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  • 特開-2重シールドティグ溶接方法 図1
  • 特開-2重シールドティグ溶接方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081868
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】2重シールドティグ溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/16 20060101AFI20240612BHJP
   B23K 9/29 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B23K9/16 L
B23K9/29 B
B23K9/16 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195390
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】西野 晋太朗
(72)【発明者】
【氏名】中俣 利昭
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB07
4E001DD02
4E001DD03
4E001DD06
4E001LB02
4E001LH04
4E001LH06
(57)【要約】
【課題】2重シールドティグ溶接方法において、アークスタート性を良好にすること。
【解決手段】インナーガス7を噴出させるインナーノズル4及びアウターガス9を噴出させるアウターノズル5を備えた溶接トーチWTを使用し、インナーガス7にはアウターガス9よりも電位傾度の大きなガスを使用し、アウターガス9にはインナーガス7よりも電位傾度の小さなガスを使用し、溶接開始に際してインナーガス7及びアウターガス9のプリフローを行った後にアーク3を発生させ溶接電流Iwを通電させて溶接する2重シールドティグ溶接方法において、インナーガス7は、アークが発生するまでの所定期間中はアウターガス9と同じガスを噴出させる。電位傾度の小さいガスはアルゴンであり、電位傾度の大きいガスはヘリウム、アルゴンとヘリウムとの混合ガス又はアルゴンと水素の混合ガスである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーガスを噴出させるインナーノズル及びアウターガスを噴出させるアウターノズルを備えた溶接トーチを使用し、
前記インナーガスには前記アウターガスよりも電位傾度の大きなガスを使用し、前記アウターガスには前記インナーガスよりも電位傾度の小さなガスを使用し、
溶接開始に際して前記インナーガス及び前記アウターガスのプリフローを行った後にアークを発生させ溶接電流を通電させて溶接する2重シールドティグ溶接方法において、
前記インナーガスは、前記アークが発生するまでの所定期間中は前記アウターガスと同じガスを噴出させる、
ことを特徴とする2重シールドティグ溶接方法。
【請求項2】
前記所定期間中は、前記アウターガス用の前記電位傾度の小さなガスを分流させることによって前記インナーガスを噴出させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の2重シールドティグ溶接方法。
【請求項3】
前記電位傾度の小さいガスはアルゴンであり、前記電位傾度の大きいガスはヘリウム、アルゴンとヘリウムとの混合ガス又はアルゴンと水素の混合ガスとの混合ガスである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の2重シールドティグ溶接方法。
【請求項4】
前記電位傾度の小さなガスの総流量を、前記所定期間中はそれ以後よりも大きい値に設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の2重シールドティグ溶接方法。
【請求項5】
前記プリフローは前記アウターガスを噴出させた後に前記インナーガスを噴出させる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の2重シールドティグ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2重シールドティグ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インナーガスを噴出させるインナーノズル及びアウターガスを噴出させるアウターノズルを備えた溶接トーチを使用して溶接する2重シールドティグ溶接方法が慣用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
2重シールドティグ溶接方法は、インナーガスによってアークの集中性が強くなるために、深い溶け込みを得ることができる。通常、インナーガス及びアウターガスにはアルゴンが使用される。さらに、溶け込みを深くするために、インナーガスにヘリウム、アルゴンとヘリウムとの混合ガス又はアルゴンと水素の混合ガスを使用する場合がある。これは、インナーガスにアウターガスよりも電位傾度の大きいガスを使用することによってアーク電圧が大きくなり、この結果溶け込みをより深くすることができるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-15048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
2重シールドティグ溶接方法において、インナーガスにアウターガスよりも電位傾度の大きなガスを使用する場合には、アークの発生性及びアーク発生時の安定性が悪いという問題がある。すなわち、アークがなかなか発生しなかったり、アークの発生後にふらついて安定性が悪かったりする現象が発生する。
【0006】
そこで、本発明では、インナーガスにアウターガスよりも電位傾度の大きなガスを使用する場合において、アーク発生時の安定性を良好にすることができる2重シールドティグ溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
インナーガスを噴出させるインナーノズル及びアウターガスを噴出させるアウターノズルを備えた溶接トーチを使用し、
前記インナーガスには前記アウターガスよりも電位傾度の大きなガスを使用し、前記アウターガスには前記インナーガスよりも電位傾度の小さなガスを使用し、
溶接開始に際して前記インナーガス及び前記アウターガスのプリフローを行った後にアークを発生させ溶接電流を通電させて溶接する2重シールドティグ溶接方法において、
前記インナーガスは、前記アークが発生するまでの所定期間中は前記アウターガスと同じガスを噴出させる、
ことを特徴とする2重シールドティグ溶接方法である。
【0008】
請求項2の発明は、
前記所定期間中は、前記アウターガス用の前記電位傾度の小さなガスを分流させることによって前記インナーガスを噴出させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の2重シールドティグ溶接方法である。
【0009】
請求項3の発明は、
前記電位傾度の小さいガスはアルゴンであり、前記電位傾度の大きいガスはヘリウム、アルゴンとヘリウムとの混合ガス又はアルゴンと水素の混合ガスである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の2重シールドティグ溶接方法である。
【0010】
請求項4の発明は、
前記電位傾度の小さなガスの総流量を、前記所定期間中はそれ以後よりも大きい値に設定する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の2重シールドティグ溶接方法である。
【0011】
請求項5の発明は、
前記プリフローは前記アウターガスを噴出させた後に前記インナーガスを噴出させる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の2重シールドティグ溶接方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る2重シールドティグ溶接方法によれば、インナーガスにアウターガスよりも電位傾度の大きなガスを使用する場合において、アーク発生時の安定性を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る2重シールドティグ溶接方法を実施するための溶接装置のブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る2重シールドティグ溶接方法を示す図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る2重シールドティグ溶接方法を実施するための溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0016】
溶接トーチWTは、主に電極1、それを取り囲むインナーノズル4及びそれを取り囲むアウターノズル5を備えている。電極1には、タングステン電極等が使用される。
【0017】
溶接開始回路ONは、溶接を開始するときにHighレベルとなる溶接開始信号ONを出力する。この溶接開始回路ONは、溶接トーチWTに設けられたトーチスイッチである。また、溶接開始回路ONは、溶接ロボットを使用する場合には、図示しないロボット制御装置内に設けられる場合もある。
【0018】
電流設定回路IRは、溶接電流Iwの値を設定するための予め定めた電流設定信号Irを出力する。
【0019】
プリフロー期間回路TPは、上記の溶接開始信号Onを入力として、溶接開始信号OnがHighレベルに変化した時点から予め定めたプリフロー期間が経過するまではHighレベルとなるプリフロー期間信号Tpを出力する。
【0020】
アーク発生判別回路ADは、溶接電流Iwを検出して、溶接電流Iwが通電しているときはアーク3が発生していると判別してHighレベルとなるアーク発生信号Adを出力する。
【0021】
所定期間設定回路TIは、上記のプリフロー期間信号Tp及び上記のアーク発生信号Adを入力として、プリフロー期間信号TpがHighレベルに変化した時点から予め定めた遅延期間Tdが経過した時点でHighレベルとなり、アーク発生信号AdがHighレベル(アーク発生)に変化した時点又はそれから予め定めた初期期間が経過した時点でLowレベルに戻る所定期間信号Tiを出力する。遅延期間Tdはプリフロー期間Tpよりも短い時間である。初期期間はアークが発生して安定した状態になるまでの期間である。例えば500msに設定される。
【0022】
インナーガス流量設定回路FIRは、予め定めた本溶接インナーガス流量値となるインナーガス流量設定信号Firを出力する。例えば、本溶接インナーガス流量値は5l/minである。
【0023】
インナーガス流量調整器CIは、公知のマスフローコントローラ等であり、上記の溶接開始信号On、上記の所定期間信号Ti及び上記のインナーガス流量設定信号Firを入力として、溶接開始信号OnがHighレベルとなり、かつ、所定期間信号TiがLowレベルに変化した時点から、溶接開始信号OnがLowレベルに変化して予め定めたアフターフロー時間が経過するまでの期間中は、インナーガスボンベ6からのインナーガス7の流量Fiをインナーガス流量設定信号Firによって定まる値に調整して噴出する。インナーガス7は、アウターガス9よりも電位傾度の大きなガスである。具体的には、ヘリウム又はアルゴンと3%~7%程度の水素との混合ガスである。
【0024】
アウターガス流量設定回路FORは、上記のプリフロー期間信号Tp及び上記の所定期間信号Tiを入力として、プリフロー期間信号TpがHighレベルに変化した時点から所定期間信号TiがHighレベルに変化するまでの期間中は予め定めたプリフローアウターガス流量値となり、所定期間信号TiがHighレベルの期間中は予め定めた増加プリフローアウターガス流量値となり、所定期間信号TiがLowレベルに変化すると予め定めた本溶接アウターガス流量値となるアウターガス流量設定信号Forを出力する。ここで、プリフローアウターガス流量値を本溶接アウターガス流量値と同じ値としても良い。増加プリフローアウターガス流量値は、本溶接アウターガス流量値に本溶接インナーガス流量値を加算した値に設定される。
【0025】
アウターガス流量調整器COは、公知のマスフローコントローラ等であり、上記の溶接開始信号On及び上記のアウターガス流量設定信号Forを入力として、溶接開始信号OnがHighレベルに変化した時点から溶接開始信号OnがLowレベルに変化するまでの期間中は、アウターガスボンベ8からのアウターガス9の流量Foをアウターガス流量設定信号Forによって定まる値に調整して噴出する。アウターガス9は、インナーガス7よりも電位傾度が小さなガスであり、アルゴンである。
【0026】
上記のアウターガス流量調整器COを通過した後の流路は、アウターガス流路とインナーガス流路に合流する流路とに分流する。インナーガス流路に合流する流路には、電磁弁MBが設けられている。電磁弁MBは、上記の所定期間信号Tiを入力として、所定期間信号TiがHighレベルのときは開状態となり、それ以外のときは閉状態となる。
【0027】
インナーノズル4の内側の通路をインナーガス7が流れる。また、インナーノズル4の外側とアウターノズル5の内側の通路をアウターガス9が流れる。。アーク3は、電極1が負極となり、母材2が正極となって発生する。
【0028】
溶接電源PSは、上記の溶接開始信号On、上記のプリフロー期間信号Tp及び上記の電流設定信号Irを入力として、溶接開始信号OnがHighレベルとなり、かつ、プリフロー期間信号TpがLowレベルになると、電極1と母材2との間に高周波高電圧を印加し、アーク3が発生すると電流設定信号Irによって設定された溶接電流Iwの出力を開始し、溶接開始信号OnがLowレベルになると溶接電流Iwの出力を停止する。
【0029】
図2は、本発明の実施の形態に係る2重シールドティグ溶接方法を示す図1の溶接装置における各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接開始信号Onの時間変化を示し、同図(B)はアウターガス流量調整器を流れる流量Fco(リットル/分)の時間変化を示し、同図(C)はインナーガス流量調整器を流れる流量Fci(リットル/分)の時間変化を示し、同図(D)はアウターガス流量Fo(リットル/分)の時間変化を示し、同図(E)はインナーガス流量Fi(リットル/分)の時間変化を示し、同図(F)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(G)はアーク発生信号Adの時間変化を示し、同図(H)は電磁弁MBの開閉状態の時間変化を示す。以下、同図を参照して、溶接開始時及び溶接終了時の動作について説明する。
【0030】
時刻t1において、溶接作業者が図1の溶接トーチWTに設けられたトーチスイッチをオン状態にすると、同図(A)に示すように、溶接開始信号OnがHighレベルに変化するので、図1のプリフロー期間信号TpがHighレベルとなる。これに応動して、同図(B)に示すように、アウターガス流量調整器を流れる流量Fcoは図1のアウターガス流量設定信号Forによって定まるプリフローアウターガス流量値となる。この時点では、同図(H)に示すように、電磁弁MBは閉状態(Lowレベル)であるので、アウターガス流量調整器を流れる流量Fcoは分流しない。この結果、同図(D)に示すように、アウターガス流量Fo=Fcoとなり、上記のプリフローアウターガス流量値の電位傾度の小さなガスが噴出する。
【0031】
時刻t1から予め定めた遅延期間Tdが経過した時刻t2において、図1の所定期間信号TiがHighレベルに変化する。これに応動して、同図(B)に示すように、アウターガス流量調整器を流れる流量Fcoは図1のアウターガス流量設定信号Forによって定まる増加プリフローアウターガス流量値へと増加する。同時に、同図(H)に示すように、電磁弁MBが開状態(Highレベル)に変化するので、アウターガス流量調整器を流れる流量Fcoは分流して、アウターガス及びインナーガスとして噴出する。この時点では、同図(C)に示すように、インナーガス流量調整器を流れる流量Fciは0である。この結果、同図(D)に示すように、アウターガス流量Foは分流した値のほぼ上記のプリフローアウターガス流量値となり、電位傾度の小さなガスが噴出する。また、同図(E)に示すように、インナーガス流量Fiは分流した値のほぼ所望のプリフローインナーガス流量値となり、電位傾度の小さなガスが噴出する。
【0032】
時刻t3において、図1のプリフロー期間信号TpがLowレベルに変化すると、プリフロー期間が終了する。これに応動して、図1の溶接電源PSは図1の電極1と母材2との間に高周波高電圧を印加する。そして、時刻t31において、アーク3が発生し、同図(F)に示すように、溶接電流Iwの通電が開始する。そして、同図(G)に示すように、アーク発生信号AdがHighレベルに変化する。同図(D)に示すアウターガス流量Foは上記のプリフローアウターガス流量値となり電位傾度の小さなガスが噴出し、同図(E)に示すインナーガス流量Fiは上記のプリフローインナーガス流量値となり、電位傾度の小さなガスが噴出する。したがって、時刻t2からの状態を維持することになる。
【0033】
時刻t31に同図(G)に示すアーク発生信号AdがHighレベルに変化してから予め定めた初期期間が経過した時刻t32において、図1の所定期間信号TiがLowレベルに変化する。これに応動して、同図(B)に示すように、アウターガス流量調整器を流れる流量Fcoは図1のアウターガス流量設定信号Forによって定まる本溶接アウターガス流量値となる。同時に、同図(H)に示すように、電磁弁MBは閉状態(Lowレベル)になる。この結果、同図(D)に示すように、アウターガス流量Fo=Fcoとなり、本溶接アウターガス流量値の電位傾度の小さなガスが噴出する。一方、同図(C)に示すように、インナーガス流量調整器を流れる流量Fciは図1のインナーガス流量設定信号によって定まる本溶接インナーガス流量値となる。そして、同図(E)に示すように、インナーガス流量Fi=Fciとなり、本溶接インナーガス流量値の電位傾度の大きなガスに切り換わって噴出する。初期期間は、アーク3が発生して安定した状態になるまでの期間である。例えば、500msに設定される。時刻t3~t31の高周波高電圧が印加される期間は数十msから数百ms程度である。アーク発生のために、高周波高電圧の代わりに数kVの高電圧パルスを印加するようにしても良い。このようにして溶接が開始される。
【0034】
時刻t4において溶接作業者がトーチスイッチをオフ状態にすると、同図(A)に示すように、溶接開始信号OnはLowレベルに変化する。これに応動して、同図(F)に示すように、溶接電流Iwの通電が停止する。これにより、アーク3が消弧するので、同図(G)に示すように、アーク発生信号AdはLowレベルとなる。同時に、同図(Bに示すように、アウターガス流量調整器を流れる流量Fcoは0となるので、同図(D)に示すように、アウターガス流量Foは0となり、アウターガスの噴出が停止する。
【0035】
時刻t4から予め定めたアフターフロー期間が経過した時刻t5において、同図(C)に示すように、インナーガス流量調整器を流れる流量Fciは0となるので、同図(E)に示すように、インナーガス流量Fiは0となり、インナーガスの噴出が停止する。アフターフロー時間は、7秒程度に設定される。
【0036】
従来技術では、アフターフロー期間中はアウターガス及びインナーガスの両方を噴出させている。これに対して、本実施の形態では、インナーガスのみを噴出させるようにしている。アフターフローの作用は、電極及び溶融池を冷却するまで空気からシールドすることである。この作用のためにはインナーガスのみを噴出させれば充分である。このようにすると、高価な不活性ガスの消費量を減らすことができる。
【0037】
上記の各パラメータの数値例を以下に示す。
溶接トーチWT:インナ―ノズル内径5mm、アウターノズル内径13mmの二重シールドノズルを備えた溶接トーチ
電極1:直径3.2mmのタングステン電極
母材2:板厚2.3mmの軟鋼の突き合わせ継手
溶接電流Iw:150A、溶接速度:30cm/min
プリフロー期間:3秒(アウターガスが噴出を開始してから2秒後にインナーガスの噴出が開始し、その1.1秒後にアークが発生する。)
アフターフロー期間:7秒
【0038】
以下に同図(D)に示すアウターガス流量Fo及び同図(E)に示すインナーガス流量Fiの変化をまとめる。
(1)アウターガス流量Fo
(11)時刻t1~t2の期間
電位傾度の小さなガス プリフローアウターガス流量値 12l/min
(12)時刻t2~t32の所定期間
電位傾度の小さなガス 分流したほぼプリフローアウターガス流量値 12l/min
(13)時刻t32以降の期間
電位傾度の小さなガス 本溶接アウターガス流量値 10l/min
(2)インナーガス流量Fi
(21)時刻t1~t2の期間
Fi=0であり、インナーガスは噴出しない。
(12)時刻t2~t32の所定期間
電位傾度の小さなガス 分流したほぼプリフローインナーガス流量値 4l/min
(13)時刻t32以降の期間
電位傾度の大きいガス 本溶接インナーガス流量値 5l/min
【0039】
上述した本実施の形態によれば、インナーガスにはアウターガスよりも電位傾度の大きなガスを使用し、アウターガスにはインナーガスよりも電位傾度の小さなガスを使用し、溶接開始に際してインナーガス及びアウターガスのプリフローを行った後にアークを発生させ溶接電流を通電させて溶接する2重シールドティグ溶接方法において、インナーガスは、アークが発生するまでの所定期間中はアウターガスと同じガスを噴出させる。このようにすると、アークが発生するまではインナーガスとして電位傾度の小さなガスが噴出されるので、アークの発生性及びアーク発生時の安定性を良好にすることができる。そして、アークが安定状態になってからインナーガスを電位傾度の大きなガスに切り換えるので、溶け込みの深い安定した溶接が可能となる。本実施の形態によれば、電位傾度の小さいガスはアルゴンであり、電位傾度の大きいガスはヘリウム、アルゴンとヘリウムとの混合ガス又はアルゴンと水素の混合ガスである。
【0040】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、所定期間中は、アウターガス用の電位傾度の小さなガスを分流させることによってインナーガスを噴出させる。このようにすると、アークが発生するまでの電位傾度の小さなインナーガスを噴出させるための3個目のガスボンベを容易する必要がない。このために、溶接装置の設置及び管理が容易になる。
【0041】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、電位傾度の小さなガスの総流量を、所定期間中はそれ以後よりも大きい値に設定する。電位傾度の小さなガスの総流量とは、図2の(B)に示すアウターガス流量調整器を流れる流量Fcoのことである。このようにすると、電位傾度の小さいガスを分流して噴出するときに、インナーガス及びアウターガスの流量が適正化されるので、プリフロー期間中に十分なシールド性を確保することができる。
【0042】
さらに好ましくは、本実施の形態によれば、プリフローは、アウターガスを噴出させた後にインナーガスを噴出させている。このようにすると、アウターガスの噴出によって周囲をシールドされた状態でインナーガスの噴出が開始されるので、インナーガスが周囲の空気を巻き込むことがなくなり、定常状態に早期に収束させることができる。このために、本実施の形態では、アウターガス及びインナーガスの噴出を同時に開始する従来技術に比べて、プリフロー時間を50%程度に短くすることができる。したがって、本実施の形態では、溶接開始時のプリフロー時間を短く設定しても十分なシールド性を確保することができるので、作業効率を高めることができ、高価な不活性ガスの消費量を減らすことができる。例えば、従来技術ではプリフロー期間を6秒程度に設定するひつようがあったが、本実施の形態では3秒程度に設定することができる。
【0043】
さらに、時刻t1~t2のアウターガスのみを噴出させる時間が時刻t2~t3のアウターガス及びインナーガスを噴出させる時間よりも長くなるように設定されることが望ましい。このようにすると、インナーガスが空気を巻き込むことをより確実に抑制することができるので、さらにプリフロー時間を短く設定することができる。
【0044】
さらに、インナーガス流量Fiを、所定期間中はそれ以後の期間中よりも小さくすることが望ましい。このようにすると、インナーガスの噴出状態をより早期に定常状態にすることができるので、さらにプリフロー時間を短く設定することができる。
【0045】
さらに、アウターガス流量Foを、所定期間中はそれ以後の期間中よりも大きくすることが望ましい。このようにすると、インナーガスの噴出状態をより早期に定常状態にすることができるので、さらにプリフロー時間を短く設定することができる。
【0046】
上述した実施の形態においては、インナーガスに電位傾度の大きなガスを使用し、アウターガスに電位傾度の小さなガスを使用する場合について説明したが、逆に、インナーガスに電位傾度の小さなガスを使用し、アウターガスに電位傾度の大きなガスを使用するようにしても良い。この場合でも、アークが発生するまでは、電位傾度の小さなガスを分流してインナーガス及びアウターガスとして噴出させる。
【符号の説明】
【0047】
1 電極
2 母材
3 アーク
4 インナーノズル
5 アウターノズル
6 インナーガスボンベ
7 インナーガス
8 アウターガスボンベ
9 アウターガス
AD アーク発生判別回路
Ad アーク発生信号
CI インナーガス流量調整器
CO アウターガス流量調整器
Fci インナーガス調整器を流れる流量
Fco アウターガス調整器を流れる流量
Fi インナーガス流量
FIR インナーガス流量設定回路
Fir インナーガス流量設定信号
Fo アウターガス流量
FOR アウターガス流量設定回路
For アウターガス流量設定信号
IR 電流設定回路
Ir 電流設定信号
Iw 溶接電流
MB 電磁弁
ON 溶接開始回路
On 溶接開始信号
PS 溶接電源
TI 所定期間設定回路
Ti 所定期間信号
TP プリフロー期間回路
Tp プリフロー期間信号
WT 溶接トーチ
図1
図2