(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081881
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】ヘッドチップ、液体噴射ヘッド、液体噴射記録装置、及びヘッドチップの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240612BHJP
B41J 2/16 20060101ALI20240612BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B41J2/14
B41J2/14 613
B41J2/16 503
B41J2/01 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195411
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 遼
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056HA37
2C057AF65
2C057AN01
2C057AP25
2C057AP90
(57)【要約】
【課題】接着強度の低下を抑制する。
【解決手段】ヘッドチップは、複数の部材を備える。複数の部材のうち互いに接着される2つの部材を第1部材101及び第2部材102とする。ヘッドチップは、第1部材101において第2部材102が接着される第1部材側接着面101fに下地として形成される下地接着層111と、下地接着層111と第2部材102との間に形成される本接着層112と、を備える。下地接着層111の未硬化時の粘度は、本接着層112の未硬化時の粘度よりも低い。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材を備え、
前記複数の部材のうち互いに接着される2つの部材を第1部材及び第2部材とし、
前記第1部材において前記第2部材が接着される接着面に下地として形成される下地接着層と、
前記下地接着層と前記第2部材との間に形成される本接着層と、を備え、
前記下地接着層の未硬化時の粘度は、前記本接着層の未硬化時の粘度よりも低い、
ヘッドチップ。
【請求項2】
前記下地接着層は、前記下地接着層において前記本接着層が形成される面に、平坦面を有する、
請求項1に記載のヘッドチップ。
【請求項3】
前記下地接着層は、前記下地接着層において前記本接着層が形成される面に、湾曲又は屈曲の形状を有する、
請求項1に記載のヘッドチップ。
【請求項4】
前記下地接着層は、前記下地接着層において前記本接着層が形成される面に、前記第2部材において前記本接着層が形成される部分が食い込む楔形状を有する、
請求項1から3の何れか一項に記載のヘッドチップ。
【請求項5】
前記下地接着層は、前記下地接着層において前記本接着層が形成される面に、前記本接着層の余剰部分が入り込む逃げ溝を有する、
請求項1から3の何れか一項に記載のヘッドチップ。
【請求項6】
前記下地接着層は、前記下地接着層において前記本接着層が形成される面に、前記第2部材を位置決めする凹部又は凸部を有する、
請求項1から3の何れか一項に記載のヘッドチップ。
【請求項7】
請求項1から3の何れか一項に記載のヘッドチップを備える、
液体噴射ヘッド。
【請求項8】
請求項7に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドが取り付けられるキャリッジと、を備える、
液体噴射記録装置。
【請求項9】
複数の部材を備えるヘッドチップの製造方法であって、
前記複数の部材のうち互いに接着される2つの部材を第1部材及び第2部材とし、
前記第1部材において前記第2部材が接着される接着面に下地として下地接着層を形成する第1工程と、
前記第1工程の後、前記下地接着層と前記第2部材との間に本接着層を形成する第2工程と、を含み、
前記第1工程では、押圧板を用いて前記下地接着層となる接着剤を前記第1部材の前記接着面に押し付ける、
ヘッドチップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、ヘッドチップ、液体噴射ヘッド、液体噴射記録装置、及びヘッドチップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基板と、基板に固定される圧電部材と、基板の表面の圧電部材が固定される領域に形成される第1接着剤層と、第1接着剤層と圧電部材との間に形成される第2接着剤層と、を備えるインクジェットヘッドが開示されている。第1接着剤層及び第2接着剤層は、互いに異なる色の接着剤で形成される。例えば、第1接着剤層は、第1の色の接着剤をスプレーによって塗布して形成される。圧電部材の基板への接着面には、第2接着剤層を形成する接着剤(第2の色の接着剤)が塗布される。この状態で、圧電部材を基板上の第1接着剤層の上に置き、互いに接着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、スプレーによる接着剤の塗布では、基板の表面の細かい凹凸が第1接着剤層によって十分に埋められない場合がある。例えば、基板の表面において高低差の大きい凹凸面では、凹凸面に沿った接着面が形成されてしまう可能性が高い。そのため、被接着部材同士の接着面積が減少し、接着強度が低下する可能性が高い。
【0005】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、接着強度の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の一態様に係るヘッドチップは、複数の部材を備え、前記複数の部材のうち互いに接着される2つの部材を第1部材及び第2部材とし、前記第1部材において前記第2部材が接着される接着面に下地として形成される下地接着層と、前記下地接着層と前記第2部材との間に形成される本接着層と、を備え、前記下地接着層の未硬化時の粘度は、前記本接着層の未硬化時の粘度よりも低い。
【0007】
本態様に係るヘッドチップによれば、下地接着層の未硬化時の粘度が本接着層の未硬化時の粘度以上に高い場合と比較して、第1部材において第2部材が接着される接着面の凹凸の奥まで下地接着層を入り込ませやすい。このため、被接着部材同士の接着面積が減少することを抑制することができる。したがって、接着強度の低下を抑制することができる。
【0008】
(2)(1)の態様のヘッドチップにおいて、前記下地接着層は、前記下地接着層において前記本接着層が形成される面に、平坦面を有してもよい。
【0009】
この構成によれば、下地接着層において本接着層が形成される面に凹凸がある場合と比較して、下地接着層と本接着層との界面に気泡が入りにくくなる。したがって、接着剤層に空洞ができることに起因する密着度の低下を抑制することができる。
【0010】
(3)(1)の態様のヘッドチップにおいて、前記下地接着層は、前記下地接着層において前記本接着層が形成される面に、湾曲又は屈曲の形状を有してもよい。
【0011】
この構成によれば、下地接着層において本接着層が形成される面が平坦面である場合と比較して、被接着部材同士の接着面積が増える。したがって、接着強度が更に向上する。
【0012】
(4)(1)から(3)の何れかの態様のヘッドチップにおいて、前記下地接着層は、前記下地接着層において前記本接着層が形成される面に、前記第2部材において前記本接着層が形成される部分が食い込む楔形状を有してもよい。
【0013】
この構成によれば、下地接着層が有する楔形状と第2部材において本接着層が形成される部分とのアンカー効果により、接着強度が向上する。加えて、単純な面同士(例えば平面同士)の接着構造と比較して、楔形状の表面積分だけ接着面積が増えるため、接着強度が更に向上する。
【0014】
(5)(1)から(4)の何れかの態様のヘッドチップにおいて、前記下地接着層は、前記下地接着層において前記本接着層が形成される面に、前記本接着層の余剰部分が入り込む逃げ溝を有してもよい。
【0015】
この構成によれば、本接着層の余剰部分が逃げ溝に入るため、本接着層のはみだし量を減少させることができる。加えて、下地接着層において本接着層が形成される面から逃げ溝への気泡の移動が許容されるため、下地接着層において本接着層が形成される面に気泡が残存することを抑制することができる。したがって、下地接着層において本接着層が形成される面に気泡を含むことによる接着強度の低下を抑制することができる。
【0016】
(6)(1)から(5)の何れかの態様のヘッドチップにおいて、前記下地接着層は、前記下地接着層において前記本接着層が形成される面に、前記第2部材を位置決めする凹部又は凸部を有してもよい。
【0017】
この構成によれば、下地接着層の凹部又は凸部により、第2部材の位置決めのために別のマークを用意する必要がなくなる。さらに、はめあいでの位置決めが可能となることによって、マークを手動で合わせる位置決めが不要となる。したがって、容易に正確な位置決めが可能となる。
【0018】
(7)本開示の一態様に係る液体噴射ヘッドは、(1)から(6)の何れかの態様のヘッドチップを備える。
【0019】
本態様に係る液体噴射ヘッドによれば、接着強度の低下を抑制できる液体噴射ヘッドが得られる。
【0020】
(8)本開示の一態様に係る液体噴射記録装置は、(7)の態様の液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドが取り付けられるキャリッジと、を備える。
【0021】
本態様に係る液体噴射記録装置によれば、接着強度の低下を抑制できる液体噴射記録装置が得られる。
【0022】
(9)本開示の一態様に係るヘッドチップの製造方法は、複数の部材を備えるヘッドチップの製造方法であって、前記複数の部材のうち互いに接着される2つの部材を第1部材及び第2部材とし、前記第1部材において前記第2部材が接着される接着面に下地として下地接着層を形成する第1工程と、前記第1工程の後、前記下地接着層と前記第2部材との間に本接着層を形成する第2工程と、を含み、前記第1工程では、押圧板を用いて前記下地接着層となる接着剤を前記第1部材の前記接着面に押し付ける。
【0023】
本態様に係るヘッドチップの製造方法によれば、押圧板を用いて下地接着層となる接着剤を第1部材の接着面に押し付けることにより、第1部材において第2部材が接着される接着面の凹凸の奥まで下地接着層を入り込ませることができる。このため、被接着部材同士の接着面積が減少することを抑制することができる。したがって、接着強度の低下を抑制することができる。加えて、押圧板の押し付ける面の形状を転写することができるため、下地接着層において本接着層が形成される面を所望の形状・状態にすることができる。このため、凹凸を有する第1部材の接着面に直接接着するよりも、接着強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成図である。
【
図2】第1実施形態に係るインクジェットヘッド及びインク循環手段の概略構成図である。
【
図3】第1実施形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視図である。
【
図4】第1実施形態に係るインクジェットヘッドの断面図である。
【
図5】第1実施形態に係るインクジェットヘッドの断面図である。
【
図7】第1実施形態に係る第1部材及び第2部材を接着する接着剤層の説明図である。
【
図8】第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法の第1工程の説明図である。
【
図9】第2実施形態に係るヘッドチップの製造方法の第1工程の説明図である。
【
図10】第3実施形態に係るヘッドチップの製造方法の第1工程の説明図である。
【
図11】
図10に続く、第3実施形態に係る第1工程の説明図である。
【
図12】第4実施形態に係るヘッドチップの製造方法の第1工程の説明図である。
【
図13】第5実施形態に係るヘッドチップの製造方法の第1工程の一例の説明図である。
【
図14】第5実施形態に係るヘッドチップの製造方法の第1工程の他の例の説明図である。
【
図15】第6実施形態に係る第1部材及び第2部材を接着する接着剤層の説明図である。
【
図16】第7実施形態に係る第1部材及び第2部材を接着する接着剤層の説明図である。
【
図17】第7実施形態に係る接着剤層のはみ出し部の説明図である。
【
図18】第8実施形態に係るヘッドチップの斜視図である。
【
図19】第8実施形態に係るヘッドチップの製造方法の一工程の斜視図である。
【
図20】第8実施形態に係るヘッドチップの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示に係る実施形態について図面を参照して説明する。実施形態では、本開示の液体噴射ヘッドチップ(以下、単に「ヘッドチップ」という。)を備えた液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置の一例として、インク(液体)を利用して被記録媒体に記録を行うインクジェットプリンタ(以下、単に「プリンタ」という。)を例に挙げて説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0026】
以下で説明する実施形態や変形例において、対応する構成については同一の符号を付して説明を省略する場合がある。また、以下の説明において、例えば「平行」や「直交」、「中心」、「同軸」等の相対的又は絶対的な配置を示す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差や同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
【0027】
<第1実施形態>
<プリンタ>
図1はプリンタ1の概略構成図である。
図1に示すように、本実施形態のプリンタ1は、一対の搬送手段2,3と、インクタンク4と、インクジェットヘッド5(液体噴射ヘッド)と、インク循環手段6と、走査手段7と、を備える。なお、以下の説明では、必要に応じてX,Y,Zの直交座標系を用いて説明する。X方向は、被記録媒体P(例えば、紙等)の搬送方向である。Y方向は、走査手段7の走査方向である。Z方向は、X方向及びY方向に直交する上下方向である。
【0028】
搬送手段2,3は、被記録媒体PをX方向に搬送する。具体的に、搬送手段2は、Y方向に延設されたグリットローラ11と、グリットローラ11に平行に延設されたピンチローラ12と、グリットローラ11を軸回転させるモータ等の駆動機構(不図示)と、を備える。搬送手段3は、Y方向に延設されたグリットローラ13と、グリットローラ13に平行に延設されたピンチローラ14と、グリットローラ13を軸回転させる駆動機構(不図示)と、を備える。
【0029】
インクタンク4は、一方向に並んで複数設けられている。実施形態において、複数のインクタンク4は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの四色のインクをそれぞれ収容するインクタンク4Y,4M,4C,4Kである。実施形態において、インクタンク4Y,4M,4C,4Kは、X方向に並んで配置されている。
【0030】
図2に示すように、インク循環手段6は、インクタンク4とインクジェットヘッド5との間でインクを循環させる。具体的に、インク循環手段6は、インク供給管21及びインク排出管22を有する循環流路23と、インク供給管21に接続された加圧ポンプ24と、インク排出管22に接続された吸引ポンプ25と、を備える。例えば、インク供給管21及びインク排出管22は、インクジェットヘッド5を支持する走査手段7の動作に追従可能な可撓性を有するフレキシブルホースにより構成されている。
【0031】
加圧ポンプ24は、インク供給管21内を加圧し、インク供給管21を通してインクジェットヘッド5にインクを送り出している。これにより、インクジェットヘッド5に対してインク供給管21側は正圧となっている。
吸引ポンプ25は、インク排出管22内を減圧し、インク排出管22内を通してインクジェットヘッド5からインクを吸引している。これにより、インクジェットヘッド5に対してインク排出管22側は負圧となっている。そして、インクは、加圧ポンプ24及び吸引ポンプ25の駆動により、インクジェットヘッド5とインクタンク4との間を、循環流路23を通して循環可能となっている。
【0032】
図1に示すように、走査手段7は、インクジェットヘッド5をY方向に往復走査させる。具体的に、走査手段7は、Y方向に延設された一対のガイドレール31,32と、一対のガイドレール31,32に移動可能に支持されたキャリッジ33と、キャリッジ33をY方向に移動させる駆動機構34と、を備える。なお、搬送手段2,3及び走査手段7は、インクジェットヘッド5と被記録媒体Pとを相対的に移動させる移動機構として機能する。
【0033】
駆動機構34は、X方向におけるガイドレール31,32の間に配設されている。駆動機構34は、Y方向に間隔をあけて配設された一対のプーリ35,36と、一対のプーリ35,36間に巻回された無端ベルト37と、一方のプーリ35を回転駆動させる駆動モータ38と、を備える。
【0034】
キャリッジ33は、無端ベルト37に連結されている。キャリッジ33には、複数のインクジェットヘッド5が搭載されている。実施形態において、複数のインクジェットヘッド5は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの四色のインクをそれぞれ吐出するインクジェットヘッド5Y,5M,5C,5Kである。実施形態において、インクジェットヘッド5Y,5M,5C,5Kは、Y方向に並んで配置されている。
【0035】
<インクジェットヘッド>
図3に示すように、インクジェットヘッド5は、一対のヘッドチップ40A,40Bと、流路プレート41と、入口マニホールド42と、出口マニホールド(不図示)と、帰還プレート43と、ノズルプレート44(噴射プレート)と、を備える。インクジェットヘッド5は、吐出チャネル54におけるチャネル延在方向の先端部からインクを吐出する、いわゆるエッジシュートタイプのうち、インクタンク4との間でインクを循環させる循環式(エッジシュート循環式)のものである。
【0036】
<ヘッドチップ>
一対のヘッドチップ40A,40Bは、第1ヘッドチップ40Aおよび第2ヘッドチップ40Bである。以下、第1ヘッドチップ40Aを中心に説明する。第2ヘッドチップ40Bにおいて、第1ヘッドチップ40Aと同一の構成には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
第1ヘッドチップ40Aは、アクチュエータプレート51と、カバープレート52と、を備える。
【0037】
<アクチュエータプレート>
アクチュエータプレート51の外形は、X方向に長手を有しかつZ方向に短手を有する矩形板状をなしている。実施形態において、アクチュエータプレート51は、分極方向が厚さ方向(Y方向)で異なる2枚の圧電基板を積層した、いわゆるシェブロンタイプの積層基板である(
図6参照)。例えば、圧電基板は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等からなるセラミックス基板が好適に用いられる。
【0038】
アクチュエータプレート51のY方向における第1主面(アクチュエータプレート側第1主面)には、複数のチャネル54,55が形成されている。実施形態において、アクチュエータプレート側第1主面は、アクチュエータプレート51のY方向内側面51f1(以下「AP側Y方向内側面51f1」という。)である。ここで、Y方向内側は、インクジェットへッド5のY方向中心側(Y方向において流路プレート41の側)を意味する。実施形態において、アクチュエータプレート側第2主面は、アクチュエータプレート51のY方向外側面(図中符号51f2で示す。)である。
【0039】
各チャネル54,55は、Z方向(第1方向)に延びる直線状に形成されている。各チャネル54,55は、X方向(第2方向)に間隔をあけて交互に形成されている。各チャネル54,55間は、アクチュエータプレート51からなる駆動壁56によってそれぞれ画成されている。一方のチャネル54は、インクが充填される吐出チャネル54(噴射チャネル)である。他方のチャネル55は、インクが充填されない非吐出チャネル55(非噴射チャネル)である。
【0040】
図4は、第1ヘッドチップ40Aにおける吐出チャネル54の断面を含む図である。
図4に示すように、吐出チャネル54は、下端部に位置する延在部54aと、延在部54aから上方に連なる切り上がり部54bと、を有している。
延在部54aは、Z方向の全体に亘って溝深さが一様とされている。切り上がり部54bは、上方に向かうに従い溝深さが漸次浅くなっている。
【0041】
図3に示すように、非吐出チャネル55の上端部は、アクチュエータプレート51の上端面で開口している。非吐出チャネル55の下端部は、アクチュエータプレート51の下端面で開口している。
【0042】
図5は、第1ヘッドチップ40Aにおける非吐出チャネル55の断面を含む図である。
図5に示すように、非吐出チャネル55は、下端部に位置する延在部55aと、延在部55aから上方に連なる切り上がり部55bと、を有している。
延在部55aは、Z方向の全体に亘って溝深さが一様とされている。切り上がり部55bは、上方に向かうに従い溝深さが漸次浅くなっている。
【0043】
図4に示すように、吐出チャネル54の内面には、共通電極61が形成されている。アクチュエータプレート51のうち、吐出チャネル54に対して上方に位置する部分51e(以下「AP側尾部51e」という。)のY方向内側面には、アクチュエータプレート側共通パッド62(以下「AP側共通パッド62」という。)が形成されている。AP側共通パッド62は、共通電極61に連続している。
図3に示すように、AP側共通パッド62は、AP側尾部51eのY方向内側面上でX方向に間隔をあけて複数配置されている。
【0044】
図5に示すように、非吐出チャネル55の内面には、個別電極63が形成されている。
図6に示すように、個別電極63は、非吐出チャネル55の内面のうち、X方向で対向する内側面に各別に形成されている。したがって、各個別電極63のうち、同一の非吐出チャネル55内で対向する個別電極63同士は、非吐出チャネル55の底面において電気的に分離されている。個別電極63は、非吐出チャネル55の内側面全体(Y方向及びZ方向の全体)に亘って形成されている。
【0045】
図5に示すように、AP側尾部51eのY方向内側面には、アクチュエータプレート側個別配線64(以下「AP側個別配線64」という。)が形成されている。
図3に示すように、AP側個別配線64は、AP側尾部51eのY方向内側面のうちAP側共通パッド62よりも上方に位置する部分をX方向に延在している。AP側個別配線64は、吐出チャネル54を間に挟んで対向する個別電極63同士を接続している。
【0046】
<カバープレート>
図3に示すように、カバープレート52の外形は、X方向に長手を有しかつZ方向に短手を有する矩形板状をなしている。カバープレート52のうち、AP側Y方向内側面51f1と対向する第1主面(カバープレート側第1主面)は、AP側Y方向内側面51f1に接合されている。実施形態において、カバープレート側第1主面は、カバープレート52のY方向外側面52f1(以下「CP側Y方向外側面52f1」という。)である。ここで、Y方向外側は、インクジェットへッド5のY方向中心側とは反対側(Y方向において流路プレート41の側とは反対側)を意味する。実施形態において、カバープレート側第2主面は、カバープレート52のY方向内側面52f2(以下「CP側Y方向内側面52f2」という。)である。
【0047】
カバープレート52には、カバープレート52をY方向(第3方向)に貫通するとともに、吐出チャネル54に連通する液体供給路70が形成されている。液体供給路70は、カバープレート52をY方向内側に開口する共通インク室71と、共通インク室71に連通するとともにY方向外側に開口しかつX方向に間隔をあけて配置された複数のスリット72と、を含む。共通インク室71は、スリット72を通して各吐出チャネル54内に各別に連通している。一方、共通インク室71は、非吐出チャネル55には連通していない。
【0048】
図4に示すように、カバープレート52において、液体供給路70の内面には共通電極65(以下「液体供給路内電極65」という。)が形成されている。CP側Y方向外側面52f1におけるスリット72の周囲には、カバープレート側共通パッド66(以下「CP側共通パッド66」という。)が形成されている。CP側Y方向内側面52f2における共通インク室71の周囲には、共通引出配線67が形成されている。
図3に示すように、カバープレート52の上端には、カバープレート52のZ方向内側に窪むとともに、X方向に間隔をあけて配置された複数の凹部73が形成されている。
【0049】
図4に示すように、共通引出配線67は、カバープレート52のうち、アクチュエータプレート51に対して上方に位置する部分52e(以下「CP側尾部52e」という。)のY方向外側面まで引き出されている。これにより、複数の吐出チャネル54の内面に形成された共通電極61は、AP側共通パッド62、CP側共通パッド66、液体供給路内電極65および共通引出配線67を経て、共通端子68においてフレキシブル基板45(外部配線)と電気的に接続される。実施形態において、共通引出配線67及び液体供給路内電極65は、共通電極61とフレキシブル基板45とを接続する接続配線60を構成している。
【0050】
カバープレート52には、カバープレート側個別配線69(以下「CP側個別配線69」という。)が形成されている。CP側個別配線69は、アクチュエータプレート51とカバープレート52とを接合したときにおけるAP側個別配線64に対応する位置に配置されたカバープレート側個別パッド69a(以下「CP側個別パッド69a」という。)と、CP側個別パッド69aから上側ほどX方向外方に位置するように傾斜した後に上方に直線状に延びて形成された個別端子69bと、を備える。
【0051】
個別端子69bは、CP側尾部52eのY方向外側面の上端まで延出している。これにより、複数の非吐出チャネル55の内面に形成された個別電極63は、AP側個別配線64およびCP側個別パッド69aを経て、個別端子69bにおいてフレキシブル基板45(
図5参照)と電気的に接続される。実施形態において、CP側尾部52eのY方向外側面は、フレキシブル基板45が接続される接続面とされている。
【0052】
<流路プレート>
流路プレート41は、第1ヘッドチップ40Aと第2ヘッドチップ40BとのY方向間に挟持されている。
図3に示すように、流路プレート41の外形は、X方向に長手を有しかつZ方向に短手を有する矩形板状をなしている。流路プレート41のY方向における第1主面41f1(第1ヘッドチップ40A側を向く面)には、第1ヘッドチップ40AにおけるCP側Y方向内側面52f2が接合されている。流路プレート41のY方向における第2主面41f2(第2ヘッドチップ40B側を向く面)には、第2ヘッドチップ40BにおけるCP側Y方向内側面52f2が接合されている。
【0053】
流路プレート41の各主面41f1,41f2には、共通インク室71に各別に連通する入口流路74と、帰還プレート43の循環路76に各別に連通する出口流路75と、が形成されている。流路プレート41は、入口流路74と出口流路75とがZ方向に並ぶように形成されている。
【0054】
各入口流路74は、共通インク室71にインクを流入させる前に一時的にインクを貯蔵する入口液体貯蔵部74sを含む。
図3に示すように、入口液体貯蔵部74sは、上下幅を一定に維持して流路プレート41の上下中央部をX方向に直線状に延在している。
図4に示すように、流路プレート41には、入口流路74をY方向における第1ヘッドチップ40A側と第2ヘッドチップ40B側とに仕切る入口流路仕切り壁41aが設けられている。
【0055】
出口流路75は、流路プレート41のX方向の他端面において図示しない出口マニホールドに接続されている。出口マニホールドは、インク排出管22(
図1参照)に接続されている。各出口流路75は、循環路76から流出したインクを一時的に貯蔵する出口液体貯蔵部75sを含む。
図3に示すように、出口液体貯蔵部75sは、上下幅を一定に維持して流路プレート41の下端部をX方向に直線状に延在している。
【0056】
図4に示すように、流路プレート41には、出口流路75をY方向における第1ヘッドチップ40A側と第2ヘッドチップ40B側とに仕切る出口流路仕切り壁41bが設けられている。
図4の断面視で、流路プレート41のうち、CP側尾部52eとY方向で重なる部分には、入口流路74及び出口流路75が形成されていない。すなわち、流路プレート41のうち、CP側尾部52eとY方向で重なる部分は、中実部材41cとされている。
【0057】
<入口マニホールド>
図3に示すように、入口マニホールド42は、各ヘッドチップ40A,40B及び流路プレート41のX方向の一端面にまとめて接合されている。入口マニホールド42には、各入口流路74に連通する供給路77が形成されている。入口マニホールド42は、インク供給管21(
図1参照)に接続されている。
【0058】
<帰還プレート>
帰還プレート43の外形は、X方向に長手を有しかつY方向に短手を有する矩形板状をなしている。帰還プレート43は、各ヘッドチップ40A,40B及び流路プレート41の下端面にまとめて接合されている。帰還プレート43には、各ヘッドチップ40A,40Bの吐出チャネル54と出口流路75との間を接続する複数の循環路76が形成されている。複数の循環路76は、第1循環路76a及び第2循環路76bを含む。複数の循環路76は、帰還プレート43をZ方向に貫通している。
【0059】
図4に示すように、第1循環路76aは、Y方向に延在している。第1循環路76aにおけるY方向の内側端部は、出口流路75内に連通している。第1循環路76aにおけるY方向の外側端部は、第1ヘッドチップ40Aの吐出チャネル54内に各別に連通している。
【0060】
図5に示すように、第2循環路76bは、Y方向に延在している。第2循環路76bにおけるY方向の内側端部は、出口流路75内に連通している。第2循環路76bにおけるY方向の外側端部は、第2ヘッドチップ40Bの吐出チャネル54内に各別に連通している。
【0061】
<ノズルプレート>
図3に示すように、ノズルプレート44の外形は、X方向に長手を有しかつY方向に短手を有する矩形板状をなしている。ノズルプレート44は、帰還プレート43の下端面に接合されている。ノズルプレート44には、ノズルプレート44をZ方向に貫通する複数のノズル孔78(噴射孔)が配列されている。複数のノズル孔78は、第1ノズル孔78a及び第2ノズル孔78bを含む。
【0062】
図4に示すように、各第1ノズル孔78aは、第1循環路76aを介して第1ヘッドチップ40Aの対応する吐出チャネル54にそれぞれ連通している。
図5に示すように、各第2ノズル孔78bは、第2循環路76bを介して第2ヘッドチップ40Bの対応する吐出チャネル54にそれぞれ連通している。
一方、各非吐出チャネル55は、ノズル孔78a,78bには連通しておらず、帰還プレート43により下方から覆われている。
【0063】
<接着剤層>
図7は、第1実施形態に係る第1部材101及び第2部材102を接着する接着剤層110の説明図である。
図7を併せて参照し、ヘッドチップ40A,40Bは、吐出チャネル54(液体が通過するチャネルに相当)を有するアクチュエータプレート51を含む複数の部材を備える。複数の部材のうち互いに接着される2つの部材を第1部材101及び第2部材102とする。ヘッドチップ40A,40Bは、第1部材101と第2部材102との間に接着剤層110を備える。
【0064】
接着剤層110は、第1部材101において第2部材102が接着される接着面101fに下地として形成される下地接着層111と、下地接着層111と第2部材102との間に形成される本接着層112と、を備える。接着剤層110は、下地接着層111の上に本接着層112が積層されることで形成されている。下地接着層111の未硬化時の粘度は、本接着層112の未硬化時の粘度よりも低い。
【0065】
例えば、接着剤層110は、熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂等の樹脂材料で形成されていてもよい。例えば、下地接着層111は、エポキシ系接着剤等で形成されているとよい。例えば、本接着層112は、アクリル系接着剤等で形成されていてもよい。なお、下地接着層111及び本接着層112の形成材料は、上記に限定されない。例えば、下地接着層111及び本接着層112の形成材料は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0066】
図7の例では、第1部材101において第2部材102が接着される接着面101f(以下「第1部材側接着面101f」ともいう。)を示している。
図7では、第1部材側接着面101f上にある細かい凹凸を誇張して示しており、符号101aは凹部の一例を、符号101bは凸部の一例を示している。なお、
図7では対比のために、第1部材側接着面101fが平坦であったと仮想した場合の仮想線101vを2点鎖線で示している。ここで、下地接着層111は、第1部材側接着面101fの凹凸の奥(凹部101a内)まで入り込んでいる。下地接着層111は、第1部材側接着面101fを全体的に隙間なく覆っている。
【0067】
下地接着層111は、下地接着層111において本接着層112が形成される面(下地接着層111の上面に相当)に、平坦面111fを有する。
【0068】
下地接着層111の上面(平坦面111f)は、第2部材102において第1部材101が接着される接着面(以下「第2部材側接着面102f」ともいう。第2部材102の下面に相当)に対して全体的に平行な平面となっている。下地接着層111の上面は、第1部材側接着面101f上にある凹凸の上端(凸部101bの最上端)を面内に有する平面状に形成されている。
【0069】
本接着層112は、第2部材102の下面(第2部材側接着面102fに相当)と下地接着層111の上面(平坦面111f)との間に介在している。本接着層112は、第2部材側接着面102fを全体的に隙間なく覆っている。本接着層112は、下地接着層111の上面(平坦面111f)を全体的に隙間なく覆っている。下地接着層111と本接着層112との界面103は、第1部材側接着面101f上にある凹凸の上端(凸部101bの最上端)を面内に有する。界面103は、下地接着層111と本接着層112とが互いに接している境界を意味する。
【0070】
<プリンタの動作方法>
次に、プリンタ1を利用して、被記録媒体Pに文字や図形等を記録する場合のプリンタ1の動作方法について説明する。
なお、初期状態として、
図1に示す4つのインクタンク4にはそれぞれ異なる色のインクが十分に封入されているものとする。また、インクタンク4内のインクがインク循環手段6を介してインクジェットヘッド5内に充填された状態となっている。
【0071】
図1に示すように、初期状態のもと、プリンタ1を作動させると、搬送手段2,3のグリットローラ11,13が回転することで、これらグリットローラ11,13及びピンチローラ12,14間に被記録媒体Pを搬送方向(X方向)に向けて搬送する。また、被記録媒体Pの搬送と同時に、駆動モータ38がプーリ35,36を回転させて無端ベルト37を動かす。これにより、キャリッジ33がガイドレール31,32にガイドされながらY方向に往復移動する。
そして、キャリッジ33の往復移動の間に、各インクジェットヘッド5より4色のインクを被記録媒体Pに適宜吐出させることで、被記録媒体Pに文字や画像等の記録を行うことができる。
【0072】
ここで、各インクジェットヘッド5の動きについて説明する。
本実施形態のようなエッジシュートタイプのうち、縦循環式のインクジェットヘッド5では、まず
図2に示す加圧ポンプ24及び吸引ポンプ25を作動させることで、循環流路23内にインクを流通させる。この場合、インク供給管21を流通するインクは、
図3に示す入口マニホールド42の供給路77を通り、流路プレート41の各入口流路74内に流入する。各入口流路74内に流入したインクは、各共通インク室71を通過した後、スリット72を通って各吐出チャネル54内に供給される。各吐出チャネル54内に流入したインクは、帰還プレート43の循環路76を通して出口流路75内で集合し、その後図示しない出口マニホールドを通して
図2に示すインク排出管22に排出される。インク排出管22に排出されたインクは、インクタンク4に戻された後、再びインク供給管21に供給される。これにより、インクジェットヘッド5とインクタンク4との間でインクを循環させる。
【0073】
そして、キャリッジ33(
図1参照)によって往復移動が開始されると、フレキシブル基板45を介して各電極61,63に駆動電圧を印加する。この際、個別電極63を駆動電位Vddとし、共通電極61を基準電位GNDとして各電極61,63間に駆動電圧を印加する。すると、吐出チャネル54を画成する2つ駆動壁56に厚み滑り変形が生じ、これら2つの駆動壁56が非吐出チャネル55側へ突出するように変形する。すなわち、本実施形態のアクチュエータプレート51は、厚さ方向(Y方向)に分極処理された2枚の圧電基板が積層されているため、駆動電圧を印加することで、駆動壁56におけるY方向の中間位置を中心にしてV字状に屈曲変形する。これにより、吐出チャネル54があたかも膨らむように変形する。
【0074】
2つの駆動壁56の変形によって、吐出チャネル54の容積が増大すると、共通インク室71内のインクがスリット72を通って吐出チャネル54内に誘導される。そして、吐出チャネル54の内部に誘導されたインクは、圧力波となって吐出チャネル54の内部に伝搬し、この圧力波がノズル孔78に到達したタイミングで、各電極61,63間に印加した駆動電圧をゼロにする。
これにより、駆動壁56が復元し、一旦増大した吐出チャネル54の容積が元の容積に戻る。この動作によって、吐出チャネル54の内部の圧力が増加し、インクが加圧される。その結果、インクをノズル孔78から吐出させることができる。この際、インクはノズル孔78を通過する際に、液滴状のインク滴となって吐出される。これにより、上述したように被記録媒体Pに文字や画像等を記録することができる。
【0075】
なお、インクジェットヘッド5の動作方法は上述した内容に限られない。例えば、通常状態の駆動壁56が吐出チャネル54の内側に変形し、吐出チャネル54があたかも内側に凹むように構成しても構わない。この場合は、各電極61,63間に印可する電圧を上述した電圧とは正負逆の電圧にするか、電圧の正負は変えずにアクチュエータプレート51の分極方向を逆にすることで実現可能である。また、吐出チャネル54が外側に膨らむように変形させた後で、吐出チャネル54が内側に凹むように変形させ、吐出時のインクの加圧力を高めても構わない。
【0076】
<ヘッドチップの製造方法>
本実施形態のヘッドチップの製造方法は、吐出チャネル54を有するアクチュエータプレート51を含む複数の部材を備えるヘッドチップの製造方法であって、複数の部材のうち互いに接着される2つの部材を第1部材101及び第2部材102とし、第1部材101において第2部材102が接着される第1部材側接着面101fに下地として下地接着層111を形成する第1工程と、第1工程の後、下地接着層111と第2部材102との間に本接着層112を形成する第2工程と、を含み、第1工程では、押圧板120を用いて下地接着層111となる接着剤を第1部材101の接着面に押し付ける。
なお、ヘッドチップの製造方法は、上述した各ヘッドチップ40A,40Bともに同様の方法により行うことが可能である。
【0077】
ヘッドチップの製造方法は、第1部材101及び第2部材102を準備する部材準備工程と、第1部材101及び第2部材102を互いに接着する部材接着工程と、を含む。
【0078】
部材準備工程では、上述したアクチュエータプレート51等を含む複数の部材(第1部材101及び第2部材102)を準備する。例えば、アクチュエータプレート51、カバープレート52及び流路プレート41の少なくとも一つが第1部材101に相当し、帰還プレート43が第2部材102に相当する(側面-平面での接着)。例えば、アクチュエータプレート51、カバープレート52及び流路プレート41の少なくとも一つの側面(表面)をダイサー等で削る場合は、表面が粗くなるため、第1部材101の接着面に凹凸ができることになる。なお、アクチュエータプレート51が第1部材101に相当する場合は、カバープレート52が第2部材102に相当してもよい(平面同士の接着)。部材準備工程の後、部材接着工程に移行する。
【0079】
部材接着工程では、上述した接着剤層110により、第1部材101及び第2部材102を互いに接着する。部材接着工程は、第1部材側接着面101fに下地接着層111を形成する第1工程と、下地接着層111と第2部材102との間に本接着層112を形成する第2工程と、を含む。
【0080】
図8は、第1実施形態に係るヘッドチップの製造方法の第1工程の説明図である。
図8を併せて参照し、第1工程では、押圧板120を用いて下地接着層111となる接着剤(以下「下地接着剤」ともいう。)を第1部材側接着面101fに押し付ける。押圧板120は、スプレー等による塗布では平坦化できないような高低差のある第1部材側接着面101f上の凹凸に対して、接着に適した接着面を形成するための板部材である。本実施形態では、接着に適した接着面が平坦面111fである。そのため、押圧板120は、平坦面111fに沿う平面状の転写面120fを有する。
【0081】
第1工程では、第1部材側接着面101f上の凹凸を埋める程度の下地接着剤の塗布後に、平面状の転写面120fを有する押圧板120を、下地接着剤の上方(
図8の矢印方向)から押し付ける。その後、押圧板120を下地接着剤から離反させる。例えば、押圧板120を離反するタイミング(工程)は、以下の(1)から(3)が挙げられる。
(1)下地接着剤塗布→押圧板押し付け→押圧板離反(下地接着剤は未硬化の状態)
これにより、本接着剤とのなじみを良くできる。
(2)下地接着剤塗布→押圧板押し付け→下地接着剤仮硬化→押圧板離反
これにより、下地接着層の接着面形状の転写性が高くなり、本接着剤とのなじみを良くできる。
(3)下地接着剤塗布→押圧板押し付け→下地接着剤完全硬化→押圧板離反
これにより、下地接着層の接着面形状の転写性が高くなる。
【0082】
例えば、押圧板120は、下地接着剤に対して離型性があるポリテトラフルオロエチレンやガラス等の材料で形成されている。例えば、下地接着剤の形成材料がエポキシ系接着剤である場合は、押圧板120の形成材料はポリテトラフルオロエチレンであることが好ましい。例えば、押圧板120の形成材料は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0083】
本実施形態では、下地接着剤の粘度(下地接着層111の未硬化時の粘度に相当)は、本接着層112となる接着剤(以下「本接着剤」ともいう。)の粘度(本接着層112の未硬化時の粘度に相当)よりも低い。このため、下地接着剤の粘度が本接着剤の粘度以上に高い場合と比較して、第1工程において第1部材側接着面101f上の凹凸の奥まで下地接着剤を入り込ませやすい。
【0084】
その後、第1部材側接着面101fに塗布された下地接着剤を、加熱や紫外線照射等で硬化させる。これにより、第1部材側接着面101fに下地接着層111が形成される。第1工程の後、第2工程に移行する。なお、下地接着剤は未硬化の状態で第2工程に移行することもある。
【0085】
第2工程では、下地接着層111と第2部材102との間に本接着層112を形成する。第2工程では、先ず、本接着剤を下地接着層111の上面(平坦面111f)に塗布する。次に、本接着剤を介して下地接着層111の上面に第2部材102を配置する。その後、下地接着層111と第2部材102との間の本接着剤を、加熱や紫外線照射等で硬化させる。これにより、下地接着層111と第2部材102との間に本接着層112が形成される。すなわち、接着剤層110(下地接着層111及び本接着層112)を介して、第1部材101及び第2部材102が互いに接着される。なお、第2工程では、本接着剤だけでなく、下地接着剤も一緒に硬化することもある。
以上の工程により、ヘッドチップが得られる。
【0086】
なお、第2工程の前に、第2部材102において第1部材101が接着される接着面(第2部材側接着面102f)に下地接着層111を形成してもよい。例えば、第1工程と同様、押圧板120を用いて下地接着剤を第2部材側接着面102fに押し付けてもよい。これにより、下地接着層111(2層)及び本接着層112を介して、第1部材101及び第2部材102を互いに接着することができる。例えば、第2部材側接着面102fに対する下地接着層111の設置態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0087】
例えば、第1工程及び第2工程は、インクジェットヘッドの製造方法に適用してもよい。例えば、インクジェットヘッドの製造方法は、上述したアクチュエータプレートを含む複数の部材を備えるインクジェットヘッドの製造方法であって、複数の部材のうち互いに接着される2つの部材を第1部材101及び第2部材102とし、第1部材101において第2部材102が接着される接着面に下地として下地接着層111を形成する第1工程と、第1工程の後、下地接着層111と第2部材102との間に本接着層112を形成する第2工程と、を含み、第1工程では、押圧板120を用いて下地接着層111となる接着剤を第1部材101の接着面に押し付けてもよい。
【0088】
例えば、アクチュエータプレート51を第1部材101とし、帰還プレート43を第2部材102としてもよい。例えば、アクチュエータプレート51と帰還プレート43とを互いに接着する前に、アクチュエータプレート51をダイシングソーで切断する場合がある。この場合、アクチュエータプレート51の表面(切断面)は、JIS(JIS B 0601、ISO 25178)で定義される算術平均粗さ(Ra)が非常に大きい。そのため、アクチュエータプレート51の表面(切断面)は、周期や高さ、形状がばらついている粗面となる可能性が高い。また、アクチュエータプレート51の表面(粗面)をグラインダー等で研磨することも困難である。特に、アクチュエータプレート51がPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等からなるセラミックス基板で構成される場合は、研磨などでアクチュエータプレート51の表面を平滑化することは極めて困難である。
【0089】
例えば、アクチュエータプレート51の表面(粗面)に対してスプレーによる接着剤の塗布を行った場合は、アクチュエータプレート51表面の細かい凹凸が接着剤によって十分に埋められない場合がある。例えば、アクチュエータプレート51表面において高低差の大きい凹凸面では、凹凸面に沿った接着面が形成されてしまう可能性が高い。そのため、被接着部材同士(アクチュエータプレート51及び帰還プレート43)の接着面積が減少し、接着強度が低下する可能性が高い。
【0090】
これに対し本製造方法によれば、アクチュエータプレート51の表面(切断面)が上記の粗面となっている場合であっても、上述した押圧板120を用いて下地接着層111となる接着剤をアクチュエータプレート51の表面(第1部材側接着面101fに相当)に押し付けることで、アクチュエータプレート51の表面の凹凸の奥まで下地接着層111を入り込ませることができる。このため、被接着部材同士(アクチュエータプレート51及び帰還プレート43)の接着面積が減少することを抑制することができる。したがって、接着強度の低下を抑制する上で実益が大きい。
【0091】
<作用効果>
本実施形態のヘッドチップ40A,40Bは、吐出チャネル54を有するアクチュエータプレート51を含む複数の部材を備える。複数の部材のうち互いに接着される2つの部材を第1部材101及び第2部材102とする。ヘッドチップ40A,40Bは、第1部材101において第2部材102が接着される第1部材側接着面101fに下地として形成される下地接着層111と、下地接着層111と第2部材102との間に形成される本接着層112と、を備える。下地接着層111の未硬化時の粘度は、本接着層112の未硬化時の粘度よりも低い。
【0092】
この構成によれば、下地接着層111の未硬化時の粘度が本接着層112の未硬化時の粘度以上に高い場合と比較して、第1部材側接着面101fの凹凸の奥まで下地接着層111を入り込ませやすい。このため、被接着部材101,102同士の接着面積が減少することを抑制することができる。したがって、接着強度の低下を抑制することができる。
【0093】
本実施形態の下地接着層111は、下地接着層111において本接着層112が形成される面に、平坦面111fを有する。
この構成によれば、下地接着層111において本接着層112が形成される面に凹凸がある場合と比較して、下地接着層111と本接着層112との界面103に気泡が入りにくくなる。したがって、接着剤層110に空洞ができることに起因する密着度の低下を抑制することができる。
【0094】
本実施形態のインクジェットヘッド5は、上述したヘッドチップ40A,40Bを備える。
この構成によれば、接着強度の低下を抑制できるインクジェットヘッド5が得られる。
【0095】
本実施形態のプリンタ1は、上述したインクジェットヘッド5と、インクジェットヘッド5が取り付けられるキャリッジ33と、を備える。
この構成によれば、接着強度の低下を抑制できるプリンタ1が得られる。
【0096】
本実施形態のヘッドチップの製造方法は、吐出チャネル54を有するアクチュエータプレート51を含む複数の部材を備えるヘッドチップの製造方法である。複数の部材のうち互いに接着される2つの部材を第1部材101及び第2部材102とする。ヘッドチップの製造方法は、第1部材101において第2部材102が接着される第1部材側接着面101fに下地として下地接着層111を形成する第1工程と、第1工程の後、下地接着層111と第2部材102との間に本接着層112を形成する第2工程と、を含む。第1工程では、押圧板120を用いて下地接着層111となる下地接着剤を第1部材側接着面101fに押し付ける。
【0097】
この方法によれば、押圧板120を用いて下地接着剤を第1部材側接着面101fに押し付けることにより、第1部材側接着面101fの凹凸の奥まで下地接着層111を入り込ませることができる。このため、被接着部材101,102同士の接着面積が減少することを抑制することができる。したがって、接着強度の低下を抑制することができる。加えて、押圧板120の押し付ける面の形状を転写することができるため、下地接着層111において本接着層112が形成される面を所望の形状・状態にすることができる。このため、凹凸を有する第1部材101の接着面に直接接着するよりも、接着強度を確保することができる。
【0098】
<変形例>
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述した実施形態では、液体噴射装置の一例として、インクジェットプリンタ1を例に挙げて説明したが、プリンタに限られるものではない。例えば、ファックスやオンデマンド印刷機等であっても構わない。
【0099】
上述した実施形態では、ノズル孔78が二列並んだ二列タイプのインクジェットヘッド5について説明したが、これに限られない。例えば、ノズル孔が三列以上のインクジェットヘッド5としてもよく、ノズル孔が一列のインクジェットヘッド5としてもよい。
【0100】
上述した実施形態では、吐出チャネル54と非吐出チャネル55とが交互に配列された構成について説明したが、この構成のみに限られない。例えば、全チャネルから順次インクを吐出する、いわゆる3サイクル方式のインクジェットヘッドに本発明を適用しても構わない。
【0101】
上述した実施形態では、アクチュエータプレートとしてシェブロンタイプを用いた構成について説明したが、これに限られない。すなわち、モノポールタイプ(分極方向が厚さ方向で一方向)のアクチュエータプレートを用いても構わない。
【0102】
上述した実施形態では、入口流路74が流路プレート41のX方向の一端面で開口している構成について説明したが、この構成のみに限られない。例えば、入口流路74を流路プレート41のZ方向の一端面で開口させてもよいし、入口流路74を流路プレート41のY方向の一端面で開口させてもよい。
【0103】
上述した実施形態では、出口流路75が流路プレート41のX方向の他端面で開口している構成について説明したが、この構成のみに限られない。例えば、出口流路75を流路プレート41のZ方向の一端面で開口させてもよいし、出口流路75を流路プレート41のY方向の一端面で開口させてもよい。
【0104】
上述した実施形態では、循環路側流路断面積がチャネル側流路断面積よりも小さい構成について説明したが、この構成のみに限られない。例えば、循環路側流路断面積をチャネル側流路断面積以上の大きさとしてもよい。
【0105】
上述した実施形態では、CP側Y方向外側面52f1がフレキシブル基板45の接続面とされている構成について説明したが、この構成のみに限られない。例えば、CP側Y方向内側面52f2が接続面とされていてもよい。
【0106】
上述した実施形態では、流路プレート41のうちCP側尾部52eとY方向で重なる部分が中実部材41cとされている構成について説明したが、この構成のみに限られない。例えば、流路プレート41のうちCP側尾部52eとY方向で重なる部分を中空部材としてもよい。
【0107】
上述した実施形態では、流路プレート41が同一の部材により一体に形成された構成について説明したが、この構成のみに限られない。例えば、流路プレート41が複数の部材の組合せで形成されていてもよい。
【0108】
上述した実施形態では、印刷時にインクジェットヘッドが被記録媒体に対して移動する構成(いわゆる、シャトル機)を例にして説明をしたが、この構成に限られない。本開示に係る構成は、インクジェットヘッドを固定した状態で、インクジェットヘッドに対して被記録媒体を移動させる構成(いわゆる、固定ヘッド機)に採用してもよい。
上述した実施形態では、被記録媒体Pが紙の場合について説明したが、この構成に限られない。被記録媒体Pは、紙に限らず、金属材料や樹脂材料であってもよく、食品等であってもよい。
上述した実施形態では、液体噴射ヘッドが液体噴射記録装置に搭載された構成について説明したが、この構成に限られない。すなわち、液体噴射ヘッドから噴射される液体は、被記録媒体に着弾させるものに限らず、例えば調剤中に配合する薬液や、食品に添加する調味料や香料等の食品添加物、空気中に噴射する芳香剤等であってもよい。
上述した実施形態では、Z方向が重力方向に一致する構成について説明したが、この構成のみに限らず、Z方向を水平方向に沿わせてもよい。
【0109】
<第2実施形態>
図9は、第2実施形態に係るヘッドチップの製造方法の第1工程の説明図である。
上述した第1実施形態では、下地接着層において本接着層が形成される面に平坦面を有する例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図9に示すように、下地接着層211は、下地接着層211において本接着層が形成される面に、湾曲又は屈曲の形状211fを有してもよい。第2実施形態において、上述した実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、詳細説明は省略する。
【0110】
湾曲又は屈曲の形状211fには、湾曲面等の丸みのある形状のみならず、一部あるいは全体で角があるようないびつな形状(例えば、断面が三角形のような形状、鋭角で角のあるような形状)も含まれる。
図9の例では、湾曲面を示しているが、これに屈曲(角があるような)形状が含まれてもよい。
【0111】
例えば、湾曲又は屈曲の形状211fとなる要素の平均長さ(RSm値)は、200μm以下になるような凹凸形状を有していてもよい。RSm値は、JIS(JIS B 0601)で定義される線粗さを意味する。RSm値は、湾曲又は屈曲の形状211fとなる要素である凹凸の平均ピッチ(凹部中心と凸部中心との間の平均の長さ)に相当する。図示はしないが、第2部材において第1部材101が接着される第2部材側接着面は、下地接着層211の湾曲又は屈曲の形状211fに沿うように湾曲している。
【0112】
本実施形態では、接着に適した接着面が湾曲又は屈曲の形状211fである。そのため、押圧板220は、湾曲又は屈曲の形状211fに沿う曲面状の転写面220fを有する。例えば、第1工程では、凹凸を埋める程度の下地接着剤の塗布後に、曲面状の転写面220fを有する押圧板220を、下地接着剤の上方(
図9の矢印方向)から押し付ける。その後の工程は、上述した第1実施形態と同様であるため、詳細説明は省略する。
【0113】
以上説明したように、本実施形態の下地接着層211は、下地接着層211において本接着層が形成される面に、湾曲又は屈曲の形状211fを有する。
この構成によれば、下地接着層211において本接着層が形成される面が平坦面である場合と比較して、被接着部材101,102同士の接着面積が増える。したがって、接着強度が更に向上する。
【0114】
<第3実施形態>
図10は、第3実施形態に係るヘッドチップの製造方法の第1工程の説明図である。
図11は、
図10に続く、第3実施形態に係る第1工程の説明図である。
上述した第1実施形態では、下地接着層の上面は、第2部材の下面(第2部材側接着面)に対して全体的に平行な平面となっている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図10に示すように、下地接着層311は、下地接着層311において本接着層が形成される面に、第2部材において本接着層が形成される部分が食い込む楔形状311wを有してもよい。第3実施形態において、上述した実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、詳細説明は省略する。
【0115】
例えば、第1部材101が矩形板状である場合は、楔形状311wは、第1部材側接着面101fの短辺又は長辺を横断するように延びていてもよい。
図10の例では、楔形状311wは、負のテーパ形状(逆台形)を有する。図示はしないが、第2部材において本接着層が形成される部分は、下地接着層311の楔形状311wが食い込む形状を有する。
【0116】
本実施形態では、下地接着層311が負のテーパ形状(逆台形)の楔形状311wを有する。そのため、押圧板320は、楔形状311wに対応するテーパ形状(台形)の楔形状320wを有する。例えば、第1工程では、第1部材側接着面101f上の凹凸及び押圧板320の楔形状320w間を埋める程度の下地接着剤の塗布後に、テーパ形状(台形)の楔形状320wを有する押圧板320を、下地接着剤の上方から押し付ける。
【0117】
その後、押圧板320を下地接着剤から離反させる。例えば、第1部材側接着面101fに塗布された下地接着剤を、加熱や紫外線照射等で硬化させた後に、押圧板320を
図11の矢印方向にスライドさせることで、押圧板320を抜く。これにより、第1部材側接着面101fに、楔形状311wを有する下地接着層311が形成される。その後の工程は、上述した第1実施形態と同様であるため、詳細説明は省略する。
【0118】
以上説明したように、本実施形態の下地接着層311は、下地接着層311において本接着層が形成される面に、第2部材において本接着層が形成される部分が食い込む楔形状311wを有する。
この構成によれば、下地接着層311が有する楔形状311wと第2部材において本接着層が形成される部分とのアンカー効果により、接着強度が向上する。加えて、単純な面同士(例えば平面同士)の接着構造と比較して、楔形状311wの表面積分だけ接着面積が増えるため、接着強度が更に向上する。
【0119】
<第4実施形態>
図12は、第4実施形態に係るヘッドチップの製造方法の第1工程の説明図である。
上述した第1実施形態では、下地接着層の上面は、溝等を有しない平坦面となっている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図12に示すように、下地接着層411は、下地接着層411において本接着層が形成される面(下地接着層411の上面)に、本接着層の余剰部分が入り込む逃げ溝411gを有してもよい。第4実施形態において、上述した実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、詳細説明は省略する。
【0120】
例えば、第1部材101が矩形板状である場合は、逃げ溝411gは、第1部材側接着面の短辺又は長辺を横断するように延びていてもよい。
図12の例では、逃げ溝411gは、下地接着層411の上面から第1部材101に向かって窪む矩形溝状の凹形状を有する。図示はしないが、第2部材において第1部材101が接着される第2部材側接着面は、下地接着層411の上面(具体的には、下地接着層411において逃げ溝411g以外の上面)に沿う形状を有している。なお、第2部材は、逃げ溝411gの一部に入り込む形状を有していてもよい。
【0121】
本実施形態では、下地接着層411が矩形溝状の逃げ溝411gを有する。そのため、押圧板420は、逃げ溝411gに対応する矩形突状の突起部420pを有する。例えば、第1工程では、第1部材側接着面上の凹凸及び押圧板420の突起部420p間を埋める程度の下地接着剤の塗布後に、矩形突状の突起部420pを有する押圧板420を、下地接着剤の上方から押し付ける。その後の工程は、上述した第1実施形態と同様であるため、詳細説明は省略する。
【0122】
以上説明したように、本実施形態の下地接着層411は、下地接着層411において本接着層が形成される面に、本接着層の余剰部分が入り込む逃げ溝411gを有する。
【0123】
この構成によれば、本接着層の余剰部分が逃げ溝411gに入るため、本接着層のはみだし量を減少させることができる。加えて、下地接着層411の上面から逃げ溝411gへの気泡の移動が許容されるため、下地接着層411の上面に気泡が残存することを抑制することができる。したがって、下地接着層411において本接着層が形成される面に気泡を含むことによる接着強度の低下を抑制することができる。
【0124】
なお、逃げ溝の形状は、上記に限定されない。例えば、逃げ溝の形状を
図10のような楔形状とすることで、アンカー効果を有する接着剤逃げ溝としても利用することができる。また、逃げ溝の表面積分だけ接着面積が増えるため、接着強度が更に向上する。
【0125】
<第5実施形態>
図13は、第5実施形態に係るヘッドチップの製造方法の第1工程の一例の説明図である。
図14は、第5実施形態に係るヘッドチップの製造方法の第1工程の他の例の説明図である。
上述した第1実施形態では、下地接着層の上面は、凹凸等を有しない平坦面となっている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図13及び
図14に示すように、下地接着層511A,511Bは、下地接着層511A,511Bにおいて本接着層が形成される面(下地接着層411の上面)に、第2部材を位置決めする凹部511r又は凸部511cを有していてもよい。第5実施形態において、上述した実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、詳細説明は省略する。
【0126】
例えば、第1部材101が矩形板状である場合は、凹部511r又は凸部511cは、第1部材側接着面の短辺以下又は長辺以下の範囲に設けられていてもよい。
図13の例では、凹部511rは、下地接着層511Aの上面から第1部材101に向かって窪む矩形状の凹形状を有する。この場合、図示はしないが、第2部材において本接着層が形成される部分は、下地接着層511Aの凹部511rに嵌め合わせられる凸部を有する。
【0127】
一方、
図14の例では、凸部511cは、下地接着層511Bの上面から突出する矩形状の凸形状を有する。この場合、図示はしないが、第2部材において本接着層が形成される部分は、下地接着層511Bの凸部511cを嵌め合わせる凹部を有する。
【0128】
例えば、凹部511r又は凸部511cの形状は、上記に限定されない。例えば、凹部511r又は凸部511cの形状は、平面視で十字や円、矩形等、又は、これらの少なくとも2つを組み合わせた形状であってもよい。例えば、凹部511r又は凸部511cの形状は、第2部材を位置決め可能に互いに嵌め合わせることが可能な形状であればよい。
【0129】
本実施形態では、下地接着層511A,511Bが凹部511r又は凸部511cを有する。そのため、押圧板520A,520Bは、凹部511rに対応する凸部520c、又は、凸部511cに対応する凹部520rを有する。
例えば、押圧板520Aが凸部520cを有する場合、第1工程では、第1部材側接着面上の凹凸及び押圧板520Aの凸部520c間を埋める程度の下地接着剤の塗布後に、凸部520cを有する押圧板520Aを、下地接着剤の上方から押し付ける。その後の工程は、上述した第1実施形態と同様であるため、詳細説明は省略する。
【0130】
一方、押圧板520Bが凹部520rを有する場合、第1工程では、第1部材側接着面上の凹凸及び押圧板520Bの凹部520rを埋める程度の下地接着剤の塗布後に、凹部520rを有する押圧板520Bを、下地接着剤の上方から押し付ける。その後の工程は、上述した第1実施形態と同様であるため、詳細説明は省略する。
【0131】
以上説明したように、本実施形態の下地接着層511A,511Bは、下地接着層511A,511Bにおいて本接着層が形成される面に、第2部材を位置決めする凹部511r又は凸部511cを有する。
この構成によれば、下地接着層511A,511Bの凹部511r又は凸部511cにより、第2部材の位置決めのために別のマークを用意する必要がなくなる。さらに、はめあいでの位置決めが可能となることによって、マークを手動で合わせる位置決めが不要となる。したがって、容易に正確な位置決めが可能となる。
【0132】
例えば、凹部511r又は凸部511cが第1部材側接着面の短辺以下又は長辺以下の範囲に設けられている場合は、押圧板520A,520Bは第1部材101よりも大きいため、第1部材101の固定や保持が容易となる。そのため、第1部材側接着面に対して下地接着剤を押圧する際に、押圧板520A,520Bの精密な位置決めも容易となる。
【0133】
なお、下地接着層の凹部又は凸部の形状は、上記に限定されない。例えば、1軸方向の位置決めであれば、凹部又は凸部の形状を
図12のような第1部材側接着面の短辺又は長辺を横断する形状とすることで、接着剤逃げ溝としても利用することができる。
【0134】
<第6実施形態>
図15は、第6実施形態に係る第1部材及び第2部材を接着する接着剤層の説明図である。
上述した第1実施形態では、下地接着層及び本接着層の形成材料は限定されない例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図15に示すように、下地接着層611及び本接着層612の形成材料は、互いに同じ接着剤であってもよい。第6実施形態において、上述した実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、詳細説明は省略する。
【0135】
例えば、下地接着層611及び本接着層612の形成材料は、完全に同一であることに限らず、実質的に同一であってもよい。例えば、下地接着剤の粘度(下地接着層611の未硬化時の粘度に相当)が本接着剤の粘度(本接着層612の未硬化時の粘度に相当)よりも低くなるように、下地接着層611及び本接着層612の形成材料の成分を調整してもよい。
【0136】
以上説明したように、本実施形態の下地接着層611及び本接着層612の形成材料は、互いに同じ接着剤である。
この構成によれば、下地接着層611及び本接着層612が互いに近い物質同士の接着剤で構成されるため、互いに相性が良くなり、接着剤同士の馴染みが向上する。このため、第1部材601に対して下地接着層611を薄く塗布することが可能となり、気泡等を塗布後に逃がすことが容易となる。また、塗布した下地接着剤を押圧板で押し込むことで、第1部材601表面の湾曲形状の凹凸(粗面凹凸)の奥まで下地接着剤を行き渡らせることができる。このため、厚塗り等の塗布方法よりも、第1部材601と下地接着剤との馴染みを向上させることができる。
【0137】
<第7実施形態>
図16は、第7実施形態に係る第1部材及び第2部材を接着する接着剤層の説明図である。
図17は、第7実施形態に係る接着剤層のはみ出し部の説明図である。
上述した第4実施形態では、下地接着層において本接着層が形成される面に本接着層の余剰部分が入り込む逃げ溝を有する例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図16及び
図17に示すように、第1部材701及び第2部材702に加工された溝内部に接着剤のはみ出し部713ができるように構成されていてもよい。第7実施形態において、上述した実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、詳細説明は省略する。
【0138】
図16及び
図17の例では、ポンプ室として機能する第1溝701gを有する第1部材701と、共通流路として機能する第2溝702gを有する第2部材702と、を示す。例えば、第1部材側接着面及び第2部材側接着面に対して押圧板により下地接着剤を塗布して硬化させた後、本接着層712を介して第1部材701及び第2部材702を接着させる。すると、第1部材701及び第2部材702に加工された溝701g,702g内部にはみ出し部713が形成される。
【0139】
例えば、下地接着層711が硬化した後に本接着剤を塗布した場合、溝701g,702g内部で硬化した部分(下地接着層711のはみ出し部)に沿うようにして本接着剤が流れてはみ出す。そのため、第1部材701及び第2部材702における溝701g,702g内部の壁面に本接着剤が回り込む量が減少し、はみ出し部713が立体的に成長する。これにより、溝701g,702g内部の壁面には接着剤が形成されにくいため、硬化したはみ出し部713は後工程で除去することが容易になる。
【0140】
以上説明したように、本実施形態のヘッドチップは、第1部材701及び第2部材702に加工された溝701g,702g内部に、接着剤のはみ出し部713ができるように構成されている。
この構成によれば、接着剤の余剰部分は溝701g,702g内部にはみ出し部713として形成される。したがって、第1部材701及び第2部材702同士の接着面に対する接着剤(下地接着剤及び本接着剤)の塗布量を可及的に少量に抑えることができる。
【0141】
<第8実施形態>
図18は、第8実施形態に係るヘッドチップの斜視図である。
図19は、第8実施形態に係るヘッドチップの製造方法の一工程の斜視図である。
図20は、第8実施形態に係るヘッドチップの平面図である。
上述した第1実施形態では、ヘッドチップがアクチュエータプレート51及びカバープレート52を備える例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図18に示すように、ヘッドチップ840は、アクチュエータプレート851(第1部材に相当)と、一対の流路部材852(第2部材に相当)と、ノズルプレート844と、を備えていてもよい。第8実施形態において、上述した実施形態と同様の構成には同一の符号を付し、詳細説明は省略する。
【0142】
図18から
図20の例では、アクチュエータプレート851は、電極が形成されるACT溝851gを有する。一対の流路部材852は、インク流路及びポンプ室として機能するCOM溝852gを有する。例えば、両面蒸着等で電極を形成した場合は、一対の流路部材852の形成部材852Mの切断面に対してアクチュエータプレート851の形成部材851Mの切断面を接着した後、
図19の下部の厚肉部分(溝以外の部分)を研磨してもよい。
【0143】
例えば、第1工程では、ヘッドチップ840を構成するアクチュエータプレート851及び流路部材852の表面(切断面)に下地として下地接着層を形成する。第1工程の後、第2工程では、アクチュエータプレート851及び流路部材852の各下地接着層の間に本接着層を形成する。第1工程では、押圧板を用いて下地接着剤をアクチュエータプレート851及び流路部材852の各表面(切断面)に押し付ける。
【0144】
以上説明したように、本実施形態の構成によれば、ヘッドチップ840を構成するアクチュエータプレート851及び流路部材852の表面(切断面)が上記の粗面となっている場合であっても、上述した押圧板を用いて下地接着剤をアクチュエータプレート851及び流路部材852の各表面に押し付けることで、各表面の凹凸の奥まで下地接着層を入り込ませることができる。このため、被接着部材同士(アクチュエータプレート851及び流路部材852)の接着面積が減少することを抑制することができる。したがって、接着強度の低下を抑制する上で実益が大きい。例えば、アクチュエータプレート851及び流路部材852においてACT溝851g及びCOM溝852gが互いに直線状になるような厳しい位置合わせが行われる部位であっても、接着強度の低下を抑制することができる。
【0145】
なお、第1工程では、ヘッドチップ840を構成するアクチュエータプレート851及び各流路部材852の表面(切断面)に下地として下地接着層を形成することに限らない。例えば、第1工程では、ヘッドチップ840を構成するアクチュエータプレート851及びノズルプレート844の表面に下地として下地接着層を形成してもよい。この場合、第1工程の後、第2工程では、アクチュエータプレート851及びノズルプレート844の各下地接着層の間に本接着層を形成してもよい。第1工程では、押圧板を用いて下地接着剤をアクチュエータプレート851及びノズルプレート844の各表面に押し付けてもよい。
【0146】
なお、ヘッドチップは、アクチュエータプレート、一対の流路部材、及び、ノズルプレートを備える構成に限らない。例えば、ヘッドチップは、ノズルプレートを備えず、アクチュエータプレート及びカバープレートを備える構成であってもよい。例えば、ヘッドチップは、アクチュエータプレート、カバープレート及びノズルプレーを備える構成であってもよい。例えば、ヘッドチップは、ルーフトップ(天井駆動)やサーマル型の構成であってもよい。例えば、ヘッドチップの構成態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0147】
以上、本開示の好ましい実施形態を記載し説明してきたが、これらは本開示の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、及びその他の変更は、本開示の範囲から逸脱することなく行うことができる。従って、本開示は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、特許請求の範囲によって制限されている。
【符号の説明】
【0148】
1 … プリンタ(液体噴射記録装置)
5 … インクジェットヘッド(液体噴射ヘッド)
33 … キャリッジ
40A,40B … ヘッドチップ
51 … アクチュエータプレート
54 … 吐出チャネル(液体が通過するチャネル)
101 … 第1部材
101f … 第1部材側接着面(第1部材において前記第2部材が接着される接着面)
102 … 第2部材
111 … 下地接着層
111f … 平坦面
112 … 本接着層
120 … 押圧板
211 … 下地接着層
211f … 湾曲又は屈曲の形状
220 … 押圧板
311 … 下地接着層
311w … 楔形状
320 … 押圧板
411 … 下地接着層
411g … 逃げ溝
420 … 押圧板
511A,B … 下地接着層
511c … 凸部
511r … 凹部
520A,B … 押圧板
601 … 第1部材
611 … 下地接着層
612 … 本接着層
701 … 第1部材
702 … 第2部材
711 … 下地接着層
712 … 本接着層
840 … ヘッドチップ
851 … アクチュエータプレート(第1部材)
852 … 流路部材(第2部材)
844 … ノズルプレート