(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008199
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】剪断受金物およびその剪断受金物を使用した構造物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20240112BHJP
E04B 1/26 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
E04B1/58 504L
E04B1/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109868
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】315007581
【氏名又は名称】BXカネシン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121496
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 重雄
(72)【発明者】
【氏名】篠田 将
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA03
2E125AA13
2E125AA33
2E125AB12
2E125AC23
2E125BB19
2E125BE07
2E125BF05
2E125CA02
(57)【要約】
【課題】木材に設けた金物嵌合用凹部に隙間等の逃げを設ける場合でもせん断剛性が低下することなく、かつ、溶接によって接合した場合でも、金物嵌合用凹部に溶接部との干渉を避けるための木材加工を不要にする。
【解決手段】ボルトの軸部を通すボルト孔11aが設けられた円形板11と、円形板11の外周に当該円形板11の厚さ方向に所定の高さを有する筒状の外側筒部12とを備え、円形板11は、外側筒部12における当該円形板11の厚さ方向の少なくとも一方の端部から内側に後退した位置で、当該円形板11における一方の側面(溶接面11e)においてのみ外側筒部12と溶接により接合しており、反対側の側面(非溶接面11f)には溶接部14が現れないように構成し、その反対側の側面(非溶接面11f)を金物嵌合用凹部の面に当てるように嵌める。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトの軸部を通すボルト孔が設けられた円形板と、
前記円形板の外周に当該円形板の厚さ方向に所定の高さを有する筒状の外側筒部とを備え、
前記円形板は、前記外側筒部における当該円形板の厚さ方向の少なくとも一方の端部から内側に後退した位置で、当該円形板における一方の側面においてのみ前記外側筒部と溶接により接合されていることを特徴とする剪断受金物。
【請求項2】
請求項1記載の剪断受金物において、
前記円形板における前記ボルト孔周縁には、前記ボルトの軸部を通す内径を有し、かつ、当該円形板の厚さ方向であって前記外側筒部の端部と同じ高さまで突出した内側筒部を前記円形板と前記外側筒部との溶接と同じ側で溶接により接合していることを特徴とする剪断受金物。
【請求項3】
請求項1記載の剪断受金物において、
前記円形板には、線状固定部材の軸部を通す線状固定部材孔が設けられており、
前記円形板において前記外側筒部と溶接により接合された一方の側面は、少なくとも前記線状固定部材の頭部の高さ以上、前記外側筒部における溶接された側の端部から内側に後退していることを特徴とする剪断受金物。
【請求項4】
請求項1に記載の剪断受金物において、
前記円形板における前記外側筒部との境界には、当該円形板を貫通した複数のめり込み用貫通孔が所定間隔で設けられており、前記円形板は、前記めり込み用貫通孔で挟まれた円形板残存凸部で前記外側筒部に接合していることを特徴とする剪断受金物。
【請求項5】
請求項4記載の剪断受金物において、
前記円形板における前記円形板残存凸部の面内方向の中心と前記ボルト孔の中心とを通る中心線からずれた位置には、線状固定部材の軸部を通す線状固定部材孔が設けられていることを特徴とする剪断受金物。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一の請求項に記載された剪断受金物を使用したことを特徴とする構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材の金物嵌合用凹部に嵌めて使用してその木材に生じる剪断力を受ける剪断受金物、およびその剪断受金物を使用した構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトとナットによる締結の際に使用する剪断受金物として、例えば、中央に表裏貫通した孔部を設けた円形の円形板(特許文献1では「底壁部」と称している。)と、当該円形板の外縁全周に亘って立設した外側筒部(特許文献1では「側壁部」と称している。)とを有し、連結ピンをその孔部に挿通若しくは螺合することによって、連結ピンに作用する剪断荷重等の全部又は一部を外側筒部に支持させるように構成したものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の特許文献1のように剪断受金物は木材に嵌めて使用しており、木材側に剪断受金物を嵌める金物嵌合用凹部を設ける必要があるが、地域によっては、特殊加工のできるプレカット工場が限られるため、手加工で金物嵌合用凹部を設ける必要があり、手加工の精度を考えて剪断受金物を収めるためには木材に設けた金物嵌合用凹部にある程度の隙間等の逃げを考慮する必要がある。
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された剪断受金物では、剪断受金物の円形板の外径が大きい程、外側筒部の面積が大きくなってせん断耐力は向上するが、その外径が大きくなったり、側壁部の高さが深くなるとプレス加工で一体成型ができず、鋳鉄か溶接による成形となるが、溶接によって剪断受金物を製造する場合、金物嵌合用凹部において剪断受金物の溶接部分の干渉を避けるための木材加工が増えてしまう一方、鋳鉄で製造する場合には、溶接部分の干渉は解消できるものの金物表面が平滑にならないため、金物表面の加工手間がかかると共に、型枠などの初期コストがかかるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、溶接によって接合した場合でも、木材に設けた金物嵌合用凹部に溶接部分との干渉を避けるための木材加工を不要にすることができる剪断受金物およびその剪断受金物を使用した構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係る剪断受金物は、ボルトの軸部を通すボルト孔が設けられた円形板と、前記円形板の外周に当該円形板の厚さ方向に所定の高さを有する筒状の外側筒部とを備え、前記円形板は、前記外側筒部における当該円形板の厚さ方向の少なくとも一方の端部から内側に後退した位置で、当該円形板における一方の側面においてのみ前記外側筒部と溶接により接合されていることを特徴とする。
また、本発明に係る剪断受金物では、前記円形板における前記ボルト孔周縁には、前記ボルトの軸部を通す内径を有し、かつ、当該円形板の厚さ方向であって前記外側筒部の端部と同じ高さまで突出した内側筒部を前記円形板と前記外側筒部との溶接と同じ側で溶接により接合していることも特徴とする。
また、本発明に係る剪断受金物では、前記円形板には、線状固定部材の軸部を通す線状固定部材孔が設けられており、前記円形板において前記外側筒部と溶接により接合された一方の側面は、少なくとも前記線状固定部材の頭部の高さ以上、前記外側筒部における溶接された側の端部から内側に後退していることも特徴とする。
また、本発明に係る剪断受金物では、前記円形板における前記外側筒部との境界には、当該円形板を貫通した複数のめり込み用貫通孔が所定間隔で設けられており、前記円形板は、前記めり込み用貫通孔で挟まれた円形板残存凸部で前記外側筒部に接合していることも特徴とする。
また、本発明に係る剪断受金物では、前記円形板における前記円形板残存凸部の面内方向の中心と前記ボルト孔の中心とを通る中心線からずれた位置には、線状固定部材の軸部を通す線状固定部材孔が設けられていることも特徴とする。
また、本発明に係る構造物は、上述のいずれかに記載された剪断受金物を使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る剪断受金物では、ボルトの軸部を通すボルト孔が設けられた円形板と、円形板の外周に当該円形板の厚さ方向に所定の高さを有する筒状の外側筒部とを備え、円形板は、外側筒部における当該円形板の厚さ方向の少なくとも一方の端部から内側に後退した位置で当該円形板における一方の側面においてのみ外側筒部と溶接により接合している。
そのため、この剪断受金物を金物嵌合用凹部に嵌める際、溶接部が現れない面を金物嵌合用凹部に当てることにより、木材に設けた金物嵌合用凹部に溶接部分との干渉を避けるための木材加工を不要にすることができ、作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(a),(b)それぞれ、本発明に係る実施形態の剪断受金物の溶接面側から見た斜視図、非溶接面側から見た斜視図である。
【
図2】本発明に係る実施形態の剪断受金物の正面図である。
【
図3】(a),(b)それぞれ、本発明に係る実施形態の剪断受金物の平面図、背面図である。
【
図4】(a)~(c)それぞれ、
図2におけるA-A線断面図、B-B線断面図、C-C線断面図(尚、溶接部はそれぞれの切断線の端面のみ示している。)である。
【
図5】(a),(b)それぞれ木造建物における本発明に係る実施形態の剪断受金物の使用例1を示す斜視図、一部切欠平面図である。
【
図6】(a),(b)それぞれ
図5に示す使用例1において円形板のめり込み用貫通孔を省略した比較例における木材の剪断破壊の状態を示す正面図、一部切欠平面図である。
【
図7】(a),(b)それぞれ
図5に示す使用例1において実施形態の剪断受金物に剪断力がかかりその剪断受金物がビスで固定された木材にめり込む場合における木材の剪断破壊の状態を示す正面図、一部切欠平面図である。
【
図8】(a)~(c)それぞれ木造建物における本発明に係る実施形態の剪断受金物の使用例2を示す一部切欠平面図、
図8(a)における上側の剪断受金物のビス孔の位置を示す図、
図8(a)における下側の剪断受金物のビス孔の位置を示す図である。
【
図9】(a),(b)それぞれ木造建物における本発明に係る実施形態の剪断受金物の使用例3を示す一部切欠平面図、正面図である。
【
図10】木造建物における本発明に係る実施形態の剪断受金物の使用例4を示す一部切欠正面図である。
【
図11】木造建物における本発明に係る実施形態の剪断受金物の使用例5を示す一部切欠平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施形態の剪断受金物1および実施形態の剪断受金物1を使用した木造建物における使用例1~5について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、下記に説明する実施形態はその寸法等も含めあくまで本発明の一例であり、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で適宜変更可能である。
【0011】
<実施形態の剪断受金物1の構成>
実施形態の剪断受金物1は、
図1(a),(b)等に示すように円形板11と、円形板11の外側に円形板11の厚さ方向に所定の長さL1(
図4(a)参照。)を有する筒状の外側筒部12と、円形板11の中心部分に当該円形板11の厚さ方向に所定の長さL2(
図4(a)参照。)を有する筒状の内側筒部13とを後述するように溶接により接合して構成される。
【0012】
ここで、符号の14は円形板11と外側筒部12との溶接部であり、符号の15は円形板11と内側筒部13との溶接部である。
図1(a),(b)を比較すると明らかなように、実施形態の剪断受金物1では、
図1(a)に示すように円形板11の一方の面(以下、溶接面11eという。)においてのみ溶接を行って溶接部14,15が現れ、
図1(b)に示すように反対側の面(以下、非溶接面11fという。)では溶接が行われず、溶接部14,15が現れない。
【0013】
(円形板11)
円形板11は、
図1~
図4に示すように、所定厚の鋼板を円形にカットして構成されており、円形板11には、ボルト2の軸部2bを通すボルト孔11aが設けられていると共に、線状固定部材であるビス3の軸部3bを通す線状固定部材孔としてビス孔11bが設けられている。
【0014】
円形板11では、
図4(a)~(c)に示すようにボルト孔11aに内側筒部13を嵌めて溶接面11e側で溶接しており、本実施形態では、内側筒部13の内径R1がボルト2の軸部2bの外径とほぼ同じにしてボルト2の軸部2bを通すように構成したため、ボルト孔11aの内径R2は、内側筒部13の内径R1に内側筒部13の厚さT1の2倍を加算した数値、つまりR2=R1+2・T1の関係が成立するように構成している。
【0015】
円形板11の外周面、すなわち円形板11における外側筒部12との境界には、木材5への剪断受金物1のめり込みを主目的として貫通した複数(ここでは、例えば、4つとするが、4つ以外でも勿論良い。)のめり込み用貫通孔11cを90度毎に設けており、めり込み用貫通孔11cで両側を挟まれた残存部分である円形板残存凸部11dと外側筒部12とが後述するように溶接によって接合される。
【0016】
円形板11におけるボルト孔11aの内周面には、円形板11の厚さ方向であって外側筒部12の端部と同じ高さまで突出した内側筒部13が溶接によって設けられる。
【0017】
円形板11の4つのビス孔11bは、それぞれ、
図2や
図3(b)等に示すように4つの各円形板残存凸部11dの面内方向の中心とボルト孔11aの中心とを通る中心線CLからずれた位置、すなわち中心線CLに対し左右のいずれか一方側にずれた位置に設けている。尚、円形板11の溶接面11e側では、
図2に示すように4つのビス孔11bは中心線CLに対し反時計回り側に位置し、円形板11の非溶接面11f側では、
図3(b)に示すように4つのビス孔11bは中心線CLに対し時計回り側に位置することになる。
【0018】
これは、後述する
図8~
図10等に示すように実施形態の剪断受金物1を2つ使用して対向させて使用する場合、2つの剪断受金物1は裏表の向きを変えて設置するため、対向する2つの剪断受金物1それぞれの円形板11のビス孔11bの位置をズラすことができるからである。これにより、2つの剪断受金物1それぞれの非溶接面11f側を対向させて設置してそれぞれの円形板11のビス孔11bにビス3の軸部3bを通した場合でも、ビス3同士が衝突する等の干渉することを防止することができ、ビス3を介し剪断受金物1に対し剪断力を確実に伝達することができる。
【0019】
(外側筒部12)
外側筒部12は、円形板11の外周に後述するように溶接して設け、主に2部材間に作用する剪断力を受ける部材で、
図4(a)等に示すように円形板11の厚さ方向に所定の長さL1を有する筒状の鋼管で構成されている。
【0020】
(内側筒部13)
内側筒部13は、円形板11のボルト孔11aの内周面に後述するように溶接され円形板11の厚さ方向であって外側筒部12の端部と同じ高さまで突出した部分で、
図4(a)等に示すように円形板11の厚さ方向に所定の長さL2を有する筒状の鋼管で構成されている。
【0021】
上述したように、本実施形態では内側筒部13の内径R1がボルト2の軸部2bの外径とほぼ同じにしてボルト2の軸部2bをほぼ隙間無く通すように構成し、ボルト2に作用する剪断力をこの内側筒部13で受けるように構成している。
【0022】
(円形板11と外側筒部12および内側筒部13の溶接)
実施形態の剪断受金物1では、円形板11と外側筒部12と内側筒部13とは別部材であってこれらを溶接によって接合している。溶接する箇所は、
図1~
図4に示すように、円形板11の一方側の面である溶接面11e側においてのみ外側筒部12および内側筒部13と溶接を行い、溶接面11eの裏側(反対側)の非溶接面11fでは溶接しない。
【0023】
これは、実施形態の剪断受金物1は、後述する
図5等に示すように木材5等に設けた金物嵌合用凹部5a1等に嵌めて使用するが、この剪断受金物1において金物嵌合用凹部5a1等の木材5表面に接触する面は、円形板11においてビス3の頭部3aが位置する溶接面11eの反対側の非溶接面11fであり、非溶接面11fには溶接部14,15が現れず、金物嵌合用凹部5a1において溶接部14,15との干渉を避けるための木材5の加工が不要となり、作業効率を向上させることができるからである。
【0024】
また、実施形態の剪断受金物1は、2部材間の接合に使用して2部材間に作用する剪断力を受ける金物で、この剪断受金物1が埋め込まれた部材とは別部材の側面に
図4(a)に示すように外側筒部12および内側筒部13の図上左側端部が当接して剪断受金物1自体の強度を向上させることにより剪断耐力を向上させるため、外側筒部12および内側筒部13の図上左側端部の位置を面一になるように溶接している。
【0025】
さらに、
図4(a)において外側筒部12および内側筒部13の図上左側端部から円形板11の図上左側面までの凹み量L3は、この剪断受金物1を部材にビス3で固定するため、ビス3の頭部3aの高さ以上としている。
【0026】
<木造建物における実施形態の剪断受金物1の使用例1>
図5(a),(b)は、それぞれ、木造建物における本発明に係る実施形態の剪断受金物の使用例1を示す斜視図、一部切欠平面図である。
【0027】
図5(a),(b)に示すように、使用例1では、本発明に係る実施形態の剪断受金物1を使用して横架材等の木材5と鋼板プレート6とを接合する際、木材5側に設けた金物嵌合用凹部5a1に実施形態の剪断受金物1を嵌めて、円形板11に設けた4箇所のビス孔11bそれぞれにビス3の軸部3bを通して剪断受金物1を木材5の金物嵌合用凹部5a1に固定する。尚、木材5には、予め金物嵌合用凹部5a1だけでなく、ボルト2の軸部2bを通すボルト軸部用貫通孔(図示せず。)が加工されているものとする。また、
図5において、符号の2aはボルト2の頭部である。
【0028】
次に、本実施形態の剪断受金物1を固定した木材5と鋼板プレート6とを接合するため木材5において剪断受金物1を固定した金物固定側面5aと鋼板プレート6とを突き合わせて木材5のボルト軸部用貫通孔(図示せず。)と、鋼板プレート6のボルト軸部用貫通孔(図示せず。)との位置を合わせて鋼板プレート6側からボルト2の軸部2bを通し、木材5側から突出したボルト2の軸部2b先端に座金4bを介してナット4aを締結して木材5と鋼板プレート6とを接合する。これで、本実施形態の剪断受金物1を使用した木材5と鋼板プレート6との接合である使用例1が完了する。
【0029】
その際、剪断受金物1の円形板11と外側筒部12および内側筒部13は、溶接によって接合しているが、
図4(a)に示すように外側筒部12および内側筒部13の図上左側端部から円形板11の図上左側面までの凹み量L3は、ビス3の頭部3aの高さ以上であって、ビス3の頭部3aが位置する溶接面11e側においてのみ外側筒部12と溶接により接合するため、円形板11の非溶接面11f側には溶接部14,15が現れない。
【0030】
そのため、溶接部14,15が現れない非溶接面11fを金物嵌合用凹部5a1に当接させることにより木材5側の金物嵌合用凹部5a1に溶接部14,15との干渉を避けるための木材5の加工が不要となり、作業効率を向上させることができる。
【0031】
また、実施形態の剪断受金物1では、円形板11はビス3の頭部3aの高さ以上の長さL3だけ内側へ後退(オフセット)し、一方の溶接面11e側においてのみ外側筒部12の内周面および内側筒部13の外周面に溶接しているため、剪断受金物1をビス3で木材5の金物嵌合用凹部5a1に固定した後、鋼板プレート6を木材5の金物固定側面5aに重ねた場合でもビス3の頭部3aが鋼板プレート6に干渉すること無く木材5と鋼板プレート6を重ねて接合することができる。
【0032】
特に、円形板11は外側筒部12の端部ではなく端部から長さL3(
図4(a)参照。)だけ後退(オフセット)して溶接しているため、外側筒部12の曲げ変形の抑制効果が向上し、外側筒部12の板厚を薄くすることができる。これにより実施形態の剪断受金物1を軽量化することができるので、作業効率を向上させることができると共に、コスト面も削減することができる。
【0033】
<使用例1における本実施形態の剪断受金物1と円形板のめり込み用貫通孔を省略した比較例との作用の比較>
次に、使用例1における本実施形態の剪断受金物1の作用を、円形板11のめり込み用貫通孔11cを省略した比較例での作用と比較して説明する。
【0034】
図6(a),(b)は、それぞれ、
図4に示す使用例1において円形板11のめり込み用貫通孔11cを省略した比較例の剪断受金物1’における木材5の剪断破壊の状態を示す正面図、一部切欠平面図である。尚、
図6(a)の正面図では、鋼板プレート6の図示は省略している。
【0035】
図6(a),(b)に示すように比較例の剪断受金物1’を使用して接合した木材5と鋼板プレート6に過大な剪断力が作用した場合、比較例の剪断受金物1’では、円形板11’の4箇所のめり込み用貫通孔11cを省略しているため、木材5にほとんどめり込まず、ボルト2の軸部2bや鋼板プレート6は面外方向に変形しない。
【0036】
そのため、比較例の剪断受金物1’は、木材5へほとんどめり込まないことから、木材5には木材5や鋼板プレート6の長手方向の剪断力が作用した場合、剪断受金物1’においてその剪断力は主に外側筒部12’が受け、剪断受金物1’の剪断有効面積ESA(
図6(b)参照。)が小さいまま木材5に剪断破壊SH(
図6(a)参照。)が生じる。
【0037】
図7(a),(b)は、それぞれ、
図5に示す使用例1において使用した実施形態の剪断受金物1による木材5の剪断破壊の状態を示す正面図、一部切欠平面図である。尚、
図7(a)の正面図では、鋼板プレート6の図示は省略している。
【0038】
実施形態の剪断受金物1では、
図7(a)等に示すように円形板11に4箇所のめり込み用貫通孔11cを設けているため、木材5と鋼板プレート6の間に矢印方向(
図7(b)参照。)へ過大な剪断力が作用した場合、
図7(a)に示すように剪断破壊SHが生じるものの、
図7(b)に示すように実施形態の剪断受金物1が面外方向に曲がる等して木材5にめり込むと、剪断受金物1を締結しているボルト2の軸部2bや鋼板プレート6も面外方向に変形する。
【0039】
すると、木材5にめり込んだ剪断受金物1や曲がった鋼板プレート6も木材5や鋼板プレート6の長手方向に対し傾斜するため、木材5と鋼板プレート6に作用する剪断力は、木材5や鋼板プレート6の長手方向だけでなく、ボルト2の軸部2bの長手方向にも分解され、木材5へ伝達される。
【0040】
その結果、実施形態の剪断受金物1では、円形板11に4箇所のめり込み用貫通孔11cを設けているため、木材5と鋼板プレート6との間に剪断力が作用した場合、めり込み用貫通孔11cによって剪断受金物1が木材5にめり込み、木材5や鋼板プレート6の長手方向の剪断力は外側筒部12や内側筒部13が受ける一方、ボルト2の軸部2bの長手方向に分解された剪断力は円形板11で受けることが可能となり、めり込んだ円形板11の分だけ剪断受金物1の剪断有効面積ESA(
図7(b)参照。)が大きくなるので、比較例1の剪断受金物1’の場合よりも木材5の剪断破壊SH(
図7(a)参照。)を少なくすることができる。
【0041】
また
図7(a)等に示すように少なくとも一組の対向する円形板残存凸部11d,11dを、
図7(b)に示した矢印の方向、つまり木材5の長手方向と平行に向き合わせるように設置すると、その一組の円形板残存凸部11d,11dが木材5と鋼板プレート6に作用する剪断力に対して有効に働くため、効果的である。尚、この場合、他の一組の対向する円形板残存凸部11d,11dは木材5の短手方向と平行に向き合うことになる。その際、少なくとも一組の対向する円形板残存凸部11d,11dを剪断力に対して有効な向きに位置合わせするため、円形板11に設けた4箇所のビス孔11bそれぞれにビス3を通して剪断受金物1を金物嵌合用凹部5a1に固定すると、部材へ仮止めした後の現場搬送時だけでなく、工具などを使用して施工する際も剪断受金物1が回転することがなく固定が可能になる。
【0042】
<木造建物における実施形態の剪断受金物1の使用例2>
図8(a)~(c)は、それぞれ、木造建物における本発明に係る実施形態の剪断受金物1を2つ使用した使用例2の一部切欠平面図、
図8(a)における上側の剪断受金物1のビス孔の位置、
図8(a)における下側の剪断受金物1のビス孔の位置を示す説明図である。
【0043】
図8(a)に示す使用例2では、木材5の左右両側にそれぞれ金物嵌合用凹部5a1を設け、左右両側の金物嵌合用凹部5a1に本実施形態の剪断受金物1をそれぞれ非溶接面11f同士が対向するように嵌め、各剪断受金物1ではそれぞれ使用例1の場合と同様に円形板11に設けた4箇所のビス孔11bそれぞれにビス3を通して左右両側で剪断受金物1を金物嵌合用凹部5a1に固定する。
【0044】
その際、
図8(a)の上側の剪断受金物1では、
図8(a)の下側の剪断受金物1に対し非溶接面11f(
図3(b)参照。)が対向するため、円形板11のビス孔11bは、
図3(b)や
図8(b)に示すように各円形板残存凸部11dの面内方向の中心とボルト孔11aの中心とを通る中心線CLから時計回りにずれた位置となり、ビス3も中心線CLから時計回りにずれた位置で打ち込まれる。
【0045】
これに対し、
図8(a)の下側の剪断受金物1は、上側の剪断受金物1に対し裏返しを行って金物嵌合用凹部5a1に固定するため、円形板11のビス孔11bは、
図2や
図8(c)に示すように各円形板残存凸部11dの面内方向の中心とボルト孔11aの中心とを通る中心線CLから反時計回りにずれた位置となり、ビス3も中心線CLから反時計回りにずれた位置で打ち込まれる。
【0046】
そのため、この使用例2では、木材5の上下両側に設けた剪断受金物1を固定するビス3は、
図3(b)や
図8(b)に示すように中心線CLから時計回りにずれた位置と、
図2や
図8(c)に示すように反時計回りにずれた位置で干渉しないように打ち込まれるので、使用例2のような木材5の両側から2つの剪断受金物1で挟むように使用する場合には、ビス3を干渉させずに確実に固定することが可能となる。
【0047】
尚、その後は、木材5の左右両側それぞれにおいて使用例1の場合と同様に木材5のボルト軸部用貫通孔(図示せず。)と、鋼板プレート6のボルト軸部用貫通孔(図示せず。)との位置を合わせて左右いずれか一方の鋼板プレート6からボルト2の軸部2bを通して、他方の鋼板プレート6からから突出したボルト2の軸部2b先端にナット4aを締結して剪断受金物1を左右両側に固定した木材5を2つの鋼板プレート6で挟んだ状態で接合する。これで、本実施形態の剪断受金物1を2つ使用した木材5と鋼板プレート6との接合である使用例2が完了する。
【0048】
<木造建物における実施形態の剪断受金物1の使用例3>
図9(a),(b)は、木造建物における本発明に係る実施形態の剪断受金物1の使用例3を示す説明図で、
図8に示す場合と同様に剪断受金物1を2つ使用して挟むように使用する例である。
【0049】
図9(a),(b)に示す使用例3では、柱5’の上に設けた梁5”の左右両側に金物嵌合用凹部5a1”,5a1”を設け、その金物嵌合用凹部5a1”,5a1”それぞれに実施形態の剪断受金物1を嵌めて円形板11に設けた4箇所のビス孔11bそれぞれにビス3を通して剪断受金物1を梁5”の金物嵌合用凹部5a1”,5a1”に固定し、鋼板プレート6の代わりに鋼製ブレース6’のブレース材本体6a’両端部のブレース端部金物6b’を当てて両引きボルト(全ネジボルト)2’および2つのナット4aにより締結することにより、柱5’と梁5”で構成される躯体部に剪断受金物1を使用して鋼製ブレース6’を設けた使用例である。尚、
図9では、ビス3は図示を省略している。
【0050】
尚、この
図9(a),(b)に示す使用例3の場合も、梁5”の左右両側に実施形態の剪断受金物1を設けるため、上述した使用例2の場合と同様に、左右両側の剪断受金物1においてビス3同士を干渉させずに梁5”に確実に固定することができる。
【0051】
<木造建物における実施形態の剪断受金物1の使用例4>
図10は、木造建物における本発明に係る実施形態の剪断受金物1の使用例4を示す説明図である。
【0052】
図10に示す使用例4は、柱5’に斜材5”’を接合する際に実施形態の剪断受金物1を斜材5”’のホゾ仕口の代用として使用した例である。尚、
図10では、ビス3の図示を省略している。
【0053】
具体的には、柱5’と斜材5”’との接合面にそれぞれ金物嵌合用凹部5a1’,5a1”’を設けると共に、それぞれの金物嵌合用凹部5a1’,5a1”’を介して柱5’と斜材5”’の間を貫通するボルト孔を設け、斜材5”’側には、さらに金物嵌合用凹部5a1”’の反対側にナット4aおよび座金4bが納まるナット等収納凹部5a2”’を設ける。
【0054】
そして、
図10に示すように柱5’と斜材5”’それぞれの金物嵌合用凹部5a1’,5a1”’に実施形態の剪断受金物1をビス3で固定すると共に、柱5’と斜材5”’の間を貫通するボルト孔に両引きボルト2’を通して、座金4bを介して柱5’の外側と斜材5”’のナット等収納凹部5a2”’から突出する両引きボルト2’の両端部それぞれをナット4aで締結して柱5’と斜材5”’とを接合し、2つの剪断受金物1にホゾ仕口を代用させる。
【0055】
<木造建物における実施形態の剪断受金物1の使用例5>
図11は、木造建物における本発明に係る実施形態の剪断受金物1の使用例5を示す説明図である。
図11に示す使用例5では、木材5同士を継手によって接合する際に実施形態の剪断受金物1を使用した例である。尚、
図11では、ビス3の図示を省略している。
【0056】
具体的には、木材5同士の接合部にそれぞれ金物嵌合用凹部5a1を設けると共に、それぞれの金物嵌合用凹部5a1を通って接合する木材5,5の間を貫通するボルト孔を設け、接合する木材5,5それぞれの金物嵌合用凹部5a1に実施形態の剪断受金物1をビス3で固定すると共に、木材5,5の間を貫通するボルト孔に両引きボルト2’を通して、座金4bを介して木材5,5それぞれから突出する両引きボルト2’の両端部をナット4aで締結して木材5,5とを接合して実施形態の剪断受金物1により継手を行う。
【0057】
<実施形態の剪断受金物1のまとめ>
以上説明したように本発明に係る実施形態の剪断受金物1は、ボルト2,2’の軸部2b,2b’を通すボルト孔11aが設けられた円形板11と、円形板11の外周に円形板11の厚さ方向に所定の高さを有する筒状の外側筒部12とを備え、円形板11は、外側筒部12における当該円形板11の厚さ方向の少なくとも一方の端部から内側に後退した位置で、当該円形板11における一方の側面である溶接面11eにおいてのみ外側筒部12と溶接により接合している。
【0058】
そのため、溶接面11eの反対側の非溶接面11fには溶接部14等が現れないため、実施形態の剪断受金物1を金物嵌合用凹部5a1,5a1’,5a1”に嵌める際、溶接部14等が現れない非溶接面11fを金物嵌合用凹部5a1,5a1’,5a1”に当てることにより、金物嵌合用凹部5a1,5a1’,5a1”に溶接部14等との干渉を避けるための木材加工を不要にすることができるので、作業効率を向上させることができる。
【0059】
また、円形板11は外側筒部12の端部ではなく端部から内側へ長さL3だけ後退(オフセット)して溶接しているため、外側筒部12の曲げ変形の抑制効果が向上し、外側筒部12の板厚を薄くして実施形態の剪断受金物1を軽量化することができるので、作業効率を向上させることができると共に、コスト面も削減することができる。
【0060】
また、本発明に係る実施形態の剪断受金物1では、円形板11におけるボルト孔11aの内周縁には、ボルト2の軸部2bを通すよう軸部2bの外径とほぼ同じ内径R1を有し、かつ、円形板11の厚さ方向であって外側筒部12の端部と同じ高さまで突出した内側筒部13を、円形板11と外側筒部12との溶接と同じ溶接面11e側で溶接により接合している。
【0061】
そのため、実施形態の剪断受金物1を複数の部材間の接合に使用した場合、外側筒部12の端部だけでなく内側筒部13の端部も他の部材に当接して内側筒部13で他の部材からの圧力を受けるので、ボルト2の曲げ変形等を抑制できると共に、円形板11が薄くても十分な支圧耐力を確保することができる。
【0062】
特に、内側筒部13の内径R1(
図4(a)参照。)は、ボルト2の軸部2bの軸径または外径(呼び径)とほぼ同じ内径にしているため、剪断力によってボルト2の軸部2bが変形しようとした場合には、外側筒部12が抵抗するだけでなく、ボルト2の軸部2bが内側筒部13の内周面に当接することによっても抵抗するので、剪断力に対する抵抗力を向上させることができる。
【0063】
また、本発明に係る実施形態の剪断受金物1では、円形板11には、ビス3の軸部3bを通すビス孔11bを設けており、円形板11において外側筒部12や内側筒部13と溶接により接合した一方の側面(溶接面11e)は、少なくともビス3の頭部3aの高さ以上、外側筒部12における溶接部14,15側の端部から内側に長さL3だけズラして設けている。
【0064】
そのため、円形板11はビス孔11bを設けたことにより、そのビス孔11bに通したビス3によって木材5等に設けた金物嵌合用凹部5a1,5a1’,5a1”に固定できるので、剪断受金物1と金物嵌合用凹部5a1,5a1’,5a1”との間に隙間等の逃げがある場合でも、せん断剛性の低下を防止することができる。加えて、金物嵌合用凹部5a1,5a1’,5a1”に隙間等の逃げがある場合でも、予め金物嵌合用凹部5a1,5a1’,5a1”の加工後に剪断受金物1をビス3で仮止めすることにより剪断受金物1が外れることなく現場へ搬送することが可能になる。
【0065】
また、本発明に係る実施形態の剪断受金物1では、円形板11における外側筒部12との境界には、貫通した複数のめり込み用貫通孔11cを所定間隔で設けており、円形板11は、めり込み用貫通孔11cで挟まれた円形板残存凸部11dで外側筒部12に接合している。
【0066】
そのため、実施形態の剪断金物1に過大な剪断力が作用して、円形板11に面外方向の応力が作用した際、一方の部材が木材5の場合には、めり込み用貫通孔11cに対向していた木材5がそのめり込み用貫通孔11cにめり込むことで、外側筒部12のみでなく円形板11も剪断力を受けて対抗することが可能となるので、剪断力に対する抵抗力を増大させることができる。
【0067】
また、本発明に係る実施形態の剪断受金物1では、4つのビス孔11bは、それぞれ、4つの各円形板残存凸部11dの面内方向の中心とボルト孔11aの中心とを通る中心線CLからずれた位置に設けている。
【0068】
そのため、例えば、
図8や
図9等に示すように実施形態の剪断受金物1を2つ使用して木材5の側面の左右両側から挟むように対向させて使用する場合、その対向する2つの剪断受金物1それぞれの円形板11のビス孔11bの位置はズレて、各ビス孔11bに通したビス3の位置もズレることにより、ビス3同士が衝突する等、干渉することを防止することができるので、ビス3を介して確実に剪断力を剪断受金物1に伝達することができる。
【0069】
尚、上記実施形態の説明では、線状固定部材としてビス3を一例に説明したが、本発明ではこれに限るものではなく、線状固定部材はネジや釘、ラグスクリューボルト等、ビス以外の線状固定部材でも頭部および軸部を有する線状固定部材であれば良い。
【0070】
また、上記実施形態の説明では、本発明に係る実施形態の剪断受金物1の使用例として、木造建物における使用例1~5について説明したが、本発明では剪断受金物の使用例として木造建物に限定されるものではなく、木材と鉄骨やコンクリート等の木材と異なった構造材料を混用した混用建築物や、さらにはこれらの建築物以外の構造物にも使用可能で、本発明に係る構造物の対象になる。
【符号の説明】
【0071】
1 剪断受金物
11 円形板
11a ボルト孔
11b ビス孔(線状固定部材孔)
11c めり込み用貫通孔
11d 円形板残存凸部
11e 溶接面
11f 非溶接面
12 外側筒部
13 内側筒部
14,15 溶接部
2 ボルト
2a 頭部
2b 軸部
2’ 両引きボルト
3 ビス(線状固定部材)
3a 頭部
3b 軸部
4a ナット
4b 座金
5 木材
5a 金物固定側面
5a1 金物嵌合用凹部
5’ 柱
5a1’ 金物嵌合用凹部
5” 梁
5a1” 金物嵌合用凹部
5”’ 斜材
5a1”’ 金物嵌合用凹部
6 鋼板プレート
6’ 鋼製ブレース
6a’ ブレース材本体
6b’ ブレース端部金物