(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081878
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】油煙捕集フィルタ及び換気システム
(51)【国際特許分類】
B01D 46/52 20060101AFI20240612BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20240612BHJP
B01D 39/14 20060101ALI20240612BHJP
B03C 3/28 20060101ALI20240612BHJP
D04H 1/4374 20120101ALI20240612BHJP
F24F 8/95 20210101ALI20240612BHJP
【FI】
B01D46/52 Z
B01D39/16 A
B01D39/14 E
B03C3/28
D04H1/4374
F24F8/95
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195405
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】390019839
【氏名又は名称】三星電子株式会社
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】129,Samsung-ro,Yeongtong-gu,Suwon-si,Gyeonggi-do,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】岩本 貴代志
(72)【発明者】
【氏名】村田 賢一
【テーマコード(参考)】
4D019
4D054
4D058
4L047
【Fターム(参考)】
4D019AA02
4D019BA13
4D019BB04
4D019BC01
4D019BC10
4D019BC11
4D019BD01
4D019CA02
4D019CB04
4D019CB06
4D019DA03
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4D054AA11
4D054BC15
4D054BC16
4D058JA14
4D058JB14
4D058JB25
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4D058SA02
4D058SA15
4D058TA07
4L047AA14
4L047AA21
4L047AB07
4L047CA01
4L047CA19
4L047CB05
4L047CC12
4L047DA00
(57)【要約】
【課題】調理中に発生する油煙を捕集することができ、なおかつ目詰まりが生じにくく、長期間の使用においても圧力損失の上昇による風量低下や油煙の捕集率の低下を抑制する。
【解決手段】濾材及び骨材を積層した不織布からなり、第1方向に沿った風上側に位置する山折り部30及び第1方向に沿った風下側に位置する谷折り部40を第1方向に直交する第2方向に沿って交互に配置した油煙捕集フィルタ100であって、山折り部30の頂点から谷折り部40の頂点までの第1方向に沿った距離の4分の1の位置において、風上側の不織布表面と山折り部30の頂点との第2方向に沿った距離が、第2方向に隣接する山折り部30の頂点の間の距離の17%以上かつ25%以下である。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾材及び骨材を積層した不織布からなり、第1方向に沿った風上側に位置する山折り部及び前記第1方向に沿った風下側に位置する谷折り部が前記第1方向に直交する第2方向に沿って交互に形成された油煙捕集フィルタであって、
前記山折り部の頂点から前記谷折り部の頂点までの前記第1方向に沿った距離の4分の1の位置において、風上側の不織布表面と前記山折り部の頂点との前記第2方向に沿った距離が、前記第2方向に隣接する前記山折り部の頂点の間の距離の17%以上かつ25%以下である、油煙捕集フィルタ。
【請求項2】
前記濾材を構成する樹脂繊維の繊維径が3.5μm以上かつ6.0μm以下である、請求項1に記載の油煙捕集フィルタ。
【請求項3】
前記濾材の厚みが0.2mm以上かつ0.3mm以下であり、
前記不織布の厚みが0.5mm以上かつ0.6mm以下である、請求項1に記載の油煙捕集フィルタ。
【請求項4】
フィルタ展開面積D(m2)とフィルタ容積V(m3)との比で表されるD/Vが400以上であり、
フィルタ展開面積D(m2)が0.8以上である、請求項1に記載の油煙捕集フィルタ。
【請求項5】
前記濾材の目付量が20g/m2以上かつ90g/m2以下である、請求項1に記載の油煙捕集フィルタ。
【請求項6】
前記濾材がエレクトレット加工されている、請求項1に記載の油煙捕集フィルタ。
【請求項7】
前記濾材または骨材が難燃加工されている、請求項1に記載の油煙捕集フィルタ。
【請求項8】
請求項1乃至7のうち何れか一項に記載の油煙捕集フィルタを備えることを特徴とする換気システム。
【請求項9】
油煙を吸引して前記油煙捕集フィルタを通過させ、その油煙を除去した空気を室内に戻すことを特徴とする請求項8記載の換気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油煙捕集フィルタ及びこれを備える換気システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
キッチンの将来の姿は、家族と向き合いながら調理することのできる所謂アイランド型の換気システムを取り入れたものが主流になるとの予測がある。
【0003】
アイランド型の換気システムへのレイアウト変更は大掛かりな配管設備の工事が必要なため、調理中の油煙を予め定められた位置に設けられたダクトを介して外へ排気するのではなく、ダクトレス化することで設置が簡単になりレイアウト変更が自由にできるといったメリットが生まれる。
【0004】
ダクトレス化に対応可能な換気システムは、吸引した空気から油煙を取り除いて、室内に戻す構成になる。これにより、油煙の室内への拡散や脱臭フィルタへの油煙の目詰まりを防ぐべく、油煙を捕集する油煙捕集フィルタの開発が、今後の住環境の質を向上させるための急務となる。
【0005】
このような中で、本願発明者は、特許文献1に示すような、空気清浄機用のフィルタを油煙捕集フィルタに適用することを試みた。この空気清浄機用フィルタは、ひだ折りにされてなる所謂プリーツ状のフィルタであり、広いろ過面積が得られるといったメリットがある。
【0006】
ところが、空気清浄機用のプリーツ状のフィルタは、煙草や埃などを捕集対象としていることから、単純に油煙捕集フィルタとして用いるのでは、目詰まりによる交換頻度が高く、実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題を解決すべくなされたものであり、調理中に発生する油煙を捕集することができ、なおかつ目詰まりが生じにくく、長期間の使用においても圧力損失の上昇による風量低下や油煙の捕集率の低下を抑制することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係る油煙捕集フィルタは、濾材及び骨材を積層した不織布からなり、第1方向に沿った風上側に位置する山折り部及び前記第1方向に沿った風下側に位置する谷折り部を前記第1方向に直交する第2方向に沿って交互に配置した油煙捕集フィルタであって、前記山折り部の頂点から前記谷折り部の頂点までの前記第1方向に沿った距離の4分の1の位置において、風上側の不織布表面と前記山折り部の頂点との前記第2方向に沿った距離が、前記第2方向に隣接する前記山折り部の頂点の間の距離の17%以上かつ25%以下であることを特徴とする。
【0010】
このように構成された油煙捕集フィルタによれば、山折り部及び谷折り部の間に形成される通風部の湾曲が小さいので、通風部では油煙が付着しにくくなり、主に谷折り部で油分を捕集することができる。その結果、通風部の圧力損失の上昇を回避しつつ、油煙を捕集することができる。これにより、目詰まりが生じにくくなり、長期間の使用においても圧力損失の上昇による風量低下や油煙の捕集率の低下を抑制することができる。
【0011】
前記濾材を構成する樹脂繊維の繊維径が、3.5μm以上かつ6.0μm以下であることが望ましい。
このように繊維径3.5μm以上かつ6.0μm以下の樹脂繊維を用いることで、濾材を構成する樹脂繊維に剛性を持たせて、油煙の捕集が進んでも樹脂繊維同士の癒着を防いで繊維間の空隙を確保することができる。その結果、油煙捕集フィルタの長寿命化及び低圧損化を両立することができる。
【0012】
前記濾材の厚みが、0.2mm以上かつ0.3mm以下であり、前記不織布の厚みが、0.5mm以上かつ0.6mm以下であることが望ましい。
このように濾材の厚み及び不織布の厚みを薄くすることで、山折り部及び谷折り部をシャープな形状にすることができ、通風抵抗が下がり、大風量の風を通してもフィルタが圧縮変形しにくくなる。また、山折り部及び谷折り部の間に形成される通風部の湾曲が小さくなり、通風部の周囲に形成される空気が淀む部分を低減することができる。その結果、油煙の凝集を抑えるとともに、通風部における目詰まりを防ぐことができる。
【0013】
油煙捕集フィルタが捕集可能な油煙量は、フィルタ展開面積に比例する。フィルタ展開面積を大きくすることにより、油煙捕集フィルタを長寿命化することが可能となる。ここで、油煙捕集フィルタを長寿命化しつつ小型化を実現するためには、油煙捕集フィルタは、フィルタ展開面積D(m2)とフィルタ容積V(m3)との比で表されるD/Vが400以上であり、フィルタ展開面積D(m2)が0.8以上であることが望ましい。
【0014】
濾材の具体的な実施の態様としては、前記濾材の目付量が20g/m2以上かつ90g/m2以下であることが望ましい。
【0015】
油煙の捕集効率を向上させるためには、前記濾材がエレクトレット加工されていることが望ましい。
【0016】
油煙捕集フィルタを燃えにくくして安全性を高めるためには、前記濾材または骨材が難燃加工されていることが望ましい。
【0017】
また、本発明に係る換気システムは、上述した油煙捕集フィルタを備えることを特徴とするものであり、このような換気システムによれば、上述した捕集フィルタと同様の作用効果を奏し得る。
【0018】
上述した作用効果をより顕著に発揮させるための換気システムとしては、油煙を吸引して前記油煙捕集フィルタを通過させ、その油煙を除去した空気を室内に戻すものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
このように構成した本発明によれば、調理中に発生する油煙を捕集することができ、なおかつ目詰まりが生じにくく、長期間の使用においても圧力損失の上昇による風量低下や油煙の捕集率の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る換気システムの外観を示す模式図である。
【
図2】同実施形態における換気システムの構成を示す模式図である。
【
図3】同実施形態における油煙捕集フィルタの構成を示す模式図である。
【
図4】同実施形態における油煙捕集フィルタの構成を示す断面図である。
【
図5】同実施形態における油煙捕集フィルタの詳細な構成を示す断面図である。
【
図6】同実施形態における油煙捕集フィルタの油煙捕集のメカニズムを示す模式図である。
【
図7】同実施形態における油煙の質量捕集効率の測定方法を示す図である。
【
図8】同実施形態における油煙捕集前の樹脂繊維径ごとの目付量と捕集効率、圧力損失及び性能指数との関係(初期性能)を示すグラフである。
【
図9】同実施形態における油煙捕集前の濾材の厚みと、捕集効率、圧力損失及び油煙捕集力との関係(初期性能)、及び、樹脂繊維径毎の濾材の厚みと60gの油煙捕集後の性能(油煙捕集力)との関係を示すグラフである。
【
図10】同実施形態における濾材の厚み毎に濾材繊維径と、60gの油煙捕集後のフィルタ性能(油煙捕集力)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る油煙捕集フィルタ及びこの油煙捕集フィルタを備える換気システムの一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
<換気システムXの構成>
本実施形態に係る換気システムXは、
図1に示すように、例えばアイランド型のキッチンに用いられるものであって、ここではダクトレスのキッチンに用いられており、調理時に発生する油煙を吸引して、油煙捕集フィルタ100を通過させた後、油煙を除去した空気を室内に戻すように構成されている。
【0023】
なお、
図1には、油煙を上方に吸引する換気システムXを記載してあるが、油煙を下方に吸引するダウンドラフトタイプの換気システムであっても良い。また、本発明に係る換気システムXは、必ずしもダクトレスのキッチンに用いられるものに限らず、吸引した油煙を、油煙捕集フィルタ100を通過させた後、室外に排気するものであっても良い。
【0024】
換気システムXの具体的な構成は適宜変更して構わないが、ここでは
図2に示すように、目の粗いメッシュフィルタ200と、メッシュフィルタ200よりも目の細かい油煙捕集フィルタ100と、さらに目の細かい脱臭フィルタ300と、油煙を吸引するためのファンFとを備えている。
【0025】
<油煙捕集フィルタ100の構成>
そして、本実施形態の換気システムXは、油煙捕集フィルタ100に特徴があるので、以下に詳述する。
【0026】
油煙捕集フィルタ100は、油煙を捕集するものであり、
図3に示すように、不織布がひだ折にされてなるプリーツ状のフィルタである。ここで、不織布は、濾材からなる濾材層10と、この濾材層10を支持する骨材からなる骨材層20とが貼り合わされて積層されたものである。
【0027】
濾材層10の厚みは、0.2mm以上かつ0.3mm以下である。また、濾材層10を構成する樹脂繊維の平均繊維径は、3.5μm以上かつ6.0μm以下である。さらに、濾材層10の目付量は、20g/m2以上かつ90g/m2以下である。なお、濾材層10の素材は、ポリプロピレン(PP)であるが、その他、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂やシリコン系樹脂等の撥油樹脂であっても良い。
【0028】
骨材層20の厚みは、例えば0.3mmである。つまり、本実施形態の不織布の厚みは、0.5mm以上かつ0.6mm以下である。また、骨材層20を構成する樹脂繊維の平均繊維径は、例えば37μmである。さらに、骨材層20の目付量は、例えば47g/m2である。なお、骨材層20の素材は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。
【0029】
具体的に油煙捕集フィルタ100は、
図3及び
図4に示すように、第1方向(X方向)に沿った風上側に位置する山折り部30及び第1方向(X方向)に沿った風下側に位置する谷折り部40が、第1方向に直交する第2方向(Y方向)に沿って交互に形成されている。この構成において、互いに隣り合う山折り部30及び谷折り部40の間に位置する領域が、主として風が通過する通風部50として機能する。
【0030】
そして、この油煙捕集フィルタ100は、
図5に示すように、山折り部30の頂点から谷折り部40の頂点までのX方向に沿った距離Lxに対して、山折り部30の頂点からX方向に沿った距離Lxの4分の1の位置において、風上側の不織布表面(具体的には濾材層10の表面)と山折り部30の頂点とのY方向に沿った距離Lyが、Y方向に隣接する山折り部30の頂点の間の距離(ピッチLp)の17%以上かつ25%以下となるように構成されている。なお、
図5に記載した具体的な寸法は一例であり、これらの寸法に限定されない。
【0031】
本実施形態では、濾材を構成する樹脂繊維の繊維径が、3.5μm以上かつ6.0μm以下であり、濾材の厚みが、0.2mm以上かつ0.3mm以下であり、不織布の厚みが、0.5mm以上かつ0.6mm以下であることから、上記のとおり、山折り部30の頂点から距離Lxの4分の1の位置において、風上側の不織布表面と山折り部30の頂点とのY方向に沿った距離Lyが、山折り部30の頂点の間の距離(ピッチLp)の17%以上かつ25%以下となるように構成することができる。
【0032】
さらに、本実施形態の油煙捕集フィルタ100は、フィルタ展開面積D(m2)とフィルタ容積V(m3)との比で表されるD/Vが400以上であり、フィルタ展開面積D(m2)が0.8以上としている。本実施形態では、濾材を構成する樹脂繊維の繊維径が、4.0μm以上かつ6.0μm以下であり、濾材の厚みが、0.2mm以上かつ0.3mm以下であり、不織布の厚みが、0.5mm以上かつ0.6mm以下であることから、上記の通り、D/Vが400以上であり、Dが0.8以上とすることができる。
【0033】
<本実施形態の効果>
このように構成された油煙捕集フィルタ100によれば、
図6(a)に示すように、山折り部30及び谷折り部40の間に形成される通風部50の湾曲が小さいので、通風部50では油煙が付着しにくくなり、主に谷折り部40で油分を捕集することができる。その結果、通風部50の圧力損失の上昇を回避しつつ、油煙を捕集することができる。これにより、目詰まりが生じにくくなり、長期間の使用においても圧力損失の上昇による風量低下や油煙の捕集率の低下を抑制することができる。なお、通風部50が湾曲していると、
図6(b)に示すように、通風部50に油煙が付着しやすくなり、目詰まりが生じやすく、長期間の使用において圧力損失が上昇して風量低下や油煙の捕集率の低下を招いてしまう。
【0034】
<油煙捕集フィルタの設計およびシミュレーション結果>
油煙フィルタが捕集ターゲットとする油煙の粒子径は、1μm以上が大部分を占めている。
本実施形態の油煙捕集フィルタは、この1μm以上の粒子径を効率よく捕集するために、「さえぎり」、「慣性衝突」の捕集機構を活用するものである。さえぎり、慣性衝突の頻度を上げるための設計としては次の指針が挙げられる。
(1)目付量を増やす
(2)濾材の厚みを増す
(3)濾材の樹脂繊維径を増す
【0035】
上記(1)~(3)について設計検証する上で、油煙の捕集力を示すフィルタの指標がないため、油煙目詰まりによる圧損上昇で風量が低下することなく高い油煙の浄化能力が維持できているかを判断する指標として次に示す油煙捕集力を定義した。
油煙捕集力(CMH)=油煙の質量捕集効率(質量%/100)×風量(CMH)
【0036】
なお、油煙の質量捕集効率(質量%/100)は、
図7に示す方法により測定する。具体的には、上流側から油煙発生部、試験対象の油煙捕集フィルタ、漏れ油煙捕集部(フィルタ)及び吸引用ファンを配置し、試験対象の油煙捕集フィルタの増加質量Waと、漏れ油煙捕集部の増加質量Wbとを求める。そして、油煙の質量捕集効率を、{Wa/(Wa+Wb)}×100により求める。
【0037】
油煙の捕集が進んでも低圧損及び高捕集が維持できる長寿命の油煙捕集フィルタとするための基準の油煙捕集力を、60gの油煙捕集時において395CMH以上とした。なお、60gは、1年相当の油煙発生量である。
【0038】
(1)目付量についての検討
油煙捕集前の樹脂繊維径ごとの目付量(g/m
2)と捕集効率(%)及び圧力損失(Pa)との関係(初期性能)を
図8に示す。
【0039】
(条件)
図8は、油煙捕集フィルタのサイズ:200mm角(厚み:40mm)、濾材の厚み:0.2mm、油煙粒子径:5μmとしたときのシミュレーション結果及び実測値である。
【0040】
シミュレーションに用いた関係式は以下である。
捕集効率(E)=1-exp(-4・α・D・ηf/(π・(1-α)・df・(1+σ)))
圧力損失(Δp)=(16/kf)・(μ・α・U・D/((1-α)・df・df・(1+σ)))
性能指数(Qf)=-ln(1-E/100)/Δp
α:充填率、D:濾材厚さ、ηf:単一繊維捕集効率、π:円周率、
df:樹脂繊維径、kf:水力学的因子、μ:空気粘度、U:気流速度、σ:繊維径分散
【0041】
(考察)
油煙粒子の捕集を前提とした油煙捕集フィルタの設計において、濾材の樹脂繊維径毎の捕集効率及び圧力損失から算出される目付量に対する性能指数(Qf)は、目付量20~90g/m2の範囲においては、同一の樹脂繊維径において大きな差は見られない。
濾材の樹脂繊維径毎の性能指数(Qf)から1μm、5μm、10μmの樹脂繊維径においては、樹脂繊維径が5μmのものが性能指数が高い。
【0042】
(2)濾材の厚みについての検討
油煙捕集前の濾材の厚み(mm)と、捕集効率(%)、圧力損失(Pa)及び油煙捕集力(CMH)との関係(初期性能)を
図9に示す。
【0043】
(条件)
図9は、油煙捕集フィルタのサイズ:200mm角(厚み:40mm)、目付量:40g/m
2、油煙粒子径:5μmとしたときのシミュレーション結果及び実測値である。
【0044】
シミュレーションに用いた関係式は以下である。
捕集効率(E)=1-exp(-4・α・D・ηf/(π・(1-α)・df・(1+σ)))
圧力損失(Δp)=(16/kf)・(μ・α・U・D/((1-α)・df・df・(1+σ)))
油煙捕集力(CMH)=油煙の捕集効率(%/100)×風量(CMH)
【0045】
(考察)
目付量を固定し、樹脂繊維径毎の濾材の厚みと60g(1年分相当)の油煙捕集後の性能(油煙捕集力)とをグラフ化したものを
図9(d)に示している。このグラフから濾材の厚みが0.2~0.3mmの範囲であれば395CMH以上の性能を発揮していることがわかる。
【0046】
・濾材の厚みを薄くしすぎると性能が得られない理由:
同じ目付量で薄くしていくと、樹脂繊維間の風路が遮られて通風抵抗が上がり、圧損上昇が生じるためであると考えられる。
・濾材厚みが厚くしすぎると性能が得られない理由:
濾材の厚みを0.4mm以上に厚くすると油煙捕集フィルタのプリーツ折り時の折りがシャープな形状とならず、油煙の蓄積前の初期段階から通風抵抗が上がり圧損上昇が生じるためであると考えられる。特にフード用の油煙捕集フィルタでは通過風速が大きく、油煙捕集フィルタが圧縮変形してしまい圧損が上昇する。
【0047】
(3)濾材の樹脂繊維径についての検討
濾材の厚み毎に濾材繊維径(μm)と、60gの油煙捕集後のフィルタ性能(油煙捕集力)についてシミュレーション結果及び実測値を
図10に示す。
【0048】
60gの油煙が付着した後でも、次の範囲においては、油煙捕集フィルタとして高いフィルタ性能を維持している。
濾材厚み:0.2~0.3mmの場合、樹脂繊維径が約3.5~6.0μm
(濾材厚み:0.3mmの場合、樹脂繊維径が約2.5~7μm)
(濾材厚み:0.2mmの場合、樹脂繊維径が約3.5~6μm)
【0049】
(理由)
(a)太い樹脂繊維(4.0~6.0μm)の濾材を用いることで濾材繊維に剛性を持たせることで繊維間の空隙を確保することができ、油煙の捕集が進んでも樹脂繊維同士の癒着を防ぐことができたためと考えられる。
(b)濾材の厚みを薄く(0.2~0.3mm)することで、プリーツ折り時の折りがシャープな形状となり、通風抵抗が下がり、大風量の風を通しても油煙捕集フィルタが圧縮変形しにくくなるためと考えられる。
(c)濾材の厚みを薄くすることで、山折り部分及び谷折り部分の間の通風部が湾曲しにくくなり、空気が淀む部分が形成されず、油煙の凝集を抑え、油煙による目詰まりを防ぐことができたためと考えられる。
【0050】
<変形実施形態>
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではない。
【0051】
例えば、濾材がエレクトレット加工されていても良い。また、骨材が、濾材と同様に、エレクトレット加工されていても良い。
【0052】
また、濾材が難燃加工されていても良い。また、骨材が、濾材と同様に、難燃加工されていても良い。
【0053】
さらに、谷折り部に、通風部に比べて空隙サイズの小さい油貯蔵部が設けても良い。この油貯蔵部は、谷折り部の谷底を第2方向(Y方向)に押し潰すことにより形成することが考えられる。この構成であれば、通過する風の速度ベクトルが小さく通風部として機能しにくい谷折り部を油貯蔵部として用いることにより、速度ベクトルが大きい広い範囲を通風部として用いることができ、使用初期における圧力損失を抑えることができる。また、通過する風の一部が谷折り部で滞留することから、油煙に含まれる油分の沈着も多くなり、油分の捕集効率の向上をも図れる。
【0054】
さらに加えて、前記実施形態では換気システムXに油煙捕集フィルタ100を適用した場合について説明したが、本発明に係る油煙捕集フィルタ100は、空気清浄機に用いられても良い。すなわち、本発明に係る油煙捕集フィルタ100を備える空気清浄機も本発明の一態様である。
【0055】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
X ・・・換気システム
100・・・油煙捕集フィルタ
200・・・メッシュフィルタ
300・・・脱臭フィルタ
10 ・・・濾材層
20 ・・・骨材層
30 ・・・山折り部
40 ・・・谷折り部
50 ・・・通風部