IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081814
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】粘着剤組成物および粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/06 20060101AFI20240612BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240612BHJP
【FI】
C09J175/06
C09J7/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021068377
(22)【出願日】2021-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 豪
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光人
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA14
4J004AB01
4J004FA01
4J040EF111
4J040EF281
4J040JB09
4J040LA01
4J040LA08
4J040NA06
(57)【要約】
【課題】粘着剤のバイオマス度および粘着剤における生分解性原料の使用比率が高くても、粘着特性を充分に満たし、さらに耐湿熱試験での基材汚染性が低く、かつ低温時の基材密着性にも優れた粘着組成物、並びに該粘着剤組成物を用いた粘着シートを提供する。
【解決手段】数平均分子量が1,000~45,000であるポリオール(ax)、多官能ポリオール(ay)(ただし、ポリオール(ax)は除く)、およびポリイソシアネート(az)の反応物である水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)を含み、前記ポリオール(ax)は、乳酸単位を有する単量体(ax’1)と、ラクトン単位および脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位の少なくともいずれかを有する単量体(ax’2)(ただし、乳酸は除く)とを含む単量体混合物の共重合体であり、前記水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)は、ガラス転移温度が-60℃~-10℃である、粘着剤組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が1,000~45,000であるポリオール(ax)、多官能ポリオール(ay)(ただし、ポリオール(ax)は除く)、およびポリイソシアネート(az)の反応物である、水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)を含み、
前記ポリオール(ax)は、乳酸単位を有する単量体(ax’1)と、ラクトン単位および脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位の少なくともいずれかを有する単量体(ax’2)(ただし、乳酸は除く)とを含む単量体混合物の共重合体であり、
前記水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)は、ガラス転移温度が-60℃~-10℃である、粘着剤組成物。
【請求項2】
さらにイソシアネート硬化剤(B)を含む、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)は、重量平均分子量が10,000~200,000である、請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記ポリオール(ax)を構成する単量体混合物の全質量を基準として、前記単量体(ax’1)と、前記単量体(ax’2)との合計含有率が10~99.8質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記単量体(ax’2)が、少なくともMeso-ラクチドを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
前記ポリオール(ax)を構成する単量体混合物が、前記単量体(ax’1)及び前記単量体(ax’2)と反応可能な単量体(ax’3)をさらに含み、
前記単量体(ax’3)が、200~2,000の数平均分子量を有するポリエステルポリオールを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
基材と、前記基材の少なくとも一方の面に設けられた、請求項1~6のいずれか1項に記載の粘着剤組成物から形成されてなる粘着剤層とを有する粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、粘着剤組成物およびそれを用いた粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、容器の粘着ラベルを構成する粘着剤は、代表的に石油由来の原料を含む。粘着ラベルは、使用後に容器から剥がされ、または容器に貼付されたまま、土中に廃棄される場合がある。この場合、粘着ラベルを構成する粘着剤の分解速度が極めて遅いために、粘着剤は半永久的に土中に残り、さらには土中の生態系を破壊する原因となり得る。また、石油由来の原料を含む製品を焼却した場合には、二酸化炭素が発生し、地球温暖化進行の一つの原因となる。これらのことから、近年、生分解性原料の使用、または再生可能な原料であるバイオマス由来の原料の使用が推奨され始めている。
【0003】
粘着剤組成物の原料において、生分解性原料、またはバイオマス由来の原料を使用した、ポリエステルポリマーが知られている。特許文献1では、乳酸とカプロラクトンとを共重合して得られた生分解性ポリエステルポリマー、粘着付与樹脂、およびイソシアネート硬化剤を含有する、粘着剤組成物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、乳酸と、二塩基酸と、グリコール成分との共重合によって得られ、ガラス転移温度が-70~-20℃であり、重量平均分子量が2万~30万であり、水酸基価が1~100mgKOH/gであるポリエステルポリマーを含む、粘着剤組成物が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1および2に開示されているポリエステルポリマーを用いた粘着剤組成物では、充分な粘着特性を得ることが困難であった。特に、上記ポリエステルポリマーは、ポリマー鎖の主たる結合部位がエステル結合であり、基材への濡れ性が不足しているため、再剥離性が不充分である。さらに、上記ポリエステルポリマーは、耐湿熱条件下において、エステル基の加水分解によって剥離時に凝集破壊が起こり、基材汚染が生じやすい。また、主たる結合部位のエステル結合は、乳酸の結晶性を高めるため、低温時の基材密着性が不足し、低温での粘着力が低いという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-231797号公報
【特許文献2】特開2010-37463号公開
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、生分解性原料、または再生可能な原料であるバイオマス由来の原料を使用したポリエステルポリマーを含む、従来の粘着剤組成物では、粘着特性を満足し、さらに、耐湿熱試験での基材汚染性および低温時の基材密着性といったこれらの特性を充分に満たすことが困難である。
したがって、本発明の実施形態は、生分解性原料、またはバイオマス由来の原料を使用し、粘着特性、基材汚染性、および低温時の基材密着性に優れる、粘着剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、本発明を完成した。すなわち、本発明の実施形態は以下に関する。しかし、本発明は以下に記載する実施形態に限定されることなく、様々な実施形態を含む。
【0009】
本発明の一実施形態は、ポリオール(ax)、多官能ポリオール(ay)(ただし、ポリオール(ax)は除く)、およびポリイソシアネート(az)の反応物である、水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)を含み、
上記ポリオール(ax)は、乳酸単位を有する単量体(ax’1)と、ラクトン単位および脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位の少なくともいずれかを有する単量体(ax’2)(ただし、乳酸は除く)とを含む単量体混合物の共重合体であり、
上記ポリオール(ax)の数平均分子量は、1,000~45,000であり、
上記水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)は、ガラス転移温度が-60℃~-10℃である、粘着剤組成物に関する。
【0010】
本発明の他の実施形態は、基材と、上記基材の少なくとも一方の面に上記実施形態の粘着剤組成物から形成されてなる粘着剤層とを有する、粘着シートに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バイオマス度および生分解性原料の使用比率が高い粘着剤組成物であって、粘着特性を充分に満足し、さらに、耐湿熱試験での基材汚染性に優れ、かつ低温時の基材密着性にも優れる、粘着剤組成物の提供が可能となる。また、上記粘着剤組成物を用いた粘着シートの提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の説明の前に用語を定義する。
本明細書で記載する「粘着シート」とは、基材と、本発明の粘着剤組成物の硬化物からなる粘着剤層とを含むことを意味する。
【0013】
本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値の範囲として含むことを意味する。
本明細書に記載する各種成分は、特に注釈しない限り、それぞれ独立して1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0014】
本明細書において、乳酸単位を有する単量体(ax’1)、ラクトン単位および脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位の少なくともいずれかを有する単量体(ax’2)、およびその他単量体(ax’3)を、それぞれ、単量体(ax’1)、単量体(ax’2)、及び単量体(ax’3)と略記することがある。また、水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)をウレタンプレポリマー(A)と略記することがある。
【0015】
本明細書において、「Mw」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算の重量平均分子量である。「Mn」は、GPC測定によって求めたポリスチレン換算の数平均分子量である。これらは、[実施例]の項に記載する方法によって測定することができる。
【0016】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されない。
【0017】
<1>粘着剤組成物
本発明の一実施形態である粘着剤組成物は、水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)を少なくとも含む。上記粘着剤組成物は、必要に応じて、硬化剤、粘着付与樹脂、可塑剤、またはその他任意成分をさらに含んでよい。上記粘着剤組成物は、さらに溶剤を含んでよい。
【0018】
本発明の一実施形態である粘着剤組成物は、分子内にウレタン結合を有する、特定のウレタンプレポリマー(A)を含むことで、基材への濡れ性が向上し、優れた再剥離性が得られる。また、耐湿熱試験において、ポリマーにおける結合部位の分解が抑制されるため、基材汚染性が低い。さらに、ポリマーにおいて乳酸由来の結晶性が抑制されるため、粘着特性に優れるだけでなく、低温時の基材密着性についても良好となり、これら性能を満足することができる。
【0019】
<ウレタンプレポリマー(A)>
ウレタンプレポリマー(A)は、ポリオール(ax)と、多官能ポリオール(ay)(ただし、ポリオール(ax)は除く)と、ポリイソシアネート(az)との反応物である、水酸基を有するウレタンプレポリマーである。
【0020】
上記「反応物」とは、ポリオール(ax)と、多官能ポリオール(ay)と、ポリイソシアネート(az)との反応生成物を意味する。ポリオール(ax)は、1分子中に2つの水酸基を有することが好ましい。また、多官能ポリオール(ay)は1分子中に2つ以上の水酸基を有することが好ましい。ポリイソシアネート(az)は、1分子中に2つのイソシアネート基を有する2官能イソシアネート(ジイソシアネートともいう)が好ましい。ポリイソシアネート(az)のイソシアネート基(イソシアナト基)は、ポリオール(ax)および多官能ポリオール(ay)を合計した水酸基よりも少なくなるようなモル比(NCO/OH)で使用する。これにより、得られるウレタンプレポリマーは、水酸基を有するウレタンプレポリマーとなる。
【0021】
上記ポリオール(ax)は、乳酸単位を有する単量体(ax’1)と、ラクトン単位および脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位の少なくともいずれかを有する単量体(ax’2)(ただし、乳酸は除く)とを含む単量体混合物の共重合体である。上記ポリオール(ax)を構成する単量体混合物が、単量体(ax’1)と単量体(ax’2)とを含むことによって、ウレタンプレポリマー(A)のガラス転移温度、および乳酸由来の結晶性をそれぞれ適度に制御可能となり、低温時の基材密着性および粘着力が充分に得られる。
【0022】
上記ポリオール(ax)の数平均分子量(Mn)は、1,000~45,000以下であってよい。上記Mnが上記範囲内であることで、ウレタン結合を適度に導入することができる。ウレタン結合の導入により、耐湿熱試験においてポリマーにおける結合部位の分解が抑制され、基材汚染性が低くなる。また、凝集力の向上によって、粘着力が向上する。さらに、濡れ性が向上し、再剥離性も向上する。
【0023】
上記ウレタンプレポリマー(A)のガラス転移温度(Tg)は、-60℃~-10℃である。上記Tgは、より好ましくは-50℃~-12℃であり、さらに好ましくは-45℃~-15℃である。
ガラス転移温度が上記範囲内である場合、ポリマー鎖の絡み合いによって適度な凝集力となり、充分な粘着力が得られる。具体的には、ガラス転移温度を-60℃以上に調整した場合、充分な凝集力が得られ、粘着力を容易に高めることができる。また、ガラス転移温度を-10℃以下に調整した場合、低温時の凝集力が過度に高まることを抑制でき、低温時の優れた基材密着性、及び優れた粘着特性を容易に得ることができる。
【0024】
一実施形態において、ウレタンプレポリマー(A)は、数平均分子量が1,000~45,000であるポリオール(ax)と、多官能ポリオール(ay)(ただし、ポリオール(ax)は除く)と、ポリイソシアネート(az)との反応物である、水酸基を有するウレタンプレポリマーであり、ガラス転移温度が-60℃~-10℃である。
【0025】
上述のように、数平均分子量が1,000~45,000であるポリオール(ax)を用い、かつガラス転移温度が、-60~-10℃であるウレタンプレポリマー(A)によれば、バイオマス度または生分解性原料の使用比率を高めるために、バイオマス原料または生分解性原料である単量体(ax’1)と単量体(ax’2)とを多量に用いた場合でも、耐湿熱試験での基材汚染性、低温時の基材密着性、および粘着特性の各々に優れた粘着剤組成物を容易に構成することができる。
【0026】
ウレタンプレポリマー(A)の重量平均分子量は、10,000~200,000が好ましく、より好ましくは30,000~180,000であり、さらに好ましくは40,000~150,000である。ウレタンプレポリマー(A)の重量平均分子量を上記範囲内に調整した場合、ポリマー鎖の絡み合いによる凝集力を付与することができ、粘着力を高めることが容易となる。また、上記粘着力の向上に加えて、ウレタン化によって形成されるウレタン結合による濡れ性の向上および凝集力の向上が可能となるため、再剥離性の付与および高粘着力化がより容易となるために好ましい。特に、重量平均分子量を200,000以下に調整した場合は、凝集力の低下によって保持力が低下することを抑制できる点で好ましい。
【0027】
以下、粘着剤組成物の構成成分についてより具体的に説明する。
[ポリオール(ax)]
一実施形態において、ポリオール(ax)は、乳酸単位を有する単量体(ax’1)と、ラクトン単位を有する単量体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位を有する単量体(ただし、乳酸は除く)の少なくともいずれかの単量体(ax’2)とを含む単量体混合物の共重合によって得られる。上記単量体混合物は、必要に応じて、その他単量体(ax’3)をさらに含んでもよい。その他単量体(ax’3)を適切に選択することで、ポリオールの分子量を制御することが容易となり、所望とする数平均分子量を有するポリオール(ax)を容易に得ることができる。
【0028】
ポリオール(ax)を構成する単量体混合物の全質量を基準として、単量体(ax’1)と単量体(ax’2)との合計含有率は、10~99.8質量%であることが好ましく、50~99.8質量%がより好ましく、60~99.8質量%がさらに好ましい。上記合計含有率が上記範囲内である場合、ウレタンプレポリマー(A)のガラス転移温度を適切な範囲に容易に調整することができ、粘着特性を容易に向上できる点で好ましい。
【0029】
バイオマス度、または生分解性原料の使用比率を高める場合には、バイオマス原料または生分解性原料である単量体(ax’1)および単量体(ax’2)の少なくともいずれかの含有率を高めることが好ましい。一実施形態において、単量体(ax’1)および単量体(ax’2)が、いずれもバイオマス原料または生分解性原料の単量体であることが特に好ましい。他の実施形態において、バイオマス度、または生分解性原料の使用比率を高めるために、バイオマス原料または生分解性原料である単量体(ax’3)の含有率を高めることもできる。
【0030】
本発明の一実施形態の粘着剤組成物によれば、バイオマス度または生分解性原料の使用比率を高めるために、単量体(ax’1)と単量体(ax’2)とを多量に用いた場合でも、または、単量体(ax’3)の含有率を高めた場合でも、粘着特性に優れるだけでなく、耐湿熱試験での基材汚染性および低温時の基材密着性にも優れた粘着剤組成物を提供することができる。
【0031】
ポリオール(ax)を構成する単量体混合物における単量体(ax’1)の含有量と単量体(ax’2)の含有量との比率(ax’1)/(ax’2)は、10/90~90/10が好ましく、より好ましくは、20/80~80/20であり、さらに好ましくは、30/70~70/30である。一実施形態において、上記比率(ax’1)/(ax’2)は、40/60~60/40であることがさらにより好ましく、50/50であることが最も好ましい。
上記比率(ax’1)/(ax’2)を上記範囲内に調整することによって、粘着剤中のバイオマス度が高く、かつ生分解性原料の使用比率が高い場合でも、所望する粘着特性を容易に得ることができる。
【0032】
ポリオール(ax)の数平均分子量(Mn)は、1,000以上であってよく、好ましくは2,500以上であってよい。一方、上記Mnは、45,000以下であってよく、好ましくは40,000以下であり、より好ましくは37,000以下であり、さらに好ましくは35,000であってよい。
一実施形態において、上記Mnは、1,000~45,000であってよい。上記Mnは、好ましくは1,000~35,000であってよく、さらに好ましくは2,500~35,000であってよい。
【0033】
上記Mnを上記範囲内に調整した場合、ウレタン結合による濡れ性及び凝集力を容易に制御できる。具体的には、上記Mnを1,000以上に調整した場合、ウレタン化により得られるポリマーのウレタン結合数が多くなり過ぎることを抑制できる。すなわち、耐湿熱性等の加熱下での試験において、ウレタン基の再配列に伴い密着性が過度に向上し、凝集破壊を生じることを抑制でき、そのことによって、基材汚染性の改善が容易となる。また、上記Mnを45,000以下に調整した場合、ウレタン結合数が不足し、耐湿熱性、および再剥離性が悪化することを抑制できる。
【0034】
一実施形態において、より優れた再剥離性が容易に得られる観点から、ポリオール(ax)のMnは、10,000を超え、35,000以下であってよい。上記Mnは、より好ましくは11,000~30,000であってよく、さらに好ましくは11,000~25,000であってよい。
【0035】
他の実施形態において、ポリオール(ax)のMnは、1,000~10,000であってよく、より好ましくは2,000~7,500であってよい。
【0036】
(単量体(ax’1))
乳酸単位を有する単量体(ax’1)は、乳酸単位を有していればよく、特に限定されない。例えば、L-乳酸、D-乳酸等の乳酸体(ax’1-1)、L-ラクチド、D-ラクチド、DL-ラクチド、meso-ラクチド等のラクチド体(ax’1-2)などが挙げられる。このような乳酸単位を有する単量体(ax’1)と、後述する単量体(ax’2)とを共重合させることによって、所望の特性を有するウレタンプレポリマー(A)を得ることができる。上記乳酸単位を有する単量体(ax’1)は、1種または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0037】
なお、本明細書における「乳酸単位」とは、乳酸の部分構造である「-O-CH(CH3)―CO-」単位を意味する。
乳酸体(ax’1-1)とラクチド体(ax’1-2)とでは、ラクチド体(ax’1-2)がより好ましい。ラクチド体は、反応性の観点で、共重合性に優れ結晶化度を低くすることができ、そのことにより再剥離性を容易に向上できる。
【0038】
乳酸体(ax’1-1)とラクチド体(ax’1-2)は、バイオマス由来の原料であり、かつ生分解性原料である。このなかでも、ポリオール製造時の反応性制御および溶剤への溶解性の観点から、ラクチド体(ax’1-2)が好ましい。ラクチド体(ax’1-2)は、L-ラクチド、D-ラクチド、DL-ラクチド、及びmeso-ラクチドからなる群から選択される少なくとも1種を含む。ここで、DL-ラクチドとは、L-ラクチドとD-ラクチドの等モル混合物を意味する。
【0039】
乳酸由来の結晶化度を低下させ低温時の基材密着性を向上する観点から、ラクチド体(ax’1-2)としては、L-ラクチドとD-ラクチドとの併用、DL-ラクチド、またはmeso-ラクチドが好ましい。特に、非晶性で濡れ性を向上させ再剥離性をより向上させる観点から、meso-ラクチドが好ましい。
L-ラクチドおよびD-ラクチドを併用する場合には、L-ラクチド/D-ラクチドの重量比は、5/95~95/5であることが好ましく、より好ましくは、15/85~85/15である。この範囲内となることで、ウレタンプレポリマー(A)中の乳酸の結晶化度を低くすることができ、低温時の基材密着性を向上できる。
【0040】
一実施形態において、乳酸単位を有する単量体(ax’1)は、少なくともmeso-ラクチドを含むことが好ましい。一実施形態において、乳酸単位を有する単量体(ax’1)は、meso-ラクチドに加えて、L-ラクチド、D-ラクチド、DL-ラクチドといった他のラクチド体をさらに含んでもよい。例えば、meso-ラクチドの製造では、その精製段階でmeso-ラクチド以外のラクチド体が取り除かれる。しかし、本実施形態では、未精製のmeso-ラクチドを使用してもよい。すなわち、meso-ラクチド以外に、L-ラクチド、D-ラクチド、及びDL-ラクチドの少なくとも1種が混在していてもよい。
【0041】
単量体(ax’1)の含有率は、ポリオール(a)を構成する単量体混合物の全質量を基準として、5~92質量%であることが好ましく、15~70質量%がより好ましい。上記含有率を上記範囲内に調整した場合、ウレタンプレポリマー(A)のガラス転移温度を適切に調整でき、低温時の優れた基材密着性、及び優れた粘着力が容易に得られる点で好ましい。
【0042】
(単量体(ax’2))
単量体(ax’2)は、ラクトン単位および脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位の少なくとも一方を有する単量体である。一実施形態において、単量体(ax’2)として、1種の単量体を使用しても、又は2種以上の単量体を使用してもよい。
一実施形態において、単量体(ax’2)は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位を有する単量体(ax’2-1)(ただし、乳酸は除く)、ラクトン単位を有する単量体(ax’2-2)の少なくとも一方であってよい。一実施形態において、単量体(ax’2)は、ラクトン単位を有する単量体(ax’2-2)を少なくとも含むことが好ましい。
【0043】
これらの単量体(ax’2)を、乳酸単位を有する単量体(ax’1)と共重合させることによって、ウレタンプレポリマー(A)中の乳酸成分の結晶化度を低下させ、ガラス転移温度を適切な範囲に調整できる。その結果、粘着剤組成物において優れた粘着力などの特性を実現できるウレタンプレポリマー(A)を得ることができる。
【0044】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位を有する単量体(ax’2-1)としては、例えば、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸、4-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。
ラクトン単位を有する単量体(ax’2-2)としては、例えば、炭素数3~12のラクトン等が挙げられる。例えば、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、エナントラクトン、カプリロラクトン、ラウロラクトン等が挙げられる。
【0045】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位を有する単量体(ax’2-1)と、ラクトン単位を有する単量体(ax’2-2)とでは、ラクトン単位を有する単量体(ax’2-2)の方が好ましい。ラクトン単位を有する単量体(ax’2-2)は、反応性の観点で共重合性に優れ、また乳酸成分の結晶化度を容易に低くすることができるため、再剥離性を容易に向上させることができる。
ラクトン単位を有する単量体(ax’2-2)のなかでも、生分解性を有する観点から、ε-カプロラクトン、または6-ヒドロキシカプロン酸が好ましい。上記ラクトン単位を有する単量体(ax’2-2)は、1種のみで使用しても、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
単量体(ax’2)の含有率は、ポリオール(ax)を構成する単量体混合物の全質量を基準として、5~92質量%であることが好ましく、18~70質量%がより好ましい。含有率を上記範囲内に調整した場合、ウレタンプレポリマー(A)のガラス転移温度を適切に調整でき、低温時の優れた基材密着性、及び優れた粘着力が容易に得られる点で好ましい。
【0047】
(単量体(ax’3))
単量体(ax’3)は、単量体(ax’1)および単量体(ax’2)以外のその他単量体であって、単量体(ax’1)および単量体(ax’2)と反応性を有するものであれば特に限定されない。例えば、単量体(ax’3)として、脂肪族グリコール、脂肪族二塩基酸とグリコールとの反応生成物であるポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ヒマシ油ポリオール等のポリオールを使用することができる。ポリオール(ax)を構成する単量体混合物が、その他単量体(ax’3)をさらに含む場合、ウレタンプレポリマー(A)中の乳酸成分の結晶化度を低くすることがより容易となる。
【0048】
バイオマス度または生分解性原料の含有率を高めるためには、単量体(ax’3)についても、バイオマス由来の原料または生分解性原料であることが好ましい。一実施形態では、単量体(ax’3)として、特に、ポリエステルポリオールを好適に使用することができる。ポリエステルポリオールを使用した場合、単量体(ax’1)および(ax’2)との相溶性に優れ、共重合性が向上することによって、乳酸成分の結晶化度を低下させることができ、再剥離性を高めることが容易となる。
【0049】
単量体(ax’3)として使用できる脂肪族グリコールは、特に限定されない。例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2,4-トリメチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチルプロパンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチルオクタンジオール、1,10-デカンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。特に、バイオマス由来の原料から得られ、かつ生分解性原料であることから、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオールが好ましい。上記脂肪族グリコールは、1種のみを使用しても、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
単量体(ax’3)として使用できるポリエステルポリオールは、例えば、脂肪族二塩基酸と脂肪族グリコールとを縮合反応させて得られる。上記ポリエステルポリオールは、COOH/OHモル比が1.0未満となる、末端に水酸基を有する脂肪族ポリエステルポリオールを含むことが好ましい。このような脂肪族ポリエステルポリオールは、芳香族ポリエステルポリオールとは異なり、脂肪族ポリエステルポリオールを分解可能な酵素が自然界に多数存在するために好ましい。
【0051】
上記脂肪族二塩基酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデセニル無水コハク酸、フマル酸、コハク酸、ドデカン二酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の脂肪族や脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。特に、バイオマス由来の原料から得られ、かつ生分解性原料であることから、セバシン酸、およびコハク酸が好ましい。上記脂肪族二塩基酸は、1種のみを使用しても、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。一方、脂肪族グリコールは、先に説明したとおりである。
【0052】
本発明において所望とする粘着剤の特性、並びに粘着剤のバイオマス度および粘着剤における生分解性原料の比率を低下させない程度であれば、ポリエステルポリオールの原料として、芳香族二塩基酸を使用することができる。
使用できる上記芳香族二塩基酸としては、特に限定されない。例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられる。これらは、1種のみを使用しても、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
ポリエステルポリオールにおいて、製造時に使用する脂肪族二塩基酸のアルキレン鎖の炭素数が小さいほど、ポリマーにおいてハードセグメント相が増加する。その結果、水分の浸入を効果的に防止でき、耐湿熱性を容易に向上できる傾向がある。また、同様の観点から、脂肪族グリコールのアルキレン鎖についても、炭素数が小さいことが好ましい。
このような観点から、一実施形態において、上記ポリエステルポリオールは、例えば、アルキレン鎖の炭素数が2~12の脂肪族二塩基酸と、炭素数2~10の直鎖または分岐構造のアルキレン鎖を有する脂肪族グリコールとの重合物であってよい。
【0054】
上記脂肪族二塩基酸として、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、及びドデカン二酸からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。なかでも、バイオマス由来の原料から得られ、かつ生分解性原料であること併せて、セバシン酸、およびコハク酸がより好ましく、コハク酸がさらに好ましい。
【0055】
また、上記脂肪族グリコールとして、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、及び2-メチルオクタンジオール
からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。なかでも1,2-プロピレングリコール、および1,3-プロパンジオールがより好ましく、1,3-プロパンジオールがさらに好ましい。
【0056】
一実施形態において、ポリエステルポリオールとして、市販品を使用することもできる。例えば、クラレ社製のクラレポリオールP-1010、及びP-2010が挙げられる。これらは、アジピン酸と、3-メチル-1,5-ペンタンジオールとの共重合体である。
【0057】
単量体(ax’3)として使用できるポリエーテルポリオールは、例えば、1分子中に2つの活性水素を有する活性水素含有化合物を開始剤として用い、1種以上のオキシラン化合物を付加重合させた反応物であってよい。
上記オキシラン化合物としては、例えば、エチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、およびブチレンオキシド(BO)等のアルキレンオキシド(AO);テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。
一実施形態において、上記ポリエーテルポリオールとして、市販品を使用することもできる。例えば、三洋化成株式会社製の「サンニックスPP-600」(ポリオキシプロピレングリコール)を使用できる。
【0058】
単量体(ax’3)として使用できるポリブタジエン変性ポリオールは、例えば、2つ以上の水酸基末端を有し、1,2-ビニル部位、1,4-シス部位、1,4-トランス部位またはそれらが水素化された構造を有し、直鎖状若しくは分岐状のポリブタジエンであってよい。
【0059】
単量体(ax’3)として使用できるヒマシ油ポリオールは、例えば、ヒマシ油から誘導されるポリオール、またはヒマシ油を変性して得られるポリオールであってよい。
【0060】
上記ヒマシ油から誘導されるポリオールとしては、例えば、このグリセリンエステルのリシノレイン酸の一部をオレイン酸に置換したもの、ヒマシ油を鹸化して得られるリシノレイン酸を短分子ポリオールとエステル化したもの、これらとヒマシ油との混合物等、ヒマシ油由来の脂肪酸エステルポリオールであってよい。
【0061】
上記ヒマシ油を変性して得られるポリオールとしては、例えば、植物油変性ポリオール、芳香族骨格(例えばビスフェノールA等)を有する変性ポリオール等が挙げられる。植物油変性ポリオールは、グリセリンエステルのリシノレイン酸の一部を、他の植物より得られる脂肪酸、例えば大豆油、なたね油、オリーブ油等より得られるリノール酸、リノレン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸に置換して得られるものである。
【0062】
ヒマシ油由来ポリオールの市販品としては、例えば、伊藤製油社製「URIC HF-1300、Y-403、HF-2009」等が挙げられる。
【0063】
一実施形態において、上記単量体(ax’3)の数平均分子量(Mn)は、50~3,000が好ましく、より好ましくは500~2,000である。一実施形態において、単量体(ax’3)として使用するポリエステルポリオールのMnは、150~3,000であることが好ましく、200~2,000であることがより好ましく、200~800であることがさらに好ましい。
上記範囲内のMnを有する単量体(ax’3)を使用した場合、単量体(ax’3)に由来する成分の結晶化度が低いため、ウレタンプレポリマー(A)中の乳酸成分の結晶化度を容易に低下できる傾向がある。その結果、再剥離性および耐湿熱性を容易に高めることができる。
【0064】
一実施形態において、ポリオール(ax)を構成する単量体混合物は、ウレタン化において十分な反応性を得る観点から、水酸基などの活性水素を片末端にのみ有する化合物、及びスルホン酸塩などの酸性基が塩を形成している化合物を含まないことが好ましい。したがって、一実施形態において、ポリオール(ax)を構成する単量体混合物は、単量体(ax’1)、単量体(ax’2)、及び単量体(ax’3)のみからなることが好ましい。
【0065】
(ポリオール(ax)の製造方法)
ポリオール(ax)の製造方法は、特に制限されない。ポリオール(ax)は、塊状重合法および溶液重合法等の公知の重合方法によって製造することができる。製造方法の手順としては、例えば、以下が挙げられる。
(手順1)単量体(ax’1)として乳酸体、および単量体(ax’2)として脂肪族ヒドロキシカルボン酸体を原料として使用し、これらを直接脱水重縮合する方法(例えば、USP 5,310,865号に示されている製造方法)。
(手順2)単量体(ax’1)としてラクチド体と、単量体(ax’2)としてラクトン体を使用し、これらを溶融重合する開環重合法(例えば、米国特許2,758,987号に開示されている製造方法)。この(手順2)では、ラクチド体およびラクトン体は全て開環し、乳酸単位および脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位を含むポリオールが得られる。
(手順3)乳酸体および脂肪族ヒドロキシカルボン酸体を使用し、触媒の存在下、脱水重縮合反応を行うことによって重合体を製造する方法であり、少なくとも一部の工程で、固相重合を行う方法。
また、上記(手順1)~(手順3)において、さらに脂肪族グリコールおよび脂肪族二塩基酸等のその他の単量体を共重合させて、ポリオール(ax)を得てもよい。
【0066】
上記(手順1)~(手順3)において、乳酸体の単量体(ax’1-1)と脂肪族ヒドロキシカルボン酸体(ax’1-1)との共重合により得られるポリオール(ax)は、乳酸体の単量体(ax’1-1)および脂肪族ヒドロキシカルボン酸体(ax’1-1)の共重合性が充分ではない場合がある。そのため得られるポリオール(ax)において所望とするガラス転移温度、および乳酸由来の結晶性を達成できず、ウレタンプレポリマー(A)において、所望とする特性を得ることが困難となる場合がある。
【0067】
したがって、上記(手順1)にしたがい、乳酸体の単量体(ax’1-1)と脂肪族ヒドロキシカルボン酸体(ax’1-1)を含む単量体混合物の共重合によってポリオール(ax)を製造する方法よりも、上記(手順2)の方が好ましい。上記(手順2)のように、ポリオール(ax)を製造するために、ラクチド体の単量体(ax’1-2)およびラクトン体の単量体(ax’2-2)を含む単量体混合物を用いた場合は、反応性の制御が容易となり、共重合性に優れ、高分子量化が容易となる点で好ましい。
【0068】
ポリオール(ax)の製造には、必要に応じて、触媒、および溶剤等を用いることができる。触媒は、後述する水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)の製造で例示する触媒と同じであってよい。
【0069】
一実施形態において、単量体(ax’3)の含有率は、ポリオール(ax)を構成する単量体混合物の全質量を基準として、0.2質量%以上、90質量%以下であってよい。一実施形態において、単量体(ax’3)の含有率は、3~90質量%であることが好ましく、10~70質量%がより好ましい。例えば、この実施形態では、単量体(ax’3)として数平均分子量が1,000~3,000のポリエステルポリオールを好適に使用できる。
【0070】
他の実施形態において、単量体(ax’3)として数平均分子量が200~800のポリエステルポリオールを使用する場合、単量体(ax’3)の含有率は、ポリオール(ax)を構成する単量体混合物の全質量を基準として、0.2~10質量%であることが好ましい。上記含有率は、0.7~9.5質量%であることがより好ましく、0.9~2.5質量%であることがさらに好ましい。
【0071】
上記単量体(ax’3)の含有率をそれぞれ上記範囲内に調整した場合、ウレタンプレポリマー(A)のガラス転移温度を適切に調整でき、低温時の基材密着性に優れ、および優れた粘着力が得られる点で好ましい。
【0072】
[多官能ポリオール(ay)]
多官能ポリオール(ay)は、水酸基を2つ以上有する化合物であり、好ましくは水酸基を3つ以上有する化合物である。多官能ポリオール(ay)が水酸基を3つ以上有する化合物を含有することで、ウレタンプレポリマー(A)に分岐骨格を生じさせ、凝集力を向上できるため、初期硬化性を付与することができる。ただし、多官能ポリオール(ay)は、ポリオール(ax)は除く。
【0073】
多官能ポリオール(ay)の数平均分子量は、100~5,000が好ましく、より好ましくは500~3,000であり、さらに好ましくは800~2,000である。数平均分子量がこの範囲内にあることで、イソシアネート硬化剤(B)との反応で充分な架橋密度が得られ、保持力が向上する。
【0074】
多官能ポリオール(ay)として、脂肪族ポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリブタジエンポリオール、およびヒマシ油ポリオール等を使用することができる。なかでも、脂肪族ポリエステルポリオールが好ましい。ポリエステルポリオールは、多価カルボン酸と脂肪族グリコールとの反応生成物であるか、脂肪族二塩基酸と脂肪族ポリオールとの反応生成物である、水酸基を3つ以上有する脂肪族ポリエステルポリオールであることがより好ましい。脂肪族ポリエステルポリオールは、これらを分解可能な酵素が自然界に多数存在することから特に好ましい。
【0075】
上記多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グルセロールトリス(アンヒドロトリメート)等が挙げられる。一方、上記脂肪族グリコールとしては、先に単量体(ax’3)に関する説明で記載した化合物と同様であってよい。
【0076】
上記脂肪族ポリオールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。一方、脂肪族二塩基酸は、先に単量体(ax’3)に関する説明で記載した化合物と同様であってよい。
【0077】
一実施形態において、多官能ポリオール(ay)として、市販品を使用することもできる。例えば、三洋化成工業社製のサンニックスPP-600が挙げられる。これは、グリセリンとプロピレンオキシド(PO)とエチレンオキシド(EO)との共重合体である、ポリオキシプロピレングリコールである。
また、例えば、日本曹達社製のNISSO-PBGI-3000が挙げられる。これは、グリセリンとプロピレンオキシド(PO)とエチレンオキシド(EO)との共重合体である、ポリオキシプロピレングリコールである。
また、例えば、クラレ社製のクラレポリオールF-1010が挙げられる。これは、3-メチル-1,5-ペンタンジオールと、アジピン酸と、トリメチロールプロパンとの共重合体である、3分岐構造のポリエステルポリオールである。
さらに、例えば、ダイセル社製のPlaccel410が挙げられる。これは、4官能水酸基含有化合物とε-カプロラクトンとの重合体である、4分岐構造のポリエステルポリオールである。
【0078】
多官能ポリオール(ay)の含有率は、ウレタンプレポリマー(A)の全質量を基準として、0.5~25質量%が好ましく、より好ましくは、5~15質量%である。0.5質量%以上であると、分岐骨格が充分に形成され、凝集力に優れ、初期硬化性がより向上する。また、25質量%以下であると、ウレタンプレポリマー(A)の製造時に、ゲル化物または凝集物の発生を抑制できるため好ましい。
【0079】
[ポリイソシアネート(az)]
ポリイソシアネート(az)としては公知の化合物を使用できる。例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、および脂環族ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0080】
芳香族ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、2,4,6-トリイソシアネートトルエン、1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、および4,4’,4”-トリフェニルメタントリイソシアネート、ω,ω’-ジイソシアネート-1,3-ジメチルベンゼン、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジメチルベンゼン、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼン、1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、および1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0081】
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、および2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0082】
脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、および1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0083】
その他、ポリイソシアネートとして、例えば、上記ポリイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ビウレット体、アロファネート体、および3量体(この3量体はイソシアヌレート環を含む。)等が挙げられる。
【0084】
ポリイソシアネート(az)としては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、および、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が好ましい。これらの少なくとも1種を使用した場合、適度なウレタン結合による凝集力を付与することができ、充分な粘着特性が容易に得られる。
【0085】
ウレタンプレポリマー(A)の製造において、ポリイソシアネート(az)のイソシアネート基(イソシアナト基)に対する、ポリオール(ax)および多官能ポリオール(ay)を合計した水酸基のモル比(NCO/OHの値)は、0.1以上であってよく、好ましくは0.2~0.9であり、より好ましくは0.3~0.85であり、さらに好ましくは0.4~0.85である。上記モル比(NCO/OHの値)が上記範囲内となるように、原料の配合比を調整することが好ましい。
NCO/OHの値が1に近づくと、ウレタンプレポリマー(A)の製造時にゲル化物または凝集物が生じやすくなる場合がある。そのため、NCO/OHの値を0.9以下に調整することによって、ウレタンプレポリマー(A)の製造時のゲル化を効果的に抑制することができる。NCO/OHの値を0.1以上に調整した場合、得られるウレタンプレポリマー(A)の分子量が高くなり、充分な粘着特性が得られる点で好ましい。
【0086】
ポリイソシアネート(az)の含有率は、高い粘着力を得るために、ウレタンプレポリマー(A)の全質量を基準として、0.3以上であってよく、0.5~30質量%が好ましく、0.6~20質量%がより好ましく、1.0~20質量%がさらに好ましい。
【0087】
[触媒]
ポリオール(ax)、または水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)の製造において、必要に応じて、1種以上の触媒を用いることができる。触媒としては公知の化合物を使用できる。使用できる触媒として、例えば、3級アミン系化合物および有機金属系化合物等が挙げられる。
【0088】
3級アミン系化合物としては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、および1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7(DBU)等が挙げられる。
【0089】
有機金属系化合物としては、例えば、錫系化合物および非錫系化合物等が挙げられる。
錫系化合物としては、例えば、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫オキシド、ジブチル錫ジブロマイド、ジブチル錫ジマレエート、ジブチル錫ジラウレート(DBTDL)、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫スルファイド、ジオクチル錫ジラウレート、トリブチル錫スルファイド、トリブチル錫オキシド、トリブチル錫アセテート、トリエチル錫エトキサイド、トリブチル錫エトキサイド、ジオクチル錫オキシド、トリブチル錫クロライド、トリブチル錫トリクロロアセテート、2-エチルオクチル酸錫、および2-エチルヘキサン酸錫等が挙げられる。
【0090】
非錫系化合物としては、例えば、ジブチルチタニウムジクロライド、テトラブチルチタネート、およびブトキシチタニウムトリクロライド等のチタン系;オレイン酸鉛、2-エチルヘキサン酸鉛、安息香酸鉛、およびナフテン酸鉛等の鉛系;2-エチルヘキサン酸鉄および鉄アセチルアセトネート等の鉄系;安息香酸コバルトおよび2-エチルヘキサン酸コバルト等のコバルト系;ナフテン酸亜鉛および2-エチルヘキサン酸亜鉛等の亜鉛系;ナフテン酸ジルコニウム等のジルコニウム系が挙げられる。
触媒の種類および添加量は、反応が良好に進む範囲で適宜調整することができる。
【0091】
触媒の使用量は、ポリオール(ax)またはウレタンプレポリマー(A)の構成成分の合計100質量部に対して、0.0001~1.0質量部であることが好ましい。上記使用量は、0.001~0.5質量部であることがより好ましく、0.005~0.1質量部であることがさらに好ましく、0.01~0.1質量部であることがさらにより好ましい。
【0092】
ポリオール(ax)またはウレタンプレポリマー(A)の製造時に触媒を用いる場合、上記触媒を不活性化させてもよい。特に、水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)の製造では、不活性化させた触媒を使用することが好ましい。反応停止剤として、例えば、アセチルアセトン、またはリン酸化合物等を配合することができる。反応停止剤は、1種のみを使用しても、または2種以上を組合せて使用してもよい。
【0093】
[溶剤]
ポリオール(ax)、ウレタンプレポリマー(A)の製造には、必要に応じて、1種以上の溶剤を用いることができる。使用できる溶剤として、例えば、アセトン、およびメチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、トルエン、およびキシレン等の炭化水素系溶剤、並びにジフェニルエーテル等のエーテル系溶剤等が挙げられる。特に、ウレタンプレポリマー(A)の製造では、上記溶剤のなかでも、溶解性および溶剤の沸点等の点から、エステル系溶剤、および炭化水素系溶剤等が好ましい。一実施形態において、粘着剤組成物は、ポリオール(ax)、ウレタンプレポリマー(A)の製造時に使用した溶剤を含んでいてもよい。
【0094】
[ウレタンプレポリマー(A)の製造方法]
ウレタンプレポリマー(A)の製造方法は、特に制限されない。ウレタンプレポリマー(A)は、例えば、塊状重合法および溶液重合法等の公知の重合方法によって製造することができる。製造方法の手順としては、例えば、以下が挙げられる。
(手順1)1種以上のポリイソシアネート(az)、1種以上のポリオール(ax)、多官能ポリオール(ay)、必要に応じて1種以上の触媒、および必要に応じて1種以上の溶剤を使用し、これらを一括してフラスコに仕込む手順。
(手順2)1種以上のポリオール(ax)、多官能ポリオール(ay)、必要に応じて1種以上の触媒、および必要に応じて1種以上の溶剤をフラスコに仕込み、これに1種以上のポリイソシアネート(az)を滴下添加する手順。
【0095】
これらの手順のなかでも、上記(手順2)が好ましい。上記(手順2)では、ポリオール(ax)、多官能ポリオール(ay)およびポリイソシアネート(az)の局所的な反応性の低下を抑制し、および過度な高分子量成分の反応を抑制することによって、分子量分散度を広くすることができる。
【0096】
反応温度は、触媒を使用する場合、100℃未満が好ましく、85~95℃がより好ましい。反応温度を100℃未満に調整した場合、ウレタン反応以外の副反応を抑制できるため、所望とするポリマーを容易に得ることができる。反応温度は、触媒を使用しない場合、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。
【0097】
<硬化剤>
本発明の一実施形態である粘着剤組成物は、さらに硬化剤を含んでもよい。硬化剤の使用は、ポリマーの硬化性を向上できる点で好ましい。
硬化剤として、例えば、イソシアネート硬化剤(B)、エポキシ硬化剤、メラミン硬化剤、カルボジイミド硬化剤、オキサゾリン硬化剤、及びアジリジン硬化剤等を使用することができる。
一実施形態において、粘着剤組成物は、イソシアネート硬化剤(B)を含むことが好ましい。イソシアネート硬化剤(B)の使用は、初期硬化性を更に向上させることができ、特に、充分な保持力が容易に得られる点で好ましい。
【0098】
[イソシアネート硬化剤(B)]
イソシアネート硬化剤(B)としては、公知の化合物を使用できる。例えば、水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)の原料であるポリイソシアネート(az)として例示した化合物であってよい。具体的には、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、および、これらのトリメチロールプロパンアダクト体/ビウレット体/3量体を用いることができる。
【0099】
一実施形態において、粘着剤組成物は、必要に応じて、さらにイソシアネート硬化剤(B)を含んでもよい。イソシアネート硬化剤(B)の含有量は、ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して、25質量部以下が好ましく、1.0~15質量部がより好ましく、1.5~15質量部がさらに好ましい。イソシアネート硬化剤(B)の含有量を上記範囲内に調整した場合、より優れた初期硬化性を容易に得ることができる。
【0100】
<粘着付与樹脂>
一実施形態において、粘着剤組成物は、さらに粘着付与樹脂を含んでもよい。粘着付与樹脂の使用は、より粘着特性を向上させることができる点で好ましい。
粘着付与樹脂として、例えば、ロジン系樹脂、ポリテルペン樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(油性フェノール樹脂)等を使用することができる。
また、粘着付与樹脂は、バイオマス由来の原料から得られた樹脂であることが好ましい。このような点から、粘着付与樹脂として、例えば、ロジン系樹脂、またはポリテルペン樹脂等の樹脂が好ましい。
【0101】
粘着付与樹脂の含有量は、ウレタンプレポリマー(A)100質量部に対して、2~50質量部が好ましく、5~40質量部がより好ましい。
上記含有量を2質量部以上に調整した場合、粘着付与樹脂の添加による効果によって、所望とする粘着特性を容易に得ることができる。また、上記含有量を50質量部以下に調整した場合、ウレタンプレポリマー(A)等のポリマー成分との良好な相溶性が得られる点で好ましい。そのため、塗液外観または塗膜外観において、白濁化または白化する問題の発生を抑制することができる。
【0102】
<その他の成分>
一実施形態において、粘着剤組成物は、粘着剤としての特性と、生分解性を損なわない程度であれば、上記成分以外に一般的な添加剤をさらに含んでもよい。使用できる添加剤として、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、帯電防止剤、剥離調整剤、充填剤、着色剤、老化防止剤、可塑剤、及び界面活性剤等が挙げられる。
【0103】
<2>粘着シート
本発明の他の実施形態は、粘着シートに関する。粘着シートは、基材の少なくとも一方の面に、上記実施形態の粘着剤組成物から形成されてなる粘着剤層を有する。すなわち、粘着シートは、基材と、基材の一方の面に設けられた粘着剤層とを有し、粘着剤層は上記実施形態の粘着剤組成物の硬化物から構成される。一実施形態において、基材と接していない粘着剤層の他方の面には、異物の付着を防止するために剥離シートを設けてよい。通常、粘着剤層は、使用する直前まで剥離シートによって保護される。
【0104】
基材は、柔軟なシートおよび板材であればよく、制限なく使用できる。基材は、プラスチック、紙、および金属箔、ならびにこれら1種以上の材料から構成される積層体等が挙げられる。
粘着剤層と接する基材の表面は、密着性向上のため、簡便な接着処理を適用してもよい。例えば、コロナ放電処理等の乾式処理、アンカーコート剤塗布等の湿式処理を適用することができる。
【0105】
一実施形態において、基材を構成するプラスチック材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のエステル系樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびシクロオレフィンポリマー(COP)等のオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル等のビニル系樹脂;ナイロン66等のアミド系樹脂;ウレタン系樹脂(発泡体を含む)等が挙げられる。
【0106】
基材の厚みは、一般的に10~300μmであってよい。基材としてポリウレタンシート(発泡体を含む)を使用する場合、基材(シート)の厚みは、一般的に20~50,000μmであってよい。基材として紙を使用することもできる。例えば、普通紙、コート紙、およびアート紙等が挙げられる。また、基材として金属箔を使用することもできる。金属箔としては、例えば、アルミニウム箔、及び銅箔等が挙げられる。
【0107】
剥離シートは、公知の構成を有する剥離シートであってよい。例えば、プラスチックまたは紙等のシート状の材料表面に、シリコーン系剥離剤等の公知の剥離処理を適用した剥離シートを使用できる。
【0108】
粘着シートの製造方法としては、例えば、基材の表面に上記実施形態の粘着剤組成物を塗工して塗工層を形成し、次いで塗工層を乾燥および硬化して、粘着剤層を形成する方法が挙げられる。加熱および乾燥温度は、一般的に60~150℃であってよい。粘着剤層の厚みは、一般的に0.1~200μmであってよい。
【0109】
塗布方法としては、公知の方法であってよく、例えば、ロールコーター法、コンマコーター法、ダイコーター法、リバースコーター法、シルクスクリーン法、およびグラビアコーター法等が挙げられる。
【0110】
また、上記方法とは別の方法として、剥離シートの表面に上記実施形態の粘着剤組成物を塗工して塗工層を形成し、次いで塗工層を乾燥および硬化することによって粘着剤層を形成し、最後に粘着剤層の露出面に基材を貼り合わる方法が挙げられる。この方法において、基材の代わりに剥離シートを粘着剤層に貼り合わせると、剥離シート/粘着剤層/剥離シートの構成を有するキャスト粘着シートが得られる。
【実施例0111】
以下、本発明の実施態様について実施例によって説明する。なお、本発明の実施態様が実施例に限定されないことはいうまでもない。以下に記載する「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
また、以下に記載する実施例および表に記載された原料(溶剤を除く)の配合量は、不揮発分換算の値である。
【0112】
さらに、以下に記載するMw,Mn、及びTgは、以下のようにして測定した値である。
[重量平均分子量(Mw)、および数平均分子量(Mn)の測定]
重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により測定した。測定条件は、以下のとおりである。なお、MwおよびMnはいずれも、ポリスチレン換算値である。
(測定条件)
装置:SHIMADZUProminence(島津製作所社製)
カラム:SHODEXLF-804(昭和電工社製)を3本直列に接続
検出器:示差屈折率検出器
溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.5mL/分
溶媒温度:40℃
試料濃度:0.1%
試料注入量:100μL
【0113】
[ガラス転移温度(Tg)]
ロボットDSC(示差走査熱量計、セイコーインスツルメンツ社製「RDC220」)に「SSC5200ディスクステーション」(セイコーインスツルメンツ社製)を接続して、測定に使用した。約10mgの試料をアルミニウムパンに入れ、秤量して示差走査熱量計にセットし、試料を入れない同タイプのアルミニウムパンをリファレンスとして、100℃の温度で5分間保持した後、液体窒素を用いて-120℃まで急冷した。その後、昇温速度10℃/分で昇温し、得られたDSCチャートからガラス転移温度(Tg、単位:℃)を決定した。
【0114】
<1>原料
表に示した原料は、以下のとおりである。
<ポリオール(ax)>
[単量体(ax’1)]
L-乳酸(バイオマス度100%、生分解性度100%)
D-乳酸(バイオマス度100%、生分解性度100%)
L-ラクチド(バイオマス度100%、生分解性度100%)
D-ラクチド(バイオマス度100%、生分解性度100%)
DL-ラクチド(バイオマス度100%、生分解性度100%)
meso-ラクチド(バイオマス度100%、生分解性度100%)
【0115】
[単量体(ax’2)]
6-ヒドロキシカプロン酸(バイオマス度0%、生分解性度100%)
ε-カプロラクトン(バイオマス度0%、生分解性度100%)
【0116】
[単量体(ax’3)]
PD:1,3-プロパンジオール、Mn76、水酸基数2、(バイオマス度100%、生分解性度100%)
PPG600:サンニックス PP-600、ポリオキシプロピレングリコール、Mn600、水酸基数2、三洋化成工業社製(バイオマス度0%、生分解性度0%)
P-1010:クラレポリオールP-1010、3-メチル-1,5-ペンタンジオール/アジピン酸、ポリエステルポリオール、Mn1,000、クラレ社製(バイオマス度0%、生分解性度0%)
P-2010:クラレポリオールP-2010、3-メチル-1,5-ペンタンジオール/アジピン酸、ポリエステルポリオール、Mn2,000、クラレ社製(バイオマス度0%、生分解性度0%)
HF-1300:URIC HF-1300、ヒマシ油ポリオール、Mn1,400、水酸基数2、伊藤製油社製(バイオマス度100%、生分解性度0%)
ポリオールax’3-1~ax’3-3:後述のとおり。
【0117】
<多官能ポリオール(ay)>
P-1010:クラレポリオールF-1010、3-メチル-1,5-ペンタンジオール/アジピン酸/トリメチロールプロパンポリエステルポリオール、Mn1,000、水酸基数3、クラレ社製(バイオマス度0%、生分解性度0%)
GL-600:サンニックス PP-600、グリセリン/PO/EO、ポリオキシプロピレングリコール、Mn600、水酸基数3、三洋化成工業社製(バイオマス度0%、生分解性度0%)
GI3000:NISSO-PBGI-3000、ポリブタジエンポリオール、Mn3,100、水酸基数2、日本曹達社製(バイオマス度0%、生分解性度0%)
Placcel410:ポリカプロラクトンポリオール、Mn1,010、水酸基数4、ダイセル社製(バイオマス度0%、生分解性度100%)
【0118】
<ポリイソシアネート(az)>
IPDI:イソホロンジイソシアネート
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
XDI:m-キシレンジイソシアネート
【0119】
<硬化剤>
[イソシアネート硬化剤(B)]
HDI-TMP:ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、タケネートD-160N、三井化学社製
XDI-TMP:キシレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、タケネートD-110N、三井化学社製
TDI-Nu:トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、タケネートD-204、三井化学社製
[カルボジイミド硬化剤]
V-09B:カルボジイミド、カルボジライドV-09B、日清紡ケミカル社製
【0120】
<粘着付与樹脂>
A-75:スーパーエステルA-75、ロジン系樹脂、荒川化学社製(バイオマス度92%、生分解性度0%)
D-125:ペンセルD-125、ロジン系樹脂、荒川化学社製(バイオマス度85%、生分解性度0%)
【0121】
上記原料において、バイオマス度は、製造時に使用したバイオマス由来の原料の質量割合(質量%)、またはASTM D6866に基づいた含有率である。
【0122】
上記原料における生分解性は、ISO 17556、ISO 14851、ISO 14852、ISO 15985、ISO 13975、ISO 14853、ISO 14855-1、ISO 14855-2、ISO 18830、ISO 19679、ASTM D7081、およびASTM D6691等、並びにISO規格に対応するJIS規格に基づき決定した。生分解性が認められる場合、原料の生分解性度を100%とした。
【0123】
<2>ポリオール(ax’3)の製造例
(ポリオール(ax’3-1))
バイオマス由来の原料からなり、かつ生分解性原料でもあるセバシン酸と、1,3-プロパンジオールとを重合して、数平均分子量が1,000であるポリエステルポリオール(ax’3-1)を得た。ポリオール(ax’3-1)のバイオマス度は100%であり、生分解性度は100%であった。
【0124】
(ポリオール(ax’3-2))
バイオマス由来の原料からなり、かつ生分解性原料でもあるコハク酸と、1,3-プロパンジオールとを重合して、数平均分子量が800であるポリエステルポリオール(ax’3-2)を得た。ポリオール(ax’3-2)のバイオマス度は100%であり、生分解性度は100%であった。
【0125】
(ポリオール(ax’3-3))
バイオマス由来の原料からなり、かつ生分解性原料でもあるコハク酸と、1,3-プロパンジオールとを重合して、数平均分子量が200であるポリエステルポリオール(ax’3-3)を得た。ポリオール(ax’3-3)のバイオマス度は100%であり、生分解性度は100%であった。
【0126】
<3>ポリオール(ax)の製造例
(ポリオール(ax-1))
ディーンスタークトラップを設置した反応缶内に、L-乳酸100部、6-ヒドロキシカプロン酸35部、及び錫粉末0.6部を仕込んだ。これらを、150℃/50mmHgで3時間撹拌しながら水を留出させ、その後、150℃/30mmHgでさらに2時間撹拌した。次いで、この反応溶液に、ジフェニルエーテル210部を加え、150℃/35mmHgで共沸脱水反応を行い、留出した水と溶媒とを水分離器で分離して、溶媒のみを反応缶に戻した。2時間後、モレキュラシーブ3Aを充填したカラムに通してから反応缶に戻るようにして、130℃/17mmHgで10時間反応を行った。その後、反応溶液にプロパンジオール(PD)6.0部を加え、130℃/17mmHgで10時間反応を行い、反応を終了させた。
上記のようにして得た反応溶液に、脱水したジフェニルエーテル440部を加えて希釈した後、40℃まで冷却して、析出した結晶を瀘過した。この結晶に0.5N-HCl120部とエタノール120部とを加え、35℃で1時間撹拌した後に瀘過した。得られた固形物を60℃/50mmHgで乾燥して、ポリオール(ax-1)を得た。このポリオール(ax-1)の数平均分子量(Mn)は1,700であった。
【0127】
(ポリオール(ax-2、ax-3))
配合量(質量部)を表1に示すとおりに変更し、ポリオール(ax-1)の製造と同様にして、それぞれポリオール(ax-2、ax-3)を得た。
得られたポリオールの数平均分子量(Mn)を表1に示す。
【0128】
(ポリオール(ax-4))
撹拌機、温度計、流出用冷却機を装備した反応缶内に、表1に示すように、L-ラクチド100部、ε-カプロラクトン400部、P-1010 500部、および触媒として2-エチルオクチル酸錫0.1部を仕込んだ。これら材料を、窒素雰囲気の常圧下で、5時間かけて170℃まで昇温させた後、3時間反応させ、留出する水を系外に除去し、重合反応を行った。
その後、10mmHgまで減圧しながら、残存する未反応の単量体を3時間かけて除去し、ポリオール(ax-4)を得た。このポリオール(ax-4)の数平均分子量(Mn)は、2,000であった。
【0129】
(ポリオール(ax-5~ax-55、axc-1~4))
配合量(質量部)を表1に示すとおりに変更した以外は、ポリオール(ax-4)の製造と同様にして、それぞれポリオール(ax-5~ax-55、axc-1~axc-4)を得た。得られたポリオールの数平均分子量(Mn)を表1に示す。
【0130】
なお、表1において、それぞれの単量体の含有率は、ポリオール(ax)を構成する単量体混合物の全量(100質量%)を基準とする含有率(質量%)である。単量体(ax’1)/単量体(ax’2)は、単量体(ax’1)の含有量と単量体(ax’2)の含有量の比率である。
【0131】
【表1-1】
【0132】
【表1-2】
【0133】
【表1-3】
【0134】
【表1-4】
【0135】
【表1-5】
【0136】
<4>水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)の製造例
(ウレタンプレポリマー(A-1))
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコにポリオール(ax-1)を100部、F-1010を12.1部、HDIを8.7部、触媒としてジオクチル錫ジラウレートを0.04部、およびトルエンを不揮発分が60%となる量で仕込んだ。これらの材料を100℃まで徐々に昇温して、5時間反応を行った。IRチャートのNCO特性吸収(2,270cm-1)が消失していることを確認した後に、25℃まで冷却し、アセチルアセトン0.08部を加え、反応を終了した。
このようにして得たウレタンプレポリマー(A-1)の重量平均分子量(Mw)は50,000、ガラス転移温度(Tg)は-10℃であった。
【0137】
(ウレタンプレポリマー(A-2~A-56、AC-1~AC-3))
ウレタンプレポリマー(A-1)の材料および配合量(質量部)を表2に示すとおりに変更した以外は、ウレタンプレポリマー(A-1)の製造と同様し、不揮発分60%となるようにトルエンを調整して、それぞれウレタンプレポリマー(A-2~56、AC-1~3)を得た。得られたウレタンプレポリマーの重量平均分子量(Mw)、ガラス転移温度(Tg)を表2に示す。
【0138】
なお、表2において、「NCO/OH」の値は、水酸基を有するウレタンプレポリマー(A)を製造する際のポリイソシアネート(ay)のイソシアネート基(NCO)およびポリオール(ax)の水酸基(OH)とのモル比(NCO/OH)である。
【0139】
【表2-1】
【0140】
【表2-2】
【0141】
【表2-3】
【0142】
【表2-4】
【0143】
<5>粘着剤組成物及び粘着シートの製造例
(実施例1)
ウレタンプレポリマー(A-1)を100部、イソシアネート硬化剤(B)として、HDI-TMPを5.0部、および溶剤として酢酸エチルを不揮発分50%となるように配合し、ディスパーで撹拌して、粘着剤組成物を得た。
【0144】
基材として、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)(「ルミラーT-60」、東レ社製)を準備した。コンマコーター(登録商標)を用いて、上記基材上に、先に調製した粘着剤組成物を塗工し、塗工層を形成した。塗工は、塗工速度3m/分、幅30cmで乾燥後厚みが25μmになるように実施した。次に、形成された塗工層を、乾燥オーブンを使用して100℃1分間の条件で乾燥して、粘着剤層を形成した。この粘着剤層の上に、厚さ38μmの市販の剥離シートを貼り合わせ、さらに23℃、50%RHの条件下で1週間養生を行うことによって、粘着シート1を得た。
【0145】
(実施例2~82、比較例1~4)
実施例1の材料および配合量(質量部)を表3に示すとおりに変更し、これ以外は実施例1と同様にして、それぞれ実施例2~82、比較例1~4の粘着剤組成物および粘着シートを得た。
【0146】
<6>粘着剤組成物の特性評価
実施例1~82、及び比較例1~4で得た粘着剤組成物について以下の方法にしたがいバイオマス度、生分解性原料の使用比率を算出した。
【0147】
<粘着剤のバイオマス度>
粘着剤のバイオマス度とは、粘着剤の総質量に対し、粘着剤の製造時に使用したバイオマス由来の原料の質量割合であり、以下の計算式(1)にしたがって算出した。なお、各質量は不揮発分換算である。バイオマス度は5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、25%以上がさらに好ましい。
【0148】
計算式(1):
粘着剤のバイオマス度(質量%)
=100×[バイオマス由来の原料の質量(g)]/[粘着剤の総質量(g)]
【0149】
<粘着剤の生分解性原料の使用比率>
粘着剤の生分解性原料の使用比率とは、粘着剤の総質量に対し、粘着剤の製造時に使用した生分解性の原料の質量割合であり、以下の計算式(2)にしたがって算出した。なお、各質量は不揮発分換算である。使用比率は60%以上であることが好ましい。
【0150】
計算式(2):
粘着剤の生分解性原料の使用比率
=100×[生分解性原料の使用質量%]/[粘着剤100質量%]
【0151】
<7>粘着シートの特性評価
実施例1~82、及び比較例1~4で得た粘着剤組成物を使用して製造した粘着シートについて、以下の方法にしたがい、各種特性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0152】
<粘着特性>
[再剥離力]
実施例および比較例で製造した粘着シート1を、幅25mm、長さ100mmの大きさに切り取り、試料として使用した。この試料を、ステンレス板(SUS304)に対して、23℃、50%RH雰囲気下で貼着した。次いで、JIS0237に準じて2Kgロール圧着し、23℃、50%RH雰囲気下で24時間放置した。その後、引張試験機を用い、2通りの剥離速度で粘着シートをステンレス板から剥離(180度ピール)し、糊残りなどの外観を比較した。剥離速度は、低剥離速度(0.3m/分)、及び高剥離速度(30m/分)とした。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
A:SUS板を汚染せず粘着シートを剥離できた。優秀。
B:SUS板を極わずかに汚染した。良好。
C:SUS板をわずかに汚染した。実用可。
D:SUS板を汚染した。実用不可。
【0153】
[粘着力]
実施例および比較例で製造した粘着シート1を幅25mm、長さ100mmの大きさに切り取り、試料として使用した。次いで、23℃、50%RH雰囲気下、JIS Z 0237に準拠して、試料から剥離シートを剥がし、露出した粘着剤層を、研磨したステンレス(SUS)板に貼着した。2kgロールで1往復圧着し、貼着24時間後に、引張試験機を使用して、剥離速度300mm/min、剥離角度180°の条件で、粘着力(N/25mm)を測定した。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
A:粘着力が15N/25mm以上。優秀。
B:粘着力が10N/25mm以上、15N/25mm未満。良好。
C:粘着力が5N/25mm以上、10N/25mm未満。実用可。
D:粘着力が5N/25mm未満。実用不可。
【0154】
[保持力]
実施例および比較例で製造した粘着シート1から剥離シートを剥がし、露出した粘着剤層の部分(粘着シートの先端部、幅25mm、長さ25mm)を、研磨したステンレス(SUS)板に貼着し、2kgロールで1往復圧着した。その後、80℃の雰囲気で1kgの荷重をかけ、7万秒にわたって保持した。評価は、SUS板から試料が落下した場合はその秒数を示す。試料が落下しなかった場合は、SUS板に対する粘着剤層の接着部(粘着シートの先端部)が、荷重によって下にずれたmm数を示す。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
A:試料のずれが2mm未満。優秀。
B:試料のずれが2mm以上5mm未満。良好。
C:試料のずれが5mm以上で落下しなかった。実用可。
D:試料が落下した。実用不可。
【0155】
[初期硬化性]
基材として厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)(「ルミラーT-60」、東レ社製)を準備した。コンマコーター(登録商標)を用い、基材上に、実施例および比較例で得た各粘着剤組成物を塗工速度30m/分、幅150cmで乾燥後厚みが25μmになるように塗工し、塗工層を形成した。次に、形成された塗工層を、乾燥オーブンを使用して100℃1分間の条件で乾燥して、粘着剤層を形成した。この粘着剤層の上に、厚さ38μmの市販の剥離シートを貼り合わせ、さらに23℃、50%RHの条件下で1週間養生を行うことで、粘着シート2を得た。
この粘着シート2について、剥離ライナーを剥がした後の粘着剤層表面(塗工面)の状態を指触タック試験にて検討し、指への糊残りの有無を評価した。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
A:指へ粘着剤が転着しなかった。優秀。
B:指へ粘着剤が極わずかに転着した。良好。
C:指へ粘着剤がわずかに転着した。実用可。
D:指へ粘着剤が転着した。実用不可。
【0156】
<耐湿熱性>
[基材汚染性]
実施例および比較例で製造した粘着シート1を幅25mm、長さ100mmの大きさに切り出し試料として使用した。この試料を、ステンレス板(SUS304)に対して23℃、50%RH雰囲気下で貼着し、さらにJIS0237に準じて2Kgロール圧着した。次いで、60℃、95%RH雰囲気下に72時間放置した後、粘着シートを剥離し、剥離後のSUS板の表面を目視で評価することによって、粘着剤層の再剥離性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
A:SUS板を汚染しなかった。優秀。
B:SUS板を極わずかに汚染した。良好。
C:SUS板をわずかに汚染した。実用可。
D:SUS板を汚染した。実用不可。
【0157】
<低温耐性>
[基材密着性]
実施例および比較例で製造した粘着シート1を幅25mm、長さ100mmの大きさに切り取り、試料とした。次いで、-5℃雰囲気下、JIS Z 0237に準拠して、試料から剥離シートを剥がし、露出した粘着剤層を研磨したステンレス板(SUS304)に貼り付け、さらに2kgロールで1往復圧着した。貼着24時間後に、引張試験機を使用して、剥離速度300mm/min、剥離角度180°の条件で、粘着力(N/25mm)を測定した。評価基準は以下のとおりである。
(評価基準)
A:粘着力が15N/25mm以上。優秀。
B:粘着力が10N/25mm以上、15N/25mm未満。良好。
C:粘着力が5N/25mm以上、10N/25mm未満。実用可。
D:粘着力が5N/25mm未満。実用不可。
【0158】
【表3-1】
【0159】
【表3-2】
【0160】
【表3-3】
【0161】
表3に示すように本発明の粘着剤組成物(実施例)は、特定のウレタンプレポリマー(A)を含んでいることで、粘着剤のバイオマス度および粘着剤における生分解性原料の使用比率が高くても、粘着特性を充分に満たし、さらに耐湿熱試験での基材汚染性に優れ、加えて低温時の基材密着性にも優れていることが確認できた。
特に、低温時の基材密着性については、ラクチド体(ax’1-2)のなかでも、L-ラクチドおよびD-ラクチドを併用した場合、またはDL-ラクチド、あるいはmeso-ラクチドを使用した場合に、より優れた基材密着性が得られることが確認できた。さらに、meso-ラクチドを使用した場合には、再剥離性についても特に優れた結果が得られることが確認できた。
【0162】
一方、比較例の粘着剤組成物では、所望とする粘着特性、耐湿熱試験での基材汚染性、低温時の基材密着性を得ることが困難であった。比較例1及び2は、ポリオール(ax)の調製において、乳酸単位を有する単量体(ax’1)と、ラクトン単位および脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位の少なくともいずれかを有する単量体(ax’2)とを併用していない。また、比較例3は、ポリオール(ax)の数平均分子量が本発明で規定する範囲外となる。
以上のことから、本発明の粘着剤組成物は、特定のウレタンプレポリマー(A)の使用によって、所望とする粘着特性、耐湿熱試験での基材汚染性、低温時の基材密着性を実現できることが分かる。