IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧 ▶ エヌティーエンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-回転数計測方法および工具ホルダ 図1
  • 特開-回転数計測方法および工具ホルダ 図2
  • 特開-回転数計測方法および工具ホルダ 図3
  • 特開-回転数計測方法および工具ホルダ 図4
  • 特開-回転数計測方法および工具ホルダ 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081935
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】回転数計測方法および工具ホルダ
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20240612BHJP
   B23Q 23/00 20060101ALI20240612BHJP
   B23Q 17/12 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B23Q17/09 A
B23Q23/00
B23Q17/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195533
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】000102865
【氏名又は名称】エヌティーエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
(72)【発明者】
【氏名】早坂 健宏
(72)【発明者】
【氏名】山下 亨
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029CC01
(57)【要約】
【課題】工具ホルダに保持される回転工具の回転周波数を計測する技術を提供する。
【解決手段】計測装置32は、工具ホルダ1に保持される回転工具の回転数を計測する機能を有する。通信部34は、加速度センサを内蔵する工具ホルダ1から、加速度センサで検出された加速度データを受信し、解析部36は、受信した加速度データを用いて、回転工具の回転数を計測する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具ホルダに保持される回転工具の回転数を計測する方法であって、
加速度センサを内蔵する前記工具ホルダから、加速度センサで検出された加速度データを受信し、
受信した加速度データを用いて、前記回転工具の回転数を計測する、
ことを特徴とする回転数計測方法。
【請求項2】
受信した加速度データから、重力加速度成分が変化する周波数を特定することで、前記回転工具の回転数を計測する、
ことを特徴とする請求項1に記載の回転数計測方法。
【請求項3】
受信した加速度データから、遠心加速度の大きさを用いて前記回転工具の回転数を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の回転数計測方法。
【請求項4】
受信した加速度データをスペクトル解析して、ピーク値をとる周波数を特定し、特定した周波数を正の整数で除算した結果を用いて、前記回転工具の回転数を特定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の回転数計測方法。
【請求項5】
ピーク値をとる周波数を2または3で除算して、前記回転工具の回転数を特定する、
ことを特徴とする請求項4に記載の回転数計測方法。
【請求項6】
回転工具を保持する工具ホルダであって、
回転工具とともに回転する回転部と、
工作機械の主軸ハウジング側に固定されて、回転しない非回転部と、
前記回転部と前記非回転部の間で発電または送電するユニットと、を備え、
前記ユニットは、磁気シールドにより覆われている、
工具ホルダ。
【請求項7】
前記回転部は、加速度センサを備える、
ことを特徴とする請求項6に記載の工具ホルダ。
【請求項8】
前記加速度センサは、回転軸線からずれた位置に設けられる、
ことを特徴とする請求項7に記載の工具ホルダ。
【請求項9】
前記回転部は、前記加速度センサの位置を調整する位置調整機構を有する、
ことを特徴とする請求項7に記載の工具ホルダ。
【請求項10】
請求項6に記載の工具ホルダを利用して、工具ホルダおよび/または工具ホルダに保持される回転工具の回転数を計測する方法であって、
前記回転部と前記非回転部の間における磁界変動の周期を示す情報を取得し、
取得した磁界変動の周期を示す情報を用いて、前記工具ホルダおよび/または前記回転工具の回転数を計測する、
ことを特徴とする回転数計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工具ホルダに保持される回転工具の回転数を計測する方法、および回転工具を保持する工具ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
回転工具を用いた切削プロセスにおいて、正常な加工状態では、回転周波数の整数倍の切削力成分が支配的となり、一方で、自励振動であるびびりが発生している状態では、回転周波数の整数倍ではない振動成分が大きくなることが知られている。そのため、切削プロセス中に大きくなる振動成分の周波数を監視することで、切削プロセスの状態を検知することが可能となる。
【0003】
また、回転主軸の軸受の損傷が進むと、転動体が内輪および外輪上の定点を通過する周波数や、転動体が回転する周波数の整数倍の振動成分が大きくなることが知られている。これらの周波数は軸受の諸元を用いて回転周波数の関数として求められる。このように回転周波数は、切削プロセスや主軸軸受の状態を検知するための基本情報として利用される。加工や回転に伴って発生するひずみ、変形、力、温度変化等を測定する場合においても、回転周波数が利用されることが多い。
【0004】
従来、回転工具を回転主軸に固定する工具ホルダ内に加速度センサを設けて、切削プロセス中の振動を検出する測定ユニットが開発されている。工具ホルダに加速度センサを内蔵することで、工作機械の主軸ハウジング側に加速度センサを取り付ける場合と比べると、より切削点に近い位置で振動データを得ることができる。非特許文献1は、回転中心に固定された加速度センサと、加速度センサの測定データを無線で送信する送信部と、充電式電池とを搭載した工具ホルダを開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Zhengyou Xie, Jianguang Li, Yong Lu; "An integrated wireless vibration sensing tool holder for milling tool condition monitoring" The International Journal of Advanced Manufacturing Technology (2018) 95: 2885-2896
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
工具ホルダに内蔵した加速度センサを利用して切削プロセスを監視する監視装置は、工作機械とは別個の装置として設置されることが多い。監視装置と工作機械の間に通信手段が用意されていれば、監視装置は、プロセス監視に重要な基本情報である回転周波数を工作機械から取得できるが、当該通信手段が用意されていなければ、監視装置は、回転周波数を工作機械から取得できない。
【0007】
本開示はこうした状況に鑑みてなされており、その目的とするところは、工具ホルダに保持される回転工具の回転周波数を計測する技術を提供することにある。なお本開示は、工具ホルダに内蔵した電子部品に電力を供給する技術を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示のある態様は、工具ホルダに保持される回転工具の回転数を計測する方法であって、加速度センサを内蔵する工具ホルダから、加速度センサで検出された加速度データを受信し、受信した加速度データを用いて回転工具の回転数を計測する。
【0009】
本開示の別の態様は、回転工具を保持する工具ホルダであって、回転工具とともに回転する回転部と、工作機械の主軸ハウジング側に固定されて、回転しない非回転部と、回転部と非回転部の間で発電または送電するユニットとを備え、当該ユニットは、磁気シールドにより覆われている。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の工具ホルダの一部断面模式図である。
図2】回転周波数を計測する情報処理システムの構成例を示す図である。
図3】3軸加速度センサにより検出された加速度と回転数の関係を示す図である。
図4】検出された加速度データを周波数成分に分解した例を示す図である。
図5】発電ユニットおよび/または給電ユニットを有する工具ホルダの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態では、工具ホルダに内蔵した加速度センサを利用して、回転周波数を計測する技術を提案する。
図1は、実施形態の工具ホルダ1の一部断面模式図を示す。工具ホルダ1はホルダ本体10を備え、ホルダ本体10は、チャック部12およびシャンク部14を有して構成される。チャック部12は、回転工具2を保持するための保持構造を備える。シャンク部14は、上端が先細りするテーパ形状を有し、工作機械の主軸(図示せず)に固定される被固定構造を備える。
【0013】
ホルダ本体10は、その内部に、振動を検出する振動センサを備えたセンサ部品20を備える。センサ部品20は、少なくとも3軸加速度センサを含んで、3軸方向の加速度を検出する機能を有してよい。ここで工具ホルダ1の回転軸方向をr軸、r軸に直交する平面において、互いに直交する方向をp軸、q軸と定義すると、センサ部品20は、p軸、q軸、r軸の加速度を検出する機能を有してよい。
【0014】
位置調整機構22は一対の調整ねじ22aおよびねじ穴を有し、各調整ねじ22aの螺合量により、ねじ穴の方向におけるセンサ部品20の位置を調整する。図示の例では1つの位置調整機構22が、一方向(たとえばp軸方向)におけるセンサ部品20の位置を調整するために設けられているが、別の位置調整機構22が、当該方向に直交する方向(たとえばq軸方向)におけるセンサ部品20の位置を調整するために設けられて、中心軸線に対するセンサ部品20の2次元的な位置を調整できることが好ましい。
【0015】
実施形態の位置調整機構22は、センサ部品20を中心軸線から所望のずれ量だけ移動して、その位置で固定する役割をもつ。位置調整機構22がセンサ部品20の位置を調整した後、センサ部品20の周囲に樹脂等が充填されて、センサ部品20の位置が完全に固定されてよい。
【0016】
図2は、回転工具2の回転周波数を計測する情報処理システム30の構成例を示す。情報処理システム30は、工作機械の主軸に固定される工具ホルダ1と、回転周波数を計測する計測装置32とを備える。工具ホルダ1は、3軸加速度センサを備えるセンサ部品20と、3軸加速度センサが検出した加速度データを無線送信する通信部24とを有する。工具ホルダ1における電子部品が使用する電力は、工具ホルダ1内に内蔵された電池(たとえば充電式電池)から供給されてよいが、後述するように、工具ホルダ1が発電ユニットおよび/または給電ユニットを備えて、電子部品に電力を供給できるようにしてもよい。
【0017】
計測装置32は、工具ホルダ1から無線送信される加速度データを受信する通信部34と、受信した加速度データを解析する解析部36とを備える。実施形態の解析部36は、加速度データを解析して、切削プロセスにおける振動状態を解析する機能に加えて、回転工具2の回転周波数を計測する機能を備える。
【0018】
計測装置32はコンピュータを備え、コンピュータがプログラムを実行することによって、解析部36の機能が実現される。コンピュータは、プログラムをロードするメモリ、ロードされたプログラムを実行する1つ以上のプロセッサ、補助記憶装置、その他のLSIなどをハードウェアとして備える。プロセッサは、半導体集積回路やLSIを含む複数の電子回路により構成され、複数の電子回路は、1つのチップ上に搭載されてよく、または複数のチップ上に搭載されてもよい。
【0019】
工作機械において、工具ホルダ1は、様々な姿勢で主軸に固定される。以下、工具ホルダ1の回転軸が重力方向からずれている場合と、重力方向に一致している場合に分けて、ホルダ本体10に内蔵された3軸加速度センサが検出する加速度について説明する。
【0020】
<ホルダ回転軸が重力方向からずれている場合>
切削プロセスにおいて、工具ホルダ1が理想的に回転することにより生じる加速度は、重力加速度と遠心加速度である。たとえばセンサ部品20が回転中心に取り付けられている場合、遠心加速度は生じず、センサ部品20が回転中心からずれた位置に取り付けられていても、その偏心位置(回転中心からの距離と角度位置)と姿勢(工具ホルダ1に対するセンサ部品20の相対的な取付け角度)が変わらない限り、センサ部品20にとって遠心加速度の方向は一定となる。
【0021】
一方、重力加速度は、回転周波数で方向が変化する。つまり3軸加速度センサが検出する各軸方向の加速度において、回転周波数に応じて重力加速度成分の向きが変動し、したがって検出される加速度に、回転周波数の正弦波状の変化が含まれる。そこで解析部36は、通信部34が受信した加速度データから重力加速度成分を分離して、正弦波状変化の周波数を特定することで、回転周波数を計測することができる。特に加速度センサが上記したように3軸の場合、または2軸であってもその2軸方向及び重力方向が回転軸に直交する場合には、各軸成分を合成するとその大きさが重力加速度に等しくなり、また回転周波数が変化しても重力加速度成分の振幅は一定であって、さらに加速度センサが直流成分も計測可能な場合には静止時から一定であるため、重力加速度成分の分離は容易となる。
【0022】
<ホルダ回転軸が重力方向に一致している場合>
ホルダ回転軸が重力方向に一致している場合、重力加速度は回転軸方向で変化しないため、解析部36は、重力加速度を利用して回転周波数を計測できない。そのため、この場合は、位置調整機構22により3軸加速度センサの固定位置を回転軸線から、回転軸線に垂直な方向に適度にずらすことで、解析部36が、遠心加速度の大きさを利用して回転周波数を計測できるようにする。具体的に、遠心加速度は、計算式{(係数)×(回転半径)×(回転周波数)}で算出されるため、解析部36は、回転半径(回転中心からのずれ量)を取得することで、回転周波数を計測できる。
【0023】
なお加速度センサの測定レンジの範囲内で加速度を確実に検出することを目的として、センサ部品20の固定位置を、回転軸線に対してp軸方向およびq軸方向のそれぞれに適度にずらしてよい。なお、3軸加速度センサのように、多軸の加速度を検出するセンサを利用する場合、解析部36は、回転中の各軸加速度の直流成分(遠心加速度+重力加速度)から、センサ固定位置の偏心量とその偏心方向を特定でき、これらの情報を、偏心位置の調整に利用することが可能となる。
【0024】
以下、加速度センサの偏心位置とその偏心方向を特定する手法を示す。
図3は、回転軸線からずれた位置に配置した3軸加速度センサにより検出された加速度と回転数との関係を示す。ここで加速度p、q、rは、3軸加速度センサが検出する各方向の直流成分(平均値)を表し、p軸、q軸は2つの直交する半径方向に、r軸は回転軸方向に概ね一致するように固定されている。なお図3に示す関係は、回転数を変化させながら各加速度センサの検出値を取得する校正実験により生成しており、回転数は、工作機械側から取得している。
【0025】
この例では、3軸加速度センサが主としてp軸方向に偏心した位置に固定されており、したがってp軸方向の加速度を示す加速度pが、回転数に相関して増大している。その関係は概ね2次関数となり、遠心加速度=半径×(2π×回転数)の理論式にしたがっている。
【0026】
以下に示す式a、a、aは、図3に示す検出値である加速度p、q、rにフィットする2次関数(フィッティング関数)である。
【数1】
この結果から、3軸加速度センサの偏心量は、p軸方向におよそ40μmであることが特定される。なお、式中のR、R、Rは、各軸センサの偏心量と測定方向単位ベクトルの半径方向(遠心加速度方向)成分との積を意味している。またオフセット量はr軸負方向に最も大きく、したがって、r軸負方向が概ね重力方向であること、またその値が重力加速度9.8 m/s2に近いことが分かる。今回使用した加速度センサの検出範囲は±300 m/s2であるため、例えば5500 rpmで使用する場合には、回転数計測のために約130 m/s2の範囲が使用され、その状態で振動を計測し得る範囲は-430~+170 m/s2となり、この偏心位置ではp軸のプラス側検出範囲がある程度犠牲になることが分かる。このように、回転数を計測するための偏心量は、使用される回転数範囲と、確保したい振動測定範囲とを考慮して設定する必要がある。
【0027】
この例では3軸加速度センサをp軸方向のみに大きく偏心させて固定したが、q軸方向にも同様に偏心させることで、同じ振動測定範囲でも回転数計測の感度を向上できる。なお、r軸方向を回転軸方向からある程度傾けた上でr軸方向にも偏心させて、さらに回転数計測感度を向上することもできる。また、ここでは3軸加速度センサを例示したが、2軸あるいは1軸の加速度センサでも同様の回転数計測が可能であり、加速度センサの固定位置調整手法も同様に行うことができる。
【0028】
検出された加速度から回転数を特定するには、図3に示したような校正実験の測定曲線をそのまま使用しても良いし、それをフィッティングした2次曲線を使用しても良い。図示されるように、校正実験の測定曲線は2次曲線からわずかにずれており、これは、加速度センサの感度が非線形性を有していることを示している。このため、測定曲線をそのまま使用する方がデータ量が増えるものの、回転数計測精度は向上することが分かる。
【0029】
なお、ホルダ回転軸が重力方向に一致しているか否か、またはどの程度傾いているかについて、重力方向を検出することによって同定することが可能である。たとえば静止中の3軸加速度センサの出力は重力方向を示し、回転中も正弦波で変化する回転数成分の各軸振幅から重力の値と一致する加速度の方向を同定することができる、すなわちホルダ回転軸が重力方向に一致しているか否か、またはどの程度傾いているかを同定することができる。
【0030】
以上の計測においては、加速度検出値の直流成分のみを利用したが、交流成分も利用してより正確な回転数を計測することもできる。回転体に生じる振動には、一般に回転周波数の整数倍の成分が含まれている。回転体の内部で振動を測定する場合、回転周波数の単純な触れ回り振動は直流成分となるためその周波数を回転周波数の同定には利用できないが、例えば回転周波数の整数倍(たとえば2倍または3倍)成分については、顕著に観測されることが多い。
【0031】
図4は、検出された加速度データをFFT(高速フーリエ変換)して周波数成分に分解した例を示す。この例では、266.2 Hzのピークが検出されている。解析部36は、重力加速度成分の周波数または遠心加速度の大きさにもとづいて回転数を導出したうえで、さらに加速度データの交流成分を利用することで、より正確な回転数を計測することが可能となる。
【0032】
たとえば解析部36が、重力加速度成分の周波数または遠心加速度の大きさにもとづいて、回転数が8000 rpmであることを推定した場合について説明する。なお図3に示す測定データが存在する場合、解析部36は、図3に示す測定データを用いて、工具ホルダ1で検出された加速度データから、回転数が8000 rpmであることを推定してもよい。
【0033】
このとき図4に示す加速度スペクトルが得られると、解析部36は、ピーク値をとる周波数を266.2 Hz(=15972 rpm)と特定し、ピーク周波数は回転周波数の整数倍(2倍または3倍)であるという関係にもとづいて、回転周波数を特定する。この場合、解析部36は、ピーク周波数(15972 rpm)を正の整数(2または3)で除算し、除算した結果が、推定回転数(8000 rpm)に略一致するか判定する。
【0034】
ここで、
15972 rpm / 2 = 7986 rpm
15972 rpm / 3 = 5342 rpm
となる。
したがって解析部36は、7986 rpmが、推定回転数である8000 rpmに略一致していることを判定し、したがってピーク周波数である266.2 Hz(=15972 rpm)が7986 rpmの2倍成分であることを同定する。このように解析部36は、加速度データをスペクトル解析した結果を加味することで、正確な回転数7986 rpmを特定することができる。
【0035】
図5は、発電ユニットおよび/または給電ユニットを有する工具ホルダ1の断面構成例を示す。工具ホルダ1が、発電ユニットおよび/または給電ユニットを有することで、交換や充電を必要とするバッテリを搭載しなくてすみ、または搭載するバッテリの容量を非常に小さくできる。
【0036】
工具ホルダ1はホルダ本体10を備え、ホルダ本体10は、チャック部12およびシャンク部14を有して構成される。図5に示す構成例において、ホルダ本体10において、内周部42は、チャック部12が保持する回転工具2とともに回転し、一方、外周部44は、工作機械の主軸ハウジング側に固定されて、回転しない。ホルダ本体10の内部空間には、センサ部品20および通信部24を有する回転体50が配置される。回転体50は、ホルダ本体10の内周部42に連結されて、内周部42とともに回転する。たとえば回転体50は、センサ部品20および通信部24を搭載するセンサニットであってよい。
【0037】
内周部42は、一対の軸受46により外周部44に回転可能に支持される。外周部44には支持部材40が連結されて、支持部材40は、工作機械の主軸ハウジングに連結する固定部材60に固定される。この支持構造により、工具ホルダ1の外周部44が主軸ハウジングに対して回転不能に固定され、内周部42が回転可能となる。したがって図5に示す工具ホルダ1は、図示しない回転工具2とともに回転する回転部(内周部42、回転体50を含む)と、工作機械の主軸ハウジング側に固定されて回転しない非回転部(外周部44)とを備えて構成される。
【0038】
工具ホルダ1において、一対の軸受46、内周部42および外周部44によって囲まれる空間に、センサ部品20および通信部24などの電子部品が使用する電力を生成する発電ユニット52が設けられる。発電ユニット52は、内周部42に設けられる回転部52aと、外周部44に設けられる固定部52bとを備え、回転部52aが固定部52bに対して相対的に回転することで発電するモータと同様の構造を有してよい。たとえば回転部52aに発電用コイルを配置し、固定部52bに永久磁石を配置することで、発電ユニット52は、発電用コイルで生成した電力を、回転体50に設けられた電子部品に供給できる。回転体50は、供給される電力を蓄積する蓄電部を備え、電子部品は、蓄電部に蓄積された電力により駆動されてよい。
【0039】
例えば、固定部52bにおいてM組のS極とN極を周方向に等間隔に配置する場合、回転部52aの各発電用コイルにとっては、1回転でM波の磁界変動、すなわち誘導電圧を受電する。このため解析部36は、磁界変動の周期を示す情報を取得し、誘導電圧の周波数をMで除算することで、回転数を正確に同定することができる。回転体50は、たとえば上記受電される誘導電圧の変化や蓄電部に蓄積される電力の変化を監視して磁界変動の周期を示す情報を特定する処理部を有し、通信部24が、計測装置32に、磁界変動の周期を示す情報を送信してよい。なお処理部は、他の手段により磁界変動の周期を示す情報を特定してもよい。計測装置32において、通信部34は、磁界変動の周期を示す情報を受信し、解析部36は、取得した磁界変動の周期を示す情報を用いて、工具ホルダ1および/または工具ホルダ1に保持される回転工具の回転数を計測してよい。
【0040】
発電ユニット52は磁界を発生するため、磁性を持つ切りくずの吸着を防ぐ必要がある。そこで外周部44を磁性材料で形成して、発電ユニット52を磁気シールドで覆う構造をとることが好ましい。なお発電ユニット52は、外周部44とは異なる、磁性材料で形成した構造により取り囲まれて、磁気的にシールドされてよい。いずれにしても発電ユニット52は磁界を発生するため、磁性を持つ切りくずが工具ホルダ1に吸着しないように、磁気シールドにより覆われることが好ましい。
【0041】
なお発電ユニット52は、回転部52aに永久磁石を配置し、固定部52bに発電用コイルを配置して、固定部52b側で電力を生成してもよい。この場合、発電ユニット52は、回転体50に設けられた電子部品に電力を供給するために、給電ユニットをさらに備えてよい。給電ユニットにおいては、固定部52bが送電用コイルを有し、回転部52aが受電用コイルを有することで電磁トランスを構成し、発電用コイルで生成された電力を、電磁トランスにより回転体50に設けられた蓄電部に伝送(送電)する。
【0042】
なお工具ホルダ1は、発電ユニット52を備えず、給電機能を有する給電ユニットを備えてもよい。この場合、固定部52bが送電用コイルを有し、回転部52aが受電用コイルを有することで電磁トランスを構成し、工作機械などの外部装置から固定部52bに供給される電力を、回転体50に設けられた蓄電部に伝送(送電)する。
【0043】
給電ユニットの電磁トランスは、センサ部品20で検出した信号を外周部44側へ送信するために利用されてもよい。この場合、給電用の交流電圧周波数と異なる周波数帯域が利用されてよい。
【0044】
実施形態では、送電用コイルと受電用コイルとを半径方向に対向させて、半径方向周りに巻いたコイルで電磁トランスを構成している。たとえば送電用コイルと受電用コイルとを回転軸線方向に対向させ、回転軸と同じ軸周りに巻いたコイルで電磁トランスを構成すると、回転位置に依存することなく給電(送電)が可能となるため、給電効率が高い。しかしながら実施形態では、半径方向周りに巻いたコイルで電磁トランスを構成することで、あえて回転位置に依存した給電構造(固定された送電用コイルが、回転する受電用コイルに対向したときにのみ送電される)とし、解析部36が、その回転位置の依存性を利用して正確な回転数を計測してもよい。具体的には解析部36が、磁界変動の周期を示す情報にもとづいて、正確な回転数を計測してよい。
【0045】
以上、本開示を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理の組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0046】
本開示の態様の概要は、次の通りである。
本開示のある態様の回転数計測方法は、工具ホルダに保持される回転工具の回転数を計測する方法であって、加速度センサを内蔵する前記工具ホルダから、加速度センサで検出された加速度データを受信し、受信した加速度データを用いて、前記回転工具の回転数を計測する。
【0047】
この態様によると、工作機械側から回転数を取得することなく、加速度データを用いて回転数を計測することが可能となる。
【0048】
この方法は、受信した加速度データから、重力加速度成分が変化する周波数を特定することで、回転工具の回転数を計測してよい。この方法は、受信した加速度データから、遠心加速度の大きさを用いて回転工具の回転数を算出してもよい。また、この方法は、受信した加速度データをスペクトル解析して、ピーク値をとる周波数を特定し、特定した周波数を正の整数で除算した結果を用いて、回転工具の回転数を特定してもよい。このとき、ピーク値をとる周波数を2または3で除算して、回転工具の回転数を特定してもよい。
【0049】
本開示の別の態様の工具ホルダは、回転工具を保持するものであって、回転工具とともに回転する回転部と、工作機械の主軸ハウジング側に固定されて、回転しない非回転部と、回転部と非回転部の間で発電または送電するユニットとを備える。当該ユニットは磁気シールドにより覆われ、したがって磁性を持つ切りくずが、工具ホルダに吸着することを防止できる。
【0050】
回転部は、加速度センサを備えてよく、加速度センサは、回転軸線からずれた位置に設けられてよい。回転部は、加速度センサの位置を調整する位置調整機構を有してよい。
【0051】
なお本開示は、この工具ホルダを利用して、工具ホルダおよび/または工具ホルダに保持される回転工具の回転数を計測する方法を提供してもよい。この方法は、回転部と非回転部の間における磁界変動の周期を示す情報を取得し、取得した磁界変動の周期を示す情報を用いて工具ホルダおよび/または回転工具の回転数を計測する。
【符号の説明】
【0052】
1・・・工具ホルダ、2・・・回転工具、10・・・ホルダ本体、12・・・チャック部、14・・・シャンク部、20・・・センサ部品、22・・・位置調整機構、22a・・・調整ねじ、24・・・通信部、30・・・情報処理システム、32・・・計測装置、34・・・通信部、36・・・解析部、40・・・支持部材、42・・・内周部、44・・・外周部、46・・・軸受、50・・・回転体、52・・・発電ユニット、52a・・・回転部、52b・・・固定部、60・・・固定部材。
図1
図2
図3
図4
図5