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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081972
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】磁気センサ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/36 20060101AFI20240612BHJP
   C23C 18/31 20060101ALI20240612BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
C23C18/36
C23C18/31 A
G01R33/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195609
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 修平
(72)【発明者】
【氏名】立松 峻一
(72)【発明者】
【氏名】山下 隆介
【テーマコード(参考)】
2G017
4K022
【Fターム(参考)】
2G017AD55
2G017AD60
2G017AD61
2G017AD62
2G017AD63
4K022AA44
4K022BA14
4K022BA16
4K022CA26
4K022DA01
(57)【要約】
【課題】磁性体の溶解を防ぐことができる、磁気センサ素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】磁性体2と、磁性体2の周りに巻回されたコイル部3と、磁性体2の一部が電気的に接続されるパッド部4と、磁性体2とパッド部4とを電気的に接続する接続導体部5とを、基板11上に形成してなる磁気センサ素子1を製造する方法であって、接続導体部5は、還元型の無電解メッキにて形成する、磁気センサ素子1の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体と、該磁性体の周りに巻回されたコイル部と、上記磁性体の一部が電気的に接続されるパッド部と、上記磁性体と上記パッド部とを電気的に接続する接続導体部とを、基板上に形成してなる磁気センサ素子を製造する方法であって、
上記接続導体部は、還元型の無電解メッキにて形成する、磁気センサ素子の製造方法。
【請求項2】
上記磁気センサ素子は、上記磁性体と上記コイル部との間に、両者間の電気的絶縁を図るための絶縁層を有し、
上記コイル部は、上記基板に近い側に形成された下側コイル部と、該下側コイル部の上に形成された上側コイル部とを有し、
上記絶縁層は、上記下側コイル部と上記磁性体とを電気的に絶縁する下側絶縁層と、上記磁性体と上記上側コイル部とを電気的に絶縁する上側絶縁層とを有し、
上記磁気センサ素子を製造するにあたっては、
上記基板上に、上記下側コイル部及び上記パッド部を形成し、
その後、上記下側コイル部の上に上記下側絶縁層を形成し、
その後、上記下側絶縁層の上に上記磁性体を配置すると共に固定し、
その後、上記接続導体部を形成し、
その後、上記磁性体の上に上記上側絶縁層を形成し、
その後、上側絶縁層の上に上記上側コイル部を形成し、
上記接続導体部の形成にあたっては、ネガ型のメッキレジストを塗布、露光、現像して、所定の箇所にレジストパターンを形成した後、還元型の無電解メッキを行う、請求項1に記載の磁気センサ素子の製造方法。
【請求項3】
上記接続導体部を介する上記パッド部と上記磁性体との間の距離は、1μm以下である、請求項1又は2に記載の磁気センサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気を検出するための磁気センサ素子として、例えば、特許文献1には、磁性体と該磁性体の周りに巻回されたコイル部とを有するMIセンサ素子が開示されている。このMIセンサ素子においては、磁性体の両端部が、基板上に形成されたパッド部に電気的に接続される。また、特許文献1には、コイル部等の形成にあたり、メッキを行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-78198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1には、基板上に形成したパッド部と磁性体とを電気的に接続する接続導体部については、特に開示されておらず、まして、当該接続導体部の製造方法について、何らの記載もない。
【0005】
発明者らは、接続導体部を電解メッキにより形成する際、磁性体の一部が局部的に溶解することがあることを見出した。かかる磁性体の溶解は、場合によっては、磁性体とパッド部との間の密着性、導電性、磁性体自体の品質低下等の問題を招くおそれがあり、ひいては、磁気センサ素子の品質低下につながるおそれが懸念される。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、磁性体の溶解を防ぐことができる、磁気センサ素子の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、磁性体と、該磁性体の周りに巻回されたコイル部と、上記磁性体の一部が電気的に接続されるパッド部と、上記磁性体と上記パッド部とを電気的に接続する接続導体部とを、基板上に形成してなる磁気センサ素子を製造する方法であって、
上記接続導体部は、還元型の無電解メッキにて形成する、磁気センサ素子の製造方法にある。
【発明の効果】
【0008】
上記磁気センサ素子の製造方法において、上記接続導体部は、還元型の無電解メッキにて形成する。これにより、磁気センサ素子の製造過程における磁性体の溶解を防ぐことができる。
【0009】
以上のように、本発明によれば、磁性体の溶解を防ぐことができる、磁気センサ素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1における、磁気センサ素子の斜視図。
図2】実施形態1における、多数の磁気センサ素子が形成された半導体ウエハの平面図。
図3】実施形態1における、磁気センサ素子の展開斜視図。
図4】実施形態1における、磁気センサ素子の製造方法の概略フロー図。
図5】実施形態1における、基板上に下側コイル部等を形成した状態を示す、(a)平面図、(b)(a)のVb-Vb断面図、(c)(a)のVc-Vc断面図。
図6】実施形態1における、基板上にアモルファスワイヤを配置した状態を示す、(a)平面図、(b)(a)のVIb-VIb断面図、(c)(a)のVIc-VIc断面図。
図7】実施形態1における、基板上にメッキレジストを塗布した状態を示す、(a)平面図、(b)(a)のVIIb-VIIb断面図、(c)(a)のVIIc-VIIc断面図、(d)(a)のVIId-VIId断面図。
図8】実施形態1における、メッキレジストを露光する工程を示すパッド部周辺の断面説明であって、(a)X方向に垂直な断面説明図、(b)(a)のVIIId-VIIId断面説明図。
図9】実施形態1における、メッキレジストを現像した状態を示す、(a)平面図、(b)(a)のIXb-IXb断面図、(c)(a)のIXc-IXc断面図、(d)(a)のIXd-IXd断面図。
図10】実施形態1における、ワークを触媒付与溶液に浸漬して、所定箇所に触媒を分散させる工程の説明図。
図11】実施形態1における、(a)ワークを無電解メッキ液に浸漬した状態の説明図、(b)無電解メッキにて接続導体部が形成される様子を示す説明図。
図12】実施形態1における、無電解メッキにて接続導体部が形成された状態を示す、(a)平面図、(b)(a)のXIIb-XIIb断面図。
図13】実施形態1における、メッキレジストが除去された状態を示す、(a)平面図、(b)(a)のXIIIb-XIIIb断面図、(c)(a)のXIIIc-XIIIc断面図。
図14】実施形態1における、上側絶縁層用の感光性樹脂を塗布した状態を示す、(a)平面図、(b)(a)のXIVb-XIVb断面図、(c)(a)のXIVc-XIVc断面図。
図15】実施形態1における、上側絶縁層が形成された状態を示す、(a)平面図、(b)(a)のXVb-XVb断面図、(c)(a)のXVc-XVc断面図。
図16】実施形態1における、シード層を成膜した状態を示す、(a)平面図、(b)(a)のXVIb-XVIb断面図、(c)(a)のXVIc-XVIc断面図。
図17】実施形態1における、上側コイル部を形成して磁気センサ素子が得られた状態を示す、(a)平面図、(b)(a)のXVIIb-XVIIb断面図、(c)(a)のXVIIc-XVIIc断面図。
図18】比較形態における、磁気センサ素子の製造方法の概略フロー図。
図19】比較形態における、上側絶縁層用の感光性樹脂を塗布した状態を示す、(a)平面図、(b)(a)のXIXb-XIXb断面図、(c)(a)のXIXc-XIXc断面図、(d)(a)のXIXd-XIXd断面図。
図20】比較形態における、上側絶縁層用の感光性樹脂を露光する工程を示すパッド部周辺の断面説明であって、(a)X方向に垂直な断面説明図、(b)(a)のXXd-XXd断面説明図。
図21】比較形態における、上側絶縁層が形成された状態を示す、(a)平面図、(b)(a)のXXIb-XXIb断面図、(c)(a)のXXIc-XXIc断面図、(d)(a)のXXId-XXId断面図。
図22】比較形態における、シード層を成膜した状態を示す、(a)パッド部付近の断面図、(b)(a)のXXIIb-XXIIb断面図。
図23】比較形態における、ワークを電解メッキ液に浸漬した状態の説明図。
図24】比較形態における、電解メッキにて接続導体部が形成された状態を示す、パッド部付近の断面図、(b)(a)のXXIVb-XXIVb断面図。
図25】比較形態における、残渣が生じた状態にてシード層を成膜した状態を示す、(a)パッド部付近の断面図、(b)(a)のXXVb-XXVb断面図。
図26】比較形態における、残渣が生じた状態にて電解メッキにて接続導体部が形成された状態を示す、パッド部付近の断面図。
図27】(a)試料0のX方向断面画像、(b)試料0のY方向断面画像。
図28】(a)試料1のX方向断面画像、(b)試料1のY方向断面画像。
図29】比較形態の方法による、(a)電解メッキの前の状態のSEM写真、(b)電解メッキの後の状態のSEM写真。
図30】実験例2における、評価方法の説明図。
図31】実験例2における、評価結果を示す線図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記磁気センサ素子は、上記磁性体と上記コイル部との間に、両者間の電気的絶縁を図るための絶縁層を有し、
上記コイル部は、上記基板に近い側に形成された下側コイル部と、該下側コイル部の上に形成された上側コイル部とを有し、
上記絶縁層は、上記下側コイル部と上記磁性体とを電気的に絶縁する下側絶縁層と、上記磁性体と上記上側コイル部とを電気的に絶縁する上側絶縁層とを有するものとすることができる。
そして、上記磁気センサ素子を製造するにあたっては、
上記基板上に、上記下側コイル部及び上記パッド部を形成し、
その後、上記下側コイル部の上に上記下側絶縁層を形成し、
その後、上記下側絶縁層の上に上記磁性体を配置すると共に固定し、
その後、上記接続導体部を形成し、
その後、上記磁性体の上に上記上側絶縁層を形成し、
その後、上側絶縁層の上に上記上側コイル部を形成し、
上記接続導体部の形成にあたっては、ネガ型のメッキレジストを塗布、露光、現像して、所定の箇所にレジストパターンを形成した後、還元型の無電解メッキを行う、ものとすることができる。この場合には、磁性体とパッド部との間にメッキレジストの残渣が生じることを防ぐことができる。それゆえ、磁性体とパッド部との間の接続信頼性を確保することができる。
【0012】
また、上記接続導体部を介する上記パッド部と上記磁性体との間の距離は、1μm以下であるものとすることができる。この場合には、仮に電解メッキにて接続導体部を形成したとすると磁性体の溶解を招きやすいところ、接続導体部を還元型の無電解メッキにて形成することにより、磁性体の溶解を効果的に防止することができる。
【0013】
(実施形態1)
磁気センサ素子の製造方法の実施形態につき、図1図17を参照して説明する。
本形態の磁気センサ素子の製造方法は、例えば図1に示すような磁気センサ素子1を製造する方法である。
【0014】
磁気センサ素子1は、磁性体2と、コイル部3と、パッド部4と、接続導体部5とを、基板11上に形成してなる。コイル部3は、磁性体2の周りに巻回されている。パッド部4は、磁性体2の一部が電気的に接続される。接続導体部5は、磁性体2とパッド部4とを電気的に接続する。そして、接続導体部5は、還元型の無電解メッキにて形成する。
【0015】
本形態においては、磁気センサ素子1は、マグネトインピーダンスセンサ素子(以下において、適宜「MIセンサ素子」ともいう。)である。磁気センサ素子1は、図1に示すごとく、シリコン(Si)等の半導体ウエハからなる基板11の主面に、上述した磁性体2と、コイル部3と、パッド部4と、接続導体部5とを、形成してなる。また、これら以外にも、磁性体2を外部の回路に接続するための端子131、コイル部3を外部の回路に接続するための端子132が、形成されている。なお、端子131とパッド部4との間、端子132とコイル部3との間にも、接続配線が形成されるが、図1図3等においては、これらの図示を省略する。
【0016】
本形態において、磁性体2はアモルファスワイヤである。以下において、磁性体2を、適宜、アモルファスワイヤ2として説明する。
本形態においては、図2に示すごとく、半導体ウエハ110(分割前の基板11)上に、配線パターンを、フォトリソグラフィ及びメッキ等にて形成するとともに、アモルファスワイヤ2を配置することで、多数の磁気センサ素子1を得る。このとき、アモルファスワイヤ2は、複数の磁気センサ素子1にわたって連続するように配置する(図示略)。半導体ウエハ110上にアモルファスワイヤ2を配置、固定した後に、個別の磁気センサ素子1ごとのアモルファスワイヤ2の長さとなるように、アモルファスワイヤ2を切断する。また、コイル部3等の配線パターンを形成して、多数の磁気センサ素子1が半導体ウエハ110上に形成された後に、半導体ウエハ110をダイシングすることによって個々の磁気センサ素子1に分割する。
【0017】
個々の磁気センサ素子1は、例えば、アモルファスワイヤ2の長手方向の長さが0.3~30mm程度である。また、アモルファスワイヤ2の直径は、例えば、5~30μm程度である。本形態の磁気センサ素子1は、いわゆるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用して製造することができる。
【0018】
図3の展開斜視図に示すごとく、磁気センサ素子1は、アモルファスワイヤ2とコイル部3との間に、両者間の電気的絶縁を図るための絶縁層121、122を有する。また、コイル部3は、基板11に近い側に形成された下側コイル部31と、下側コイル部31の上に形成された上側コイル部32とを有する。絶縁層は、下側絶縁層121と上側絶縁層122とを有する。下側絶縁層121は、下側コイル部31とアモルファスワイヤ2とを電気的に絶縁する。上側絶縁層122は、アモルファスワイヤ2と上側コイル部32とを電気的に絶縁する。ここで、「上」、「下」の表現は便宜的なものであり、コイル部3等を形成する基板11の主面から遠い側を「上」、近い側を「下」と表現するものである。
【0019】
図3図4を参照しつつ、本形態の磁気センサ素子1の製造手順の概要を説明する。
まず、基板11上に、下側コイル部31及びパッド部4を形成する(ステップS1)。このとき、基板11上には、端子131、132も形成する。
その後、下側コイル部31の上から、下側コイル部31の一部を覆うように下側絶縁層121を形成する(ステップS2)。
その後、下側絶縁層121の上からアモルファスワイヤ2を基板11上に配置すると共に固定する(ステップS3)。
その後、アモルファスワイヤ2をパッド部4と接続するように、接続導体部5を形成する(ステップS4~S5)。
その後、アモルファスワイヤ2の上から、アモルファスワイヤ2の大部分を覆うように上側絶縁層122を形成する(ステップS6)。
その後、上側絶縁層122の上から上側コイル部32を形成する(ステップS7)。
【0020】
接続導体部5の形成にあたっては、後述するように、ネガ型のメッキレジストを塗布、露光、現像して、所定の箇所にレジストパターンを形成し、触媒付与した後、還元型の無電解メッキを行う(図4のステップS4~S5参照)。
【0021】
アモルファスワイヤ2を下側絶縁層121の上に配置する際には、アモルファスワイヤ2の一部が、パッド部4の上に配置されるようにする。アモルファスワイヤ2を基板11に樹脂(図示略)によって固定した後、アモルファスワイヤ2を所定の長さになるように、エッチングにより切断する。上側コイル部32は、下側コイル部31と部分的に重なる。これにより、下側コイル部31と上側コイル部32とが螺旋状に繋がることで、コイル部3が形成される。
【0022】
以下において、具体的な本形態の磁気センサ素子1の製造方法の一例につき、図5図17を参照して、説明する。特にこれらの図及びこれらと同種の図は、工程を説明するための模式的な図である。例えば、後述する図15(b)において、上側絶縁層122は長方形に描かれているが、実際には、その上面の輪郭がアモルファスワイヤ2の形状に沿った略円弧状となると共に、左右の側面輪郭がやや末広がりの形状となる。また、以下においては、端子131、132を省略して、説明する。また、個別の磁気センサ素子1に着目した形で、製造工程を説明する。
【0023】
まず、図5(a)、(b)、(c)に示すごとく、基板11に、下側コイル部31とパッド部4とを形成する。これらのパターン形成は、フォトリソグラフィと電解メッキとを用いて行う。電解メッキは、銅、ニッケル、金を順次成膜する。なお、図5(a)に示すごとく、便宜的に、2つのパッド部4の並び方向をX方向といい、基板11の主面の法線方向から見てX方向に直交する方向を、Y方向というものとする。
【0024】
次いで、図6(a)、(b)、(c)に示すごとく、下側コイル部31の上に、下側絶縁層121を形成すると共に、下側絶縁層121の上からアモルファスワイヤ2を配置する。下側絶縁層121は、下側絶縁層121からY方向における下側コイル部31の両端部が露出するように形成する。また、パッド部4の上には、下側絶縁層121を形成しない。
【0025】
次いで、図7図13に示すごとく、パッド部4とアモルファスワイヤ2の端部とを電気的に接続するための接続導体部5を形成すべく、メッキレジスト61を塗布、露光、現像する。なお、接続導体部5は、アモルファスワイヤ2をパッド部4に対して物理的に固定する機能をも有する。すなわち、まず、図7(a)、(b)、(c)、(d)に示すごとく、基板11の上面に、メッキレジスト61を塗布する。このメッキレジスト61は、前工程までに形成した、下側コイル部31、パッド部4、下側絶縁層121、アモルファスワイヤ2を覆うように塗布する。そして、このメッキレジスト61には、ネガ型レジストを用いる。ネガ型レジストとしては、感光した箇所が硬化し、感光しなかった個所が後の現像時に溶解する性質を有するレジストである。ネガ型レジストとしては、例えば、東京応化株式会社製 PMER N-CA3000 PMを用いることができる。
【0026】
メッキレジスト61の塗布後、所定の箇所を選択的に露光する。つまり、図8(a)、(b)に示すごとく、フォトマスクMを利用して、パッド部4と重なる個所付近の所定箇所に選択的に、紫外光UVを照射し、メッキレジスト61を露光する。その後、現像することにより、図9(a)、(b)、(c)、(d)に示すごとく、パッド部4と重なる個所のメッキレジスト61が除去され、他の箇所にメッキレジスト61が残る状態が得られる。すなわち、レジストパターン62が形成される。ここでは、レジストパターン62は、パッド部4の上に開口部621を有するパターンとなる。なお、図9(c)、(d)に示す、パッド部4とアモルファスワイヤ2との間の距離Dは、1μm以下である。
【0027】
次いで、メッキレジスト61が除去された箇所に、無電解メッキ用の触媒としてのPd(パラジウム)を付着させる。すなわち、図10に示すごとく、メッキレジスト61をパターン形成したワークを、触媒付与溶液CSに浸漬することで、Pdコロイドを、アモルファスワイヤ2及びパッド部4における所定の箇所に分散させる。
【0028】
次いで、無電解Ni-Pメッキにて、接続導体部5を形成する。すなわち、上記のように所定箇所に触媒を付与したワークを、図11(a)に示すごとく、メッキ液PSに浸漬する。これにより、Pdを付与した箇所において、化学反応を利用して金属を析出させる。このようにして、図11(b)に示すごとく、接続導体部5が形成される。本形態において、メッキ液としては、リン(P)を含有する硫酸ニッケルを用いる。より具体的には、メッキ液として、株式会社ワールドメタル社製リンデン303HKを用いることができる。
【0029】
アモルファスワイヤ2の表面においては、以下の化学反応が生じることにより、Niが析出する。初期段階においては、Pdの触媒作用により、アモルファスワイヤ2の表面において下記の反応が生じる。
2PO2 -+H2O → H2PO3 -+2H++2e- ・・・(1)
【0030】
これにより、アモルファスワイヤ2の表面に、メッキ液中のニッケルイオン(Ni2+)が引き付けられると共に電子を受け取って、Ni金属となって析出する(下記式(2)参照)。
Ni2++2e-→Ni ・・・(2)
【0031】
また、Pdを覆う程度にNiが析出した後は、Ni自体が触媒となり、上記式(1)と同様の化学反応が生じ、さらにNi金属が析出する。これにより、図12(a)、(b)に示すごとく、パッド部4とアモルファスワイヤ2とを電気的に接続する接続導体部5が形成される。
【0032】
その後、図13(a)、(b)、(c)に示すごとく、メッキレジスト61を除去する。
次いで、上側絶縁層122を形成すべく、図14(a)、(b)、(c)に示すごとく、ワークの略全面に、上側絶縁層122を形成するための感光性樹脂122aを塗布する。このとき、図14(c)に示すように、パッド部4とアモルファスワイヤ2との間には、既に接続導体部5の一部が配置されているため、感光性樹脂122aがアモルファスワイヤ2の下に入り込むことはない。それゆえ、この感光性樹脂122aは、ポジ型であっても、ネガ型であってもよい。
【0033】
感光性樹脂122aを露光、現像することにより、図15(a)、(b)、(c)に示すごとく、両端部を除いてアモルファスワイヤ2を覆うように、上側絶縁層122が形成される。
次に、図16(a)、(b)、(c)に示すごとく、ワークの上面の略全体にわたり、スパッタリングにより銅のシード層63を形成する。
【0034】
その後、フォトリソグラフィと電解メッキを用いて、上側コイル部32を形成する。その後、上側コイル部32を形成した箇所以外の箇所のシード層63をエッチング除去する。これにより、図17(a)、(b)、(c)に示すごとく、下側コイル部31と上側コイル部32とが一体となって、アモルファスワイヤ2の周りに、絶縁層121、122を介して巻回された状態のコイル部3が形成される。
以上により、図17に示すような磁気センサ素子1が得られる。なお、図17(c)に示す、接続導体部5を介するパッド部4とアモルファスワイヤ2との間の距離Dは、1μm以下である。
【0035】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
上記磁気センサ素子1の製造方法において、接続導体部5は、還元型の無電解メッキにて形成する。これにより、磁気センサ素子1の製造過程における磁性体(アモルファスワイヤ2)の溶解を防ぐことができる。この点については、比較形態の説明と共に、後述する。
【0036】
また、接続導体部5の形成にあたっては、ネガ型のメッキレジスト61を塗布、露光、現像して、所定の箇所にレジストパターン62を形成した後、還元型の無電解メッキを行う(図7図13参照)。これにより、アモルファスワイヤ2とパッド部4との間にメッキレジスト61の残渣が生じることを防ぐことができる。それゆえ、アモルファスワイヤ2とパッド部4との間の接続信頼性を確保することができる。
【0037】
また、接続導体部5を介するパッド部4とアモルファスワイヤ2との間の距離Dは、1μm以下である。それゆえ、仮に下記の比較形態のように、電解メッキにて接続導体部5を形成したとするとアモルファスワイヤ2の溶解を招きやすいところ、上述のように、接続導体部5を還元型の無電解メッキにて形成することにより、アモルファスワイヤ2の溶解を効果的に防止することができる。
【0038】
以上のように、本形態によれば、磁性体の溶解を防ぐことができる、磁気センサ素子の製造方法を提供することができる。
【0039】
(比較形態)
本形態は、図18図24に示すごとく、接続導体部5の形成にあたり、電解メッキを用いた、磁気センサ素子の製造方法の比較形態である。
なお、本形態以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0040】
本形態において得ようとする磁気センサ素子は、実施形態1において示した磁気センサ素子1と同様である。
本形態の磁気センサ素子の製造方法は、図18のステップS01~S03に示すごとく、基板11上にアモルファスワイヤ2を配置、固定するまで(図5図6参照)は、実施形態1と同様である。
【0041】
本形態においては、基板11上にアモルファスワイヤ2を配置した後、上側絶縁層122を形成する(ステップS04、図19図21参照)。その後、接続導体部5を形成すべく、Cuのシード層69を形成する(ステップS05、図22参照)。その後、メッキレジストを塗布、露光、現像して、レジストパターンを形成する(ステップS06、図22参照)。次いで、電解メッキにより、接続導体部5を形成する(ステップS07、図23図24参照)。その後、上側コイル部32を形成する(ステップS08、図17参照)。
【0042】
本形態においては、上述のように、基板11上にアモルファスワイヤ2を配置、固定した後、接続導体部5を形成する前に、上側絶縁層122を形成する(図18のステップS03~S07参照)。
すなわち、図19(a)、(b)、(c)、(d)に示すごとく、ワーク(アモルファスワイヤ2等を配置した基板11の上に、上側絶縁層122を形成するための感光性樹脂122aを塗布する。このとき、図19(c)、(d)に示すごとく、アモルファスワイヤ2とパッド部4との間の空間にも、感光性樹脂122aが入り込む。この感光性樹脂122aは、ポジ型である。
【0043】
次いで、図20(a)、(b)に示すごとく、所定の箇所に紫外光UVを照射して、感光性樹脂122aを露光する。
次いで、感光性樹脂122aを現像することにより、図21(a)、(b)、(c)、(d)に示すごとく、一部の所定箇所の感光性樹脂122aが溶解するとともに、他の所定箇所の感光性樹脂122aが残って上側絶縁層122となる。つまり、露光工程において、紫外光UVが照射されなかった個所が、上側絶縁層122となって残る。ここで、アモルファスワイヤ2の下側の部分に入り込んでいた感光性樹脂122aについては、露光工程において、紫外光UVが充分に照射されていない場合、図21(c)、(d)に示すごとく、残渣122bとして残ってしまうことが懸念される。
【0044】
次に、スパッタリング、フォトリソグラフィ、電解メッキを用いて、接続導体部5を形成する。図22には、電解メッキを施す前の状態の、パッド部4付近のワークの一部を示す。この状態において、パッド部4とアモルファスワイヤ2には、スパッタによる銅のシード層69が形成されている。ただし、アモルファスワイヤ2の下面付近には、充分にシード層69が形成されず、アモルファスワイヤ2が露出した部位も存在し得る。また、メッキレジスト64が所定の箇所を覆うように形成されている。なお、図22は、上述した残渣122bが残らなかった場合の状態を表している。
【0045】
この状態のワークを、図23に示すごとく、電解メッキ液EPSに浸漬して、電解メッキを行う。つまり、電解メッキ液EPSに浸漬したワークとアノード(図示略)との間に電圧を印加して、メッキ液中に所定の電流を流す。これにより、ワークの所定箇所に金属(Ni-P)を析出させる。本形態において、電解メッキ液EPSは、硫酸ニッケルメッキ液である。
【0046】
電解メッキにおいては、電解メッキ液EPSが触れるシード層69に、Ni-Pが析出する。これにより、図24に示すごとく、接続導体部5が形成される。ただし、この電解メッキの際に、アモルファスワイヤ2の局部的な溶解が生じる可能性があることを、発明者らは見出した。そのメカニズムは、下記のように推測される。
【0047】
シード層69のCuの一部は、電解メッキ液EPSにおいて、銅イオンCu2+となって溶出する。
すなわち、シード層69においては、下記の式(3)に示す化学反応が生じる。
CuO+SO4 2-+2H2O → CuSO4+3H2O ・・・(3)
【0048】
そして、下記の式(4)に示すように、液中のCuSO4は、銅イオンと硫酸イオンとになる。
CuSO4+aq = Cu2++SO4 2+ ・・・(4)
【0049】
この銅イオンと、アモルファスワイヤ2の構成元素である鉄(Fe)との間で、酸化還元反応に由来する局部電池反応が生じる。つまり、アモルファスワイヤ2が局部電池反応のアノードとして機能し、シード層69が局部電池反応のカソードとして機能する。各部における化学反応式を、下記の式(5)、(6)に示す。
【0050】
Fe → Fe2++2e- (アノード) ・・・(5)
Cu2++2e- → Cu (カソード) ・・・(6)
【0051】
なお、アモルファスワイヤ2の構成元素としては、Feの他にCo(コバルト)も存在しており、このCoと銅イオンとの間で局部電池反応が生じることも考えられる。
【0052】
以上のようなメカニズムにて、アモルファスワイヤ2が局部的に溶解する可能性が懸念される。
【0053】
なお、電解メッキにて接続導体部5を形成した後は、実施形態1と同様に、スパッタ、フォトリソグラフィ、電解メッキを用いて、上側コイル部32を形成して、磁気センサ素子1を完成させる(図16図17参照)。
【0054】
また、上述の図21(c)、(d)に示すように、パッド部4とアモルファスワイヤ2との間に残渣122bが残ってしまった場合に、スパッタによるシード層69を形成した状態を、図25(a)、(b)に示す。その後、電解メッキにて接続導体部5を形成した状態を、図26に示す。このように、残渣122bが残った状態にて、接続導体部5を形成すると、パッド部4とアモルファスワイヤ2との間に樹脂の残渣122bが介在してしまうおそれがある。この場合、パッド部4とアモルファスワイヤ2との間の、電気的接続信頼性、物理的接続信頼性において、不利となるおそれが懸念される。
【0055】
上述のように、本形態の場合には、アモルファスワイヤ2の溶解の可能性、及び、上側絶縁層122用の感光性樹脂122aの残渣122bが残る可能性が、懸念される。いずれの現象も、磁気センサ素子1の性能に影響を及ぼす可能性がある。これに対して、上述のように、実施形態1の磁気センサ素子の製造方法によれば、いずれの課題も解決可能となる。
【0056】
すなわち、実施形態1の方法によると、無電解メッキによって接続導体部5を形成するため、接続導体部5の形成にあたり、銅のシード層を形成する必要がない。それゆえ、上述した局部電池反応が生じる余地がなく、アモルファスワイヤ2の溶解を招くおそれがない。
【0057】
また、実施形態1の方法においては、接続導体部5を形成する工程を、上側絶縁層122を形成する工程よりも先に行う。それゆえ、上側絶縁層122を形成する際には、既に、アモルファスワイヤ2とパッド部4との間の空間に接続導体部5が配置されている。それゆえ、当該空間に上側絶縁層122用の感光性樹脂122aが入り込むことはなく、上述の残渣122bの問題は生じ得ない。また、接続導体部5を形成する際に用いるメッキレジスト61を、ネガ型レジストとしているため、当該メッキレジスト61が残渣として残ることも防ぐことができる。
【0058】
(実験例1)
本例においては、比較形態の方法にて製造した磁気センサ素子(以下、適宜「試料0」という。)と、実施形態1の方法にて製造した磁気センサ素子(以下、適宜「試料1」という。)とにつき、接続導体部5付近の断面を観察した。
【0059】
すなわち、各試料の接続導体部5付近につき、X方向に沿う断面(Y方向に直交する断面)と、Y方向に沿う断面(X方向に直交する断面)とを、光学顕微鏡にて観察した。その画像を、図27図28に示す。これらの画像の倍率は、約50倍である。
【0060】
図27(a)は、試料0のX方向断面画像であり、図27(b)は、試料0のY方向断面画像である。図28(a)は、試料1のX方向断面画像であり、図28(b)は、試料1のY方向断面画像である。
【0061】
図27(a)、(b)から分かるように、試料0においては、アモルファスワイヤ2の下部において、パッド部4との間の隙間が生じている。これは、上述した感光性樹脂122aの残渣122bの影響と、アモルファスワイヤ2の局部溶解の影響との少なくとも一方と考えられる。
【0062】
図28(a)、(b)から分かるように、試料1においては、アモルファスワイヤ2の下部に隙間はなく、メッキレジストの残渣も、アモルファスワイヤ2の局部溶解もない。
【0063】
また、比較形態の製造方法の過程において、電解メッキの前後のワークの断面(X方向に沿った断面)を、電子顕微鏡(SEM)にて観察した。そのSEM画像を、図29(a)、(b)に示す。図29(a)が電解メッキの前の状態、図29(b)が電解メッキの後の状態を示す。両者の違いから明らかなように、電解メッキ工程において、アモルファスワイヤ2の下部の一部に溶解が生じている。これらの画像の倍率は、約2000倍である。
【0064】
(実験例2)
本例においては、パッド部4に対するアモルファスワイヤ2の密着性を評価した。
密着評価試験は、以下のように行った。
本例の試験は、切断前の半導体ウエハ110(図2参照)の上に多数の磁気センサ素子1を形成する途中の段階において行った。すなわち、素子ごとの長さに切断する前のアモルファスワイヤ2が、半導体ウエハ110上に配置されるとともに、接続導体部5によってパッド部4に接続された状態のものを試料とする。
【0065】
この状態の試料において、図30(a)、(b)に示すごとく、アモルファスワイヤ2の一端のみを残して、接続導体部5を半導体ウエハ110から強制的に外す。つまり、まず、アモルファスワイヤ2の一端のみが、パッド部4に接続固定された状態を作る。ただし、この間において、アモルファスワイヤ2の一端には負荷がかからないようにする。
【0066】
この状態から、図30(c)に示すごとく、アモルファスワイヤ2の一端を、ピン治具にて、所定の力にてY方向(基板11の主面に沿った方向であって、アモルファスワイヤ2の長手方向に直交する方向)に軽く押す。このとき、パッド部4からアモルファスワイヤ2が外れるか否かを確認した。この試験を、比較形態の方法にて製造した磁気センサ素子と、実施形態1の方法にて製造した磁気センサ素子とにおいて、それぞれ100本ずつ実施した。そして、アモルファスワイヤ2が外れた本数の割合を、密着性の評価指標「外れにくさ」として、図31のグラフに表した。
【0067】
このグラフから分かるように、比較形態の方法にて製造した磁気センサ素子よりも、実施形態1の方法にて製造した磁気センサ素子の方が、アモルファスワイヤ2の外れにくいという結果が得られた。
本例の結果からも、実施形態1の方法にて製造した磁気センサ素子は、アモルファスワイヤ2とパッド部4との接合信頼性が高いことがわかる。
【0068】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 磁気センサ素子
11 基板
2 磁性体(アモルファスワイヤ)
3 コイル部
4 パッド部
5 接続導体部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
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図31