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特開2024-81855金属板移載装置、及び、金属板移載方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081855
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】金属板移載装置、及び、金属板移載方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240612BHJP
   C23C 14/04 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
H01L21/68 N
C23C14/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195354
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木村 康彦
【テーマコード(参考)】
4K029
5F131
【Fターム(参考)】
4K029BA62
4K029BB03
4K029BD01
4K029CA01
4K029HA02
4K029HA03
4K029HA04
5F131AA10
5F131AA33
5F131BA03
5F131CA17
5F131EA10
5F131EA17
5F131EA22
5F131EA23
5F131EB00
5F131EB78
(57)【要約】
【課題】金属板の製造工程において、金属板の移載に伴う変形を抑制可能とした金属板移載装置及び金属板移載方法を提供する。
【解決手段】磁石に吸着するシート状の金属板の一例であるメタルマスクMを移載する金属板移載装置1であって、メタルマスクMと接する接触面10Sを有する多孔質シート10と、多孔質シート10が備える面のうち接触面10Sと反対の面を支持する支持面20Sを有する非磁性板20と、非磁性板20に対して多孔質シート10が位置する側と反対側からメタルマスクMに磁力を作用させる磁気吸着部30と、非磁性板20と磁気吸着部30との間の距離を変える昇降部40と、を備え、接触面10Sにおける硬度が支持面20Sにおける硬度よりも低い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁石に吸着するシート状の金属板を移載する金属板移載装置であって、
前記金属板と接する接触面を有する多孔質シートと、
前記多孔質シートが備える面のうち前記接触面と反対の面を支持する支持面を有する非磁性板と、
前記非磁性板に対して前記多孔質シートが位置する側と反対側から前記金属板に磁力を作用させる磁気吸着部と、
前記非磁性板と前記磁気吸着部との間の距離を変える昇降部と、を備え、
前記接触面における硬度が前記支持面における硬度よりも低い
金属板移載装置。
【請求項2】
前記多孔質シートは、連続気泡の孔部を有し、かつ、気孔率が60%以上である
請求項1に記載の金属板移載装置。
【請求項3】
前記非磁性板は、前記支持面から延びる通気孔を備える
請求項2に記載の金属板移載装置。
【請求項4】
前記接触面は、アスカーC硬度が20以下である
請求項1に記載の金属板移載装置。
【請求項5】
前記昇降部は、前記非磁性板に対して前記磁気吸着部を移動させることで、前記非磁性板と前記磁気吸着部との間の距離を変え、
前記金属板が前記磁気吸着部の磁力によって前記接触面に吸着されるときの前記磁気吸着部の位置が吸着位置であり、
前記金属板が前記磁気吸着部の磁力によって前記接触面に吸着されないときの前記磁気吸着部の位置が非吸着位置であり、
前記昇降部が前記磁気吸着部を前記吸着位置から前記非吸着位置に移動させるときの前記磁気吸着部の移動量は、2mm以上である
請求項1に記載の金属板移載装置。
【請求項6】
前記磁気吸着部は、前記接触面に沿う一次元方向において、第1磁力と、前記第1磁力よりも弱い第2磁力とを交互に作用させる
請求項1に記載の金属板移載装置。
【請求項7】
前記多孔質シートは、厚さ方向に貫通した開口部を備え、
前記金属板と前記多孔質シートとを接触させたときに、前記金属板の平面方向において、前記金属板が備える貫通孔が前記開口部の内側に位置する
請求項1に記載の金属板移載装置。
【請求項8】
非磁性板が備える支持面によって支持される多孔質シートが備える面のうち、前記非磁性板と接する面と反対の面であって、前記支持面よりも低い硬度を有する接触面に、磁石に吸着するシート状の金属板を接触させることと、
前記接触面に前記金属板を引き付ける磁気吸着部の磁力を、前記非磁性板に対して前記多孔質シートが位置する側と反対側から前記金属板に作用させることと、
前記非磁性板と前記磁気吸着部との間の距離を変えることと、を含む
金属板移載方法。
【請求項9】
第1非磁性板が備える第1支持面によって支持される第1多孔質シートが備える面のうち、前記第1非磁性板と接する面と反対の面であって、前記第1支持面よりも低い硬度を有する第1接触面に、磁石に吸着するシート状の金属板が備える第1面を接触させることと、
前記第1接触面に前記金属板を引き付ける第1磁気吸着部の磁力を、前記第1非磁性板に対して前記第1多孔質シートが位置する側と反対側から前記金属板に作用させることと、
前記第1面が前記第1多孔質シートに接している状態において、第2非磁性板が備える第2支持面によって支持される第2多孔質シートが備える面のうち、前記第2非磁性板と接する面と反対の面であって、前記第2支持面よりも低い硬度を有する第2接触面に、前記金属板が備える面のうち前記第1面と反対の第2面を接触させることと、
前記第2接触面に前記金属板を引き付ける第2磁気吸着部の磁力を、前記第2非磁性板に対して前記第2多孔質シートが位置する側と反対側から前記金属板に作用させることと、
前記第1非磁性板と前記第1磁気吸着部との間の距離を増加させることと、を含む
金属板移載方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石によって吸着可能な金属板を移載するための金属板移載装置、及び、金属板移載方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタルマスクは、金属板の一例であって、貫通孔を有する金属製のシート状部材である。メタルマスクは、有機ELディスプレイの製造や、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の製造、電子機器が備えるカメラユニットにおいて外光に対する絞りとして機能するカメラ用金属遮光板などに用いられる。
【0003】
例えば、有機ELディスプレイの製造において、メタルマスクは、基板の表面に有機EL材料を蒸着するために用いられる。この場合のメタルマスクは、数十μmの厚さを有したシート状の金属板に、数十μmの幅を有した貫通孔を備える。メタルマスクを移載する際には、メタルマスクに変形や損傷等が生じないように、メタルマスクの姿勢を安定した状態で保持するとともに、メタルマスクに外力を加えずに移載装置と他の装置との間で受け渡しを行うことが要求される。
【0004】
特許文献1には、シート状の部材を保持する技術の一例として、通気路部を有するベース基板と、通気路部を塞ぐようにベース基板に配置された粘着剤層とを備える保持用治具が開示されている。粘着剤層には、フレキシブルプリント配線板(FPC)のようなシート状の部材が着脱自在に粘着される。特許文献1に記載される技術では、シート状の部材が粘着剤層に粘着された状態で、通気路部から気体を加圧もしくは吸引することで、通気路部を覆う粘着剤層を凸形状あるいは凹形状に変形させる。このようにして粘着剤層に粘着されたシート状の部材を剥離することで、シート状の部材の受け渡しを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-105226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
メタルマスクは、厚さが薄く、かつ、貫通孔を区画する微細な形状を備えることから、メタルマスクを保持して移載する際、及び、受け渡しにおいて吸着を解除した際に、メタルマスクに外力が加わると容易に変形する。したがって、特許文献1の技術をメタルマスクの移載に適用した場合、メタルマスクを粘着剤層から剥離する際に加わる外力によって、メタルマスクが変形するおそれがある。なお、上記の課題は、外力に対して変形し易いメタルマスク以外の金属板においても共通する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための金属板移載装置は、磁石に吸着するシート状の金属板を移載する金属板移載装置であって、前記金属板と接する接触面を有する多孔質シートと、前記多孔質シートが備える面のうち前記接触面と反対の面を支持する支持面を有する非磁性板と、前記非磁性板に対して前記多孔質シートが位置する側と反対側から前記金属板に磁力を作用させる磁気吸着部と、前記非磁性板と前記磁気吸着部との間の距離を変える昇降部と、を備え、前記接触面における硬度が前記支持面における硬度よりも低い。
【0008】
上記構成によれば、接触面と接する金属板に作用する磁力の強さが、昇降部による非磁性板に対する磁気吸着部の移動によって変わる。これにより、金属板と接触面との相対位置を変えることなく、金属板の吸着とその解除とが可能である。結果として、金属板の吸着とその解除とにおいて、金属板に局所的な応力が作用することが抑えられる。また、非磁性板の支持面よりも硬度が低い多孔質シートの接触面に金属板が吸着される。これにより、支持面のような接触面よりも高い硬度を有した面に金属板が吸着される場合と比べて、接触面と金属板との間に異物が介在しても、異物との接触による金属板の変形を抑制できる。
【0009】
上記金属板移載装置において、前記多孔質シートは、連続気泡の孔部を有し、かつ、気孔率が60%以上であることが好ましい。上記構成によれば、多孔質シートが連続気泡の孔部を有することで、金属板と接触面との間に密閉された空間が形成されることが抑制される。これにより、金属板を接触面から剥離する際に、金属板と接触面との間の空間の気圧と大気圧との差によって金属板に対して接触面に引き付けられる力が作用することを抑制できる。結果として、金属板を接触面から剥離する際に、金属板に加わる外力を低減できるとともに、金属板接触面から容易に剥離することができる。また、多孔質シートの気孔率が60%以上であることで、上述の効果を好適に発揮することができる。
【0010】
上記金属板移載装置において、前記非磁性板は、前記支持面から延びる通気孔を備えることが好ましい。上記構成によれば、非磁性板が支持面から延びる通気孔を備えることで、多孔質シートが備える孔部のうち非磁性板と対向する孔部が、通気孔によって大気に通じる。したがって、金属板と多孔質シートの接触面との間に密閉された空間が形成されることをより確実に抑制できる。
【0011】
上記金属板移載装置において、前記接触面は、アスカーC硬度が20以下であることが好ましい。接触面のアスカーC硬度が20以下であることで、仮に接触面と金属板との間に異物が介在した場合であっても、異物との接触による金属板の変形をより確実に抑制できる。
【0012】
上記金属板移載装置において、前記昇降部は、前記非磁性板に対して前記磁気吸着部を移動させることで、前記非磁性板と前記磁気吸着部との間の距離を変え、前記金属板が前記磁気吸着部の磁力によって前記接触面に吸着されるときの前記磁気吸着部の位置が吸着位置であり、前記金属板が前記磁気吸着部の磁力によって前記接触面に吸着されないときの前記磁気吸着部の位置が非吸着位置であり、前記昇降部が前記磁気吸着部を前記吸着位置から前記非吸着位置に移動させるときの前記磁気吸着部の移動量は、2mm以上であることが好ましい。上記構成によれば、吸着位置に位置する磁気吸着部を2mm以上移動させることで、接触面に接する状態の金属板に作用する磁力を十分に低減できる。
【0013】
上記金属板移載装置において、前記磁気吸着部は、前記接触面に沿う一次元方向において、第1磁力と、前記第1磁力よりも弱い第2磁力とを交互に作用させることが好ましい。上記構成によれば、仮に波打ちが生じた状態で金属板が磁気吸着された場合であっても、波打ちのうち第1磁力が作用する部分が優先的に吸着されることで、波打ちが絞られるように縮小する。同時に、金属板に生じた波打ちの頂点が、第1磁力が作用せず第2磁力が作用する位置、すなわち、相対的に磁力が弱い位置に移動する。これにより、波打ちが過剰に絞られることが抑制されるため、波打ちの頂点に折れ目が形成されることが抑制される。
【0014】
上記金属板移載装置において、前記多孔質シートは、厚さ方向に貫通した開口部を備え、前記金属板と前記多孔質シートとを接触させたときに、前記金属板の平面方向において、前記金属板が備える貫通孔が前記開口部の内側に位置する構成でもよい。上記構成によれば、金属板のうち貫通孔を区画する部分は、多孔質シートと接触しない状態となる。これにより、金属板のうち貫通孔を区画する部分に対して、金属板と多孔質シートの接触面との間に介在する異物による外力が加わることを抑制できる。
【0015】
上記課題を解決するための金属板移載方法は、非磁性板が備える支持面によって支持される多孔質シートが備える面のうち、前記非磁性板と接する面と反対の面であって、前記支持面よりも低い硬度を有する接触面に、磁石に吸着するシート状の金属板を接触させることと、前記接触面に前記金属板を引き付ける磁気吸着部の磁力を、前記非磁性板に対して前記多孔質シートが位置する側と反対側から前記金属板に作用させることと、前記非磁性板と前記磁気吸着部との間の距離を変えることと、を含む。
【0016】
上記課題を解決するための金属板移載方法は、第1非磁性板が備える第1支持面によって支持される第1多孔質シートが備える面のうち、前記第1非磁性板と接する面と反対の面であって、前記第1支持面よりも低い硬度を有する第1接触面に、磁石に吸着するシート状の金属板が備える第1面を接触させることと、前記第1接触面に前記金属板を引き付ける第1磁気吸着部の磁力を、前記第1非磁性板に対して前記第1多孔質シートが位置する側と反対側から前記金属板に作用させることと、前記第1面が前記第1多孔質シートに接している状態において、第2非磁性板が備える第2支持面によって支持される第2多孔質シートが備える面のうち、前記第2非磁性板と接する面と反対の面であって、前記第2支持面よりも低い硬度を有する第2接触面に、前記金属板が備える面のうち前記第1面と反対の第2面を接触させることと、前記第2接触面に前記金属板を引き付ける第2磁気吸着部の磁力を、前記第2非磁性板に対して前記第2多孔質シートが位置する側と反対側から前記金属板に作用させることと、前記第1非磁性板と前記第1磁気吸着部との間の距離を増加させることと、を含む。
【0017】
上記方法によれば、金属板の第1面が第1接触面に引き付けられた状態から、金属板の第2面が第2接触面に引き付けられた状態となるため、金属板が吸着される面を反転させることができる。また、反転動作中に金属板の姿勢が一定に保たれるため、金属板の変形を抑えることができる。そして、第1支持面よりも硬度が低い第1接触面に金属板の第1面が吸着される。これにより、第1支持面のような第1接触面よりも高い硬度を有した面に金属板が吸着される場合と比べて、第1接触面と金属板の第1面との間に異物が介在しても、異物との接触による金属板の変形を抑制できる。同様に、第2支持面のような第2接触面よりも高い硬度を有した面に金属板が吸着される場合と比べて、第2接触面と金属板の第2面との間に異物が介在しても、異物との接触による金属板の変形を抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属板の製造工程において、金属板の移載に伴う変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、第1実施形態の金属板移載装置の構成を表す模式図である。
図2図2は、磁気吸着部が非吸着位置に位置するとともに、多孔質シートの接触面をメタルマスクに接触させた状態の金属板移載装置を示す模式図である。
図3図3は、図2に示す状態から磁気吸着部を吸着位置に移動させた状態の金属板移載装置を示す模式図である。
図4図4は、図3に示す状態からメタルマスクを吸着した状態の金属板移載装置を持ち上げた状態を示す模式図である。
図5図5は、磁気吸着部からメタルマスクに作用する第1磁力及び第2磁力を示す模式図である。
図6図6は、波打ちが生じたメタルマスクがステージに載置された状態を示す模式図である。
図7図7は、図6に示す状態のメタルマスクが金属板移載装置に吸着された状態を示す模式図である。
図8図8は、メタルマスクに生じた波打ちが、第1磁力が作用する位置から第2磁力が作用する位置に移動した状態のメタルマスクを示す模式図である。
図9図9は、第1実施形態の金属板移載装置の変更例を表す分解斜視図である。
図10図10は、第2実施形態の金属板移載装置の構成を表す模式図である。
図11図11は、第3実施形態において用いられる第1金属板移載装置と第2金属板移載装置とを示す模式図である。
図12図12は、第1金属板移載装置に吸着されたメタルマスクを第2金属板移載装置に受け渡す工程を示す模式図である。
図13図13は、メタルマスクが第2金属板移載装置に吸着された状態を示す模式図である。
図14図14は、比較例1の金属板移載装置の構成を示す模式図である。
図15図15は、比較例2の金属板移載装置の構成を示す模式図である。
図16図16は、比較例3の金属板移載装置の構成を示す模式図である。
図17図17は、比較例4の金属板移載装置の構成を示す模式図である。
図18図18は、比較例5において用いられる第1金属板移載装置と第2金属板移載装置とを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1実施形態]
以下、金属板移載装置の第1実施形態について図1図9を参照して説明する。
[メタルマスク]
図1に示すように、ステージSが備える平坦な面には、金属板の一例であるメタルマスクMが載置されている。メタルマスクMは、磁石に吸着する矩形板状のシート状の金属である。メタルマスクMは、一例として、長さが300mm以上3000mm以下、幅が50mm以上400mm以下、厚さが10μm以上50μm以下である。メタルマスクMの中央部には、所定の形状を有した複数の貫通孔が並んでいる。メタルマスクMが備える貫通孔は、円形孔でもよいし、四角形孔でもよいし、楕円形孔でもよい。貫通孔の開口における最大幅は、例えば20μm以上100μm以下である。メタルマスクMは、例えば、有機ELディスプレイの製造に用いられる。なお、メタルマスクMは、有機EL材料以外の材料を蒸着するために用いられるものであってもよい。
【0021】
メタルマスクMを構成する材料は、磁石に吸着する強磁性の金属を含む。強磁性の金属は、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、及び、これらのうち何れかを含む合金からなる群から選択されるいずれか一種である。合金の一例は、鉄及びニッケルを含むインバー材である。インバー材から構成されるメタルマスクMのビッカース硬さは、一例として、165HV以上175HV以下程度である。
【0022】
[金属板移載装置]
第1実施形態の金属板移載装置1は、磁石に吸着される金属板の製造や検査、あるいは金属板の保管に際して、任意の場所に載置された金属板を他の場所に移動させるための装置である。金属板移載装置1が移載する金属板は、一例としてメタルマスクMであるが、磁石に吸着するシート状の金属板であれば金属板移載装置1によって移載可能である。金属板移載装置1が移載する金属板は、例えば、リードフレームやシャドーマスクである。
【0023】
金属板移載装置1は、一例として、作業者によって持ち運び可能に構成されているが、ロボットアームや電動スライダのような機械的な移動機構によって移動される構成であってもよい。金属板移載装置1は、多孔質シート10と、非磁性板20と、磁気吸着部30と、昇降部40と、を備える。
【0024】
[多孔質シート]
多孔質シート10は、内部に孔部(空隙)を有するシート状の部材である。多孔質シート10は、接触面10Sを備える。接触面10Sは、多孔質シート10が備える面のうちメタルマスクMと接する面である。多孔質シート10は、接触面10Sと反対の面を、非磁性板20が備える支持面20Sによって支持されている。接触面10Sは、メタルマスクMよりも大きい。すなわち、接触面10SとメタルマスクMとが接する状態において、メタルマスクMの外縁が接触面10Sの外縁よりも内側に位置する。なお、図1では、多孔質シート10にドットを付して示している。
【0025】
多孔質シート10は、例えば、有機材料からなる多孔質体である。多孔質シート10を構成する材料は、例えば、アクリル・ウレタン・ゴムの共重合発泡体及びポリウレタンの発泡体のうちの少なくとも何れか1種を含む。多孔質シート10は、一例として、ポリウレタンの発泡体(ウレタンフォーム)である。多孔質シート10の厚さは、例えば、0.5mm以上1.0mm以下である。多孔質シート10の気孔率は、例えば、60%以上である。なお、多孔質シート10の気孔率は、多孔質シート10全体の見かけの体積に対する多孔質シート10に含まれる孔部の体積の割合である。多孔質シート10全体の見かけの体積は、多孔質シート10を構成する材料の体積と、多孔質シート10に含まれる孔部の体積との和である。
【0026】
多孔質シート10が備える孔部は、例えば、少なくとも一部が連続気泡であることが好ましい。多孔質シート10は、連続気泡の孔部を備えることで通気性を有する。すなわち、多孔質シート10は、多孔質シート10が備える1つの面から多孔質シート10の内部を通じて他の面もしくは同一の面まで連通する孔部を備える。
【0027】
多孔質シート10の接触面10Sを構成する材料の一例は、メタルマスクMを構成するインバー材、及び、非磁性板20の支持面20Sを構成する材料よりも低い硬度を有する。接触面10SがメタルマスクMよりも低い硬度を有することは、接触面10SのなかでメタルマスクMと接する任意の点が、メタルマスクMの任意の点よりも低い硬度を有することである。接触面10Sにおける反発力は、非磁性板20の支持面20Sよりも弱い。接触面10Sにおける衝撃吸収性は、非磁性板20の支持面20Sよりも高い。多孔質シート10の接触面10Sは、JIS K7312-1996に準拠したスプリング硬さ試験におけるタイプCの試験方法によるアスカーC硬度(以下、単にアスカーC硬度という)がC20以下であることが好ましい。
【0028】
メタルマスクMを製造する場面において、メタルマスクMの基材に貫通孔を加工するために用いられたレジストマスクの残渣、また、ウェットエッチングによって発生した基材の加工残渣は、メタルマスクMに付着し得る異物である。メタルマスクMを検査する場面において、製造環境あるいは検査環境のなかの塵あるいは埃もまた、メタルマスクMに付着し得る異物である。
【0029】
接触面10Sが支持面20Sよりも低い硬度を有することから、メタルマスクMが支持面20Sに吸着される場合と比較して、接触面10SとメタルマスクMとの間に介在した異物による凹凸を接触面10Sによって吸収することができる。したがって、接触面10SとメタルマスクMとの間に異物が介在しても、異物との接触によるメタルマスクMの変形を抑制できる。特に、多孔質シート10の接触面10SにおけるアスカーC硬度がC20以下であれば、異物との接触によるメタルマスクMの変形をより確実に抑制できる。
【0030】
[非磁性板]
非磁性板20は、磁石に吸着しない材料で構成された矩形板状の部材である。非磁性板20を構成する材料は、非磁性体の金属、あるいは非磁性の無機化合物である。非磁性を構成する金属の一例は、アルミニウム、ステンレス、あるいは銅である。非磁性を構成する無機化合物は、酸化珪素、あるいは酸化アルミニウムである。非磁性板20を構成する材料は、金属板移載装置1の軽量化の観点から、重量あたりの変形抵抗が高いアルミニウムが好適である。非磁性板20の厚さは、例えば、0.5mm以上1.0mm以下である。
【0031】
非磁性板20は、多孔質シート10を支持する平坦な支持面20Sを備える。支持面20Sは、メタルマスクMよりも大きく、かつ、多孔質シート10と同等もしくは多孔質シート10よりも大きな面積を有する。例えば、非磁性板20がアルマイト処理を施されたアルミニウムで構成される場合、非磁性板20における支持面20Sは、JIS Z2244-1:2020に準拠した測定によるビッカース硬さは、200HV以上300HV以下程度である。
【0032】
[磁気吸着部]
磁気吸着部30は、非磁性板20に対して多孔質シート10が位置する側と反対側に配置される。磁気吸着部30は、複数の永久磁石シート31と、支持板32とを備える。永久磁石シート31は、例えば、アルニコ磁石、フェライト磁石、ネオジム磁石の何れかによって構成されたシート状の永久磁石である。永久磁石シート31は、メタルマスクMの長さ(長手方向の寸法)よりも十分に小さい幅を有する。磁気吸着部30では、メタルマスクMの長手方向に沿って、複数の永久磁石シート31が所定の間隔を有した状態で支持板32に対して並んで配置される。複数の永久磁石シート31は、メタルマスクMの長手方向に沿って隙間を空けて間欠的に並ぶ。なお、メタルマスクMの長手方向は、接触面10Sに沿う一次元方向の一例である。また、図1では、永久磁石シート31にハッチングを付して示している。
【0033】
支持板32は、例えば、アルミニウムやステンレス等の非磁性体の金属、あるいは非磁性の無機化合物である。支持板32は、一例として、矩形状の板体である。なお、支持板32は、例えば、パンチングメタルのように軽量化を目的とした肉抜きが設けられていてもよい。支持板32は、昇降部40に取り付けられている。
【0034】
磁気吸着部30は、非磁性板20に対して多孔質シート10が位置する側と反対側から、非磁性板20及び多孔質シート10を通じてメタルマスクMに永久磁石シート31の磁力を作用させる。永久磁石シート31の磁力がメタルマスクMに作用することで、メタルマスクMが多孔質シート10の接触面10Sに向けて引き付けられる。これにより、メタルマスクMが金属板移載装置1に吸着保持される。
【0035】
永久磁石シート31の表面磁束密度は、50mT以上200mT以下であることが好ましい。永久磁石シート31の表面磁束密度が50mT以上であることで、メタルマスクMを接触面10Sに引き付けるための十分な磁力を作用させることができる。永久磁石シート31の表面磁束密度が200mT以下であることで、永久磁石シート31の磁力が作用する距離が過剰に長くなることを抑制できる。これにより、吸着位置から非吸着位置への移動量を短くできるため、吸着位置と非吸着位置との切り換えに要する時間を短縮できる。なお、永久磁石シート31の表面磁束密度は、メタルマスクMの大きさや重量、多孔質シート10及び非磁性板20の厚さ、永久磁石シート31の大きさ及び枚数に応じて適宜決定すればよい。
【0036】
[昇降部]
昇降部40は、非磁性板20において、支持面20Sと反対側に配置される。昇降部40は、非磁性板20と磁気吸着部30との間の距離を変えるように非磁性板20に対して磁気吸着部30を移動させる。昇降部40が磁気吸着部30を非磁性板20に近づけることで、メタルマスクMに作用する永久磁石シート31の磁力が強められる。また、昇降部40が磁気吸着部30を非磁性板20から遠ざけることで、メタルマスクMに作用する永久磁石シート31の磁力が弱められる。昇降部40が磁気吸着部30を移動させる方向は、メタルマスクMに作用する磁力の変化がメタルマスクMの縁において均一である方向、例えば、支持面20Sに対する法線方向であることが好ましい。
【0037】
昇降部40が磁気吸着部30を移動させる機構は、例えば、モータを備えた電動アクチュエータ、あるいはシリンダを備えたエアアクチュエータによって支持板32を移動させる構成である。昇降部40が磁気吸着部30を移動させる機構は、例えば、手動操作によって支持板32を移動させる構成でもよく、支持板32の移動を補助するための圧縮ばねを備えた構成でもよい。昇降部40は、金属板移載装置1の大型化を抑制する観点、及び、金属板移載装置1の軽量化の観点から、手動操作によって支持板32を移動させる構成が好ましい。
【0038】
メタルマスクMが多孔質シート10の接触面10Sに接する状態で、メタルマスクMが自重に抗して接触面10Sに吸着される程度の磁力がメタルマスクMに作用するときの磁気吸着部30の位置が吸着位置である。メタルマスクMが多孔質シート10の接触面10Sに接する状態で、永久磁石シート31の磁力によってメタルマスクMが接触面10Sに吸着されないときの磁気吸着部30の位置が非吸着位置である。昇降部40は、吸着位置と非吸着位置との間において磁気吸着部30を移動させることで、メタルマスクMが接触面10Sに吸着される状態と、メタルマスクMが接触面10Sに吸着されない状態とを切り換える。なお、図1では、磁気吸着部30が吸着位置に位置する状態を図示している。
【0039】
吸着位置において、メタルマスクMに作用する磁力をより強める観点から、永久磁石シート31と非磁性板20とが接する状態であることが好ましい。なお、吸着位置において、メタルマスクMが自重に抗して接触面10Sに吸着される程度の磁力がメタルマスクMに作用するのであれば、永久磁石シート31と非磁性板20とが離間していてもよい。
【0040】
昇降部40が磁気吸着部30を吸着位置から非吸着位置へ移動させる際の磁気吸着部30の移動量は、メタルマスクMに作用する磁力をより弱める観点から、2mm以上が好ましい。すなわち、非吸着位置において、非磁性板20と磁気吸着部30との距離が2mm以上であることが好ましい。非吸着位置において、非磁性板20と磁気吸着部30との距離が2mm以上となるように非磁性板20に対して磁気吸着部30を移動させることで、接触面10Sに接する状態のメタルマスクMに作用する磁力を十分に低減できる。なお、昇降部40が磁気吸着部30を吸着位置から非吸着位置へ移動させる際の磁気吸着部30の移動量は、50mm以下が好ましい。磁気吸着部30の移動量を50mm以下とすることで、吸着位置と非吸着位置との間の移動量を短くできるため、吸着位置と非吸着位置との切り換えに要する時間を短縮できるとともに、金属板移載装置1の大型化を抑制できる。
【0041】
[金属板の移載方法]
以下、図2図4を参照してステージSに設置されたメタルマスクMを移載する手順について説明する。
【0042】
図2に示すように、メタルマスクMを金属板移載装置1によって移載する際には、まず、昇降部40によって磁気吸着部30を非磁性板20から遠ざけることで、磁気吸着部30を非吸着位置に移動させる。この状態で、多孔質シート10の接触面10SがステージSに載置されたメタルマスクMに接するように金属板移載装置1を移動させる。磁気吸着部30が非吸着位置に位置する状態で接触面10SをメタルマスクMに接触させることで、接触面10SをメタルマスクMに近づける過程で、メタルマスクMが意図せず吸着されることを防ぐことができる。なお、磁気吸着部30が吸着位置に位置する状態で接触面10SをメタルマスクMに接触させてもよい。
【0043】
図3に示すように、次いで、昇降部40によって磁気吸着部30を非磁性板20に近づけることで、磁気吸着部30を吸着位置に移動させる。これにより、ステージSに載置されたメタルマスクMが多孔質シート10の接触面10Sに引き付けられる。したがって、メタルマスクMが金属板移載装置1に吸着された状態となる。
【0044】
図4に示すように、メタルマスクMが金属板移載装置1に吸着された状態で、金属板移載装置1を持ち上げた後、メタルマスクMの移載先となる任意の場所に金属板移載装置1を移動させる。そして、金属板移載装置1に吸着されたメタルマスクMを新たな載置場所に載せた状態で、昇降部40によって磁気吸着部30を非磁性板20から遠ざけることで、磁気吸着部30を非吸着位置に移動させる。これにより、メタルマスクMの吸着が解除される。そして、金属板移載装置1を移動させることで、接触面10SからメタルマスクMが剥離される。以上の手順によって、メタルマスクMが移載される。
【0045】
メタルマスクMと接触面10Sとが接する状態において、多孔質シート10が備える孔部の一部は、接触面10Sに位置する開口がメタルマスクMによって塞がれた状態となる。多孔質シート10が連続気泡の孔部を有することで、メタルマスクMによって開口が塞がれた孔部が、多孔質シート10の内部を介して大気と通じた状態となる。第1実施形態では、メタルマスクMによって開口が塞がれた孔部の少なくとも一部は、例えば、接触面10SのうちメタルマスクMによって塞がれていない部分に位置する開口を介して大気と通じた状態となる。また、第1実施形態では、メタルマスクMによって開口が塞がれた孔部の少なくとも一部は、例えば、多孔質シート10のうち非磁性板20と接していない面である多孔質シート10の側面に位置する開口を介して大気と通じた状態となる。
【0046】
したがって、多孔質シート10が連続気泡の孔部を有することで、メタルマスクMと接触面10Sとの間に密閉された空間が形成されることが抑制される。これにより、メタルマスクMを接触面10Sから剥離する際に、メタルマスクMと接触面10Sとの間の空間の気圧と大気圧との差によって、メタルマスクMに対して接触面10Sに引き付けられる力が作用することを抑制できる。結果として、メタルマスクMを接触面10Sから剥離する際に、メタルマスクMに加わる外力を低減できるとともに、メタルマスクMを接触面10Sから容易に剥離することができる。また、多孔質シート10の気孔率が60%以上であることで、上述の効果を好適に発揮することができる。
【0047】
[永久磁石シートの配置]
以下、図5図8を参照して永久磁石シート31の配置による作用について説明する。
図5に示すように、複数の永久磁石シート31がメタルマスクMの長手方向に沿って間欠的に並ぶことで、メタルマスクMに対して第1磁力MF1と、第1磁力MF1よりも弱い第2磁力MF2とがメタルマスクMの長手方向に沿って交互に作用する。
【0048】
例えば、メタルマスクMのうち多孔質シート10及び非磁性板20を介して永久磁石シート31と対向する部分には、第1磁力MF1が作用する。メタルマスクMのうち多孔質シート10及び非磁性板20を介して永久磁石シート31と対向しない部分には、第2磁力MF2が作用する。メタルマスクMのうち第1磁力MF1が作用する部分は、第2磁力MF2が作用する部分よりも接触面10Sに向けて優先的に引き付けられる。
【0049】
図6に示すように、例えば、ステージSに載置された状態のメタルマスクMに波打ちW(シワ)が生じる場合がある。メタルマスクMに波打ちWが生じる場合、波打ちWは、メタルマスクMの長手方向に交差する一次元方向に延びる形状になりやすい傾向がある。波打ちWが生じたメタルマスクMに接触面10Sを接触させると、波打ちWの頂点の位置が移動したり、波打ちWが2つに分離したりする。例えば、波打ちWは、メタルマスクMの端部まで移動すると波打ちWが解消された状態となる場合がある。また、メタルマスクMは、一部の波打ちWが残った状態で磁気吸着される場合がある。
【0050】
図7に示すように、波打ちWが生じたメタルマスクMにおいて、波打ちWに対して永久磁石シート31の第1磁力MF1が作用すると、波打ちWが絞られるようにその高さ及び幅が縮小する。同時に、波打ちWは、波打ちWの頂点が、第1磁力MF1が作用せず第2磁力MF2が作用する位置まで移動する。
【0051】
図8に示すように、第2磁力MF2が作用する位置まで波打ちWの頂点が移動すると、波打ちWに対する磁力による絞りが弱まることによって波打ちWの幅が大きくなる。仮に、波打ちWに過剰な磁力が作用した場合には、波打ちWが過剰に絞られることで波打ちWの頂点に折れ目が形成される場合がある。この点、メタルマスクMに対して第1磁力MF1と第2磁力MF2とが交互に作用することで、波打ちWの頂点が第1磁力MF1によって第1磁力MF1よりも弱い第2磁力MF2が作用する位置、すなわち、相対的に磁力が弱い位置に移動する。これにより、波打ちWに過剰な磁力が作用して波打ちWの頂点に折れ目が形成されることが抑制される。
【0052】
[第1実施形態の効果]
上記第1実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1-1)接触面10Sと接するメタルマスクMに作用する磁力の強さが、昇降部40による非磁性板20に対する磁気吸着部30の移動によって変わる。これにより、メタルマスクMと接触面10Sとの相対位置を変えることなく、メタルマスクMの吸着とその解除とが可能である。結果として、メタルマスクMの吸着とその解除とにおいて、メタルマスクMに局所的な応力が作用することが抑えられる。
【0053】
(1-2)メタルマスクMに磁気吸着部30の磁力が作用すると、多孔質シート10の接触面10SにメタルマスクMが吸着される。これにより、支持面20Sのような接触面10Sよりも高い硬度を有した面にメタルマスクMが吸着される場合と比べて、接触面10SとメタルマスクMとの間に異物が介在しても、異物との接触によるメタルマスクMの変形を抑制できる。
【0054】
(1-3)金属板移載装置1を用いることで、接触面10Sよりも小さいメタルマスクMであれば、メタルマスクMの大きさによらず、メタルマスクMの全面を吸着保持することができる。
【0055】
(1-4)多孔質シート10が連続気泡の孔部を有することで、メタルマスクMを接触面10Sから剥離する際にメタルマスクMが接触面10Sに引き付けられる力が作用することを抑制できる。結果として、メタルマスクMを接触面10Sから剥離する際に、メタルマスクMに加わる外力を低減できるとともに、メタルマスクMを接触面10Sから容易に剥離することができる。また、多孔質シート10の気孔率が60%以上であることで、上述の効果を好適に発揮することができる。
【0056】
(1-5)多孔質シート10の接触面10SにおけるアスカーC硬度がC20以下であることで、仮に接触面10SとメタルマスクMとの間に異物が介在した場合であっても、異物との接触によるメタルマスクMの変形をより確実に抑制できる。
【0057】
(1-6)昇降部40が磁気吸着部30を吸着位置から非吸着位置へ移動させる際の磁気吸着部30の移動量が2mm以上であることで、接触面10Sに接する状態のメタルマスクMに作用する磁力を十分に低減できる。
【0058】
(1-7)複数の永久磁石シート31を間欠的に並べることで、メタルマスクMに対して、第1磁力MF1と、第1磁力MF1よりも弱い第2磁力MF2とがメタルマスクMの長手方向に沿って交互に作用する。これにより、仮にメタルマスクMに波打ちWが生じた場合であっても、波打ちWが過剰に絞られることが抑制される。したがって、波打ちWの頂点に折れ目が形成されることを抑制できる。
【0059】
[第1実施形態の変更例]
なお、上記第1実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・金属板移載装置1によって吸着されたメタルマスクMに波打ちWが生じ難い構成であれば、メタルマスクMに第1磁力MF1と第2磁力MF2とを交互に作用させる構成ではなく、メタルマスクMに対して一様な磁力を作用させる構成であってもよい。また、メタルマスクMにおける長手方向の中央部が弛まないように、メタルマスクMにおける長手方向の中央部に作用する磁力を、メタルマスクMにおける長手方向の両端部に作用する磁力よりも強くしてもよい。そして、メタルマスクMにおける長手方向の両端部をより確実に吸着するために、メタルマスクMにおける長手方向の両端部に作用する磁力を、メタルマスクMにおける長手方向の中央部に作用する磁力よりも強くしてもよい。
【0060】
・メタルマスクMに第1磁力MF1と第2磁力MF2とを交互に作用させる構成は、複数の永久磁石シート31を間欠的に並べる構成に限定されない。例えば、メタルマスクMよりも大きな面積を有した1枚の永久磁石シート31に、メタルマスクMの長手方向と交差する方向に延在する凹部を間欠的に複数設ける構成であってもよい。この場合、永久磁石シート31のうち凹部が設けられた部分とメタルマスクMとの距離が、凹部が設けられていない部分とメタルマスクMとの距離よりも大きくなる。したがって、メタルマスクMに対する永久磁石シート31の距離の差によって、第1磁力MF1と第2磁力MF2とが交互に作用する。
【0061】
・メタルマスクMに対して第1磁力MF1と第2磁力MF2とが交互に作用する方向は、接触面10Sに沿う一次元方向であればよく、例えば、接触面10Sに沿う一次元方向のうちメタルマスクMの長手方向と交差する方向であってもよい。
【0062】
・昇降部40が磁気吸着部30を吸着位置から非吸着位置へ移動させる際の磁気吸着部30の移動量は、接触面10Sに接する状態のメタルマスクMに作用する磁力を十分に低減できるのであれば、2mm未満であってもよい。磁気吸着部30を吸着位置から非吸着位置へ移動させる際の磁気吸着部30の移動量は、例えば、永久磁石シート31の表面磁束密度や、永久磁石シート31の枚数、メタルマスクMの大きさや重量などに応じて適宜決定すればよい。
【0063】
・接触面10SとメタルマスクMとの間に異物が介在した場合であっても、接触面10Sが異物による凹凸を吸収できるのであれば、接触面10SにおけるアスカーC硬度がC20超であってもよい。
【0064】
・多孔質シート10の孔部が独立気泡であってもよい。この場合、メタルマスクMと接触面10Sとの間に密閉された空間が形成されないように、接触面10Sに凹凸形状を形成してもよい。また、多孔質シート10の孔部は、連続気泡の孔部と独立気泡の孔部との両方を有していてもよい。そして、メタルマスクMを接触面10Sから剥離する際に、メタルマスクMに過剰な外力を加わらないのであれば、多孔質シート10の気孔率が60%未満であってもよい。
【0065】
・昇降部40が非磁性板20に対して磁気吸着部30を移動させる構成に代えて、昇降部40が磁気吸着部30に対して非磁性板20を移動させる構成としてもよい。また、昇降部40が非磁性板20及び磁気吸着部30の両方を、非磁性板20と磁気吸着部30との間の距離を変えるように移動させる構成であってもよい。すなわち、昇降部40は、非磁性板20及び磁気吸着部30の少なくとも一方を移動させることで、非磁性板20と磁気吸着部30との間の距離を変える構成であればよい。
【0066】
図9に示すように、多孔質シート10は、開口部11を備えてもよい。開口部11は、多孔質シート10の厚さ方向に貫通する部分であって、多孔質シート10をメタルマスクMに接触させたときにメタルマスクMと接しない部分である。開口部11は、多孔質シート10を製造する際の発泡によって生じる孔部よりも十分に大きい。開口部11は、例えば、メタルマスクMにおいて複数の貫通孔MHが配置される領域よりも大きい。開口部11の形状は限定されず、例えば、矩形状でもよく、円形や楕円形でもよい。なお、図9では、複数の貫通孔MHが配置される領域にドットを付して示す。
【0067】
開口部11を備える多孔質シート10は、例えば、メタルマスクMにおいて貫通孔MHを区画する部分とは接触せず、それ以外の部分と接する。例えば、メタルマスクMと多孔質シート10とを接触させたときに、メタルマスクMの平面方向において、メタルマスクMが備える複数の貫通孔MHが開口部11の内側に位置する。メタルマスクMの平面方向は、メタルマスクMの厚さ方向と直交する二次元方向である。
【0068】
メタルマスクMにおいて貫通孔MHを区画する部分は、外力によって変形し易い部分である。多孔質シート10に開口部11を設けることで、例えば、メタルマスクMにおいて貫通孔MHを区画する部分に対して、メタルマスクMと多孔質シート10の接触面10Sとの間に介在する異物による外力が加わることを抑制できる。なお、多孔質シート10に開口部11を設けない場合には、多孔質シート10によって、メタルマスクMの全面を支持することができる。これにより、メタルマスクMを安定した状態で保持及び移載することができる。
【0069】
なお、開口部11の大きさは、例えば、メタルマスクMと多孔質シート10とを接触させたときに、メタルマスクMの平面方向において、メタルマスクMが備える複数の貫通孔MHのうち一部の貫通孔MHが開口部11の内側に位置する程度でもよい。もしくは、開口部11の大きさは、メタルマスクMが備える複数の貫通孔MHのうち少なくとも1つの貫通孔MHの一部が開口部11の内側に位置する程度でもよい。この場合、メタルマスクMと多孔質シート10とを接触させたときに、メタルマスクMのうち開口部11の内側に位置する部分に対して、メタルマスクMと多孔質シート10の接触面10Sとの間に介在する異物による外力が加わることを抑制できる。
【0070】
図9に示すように、多孔質シート10が開口部11を備える場合、メタルマスクMのうち多孔質シート10に接触しない部分における磁力による変形を抑制するため、当該部分に作用する磁力を弱めてもよい。例えば、多孔質シート10、非磁性板20、及び、磁気吸着部30が並ぶ方向において、開口部11と永久磁石シート31とが重ならないように永久磁石シート31を配置してもよい。磁気吸着部30において、開口部11と対応する位置を避けて永久磁石シート31を配置することで、メタルマスクMのうち多孔質シート10に接触しない部分に作用する磁力を弱めることができる。なお、多孔質シート10が開口部11を備える場合でも、メタルマスクMのうち多孔質シート10に接触しない部分が過剰に弛まないように、開口部11と対応する位置に永久磁石シート31を配置してもよい。
【0071】
[第2実施形態]
以下、金属板移載装置の第2実施形態について図10を参照して説明する。
図10に示すように、第2実施形態の金属板移載装置2は、非磁性板20が通気孔20Hを備える点を除き第1実施形態の金属板移載装置1と同様の構成を備える。
【0072】
非磁性板20は、複数の通気孔20Hを備える。通気孔20Hは、支持面20Sから延びる。通気孔20Hは、非磁性板20の厚さ方向に貫通する。通気孔20Hの形状は、任意の形状でよく、例えば、丸孔、長円孔、楕円孔、四角孔及び六角孔を含む角孔等である。通気孔20Hの配列は、例えば、ランダムでもよいし、所定の間隔で間欠的に配置された通気孔20Hの列が1列または複数列配置されてもよい。非磁性板20は、例えば、所定の形状の通気孔20Hが規則的に配置されたパンチングメタルであってもよい。
【0073】
[第2実施形態の作用]
非磁性板20が通気孔20Hを備えることで、多孔質シート10が備える孔部のうち、非磁性板20と対向する孔部の一部が、通気孔20Hによって大気と通じた状態となる。すなわち、通気孔20Hは、多孔質シート10が備える孔部が大気と通じるための通気路として機能する。これにより、第1実施形態の構成と比較して、メタルマスクMと多孔質シート10の接触面10Sとの間に密閉された空間が形成されることをより確実に抑制できる。
【0074】
非磁性板20の開口率は、20%以上50%以下であることが望ましい。なお、非磁性板20の開口率は、支持面20Sと対向する視点から見たときに、支持面20Sの外縁によって区画される形状の面積に対する複数の通気孔20Hの面積の総和の割合である。非磁性板20の開口率が20%以上であれば、通気孔20Hが通気路として機能することで、メタルマスクMと多孔質シート10の接触面10Sとの間に密閉された空間が形成されることを好適に抑制できる。非磁性板20の開口率が50%以下であれば、通気孔20Hの形成に伴って非磁性板20の機械的強度が過剰に低下することを抑制できる。
【0075】
[第2実施形態の効果]
(2-1)非磁性板20が備える通気孔20Hによって多孔質シート10が備える孔部が大気と通じた状態となることで、メタルマスクMと多孔質シート10の接触面10Sとの間に密閉された空間が形成されることをより確実に抑制できる。結果として、メタルマスクMを接触面10Sから剥離する際に、メタルマスクMに加わる外力をより確実に低減できるとともに、メタルマスクMを接触面10Sからより容易に剥離することができる。なお、第2実施形態の金属板移載装置2においても、上記の(1-1)~(1-7)の効果を得ることができる。
【0076】
[第2実施形態の変更例]
なお、上記第2実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・第2実施形態の金属板移載装置2においても、第1実施形態と同様の変更例が適用可能である。また、非磁性板20が通気孔20Hを備える場合であっても、多孔質シート10が備える孔部が独立気泡であってもよい。この場合、例えば、多孔質シート10を製造する際の発泡によって形成される孔部とは別に、多孔質シート10に対して厚さ方向に貫通する孔を形成してもよい。この場合、非磁性板20の通気孔20Hによって、多孔質シート10の厚さ方向に貫通する孔が大気と通じることで、メタルマスクMと多孔質シート10の接触面10Sとの間に密閉された空間が形成されることを抑制できる。
【0077】
[第3実施形態]
以下、金属板移載装置の第3実施形態について図11図13を参照して説明する。第3実施形態では、メタルマスクMの移載方法の一例として、2つの金属板移載装置2を用いることで、金属板移載装置2に吸着保持された状態のメタルマスクMの表裏を反転する方法について説明する。
【0078】
図11に示すように、2つの金属板移載装置2は、一方が第1金属板移載装置2A、他方が第2金属板移載装置2Bである。なお、以下では、第1金属板移載装置2Aが備える多孔質シート10、非磁性板20、磁気吸着部30、及び昇降部40を、第1多孔質シート10A、第1非磁性板20A、第1磁気吸着部30A、及び第1昇降部40Aとする。第1多孔質シート10Aが備える接触面10Sを第1接触面10SAとする。第1非磁性板20Aが備える支持面20Sを第1支持面20SAとする。第2金属板移載装置2Bが備える多孔質シート10、非磁性板20、磁気吸着部30、及び昇降部40を、第2多孔質シート10B、第2非磁性板20B、第2磁気吸着部30B、及び第2昇降部40Bとする。第2多孔質シート10Bが備える接触面10Sを第2接触面10SBとする。第2非磁性板20Bが備える支持面20Sを第2支持面20SBとする。
【0079】
第1金属板移載装置2Aは、メタルマスクMを吸着保持している。メタルマスクMは、第1面MS1と第2面MS2とを備える。第1面MS1及び第2面MS2は、互いに相反する方向に面する2つの面である。メタルマスクMは、例えば、第2面MS2とステージSとが接するようにステージSに載置された状態から、第1実施形態と同様の手順によって、第1面MS1が第1接触面10SAに接する状態で第1金属板移載装置2Aに吸着保持されている。すなわち、第1金属板移載装置2Aは、第1磁気吸着部30Aを非吸着位置に位置させた状態で第1接触面10SAをメタルマスクMの第1面MS1に接触させた後、第1磁気吸着部30Aを吸着位置に移動させる。これにより、第1磁気吸着部30Aの磁力がメタルマスクMに作用することで、第1面MS1が第1接触面10SAに接する状態でメタルマスクMが第1金属板移載装置2Aに吸着保持される。なお、第1磁気吸着部30Aが吸着位置に位置する状態で第1接触面10SAをメタルマスクMに接触させてもよい。
【0080】
この状態から、第2金属板移載装置2Bが備える第2多孔質シート10Bの第2接触面10SBとメタルマスクMの第2面MS2とが対向するように、第2金属板移載装置2Bを配置する。このとき、第2金属板移載装置2Bにおいて、第2磁気吸着部30Bは、非吸着位置に位置する。そして、図11中に矢印で示すように、第2接触面10SBがメタルマスクMの第2面MS2に接するように、第2金属板移載装置2Bを移動させる。なお、第2金属板移載装置2Bを移動させるのではなく、メタルマスクMを吸着した第1金属板移載装置2Aを移動させることで、第2接触面10SBとメタルマスクMの第2面MS2とを接触させてもよい。
【0081】
図12に示すように、次いで、第2金属板移載装置2Bにおいて、第2昇降部40Bによって、非吸着位置に位置する第2磁気吸着部30Bを吸着位置に移動させる。これにより、メタルマスクMに対して第2磁気吸着部30Bの磁力が作用することで、メタルマスクMの第2面MS2が第2接触面10SBに引き付けられる。そして、第1金属板移載装置2Aにおいて、第1昇降部40Aによって、第1非磁性板20Aと第1磁気吸着部30Aとの間の距離を増加させるように、第1非磁性板20Aに対して第1磁気吸着部30Aを移動させる。すなわち、第1金属板移載装置2Aにおいて、吸着位置に位置する第1磁気吸着部30Aを非吸着位置に移動させる。これにより、第1磁気吸着部30AによるメタルマスクMに対する磁気吸着が解除される。なお、第1金属板移載装置2Aにおいて、吸着位置に位置する第1磁気吸着部30Aを非吸着位置に移動させた後、第2金属板移載装置2Bにおいて、非吸着位置に位置する第2磁気吸着部30Bを吸着位置に移動させてもよい。
【0082】
図13に示すように、メタルマスクMに対する磁気吸着を解除した状態の第1金属板移載装置2Aを移動させることで、第1接触面10SAからメタルマスクMの第1面MS1を剥離する。なお、第1金属板移載装置2Aを移動させるのではなく、メタルマスクMを吸着した状態の第2金属板移載装置2Bを移動させることで、第1接触面10SAからメタルマスクMの第1面MS1を剥離してもよい。その後、メタルマスクMを吸着した状態の第2金属板移載装置2Bの上下を反転させる。
【0083】
以上の手順により、第1磁気吸着部30AによってメタルマスクMの第1面MS1が第1接触面10SAに引き付けられた状態から、第2磁気吸着部30BによってメタルマスクMの第2面MS2が第2接触面10SBに引き付けられた状態となる。したがって、メタルマスクMにおいて、金属板移載装置2によって吸着される面を反転させることができる。なお、表裏が反転されたメタルマスクMは、例えば、第2金属板移載装置2Bに吸着された状態で移動された後、第2金属板移載装置2Bが磁気吸着を解除することによって任意の場所に載置される。
【0084】
[第3実施形態の効果]
(3-1)第1金属板移載装置2Aに吸着保持されたメタルマスクMを第2金属板移載装置2Bに受け渡すことで、メタルマスクMにおいて、金属板移載装置2によって吸着される面を反転させることができる。このような表裏反転動作であれば、表裏反転動作中にメタルマスクMの姿勢が一定に保たれるため、表裏反転動作に伴うメタルマスクMの変形を抑えることができる。なお、第3実施形態のメタルマスク移載方法においても、上記の(1-1)~(1-7)、(2-1)の効果を得ることができる。
【0085】
[第3実施形態の変更例]
なお、上記第3実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・第2実施形態における金属板移載装置2を2つ用いてメタルマスクMの表裏を反転する方法を例示したが、第1実施形態における金属板移載装置1を用いた場合も同様の方法を適用可能である。また、2つの金属板移載装置2の一方に代えて、第1実施形態における金属板移載装置1を用いてもよい。そして、2つの金属板移載装置2は、同一の構成である必要は無く、例えば、一方の金属板移載装置2にのみ上述の変更例が適用されていてもよいし、2つの金属板移載装置2のそれぞれに異なる変更例が適用されていてもよい。
【0086】
・2つの金属板移載装置2は、作業者によって持ち運ばれることで移動してもよい。2つの金属板移載装置2のうち少なくとも一方は、金属板移載装置2を電動で移動させるロボットアームや電動スライダのような移動機構に接続されてもよい。また、2つの金属板移載装置2が移動機構を介して一体に構成されていてもよい。例えば、複数の金属板移載装置2と、複数の移動機構とを備えた金属板移載システムにおいて、1つの移動機構に第1金属板移載装置2Aが接続されるとともに、他の移動機構に第2金属板移載装置2Bが接続される構成としてもよい。
【0087】
[実施例]
以下、金属板移載装置の実施例1~3及び比較例1~5について説明する。なお、各実施例は、上記実施形態の一例であって上記実施形態を限定するものではなく、各比較例は、実施例の効果を説明するための参考となる具体例である。
【0088】
[実施例1]
実施例1では、第1実施形態の金属板移載装置1と同様の構成を有した移載装置を用いて、第1実施形態と同様の手順によってステージSに載置されたメタルマスクMを他の場所に移載した。
【0089】
[実施例2]
実施例2では、第2実施形態の金属板移載装置2と同様の構成を有した移載装置を用いて、第1実施形態と同様の手順によってステージSに載置されたメタルマスクMを他の場所に移載した。なお、実施例2で用いた移載装置は、非磁性板20が通気孔20Hを備える点を除き、実施例1で用いた移載装置と同様の構成を有する。
【0090】
[実施例3]
実施例3では、第2実施形態の金属板移載装置2と同様の構成を有した移載装置を2つ用いた。そして、第3実施形態と同様の手順によって、一方の移載装置によってステージSに載置されたメタルマスクMを吸着した後、他方の移載装置に受け渡すことでメタルマスクMの表裏を反転させた状態で他の場所に移載した。
【0091】
[比較例1]
図14に示すように、比較例1では、多孔質シート10を有していない点を除き、第1実施形態の金属板移載装置1と同様の構成を有する金属板移載装置100を用いた。そして、第1実施形態と同様の手順によってステージSに載置されたメタルマスクMを他の場所に移載した。このとき、メタルマスクMは、支持面20Sと接する状態で金属板移載装置100に吸着支持される。
【0092】
[比較例2]
図15に示すように、比較例2では、多孔質シート10を有していない点を除き、第2実施形態の金属板移載装置2と同様の構成を有する金属板移載装置101を用いた。そして、第1実施形態と同様の手順によってステージSに載置されたメタルマスクMを他の場所に移載した。このとき、メタルマスクMは、支持面20Sと接する状態で金属板移載装置101に吸着支持される。
【0093】
[比較例3]
図16に示すように、比較例3では、多孔質シート10に代えてクッション110を備える点を除き、第1実施形態の金属板移載装置1と同様の構成を有する金属板移載装置102を用いた。クッション110は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を主成分とするゴム製のシート部材を用いた。クッション110は、メタルマスクMと接する接触面110Sを備える。そして、第1実施形態と同様の手順によってステージSに載置されたメタルマスクMを他の場所に移載した。このとき、メタルマスクMは、接触面110Sと接する状態で金属板移載装置102に吸着支持される。
【0094】
[比較例4]
図17に示すように、比較例4では、複数の真空吸着パッド120と、張力付与機構130と、パッド位置調整機構140とを備える金属板移載装置103を用いて、ステージSに載置されたメタルマスクMを他の場所に移載した。真空吸着パッド120は、例えば、非図示の真空引きポンプに接続される。複数の真空吸着パッド120は、真空吸着によってメタルマスクMにおける長手方向の両端を吸着保持する。複数の真空吸着パッド120は、メタルマスクMにおける長手方向の一端を吸着保持する第1真空吸着パッド121と、メタルマスクMにおける長手方向の他端を吸着保持する第2真空吸着パッド122とを含む。
【0095】
張力付与機構130は、複数の真空吸着パッド120がメタルマスクMにおける長手方向の両端を吸着保持した状態で、第1真空吸着パッド121と第2真空吸着パッド122との距離を大きくすることで、メタルマスクMに張力を付与する。張力付与機構130は、第1真空吸着パッド121及び第2真空吸着パッド122のうち少なくとも一方を、他方に対する距離が大きくなるように移動させる。メタルマスクMに張力を付与することで、複数の真空吸着パッド120に保持されたメタルマスクMの長手方向の中央部が弛まないようにする。パッド位置調整機構140は、メタルマスクMの大きさに応じて、金属板移載装置103における第1真空吸着パッド121と第2真空吸着パッド122との相対位置を変えるための構成である。
【0096】
比較例4における金属板移載装置103を用いたメタルマスクMを移載する方法は、まず、パッド位置調整機構140によって、メタルマスクMの大きさに応じて第1真空吸着パッド121と第2真空吸着パッド122との相対位置を調整する。そして、第1真空吸着パッド121と第2真空吸着パッド122とをメタルマスクMに接触させるとともに、第1真空吸着パッド121及び第2真空吸着パッド122によってメタルマスクMを真空吸着する。そして、メタルマスクMが弛まないように、張力付与機構130によってメタルマスクMに張力を付与する。この状態で、金属板移載装置103を移動させた後、他の移載場所で第1真空吸着パッド121及び第2真空吸着パッド122による真空吸着を解除する。以上の手順によって、金属板移載装置103を用いてメタルマスクMを移載した。
【0097】
[比較例5]
図18に示すように、比較例5では、2つの金属板移載装置103を用いて、一方の移載装置によってステージSに載置されたメタルマスクMを吸着した後、他方の移載装置に受け渡すことでメタルマスクMの表裏を反転させた状態で他の場所に移載した。
【0098】
メタルマスクMの表裏反転動作は、まず、2つの金属板移載装置103の一方である第1金属板移載装置103Aを用いて、比較例4と同様の手順によって、メタルマスクMの第1面MS1を吸着した。この状態から、2つの金属板移載装置103の他方である第2金属板移載装置103Bが備える真空吸着パッド120をメタルマスクMの第2面MS2に接触させる。そして、第2金属板移載装置103Bが備える真空吸着パッド120によってメタルマスクMの第2面MS2を吸着する。さらに、第1金属板移載装置103AによるメタルマスクMの吸着保持を解除する。その後、第2金属板移載装置103Bを移動させた後、他の移載場所で第2金属板移載装置103Bが備える真空吸着パッド120による真空吸着を解除する。以上の手順によって、2つの金属板移載装置103を用いて、メタルマスクMの表裏反転動作を伴いながらメタルマスクMを移載した。
【0099】
[評価]
実施例1~3及び比較例1~5において、移載完了後におけるメタルマスクMの変形の有無を目視にて確認した。実施例1~3では、移載に伴うメタルマスクMの変形は確認されなかった。これに対して、比較例1~5では、移載に伴うメタルマスクMの変形が確認された。以下、比較例1~5において生じたメタルマスクMの変形のメカニズムについて説明する。
【0100】
比較例1では、金属板移載装置100が多孔質シート10を備えないことから、メタルマスクMが非磁性板20の支持面20Sと接する状態で磁気吸着される。このとき、メタルマスクMと支持面20Sとが密着した状態であるため、メタルマスクMを支持面20Sから剥離する際において、メタルマスクMと支持面20Sとの間に密閉された空間が形成され易い。この状態で磁気吸着を解除してメタルマスクMを支持面20Sから剥離しようとすると、メタルマスクMの一部が支持面20Sから剥離されずに持ち上げられることによって変形が生じる。また、多孔質シート10を備える場合と比較して、メタルマスクMと支持面20Sとの間に異物が介在した場合にも、異物による凹凸によってメタルマスクMが変形し易い状態となる。
【0101】
比較例2では、金属板移載装置101が多孔質シート10を備えないものの、非磁性板20が通気孔20Hを備えることから、比較例1よりもメタルマスクMが支持面20Sから剥離し易い状態である。しかし、メタルマスクMのうち通気孔20Hを塞ぐように位置する部分は、非磁性板20の支持面20Sと接しない部分であるため、磁気吸着部30の磁力によって通気孔20Hの内側に向かって撓むような変形が生じる。また、比較例1と同様に、多孔質シート10を備える場合と比較して、メタルマスクMと支持面20Sとの間に異物が介在した場合にも、異物による凹凸によってメタルマスクMが変形し易い状態となる。
【0102】
比較例3では、メタルマスクMと支持面20Sとの間に異物が介在した場合にも、クッション110が異物による凹凸を吸収することで、メタルマスクMの変形が抑制される。しかし、比較例3では、比較例1と同様に、メタルマスクMと接触面110Sとが密着した状態であるため、メタルマスクMを接触面110Sから剥離する際において、メタルマスクMと接触面110Sとの間に密閉された空間が形成され易い。この状態で磁気吸着を解除してメタルマスクMを接触面110Sから剥離しようとすると、メタルマスクMの一部が接触面110Sから剥離されずに持ち上げられることによって変形が生じる。
【0103】
比較例4及び比較例5では、真空吸着パッド120による真空吸着によってメタルマスクMが保持される。そのため、実施例1~3の構成であれば、メタルマスクMの重量を保持するための磁力をメタルマスクMの全体に分散させることができるのに対して、比較例4及び比較例5ではメタルマスクMに対して局所的な力が作用することになる。したがって、メタルマスクMのうち真空吸着パッド120によって吸着される部分に変形が生じる。加えて、メタルマスクMの長手方向の両端が真空吸着されるため、メタルマスクMの長手方向の中央部が自重によって弛むことで変形し易くなる。そのため、張力付与機構130によって張力を付与する必要があるが、装置の大型化や複雑化を招く。メタルマスクMが備える貫通孔MHの形状によっては、張力付与機構130による張力が局所的に作用し難い場合もあるため、張力付与機構130を設けた場合でも上述したメタルマスクMの撓みが生じる場合がある。
【0104】
なお、真空吸着パッド120による真空吸着の場合では、メタルマスクMの端部が弛まないようにメタルマスクMの両端部を吸着する必要がある。そのため、パッド位置調整機構140によって、真空吸着パッド120の位置をメタルマスクMの大きさに合わせて変える必要が有るが、装置の大型化や複雑化を招く。
【0105】
以上より、実施例1~3の構成によれば、比較例1~5で生じるようなメタルマスクMの変形を抑制することができる。また、実施例1~3の構成によれば、比較例4、5の構成と比較して張力付与機構130を備えずともメタルマスクMの変形を抑制できるため、装置を小型化できる。そして、実施例1~3の構成によれば、比較例4、5の構成と比較してパッド位置調整機構140を備えずとも、多孔質シート10よりも小さいメタルマスクMであれば何れの大きさであってもメタルマスクMの移載が可能であるため、装置を小型化できる。
【符号の説明】
【0106】
M…メタルマスク
MH…貫通孔
MF1…第1磁力
MF2…第2磁力
MS1…第1面
MS2…第2面
S…ステージ
1,2…金属板移載装置
2A…第1金属板移載装置
2B…第2金属板移載装置
10…多孔質シート
10S…接触面
11…開口部
20…非磁性板
20H…通気孔
20S…支持面
30…磁気吸着部
31…永久磁石シート
32…支持板
40…昇降部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
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図16
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