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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081971
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】炉心の制御方法
(51)【国際特許分類】
   G21D 3/12 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
G21D3/12 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195608
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】横井 公洋
(72)【発明者】
【氏名】伏見 篤
(72)【発明者】
【氏名】光安 岳
(57)【要約】
【課題】
沸騰水型原子炉に適した日出力調整運転における、出力調整幅を拡大し得る炉心の制御方法を提供する。
【解決手段】
日負荷追従運転を実施する原子力プラントにおける炉心の制御方法であって、日負荷追従運転による炉心の状態変化を評価する第1の工程と、低出力状態から高出力状態への復帰時及び復帰後における炉心の制約パラメータの制限超過を判定する第2の工程と、前記低出力状態の時間帯又は前記高出力状態への復帰中の時間帯における制御棒操作量を設定する第3の工程と、を備える
【選択図】 図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
日負荷追従運転を実施する原子力プラントにおける炉心の制御方法であって、
日負荷追従運転による炉心の状態変化を評価する第1の工程と、
低出力状態から高出力状態への復帰時及び復帰後における炉心の制約パラメータの制限超過を判定する第2の工程と、
前記低出力状態の時間帯又は前記高出力状態への復帰中の時間帯における制御棒操作量を設定する第3の工程と、を備えることを特徴とする炉心の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の炉心の制御方法において、
前記第2の工程と前記第3の工程の間に更に、
前記原子力プラントの給水温度制御能力を判定する第4の工程と、
給水温度制御量を設定する第5の工程と、を備えることを特徴とする炉心の制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の炉心の制御方法において、
前記第1の工程の前に更に、制御指令によって、とりうる出力調整パターンの内、135Xeの濃度変化が最大となるパターンを設定する第6の工程を備えることを特徴とする炉心の制御方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のうち、いずれか1項に記載の炉心の制御方法において、
前記炉心の制約パラメータは、炉心の出力と流量の制御範囲を制限する出力流量マップであることを特徴とする炉心の制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の炉心の制御方法において、
前記第2の工程にて、前記出力流量マップの流量上限を超過した場合には、前記第3の工程にて、制御棒の引き抜き量を設定し、
前記第2の工程にて、前記出力流量マップの流量下限を超過した場合には、前記第3の工程にて、制御棒の挿入量を設定することを特徴とする炉心の制御方法。
【請求項6】
請求項4に記載の炉心の制御方法において、
前記第2の工程にて、前記出力流量マップの流量上限を超過した場合には、前記第5の工程にて、給水温度の低下量を設定し、
前記第2の工程にて、前記出力流量マップの流量下限を超過した場合には、前記第5の工程にて、給水温度の上昇量を設定することを特徴とする炉心の制御方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項3のうち、いずれか1項に記載の炉心の制御方法において、
前記炉心の制約パラメータは、最小限界出力比、最大線出力密度、PCIOMR及びSDRsのうちいずれかに係るパラメータであることを特徴とする炉心の制御方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項3のうち、いずれか1項に記載の炉心の制御方法において、
前記第3の工程にて、制御棒位置を定常状態の位置或いは日負荷追従運転の実施前の初期位置に戻すことを特徴とする炉心の制御方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項3のうち、いずれか1項に記載の炉心の制御方法において、
前記いずれかの工程にて、反復回数の上限を有することを特徴とする炉心の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炉心の制御方法に係り、特に、沸騰水型原子炉に適用するのに好適な炉心の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉の炉心には、複数の燃料集合体が装荷されている。燃料集合体は、核燃料物質(例えば、酸化ウラン)を含む複数の燃料ペレットを封入した複数の燃料棒、燃料棒の上端部を支持する上部タイプレート(上部燃料支持部材)、燃料棒の下端部を支持する下部タイプレート(下部燃料支持部材)、燃料棒間の間隔を保持する複数の燃料スペーサ、水ロッド、及び横断面が正方形状である角筒状のチャンネルボックスを有する。原子力発電は、発電コストに占める核燃料サイクルコストの割合が小さく、とりわけ国内ではベースロード電源として認識されてきた。
【0003】
これまでベースロード電源として認識されてきた国内の原子力プラントにおいても、近年の再生可能エネルギー(特に太陽光)の大量導入に伴い、日負荷追従運転による調整力としての機能が求められつつある。原子力プラントの日負荷追従運転の方法として、炉心の熱出力を変化させる熱出力制御がある。
【0004】
熱出力制御の大きな課題の一つとして、135Xeの濃度変化がある。135Xeは中性子の強吸収物質であるため、その濃度変化に合わせて臨界制御を行う必要がある。135Xeは定格出力時には生成と消滅がつり合い平衡状態(一定の数密度)となっているが、熱出力を下げると消滅の寄与が減り濃度が上昇していく。炉心にもよるが、おおよそ6時間程度で135Xeの数密度がピークとなったのち減少に転じる。この135Xeの数密度がピークとなる時間(以降、Xeピーク時間)は、太陽光発電が盛んに行われる日照時間の時間オーダーに比較的近い。従って、太陽光発電が行われている間、電力の需給調整のため原子力プラントで低出力状態を維持することを考えた場合、定格出力に戻す際には、ちょうど135Xeが蓄積した状態である可能性が高い。定格出力に戻した際にも当然臨界を維持する必要があるが、135Xeが蓄積している分、定格運転状態と比べると正の反応度を投入しなければならない。また、この後定格出力を維持すると、135Xeの消滅の寄与が増えて逆に135Xeの数密度が減り負の反応度を投入する必要が生じる。このように同じ定格出力状態であっても、日負荷追従による135Xeの濃度変化に伴い、大きく臨界制御をする必要がある。なお、一般に「負荷追従」と呼ばれる制御方法のことを、需給調整市場参入のために事業者が能動的に出力制御する環境に変わりつつあることを踏まえて、以降、「出力調整」と称する。
【0005】
この臨界制御の方法として、制御棒の挿入量の操作、再循環ポンプによる炉心流量制御、給水加熱量の調整による給水温度制御等がある。制御棒操作は、局所的に反応度を投入することになり出力分布の変化が大きいため、一般に高出力領域(例えば、定格出力)では活用しない。一方、流量制御や給水温度制御は、炉心全体的に反応度を投入するため出力分布の変化は比較的小さく、高出力領域でも操作可能である。ただし、流量制御量にはP-F map(出力流量マップ)やMCPR(Minimum Critical Power Ratio:最小限界出力比)等の制限があり、給水温度制御量には給水ノズルの熱疲労の観点から制限がある。出力調整幅が小さい等、135Xeの濃度変化が小さい場合には、臨界は基本的に流量制御により制御するが、135Xeの濃度変化が大きくなると、特に高出力(例えば、定格出力)復帰後のP-F map(出力流量マップ)の流量制限を超過するようになり、上記制約を考慮しつつ、制御棒制御や給水温度制御を併用する必要がある。なお、給水温度制御は原子力プラントによっては、新たに実装が必要となる。
【0006】
出力調整における流量制御と制御棒操作の併用に関して、特許文献1に記載された技術がある。特許文献1では、出力調整前後に制御棒操作で(臨界となる)流量値をシフトさせて、制御棒操作による出力調整量を減らし、流量制御による出力調整量を増やしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2-242198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術では、高出力復帰後のP-F map(出力流量マップ)等の制約パラメータの制限超過は抑制できない。すなわち、出力調整幅が制限される虞がある。
【0009】
そこで、本発明は、沸騰水型原子炉に適した日出力調整運転における、出力調整幅を拡大し得る炉心の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る炉心の制御方法は、日負荷追従運転を実施する原子力プラントにおける炉心の制御方法であって、日負荷追従運転による炉心の状態変化を評価する第1の工程と、低出力状態から高出力状態への復帰時及び復帰後における炉心の制約パラメータの制限超過を判定する第2の工程と、前記低出力状態の時間帯又は前記高出力状態への復帰中の時間帯における制御棒操作量を設定する第3の工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、沸騰水型原子炉に適した日出力調整運転における、出力調整幅を拡大し得る炉心の制御方法を提供することが可能となる。
例えば、日出力調整運転において、出力調整幅を拡大しても、135Xeの濃度変化に伴う臨界制御で高出力復帰後のP-F map(出力流量マップ)等の制約パラメータの各種制約を超過することを抑制できる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】低出力時間が相対的に長い場合の原子炉熱出力の時間変化を示す図である。
図2図1のケースに対する冷却水の炉心流量の時間変化を示す図である。
図3】低出力時間が相対的に短い場合の原子炉熱出力の時間変化を示す図である。
図4図3のケースに対する冷却水の炉心流量の時間変化を示す図である。
図5】流量下限を超過する場合の制御棒挿入操作を示す図である。
図6】制御棒挿入操作による流量への影響を示す図である。
図7】流量上限を超過する場合の制御棒引き抜き操作を示す図である。
図8】制御棒引き抜き操作による流量への影響を示す図である。
図9】給水温度制御を活用する際の原子炉熱出力の時間変化を示す図である。
図10】給水温度制御を活用した場合の流量への影響を示す図である。
図11】本実施形態に係る炉心の制御方法のフロー図である。
図12】本発明の実施例1に係る原子炉の1/4構成図である。
図13】実施例1に係る要求される電気出力の時間変化を示す図である。
図14】実施例1に係る炉心の制御方法のフロー図である。
図15】本発明の実施例2に係る要求される電気出力の時間変化を示す図である。
図16】実施例2に係る炉心の制御方法のフロー図である。
図17】本発明の実施例3に係る炉心の制御方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者等は種々の検討を重ね、出力調整幅を拡大した日出力調整運転において、各制御方法を活用して、135Xeの濃度変化に伴う臨界制御を実施しても、高出力復帰後のP-F map(出力流量マップ)等の各種制約パラメータの制限超過を抑制できる制御方法を見出した。この検討結果及び新たに見出した制御方法の概要について以下に説明する。以下では、制御棒が炉心に挿入された運転サイクル前半の典型的な沸騰水型原子炉の炉心を一例として説明する。ただし、運転サイクル後半の炉心でも適用可能である。
【0014】
まず、ベースとして流量制御の場合を考える。図1は低出力状態の継続時間(以下、低出力時間と称する)がXeピーク時間と比べ相対的に長い場合の原子炉熱出力の時間変化を示し、図2図1のケースに対する冷却水の炉心流量の時間変化を示している。図2に示すように、低出力時間が長い場合は、定格出力時の流量下限の制約を超過する。これは、低出力時間が長いと135Xeの親核種である135Iの生成が不足し、高出力復帰後に135Xe濃度が定常状態と比べ大幅に減少するため、臨界維持には流量を大幅に減少させることによる。なお、図2中の14h~28hにおける流量の変化は、低出力にすると135Xeの蓄積量(濃度)が上昇するため、流量制御の流量を増加させる。その後、135Xe濃度は減少に転じる。そのため流量制御の流量を減少させている。
【0015】
次に、定格出力時の流量上限を超過する場合を考える。図3は低出力時間が図1よりも短い場合の原子炉熱出力の時間変化を示し、図4図3のケースに対する冷却水の炉心流量の時間変化を示す。図4に示すように、流量上限の制約を超過することがわかる。これは、低出力運転中に135Xe濃度が減少へ転じる前に定格出力へ復帰したため、復帰直後の135Xe濃度が定常状態と比べ大幅に増加しており、臨界維持には流量を大幅に増大させることによる。以上の流量制限の超過を抑制するためには、制御棒操作を併用して臨界制御することが考えられるが、制御棒操作は高出力領域では一般に活用できないことが課題である。
【0016】
そこで、制御棒位置を低出力領域で操作することを考えた。高出力時の流量制限を片側(例えば、流量上限)のみ超過する場合、多くの場合もう片側(例えば、流量下限)の制限までは余裕がある。従って、片側で流量の制限を超過する場合は、もう片側の制限までの余裕を活用するように低出力領域で制御棒位置を変更すればよいと考えた。具体的には、低出力時間が長い図1の熱出力調整のパターンに対しては、流量下限を超過するため、図5に示すように、低出力運転中に制御棒挿入操作を実施する。図6に、本制御棒挿入操作による流量の変化を示すが、制御棒操作後に流量が高流量側へシフトし、定格出力復帰後の流量が流量上限と流量下限の幅(以下、流量制限幅と称する)に収まるようになることが分かる。低出力時間が短い図3の熱出力調整のパターンに対しては、図4に示すように流量上限を超過するため、図7に示すように、低出力運転中に制御棒引き抜き操作を実施する。図8に、本制御棒引き抜き操作による流量の変化を示すが、制御棒操作後に流量が低流量側へシフトし、定格出力復帰後の流量が流量制限幅に収まるようになることが分かる。以上のように、事前に解析等で、流量制限の超過を予測すれば、低出力領域で制御棒操作することで、流量をシフトさせ制限超過を抑制することができる。
なお、本制御においては、定格出力復帰後の制御棒位置は出力調整前と異なっており、これを元の制御棒位置に戻す場合は、出力調整幅が小さい等、炉心の各種制約パラメータまで余裕がある以降の出力調整において、低出力状態において制御棒位置を元に戻すことが考えられる。また、本制御において、135Xeの濃度変化に伴う流量変化量が流量制限幅を超えている場合は、制御棒操作で流量をシフトさせても、制限超過は抑制できない。この場合は、流量変化量を小さくするため、別の臨界制御手法の併用が必要となる。この方法として、給水温度制御が有る。
【0017】
給水温度制御の具体的な方法の一例として、図示しない、タービンから給水加熱器へ抽気する蒸気量をバタフライ弁等で制御して加熱量を変え、給水の温度を制御する方法がある。この方法により、炉心のボイド率を変化させることができるため、臨界制御手法となり得る。なお、給水温度制御においては、温度変化量が大きい場合、給水温度を繰り返し変更することによる、給水ノズル(溶接部)の熱疲労の確認が必要となる。なお、実運用上は、熱疲労の観点で、許容される最大の温度変化量を事前に評価しておき、その範囲での制御となるように、給水温度制御能力を限定すると考えられる。図9に給水温度制御を活用する際の原子炉熱出力の時間変化を示し、図10に給水温度制御を活用した場合の流量への影響を示す。図10では左縦軸が流量を示しており、右縦軸は給水温度制御を併用した際の給水温度の変化量を示している。図10に示すように、点線で示す流量制御のみの場合は、流量上限で制限超過するが、実線で示す給水温度制御を併用する場合、流量上限を超過する時間帯で、代わりに給水温度の低下制御をすることで、流量上限の超過を抑制できる。なお、給水温度制御は、出力分布への影響が小さいため、低出力状態(低出力運転中と別出力状態への移行中も含む)はもちろん、高出力状態でも操作可能である。また、流量下限を超過する場合には、給水温度の上昇制御をすることとなる。
上記の制御棒操作と給水温度制御の説明において、一例として定格出力への復帰を取り上げたが、定格出力に限定するものではない。
【0018】
以上のように、流量制御に加え、制御棒制御や給水温度制御を併用すれば、出力調整幅が大きくなる等して、135Xeの濃度変化が大きくなっても、P-F map(出力流量マップ)の各種制約を満たしつつ臨界の維持が可能となる。これらの制御法を併用する具体的な本実施形態に係る炉心の制御方法のフロー図を図11に示す。なお、以下では、制約パラメータの一例として、P-F map(出力流量マップ)の場合を示す。
図11に示すように、ステップS11にて流量制御が開始され、その後、ステップS12にて制約の超過を確認するため、出力調整による炉心の状態変化を確認する。この確認には、炉心解析コードを活用したXe過渡解析や動特性解析の評価が考えられる(工程1)。
この評価の後、ステップS13にて出力結果である流量の時間変化の結果から、高出力状態への復帰時及び復帰後のP-F map(出力流量マップ)における流量制限の超過を判定する(工程2)。判定の結果、超過が無ければステップS16へ進みその制御方法を選択する(出力調整を実施)。判定の結果、超過があればステップS14にて、原子力プラントの給水温度制御能力を判定する(工程3)。判定の結果、給水温度制御能力を有していれば、ステップS15へ進み、給水温度制御量を仮設定する(工程4)。ステップS15(工程4)において、具体的には、流量上限を超過していれば給水温度の低下量を設定し、流量下限を超過していれば上昇量を設定することとなる。そして、再度、ステップS12(工程1)に戻り、出力調整による炉心の状態変化を評価する。
一方、ステップS14(工程3)にて、判定の結果、給水温度制御能力を有していなければ、ステップS17へ進み、低出力状態の時間帯における制御棒操作量を設定する(工程5)。このステップS17(工程5)において、具体的には、流量上限を超過していれば制御棒引き抜き量を設定し、流量下限を超過していれば制御棒挿入量を設定する。そして、再度、ステップS12(工程1)に戻り、出力調整による炉心の状態変化を評価する。なお、ステップS14(工程3)及びステップS15(工程4)は、給水温度制御能力を有していない原子力プラントの場合は、炉心の制御方法のフローにおけるステップS14(工程3)及びステップS15(工程4)を有していないことも考えられる。本フローでは、対象とする原子炉の熱出力調整に伴う臨界制御が、制御棒操作による流量シフト及び給水温度制御の能力を超えた場合、無限ループに入るため、同一工程の反復回数の上限を設定してその上限に達した場合は対象の熱出力調整に対処できないと判断する必要がある。その場合は、対象の熱出力調整を見直すか、原子力プラントのその他設備及び機能も活用して、目標の電気出力変化を達成することを検討することになる。その他設備及び機能とは、例えば、タービンバイパス機能や原子力プラントに併設した水素製造設備の活用が挙げられる。
【0019】
以上の判定フローは、日出力調整において特にクリティカルな制約パラメータとなり得るP-F map(出力流量マップ)の制限の超過について着目しているが、その他の炉心の出力調整における制約パラメータである、MCPR(Minimum Critical Power Ratio:最小限界出力比)やPCIOMR(Pre-Conditioning Interim Operating Management Recommendation:ならし運転)やSDRs(Soft Duty Rules)、MLHGR(Maximum Linear Heat Generation Rate:最大線出力密度)の制限超過においても、判定フローは応用できる。なお、流量制御、制御棒制御、給水温度制御は、単体で制御するのではなく、同時に制御して併用しても問題ない。実運用上は、各制御の操作自体は個別で行うものの(例えば、流量制御と制御棒制御は個別に行う)、同時刻で併用して臨界制御することが考えられる。
また、上述のこのステップS17(工程5)において、制御棒位置を定常状態の位置あるいは日負荷追従運転の実施前の初期位置に戻す場合もあり得る。
【0020】
以下では、改良型沸騰水型原子炉(Advanced Boiling Water Reactor:ABWR)を一例として、図面を用いて本発明の実施例について説明するが、これに限られるものではない。例えば、再循環ポンプを備え減速材としての冷却水を原子炉圧力容器外へ通流し再び原子炉圧力容器内のダウンカマへ流入させることで冷却水を循環させる通常の沸騰水型原子炉(BWR)に適用できることは言うまでもない。
また以下では、制約パラメータとしてP-F map(出力流量マップ)を一例として図面を用いて本発明の実施例について説明する。
【実施例0021】
本発明の好適な一実施例である、改良型沸騰水型原子力プラント(ABWR)に適用される本実施例の炉心の制御方法を、図12乃至図14を用いて説明する。なお、対象の原子力プラントは、給水温度制御機能を有しているものとする。また、系統から要求される電気出力の時間変化に対しては、炉心の熱出力調整で対応するものとする。
【0022】
図12は、本実施例に係る原子炉の1/4構成図である。図12中のセル内の番号は、燃料の当該サイクル終了時の経過サイクル数を示している。図12中の領域1は制御棒が挿入される領域である。例えば、コントロールセルである。図12では、制御棒は0が全挿入、48が全引き抜きとした際の10まで挿入されている。図13は、実施例1に係る要求される電気出力の時間変化を示す図である。図13に示すように、要求される電気出力の時間変化は、低出力時間が長く、炉心で熱出力調整する場合は、流量下限で制約を超過することとなる。
【0023】
図14は、本実施例に係る炉心の制御方法のフロー図である。図14に示すように、ステップS21にて流量制御が開示され、その後ステップS22にて、出力調整による炉心の状態変化を評価する(工程7)。
この評価の後、ステップS23にて、出力結果である流量の時間変化の結果から、高出力状態への復帰時及び復帰後のP-F map(出力流量マップ)における流量制限の超過を判定する(工程8)。判定の結果、流量下限において流量の制約を超過することが確認される。ステップS24では、工程9では、給水温度制御能力があることが確認される(工程9)ため、ステップS25へ進み、給水温度制御量が設定される(工程10)。具体的には、給水温度上昇量が暫定的に設定される。なお、給水温度上昇量の設定は、例えば、事前にトライ・アンド・エラーで給水温度上昇量の設定値を設定する。
その後、炉心の状態を更新して、ステップS22(工程7)に戻り、再度、ステップS23(工程8)でP-F map(出力流量マップ)における流量制限の超過を確認することとなる。このフローを繰り返し、給水温度制御量が給水ノズルの熱疲労等の観点で決定される温度変化量の制約を超過すると、低出力状態における制御棒操作量がステップS27(工程11)で設定される。具体的には領域1の制御棒の挿入量が設定される。その後、炉心の状態を更新して、ステップ22(工程7)に戻り、再度、ステップ23(工程8)で制約超過を確認する。このフローを制約超過が無くなるまで、反復する。反復回数の上限まで、制約超過が無くならない場合は、炉心の熱出力調整で対応できないと判断する。なお、反復回数の上限は、例えば、事前にトライ・アンド・エラーで決定される。
【0024】
以上の通り、本実施例によれば、沸騰水型原子炉に適した日出力調整運転における、出力調整幅を拡大し得る炉心の制御方法を提供することが可能となる。
例えば、日出力調整運転において、出力調整幅を拡大しても、135Xeの濃度変化に伴う臨界制御で高出力復帰後のP-F map(出力流量マップ)等の制約パラメータの各種制約を超過することを抑制できる。
【実施例0025】
本発明の好適な一実施例である、改良型沸騰水型原子力プラント(ABWR)に適用される本実施例に係る炉心の制御方法を、図15及び図16を用いて説明する。本実施例では、対象の原子力プラントが給水温度制御機能を有していない点、及び系統から要求される電気出力の時間変化(図15)は低出力時間が短く、炉心の熱出力調整により、流量上限で制約を超過する点が、上述の実施例1と異なる。その他原子力プラントの構成等は、実施例1と同様である。
【0026】
図15は、本実施例に係る要求される電気出力の時間変化を示す図であり、図16は、本実施例に係る炉心の制御方法のフロー図である。図16では、原子力プラントにおいて給水温度制御能力がないため、実施例1の図14と比べて、給水温度制御能力の判定と給水温度制御量を設定する工程が無い。判定の違いとしては、これらの工程がないため、具体的な操作量の設定として、制御棒操作量の設定のみが行われることとなる。
【0027】
以上の通り、本実施例によれば、原子力プラントにおいて、給水温度制御機能が無くとも、制御棒操作によって、出力調整幅を拡大できる。
【実施例0028】
本発明の好適な一実施例である、改良型沸騰水型原子力プラント(ABWR)に適用される本実施例に係る炉心の制御方法を、図17を用いて説明する。系統から要求される電気出力の時間変化が、出力調整運転開始時点(出力低下開始時点)では、事前にわからない点が上述の実施例1と異なる。具体的には、例えば、低出力運転状態において、出力上げ指令を受けた際に数十分程度で目標の出力まで上げる必要があるケースである。これは、現在の国内の需給調整市場へ参入し、調整力を供給する場合を想定している。市場取引によって、対象時間帯の上げ調整力を約定した場合は、その対象時間帯のいつに上げ指令が来るか或いは来ないかわからず、指令を受けたら応動時間内に出力調整する必要がある。原子力プラントの構成や給水温度制御機能の有無は実施例1と同様である。
【0029】
このような出力調整が求められる場合、原子炉の熱出力調整では135Xeの影響があるため、目標出力まで上昇させられない、すなわち、約定した調整力を提供できないケースも考えられる。本実施例に係る炉心の制御方法のフローの説明を図17に示す。上述の実施例1における図14と本実施例における図17の違いは、ステップS42にて、とりうる出力調整パターンの内、135Xe濃度変化が最大のパターンを設定する(工程12)が追加された点である。これにより、あらかじめ、135Xe濃度変化が最大となるパターンを考えて、需給調整市場で調整力を約定すれば、出力上げ指令を受けた際に目標出力まで上昇させられないことを防ぐことができる。以上の例は、出力上げ指令に対するものであったが、出力下げ指令の場合も同様に応用することができる。
【0030】
以上の通り本実施例によれば、需給調整市場への参入時においても、出力調整幅を拡大できる。
【0031】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0032】
1…制御棒を挿入して臨界制御する領域(コントロールセル)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17