHC結合部分が一本鎖アルファ/ベータTCRポリペプチドである、請求項1又は2に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項5】
前記TCRが、アルファ鎖の定常領域とベータ鎖の定常領域との間に非天然のジスルフィド結合を含む、請求項3又は4に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項6】
前記TCRがペプチド抗原に特異的に結合する、請求項3~のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項7】
前記PD-1アゴニストが、前記pMHC結合部分のCまたはN末端に融合されている、請求項1~のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項8】
前記PD-1アゴニストがリンカーを介して前記pMHC結合部分に融合されている、請求項1~のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項9】
前記リンカーが2、3、4、5、6、7または8アミノ酸長である、請求項に記載の二機能性結合ポリペプチド。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチドを含む医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~1のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチドをコードする核酸。
【請求項12】
請求項1に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項13】
任意に前記二機能性結合ポリペプチドをコードする核酸が、アルファ鎖およびベータ鎖をコードする、単一のオープンリーディングフレームとして存在するか、または、それぞれコードする2つの別個のオープンリーディングフレームとして存在する、請求項1に記載の核酸または請求項1に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項14】
核酸の発現のための適切な条件下で請求項1に記載の宿主細胞を維持し、二機能性結合ペプチドを単離することを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチドを作製する方法。
【請求項15】
医学において使用するため、特に自己免疫疾患を治療するための、または、痛み、特に炎症に関連する痛みの治療または予防に使用するための、請求項1~のいずれか1項に記載の二機能性結合ポリペプチド、請求項1に記載の医薬組成物、請求項1に記載の核酸および/または請求項1に記載のベクター。
【請求項16】
前記己免疫疾患が、円形脱毛症、強直性脊椎炎、アトピー性皮膚炎、バセドウ病、多発性硬化症、乾癬、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、1型糖尿病および白斑、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、小児脂肪便症(セリアック病)、眼疾患(例えば、ブドウ膜炎)、皮膚エリテマトーデスおよびループス腎炎、およびPD-1/PD-L1アンタゴニストによって引き起こされる癌患者の自己免疫疾患のいずれかである、請求項15に記載の使用のための二機能性結合ポリペプチド、医薬組成物、核酸および/またはベクター。