(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081840
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】支線ロッド、支線構造体及びそれらに支持される支柱
(51)【国際特許分類】
E02D 27/42 20060101AFI20240612BHJP
D04C 1/12 20060101ALI20240612BHJP
D07B 1/02 20060101ALI20240612BHJP
H02G 7/00 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
E02D27/42 Z
D04C1/12
D07B1/02
H02G7/00
E02D27/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195305
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】笹井 賢司
【テーマコード(参考)】
2D046
3B153
4L046
5G367
【Fターム(参考)】
2D046DA31
2D046DA32
2D046DA37
3B153AA02
3B153AA26
3B153AA45
3B153BB01
3B153CC13
3B153CC23
3B153EE23
3B153FF01
3B153GG01
3B153GG05
4L046AA01
4L046AA24
4L046AD01
4L046BA00
4L046BA06
4L046BB00
5G367AA02
5G367AD06
5G367AD13
(57)【要約】
【課題】高強度かつ、耐食性・作業取り扱い性に優れる支線ロッドを提供する。
【解決手段】絶縁性マルチフィラメント繊維構造物を躯体として用いてなる支線ロッドであり、前記絶縁性マルチフィラメント繊維構造物を構成するマルチフィラメント繊維について、所定の条件下で屈曲試験に供した際に、絶縁性マルチフィラメント繊維が完全に破断するまでの屈曲回数T(回)、該絶縁性マルチフィラメントの単糸数N(本)とした時、T/Nの値が3.0以上である支線ロッド、及び前記支線ロッドと支線とステーブロックからなる支線構造体、並びに、該支線構造体により支持される支柱。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性マルチフィラメント繊維構造物を躯体として用いてなる支線ロッド。
【請求項2】
前記絶縁性マルチフィラメント繊維構造物を構成するマルチフィラメント繊維について、曲げ半径(R)1.0mm、錘200g、屈曲角度180°、速度60rpmの条件にて繰り返し屈曲試験に供した際に、
該絶縁性マルチフィラメント繊維が完全に破断するまでの屈曲回数をT(回)、
該絶縁性マルチフィラメントの単糸数をN(本)とした時、
T/Nの値が3.0以上である、請求項1に記載の支線ロッド。
【請求項3】
前記絶縁性マルチフィラメント繊維は、15cN/dtex以上の引張強度、及び/又は、300cN/dtex以上の引張弾性率を有する、請求項1に記載の支線ロッド。
【請求項4】
前記絶縁性マルチフィラメント繊維構造物が、ロープ状または組紐状に編まれた状態で構成されている、請求項1に記載の支線ロッド。
【請求項5】
前記絶縁性マルチフィラメント繊維構造物が、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂との複合材である、請求項4に記載の支線ロッド。
【請求項6】
前記絶縁性マルチフィラメント繊維構造物が、少なくとも片方の端部がアイ加工されている、請求項4に記載の支持ロッド。
【請求項7】
請求項1~6いずれかに記載の支線ロッドと、支線と、ステーブロックからなる支線構造体。
【請求項8】
請求項7に記載の支線構造体により支持される支柱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性マルチフィラメント繊維構造物を躯体として用いてなる支線ロッド、及び前記支線ロッドを有する支線構造体、並びに、それらに支持される支柱に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種架線を電柱等の支柱に引き留める際、例えば
図1に示したように、架線13にかかる張力によって支柱11が傾倒してしまわないように、その架線13の反対側には支柱11の上端側と地面(支柱基礎12)との間に支線14が斜めに張られており、支線14の下部は、接続部15を介して地中に埋設された支線ロッド16に連結されている。ステーブロック17は、地中2m程の深さに埋設されており、ブロックにかかる土圧と張力とがつり合うことで支柱11に曲げ応力が発生することを防いでいる。
【0003】
しかし、金属製の支線ロッドは、水分を含んだ地中に埋設されていると、長い年月の間に埋設部分が腐食することが知られている。また、地中に埋設されているため腐食を検知することが難しいこともあり、気付かない箇所で、支線による支柱の支持強度が著しく低下してしまうおそれがある。
【0004】
上記問題に対し、例えば特許文献1、2に開示されているように、支線ロッドをポリエチレン樹脂製の保護材で被覆することで、耐腐食性を向上させる技術が知られているが、施工時に被覆が傷つき、中の金属線が露出し、腐食するリスクがある。特許文献3では、炭素繊維複合材を支線ロッドとして用いることで腐食リスクそのものを回避しているが、使用する炭素繊維が導電性であり、さらに衝撃や曲げに弱いことから、運搬及び施工時に破損あるいは短絡を引き起こす恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01-260081号公報
【特許文献2】特開2007-198083号公報
【特許文献3】特開2018-119324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高強度、かつ、耐食性・作業取り扱い性に優れる支線ロッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記目的を達成すべく誠意検討した結果、絶縁性マルチフィラメント繊維構造物を躯体として用いることで、高強度、かつ耐食性・作業取り扱い性に優れる支線ロッドを提供できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、絶縁性マルチフィラメント繊維構造物を躯体として用いてなる支線ロッドを提供する。また本発明は、前記支線ロッドと支線とステーブロックからなる支線構造体、並びに、前記支線構造体に支持される支柱を提供する。
【0009】
従来の支線ロッドの素材は、複数の鋼線を撚り合わせた鋼撚り線をポリエチレン樹脂で被覆した素材、或いは、炭素繊維をエポキシ樹脂で被覆した素材等であり、腐食や短絡の恐れのある素材であった。本発明では、絶縁性マルチフィラメント繊維構造物を躯体として用いることで、支線ロッドの絶縁性及び耐食性を向上させることが可能であるため、短絡の恐れがない。
【0010】
本発明では、支線ロッドを構成する絶縁性マルチフィラメントが靭性に優れているため耐屈曲特性が良好であり、座屈・曲げに強く、施工時や運搬時に衝撃を受けた場合でも損傷を受け難く、支線ロッドとしての性能及び品質を保持することができる。そのため、施工が容易である。
【0011】
また、絶縁性マルチフィラメント繊維として、引張強度及び/又は引張弾性率に優れる繊維を用いることで、支線ロッドに相応の可撓性を持たせて埋設時における破断を防止することができる。また、高強度・高弾性率の繊維構造物を用いることにより、繊維の種類や繊維束の太さを変えることで、保証耐力を自由に設計することが可能である。特に、高強度・高弾性率の有機繊維構造物を躯体として用いることで、繊維構造物への加工性を高め、更には長期安定性を向上させることが可能である。
【0012】
本発明の支線ロッドでは、絶縁性マルチフィラメント繊維構造物が、ロープ状または組紐状に編まれた状態で構成されていることにより、繊維構造物に適度な可撓性を持たせつつ機械的強度を高めることで、埋設時における破断を防止することができる。製紐に用いる絶縁性マルチフィラメント糸条の本数を変更することで、支線ロッドの太さの調整も容易である。製紐状態であると他部材との連結のための加工を施すことが容易である。
【0013】
また、絶縁性マルチフィラメント繊維構造物が、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂との複合材であることにより、高強度・高弾性率繊維の毛羽立ちによる支線ロッドの破断要因から支線ロッドを保護し、耐久性を向上させることができる。特に柔軟な樹脂(熱可塑性樹脂等)を用いることで、柔軟性、取り扱い性及び耐久性に優れる支線ロッドとすることができる。
【0014】
本発明では、絶縁性マルチフィラメント繊維構造物は、耐屈曲性が良好であるため、加工性に優れている。そのため、少なくとも片方の端部にアイ加工することが容易であり、アイ加工することで他の部材との連結を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高強度かつ、耐食性及び作業取り扱い性に優れる支線ロッドを提供することができると共に、支線ロッドの両端に、其々、支線及びステーブロックを接合することで、施工効率を向上させることが可能な支線構造体、並びに、長期に亘り安定状態を維持することが可能な支柱を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】本発明の支線ロッド(実施の形態1)の一例を示す、(a)概略図と(b)製品外観写真である。
【
図3】本発明の支線ロッド(実施の形態2)の一例を示す、(a)概略図(径断面図と側面図)と(b)製品外観写真である。
【
図4】本発明の支線ロッド(実施の形態3)の一例を示す、(a)概略図と(b)製品外観写真である。
【
図5】アイ加工を施した支線ロッドの外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
(絶縁性マルチフィラメント繊維)
本発明において、絶縁性マルチフィラメント繊維は、絶縁性を有する繊維材料からなる糸条であり、例えば、繊維材料の抵抗が3Ω/cm以下のものが該当する。絶縁性マルチフィラメント繊維構造物を躯体として用いることにより、金属線や炭素繊維構造物を躯体として用いてなる支線ロッドのように短絡するおそれがなく、取り扱い性に優れたものとなる。
【0019】
本発明の支線ロッドを構成する絶縁性マルチフィラメント繊維は、軽量かつ高強度の支線ロッドを得ることができる点より、JIS L1013:2010“化学フィラメント糸試験方法”8.5.1標準時試験により測定される引張強さが15cN/dtex以上であることが好ましい。引張強さが15cN/dtex未満である場合、支線ロッドの支持力(耐久性)が非常に弱くなる可能性がある。引張強さは、18cN/dtex以上であることがより好ましく、20cN/dtex以上であることが特に好ましい。引っ張り強さの上限は特に限定されない。
【0020】
また、本発明の支線ロッドを構成する絶縁性マルチフィラメント繊維は、支線ロッドを設置する際の変形量を最小限に抑えることができる点より、同試験により測定される引張弾性率が、300cN/dtex以上であることが好ましい。引張弾性率が300cN/dtex未満である場合、支線ロッドの支持力(耐久性)が非常に弱くなる可能性がある。引張弾性率は、350cN/dtex以上であることがより好ましく、500cN/dtex以上であることが特に好ましい。引張弾性率の上限は特に限定されない。引張弾性率が300cN/dtex以上であるマルチフィラメント繊維を用いることにより、支線ロッドを設置する際の変形量をごくわずかに抑えることができ、かつ、耐クリープ性も向上するため、長期間の使用においても性能が変化しにくい。
【0021】
本発明の支線ロッドの躯体として望ましい特性を有する絶縁性マルチフィラメント繊維としては、例えば、ガラス繊維、バサルト繊維、スラッグ繊維、セラミック繊維、シリカ繊維等の無機繊維;全芳香族ポリエステル繊維、全芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスチアゾール繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、高強力ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維等の有機繊維;が挙げられる。これら絶縁性マルチフィラメント繊維の中から選択される1種、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
前記絶縁性マルチフィラメント繊維の中でも、柔軟性があり繊維構造物に加工しやすい点より、有機繊維が好ましい。有機繊維のなかでも、引張強さ及び引張弾性率に優れている点、さらに高温高湿度下に長期間曝された場合でも機械特性の変化が非常に少なく、環境温度の変化による影響を受けにくい(長期安定性に優れている)点で、全芳香族ポリエステル繊維、全芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維が好ましい。
【0023】
上記の全芳香族ポリアミド(アラミド)繊維は、繊維を形成するポリマーの繰り返し単位中に、通常置換されていてもよい二価の芳香族基を少なくとも一個有する繊維であって、アミド結合を少なくとも一個有する繊維であれば特に限定はなく、全芳香族ポリアミド繊維またはアラミド繊維と称されるものであってよい。「置換されていてもよい二価の芳香族基」とは、同一または異なる1以上の置換基を有していてもよい二価の芳香族基を意味する。
【0024】
アラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維等を挙げることができるが、引張強さに優れているパラ系アラミド繊維が好ましい。このようなアラミド繊維は市販品として入手でき、その具体例としては、パラ系アラミド繊維として、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(米国デュポン社、東レ・デュポン社製、商品名「Kevlar」(登録商標))、コポリパラフェニレン-3,4´-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人社製、商品名「テクノーラ」(登録商標))等を挙げることができる。これらのパラ系アラミド繊維の中でも、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が引張強さに優れるため、特に好ましい。
【0025】
本発明において、絶縁性マルチフィラメント繊維は、マルチフィラメント糸条、紡績糸等が挙げられるが、糸強力が高い点でマルチフィラメント糸条が用いられる。マルチフィラメント糸条は、繊維材料がばらばらにならないように適度な撚り(甘撚り)を施したものが好ましい。
【0026】
また、絶縁性マルチフィラメント繊維は、JIS K7115:1999“プラスチック-クリープ特性の試験方法 第1部:引張クリープで測定される耐クリープ性において、破断荷重の50%の荷重を加えた状態での1000時間後のクリープが0.4%以下であることが好ましい。より好ましくは0.3%以下である。耐クリープ性が0.4%以下であるマルチフィラメントを用いることにより、長期間の使用においても性能が変化しにくい支線ロッドを得ることが可能となる。上記基準を満たす絶縁性マルチフィラメントとしては、パラ系アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、高強力ポリエチレン繊維などが挙げられる。
【0027】
さらに、前記絶縁性マルチフィラメント繊維を、曲げRを1.0mm、錘200g、屈曲角度180°、速度60rpmの条件にて繰り返し屈曲試験に供した時の、絶縁性マルチフィラメント繊維が完全に破断するまでの屈曲回数をT(回)、絶縁性マルチフィラメントの単糸数をN(本)とした時の、T/Nの値が3.0以上であることが好ましい。より好ましくは3.5以上である。T/Nの値が3.0以上であれば、使用時はもちろんのこと、施工時や運搬時、さらには製造時に衝撃を受けた場合においても、繊維自体が損傷し難く、支線ロッドとしての性能・品質が保持されやすい。
【0028】
絶縁性マルチフィラメントの総繊度は特に限定されず、支線ロッドに必要な引張強さ(保証耐力)に応じて適宜選択される。
【0029】
次に、本発明の支線ロッドの実施の形態を具体的に説明する。
【0030】
(実施の形態1)
図2は本発明の支線ロッドの実施の形態の一例を示す概略図である。
図2(a)は、支線ロッド(21)の構成を説明する説明図であり、絶縁性マルチフィラメント(22)繊維構造物である組紐に、被覆樹脂(23)による被覆を施したものである。また、
図2(b)は、支線ロッドの一例を示す外観写真であり、絶縁性マルチフィラメント(22)として、パラ系アラミド繊維(東レ・デュポン社製の “ケブラー49”)、被覆樹脂(23)としてカーボンブラックで着色した低密度ポリエチレン樹脂を使用している。
【0031】
本発明において、組紐は公知の方法により作製したものを使用できる。例えば、撚りを掛けた4本の絶縁性マルチフィラメント糸条を準備し、右側または左側の糸を交互に真中に配置させて組み上げていくことで製紐する。製紐に用いる絶縁性マルチフィラメント糸条の本数は、特に限定はなく、支線ロッドの太さに応じて調整することができ、例えば4本、8本、12本、16本等、所望の本数だけ用いることができる。組紐のピッチは、本発明の支線ロッドが用いられる状況に応じて、必要な引張強度が得られれば良いので、特に限定はなく、製紐機の巻取り速度と絶縁性マルチフィラメント糸条を供給するボビンの回転数によって制御できる。また、絶縁性マルチフィラメント糸条の撚り数は、撚糸機の巻取り速度とボビンの回転数により制御することができる。
【0032】
本発明の支線ロッドは、例えば、以下の工程により製造される。即ち、
図2に示す支線ロッド(21)は、a1)必要に応じて撚糸した絶縁性マルチフィラメント糸条を用いて組紐を製造する製紐工程と、b1)得られた組紐を樹脂被覆する被覆工程を有する。あるいは、a2)必要に応じて撚糸した絶縁性マルチフィラメント糸条に樹脂被覆を施す被覆工程と、b2)樹脂被覆した絶縁性マルチフィラメント繊維束を用いて組紐を製造する製紐工程を有する。
【0033】
上記製造工程において使用される被覆樹脂は特に限定されない。例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂、各種熱可塑性エラストマー樹脂(ポリオレフィン系・ポリエチレン系・ポリウレタン系・ポリアミド系・ポリエステル系)等の熱可塑性樹脂、あるいは、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、ユリア樹脂、ポリウレア樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0034】
上記の樹脂の中でも、耐アルカリ性及び耐候性に優れ、かつ柔軟な樹脂であることが、長期耐久性や取り扱い性の上で好ましい。このような観点より、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、熱可塑性エラストマー樹脂、ポリウレア樹脂が望ましい。
【0035】
上記ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分単位を主成分とする樹脂を使用でき、例えば、ホモポリプロピレン、プロピレンエチレンブロック共重合体、プロピレンエチレンランダム共重合体、メタロセンポリプロピレン、プロピレンと他のα-オレフィン(プロピレンと共重合可能なもの)との共重合体等が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂は、1種を単独、又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0036】
上記ポリエチレン系樹脂としては、エチレン成分単位を主成分とする樹脂を使用できる。例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(ULDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン1共重合体、エチレン-ブテン1共重合体、エチレン-ヘキセン1共重合体、エチレン-4メチルペンテン1共重合体、エチレン-オクテン1共重合体等が挙げられる。ポリエチレン系樹脂は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
上記塩化ビニル樹脂は、従来公知の任意の塩化ビニル系樹脂を使用することができ、例えば、塩化ビニル単独重合体;塩化ビニルモノマーと、該塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとの共重合体;塩化ビニル以外の(共)重合体に塩化ビニルをグラフト共重合したグラフト共重合体等が挙げられ、1種を単独、又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0038】
被覆樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、加水分解抑制剤、酸化防止剤、滑剤、核剤、可塑剤、着色防止材、つや消し剤、難燃剤、帯電防止材、離型剤、充填剤(ガラスファイバー、カーボンファイバー、ガラスビーズ、中空ガラス、タルク等のフィラー)、顔料及び染料等が挙げられ、これらの添加剤等から選ばれる1種、又は2種以上を配合することができる。これらの配合量は通常用いられる量で良い。
【0039】
被覆樹脂の被覆厚みは、0.1mm~10mmであることが好ましく、0.2mm~5mmであることがより好ましい。被覆樹脂の厚みが0.1未満であると、被覆破れが生じやすく絶縁性マルチフィラメント繊維を保護する効果が低下する。また、被覆樹脂の厚みが10mmを超えると、製品重量が増えるばかりか、製品の柔軟性が失われるため取り扱い性が悪化する恐れがある。
【0040】
上記組紐の片方または両方の端部においては、他の部材との連結のための加工がされている必要があるが、その中でもアイ加工(
図5参照)が施されていることが好ましい。アイ加工であれば、金属部材を用いないため腐食する恐れが無く、また加工による強度低下もなく最適である。
【0041】
上記発明の形態は可撓性に優れた形態であり、ロール状等の形態で運搬することも可能であり、取り扱い性に優れている。
【0042】
(実施の形態2)
図3は本発明の支線ロッドの他の実施の形態の一例を示す概略図である。
図3(a)は、支線ロッド(31)の構造を説明する説明図であり、絶縁性マルチフィラメント(32)繊維構造体であるロープに、被覆樹脂(33)による被覆を施したものである。
図3(b)は、支線ロッドの一例を示す外観写真であり、絶縁性マルチフィラメント(32)として、パラ系アラミド繊維(東レ・デュポン社製“ケブラー49”)、被覆樹脂(33)として、ポリエステル系熱可塑性エラストマー樹脂(東レ・デュポン社製“ハイトレル5577”)を用いている。
【0043】
本実施形態における被覆樹脂は、特に限定されるものでなく、実施の形態1で記載したものと同様の熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂が使用されてよい。
【0044】
本実施形態における被覆樹脂の被覆厚みは、実施の形態1と同様、0.1mm~10mmであることが好ましく、0.2mm~5mmであることがより好ましい。
【0045】
本実施形態では、樹脂被覆されたロープの片方または両方の端部においては、実施の形態1と同様、アイ加工(
図5参照)がなされていることが好ましい。アイ加工であれば、金属部材を用いないため腐食する恐れが無く、また加工による強度低下もなく最適である。
【0046】
上記発明の形態は、実施の形態1と同様、可撓性に優れた形態であり、ロール状等の形態で運搬することも可能であり、取り扱い性に優れている。
【0047】
(実施の形態3)
図4は本発明の支線ロッドの他の実施の形態の一例を示す概略図である。すなわち、
図4(a)は、絶縁性マルチフィラメント繊維構造物(42)にマトリクス樹脂(43)を含浸させた支線ロッド(41)の概略構成を説明する説明図と、その断面の部分拡大図である。
図4(b)は、支線ロッド(41)の一例を示す外観写真であり、絶縁性マルチフィラメント(42)としてパラ系アラミド繊維(東レ・デュポン社製“ケブラー49”)、マトリクス樹脂(43)としてビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いたものである。
なお、
図4(b)に示した支線ロッドは、直径が9mmφの繊維構造物(ケブラー49の糸条を8本用いて製紐したもの)、または、直径が20mmφの繊維構造物(ケブラー49の糸条を16本用いて製紐したもの)に、其々マトリクス樹脂を含浸させたものである。
【0048】
本実施形態の支線ロッド(41)は、例えば、以下の工程により製造される。即ち、a3)絶縁性マルチフィラメント繊維を組紐状またはロープ状に加工する加工工程、b3)組紐状またはロープ状の絶縁性マルチフィラメント繊維に、マトリクス樹脂を浸透・含浸する浸透・含浸工程、c3)浸透・含浸したマトリクス樹脂を固化してFRP状とする固化工程を有し、前記工程を経て本実施形態に係る支線ロッドが製造される。
【0049】
上記製造工程で用いられるマトリクス樹脂は、特に限定されるものではなく、支線ロッドが用いられる場所、目的等に応じて、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、ユリア樹脂等が挙げられる。
【0050】
上記の樹脂の中でも、耐アルカリ性に優れ、かつポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維との接着性に優れている樹脂が好ましい。具体例としては、熱可塑性エポキシ樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化エポキシ樹脂等を例示することができる。これらのマトリクス樹脂を使用することにより、敷設時や土中の環境下でも絶縁性マルチフィラメント繊維構造物を適切に保護することが可能であり、本発明の支線ロッドの寿命が延びるという利点がある。
【0051】
本発明で用いるマトリクス樹脂及び被覆樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、例えば、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、加水分解抑制剤、酸化防止剤、滑剤、核剤、可塑剤、着色防止材、つや消し剤、難燃剤、帯電防止材、離型剤、充填剤(ガラスファイバー、カーボンファイバー、ガラスビーズ、中空ガラス、タルク等のフィラー)、顔料及び染料等が挙げられ、これらの添加剤等から選ばれる1種、又は2種以上を配合することができる。これらの配合量は通常用いられる量で良い。
【実施例0052】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
支線ロッドを構成するマルチフィラメント繊維について、ユアサシステム社製屈曲試験機(TCDM111LH)を用い、曲げR1.0mm、錘200g、屈曲角度180°、速度60rpmの条件において、マルチフィラメント繊維が完全に破断するまで屈曲を繰り返す試験を行い、完全に破断するまでの屈曲回数T(回)を求め、それをフィラメント単糸数N(本)で除した値(T/N)を次の表1に示した。
【0054】
【0055】
表1からわかるように、ガラス繊維は完全破断までの屈曲回数が少なく、耐疲労性に劣る。一方、炭素繊維やアラミド繊維は完全破断までの屈曲回数が多く、特にアラミド繊維は炭素繊維の約1.4倍以上の値となっており、好ましい結果が得られた。
【0056】
[実施例2]
炭素繊維(トレカT-300)、ガラス繊維(Eガラス)及びアラミド繊維(ケブラー49)を用い、実施の形態3に記載した方法に準じてFRPロッドを作製し、得られたFRPロッドについて、JIS A1192:2021“コンクリート用連続繊維補強材の引張試験方法”に従って引張試験を実施した結果(試験数は各10本)を表2に示す。
【0057】
本発明においては、支線ロッドは、引張試験(試験数10点)における引張強度の、下記式(I)で示すCV値が0.10以下であることが好ましい。より好ましくは0.05以下である。CV値が0.10を超えると、製品の品質ばらつきが大きく製品の信頼性が低くなる。
CV値=(標準偏差)/平均値 ・・・ (I)
【0058】
【0059】
表2より、炭素繊維からなるFRPロッドは、引張試験においてチャック切れが発生し、結果としてCV値が大きくなることが分かる。このことは、製品が外部からの傷や衝撃に敏感に反応して強度がばらつくことにも繋がるため、製品としての信頼性に欠ける。一方、ガラス繊維及びアラミド繊維FRPロッドはCV値が小さく、特にアラミド繊維FRPロッドは、ガラス繊維FRPロッドの約1/3の値であり、好ましい結果が得られた。
【0060】
上記の結果より、本発明の支線ロッドでは、アラミド繊維等の有機繊維を構成要素として含むものが、ガラス繊維等の無機繊維を構成要素として含むものに比べて耐屈曲性に優れていることが分かる。
【0061】
以上、本発明について実施例を用いて具体的に説明したが、上記の実施の形態は、本発明の好適な実施の形態の一例を示すものであり、本発明は上述した各実施の形態に限定されることなく、請求項に記載した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。さらに、各実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合せることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【0062】
以上説明した通り、本発明の支線ロッドは、従来の支線とステーブロックとの組み合わせで、支線構造体とすることが可能であり、また該支線構造体は、支柱を長期間、安定的に支持することができるため、電柱、野球場におけるバックネット等の防護ネット等に適用することができる。既存の支線ロッドの代替としても有用である。