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特開2024-81858全固体二次電池用バインダー、全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー、全固体二次電池用固体電解質シート及びその製造方法、並びに全固体二次電池及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081858
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】全固体二次電池用バインダー、全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー、全固体二次電池用固体電解質シート及びその製造方法、並びに全固体二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240612BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240612BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240612BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240612BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240612BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/058
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195358
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】中山 卓哉
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK06
5H029AK16
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029DJ08
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ10
5H029HJ11
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA14
5H050CA15
5H050CA20
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA11
5H050DA13
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA10
5H050HA11
(57)【要約】
【課題】密着性及びイオン伝導性に優れた全固体二次電池用電極を作製でき、かつ、全固体二次電池の繰り返し充放電特性を向上させることができる全固体二次電池用バインダーを提供する。
【解決手段】重合体(A)を含有する全固体二次電池用バインダーであって、前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、エチレンに由来する繰り返し単位(a1)35~75質量%と、α-オレフィン化合物に由来する繰り返し単位(a2)20~55質量%と、を含有し、前記重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が100,000~2,000,000である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体(A)を含有する全固体二次電池用バインダーであって、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、
エチレンに由来する繰り返し単位(a1)35~75質量%と、
α-オレフィン化合物に由来する繰り返し単位(a2)20~55質量%と、
を含有し、
前記重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が100,000~2,000,000である、全固体二次電池用バインダー。
【請求項2】
前記重合体(A)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)が20~100である、請求項1に記載の全固体二次電池用バインダー。
【請求項3】
前記重合体(A)が、非共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a3)0.1~15質量%を更に含有する、請求項1に記載の全固体二次電池用バインダー。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の全固体二次電池用バインダーと、液状媒体(B)と、を含有し、
前記液状媒体(B)が、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン類、エステル類、エーテル類及びラクタム類よりなる群から選択される少なくとも1種である、全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質と、を含有する全固体二次電池用スラリー。
【請求項6】
前記固体電解質として、硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質を含有する、請求項5に記載の全固体二次電池用スラリー。
【請求項7】
正極活物質層と、固体電解質層と、負極活物質層と、を少なくとも備える全固体二次電池において、
前記正極活物質層、前記固体電解質層、及び前記負極活物質層の少なくともいずれか1層が、請求項5に記載の全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて形成された層である、全固体二次電池。
【請求項8】
基材上に、請求項5に記載の全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて形成された層を有する、全固体二次電池用固体電解質シート。
【請求項9】
請求項5に記載の全固体二次電池用スラリーを基材上に塗布及び乾燥させる工程を含む、全固体二次電池用固体電解質シートの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の全固体二次電池用固体電解質シートの製造方法を介して全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用バインダー、全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー、全固体二次電池用固体電解質シート及びその製造方法、並びに全固体二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の駆動用電源として、高電圧かつ高エネルギー密度を有する蓄電デバイスが要求されている。このような蓄電デバイスとしては、リチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタなどが期待されている。
【0003】
このような蓄電デバイスに使用される電極は、活物質と、バインダーとして機能する重合体とを含有する組成物(蓄電デバイス電極用スラリー)を集電体の表面に塗布及び乾燥させることにより製造される。バインダーとして使用される重合体に要求される特性としては、活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力が挙げられる。また、塗布・乾燥された組成物塗膜(以下、「活物質層」ともいう。)を裁断する際、活物質層から活物質の微粉などが脱落しない粉落ち耐性などを挙げることができる。このようなバインダー材料が良好な密着性を発現させて、該バインダー材料に起因する電池の内部抵抗を低減させることで、蓄電デバイスに良好な充放電特性を付与することができる。
【0004】
なお、上記の活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力、並びに粉落ち耐性については、性能の良否がほぼ比例関係にあることが経験上明らかになっている。したがって、本明細書では、以下これらを包括して「密着性」という用語を用いて表す場合がある。
【0005】
現在、自動車などの駆動電源や家庭用蓄電池などに用いるため、大型リチウムイオン電池の研究が盛んに行われている。現在汎用されているリチウムイオン二次電池には、電解液が用いられているものが多いが、この電解液を固体電解質に置き換えることによって、構成材料の全てを固体とする全固体二次電池の開発が進められている。
【0006】
全固体二次電池は、高いイオン伝導性を示す固体電解質を用いるため、液漏れや発火の危険性がなく、安全性や信頼性に優れている。また、全固体二次電池は、電極のスタックによる高エネルギー密度化にも適している。具体的には、活物質層と固体電解質層とを並べて直列化した構造を持つ電池とすることができるとともに、電池セルを封止する金属パッケージ、電池セルをつなぐ銅線やバスバーを省略することができるので、電池のエネルギー密度を大幅に高めることができる。また、高電位化が可能な正極材料との相性の良さなども利点として挙げられる。このように、全固体二次電池は、安全性と高エネルギー密度、長寿命を兼ね備えた究極の電池として期待されている。
【0007】
その一方で、全固体二次電池を製造する際の課題も顕在化している。具体的には、電解質としての固体電解質と活物質との接触面積を増大させるために、それらを混合した混合物の加圧成型体とした場合には、該加圧成型体は硬くて脆い加工性に乏しいものとなる。また、活物質はリチウムイオンの吸蔵・放出により体積変化を伴うため、前記加圧成型体では、充放電サイクルに伴って活物質が剥離するなどし、顕著な容量低下が発生するなどの問題を有していた。そこで、成型性を高めるために、前記混合物にバインダー成分をさらに加えて成型性を向上させる技術が検討されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11-86899号公報
【特許文献2】特公平7-87045号公報
【特許文献3】国際公開第2009/107784号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1~3に開示された高分子化合物からなるバインダー成分を加えることで成型性は向上すると考えられる。しかしながら、固体電解質の表面が高分子化合物に覆われることで、固体電解質間のイオン伝導が阻害されやすいことに加え、昨今の全固体二次電池に要求される高レベルのサイクル寿命特性を満足することができず、さらなる改善が要求されていた。
【0010】
本発明に係る幾つかの態様は、密着性及びイオン伝導性に優れた全固体二次電池用電極を作製でき、かつ、全固体二次電池の繰り返し充放電特性を向上させることができる全固体二次電池用バインダーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下のいずれかの態様として実現することができる。
【0012】
本発明に係る全固体二次電池用バインダーの一態様は、
重合体(A)を含有する全固体二次電池用バインダーであって、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、前記重合体(A)が、
エチレンに由来する繰り返し単位(a1)35~75質量%と、
α-オレフィン化合物に由来する繰り返し単位(a2)20~55質量%と、
を含有し、
前記重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が100,000~2,000,000である。
【0013】
前記全固体二次電池用バインダーの一態様において、
前記重合体(A)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)が20~100であってもよい。
【0014】
前記全固体二次電池用バインダーの一態様において、
前記重合体(A)が、非共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a3)0.1~15質量%を更に含有してもよい。
【0015】
本発明に係る全固体二次電池用バインダー組成物の一態様は、
前記いずれかの態様の全固体二次電池用バインダーと、液状媒体(B)と、を含有し、
前記液状媒体(B)が、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン類、エステル類、エーテル類及びラクタム類よりなる群から選択される少なくとも1種である。
【0016】
本発明に係る全固体二次電池用スラリーの一態様は、
前記態様の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質と、を含有する。
【0017】
前記全固体二次電池用スラリーの一態様において、
前記固体電解質として、硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質を含有してもよい。
【0018】
本発明に係る全固体二次電池の一態様は、
正極活物質層と、固体電解質層と、負極活物質層と、を少なくとも備え、
前記正極活物質層、前記固体電解質層、及び前記負極活物質層の少なくともいずれか1層が、前記態様の全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて形成された層である。
【0019】
本発明に係る全固体二次電池用固体電解質シートの一態様は、
基材上に、前記態様の全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて形成された層を有する。
【0020】
本発明に係る全固体二次電池用固体電解質シートの製造方法の一態様は、
前記態様の全固体二次電池用スラリーを基材上に塗布及び乾燥させる工程を含む。
【0021】
本発明に係る全固体二次電池の製造方法の一態様は、
前記態様の全固体二次電池用固体電解質シートの製造方法を介して全固体二次電池を製造する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る全固体二次電池用バインダーによれば、密着性及びイオン伝導性に優れた全固体二次電池用電極を作製することができ、かつ、全固体二次電池の繰り返し充放電特性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0024】
本明細書において、「X~Y」のように記載された数値範囲は、数値Xを下限値として含み、かつ、数値Yを上限値として含むものとして解釈される。
【0025】
1.全固体二次電池用バインダー
本発明の一実施形態に係る全固体二次電池用バインダーは、重合体(A)を含有する。前記重合体(A)は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、エチレンに由来する繰り返し単位(a1)35~75質量%と、α-オレフィン化合物に由来する繰り返し単位(a2)20~55質量%と、を含有する。また、前記重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、100,000~2,000,000である。以下、重合体(A)を構成する繰り返し単位、重合体(A)の物性、製造方法の順に説明する。
【0026】
1.1.重合体(A)を構成する繰り返し単位
重合体(A)は、該重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、エチレンに由来する繰り返し単位(a1)(以下、単に「繰り返し単位(a1)」ともいう。)を35~75質量%、(b)α-オレフィン化合物に由来する繰り返し単位(a2)(以下、単に「繰り返し単位(a2)」ともいう。)を20~55質量%と、を含有する。また、重合体(A)は、繰り返し単位(a1)及び繰り返し単位(a2)の他に、これらと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。
【0027】
1.1.1.エチレンに由来する繰り返し単位(a1)
エチレンに由来する繰り返し単位(a1)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、35~75質量%である。繰り返し単位(a1)の含有割合の下限は、37質量%であることが好ましく、40質量%であることがより好ましい。繰り返し単位(a1)の含有割合の上限は、73質量%であることが好ましく、70質量%であることがより好ましい。重合体(A)が繰り返し単位(a1)を前記範囲内で含有することにより、活物質の分散性が良好となり、均質な活物質層の作製が可能となる。これにより、活物質層の構造欠陥の発生が低減されるため、全固体二次電池が良好な繰り返し充放電特性を示すようになる。また、活物質の表面を被覆した重合体(A)に伸縮性を付与することができ、重合体(A)が伸縮することで密着性を向上できるため、全固体二次電池が良好な充放電耐久特性を示すようになる。
【0028】
1.1.2.α-オレフィン化合物に由来する繰り返し単位(a2)
α-オレフィン化合物に由来する繰り返し単位(a2)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、20~55質量%である。繰り返し単位(a2)の含有割合の下限は、22質量%であることが好ましく、24質量%であることがより好ましい。繰り返し単位(a2)の含有割合の上限は、53質量%であることが好ましく、50質量%であることがより好ましい。重合体(A)が繰り返し単位(a2)を前記範囲内で含有することにより、活物質層中に分散された重合体(A)同士の融着が抑制され、良好なスラリー特性を示すようになる。これにより、スラリーの塗布性を向上させることができ、均質な活物質層の作製が可能となるため、全固体二次電池が良好な繰り返し充放電特性を示すようになる。また、活物質として用いられるグラファイト等に対して良好な結着力を示すため、密着性に優れた全固体二次電池用電極が得られる。
【0029】
α-オレフィン化合物としては、炭素数3~20のα-オレフィン化合物であることが好ましい。炭素数3~20のα-オレフィン化合物としては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。これらの中でも、プロピレン、1-ブテンがより好ましい。
【0030】
1.1.3.その他の繰り返し単位
重合体(A)は、繰り返し単位(a1)及び繰り返し単位(a2)の他に、これらと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。このような繰り返し単位としては、例えば、非共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a3)(以下、単に「繰り返し単位(a3)」ともいう。)等が挙げられる。
【0031】
<非共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a3)>
重合体(A)は、非共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a3)を含有することが好ましい。非共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位(a3)の含有割合は、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量%としたときに、0.1~15質量%であることが好ましい。繰り返し単位(a3)の含有割合の下限は、0.2質量%であることが好ましく、0.3質量%であることがより好ましい。繰り返し単位(a3)の含有割合の上限は、14質量%であることが好ましく、13質量%であることがより好ましい。重合体(A)が繰り返し単位(a3)を前記範囲内で含有することにより、繰り返し充放電時のバインダー成分の劣化が抑制されるため、全固体二次電池が良好な繰り返し充放電特性を示すようになる。
【0032】
非共役ジエン化合物としては、例えば、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-プロピリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、
2,5-ノルボルナジエン、1,4-シクロヘキサジエン、1,4-シクロオクタジエン、1,5-シクロオクタジエン等の環状ポリエン;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,6-オクタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、5,7-ジメチル-1,6-オクタジエン、7-メチル-1,7-ノナジエン、8-メチル-1,7-ノナジエン、8-メチル-1,8-デカジエン、9-メチル-1,8-デカジエン、4-エチリデン-1,6-オクタジエン、7-メチル-4-エチリデン-1,6-オクタジエン、7-メチル-4-エチリデン-1,6-ノナジエン、7-エチル-4-エチリデン-1,6-ノナジエン、6,7-ジメチル-4-エチリデン-1,6-オクタジエン、6,7-ジメチル-4-エチリデン-1,6-ノナジエン等の炭素数が6~15の内部不飽和結合を有する鎖状ポリエン;1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘプタジエン、1,7-オクタジエン、1,8-ノナジエン、1,9-デカジエン、1,10-ウンデカジエン、1,11-ドデカジエン、1,12-トリデカジエン、1,13-テトラデカジエン等のα,ω-ジエンが挙げられる。これらの中でも、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、2,5-ノルボルナジエン、1,4-ペンタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエンが好ましく、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、2,5-ノルボルナジエン、1,4-ペンタジエンがより好ましい。これら非共役ジエン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
1.2.重合体(A)の物性
1.2.1.重量平均分子量(Mw)
重合体(A)の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、100,000~2,000,000である。重合体(A)の重量平均分子量の下限は、120,000であることが好ましく、150,000であることがより好ましい。重合体(A)の重量平均分子量の上限は、1,800,000であることが好ましく、1,600,000であることがより好ましい。重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が前記範囲内であると、重合体(A)が後述する液状媒体(B)に溶解しやすくなるので、活物質と混合して作製されるスラリーの安定性が良好となるとともに、集電体へのスラリーの塗布性が良好となる。また、重合体(A)による活物質や固体電解質、さらには導電助剤等のフィラー間の結着性が向上するため、充放電特性に優れた全固体二次電池が得られる。また、全固体二次電池作製時の電極板や固体電解質層のプレス、折り曲げ等の外力に対する耐性が向上する。
【0034】
1.2.2.ムーニー粘度
重合体(A)の、ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、20~100であることが好ましい。重合体(A)のムーニー粘度の下限は、22であることが好ましく、25であることがより好ましい。重合体(A)のムーニー粘度の上限は、98であることが好ましく、95であることがより好ましい。重合体(A)のムーニー粘度が前記範囲内であると重合体(A)による活物質や固体電解質、さらには導電助剤等のフィラー間の結着性が向上するため、密着性とイオン電導性に優れた全固体二次電池用電極を作製することができる。これにより、全固体二次電池が良好な充放電耐久特性を示すようになる。
【0035】
1.3.重合体(A)の製造方法
重合体(A)の製造方法は、特に限定されず、気相重合法、溶液重合法、スラリー重合法等の重合方法により製造することができる。これらの重合方法は、バッチ式で実施してもよく、連続式で実施してもよい。溶液重合法又はスラリー重合法においては、反応媒体として、通常、不活性炭化水素溶媒が使用される。このような不活性炭化水素溶媒としては、例えば、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-デカン、
n-ドデカン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等を挙げることができる。これらの不活性炭化水素溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、原料モノマーを炭化水素溶媒として用いてもよい。
【0036】
重合体(A)を製造する際に用いられる重合触媒としては、例えば、V、Ti、Zr、及びHfから選択される遷移金属の化合物と、有機金属化合物とからなるオレフィン重合触媒を挙げることができる。なお、前記遷移金属の化合物及び前記有機金属化合物は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。このようなオレフィン重合触媒の特に好ましい例としては、メタロセン化合物と、有機アルミニウム化合物若しくはメタロセン化合物と反応してイオン性錯体を形成するイオン性化合物とからなるメタロセン系触媒;バナジウム化合物と、有機アルミニウム化合物とからなるチーグラー・ナッタ系触媒を挙げることができる。重合触媒の使用量は、例えばチーグラー・ナッタ系触媒を用いた溶液重合の場合、全単量体成分に対し、好ましくは0.01~20ppmであり、より好ましくは0.1~10ppmである。
【0037】
また、重合体(A)を製造する際には、分子量調整剤として水素ガスを用いてもよい。水素ガスの使用量は、触媒種、触媒量、重合温度、重合圧力等の重合条件、及び重合スケール、攪拌状態、チャージ方法等の重合プロセスによっても異なり、目的とする分子量となるように使用量を適宜調整することができる。
【0038】
2.全固体二次電池用バインダー組成物
本発明の一実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、上述の全固体二次電池用バインダーと、液状媒体(B)と、を含有する。以下、本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物に含まれ得る成分について説明する。
【0039】
2.1.全固体二次電池用バインダー
全固体二次電池用バインダーについては、上述した通りであるので説明を省略する。
【0040】
2.2.液状媒体(B)
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、液状媒体(B)を含有する。液状媒体(B)としては、特に限定されないが、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン等の脂環式炭化水素;トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、テトラリン等の芳香族炭化水素;3-ペンタノン、4-ヘプタノン、メチルヘキシルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類;酢酸ブチル、酪酸ブチル、ブタン酸メチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸ブチル、酪酸ペンチル、ペンタン酸ペンチル、ヘキサン酸ペンチル、酪酸ヘキシル、ペンタン酸ヘキシル、ヘキサン酸ヘキシル等のエステル類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル類などを用いることができる。これらの液状媒体(B)は、1種単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物中の液状媒体(B)の含有割合は、重合体(A)100質量部に対し、100~10,000質量部であることが好ましく、500~2,000質量部であることがより好ましい。液状媒体(B)の含有割合が前記下限値以上であると、スラリーを調製する際に、重合体(A)と活物質との混合性が良好となる。一方、液状媒体(B)の含有割合が前記上限値以下であると、活物質層を製造する際に、スラリーの塗布性が良好となり、塗布後の乾燥処理において重合体(A)や活物質の濃度勾配が生じにくい。また、固体電解質層を製造する際に、固体電解質と全固体二次電池用バインダー組成物とを含有するスラリーの塗布性が良好となり、塗布後の乾燥
処理において重合体(A)や固体電解質の濃度勾配が生じにくい。
【0042】
2.3.その他の添加剤
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、必要に応じて、上述した成分以外の添加剤を含有することができる。このような添加剤としては、例えば重合体(A)以外の重合体、酸化防止剤等が挙げられる。
【0043】
<重合体(A)以外の重合体>
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、重合体(A)以外の重合体を含有してもよい。このような重合体としては、特に限定されないが、不飽和カルボン酸エステル又はこれらの誘導体を構成単位として含むアクリル系重合体、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等のフッ素系重合体等が挙げられる。これらの重合体は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの重合体を含有することにより、柔軟性や密着性がより向上する場合がある。
【0044】
<酸化防止剤>
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤を含有することにより、得られる全固体二次電池の低温サイクル特性及び低温出力特性を更に向上できる場合がある。また、重合体成分の耐酸化性を更に向上させることができる場合がある。
【0045】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、キノン系酸化防止剤、有機リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、フェノチアジン系酸化防止剤などが挙げられる。これらの中でも、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が好ましい。
【0046】
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物が酸化防止剤を含有する場合、酸化防止剤の含有割合は、全固体二次電池用バインダー組成物の全固形分量100質量%に対して、5質量%以下であることが好ましく、0.1~3質量%であることがより好ましい。
【0047】
3.全固体二次電池用スラリー
本発明の一実施形態に係る全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質と、を含有する。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーは、正極活物質層及び負極活物質層のいずれの活物質層を形成するための材料として使用することもできるし、また固体電解質層を形成するための材料として使用することもできる。
【0048】
正極活物質層を作製するための全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質と、正極活物質と、を含有する。また、負極活物質層を作製するための全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質と、負極活物質と、を含有する。さらに、固体電解質層を作製するための全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質と、を含有する。以下、本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーに含まれ得る成分について説明する。
【0049】
3.1.全固体二次電池用バインダー組成物
全固体二次電池用バインダー組成物については、上述した通りであるので説明を省略する。
【0050】
本実施形態に係る全固体二次電池用スラリー中の重合体成分の含有割合は、活物質及び固体電解質の合計100質量部に対し、好ましくは0.5~10質量部であり、より好ましくは1~8質量部であり、さらに好ましくは1~7質量部であり、特に好ましくは1.5~6質量部である。重合体成分の含有割合が前記範囲内にあると、スラリー中の活物質及び固体電解質の分散性が良好となり、スラリーの塗布性も優れたものとなる。ここで、重合体成分には、重合体(A)、必要に応じて添加される重合体(A)以外の重合体、及び増粘剤等が含まれる。
【0051】
3.2.固体電解質
本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーは、固体電解質を含有する。固体電解質としては、一般に全固体二次電池に使用される固体電解質を適宜選択して用いることができるが、硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質であることが好ましい。
【0052】
固体電解質の平均粒径の下限としては、0.01μmであることが好ましく、0.1μmであることがより好ましい。固体電解質の平均粒径の上限としては、100μmであることが好ましく、50μmであることがより好ましい。
【0053】
本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーにおいて、固体電解質の含有割合の下限は、電池性能と界面抵抗の低減・維持効果の両立の観点から、固形成分の合計を100質量部としたときに、50質量部であることが好ましく、70質量部であることがより好ましく、90質量部であることが特に好ましい。固体電解質の含有割合の上限は、同様の観点から、固形成分の合計を100質量部としたときに、99.9質量部であることが好ましく、99.5質量部であることがより好ましく、99.0質量部であることが特に好ましい。ただし、前記正極活物質又は前記負極活物質とともに用いるときには、その総和が上記の濃度範囲となることが好ましい。
【0054】
<硫化物系固体電解質>
硫化物系固体電解質は、硫黄原子(S)及び周期表第1族又は第2族の金属元素を含み、イオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。このような硫化物系固体電解質としては、例えば、下記一般式(1)で表される組成式の硫化物系固体電解質を挙げることができる。
Li ・・・・・(1)
(式(1)中、Mは、B、Zn、Si、Cu、Ga及びGeから選択される元素を表す。a~dは各元素の組成比を表し、a:b:c:d=1~12:0~1:1:2~9を満たす。)
【0055】
上記一般式(1)中、Li、M、P及びSの組成比は、好ましくはb=0である。より好ましくはb=0、かつ、a:c:d=1~9:1:3~7である。さらに好ましくはb=0、かつ、a:c:d=1.5~4:1:3.25~4.5である。各元素の組成比は、硫化物系固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0056】
硫化物系固体電解質は、非結晶(ガラス)であってもよく、結晶(ガラスセラミックス)であってもよく、一部のみが結晶化していてもよい。
【0057】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは65:35~85:15、より好ましくは68:32~80:20である。LiSとPとの比率をこの範囲内にすることにより、リチウムイオン伝導度を高くすることができる。硫化物系固体電解質のリチウムイオン伝導度は、1×10-4S/cm以上が好ましく、1×10-3
/cm以上がより好ましい。
【0058】
このような化合物としては、例えば、LiSと、第13族~第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなるものを挙げることができる。具体例としては、LiS-P、LiS-GeS、LiS-GeS-ZnS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、Li10GeP12などが挙げられる。中でも、LiS-P、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-SiS-P、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPOからなる結晶及び/又は非結晶の原料組成物が、高いリチウムイオン伝導性を有するため好ましい。
【0059】
このような原料組成物を用いて硫化物系固体電解質を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法及び溶融急冷法を挙げることができる。中でも、常温での処理が可能になり、製造工程を簡略化できるため、メカニカルミリング法が好ましい。
【0060】
<酸化物系固体電解質>
酸化物系固体電解質は、酸素原子(O)及び周期表第1族又は第2族の金属元素を含み、イオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。このような酸化物系固体電解質としては、例えば、LixaLayaTiO〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LiLaZr12(LLZ)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li(1+xb+yb)(Al,Ga)xb(Ti,Ge)(2-xb)Siyb(3-yb)12(ただし、0≦xb≦1、0≦yb≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12が挙げられる。
【0061】
また、酸化物系固体電解質としては、Li、P及びOを含むリン化合物も好ましい。例えば、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素原子の一部を窒素原子で置換したLiPON、LiPOD(Dは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt及びAuから選ばれる少なくとも1種を示す。)が挙げられる。また、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C及びGaから選ばれる少なくとも1種を示す。)等も好ましく用いることができる。
【0062】
これらの中でも、Li(1+xb+yb)(Al,Ga)xb(Ti,Ge)(2-xb)Siyb(3-yb)12(ただし、0≦xb≦1、0≦yb≦1である)は、高いリチウムイオン伝導性を有し、化学的に安定で取り扱いが容易なため好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
酸化物系固体電解質のリチウムイオン伝導度は、1×10-6S/cm以上が好ましく、1×10-5S/cm以上がより好ましく、5×10-5S/cm以上が特に好ましい。
【0064】
3.3.活物質
<正極活物質>
正極活物質としては、例えば、MnO、MoO、V、V13、Fe、Fe、Li(1-x)CoO、Li(1-x)NiO、LiCoSn、Li(1-x)Co(1-y)Ni、Li(1+x)Ni1/3Co1/3Mn1/3、TiS、TiS、MoS、FeS、CuF、NiF等の無機化合物;フッ化カーボン、グラファイト、気相成長炭素繊維及び/又はその粉砕物、PAN系炭素繊維及び/又はその粉砕物、ピッチ系炭素繊維及び/又はその粉砕物等の炭素材料;ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子などを用いることができる。これらの正極活物質は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0065】
正極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、固固界面の接触面積を増加させる観点から、0.1μm~50μmであることが好ましい。正極活物質を所望の平均粒径とするためには、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、旋回気流型ジェットミル等の粉砕機や、篩、風力分級機等の分級機を用いればよい。粉砕時には、必要に応じて、水又はメタノール等の溶媒を共存させた湿式粉砕を行ってもよい。分級は、乾式、湿式ともに用いることができる。また、焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、又は有機溶媒にて洗浄した後使用してもよい。
【0066】
正極活物質層を作製するための全固体二次電池用スラリーにおいて、正極活物質の含有割合は、固形成分の合計を100質量部としたときに、20~90質量部であることが好ましく、40~80質量部であることがより好ましい。
【0067】
<負極活物質>
負極活物質としては、可逆的にリチウムイオン等を吸蔵・放出できるものであれば特に限定されないが、例えば炭素質材料、酸化錫や酸化ケイ素等の金属酸化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、Sn、Si若しくはIn等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。中でも、信頼性の点から炭素質材料が、電池容量を大きくできる点からケイ素含有材料が好ましく用いられる。
【0068】
炭素質材料としては、実質的に炭素からなる材料であれば特に限定されないが、例えば、石油ピッチ、天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛、及びPAN系の樹脂やフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料が挙げられる。さらには、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維、活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー、平板状の黒鉛等が挙げられる。
【0069】
ケイ素含有材料は、一般的に用いられる黒鉛やアセチレンブラックに比べて、より多くのリチウムイオンを吸蔵できる。すなわち、単位重量当たりのリチウムイオン吸蔵量が増加するため、電池容量を大きくすることができる。その一方で、ケイ素含有材料は、リチウムイオンの吸蔵、放出に伴う体積変化が大きいことが知られており、この膨張・収縮を繰り返すこと(充放電を繰り返すこと)によって、負極活物質層の耐久性が不足し、例えば接触不足を起こしやすくなったり、サイクル寿命(電池寿命)が短くなったりすることがある。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーを用いて作製された負極活物質層は、このような膨張・収縮が繰り返されてもバインダー成分が追従することによって高い耐久性(強度)が発揮されるので、良好なサイクル寿命特性を実現できるという優れた効果を奏する。
【0070】
負極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、固固界面の接触面積を増加させる観点から、0.1μm~60μmであることが好ましい。負極活物質を所望の平均粒径とするためには、上記例示した粉砕機や分級機を用いることができる。
【0071】
負極活物質層を作製するための全固体二次電池用スラリーにおいて、負極活物質の含有割合は、固形成分の合計を100質量部としたときに、20~90質量部であることが好ましく、40~80質量部であることがより好ましい。
【0072】
3.4.その他の成分
<導電助剤>
導電助剤は、電子の導電性を助ける効果を有するため、正極活物質層又は負極活物質層を形成するための全固体二次電池用スラリーに添加される。導電助剤の具体例としては、活性炭、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ等のカーボンが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラック、ファーネスブラック、カーボンナノチューブが好ましい。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーが導電助剤を含有する場合、導電助剤の含有割合は、活物質100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、1~15質量部であることがより好ましく、2~10質量部であることが特に好ましい。
【0073】
<液状媒体>
液状媒体の具体例としては、上述の「2.2.液状媒体(B)」の項で例示した液状媒体が挙げられる。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーに液状媒体を添加する場合、全固体二次電池用バインダー組成物に含まれる液状媒体(B)と同一の液状媒体を添加してもよく、異なる液状媒体を添加してもよいが、同一の液状媒体を添加することが好ましい。
【0074】
3.5.全固体二次電池用スラリーの調製方法
本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と固体電解質とを含有するものである限り、どのような方法によって製造されたものであってもよい。
【0075】
より良好な分散性及び安定性を有するスラリーを、より効率的かつ安価に製造するためには、上述の全固体二次電池用バインダー組成物に固体電解質及び必要に応じて用いられる任意添加成分を加え、これらを混合することにより製造することが好ましい。全固体二次電池用バインダー組成物とそれ以外の成分とを混合するためには、公知の手法による攪拌によって行うことができる。
【0076】
全固体二次電池用スラリーを製造するための混合攪拌手段としては、スラリー中に固体電解質粒子の凝集体が残らない程度に攪拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度は粒ゲージにより測定可能であるが、少なくとも100μmより大きい凝集物がなくなるように混合分散することが好ましい。このような条件に適合する混合機としては、例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、脱泡機、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを例示することができる。
【0077】
全固体二次電池用スラリーの調製(各成分の混合操作)は、少なくともその工程の一部を減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる正極活物質層、負極活物質層又は固体電解質層内に気泡が生じることを防止することができる。減圧の程度としては、絶対圧として、5.0×10~5.0×10Pa程度とすることが好ましい。
【0078】
4.全固体二次電池用電解質シート、全固体二次電池用電極及び全固体二次電池
4.1.全固体二次電池用電解質シート
本発明の一実施形態に係る固体電解質シートは、基材上に上述の全固体二次電池用スラ
リーを塗布及び乾燥させて形成された層を有するものである。
【0079】
本実施形態に係る固体電解質シートは、例えば、基材となるフィルム上に上述の全固体二次電池用スラリーを、ブレード法(例えばドクターブレード法)、カレンダー法、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、オフセット法、ダイコート法、又はスプレー法等により塗布し、乾燥させて層を形成した後、該フィルムを剥離することによって製造することができる。このようなフィルムとしては、例えば離型処理したPETフィルム等の一般的なものを用いることができる。
【0080】
または、固体電解質シートを積層する相手のグリーンシート、もしくは、その他の全固体二次電池の構成部材の表面に、固体電解質を含有する全固体二次電池用スラリーを直接塗布、乾燥させて、固体電解質シートを成型することもできる。
【0081】
本実施形態に係る固体電解質シートを製造する際には、層の厚さが好ましくは1~500μm、より好ましくは1~100μmの範囲となるように、上述の全固体二次電池用スラリーを塗布することが好ましい。層の厚さが前記範囲内であると、リチウムイオン等のイオン伝導体が移動しやすくなるので、電池の出力が高くなる。また、層の厚さが前記範囲内であると、電池全体を薄厚化することができるので、単位体積当たりの容量を大きくすることができる。
【0082】
全固体二次電池用スラリーの乾燥は、特に限定されず、加熱乾燥、減圧乾燥、加熱減圧乾燥等のいずれの手段も用いることができる。乾燥雰囲気は、特に限定されず、例えば大気雰囲気下で行うことができる。
【0083】
固体電解質シートに正極活物質及び固体電解質が含まれる場合には、固体電解質シートは正極活物質層としての機能を有する。固体電解質シートに負極活物質及び固体電解質が含まれる場合には、固体電解質シートは負極活物質層としての機能を有する。また、固体電解質シートに正極活物質及び負極活物質が含まれず、固体電解質が含まれる場合には、固体電解質シートは固体電解質層としての機能を有する。
【0084】
4.2.全固体二次電池用電極
本発明の一実施形態に係る全固体二次電池用電極は、集電体と、前記集電体の表面上に上述の全固体二次電池用スラリーが塗布及び乾燥されて形成された活物質層と、を備えるものである。かかる全固体二次電池用電極は、金属箔などの集電体の表面に、上述の全固体二次電池用スラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜を乾燥して活物質層を形成することにより製造することができる。このようにして製造された全固体二次電池用電極は、集電体上に、上述の重合体(A)、固体電解質、及び活物質、さらに必要に応じて添加した任意成分を含有する活物質層が結着されてなるものであるため、密着性及びイオン伝導性に優れたものとなる。
【0085】
正極・負極の集電体としては、化学変化を起こさない電子伝導体が用いられることが好ましい。正極の集電体としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、及びこれらの合金等や、アルミニウム、ステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましい。これらの中でも、アルミニウム、アルミニウム合金がより好ましい。負極の集電体としては、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、及びこれらの合金が好ましく、アルミニウム、銅、銅合金がより好ましい。
【0086】
集電体の形状としては、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。集電体の厚みとしては、特に限定されないが、1μm~500μmが好ましい。また、集電
体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0087】
全固体二次電池用スラリーを集電体上に塗布する手段としては、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、又はエアーナイフ法等を利用することができる。全固体二次電池用スラリーの塗布膜の乾燥処理の条件としては、処理温度は20~250℃であることが好ましく、50~150℃であることがより好ましく、処理時間は1~120分間であることが好ましく、5~60分間であることがより好ましい。
【0088】
また、集電体上に形成された活物質層をプレス加工して圧縮してもよい。プレス加工する手段としては、高圧スーパープレス、ソフトカレンダー、1トンプレス機等を利用することができる。プレス加工の条件は、用いる加工機に応じて適宜設定することができる。
【0089】
このようにして集電体上に形成された活物質層は、例えば、厚みが40~100μmであり、密度が1.3~2.0g/cmである。
【0090】
このようにして製造された全固体二次電池用電極は、一対の電極間に固体電解質層が挟持されて構成される全固体二次電池における電極、具体的には全固体二次電池用の正極及び/又は負極として好適に用いられる。また、上述の全固体二次電池用スラリーを用いて形成された固体電解質層は、全固体二次電池用の固体電解質層として好適に用いられる。
【0091】
4.3.全固体二次電池
本発明の一実施形態に係る全固体二次電池は、公知の方法を用いて製造することができる。具体的には、以下のような製造方法を用いることができる。
【0092】
まず、固体電解質及び正極活物質を含有する全固体二次電池正極用スラリーを集電体上に塗布及び乾燥させて正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極を作製する。次いで、該全固体二次電池用正極の正極活物質層の表面に、固体電解質を含有する全固体二次電池固体電解質層用スラリーを塗布及び乾燥させて固体電解質層を形成する。さらに、同様にして固体電解質及び負極活物質を含有する全固体二次電池負極用スラリーを固体電解質層の表面に塗布及び乾燥させて負極活物質層を形成する。最後に、該負極活物質層の表面に負極側の集電体(金属箔)を載置することで、所望の全固体二次電池の構造を得ることができる。
【0093】
また、固体電解質シートを離型PETフィルム上に作製し、予め作製しておいた全固体二次電池用正極または全固体二次電池用負極の上に貼り合わせる。その後、離型PETを剥離することで、所望の全固体二次電池の構造を得ることもできる。なお、上記の各スラリーの塗布方法は常法によればよい。このとき、全固体二次電池正極用スラリー、全固体二次電池固体電解質層用スラリー、及び全固体二次電池負極用スラリーのそれぞれの塗布の後に、それぞれ加熱処理を施すことが好ましい。加熱温度は重合体(A)のガラス転移温度以上であることが好ましい。具体的には30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、100℃以上であることが特に好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。このような温度範囲で加熱することで、重合体(A)を軟化させるとともに、その形状を維持することができる。これにより、全固体二次電池において、良好な密着性とイオン伝導性を得ることができ、繰り返し充放電特性を向上させることができる。
【0094】
また、加熱しながら加圧することも好ましい。加圧圧力としては5kN/cm以上が好ましく、10kN/cm以上であることがより好ましく、20kN/cm以上であることが特に好ましい。
【0095】
本実施形態に係る全固体二次電池において、全固体二次電池用バインダー以外の部材は、公知の全固体二次電池用の部材を用いることが可能である。
【0096】
5.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0097】
5.1.全固体二次電池用バインダー組成物の調製
<実施例1>
あらかじめ窒素置換した内容積3Lのセパラブルフラスコに、脱水精製したn-ヘキサンを2L仕込み、エチレンガス、プロピレンガス及び水素ガスを6/4/2(体積比)の流量比で気相フィードし、攪拌しながら室温で10分間溶解させた。次いで、これに2,5-ノルボルナジエンを15mmol、エチルアルミニウムセスキクロライドを5mmol、及びオキシ三塩化バナジウムを0.5mmol仕込んで重合を開始した。エチレンガス、プロピレンガス及び水素ガスを気相フィードしながら、反応温度を20℃に調節し、重合反応を継続させた。重合を開始してから20分後に、イソプロピルアルコールで触媒を失活させ、重合を停止させた。得られた共重合溶液をメタノール中に加えて沈澱させたのち、100℃の熱ロールで乾燥して重合体を得た。得られた重合体の収量は、50gであった。また、重合体のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は70、プロピレン含量は27質量%、2,5-ノルボルナジエン含量は1質量%であった。
【0098】
上記で得られた重合体をアニソール中に添加し、一晩攪拌することにより、重合体をアニソールに溶解させた全固体二次電池用バインダー組成物を調製した。ここで、全固体二次電池用バインダー組成物全体を100質量%としたときに、重合体の含有量が10質量%となるように調整した。
【0099】
<実施例2~15、比較例1~6>
実施例2~15、比較例1~6においては、単量体の種類及び量をそれぞれ下表1又は下表2に記載の通りとした以外は、実施例1と同様に各重合体を合成し、実施例1と同様にして各全固体二次電池用バインダー組成物を得た。
【0100】
5.2.全固体二次電池用バインダー組成物の物性評価
<重量平均分子量(Mw)の測定方法>
温度条件50℃において、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、カラム:商品名「GMHHR-H」、東ソー株式会社製)によって測定を行い、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。その結果を下表1~下表2に示す。
【0101】
<ムーニー粘度(ML1+4,100℃)の評価方法>
JIS K6300-1:2013に準拠し、Lローターを使用して、予熱1分、ローター作動時間4分、温度100℃の条件で求めた。その結果を下表1~下表2に示す。
【0102】
5.3.全固体二次電池用スラリーの調製
<全固体二次電池正極用スラリーの調製>
正極活物質としてLiCoO(平均粒径10μm)70質量部と、固体電解質としてLiSとPからなる硫化物ガラス(LiS/P=75mol%/25mol%、平均粒径5μm)30質量部と、導電助剤としてアセチレンブラック2質量部と、上記で調製した全固体二次電池用バインダー組成物を固形分相当で2質量部とを混合し、さらに液状媒体としてアニソールを加えて、固形分濃度を75%に調整した後に自転公転ミキサー(THINKY社製、あわとり練太郎ARV-310)で10分間混合して全
固体二次電池正極用スラリーを調製した。
【0103】
<全固体二次電池固体電解質層用スラリーの調製>
固体電解質としてLiSとPからなる硫化物ガラス(LiS/P=75mol%/25mol%、平均粒径5μm)100質量部と、上記で調製した全固体二次電池用バインダー組成物を固形分相当で2質量部とを混合し、さらに液状媒体としてアニソールを加えて、固形分濃度を55%に調整した後に自転公転ミキサー(THINKY社製、あわとり練太郎ARV-310)で10分間混合して全固体二次電池固体電解質層用スラリーを調製した。
【0104】
<全固体二次電池負極用スラリーの調製>
負極活物質としての人造黒鉛(平均粒径20μm)65質量部、固体電解質としてLiSとPからなる硫化物ガラス(LiS/P=75mol%/25mol%、平均粒径5μm)35質量部、上記で調製した全固体二次電池用バインダー組成物を固形分相当で2質量部とを混合し、さらに液状媒体としてアニソールを加えて、固形分濃度を65%に調整した後に自転公転ミキサー(THINKY社製、あわとり練太郎ARV-310)で10分間混合して全固体二次電池負極用スラリーを調製した。
【0105】
5.4.正負極・固体電解質層の作製及び評価
<正負極・固体電解質層の作製>
上記で調製した全固体二次電池正極用スラリーをドクターブレード法によりアルミニウム箔上に塗布し、120℃の減圧下でアニソールを蒸発させて3時間かけて乾燥することにより、厚み0.1mmの正極活物質層が形成された全固体二次電池用正極を作製した。
上記で調製した全固体二次電池固体電解質用スラリーをドクターブレード法により離型PETフィルム上に塗布し、120℃の減圧下でアニソールを蒸発させて3時間かけて乾燥することにより、厚み0.1mmの固体電解質層を作製した。
上記で調製した全固体二次電池負極用スラリーをドクターブレード法によりステンレス箔上に塗布し、120℃の減圧下でアニソールを蒸発させて3時間かけて乾燥することにより、厚み0.1mmの負極活物質層が形成された全固体二次電池用負極を作製した。
【0106】
<正極・負極塗工層の密着強度の評価>
上記で得られた全固体二次電池用正極のアルミニウム箔上に形成された正極活物質層について、正極活物質層上に幅20mmのテープを貼り、これを剥離角度90°、剥離速度50mm/minの条件で剥離するときの剥離強度を測定した。同様に、上記で得られた全固体二次電池用負極のステンレス箔上に形成された負極活物質層について、負極活物質層上に幅20mmのテープを貼り、これを剥離角度90°、剥離速度50mm/minの条件で剥離するときの剥離強度を測定した。評価基準は下記の通りである。結果を下表1~下表2に示す。
(評価基準)
・5点:剥離強度が20N/m以上。
・4点:剥離強度が10N/m以上20N/m未満。
・3点:剥離強度が5N/m以上10N/m未満。
・2点:剥離強度が3N/m以上5N/m未満。
・1点:剥離強度が3N/m未満。
【0107】
<固体電解質層のリチウムイオン伝導度測定>
PETフィルムから剥がした固体電解質層を2枚のステンレス鋼製の平板からなるセルで挟み、インピーダンスアナライザーを使用して測定し、ナイキストプロットからリチウムイオン伝導度を算出した。評価基準は下記の通りである。その結果を下表1~下表2に示す。リチウムイオン伝導度が大きい程、電池性能が良好な全固体二次電池が得られるこ
とを示す。
(評価基準)
・5点:リチウムイオン伝導度が0.8×10-4S/cm以上1.0×10-4S/cm以下。
・4点:リチウムイオン伝導度が0.5×10-4S/cm以上0.8×10-4S/cm未満。
・3点:リチウムイオン伝導度が0.2×10-4S/cm以上0.5×10-4S/cm未満。
・2点:リチウムイオン伝導度が0.1×10-4S/cm以上0.2×10-4S/cm未満。
・1点:リチウムイオン伝導度が0.1×10-4S/cm未満。
【0108】
<負極ハーフセルの作製及び電気化学評価>
硫化物ガラス(LiS/P=75mol%/25mol%、平均粒径5μm)単独からなる層が、作製した負極塗工シートとLi(厚み0.2mm)-In(厚み0.1mm)積層体の間に配置されるようにそれぞれ積層することで、負極ハーフセルを作製した。
得られた負極ハーフセルに対して充放電試験を実施した。充放電は、0.88~-0.57V(vs.Li-In)の電位範囲で、0.1Cレートで測定を行った。この0.1Cレートの充放電を繰り返し行い、1サイクル目の放電容量をA(mAh/g)、20サイクル目の放電容量をB(mAh/g)としたとき、20サイクル後の容量維持率を下記式(2)によって算出した。評価基準は以下の通りである。その結果を下表1~下表2に示す。
20サイクル後の容量維持率(%)=(B/A)×100 (2)
なお、CレートのCとは時間率であり、(1/X)C=定格容量(Ah)/X(h)と定義される。Xは定格容量分の電気を充電又は放電する際の時間を表す。例えば、0.1Cとは、電流値が定格容量(Ah)/10(h)であることを意味する。ここで、負極ハーフセルの放電容量は、負極の活物質重量あたりの値を示す。
(評価基準)
・5点:20サイクル後の容量維持率が95%以上100%以下。
・4点:20サイクル後の容量維持率が90%以上95%未満。
・3点:20サイクル後の容量維持率が85%以上90%未満。
・2点:20サイクル後の容量維持率が80%以上85%未満。
・1点:20サイクル後の容量維持率が80%未満。
【0109】
5.5.評価結果
下表1~下表2に、実施例1~15及び比較例1~6で使用した重合体組成、各物性測定結果、並びに各評価結果を示す。なお、下表1~下表2中に示された重合体組成を表す数値は、質量部を表す。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
実施例1~実施例15において使用された全固体二次電池用スラリーは、いずれも本発
明の全固体二次電池用バインダーを含有している。そのため、当該スラリーを用いて形成された固体電解質層は、リチウムイオン伝導性に優れており、当該スラリーを用いて形成された正極塗工層及び負極塗工層は、剥離強度の測定の際に活物質層自体が脆くなって活物質や固体電解質の脱落、あるいはクラックなどが生じることがなく、活物質及び固体電解質のいずれの間においても十分な密着性を有することが確認された。また、本発明の全固体二次電池用バインダーの優れた密着性により、負極ハーフセルの繰り返し充放電特性にも優れていることが確認された。以上の結果より、本発明の全固体二次電池用バインダーを用いることにより、密着性及びリチウムイオン伝導性に優れた全固体二次電池用電極を作製でき、かつ、全固体二次電池の繰り返し充放電特性を向上できることがわかった。
【0113】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。