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特開2024-81919リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池およびリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081919
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池およびリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20240612BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20240612BHJP
【FI】
H01M4/587
C01B32/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195504
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100173462
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100181593
【弁理士】
【氏名又は名称】庄野 寿晃
(74)【代理人】
【識別番号】100194179
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】松見 紀佳
(72)【発明者】
【氏名】バダム ラージャシェーカル
(72)【発明者】
【氏名】マントリプラガダ バラト シュリミトラ
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA15
4G146AB01
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AC17B
4G146AD23
4G146AD25
4G146BA15
4G146BC03
4G146BC23
4G146BC33B
5H050AA02
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB07
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA03
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】優れた充放電容量および充放電効率を有するリチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池およびリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池用負極材料100は、8at%以上14at%以下の窒素を含有する窒素ドープカーボンを含む。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオン二次電池用負極材料100を負極活物質に含む。リチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法は、窒素(N)を含むネットワーク系高分子を熱分解して、窒素ドープカーボンを得る加熱工程を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
8at%以上14at%以下の窒素を含有する窒素ドープカーボンを含む、
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項2】
前記窒素ドープカーボンの層間距離は、0.34nm以上0.35nm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項3】
ラマン分光法により観測されるラマンスペクトルにおいて、1350cm-1近傍と、1570cm-1近傍と、にピークを示し、1350cm-1近傍の強度I、1570cm-1近傍の強度Iとし、強度比I/Iは、0.9以上1以下である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項4】
請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を負極活物質に含む、
リチウムイオン二次電池。
【請求項5】
窒素を含むネットワーク系高分子を熱分解して、窒素ドープカーボンを得る加熱工程を備える、
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程において、前記窒素を含むネットワーク系高分子を600℃以上800℃以下で加熱する、
ことを特徴とする請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項7】
前記加熱工程において、前記窒素を含むネットワーク系高分子を不活性ガス中で加熱する、
ことを特徴とする請求項5または6に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項8】
前記窒素を含むネットワーク系高分子は、イミン構造、トリアジン環またはアミノ基のうち少なくともいずれか1つを含む、
ことを特徴とする請求項5または6に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項9】
カルボニル基を有する有機化合物と、有機窒素化合物と、を合成して、前記窒素を含むネットワーク系高分子をえる合成工程を備え、
前記加熱工程において、前記合成工程で合成した前記窒素を含むネットワーク系高分子を熱分解する、
ことを特徴とする請求項5または6に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項10】
前記有機窒素化合物は、イミン構造、トリアジン環またはアミノ基のうち少なくともいずれか1つを含む、
ことを特徴とする請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項11】
前記合成工程において、アセナフトキノンまたは1,10-フェナントロリン-5,6-ジオンのうち少なくとも1つを含む前記カルボニル基を有する有機化合物と、メラミンまたはビスマルクブラウンのうち少なくとも1つを含む前記有機窒素化合物と、を用いて、前記窒素を含むネットワーク系高分子を合成する、
ことを特徴とする請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項12】
前記合成工程において、アセナフトキノンとメラミンとを用いて、ビスイミノアセナフテン(Bis Imino AceNaphthene:BIAN)構造を有する前記窒素を含むネットワーク系高分子を合成する、
ことを特徴とする請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池およびリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、ハイパワーで高容量の二次電池として、電気自動車、携帯電話、パソコン、PDA(個人情報端末)等の可搬型機器類または予備電源などに多く使用されている。リチウム二次電池は、正極材料にLiCoO等の含リチウム複合酸化物を用い、負極活物質に炭素系材料を用いている。炭素系材料であるグラファイトを負極に使用した場合、その理論容量は372mAh/gしかなく、また理論密度が2.2g/ccと低く、実際に負極シートとした場合には、更に密度が低下する。そのため、高容量な材料を負極として利用することが電池の高容量化の面から望まれている。
【0003】
高容量な負極を得るために窒素ドープカーボンについて活発に研究されている。例えば、特許文献1は、元素分析による窒素原子含有量が0.4質量%以上1.0質量%未満であり、かつ、レーザーラマン分光法により観測されるラマンスペクトルの1360cm-1付近のピークの半値幅の値が180~220cm-1である、炭素質材料を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-003000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された炭素質材料では、窒素原子含有量が1.0質量%未満であり、窒素原子の含有量が少ないため、十分な充放電容量および充放電効率を得ることが困難である。また、リチウムイオン二次電池の車載用途などへの適用が検討され、リチウムイオン二次電池のさらなる充放電容量の高容量化が求められている。また、短時間で充電できるように充放電効率の向上も求められている。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、優れた充放電容量および充放電効率を有するリチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池およびリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するため、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材料の一様態は、
8at%以上14at%以下の窒素を含有する窒素ドープカーボンを含む、
ことを特徴とする。
【0008】
本発明の目的を達成するため、本発明に係るリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法の一様態は、
窒素を含むネットワーク系高分子を熱分解して、窒素ドープカーボンを得る加熱工程を備える、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた充放電容量および充放電効率を有するリチウムイオン二次電池用負極材料、リチウムイオン二次電池およびリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係るリチウムイオン二次電池用負極材料を示す図である。
図2】実施の形態に係るリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法を示すフローチャートである。
図3】実施例に係るリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法を説明する図である。
図4】実施例に係るリチウムイオン二次電池用負極材料の加熱プロファイルを説明する図である。
図5】(a)および(b)は、実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料の元素分散型X線分光法によるマッピングを示す図である。
図6】(a)および(b)は、実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料の元素分散型X線分光法によるマッピングを示す図である。
図7】(a)および(b)は、実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料のX線光電子分光法によるスペクトルを示す図である。
図8】(a)および(b)は、実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料のX線光電子分光法によるスペクトルを示す図である。
図9】(a)および(b)は、それぞれ、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料の熱重量分析を示す図である。
図10】(a)および(b)は、それぞれ、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料のX線回折図である。
図11】(a)および(b)は、実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料のTEM画像であり、(c)は格子縞を示す図であり、(d)はTEM画像をフーリエ変換した図であり、(e)はd間隔を示す図であり、(f)は、図11(a)の逆フーリエ変換画像であり、(g)はSAEDパターンを示す図であり、(h)は明視野像を示す図であり、(i)および(j)は、それぞれ炭素(C)および窒素(N)の分布を示す図である。
図12】(a)および(b)は、実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料のTEM画像であり、(c)は格子縞を示す図であり、(d)はTEM画像をフーリエ変換した図であり、(e)はd間隔を示す図であり、(f)は、図12(a)の逆フーリエ変換画像であり、(g)はSAEDパターンを示す図であり、(h)は明視野像を示す図であり、(i)および(j)は、それぞれ炭素(C)および窒素(N)の分布を示す図である。
図13】(a)および(b)は、それぞれ、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料のラマンスペクトルを示す図である。
図14】(a)および(b)は、それぞれ、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
図15】(a)および(b)は、それぞれ、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料の定電位インピーダンス分光法の測定結果を示す図である。
図16】(a)は、実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料を使用したアノード半電池の速度実験を示す図であり、(b)は長期サイクル実験を示す図であり、(c)は電位対容量曲線を示す図であり、(d)はdQ/dVプロットを示す図である。
図17】(a)は、実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料を使用したアノード半電池の速度実験を示す図であり、(b)は長期サイクル実験を示す図であり、(c)は電位対容量曲線を示す図であり、(d)はdQ/dVプロットを示す図である。
図18】(a)および(c)は、実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料を使用したアノード半電池のDEISプロファイルを示す図であり、(b)および(d)は、アノード半電池のRSEIおよびRCTを示す図である。
図19】(a)および(c)は、実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料を使用したアノード半電池のDEISプロファイルを示す図であり、(b)および(d)は、アノード半電池のRSEIおよびRCTを示す図である。
図20】実施例に係るリチウムイオン二次電池用負極材料のインピーダンスを評価するための回路を示す図である。
図21】(a)および(b)は、それぞれ、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
図22】(a)および(b)は、それぞれ、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料のサイクリックボルタモグラムから得られたデータを使用して線形適合をプロットした図である。
図23】(a)および(b)は、それぞれ、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料の容量性および拡散性挙動の寄与を算出する図であり、(c)および(d)は、それぞれ、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料の容量性および拡散性挙動の寄与を示す図である。
図24】(a)および(b)は、それぞれ、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料のb値を求める図である。
図25】(a)および(b)は、実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料の充放電実験を示す図であり、(c)および(d)は、実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料の充放電実験を示す図である。
図26】(a)~(d)は、それぞれ実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料のサイクル後のC 1s、N 1s、O 1sおよびP 1sのXPSスペクトルを示す図である。
図27】(a)~(d)は、それぞれ実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料のサイクル後のC 1s、N 1s、O 1sおよびP 1sのXPSスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態に係るリチウムイオン二次電池用負極材料およびリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法を図面を参照しながら説明する。
【0012】
実施の形態に係るリチウムイオン二次電池用負極材料100は、図1に示すように、8at%以上の窒素(N)と、炭素(C)と、を含有する窒素ドープカーボンを含む。リチウムイオン二次電池用負極材料100は、リチウムイオン二次電池にアノード(負極)活物質として用いられる。
【0013】
窒素ドープカーボンは、8at%以上14at%以下の窒素(N)および炭素(C)を含むことが好ましい。窒素ドープカーボンは、窒素(N)および炭素(C)以外に、吸着されたCOなどにより、酸素(O)を含む。この場合、炭素(C)の含有量は、例えば、78at%以上88at%以下である。酸素(O)の含有量は、例えば、3at%以上7at%以下である。また、窒素ドープカーボンに含まれる窒素(N)は、グラファイト窒素の形態と、ピリジン窒素の形態と、により含まれる。
【0014】
窒素ドープカーボンの層間距離は、好ましくは、0.34nm以上0.35nm以下である。窒素ドープカーボンの層間距離は、カーボンが窒素を含むことで、グラファイト(窒素を含まない炭素)の相関距離である0.33nmより有意に大きい。窒素ドープカーボンは、後述するように、窒素(N)を含むネットワーク系高分子を熱分解して得られる。
【0015】
リチウムイオン二次電池用負極材料100のラマンスペクトルは、1350cm-1近傍と、1570cm-1近傍とにおいて、ラマンシフトで2つのピークを示す。この2つのピークは、それぞれDバンド(欠陥誘起モード)とGバンド(グラファイト)である。1350cm-1近傍の強度I、1570cm-1近傍の強度Iとし、好ましくは、強度比I/Iは、0.9以上1以下である。Dバンドが表れるのは、リチウムイオン二次電池用負極材料100が、8at%以上の窒素(N)を含有することによると考えられる。ラマンスペクトルの詳細は、後述する実施例で説明する。
【0016】
リチウムイオン二次電池用負極材料100は、窒素ドープカーボンに加えて、PVDF(PolyVinylidene DiFluoride)またはアセチレンブラックを含んでもよく、その他の化合物または元素を含んでもよい。
【0017】
リチウムイオン二次電池は、リチウムイオン二次電池用負極材料100を負極活物質に含み、例えば、陽極活物質にLiNCAO(LiNi0.80Co0.15Al0.05)を含む。電解液には、例えば、エチレンカーボネートと、ジエチレンカーボネートと、の混合液を用いる。
【0018】
つぎに、上記構成を有するリチウムイオン二次電池用負極材料100の製造方法について説明する。
【0019】
リチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法は、図2に示すように、合成工程(ステップS101)と、加熱工程(ステップS102)と、精製工程(ステップS103)と、を備える。
【0020】
合成工程(ステップS101)では、窒素(N)を含むネットワーク系高分子を合成する。窒素(N)を含むネットワーク系高分子は、カルボニル基を有する有機化合物と、有機窒素化合物と、を合成して得られる。窒素(N)を含むネットワーク系高分子は、イミン構造、トリアジン環またはアミノ基のうちすくなくともいずれか1つを含むことが好ましい。合成工程(ステップS101)では、窒素(N)を含むネットワーク系高分子として、より好ましくは、イミン構造を有するネットワーク系高分子を合成する。カルボニル基を有する有機化合物は、複数のカルボニル基および環状炭化水素を含むことが好ましい。有機窒素化合物は、イミン構造、トリアジン環またはアミノ基のうち少なくともいずれか1つを含むことが好ましく、トリアジン環およびアミノ基の両方を含むことがより好ましい。例えば、合成工程(ステップS101)では、アセナフトキノンまたは1,10-フェナントロリン-5,6-ジオンのうち少なくとも1つを含むカルボニル基を有する有機化合物と、メラミンまたはビスマルクブラウンのうち少なくとも1つを含む有機窒素化合物と、を用いて、窒素を含むネットワーク系高分子を合成してもよい。より具体的には、カルボニル基を有する有機化合物であるアセナフトキノンと、有機窒素化合物であるメラミンと、を溶液中に分散させ、イミン構造を有するネットワーク系高分子であるビスイミノアセナフテン(Bis Imino AceNaphthene:BIAN)構造を有するポリマーを合成する。
【0021】
加熱工程(ステップS102)では、合成工程(ステップS101)において得られた窒素(N)を含むネットワーク系高分子を加熱して熱分解する。これにより、無機物である窒素ドープカーボンを得ることができる。加熱温度は、窒素(N)を含むネットワーク系高分子を熱分解できる温度であればよく、好ましくは600℃以上800℃以下である。加熱中の雰囲気は不活性ガスであり、具体的には窒素(N)またはアルゴン(Ar)を含む。加熱プロファイルは、例えば、室温から10℃/minで200℃まで昇温し、200℃で20分程度保持し、10℃/minで600℃以上800℃以下まで昇温する。その温度で、窒素(N)を含むネットワーク系高分子が熱分解される時間保持し、その後室温まで冷却する。これにより、窒素ドープカーボンが得られる。
【0022】
精製工程(ステップS103)では、加熱工程(ステップS102)において、熱分解された窒素(N)を含むネットワーク系高分子である窒素ドープカーボンを精製する。具体的には、脱イオン水中で超音波処理して、非晶質炭素および炭酸塩の不純物を除去する。また、超音波処理に続いて、真空中で乾燥させ水分を除去し、細かく粉砕する。以上により、窒素ドープカーボンを含むリチウムイオン二次電池用負極材料100を得ることができる。
【0023】
以上のように、本実施の形態のリチウムイオン二次電池用負極材料100の製造方法によれば、窒素(N)を含むネットワーク系高分子を熱分解することで、窒素(N)を含有する窒素ドープカーボンを得ることが可能である。また、本実施の形態のリチウムイオン二次電池用負極材料100は、8at%以上の窒素(N)を含有する窒素ドープカーボンを含むことで、優れた充放電容量および充放電効率を有するリチウムイオン二次電池用負極材料100を提供することができる。詳細には、窒素ドープカーボンに含まれる窒素(N)は、電気陰性度が高いため、Liイオンの固定部位を提供することにより、窒素ドープカーボンは優れた電気化学的活性を有することができる。また、窒素ドープカーボンの層間距離は、カーボンが窒素(N)を含むことで、グラファイトの相関距離より有意に大きくなり、Liイオンの移動速度を大きくできる。また、窒素(N)ドーピングは炭素に欠陥サイトを導入し、Liイオン吸着に対して高い親和性を示す。このため、窒素ドープカーボンを含むリチウムイオン二次電池用負極材料100は、高い充放電容量、長いサイクル寿命、高い電流密度、急速充電能力を得ることができる。なお、製造方法および効果等は、後述する実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例0024】
以下、リチウムイオン二次電池用負極材料100の効果を実施例により実証した。この実施例は、本開示の一実施態様を示すものであり、本開示は何らこれらに限定されるものではない。
【0025】
まず、実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料100の製造方法について説明する。
【0026】
合成工程(ステップS101)では、下記(A)に示すアセナフトキノンと、下記(B)に示すメラミンと、を用いて、窒素(N)を含むネットワーク系高分子として、イミン構造を有するネットワーク系高分子であるビスイミノアセナフテン(BIAN)構造を有する、図3に示すポリマーPを合成した。具体的には、アセナフトキノン(546mg、3mmol)およびメラミン(252mg、2mmol)を、1:1の1,4ジオキサンおよびメシチレン約5ml中に分散させ、0.4mlの酢酸を懸濁液に添加した。次いで、混合物を105℃で約72時間還流した。反応後、暗黄色の沈殿物が得られた。得られた沈殿物を多量のTHFおよびDMFで洗浄し、真空下80℃で約12時間乾燥させた。得られた収率は約74%であった。アセナフトキノン、メラミン、1,4ジオキサンおよびメシチレンは、東京化成工業社製のものを用いた。
【0027】
【化1】
【0028】
加熱工程(ステップS102)では、合成工程(ステップS101)において得られたBIAN構造を有するポリマーPを不活性ガスである窒素雰囲気中で加熱した。ビスイミノアセナフテン構造を有するポリマーPを加熱すると、熱分解され、図3に示すように、600℃で加熱したサンプルS600と、800℃で加熱したサンプルS800と、を合成した。800℃で加熱した場合の加熱プロファイルを、図4に示す。600℃で加熱した場合も800℃で加熱した加熱プロファイルと同様に実施した。
【0029】
精製工程(ステップS103)では、加熱工程(ステップS102)において、加熱されたサンプルS600、S800を脱イオン水中で超音波処理して、サンプルS600、S800中の非晶質炭素および炭酸塩の不純物を除去した。超音波処理に続いて、真空下80℃で12時間乾燥させて水を除去した。このようにして得られたサンプルS600、S800を、乳鉢と乳棒を使用して細かく粉砕した。以上のように600℃で加熱したサンプルS600を実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料100とした。また、800℃で加熱したサンプルS800を実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料100とした。
【0030】
つぎに、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100の特性を評価した。
【0031】
(1)特性評価
(1.1)元素分散型X線分光法(EDX)
実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料100のEDXマッピングを図5(a)および図5(b)に示す。窒素含有量は、サンプル全体で均一であることがわかった。表1に示すように、実施例1に含まれる炭素(C)は、78.82at%(75.32質量%)であり、窒素(N)は、14.35at%(15.99重量%)であり、高濃度の窒素が含まれていることがわかった。さらに、サンプル上に吸着されたCOにより、6.83at%(8.69質量%)の酸素が検出された。
【0032】
【表1】
【0033】
実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料100のEDXマッピングを図6(a)および図6(b)に示す。窒素含有量は、サンプル全体で均一であることがわかった。表2に示すように、実施例2に含まれる炭素(C)は、88.24at%(86.02質量%)であり、窒素(N)は、8.0at%(9.09重量%)であり、高濃度の窒素(N)が含まれていることがわかった。さらに、サンプル上に吸着されたCOにより、3.7at%(4.8質量%)の酸素が検出された。
【0034】
【表2】
【0035】
(1.2)X線光電子分光法(XPS)
実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料100のピーク分解されたC 1sのXPSスペクトルを図7(a)に示す。このスペクトルは、C=C、C=N/C-N、およびC=Oグループにそれぞれ対応する284.6eV、285.59eV、287.98eVにピークを示した。図7(b)に示すピーク分解されたN 1sのスペクトルは、ピリジン窒素とグラファイト窒素にそれぞれ対応する398.48eVと399.68eVに2つのピークを示した。なお、Atomic percentage(at%)の算出には式1を用いた。
【0036】
【数1】
【0037】
上記の式1から、窒素(N)の原子百分率は、14at%であることがわかった。これは、EDXスペクトルでの観察結果に近似している。存在する窒素(N)含有量のうち、63%がグラファイト窒素の形態であり、37%がピリジン窒素の形態であった。前述のように、サンプル中の窒素(N)の量が比較的多いことは、電気化学的性能が優れていることを示唆していると考えられる。
【0038】
実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料100のピーク分解されたC 1sのXPSスペクトルを図8(a)に示す。このスペクトルは、C=C、C=N/C-N、およびC=Oグループにそれぞれ対応する284.6eV、286.3eV、286.9eVにピークを示した。図8(b)に示すピーク分解されたN 1sのスペクトルは、ピリジン窒素とグラファイト窒素にそれぞれ対応する398.46eVと400.5eVに2つのピークを示した。なお、上記の式1により窒素(N)の原子百分率は、10at%であることがわかった。これは、EDXスペクトルでの観察結果に近似している。存在する窒素(N)含有量のうち、68%がグラファイト窒素の形態であり、33%がピリジン窒素の形態であった。より低い窒素含有量の効果は、後述する電気化学的研究により実証される。
【0039】
(1.3)熱重量分析
実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100の空気中におけるTGA(ThermoGravimetric Analysis)曲線をそれぞれ図9(a)および図9(b)に示す。実施例1および2とも、吸着ガスまたは水分に対応して、90℃まで4%~5%の損失を示し、その後、425℃までNがドープされた炭素材料の酸化に対応する分解が観察された。580℃では、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100は、完全に酸化されており、急激な変化が見られた。実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100のDTA(Differential Thermal Analysis)曲線は、425℃から始まる吸熱ピークを示し、その後急速な酸化を示す鋭いピークが580℃まで観察された。両方の材料のDTAピークの曲線下面積は類似していることが観察され、酸化エンタルピーが材料で類似していることが示された。したがって、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100は、組成の違いに関係なく同様の熱特性を示した。これは、窒素含有量のわずかな変化が熱特性に大きな影響を与えないことを意味すると考えられる。
【0040】
(1.4)X線回折
実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100のX線回折図を、それぞれ図10(a)および図10(b)に示す。実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料100は、0.35nmの層間距離に対応する25.7°で比較的強度が低く、広いピークを示した。実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料100は、0.34nmの層間距離に対応する26.2°に比較的強くて幅の狭いピークを示し、12.5°に小さいピークを示した。両方のケースで観察された広いピークは、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100の層の配置が本質的に乱層的であることを示している。実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100は、結晶構造のわずかな変化に関係なく、同様の熱的挙動を示したことに注意することが重要である。したがって、加熱工程(ステップS102)における加熱温度の違いによって生じた微結晶化度の違いが、材料の外因性特性に影響を与えなかったことを示していると考えられる。
【0041】
【表3】
【0042】
(1.5)TEM(Transmission Electron Microscope)画像
実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100のTEM画像等をそれぞれ図11および図12に示す。実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100の層状形態を、それぞれ図11(a)、図11(b)、図12(a)および図12(b)に示す。図11(a)と図12(a)から、グラファイトのような規則正しい材料とは異なり、層の寸法が均一でないことがわかった。実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100の格子縞を、それぞれ図11(c)および図12(c)に示す。実施例1および2の両方の配置は、本質的に乱層的であることがわかった。実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100のd間隔を理解するために、逆フーリエ変換を実行し、それぞれ図11(d)および図12(d)に示す。図11(e)および図12(e)に示すように、実施例1および2のd間隔は、それぞれ0.355nm、0.344nmと計算され、X線回折で観察された層間距離とほぼ一致していた。ただし、計算されたd間隔は短い範囲のものであり、そのような拡張された層状の性質はより少ない領域で観察されたことに注意することが重要である。図11(f)および図12(f)は、それぞれ図11(a)および図12(a)の逆フーリエ変換画像を示しており、実施例1よりも実施例2の方が、微結晶性において優れていることを示した。実施例1および実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料100のSAED(Selected Area Electron Diffraction)パターンを、それぞれ図11(g)および図12(g)に示す。両方のパターンは、材料の非晶質の性質により、拡散的で広いリングを示した。実施例1および実施例2の明視野像を図11(h)および図12(h)に示す。元素分布を理解するために、図11(h)および図12(h)に示されているスポットでEDXを実施し、図11(i)、図11(j)、図12(i)および図12(j)に示すように、窒素(N)の分布が炭素(C)の分布と均一であることが観察された。
【0043】
(1.6)ラマン分光法
実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料100のラマンスペクトルは、図13(a)に示すように、~1350cm-1と~1570cm-1のラマンシフトで2つのピークを示した。この2つのピークは、それぞれDバンド(欠陥誘起モード)とGバンド(グラファイト)である。強度比I/Iは、実施例1で0.99と計算され、誘導された欠陥の程度が高いことを示した。また、実施例1の2Dバンドに対応する~2450cm-1の小さなバンドが観察された。2Dバンドの弱い強度は、実施例1の層の積層が少ないことを示唆している。さらに、実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料100のラマンスペクトルは、図13(b)に示すように、それぞれDバンドとGバンドに対応する~1350cm-1と~1570cm-1の同様のラマンシフトで2つのピークを示した。強度比I/I比は、実施例2で0.91と計算され、強度比が比較的低いことは、実施例2の性質が比較的整理されていることを示した。実施例1よりも実施例2の2Dバンドの強度が比較的高いことは、実施例2の層状配置が優れていることを示した。
【0044】
(2)電気化学的特性評価
(2.1)CV(Cyclic Voltammetry)
実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100を活物質として用いたアノード半電池の0.1mV/sでのサイクリックボルタモグラムを、それぞれ図14(a)および図14(b)に示す。実施例1のアノードと実施例2のアノードを備えた両方のアノード半電池のサイクリックボルタモグラムは、電解質の不可逆的還元に対応する0.65Vでの還元ピークを示した。実施例2のアノード半電池のCV(Cyclic Voltammetry)では、還元ピークは0.65Vでそれほど強くないことが観察された。
【0045】
(2.2)定電位インピーダンス分光法
実施例1および2のアノード半電池のPEIS(Potentiostatic electrochemical impedance spectroscopy)を、それぞれ図15(a)および図15(b)に示す。実施例1では、サイクリックボルタンメトリー前のアノードの抵抗は、425Ωであることがわかった。サイクリックボルタンメトリーの後、アノード抵抗はSEI(Solid Electrolyte Interphase)の形成により減少し、86Ωであることがわかった。実施例2の場合、サイクリックボルタンメトリー前のアノードの抵抗は675Ωであり、サイクリックボルタンメトリーの後、アノード抵抗は減少し、116Ωであることがわかった。実施例2の場合、実施例1よりアノード抵抗がわずかに高いことがわかった。
【0046】
(2.3)定電流充放電実験
実施例1のアノードを備えたアノード半電池で、定電流充放電の実験を実施した。実施例1のアノードを使用したアノード半電池の速度実験を図16(a)に示す。425mAh/g、280mAh/g、235mAh/g、191mAh/g、172mAh/g、110mAh/g、52mAh/gの可逆容量は、それぞれ50mA/g、200mA/g、400mA/g、750mA/g、1000mA/g、2000mA/g、4000mA/gで観察された。実施例1のアノード半電池の長期サイクル実験を図16(b)に示す。250mAh/g、140mAh/gおよび120mAh/gの可逆容量が、それぞれ2000、1500および1000サイクルで1000mA/g、2000mA/gおよび4000mA/gの電流密度で観察された。クーロン効率は、3つのセルすべてで100%であることがわかった。容量保持率は、1000mA/gでは2000サイクルで90%、2000mA/gでは1500サイクルで82%、4000mA/gでは1000サイクルで79%であった。実施例1のアノードを使用したアノード半電池の電流密度1000mA/gでの電位対容量曲線を図16(c)に示す。各サイクルのプロットは、最初のサイクルと比較して容量がわずかに減少していることが示された。これは、活物質の容量保持率が高いことを示している。さらに、図16(c)に示すデータを使用して、図16(d)に示すdQ/dVプロットを作成した。容量の寄与は、容量性材料の特徴である特定の酸化還元電位がないことを示す広い曲線が観察され、10mVから1.0Vの電位領域から主に観察された。dQ/dVプロットは、1Vまでの領域と比較して狭くなることが観察された。これは、比較的低いが実質的な容量の寄与を示唆している。
【0047】
また、実施例2のアノードを使用したアノード半電池の定電流充放電の実験を実施した。図17(a)に示すように、440mAh/g、365mAh/g、252mAh/g、200mAh/g、177mAh/g、122mAh/g、65mAh/gの可逆容量が、それぞれ50mA/g、200mA/g、400mA/g、750mA/g、1000mA/g、2000mA/g、4000mA/gの電流密度で観察された。実施例2のアノード半電池の長期サイクル実験を図17(b)に示す。260mAh/g、105mAh/g、86mAh/gの可逆容量が、1000mA/g、2000mA/gおよび4000mA/gの電流密度でそれぞれ500、1500および2000サイクルで観察された。クーロン効率は、3つのセルすべてで100%であることがわかった。容量保持率は、1000mA/gでは500サイクルで91%、2000mA/gでは1500サイクルで92%、4000mA/gでは2000サイクルで99%であった。実施例2のアノードを使用したアノード半電池の1000mA/gの電流密度での電位対容量曲線を図17(c)に示す。各サイクルのプロットは、最初のサイクルと比較して容量がわずかに減少していることを示した。これは、活物質の容量保持率が高いことを示している。さらに、図17(c)に示したデータを使用して、図17(d)に示すdQ/dVプロットを作成した。容量への寄与は、主に10mVから1.0Vの電位領域から観察され、容量性材料の特徴である特定の酸化還元電位がないことを示す広い曲線が観察された。dQ/dVプロットは、1Vまでの領域と比較して狭くなることが観察された。これは、比較的低いが実質的な容量の寄与を示唆している。ただし、実施例1のアノード半電池のdQ/dVプロットとは異なり、1.0V後の減少はそれほど急速ではないことがわかった。1.0Vの後でも、曲線はかなり広いままであり、実施例1の対応物と比較して、1.0Vから2.1Vの間のリチウム貯蔵に対して材料がより活性であることを示唆した。また、実施例1のアノード半電池が示す可逆容量は、実施例2のアノード半電池よりわずかに高くなっていた。ただし、実施例1のハーフセルの場合の低容量保持は、より優れた容量の利点を相殺した。実施例2のアノード半電池の場合、より高い電流での容量保持率は比較的高くなった。これは、充電時間が80秒である4000mA/gのような高電流では、実施例2の方が適しているように思われることを示唆した。
【0048】
(2.4)DEIS(Dynamic Electrochemical Impedance Spectroscopy)
実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100を活物質として用いたアノード半電池のDEISと電荷移動抵抗とSEI抵抗の変化をそれぞれ、図18および図19に示す。リチウム化および脱リチウム化中の各電位ステップでのナイキスト線図を図18(a)および図19(a)に示す。ナイキストプロットプロファイルは、ポテンシャルの減少に伴い、ワールブルグ型拡散抵抗が減少することを示した。図16(d)および図17(d)に示すdQ/dVプロットで観察されるように、両方のアノードの最大リチウム化は1V後に発生した。DEISプロファイルでは、1Vを超えるとアノードのリチウム貯蔵がより有利になるという仮説が支持された。さらに、アノードの内部抵抗に対応する半円領域は、両方の場合において電位と共に減少することが観察された。また、インピーダンスに寄与する物理的要素を理解するために図20に示す回路を使用した。
【0049】
図18(b)および図18(d)に示すように、実施例1のアノード半電池のRSEIは、12~20Ωの範囲であり、実施例1のアノードを有するアノード半電池のRCTは、20~100Ωの範囲であることが観察された。これにより、電荷移動抵抗は電位と共に減少することが観察された。10mVから1Vへの電荷移動抵抗は、リチウム化と脱リチウム化に必要な活性化エネルギーの違いにより、脱リチウム化よりもリチウム化の場合に高いことが観察された。SEI抵抗は、リチウム化と脱リチウム化の両方のケースで低いことも観察された。図18(a)および図18(c)は、それぞれリチウム化および脱リチウム化それぞれのサイクルにおける実施例1のアノードを有するアノード半電池のDEISプロファイルを示す。図19(a)および図19(c)は、それぞれリチウム化および脱リチウム化それぞれのサイクルにおける実施例2のアノードを有するアノード半電池のDEISプロファイルを示す。実施例1のアノード半電池で観察されるように、ワールブルグ型拡散抵抗は、電位とともに減少することが観察された。図19(b)および図19(d)に示す電荷移動抵抗とSEI抵抗は、図20に示す回路を使用して評価された。RCTとRSEIの両方が電位と共に減少することが観察された。実施例1の場合の観察とは異なり、リチウム化と脱リチウム化の間の電荷移動抵抗は同等であることが観察された。これは、実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料100でより良い拡散経路が形成され、それによって電荷移動抵抗が減少することを示唆した。
【0050】
(2.5)速度論的実験
実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100を用いたアノード半電池の様々なスキャン速度でのサイクリックボルタモグラムをそれぞれ、図21(a)および図21(b)に示す。実施例1のアノード半電池は、実施例2のアノード半電池と比較して、より高い過電圧を示した。この観察結果は、実施例1よりも実施例2の方が、容量保持率において比較的優れていることと一致している。さらに、式2に示すrandles-sevik方程式をアノードの拡散係数を評価するために使用した。
【0051】
【数2】
【0052】
ここで、iはピーク電流、nは移動した電子またはイオンの数、Dは拡散係数、Aは電極の面積、Cは電解質の濃度、およびθは走査速度である。図22(a)および図22(b)に示すように、さまざまなスキャン速度でのサイクリックボルタモグラムから得られたデータを使用して線形適合をプロットし、そこから実施例1および実施例2の拡散係数が、それぞれ2.73*10-9cm/sおよび2.32*10-9cm/sであると評価された。次の式3および式4は、容量性および拡散性の挙動の寄与を評価するために使用した。
【0053】
【数3】
【0054】
【数4】
【0055】
ここで、icapとidiffは容量性電流と拡散性電流である。また、kcapとkdiffは、それぞれ静電容量と拡散の比例定数である。式4を整理すると、次の式5になる。
【0056】
【数5】
【0057】
式5を使用して、i/θ0.5対θ0.5の線形適合をプロットすることにより、図23(a)および図23(b)に示すように、容量性および拡散性挙動の寄与を計算した。得られた傾きと切片の値を使用して、式4に示すように容量性と拡散性の挙動を計算した。実施例1のアノード半電池は、図23(c)に示すように、主に容量性挙動を示したが、実施例2のアノード半電池は、図23(d)に示すように、高い容量性挙動とともに拡散挙動の実質的な寄与を示した。式3と式4に見られるように、ピーク電流とスキャンレートの関係は式6に示すべき乗則に一般化できる。
【0058】
【数6】
【0059】
ここで、iはピーク電流、θはスキャンレート、b値はスキャンレートの指数である。サイクリックボルタンメトリー中に電池から得られる電流応答は、適用されるスキャン速度と電荷蓄積のメカニズムに大きく依存する。電荷蓄積がバルク制御されている場合、スキャン速度の増加は電流の増加と直接相関しない。バルク制御された材料では、b値が0.5であることが観察される。表面制御された電荷蓄積では、スキャン速度の増加は電流の増加と直接相関し、b値は1.0であることが観察される。式6を使用して、実施例1および実施例2について、それぞれ、図24(a)および図24(b)に示すように、logiとlogθの間の線形適合をプロットすることによりb値を決定した。得られた勾配、すなわちb(指数)値は、実施例1のアノード半電池および実施例2のアノード半電池の場合、それぞれ0.91および0.81であることがわかった。これは、実施例1が容量性挙動の傾向にあるのに対し、実施例2は容量と拡散の間でバランスの取れた連携を示していることを示唆している。
【0060】
速度論的実験の結果により、実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料100は、大部分が容量性の材料であるのに対し、実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料100は、本質的に容量性であることに加えて、拡散挙動も示すことを示唆していた。これは、実施例1と比較して実施例2の結晶性が高いためと考えられる。実施例2も優れた容量保持率を示したが、実施例1はわずかに優れた容量を示したが、容量保持率は低かった。
【0061】
(2.6)全電池実験
実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100の実際の用途における能力を理解するために、LiNCAO(LiNi0.80Co0.15Al0.05)材料をカソードとして使用してフルセルを作成した。最初にフルセル作成するために、実施例1および実施例2の電極を8.5mg/cmの質量担持でアノード半電池を準備した。次いで、LiNCAO活物質を有するカソード半電池およびアノード半電池を、0.25mA/cmの電流でプレサイクルした。0.5mA/cmでの実施例1のアノードと実施例2のアノードを使用したフルセルの充放電実験を図25(a)~図25(d)に示す。実施例1のアノードを備えたフルセルは、50サイクル後に1.01mAhの可逆容量を提供し、実施例2のアノードを備えたフルセルは、50サイクル後に1.65mAhの可逆容量を提供した。フルセル構成では、実施例2は、ハーフセルの場合にも見られる安定性の点で、実施例1よりも優れた性能を発揮することが観察された。
【0062】
(2.7)サイクル後のXPS
実施例1および実施例2のアノードの場合、それぞれ4000mA/gで1500サイクルおよび2000サイクルされた半電池は、Arフィールドグローブボックス(<0.5ppm HOおよび<0.5ppm O)で解体された。解体後に得られたアノードについてXPS分析を行った。サイクル後の実施例1のアノードのC 1s、N 1sおよびO 1sのXPSスペクトルを、それぞれ図26(a)~図26(c)に示し、サイクル後の実施例2のアノードのC 1s、N 1sおよびO 1sのXPSスペクトルを、それぞれ図27(a)~図27(c)に示す。XPSでのX線の浸透深さは5nm程度であった。XPSで窒素が検出されたという事実は、形成されたSEIの厚さが5nmより小さいことを示した。
【0063】
サイクル後の実施例1のアノードのC 1sスペクトルは、C-Li、C=C、C=N/C-N、C=O、C-0-CおよびLiCOにそれぞれ対応する283.8eV、284.6eV、285.3eV、286.1eV、287eVおよび289.4eVにピークを示した。サイクル後の実施例1のアノードのN 1sスペクトルは、それぞれN-LiとC=Nに対応する397.8eVと399.8eVにピークを示した。サイクル後の実施例1のアノードのO 1sスペクトルは、C=O、C-0-C、LiCO、およびLiOに対応する 530.3eV、531.0eV、531.9eVおよび533.0eVにピークを示した。サイクル後の実施例1のP 1sスペクトルは、図26(d)に示すように、LiPFに対応する136.5eVにピークを示した。XPSの結果は、サイクル後の実施例1の場合、LiCO、LiOおよびLiPFがSEIの成分であることを示唆した。
【0064】
サイクル後の実施例2のアノードのC 1sスペクトルは、C-Li、C=C、C=N/C-N、C=O、C-0-CおよびLiCOにそれぞれ対応する283.8eV、284.6eV、285.2eV、286.1eV、287.2eVおよび289.4eVにピークを示した。サイクル後の実施例2のアノードのN 1sスペクトルは、N-Liに対応する399.5eVに単一のピークを示した。サイクル後の実施例2のアノードの O 1sスペクトルは、C-0-C、LiCO、およびLiOに対応する531.0eV、531.8eVおよび532.8eVにピークを示した。サイクル後の実施例2のP 1sスペクトルは、図27(d)に示すように、LiPFに対応する137.5eVにピークを示した。実施例1の場合に観察されたように、サイクル後の実施例2のアノードの場合のSEIの成分は、LiCO、LiOおよびLiPFであることがわかった。
【0065】
(3)結論
上述したように、実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100を合成するため、イミン構造を有するネットワーク系高分子を炭素と窒素の単一源として使用し、600℃と800℃の2つの異なる温度で合成した。これにより、異なる窒素含有量の実施例1と実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料100が得られた。800℃で合成された実施例2のリチウムイオン二次電池用負極材料100の窒素含有量は8at%であることがわかった。これは、合成温度が600℃である実施例1のリチウムイオン二次電池用負極材料100で観察された14at%の窒素よりも少ない値であった。実施例2は、上述したTEM画像で見られるように実施例1よりも優れた微結晶性を有することが観察された。それに対応して、実施例2のアノード半電池は、実施例1のアノード半電池よりも高い割合の拡散ベースの電荷蓄積を示した。より高い静電容量の寄与とより高い窒素含有量のおかげで、実施例1のアノード半電池は、実施例2のアノード半電池と比較してより優れた比容量を示した。ただし、材料の容量保持率は、実施例2の方が優れていることが観察された。したがって、以上のように、優れた充放電容量および充放電効率を有する実施例1および2のリチウムイオン二次電池用負極材料100を得ることができることがわかった。また、リチウムイオン二次電池用負極材料100は、600℃で合成されたものと800℃で合成されたものを混合してもよいと考えられる。また、リチウムイオン二次電池用負極材料100は、イミン構造を有するネットワーク系高分子を熱分解できる温度で加熱することで600℃または800℃以外の温度で加熱して得られると考えられる。また、リチウムイオン二次電池用負極材料100は、イミン構造を有するネットワーク系高分子に限らず、窒素(N)を含むネットワーク系高分子を熱分解することでも同様に得られると考えられる。また、合成工程(ステップS101)で、アセナフトキノンとメラミンを用いて、窒素(N)を含むネットワーク系高分子として、BIAN構造を有する、ポリマーPを合成した例を示したが、カルボニル基を有する有機化合物と有機窒素化合物とを用いてポリマーを合成しても同様の結果が得られると考えられる。例えば、カルボニル基を有する有機化合物として、1,10-フェナントロリン-5,6-ジオンと、有機窒素化合物として、ビスマルクブラウンと、を用いて合成しても同様の結果が得られると考えられる。
【0066】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0067】
N…窒素
C…炭素
P…ポリマー
S600、S800…サンプル
100…リチウムイオン二次電池用負極材料
図1
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