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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081929
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20240612BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20240612BHJP
   B21D 7/00 20060101ALN20240612BHJP
   G06F 113/22 20200101ALN20240612BHJP
【FI】
G06F30/10 100
G06F30/23
B21D7/00 E
G06F113:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195520
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智典
(72)【発明者】
【氏名】福増 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】天野 敬治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 陽平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 公雄
【テーマコード(参考)】
4E063
5B146
【Fターム(参考)】
4E063AA11
4E063DA20
4E063JA07
4E063MA18
5B146AA05
5B146AA06
5B146DJ02
5B146DJ07
5B146EA11
(57)【要約】
【課題】長尺曲げ加工材の加工を適切に施すことが可能な曲げ型の設計を容易にできる長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法を提供する。
【解決手段】長尺曲げ加工材の二次元座標データを取得する二次元座標データ取得工程と、二次元座標データの分割した領域ごとの曲率半径を算出して分布化する製品形状曲率半径分布化工程と、複数のモデル曲げ型のそれぞれに対して特定のモデル長尺被加工材に曲げ加工を施した場合の、除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径R’との関係(R-R’関係)を示す複数の代表点のR-R’関係から、その近似式を導出する近似式導出工程と、近似式を実際の曲げ型と長尺曲げ加工材との曲率半径の関係式とみなして、製品形状の分割した領域ごとの曲率半径を入力して目的とする曲げ型の曲率半径を算出する曲げ型曲率半径算出工程と、算出された曲げ型の曲率半径の分布を二次元座標データに変換する二次元座標データ変換工程と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ型に押し付けることにより長尺被加工材に対して曲げ加工を行い、製品となる長尺曲げ加工材を得るための曲げ型の設計方法であって、
前記長尺曲げ加工材の製品形状の二次元座標データを取得する二次元座標データ取得工程と、前記製品形状の二次元座標データの分割した領域ごとの曲率半径を算出して分布化する製品形状曲率半径分布化工程と、予め設定された一様の曲率半径Rを有する複数のモデル曲げ型のそれぞれに対して、予め設定された断面形状及び材料物性のモデル長尺被加工材に曲げ加工を施した場合の、前記曲率半径Rと除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径R’との関係(R-R’関係)を示す複数の代表点を導出し、これら複数の代表点のR-R’関係から、前記モデル曲げ型の曲率半径と前記モデル長尺曲げ加工材の曲率半径との関係を示す近似式を導出する近似式導出工程と、前記近似式を前記曲げ型と前記製品となる長尺曲げ加工材との曲率半径の関係式とみなして、該関係式に前記製品形状の分割した領域ごとの曲率半径を入力して目的とする曲げ型の曲率半径を算出してその分布を求める曲げ型曲率半径分布化工程と、算出された前記目的とする曲げ型の曲率半径の分布を二次元座標データに変換する二次元座標データ変換工程と、を備えることを特徴とする長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法。
【請求項2】
前記近似式導出工程では、有限要素法により前記複数のR-R’関係を示す代表点を導出することを特徴とする請求項1に記載の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法。
【請求項3】
前記製品形状曲率半径分布化工程では、前記分割した領域ごとに製品の座標値を決定し、隣合う座標値の3点を用いて曲率半径を算出し、その曲率半径を3点のうちの中間点の座標値に対応する曲率半径にすることを特徴とする請求項1に記載の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法。
【請求項4】
前記複数のR-R’関係を示す代表点は、除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径R’が製品形状の曲率半径の最小値より小さい値及び前記製品形状の曲率半径の最大値より大きい値を含むことを特徴とする請求項1に記載の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法。
【請求項5】
前記二次元座標データ変換工程では、前記製品形状の長手方向に位置する両端を繋いだ線と平行になる座標軸をX軸、前記X軸に直交する座標軸をY軸とする二次元座標で表すときに、前記曲げ型のX座標値として前記製品形状におけるX座標値を用い、該曲げ型の隣り合う二つの点の二次元座標値と、前記二つの点に続く次の点のX座標値及び前記二つの点の二次元座標値に対応して前記曲げ型曲率半径分布化工程で算出された曲げ型の曲率半径とを既知のデータとして、前記二つの点の次の点のY座標値を決定するものであり、前記製品形状のX軸における両端部のうち任意に選択した一方の端部から1点目の二次元座標値及びこれに連続する次の2番目の二次元座標値を前記曲げ型における前記既知のデータとして順次Y座標値を決定することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法。
【請求項6】
二次元座標データ変換工程では、前記曲げ型曲率半径分布化工程で算出された曲げ型の曲率半径によって前記既知のデータにおける二つの点の二次元座標値を通るように描かれる2つの円から、前記二つの点に続く次の点のX座標値上のY軸に平行な線を通る4つの交点を求め、該4つの交点のうち、前記円の中心点が前記製品形状の凸方向と反対側に位置する円と前記X座標値上のY軸に平行な線とによって得られる2つの交点のうち、前記製品形状のY座標値に近い交点のY座標値を前記次の点のY座標値とする座標点取得工程を有することを特徴とする請求項5に記載の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法。
【請求項7】
前記二次元座標データ取得工程では、前記製品形状の長手方向に位置する両端を繋いだ線と平行になる座標軸をX軸、前記X軸に直交する座標軸をY軸、及び前記X軸及び前記Y軸に直交する座標軸をZ軸とした場合に、XY座標平面及びXZ座標平面の2つの座標平面のそれぞれについての二次元座標データを取得し、前記製品形状曲率半径分布化工程、前記近似式導出工程、前記曲げ型曲率半径分布化工程、及び前記二次元座標データ変換工程を前記XY座標平面及び前記XZ座標平面のそれぞれに対して実行することを特徴とする請求項1に記載の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法。
【請求項8】
前記長尺曲げ加工材は、中空形状からなることを特徴とする請求項1に記載の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のルーフレール等に用いられる長尺材に曲げ加工を施すために用いられる長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のルーフレールは、例えば、車両の屋根の上の左右両側部に車両の進行方向に沿って延びるように設けられたレールであり、このルーフレールを用いて屋根上に種々の貨物を積載することができる。
【0003】
このルーフレールは、例えば、アルミニウムの押出加工により中空状に形成された長尺な押出形材(長尺被加工材)に曲げ加工を施すこと等によって形成される。このルーフレールのように長尺被加工材の曲げ加工を施す場合、被加工材の両端部をチャックにより把持して曲げ型に押し付けながら、被加工材の形状が曲げ型形状になじむように曲げ加工することになるが、被加工材の強度(変形抵抗)や製品の曲率に応じて、曲げ加工後に両端の把持を解放した際に弾性回復(スプリングバック)が生じ、曲げ加工後の製品形状と曲げ型の曲率半径とは異なる。そのため、曲げ加工後のスプリングバック量を考慮した曲げ型形状が求められる。
【0004】
このような曲げ加工後のスプリングバック量を考慮した曲げ型を設計するには、長尺材の材料や加工形状、断面形状ごとに予め曲げ加工を行うことで、長尺材に最適な曲げ角度や張力などの加工条件を選定する必要がある。この点、所望の曲げ角度及び曲げ半径を得るためには、トライアンドエラーを繰り返し、曲げ加工に用いる曲げ型形状及び加工条件を見つけ出すという煩雑な作業が必要となる。このような問題を解決するため、例えば、特許文献1には、弾塑性解析等のソフトを用いて曲げ型を設計することが開示されている。
この特許文献1の方法では、金属からなる中空形材の曲げ加工時に生じるスプリングバック角度として、所定の式を満たすような角度δθ(=中空形材の曲げ角度θ-スプリングバックが生じた後の中空形材の曲げ角度θ’)を弾塑性解析等のソフトにより求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-205348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の弾塑性解析等のソフトを用いて曲げ型を設計しても、複雑な曲げ形状になるほど、モデル作製や計算時間に長い期間が必要となる。また、曲げ型や張力などの曲げ加工条件に対し、出来上がる製品形状を予測することはできるが、複雑な断面形状を有する製品(例えば、複数の曲率半径を有する断面形状を有する中空材料)に対して適切な曲げ型を予測するのは難しい。具体的には、丸や長方形等の単純形状であれば、手計算で曲げ予測は可能であるが、断面形状が複雑になれば、スプリングバック量が変わり予想が困難となる。また、製品形状の曲げが一様な曲率なものの予測は可能であるが、複数の曲率が組み合わさった複雑な曲率形状の予測は難しい。このため、特許文献1に記載の方法を用いて適切な曲げ型を予測するには、やはり曲げ形状を変えていき、所望の製品形状になる加工条件を見つけ出すトライアンドエラーの作業が必要となる。すなわち、従来の方法では、仮の曲げ型を用意して、この曲げ型を用いて加工した製品形状を確認し、トライアンドエラーの作業を実行する必要があり、曲げ型の設計は容易ではなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、長尺曲げ加工材の加工を適切に施すことが可能な曲げ型の設計を容易にできる長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法は、曲げ型に押し付けることにより長尺被加工材に対して曲げ加工を行い、製品となる長尺曲げ加工材を得るための曲げ型の設計方法であって、前記長尺曲げ加工材の製品形状の二次元座標データを取得する二次元座標データ取得工程と、前記製品形状の二次元座標データの分割した領域ごとの曲率半径を算出して分布化する製品形状曲率半径分布化工程と、予め設定された一様の曲率半径Rを有する複数のモデル曲げ型のそれぞれに対して、予め設定された断面形状及び材料物性のモデル長尺被加工材に曲げ加工を施した場合の、前記曲率半径Rと除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径R’との関係(R-R’関係)を示す複数の代表点を導出し、これら複数の代表点のR-R’関係から、前記モデル曲げ型の曲率半径と前記モデル長尺曲げ加工材の曲率半径との関係を示す近似式を導出する近似式導出工程と、前記近似式を前記曲げ型と前記製品となる長尺曲げ加工材との曲率半径の関係式とみなして、該関係式に前記製品形状の分割した領域ごとの曲率半径を入力して目的とする曲げ型の曲率半径を算出してその分布を求める曲げ型曲率半径分布化工程と、算出された前記目的とする曲げ型の曲率半径の分布を二次元座標データに変換する二次元座標データ変換工程と、を備える。
【0009】
本発明では、製品形状の二次元座標データの分割した領域ごとの曲率半径を分布化して保存する。次に、予め設定された一様の曲率半径を有する複数のモデル曲げ型を用いて曲げ加工を施した場合のモデル曲げ型の曲率半径Rに対する除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径R’を示す複数の代表点(RとR’との関係が判明している)を導出し、これら代表点からなる複数の離散データから、このモデル型における近似式を導出する。そして、この近似式を実際の曲げ型と製品となる長尺曲げ加工材との曲率半径の関係式であるとみなして、その関係式に分布化された製品形状の曲率半径を入力する。これにより、目的とする曲げ型の曲率半径を算出し、その分布を算出できる。最後に、算出された目的とする曲げ型の曲率半径の分布を二次元座標データに変換し、この二次元座標データを用いることで、短時間で高精度な曲げ型を容易に設計できる。また、この曲げ型の二次元座標データに基づいて形成された曲げ型を用いて長尺被加工材を曲げ加工することで、長尺曲げ加工材の加工を適切に施すことができる。
【0010】
本発明の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法の好ましい態様としては、前記近似式導出工程では、有限要素法により前記複数のR-R’関係を示す代表点を導出するとよい。
【0011】
上記態様では、複数のR-R’関係を示す代表点を、有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いて求めることができるので、例えば、複数の曲率半径Rのモデル曲げ型を製造し、このモデル曲げ型に実際にモデル長尺被加工材を押し当ててR-R’関係を示す代表点を求める場合に比べて、複数の代表点を取得するのが容易であるため、目的とする曲げ型についての近似式を容易に導出できる。
【0012】
本発明の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法の好ましい態様としては、前記製品形状曲率半径分布化工程では、前記分割した領域ごとに製品の座標値を決定し、隣合う座標値の3点を用いて曲率半径を算出し、その曲率半径を3点のうちの中間位置の座標値に対応する曲率半径にするとよい。
【0013】
なお、前記製品形状曲率半径分布化工程では、算出された前記製品形状の曲率半径の最大値及び最小値を取得しておくことが好ましい。
【0014】
本発明の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法の好ましい態様としては、前記複数のR-R’関係を示す代表点は、除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径R’が製品形状の曲率半径の最小値より小さい値及び前記製品形状の曲率半径の最大値より大きい値を含むとよい。
【0015】
ここで、製品形状の範囲内に限定したR-R’関係を示す代表点のみを算出すると、代表点を算出する範囲が狭いため、適切な近似式を導出できない可能性がある。また、この状態で近似式を算出することとなると、いわゆる外挿として数値を扱うこととなる。このため、上記態様では、設計範囲の外側、つまり、製品形状の曲率半径の最小値より小さい値及び製品形状の曲率半径の最大値より大きい値を含むモデル曲げ型の曲率半径に対する除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径を示す代表点を取得して、R-R’関係を示す代表点を算出する範囲を拡大することで、製品形状に対応する範囲の数値をいわゆる内挿として扱うことを可能としている。このように内挿とすることで、外挿より信頼性の高い目的とする曲げ型についての近似式を得ることが可能となる。
【0016】
本発明の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法の好ましい態様としては、
前記二次元座標データ変換工程では、前記製品形状の長手方向に位置する両端を繋いだ線と平行になる座標軸(前記製品形状の長さ方向に沿う座標軸)をX軸、前記X軸に直交する座標軸(前記製品形状の高さ方向に沿う座標軸)をY軸とする二次元座標で表すときに、前記曲げ型のX軸上のX座標値として前記製品形状におけるX座標値を用い、該曲げ型の隣り合う二つの点の二次元座標値と、前記二つの点に続く次の点のX座標値及び前記二つの点の二次元座標値に対応して前記曲げ型曲率半径分布化工程で算出された曲げ型の曲率半径とを既知のデータとして、前記二つの点の次の点のY座標値を決定するものであり、変換開始の際に用いる隣り合う二つの点は、便宜上前記製品形状のX軸における両端部のうち任意に選択した一方の端部から1点目の二次元座標値及びこれに連続する次の2番目の二次元座標値をそのまま流用することで前記曲げ型における前記既知のデータとして順次、例えば前記二つの点の次の点(3番目)のY座標値を決定する。4番目のY座標値を求める際には、2番目と3番目を前記既知の座標データとしてY座標値を決定する。
【0017】
この場合、前記曲げ型曲率半径分布化工程で算出された曲げ型の曲率半径によって前記既知のデータにおける二つの点の二次元座標値を通るように描かれる2つの円から、前記二つの点に続く次の点のX座標値上のY軸に平行な線を通る4つの交点を求め、該4つの交点のうち、前記円の中心点が前記製品形状の凸方向と反対側に位置する円と前記X座標値上のY軸に平行な線によって得られる2つの交点のうち、前記製品形状のY座標値に近い交点のY座標値を前記次の点のY座標値とする座標点取得工程を備えるとよい。
【0018】
上記態様では、製品形状の端部の座標値及びこれに連続する次の座標値を、目的とする曲げ型の二次元座標データの端部の座標値及びこれに連続する次の座標値として流用して、3点目の座標値を算出し、その後は座標値を1つずつ、ずらして上記座標点取得工程を実行するだけで、算出された曲げ型の曲率半径の分布を二次元座標データに変換できる。
【0019】
本発明の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法の好ましい態様としては、前記二次元座標データ取得工程では、前記製品形状の長手方向に位置する両端を繋いだ線と平行になる座標軸(前記製品形状の長さ方向に沿う座標軸)をX軸、前記X軸に直交する座標軸(前記製品形状の高さ方向に沿う座標軸)をY軸、及び前記X軸及び前記Y軸に直交する座標軸(前記製品形状の幅方向に沿う座標軸)をZ軸とした場合に、XY座標平面及びXZ座標平面の2つの座標平面のそれぞれについての二次元座標データを取得し、前記製品形状曲率半径分布化工程、前記近似式導出工程、前記曲げ型曲率半径分布化工程、及び前記二次元座標データ変換工程を前記XY座標平面及び前記XZ座標平面のそれぞれに対して実行するとよい。
【0020】
上記態様では、長尺曲げ加工材の製品形状のX軸とY軸とからなるXY座標平面及び長尺曲げ加工材の製品形状のX軸とZ軸とからなるXZ座標平面のそれぞれに対して上記各工程を実行するので、三次元で曲げ型を設計でき、長尺曲げ加工材の加工をより適切に施すことが可能となる。
【0021】
本発明の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法の好ましい態様としては、前記長尺曲げ加工材は、中空形状とすることができる。
上記態様では、長尺曲げ加工材が中空形状であっても、上記設計方法を用いることにより、曲げ型を容易に設計できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、長尺曲げ加工材の加工を適切に施すことが可能な曲げ型の設計を容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係るルーフレールの斜視図である。
図2】上記実施形態のルーフレールの断面図である。
図3】上記実施形態の曲げ型の設計方法を示すフローチャートである。
図4】上記実施形態の製品形状の二次元座標データを示すグラフである。
図5】上記二次元座標データ及び製品形状の曲率半径の分布を示すグラフである。
図6】モデル曲げ型の曲率半径と該モデル曲げ型により曲げ加工が施された除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径との関係を示すグラフである。
図7】上記製品形状の二次元座標データ、製品形状の曲率半径の分布、及び近似式導出工程により導出された近似式を用いて算出された目的とする曲げ型の曲率半径の分布を示すグラフである。
図8】曲げ型の曲率半径を二次元座標データへの変換方法を説明するための図である。
図9】上記製品形状の二次元座標データ、製品形状の曲率半径の分布、曲げ型の曲率半径の分布、及び変換された曲げ型の二次元座標データを示すグラフである。
図10】上記製品形状の二次元座標データ、製品形状の曲率半径の分布、曲げ型の曲率半径の分布、及び変換された曲げ型の二次元座標データを示すグラフであり、曲げ型の二次元座標データの傾きを修正した状態を示すグラフである。
図11】上記実施例における製品形状の二次元座標データ、及び本発明の方法により設計された曲げ型を用いて実際に曲げ加工を行って得た製品形状を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法の実施形態について図面を用いて説明する。
【0025】
本実施形態の長尺曲げ加工材は、本発明の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法により設計された曲げ型を用いてルーフレールを製造した例である。
ルーフレール10は、図1に示すように、車両(図示省略)の屋根上に車両の長さ方向等に沿って配置できる長さを有する長尺材であり、JIS A6000系等のアルミニウム合金からなる中空の押出形材によって形成されている。その断面形状は特に限定されるものではないが、図2に示す例では、下壁11、両側壁12,13、上壁14を有する略矩形状に形成され、側壁13は複数の平面131,132,133が円弧状面からなる接続部により接続された形状の傾斜面に形成されており、車両の両側部に傾斜面の向きを変えて対称に1本ずつ配置されることにより、各ルーフレール10の傾斜面が車両の両側方に向けて下り勾配となるように設けられる。
【0026】
なお、以下の説明では、ルーフレール10となる長尺曲げ加工材の長手方向(ルーフレールが取り付けられる車両の長手方向と略一致する方向)をX方向、X方向に直交する高さ方向(車両の高さ方向と略一致する方向)をY方向、X方向及びY方向のそれぞれに直交する幅方向(車両の幅方向と略一致する方向)をZ方向とし、ルーフレール10が一つの平面(XY平面)内で曲げ加工される場合について説明する。なお、図2では、下壁11に沿う長さ方向がX方向、側壁12に沿う高さ方向がY方向、下壁11に沿う幅方向がZ方向となる。
【0027】
このルーフレール10は、X方向の中央部の大部分は図1に示すように、ほぼストレート形状に形成されるが、両端部が一側方に向けて屈曲され、それぞれの先端には車両に取り付けるための端末加工が施され、樹脂製のブラケットなどが装着される。
また、長尺とは、横断面における最大寸法に対して、長さ方向の寸法が相当程度(例えば10倍以上)に大きいことをいう。
【0028】
また、ルーフレール10の断面形状は、図2に示すように、中空状に形成されており、特に傾斜面を形成する側壁13は、複数の円弧状面131,132,133が連続した複雑な形状とされている。具体的には、上壁14と円弧状面131との接続部位の曲率半径R11が15mm以上20mm以下、円弧状面131と円弧状面132との接続部位の曲率半径R12が10mm以上15mm以下、円弧状面132と円弧状面133との接続部位の曲率半径R13が5mm以上10mm以下とされている。また、上壁14と円弧状面131との接続部位の内面の角度θ1が90°以上180°以下、円弧状面131と円弧状面132との接続部位の内面の角度θ2が90°以上180°以下(、円弧状面132と円弧状面133との接続部位の内面の角度θ3が90°以上180°以下とされている。
【0029】
また、ルーフレール10の下壁11の幅(Z方向の長さ)W1は、25mm以上90mm以下、上壁14の幅(Z方向の長さ)W2は20mm以上80mm以下とされている。さらに、ルーフレール10の下壁11から上壁14までの高さH1は、15mm以上70mm以下、下壁11から円弧状面131と円弧状面132との接続部位までの高さH2は、5mm以上40mm以下とされている。
【0030】
なお、上述したルーフレール10の形状はあくまで一例であり、この形状に限定されるものではない。例えば、側壁13は必ず3分割(131,132,133)されなくてもよいし、必ずしも断面視直線状の部位と断面視曲線状の部位との組み合わせでなくてもよい。また、下壁11及び側壁12も、必ずしも分割されないわけではなく、下壁11と側壁12、側壁12と上壁14は必ずしも直交していなくてもかまわない。さらに、下壁11、側壁12及び上壁も断面視直線状でなくてもよい。また、ルーフレール10の強度を高めるため中央に縦リブを形成する場合もある。すなわち、ルーフレール10の断面形状は適宜設定可能であり、どのような断面形状の長尺曲げ加工材に対しても本実施形態の設計方法を適用できることは言うまでもない。
【0031】
[曲げ型の設計方法]
本実施形態の曲げ型の設計方法は、図3のフローチャートに示すように、長尺曲げ加工材の製品形状の二次元座標データを取得し(S1:二次元座標データ取得工程)、製品形状の分割した領域ごとの曲率半径を算出して分布化し(S2:製品形状曲率半径分布化工程)、予め設定された一様の曲率半径Rを有する複数のモデル曲げ型のそれぞれに対して、予め設定された断面形状及び材料物性のモデル長尺被加工材に曲げ加工を施した場合の、除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径R’との関係(R-R’関係)を示す複数の代表点を導出し、これら複数の代表点のR-R’関係から、モデル曲げ型と、該モデル曲げ型にて曲げ加工して除荷した後のモデル長尺曲げ加工材との曲率半径について、予測される関係の近似式を導出し(S3:近似式導出工程)、この近似式を実際の曲げ型と製品形状の長尺曲げ加工材との曲率半径の関係式とみなし、この関係式を用いて目的とする曲げ型の曲率半径を算出してその分布を求め(S4:曲げ型曲率半径分布化工程)、算出された曲げ型の曲率半径の分布を二次元座標データに変換する(S5:二次元座標データ変換工程)。
【0032】
なお、以下の説明では、製品形状の長さ方向(X方向)と高さ方向(Y方向)の二次元座標のみについて説明する。また、製品形状の幅方向(Z方向)と高さ方向(Y方向)の二次元座標については、XY平面の二次元座標と同じ工程を実行することにより曲げ型の曲率半径の分布の二次元座標データを取得することが可能となる。以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0033】
[二次元座標データ取得工程]
まず、製品形状の二次元座標データを取得する。この製品形状は、長尺曲げ製品として要求される機能を満足するように設計された製品形状である。具体的には、長尺曲げ製品がルーフレールである場合、製品形状は、屋根上への荷物の積載機能を満足することや、車両の用途に応じて必要な意匠性が得られること、ルーフレールを車両に取り付けることができること等を満足するように設計された製品形状である。この二次元座標データは、製品形状の長さ方向に沿う座標軸、言い換えれば製品形状の長手方向に位置する両端を繋いだ線と平行になる座標軸をX座標軸、これに直交する方向(本実施形態では、製品形状の高さ方向)に沿う座標軸をY座標軸とし、これらX座標軸及びY座標軸の位置(X座標値及びY座標値)を指定することにより表されるデータであり、図4に示す通りである。二次元座標データは、CADデータからなり、座標データを取得する際には、コンピュータ上で、点データを作成する。具体的には、点データは、曲げ型に押さえつけられる面上に存在しており、幅方向(Z座標)は、どの点も端部等の基準から同じ距離に位置し、点の間隔(X座標)は任意に設定される。この点の間隔が狭いほど、曲げ予測する際の精度を向上させることが可能である。例えば、製品長さに対して200分の1の長さ間隔で十分な精度は確保できる。そして、作成した点の座標値を読み取ることにより、図4に示す二次元座標データが取得される。
【0034】
[製品形状曲率半径分布化工程]
ここで、製品形状の曲率半径は、部位によって異なる。このため、この製品形状曲率半径分布化工程では、二次元座標データ取得工程で取得した二次元座標データから製品形状の曲率半径を算出して分布化する。具体的には、X座標軸を所定の間隔で複数の領域に分割して、領域ごとに座標値と曲率半径を算出する。例えば、各領域ごとに製品の座標値を決定し、隣合う座標値の3点を用いて曲率半径を算出し、その曲率半径を3点のうちの中間位置(本実施形態ではX座標の中間位置)の座標値に対応する曲率半径とする。この場合、X座標値は各領域ごとに設定されて所定間隔で配置されており、これらX座標値のそれぞれにおいて曲率半径が算出される。
【0035】
これをすべての座標値について実施することにより、製品形状の曲率半径の分布を算出する。なお、複数の領域の分割数については、適宜ユーザが設定可能であり、例えば、曲率半径が大きく異なる部位ではその領域を細かく分割することも可能である。
このようにして算出された製品形状の曲率半径の分布は、図5に示す通りとなる。また、算出された製品形状の全ての曲率半径、及び曲率半径の最大値及び最小値は、コンピュータに記憶される。
【0036】
[近似式導出工程]
近似式導出工程では、目的とする曲げ型と製品形状の長尺曲げ加工材との曲率半径の関係式を導き出すために、まずモデル型を用いて、モデル型における近似式を導出する。具体的には、予め設定された一様の曲率半径Rを有する複数のモデル曲げ型のそれぞれに対して、予め設定された断面形状及び材料物性のモデル長尺被加工材に曲げ加工を施した場合の、除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径R’との関係(R-R’関係)を示す複数の代表点を有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いて導出する。例えば、本実施形態では、曲率半径Rが200mm、300mm、400mm、6000mm、7000mm、11000mmのモデル曲げ型を用いて曲げ加工を施した除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径R’をそれぞれ算出して、上記6種類のモデル曲げ型の曲率半径Rに対するこれら6種類のモデル曲げ型を用いて曲げ加工を施した除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径R'を示す複数のR-R’関係を示す代表点を導出する。このようにして、算出されたモデル曲げ型の曲率半径Rに対する除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径R’を示すR-R’関係を示す代表点は、図6に示す6点で表される。
【0037】
これら6点は、製品形状の曲率半径の分布の範囲を充足するように設定される。具体的には、除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径R'が、製品形状の曲率半径の最小値より小さい値及び前記製品形状の曲率半径の最大値より大きい値を含むモデル曲げ型の曲率半径Rに対する除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径を示すR-R’関係をFEMにより導出する。そして、これら6点のR-R’関係に基づいて、目的とする曲げ型についての近似式を算出する。
【0038】
このとき、設計範囲内(製品形状の範囲内)に限定した座標点内の代表点のみを算出すると、代表点を算出する範囲が狭く(例えば、図6に示す例では3点)、いわゆる外挿として数値を扱うこととなるため、適切な近似式を導出できない可能性がある。このため、本実施形態では、図6に示すように、設計範囲の外側、つまり、製品形状の曲率半径の最小値より小さい値及び製品形状の曲率半径の最大値より大きい値を含むモデル曲げ型の曲率半径Rに対する除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径R’を示す代表点を取得して、代表点を算出する範囲を拡大する(図6に示す例では6点)ことで、製品形状に対応する範囲の数値をいわゆる内挿として扱うことを可能としている。このように内挿とすることで、外挿より信頼性の高い目的とする曲げ型についての近似式を得ることが可能となる。
【0039】
例えば、本実施形態では、図6に示すように、一様の曲率半径を有するモデル曲げ型の曲率半径を200mm~11000mm内の上記6点のそれぞれについてのモデル曲げ型の曲率半径に対する除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径を示す複数のR-R’関係を示す代表点を、FEMを用いて導出し、これら6点の離散データから最小二乗法などの一般的な手法を用いて、モデル曲げ型の曲率半径と、該モデル曲げ型により曲げ加工し除荷された後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径との予測される関係を示す近似式(1)の近似式係数a~dを導出している。
n=am+bm+cm+d … (式1)
n:目的とする曲げ型の曲率半径
m:製品形状の曲率半径
a,b,c,d:近似式係数
【0040】
なお、本実施形態では、複数のR-R’関係を示す代表点を有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いて導出することとしたが、これに限らない。例えば、実物の曲げ型(例えば、6パターンの一様曲率半径Rのモデル曲げ型)を用意しておき、製品用と同じ押出直材を実際に曲げて曲率半径に対する除荷後の長尺曲げ加工材の曲率半径を示す複数の座標点におけるR-R’関係を示す代表点を求めることも可能である。
【0041】
[曲げ型曲率半径分布化工程]
次に、近似式導出工程で導出された近似式を、実際の曲げ型の曲率半径と製品となる長尺曲げ加工材の曲率半径との関係式であるとみなして、目的とする曲げ型の曲率半径を算出してその分布を求める。具体的には、前述した式1を用い、mに、特定のX座標値における製品形状の曲率半径を入力して目的とする曲げ型のX座標値における曲率半径を算出する。これをすべてのX座標値について実施することにより、目的とする曲げ型の曲率半径がX座標値ごとに算出され、その分布が求められる。この目的とする曲げ型の曲率半径の分布は、図7に示す状態となる。
【0042】
[二次元座標データ変換工程]
そして、算出された曲げ型の曲率半径の分布を二次元座標データに変換する。この二次元座標データ変換工程では、まず、製品形状の両端部のうち任意に選択した一方の端部の点1及びこれに連続する次の点2(図8における最も左側に位置する点及びその次の点)の二次元座標値を取得する。つまり、目的とする曲げ型座標データの最初の2点は、製品形状データの端部の2点の座標値を流用する。そして、流用した2点の座標値と曲げ型曲率半径算出工程で求めた目的とする曲げ型形状の最初の曲率半径R1(点2に対応する曲率半径)と、点3(点1及び点2に続く曲げ型のX座標値に対応する点)のX座標値から、点3のY座標値を求める(座標点取得工程)。なお、この曲げ型のX座標値は、製品形状のX座標値であり、各X座標値に対するY座標値を求めるのが、この二次元座標データ変換工程である。
【0043】
そして、隣り合う二つの点の二次元座標値と、これら二つの点に続く次の点のX座標値及びそれらの点のX座標値について曲げ型曲率半径分布化工程で算出された曲率半径とを既知のデータとして、二つの点の次の点のY座標値を決定するものであり、製品形状のX軸における両端部のうち任意に選択した一方の端部から1番目の座標値及びこれに連続する次の2番目の座標値と該2番目の座標値における曲げ型の曲率半径と2番目に連続する次の3番目のX座標値とを既知のデータとして3番目のY座標値を求め、次に2番目の座標値及び3番目の座標値及び該3番点目の座標値における曲げ型の曲率半径及び3番目に連続する次の4番目のX座標値とを既知のデータとして4番目のY座標値を求めるというように、順次既知となった座標値の次の点のY座標値を決定する。
【0044】
この3番目の座標値を求める場合、点1,2の両座標値を通る曲げ型の曲率半径R1の円は図8に示すように2つ形成でき、製品形状の点3のX座標値を通るY軸に平行な直線と各円との4つの交点が求められる。この4つの交点(x3,解1),(x3,解2),(x3,解3),(x3,解4)のうち、製品形状の点1,2,3(x1、x2、x3における製品形状の座標点)で示される製品形状の凸方向と反対側に位置する中心点(図8では中心点1)の円によって得られる2つの交点(x3,解1),(x3,解2)のうち、製品形状の点3のY座標値に近い交点(x3,解2)を3番目の座標値として選択する。その後、次の点である座標値は、点2と、先に算出した3番目の座標値(x3、解2)及び3番目の座標値に対応する曲げ型の曲率半径とを使用して、4番目のX座標位置(x4)における4つの交点を求め、これらの交点からx2、x3、x4における製品形状の座標値を通って示される製品形状の凸方向に対し、上記の方法で1つの座標値を取得(算出)する。5番目の座標値は、3番目の座標値、4番目の座標値及び4番目のX座標位置に対応する曲げ型の曲率半径を使用して5番目のX座標値におけるY座標値を取得(算出)するというように、座標値をX軸に沿って1つずつずらして座標点取得工程を実行して、目的とする曲げ型の曲率半径の分布を二次元座標データに変換する。その結果が図9となる。
【0045】
図9では、目的とする曲げ型の二次元座標データは、傾斜した状態で示されている。このため、この曲げ型の二次元座標データをグラフの最も左側に位置する座標を中心に回転させることにより、図10に示す曲げ型の二次元座標データを得る。なお、この座標回転処理は二次元座標データを得るための必須の工程ではなく、この工程はなくてもかまわない。
そして、このようにして得られた曲げ型の二次元座標データに基づいて曲げ型を容易に設計できるようになる。
【0046】
本実施形態では、製品形状の二次元座標データの分割した領域ごとの曲率半径を分布化して保存する。次に、予め設定された一様の曲率半径を有する複数のモデル曲げ型を用いて曲げ加工を施した場合のモデル曲げ型の曲率半径Rに対する除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径R’を示す複数の代表点(RとR’との関係が判明している)を導出し、これら複数の代表点からモデル曲げ型の近似式を導出する。この場合、複数のR-R’関係を示す代表点を、有限要素法を用いて求めることができるので、例えば、複数の代表点における曲率半径のモデル曲げ型を製造し、このモデル曲げ型に実際にモデル長尺被加工材を押し当てて代表点を求める場合に比べて、複数の代表点を取得するのが容易であるため、目的とする曲げ型についての近似式を容易に導出できる。そして、この近似式を実際の曲げ型の曲率半径と製品となる長尺曲げ加工材の曲率半径との関係を示す関係式とみなして、その関係式に、分布化された製品形状の曲率半径を入力するだけで、目的とする曲げ型の曲率半径を算出し、その分布を算出できる。最後に、算出された目的とする曲げ型の曲率半径の分布を二次元座標データに変換し、この二次元座標データを用いることで、短時間で高精度な曲げ型を容易に設計できる。また、この曲げ型の二次元座標データに基づいて形成された曲げ型を用いて長尺被加工材を曲げ加工することで、長尺曲げ加工材の加工を適切に施すことができる。
【0047】
また、本実施形態では、近似式導出工程において設計範囲の外側、つまり、製品形状の曲率半径の最小値より小さい値及び前記製品形状の曲率半径の最大値より大きい値を含む座標点のモデル曲げ型の曲率半径に対する除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径を示す代表点を取得して、代表点を算出する範囲を拡大することで、製品形状に対応する範囲の数値をいわゆる内挿として扱うことを可能とした。内挿とすることで、外挿より信頼性の高い目的とする曲げ型についての近似式が得られる。このため、この近似式を用いて算出される目的とする曲げ型の曲率半径の分布及び曲げ型の二次元座標データの信頼性を高めることができる。
【0048】
さらに、二次元座標データ変換工程において、製品形状の端部の座標値及びこれに連続する次の座標値を目的とする曲げ型の二次元座標データの端部の座標値及びこれに連続する次の座標値として流用して、3点目の座標値を算出し、その後は座標値を1つずつ、ずらして上記座標点取得工程を実行するだけで算出された曲げ型の曲率半径の分布を二次元座標データに変換できる。
【0049】
また、上記実施形態では、二次元座標データ取得工程では、製品形状の長手方向に位置する両端を繋いだ線と平行になる座標軸(製品形状の長さ方向に沿う座標軸)をX軸、これに直交する方向(本実施形態では、製品形状の高さ方向)に沿う座標軸をY軸とし、これらX軸及びY軸の位置(X座標及びY座標)を指定することにより表されるデータを取得する例についてのみ説明したが、これに加えて、X軸及びY軸のそれぞれに直交する方向(製品形状の幅方向)に沿う座標軸をZ軸とし、X軸及びZ軸の位置を指定することにより表されるデータを取得し、これに基づいて上記各工程(S2~S5)を実行することで、目的とする曲げ型の幅方向の曲率半径及びその二次元座標データを取得することもできる。つまり、長尺曲げ加工材の製品形状のX軸とY軸とからなるXY座標平面及び長尺曲げ加工材の製品形状のX軸とZ軸とからなるXZ座標平面のそれぞれに対して上記各工程を実行するので、三次元で曲げ型を設計でき、長尺曲げ加工材の加工をより適切に施すことが可能となる。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、長尺曲げ加工材として、中空形状のルーフレールを例に挙げて説明したが、これに限らず、例えば、中実材料であっても上記方法により曲げ型を設計することは可能である。
【0051】
上記実施形態では、近似式(式1)として、三次方程式を用いた例を説明したが、これに限らず、例えば、R-R’関係の代表点を滑らかな曲線で近似できる関数であれば、近似式として二次方程式を用いてもかまわない。
【実施例0052】
上記実施形態の図2に例示した形状の長尺曲げ加工材(長さ2000mm、幅W1が42mm、幅W2が20mm、高さH1が24mm、高さH2が7.2mm、曲率半径R11が17mm、曲率半径R12が12mm、曲率半径R13が6mm、角度θ1が156°、角度θ2が137°、角度θ3が148°)を製造するための曲げ型を上記実施形態で説明した方法に基づいて設計した。そして、この設計方法により算出された目的とする曲げ型形状に対して曲げ加工を施し得た製品形状(曲げ加工後の製品形状の二次元座標データ)と、製品形状の二次元座標データとを比較し、この曲げ型の設計方法の有効性を評価した。
【0053】
まず、製品形状の長さ方向に沿う座標軸をX座標軸、これに直交する方向(本実施例では、製品形状の高さ方向)に沿う座標軸をY座標軸とし、これらX座標軸及びY座標軸の位置(X座標及びY座標)を指定することにより表される製品形状の二次元座標データをコンピュータに入力した。次に、入力した二次元座標データのX座標軸を複数の領域(製品長さに100分割)に均等に分割して、領域ごとに曲率半径を算出した。そして、目的とする曲げ型の近似式を導出した。具体的には、予め設定された一様の曲率半径を有する複数のモデル曲げ型のそれぞれに対して、予め設定された断面形状及び材料物性のモデル長尺被加工材に予め設定された引っ張り力(荷重)で曲げ加工を施した場合のモデル曲げ型の曲率半径に対する除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径を示す複数の代表点を、有限要素法を用いて導出した。本実験例では、表1に示す曲率半径(型R)が205.1mm、305.2mm、404.6mm、5995.6mm、7251.0mm、11049.9mmのモデル曲げ型を用いて曲げ加工を施した除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径をそれぞれ算出して、上記6種類のモデル曲げ型の曲率半径(型R)に対する除荷後のモデル長尺曲げ加工材の曲率半径(除荷後のR’)を示す複数の代表点を導出した。このようにして算出された複数の代表点を滑らかな曲線で近似する関数として(式1)の3次方程式を選択し、近似式係数a~dを最小二乗法で決定した。その係数a,b,c,dは、表2に示した通りとなった。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
次に、前述した近似式係数の三次方程式(上記式1)を実際の曲げ型の曲率半径と長尺曲げ加工材の曲率半径の関係式とみなして、「m」に製品形状の曲率半径をすべての座標点について入力して目的とする曲げ型の曲率半径を算出して曲率半径の分布を算出した。そして、算出された曲げ型の曲率半径の分布を二次元座標データに変換した。この二次元座標データ変換工程では、まず、製品形状データの最初の2点を流用して、製品形状の端部の座標点1及びこれに連続する次の座標点2を取得し、流用した2点と曲げ型曲率半径算出工程で求めた目的とする曲げ型形状の最初の曲率半径R1、および座標点3のX座標値とから、座標点3のY座標値を求めた。この場合、座標点1,2を通る曲げ型の曲率半径R1の円は、図8に示すように2つ形成でき、座標点3のX座標値を通るY方向に沿う直線と各円との4つの交点が求められる。この4つの交点(x3,解1),(x3,解2),(x3,解3),(x3,解4)のうち、x1、x2、x3における製品形状の座標点で示される製品形状の凸方向と反対側に位置する中心点(図8では中心点1)の円によって得られる2つの交点(x3,解1),(x3,解2)のうち、一つ前の座標点(座標点2)のY座標値に近い交点(x3,解2)を3番目の座標点として選択する座標点取得工程を実行した。その後、次の点である座標点4は、座標点2と算出した座標点3及び曲げ型の次の曲率半径R2を使用して算出し、座標点5は、座標点3及び曲げ型の次の曲率半径を使用して算出するように、座標点をX軸方向に1つずつずらして座標点取得工程を実行して、目的とする曲げ型の曲率半径の分布を二次元座標データに変換し、曲げ型の二次元座標データをグラフの最も左側に位置する座標を中心に回転させた。これら製品形状の二次元座標データ、製品形状の曲率半径の分布、目的とする曲げ型の曲率半径の分布、及び曲げ型の二次元座標データは、図10に示す通りとなった。
【0057】
(曲げ型の有効性の評価)
このようにして算出した曲げ型の有効性を判定するため、算出された曲げ型の二次元座標データに対して作製した曲げ型を用いて曲げ加工を施し得た製品形状の二次元座標データを測定し、目的の製品形状と比較した。そして、この結果を図11に示した。
【0058】
図11に示したように、本発明の方法により設計された曲げ型に対し曲げ加工を施し得た製品形状の二次元座標データは、製品形状の二次元座標データとほぼ一致した。このことから、本発明の長尺曲げ加工材の曲げ型の設計方法は有効であることがわかった。
【符号の説明】
【0059】
10 ルーフレール(製品)
11 下壁
12,13 側壁
131,132,133 平面
14 上壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11