(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081976
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】不活性化剤及び不活性化方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195618
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 彰敏
(72)【発明者】
【氏名】三木田 梨歩
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031BB09
5H031EE04
5H031HH01
5H031RR04
(57)【要約】
【課題】より効率よく非水系二次電池を不活性化させる新規の不活性化剤及び不活性化方法を提供する。
【解決手段】本開示の不活性化剤は、非水系二次電池を不活性化する不活性化剤であって、酸化還元電位がLi基準電位で非水系二次電池の負極活物質よりも高く非水系二次電池の正極活物質よりも低い液体化合物であるレドックスシャトル剤を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系二次電池を不活性化する不活性化剤であって、
酸化還元電位がLi基準電位で前記非水系二次電池の負極活物質よりも高く前記非水系二次電池の正極活物質よりも低い液体化合物であるレドックスシャトル剤を含む、
不活性化剤。
【請求項2】
前記不活性化剤は、前記レドックスシャトル剤からなる、請求項1に記載の不活性化剤。
【請求項3】
前記レドックスシャトル剤は、ジアザベンゼン系化合物、アザベンゼン系化合物、キノン系化合物のうちの1以上である、請求項1又は2に記載の不活性化剤。
【請求項4】
前記レドックスシャトル剤は、キノキサリン化合物及びその誘導体である、請求項1又は2に記載の不活性化剤。
【請求項5】
前記レドックスシャトル剤は、酸化還元電位がLi基準電位で3V未満である、請求項1又は2に記載の不活性化剤。
【請求項6】
非水系二次電池を不活性化する不活性化方法であって、
請求項1又は2に記載の不活性化剤を前記非水系二次電池の内部に添加する添加工程、
を含む不活性化方法。
【請求項7】
前記添加工程では、前記非水系二次電池の容量あたり5mL/Ah以下の前記不活性化剤を前記非水系二次電池の内部に添加する、請求項6に記載の不活性化方法。
【請求項8】
前記添加工程では、銅を含む負極集電体を有する前記非水系二次電池の内部に、酸化還元電位がLi基準電位で3V未満である前記レドックスシャトル剤を含む前記不活性化剤を添加する、請求項6に記載の不活性化方法。
【請求項9】
前記不活性化剤を満充電状態にした前記非水系二次電池の内部に添加してから不活性化が完了するまでの時間T[hour]と、前記非水系二次電池の内部への前記不活性化剤の添加量A[mL]と、前記非水系二次電池の容量C[mAh]とを用いてST=T×A/Cで表される指標STの値が、0.15未満である、請求項6に記載の不活性化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、不活性化剤及び不活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非水系二次電池をリサイクル又は廃棄する際に、回収電池を不活性化させる不活性化処理が行われている。こうした処理として、例えば、回収電池を充放電装置につないで0Vまで放電させる処理が可能であるが、その場合、放電に時間がかかることがあった。また、回収電池が電流遮断機構(CID)作動後の電池である場合には、放電させること自体ができなかった。そこで、回収電池の内部に、所定のレドックスシャトル剤(例えばフェロセン、フェノチアジン、メチルビオロゲン、ベンゾキノンなど)を添加することが提案されている(特許文献1~3参照)。これにより、充放電装置を用いることなく、安全かつ迅速に非水系二次電池の電池電圧を0Vまで下げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-137137号公報
【特許文献2】特開2022-73888号公報
【特許文献3】特開2022-108831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~3の不活性化剤では、非水系二次電池の不活性化を図ることができるが、より効率よく非水系二次電池を不活性化できる不活性化剤が求められていた。
【0005】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、より効率よく非水系二次電池を不活性化させる新規の不活性化剤及び不活性化方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、不活性化剤のレドックスシャトル剤として液体化合物を用いると、より効率よく非水系二次電池を不活性化させることができることを見出し、本開示の発明を完成するに至った。なお、本明細書において、液体化合物とは、不活性化剤の使用環境下において液体である化合物をいい、標準状態(105Pa、25℃)で液体の化合物としてもよい。
【0007】
即ち、本開示の不活性化剤は、
非水系二次電池を不活性化する不活性化剤であって、
酸化還元電位がLi基準電位で前記非水系二次電池の負極活物質よりも高く前記非水系二次電池の正極活物質よりも低い液体化合物であるレドックスシャトル剤を含むものである。
【0008】
また、本開示の不活性化方法は、
非水系二次電池を不活性化する不活性化方法であって、
上述した非水系二次電池の不活性化剤を前記非水系二次電池の内部に添加する添加工程、を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
この不活性化剤及び不活性化方法では、より効率よく非水系二次電池を不活性化させることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、レドックスシャトル剤は、負極から電子を受け取り正極に電子を渡すことで、非水系二次電池の放電を進行させ、電池の容量を低下させると推察される。このレドックスシャトル剤として液体化合物を用いることで、レドックスシャトル剤を溶媒に溶解させなくても非水系二次電池内に注入できるため、高濃度のレドックスシャトル剤で効率良く電池の容量を低下させることができるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】非水系二次電池20の構成の概略を表す断面図。
【
図2】非水系二次電池が不活性化するメカニズムを示す説明図。
【
図3】実験例1~3の不活性化剤を満充電状態の評価セルに添加後の放電挙動。
【
図4】参考例1のサイクリックボルタンメトリーの測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(不活性化剤)
本開示の非水系二次電池の不活性化剤は、レドックスシャトル剤を含むものである。レドックスシャトル剤は、酸化還元電位がLi基準電位で非水系二次電池の負極活物質よりも高く非水系二次電池の正極活物質よりも低い化合物である。このレドックスシャトル剤は、使用環境下において液体である化合物、すなわち液体化合物を含む。本明細書において、レドックスシャトル剤とは、正極と負極との間で電荷を繰り返し輸送することができる、酸化及び還元可能な化合物をいうものとする。なお、不活性化剤は、レドックスシャトル剤以外の成分を含んでもよいが、レドックスシャトル剤以外の成分の含有量は少ないことが好ましく、例えば、10質量%以下としてもよく、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。また、レドックスシャトル剤は、溶媒を含まないものであることが好ましく、レドックスシャトル剤からなるものであることがより好ましい。なお、「レドックスシャトル剤からなる」は、レドックスシャトル剤に積極的に添加物を加えたものではないことを意図し、例えば、レドックスシャトル剤の製造過程などで不可避的に含まれる不純物などが残留していてもよい。
【0012】
[非水系二次電池]
まず、不活性化の対象となる非水系二次電池について説明する。非水系二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しキャリアイオンを伝導する非水系のイオン伝導媒体と、を備えている。キャリアイオンとしては、例えば、第1族元素イオンや第2族元素イオンが挙げられる。第1族元素イオンとしては、例えば、リチウムイオンやナトリウムイオン、カリウムイオンが挙げられる。第2族元素イオンとしては、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオンが挙げられる。以下では、説明の便宜のため、非水系二次電池が、負極活物質を炭素材料としたリチウムイオン二次電池である場合について主に説明する。
【0013】
正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質は、Li基準の酸化還元電位が不活性化剤に含まれるレドックスシャトル剤よりも高いものであればよいが、酸化還元電位がLi基準電位で3.0Vを超えるものとしてもよく、3.5V以上が好ましく、3.8V以上がより好ましく、4.0V以上がさらに好ましい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、Li(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)、Li(1-x)Mn2O4などのリチウムマンガン複合酸化物、Li(1-x)CoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li(1-x)NiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、Li(1-x)NiaMnbO2(a+b=1)やLi(1-x)NiaMnbO4(a+b=2)などのリチウムニッケルマンガン複合酸化物、Li(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、LiV2O3などのリチウムバナジウム複合酸化物、V2O5などの遷移金属酸化物などを用いることができる。また、Li(1-x)MnPO4などのオリビン型リチウムリン酸マンガン系化合物、Li(1-x)CoPO4などのオリビン型リチウムリン酸コバルト系化合物、Li(1-x)NiPO4などのオリビン型リチウムリン酸ニッケル系化合物などを用いることができる。また、Li(1-x)MnVO4などの逆スピネル型リチウムバナジン酸マンガン系化合物、Li(1-x)CoPO4などの逆スピネル型リチウムバナジン酸コバルト系化合物、Li(1-x)NiPO4などの逆スピネル型リチウムバナジン酸ニッケル系化合物などを用いることができる。正極活物質は、ニッケル、マンガン、コバルトのうちの1以上を含む酸化物であることが好ましく、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2などが好ましい。
【0014】
正極の導電材としては、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などを用いることができる。結着材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系であるカルボキシメチルセルロース(CMC)やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0015】
負極は、例えば、負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよいし、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよい。負極活物質は、酸化還元電位がLi基準電位で3.0V以下が好ましく、2.0V以下がより好ましく、1.0V以下がさらに好ましい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。複合酸化物としては、例えば、Li4Ti5O12などのリチウムチタン複合酸化物やLiV2O3などのリチウムバナジウム複合酸化物が挙げられる。負極活物質としては、このうち、グラファイト類などの炭素質材料が好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。負極の集電体は、これらのうち、銅を含むものとしてもよい。銅は、酸化還元電位がLi基準電位で約3.0~3.5Vであるため(J. Electrochem. Soc. 144 (1997) 3476-3483、J. Mater. Chem. 21 (2011) 9891-9911等参照)、不活性化の際、負極電位を3.0V未満に保てば銅の溶出が抑制されると考えられる。負極からの銅の溶出が抑制されると、正極での銅の析出も抑制されるため、不活性化後に非水系二次電池をリサイクル又は廃棄する際に、析出物を正極から除去又は回収する必要がなく、効率よくリサイクル又は廃棄できるため好ましい。詳しくは後述するが、酸化還元電位が3.0V未満の不活性化剤を用いることで、不活性化の際、負極電位を3.0V未満に保つことができ、銅の溶出を抑制できると考えられる。
【0016】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水系電解液の溶媒としては、例えば、カーボネート化合物、エステル化合物、エーテル化合物、ニトリル化合物、アミド化合物、フラン化合物、スルホラン化合物及びジオキソラン化合物などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート化合物としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート化合物や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート化合物などが挙げられる。また、エステル化合物としてγ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル化合物、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル化合物などが挙げられる。また、エーテル化合物としてジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどが挙げられ、ニトリル化合物としてアセトニトリル、ベンゾニトリルなどが挙げられ、アミド化合物としてジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミドなどが挙げられ、フラン化合物としてテトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフランなどが挙げられ、スルホラン化合物としてスルホラン、テトラメチルスルホランなどが挙げられ、オキソラン化合物として1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどが挙げられる。これらは単独又は混合して用いることができる。このうち、非水系電解液の溶媒としては、例えば、DMC-ECや、DEC-EC、DMC-EMC-ECなど、環状カーボネート化合物と鎖状カーボネート化合物との混合液が好ましい。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4 などの無機塩や、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、などの有機塩が挙げられ、これらを単独又は組み合わせて用いることができる。支持塩は、電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。また、イオン伝導媒体としては、液状のイオン伝導媒体の代わりに、イオン伝導性ポリマー、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0017】
この非水系二次電池は、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータは、非水系二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えばポリプロピレン製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0018】
この非水系二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものとしてもよい。非水系二次電池の一例を
図1に示す。
図1は、コイン型の非水系二次電池20の構成の概略を表す断面図である。
図1に示すように、非水系二次電池20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。この非水系二次電池20は、正極22と負極23との間の空間にリチウム塩を溶解したイオン伝導媒体27を備えている。また、この非水系二次電池20は、負極23の集電体として銅を含むものとしてもよい。
【0019】
[不活性化剤]
次に、不活性化剤について説明する。不活性化剤は、レドックスシャトル剤を含む。レドックスシャトル剤は、酸化還元電位がLi基準電位で非水系二次電池の負極活物質よりも高く非水系二次電池の正極活物質よりも低く、使用環境下において液体である液体化合物である。レドックスシャトル剤は、ジアザベンゼン系化合物、アザベンゼン系化合物、キノン系化合物のうちの1以上であるものとしてもよい。ジアザベンゼン系化合物は、ベンゼン環の2つを窒素で置換したジアザベンゼン骨格及びジアザベンゼン骨格へ更に芳香族環が縮合したもの、例えば、ナフタレンやアントラセンなどアセンの2つの炭素を窒素で置換した骨格を有する、ナフチリジン骨格、ジアザアントラセン骨格を有する化合物及びその誘導体などが挙げられる。このジアザベンゼン系化合物としては、例えば、フェナジン化合物及びその誘導体(式(1))、キノキサリン化合物及びその誘導体(式(2))、ピラジン化合物及びその誘導体(式(3))などが挙げられる。また、ジアザベンゼン系化合物としては、ピラジン骨格のほかピラジンの異性体であるピリダジン骨格やピリミジン骨格などが含まれる。更に、ジアザベンゼン系化合物としては、ナフチリジン骨格として、キノキサリン骨格のほかキノキサリンの異性体であるベンゾピリダジン(シンノリン)骨格やキナゾリン骨格、フタラジン骨格などが含まれる。アザベンゼン系化合物は、ベンゼン環の1つを窒素で置換したアザベンゼン骨格及びアザベンゼン骨格へさらに芳香族環が縮合したもの、例えば、ナフタレンやアントラセンなどアセンの1つの炭素を窒素で置換した骨格を有する、アザナフタレン骨格、アザアントラセン骨格を有する化合物及びその誘導体などが挙げられる。このアザベンゼン系化合物としては、例えば、アクリジン化合物及びその誘導体(式(4))、キノリン化合物及びその誘導体(式(5))、ピリジン化合物及びその誘導体(式(6))などが挙げられる。更に、アザベンゼン系化合物としては、アザナフタレン骨格として、キノリン骨格のほかキノリンの異性体であるイソキノリン骨格などが含まれる。キノン系化合物は、芳香族炭化水素骨格の2つの炭素上のC-H基を各々C=O基に置き換えた構造を有する化合物である。キノン系化合物は、4~7員環の芳香族炭化水素骨格を有するものとしてもよく、6員環の芳香族炭化水素骨格を有するもの(ベンゾキノン骨格を有するもの)が好ましい。キノン系化合物は、ベンゾキノン骨格を有するものとしてもよいし、ベンゾキノン骨格へさらに芳香族環が縮合したもの、例えば、ナフタレンやアントラセンなどアセンの2つの炭素上のC-H基を各々C=O基に置き換えた骨格を有する、ナフトキノン骨格、アントラキノン骨格を有する化号物及びその誘導体などが挙げられる。このキノン系化合物としては、例えば、アントラキノン化合物及びその誘導体(式(7))、ナフトキノン化合物及びその誘導体(式(8))、ベンゾキノン化合物及びその誘導体(式(9))などが挙げられる。さらに、キノン系化合物としては、ベンゾキノン骨格として、パラベンゾキノン骨格の他、パラベンゾキノンの異性体であるイソベンゾキノン骨格などが含まれる。
【0020】
式(1)~(9)において、R1~R9は、それぞれが同じであっても異なっていてもよい官能基である。官能基としては、例えば、水素、アルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシ基、エーテル基、アルキルスルファニル基、ヒドロキシル基、スルホン基、ニトロ基、アミノ基、カルボキシル基、又は、ハロゲンのうち1以上が挙げられる。アルキル基は、炭素数が1以上12以下としてもよく、直鎖でも分岐鎖を含んでいてもよいし、水素の一部または全部がハロゲンで置換されたハロゲン化アルキル基でもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、トリフルオロメチル基が挙げられる。アリール基は、炭素数が6以上12以下としてもよい。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、ナフチル基が挙げられる。アシル基は、炭素数が1以上7以下としてもよい。アシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基が挙げられる。アルコキシ基は、炭素数が1以上6以下としてもよい。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基が挙げられる。エーテル基は、炭素数が1以上6以下としてもよい。エーテル基としては、例えば、メトキシエトキシ基や、メトキシエトキシエトキシ基が挙げられる。アルキルスルファニル基は、炭素数が1以上6以下としてもよい。アルキルスルファニル基としては、例えば、メチルスルファニル基、エチルスルファニル基が挙げられる。ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素が挙げられる。R1~R9は、それぞれが独立で、水素、アルキル基、フェニル基、アセチル基、ハロゲンであるものとしてもよい。また、R1~R9のうちの4つ以上が水素であるものとしてもよい。
【0021】
【0022】
ジアザベンゼン系化合物としては、2-メチルキノキサリン(式(10)、融点20℃以下、酸化還元電位2.61V、2.94V vs.Li/Li+)や、5-メチルキノキサリン(式(11)、融点20℃、酸化還元電位2.64V、2.92V vs.Li/Li+)などのキノキサリン化合物及びその誘導体を好適に用いることができる。式(10)や式(11)の化合物は、LiBF4/炭酸プロピレン溶液中での測定例としてFikile R. Brushett. Adv. Energy Mater. 2012, 2, 1390-1396 に詳しく説明されている。アザベンゼン系化合物としては、キノリン(式(12)、融点-15℃)や、2-メチルキノリン(式(13)、融点-1.5℃)などのキノリン化合物及びその誘導体を好適に用いることができる。キノン系化合物としては、(2,3-ジ-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)-1,4-ナフトキノン(式(14)、ガラス転移点-65.7℃、酸化還元電位-0.85V vs.Fc/Fc+)などのナフトキノン化合物及びその誘導体や2,3,5,6-テトラ-2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ-1,4-ベンゾキノン(式(15)、ガラス転移点-73.7℃、酸化還元電位-0.64V vs. Fc/Fc+)などのベンゾキノン化合物及びその誘導体を好適に用いることができる。なお、式(14)や式(15)の化合物は、LiBF4/炭酸プロピレン溶液中での測定例としてAkihiro Shimizu. Adv. Mater. 2017, 29, 1606592に詳しく説明されている。これらのうち、キノキサリン化合物及びその誘導体が好ましく、2-メチルキノキサリンがより好ましい。
【0023】
【0024】
レドックスシャトル剤は、酸化還元電位がLi基準電位で3.0V未満であることが好ましい。この酸化還元電位は、Li基準電位で0.5V以上3.0V未満が好ましく、1.0V以上3.0V未満がより好ましく、1.5V以上2.9V以下がさらに好ましい。レドックスシャトル剤の酸化還元電位は、サイクリックボルタンメトリーで求めることができる。具体的には、レドックスシャトル剤の酸化還元電位は、サイクリックボルタンメトリーで求めた酸化側のピーク電位をEpa[V]、還元側のピーク電位をEpc[V]としたときに、E0=(Epa+Epc)/2で求められる値E0[V]とする。電位窓内に2つ以上の酸化還元電位がある場合には、全ての酸化還元電位が3.0V未満であることが好ましい。サイクリックボルタンメトリーは、非水系溶媒と支持電解質とレドックスシャトル剤と含む測定溶液に対して行うことが好ましい。測定溶液の非水系溶媒及び支持電解質としては、非水系二次電池のイオン伝導媒体で例示した溶媒及び支持塩などが挙げられる。測定溶液の非水系溶媒や支持電解質は、それぞれ、不活性化の対象となる非水系二次電池のイオン伝導媒体に含まれる溶媒や支持塩と同種のものとしてもよい。測定溶液中の支持電解質の濃度は、0.1mol/L以上5mol/L以下としてもよく、0.5mol/L以上2mol/L以下としてもよく、不活性化の対象となる非水系二次電池のイオン伝導媒体中の支持塩の濃度と同じとしてもよい。測定溶液中のレドックスシャトル剤の濃度は、1mmol/L以上溶解度以下としてもよく、30mmol/L以上溶解度以下としてもよく、50mmol/L以上100mmol/L以下としてもよい。測定溶液中のレドックスシャトル剤の濃度は、不活性化の対象となる非水系二次電池に添加したときのイオン伝導媒体中のレドックスシャトル剤の濃度と同じとしてもよい。
【0025】
不活性化剤の体積に対する不活性化剤中のレドックスシャトル剤の物質量の比は、より大きい方が好ましく、3mol/L以上が好ましく、5mol/L以上がより好ましく、7mol/L以上がさらに好ましく、7.5mol/L以上が一層好ましい。この比が大きいほど、電気自動車(EV)用など高エネルギー密度の電池を、少量や、短時間で放電させることができ、好ましい。
【0026】
[不活性化方法]
続いて、上述した不活性化剤を用いて上述した非水系二次電池を不活性化する方法について説明する。この不活性化方法は、非水系二次電池の内部に、上述した不活性化剤を添加する添加工程を含む。具体的には、非水系二次電池の正極及び負極と不活性化剤とが接触するように、不活性化剤を添加する。不活性化剤の添加方法は、特に限定されないが、電池容器を一旦開封して不活性化剤を注入した後、必要に応じて再び封止してもよいし、電池容器の外部から注射器によって注入したあと、必要に応じて封止してもよい。添加工程は、アルゴン雰囲気などの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0027】
この添加工程では、非水系二次電池の容量あたり7mL/Ah以下の範囲で不活性化剤を添加することが好ましい。非水系二次電池は、その内部空間に限りがあるため、不活性化剤の添加量はより少ない方が好ましい。この添加量は、5mL/Ah以下の範囲としてもよいし、3mL/Ah以下の範囲としてもよいし、2mL/Ah以下の範囲としてもよい。この非水系二次電池の容量に対する不活性化剤の量は、0.1mL/Ah以上の範囲としてもよいし、0.5mL/Ah以上の範囲としてもよいし、1mL/Ah以上の範囲としてもよい。この添加量が0.1mL/Ah以上の範囲では、不活性化に要する時間をより短縮でき、好ましい。
【0028】
不活性化剤の添加量は、非水系二次電池のサイズなどに応じて適宜選択すればよく、例えば、0.01mL以上10mL以下としてもよく、0.05mL以上5.0mL以下としてもよい。不活性化剤の添加量は、例えば、不活性化の対象となる非水系二次電池に含まれるイオン伝導媒体の体積[mL]に対して、0.01%以上500%以下としてもよく、1%以上300%以下としてもよい。
【0029】
不活性化剤を添加した非水系二次電池は、例えば、静置して保持してもよいし、加振しながら保持してもよい。保持時間は、非水系二次電池の容量や不活性化剤の添加量に応じて、不活性化が完了するまでの時間として経験的に定められる時間とすればよい。保持時間は、非水系二次電池の容量や不活性化剤の添加量にもよるが、例えば、6時間以上500時間以下としてもよく、30時間以上300時間以下としてもよく、50時間以上200時間以下としてもよい。また、不活性化剤を添加した非水系二次電池に対して、超音波処理を行うものとしてもよい。超音波処理は、例えば、周波数10kHz以上120kHz以下の範囲で実行することが好ましく、周波数30kHz以上80kHz以下の範囲で実行することがより好ましい。超音波処理を行う時間は、非水系二次電池のサイズなどにもよるが、10秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましく、1分以上としてもよい。また、超音波処理を行う時間は、1時間以下としてもよい。
【0030】
この不活性化方法では、不活性化剤を満充電状態にした非水系二次電池の内部に添加してから不活性化が完了するまでの時間T[hour]と、非水系二次電池の内部への不活性化剤の添加量A[mL]と、非水系二次電池の容量C[mAh]とを用いてST=T×A/Cで表される指標STの値が、0.15未満であるものとしてもよい。この指標STが小さいほど、少量の不活性化剤で迅速に不活性化を完了できるため、好ましい。指標STは、0.13以下が好ましく、0.11以下がより好ましい。指標STは0.01以上としてもよい。なお、非水系二次電池の容量Cは、非水系二次電池の定格容量とすればよい。
【0031】
この不活性化方法で非水系二次電池が不活性化するメカニズムは、以下のように推察される。
図2は、非水系二次電池が不活性化するメカニズムを示す説明図である。正極電位より低く負極電位より高い酸化還元電位を示すレドックスシャトル剤(図中のRS)を電池に添加すると、正極あるいは負極とレドックスシャトル剤の電位差を駆動力として、負極からレドックスシャトル剤およびレドックスシャトル剤から正極への電子移動が進行し、電池が放電する。具体的には、レドックスシャトル剤の還元体(図中のRS
(red))が正極に電子を与えて酸化体(図中のRS
(ox))となり、レドックスシャトル剤の酸化体が負極から電子を受け取って還元体となる、という動作が繰り返し進行し、電池が放電する。正極電位あるいは負極電位がレドックスシャトル剤の酸化還元電位に等しくなると、その電極の放電はそれ以上進行しなくなる。従って、正極電位と負極電位は、最終的にはレドックスシャトル剤の電位に等しくなり、不活性化が完了する。レドックスシャトル剤の酸化還元電位が3V未満であれば、不活性化完了まで、負極電位は3V以下に保たれる。なお、「不活性化が完了」とは、少なくとも非水系二次電池のSOCが0%になるまで放電されていることをいうものとしてもよい。SOCが0%になるまで放電されていれば、例えばLi基準電位で1.5V超過3.0V未満など、負極電位が低すぎないため、イオン伝導媒体である電解液等の分解によるガス発生が生じにくく、電極自体の安全性も高い。したがって、不活性化後のリサイクルや廃棄を安全に行うことができる。不活性化後の電池電圧は低いほどスパークが起こりにくいため好ましく、例えば、3.0V以下としてもよく、1.2V以下や、1.0V以下、0.5V以下などとすることがより好ましい。
【0032】
以上説明した不活性化剤及び不活性化方法では、より効率よく非水系二次電池を不活性化させることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、レドックスシャトル剤は、負極から電子を受け取り正極に電子を渡すことで、非水系二次電池の放電が進行し、電池の容量を低下させると推察される。このレドックスシャトル剤として液体化合物を用いることで、レドックスシャトル剤を溶媒に溶解させることなく非水系二次電池に注入できるため、高濃度のレドックスシャトル剤で効率良く電池の容量を低下させることができるものと推察される。
【0033】
なお、従来の固体化合物のレドックスシャトル剤は、そのまま電池に添加するのが困難であるため、溶媒に溶解させて電池に注入していた。そのため、溶媒の分だけ高濃度化の妨げとなり、不活性化の律速となっていた。これに対して、本開示の不活性化剤及び不活性化方法では、レドックスシャトル剤を溶媒に溶解させることなく電池に注入可能なため、高濃度化が可能であり、不活性化をより効率よく行うことができると推察される。また、従来の固体化合物のレドックスシャトル剤では、レドックスシャトル剤を溶媒に溶解させる工程が必要であったが、本開示の不活性化剤及び不活性化方法では、こうした工程が不要であり、そうした観点でも、不活性化をより効率よく行うことができると推察される。さらに、電池内のスペースが少ないと不活性化剤を添加するスペースを確保できず電池内での不活性化が困難になる場合があるが、本開示の不活性化剤及び不活性化方法では、不活性化剤の添加量を低減できるため、電池内のスペースが少なくても電池内での不活性化が可能となり、こうした観点でも不活性化をより効率よく行うことができると推察される。
【0034】
また、銅を含む負極集電体を有する非水系二次電池に対し、酸化還元電位がLi基準電位で3V未満であるレドックスシャトル剤を含む不活性化剤を用いれば、負極集電体からの銅の溶出を抑制できる。このため、不活性化後に非水系二次電池をリサイクル又は廃棄する際、負極集電体以外への銅成分の混入などが抑制され、リサイクルや廃棄を効率よく行うことができる。
【0035】
なお、本開示は、上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0036】
例えば、上述した実施形態では、不活性化する非水系二次電池は、リチウムイオン二次電池として説明したが、特にこれに限定されず、ハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、リチウムやナトリウムのアルカリ金属二次電池、アルカリ金属イオン電池などとしてもよい。
【0037】
本開示は、以下の[1]~[9]のいずれかを満たすものとしてもよい。
[1] 非水系二次電池を不活性化する不活性化剤であって、
酸化還元電位がLi基準電位で前記非水系二次電池の負極活物質よりも高く前記非水系二次電池の正極活物質よりも低い液体化合物であるレドックスシャトル剤を含む、不活性化剤。
[2] 前記不活性化剤は、前記レドックスシャトル剤からなる、[1]に記載の不活性化剤。
[3] 前記レドックスシャトル剤は、ジアザベンゼン系化合物、アザベンゼン系化合物、キノン系化合物のうちの1以上である、[1]又は[2]に記載の不活性化剤。
[4] 前記レドックスシャトル剤は、キノキサリン化合物及びその誘導体である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の不活性化剤。
[5] 前記レドックスシャトル剤は、酸化還元電位がLi基準電位で3V未満である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の不活性化剤。
[6] 非水系二次電池を不活性化する不活性化方法であって、
[1]~[5]のいずれか1つに記載の不活性化剤を前記非水系二次電池の内部に添加する添加工程、
を含む不活性化方法。
[7] 前記添加工程では、前記非水系二次電池の容量あたり5mL/Ah以下の前記不活性化剤を前記非水系二次電池の内部に添加する、[6]に記載の不活性化方法。
[8] 前記添加工程では、銅を含む負極集電体を有する前記非水系二次電池の内部に、酸化還元電位がLi基準電位で3V未満である前記レドックスシャトル剤を含む前記不活性化剤を添加する、[6]又は[7]に記載の不活性化方法。
[9] 前記不活性化剤を満充電状態にした前記非水系二次電池の内部に添加してから不活性化が完了するまでの時間T[hour]と、前記非水系二次電池の内部への前記不活性化剤の添加量A[mL]と、前記非水系二次電池の容量C[mAh]とを用いてST=T×A/Cで表される指標STの値が、0.15未満である、[6]~[8]のいずれか1つに記載の不活性化方法。
【実施例0038】
以下には、本開示の非水系二次電池の不活性化剤及び不活性化方法を具体的に検討した例を実験例として説明する。実験例1が本開示の実施例に相当し、実験例2,3が比較例に相当する。
【0039】
(実験例1)
不活性化剤として、2-メチルキノキサリン(式(10))を準備した。不活性化剤の添加による電池の不活性化挙動を評価した。評価セルとして、黒鉛を負極活物質とする負極と、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2を正極活物質とする正極とからなるリチウムイオン電池を作製した。負極としては、黒鉛:鱗状黒鉛:カルボキシメチルセルロース(CMC):スチレンブタジエンゴム(SBR)を質量比で93.1:4.9:1:1に配合したスラリー合材を銅箔に塗工し、120℃で真空乾燥させたものを用いた。正極としては、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2:アセチレンブラック:ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を質量比で93:4:3に配合したスラリー合材をアルミニウム箔に塗工し、120℃で真空乾燥させたものを用いた。非水系電解液としては、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)の混合溶媒(体積比3:4:3)にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を濃度1mol/Lで溶解したものを用いた。セパレータとしては、ポリエチレン単層微多孔膜を用いた。正極と負極とを電解液を浸み込ませたセパレータを介して対向させ、ラミネートフィルム内に封入し、評価セルとした。このセルに対し、温度20℃、電圧範囲3.0~4.1Vで充放電を2サイクル実施した後、4.1Vまで充電し、満充電状態にした。なお、この評価セルの放電下限電圧は3.0V、充電上限電圧は4.1Vとした。この評価セルの電池容量は17mAhであった。この評価セルに対し、常温25℃、不活性雰囲気(Ar)内にて、準備した不活性化剤0.027mLを注射により一度に全量を注入して注射孔を封じた。正極合材、セパレータ及び負極合材が密着した状態を保ったままで20℃の恒温槽に評価セルを静置して電圧の経時変化を記録しながら不活性化を行った。ばらつきを確認するため、3個のセルで独立に実験を行った。
【0040】
(実験例2)
不活性化剤として、レドックスシャトル剤であるフェノチアジン(融点183℃、酸化還元電位3.5V vs.Li/Li+)を非水系溶媒である1,2-ジメトキシエタン(G1)に1mol/Lの濃度で溶解し、調製した。調製した実験例2の不活性化剤0.12mLを用い、実験例1と同様に不活性化を行った。ばらつきを確認するため、2個のセルで独立に実験を行った。
【0041】
(実験例3)
不活性化剤として、レドックスシャトル剤であるp-ベンゾキノン(融点113℃、酸化還元電位2.9V vs.Li/Li+)を非水系溶媒であるN-N-ジメチルアセトアミドに0.05mol/Lの濃度で溶解し、調製した。調製した実験例3の不活性化剤1.268mLを用い、実験例1と同様に不活性化を行った。ばらつきを確認するため、2個のセルで独立に実験を行った。
【0042】
(参考例1)
EC、DMC、EMCを体積比で3:4:3に混合した溶媒へ、実験例1の不活性化剤である2-メチルキノキサリンを50mmol/L、LiPF
6を1000mmol/Lとなるように溶解させ、参考例1の試験液を調製した。この試験液に対して、H型セルを用いてサイクリックボルタメトリ(CV)法で測定を行った。作用極としてグラッシーカーボン、対極としてリチウム金属、参照電極としてニッケル線にリチウム金属を圧着させたものを用いた。CV測定では、まず、電圧および電流を印加しない状態で参照電極に対する作用極の電位を測定した。これを、不活性化液の開回路電位とした。その後、開回路電位から2.2V(vs.Li/Li
+)まで電位を低下させ、電位掃引方向を転換し、3.2V(vs.Li/Li
+)まで上昇させ、再度掃引方向を転換し、開回路電位まで掃引させて、2.2V~3.2Vの間のCV曲線を得た(
図4A)。なお、測定温度は20℃、電位掃引速度は50mV/sとした。同様にして、1.0V~4.0Vの間のCV曲線を得た(
図4B)。
【0043】
(結果と考察)
図3は、実験例1~3の不活性化剤を満充電状態の評価セルに添加後の放電挙動である。不活性化剤としては、より短時間で不活性化が可能なものが望まれる。また、不活性化をセル内で完結させることを想定すると、セル容積の制限があるため、少ない添加量で不活性化が可能な不活性化剤が望まれる。そのため、不活性化処理時間をセル容量当たりの添加量で規格化して性能を比較することが実用上有効である。そのため、
図3では、規格化した時間St=満充電状態(4.1V)にしたセルに不活性化剤を添加してからの経過時間t[hour]×不活性化剤の添加量[mL]/セル容量[mAh]を横軸に用いて評価を行った。また、セル電圧が3.0Vになった時間をTとし、そのときの規格化した時間Stを不活性化の指標STとして、表1に示した。
図3及び表1に示すように、実験例1では、3Vに到達したときのSt(=ST)が実験例1~3の中で最も小さかった。このことから、液体化合物であるレドックスシャトル剤を、そのまま不活性化剤として用いた実験例1では、添加量あたりの不活性化の性能が最も高く、好ましいことがわかった。
【0044】
実験例1のセルについて、セル電圧が0.3V以下になった後に解体し、負極及び正極を取り出して、それぞれの電位を測定した。その結果を表1に示した。表1に示すように、負極の電位が2.8V付近であった。負極電位が3.0V未満であれば、負極集電箔に一般的に使われる銅の溶出電位よりも低く、銅の溶出を抑制できる。そのため、例えば、セルをリサイクルする際に負極集電箔に含まれる銅が他の材料に混入することを抑制でき、リサイクル工程の簡略化やリサイクル材の高品質化を期待できる。実験例1のセルは、こうした観点でも好ましいことがわかった。
【0045】
図4は、参考例1のサイクリックボルタンメトリーの測定結果、すなわち、実験例1の不活性化剤である2-メチルキノキサリンのサイクリックボルタンメトリーの測定結果である。
図4Aに示すように、2.2V~3.2VのCVでは、酸化還元電位が3V以下、具体的には2.5Vに確認され、表1に示した不活性化完了後の負極電位とよく一致していた。
図4Bに示すように、1.0V~4.0VのCVでは、1.5V以下にも大きな還元電流のピークが確認され、酸化電流のピークは3V以上にも確認された。これは、2-メチルキノキサリンが3V以上に酸化還元電位を有することを示すものではなく、酸化反応が遅いことを示していると推察された。
【0046】
ここで、レドックスシャトル剤は、負極と正極との間を往復し、負極から電子を引き抜いて正極に電子を渡ししていると想定される。そのため、レドックスシャトル剤の酸化還元電位が正極電位と負極電位との間にあるときは、上述した負極と正極との間の電子授受の機能を発揮すると想定される。上記の反応の進行に伴い、負極電位は高く、正極電位が低くなる。そして、負極電位がレドックスシャトル剤の酸化還元電位と同等になると電子授受が起きなくなり、不活性化の進行が止まると想定される。実験例1で、不活性化完了後の負極電位が表1に示す電位になっているのは、このためと推察された。
【0047】
【0048】
以上より、使用環境下において液体である液体化合物であるレドックスシャトル剤を含む不活性化剤では、非水系二次電池をより効率良く不活性化することができることがわかった。また、レドックスシャトル剤としては、2-メチルキノキサリンや5-メチルキノキサリンなどのジアザベンゼン系化合物のほか、キノリンや2-メチルキノリンなどのアザベンゼン系化合物、(2,3-ジ-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)-1,4-ナフトキノンや2,3,5,6-テトラ-2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ-1,4-ベンゾキノンなどのキノン系化合物などでも、同様の効果が得られるものと推察された。更に、2-メチルキノキサリンなどのように酸化還元電位が3V未満のレドックスシャトル剤を用いると、負極電位が3V未満に保たれ、負極集電箔の銅の溶出などが抑制され好ましいと推察された。
【0049】
なお、本開示は、上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。