(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081885
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタ、マルチプレクサ、および弾性波デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20240612BHJP
H03H 9/70 20060101ALI20240612BHJP
H03H 9/54 20060101ALI20240612BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H9/70
H03H9/54 Z
H03H3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195417
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】矢神 義之
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA07
5J108BB07
5J108BB08
5J108CC04
5J108EE03
5J108HH03
5J108HH05
5J108KK01
5J108KK02
5J108MM08
5J108MM11
(57)【要約】
【課題】弾性損失の増加を抑制することが可能な弾性波デバイスを提供すること。
【解決手段】弾性波デバイス100は、シリコン基板10と、シリコン基板10上に設けられた圧電膜14と、圧電膜14上に設けられた上部電極16と、シリコン基板10と圧電膜14との間に設けられ、シリコン基板10との間に空隙40を有し、圧電膜14を挟んで上部電極16と重なる共振領域50において空隙40に接する、ルテニウムからなる下部電極12と、少なくとも空隙40を囲むリング形状を有し、リング形状の内周が空隙40内に位置し、外周がシリコン基板10上に位置し、平面視において外周に空隙40に繋がる凹み24を有するバリア層18とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板と、
前記シリコン基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられた上部電極と、
前記シリコン基板と前記圧電膜との間に設けられ、前記シリコン基板との間に空隙を有し、前記圧電膜を挟んで前記上部電極と重なる共振領域において前記空隙に接する、ルテニウムからなる下部電極と、
少なくとも前記空隙を囲むリング形状を有し、前記リング形状の内周が前記空隙内に位置し、外周が前記シリコン基板上に位置し、平面視において前記外周に前記空隙に繋がる凹みを有する、または、上面から下面にかけて貫通して前記空隙に繋がる孔を有するバリア層と、を備える弾性波デバイス。
【請求項2】
前記バリア層は、窒化チタン層、窒化タンタル層、窒化タングステン層、またはダイヤモンドライクカーボン層を含む、請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記バリア層と前記下部電極との間に挟まれ、少なくとも前記空隙に接して前記バリア層に沿って設けられたリング形状を有し、アルミニウム層、コバルト層、クロム層、モリブデン層、ニッケル層、タンタル層、チタン層、またはタングステン層を含む密着層を備える、請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記空隙は、前記シリコン基板の表面に形成された窪みと、前記窪みと前記下部電極との間の空気層と、を含む、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
請求項1または2に記載の弾性波デバイスを含むフィルタ。
【請求項6】
請求項5に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【請求項7】
シリコン基板上に、平面視において少なくともリング形状を有し、前記リング形状の外周に凹みを有する、または、上面から下面にかけて貫通する孔を有するバリア層を形成する工程と、
前記バリア層の前記リング形状の内周より内側における前記シリコン基板の表面を覆う密着層を形成する工程と、
前記密着層上にルテニウムからなる下部電極を形成する工程と、
前記下部電極上に圧電膜を形成する工程と、
前記圧電膜上に上部電極を形成する工程と、
前記密着層を前記シリコン基板と反応させてシリサイド層を形成する工程と、
前記凹みまたは前記孔からエッチング媒体を導入し、前記圧電膜を挟んで前記下部電極と前記上部電極が重なる共振領域下における前記シリサイド層をエッチング除去して前記下部電極に接する空隙を形成する工程と、を備える弾性波デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記シリサイド層を形成する工程は、前記シリコン基板を加熱することで前記密着層を前記シリコン基板と反応させて前記シリサイド層を形成する、請求項7に記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記バリア層は、窒化チタン層、窒化タンタル層、窒化タングステン層、またはダイヤモンドライクカーボン層を含む、請求項7または8に記載の弾性波デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記密着層は、アルミニウム層、コバルト層、クロム層、モリブデン層、ニッケル層、タンタル層、チタン層、またはタングステン層を含む、請求項9に記載の弾性波デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタ、マルチプレクサ、および弾性波デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電薄膜共振器を用いた弾性波デバイスは、例えば携帯電話等の無線機器のフィルタおよびマルチプレクサとして用いられている。圧電薄膜共振器は、圧電膜を挟み下部電極と上部電極が対向する構造を有する。圧電膜を挟み下部電極と上部電極が対向する領域が共振領域である。共振領域の下に振動を制限しないように空隙が設けられた構成が知られている(例えば、特許文献1、2)。また、下部電極にクロム膜とルテニウム膜の積層膜を用いることが知られている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-45694号公報
【特許文献2】特開2014-161001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ルテニウム膜は共振特性の点において好ましい材料であるが、下部電極にルテニウム膜を用いた場合、ルテニウム膜とシリコン基板との密着性が悪いためにクロム膜等の密着層を設けることになる。共振領域においてクロム膜等からなる密着層とルテニウム膜からなる下部電極とが積層された構造となると、密着層が下部電極より音響インピーダンスの低い膜である場合に弾性損失が大きくなってしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、弾性損失の増加を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シリコン基板と、前記シリコン基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜上に設けられた上部電極と、前記シリコン基板と前記圧電膜との間に設けられ、前記シリコン基板との間に空隙を有し、前記圧電膜を挟んで前記上部電極と重なる共振領域において前記空隙に接する、ルテニウムからなる下部電極と、少なくとも前記空隙を囲むリング形状を有し、前記リング形状の内周が前記空隙内に位置し、外周が前記シリコン基板上に位置し、平面視において前記外周に前記空隙に繋がる凹みを有する、または、上面から下面にかけて貫通して前記空隙に繋がる孔を有するバリア層と、を備える弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記バリア層は、窒化チタン層、窒化タンタル層、窒化タングステン層、またはダイヤモンドライクカーボン層を含む構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記バリア層と前記下部電極との間に挟まれ、少なくとも前記空隙に接して前記バリア層に沿って設けられたリング形状を有し、アルミニウム層、コバルト層、クロム層、モリブデン層、ニッケル層、タンタル層、チタン層、またはタングステン層を含む密着層を備える構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記空隙は、前記シリコン基板の表面に形成された窪みと、前記窪みと前記下部電極との間の空気層と、を含む構成とすることができる。
【0010】
本発明は、上記に記載の弾性波デバイスを含むフィルタである。
【0011】
本発明は、上記に記載のフィルタを含むマルチプレクサである。
【0012】
本発明は、シリコン基板上に、平面視において少なくともリング形状を有し、前記リング形状の外周に凹みを有する、または、上面から下面にかけて貫通する孔を有するバリア層を形成する工程と、前記バリア層の前記リング形状の内周より内側における前記シリコン基板の表面を覆う密着層を形成する工程と、前記密着層上にルテニウムからなる下部電極を形成する工程と、前記下部電極上に圧電膜を形成する工程と、前記圧電膜上に上部電極を形成する工程と、前記密着層を前記シリコン基板と反応させてシリサイド層を形成する工程と、前記凹みまたは前記孔からエッチング媒体を導入し、前記圧電膜を挟んで前記下部電極と前記上部電極が重なる共振領域下における前記シリサイド層をエッチング除去して前記下部電極に接する空隙を形成する工程と、を備える弾性波デバイスの製造方法である。
【0013】
上記構成において、前記シリサイド層を形成する工程は、前記シリコン基板を加熱することで前記密着層を前記シリコン基板と反応させて前記シリサイド層を形成する構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記バリア層は、窒化チタン層、窒化タンタル層、窒化タングステン層、またはダイヤモンドライクカーボン層を含む構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記密着層は、アルミニウム層、コバルト層、クロム層、モリブデン層、ニッケル層、タンタル層、チタン層、またはタングステン層を含む構成とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、弾性損失の増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例1に係る弾性波デバイスの平面図である。
【
図3】
図3(a)は、実施例1における圧電膜、下部電極、およびバリア層を示した平面図、
図3(b)は、密着層およびバリア層を示した平面図、
図3(c)は、バリア層を示した平面図である。
【
図4】
図4(a)から
図4(d)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図5】
図5(a)から
図5(d)は、実施例1に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図6】
図6は、比較例に係る弾性波デバイスの平面図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(d)は、比較例に係る弾性波デバイスの製造方法を示す断面図である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、比較例において下部電極下の密着層を除去した場合を示す断面図である。
【
図10】
図10(a)は、実施例1の変形例に係る弾性波デバイスの平面図、
図10(b)は、
図10(a)のA-A断面図である。
【
図12】
図12は、実施例3に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の実施例について説明する。
【実施例0019】
図1は、実施例1に係る弾性波デバイス100の平面図である。
図2(a)は、
図1のA-A断面図、
図2(b)は、
図1のB-B断面図である。
図3(a)は、実施例1における圧電膜14、下部電極12、およびバリア層18を示した平面図、
図3(b)は、実施例1における密着層26およびバリア層18を示した平面図、
図3(c)は、実施例1におけるバリア層18を示した平面図である。
【0020】
図1、
図2(a)、
図2(b)、および
図3(a)から
図3(c)に示すように、実施例1に係る弾性波デバイス100は、シリコン(Si)基板10上にルテニウムの単層膜からなる下部電極12が設けられている。シリコン基板10と下部電極12との間に空隙40が形成されている。空隙40は、シリコン基板10の上面に設けられた窪み41と、窪み41と下部電極12との間の空気層42と、を含んで形成されている。
【0021】
シリコン基板10上に、空隙40の周囲を囲む平面視においてリング形状をした領域20と、領域20から引き出された領域22と、を有するバリア層18が設けられている。バリア層18のリング形状をした領域20の外周19の一部には空隙40に繋がる凹み24が設けられている。バリア層18の領域20の内周17は空隙40内に位置して空隙40に接し、外周19は凹み24の箇所を除いてシリコン基板10上に位置している。凹み24は、平面視において円弧形状をしていてもよいし、楕円弧形状または矩形形状等のその他の形状をしていてもよい。バリア層18は、シリサイドを形成しない材料により形成されている。例えば、バリア層18は、窒化チタン(TiN)膜、窒化タンタル(TaN)膜、窒化タングステン(WN)膜、またはダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜の単層膜もしくはこれらの積層膜である。
【0022】
バリア層18と下部電極12との間に挟まれて密着層26が設けられている。密着層26は、空隙40に接してバリア層18の領域20に沿って設けられたリング形状をした領域28と、領域28から引き出された領域30と、を有する。密着層26の領域30は、バリア層18の領域22上に位置している。密着層26は、シリサイドを形成する材料により形成されている。例えば、密着層26は、アルミニウム(Al)膜、コバルト(Co)膜、クロム(Cr)膜、モリブデン(Mo)膜、ニッケル(Ni)膜、タンタル(Ta)膜、チタン(Ti)膜、またはタングステン(W)膜の単層膜もしくはこれらの積層膜である。
【0023】
下部電極12上に圧電膜14が設けられている。圧電膜14は、例えば(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする膜である。なお、圧電膜14は、酸化亜鉛(ZnO)膜、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜、チタン酸鉛(PbTiO3)膜、タンタル酸リチウム膜、またはニオブ酸リチウム膜であってもよい。また、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のために他の元素を含んでいてもよい。例えば、添加元素としてスカンジウム(Sc)、2族元素と4族元素の2つの元素、または2族元素と5族元素の2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。2族元素は、例えばカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、または亜鉛(Zn)である。4族元素は、例えばチタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、またはハフニウム(Hf)である。5族元素は、例えばタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、またはバナジウム(V)である。さらに、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、ボロン(B)を含んでいてもよい。
【0024】
圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域である共振領域50が形成されるように圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域50は、空隙40上に位置し、厚み縦振動モードまたは厚みすべり振動モードの弾性波が共振する領域である。下部電極12は、共振領域50において空隙40に接する箇所を有する。下部電極12のうち共振領域50から引き出された部分は密着層26の領域30上に設けられている。共振領域50の平面形状は例えばほぼ楕円形状である。平面視において、空隙40の大きさは共振領域50より大きい。なお、共振領域50の平面形状は、四角形または五角形等の多角形等、その他の形状をしていてもよい。
【0025】
上部電極16としては、ルテニウム(Ru)膜、アルミニウム(Al)膜、クロム(Cr)膜、チタン(Ti)膜、銅(Cu)膜、モリブデン(Mo)膜、タングステン(W)膜、タンタル(Ta)膜、白金(Pt)膜、ロジウム(Rh)膜、またはイリジウム(Ir)膜の単層膜もしくはこれらの積層膜を用いることができる。一例として、上部電極16は、下部電極12と同じくルテニウムの単層膜である。上部電極16上に保護膜等が設けられていてもよい。
【0026】
[製造方法]
図4(a)から
図5(d)は、実施例1に係る弾性波デバイス100の製造方法を示す断面図である。
図4(a)、
図4(b)、
図5(a)、および
図5(b)は、
図1のA-A間に相当する箇所の断面であり、
図4(c)、
図4(d)、
図5(c)、および
図5(d)は、
図1のB-B間に相当する箇所の断面である。
【0027】
図4(a)および
図4(c)に示すように、シリコン基板10の平坦主面上に、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いてバリア層18を成膜する。その後、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いてバリア層18を所望の形状にパターニングする。これにより、平面視において外周19の一部に凹み24を有するリング形状をした領域20と、領域20から引き出された領域22と、を有するバリア層18を形成する(
図3(c)も参照)。バリア層18は例えば窒化チタン膜である。
【0028】
図4(b)および
図4(d)に示すように、シリコン基板10上に、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて、バリア層18を覆って密着層26および下部電極12をこの順に成膜する。その後、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて密着層26および下部電極12を所望の形状にパターニングする。これにより、バリア層18の領域20の内側におけるシリコン基板10の上面を覆う領域29と、領域29から引き出されてバリア層18上に位置する領域31と、を有する密着層26を形成する。密着層26上に、平面視において密着層26と同じ形状をした下部電極12を形成する。密着層26は例えばクロム膜であり、下部電極12はルテニウム膜である。下部電極12とシリコン基板10との間に密着層26が設けられているため、下部電極12がシリコン基板10から剥離することが抑制される。
【0029】
図5(a)および
図5(c)に示すように、シリコン基板10上に、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて、バリア層18、密着層26、および下部電極12を覆って圧電膜14を成膜する。圧電膜14上に、例えばスパッタリング法、真空蒸着法、またはCVD法を用いて上部電極16を成膜する。その後、例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて上部電極16および圧電膜14を所望の形状にパターニングする。これにより、平面視において同じ形状をした圧電膜14および上部電極16が形成され、圧電膜14を間に挟んで下部電極12と上部電極16とが対向する共振領域50が形成される。圧電膜14は例えば窒化アルミニウム膜であり、上部電極16は例えばルテニウム膜である。
【0030】
図5(b)および
図5(d)に示すように、密着層26の領域29をシリコン基板10と反応させて、共振領域50の下の密着層26をシリサイド層32とする。例えば、シリコン基板10を加熱することで、密着層26とシリコン基板10とを反応させてシリサイド層32を形成する。一例として、密着層26がクロム膜である場合、シリコン基板10を300℃~500℃に加熱することでクロムシリサイドからなるシリサイド層32を形成する。シリサイド化反応は、密着層26とシリコン基板10との界面から加熱温度と加熱時間に応じて広がりながら進行する。したがって、シリサイド層32は、密着層26の領域29だけでなく、シリコン基板10にも形成される。シリサイド層32を形成するときには、加熱温度および加熱時間を制御して、バリア層18に形成した凹み24からシリサイド層32が露出するようにする。なお、バリア層18は、シリサイドが形成されない材料からなるため、バリア層18はシリサイド化反応が起こらずシリサイド層が形成されない。
【0031】
バリア層18に形成した凹み24を介して、シリサイド層32をエッチングするエッチング媒体(例えばエッチング液)を下部電極12の下のシリサイド層32に導入する。これにより、
図2(a)および
図2(b)に示すように、シリサイド層32が除去されて、共振領域50下において下部電極12とシリコン基板10との間に空隙40が形成される。空隙40は、シリコン基板10の上面の窪み41と、窪み41と下部電極12との間の空気層42と、を含んで形成される。共振領域50において下部電極12は空隙40に接するようになる。バリア層18の領域20の内周17は空隙40内に位置して空隙40に接し、外周19は凹み24を除いてシリコン基板10上に位置するようになる。エッチング媒体は、シリサイド層32以外の箇所をエッチングしない媒体であることが好ましい。一例として、バリア層18が窒化チタン膜で、シリサイド層32がクロムシリサイド層の場合、エッチング媒体として硝酸を用いる。これにより、バリア層18、下部電極12、シリコン基板10はエッチングされずに、シリサイド層32だけエッチングすることができる。以上により、実施例1に係る弾性波デバイス100が形成される。
【0032】
[比較例]
図6は、比較例に係る弾性波デバイス500の平面図である。
図7(a)は、
図6のA-A断面図、
図7(b)は、
図6のB-B断面図である。
図6、
図7(a)、および
図7(b)に示すように、比較例に係る弾性波デバイス500では、圧電膜114を挟んで下部電極112と上部電極116とが対向して共振領域150が形成されている。下部電極112とシリコン基板110の平坦主面との間に空隙140が形成されている。共振領域150は空隙140上に位置している。共振領域150の全体において、下部電極112と空隙140との間に密着層126が設けられている。密着層126は、ルテニウムの単層膜からなる下部電極112とシリコン基板110との密着性のために設けられている。密着層126は例えばクロム膜である。圧電膜114は例えば窒化アルミニウムを主成分とする膜である。上部電極16は、例えばルテニウム膜の単層膜である。下部電極112および密着層126には犠牲層をエッチングするエッチング液を導入するための導入路134が設けられている。犠牲層は空隙140を形成するための層である。
【0033】
図8(a)から
図8(d)は、比較例に係る弾性波デバイス500の製造方法を示す断面図である。
図8(a)および
図8(b)は、
図6のA-A間に相当する箇所の断面図、
図8(c)および
図8(d)は、
図6のB-B間に相当する箇所の断面図である。
図8(a)および
図8(c)に示すように、シリコン基板110の平坦主面上に空隙を形成するための犠牲層136を形成する。犠牲層136は、例えば酸化マグネシウム(MgO)膜である。その後、シリコン基板110上に犠牲層136を覆って密着層126と下部電極112とを形成する。下部電極112および密着層126には導入路134が形成される。
【0034】
図8(b)および
図8(d)に示すように、シリコン基板110上および下部電極112上に圧電膜114を形成する。圧電膜114上に上部電極116を形成する。圧電膜114を挟んで下部電極112と上部電極116とが対向する共振領域150が形成される。その後、導入路134を介して犠牲層136をエッチングするためのエッチング液(例えば硝酸)を密着層126の下の犠牲層136に導入する。これにより、
図7(a)および
図7(b)に示すように、犠牲層136が除去されて空隙140が形成される。
【0035】
比較例の弾性波デバイス500では、共振領域150全体において、ルテニウム膜からなる下部電極112の下面にクロム膜からなる密着層126が設けられている。下部電極112にルテニウム膜を用いることで共振特性を良好にすることが可能となるが、下部電極112にクロム膜の密着層126が積層されていると、クロム膜はルテニウム膜に比べて音響インピーダンスが小さいことから、弾性損失が大きくなってしまう。
【0036】
一方、実施例1によれば、
図2(a)および
図2(b)のように、少なくとも空隙40を囲むリング形状を有し、リング形状の内周17が空隙40内に位置し、外周19がシリコン基板10上に位置するバリア層18を備える。バリア層18には外周19に空隙40に繋がる凹み24が設けられている。そして、ルテニウムからなる下部電極12は共振領域50において空隙40に接している。これにより、弾性損失の増加を抑制することができる。
【0037】
また、実施例1では、バリア層18はシリサイドを形成しない材料からなる。これにより、
図4(a)から
図5(d)のように、下部電極12とシリコン基板10との間に下部電極12が接する空隙40が設けられた構造を得ることができる。バリア層18は、シリサイドを形成しない層として、窒化チタン(TiN)層、窒化タンタル(TaN)層、窒化タングステン(WN)層、またはダイヤモンドライクカーボン(DLC)層を含むことができる。
【0038】
また、実施例1では、
図2(a)および
図2(b)のように、バリア層18と下部電極12との間に挟まれ、少なくとも空隙40に接してバリア層18に沿って設けられたリング形状を有し、シリサイドを形成する材料からなる密着層26を備える。これにより、
図4(a)から
図5(d)のように、下部電極12とシリコン基板10との間に下部電極12が接する空隙40が設けられた構造を得ることができる。また、バリア層18と下部電極12との間の密着性を向上させることができる。密着層26は、シリサイドを形成する層として、アルミニウム(Al)層、コバルト(Co)層、クロム(Cr)層、モリブデン(Mo)層、ニッケル(Ni)層、タンタル(Ta)層、チタン(Ti)層、またはタングステン(W)層を含むことができる。
【0039】
なお、実施例1において、バリア層18と下部電極12との間の密着性が良好である場合では、バリア層18と下部電極12との間に密着層26が設けられてなく、バリア層18と下部電極12とが直接接している場合でもよい。
【0040】
また、実施例1では、
図2(a)および
図2(b)のように、空隙40は、シリコン基板10の表面に形成された窪み41と、窪み41と下部電極12との間の空気層42と、を含む。
図4(a)から
図5(d)のように、シリサイド層32を用いて空隙40を形成することで、空隙40は窪み41と空気層42とを含んで形成される。
【0041】
比較例において、共振領域150における下部電極112の下面に密着層126が設けられないように、導入路134から密着層126をエッチングするエッチング液を空隙140内に導入して密着層126を除去することが考えられる。
図9(a)および
図9(b)は、比較例において下部電極112の下面の密着層126を除去した場合を示す断面図である。
図9(a)および
図9(b)に示すように、導入路134から空隙140にエッチング液を導入して密着層126をエッチング除去することで、共振領域150において下部電極112の下面に密着層126が設けられていない構造とすることができる。しかしながら、この場合、下部電極112がシリコン基板110から剥離しないように、領域A、Bにおいて密着層126を残存させる必要がある。空隙140の高さは小さいため、毛細管現象等が生じてエッチング液の制御が難しいことから、領域A、Bに密着層126が残存するように制御することは難しい。
【0042】
実施例1によれば、
図3(c)、
図4(a)、および
図4(c)のように、シリコン基板10上に、平面視において少なくともリング形状をした領域20を有し、リング形状の領域20の外周19に凹み24を有するバリア層18を形成する。
図4(b)および
図4(d)のように、バリア層18のリング形状の領域20の内周17より内側におけるシリコン基板10の表面を覆う密着層26を形成する。密着層26上にルテニウムからなる下部電極12を形成する。
図5(a)および
図5(c)のように、下部電極12上に圧電膜14を形成する。圧電膜14上に上部電極16を形成する。
図5(b)および
図5(d)のように、密着層26をシリコン基板10と反応させてシリサイド層32を形成する。
図2(a)および
図2(b)のように、バリア層18の凹み24からエッチング媒体を導入し、圧電膜14を挟んで下部電極12と上部電極16が重なる共振領域50下におけるシリサイド層32をエッチング除去して下部電極12に接する空隙40を形成する。密着層26とシリコン基板10との反応により形成されるシリサイド層32は、シリサイド層32の形成領域を制御し易い。このため、弾性波デバイス100を構成する各部材がシリコン基板10から剥離することを抑えつつ、共振領域50下に下部電極12が接する空隙40を形成することができる。よって、弾性損失の増加を抑制可能な弾性波デバイス100を容易に製造することができる。
【0043】
また、実施例1では、シリコン基板10を加熱することで密着層26をシリコン基板10と反応させてシリサイド層32を形成する。シリサイド化反応は、密着層26とシリコン基板10との界面から加熱温度と加熱時間に応じて広がりながら進行することから、シリサイド層32の形成領域を容易に制御できる。
【0044】
[変形例]
図10(a)は、実施例1の変形例に係る弾性波デバイス200の平面図、
図10(b)は、
図10(a)のA-A断面図である。
図10(a)および
図10(b)に示すように、実施例1の変形例に係る弾性波デバイス200では、バリア層18のリング形状をした領域20に凹み24は設けられてなく、代わりに、領域20を上面から下面に貫通し、空隙40に繋がる孔25が設けられている。その他の構成は、実施例1と同じであるため説明を省略する。
【0045】
実施例1の変形例に係る弾性波デバイス200は、リング形状をした領域20に孔25が設けられたバリア層18を形成し、孔25を介してシリサイド層32をエッチングするエッチング媒体をシリサイド層32の導入する点以外は、実施例1と同じ方法により形成される。実施例1の変形例においても、実施例1と同じく、弾性損失の増加を抑制できる効果が得られる。