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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081992
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】電力変換装置の試験方法、電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240612BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195645
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】田原 智徳
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA28
5H770AA29
5H770BA01
5H770HA02Z
5H770HA03Z
5H770HA07Z
(57)【要約】
【課題】試験を容易に実施することができるとともに、試験終了時に設定を戻し忘れるミスの発生を抑制することができる電力変換装置の試験方法、電力変換装置を提供する。
【解決手段】実施形態による電力変換装置の試験方法は、起動時には通常運転モードが設定される電力変換装置を対象としたものであり、試験運転モードが設定された際、制御部から主回路への制御信号の出力を無効にする工程と、試験運転モードが設定された際、検出部の検出結果に基づく保護動作を無効にする工程と、試験運転モードが設定された際、データの保存先を、試験運転モード専用で設けられている試験用記憶領域に設定する工程と、主回路への制御信号の出力が無効にされ、保護動作が無効にされ、試験用記憶領域にデータが保存される状態で試験を実施する工程と、を実施する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部電源から供給される電力を変換してモータに供給する主回路と、前記モータの運転状態を検出する1つ以上の検出部と、前記検出部の検出結果に応じて前記主回路を制御する制御部と、を備えた電力変換装置を試験する試験方法であって、
前記電力変換装置は、前記モータが接続されている状態で運転する通常運転モードと、前記モータを接続しない状態での運転が可能な試験運転モードと切り替えが可能であって、起動時には通常運転モードに設定されるように構成されたものであり、
試験運転モードが設定された際、前記制御部から前記主回路への制御信号の出力を無効にする工程と、
試験運転モードが設定された際、前記検出部の検出結果に基づく保護動作を無効にする工程と、
試験運転モードが設定された際、データの保存先を、試験運転モード専用で設けられている試験用記憶領域に設定する工程と、
前記主回路への前記制御信号の出力が無効にされ、前記保護動作が無効にされ、前記試験用記憶領域にデータが保存される状態で試験を実施する工程と、を含む電力変換装置の試験方法。
【請求項2】
データの保存先を設定する工程では、前記試験用記憶領域を、電源が遮断された場合にはデータが保持されない揮発性メモリに設定する請求項1に記載の電力変換装置の試験方法。
【請求項3】
試験運転モードが設定された際、試験運転モードである旨を表示する工程をさらに含む請求項1に記載の電力変換装置の試験方法。
【請求項4】
試験運転モードの終了が指示された際、通常運転モードに移行する工程をさらに含む請求項1から3のいずれか一項に記載の電力変換装置の試験方法。
【請求項5】
モータに電力を供給する主回路と、
制御信号を出力して前記主回路を制御する制御部と、
前記モータの運転状態を検出する1つ以上の検出部と、
前記検出部の検出結果に基づいて保護動作を行う保護部と、
前記モータを接続した状態で運転する通常運転モードと、前記モータを接続しない状態での運転が可能な試験運転モードとを切り替える設定部と、
試験運転モード中のデータの保存先として専用で設けられている試験用記憶領域と、を備え、
前記設定部は、起動時には通常運転モードに設定するとともに、試験運転モードが指示された際には、前記主回路への前記制御信号の出力を無効にし、前記保護動作を無効にし、試験運転モード中のデータの保存先を前記試験用記憶領域に設定する電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置の試験方法、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
外部電源から供給された電力を変換してモータなどの負荷に供給する電力変換装置がある。このような電力変換装置は、モータの運転状態に基づく制御を行っており、運転中には、例えば電流、電圧、磁極、回転方向、回転速度、欠相といったモータの運転状態を検出し、その検出結果に基づいて各種の保護動作を行っている。
【0003】
さて、電力変換装置は、例えば出荷前の試験や立ち合いなどにおいては、実際のモータは接続しない状態で、試験的に運転することがある。その場合、モータが接続されていないと上記したような保護動作が働いてしまうことから、例えば特許文献1では、モータの電気的負荷と同一となるように構成されたダミーの負荷装置を接続したり、モータと同数の疑似信号を入力したりすることにより、モータを実際に駆動することなく試験できるようにすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-160282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電力変換装置に接続されるモータは、仕様によっては定格出力が例えば数百kW程度の大型のものもあり、その場合には、ダミーの負荷装置を用意することが困難であったり、用意したとしても接続作業等に多大な労力を要したりするおそれがある。
また、モータを接続しない状態で運転するためには、保護動作が働かないように設定を変更したり、模擬信号を受信するように設定を変更したりする必要があるものの、試験終了時にそれらの設定を通常の状態に戻し忘れるといったミスが発生するおそれもある。
【0006】
そこで、試験を容易に実施することができるとともに、試験終了時に設定を戻し忘れるミスの発生を抑制することができる電力変換装置の試験方法、電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態による電力変換装置の試験方法は、外部電源から供給される電力を変換してモータに供給する主回路と、モータの運転状態を検出する1つ以上の検出部と、検出部の検出結果に応じて主回路を制御する制御部とを備え、モータが接続されている状態で運転する通常運転モードと、モータを接続しない状態での運転が可能な試験運転モードと切り替えが可能であって、起動時には通常運転モードに設定されるように構成された電力変換装置を試験するものであって、試験運転モードが設定された際、制御部から主回路への制御信号の出力を無効にする工程と、試験運転モードが設定された際、検出部の検出結果に基づく保護動作を無効にする工程と、試験運転モードが設定された際、データの保存先を、試験運転モード専用で設けられている試験用記憶領域に設定する工程と、主回路への制御信号の出力が無効にされ、保護動作が無効にされ、試験用記憶領域にデータが保存される状態で試験を実施する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態による電力変換装置の構成例を模式的に示す図
図2】電力変換装置の試験方法の流れを示す図
図3】試験中表示の表示態様例を示す図
図4】試験用記憶領域の他の構成例を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施形態による電力変換装置1は、外部電源2から供給された電力(P)を変換し、負荷としてのモータ3に供給する。なお、電力変換装置1は、後述するようにモータ3を接続することなく試験を実施可能な構成となっているため、図1では、モータ3とモータ3の回転位置を検出するための検出器4とについては破線にて示している。
【0010】
電力変換装置1は、主回路5を備えており、外部電源2から供給された電力を変換してモータ3に供給する。本実施形態の場合、主回路5は、いわゆるインバータ装置として構成されており、外部電源2から供給される三相交流を整流して直流に変換した後、再び交流に変換してモータ3に供給する。また、主回路5は、図示は省略するが、整流後の直流を制御部6、操作パネル7、不揮発性メモリ8あるいは揮発性メモリ9などの内部回路で利用可能にするための降圧回路なども設けられている。
【0011】
制御部6は、例えばマイクロコンピュータによって構成されており、コンピュータプログラムを実行することによって、電力変換装置1を制御するための各種の機能部を実現している。本実施形態の場合、制御部6は、波形生成部10、電流検出部11、電圧検出部12、速度検出部13、地絡検出部14、欠相検出部15、位置検出部16、操作パネル処理部17、アナログ入力処理部18、アナログ出力処理部19、接点入力処理部20、接点出力処理部21、通信処理部22、メモリ処理部23、保護部24、設定部25などの複数の機能部を実現している。
【0012】
波形生成部10は、主回路5を制御するための例えばPWM方式の制御信号を生成および出力し、通常の運転時において主回路5を制御する機能部である。なお、図1では、説明の簡略化のために、制御部6が出力する制御信号を主回路5の駆動用信号に変換するための駆動用回路や、主回路5やモータ3の運転状態を示す状態信号を制御部6に入力可能な信号に変換するための変換回路やレベルシフト回路などについては図示を省略している。
【0013】
電流検出部11はモータ3に供給される電流を検出する機能部である。また、電圧検出部12は、モータ3に供給される電圧を検出する機能部である。また、速度検出部13は、モータ3の回転速度を検出する機能部である。また、地絡検出部14は、モータ3の地絡を検出する機能部である。また、欠相検出部15は、モータ3の欠相を検出する機能部である。また、位置検出部16は、例えばエンコーダPGなどで構成された検出器4の検出結果に基づいてモータ3の回転位置を検出する機能部である。そして、波形生成部10は、これらの検出部の検出結果に基づいて、制御信号を出力する。ただし、図1に例示した各検出部は一例であり、その種類や数は図1に示した構成に限定されない。
【0014】
アナログ入力処理部18は、外部の機器から、各種のアナログ信号の入力を受け付ける機能部である。アナログ出力処理部19は、外部の機器に対して、運転状態に応じたアナログ信号を出力する機能部である。接点入力処理部20は、外部の機器から、例えば運転の開始信号などの接点信号の入力を受け付ける機能部である。接点出力処理部21は、外部の機器に対して、運転状態に応じた接点信号を出力する機能部である。この接点信号は、フォトカプラやリレーなどを用いて入力または出力されるものであり、オン/オフの何れかの状態を示すデジタル形式の信号である。通信処理部22は、外部の機器との間で各種の通信を行うための機能部である。なお、図1では図示を省略しているが、各信号は、電力変換装置1に設けられている端子台やコネクタ等を介して外部の機器に接続される。
【0015】
ただし、図1に例示した各部は一例であり、その種類や数は図1に示した構成に限定されない。例えば、図1では説明の簡略化のために各部がそれぞれ1チャンネルになった構成例を示しているが、それぞれ複数のチャンネルを設ける構成とすることもできる。また、異なる入力方式や出力方式あるいは通信方式を混在させることもできる。
【0016】
操作パネル処理部17は、操作パネル7の表示部70への表示出力、および、操作部71に入力された操作の受け付けを行う機能部である。表示部70は、例えば後述する図3に示す液晶表示器70aや7セグメント表示器70b、あるいは、図示しない表示灯などで構成されており、電力変換装置1の運転状態などの各種の情報を表示する。操作部71は、例えばメンブレンスイッチなどで構成されており、運転の開始や停止、運転条件の変更などの操作が入力される。
【0017】
メモリ処理部23は、制御部6に接続されている不揮発性メモリ8や揮発性メモリ9へのアクセスを制御する機能部である。不揮発性メモリ8は、電源がオフされてもデータが保持される半導体メモリで構成されている。本実施形態では、不揮発性メモリ8として、電気的な書き換えが可能ないわゆるフラッシュメモリを採用している。この不揮発性メモリ8は、制御部6が実行するコンピュータプログラムなどを含むプログラム類30が保存されているとともに、モータ3を接続して制御しながら運転する通常運転モード時に利用する運転条件などの各種のデータが保存されている。以下、通常運転モード時に利用される各種のデータを便宜的に通常時データ31と称し、通常時データ31を保持可能に保存する記憶領域を、便宜的に通常記憶領域32と称する。
【0018】
揮発性メモリ9は、電源が遮断された場合にはデータが保持されない半導体メモリで構成されており、運転中に利用される一時的なデータを保持するための記憶領域として機能する。この揮発性メモリ9には、モータ3を接続しない状態での運転が可能な試験運転モード時に利用するデータを保存するための専用の試験用記憶領域40が設けられている。以下、試験運転モード時に利用される各種のデータを、便宜的に試験時データ41と称する。この場合、通常時データに含まれる例えば設定データを試験時データ41にコピーすることにより、試験運転モードの開始時や試験中に参照するデータの参照先も試験用記憶領域40とすることができる。
【0019】
この試験時データ41は、試験用記憶領域40に保存されることから、電源が遮断された場合には破棄されることになる。換言すると、試験用記憶領域40は、試験運転モード中にのみアクセス可能であって、通常運転モード時にはアクセスされない記憶領域として設けられている。そして、その試験用記憶領域40に保存される試験時データ41は、通常時データ31とは個別に保存されており、試験中にのみ変更や参照などのアクセスが可能になるため、通常運転モード時に誤って利用されることはない。
【0020】
保護部24は、各検出部の検出結果に基づいて、主回路5やモータ3あるいはモータ3が駆動する駆動対象を保護するための各種の保護動作を行う機能部である。なお、保護動作についてはこの技術分野では周知技術であるため詳細な説明は省略するが、例えば、過電流時や過電圧時あるいは過速度時には出力を抑制したり、地絡や欠相が検出された場合にはモータ3への電力供給を停止したりする保護動作が行われる。ただし、ここで例示した保護動作は一例である。
【0021】
設定部25は、通常運転モードと試験運転モードとの設定を切り替える機能部である。この設定部25は、電源がオンされた起動時には通常運転モードを設定するとともに、詳細は後述するが、試験運転モードへの移行が指示された際には、制御部6から主回路5への制御信号の出力を無効にし、検出部の検出結果に基づいて行われる保護動作を無効にし、試験運転モード中におけるデータの保存先を試験用記憶領域40に設定する。また、設定部25は、詳細は後述するが、試験運転モードの終了が指示された際には、制御信号の出力を有効にし、保護動作を有効にし、データの保存先を不揮発性メモリ8のような通常記憶領域32に設定することで自動的に通常運転モードを設定する。
【0022】
次に、上記した構成の作用および効果について説明する。
前述のように、電力変換装置1は、モータ3の運転状態に基づく制御を行っており、運転中には、例えば電流、電圧、磁極、回転方向、回転速度、欠相などのモータ3の運転状態を検出し、それらの検出結果に基づいて各種の保護動作を行っている。このような電力変換装置1は、例えば出荷前の試験や立ち合い試験を実施する際には、実際のモータ3を接続しない状態で、試験的に運転する必要がある場合がある。だたし、モータ3が接続されていない場合には、上記した保護動作が働いてしまうことから、モータ3を接続しない状態で試験できることが求められる。
【0023】
しかし、電力変換装置1の制御対象となるモータ3は、仕様によっては定格出力が例えば数百kW程度の大型のものもある。その場合、モータ3を模したダミーの負荷装置を用意することが困難であったり、用意したとしても接続作業等に多大な労力を要したりするおそれがある。また、モータ3を接続しない状態で運転する際には保護動作が働かないように設定を変更する必要があり、さらに、試験中には運転条件などの設定を変更することが想定されるものの、試験終了時にそれらの設定の変更を戻し忘れるといったミスが発生するおそれもある。また、配線を一時的に変更したり何らかの追加部材を用いてハードウェア的な設定を変更する場合にも、配線を戻し忘れたり、追加部材を外し忘れたりするミスが発生するおそれがある。
【0024】
そこで、本実施形態では、以下のようにして、試験を容易に実施することを可能にしつつ、試験終了時に設定を戻し忘れるミスの発生を抑制している。具体的には、電力変換装置1は、モータ3が接続されている状態で運転する通常運転モードと、モータ3を接続しない状態での運転が可能な試験運転モードとを切り替え可能であり、電源がオンされた起動時には、デフォルトで通常運転モードに設定されるように構成されている。
【0025】
また、電力変換装置1は、試験運転モード時に利用するデータを、試験運転モードでの利用のために専用で設けられた試験用記憶領域40に保存する。これにより、試験運転モード中に変更あるいは保存されたデータは、電源がオンされた状態では利用されなくなる。このように、電力変換装置1は、試験のために変更した設定を戻し忘れるミスの発生を抑制するように構成されている。
【0026】
そして、この電力変換装置1に対して、以下に示す工程を含む試験が行われる。具体的には、図2に示すように、電力変換装置1は、電源がオンされると通常運転モードを設定する(S1)。つまり、電力変換装置1は、通常運転モードで起動する。続いて、電力変換装置1は、試験開始が指示されたか否か(S2)、および、運転開始が指示されたか否か(S3)を判定しつつ待機する。この試験開始の指示は、通常運転モードから試験運転モードへの移行の指示に相当する。
【0027】
なお、試験開始の指示、運転開始の指示、後述する試験中の設定変更の指示、および試験終了の指示などは、操作パネル7の操作によって、あるいは、接点入力部や通信部などに接続された外部の装置によって行われる。その場合、指示が正しく入力されていれば制御部6との間の配線が正しく行われていることが確認できるため、入力側の配線状態の検査を併せて行うことができる。
【0028】
電力変換装置1は、いずれの指示もない場合には(S2:NO、S3:NO)、指示を待機する。そして、電力変換装置1は、待機中に運転開始が指示された場合には(S3:YES)、通常運転処理を実行する(S4)。この通常運転処理は、実際にモータ3を駆動するための制御であり、モータ3の運転状態に基づく制御や運転状態に応じた各種の保護動作などが行われることになる。
【0029】
一方、電力変換装置1は、試験開始が指示された場合には(S2:YES)、制御部6から主回路5への制御信号の出力を無効にし(S5)、各検出部の検出結果に基づく保護動作を無効にし(S6)、試験中に利用するデータの保存先を試験用記憶領域40に設定する(S7)。これらステップS5~S7の処理を順不同に実行することにより、電力変換装置1に試験運転モードが設定される。これらの工程を含むことによって、通常運転モードと同じプログラムを実行して実機が正しく動作しているか否かを確認する試験を、モータ3を実際には接続しない状態で実施することができる。
【0030】
また、電力変換装置1は、試験運転モードが設定された際、試験表示を開始する(S9)。この試験表示は、例えば図3に表示態様その1として示すように、液晶表示器70aであれば「テストモード」などの文字を表示したり、表示態様その2として示すように、表示部70に7セグメント表示器70bが設けられていれば、黒塗りで示すようにセグメントを部分的に点灯することにより「tESt」と読める疑似的な文字を表示したりすることによって行われる。また、本実施形態では、試験表示は点滅表示される。つまり、電力変換装置1は、作業者が目視によって現在のモードを誤解なく認識または把握できる態様で表示する。
【0031】
試験運転モードが設定されると、電力変換装置1は、図2に示すように、運転開始が指示されたか否か(S9)、および、試験終了が指示されたか否か(S18)を判定しつつ待機する。そして、電力変換装置1は、運転開始が指示された場合には(S9:YES)、運転を開始する(S10)。このとき、試験時であっても、基本的には通常運転モードと同様の運転が行われる。ただし、モータ3が接続されていないことから、センサレスベクトル制御やセンサ付きベクトル制御あるいは永久磁石制御といったモータ3の運転状態を必要とする処理は内部的に不動作にされている。
【0032】
運転を開始すると、電力変換装置1は、運転が開始されたことを示す運転中信号をオンにする(S11)。この運転中信号は、運転中にはオンとなり、運転中でなければオフとなる接点信号である。そのため、運転中信号がオンされると所定の接点がオンされることから、端子台を確認することにより、制御部6と端子台との間が正しく配線されていることを併せて確認することができる。
【0033】
続いて、電力変換装置1は、試験処理を実施する(S12)。この試験処理は、例えば操作パネル7や入力側あるいは通信部から入力された指示を制御に反映したり、運転状態に応じた信号を出力したりする処理である。例えば、アナログ出力であれば出力周波数や出力電流が運転状態に一致しているか否か、接点出力であれば運転の開始後に上記した運転中信号が出力されているか否かなどの試験が行われる。このステップS12は、制御信号の出力が無効にされ、保護動作が無効にされ、試験用記憶領域40にデータが保存される状態で試験を実施する工程に相当する。なお、試験内容についてはとくに限定しないが、基本的には制御部6のソフトウェア的な動作確認が主に試験される。
【0034】
そして、電力変換装置1は、例えば試験中に運転条件の設定データが変更された場合や、運転の開始時刻や終了時刻のような運転状態に関するログデータを収集した場合などにおいては、保存するデータがあると判定して(S13:YES)、それらのデータを試験時データ41として試験用記憶領域40に保存する(S14)。なお、図2では図示を省略しているが、試験運転モードが設定されていれば、運転が停止されている場合であってもデータは試験用記憶領域40に保存される。
【0035】
続いて、電力変換装置1は、運転停止が指示されたか否かを判定し(S15)、運転停止が指示されていない場合には(S15:NO)、ステップS12に移行して試験処理を継続する。一方、電力変換装置1は、運転停止が指示された場合には(S15:YES)、運転を終了し(S16)、運転中信号をオフにして(S17)、ステップS18に移行し、試験終了の指示(S18)または運転開始の指示(S9)を待機する。これは、運転停止が指示される状況としては、試験を終了するために運転を停止した場合に限らず、一時的に運転を停止して設定等を変更した後に再び試験をする場合も想定されるためである。そのため、電力変換装置1では、運転の終了が指示された場合であっても、試験の酋長が指示されるまでは試験運転モードが継続される。
【0036】
電力変換装置1は、待機中に運転開始が指示された場合には(S9:YES)、ステップ10に移行して上記したように試験の実施を可能にする一方、試験終了が指示された場合には(S18:YES)、制御部6から主回路5への制御信号の出力を有効にし(S19)、各検出部の検出結果に基づく保護動作を有効にし(S20)、データの保存先を通常記憶領域32に設定し(S21)、試験表示を終了する(S22)。これらステップS19からステップS22までの工程は、通常運転モードを設定する工程に相当する。つまり、電力変換装置1は、試験運転モードの終了が指示されると、これらステップS19からステップS22までの工程を順不同に実行することにより、自動的に通常運転モードに移行する。
【0037】
通常運転モードに移行すると、電力変換装置1は、ステップS2に移行し、上記したように試験開始が指示されたか否か(S2)および運転開始が指示されたか否か(S3)を判定しながら待機する。このような構成とすることにより、また、上記した試験方法を採用することによって、モータ3を接続しない状態での試験が可能となり、また、試験終了時に設定を戻し忘れるミスが発生することが抑制されることになる。なお、図示は省略するが、電力変換装置1は、試験運転モード中に電源が遮断された場合には試験運転モードが強制的に中断され、次に通電されたときには通常運転モードで起動することになる。
【0038】
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
電力変換装置1は、外部電源2から供給される電力を変換してモータ3に供給する主回路5と、モータ3の運転状態を検出する1つ以上の検出部と、検出部の検出結果に応じて主回路5を制御する制御部6とを備え、モータ3が接続されている状態で運転する通常運転モードと、モータ3を接続しない状態での運転が可能な試験運転モードと切り替えが可能であって、起動時には通常運転モードに設定される構成となっている。
【0039】
そして、電力変換装置1の製造方法は、試験運転モードが設定された際、制御部6から主回路5への制御信号の出力を無効にする工程と、試験運転モードが設定された際、検出部の検出結果に基づく保護動作を無効にする工程と、試験運転モードが設定された際、データの保存先を、試験運転モード専用で設けられている試験用記憶領域40に設定する工程と、主回路5への制御信号の出力が無効にされ、保護動作が無効にされ、試験用記憶領域40にデータが保存される状態で、指示された試験を実施する工程とを含んでいる。
【0040】
これにより、試験運転モードが設定された場合には、主回路5への制御信号の出力や保護動作が無効にされることから、モータ3を接続していない状態であっても、また、ダミーの負荷装置を用意したりしなくても、通常の運転と同様の運転による試験を実施することが可能になる。また、試験運転モードが設定された場合には、試験運転中のデータは専用の試験用記憶領域40に保存されることから、試験中に設定データなどを変更したとしても、変更したデータが通常運転モード時に参照されることはないため、ソフトウェア的な設定を戻し忘れるミスを防止することができる。また、配線を一時的に変更したり何らかの追加部材を用いたりするといったハードウェア的な変更も必要ないことから、ハードウェアの変更を戻し忘れるといったミスも抑制できる。
【0041】
したがって、試験のためにモータ3を接続する必要やダミーの負荷装置を用意したり接続したりする労力が不要となり、試験を容易に実施することができるとともに、試験終了時に設定を戻し忘れるミスの発生を抑制することができる。
【0042】
また、電力変換装置1の製造方法は、データの保存先を設定する工程では、試験用記憶領域40を、電源が遮断された場合にはデータが保持されない揮発性メモリ9に設定する。これにより、試験が終了して電源が遮断された場合には確実にデータが破棄されることから、設定を戻し忘れるミスを防止することができる。
【0043】
また、電力変換装置1の製造方法は、試験運転モードが設定された際、試験運転モードである旨を表示する工程をさらに含んでいる。これにより、作業者は、目視によって現在のモードを把握することができる。この場合、実施形態のように文字によって試験運転モードである旨を表示することにより、作業者に対して現在の運転モードを誤解なく確実に認識させることができる。
【0044】
また、電力変換装置1の製造方法は、試験運転モードの終了が指示された際、通常運転モードに移行する工程をさらに含む。これにより、試験運転モードそのものを解除し忘れるミスを抑制することができる。さらに、上記したように電源が遮断された場合に通常運転モードで起動する構成と組み合わされることにより、試験終了後に設定を戻し忘れるミスをより確実に抑制することができる。
【0045】
また、電力変換装置1は、モータ3に電力を供給する主回路5と、制御信号を出力して主回路5を制御する制御部6と、モータ3の運転状態を検出する1つ以上の検出部と、検出部の検出結果に基づいて保護動作を行う保護部24と、モータ3を接続した状態で運転する通常運転モードと、モータ3を接続しない状態での運転が可能な試験運転モードとを切り替える設定部25と、試験運転モード中のデータの保存先として専用で設けられている試験用記憶領域40と、を備えており、設定部25は、起動時には通常運転モードに設定するとともに、試験運転モードが指示された際には、主回路5への制御信号の出力を無効にし、保護動作を無効にし、試験運転モード中のデータの保存先を試験用記憶領域40に設定する。
【0046】
これにより、試験運転モードが設定された場合には主回路5への制御信号の出力や保護動作が無効にされることから、モータ3を接続していない状態であっても、また、ダミーの負荷装置を用意したりしなくても、通常の運転と同様の運転による試験を実施することが可能になるとともに、試験中のデータは専用の試験用記憶領域40に保存されることから、試験中に設定データなどを変更したとしても、変更したデータが通常運転モード時に参照されることはなく、設定を戻し忘れるミスを防止することができる。
【0047】
したがって、試験のためにモータ3を接続する必要やダミーの負荷装置を用意したり接続したりする労力が不要となり、試験を容易に実施することができるとともに、試験終了時に設定を戻し忘れるミスの発生を抑制することができるなど、上記した試験方法と同様の効果を得ることができる。
【0048】
また、実施形態では試験用記憶領域40を揮発性メモリ9に設ける例を示したが、例えば図4に示すように、不揮発性メモリ8に試験用記憶領域40を設定し、試験運転モード中にのみアクセス可能にする構成とすることもできる。この場合、運転状態や入出力状態を変化させるための試験用データを保存しておくことにより、試験を効率的に実施することも期待できる。
【0049】
実施形態ではモータ3を接続しない状態で運転する状況を主に説明したが、電力変換装置1は、モータ3を接続しない状態での運転が可能に構成されている。つまり、電力変換装置1は、モータ3に接続されている状態であっても、モータ3を駆動しないで運転することが可能である。そのため、現場に設置されてモータ3が接続された状態で運転を行うことにより、例えば輸送中に生じた不具合などを、実際にモータ3を駆動する前に発見できることなどを期待できる。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0051】
図面中、1は電力変換装置、2は外部電源、3はモータ、5は主回路、6は制御部、9は揮発性メモリ、11は電流検出部(検出部)、12は電圧検出部(検出部)、13は速度検出部(検出部)、14は地絡検出部(検出部)、15は欠相検出部(検出部)、16は位置検出部(検出部)、24は保護部、25は設定部、40は試験用記憶領域を示す。
図1
図2
図3
図4