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特開2024-81835糖リン脂質の製造方法、及び糖リン脂質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081835
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】糖リン脂質の製造方法、及び糖リン脂質
(51)【国際特許分類】
   C07H 11/04 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
C07H11/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195299
(22)【出願日】2022-12-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年7月10日に30th INTERNATIONAL CARBOHYDRATE SYMPOSIUM BOOK OF ABSTRACTSに掲載 ウェブサイトのアドレス:https://ics2022.ciente.live/wp-content/uploads/2022/Book-of-abstracts-ICS-2022.pdf 令和4年7月10日~15日にウェブ開催された30th INTERNATIONAL CARBOHYDRATE SYMPOSIUMにて発表 ウェブサイトのアドレス:https://ics2022.ciente.live/ 令和4年9月29日~10月1日に開催した第41回日本糖質学会年会にて公開 令和4年9月7日に発行された第41回日本糖質学会年会要旨集にて公開 令和4年10月13日に発行した第16回東北糖鎖研究会プログラム・抄録集にて公開 令和4年10月15日~16日に開催した第16回東北糖鎖研究会にて公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業「グルコース関連脂質の作動機序を基軸とした疾患メカニズムの解明」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 一郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 希実
(72)【発明者】
【氏名】狩野 航輝
【テーマコード(参考)】
4C057
【Fターム(参考)】
4C057AA03
4C057BB02
4C057CC03
4C057DD01
4C057GG06
(57)【要約】
【課題】水溶液中で、一段階の反応で簡便に糖リン脂質を合成する方法を提供し、さらにはこの方法によって新規の糖リン脂質を提供する
【解決手段】糖と、リン脂質とを、下記一般式(2)で表される縮合剤の存在下で縮合させる縮合工程を含む、糖リン脂質の製造方法。

(一般式(2)中、R21、R22、R23及びR24は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基及び置換基を有してもよいアリール基からなる群から選択され、Xはハロゲン原子であり、Yは陰イオンである)
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される糖と、
【化1】

(一般式(1)中、R11はヒドロキシ基又はアセトアミド基であり、
12、R13及びR14は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、カルボキシメチル基、カルボアルコキシメチル基、アミノ基、アセトアミド基、アシルアミノ基、カルボキシ基、アミド基、PO 2-、SO 、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、アシロキシ基、アジド基、単糖の糖残基、オリゴ糖の糖残基、及び多糖の糖残基からなる群から選択される)
リン脂質とを、
下記一般式(2)で表される縮合剤の存在下で縮合させる縮合工程を含む、糖リン脂質の製造方法。
【化2】

(一般式(2)中、R21、R22、R23及びR24は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基及び置換基を有してもよいアリール基からなる群から選択され、Xはハロゲン原子であり、Yは陰イオンである)
【請求項2】
前記縮合工程で使用される溶媒が、下記一般式(3)で表されるニトリル系化合物と、水とを含む、請求項1に記載の製造方法。
【化3】

(一般式(3)中、R31は炭素数が2以上であるアルキル基、アラルキル基及びアリール基からなる群から選択される)
【請求項3】
前記ニトリル系化合物に対する、水の比率[水/ニトリル系化合物(v/v)]が、1/9以上9/1である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記リン脂質が、下記一般式(4)で表されるグリセロリン脂質である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【化4】

(一般式(4)中、R41及びR42は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、置換基を有してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアルケニル基から選択され、Aは水素イオン、アルカリ金属イオン又はトリエチルアンモニウムイオンである)
【請求項5】
下記一般式(A)で表される糖リン脂質であって、
【化5】

(一般式(A)中、Ra1はヒドロキシ基又はアセトアミド基であり、
a2、Ra3及びRa4は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、カルボキシメチル基、カルボアルコキシメチル基、アミノ基、アセトアミド基、アシルアミノ基、カルボキシ基、アミド基、PO 2-、SO 、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、アシロキシ基、アジド基、単糖の糖残基、オリゴ糖の糖残基、及び多糖の糖残基からなる群から選択され、
a5及びRa6は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、置換基を有してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアルケニル基から選択され、
は水素イオン、アルカリ金属イオン又はトリエチルアンモニウムイオンである)
以下の(a)~(d)のうち少なくとも1つの要件を満たす、糖リン脂質。
(a)Ra1がアセトアミド基である。
(b)Ra2、Ra3及びRa4のうち少なくとも1つが、単糖の糖残基、オリゴ糖の糖残基、及び多糖の糖残基からなる群から選択される。
(c)Ra2、Ra3及びRa4のうち少なくとも1つが、フッ素原子又はアジド基である。
(d)Ra5及びRa6のうち少なくとも1つが、蛍光基を有する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、糖リン脂質の製造方法、及び糖リン脂質に関する。
【背景技術】
【0002】
分子内に糖、リン酸エステル、脂肪酸を有する糖リン脂質は、生体内に含まれる微量糖脂質であり、近年その生理活性が注目されている。例えば、ホスファチジルグルコシド(PtdGlc)は胚の発生過程で中枢神経系に発現する糖リン脂質であり、痛風の治療薬としても知られている。
【0003】
非特許文献1では、ヒドロキシ基の保護・脱保護を含む糖リン脂質の合成方法が報告されている。非特許文献2では、酵素による糖リン脂質の合成方法が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】P. Greimel, Y. Ito, Tetrahedron Lett. 2008, 49, 3562-3566.
【非特許文献2】A. Inoue, M. Adachi, J. Damnjanovic, H. Nakano, Y. Iwasaki, ChemistrySelect 2016, 1, 4121-4125.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1で報告されている糖リン脂質の合成方法では、ヒドロキシ基の保護・脱保護を含む煩雑な合成工程や、各段階での有機溶媒による精製が必要となることから、効率性や環境適応性において課題があった。非特許文献2で報告されている酵素による合成方法では、目的物を単一で得られないことに加え、化学的な処理方法で精製を行うため、酵素法のメリットを活かしきれていないのが現状である。
【0006】
本発明は上記問題を解決するものであり、水溶液中で、一段階の反応で簡便に糖リン脂質を合成する方法を提供し、さらにはこの方法によって新規の糖リン脂質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、糖と、リン脂質とを、特定の式で表される縮合剤の存在下で縮合させる縮合工程を含む、糖リン脂質の製造方法により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を成功させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]-[5]に関する。
[1]下記一般式(1)で表される糖と、
【化1】

(一般式(1)中、R11はヒドロキシ基又はアセトアミド基であり、
12、R13及びR14は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、カルボキシメチル基、カルボアルコキシメチル基、アミノ基、アセトアミド基、アシルアミノ基、カルボキシ基、アミド基、PO 2-、SO 、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、アシロキシ基、アジド基、単糖の糖残基、オリゴ糖の糖残基、及び多糖の糖残基からなる群から選択される)
リン脂質とを、
下記一般式(2)で表される縮合剤の存在下で縮合させる縮合工程を含む、糖リン脂質の製造方法。
【化2】

(一般式(2)中、R21、R22、R23及びR24は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基及び置換基を有してもよいアリール基からなる群から選択され、Xはハロゲン原子であり、Yは陰イオンである)
[2]前記縮合工程で使用される溶媒が、下記一般式(3)で表されるニトリル系化合物と、水とを含む、[1]に記載の製造方法。
【化3】

(一般式(3)中、R31は炭素数が2以上であるアルキル基、アラルキル基及びアリール基からなる群から選択される)
[3]前記ニトリル系化合物に対する、水の比率[水/ニトリル系化合物(v/v)]が、1/9以上9/1である、[2]に記載の製造方法。
[4]前記リン脂質が、下記一般式(4)で表されるグリセロリン脂質である、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
【化4】

(一般式(4)中、R41及びR42は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに
独立に、置換基を有してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアルケニル基から選択され、Aは水素イオン、アルカリ金属イオン又はトリエチルアンモニウムイオンである)
[5]下記一般式(A)で表される糖リン脂質であって、
【化5】

(一般式(A)中、Ra1はヒドロキシ基又はアセトアミド基であり、
a2、Ra3及びRa4は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、カルボキシメチル基、カルボアルコキシメチル基、アミノ基、アセトアミド基、アシルアミノ基、カルボキシ基、アミド基、PO 2-、SO 、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、アシロキシ基、アジド基、単糖の糖残基、オリゴ糖の糖残基、及び多糖の糖残基からなる群から選択され、
a5及びRa6は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、置換基を有してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアルケニル基から選択され、
は水素イオン、アルカリ金属イオン又はトリエチルアンモニウムイオンである)
以下の(a)~(d)のうち少なくとも1つの要件を満たす、糖リン脂質。
(a)Ra1がアセトアミド基である。
(b)Ra2、Ra3及びRa4のうち少なくとも1つが、単糖の糖残基、オリゴ糖の糖残基、及び多糖の糖残基からなる群から選択される。
(c)Ra2、Ra3及びRa4のうち少なくとも1つが、フッ素原子又はアジド基である。
(d)Ra5及びRa6のうち少なくとも1つが、蛍光基を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、水溶液中で、一段階の反応で簡便に糖リン脂質を合成する方法を提供できる。さらに、新規の糖リン脂質を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1で得られた糖リン脂質のH-NMR分析結果である。
図2】(A)プロファイルスキャンモード及び(B)SIMモードによる、実施例1で得られた糖リン脂質のLCMS分析結果である。
図3】実施例6で得られた糖リン脂質の各段階における収率である。
図4】参考例3及び4で得られた糖リン脂質の、SIMモードによるLCMS分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0012】
<糖リン脂質の製造方法>
本発明の一実施形態である糖リン脂質の製造方法(以下、単に「糖リン脂質の製造方法」ともいう)は、糖と、リン脂質とを、特定の式で表される縮合剤の存在下で縮合させる縮合工程を含む。後述する糖リン脂質(A)は、本実施形態の糖リン脂質の製造方法によって製造することが好ましい。
【0013】
[糖]
糖リン脂質の製造方法で使用する糖(以下、単に「糖」ともいう)は、下記一般式(1)で表される。
【0014】
【化6】

(一般式(1)中、R11はヒドロキシ基又はアセトアミド基であり、R12、R13及びR14は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、カルボキシメチル基、カルボアルコキシメチル基、アミノ基、アセトアミド基、アシルアミノ基、カルボキシ基、アミド基、PO 2-、SO 、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、アシロキシ基、アジド基、単糖の糖残基、オリゴ糖の糖残基、及び多糖の糖残基からなる群から選択される)
【0015】
一般式(1)において、「アシル基(アシルアミノ基が有するアシル基、及びアシロキシ基が有するアシル基部分も含む)」は、カルボン酸等のオキソ酸から誘導された基を包含していてよく、例えば、置換されていてもよい炭化水素基-CO-基等のカルボン酸アシル基、より具体的には、置換されていても良いC1-10アシル基を指すものであってよい。
【0016】
一般式(1)において、「アルキル基」は、直鎖又は分岐鎖のいずれであってもよく、環式のものであってもよい。アルキル基は、例えば、C1-22アルキル(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチ
ル、イソペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デカニル
、ヘキサデカニル、エイコサニル等)や、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル等の環状アルキル基等が挙げられる。アルキル基は、好ましくは、C1-6アルキル(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert-ブチル、ペンチル等)であり、さらに好ましくは、C1-4アルキル(例えば、メ
チル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert-ブチル等)である。
【0017】
一般式(1)において、「糖残基」は、糖の修飾物残基が包含されていても良い。糖の修飾物とは、天然に存在するものから単離・精製する過程で修飾されたもの、酵素的に修飾されたもの、化学的に修飾されたもの、微生物を含めて生物学的な手法で修飾されたも
のであってよく、糖科学の分野で知られた修飾が含まれ、例えば、加水分解、酸化還元、エステル化、アシル化、アミノ化、エーテル化、ニトロ化、脱水反応、配糖化等による修飾が包含されていてよい。
【0018】
一般式(1)中、R12は好ましくはヒドロキシ基、フッ素原子又はアジド基であり、R13は好ましくはヒドロキシ基であり、R14は好ましくはヒドロキシメチル基又はアジド基である。
【0019】
一般式(1)で表される糖としては、当該物質の起源、由来によって特に限定されることなく、天然から得られるもの、遺伝子工学的に動物細胞、植物細胞、微生物等により合成したもの、酵素的に製造されたもの、醗酵により製造されたもの、あるいは人工的に化学合成されたもの等が包含されてよい。また、一般式(1)で表される糖としては、単糖、二糖、オリゴ糖、及び多糖が包含されてよく、フッ素原子又はアジド基を有する単糖、二糖、オリゴ糖、及び多糖であってもよい。
【0020】
単糖は、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、グルコサミン、N-アセチルグルコサミン、ガラクトサミン、N-アセチルガラクトサミン、マンノサミン、N-アセチルマンノサミン、フルクトース、グルクロン酸、イズロン酸等が挙げられる。
【0021】
二糖は、例えば、マルトース、イソマルトース、ラクトース、ラクトサミン、N-アセチルラクトサミン、セロビオース、メリビオース、N,N’-ジアセチルキトビオース、ヒアルロン酸二糖、グリコサミノグリカン二糖等が挙げられる。
【0022】
オリゴ糖は、通常2~30個の単糖から構成される糖、代表的には、2~20個の単糖から構成される糖であり、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、グルコサミン、N-アセチルグルコサミン、及びフルクトースからなる群から選択される1成分から構成されるホモオリゴマー、あるいは、2成分以上から構成されるヘテロオリゴマーが挙げられる。具体的には、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ラクトオリゴ糖、ラクトサミンオリゴ糖、N-アセチルラクトサミンオリゴ糖、セロオリゴ糖、メリビオオリゴ糖、N-アセチルキトトリオース、N-アセチルキトテトラオース、N-アセチルキトペンタオース等が挙げられる。
【0023】
多糖は、動物、植物(海藻を含む)、昆虫、微生物等広範囲な生物で見いだされているものが挙げられ、例えば、シアロ複合型糖鎖、N結合型糖鎖、O結合型糖鎖、グリコサミノグリカン、澱粉、アミロース、アミロペクチン、セルロース、キチン、グリコーゲン、アガロース、アルギン酸、ヒアルロン酸、イヌリン、グルコマンナン等が挙げられる。
【0024】
[リン脂質]
糖リン脂質の製造方法で使用するリン脂質(以下、単に「リン脂質」ともいう)は、一般式(4)で表されるグリセロリン脂質であってもよく、スフィンゴリン脂質であってもよい。
【0025】
【化7】

(一般式(4)中、R41及びR42は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、置換基を有してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアルケニル基から選択され、Aは水素イオン又はアルカリ金属イオンである)
【0026】
一般式(4)中、R41及びR42は、互いに独立に、好ましくは炭素数2~32のアルキル基又はアルケニル基であり、より好ましくは炭素数6~28のアルキル基又はアルケニル基であり、さらに好ましくは炭素数10~24のアルキル基又はアルケニル基である。Aは、好ましくは水素イオン、ナトリウムイオン又はトリエチルアンモニウムイオンである。
【0027】
一般式(4)において、アルキル基又はアルケニル基は、置換基を有していてもよい。置換基は特に限定されないが、例えば、蛍光基等が挙げられる。
【0028】
蛍光基とは、光が照射されてそのエネルギーを吸収することで電子が励起し、基底状態に戻る際に余分なエネルギーを電磁波として放出する基をいう。蛍光基は特に限定されないが、ローダミン系、クマリン系、オキサジン系、カルボピロニン系、シアニン系、ピロメセン系、ナフタレン系、ビフェニル系、アントラセン系、フェナントレン系、ピレン系、カルバゾール系、Cy系、EvoBlue系、フルオレセイン系又はこれらの誘導体等が挙げられる。
【0029】
[縮合剤]
糖リン脂質の製造方法で使用する縮合剤(以下、単に「縮合剤」ともいう)は、下記一般式(2)で表される。
【0030】
【化8】

(一般式(2)中、R21、R22、R23及びR24は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基及び置換基を有してもよいアリール基からなる群から選択され、Xは
ハロゲン原子であり、Yは陰イオンである)
【0031】
一般式(2)において、「アルキル基」は、一般式(1)における「アルキル基」と同様の構造を取ることができる。
【0032】
一般式(2)において、「アルケニル基」は、直鎖又は分岐鎖のいずれであってもよく、環式のものであってもよい。アルキル基は、例えば、C2-24アルケニル(ビニル、アリル、イソプロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、2-メチル-2-プロペニル、1-メチル-2-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル等)等が挙げられる。
【0033】
一般式(2)において、「アリール基」は、例えば、C6-14アリール(フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、2-ビフェニリル、3-ビフェニリル、4-ビフェニリル、2-アンスリル、3-インデニル、5-フルオレニル等)等が挙げられる。
【0034】
一般式(2)において、「ハロゲン原子」は、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0035】
一般式(2)において、「陰イオン」は、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオンや、OH、BF 、PF 等が挙げられる。
【0036】
縮合剤は、ハロホルムアミジニウム誘導体であり、例えば、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウム塩、1-(クロロ-1-ピロリジニルメチレン)ピロリジニウムヘキサフルオロホスファート、1-(クロロ-1-ピロリジニルメチレン)ピロリジニウムテトラフルオロボラート、クロロ-N,N,N’,N’-テトラメチルホルムアミジニウムヘキサフルオロホスファート、N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(N-スクシンイミジル)ウロニウムテトラフルオロボラート、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラート、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラート、(4R,5R)-2-クロロ-1,3-ジメチル-4,5-ジフェニル-1-イミダゾリニウムクロリド、(4S,5S)-2-クロロ-1,3-ジメチル-4,5-ジフェニル-1-イミダゾリニウムクロリド、N,N,N’,N’-テトラメチルクロロフォルムアミジニウムクロリド(N,N,N',N'-tetramethylchloroformamidiniumchloride)、クロロ-N,N,N’,N’-ビス(テトラメチレン)フォルムアミジニウムヘキサフルオロホスファート(chloro-N,N,N',N'-bis(tetramethylene)formamidiniumhexafluorophosphate)、2-クロロ-1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジニウムクロリド等が挙げられる。
【0037】
中でも縮合剤は、好ましくは、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウム塩であり、例えば、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(2-chloro-1,3-dimethylimidazoliniumchloride; DMC)、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロホスファート(2-chloro-1,3-dimethylimidazolinium hexafluorophosphate; CIP)、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムテトラフルオロボラート(2-Chloro-1,3-dimethylimidazolinium Tetrafluoroborate; CIB)等が挙げられる。
縮合剤は、より好ましくは、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(DMC)である。
【0038】
[縮合工程]
糖リン脂質の製造方法に含まれる縮合工程(以下、単に「縮合工程」ともいう)では、糖と、リン脂質とを、縮合剤の存在下で縮合させる。
【0039】
縮合工程で使用される溶媒は、反応が進行する限り特に限定されないが、好適には水性溶媒を使用できる。水性溶媒は、例えば、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、シクロヘキサノール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、ベンジルアルコール等のアルコール類;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、シクロヘキシルメチルエーテル、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルtert-ブタノール等のエーテル類;メチルエチルケトン、フルフラール、メチルイソブチルケトン、メシチルオキシド、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン等のケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系化合物;ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等のスルホキシド類;ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、炭酸ジエチル、炭酸グリコール等のエステル類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、無水酢酸等の有機酸類;ヘキサメチルホスホロトリアミド、ピリジン、キノリン等の複素環化合物;アニリン、N-メチルアニリン等の芳香族アミン類;ニトロ化合物等が挙げられる。
これらの溶媒は単独で用いることもできるし、また必要に応じて二種又はそれ以上の多種類を適当な割合で混合して用いてもよい。
【0040】
縮合工程で使用される溶媒は、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル等のニトリル系化合物と、水とを含むことが好ましく、下記一般式(3)で表されるニトリル系化合物と、水とを含むことがさらに好ましい。
【0041】
【化9】

(一般式(3)中、R31は炭素数が2以上であるアルキル基、アラルキル基及びアリール基からなる群から選択される)
【0042】
一般式(3)において、「アルキル基」は、例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0043】
一般式(3)において、「アラルキル基」は、例えば、ベンジル基等が挙げられる。
【0044】
一般式(4)において、「アリール基」は、例えば、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、2-エトキシフェニル基、3-エトキシフェニル基、4-エトキシフェニル基等の1置換フェニル基や、2,5-ジメチルフェニル基、2,4-ジメトキシフェニル基、2,6-ジメトキシフェニル基等の2置換フェニル基等が挙げられる。
【0045】
一般式(3)で表されるニトリル系化合物は、例えば、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、イソバレロニトリル、トリメチルアセトニトリル、ヘキサニトリル、ヘプタニトリル、フェニルアセトニトリル、ベンゾニトリル、2-トルニトリル、3-トルニトリル、4-トルニトリル、2-メトキシベンゾニトリル
、3-メトキシベンゾニトリル、4-メトキシベンゾニトリル、2-エトキシベンゾニトリル、3-エトキシベンゾニトリル、4-エトキシベンゾニトリル、2,5-ジメチルベンゾニトリル、2,4-ジメトキシベンゾニトリル、2,6-ジメトキシベンゾニトリル等が挙げられる。
【0046】
中でも、一般式(3)で表されるニトリル系化合物は、好ましくは、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル等である。
【0047】
縮合工程で使用される溶媒が、一般式(3)で表されるニトリル系化合物と、水とを含むことで、得られる糖リン脂質の収率をより向上させることができる。
【0048】
一般式(3)で表されるニトリル系化合物に対する、水の比率[水/ニトリル系化合物(v/v)]は1/9以上9/1であってもよく、1/5~5/1であってもよく、1/3~3/1であってもよい。
糖リン脂質の収率向上の観点では、比率[水/ニトリル系化合物(v/v)]は、好ましくは1/5~5/1であり、より好ましくは2/1~1/2であり、さらに好ましくは1/1~1/2である。
後述するβ型の糖リン脂質の選択性向上の観点では。比率[水/ニトリル系化合物(v/v)]は、好ましくは1/1~9/1であり、より好ましくは2/1~9/1であり、さらに好ましくは5/1~9/1である。
【0049】
縮合工程で使用される溶媒は、さらにアミンを添加することが好ましい。アミンとしては、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、第四級アミンのいずれであってもよいが、例えば、脂肪族炭化水素残基、芳香族炭化水素残基、複素環残基を有するもの等が挙げられる。脂肪族炭化水素残基としては、直鎖であっても分岐鎖のものであってよく、飽和又は不飽和のものであってよく、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基などが挙げられる。芳香族炭化水素残基としては、単環式のものあるいは二環又はそれ以上が縮合したものであってもよく、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。複素環残基としては、硫黄原子、酸素原子、及び窒素原子からなる群から選択される1個以上有するものであってよく、ピリジル基、イミダゾリル基、チアゾリル基、キノリニル基などが包含されてよい。アミンとしては、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリン、ピペラジン、ピロリジン等も包含されてよい。アミンの代表的なものとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルメチルアミン、ジメチルエチルアミン、n-ブチルジメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等の脂肪族炭化水素残基を有する第三級アミン類又はジアミン類等が挙げられる。
【0050】
縮合工程において、糖1molに対する縮合剤の添加量は、好ましくは0.5mol以上10mol以下であり、より好ましくは1mol以上7mol以下であり、さらに好ましくは1.5mol以上5mol以下である。
糖1molに対する縮合剤の添加量が上記範囲内であることで、得られる糖リン脂質の収率をより向上させることができる。
【0051】
縮合工程において、糖1molに対するアミンの添加量は、好ましくは1mol以上30mol以下であり、より好ましくは3mol以上20mol以下であり、さらに好ましくは5mol以上15mol以下である。
糖1molに対するアミンの添加量が上記範囲内であることで、得られる糖リン脂質の収率をより向上させることができる。
【0052】
縮合工程において、糖1molに対するリン脂質の添加量は、好ましくは0.02mo
l以上10mol以下であり、より好ましくは0.04mol以上8mol以下であり、さらに好ましくは0.06mol以上5mol以下である。
糖1molに対するリン脂質の添加量が上記範囲内であることで、得られる糖リン脂質の収率をより向上させることができる。
【0053】
縮合工程における反応温度及び反応時間は、反応が進行する限り特に限定されない。反応温度は、例えば、0℃~80℃とすることができ、0℃~40℃とすることができ、0℃~10℃とすることができる。反応時間は、例えば、1分間~24時間とすることができ、10分間~5時間とすることができ、20分間~3時間とすることができる。
【0054】
縮合工程では、リン脂質を含む溶液に対し、糖及び縮合剤を段階的に添加することが好ましく、糖、縮合剤及びアミンを段階的に添加することがより好ましい。段階的な添加において、例えば、2~10段階で添加することができ、2~7段階で添加することができ、3~5段階で添加することができる。各段階の間隔は、例えば、1~60分間隔とすることができ、5~45分間隔とすることができ、7~30分間隔とすることができる。
リン脂質を含む溶媒に対し、糖及び縮合剤を段階的に添加して反応を進行させることで、得られる糖リン脂質の収率をより向上させることができる。
【0055】
[精製工程]
糖リン脂質の製造方法は、縮合工程の後に、反応液から糖リン脂質を単離精製する精製工程をさらに含んでもよい。
精製工程では、常法に従って反応液から糖リン脂質を単離精製することができ、濃縮、減圧濃縮、蒸留、分留、溶媒抽出、液性変換、転溶、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、カラムクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー、結晶化、再結晶等により、単離精製することができる。
【0056】
精製工程では、例えば、縮合工程後に、クロロホルム、トリエチルアミン、メタノール等の有機溶媒で反応液から糖リン脂質を抽出してもよい。さらに必要により、シリカゲルカラムやゲルろ過カラム等を用いて精製した後、MALDI-TOF-MSで糖リン脂質を含むフラクションを回収し、減圧等によって溶媒を留去し濃縮することにより、糖リン脂質を得てもよい。
【0057】
<糖リン脂質(A)>
本発明の一実施形態である糖リン脂質(以下、単に「糖リン脂質(A)」ともいう)は、下記一般式(A)で表される糖リン脂質であって、
【化10】

(一般式(A)中、Ra1はヒドロキシ基又はアセトアミド基であり、Ra2、Ra3及びRa4は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、水素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基、ヒドロキシメチル基、カルボキシメチル基、カルボアルコキシメチル基、アミノ基、アセトアミド基、アシルアミノ基、カルボキシ基、アミド基、PO 2-、SO 、アルキル基、アシル基、アルコキシ基、アシロキシ基、アジド基、単糖の糖残基、オリゴ糖の糖残基、及び多糖の糖残基からなる群から選択され、Ra5及びRa6は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに独立に、置換基を有してもよいアルキル基又は置換基を有してもよいアルケニル基から選択され、Bは水素イオン、アルカリ金属イオン又はトリエチルアンモニウムイオンである)
以下の(a)~(d)のうち少なくとも1つの要件を満たす。
(a)Ra1がアセトアミド基である。
(b)Ra2、Ra3及びRa4のうち少なくとも1つが、単糖の糖残基、オリゴ糖の糖残基、及び多糖の糖残基からなる群から選択される。
(c)Ra2、Ra3及びRa4のうち少なくとも1つが、フッ素原子又はアジド基である。
(d)Ra5及びRa6のうち少なくとも1つが、蛍光基を有する。
【0058】
一般式(A)で表され、且つ(a)~(d)のうち少なくとも1つの要件を満たす糖リン脂質(A)は、新規化合物であり、化合物自体が本発明の一実施形態である。
【0059】
一般式(A)のRa2、Ra3及びRa4において、「アシル基(アシルアミノ基が有するアシル基、及びアシロキシ基が有するアシル基部分も含む)」、「アルキル基」、及び「糖残基」は、それぞれ、一般式(1)における「アシル基(アシルアミノ基が有するアシル基、及びアシロキシ基が有するアシル基部分も含む)」、「アルキル基」、及び「糖残基」と同様の構造を取ることができる。
一般式(A)のRa5及びRa6において、好ましい様態は、一般式(4)におけるR41及びR42と同様である。
【0060】
糖リン脂質(A)において、糖-リン脂質間の結合は、α-グリコシド結合であってもよく、β-グリコシド結合であってもよいが、天然の糖リン脂質は主にβ-グリコシド結合であることから、β-グリコシド結合が好ましい。
なお、α-グリコシド結合の糖リン脂質を「α型」、β-グリコシド結合の糖リン脂質を「β型」という。
【0061】
糖リン脂質(A)は、糖の種類を変えることにより、ドラッグデリバリーシステム(DDS)において薬剤の送達先を制御することができる。また、リポソームを形成できる。加えて、糖リン脂質(A)の糖がアジド基を有する場合、薬剤と結合させることができる。
【実施例0062】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0063】
<実施例1>
[縮合工程]
以下の式で表されるリン脂質6μmolを、プロピオニトリル15μLに溶解させた。
【化11】
【0064】
さらに60μLの超純水と、2.4MのD-グルコース溶液7.5μLとを添加して(グルコース18mol)、ボルテックスミキサーで1分間撹拌し、その後、3分間超音波処理を行った。さらに30μLのトリエチルアミン(TEA)を加え、ボルテックスミキサーで1分間撹拌した。
【0065】
この混合溶液を、0℃の氷浴中に10分間静置させた後、7.3Mの2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムクロリド(DMC)溶液7.5μLを添加した。得られた混合溶液を、ボルテックスミキサーで撹拌しながら、4℃で1時間反応させた。なお、プロピオニトリルに対する、水の比率[水/プロピオニトリル(v/v)]は、5/1であった。
【0066】
[精製工程]
得られた反応液を、クロロホルム/TEA=100/1(v/v)で平衡化したシリカゲルカラム(Iatrobeads 6RS-8060 15g, 25mm×100mm)に注入した。さらに、クロロホルム/TEA=100/1(v/v)、クロロホルム/メタノール/TEA=89/11/0.2(v/v)、クロロホルム/メタノール/TEA=80/20/0.2(v/v)まで極性を上げて糖リン脂質を溶出させ、フラクションを回収した。
【0067】
溶出したフラクションについて、3,4-Diaminobenzophenone (DABP)をマトリックスとして、MALDI-TOF-MS分析を行った(10mg/mL溶液;水/クロロホルム= 1/3(v/v)、トリフルオロ酢酸0.1%)。糖リン脂質を含むフラクションを回収し、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下、室温で濃縮した。
【0068】
残渣を、クロロホルム/メタノール/TEA=50/50/1(v/v)で平衡化したゲルろ過カラム(Sephadex LH-20, 45mm×700 mm)に注入した。クロロホルム/メタノール/TEA=50/50/1(v/v)で糖リン脂質を溶出させ、フラクションを回収した。
【0069】
溶出したフラクションについて、前述の通りMALDI-TOF-MS分析を行い、糖リン脂質を含むフラクションを回収し、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下、室温で濃縮した。
【0070】
得られた糖リン脂質は以下の式で表され、収率は35%であった。純度は、H-NMR分析及び(図1参照)及びLCMS分析(図2参照)により決定した。
【化12】
【0071】
<実施例2~5>
縮合工程における、プロピオニトリルに対する、水の比率[水/プロピオニトリル(v/v)]を、表1に示される通りとした以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同様の糖リン脂質を得た。糖リン脂質の収率は表1に示される通りである。なお、糖リン脂質について、α型/β型の比率は、H-NMR分析又はLCMS分析により決定した。
【0072】
【表1】
【0073】
<実施例6>
プロピオニトリルに対する、水の比率[水/プロピオニトリル(v/v)]が5/1である溶媒中で、実施例1で用いたリン脂質1molに対して、グルコース3mol、DMC9mol、及びTEA36molを添加して4℃で反応させた。この混合溶液に、グルコース、DMC及びTEAを含む混合溶液を、新たに0~4回、15分間隔で添加した。すなわち、合計1~5段階でグルコース、DMC及びTEAを添加した。
なお、新たに添加した混合溶液は、水の比率[水/プロピオニトリル(v/v)]が5/1である溶媒中に、グルコース3mol、DMC9mol、及びTEA18molを溶解させたものを使用した。
【0074】
得られた反応液を、実施例1の精製工程と同様の方法で精製し、実施例1と同様の糖リン脂質を得た。糖リン脂質は図3に示される通りであり、3段階で収率は80%以上に増加した。一方で、4~5段階ではわずかな収率増加が見られたのみであった。
【0075】
<実施例7~15>
【0076】
プロピオニトリルに対する、水の比率[水/プロピオニトリル(v/v)]が5/1である溶媒中で、一般式(4)で表されるリン脂質1molに対して、糖3mol、DMC3mol、及びTEA12molを添加して、4℃で1時間反応させた。得られた反応液を、実施例1の精製工程と同様の方法で精製し、糖リン脂質を得た。
使用した糖、使用したリン脂質、得られた糖リン脂質、収率、及びα型/β型の比率は、表2及び表3に示される通りである。
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
<参考例1~4>
アルキル鎖長が異なるニトリル系溶媒を用いて、グルコースへのリン酸誘導体の導入を行った。DMC(9.6μmol)及びTEA(28.8μmol)の存在下、表4に示される溶媒中で、D-グルコース(3.2μmol)と、以下の式で表されるリン酸誘導体(3.2μmol)とを、4℃で1時間反応させた。
【化13】
【0080】
得られた反応液を、実施例1の精製工程と同様の方法で精製し、糖とリン酸誘導体の縮合体を得た。使用した溶媒、縮合体の収率、及びα型/β型の比率は、表4に示される通りであり、参考例3及び4のLCMS分析の結果は図4に示される通りであった。
【0081】
【表4】
【0082】
表4に示される通り、アルキル鎖長が異なるニトリル系溶媒を用いた場合であっても、高収率で糖とリン酸誘導体の縮合体が得られた。また、ニトリル系溶媒のアルキル鎖長が長いほど、β型の縮合体の選択性が高かった。
本願発明の糖リン脂質の製造方法において、アルキル鎖長が異なるニトリル系溶媒を用いた場合であっても、参考例1~4と同様に高収率で糖リン脂質が得られると予想される。

図1
図2
図3
図4