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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008187
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】合成皮革調布帛及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20240112BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
D06N3/00
B32B27/12
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109839
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】391007345
【氏名又は名称】尾張整染株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】新海 喜博
(72)【発明者】
【氏名】坂本 昭
(72)【発明者】
【氏名】後藤 愛奈
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA12
4F055BA13
4F055DA02
4F055EA04
4F055EA22
4F055FA15
4F100AK01A
4F100AK42B
4F100AK51A
4F100AT00
4F100BA02
4F100CC10A
4F100DG11B
4F100EH462
4F100EH46B
4F100GB33
4F100HB40B
4F100JN01A
(57)【要約】
【課題】合成皮革の意匠性を向上させる。
【解決手段】基材層2と、前記基材層2の表面側に積層された樹脂層3とを備えた合成皮革調布帛1であって、前記基材層2は織布であり、前記樹脂層3の表面にはシボ模様5が形成され、前記樹脂層3は、その表面側から前記基材層2を視認可能な透明層である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の表面側に積層された樹脂層とを備えた合成皮革調布帛であって、
前記基材層は織布であり、
前記樹脂層の表面にはシボ模様が形成され、
前記樹脂層は、その表面側から前記基材層を視認可能な透明層であることを特徴とする合成皮革調布帛。
【請求項2】
前記織布は、複数色の繊維によって織られている織布及び染色されている織布の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の合成皮革調布帛。
【請求項3】
基材層と、前記基材層の表面に積層された樹脂層とを備えた合成皮革調布帛の製造方法であって、
前記基材層の表面を加熱押圧してシボ模様を形成するシボ形成工程と、
前記基材層の表面に合成樹脂材料を塗布して前記樹脂層を形成する積層工程と
を備え、
前記積層工程では、前記基材層としての織布の表面に、透明な前記合成樹脂材料を直接塗布して、表面側から前記基材層を視認可能な前記樹脂層を形成することを特徴とする合成皮革調布帛の製造方法。
【請求項4】
前記積層工程では、前記織布の表面に、前記合成樹脂材料を塗布して乾燥させる工程を複数回繰り返して、複数の前記樹脂層を形成することを特徴とする請求項3に記載の合成皮革調布帛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成皮革調布帛及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の座席、インストルメントパネル、ドアトリム等の車両用内装材や、靴、鞄等の素材として、合成皮革が広く利用されている。合成皮革は、織布、編布、不織布等の繊維質基材にポリウレタン等の合成樹脂層を積層して形成され、合成樹脂層の表面には、天然皮革を模したシボ模様が設けられている。従来から、合成皮革の外観形状、風合い、触感等を天然皮革に似せるべく、種々の改良がなされている。
【0003】
特許文献1には、繊維質基材にポリウレタン樹脂層を積層し、意匠面としてのポリウレタン樹脂層の表面にシボ模様を形成してなる合成皮革に係る発明が記載されている。特許文献1では、合成皮革の表裏面での剛軟度、シボ模様のシボの高さ、シボの幅、シボ模様の屈曲時のシボの高さの変化の割合等を所定の範囲とすることで、天然皮革と同様の皺入りやコシ感を有する合成皮革が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/004180号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来知られている合成皮革は、その外観形状、風合い、触感等をいかに天然皮革に近づけるかを主眼としている。そのため、合成皮革の意匠性をさらに向上させるといった観点からは、なお改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明は、基材層と、前記基材層の表面側に積層された樹脂層とを備えた合成皮革調布帛であって、前記基材層は織布であり、前記樹脂層の表面にはシボ模様が形成され、前記樹脂層は、その表面側から前記基材層を視認可能な透明層である。
【0007】
上記の構成によれば、樹脂層が透明層であることにより、合成皮革調布帛の表面から樹脂層を介して基材層を視認することができる。そのため、合成皮革調布帛には、樹脂層の表面に形成されたシボ模様に加えて、基材層を構成する織布の織模様、色調、形状等による意匠性が付与される。意匠性に優れた合成皮革が得られる。なお、透明層とは、無色透明なものだけでなく、有色透明なものも含む。また、僅かな濁りがある程度のものであっても、基材層を視認することができる程度の濁りであれば「透明」に含む。以下での「透明」についても同様である。
【0008】
ここで、従来知られている合成皮革は、基材層の表面に色材を含有する樹脂層が積層されており、基材層の色調に影響されることなく、樹脂層の色調が合成皮革の色調となって表現されている。本発明で規定する合成皮革調布帛は、織布からなる基材層に、樹脂層が形成されており、表面にシボ模様が形成されて天然皮革に似せた外観を有している点で、従来の合成皮革に分類される。その一方で、基材層を構成する織布の意匠が樹脂層を介して視認できるという点で、従来知られている合成皮革とは異なっている。その意味で、合成皮革調布帛と規定している。つまり、ここで言う合成皮革調布帛とは、表面にシボ模様を有する従来の合成皮革に、基材層の意匠が付与された布帛である。
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、基材層と、前記基材層の表面に積層された樹脂層とを備えた合成皮革調布帛の製造方法であって、前記基材層の表面を加熱押圧してシボ模様を形成するシボ形成工程と、前記基材層の表面に合成樹脂材料を塗布して前記樹脂層を形成する積層工程とを備え、前記積層工程では、前記基材層としての織布の表面に、透明な前記合成樹脂材料を直接塗布して、表面側から前記基材層を視認可能な前記樹脂層を形成する。
【0010】
上記の構成によれば、基材層としての織布の表面に透明な合成樹脂材料を塗布している。そのため、積層された樹脂層は透明層となり、樹脂層を介して基材層を視認することができる。シボ形成工程で形成されたシボ模様に加えて、基材層を構成する織布の織模様、色調、形状等による意匠性が付与された合成皮革調布帛を製造することができる。
【0011】
ここで、従来知られている合成皮革の製造方法としては、大きく分けて湿式法と乾式法がある。乾式法は、シボ模様が形成された離型紙上に、顔料を含んだポリウレタン溶液を塗布して乾燥させて、ポリウレタンフィルムを形成する。ポリウレタンフィルム上に、接着剤層を塗布して、基材層に熱圧着する。そして接着剤層を硬化させた後、離型紙を剥離すると、シボ模様を有する乾式合成皮革が得られる。また、湿式法は、基材層に有機溶剤を含むポリウレタン樹脂を含浸させて温水中に浸漬する。これにより、ポリウレタン樹脂が析出して気泡が形成されて多孔質層となる。その後、多孔質層に、接着剤層を介して乾式法と同様のポリウレタンフィルムを熱圧着する。離型紙を剥離すると、湿式合成皮革が得られる。
【0012】
この点、本発明の積層工程では、基材層としての織布の表面に、合成樹脂材料を直接塗布しており、乾式法、湿式法のいずれにも分類されない製造方法である。この構成によれば、離型紙に合成樹脂材料を塗布した後に、合成樹脂フィルムを熱圧着するといった工程が不要となる。合成皮革の製造工程を簡略化することができる。コスト的に有利である。また、合成樹脂材料を直接塗布することで、樹脂層の厚みを薄くすることができる。合成皮革を軽量化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、合成皮革の意匠性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の合成皮革調布帛の断面図である。
図2】合成皮革調布帛の製造方法の巻出し工程及びシボ形成工程について説明する概略図である。
図3】合成皮革調布帛の製造方法の積層工程について説明する図である。
図4】合成皮革調布帛の製造方法の積層工程及び巻取り工程について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の合成皮革調布帛を具体化した一実施形態について説明する。
<合成皮革調布帛1について>
図1に示すように、合成皮革調布帛1は、基材層2、樹脂層3、及び保護層4を有している。基材層2側が合成皮革調布帛1の裏面であり、保護層4側が合成皮革調布帛1の表面である。保護層4の表面は、合成皮革調布帛1の意匠面を構成する。
【0016】
基材層2は、織布で形成されている。織布の組織は特に限定されない。組織の種類としては、平織、綾織、朱子織等、従来公知のものを挙げることができる。平織の種類としては、例えば、オックスフォード、シャンプレー、キャンパス等を挙げることができる。綾織の種類としては、例えば、キャバジン、デニム等を挙げることができる。朱子織の種類としては、サテン、ドスキン等を挙げることができる。
【0017】
織布を構成する繊維の種類は特に限定されない。繊維の種類としては、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維等を挙げることができる。これらは1種類のみで使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。加工性の観点から言えば、合成繊維が好ましい。
【0018】
合成繊維としては、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル等からなる従来公知のものを挙げることができる。天然繊維としては、木綿、麻、絹、リンネル、モヘヤ、カシミヤ等を挙げることができる。再生繊維としては、キュプラ、レーヨン、ポリノジック、アセテート、フリース等を挙げることができる。これらは1種類のみからなるものでもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0019】
また、繊維の形状、形態、繊度等についても特に限定されない。従来公知のものから適宜選択することができる。
織布を形成する繊維は、異なる形状、形態、繊度等の複数種類で構成されており、複数種類の繊維によって織布が織られていてもよい。また、織布を形成する繊維は、異なる色の複数色で構成されており、複数色の繊維によって織布が織られていてもよい。さらに、織布自体が染色されていてもよい。染色は、単色の染色であってもよく、複数色の染色であってもよい。また、織布全体が染色されていてもよく、織布の一部が染色されていてもよい。
【0020】
樹脂層3は、従来公知の合成樹脂材料により形成されている。合成樹脂材料は特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル、塩化ビニル系共重合体、ポリウレタン、ポリウレタン系エラストマー、アクリル、アクリル系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーン系エラストマー等を挙げることができる。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の樹脂層3は、基材層2側から、第1樹脂層3a、第2樹脂層3b、第3樹脂層3cの3層が積層されて形成されている。第1樹脂層3a、第2樹脂層3b、第3樹脂層3cを構成する合成樹脂材料は、すべて同じであってもよく、1層のみが異なっていてもよく、3層すべてが異なっていてもよい。なお、本実施形態の樹脂層3は、第1樹脂層3a、第2樹脂層3b、第3樹脂層3cがすべて同じ合成樹脂材料で形成されている。
【0022】
第1樹脂層3a、第2樹脂層3b、第3樹脂層3cは、透明な樹脂層3として形成されている。無色透明であっても、有色透明であってもよい。着色剤、顔料等を含有することによって着色された有色透明である場合、樹脂層3を通して基材層2を構成する織布の組織が視認可能であればよい。
【0023】
保護層4は、合成皮革調布帛1の最表層に設けられて、合成皮革調布帛1の防汚性、耐久性等を向上させる。保護層4は、無色透明の合成樹脂材料で形成されている。保護層4の材質は特に限定されない。例えば、ポリウレタン、フッ素アクリル等が挙げられる。
【0024】
合成皮革調布帛1の意匠面には、凹凸形状からなるシボ模様5が形成されている。シボ模様5が形成されていることによって、合成皮革調布帛1の意匠面には、天然皮革に似せた外観形状、触感が付与されている。合成皮革調布帛1の表面に天然皮革のような外観形状、触感を付与することができれば、シボ模様5の具体的形状は特に限定されない。
【0025】
<合成皮革調布帛1の製造方法について>
次に、合成皮革調布帛1の製造方法について説明する。
図2図4に示すように、合成皮革調布帛1の製造方法は、巻出し工程11、シボ形成工程12、積層工程31、及び巻取り工程32を備えている。図2には、巻出し工程11及びシボ形成工程12を、一連の流れとして行う装置10を例示して説明している。また、図3には、積層工程31を行う装置30を例示して説明している。図4には、積層工程31及び巻取り工程32を、一連の流れとして行う装置40を例示して説明している。
【0026】
図2に示すように、巻出し工程11では、基材層2としての織布Fが巻き付けられた織布ロール21から織布Fを巻き出す。巻き出された織布Fは、複数の搬送ロール22に沿って所定速度で搬送される。
【0027】
搬送ロール22の搬送方向Aの下流側には、エンボスロール23及びバックアップロール24が配置されている。シボ形成工程12では、搬送されてきた織布Fの一方の面にエンボスロール23による押圧加工を施してシボ模様を形成する。押圧加工を施す面は、後に説明する積層工程31で、合成樹脂材料を塗布する側の面である。
【0028】
エンボスロール23の表面には、天然皮革の外観形状を模した凹凸形状が形成されている。また、エンボスロール23及びバックアップロール24は、その表面温度が適宜の温度になるように加熱されている。エンボスロール23とバックアップロール24の間を搬送された織布Fは、シボ模様が形成された中間体L1となる。中間体L1は、搬送ロール25によって搬送されて、搬送ロール25の下流側に配置された台26上に、折り畳むようにして仮置きされる。
【0029】
図3に示すように、積層工程31は、台26に仮置きされた中間体L1を引き出して、中間体L1に対して合成樹脂材料を塗布する工程である。
台26から引き出された中間体L1は、複数の搬送ロール33に沿って所定速度で搬送される。搬送ロール33の搬送方向Aの下流側には、樹脂タンク34が配置されている。樹脂タンク34内には、適宜の温度に加温された合成樹脂材料が貯留されている。樹脂タンク34に貯留された合成樹脂材料は、中間体L1においてシボ模様が形成された側に適宜の供給速度で供給されて塗布される。樹脂タンク34の下流側には、乾燥装置35が配置されている。中間体L1の表面に塗布された合成樹脂材料は、乾燥装置35によって乾燥されて第1樹脂層3aを形成する。第1樹脂層3aが形成された中間体L1は、複数の搬送ロール36によって搬送されて、搬送ロール36の下流側に配置された台37上に、折り畳むようにして仮置きされる。
【0030】
本実施形態の積層工程31は、装置30による合成樹脂材料の塗布を3回行う。2回目、3回目の積層工程31も装置30を使用するが、この場合の装置30の最上流には、台26に代えて台37が配置されている。具体的には、2回目の積層工程31で使用する装置30には、台26に代えて、第1樹脂層3aが積層された中間体L1が仮置きされた台37が配置されている。また、3回目の積層工程31で使用する装置30には、台26に代えて、第1樹脂層3a及び第2樹脂層3bが積層された中間体L1が仮置きされた台37が配置されている。
【0031】
2回目、3回目の積層工程31では、台37上に仮置きされた中間体L1を引き出して、装置30によって搬送しつつ、樹脂タンク34に貯留された合成樹脂材料を塗布して乾燥させる。2回目、3回目の積層工程31によって、第1樹脂層3aの上に、第2樹脂層3b及び第3樹脂層3cが積層された中間体L2となる。
【0032】
図4に示すように、中間体L2に、保護層4を積層する。保護層4を形成するための装置40は、装置30と基本的に同じ構成であるが、最上流に中間体L2が仮置きされた台37が配置され、最下流に巻取りロール41が配置されている点で異なっている。装置30を同じ構成については、同じ番号で記載している。
【0033】
装置40の樹脂タンク34には、保護層4を形成するための透明なトップコート用合成樹脂材料が貯留されている。台37上に仮置きされた中間体L2を引き出して、装置40によって搬送させつつ、トップコート用合成樹脂材料を中間体L2に塗布して乾燥させる。これにより、樹脂層3の上に保護層4が積層された合成皮革調布帛1が形成される。
【0034】
図4に示すように、巻取り工程32では、搬送されてきた合成皮革調布帛1を、巻取りロール41に巻き取る。
以上の工程を経て、合成皮革調布帛1が得られる。
【0035】
<合成皮革調布帛1の作用について>
合成皮革調布帛1の基材層2には、シボ形成工程12により凹凸形状からなるシボ模様が形成されている。基材層2の上には、第1樹脂層3a、第2樹脂層3b、第3樹脂層3c、及び保護層4が積層されている。そして、合成皮革調布帛1の意匠面には、基材層2に形成されたシボ模様に沿うように樹脂層3及び保護層4が積層されることにより、基材層2と同じシボ模様5が形成されている。これによって、合成皮革調布帛1には、天然皮革に類似した外観形状、触感が付与されて、天然皮革に近い意匠性が付与される。
【0036】
また、合成皮革調布帛1では、織布からなる基材層2に積層された樹脂層3は、無色透明又は有色透明な樹脂材料で形成されており、保護層4は、無色透明な樹脂材料で形成されている。樹脂層3及び保護層4を介して基材層2の組織が視認可能である。合成皮革調布帛1の表面には、基材層2を構成する織布の組織、織模様、色調等や、織布を構成する繊維の風合い、色調、外観形状等が表現される。
【0037】
本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の合成皮革調布帛1は、基材層2と、基材層2の表面側に積層された樹脂層3と、樹脂層3の表面側を保護する保護層4を備えている。合成皮革調布帛1の表面にはシボ模様5が形成されている。また、基材層2は織布であって、樹脂層3及び保護層4は透明層である。これにより、天然皮革に類似した外観形状、触感が付与されて、天然皮革に近い意匠性が付与されているとともに、基材層2を構成する織布の状態が表現される。
【0038】
そのため、天然皮革に似せた意匠性に加えて、織布による意匠性が付与される。合成皮革調布帛1の意匠性を向上させることができる。
(2)基材層2を構成する織布は、複数色の繊維によって織られていたり、染色されていたりするものを例示することができる。
【0039】
そのため、織布の組織や繊維の風合いだけでなく、織布の色調や繊維の色調が合成皮革調布帛1の表面に現れる。織布の色調を、樹脂層3を介して合成皮革調布帛1の意匠として表現することができる。
【0040】
(3)上記実施形態の合成皮革調布帛1の製造方法では、中間体L1(シボ模様が形成された織布F)の表面に合成樹脂材料を直接塗布した後乾燥させて、樹脂層3を形成している。
【0041】
そのため、従来の乾式法や湿式法のように、離型紙に合成樹脂材料を塗布してフィルム状にする工程が不要であり、製造工程を簡略化することができる。合成皮革調布帛1の製造コストを低減させることができる。
【0042】
(4)積層工程31では、中間体L1(シボ模様が形成された織布F)の表面に合成樹脂材料を直接塗布している。
そのため、樹脂層3を薄くすることができる。従来の乾式法、湿式法で製造された合成皮革に比べて、その厚みを薄くすることが可能であり、軽量化することができる。
【0043】
(5)積層工程31では、中間体L1(シボ模様が形成された織布F)の表面に合成樹脂材料を塗布して乾燥させる工程を複数回繰り返している。
そのため、樹脂層3をしっかり形成することができる。
【0044】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0045】
・上記実施形態の合成皮革調布帛1では、樹脂層3の表層側に保護層4が積層されているが、保護層4を省略してもよい。
・樹脂層3は、3層積層されているが、積層数はこれに限定されない。合成皮革調布帛1の耐久性の点から積層数は複数であることが好ましい。
【0046】
・合成皮革調布帛1は、基材層2、樹脂層3、保護層4以外の他の構成を備えていてもよい。例えば、基材層2の裏面側に、合成皮革調布帛1に弾性を付与するクッション層が積層されていてもよい。また、基材層2の裏面側に、合成皮革調布帛1を補強する補強層が積層されていてもよい。
【0047】
・第1樹脂層3a、第2樹脂層3b、第3樹脂層3cがすべて同じ合成樹脂材料で形成されていなくてもよい。いずれかの材質、色調等が異なっていてもよく、すべての材質、色調等が異なっていてもよい。
【0048】
・上記実施形態の合成皮革調布帛1の製造方法では、装置10により、巻出し工程11及びシボ形成工程12を行い、装置30により、積層工程31を行い、装置40により、積層工程31及び巻取り工程32を行ったが、これに限定されない。巻出し工程11、シボ形成工程12、積層工程31、及び巻取り工程32を、1つの装置で、一連の流れで行ってもよい。また、積層工程31及び巻取り工程32を、樹脂層3a、3b、3c及び保護層4により個々に行ったが、積層工程31及び巻取り工程32を、1つの装置で、一連の流れで行ってもよい。
【0049】
・積層工程31では、樹脂タンク34から合成樹脂材料を供給したが、合成樹脂材料の塗布の方法はこれに限定されない。例えば、刷毛状の部材で基材層2に塗布するようにしてもよい。
【0050】
・上記実施形態の合成皮革調布帛1の製造方法では、基材層2にシボ形成工程12を行った後、積層工程31を行ったが、これに限定されない。基材層2に積層工程31を行って、基材層2の上に樹脂層3を積層した後、樹脂層3の表面からシボ形成工程12を行ってもよい。つまり、シボ形成工程12は、基材層2の表面を、樹脂層3を介して加熱押圧してシボ模様を形成する工程となる。この場合、装置30、40により巻出し工程11及び積層工程31を行い、装置10によりシボ形成工程12及び巻取り工程32を行うようにすればよい。
【0051】
上記実施形態から把握される技術思想について以下に記載する。
(イ)基材層と、前記基材層に積層された樹脂層とを備えた合成皮革調布帛であって、前記基材層は織布であり、前記樹脂層の表面にはシボ模様が形成され、前記樹脂層は、透明な合成樹脂材料で形成され、前記樹脂層を介して前記基材層を構成する前記織布の織模様及び色調の少なくともいずれかを視認可能であることを特徴とする合成皮革調布帛。
【0052】
上記の構成によれば、合成皮革調布帛の意匠性が向上する。
(ロ)基材層と、前記基材層の表面に積層された樹脂層とを備えた合成皮革調布帛の製造方法であって、前記基材層の表面に合成樹脂材料を塗布して前記樹脂層を形成する積層工程と、前記樹脂層の表面を加熱押圧してシボ模様を形成するシボ形成工程とを備え、前記積層工程では、前記基材層としての織布の表面に、透明な前記合成樹脂材料を直接塗布して、表面側から前記基材層を視認可能な前記樹脂層を形成することを特徴とする合成皮革調布帛の製造方法。
【0053】
上記の構成によれば、意匠性に優れた合成皮革調布帛を製造することができる。
【実施例0054】
本発明の合成皮革調布帛の実施例について説明する。
<布帛の作成>
(実施例1)
基材層2として、ポリエステル製の織糸で綾織された織布を使用した。基材層2は、ブラックに染色したものに、エンボス加工によりシボ模様を形成したものを使用した。シボ模様が形成された基材層2の表面に、透明なポリウレタン樹脂を塗布した後、乾燥させて樹脂層3aを形成した。これを3回繰り返して、樹脂層3a、3b、3cを積層した。樹脂層3cの表面に、透明なポリウレタン樹脂からなるトップコート剤を塗布した後、乾燥させて保護層4を形成した。こうして得られた布帛を実施例1の合成皮革調布帛1とした。
【0055】
<合成皮革の作成>
(比較例1)
基材層として、ポリエステル製の編糸でトリコット編されたグレーの編布を使用して、乾式法によって合成皮革を作成した。まず、シボ模様が形成された離型紙上に、顔料を含んだブラックのポリウレタン溶液を塗布した後、乾燥させてポリウレタンフィルムを作成した。ポリウレタンフィルム上に接着剤を塗布した後、基材層にポリウレタンフィルムを熱圧着してポリウレタン樹脂層を形成した。ポリウレタン樹脂層の表面に、透明なポリウレタン樹脂からなるトップコート剤を塗布した後、乾燥させて保護層を形成した。こうして得られた布帛を比較例1の合成皮革とした。
【0056】
(比較例2)
比較例1と同様の工程で、比較例2の合成皮革を得た。
<布帛の厚み測定方法>
実施例1、比較例1、2の布帛について、厚みを測定した。厚みの測定には、ダイヤルシックネスゲージSM-114(テクロック株式会社製)を使用した。各布帛について、厚みを3箇所測定し、その平均値を算出した。その結果を表1に示した。
【0057】
<布帛の目付の測定方法>
実施例1、比較例1、2の布帛について、目付を測定した。目付の測定には、デジタル秤ME1002(METTLER TOLEDO社製)を使用した。各布帛から20cm四方の布片を切り出して計量した。計量値を25倍したものを表1に示した。
【0058】
<布帛表面の意匠性評価について>
実施例1、比較例1、2の布帛について、表面を視認した場合の意匠性について官能評価した。
【0059】
【表1】
表1の結果より、実施例1の合成皮革調布帛1の厚みは、比較例1の合成皮革に比べて約53%、比較例2の合成皮革に比べて約49%であった。従来の乾式法で形成された合成皮革に比べて、約半分の厚みであった。
【0060】
また、実施例1の合成皮革調布帛1の目付は、比較例1の合成皮革に比べて約68~72%、比較例2の合成皮革に比べて約69~73%であった。従来の乾式法で形成された合成皮革に比べて、約3割程度軽かった。
【0061】
実施例1の合成皮革調布帛1では、合成樹脂材料を直接基材層2に塗布することで、樹脂層3の厚みを薄くすることができた。これにより、重量を軽くすることができた。
実施例1の合成皮革調布帛1の表面には、シボ模様5が形成されていた。また、樹脂層3及び保護層4を介して、ブラックに染色した基材層2の織模様、色調、形状を視認することができた。一方、比較例1、2の合成皮革の表面では、シボ模様が形成された樹脂層のみが視認された。
【0062】
実施例1の合成皮革調布帛1と、比較例1、2の合成皮革とを比較すると、合成皮革調布帛1では、表面に形成されたシボ模様5と、基材層2の織模様、色調、形状等とが相まって、合成皮革の表面に比べて格段に意匠性が向上していた。
【符号の説明】
【0063】
1…合成皮革調布帛
2…基材層
3…樹脂層
5…シボ模様
図1
図2
図3
図4