(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008193
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】セメント組成物、及び、セメント成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240112BHJP
C04B 14/36 20060101ALI20240112BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20240112BHJP
B28C 7/04 20060101ALI20240112BHJP
B28B 1/08 20060101ALI20240112BHJP
C01B 32/20 20170101ALI20240112BHJP
【FI】
C04B28/02 ZAB
C04B14/36
C04B20/00 A
C04B20/00 B
B28C7/04
B28B1/08
C01B32/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109847
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】508099911
【氏名又は名称】西日本高速道路メンテナンス関西株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000231202
【氏名又は名称】日本黒鉛工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594018267
【氏名又は名称】株式会社中研コンサルタント
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】中森 康裕
(72)【発明者】
【氏名】兼久 博世
(72)【発明者】
【氏名】塚本 薫
(72)【発明者】
【氏名】増山 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】目次 康格
(72)【発明者】
【氏名】伊永 景一
(72)【発明者】
【氏名】石川 健児
【テーマコード(参考)】
4G056
4G112
4G146
【Fターム(参考)】
4G056AA06
4G056CB23
4G112PA14
4G112PC11
4G112PE01
4G112PE04
4G146AA02
4G146AB01
4G146AC01A
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AD20
4G146AD37
(57)【要約】
【課題】比較的融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができるセメント組成物、及び、セメント成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係るセメント組成物は、セメントと、黒鉛と、水と、を含む。また、本発明に係るセメント成形体の製造方法は、黒鉛に、前記黒鉛の添加量に対して1質量%以上40質量%以下の水を添加して黒鉛水含有物を得る添加工程と、前記水を添加した黒鉛と、セメントと、水と、を練り混ぜ、未硬化の混練物を得る混練工程と、前記未硬化の混練物に振動を加える振動工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、黒鉛と、水と、を含む、セメント組成物。
【請求項2】
前記黒鉛が、鱗片状黒鉛を含む、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記鱗片状黒鉛のアスペクト比(最長径/厚さ)が、10以上200以下である、請求項2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記黒鉛の含有量が、前記セメント組成物全体に対して、11質量%以上40質量%以下である、請求項1~3のいずれか一つに記載のセメント組成物。
【請求項5】
前記黒鉛の平均粒径が、30μm以上700μm以下である、請求項1~3のいずれか一つに記載のセメント組成物。
【請求項6】
黒鉛に、前記黒鉛の添加量に対して1質量%以上40質量%以下の水を添加して黒鉛水含有物を得る添加工程と、
前記添加工程で得られた黒鉛水含有物と、セメントと、水と、を練り混ぜ、未硬化の混練物を得る混練工程と、
前記未硬化の混練物に振動を加える振動工程と、を含む、セメント成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物、及び、セメント成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積雪や雪解け水の凍結を防止する対策として、融雪剤や凍結防止剤の散布が広く知られている。ところが、例えば、融雪剤や凍結防止剤を路面へ散布した場合、車両の通行等で押し流されることがあり、期待した融雪効果が得られないことがある。また、融雪剤や凍結防止剤の散布は、恒久的な対策ではないため、融雪効果の持続性の面でも課題がある。そのため、積雪地域や寒冷地では、積雪や雪解け水の凍結防止対策として、融雪システムや融雪用ブロック等が広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ヒートパイプや電気ヒータ線を内蔵させて融雪用ブロックとして用いることができるコンクリート平板が開示されている。該コンクリート平板は、セメントと、所定の比表面積を有する無機粒子と、減水剤と、水とを含み、高い熱伝導率を有する。そのため、該コンクリート平板が厚く施工され、熱源から表面(路面)までの距離が大きい場合であっても、表面温度の立ち上がりの遅延を抑制することができるとともに、ヒートパイプ等のエネルギー消費を抑制させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、経済的な観点、及び、環境保護の観点から、よりエネルギー消費を抑制することが求められている。そのため、特許文献1のように、熱伝導率を高めて融雪効率を向上させることにより、エネルギー消費を抑制しようとする方法が検討されており、より融雪効率を向上させる方法が望まれている。
【0006】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、比較的融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができるセメント組成物、及び、セメント成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセメント組成物は、セメントと、黒鉛と、水と、を含む。
【0008】
前記セメント組成物は、セメントと、黒鉛と、水と、を含むことにより、比較的融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができる。より詳細には、前記セメント組成物は、前記黒鉛を含むことにより、セメント成形体の熱伝導率を高めることができる。その結果、セメント成形体の融雪効率を向上させることができる。
【0009】
本発明に係るセメント組成物は、前記黒鉛が、鱗片状黒鉛を含んでいてもよい。
【0010】
前記セメント組成物は、斯かる構成により、より一層、融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができる。より詳細には、鱗片状黒鉛は、扁平形状で平面を有することから、前記他の形状の黒鉛に比べて配向しやすい。鱗片状黒鉛が配向して平面方向が揃うことにより、熱伝導率が高くなる。そのため、より一層、融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができる。
【0011】
本発明に係るセメント組成物は、前記鱗片状黒鉛のアスペクト比(最長径/厚さ)が、10以上200以下であってもよい。
【0012】
前記セメント組成物は、斯かる構成により、より一層、融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができる。
【0013】
本発明に係るセメント組成物は、前記黒鉛の含有量が、前記セメント組成物全体に対して、11質量%以上40質量%以下であってもよい。
【0014】
前記セメント組成物は、斯かる構成により、より一層、融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができる。
【0015】
本発明に係るセメント組成物は、前記黒鉛の平均粒径が、30μm以上700μm以下であってもよい。
【0016】
前記セメント組成物は、斯かる構成により、より一層、融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができる。また、前記セメント成形体を製造する際に、材料の混練を容易に行うことができる。
【0017】
本発明に係るセメント成形体の製造方法は、黒鉛に、前記黒鉛の添加量に対して1質量%以上40質量%以下の水を添加して黒鉛水含有物を得る添加工程と、前記添加工程で得られた黒鉛水含有物と、セメントと、水と、を練り混ぜ、未硬化の混練物を得る混練工程と、前記未硬化の混練物に振動を加える振動工程と、を含む。
【0018】
前記セメント成形体の製造方法は、前記添加工程と、前記混練工程と、前記振動工程と、を含むことにより、比較的融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができる。より詳細には、前記振動工程を含むことにより、鱗片状黒鉛の平面がコンクリートの打設面と平行になるように、平面方向を揃えることができる。その結果、セメント成形体の融雪効率を向上させることができる。
【0019】
また、前記セメント成形体の製造方法は、斯かる構成により、前記セメント成形体の製造作業の作業性を向上させることができる。より詳細には、前記添加工程を含むことにより、黒鉛を計量する際や黒鉛をセメント等の他の材料とともに混練する際に、黒鉛が飛散して作業環境が悪化するのを防止することができる。さらに、前記添加工程を含むことにより、黒鉛と他の材料とがなじみ易くなることから、比較的融雪効率に優れたセメント成形体を得るために必要な量の黒鉛を添加することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、比較的融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができるセメント組成物、及び、セメント成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<セメント組成物>
以下、本実施形態に係るセメント組成物について説明する。
【0022】
本実施形態に係るセメント組成物は、セメントと、黒鉛と、水と、を含む。
【0023】
セメントとしては、例えば、JIS R 5210で規定される普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、超速硬セメント、アルミナセメント等が挙げられる。また、前記ポルトランドセメントにフライアッシュ、高炉スラグ等を混合した各種混合セメントも使用することができる。これらの中でも、セメントは、早強ポルトランドセメントを用いることが好ましい。なお、セメントは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記セメントの含有量は、強度発現を高める観点から、セメント組成物全体に対して、10質量%以上70質量%以下であることが好ましく、50質量%以上65質量%以下であることがより好ましい。なお、セメントが2種以上含まれる場合、前記含有量は、セメントの合計含有量である。
【0025】
黒鉛としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等が挙げられる。これらの中でも、黒鉛は、融雪効率の確保及び熱伝導性を向上させる観点から、天然黒鉛を用いることが好ましい。黒鉛の形状としては、例えば、鱗片状、塊状、土状、球状等が挙げられる。これらの中でも、黒鉛の形状としては、配向性を向上させる観点から、鱗片状が好ましい。なお、鱗片状とは、魚の鱗のような扁平形状を意味する。天然黒鉛の産地としては、鱗片状黒鉛の産地が、主に中国、ブラジル等であり、塊状黒鉛の産地が、主に中国、スリランカ等である。
【0026】
前記黒鉛は、融雪効率を向上させる観点から、鱗片状黒鉛を含むことが好ましい。前記鱗片状黒鉛のアスペクト比は、10以上200以下であることが好ましく、12以上115以下であることがより好ましい。鱗片状黒鉛のアスペクト比は、鱗片状黒鉛の粒子の最長径と、鱗片状黒鉛の粒子の厚さとの比(最長径/厚さ)で表される。アスペクト比は、走査型電子顕微鏡等を用いて、鱗片状黒鉛粒子を拡大観察することにより、測定することができる。
【0027】
前記黒鉛の平均粒径(メジアン径)は、融雪効率を向上させるとともに、材料の混練を容易にする観点から、30μm以上700μm以下であることが好ましく、100μm以上500μm以下であることがより好ましく、200μm以上300μm以下であることが特に好ましい。なお、平均粒径は、例えば、レーザー回折散乱法により測定することができる。
【0028】
前記黒鉛の含有量は、融雪効率の確保及び熱伝導性を向上させる観点から、セメント組成物全体に対して、11質量%以上40質量%以下であることが好ましく、15質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。なお、セメントが2種以上含まれる場合、前記含有量は、セメントの合計含有量である。
【0029】
水は、特に限定されるものではなく、例えば、水道水、工業用水、回収水、地下水、河川水、雨水等を使用することができる。
【0030】
前記水の含有量は、流動性確保の観点から、セメント組成物全体に対して、4質量%以上30質量%以下であることが好ましく、19質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、19質量%以上22質量%以下であることが特に好ましい。
【0031】
前記水と前記セメントとの水セメント比(W/C)は、強度発現を高める観点から、25%以上60%以下であることが好ましく、25%以上50%以下であることがより好ましく、30%以上40%以下であることが特に好ましい。
【0032】
本実施形態に係るセメント組成物は、流動性確保の観点から、減水剤を含んでいてもよい。減水剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、JIS A 6204:2011の規定に適合する「減水剤」、「高性能減水剤」、「AE減水剤」、「高性能AE減水剤」等を用いることができる。具体的には、JIS A 6204:2011の規定に適合するポリカルボン酸系減水剤、ナフタレン系減水剤、アミノスルホン酸系減水剤、メラミン系減水剤等を用いることができる。なお、減水剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記減水剤の含有量は、流動性確保の観点から、セメント組成物全体に対して、4.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3.5質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以上3.5質量%以下であることが特に好ましい。なお、減水剤が2種以上含まれる場合、前記含有量は減水剤の合計含有量である。
【0034】
本実施形態に係るセメント組成物は、乾燥収縮ひび割れの防止の観点から、有機繊維を含んでいてもよい。有機繊維としては、例えば、ビニロン繊維、アラミド繊維、ポリアセタール繊維、ポリエチレン繊維等が挙げられる。なお、有機繊維は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0035】
前記有機繊維の含有量は、乾燥収縮ひび割れの防止の観点から、セメント組成物全体に対して、0.7質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましい。なお、有機繊維が2種以上含まれる場合、前記含有量は有機繊維の合計含有量である。
【0036】
本実施形態に係るセメント組成物は、前記減水剤以外のその他の混和剤を含んでいてもよい。その他の混和剤としては、例えば、AE剤、流動化剤、増粘剤、防せい剤、分離低減剤、凝結遅延剤(例えば、酒石酸等)、凝結促進剤(例えば、硫酸アルミニウム等)、急結剤、収縮低減剤、起泡剤、発泡剤、防水剤、消泡剤等が挙げられる。なお、その他の混和剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
本実施形態に係るセメント組成物は、混和材を含んでいてもよい。混和材としては、例えば、シリカフューム、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、セメントキルンダスト、高炉フューム、転炉スラグ微粉末、無水石膏、半水石膏、二水石膏、膨張材、石灰石微粉末、生石灰微粉末、ドロマイト微粉末等の無機質微粉末、ナトリウム型ベントナイト、カルシウム型ベントナイト、アタパルジャイト、セピオライト、活性白土、酸性白土、アロフェン、イモゴライト、シラス(火山灰)、シラスバルーン、カオリナイト、メタカオリン(焼成粘土)、合成ゼオライト、人造ゼオライト、人工ゼオライト、モルデナイト、クリノプチロライト等の無機物系フィラーが挙げられる。なお、混和材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
本実施形態に係るセメント組成物は、細骨材を含んでいてもよい。細骨材としては、例えば、JIS A 5308附属書Aレディミクストコンクリート用骨材で規定される山砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂、石灰石砕砂等の天然由来の砂、高炉スラグ、電気炉酸化スラグ、フェロニッケルスラグ等のスラグ由来の砂等が挙げられる。なお、これらの細骨材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
本実施形態に係るセメント組成物は、セメントと、黒鉛と、水と、を含むことにより、比較的融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができる。より詳細には、セメント組成物は、黒鉛を含むことにより、セメント成形体の熱伝導率を高めることができる。その結果、セメント成形体の融雪効率を向上させることができる。
【0040】
本実施形態に係るセメント組成物は、黒鉛が、鱗片状黒鉛を含むことにより、より一層、融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができる。より詳細には、鱗片状黒鉛は、扁平形状で平面を有することから、前記他の形状の黒鉛に比べて配向しやすい。鱗片状黒鉛が配向して平面方向が揃うことにより、熱伝導率が高くなる。そのため、より一層、融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができる。
【0041】
本実施形態に係るセメント組成物は、鱗片状黒鉛のアスペクト比(最長径/厚さ)が、10以上200以下であることにより、より一層、融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができる。
【0042】
本実施形態に係るセメント組成物は、黒鉛の含有量が、前記セメント組成物全体に対して、11質量%以上40質量%以下であることにより、より一層、融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができる。
【0043】
本実施形態に係るセメント組成物は、前記黒鉛の平均粒径が、30μm以上700μm以下であることにより、より一層、融雪効率に優れたセメント成形体を得ることができる。また、前記セメント成形体を製造する際に、材料の混練を容易に行うことができる。
【0044】
<セメント成形体の製造方法>
以下、本実施形態に係るセメント成形体の製造方法について説明する。
【0045】
本実施形態に係るセメント成形体の製造方法は、添加工程と、混練工程と、振動工程と、を含む。
【0046】
前記添加工程は、黒鉛に、前記黒鉛の添加量に対して1質量%以上40質量%以下の水を添加し、好ましくは、3質量%以上40質量%以下の水を添加し、より好ましくは、5質量%以上35質量%以下の水を添加して黒鉛水含有物を得る。より詳細には、黒鉛に水を添加した後、混合器等で練り混ぜることにより黒鉛水含有物を得ることができる。前記混合器としては、特に限定されるものではなく、例えば、ニーダー等の従来公知の混合器を用いることができる。
【0047】
前記混練工程は、前記添加工程で得られた黒鉛水含有物、セメント、水、及び、その他必要に応じた成分を練り混ぜ、未硬化の混練物を得る。混練方法は、特に限定されるものではなく、例えば、従来公知のミキサ等を用いて、従来公知の方法により混練することができる。なお、前記混練工程において練り混ぜる前記水の添加量は、セメント組成物に含まれる水の含有量から、前記添加工程において黒鉛に添加した水の添加量を引いた値とすることができる。
【0048】
前記振動工程は、前記未硬化の混練物に振動を加える。例えば、前記未硬化の混練物を型枠に投入した後、振動機を用いて振動を加えることができる。振動の効果は、加速度に比例し、振動数の大きな振動機ほど締固めに効果的であるため、前記振動機は、セメント成形体の大きさに応じて選定することができる。前記振動機としては、例えば、棒状バイブレータ、テーブルバイブレータ、型枠バイブレータ等が挙げられる。例えば、棒状バイブレータ(振動数200~280Hz)を使用する場合は、棒状バイブレータの挿入間隔を50cm以下にし、型枠への充填と黒鉛の配向性の観点から、棒状バイブレータ挿入箇所における1箇所当たりの振動時間を5秒以上300秒以下の条件で振動を加えることができる。
【0049】
このようにして製造されたセメント成形体は、例えば、道路や歩道の路面、建築構造物の床、壁、天井等に好適に用いることができる。
【0050】
本実施形態に係るセメント成形体の製造方法は、前記添加工程と、前記混練工程と、前記振動工程と、を含むことにより、融雪効率に優れるセメント成形体を得ることができる。より詳細には、前記振動工程を含むことにより、鱗片状黒鉛の平面がコンクリートの打設面と平行になるように、平面方向を揃えることができる。その結果、セメント成形体の融雪効率を向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態に係るセメント成形体の製造方法は、前記添加工程と、前記混練工程と、前記振動工程と、を含むことにより、前記セメント成形体の製造作業の作業性を向上させることができる。より詳細には、前記添加工程を含むことにより、黒鉛を計量する際や黒鉛をセメント等の他の材料とともに混練する際に、黒鉛が飛散して作業環境が悪化するのを防止することができる。さらに、前記添加工程を含むことにより、黒鉛と他の材料とがなじみ易くなることから、比較的融雪効率に優れたセメント成形体を得るために必要な量の黒鉛を添加することができる。
【0052】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]セメントと、黒鉛と、水と、を含む、セメント組成物。
[2]前記黒鉛が、鱗片状黒鉛を含む、[1]に記載のセメント組成物。
[3]前記鱗片状黒鉛のアスペクト比(最長径/厚さ)が、10以上200以下である、[2]に記載のセメント組成物。
[4]前記黒鉛の含有量が、前記セメント組成物全体に対して、11質量%以上40質量%以下である、[1]~[3]のいずれか一つに記載のセメント組成物。
[5]前記黒鉛の平均粒径が、30μm以上700μm以下である、[1]~[4]のいずれか一つに記載のセメント組成物。
[6]黒鉛に、前記黒鉛の添加量に対して1質量%以上40質量%以下の水を添加して黒鉛水含有物を得る添加工程と、
前記添加工程で得られた黒鉛水含有物と、セメントと、水と、を練り混ぜ、未硬化の混練物を得る混練工程と、
前記未硬化の混練物に振動を加える振動工程と、を含む、セメント成形体の製造方法。
[7]前記黒鉛が、鱗片状黒鉛を含む、[6]に記載のセメント成形体の製造方法。
[8]前記鱗片状黒鉛のアスペクト比(最長径/厚さ)が、10以上200以下である、[7]に記載のセメント成形体の製造方法。
[9]前記黒鉛の含有量が、前記セメント成形体全体に対して、11質量%以上40質量%以下である、[6]~[8]のいずれか一つに記載のセメント成形体の製造方法。
[10]前記黒鉛の平均粒径が、30μm以上700μm以下である、[6]~[9]のいずれか一つに記載のセメント成形体の製造方法。
【実施例0053】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
表1に示す配合で各実施例及び各比較例の未硬化の混練物を作製した。より詳細には、各実施例、並びに、比較例2及び3の未硬化の混練物については、まず、黒鉛に水を添加して黒鉛水含有物を作製した(添加工程)。続いて、練り鉢にセメント、水、及び、減水剤を投入し60秒撹拌した後、前記練り鉢に、黒鉛水含有物、有機繊維、必要に応じて細骨材を投入し、さらに60秒撹拌した(混練工程)。ミキサを一旦停止し、練り鉢の淵、底、及び、パドルに付着した未硬化の混練物を掻き落とした後、さらに60秒撹拌することにより各実施例、並びに、比較例2及び3の未硬化の混練物を作製した。また、比較例1の未硬化の混練物については、JIS R 5201に準じた方法で作製した。なお、表1の黒鉛(Grap)は黒鉛水含有物のうち、含有水を含めない乾燥分質量の換算値である。前記混練工程で投入する水の量は、水全量(W)から黒鉛水含有物中の含有水を引いた量とした。
【0055】
表1に示す各成分の詳細を以下に示す。
セメント(C):早強ポルトランドセメント、住友大阪セメント社製
黒鉛(Grap):FB-100(鱗片状黒鉛)、体積基準粒度分布における50%累積径が80μm、日本黒鉛工業社製
黒鉛(Grap):F#2-R(鱗片状黒鉛)、体積基準粒度分布における50%累積径が260μm、日本黒鉛工業社製
水(W):上水道水
減水剤(SP)(高性能AE減水剤):SP8SV(ポリカルボン酸系)、ポゾリスソリューションズ社製
有機繊維(Fiber):RMS702(ビニロン繊維)、繊維長6mm、クラレ社製
細骨材(S):セメント強さ試験用標準砂
【0056】
前記黒鉛のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡(SEM)(S-3400N、日立ハイテク社製)を用いて、粒子のベーサル面における任意の2点を結ぶ線分のうち、最長の線分の長さ(最長径)と、粒子のエッジ面の長手方向の両端部を結ぶ仮想線分であって、ベーサル面に沿う方向の仮想線分のうち、最長の仮想線分の1/2の位置(中間点)において、前記最長の仮想線分と直交する方向の厚さ(厚さ)を測定し、前記最長径と前記厚さとの比(最長径/厚さ)をアスペクト比として求めた。なお、最長径と厚さの測定は、それぞれ別の粒子で行った。最長径については、ベーサル面が表れている粒子で測定し、厚さについては、エッジ面が表れている粒子で測定した。
【0057】
より詳細には、まず、黒鉛を、篩を用いて+30M(+500μm)、+50M(+300μm)、+60M(+250μm)、+83M(+180μm)、+100M(+150μm)、+140M(+106μm)、+200M(+75μm)、及び、-200M(-75μm)の粒度域に篩分けした。篩分けした各粒度域において、最長径を測定するためのベーサル面が表れている粒子、及び、厚さを測定するためのエッジ面が表れている粒子をそれぞれ複数選定し、上記の走査型電子顕微鏡を用いて、選定した粒子について最長径又は厚さを測定した。測定した最長径及び厚さの平均値をそれぞれ算出し、アスペクト比を求めた。なお、最長径及び厚さを測定する粒子数はそれぞれ合計で100個とし、上記の各粒度域において測定する粒子数(すなわち、測定する合計100個の粒子の割り振り)については、篩分けした黒鉛の各粒度域の分布に応じて決定した。
【0058】
黒鉛(F#2-R)の最長径と厚さを上記の方法により測定し、最長径及び厚さの平均値と、アスペクト比を求めた。最長径の平均値は406.67μmであり、厚さの平均値は12.22μmであり、アスペクト比は、33.3であった。
【0059】
黒鉛(FB-100)の最長径と厚さを上記の方法により測定し、最長径及び厚さの平均値と、アスペクト比を求めた。最長径の平均値は166.65μmであり、厚さの平均値は4.19μmであり、アスペクト比は、39.8であった。
【0060】
前記黒鉛の平均粒径は、レーザー回折散乱法によって求めた。具体的には、分散剤が入った水溶媒中に黒鉛粒子を投入し、180秒間超音波振動させた後、マイクロトラック粒度分布測定装置(MICROTRAC3300EXII、日機装社製)を用いて、JIS-8511に準拠した方法で平均粒径(メジアン径)を求めた。
【0061】
【0062】
[圧縮強度]
各実施例及び各比較例の未硬化の混練物を用いて、JIS R 5201に準じた成形方法で成形し、供試体をそれぞれ作製した。作製した各供試体について、JIS R 5201に準じた方法で、材齢1日、3日、7日、及び、14日の圧縮強度を測定した。圧縮強度の測定値については、表2に示す。
【0063】
[曲げ強度]
各実施例及び各比較例の未硬化の混練物を用いて、JIS R 5201に準じた方法で成形し、供試体をそれぞれ作製した。作製した各供試体について、JIS R 5201に準じた方法で、材齢1日、2日、3日、7日、及び、14日の曲げ強度を測定した。曲げ強度の測定値については、表2に示す。
【0064】
[融雪効率]
(供試体の作製)
各実施例及び各比較例の未硬化の混練物を用いて、供試体をそれぞれ作製した。より詳細には、まず、JIS R 5201に適合するモルタル供試体成形用型枠(内寸160mm×176mm×40mm)を組み、水抜き用の穴を空けるため、前記型枠の所定の位置に鉄製の棒(直径3mm)を差し込んだ。次に、比較例1の未硬化の混練物を、前記型枠に打設した後、テーブルバイブレータ(55.5Hz)(丸東製作所社製)で気泡が上がらなくなるまで(3分程度)十分に振動させた(振動工程)。その後、封緘して材齢1日で脱型してモルタル成形体を得た。続いて、作製したモルタル成形体をカッターで4等分に切断して、4体の供試体を得た。各供試体の切断面及び打設上面を所定の寸法(70mm×70mm×25mm)になるように研磨して、比較例1の供試体を4体得た。なお、後述する融雪試験には9体の供試体を用いるため、上記の手順を繰り返し実施して、合計9体の供試体を作製した。なお、比較例2及び3については、材齢14日の圧縮強度が25N/mm2未満であったことから、融雪試験を実施しなかった。そのため、供試体を作製しなかった。
【0065】
各実施例の供試体は、まず、比較例1と同一配合の未硬化の混練物を用いて、比較例1と同一の上記方法により、供試体の母材を4体作製した。なお、4体の母材の寸法は、母材上面に各実施例の未硬化の混練物を打設するため、70mm×70mm×20mmになるように研磨した。次に、4体の母材を上記型枠に戻して、母材の上面に各実施例の未硬化の混練物を打設した。続いて、比較例1と同様の方法で、モルタル成形体を形成して、4体の供試体を得た。その後、比較例1と同様の方法で、各供試体の切断面及び打設上面を所定の寸法(70mm×70mm×25mm)になるように研磨して、各実施例の供試体を4体得た。また、比較例1と同様に、上記の手順を繰り返し実施して、各実施例においても、合計9体の供試体をそれぞれ作製した。
【0066】
(融雪試験)
各実施例及び比較例1の供試体を用いて融雪試験を行った。より詳細には、まず、設定雰囲気温度が5℃、0℃、‐5℃の大型恒温槽(TBE-3EW6PZT、espec社製)内に設置された机(床から天板の上面までは70cm)の上に、それぞれ3体の供試体を10mm間隔で一方向に並べた。続いて、供試体の上面から300±10mm離れた位置に遠赤外線ヒータを設置し、遠赤外線ヒータの中心部と、一方向に並ぶ中央の供試体の中心部とが一致するように位置を調整した。
【0067】
続いて、各供試体の上に氷塊(24mm×24mm×24mm)を載せて、遠赤外線ヒータにより加熱し、氷塊が融解するまでの時間を測定した。遠赤外線ヒータは、予め30分以上稼働させておいたものを用いたため、氷塊の載置、並びに、遠赤外線ヒータ及び供試体の配置が完了した時点を、測定の開始点とした。なお、各供試体は、設定温度が0℃の小型恒温槽(エスペック社製)に24時間以上静置したものを使用した。また、各供試体の上には、氷塊が滑らないようにする目的で、氷塊を囲うように輪ゴムを配置した。また、氷塊の載置、並びに、遠赤外線ヒータ及び供試体の配置は、1分程度の時間で行った。
【0068】
氷塊が融解するまでの状況をビデオカメラ、及び、赤外線サーモグラフィーカメラで撮影し、記録した動画から測定の終了点(すなわち、氷塊の融解に要した時間)を判断した。より詳細には、測定の終了点は、目視で氷塊が完全に見えなくなるまで融解したこと、及び、赤外線サーモグラフィー像による温度分布を考慮して判断した。
【0069】
融雪試験は、下記式(1)に示される融雪効率により評価した。融雪効率は、1秒当たりの氷塊の融解量を示しており、数値が大きいほど氷塊が溶けやすいことを示す。
融雪効率(mg/sec)=氷塊の質量(g)/融解に要した時間(sec)×1000 (1)
なお、融雪試験は、3体の供試体のそれぞれについて算出した融雪効率の平均値で評価した。前記融雪効率の平均値については、表2に示す。
【0070】
[熱伝導率]
各実施例及び各比較例の未硬化の混練物を用いて、JIS A 1132に準じた方法で供試体(300mm×300mm×100mm)を作成し、材齢28日の熱伝導率を測定した。熱伝導率の測定方法は、JIS A 1412-2を参考とする定常法によって行い、供試体の片端面を60℃、もう一端を20℃とする定常的な熱流を与え、温度勾配と通過する熱流束から求めた。熱伝導率の測定値については、表2に示す。
【0071】
【0072】
表2の結果から分かるように、本発明の構成要件をすべて満たす各実施例のセメント組成物から形成されるセメント成形体は、黒鉛を含まない比較例1のセメント組成物から形成されるセメント成形体に比べて、ほぼすべての試験温度で融雪効率の向上が認められる。
【0073】
また、本発明の構成要件をすべて満たす各実施例のセメント組成物から形成されるセメント成形体は、材齢1日で15N/mm2以上の圧縮強度を有し、かつ、材齢7日で25N/mm2以上の圧縮強度を有することから、十分な圧縮強度を得ることが出来る。さらに、本発明の構成要件をすべて満たす各実施例のセメント組成物から形成されるセメント成形体は、各比較例のセメント組成物から形成されるセメント成形体と比べて優れた曲げ強度を得ることができる。