(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081921
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】防カビ剤
(51)【国際特許分類】
A01N 65/06 20090101AFI20240612BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
A01N65/06
A01P3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195509
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳本 健人
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA03
4H011BA01
4H011BB22
4H011BC22
4H011DA02
(57)【要約】
【課題】天然由来の材料を用いて優れた防カビ効果を有する揮散性防カビ剤を提供すること。
【解決手段】マツ科モミ属の樹木の木質部および/または葉から、精油および水分の少なくとも一部が除去された材料を含有することを特徴とする揮散性防カビ剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツ科モミ属の樹木の木質部および/または葉から、精油および水分の少なくとも一部が除去された材料を含有することを特徴とする揮散性防カビ剤。
【請求項2】
前記材料が、マツ科モミ属の樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波照射して加熱することにより、精油および水分の少なくとも一部が除去されたものである請求項1記載の揮散性防カビ剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮散性防カビ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、物品の保存の際には防カビ剤が使用されており、例えば、衣類や光学製品、書類、書籍、書画、骨董品の防カビ剤として、開口部を有する容器とその内部に配置された蒸散性防カビ剤と開口部を閉鎖するガス透過性フィルムとからなる防カビ部材が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、特に繊維製品、毛皮製品、人形等の保存用には、防カビ剤と混合又は併用して、防虫成分が使用されている。例えば、防虫成分としての蒸散性ピレスロイドとともに、O-フェニルフェノール、p-クロローm-キシレノール、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、イソチオシアン酸アリルなどの防カビ剤を配合することが記載されている(特許文献2)。また、気化性防菌防カビ剤としてN-n-ブチルカバミン酸-3-ヨード-2-プロピニルエステルが記載されており、さらには、樟脳、パラジクロロベンゼン、ナフタレン、エンペントリン等の揮発性防虫剤と併用することについても開示されている(特許文献3)。
【0004】
一方で、後継者不足や、木材価格の下落により、山林を手入れが行き届かなくなり、その荒廃が大きな問題とされている。この山林の手入れは、主に間伐と枝打ちであるが、間伐材や、枝打ちで落とされた枝葉に何の経済的価値もなく、逆に経費がかかるのみであれば、このような手入れがおろそかになるのは当然のことである。間伐等の対象となった木材を加工し、有用資源とする試みが行われている。例えば、間伐材をチップとした後、これを蒸煮し、家畜用の飼料とすることが行われている。
【0005】
そこで近年、間伐等の対象となった木材を加工し、有用資源とする試みが行われている。例えば、間伐材をチップとした後、これを蒸煮し、家畜用の飼料とすることが行われている。
【0006】
また、本発明者らは、このような間伐材の枝葉を有効利用する試みを提案している。例えば、樹木の木質部及び/または葉を、マイクロ波を照射しながら減圧蒸留に付すことにより得られる繊維質部分を有効成分とする有害酸化物除去剤(特許文献4)、樹木の木質部および葉から、精油の一部および水分の一部がマイクロ波照射を行いながら減圧蒸留を行うことにより除去された材料を含有する液体吸収材(特許文献5)、樹木の木質部及び/または葉の減圧マイクロ波水蒸気蒸留処理残渣からなる睡眠の質改善材(特許文献6)などを提案している。しかし、これらの繊維質成分の抗菌・抗カビ性については知られていない。
【0007】
【特許文献1】実開昭61-187303号公報
【特許文献2】特開平11-139903号公報
【特許文献3】特開平5-085909号公報
【特許文献4】特開2015-160154号公報
【特許文献5】特開2018-117598号公報
【特許文献6】特開2022-35493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、天然由来の材料を用いながらも優れた防カビ効果を有する揮散性防カビ剤を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み、防カビ剤について鋭意検索を行ったところ、樹木の木質部および/または葉の一部を乾燥して得られる繊維質成分が防カビ効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、マツ科モミ属の樹木の木質部および/または葉から、精油および水分の少なくとも一部が除去された材料を含有することを特徴とする揮散性防カビ剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の揮散性防カビ剤は、揮散して対象とする空間内において高い防カビ効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】防カビ試験に用いた装置の断面図を示す図である。
【
図2】防カビ試験に用いた装置の平面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の防カビ剤は、マツ科モミ属の樹木の木質部および/または葉から、精油および水分の少なくとも一部が除去された材料を含有することを特徴とする揮散性防カビ剤である。
【0014】
原料となる樹木としては、マツ科モミ属の樹木である。
【0015】
マツ科モミ属の樹木としては、トドマツ、モミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソ、シラベ、バルサムファー、ミツミネモミ、ホワイトファー、アマビリスファー、アオトドマツ、カリフォルニアレッドファー、グランドファー、ノーブルファー等が挙げられる。特にトドマツが好ましい。
【0016】
本発明の防カビ剤において、上記マツ科モミ属の樹木の木質部及び/または葉から、精油の一部および水分の一部が除去された材料を用いる。当該材料は、それに含まれる液体(一般には、精油および水分)の量が、生木、生葉に含まれる液体の量よりも少なく、生木、生葉と比較してより乾燥した状態のものであるが、精油等の残留物(残留油分)が通常存在し、この残留物が持続的な防カビ機能に寄与すると考えられる。
【0017】
当該材料はいずれの方法で得られたものであってよく、例えば、マツ科モミ属の樹木の木質部および/または葉に、溶媒抽出、減圧蒸留、水蒸気蒸留などの抽出ないし蒸留処理を行い、抽出物・蒸留物と分離した残渣物(以下「樹木蒸留等処理残渣」という)を用いることができる。
【0018】
特に、マツ科モミ属の樹木の木質部および/または葉を減圧下で、精油分(および水分)を蒸留により、除去(すなわち、抽出する)する方法で得られたものが好適に用いられる。減圧下での蒸留はマイクロ波を照射しながら実施してよい。このようなマイクロ波照射を行いながら減圧下で精油分(および水分)を蒸留、抽出する方法(以下、「減圧水蒸気蒸留法」という)として、マイクロ波が水分子を直接加熱する性質を利用して、原料中に元から含まれている水分のみで精油の蒸留、抽出を行う方法が好ましい。減圧水蒸気蒸留法によって得られた残渣は、粉砕されやすく、特に機械的な加工で粉砕されやすいため、粉末状物として用いるのに適している。減圧水蒸気蒸留法の詳細は、例えば、特開2015-160154号公報(特許文献4)および国際公開第WO2010/098440号パンフレットに記載されている。
【0019】
この方法においては、蒸留槽内の圧力を、3~95kPa、好ましくは3~40kPa、特に好ましくは3~20kPaとすれば良い。この際の蒸気温度は40~100℃になる。
【0020】
このような条件下でマツ科モミ属の樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波照射して加熱することにより、樹木の木質部および/または葉からは、精油の一部および水分の一部が除去された残渣物(以下、「樹木VMSD処理残渣」という)である繊維質成分を防カビ剤として好適に用いることができる。樹木VMSD処理残渣等の樹木蒸留等処理残渣は、そのまま用いてもよいが、さらに常圧で水分を除去するための乾燥処理を行うことが好ましい。乾燥温度や乾燥時間は特に限定されないが、例えば、50~80℃で1~5時間程度行えばよい。残存する精油成分の含有量は残渣物中0.01~10質量%、好ましくは0.1~5質量%であることが好ましい。また、残存する水分は残渣物中20質量%以下であることが好ましい。
【0021】
樹木VMSD処理残渣等の樹木蒸留等処理残渣には、精油が完全に取り除かれず、樹木の木質部および/または葉に含まれる一部の精油成分が残存しており、当該精油が、防カビ効果に寄与するものと考えられる。この残留した精油成分と樹木VMSD処理残渣等の樹木蒸留等処理残渣の持つ多孔質構造とが相俟って徐放性を示し、防カビ効果が長期間にわたって持続的に発揮されるものと推測される。
【0022】
樹木VMSD処理残渣等の樹木蒸留等処理残渣中に残存する精油成分としては、効果の持続性等の観点からモノテルペンのうち比較的沸点の高いものや、セスキテルペン、ジテルペンなどが含まれることが好ましい。樹木VMSD処理残渣中に残存する精油は、モノテルペンの含有量が少なく且つセスキテルペン、ジテルペン及び/又はテトラテルペンをより多く含むことが好ましい。セスキテルペン、ジテルペンなどの分子量が大きいテルペン類の割合が大きいと、長期間にわたって優れた防カビ効果を維持することができる。
【0023】
上記樹木VMSD処理残渣等の樹木蒸留等処理残渣をそのまま防カビ剤として用いることもできるが、更に精密粉砕にかけ粉末化してもよく(以下「樹木VMSD処理残渣粉末」及び「樹木蒸留等処理残渣粉末」という)、その場合平均粒径を1~15μmとすることが好ましい。平均粒径が、1μm以下であると成型の際に凝集してしまい成形しにくくなる場合があり、15μmより大きいと防カビ効果も劣る場合がある。より好ましい平均粒径は5~10μmである。また、樹木VMSD処理残渣粉末等の樹木蒸留等処理残渣粉末の最大粒径が大きすぎる場合には、後述するようにシート化する場合にフィルム形成がしにくくなることがあるため、最大粒径は100μm未満であることが好ましい。なお、平均粒径や最大粒径は精密粒度分布測定装置等で測定することができ、平均粒径はメディアン径(D50)として表される値である。
【0024】
精密粉砕の方法は、特に限定されず、従来公知の精密粉砕機を用いることができる。精密粉砕機としては、例えば、ターボミル、ジェットミル、ビーズミル、ブレードミル、モーターグラインダー、ローターミル、カッティングミル、ディスクミル、振動ミル等が挙げられる。
【0025】
樹木VMSD処理残渣粉末等の樹木蒸留等処理残渣粉末は、これを粉末状のまま、またはシート化したり、圧縮成形してハンガー等の成型品として利用することができる。また必要により適当な溶媒に分散させて液剤とすることもできる。さらに、担体に担持させて固形剤とすることもできる。
【0026】
固形剤とする場合、担持させる担体としては、特に限定されないが、例えば、木、セルロース、紙、レーヨン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、羊毛、タルク、クレー、素焼き、布、不織布、シリカ、タルク、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、セルロースビーズ、活性炭、セラミック等が挙げられ、またトリイソプロピルトリオキサン、シクロドデカンなどの昇華性担体等を挙げることもできる。
【0027】
これらのうち、不織布などのシート状物を構成する素材に樹木VMSD処理残渣粉末等の樹木蒸留等処理残渣粉末を混合し、当該素材と樹木蒸留等処理残渣粉末をともにシート化する形態や、樹木蒸留等処理残渣粉末を含む懸濁液を不織布等のシート状物に付与し、必要に応じて液体を蒸発させる方法により、樹木蒸留等処理残渣粉末を担体に担持させる形態などが好ましい。
【0028】
シート状物に構成する場合は、樹木蒸留等処理残渣粉末を繊維とともに抄き込んで湿式不織布とする形態を特に挙げることができる。樹木蒸留等処理残渣粉末を繊維とともに抄き込むことで、樹木蒸留等処理残渣粉末を不織布に比較的容易に担持させることができる。
【0029】
懸濁液をシート状物に付与する方法としては、ディップコーター法、スプレーコーター法、フローコーター法、ダイコーター法、ロールコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、バーコーター法、スピンコーター法等、公知のコーティング方法が挙げられる。
【0030】
本発明の防カビ剤は、例えばクローゼット、押し入れ等に設置し、収納した衣類等のカビの発生を防止することができるが、これは樹木蒸留等処理残渣中に残存する精油成分等が、空間内に揮散して、持続的な防カビ効果を発揮するものと考えられる。
【実施例0031】
以下実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約
されるものではない。
【0032】
(本発明品1の製造)
トドマツの枝、葉を圧砕式粉砕機(KYB製作所製)で粉砕し、その約50kgを、マイクロ波水蒸気蒸留装置の蒸留槽に投入した。攪拌しながら蒸留槽内の圧力を、約20KPaの減圧条件下に保持し(蒸気温度は約67℃)、1時間マイクロ波照射した。発生した蒸気(油分、水分)は減圧ポンプにおいて吸引して蒸留槽内から除去し、トドマツVMSD処理残渣を得た。
【0033】
得られたトドマツVMSD処理残渣を低温乾燥装置(横山エンジニアリング社製)を用いて60℃から70℃で2.5~3時間攪拌乾燥させた。その後回転篩分級装置(16メッシュ、篩の目開き1.0mm)で分級を行い粗粉体を得た。
【0034】
得られた粗粉体を、ジェットミル(超音速ジェット粉砕機:日本ニューマチック工業社製)に投入後、約4時間粉砕処理を行い、約81kgの平均粒径8μm(最大粒径100μm未満)のトドマツVMSD処理残渣粉末(本発明品1)を得た。その中に残存する精油成分の含有量は1.18質量%であった。なお、平均粒径及び最大粒径は精密粒度分布測定装置(ベックマンコールター社Multisizer等)で測定した。また精油成分の含有量は、本発明品1をメタノール抽出したものをガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0035】
実 施 例 1
下記のカビ胞子についての防カビ試験を実施した。
(1)Cladosporium sphaerospermum NBRC6348 (以下、CS)
(2)Penicillium citrinum NBRC6352 (以下 PC)
(3)Aspergillus niger NBRC9455 (以下 AN)
【0036】
(コロジオンガラスの作成)
コロジオン(5%):ジエチルエーテル=1:1の溶液を調製し、洗浄したスライドガラス(25mm×75mm)を上記溶液に1分間浸した。溶液からスライドガラスを取り出し、1分間、乾燥させ、コロジオンガラスを作成した。
【0037】
(カビ胞子懸濁用のポテトデキストロース(PDB)液体培地の調整)
各カビ胞子の懸濁用のポテトデキストロース(PDB)液体培地を、滅菌水を用いて下記濃度に調整した。
CS用:PDB濃度1%
PC用:PDB濃度40%
AN用:PDB濃度1.3%
【0038】
(カビ胞子懸濁液の調整)
それぞれのカビのグリセリン溶液(グリセリン80%、水20%)0.1mlをポテトデキストロース寒天培地に塗抹し、25℃で14日間培養した。その後白金耳で約7cm程度カビをかきとり、上記で作成したそれぞれのポテトデキストロース液体培地中に懸濁した。次いで、懸濁液をフィルター入りチップを通して菌糸を除き、それぞれのカビ懸濁液を得た。
血球計算盤で胞子数を5か所測定し、平均値を求め下記の計算式により胞子数を求めた。
胞子数(個/ml) = 胞子数平均値 ÷ (4×10-6)
求めた胞子数に基づき、最終的に懸濁液の胞子数が5.0×105個/ml程度になるように希釈した。
【0039】
(抗カビ試験)
直径75mm、高さ120mmの腰高シャーレ(内容積500ml)の蓋側に滅菌水1mlで湿らせたろ紙を配置した。
一方、腰高シャーレ容器側の中央に
図2に占めるようにコロジオンガラスを設置し、その周辺に本発明品5gをコロジオンガラスの周辺に略円形に設置し、胞子懸濁液0.01mlを3点滴下した。蓋を被せ、パラフィルムでシャーレの周囲を巻いて密封し、25℃18時間培養した。
培養後、0.002mlのラクトフェノールブルー溶液を滴下して菌糸及び胞子を染色した。スライドガラスを被せ、顕微鏡を用いて100倍の倍率(接眼レンズ10倍、対物レンズ10倍)で胞子数及び発芽した胞子数をカウントし、3か所の平均値を求めた。下記計算式より抑制率を求めた。
なお、ブランクとして、本発明品を設置しないものを用いた。結果を表1に示す。
【0040】
【0041】
【0042】
表1から明らかなように、本発明品はいずれのカビに対しても対象に接触することなく胞子の発芽を抑制し、優れた防カビ効果を示した。
上記したとおり本発明の揮散性防カビ剤は、優れた防カビ効果を有するものであり、クローゼットや押し入れ等に設置することで、収納した衣類等のカビの発生を防止することができる。