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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081879
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】閃光照射装置、閃光放電ランプ
(51)【国際特許分類】
   H01J 61/80 20060101AFI20240612BHJP
   H01J 61/54 20060101ALI20240612BHJP
   H01J 61/56 20060101ALI20240612BHJP
   H01L 21/26 20060101ALI20240612BHJP
   H05B 41/288 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
H01J61/80
H01J61/54 H
H01J61/56 H
H01L21/26 J
H05B41/288
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195406
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横森 岳彦
【テーマコード(参考)】
3K072
【Fターム(参考)】
3K072AA20
3K072AB07
3K072AC04
3K072DA10
(57)【要約】
【課題】装置構成や点灯回路を複雑化することなく、ワークに対してより高い照射エネルギーで光を照射できる閃光照射装置及び閃光放電ランプを提供する。
【解決手段】第一方向に延伸する、内側に発光ガスが封入された発光管と、発光管の内側において、第一方向に離間して配置された一対の放電電極と、発光管から見て、ワークとは反対側に配置され、発光管からワークとは反対側に向かって発せられた光を、ワーク側へと反射する反射部材と、発光管の外壁面上、又は発光管の近傍において、第一方向に離間して配置された一対のトリガ電極と、一対の放電電極に接続され、一対の放電電極間に電力を供給する点灯回路と、一対のトリガ電極に接続され、一対のトリガ電極間に点灯始動用の電圧を印加するトリガ回路とを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対して光を照射する閃光照射装置であって、
第一方向に延伸する、内側に発光ガスが封入された発光管と、
前記発光管の内側において、前記第一方向に離間して配置された一対の放電電極と、
前記発光管から見て、前記ワークとは反対側に配置され、前記発光管から前記ワークとは反対側に向かって発せられた光を、前記ワーク側へと反射する反射部材と、
前記発光管の外壁面上、又は前記発光管の近傍において、前記第一方向に離間して配置された一対のトリガ電極と、
一対の前記放電電極に接続され、一対の前記放電電極間に電力を供給する点灯回路と、
一対の前記トリガ電極に接続され、一対の前記トリガ電極間に点灯始動用の電圧を印加するトリガ回路とを備えることを特徴とする閃光照射装置。
【請求項2】
前記発光管から発せされる光に対して透過性を示す、内側に18族元素を含む放電用ガスが封入されるとともに、前記第一方向において対向する一対の前記トリガ電極の端部を封止した管体を備えることを特徴とする請求項1に記載の閃光照射装置。
【請求項3】
前記管体に封入されている前記放電用ガスの封入圧力は、大気圧よりも低いことを特徴とする請求項2に記載の閃光照射装置。
【請求項4】
一対の前記トリガ電極のそれぞれの端部は、前記第一方向に関し、一対の前記放電電極に挟まれた領域の外側に位置していることを特徴とする請求項1に記載の閃光照射装置。
【請求項5】
前記ワークから放射された放射光を通過させる、前記反射部材に設けられた観測用穴と、
前記反射部材から見て、前記ワークとは反対側に配置された、前記観測用穴を通過した前記放射光を受光し、受光した前記放射光の強度に基づく信号を出力する受光素子とを備え、
前記観測用穴、及び前記受光素子は、前記第一方向に関し、一対の前記トリガ電極の間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の閃光照射装置。
【請求項6】
前記受光素子は、受光感度を示す波長帯域が、4μm以下の範囲内に属する素子であることを特徴とする請求項5に記載の閃光照射装置。
【請求項7】
前記トリガ電極は、前記発光管と前記反射部材との間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の閃光照射装置。
【請求項8】
第一方向に延伸する、内側に発光ガスが封入された発光管と、
前記発光管の内側において、前記第一方向に離間して配置された一対の放電電極と、
前記発光管の外壁面上、又は近傍において、前記第一方向に離間して配置された一対のトリガ電極とを備えることを特徴とする閃光放電ランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閃光照射装置、及び閃光放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板の熱処理やプリンタブルエレクトロニクス等の製造プロセスにおける熱処理として、閃光照射装置が用いられている。特に近年では、半導体プロセスの微細化に伴って、注入した不純物が長時間の加熱により拡散することを抑えつつ活性化させる方法として、閃光照射装置による瞬時の熱処理方法が注目されている。
【0003】
半導体ウェハの加熱処理装置に適した閃光放電ランプ(「フラッシュランプ」とも称される。)は、瞬間的に高出力の光を発生させて加熱を行うための点灯制御が実施される。閃光放電ランプの点灯開始のタイミング制御方法としては、放電電極間に電圧を印加している状態の下で、発光管の直近に設けたワイヤ状の電極にトリガ用の電圧を印加することで、絶縁破壊を誘発させて点灯させる方法が知られている(例えば、下記特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-266351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近では、半導体プロセスに関する技術の進展により、更なる微細化が進められており、閃光照射装置においては、更なる照射時間の短縮や、高出力化が求められている。そこで、本発明者は、閃光照射装置の高出力化について鋭意検討を行っていたところ、以下のような課題が存在することを見い出した。
【0006】
上述した背景により、最近の閃光照射装置においては、より高い光出力が求められており、その実現のために、閃光照射装置に搭載された放電ランプに対して数kAオーダーの電流を供給して点灯させることが検討されている。
【0007】
しかしながら、放電ランプに対して数kAの電流を流す構成を採用しようとした場合、当該放電ランプの発光管の寿命が短くなりやすい。これは、発光時の電流が発光管に触れることで、発光管を構成する材料(例えば、石英ガラス)の変質が早期に起きやすいことによる。このため、高出力化の要望が高まってはいるものの、閃光照射装置に搭載される放電ランプに対して、単純に上記のような数kAの電流を供給することは、耐久性や信頼性等の観点から実質的には困難であった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、装置構成や点灯回路を複雑化することなく、ワークに対してより高い照射エネルギーで光を照射できる閃光照射装置及び閃光放電ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の閃光照射装置は、
ワークに対して光を照射する閃光照射装置であって、
第一方向に延伸する、内側に発光ガスが封入された発光管と、
前記発光管の内側において、前記第一方向に離間して配置された一対の放電電極と、
前記発光管から見て、前記ワークとは反対側に配置され、前記発光管から前記ワークとは反対側に向かって発せられた光を、前記ワーク側へと反射する反射部材と、
前記発光管の外壁面上、又は前記発光管の近傍において、前記第一方向に離間して配置された一対のトリガ電極と、
一対の前記放電電極に接続され、一対の前記放電電極間に電力を供給する点灯回路と、
一対の前記トリガ電極に接続され、一対の前記トリガ電極間に点灯始動用の電圧を印加するトリガ回路とを備えることを特徴とする。
【0010】
本明細書において「発光管の近傍」とは、発光管の壁面からの離間距離が2mm以下の範囲内に配置されていることを意図して用いられる。
【0011】
従来の閃光照射装置における発光管は、上記特許文献1にも記載されているように、発光管の外壁面上、又は発光管の近傍において、発光管の管軸に沿うように、第一方向に関し、一対の放電電極の間に跨るように一本のトリガ電極が搭載される。
【0012】
トリガ電極は、一方の放電電極との間で点灯始動用の所定の電圧(以下、「トリガ電圧」ともいう。)が印加されることで、一対の放電電極間で絶縁破壊を誘発させ、発光管内で閃光を発生させる、点灯始動用の電極である。また、トリガ電極は、トリガ電圧が印加される前は、所定の電位で維持されることにより、一対の放電電極間での意図しない放電の発生を抑制する。
【0013】
トリガ電極は、放電制御の観点から、閃光照射装置においてはほぼ必須の構成であり、より高い電力での点灯や、より短時間での点灯を実現する上では、重要な部材である。ところが、トリガ電極は、電圧を印加することで、発光管内の電位状態を制御する観点から、導体(具体的には、タングステン(W)や、モリブデン(Mo)等)で構成される。
【0014】
導体とは、一般的には金属等であり、光に対してほとんど透過性を示さない。このため、従来構成の閃光照射装置では、発光管から発せられる光のうちの、トリガ電極に照射される光は、反射部材やワークに向かって進行することなく、ほとんどがトリガ電極に吸収されてしまっていた。
【0015】
なお、トリガ電極に照射される光は、発光管から発せられた直接トリガ電極に向かって進行する光のみならず、反射部材によって反射された光も含まれる。このため、発光管から発せられた光全体のうちの、トリガ電極に照射される光の量は決して少なくない。
【0016】
そこで、上記構成の閃光照射装置とすることで、発光管から発せられた光は、トリガ電極に遮られにくくなり、反射部材、及びワークに到達しやすくなる。したがって、上記構成の閃光照射装置は、発光管から発せられる光のエネルギー損失が抑制されるため、従来の閃光照射装置に比べて、より高い照射エネルギーの光をワークに対して照射することができる。
【0017】
上記閃光照射装置は、
前記発光管から発せされる光に対して透過性を示す、内側に18族元素を含む放電用ガスが封入されるとともに、前記第一方向において対向する一対の前記トリガ電極の端部を封止した管体を備えていても構わない。
【0018】
なお、ここでの「第一方向において対向する一対のトリガ電極の端部を封止した」とは、発光管と併設された一対のトリガ電極が対向する側を管体の内側に配置し、他方を管体の外部に突出するように構成した状態を示す。つまり、当該態様は、管体とトリガ電極とで気密が保てるように接続した状態、すなわち、管体をガラス管で構成したとすれば、トリガ電極の端部とガラス管を溶着させた状態を示す。
【0019】
さらに、上記閃光照射装置において、
前記管体に封入されている前記放電用ガスの封入圧力は、大気圧よりも低くなるように構成されていても構わない。
【0020】
上記構成とすることで、発光管から発せられる光が照射されて、トリガ電極と、周辺に存在する酸素とが反応して酸化してしまうことが抑制される。つまり、上記構成を採用することは、閃光照射装置の長寿命化に繋がる。
【0021】
また、管体内に封入されている放電用ガスの封入圧力が、大気圧より低い、すなわち、負圧である場合は、トリガ電極間において放電が発生しやすいため、発光管の点灯始動がより制御しやすい。
【0022】
上記閃光照射装置において、
一対の前記トリガ電極のそれぞれの端部は、前記第一方向に関し、一対の前記放電電極に挟まれた領域の外側に位置していても構わない。
【0023】
発光管内において、主に光が発生する領域は、一対の放電電極に挟まれた空間である。したがって、上記構成とすることで、発光管から発せられた光のほとんどが、トリガ電極によって遮られることなく、反射部材、そしてワークに到達することとなる。
【0024】
上記閃光照射装置は、
前記ワークから放射された放射光を通過させる、前記反射部材に設けられた観測用穴と、
前記反射部材から見て、前記ワークとは反対側に配置された、前記観測用穴を通過した前記放射光を受光し、受光した前記放射光の強度に基づく信号を出力する受光素子とを備え、
前記観測用穴、及び前記受光素子は、前記第一方向に関し、一対の前記トリガ電極の間に配置されていても構わない。
【0025】
さらに、上記閃光照射装置において、
前記受光素子は、受光感度を示す波長帯域が、4μm以下の範囲内に属する素子であっても構わない。
【0026】
本明細書において「受光感度を示す」とは、所定の波長帯域の光を受光することで、25℃(室温)以上の温度を検出可能であることをいう。
【0027】
上記構成とすることで、トリガ電極に遮られることなく、受光素子によってワークから放射される光を観測することができ、閃光を照射している最中のワークの温度変化をモニタリングすることができる。
【0028】
また、耐熱や光に対する透過性の観点から、一般的に発光管の材料として採用されるガラス(特に、石英ガラス)は、4μm以上の光を透過し難い。そこで、このような光学特性を考慮して、受光素子は、受光感度を示す波長帯域が波長4μm以下の範囲内に属していることが好ましい。
【0029】
なお、特に、発光管や管体が石英ガラスである場合おいては、波長160nm以下の光もほとんど透過しないため、受光素子の受光感度を示す波長帯域は、160nm以上の範囲に属することがより好ましい。さらに、発光管から発せられる光との干渉を抑えることと低温から測定が可能であることをも考慮すると、受光素子の受光感度を示す波長帯域は、波長が3μm以上4μm以下の範囲に属することが特に好ましい。
【0030】
上記閃光照射装置において、
前記トリガ電極は、前記発光管と前記反射部材との間に配置されていても構わない。
【0031】
トリガ電極を設ける位置は、発光管の反射部材とは反対側であっても構わないが、発光管から発せられてワークに向かって直接進行する光のエネルギー損失を考慮すると、発光管と反射部材との間であることが好ましい。
【0032】
本発明の閃光放電ランプは、
第一方向に延伸する、内側に発光ガスが封入された発光管と、
前記発光管の内側において、前記第一方向に離間して配置された一対の放電電極と、
前記発光管の外壁面上、又は近傍において、前記第一方向に離間して配置された一対のトリガ電極とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、装置構成や点灯回路を複雑化することなく、ワークに対してより高い照射エネルギーで光を照射できる閃光照射装置及び閃光放電ランプが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】閃光照射装置の一実施形態をY方向に見たときの模式な図面である。
図2図1の閃光照射装置をX方向に見たときの図面である。
図3】閃光放電ランプの点灯回路とトリガ回路の一構成例を示す回路図である。
図4A】実施例1の検証実験の構成をY方向に見たときの模式的に示す図面である。
図4B】実施例2の検証実験の構成をY方向に見たときの模式的に示す図面である。
図4C】比較例1の検証実験の構成をY方向に見たときの模式的に示す図面である。
図4D】比較例2の検証実験の構成をY方向に見たときの模式的に示す図面である。
図5A】閃光放電ランプを1本搭載し、発光管とカロリーメータとを30mm離間して検証実験を行った場合の照射エネルギー分布を示すグラフである。
図5B】閃光放電ランプを1本搭載し、発光管とカロリーメータとを60mm離間して検証実験を行った場合の照射エネルギー分布を示すグラフである。
図5C】閃光放電ランプを1本搭載し、発光管とカロリーメータとを100mm離間して検証実験を行った場合の照射エネルギー分布を示すグラフである。
図6A】閃光放電ランプを30本搭載し、所定の発光管とカロリーメータとを30mm離間して検証実験を行った場合の照射エネルギー分布を示すグラフである。
図6B】閃光放電ランプを30本搭載し、所定の発光管とカロリーメータとを60mm離間して検証実験を行った場合の照射エネルギー分布を示すグラフである。
図6C】閃光放電ランプを30本搭載し、所定の発光管とカロリーメータとを100mm離間して検証実験を行った場合の照射エネルギー分布を示すグラフである。
図7】閃光照射装置の別実施形態をY方向に見たときの模式な図面である。
図8】閃光照射装置の別実施形態をY方向に見たときの模式な図面である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の閃光照射装置及び閃光放電ランプについて、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の個数は、実際の個数と必ずしも一致していない。
【0036】
[装置構成]
図1は、閃光照射装置1の一実施形態をY方向に見たときの模式な図面であり、図2は、図1の閃光照射装置1をX方向に見たときの図面である。図1及び図2に示すように、本実施形態の閃光照射装置1は、複数の閃光放電ランプ10と、反射部材20と、ワークW1が載置される支持台30とを備える。複数の閃光放電ランプ10のそれぞれは、発光管11と、一対の放電電極(12p,12n)と、管体13と、一対のトリガ電極(14p,14n)とを備える。なお、本実施形態の閃光照射装置1は、複数の閃光放電ランプ10を備えているが、ワークW1の種類や大きさ等によっては、閃光放電ランプ10が一つだけ搭載された構成であっても構わない。
【0037】
以下説明においては、図1に示すように、発光管11の管軸11aに沿う方向をX方向とし、図2に示すように、閃光放電ランプ10が配列されている方向をY方向とし、閃光放電ランプ10とワークW1とが対向する方向をZ方向として説明する。なお、X方向が第一方向に相当する。
【0038】
また、上述したように、本明細書では、方向を表現する際に、正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載される。また、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。
【0039】
発光管11は、発光ガスが封入された石英ガラス製の直管形状を呈する部材であって、内側にX方向に離間して配置された一対の放電電極(12p,12n)を備える。なお、本実施形態の発光管11は、X方向における長さが400mmであって、X方向に見たときの外径が13mmである。
【0040】
一対の放電電極(12p,12n)は、図1に示すように、X方向に関し、ワークW1の幅よりも離間して配置されており、ワークW1の幅よりも発光管11の発光領域が大きくなるように構成されている。具体的には、本実施形態においては、ワークW1のX方向における幅が300mmであるのに対し、一対の放電電極(12p,12n)のX方向における離間距離が500mmに設定されている。
【0041】
支持台30は、ワークW1が載置される複数のピン30aを備えた台座である。図1及び図2に示すワークW1を支持する支持台30の構成は、単なる一例であって、ワークW1を所定の位置で固定できる構成であれば、例えば、ワークW1の外縁部を引掛けて支持する構成であっても構わない。なお、閃光放電ランプ10と、ワークW1とのZ方向における離間距離は、ワークW1の種類や、処理工程等に応じて適宜調整されるが、本実施形態では30mmとしている。
【0042】
図1に示すように、発光管11の+Z側の外壁面上には、内側にX方向において対向する一対のトリガ電極(14p,14n)の端部(14a,14a)を封止した管体13が設けられている。また、管体13は、内側に18族元素を含む放電用ガスが、大気圧よりも低い封入圧力で封入されている。なお、管体13及び一対のトリガ電極(14p,14n)を設ける位置は、発光管11の-Z側であっても構わないが、発光管11から発せられてワークW1に向かって直接進行する光L1のエネルギー損失を考慮すると、発光管11の+Z側であることが好ましい。
【0043】
本実施形態における管体13は、発光管11と同じく石英ガラス製であって、発光管11と一体的に構成されているが、発光管11と管体13は、異なる材料で作製されていてもよく、相互に接触していなくても構わない。
【0044】
管体13は、発光管11の外壁面11b上に固定されることで、トリガ電極(14p,14n)を、発光管11から2mm離間した位置で固定する。なお、閃光照射装置1は、管体13を備えていなくてもよく、トリガ電極(14p,14n)が露出した状態で、発光管11の外壁面11b上、又は発光管11の近傍に配置されていても構わない。
【0045】
本実施形態のトリガ電極(14p,14n)は、タングステン(W)を材料とするワイヤ状の部材である。トリガ電極(14p,14n)は、X方向において、それぞれの端部(14a,14a)が、ワークW1よりも外側に位置するように固定されている。トリガ電極(14p,14n)は、タングステン(W)以外に、例えば、モリブデン(Mo)を材料としてもよく、更には、棒状や板状を呈していても構わない。
【0046】
また、発光管11内で発せられた光L1をワークW1側へと進行させやすくするために、本実施形態におけるトリガ電極(14p,14n)の表面には、融点が高いニッケル(Ni)を材料とする反射膜が形成されている。なお、当該反射膜の材料は、ニッケル(Ni)の他に、例えば、ロジウム(Rd)によって形成しても構わない。また、当該反射膜を設けるか否かは、任意である。
【0047】
反射部材20は、閃光放電ランプ10から発せられた光L1を反射する反射面21を備え、図1に示すように、閃光放電ランプ10から発せられて、+Z側に向かって進行する光L1を、-Z側へと反射するように配置されている。なお、図1及び図2に示す反射部材20の大きさ、形状等は単なる一例である。
【0048】
また、反射部材20は、図1及び図2に示すように、ワークW1から放射される放射光L2を通過させて、反射部材20の+Z側の壁面に設けられた受光素子23に取り込ませるための、観測用穴22(実際には見えていないため、図1において破線で示されている。)が形成されている。観測用穴22、及び受光素子23は、X方向に関し、一対のトリガ電極(12p,12n)に挟まれた領域内に配置されている。
【0049】
反射部材20は、例えば、アルミニウム(Al)板である。
【0050】
受光素子23は、ワークW1から放射される放射光L2を受光して、不図示の信号処理部に対して、放射光L2に基づく信号を出力する。当該信号は、ワークW1の表面温度の測定、及び熱履歴の記録に利用される。
【0051】
本実施形態における受光素子23は、受光感度を示す波長帯域が、0.2μm~20μmまでフラットな受光特性を持つサーモパイル型パワーメーター等が好適である。なお、受光素子23の受光感度を示す波長帯域は、任意であって、発光管11及び管体13を構成する材料の透過スペクトルに応じて適宜選択される。また、受光素子は、特定の波長のみ透過するバンドパスフィルタ等を併用することで、所望の波長帯の光出力を測定することができる。なお、上述したように、石英ガラスの透過スペクトル、及び発光管11から発せられる光L1との干渉を回避すべく、受光素子23の受光感度を示す波長帯域は、4μm以下の範囲内に属することが好ましく、低温から測定が可能であることをも考慮すると3μm以上4μm以下の範囲内に属することがより好ましい。
【0052】
また、受光素子23は、反射部材20から離間した位置に固定されていてもよく、搭載する個数についても任意である。なお、本実施形態においては、受光素子23が、ワークW1から放射される放射光L2を受光する素子である場合で説明したが、受光素子23が、閃光放電ランプ10を構成する発光管11の温度を測定する素子であっても構わない。
【0053】
[点灯動作]
ここで、閃光放電ランプ10の点灯動作について、図面を参照しながら説明する。図3は、閃光放電ランプ10を点灯させるための点灯回路、及びトリガ回路の一構成例を示す回路図である。閃光放電ランプ10の放電電極(12p,12n)は、図3に示すように、放電用コンデンサ2と、インダクタ3と、第一スイッチング素子4とを含む、点灯回路C1に接続されている。
【0054】
また、閃光放電ランプ10のトリガ電極(14p,14n)は、トランス6と、トリガ用コンデンサ7と、第二スイッチング素子8とを含む、点灯始動用のトリガ回路C2に接続されている。
【0055】
さらに、第一スイッチング素子4、及び第二スイッチング素子8は、それぞれのON/OFF制御を行う制御部5に接続されている。なお、図3に示す点灯回路C1、及びトリガ回路C2は、単なる一例であって、制御部5の制御により、閃光放電ランプ10の点灯用電力の供給、及びトリガ電極間に放電開始の放電を発生させる電力の供給が可能な構成であれば、他の構成を採用しても構わない。
【0056】
制御部5は、第一スイッチング素子4と、第二スイッチング素子8とに接続されており、それぞれのスイッチング素子(4,8)のON/OFF状態を、独立に制御する。制御部5は、例えば、専用に設計されたASICや、専用にプログラミングされたFPGA、更には、CPUやMPU等の演算処理デバイスを採用し得る。
【0057】
閃光放電ランプ10が備える一対の放電電極(12p,12n)は、電圧印加時には、放電電極12nを基準として、放電電極12pが高電位となるように電圧が印加される。また、一対のトリガ電極(14p,14n)には、始動時に、放電電極12に対して高電位となるように電圧が印加される。なお、トリガ電極14pと14nは、同電位である。
【0058】
なお、放電用コンデンサ2の前段には、放電用コンデンサ2を充電するための電源回路(例えば、DC-DCコンバータ等)が接続されているが、点灯動作の説明に終始する都合上、電源回路の説明について省略し、以下では、放電用コンデンサ2の充電が完了している状態からの動作を説明する。また、トリガ用コンデンサ7についても同様に、充電が完了している状態からの動作を説明する。
【0059】
まず、放電用コンデンサ2が充電されている状態において、制御部5が、第一スイッチング素子4、及び第二スイッチング素子8をOFF状態に制御している。
【0060】
点灯制御が開始されると、制御部5は、第一スイッチング素子4をOFF状態からON状態へと切り替える。この時点では、閃光放電ランプ10の放電電極(12p,12n)間に放電用コンデンサ2に蓄えられた電荷量に応じた電圧が印加されるが、発光管11内で放電は生じない。
【0061】
第一スイッチング素子4をOFF状態からON状態に切り替えた後、制御部5は、第二スイッチング素子8をOFF状態からON状態に切り替える。すると、トリガ用コンデンサ7に蓄えられた電荷がトランス6の一次側コイルに対して放出されて、トランス6の二次側コイルに起電力が発生する。
【0062】
当該起電力の発生により、一対のトリガ電極(14p,14n)に、放電を発生させるためのパルス電圧が印加される。そして、トリガ電極(14p,14n)に当該パルス電圧が印加されると、発光管11内に封入された発光ガスの一部が電離した状態となり、放電電極(12p,12n)間において絶縁破壊が誘発される。そして、放電電極(12p,12n)間で絶縁破壊により発生した放電によって、発光管11内で瞬間的な発光が生じる。
【0063】
次に、閃光放電ランプの構成の違いのよって、ワークW1の主面W1a上における照射エネルギー分布がどのように変化するかを確認する検証実験を行ったので、以下、当該検証実験の詳細について説明する。
【0064】
(実施例1)
図4Aは、実施例1の検証実験の構成をY方向に見たときの模式的に示す図面である。実施例1は、図4Aに示すように、観測用穴22、及び受光素子23を備えていない点を除いて、上述した構成の閃光照射装置1である。また、本検証実験では、ワークに照射される光L1の照射エネルギーを測定するため、図4Aに示すように、ワークを配置する位置にカロリーメータ40が配置されている。
【0065】
(実施例2)
図4Bは、実施例2の検証実験の構成をY方向に見たときの模式的に示す図面である。実施例2は、図4Bに示すように、管体13が発光管11の-Z側に配置されている点を除いて、実施例1と同様である。
【0066】
(比較例1)
図4Cは、比較例1の検証実験の構成をY方向に見たときの模式的に示す図面である。なお、以下の比較例の説明においては、構成の把握しやすさを考慮して、実施例の閃光照射装置1と共通する部分に関しては、実施例の閃光照射装置1と同じ符号を付している。比較例1は、図4Cに示すように、従来の、X方向において、一対の放電電極(12p,12n)間に跨るように設けられたトリガ電極14sと、当該トリガ電極14sを封止する管体13sの構成を除いて、実施例1と同様である。
【0067】
(比較例2)
図4Dは、比較例2の検証実験の構成をY方向に見たときの模式的に示す図面である。比較例2は、図4Dに示すように、従来の、X方向において、一対の放電電極(12p,12n)間に跨るように設けられたトリガ電極14sと、当該トリガ電極14sを封止する管体13sの構成を除いて、実施例2と同様である。
【0068】
(条件)
閃光放電ランプ10単体による照射エネルギー分布と、閃光照射装置1においてワークに照射される光L1の照射エネルギー分布を検証すべく、本検証実験は、閃光放電ランプ10を1本だけ搭載した場合と、30本搭載した場合とで行った。
【0069】
カロリーメータ40は、図4Aに示すように、受光部40aの中心40cと、発光管11の管軸11aとがZ方向において対向するように配置され、Y方向に移動させながら測定を行う。なお、閃光放電ランプ10を30本搭載した場合は、Y方向に配列された閃光放電ランプ10の-Y側から数えて16番目の、カロリーメータ40の受光部40aの中心40cとが対向するように配置して行った。
【0070】
カロリーメータ40は、Ophir社製のL30Aを用いた。発光管11とカロリーメータ40の受光部40aとの離間距離は、30mm、60mm、100mmとして、それぞれで照射エネルギー分布の測定を行った。
【0071】
放電用コンデンサ2の容量値は、400μFとし、始動開始直前において一対の放電電極(12p,12n)間に印加する電圧は、2.7kVとした。これにより、閃光放電ランプ10それぞれに対して、1458Jのエネルギーが投入されることとなり、当該エネルギーに応じた光L1が発せられる。
【0072】
(結果)
図5A図5Cは、閃光放電ランプ10を1本搭載した場合における照射エネルギー分布を示すグラフであり、図6A図6Cは、閃光放電ランプ10を30本搭載した場合における照射エネルギー分布を示すグラフである。図5A図5Cに示すように、実施例1と比較例1を対比すると、実施例1の方が、特に、ランプ中心付近において、照射エネルギーが高くなっていることが確認される。また、同様に、実施例2と比較例2を対比すると、実施例2の方が、特に、ランプ中心付近において、照射エネルギーが高くなっていることが確認される。
【0073】
さらに、図6A図6Cに示すように、実施例1と比較例1を対比すると、実施例1の方が、特に、Y方向の±150mmのほぼ範囲全体にわたって、照射エネルギーが高くなっていることが確認される。また、同様に、実施例2と比較例2を対比すると、実施例2の方が、特に、ランプ中心付近において、照射エネルギーが高くなっていることが確認される。なお、照射エネルギーの最大値は、下記表1のとおりとなった。
【0074】
【表1】
【0075】
以上より、上記構成の閃光照射装置1とすることで、発光管11から発せられた光L1は、トリガ電極(14p,14n)に遮られにくくなり、反射部材20、及びワークW1に到達しやすくなる。したがって、上記構成の閃光照射装置1は、発光管11から発せられる光L1のエネルギー損失が抑制されるため、従来の閃光照射装置に比べて、より高い照射エネルギーの光L1をワークW1に対して照射することができる。
【0076】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0077】
〈1〉 図7は、閃光照射装置1の別実施形態をY方向に見たときの模式な図面である。閃光照射装置1は、図7に示すように、一対のトリガ電極(14p,14n)のそれぞれの端部(14a,14a)が、X方向に関し、一対の放電電極(12p,12n)に挟まれた領域の外側に位置するように配置されていても構わない。当該構成によれば、放電電極(12p,12n)の間の領域について、Z方向に関しては、光L1がトリガ電極(14p,14n)によって遮られなくなり、ワークW1の主面W1aに照射される光L1の照射エネルギーがより高められる。
【0078】
図8は、図7とは別の閃光照射装置1の別実施形態をY方向に見たときの模式な図面である。閃光照射装置1は、図8に示すように、一対のトリガ電極(14p,14n)のそれぞれの端部(14a,14a)を封止する、管体(13p,13n)を備えていても構わない。当該構成によれば、反射部材20側に向かって進行する光が、管体(13p,13n)を透過することなくワークW1にまで到達する光L1の量が増加する。したがって、当該構成の閃光照射装置1は、より高い照射エネルギーの光をワークW1に照射することができる。
【0079】
〈2〉 上述した閃光照射装置1及び閃光放電ランプ10が備える構成は、あくまで一例であり、本発明は、図示された各構成に限定されない。
【符号の説明】
【0080】
1 : 閃光照射装置
2 : 放電用コンデンサ
3 : インダクタ
4 : 第一スイッチング素子
5 : 制御部
6 : トランス
7 : トリガ用コンデンサ
8 : 第二スイッチング措置
10 : 閃光放電ランプ
11 : 発光管
11a : 管軸
11b : 外壁面
12n,12p : 放電電極
13,13n,13p,13s : 管体
14n,14p,14s : トリガ電極
15 : 制御部
20 : 反射部材
21 : 反射面
22 : 観測用穴
23 : 受光素子
30 : 支持台
30a : ピン
40 : カロリーメータ
40a : 受光部
40c : 中心
C1 : 点灯回路
C2 : トリガ回路
L1 : 光
L2 : 放射光
W1 : ワーク
W1a : 主面
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8